JP4028602B2 - ヒドロキシベンズアルデヒドの製造方法 - Google Patents

ヒドロキシベンズアルデヒドの製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、ヒドロキシベンジルアルコールを対応するヒドロキシベンズアルデヒドに酸化する方法に関する。
【0002】
本発明は特に、通常サリゲノールとして知られているオルト−ヒドロキシベンジルアルコールからのサリチルアルデヒドの製造に関する。
【0003】
【従来の技術】
この酸化を実施するための方法は幾つか開発されている。
【0004】
特に、フランス特許出願公開第2 305 420号は、白金又はパラジウムをベースとする触媒の存在下、アルカリを含む水性媒質中にて、酸素分子又は酸素分子を含む気体を用いて行う液相でのオルト−ヒドロキシベンジルアルコールの酸化を説明している。この反応は、ビスマス誘導体をベースとする助触媒の存在下で酸化させることを特徴とする。
【0005】
パラジウムをベースとする触媒よりも反応収率が良好な白金ベースの誘導体を前記発明に従って処理すると、ビスマスが存在するために収率が増す。従って、公表されたサリチルアルデヒドの収率はビスマスの不在下で77.6%、ビスマスの存在下で92.8%である。
【0006】
【発明が解決しようする課題】
本発明の目的は、酸化反応収率を更に改善することのできる方法を提供することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、白金をベースとする触媒の存在下、アルカリを含む水性媒質中にて、酸素分子又は酸素分子を含む気体を用いて液相で対応するヒドロキシベンジルアルコールを酸化させてヒドロキシベンズアルデヒドを製造する方法を発見した。この方法は、ホウ素誘導体及びビスマス誘導体の存在下で酸化させることを特徴とする。
【0008】
白金をベースとする触媒の場合にホウ素誘導体がビスマス誘導体と共に存在すれば、サリゲノールの酸化によりサリチルアルデヒドの収率が以前よりも高く、97%に達し得ることが判明した。
【0009】
ホウ素が存在すると、アルデヒド段階での酸化が制限されて、酸は生成されない。
【0010】
本発明の方法は、任意のヒドロキシベンジルアルコール、即ち少なくとも1個の−OH基と1個の−CH2OH基とを有する任意の芳香族化合物に適用され得る。
【0011】
“芳香族化合物”という用語は、特にJerry MARCHが記載する文献Advanced Organic Chemistry, 3版,John Wiley & Sons, 1985年,37ページ以降で定義された一般的な芳香族の概念を意味する。
【0012】
本発明は、以下の式(I):
【0013】
【化2】
Figure 0004028602
【0014】
(式中、基−CH2OHはヒドロキシ基に対してオルト、メタ又はパラ位であり、ベンゼン核は同一であっても異なってもよい1個以上の置換基Rで置換されていてもよく、nは3以下の数である)で表されるヒドロキシベンジルアルコールの酸化に特に適している。
【0015】
本発明の以下の説明では、式:
【0016】
【化3】
Figure 0004028602
【0017】
で表される基を記号“Ar”で示す。
【0018】
任意の置換基がベンゼン核に存在し得る。但し、この置換基は所望の生成物を妨げないものとする。置換基Rの例は特に、ハロゲン原子(好ましくはフッ素、塩素又は臭素)、及び好ましくは1〜12個、更に好ましくは1〜4個の炭素原子を含むアルキル又はアルコキシ基である。
【0019】
好ましいヒドロキシベンジルアルコールの例は:
−2−ヒドロキシベンジルアルコール;
−2−ヒドロキシ−4−メチルベンジルアルコール;
−2−ヒドロキシ−6−メチルベンジルアルコール;
−2−ヒドロキシ−6−エトキシベンジルアルコール;
−2−ヒドロキシ−6−クロロベンジルアルコール
である。
【0020】
本発明の方法は特に、サリゲノールの酸化によるサリチルアルデヒドの工業生産に適用される。
【0021】
ホウ素誘導体は好ましくは、ホウ酸[例えば通常ホウ酸と呼ばれているオルトホウ酸(又はその前駆体B23)、メタホウ酸、ピロホウ酸及びテトラホウ酸]の中から選択される。
【0022】
金属ホウ酸塩、特に無水形態又は水和形態のアルカリもしくはアルカリ土類金属又はアンモニウムのホウ酸塩(特に、好ましくはアルカリ金属又はアンモニウムの第三級ホウ酸塩、1/2ホウ酸塩、一ホウ酸塩、二ホウ酸塩、三ホウ酸塩、四ホウ酸塩又は五ホウ酸塩)を使用することもできる。
【0023】
ホウ素を含む複塩、特に金属フッ化ホウ素酸塩(例えばフッ化ホウ素酸カリウム)を使用することもできる。
【0024】
適切なホウ素化合物の例を以下に示す:
−オルトホウ酸ナトリウム;
−オルトホウ酸カリウム;
−オルトホウ酸一水素ナトリウム;
−オルトホウ酸一水素カリウム;
−オルトホウ酸二水素ナトリウム;
−オルトホウ酸二水素カリウム;
−オルトホウ酸又はその前駆体、ホウ酸無水物;
−メタホウ酸ナトリウム;
−メタホウ酸ナトリウム四水和物;
−テトラホウ酸ナトリウム;
−テトラホウ酸ナトリウム十水和物、即ちホウ砂;
−テトラホウ酸ナトリウム五水和物;
−メタホウ酸カリウム;
−ペンタホウ酸カリウム四水和物;
−テトラホウ酸カリウム八水和物;
−ペンタホウ酸アンモニウム四水和物;
−テトラホウ酸アンモニウム四水和物。
【0025】
ホウ酸又はホウ酸無水物を使用することが好ましい。
【0026】
ホウ素誘導体の使用量は、ホウ素誘導体のモル数対ヒドロキシベンジルアルコールのモル数の比率が0.1〜3.0、好ましくは0.9〜1.1になるように決定する。
【0027】
助触媒は一般に、ビスマス原子の酸化数が0よりも大きい、例えば2、3、4又は5の無機又は有機ビスマス誘導体である。この条件が満たされれば、ビスマスと会合する残基は重要ではない。助触媒は反応媒質に溶けても溶けなくてもよい。
【0028】
本発明の方法で使用するのに適した助触媒の例は、酸化ビスマス;水酸化ビスマス;無機水素酸塩(例えば塩化ビスマス、臭化ビスマス、ヨウ化ビスマス、硫化ビスマス、セレン化ビスマス又はテルル化ビスマス);無機オキシ酸塩(例えば亜硫酸ビスマス、硫酸ビスマス、亜硝酸ビスマス、硝酸ビスマス、亜リン酸ビスマス、リン酸ビスマス、ピロリン酸ビスマス、炭酸ビスマス、過塩素酸ビスマス、アンチモン酸ビスマス、ヒ酸ビスマス、亜セレン酸ビスマス又はセレン酸ビスマス);遷移金属から誘導されるオキシ酸塩(例えばバナジン酸ビスマス、ニオブ酸ビスマス、タンタル酸ビスマス、クロム酸ビスマス、モリブデン酸ビスマス、タングステン酸ビスマス又は過マンガン酸ビスマス)である。
【0029】
他の適切な化合物は、脂肪族又は芳香族有機酸塩(例えば酢酸ビスマス、プロピオン酸ビスマス、安息香酸ビスマス、サリチル酸ビスマス、蓚酸ビスマス、酒石酸ビスマス、乳酸ビスマス又はクエン酸ビスマス)及びフェネート(例えば没食子酸ビスマス又はピロ没食子酸ビスマス)である。これらの塩及びフェネートはビスムチル塩であってもよい。
【0030】
他の無機又は有機化合物はビスマスとリン及びヒ素のような元素との二元化合物;ビスマスを含むヘテロポリ酸及びその塩;更には脂肪族又は芳香族ビスムチンである。
【0031】
特定例を以下に示す:
−酸化物:BiO;Bi23;Bi24;Bi25
−水酸化物:Bi(OH)3
−無機水素酸塩:塩化ビスマスBiCl3;臭化ビスマスBiBr3;ヨウ化ビスマスBiI3;硫化ビスマスBi23;セレン化ビスマスBi2Se3;テルル化ビスマスBiTe3
−無機オキシ酸塩:塩基性亜硫酸ビスマスBi2(SO33,Bi23,5H2O;中性硫酸ビスマスBi2(SO43;硫酸ビスムチル(BiO)HSO4;亜硝酸ビスムチル(BiO)NO2,0.5H2O;中性硝酸ビスマスBi(NO33,5H2O;ビスマスとマグネシウムとの複硝酸塩2Bi(NO33,3Mg(NO32,24H2O;硝酸ビスムチル(BiO)NO3;亜リン酸ビスマスBi2(PO3H)3,3H2O;中性リン酸ビスマスBiPO4;ピロリン酸ビスマスBi4(P273;炭酸ビスムチル(BiO)2CO3,0.5H2O;中性過塩素酸ビスマスBi(ClO43,5H2O;過塩素酸ビスムチル(BiO)ClO4;アンチモン酸ビスマスBiSbO4;中性ヒ酸ビスマスBi(AsO43;ヒ酸ビスムチル(BiO)AsO4,5H2O;亜セレン酸ビスマスBi2(SeO33
−遷移金属から誘導されるオキシ酸塩:バナジン酸ビスマスBiVO4;ニオブ酸ビスマスBiNbO;タンタル酸ビスマスBiTaO4;中性クロム酸ビスマスBi2(CrO4);二クロム酸ビスムチル(BiO)2Cr27;酸性クロム酸ビスムチルH(BiO)CrO4;ビスムチルとカリウムとの複クロム酸塩K(BiO)CrO10;モリブデン酸ビスマスBi2(MoO43;タングステン酸ビスマスBi2(WO43;ビスマスとナトリウムとの複モリブデン酸塩NaBi(MoO42;塩基性過マンガン酸ビスマスBi22(OH)MnO4
−脂肪族又は芳香族有機酸塩:酢酸ビスマスBi(C2323;プロピオン酸ビスムチル(BiO)C352;塩基性安息香酸ビスマスC65CO2Bi(OH)2;サリチル酸ビスムチルC64CO2(BiO)(OH);蓚酸ビスマス(C243Bi2;酒石酸ビスマスBi2(C4463,6H2O;乳酸ビスマス(C695)OBi,7H2O;クエン酸ビスマスC657Bi、
−フェネート:塩基性没食子酸ビスマスC777Bi;塩基性ピロ没食子酸ビスマスC63(OH)2(OBi)(OH)。
【0032】
他の適切な無機又は有機化合物は、リン化ビスマスBiP;ヒ化ビスマスBi3AS4;ビスマス酸ナトリウムNaBiO3;ビスマス−チオシアン酸H2[Bi(BNS)5]、H3[Bi(CNS)6]及びこれらのナトリウム/カリウム塩;トリメチルビスムチンBi(CH33、並びにトリフェニルビスムチンBi(C653である。
【0033】
本発明の方法で使用する上で好ましいビスマス誘導体は、酸化ビスマス;水酸化ビスマス;無機水素酸のビスマス又はビスムチル塩;無機オキシ酸のビスマス又はビスムチル塩;脂肪族又は芳香族有機酸のビスマス又はビスムチル塩;及びビスマス又はビスムチルフェネートである。
【0034】
本発明の方法で使用するのに特に適した助触媒群は、酸化ビスマスBi23、Bi24;水酸化ビスマスBi(OH)3;中性硫酸ビスマスBi2(SO43;塩化ビスマスBiCl3;臭化ビスマスBiBr3;ヨウ化ビスマスBiI3;中性硝酸ビスマスBi(NO33,5H2O;硝酸ビスムチルBiO(NO3);炭酸ビスムチル(BiO)2CO3,0.5H2O;酢酸ビスマスBi(C2323;サリチル酸ビスムチルC64CO2(BiO)(OH)からなる。
【0035】
白金の使用重量に対する助触媒中に含まれる金属ビスマスの量として表した助触媒の使用量は広範囲で変動し得る。この量は例えば0.1%と少量であり得るが、白金の使用量以上の量になっても不都合ではない。
【0036】
特に、助触媒の量は、酸化媒質中のヒドロキシベンジルアルコールの量に対する金属ビスマスの濃度が10〜900重量ppmとなるように選択する。助触媒を約900〜1500ppmの過剰量で使用することができるが、大した利点は得られない。
【0037】
反応触媒として一緒に使用する白金は、種々の形態[例えば白金黒、酸化白金、又は種々の担体(カーボンブラック、炭酸カルシウム、活性アルミナ及びシリカ)もしくは同等の材料に担持された貴金属]であり得る。カーボンブラックをベースとした触媒材料が特に適している。
【0038】
酸化すべきアルコールの重量に対する金属白金の重量として表した触媒の使用量は、0.01%〜4%、好ましくは0.04%〜2%であり得る。
【0039】
アルカリ水溶液中で酸化すべきアルコールの濃度は、沈殿が回避されて均質な溶液が保持されるような濃度であることが好ましい。
【0040】
水溶液中のアルコール濃度は一般に、1重量%〜60重量%、好ましくは2重量%〜30重量%である。
【0041】
本発明の方法によれば、溶解してアルカリを含む水性媒質中で酸化させる。アルカリは一般に、水酸化ナトリウム又はカリウムである。使用する無機塩基の比率は、酸化すべきアルコール1モルに対し無機塩基0.5〜3モルである。
【0042】
本方法の一実施態様は、酸化すべきアルコールを含む水溶液、酸素分子又は酸素分子を含む気体、アルカリ、白金をベースとする触媒、ビスマス誘導体をベースとする助触媒及びホウ素誘導体を先に規定した比率で用いて接触させることからなる。処理は大気圧下で実施するが、必要とあれば加圧下で実施してもよい。次いで、アルコールをアルデヒドに変換するのに必要な量の酸素が消費されるまで混合物を所望の温度で撹拌する。このようにして、酸素の吸収量を測定することにより反応の進行を監視する。
【0043】
使用する反応温度は、生成物の熱安定性に依存する。
【0044】
一般に、反応は、10℃〜100℃、好ましくは20℃〜60℃の温度範囲で実施する。
【0045】
必要とあれば冷却後に、例えば濾過により触媒を反応混合物から分離し、得られた液体にプロトン性無機酸、好ましくは硫酸を加えて酸性化し、pHを6以下にする。次いで、例えば適切な溶媒(例えばトルエン)を用いた抽出又は水蒸気蒸留により所望のヒドロキシベンズアルデヒドを単離してから公知の手順で精製することができる。
【0046】
本発明の方法では、ヒドロキシベンジルアルコール(特にサリゲノール)を文献に記載の従来技術を用いて、例えば酢酸亜鉛又はギ酸カルシウムの存在下でフェノールをホルムアルデヒドと縮合させる(英国特許第0 774 696号)ことにより製造する場合、ホウ素誘導体を酸化中に導入することができる。
【0047】
本発明の他の実施態様では、特にフランス特許第1 328 945号及びフランス特許出願公開第2 430 928号に記載のように特定の反応シーケンスを用いて実施されるヒドロキシベンジルアルコールの製造中にホウ素誘導体を導入する。
【0048】
従って、第一段階で、フェノールをホウ酸(又はホウ酸無水物)と反応させてフェノールホウ酸エステルを製造し、次いで得られたフェノールホウ酸エステルをホルムアルデヒド又はホルムアルデヒド生成剤(例えばトリオキサン)と反応させる。
【0049】
得られたホウ酸エステル(簡略化のため“アリールボレート”と称する)は、−式(II):
【0050】
【化4】
Figure 0004028602
【0051】
で表されるフェノールメタボレート、
−式(III):
【0052】
【化5】
Figure 0004028602
【0053】
で表されるフェノールピロボレート、
−式(IV):
(Ar−O−)3−B (IV)
で表されるフェノールオルトボレート、
−式(V):
(Ar−O−)2−B−OH (V)
で表されるフェノールの酸性ボレート
(式中のArの意味は前述した通りである)の錯混合物である。
【0054】
これらの混合物は、過剰の出発フェノールを含んでいてもよい。
【0055】
エステル化混合物中でのこれらの各ホウ酸誘導体の比率は、使用するフェノール/ホウ酸のモル比に依存する。この比率は一般に0.8〜3.0であり、好ましくは1.0〜1.5である。
【0056】
従って、フェノール/ホウ酸の比率が1.0〜1.5の場合、混合物は主に式(II)のメタボレートからなり、比率が1.5〜3.0の場合、混合物は主に式(III)のフェノールピロボレート及び式(V)の酸性ボレートからなり、比率が3.0又は3.0付近の場合、式(IV)のオルトボレートが実質的にこの混合物の唯一の成分となる。
【0057】
アリールボレートは、公知の手順を用いてフェノールをホウ酸と反応させることにより製造される。
【0058】
フェノールは好ましくは式:
Ar−OH (VI)
(式中のArの意味は前述した通りである)で表される。
【0059】
式(VI)で表されるフェノールの例は、フェノール、クレゾール、2,3−キシレノール、2,4−キシレノール、2,5−キシレノール、3,4−キシレノール、モノメチルフェノール、モノエチルフェノール、モノプロピルフェノール、モノブチルフェノール、ピロカテコール又はヒドロキノン又はレゾルシノールのモノメチル−,モノエチル−、モノプロピル−及びモノブチルエーテル、モノクロロフェノール、2,3−ジクロロフェノール、2,4−ジクロロフェノール、2,5−ジクロロフェノール、3,4−ジクロロフェノール、3,5−ジクロロフェノール、2,4,5−トリクロロフェノール、2,3,5−トリクロロフェノール、2,3−ジメトキシフェノール、並びに3、5−ジメトキシフェノールである。
【0060】
フェノールをホウ酸と反応させることからなるアリールボレートの製造は、エステル化反応により生ずる水との共沸混合物を生成する溶媒中で実施する。共沸混合物が共沸蒸留により生成されるので、水は除去される。アリールボレートの製造に適した溶媒は、芳香族炭化水素(例えばベンゼン、トルエン又はキシレン)である。水の共沸蒸留を可能とし得る他の任意の不活性溶媒を使用してもよい。
【0061】
無水媒質中で縮合を実施する。アリールボレートの製造に使用する溶媒を使用することができる。このような条件下では、ボレートをエステル化した後に媒質から単離するのではなく、直接ホルムアルデヒドと反応させる。
【0062】
ホルムアルデヒドは、ホウ酸1モルに対し1モルの量で使用することが好ましい。ホルムアルデヒドの量が規定値前後の0.9〜1.1になってもかまわない。
【0063】
ホルムアルデヒド生成剤を使用する場合、ホルムアルデヒドの量は、反応に使用できるホルムアルデヒドの量が規定の範囲内になるように計算する。
【0064】
ホルムアルデヒド又はその生成剤と特定のフェノールとの縮合温度は20℃〜120℃、好ましくは40℃〜100℃である。
【0065】
ヒドロキシベンジルアルコールボレートが生成される。
【0066】
次の段階で、公知の手順(例えば鹸化、加水分解又はアルコーリシス)を用いてヒドロキシベンジルアルコールを縮合媒質から遊離する。
【0067】
反応媒質を塩基で処理することからなる鹸化が好ましい手順である。塩基はアルカリ金属水酸化物が好ましく、水酸化ナトリウム又はカリウムが更に好ましい。
【0068】
導入する塩基の量はアリールボレートの種類に依存し、使用するホウ酸1モルに対しアルカリ性塩基で2.0〜4.0モル、好ましくは約2.0モルである。
【0069】
鹸化後、ヒドロキシベンジルアルコールとホウ酸とのアルカリ性錯塩が水溶液中に存在する。成分を分離せずとも、これを直接使用して白金及びビスマスの存在下で酸化させることができる。
【0070】
かくして、生成した中間体を単離せずとも、サリチルアルデヒドをフェノールから直接製造することができる。
【0071】
このようにして、フェノールをホウ酸(又はホウ酸無水物)と反応させてホウ酸エステルを生成し、次いでこのホウ酸エステルをホルムアルデヒドと反応させてホウ酸サリゲニンを生成する。アルカリ性塩基を用いてホウ酸サリゲニンを鹸化すると、サリゲノールとホウ酸とのアルカリ性錯塩の水溶液が得られる。成分を分離せずとも、この水溶液を直接使用して、白金をベースとする触媒及びビスマス誘導体をベースとする助触媒の存在下で酸化させることができる。
【0072】
本発明の方法を用いて酸化すると、サリチルアルデヒドが非常に高い収率で得られる。
【0073】
従って、本発明の方法は、とりわけクマリンの製造に使用できるサリチルアルデヒドを製造する際に特に有利である。
【0074】
本発明の方法を用いて得られるサリチルアルデヒドは、クマリン合成の出発材料として使用することができる。クマリンは、文献に広く記載されている既知の環化工程により生成される。特に、酢酸ナトリウムの存在下でサリチルアルデヒドを酢酸無水物と反応させてクマリンを製造するパーキン反応を挙げることができる(KIRK−OTHMER−Encyclopedia of Chemical Technology , 198ページ,3版)。
【0075】
【実施例】
以下の実施例で本発明を非制限的に説明する。
【0076】
実施例内の略字Y(収率)は、
Y=生成したアルデヒドのモル数/使用したサリゲノールのモル数
として示す。
【0077】
実施例1〜4
4つの実施例で使用する貴金属をベースとする触媒は、カーボンブラックに担持した2重量%の金属を含む触媒形態の白金であった。酸化すべきアルコールの重量に対する白金の重量として表した使用量は0.036%であった。
【0078】
これらの実施例の反応を、ホウ酸の存在下又は不在下で実施した。
【0079】
ホウ酸を使用する場合、酸化すべきアルコールの重量に対するホウ酸の重量として表した使用量は51%であった。
【0080】
これらの実施例の反応を、ビスマスをベースとする助触媒(この場合は酸化ビスマス)の存在下又は不在下で実施した。酸化すべきアルコールの重量に対するビスマスの重量として表した使用量は0.065%であった。
【0081】
各実施例の手順を以下に示す:
100cm3のガラスフラスコは、中央撹拌システムと、加熱手段と、温度計とを備えていた。ガラスフラスコは、ガスの吸収容量を経時的に測定できるように純粋酸素供給源に接続されていた。
【0082】
以下の材料を反応器内に導入した:
実施例1
−8cm3の4N苛性ソーダ水溶液(0.032molの苛性ソーダ);
−72mgの白金ベースの触媒(即ち1.44mgの白金);
−4g(0.0323mol)のオルト−ヒドロキシベンジルアルコール及び34cm3の水。
【0083】
実施例2
実施例1を繰り返したが、2.9mgの酸化ビスマス(2.6mgのビスマス)を加えた。
【0084】
実施例3
実施例1を繰り返したが、8cm3の4N苛性ソーダ水溶液(0.032mol)を加え、希釈水の量を8cm3減らして酸化すべき混合物中のアルコールの濃度を同一に保持した。
【0085】
実施例4
実施例3を繰り返したが、2.9mgの酸化ビスマス(2.6mgのビスマス)を加えた。
【0086】
反応体(実施例1〜4)を導入した後、反応器を酸素でパージし、水柱30cmの重量に相当する僅かな圧力下で酸素供給源に接続した。
【0087】
反応混合物を45℃の温度に加熱し、(100rpmで)撹拌を開始した。
【0088】
混合物を前記温度で撹拌し、酸化が終了する(酸素の吸収が終了する)まで混合物を45℃で撹拌した。
【0089】
反応混合物を酸性化した後、液体クロマトグラフィーによって反応結果、即ち酸化すべきアルコールに対するサリチルアルデヒドの収率を測定した。
【0090】
得られた結果を以下の表に示す。
【0091】
【表1】
Figure 0004028602
【0092】
実施例5
撹拌装置、加熱スリーブ、及び溶媒を還流させて反応物から水を分離させるレトログレーダーの付いたカラムを備えた250mlの三つ口フラスコに、
−47gのフェノール(0.5mol);
−31gのホウ酸(0.5mol);
−15gのトルエン
を導入した。
【0093】
混合物を3時間蒸留し、担体(トルエン)を再循環させて、理論量の水を分離した。
【0094】
75gのトルエンで希釈し、25gのトルエンに懸濁した16gのトリオキシメチレンを加えた。ホルムアルデヒドとの反応が終了するまで(約3時間)混合物を80℃に保持した。
【0095】
152gの30重量%苛性ソーダ溶液に200gの水を加えて製造した苛性ソーダ溶液でホウ酸サリゲニンのトルエン溶液を室温にて加水分解した。次いで、これをデカントし、サリゲノールとホウ酸のナトリウム塩を含む水溶液を分離した。
【0096】
実施例4に記載の手順を用いてこの水溶液を直接酸化した。但し、ホウ酸の添加は不要であった。
【0097】
酸素の吸収容量がサリゲノールをサリチルアルデヒドに変換するのに必要な理論量に相当するまで、即ち約1時間、以下の成分:
−0.8gの2%白金黒(16mgの白金);
−0.035gの酸化ビスマス(31mgのビスマス)
が添加されている溶液中に大気圧の酸素を通した。
【0098】
反応混合物から触媒を分離し、200mlの5N硫酸を加えて、生成したサリチルアルデヒドをナトリウム塩から遊離し、次いで水蒸気蒸留又は適切な溶媒を用いる抽出によりサリチルアルデヒドを単離した。
【0099】
43gのサリチルアルデヒドが得られた。これは使用したフェノールに対する収率68%に相当する。
【0100】
実施例6
実施例5を繰り返したが、(酸化前に)サリゲノールとホウ酸のナトリウム塩を含む水溶液中に酸化ビスマスを添加しなかった。
【0101】
23gのサリチルアルデヒドが得られた。即ち使用したフェノールに対する収率は37%であった。
【0102】
実施例7
温度計、蒸留カラム、レトログレーダー、冷却剤及び分離器を備えた三つ口フラスコに、
−実施例5の方法で製造したサリチルアルデヒド(600mmol);
−酢酸無水物(1.90mmol)を酢酸(3.47g)に溶解した溶液
を導入した。
【0103】
これを還流させ、酢酸ナトリウム(2.1mmol)を酢酸(3.47g)の溶液に導入した。
【0104】
カラム頭部の温度が約118℃になるまで還流を維持して、酢酸を蒸留させた。
【0105】
2時間50分反応させた後にクマリンをガスクロマトグラフィーで測定すると、クマリンの収率が82%であることが判明した。

Claims (30)

  1. 白金をベースとする触媒の存在下、アルカリを含む水性媒質中にて、酸素分子又は酸素分子を含む気体を用いて液相で対応するヒドロキシベンジルアルコールを酸化させてヒドロキシベンズアルデヒドを製造する方法であって、ホウ素誘導体及びビスマス誘導体の存在下で酸化させることを特徴とする方法。
  2. ヒドロキシベンジルアルコールが、式(I):
    Figure 0004028602
    (式中、基−CHOHはヒドロキシ基に対してオルト、メタ又はパラ位であり、ベンゼン核は同一であっても異なってもよい1個以上の置換基Rで置換されていてもよく、nは3以下の数である)で表されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
  3. ヒドロキシベンジルアルコールが、式(I)[式中、Rは、水素原子又は1個以上の置換基を示し、この置換基は、ハロゲン原子、又は1〜12個の炭素原子を含むアルキルもしくはアルコキシ基であり得る]で表されることを特徴とする請求項2に記載の方法。
  4. 前記アルキルもしくはアルコキシ基が1〜4個の炭素原子を含む請求項3に記載の方法。
  5. ヒドロキシベンジルアルコールがサリゲノールであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
  6. ホウ素誘導体が、ホウ酸;金属ホウ酸塩;又はホウ素を含む複塩の中から選択されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
  7. ホウ素誘導体が、オルトホウ酸、もしくはその前駆体B 、メタホウ酸、ピロホウ酸、及びテトラホウ酸;無水形態もしくは水和形態のアルカリ金属、アルカリ土類金属もしくはアンモニウムのホウ酸塩;金属フッ化ホウ素酸塩から選択されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
  8. ホウ素誘導体が、アルカリ金属もしくはアンモニウムの第三級ホウ酸塩、1/2ホウ酸塩、一ホウ酸塩、二ホウ酸塩、三ホウ酸塩、四ホウ酸塩もしくは五ホウ酸塩から選択されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
  9. ホウ素誘導体がオルトホウ酸又はホウ酸無水物であることを特徴とする請求項に記載の方法。
  10. ホウ素誘導体のモル数対ヒドロキシベンジルアルコールのモル数の比率が0.1〜3.0であることを特徴とする請求項6から9のいずれか一項に記載の方法。
  11. ホウ素誘導体のモル数対ヒドロキシベンジルアルコールのモル数の比率が0.9〜1.1であることを特徴とする請求項6から9のいずれか一項に記載の方法。
  12. 助触媒が、酸化ビスマス;水酸化ビスマス;無機水素酸のビスマス又はビスムチル塩;無機オキシ酸のビスマス又はビスムチル塩;脂肪族又は芳香族有機酸のビスマス又はビスムチル塩;ビスマス又はビスムチルフェネートからなる群の中から選択される有機又は無機ビスマス誘導体であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
  13. 助触媒が、ビスマス又はビスムチルの塩化物、臭化物、ヨウ化物、硫化物、セレン化物又はテルル化物;ビスマス又はビスムチルの亜硫酸塩、硫酸塩、亜硝酸塩、硝酸塩、亜リン酸塩、リン酸塩、ピロリン酸塩、炭酸塩、過塩素酸塩、アンチモン酸塩、ヒ酸塩、亜セレン酸塩又はセレン酸塩;ビスマス又はビスムチルの酢酸塩、プロピオ ン酸塩、サリチル酸塩、安息香酸塩、蓚酸塩、酒石酸塩、乳酸塩又はクエン酸塩;ビスマス又はビスムチルの没食子酸塩又はピロ没食子酸塩からなる群から選択される有機又は無機ビスマス誘導体であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
  14. ビスマス誘導体が、酸化ビスマスBi 及びBi;水酸化ビスマスBi(OH);塩化ビスマスBiCl;臭化ビスマスBiBr;ヨウ化ビスマスBiI;中性硫酸ビスマスBi(SO;中性硝酸ビスマスBi(NO,5HO;中性硝酸ビスムチル(BiO)NO;炭酸ビスムチル(BiO)CO,0.5HO;酢酸ビスマスBi(C並びにサリチル酸ビスムチルCCO(BiO)(OH)からなる群の中から選択されることを特徴とする請求項12又は13に記載の方法。
  15. 助触媒の使用量が、媒質中で、白金の使用重量に対する金属ビスマスの比率が少なくとも0.1重量%になり、ヒドロキシベンジルアルコールに対する金属ビスマスの比率が10〜900重量ppmになるように選択されることを特徴とする請求項12から14のいずれか一項に記載の方法。
  16. 白金触媒が、白金黒、酸化白金、又は担体に担持された貴金属の形態であることを特徴とする請求項1から1のいずれか一項に記載の方法。
  17. 担体が、カーボンブラック、炭酸カルシウム、活性アルミナ及びシリカからなる群から選択される請求項16に記載の方法。
  18. 酸化すべきアルコールの重量に対する金属白金の重量として表した触媒の使用量が、0.01%〜4%であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
  19. 酸化すべきアルコールの重量に対する金属白金の重量として表した触媒の使用量が、0.04%〜2%であることを特徴とする請求項17に記載の方法。
  20. 酸化すべきヒドロキシベンジルアルコール1モルに対して0.5〜3モルの水酸化ナトリウム又はカリウムを含む水性媒質中で酸化させることを特徴とする請求項1から1のいずれか一項に記載の方法。
  21. 10℃〜100℃の温度で酸化させることを特徴とする請求項1から20のいずれか一項に記載の方法。
  22. 20℃〜60℃の温度で酸化させることを特徴とする請求項1から20のいずれか一項に記載の方法。
  23. ホウ素誘導体を白金ベースの触媒及びビスマスベースの助触媒と一緒に酸化中に導入することを特徴とする請求項1から22のいずれか一項に記載の方法。
  24. ホウ素誘導体をヒドロキシベンジルアルコールの製造中に導入することを特徴とする請求項1から22のいずれか一項に記載の方法。
  25. フェノールをホウ酸(又はホウ酸無水物)と反応させてホウ酸エステルを生成し、次いでこれをホルムアルデヒド又はホルムアルデヒド生成剤と反応させ、次いで得られたヒドロキシベンジルアルコールボレートをアルカリ性塩基を用いて鹸化してヒドロキシベンジルアルコールとホウ酸との錯塩を生成することにより、酸化すべき水溶液中に含まれるホウ素誘導体を生成することを特徴とする請求項1から22及び24のいずれか一項に記載の方法。
  26. フェノールとホウ酸(又はホウ酸無水物)とを反応させてホウ酸エステルを生成し、これをホルムアルデヒド又はホルムアルデヒド生成剤と反応させ、次いで得られたホウ酸サリゲニンをアルカリ性塩基を用いて鹸化してサリゲノール/ホウ酸の錯塩水溶液を生成し、これに白金ベースの触媒及びビスマスベースの助触媒を加えた後に酸化することを特徴とする請求項1から2224及び25のいずれか一項に記載のサリチルアルデヒドの製造方法。
  27. 使用するフェノール/ホウ酸のモル比が0.8〜3.0であることを特徴とする請求項26に記載の方法。
  28. 使用するフェノール/ホウ酸のモル比が1.0〜1.5であることを特徴とする請求項26に記載の方法。
  29. 請求項1から28のいずれか一項に記載の方法に従いサリチルアルデ ヒドを製造する工程、及び反応生成物であるサリチルアルデヒドと酢酸無水物との環化工程を含むクマリンの製造方法。
  30. 環化反応が酢酸ナトリウムの存在下で行われる請求項29に記載のクマリンの製造方法。
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