JP4028014B2 - 酸洗促進剤、酸洗促進剤を含んだ酸洗液組成物およびこれらを用いる金属の酸洗方法 - Google Patents

酸洗促進剤、酸洗促進剤を含んだ酸洗液組成物およびこれらを用いる金属の酸洗方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明が属する技術分野】
本発明は、金属の表面に付着している酸化物皮膜(錆、熱延ミルスケール等)および熱交換器の表面に付着するスケール(金属酸化物と硬度成分との混合物)の除去の際に酸洗液に添加する酸洗促進剤および酸洗促進剤を含んだ酸洗液組成物ならびにこれらを用いる金属の酸洗促進方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
熱間圧延鋼板などの金属の熱延材料や熱処理を施した金属材料表面には、一般に酸化物皮膜(ミルスケール等)が付着しており、後工程(冷延、メッキ処理等)に供するためにこの酸化物皮膜を除去することが必要である。
【0003】
また、発電プラントや化学プラントなどのボイラーや熱交換器表面には、金属酸化物を主体としてその他硬度成分を含んだスケールがプラントの稼働によって生成する。このようなスケールが金属表面に付着生成するとプラントの熱効率を低下させたり、伝熱管の異常過熱を引き起こし危険であるため除去する必要がある。
【0004】
これら金属表面に付着している酸化物皮膜および熱交換器表面に付着しているスケールの除去には、硫酸、塩酸、リン酸、スルファミン酸、硝酸、フッ酸、シユウ酸、クエン酸のような無機酸または有機酸およびこれらの混合物の水溶液による洗浄、いわゆる「酸洗」が広く行われている。
【0005】
しかし、これらの酸は、酸洗時において酸化物皮膜やスルファミン酸を溶解除去するだけでなく金属素地までも同時に溶解するため、従来から金属素地腐食の抑制のために腐食抑制剤が使用されている。
【0006】
酸洗において、強固に付着した酸化物皮膜は除去しがたく、これを完全に除去するためにはかなり長時間の酸洗時間が必要となる。また、金属素地を保護する目的で酸洗液に添加される腐食抑制剤の多くは、酸洗速度を遅延させるという欠点を有している。このためさらに長時間の酸洗時間が必要となり、作業効率の低下を招いている。
【0007】
そこで、腐食抑制剤の性能低下が起きない範囲で酸濃度を高めたり、酸洗液の温度を高くして酸化物皮膜の除去する時間を短縮しているのが実状である。
【0008】
したがって、金属素地の腐食を抑制しながら酸洗を促進し、酸洗時間を短縮することは工業的に重要であり、強い要請のあるところである。
【0009】
従来、これらの問題点の解決にあたって界面活性剤を添加する方法(特開昭57−198273)、酸化剤と腐食抑制剤を添加する方法(特開昭63−2073780)、あるいは還元剤を添加する方法(特開昭47−34122)などが提案されている。さらに、有機硫黄化合物を添加する方法(特開平3−33171)も提案されている。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記従来技術では充分な酸洗促進効果が発揮されない、酸洗後の金属表面が黒変し品質の低下をきたす、酸洗液の回収工程においてSOxガスが発生し環境に悪影響を与える、あるいは回収された酸化鉄中の硫黄濃度が高くなり磁性材料等に使用される際品質低下の原因となる、酸洗液が酸洗作業中に有毒ガスを発生し作業環境を悪化する、腐食抑制剤の金属素地腐食防止効果に悪影響を与えるなどの問題点がある。このため、上記の酸洗促進剤およびこれを用いた酸洗促進方法はほとんど使用されていないのが実状である。
【0011】
たとえば、特開平3−33171号公報には有機硫黄化合物を酸洗液に添加する方法が記載されているが、酸洗後の鋼板表面が黒変し品質低下をきたしたり、酸洗液の回収工程においてSOxガスが発生し環境に悪影響を与える、あるいは回収された酸化鉄中の硫黄濃度が高くなり磁性材料等に使用される際品質低下の原因となる。また、特開昭57−198273号公報では含フッ素系界面活性剤および炭化水素系界面活性剤から成る酸洗促進剤が記載されているがアスコルビン酸、ヒドラジンなどの有機還元剤では充分な促進効果が認められない、亜硫酸塩、チオ硫酸塩などの無機還元剤では、酸化物皮膜の溶解促進作用は認められるが、酸洗液への添加時、あるいは酸洗中に極めて有毒な亜硫酸ガスや硫化水素ガスを発生し作業環境の著しい劣悪化を招く、また腐食抑制剤の素地腐食の防止効果に対して悪影響を与え、さらに酸洗後の金属素地表面の色調低下による品質の低下を起こすという問題点がある。
【0012】
本発明は、上記の従来技術の問題点である金属素地の腐食の増加や酸洗後の金属素地表面の品質を低下させることなく、さらに有毒ガスの発生や回収工程における酸化鉄の品質を低下させることなしに金属表面に付着している酸化物皮膜やスケールの除去速度を促進する酸洗促進剤および酸洗促進剤を含む酸洗液ならびにこれを用いる酸洗促進方法を提供することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明は、ピリジン、置換基としてメチル基、アミノ基、ビニル基またはカルボニルオキシアミノ基を有するピリジン、キノリン、置換基としてメチル基を有するキノリンおよびイソキノリンから成る群より選ばれる少なくとも1種から成る酸洗促進剤を要旨とする。好ましくは、本発明の酸洗促進剤は、酸洗腐食抑制剤をさらに含む。
【0021】
本発明は、前記酸洗促進剤を0.0001〜5重量%と、有機酸を含んでいてもよい無機酸1〜50重量%と、残部に水とを含んで成ることを特徴とする酸洗液組成物をも提供する。
【0022】
本発明は、前記酸洗促進剤を0.0001〜5重量%と、有機酸1〜99.99重量%と、残部に水とを含んで成ることを特徴とする酸洗液組成物をも提供する。
【0023】
本発明は、有機酸を含んでいてもよい無機酸の水溶液から成る酸洗液1lに対して、前記酸洗促進剤を1〜50,000mg添加して成る酸洗液組成物で金属を酸洗することを特徴とする金属の酸洗促進方法をも提供する。
【0024】
【発明の実施の形態】
本発明に従えば、ピリジン、置換基としてメチル基、アミノ基、ビニル基またはカルボニルオキシアミノ基を有するピリジン、キノリン、置換基としてメチル基を有するキノリンおよびイソキノリンから成る群より選ばれる少なくとも1種から成る酸洗促進剤を酸洗液に添加して金属の酸洗を行うと、金属素地の腐食の増加や酸洗後の金属素地表面の品質を低下させることなく、さらに有毒ガスの発生や回収工程における酸化鉄の品質を低下させることなしに金属表面に付着している酸化物皮膜やスケールの除去速度を促進することができる。
【0025】
酸洗促進剤となるこれらの化合物が酸洗促進に寄与する理由は定かではないが、金属酸化物中のFe3+を還元し、酸洗液への溶解性の高いFe2+に変化させることによるか、あるいは酸洗液側に引き抜くことにより促進しているものと考えられる。
【0033】
本発明に用いる窒素原子を含むヘラロ環化合物は、前述のとおりである
【0034】
本発明において、酸洗促進剤、さらに酸洗促進剤を含む酸洗液組成物に添加して使用できる酸洗腐食抑制剤としては、市販の入手可能な酸洗腐食抑制剤であり、酸洗促進剤と不都合な相互作用を示さないならばいかなるものでもよい。たとえば、朝日化学工業社製のイビットNo.710N等が好適である。このような酸洗腐食抑制剤の本発明の酸洗促進剤への添加量は、両者の合計重量の5〜99%の範囲であることが好ましい。
【0035】
本発明の酸洗液組成物に酸洗腐食抑制剤を添加する場合、酸洗腐食抑制剤を既に含有する酸洗促進剤を酸洗液に配合して酸洗液組成物とするか、または酸洗促進剤のみを含む酸洗液組成物に酸洗腐食抑制剤を改めて添加してもよい。いずれの場合も、酸洗腐食抑制剤の添加量は、酸洗液組成物中、酸洗液量に対して0.001〜5%の範囲であることが好ましい。
【0036】
また本発明において酸洗液への酸洗促進剤の添加量は、酸洗液1lに対して、1mg以上50,000mg以下、好ましくは5mg以上5,000mg以下である。添加量が1mg/l未満では、酸洗促進作用は認められない。特に、10mg/l以上で顕著な酸洗促進作用を示すが、5,000mg/l越えてもその作用はほとんど増加しない。
【0037】
本発明で用いる酸洗液は、通常、酸洗原液を水で希釈して得られる。酸洗原液を構成する酸は、硫酸、塩酸、リン酸、スルファミン酸、フッ酸、または硝酸もしくはこれらの混酸である。さらに、シュウ酸、クエン酸、ギ酸、酒石酸、リンゴ酸、ヒドロキシ酢酸、またはグルコン酸等の有機酸も使用できる。有機酸と前記無機酸との混酸を使用してもよいが、この場合酸の合計量を1〜50%とすることが好ましい。これは無機酸の濃度が50%を超えると、本発明の酸洗促進剤の一部が分解するおそれがあるためである。酸洗原液が有機酸のみの場合、本発明の酸洗促進剤は安定であり、上記のような分解をするおそれはないから、99.99%未満の酸洗原液をそのまま酸洗液として使用してもよい。
【0038】
なお、酸洗原液として使用する酸は、窒素原子を含むヘテロ環化合物を窒素原子を含むヘテロ環化合物を中和して成る化合物に変換するために用いる酸と実質的に同一である。したがって、窒素原子を含むヘテロ環化合物を酸洗促進剤として選び、酸洗液または酸洗原液に添加すると窒素原子を含むヘテロ環化合物を中和して成る化合物が、それを含む酸洗液組成物中で生成することがある。
【0039】
本発明の酸洗促進剤を金属の酸洗促進方法に用いる時、酸洗促進剤を酸洗液または酸洗原液に添加し、酸洗液組成物を調製して行う。必要ならばこの酸洗液組成物を適宜水で希釈して用いる。
【0040】
本発明の酸洗促進剤および酸洗液組成物は、金属一般の酸洗に用いて、顕著な酸洗促進作用を示すが、その対象金属として、鉄、炭素鋼、ステンレスなどの特殊鋼、銅、真鍮などの銅合金を挙げることができる。
【0041】
本発明の酸洗促進剤は、酸洗腐食抑制剤の他に適当な界面活性剤と併用してもよい。
【0042】
以上、本発明の酸洗促進剤および酸洗組成物についてその作用を説明したが、これらを用いた金属の酸洗促進方法についても同様にあてはまる。
【0043】
【実施例】
以下、本発明を実施例により本発明の実施の態様を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0044】
実施例1〜12
水1l中に塩酸100gと第一鉄イオン50gとを含む酸洗液に、表1に示す本発明の酸洗促進剤を1g添加し、この液を80℃まで加温した後、ミルスケール付の熱間圧延鋼板を浸漬し、表面のミルスケール、錆の除去に要する時間を測定した。結果を表1に示す。
比較例1
実施例1と同じ条件で実験を行った。ただし酸洗促進剤は用いていない。結果を表1に示す。
【0045】
【表1】
Figure 0004028014
【0046】
実施例1324
水1l中に硫酸100gと第一鉄イオン50gとを含む酸洗液に、表1に示す本発明の酸洗促進剤を1g添加し、この液を80℃まで加温した後、ミルスケール付の熱間圧延鋼板を浸漬し、表面のミルスケール、錆の除去に要する時間を測定した。結果を表2に示す。
比較例2
実施例13と同じ条件で実験を行った。ただし酸洗促進剤は用いていない。結果を表2に示す。
【0047】
【表2】
Figure 0004028014
【0048】
実施例2536
水1l中にヒドロキシ酢酸100gを含む酸洗液に、表3に示す本発明の酸洗促進剤を1g添加し、この液を90℃まで加温した後、ミルスケール付の熱間圧延鋼板を浸漬し、表面のミルスケール、錆の除去に要する時間を測定した。結果を表3に示す。
比較例3
実施例25と同じ条件で実験を行った。ただし酸洗促進剤は用いていない。結果を表3に示す。
【0049】
【表3】
Figure 0004028014
【0050】
実施例3748
水1l中に塩酸100gと第一鉄イオン50gとを含む酸洗液に、表4に示す本発明の酸洗促進剤を1g添加し、この液を80℃まで加温した後、ミルスケールを除去した熱間圧延鋼板を1分間浸漬し、腐食量を求めた。結果を表4に示す。
比較例4
実施例37と同じ条件で試験を行った。ただし酸洗促進剤として従来技術の亜硫酸アンモニウムを1g添加した。
比較例5
実施例37と同じ条件で実験を行った。ただし酸洗促進剤は用いていない。結果を表4に示す。
【0051】
【表4】
Figure 0004028014
【0052】
実施例4954および比較例6
水1l中に塩酸100gと第一鉄イオン50gとを含む酸洗液に、本発明の酸洗促進剤の一種であるイソキノリンを0〜10000mgの範囲で添加し、この液を80℃まで加温した後、ミルスケール付の熱間圧延鋼板とミルスケールを除去した熱間圧延鋼板を浸漬し、前者からミルスケールおよび錆の除去に要す時間を測定し、後者から1分浸漬後の腐食量を求めた。結果を表5に示す。
比較例7
実施例49と同じ条件で試験を行った。ただし、酸洗促進剤として従来技術の亜硫酸アンモニウムを1g添加した。
【0053】
【表5】
Figure 0004028014
【0054】
実施例1〜12と比較例1および表1から明らかなように、1l中に塩酸100gと第一鉄イオン50gを含む酸洗液を用い、80℃の酸洗条件では、本発明の酸洗促進剤1g/lの添加は、金属の酸洗に顕著な効果がある。
同様に、実施例1324と比較例2および実施例2536および表2と表3から、硫酸等の無機酸およびヒドロキシ酢酸等の有機酸でも、本発明の酸洗促進剤の1g/lの添加は、金属の酸洗促進に顕著な効果がある。
さらに実施例3748と比較例4〜5および表4から明らかなように本発明の酸洗促進剤は従来の酸洗促進剤のように金属素地の腐食を増加させることもない。
また実施例4954と比較例6、比較例7および表5から明らかなように酸洗液に対する本発明の酸洗促進剤の効果は、その添加量が5mg/l以上で効果がある。また10mg/lで顕著な効果があり、5000mg/l以上にしてもその効果はほとんど変わらない。また従来技術の亜硫酸アンモニウムは酸洗促進効果は認められるが、金属素地の腐食が著しくさらに酸洗後の表面の明度も極端に低下し鋼材の品質低下が激しい。
【0055】
【発明の効果】
以上のように本発明によれば、本発明の酸洗促進剤および酸洗促進組成物ならびに酸洗促進方法は、金属素地の腐食を増加させることなく表面酸化物皮膜、汚染物等の除去に必要な時間を大幅に短縮できる。しかも、本発明の酸洗促進剤ならびに酸洗促進方法は、有毒ガスの発生がなく新たな除害装置などの設備を必要とせず、金属素地表面の色調低下も起こさずさらに回収工程における金属の母材たとえば鋼材の品質も低下させない。

Claims (10)

  1. ピリジン、置換基としてメチル基、アミノ基、ビニル基またはカルボニルオキシアミノ基を有するピリジン、キノリン、置換基としてメチル基を有するキノリンおよびイソキノリンから成る群より選ばれる少なくとも1種から成ることを特徴とする酸洗促進剤。
  2. 前記酸洗促進剤がさらに酸洗腐食抑制剤を含むことを特徴とする請求項1記載の酸洗促進剤。
  3. ピリジン、置換基としてメチル基、アミノ基、ビニル基またはカルボニルオキシアミノ基を有するピリジン、キノリン、置換基としてメチル基を有するキノリンおよびイソキノリンから成る群より選ばれる少なくとも1種から成る酸洗促進剤を0.0001〜5重量%と、有機酸を含んでいてもよい無機酸1〜50重量%と、残部に水とを含んで成ることを特徴とする酸洗液組成物。
  4. ピリジン、置換基としてメチル基、アミノ基、ビニル基またはカルボニルオキシアミノ基を有するピリジン、キノリン、置換基としてメチル基を有するキノリンおよびイソキノリンから成る群より選ばれる少なくとも1種から成る酸洗促進剤を0.0001〜5重量%と、有機酸1〜99.99重量%と、残部に水とを含んで成ることを特徴とする酸洗液組成物。
  5. 前記酸洗組成物がさらに酸洗腐食抑制剤を含むことを特徴とする請求項3または4に記載の酸洗液組成物。
  6. 前記無機酸が硫酸、塩酸、リン酸、スルファミン酸、フッ酸および硝酸から成る群より選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項3または5記載の酸洗液組成物。
  7. ピリジン、置換基としてメチル基、アミノ基、ビニル基またはカルボニルオキシアミノ基を有するピリジン、キノリン、置換基としてメチル基を有するキノリンおよびイソキノリンから成る群より選ばれる少なくとも1種から成る酸洗促進剤を1〜50,000mg添加して成る酸洗液組成物で金属を酸洗することを特徴とする金属の酸洗促進方法。
  8. 前記酸洗液組成物がさらに酸洗腐食抑制剤を含むことを特徴とする請求項8記載の金属の酸洗促進方法。
  9. 前記無機酸が硫酸、塩酸、リン酸、スルファミン酸、フッ酸および硝酸から成る群より選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項7記載の金属の酸洗促進方法。
  10. 前記金属が鉄鋼、銅またはこれらの金属の合金であることを特徴とする請求項7記載の金属の酸洗促進方法。
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