実施の形態1.
以下、図1乃至図3を参照して、本発明の実施の形態1について説明する。
図1は本発明の実施の形態1である蒸発燃料処理装置の概要を説明するための図である。本実施形態の蒸発燃料処理装置は、燃料タンク10を備えている。燃料タンク10には、タンク内圧を測定するためのタンク内圧センサ12が設けられている。タンク内圧センサ12は、大気圧に対する相対圧としてタンク内圧を検出し、その検出値に応じた出力を発生するセンサである。
燃料タンク10には、天井面から燃料タンク内に突き出ている突き出し部11が形成され、この突き出し部11にベーパ通路(蒸発燃料通路)20が接続されている。ベーパ通路20は、燃料タンク10内で発生した燃料ベーパ(蒸発燃料)を外部に抜き出すための通路であり、内燃機関30の吸気通路32に接続されている。ベーパ通路20には、その内部を流れるガスの流量を制御するためのパージ弁(D−VSV:Duty-Vacuum Switching Valve)28が設けられている。パージ弁28は、デューティ信号により駆動されることにより、実質的にそのデューティ比に応じた開度を実現する制御弁である。
燃料タンク10には、大気導入口14が形成されている。大気導入口14には一端が外界に開口しているキャニスタ22が接続されており、燃料タンク10はこのキャニスタ22を介して外界と連通している。キャニスタ22の内部には、燃料ベーパを吸着するための活性炭が充填されている。キャニスタ22が介装されることで若干(数キロパスカル程度)の圧力損失が生じるが、燃料タンク10内から燃料ベーパが抜き出された場合でも、大気導入口14からの大気の導入によって燃料タンク10内は少なくとも略大気圧に維持されるようになっている。なお、大気導入口14は、キャニスタ22から燃料タンク10内に流入するパージガスがそのままベーパ通路20に流れないように、上述の突き出し部11から離して設けられている。
内燃機関30の吸気通路32には、吸入空気量を制御するためのスロットル弁38が配置され、吸気通路32のスロットル弁38の下流には、容積部であるサージタンク34が形成されている。上述のベーパ通路20は、サージタンク34の上流部に連通している。サージタンク34には吸気マニホールド36が接続され、吸気マニホールド36は内燃機関30の各吸気ポート40に導通している。その吸気ポート40の近傍には、各気筒に燃料を噴射するための燃料噴射弁44が配置されている。また、内燃機関30には、機関回転数を検出する回転数センサ46や、冷却水温を検出する冷却水温センサ47が組み込まれている。さらに、吸気通路32のスロットル弁38の上流には、吸入空気量を検出するエアフロメータ45が設けられ、図示しない排気通路には、排気ガス中の有害成分を浄化するための図示しない触媒装置や、排気ガス中の酸素濃度を検出する酸素濃度センサ48が設けられている。
図1に示す蒸発燃料処理装置は、ECU(Electronic Control Unit)50を備えている。ECU50は、蒸発燃料処理装置の制御装置であり、上述した各種センサから出力信号の供給を受けていると共に、各種アクチュエータに対して駆動信号を供給している。本実施形態では、特に、パージ弁28と燃料噴射弁44に対して駆動信号を供給している。以下、図2に示すフローチャートを参照しながら、ECU50が行うパージ弁28の制御について説明する。また、図3に示すフローチャートを参照しながら、ECU50が行う燃料噴射弁44の制御について説明する。
図2は、本実施形態において、蒸発燃料処理装置の制御装置としてのECU50が実行するパージ制御の流れを説明するためのフローチャートである。図2に示すルーチンでは、先ず、回転数センサ46の出力に基づいて機関回転数NEが検出され、所定の判定値KNEと比較される(ステップ100)。判定値KNEは、内燃機関30が始動したと推定できる回転数であり、スタータによる始動回転数程度(例えば50rpm)に設定される。
比較の結果、機関回転数NEが判定値KNE以下の場合には、内燃機関30は未だ始動していないので燃料ベーパの放出は実行せずにパージ弁28は閉じたままとされる(ステップ102)。
そして、機関回転数NEが判定値KNEを超えたら、パージ弁28を開弁して燃料ベーパの放出が実行される(ステップ104)。パージ弁28を開弁することで、燃料タンク10と吸気通路32とは連通状態になる。燃料タンク10内は略大気圧であり吸気通路32内は負圧であるから、燃料タンク10内の燃料ベーパはベーパ通路20を通って吸気通路32に吸い出される。燃料ベーパはスロットル弁38を介して導入される新気とともにサージタンク34に供給され、そして、燃料噴射弁44からの噴射燃料とともに各気筒の燃焼室に供給される。パージ弁28の開度は、できる限り多くの燃料ベーパを始動燃料として内燃機関30に供給すべく、全開に設定される。パージ弁28が開弁されている間、燃料タンク10内からは燃料ベーパが吸い出され続けるが、燃料タンク10は大気導入口14を介して外界にも連通しているので、燃料タンク10内の内圧が下がってしまうことはない。つまり、燃料タンク10内の内圧の低下によって燃料ベーパの流量が低下してしまうことはない。
また、大気導入口14にはキャニスタ22が配置されているので、大気導入口14から燃料タンク10内に大気(新気)が導入される際、キャニスタ22に吸着された燃料ベーパは、大気とともに脱離して燃料タンク10内に流入する。これにより、キャニスタ22はパージされ、その吸着力が確保される。このときキャニスタ22から放出される燃料ベーパは燃料タンク10内の燃料ベーパとは濃度が異なっている可能性が高いが、燃料タンク10はキャニスタ22に比較して容積が極めて大きく、燃料タンク10がバッファの役割を果たす。したがって、キャニスタ22に吸着された燃料ベーパが燃料タンク10内に流入するとしても、燃料タンク10から吸気通路32に供給される燃料ベーパの濃度が大きく変化することはない。
以上説明したパージ制御ルーチンによれば、内燃機関30の始動時から、燃料タンク10内の濃い燃料ベーパを内燃機関30に供給することができる。上述のように燃料ベーパは、燃料噴射弁44から噴射される霧状燃料に比較して着火性に優れており、燃焼しやすいので、始動燃料として燃料ベーパを供給することで内燃機関30の始動性を向上させることができる。また、燃料ベーパは比較的軽質な成分であるため、未燃ガス中に含まれるHCの濃度も低い。
さらに、燃料タンク10内の燃料ベーパは、キャニスタ22から放出される燃料ベーパとは異なり、内燃機関30の始動時からでも常にある程度の濃度を見込むことができる。適正な空燃比を実現するためには燃料ベーパの供給量に応じて燃料噴射弁44からの燃料噴射量を減量する必要があるが、このように燃料ベーパの濃度をある程度見込むことができることにより、燃料噴射弁44からの燃料噴射量を正確に求めることができる。
燃料噴射弁44からの燃料噴射量は、燃料噴射弁44の開弁時間である燃料噴射時間TAUにより決まる。燃料噴射時間TAUは、次の(1)式によって算出される。
TAU=TP×(FW+FAF+KGX−FPG) ・・・(1)
上記(1)式中、TPは基本燃料噴射時間であり、機関回転数NEと吸入空気量GAとの比(GA/NE)に所定の噴射係数Kを乗算することで算出される。
また、上記(1)式中、FW、FAF、KGX、及びFPGはそれぞれ補正係数である。このうち、FWは水温補正係数であり、内燃機関30の冷却水温に応じて設定される。FAFは空燃比フィードバック係数であり、酸素濃度センサ48の出力に基づいて検出される排気空燃比がリッチである場合は、燃料噴射時間TAUを短縮すべく小さな値に設定され、排気空燃比がリーンである場合は燃料噴射時間TAUを伸張すべく大きな値に設定される。KGXは経年変化等の影響による空燃比のずれを吸収するための学習値であり、機関回転数と機関負荷によって区分される運転領域毎に設定されている。FPGは燃料ベーパ(パージガス)の供給量に応じて燃料噴射量を減少補正するためのパージ補正係数である。
上述の燃料噴射時間TAUは、蒸発燃料処理装置の制御装置としてのECU50により、図3のフローチャートで示されるルーチンに従い算出される。図3に示すルーチンでは、先ず、現在、パージ弁28が開かれているか判定される(ステップ110)。
判定の結果、パージ弁28が開かれていない場合には、内燃機関30に燃料ベーパは供給されていないのでパージ補正係数FPGはゼロに設定される(ステップ112)。
一方、ステップ110の判定においてパージ弁28が開かれている場合には、パージ補正係数FPGは次の(2)式で求まる値に設定される(ステップ114)。
FPG=FTNK×PGR ・・・(2)
上記(2)式中、FTNKは燃料タンク10内のベーパ濃度で決まる係数である。燃料タンク10内のベーパ濃度は安定しており、常にある程度の濃度が見込まれるので、ここでは、ベーパ濃度係数FTNKは通常推定される圧力・温度でのベーパ濃度に対応する代表値に固定されている。
上記(2)式中、PGRは現在のパージ率である。パージ率PGRは、吸入空気量GAと、パージ弁28を通過して流れるパージガスの流量QPGとの比(QPG/GA)をパーセント表示した値である。ここで、パージ流量QPGは、吸気圧力PMとパージ弁28の駆動デューティ比とに基づいて公知の手法で求めることができる。また、吸気圧力PMは、吸入空気量GAなどに基づいて公知の手法で推定することができる。ここでは、パージ弁28を全開、すなわち、駆動デューティ比を100%としてパージ率PGRが設定される。
図3に示すルーチンでは、次に、ステップ112或いはステップ114で設定されたパージ補正係数FPGに基づき、上述の(1)式に従い燃料噴射時間TAUを算出する(ステップ116)。これにより、燃料タンク10から内燃機関30に供給される燃料ベーパの量に応じて燃料噴射時間TAUが減少補正される。
以上説明した燃料噴射時間算出ルーチンによれば、内燃機関30の始動時、燃料タンク10から内燃機関30に燃料ベーパが供給される場合には、その供給量に応じて燃料噴射時間TAUを補正することができる。燃料タンク10内の燃料ベーパの濃度は常にある程度の濃度を見込めるので、上述の代表値と実際値との誤差は小さく、上述の代表値を用いて算出した燃料噴射時間TAUが適正値から大きく外れることはない。したがって、本実施形態の蒸発燃料処理装置によれば、燃焼が不安定になる内燃機関30の始動時に、常にある程度の濃度が見込める燃料タンク10内の蒸発燃料を供給しながら、燃料噴射弁44からの燃料噴射量を適正な値に設定することができ、始動時から良好な燃焼安定性を得ることができる。
なお、上述した実施の形態1においては、ベーパ通路20、パージ弁28、及び図2のルーチンを実行するECU50により第1の発明の「蒸発燃料供給手段」が実現されている。また、上述の実施の形態1においては、燃料タンク10からの燃料ベーパの供給の終了時期、すなわち、パージ弁28の閉弁時期については特に規定していない。パージ弁28の閉弁時期については、後述する実施の形態においてその好適な時期について説明するが、例えば、適当なパージ弁開放時間(例えば20sec)を決めて、タイマのカウント値がパージ弁開放時間を経過したらパージ弁28を閉じるようにしてもよい。また、上述の実施の形態1においては、ベーパ濃度係数FTNKを代表値に固定しているが、燃料タンク10内の内圧と温度を測定し、それら測定値に応じた値に設定してもよい。
実施の形態2.
以下、図4(a)乃至図6を参照して、本発明の実施の形態2について説明する。
図4(a)は本発明の実施の形態2である蒸発燃料処理装置の概要を説明するための図である。図4(a)中、上述の実施の形態1と共通する部位については、同一の符号を付し、それらについての重複する説明は省略するものとする。
図4(a)に示すように、本実施形態は、実施の形態1とはキャニスタ22から放出される燃料ベーパの流路に相違がある。すなわち、キャニスタ22は実施の形態1と同様、燃料タンク10の大気導入口14に接続されると同時に、直接、ベーパ通路20にも接続されている。本実施形態では、ベーパ通路20はメインライン20aとメインライン20aから分岐するタンクライン20b及びキャニスタライン20cとから構成され、メインライン20aは吸気通路32に、タンクライン20bは燃料タンク10に、キャニスタライン20cはキャニスタ22に接続されている。これにより、本実施形態では、一本のメインライン20aを共用して、燃料タンク10内の燃料ベーパもキャニスタ22から放出される燃料ベーパの何れも直接、吸気通路32に供給することができるようになっている。
ベーパ通路20のメインライン20aとタンクライン20b及びキャニスタライン20cとの分岐部には、切換弁26が配置されている。この切換弁26は、メインライン20aに対するタンクライン20b及びキャニスタライン20cの接続状態を選択的に切り換える弁であり、切換弁26の作動により、何れか一方のライン20b,20cがメインライン20aに接続されるようになっている。ここでは、メインライン20aにキャニスタライン20cが接続されるとき、切換弁26は“オン”であるとし、メインライン20aにタンクライン20bが接続されるとき、切換弁26は“オフ”であるとする。ここでは、オフの状態を切換弁26の基本状態とする。切換弁26は、ECU50から供給される駆動信号によって、ベーパ通路20の接続状態を切り換える。
切換弁26がオフの場合、吸気通路32には燃料タンク10が接続され、燃料タンク10内の燃料ベーパが吸気通路32に供給される。このとき、キャニスタ22から放出される燃料ベーパは、大気導入口14から燃料タンク10内に供給される。一方、切換弁26がオンの場合、吸気通路32にはキャニスタ22が接続され、キャニスタ22から放出される燃料ベーパが吸気通路32に直接供給される。
本実施形態では、蒸発燃料処理装置の制御装置としてのECU50は、パージ弁28、燃料噴射弁44、及び切換弁26に対して駆動信号を供給している。以下、図5に示すフローチャートを参照しながら、ECU50が行うパージ弁28及び切換弁26の制御について説明する。また、図6に示すフローチャートを参照しながら、ECU50が行う燃料噴射弁44の制御について説明する。なお、以下の説明において、上述の実施の形態1と共通するパラメータについては、同一の記号を付し、それらについての重複する説明は省略するものとする。
図5は、本実施形態において、蒸発燃料処理装置の制御装置としてのECU50が実行するパージ制御の流れを説明するためのフローチャートである。図5に示すルーチンでは、先ず、回転数センサ46の出力に基づいて機関回転数NEが検出され、所定の判定値KNEと比較される(ステップ120)。
比較の結果、機関回転数NEが判定値KNE以下の場合には、切換弁26は基本状態であるオフの状態に維持される(ステップ122)。また、パージ弁28は閉じたままとされる(ステップ124)。
機関回転数NEが判定値KNEを超えたら、次に、冷却水温センサ47の出力に基づいて内燃機関30の冷却水の水温THWが検出され、所定の判定値KTHWと比較される(ステップ126)。判定値KTHWは、今回の始動が冷間始動か否か判定するための基準値であり、例えば、内燃機関30が安定したアイドリング状態を維持できる最低の冷却水温に設定すればよい。具体的な値は実験により適宜に定めることができる。
比較の結果、冷却水温THWが判定値KTHW以下の場合には、切換弁26は基本状態であるオフの状態に維持される(ステップ128)。一方、パージ弁28は全開状態に開弁される(ステップ130)。切換弁26をオフの状態でパージ弁28を開弁することで、燃料タンク10と吸気通路32とが連通状態になる。これにより、燃料タンク10内の燃料ベーパが内燃機関30に供給される。
冷却水温THWが判定値KTHWを超えたら、切換弁26はオンにされ、キャニスタ22と吸気通路32とが連通状態にされる(ステップ132)。そして、パージ弁28の制御は、駆動デューティ比を100%とする始動時制御から通常のパージ制御に切り換えられる(ステップ134)。なお、ここでいう通常パージ制御とは、内燃機関30の運転状態に基づき目標パージ率を設定し、パージ率PGRが設定した目標パージ率になるようにパージ弁28の駆動デューティ比を設定する制御のことである。このような通常のパージ制御については公知であるので、ここではその詳細な説明は省略する。
以上説明したパージ制御ルーチンによれば、停止後、直ぐに再始動する場合のように、内燃機関30が既に暖機されているときには、即座に、通常のパージ制御が開始され、キャニスタ22からのパージガスが内燃機関30に供給される。そして、内燃機関30が冷間始動するときのみ、燃料タンク10内の濃い燃料ベーパが内燃機関30に供給され、内燃機関30が暖機された後は、燃料タンク10からキャニスタ22に内燃機関30への燃料ベーパの供給元が切り換えられる。パージによってキャニスタ22から放出される燃料ベーパの濃度は不明であるため、濃度学習が行われるまでは多量の燃料ベーパを供給することができず、そもそも燃料ベーパの吸着量が少ない場合には、濃い燃料ベーパを供給することができない。しかしながら、内燃機関30が暖機された後は、燃料ベーパの供給に頼らずとも、燃料噴射弁44からの噴射燃料で良好な燃焼を得ることができる。本実施形態のパージ制御ルーチンは、触媒装置が未活性の冷間始動時のみ濃度の安定した燃料タンク10内の燃料ベーパを供給するようにしたものであり、燃料タンク10内の燃料ベーパの供給を冷間始動時に限定することで、燃料タンク10内の燃料ベーパが浪費され枯れてしまうことを防止することができる。
また、燃料タンク10内が略大気圧に維持されているのに対し、吸気通路32内は負圧であるので、内燃機関30が暖機された後、キャニスタ22が吸気通路32に直接接続されることで、キャニスタ22に吸着された燃料ベーパは効率的にパージされる。つまり、本実施形態の蒸発燃料処理装置によれば、実施の形態1に比較して、キャニスタ22のパージ効率を高めることができ、キャニスタの吸着力をより確保することができる。
本実施形態では、燃料噴射時間TAUの算出は、蒸発燃料処理装置の制御装置としてのECU50により、上述のパージ制御のルーチンに対応するように図6に示すルーチンで実行される。図6に示すルーチンでは、先ず、現在、パージ弁28が開かれているか判定される(ステップ140)。
パージ弁28が開かれていない場合には、内燃機関30に燃料ベーパは供給されていないので、上述の(1)式におけるパージ補正係数FPGはゼロに設定される。(ステップ142)
ステップ140の判定においてパージ弁28が開かれている場合には、次に、切換弁26がオンオフの何れか、すなわち、燃料タンク10とキャニスタ22の何れが吸気通路32に接続されているか判定される(ステップ144)。
ステップ144の判定の結果、切換弁26がオフであり、燃料タンク10が吸気通路32に接続されている場合には、パージ補正係数FPGは上述の(2)式で求まる値に設定される(ステップ146)。
一方、ステップ144の判定において切換弁26がオンになり、キャニスタ22が吸気通路32に接続された場合には、パージ補正係数FPGは次の(3)式で求まる値に設定される(ステップ148)。
FPG=FGPG×PGR ・・・(3)
上記(3)式中、FGPGはベーパ濃度学習係数であり、キャニスタ22から放出される燃料ベーパのベーパ濃度の学習値である。ベーパ濃度学習係数FGPGは、通常のパージ制御の実行中、空燃比フィードバック係数FAFの振動中心がその基準の値に近づくように適宜更新される。例えば、パージ制御の実行中に空燃比フィードバック係数FAFの振動中心がリッチ側に偏っている場合は、排気空燃比をリーン側に変化させるべく、ベーパ濃度学習係数FGPGはより大きな値に更新される。
なお、今回の始動時におけるベーパ濃度学習係数FGPGの初期値は、前回の運転停止時におけるベーパ濃度学習係数FGPGの値が用いられる。キャニスタ22には、運転停止時や始動後のベーパ濃度学習係数FGPGの学習が行われていない間もベーパが吸着したり放出されたりしているため、切換弁26の切換直後はベーパ濃度学習係数FGPGが実際値と大きくずれている可能性もある。しかしながら、図6に示すルーチンが繰り返される間にベーパ濃度学習係数FGPGは実際値に合った値に更新されていく。
図6に示すルーチンでは、次に、ステップ142,ステップ146或いはステップ148で設定されたパージ補正係数FPGに基づき、上述の(1)式に従い燃料噴射時間TAUを算出する(ステップ150)。これにより、燃料タンク10、或いは、キャニスタ22から内燃機関30に供給される燃料ベーパの量に応じて燃料噴射時間TAUが減少補正される。
以上説明した燃料噴射時間算出ルーチンによれば、内燃機関30の始動時、燃料タンク10から内燃機関30に燃料ベーパが供給される場合には、その供給量に応じて燃料噴射時間TAUを補正することができる。また、内燃機関30が暖機され、切換弁26の作動により、吸気通路32との接続が燃料タンク10からキャニスタ22に切り換わった後は、キャニスタ22から放出される燃料ベーパの量に応じて燃料噴射時間TAUを補正することができる。したがって、本実施形態の蒸発燃料処理装置によれば、燃焼が不安定になる内燃機関30の冷間始動時には、常にある程度の濃度が見込める燃料タンク10内の蒸発燃料を供給しながら、燃料噴射弁44からの燃料噴射量を適正な値に設定することができ、始動時から良好な燃焼安定性を得ることができる。また、内燃機関30が十分に暖機された後は、ベーパ濃度学習係数FGPGの学習により燃料噴射弁44からの燃料噴射量を適正な値に設定することができ、良好な燃焼安定性を維持することができる。
ところで、本実施形態の蒸発燃料処理装置は、図4(a)に示す構成に限定されず、図4(b)に示すような構成を取ることもできる。図4(b)中、図4(a)に示すものと共通する部位については、同一の符号を付している。図4(b)に示す構成は、キャニスタ22の内部に切換弁26を配置したことを特徴としている。この構成では、図4(a)のキャニスタライン20cは省略され、キャニスタ22から放出される燃料ベーパは直接、切換弁26に入るようになっている。また、キャニスタ22が接続されている燃料タンク10の大気導入口14内に、切換弁26と燃料タンク10内とを接続する通路18が設けられており、この通路18が図4(a)のタンクライン20bに相当している。このような構成の蒸発燃料処理装置によれば、外部に露出するつなぎ部分を少なくすることができるので、燃料ベーパの大気開放部が少なく、燃料ベーパが大気中に漏れる可能性を低減することができる。
なお、上述した実施の形態2においては、ベーパ通路20、パージ弁28、切換弁26、及び図5のルーチンを実行するECU50により第3の発明の「蒸発燃料供給手段」が実現されている。
実施の形態3.
以下、図7を参照して、本発明の実施の形態3について説明する。
本実施形態の蒸発燃料処理装置は、実施の形態2において、ECU50に、図5のルーチンに代えて図7のルーチンを実行させることにより実現することができる。
上述した実施の形態2では、冷却水温THWを検出し判定値KTHWと比較している。冷却水温THWを検出するのは、内燃機関30の壁面温度、特に、燃料が噴射される吸気ポート40の壁面温度が燃料が気化する程度まで上昇しているかを間接的に判断するためである。内燃機関30の壁面温度が十分に高くなっていれば、噴射燃料によっても良好な燃焼を得ることができるので、燃料タンク10の燃料ベーパを供給せずとも未燃HCの発生が抑えられる。一方で、排気通路には触媒装置が配置されているが、この触媒装置が暖機されて活性状態になっていれば、仮に燃焼の不良により未燃HCが発生したとしても、それは触媒装置で浄化することができる。そこで、本実施形態では、壁面温度が高くなっていることに加え、触媒装置が暖機されていることも、パージ制御における判定条件の一つとして用いている。なお、壁面温度は、冷却水温THWの他、内燃機関30の運転状態(機関回転数、機関負荷等)の履歴からも推定することもできる。触媒温度は、内燃機関30の始動後、触媒装置に流入した排気ガスの総量から推定することができる。排気ガスの総量は吸入空気量の総量と略等しいので、始動後の吸入空気量の総量を算出することで触媒温度を推定することができる。
図7は、本実施形態において、蒸発燃料処理装置の制御装置としてのECU50が実行するパージ制御の流れを説明するためのフローチャートである。図7に示すルーチンでは、先ず、回転数センサ46の出力に基づいて機関回転数NEが検出され、判定値KNEと比較される(ステップ160)。
比較の結果、機関回転数NEが判定値KNE以下の場合には、切換弁26は基本状態であるオフの状態に維持される(ステップ162)。また、パージ弁28は閉じたままとされる(ステップ164)。
機関回転数NEが判定値KNEを超えたら、次に、壁面が十分に熱くなったか、すなわち、壁面温度が所定の判定値を超えたか否か判定される(ステップ166)。壁面温度は上述のように冷却水温THWや内燃機関30の運転状態からの推定値である。判定の結果、壁面が十分に熱くなっている場合には、切換弁26はオンにされ、キャニスタ22と吸気通路32とが連通状態にされる(ステップ174)。そして、パージ弁28の制御は、駆動デューティ比を100%とする始動時制御から通常のパージ制御に切り換えられる(ステップ176)。
ステップ166での判定の結果、壁面が十分に熱くなっていない場合には、触媒装置が暖機されたか、すなわち、触媒温度が所定の判定値を超えたか判定される(ステップ168)。触媒温度は上述のように吸入空気量からの推定値である。判定の結果、触媒装置が暖機されていると判定された場合には、壁面が十分に熱くなっていなくとも、切換弁26はオンにされ、キャニスタ22と吸気通路32とが連通状態にされる(ステップ174)。そして、パージ弁28の制御は、駆動デューティ比を100%とする始動時制御から通常のパージ制御に切り換えられる(ステップ176)。
一方、ステップ166,ステップ168での判定の結果、壁面が十分に熱くなっておらず、且つ、触媒装置も暖機されていないと判定された場合には、切換弁26は基本状態であるオフの状態に維持される(ステップ170)。一方、パージ弁28は全開状態に開弁される(ステップ172)。
以上説明したパージ制御ルーチンによれば、燃料噴射弁44からの噴射燃料が気化できる程度まで壁面温度が上昇しているときのみならず、壁面温度が上昇していなくとも、未燃HCを浄化できる程度まで触媒装置が暖機されているときには、燃料タンク10からキャニスタ22に内燃機関30への燃料ベーパの供給元が切り換えられる。つまり、未燃HCが大気に放出されうる状況でのみ、燃料タンク10内からの燃料ベーパの供給が行われる。したがって、本実施形態の蒸発燃料処理装置によれば、燃料タンク10内の燃料ベーパを無駄に浪費することなく、有効に利用することができる。
なお、上述した実施の形態3においては、ベーパ通路20、パージ弁28、切換弁26、及び図7のルーチンを実行するECU50により第3の発明の「蒸発燃料供給手段」が実現されている。
実施の形態4.
以下、図8及び図9を参照して、本発明の実施の形態3について説明する。
本実施形態の蒸発燃料処理装置は、実施の形態2において、ECU50に、図5のルーチンに代えて図8のルーチンを実行させることにより実現することができる。
上述した実施の形態2では、冷却水温THWが判定値KTHWを超えた時点で、燃料タンク10からキャニスタ22に内燃機関30への燃料ベーパの供給元を切り換えて通常のベーパ制御を開始している。ところが、切換弁26を切り換えた後も、サージタンク34内には燃料タンク10から供給された濃い燃料ベーパが暫くは残存する。このため、燃料タンク10からの燃料ベーパとキャニスタ22からの燃料ベーパとがサージタンク34内で共存することになり、その境界ではベーパ濃度は急変する。空燃比フィードバック制御は、ベーパ濃度学習係数FGPGによってベーパ濃度を学習しながら行うが、このようにベーパ濃度が急変するとフィードバックが間に合わず、空燃比が大きく乱れてしまう可能性がある。そこで、本実施形態では、図8のルーチンに従いパージ制御を実行することにより、切換にともなう空燃比の乱れを防止している。
図8は、本実施形態において、蒸発燃料処理装置の制御装置としてのECU50が実行するパージ制御の流れを説明するためのフローチャートである。図8に示すルーチンでは、先ず、回転数センサ46の出力に基づいて機関回転数NEが検出され、判定値KNEと比較される(ステップ180)。
比較の結果、機関回転数NEが判定値KNE以下の場合には、切換弁26は基本状態であるオフの状態に維持される(ステップ182)。また、パージ弁28は閉じたままとされる(ステップ184)。ここで、図9は、図8のルーチンを実行した場合の切換弁26のオンオフ状態の変化とパージ率PGRの変化を、冷却水温THWと機関回転数NEの時間変化に対応させて示す図である。図9中の区間Aが、ステップ180の判定条件が成立するまでの各状態を示している。
機関回転数NEが判定値KNEを超えたら、次に、冷却水温センサ47の出力に基づいて内燃機関30の冷却水の水温THWが検出され、所定の第1判定値KTHWと比較される(ステップ186)。
比較の結果、冷却水温THWが第1判定値KTHW以下の場合には、切換弁26は基本状態であるオフの状態に維持される(ステップ188)。一方、パージ弁28は全開状態に開弁される(ステップ190)。ステップ180の判定条件の成立からステップ186の判定条件の成立までの切換弁26のオンオフ状態、及び、パージ率PGRは、図9中では区間Bによって示される。
冷却水温THWが第1判定値KTHWを超えたら、さらに、冷却水温THWと所定の第2判定値KTHW+Aとが比較される(ステップ192)。第2判定値KTHW+Aは第1判定値KTHWよりも大きい値であり、冷却水温THWが第2判定値KTHW+Aを超えるまでの間は、一旦、パージ弁28は全閉にされる(ステップ184)。ステップ190の判定条件の成立からステップ192の判定条件の成立までの切換弁26のオンオフ状態、及び、パージ弁28のパージ率PGRは、図9中では区間Cによって示される。パージ弁28が全閉にされることで、吸気通路32内への新たな燃料ベーパの供給は無くなり、サージタンク34内に溜まっている濃い燃料ベーパは次第に少なくなっていく。
上記の2つの判定値間の温度差Aは、燃料タンク10から吸気通路32へ供給された燃料ベーパが内燃機関30の燃焼室内に吸入されるまでの時間、別の言い方をすれば、燃料タンク10から供給された濃い燃料ベーパがサージタンク34から無くなるまでの時間、或いは、十分に少なくなるまでの時間を考慮して設定される。このような時間を考慮して温度差Aが設定されることで、燃料タンク10からの燃料ベーパとキャニスタ22から放出される燃料ベーパとが連続することを防止しつつ、キャニスタ22のパージをできる限り速やかに実行してキャニスタ22の吸着力を確保することができる。
ステップ192での判定の結果、冷却水温THWが第2判定値KTHW+Aを超えたら、切換弁26はオンにされ、キャニスタ22と吸気通路32とが連通状態にされる(ステップ194)。そして、パージ弁28の通常パージ制御が実行される(ステップ196)。ステップ192の判定条件が成立した後の切換弁26のオンオフ状態、及び、パージ率PGRは、図9中では区間Dによって示される。このときには、サージタンク34内には燃料タンク10からの濃い燃料ベーパは残っていないか、残っていたとしても極わずかであるので、キャニスタ22からの燃料ベーパの供給によってベーパ濃度が急変することはない。したがって、区間Dに示すように、パージ率PGRは、空燃比フィードバック制御に伴う学習によって徐々に増大してき、やがて安定した値に保持される。
以上説明したパージ制御ルーチンによれば、キャニスタ22から吸気通路32への燃料ベーパの供給を、燃料タンク10から吸気通路32への燃料ベーパの供給の停止後直ぐにではなく、ある程度の時間経過後に行うことで、ベーパ濃度の急変によって空燃比フィードバック制御に支障が生じることを防止することができる。
なお、上述した実施の形態4においては、ベーパ通路20、パージ弁28、切換弁26、及び図8のルーチンを実行するECU50により第4の発明の「蒸発燃料供給手段」が実現されている。また、本実施形態では、ステップ190において、燃料タンク10からの燃料ベーパの供給を停止してから冷却水温THWが所定温度A上昇することを、キャニスタ22からの燃料ベーパの供給開始の条件としているが、触媒温度が所定温度上昇すること、所定時間が経過すること、パージ率PGRが0%になっていることが判定されること等、他の条件を用いることも可能である。
実施の形態5.
以下、図10を参照して、本発明の実施の形態5について説明する。
本実施形態の蒸発燃料処理装置は、実施の形態2において、ECU50に、図5のルーチンに代えて図10のルーチンを実行させることにより実現することができる。
上述のように、燃料タンク10には大気導入口14が設けられており、燃料タンク10内は略大気圧に維持されるようになっている。しかしながら、大気導入口14に設けられているキャニスタ22は内部に活性炭を有する構造であるため、目詰まりする可能性がある。キャニスタ22が目詰まりした場合には燃料タンク10内に大気を導入することができないため、燃料タンク10からの燃料ベーパの供給を続けると燃料タンク10内は負圧になっていく。燃料タンク10内が負圧になると、燃料ベーパの供給量が減少したり、燃料の軽質成分の気化が促進される結果、タンク内の燃料性状が変化したりといった不都合が生じる。そこで、本実施形態では、燃料タンク10内が負圧になることを防止すべく、以下のようなパージ制御ルーチンを実行する。
図10は、本実施形態において、蒸発燃料処理装置の制御装置としてのECU50が実行するパージ制御の流れを説明するためのフローチャートである。図10に示すルーチンでは、先ず、回転数センサ46の出力に基づいて機関回転数NEが検出され、判定値KNEと比較される(ステップ200)。
比較の結果、機関回転数NEが判定値KNE以下の場合には、切換弁26は基本状態であるオフの状態に維持される(ステップ202)。また、パージ弁28は閉じたままとされる(ステップ204)。
機関回転数NEが判定値KNEを超えたら、本実施形態では、次に、タンク内圧センサ12によってタンク内圧PTNKが検出され、所定の判定値KPと比較される(ステップ206)。この判定値KPは、目詰まりしていない正常なキャニスタ22を備えたときのタンク内圧や、燃料タンク10が破損する限界タンク内圧を考慮して設定される。
ステップ206の判定の結果、タンク内圧PTNKが判定値KPよりも大きい場合には、ステップ208からステップ216までの処理が実行される。ステップ208からステップ216までの処理は、実施の形態2に係るステップ126からステップ134までの処理と同様であるので、ここではその説明は省略する。一方、ステップ206の判定の結果、タンク内圧PTNKが判定値KP以下の場合には、切換弁26はそのままオフの状態に維持され(ステップ202)、パージ弁28も閉じたままとされる(ステップ204)。すなわち、燃料タンク10から吸気通路32への燃料ベーパの供給は実行されない。
以上説明したパージ制御ルーチンによれば、キャニスタ22の目詰まり等により、燃料タンク10のタンク内圧PTNKが低下したときには、燃料タンク10から吸気通路32への燃料ベーパの供給は中止されるので、燃料タンク10内が負圧になって燃料タンク10が破損してしまうことを防止することができる。
ところで、上述した実施の形態5では、タンク内圧PTNKが低い時には燃料タンク10からの燃料ベーパの供給を停止する機能を、実施の形態2の装置に組み込んでいるが、上記機能を組み込む装置は実施の形態2の装置に限定されるものではない。すなわち、上記機能は、実施の形態1、実施の形態3、又は実施の形態4の装置にも組み込むことができる。
実施の形態6.
以下、図11及び図12を参照して、本発明の実施の形態5について説明する。
本実施形態の蒸発燃料処理装置は、実施の形態2において、ベーパ通路20の接続先をサージタンク34の上流部から図11に示す位置に代えるとともに、ECU50に、図5のルーチンに代えて図12のルーチンを実行させることにより実現することができる。なお、図11中、上述の実施の形態2と共通する部位については、同一の符号を付し、それらについての重複する説明は省略するものとする。
図11に示すように、ベーパ通路20の先端は吸気ポート40に接続されている。ベーパ通路20のパージ弁29よりも下流側は複数の枝通路21に分岐しており、各気筒の吸気ポート40に枝通路21が接続されている。また、本実施形態に係るパージ弁29は、枝通路21毎に内部を流れるガスの流量を制御することができるようになっている。したがって、本実施形態の蒸発燃料処理装置では、燃料ベーパは、燃料噴射弁44からの噴射燃料と同様、気筒毎に独立して供給される。
図12は、本実施形態において、蒸発燃料処理装置の制御装置としてのECU50が実行するパージ制御の流れを説明するためのフローチャートである。図12に示すルーチンにおいて、ステップ220からステップ226までの処理は、実施の形態2に係るステップ120からステップ126までの処理と同様であるので、ここではその説明は省略する。
ステップ226での比較の結果、冷却水温THWが判定値KTHW以下の場合には、切換弁26は基本状態であるオフの状態に維持される(ステップ228)。そして、本実施形態では、パージ弁29を開くに先立ち、気筒毎に燃料噴射弁44の燃料噴射が実行されたか判定される(ステップ230)。燃料噴射が実行されたか否かは、気筒判別がされたか否かで判断することができ、気筒判別はクランク角を検出することで行うことができる。クランク角に基づいた気筒判別方法は公知であるので、ここではその説明は省略する。燃料噴射が実行されるまではパージ弁29は閉じたままとされる(ステップ224)。燃料噴射の実行後、すなわち、気筒判別後は最初に燃料噴射が実行された気筒から順にパージ弁29が全開状態に開弁され、燃料タンク10内の濃い燃料ベーパが吸気ポート40に直接供給される(ステップ232)。
冷却水温THWが判定値KTHWを超えたら、切換弁26はオンにされ、キャニスタ22と各吸気ポート40とが連通状態にされる(ステップ234)。そして、パージ弁29の制御は、駆動デューティ比を100%とする始動時制御から通常のパージ制御に切り換えられる(ステップ236)。これにより、キャニスタ22から放出される燃料ベーパも気筒毎に供給されていく。
以上説明したパージ制御ルーチンによれば、燃料噴射が可能になる気筒判別後に燃料ベーパの供給を開始するので、内燃機関30のクランキング初期の無駄な燃料ベーパの供給を防止することができる。これにより、燃料タンク10内の濃い燃料ベーパをより有効に利用することができるだけでなく、点火前の燃料ベーパの供給により未燃HCが排気されてしまうことも防止することができる。
ところで、上述した実施の形態6では、気筒毎に燃料ベーパを供給する構造と気筒判別後に燃料ベーパ供給する機能を、実施の形態2の装置に組み込んでいるが、上記機能を組み込む装置は実施の形態2の装置に限定されるものではない。すなわち、上記機能は、実施の形態1、実施の形態3、実施の形態4、又は実施の形態5の装置にも組み込むことができる。
実施の形態7.
以下、図13及び図14を参照して、本発明の実施の形態7について説明する。
本実施形態の蒸発燃料処理装置は、実施の形態2において、ECU50に、図5のルーチンに代えて図13のルーチンを実行させることにより実現することができる。
実施の形態2に係る図5のパージ制御ルーチンによれば、運転状態にある内燃機関30が停止状態になったときには、ステップ120で機関回転数NEが判定値KNEを下回ることにより、切換弁26はオンからオフになり(ステップ122)、パージ弁28は全閉になる(ステップ124)。これにより、ベーパ通路20と燃料タンク10とが連通した状態で内燃機関30は停止する。次回の運転時には、ステップ120の条件が成立することで、パージ弁28は全開になり(ステップ130)、燃料タンク10からベーパ通路20を通って吸気通路32に安定した濃度の燃料ベーパが供給される。
ところが、ステップ120の条件が成立しパージ弁28が開いた直後は、キャニスタ22から放出された薄い燃料ベーパが吸気通路32に流れ出る。これは、前回の運転停止時、キャニスタ22から燃料ベーパを供給しているときにパージ弁28を閉じるため、ベーパ通路20内にキャニスタ22からの燃料ベーパが残るためである。内燃機関30の始動性をより向上させるためには、パージ弁28を開いた直後から燃料タンク10内の濃い燃料ベーパを供給するようにしたい。そこで、本実施形態では、パージ弁28を開いた直後から、燃料タンク10内の濃い燃料ベーパを供給するべく、図13のパージ制御ルーチンを採った。
図13は、本実施形態において、蒸発燃料処理装置の制御装置としてのECU50が実行するパージ制御の流れを説明するためのフローチャートである。本実施形態のパージ制御は内燃機関30の停止時における制御内容に特徴があり、始動時における制御内容、すなわち、ステップ240からステップ250までの処理は、図5の制御ルーチンに係るステップ120からステップステップ130までの処理と同内容である。以下では、本実施形態に特有の制御について重点的に説明する。
図13のパージ制御ルーチンでは、ステップ246の判定で冷却水温THWが判定値KTHWを超えたら、IG(イグニッション)スイッチのオンオフを判定する(ステップ252)。IGスイッチがオフにされることにより、ECU50は燃料噴射及び火花点火を停止し、内燃機関30は停止に至る。ただし、燃料噴射及び火花点火の停止後も、内燃機関30の回転系はその慣性力によって暫くは回転を続けるため、機関回転数NEは徐々に低下していく。このため、IGスイッチがオフになってから機関回転数NEが低下し、ステップ240の判定値KNEを下回るまでにはタイムラグがある。
ステップ252の判定の結果、IGスイッチが未だオンの場合には、切換弁26はオンに維持され(ステップ254)、パージ弁28は通常のパージ制御により制御される(ステップ256)。このときは、キャニスタ22から吸気通路32へキャニスタ22から放出される燃料ベーパが供給される。
ステップ252の判定の結果、IGスイッチがオフにされた場合には、切換弁26はオフにされ、燃料タンク10とベーパ通路20とが連通常態にされる(ステップ248)。また、パージ弁28は始動時と同じく全開にされる(ステップ250)。ここで、図14は、図13のルーチンを実行した場合の切換弁26及びパージ弁28のオンオフのタイミングを、IGスイッチのオンオフのタイミング、及び、吸気通路32内の負圧と機関回転数NEの時間変化に対応させて示す図である。図14に示すように、IGスイッチのオフ後も内燃機関30が回転を続けている間は、そのポンプ効果によって吸気通路32内は機関回転数NEに応じた負圧になっている。このため、ベーパ通路20内のガスは吸気通路32に吸引され、ベーパ通路20から吸気通路32に吸引された分、燃料タンク10内の燃料ベーパがベーパ通路20に吸い上げられてくる。
そして、ステップ240の判定の結果、機関回転数NEがさらに低下して判定値KNEを下回った時点で、パージ弁28が閉弁される(ステップ242)。つまり、本実施形態では、図14に示すように、切換弁26をオフに切り換えるタイミングと、パージ弁28を閉じるタイミングとの間に時間差TAが設けられている。これにより、ベーパ通路20は、内部に燃料タンク10の濃い燃料ベーパが充満している状態で閉じられることになる。
以上説明したパージ制御ルーチンによれば、ベーパ通路20内に燃料タンク10の濃い燃料ベーパを充満させた状態で内燃機関30の運転が停止されるので、次回の始動時には、パージ弁28を開いた直後から濃い燃料ベーパを吸気通路32に供給することができる。したがって、本実施形態の蒸発燃料処理装置によれば、実施の形態2に比較して、内燃機関30の始動性をより向上させることができる。
なお、上述した実施の形態7においては、ベーパ通路20、パージ弁28、切換弁26、及び図13のルーチンを実行するECU50により第6の発明の「蒸発燃料供給手段」が実現されている。
ところで、上述した実施の形態7では、ベーパ通路20内に燃料タンク10の濃い燃料ベーパを充填した状態で内燃機関30を停止する機能を、実施の形態2の装置に組み込んでいるが、上記機能を組み込む装置は実施の形態2の装置に限定されるものではない。すなわち、上記機能は、実施の形態3、実施の形態4、実施の形態5、又は実施の形態6の装置にも組み込むことができる。
実施の形態8.
以下、図15を参照して、本発明の実施の形態8について説明する。
本実施形態の蒸発燃料処理装置は、実施の形態2において、ECU50に、図5のルーチンに代えて図15のルーチンを実行させることにより実現することができる。
上述の実施の形態7によれば、ベーパ通路20内に燃料タンク10の濃い燃料ベーパを充満させた状態で内燃機関30の運転を停止することができる。しかしながら、ベーパ通路20の容積と切換弁26がオフにされてからパージ弁28が閉じられるまでの時間との関係によっては、ベーパ通路20の容積以上の燃料ベーパが燃料タンク10から吸い出される可能性がある。ベーパ通路20の容積を超える燃料ベーパは吸気通路32内に流出し、内燃機関30の停止後も吸気通路32に残存することになる。次回の始動時には、最初にこの吸気通路32内に残存している燃料ベーパが内燃機関30に供給されることになるが、吸気通路32内に残存している燃料ベーパはベーパ通路20内の燃料ベーパとは異なりその濃度が安定していない。また、停止時の温度が低い場合には、吸気通路32内で燃料ベーパが液化してしまう虞もある。内燃機関30の燃焼を安定させ始動性を良くするためには、安定した濃度の燃料ベーパを供給する必要があり、そのためには内燃機関30の停止時、吸気通路32内に濃い燃料ベーパは残存させたくない。そこで、本実施形態では、吸気通路32内に濃い燃料ベーパを残存させることのないよう、図15のパージ制御ルーチンを採った。
図15は、本実施形態において、蒸発燃料処理装置の制御装置としてのECU50が実行するパージ制御の流れを説明するためのフローチャートである。本実施形態のパージ制御はIGスイッチのオフ後の制御内容に特徴があり、IGスイッチのオフ前の制御内容、すなわち、ステップ260からステップ276までの処理は、図13の制御ルーチンに係るステップ240からステップステップ256までの処理と同内容である。以下では、本実施形態に特有の制御について重点的に説明する。
図15のパージ制御ルーチンでは、ステップ272の判定でIGスイッチがオフにされたら、次に、ベーパ通路20内の燃料ベーパが切り換えられたか判定する(ステップ278)。燃料ベーパの切り換えとは、キャニスタ22から放出される濃度の不安定な燃料ベーパから燃料タンク10で発生する濃度の安定した濃い燃料ベーパへの切り換えのことを意味する。切り換えの判定方法としては、例えば次の3つの方法が挙げられる。
第1の方法は、機関回転数NEを判定値KNEI(ただし、KNE<KNEI)と比較する方法である。機関回転数NEが判定値KNEIを下回ったら、ベーパ通路20内が燃料タンク10からの燃料ベーパに切り換わったと判定する。判定値KNEIは実験により求めることができる。
第2の方法は、IGスイッチのオフ後の時間をタイマでカウントする方法である。IGスイッチのオフによりタイマのカウントをスタートし、そのカウント値TOFFが判定値KTIMEを超えたら、ベーパ通路20内が燃料タンク10からの燃料ベーパに切り換わったと判定する。判定値KTIMEは実験により求めることができる。
第3の方法は、IGスイッチのオフ後のパージ流量QPGを積算する方法である。前述のように、パージ流量QPGは、吸気圧力PMとパージ弁28の駆動デューティ比とに基づいて公知の手法で求めることができる。IGスイッチのオフ後、パージ流量QPGを積算し、その積算値ΣQPGが判定値KQPGを超えたら、ベーパ通路20内が燃料タンク10からの燃料ベーパに切り換わったと判定する。判定値KQPGは実験により求めることができる。
ステップ278の判定の結果、未だベーパ通路10内の燃料ベーパの切り換えが完了していないと判断される場合には、切換弁26はオフの状態で(ステップ280)、パージ弁28は全開にされる(ステップ282)。この間、ベーパ通路20内に残存しているキャニスタ22からの燃料ベーパが吸気通路32に吸い出され、代わりに燃料タンク10内の濃い燃料ベーパがベーパ通路20内に満たされていく。
ステップ278の判定の結果、ベーパ通路20内の燃料ベーパの切り換え完了が認められた場合には、切換弁26はオフのまま(ステップ262)、パージ弁28が閉弁される(ステップ264)。これにより、吸気通路32に燃料タンク10の濃い燃料ベーパを流出させることなく、内部に燃料タンク10の濃い燃料ベーパが充満している状態でベーパ通路20が閉じられることになる。図14を用いて説明するならば、本実施形態では、切換弁26をオフに切り換えるタイミングと、パージ弁28を閉じるタイミングとの間の時間差TAが、ベーパ通路20内の燃料ベーパの切り換えに必要な時間、且つ、吸気通路32に燃料ベーパを流出しない時間に設定されている。
以上説明したパージ制御ルーチンによれば、実施の形態7の効果に加え、吸気通路32に燃料タンク10の濃い燃料ベーパを流出させることがないので、次回の始動時には、安定した濃度の燃料ベーパを吸気通路32に供給することができる。なお、吸気通路32内にはキャニスタ22からの燃料ベーパは残存しているが、キャニスタ22からのパージガス中に含まれる燃料ベーパは燃料タンク10の燃料ベーパに比較して濃度は極めて低いので、その残存燃料ベーパが内燃機関30の燃焼性に与える影響は小さい。したがって、本実施形態の蒸発燃料処理装置によれば、実施の形態7に比較して、内燃機関30の始動性をより向上させることができる。
なお、上述した実施の形態8においては、メインライン20a、タンクライン20b、キャニスタライン20c、及び切換弁26により第7の発明の「接続切換手段」が実現されている。また、上記「接続切換手段」とパージ弁28、及び図13のルーチンを実行するECU50により第7の発明の「蒸発燃料供給手段」が実現されている。
ところで、上述した実施の形態8では、ベーパ通路20内の燃料ベーパの切り換えが完了したらパージ弁28を閉弁する機能を、実施の形態7に係るベーパ通路20内に燃料タンク10の濃い燃料ベーパを充填した状態で内燃機関30を停止する機能と合わせて、実施の形態2の装置に組み込んでいるが、上記機能を組み込む装置は実施の形態2の装置に限定されるものではない。すなわち、上記機能は、実施の形態7に係る上記機能と合わせることで、実施の形態3、実施の形態4、実施の形態5、又は実施の形態6の装置にも組み込むことができる。