JP4022436B2 - 脱色模様形成方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、染色布帛の一部を選択的に脱色する脱色模様形成方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ジーンズ等への脱色模様の形成方法として、いわゆるケミカルウォッシュ法が広く実施されている。代表的な手法は、ジーンズなどの染色された繊維製品を乾燥状態で回転ドラム中に投入し、次亜塩素酸ナトリウム等の脱色剤の水溶液を含浸させた軽石とともに撹拌するものである。繊維製品の表面に軽石を接触させることで軽石の接触する部分に脱色剤を移行させて接触部を脱色させるものである。これにより当該軽石との接触部分、すなわち繊維製品の表面の凸部が選択的に脱色される。
【0003】
特開平1−174688号公報には軽石の代わりに繊維パッドを使用し、それに脱色剤液を含浸させてから、繊維染色物とともに撹拌して接触部分のみを選択的に脱色する方法が記載されている。脱色剤としては、酸化脱色剤や還元脱色剤などを使用でき、軽石の変わりに繊維パッドを使用することでジーンズ生地を痛めることがないとしている。これにより繊維パッドとの接触部分、すなわちジーンズの凸部が選択的に脱色される。
【0004】
また、特開平2−293478号公報には、粉状の漂白抑制剤を濡れたデニム生地に振りかけ、乾燥させてから漂白液に浸して撹拌して、漂白抑制剤が付着した部分を濃色のまま残すデニム製品の模様作成方法が記載されている。漂白抑制剤としては卵黄、小麦粉あるいは片栗粉が例示されており、漂白液としては次亜塩素酸カルシウムなどの水溶液が使用される。これにより、漂白抑制剤を付着させた任意の部分を濃色のまま残した模様柄を形成することができる。
【0005】
一方、オゾンは、強力な酸化性を有する気体であり、これを使用して染色物に脱色模様を形成する方法が知られている。例えば特開平4−100987号公報には、繊維染色物を湿気のある状態でオゾン雰囲気に暴露することによって脱色する繊維染色物の脱色方法が記載されているが、このとき水分付着量の多少差によって脱色コントラストのついた脱色模様を得ることができる。当該公報によれば、水分率が約50〜60%のときに脱色の程度が最大になり、それ以上でもそれ以下でも低下するとされている。
【0006】
また、特開平5−247857号公報には、セルロース材料を含有する衣料品を湿潤化してからオゾンと接触させるオゾン脱色方法において、オゾンとの接触前に前記衣料品をオゾンブロック剤で処理して、未処理部分を選択的に脱色させる方法が記載されている。このとき使用されるオゾンブロック剤として、ワックスやグリース等の疎水性材料や粘土等の無機系ブロック剤が記載されている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
前述のケミカルウォッシュ法や、特開平1−174688号公報に記載された方法では、撹拌時に染色衣料と接触する部分、すなわち凸部を選択的に脱色することが可能である。また、特開平2−293478号公報では、漂白抑制剤の振りかけ方によって任意の場所を脱色させることが可能である。しかしながら、近年の消費者ニーズの多様化に伴い、より斬新な脱色模様が望まれているところである。
【0008】
また、これらの方法のように、液体の漂白剤を使用した脱色方法では、大量の漂白剤が残存する廃液の処理が必要であった。現在、繊維加工用途で広く使用されている漂白剤は次亜塩素酸ナトリウム等の酸化剤である。このような酸化剤を含有する水溶液を廃水処理するに際しては、そのまま活性汚泥槽に投入したのでは汚泥中の分解菌が弱るおそれがあるために、予め還元剤で処理してから活性汚泥槽に投入する手法などが採用されている。しかしながら、これでは廃液処理のためにさらに化学物質を使用することになり、環境への負荷も大きく、処理の手間や費用もかさむこととなる。
【0009】
特開平4−100987号公報には、オゾンを使用して水分付着量の多少差によって繊維染色物に脱色模様を形成する方法が記されている。また、特開平5−247857号公報には、オゾンブロック剤で処理してからオゾンで脱色して繊維染色物に脱色模様を形成する方法が記されている。しかしながら、これらの方法で形成できる模様柄は限られたものであった。
【0010】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、斬新な脱色模様、特に凸部の染色濃度が凹部の染色濃度よりも高くなるように脱色された脱色模様を有する染色布帛を提供することを目的とするものである。また、脱色剤としてオゾンガスを使用して流動水のない状態で染色衣料又は染色布帛と接触させることによって、漂白剤含有廃液を排出することのない、環境負荷の小さい脱色模様形成方法を提供することを目的とするものである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
上記課題は、染色布帛の一部を選択的に脱色する脱色模様形成方法であって、染色布帛に水分を含有させてから、結晶水を含有することのできる塩の無水物である水溶性の塩からなる粉状体又は粒状体を振りかけ、流動水が存在しない状態で撹拌しながらオゾンガスと接触させることを特徴とする脱色模様形成方法を提供することによって解決される。また上記課題は、染色布帛の一部を選択的に脱色する脱色模様形成方法であって、染色布帛に水分を含有させてから、結晶水を含有することのできる塩の無水物である水溶性の塩からなる粉状体又は粒状体を振りかけて流動水が存在しない状態で撹拌してから、オゾンガスと接触させることを特徴とする脱色模様形成方法を提供することによっても解決される。このようにすることにより、染色布帛の凸部に選択的に粉状体又は粒状体を付着させることができ、凸部ではなく、凹部が脱色されるという、従来にない斬新な脱色模様を形成することができる。このとき、染色布帛が、縫製加工された衣料であることが、布帛表面に明瞭な凹凸を形成しやすくて好ましい。
【0012】
このとき、染色布帛100重量部に対し40〜100重量部の水分を含有させてから前記粉状体又は粒状体を振りかけることが効率良く脱色できる点で好適である。また、前記粉状体又は粒状体が水溶性の塩からなることにより、後の洗浄プロセスが容易になる。このとき当該水溶性の塩が結晶水を含有することのできる塩の無水物であることにより、染色布帛表面への付着性が良好になる。さらにこのとき前記粉状体又は粒状体がアルカリ又は還元剤から選択されるいずれかの化合物からなることが、脱色コントラストを大きくしたい場合に好適である。また、前記粉状体又は粒状体が糊剤を含有することが、撹拌処理中の当該粉状体又は粒状体の定着性を高める上で好適である。
【0013】
染色布帛が、縫製加工された衣料であることが好ましく、このとき縫製加工された衣料の凸部の染色濃度が凹部の染色濃度よりも高くなるように脱色することが好ましい。
【0014】
上記課題は、染色布帛の一部を選択的に脱色する脱色模様形成方法であって、染色布帛に水分を含有させてから、結晶水を含有することのできる塩の無水物である水溶性の塩からなる粉状体又は粒状体を振りかけて不均一に付着させて、オゾンガスと接触させることを特徴とする脱色模様形成方法を提供することによっても解決される。
【0016】
【発明の実施の形態】
本発明の一態様は、染色布帛の一部を選択的に脱色する脱色模様形成方法であって、染色布帛に水分を含有させてから粉状体又は粒状体を振りかけ、流動水が存在しない状態で撹拌しながらオゾンガスと接触させることを特徴とする脱色模様形成方法である。この方法は、染色布帛を撹拌しながらオゾンガスと接触させる工程を有するものである。また、本発明の別の態様は、染色布帛の一部を選択的に脱色する脱色模様形成方法であって、染色布帛に水分を含有させてから粉状体又は粒状体を振りかけて流動水が存在しない状態で撹拌してから、オゾンガスと接触させることを特徴とする脱色模様形成方法である。この方法は、粉状体又は粒状体を染色布帛に振りかけて予め撹拌してからオゾンガスと接触させるものである。上記いずれの方法の撹拌操作によっても、前記粉状体又は粒状体が布帛の凸部に選択的に付着し、その部分でのオゾンガスによる脱色が抑制されるものである。
【0017】
本発明で使用される染色布帛の形態は特に限定されないが、好適には縫製加工された衣料である。例えば、縫製加工によって縫い合わせた部分に形成された段差の部分では、明確な凹凸が形成されるし、縫い目周辺部で形成される皺などによっても凹凸が形成される。ただし、未縫製の布帛であっても、厚手のデニム生地の水分を脱水した直後の状態などでは、撹拌操作中でも形態保持が可能な凹凸形状を有する場合があり、この凹凸によって脱色模様を形成することが可能である。
【0018】
当該染色布帛の素材は特に限定されず、各種の天然繊維、合成繊維及び再生繊維を使用することができる。なかでも布帛表面に凹凸が形成されやすい衣料素材としては、水洗、脱水、乾燥などの操作によって収縮して皺を形成しやすいセルロール系繊維素材があげられる。セルロース系繊維素材としては、綿、麻、レーヨン、ポリノジック、「テンセル」、「リヨセル」、アセテート、トリアセテートなどが例示され、綿が最も重要である。また、厚手の生地からなるものが、しっかりした凹凸形状が形成されやすくて好ましい。以上のような事情から、セルロース系繊維からなる厚手の綾織物であるデニム生地が特に好適に使用される。
【0019】
縫製加工された衣料を使用する場合の衣料の形態も特に限定されない。パンツ、シャツ、スカート、ジャケットなど各種の衣料品に対して脱色模様を形成することができる。なかでも、パンツ、特にデニムパンツが、脱色模様を形成する市場ニーズが大きく、最も重要である。
【0020】
ここで使用される染色布帛の染色に用いられる染料は特に限定されない。オゾンは強力な酸化剤であり、多様な染料に対して脱色が可能である。直接染料、酸性染料、塩基性染料、バット染料、硫化染料、反応染料などを使用することができる。前述のように、本発明においてはセルロース系繊維からなる染色布帛が重要であることから、セルロース系繊維の染色に適した染料である直接染料、バット染料、反応染料、硫化染料が好適に使用される。これらの中でもデニム生地への脱色模様形成の市場ニーズが大きいバット染料であるインディゴが特に重要である。
【0021】
本発明では、染色布帛に対し、まず水分を含有させる。このとき、水分を含有させる前の染色布帛に対して必要に応じて前処理を施しておいても良い。特に、布帛表面での凹凸の形成を明確にするためには、縫製加工した後で一度水に濡らし、引き続き乾燥する操作を少なくとも一回以上行ってから、引き続いて上記水分を含有させる操作を行うのが好ましい。例えば、染色布帛を縫製加工した後に糊抜き加工を行ってから乾燥させたり、未染色の縫製加工品に染色加工を行ってから乾燥させたりして得た染色衣料に対して、水分を含有させることが好ましい。
【0022】
染色布帛に水分を含有させる方法は特に限定されないが、回転ドラム中で水とともに撹拌してから、遠心脱水処理する方法が好適なものとして挙げられる。本発明では、以後の操作において流動水がない状態で処理する必要が有ることから、遠心脱水処理等によって流動水がなくなる程度まで水分を調整する必要がある。遠心脱水処理を施した後は、ドラム内壁に染色布帛が押し付けられて不自然な折れ曲がり方をしていることが多いので、一旦、ドラムを低速で回転させてほぐしておくことが好ましい。こうすることで染色布帛全体にランダムで自然な皺を形成させることができる。この操作におけるドラムの回転時間は、得ようとする脱色模様にもよるが、通常1〜60分程度であり、この後粉状体又は粒状体が振りかけられる。
【0023】
前記粉状体又は粒状体を振りかける際の染色布帛の好適な水分量は、染色布帛の重量100重量部に対して、水分が40〜100重量部である。水分量は多すぎても少なすぎてもオゾンによる脱色速度が低下する傾向がある。また、水分量が不適当な場合には粉状体又は粒状体の付着が不十分になるおそれもある。なおここでいう原料の染色布帛の重量は、通常の環境下で既に含有している水分を含んだ量である。染色布帛の重量100重量部に対する水分の含有量は、使用する染色布帛の仕様や使用する粉状体又は粒状体の種類あるいは目指す模様柄によって適宜調整されるべきものであるが、その下限値はより好適には50重量部以上であり、さらに好適には60重量部以上である。一方、水分量の上限値は、より好適には80重量%以下であり、さらに好適には70重量%以下である。
【0024】
こうして水分量が調整された染色布帛に対して粉状体又は粒状体が振りかけられる。液状体を振りかけたのでは、その後の撹拌操作によって凸部のみに付着させることができないので、粉状体又は粒状体を振りかけることが重要である。
【0025】
水分量を調整した染色布帛に対して振りかける粉状体又は粒状体の総量は、形成する脱色模様や染色布帛の仕様等によって、適宜調整されるものであるが、水分を含有させる前の染色布帛の重量100重量部に対して、1〜50重量部であることが好適である。少なすぎると凸部への付着が不十分になるおそれがあり、多すぎると不要な部分にも付着するおそれがある。より好適には5重量部以上であり、さらに好適には10重量部以上である。またより好適には40重量部以下であり、さらに好適には30重量部以下である。
【0026】
粉状体又は粒状体の材料は特に限定されず、得ようとする模様に応じて適宜選択される。中でも、当該粉状体又は粒状体が水溶性の塩からなるものであることが、脱色処理後に容易に水洗除去できることから好ましい。ここで、水溶性の塩とは、20℃の水100gに対して0.1g以上溶解する塩のことを言い、なかでも1g以上溶解する塩であることが好ましい。従来の技術で説明した特開平5−247857号公報に記載された方法のように、オゾンブロック剤としてワックスやグリース等の疎水性材料や粘土等を用いたのでは脱色後のブロック剤の除去操作が容易ではない。このような水溶性の塩の好適な使用量は、前述の粉状体又は粒状体が使用される総量と同じ量である。
【0027】
このとき、前記水溶性の塩が、結晶水を含有することのできる塩の無水物であることがより好ましい。ここで、結晶水を含有することのできる塩とは、その塩の結晶形態が複数あって、無水物からなる結晶形態以外に結晶水を含む結晶形態も存在するような塩のことをいう。例えば、硫酸ナトリウムは、無水物、七水和物、十水和物が知られていて、この無水物は好適に使用されるものの一例である。他にも塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウムなどが例示される。本発明の粉状体又は粒状体として、このような塩の無水物を使用することが好適である。これにより、無水物が水分を含む染色布帛の表面に付着してから、染色布帛中の水分を吸収して固体の形状を保ちながら結晶水を含む塩になって、固まることができるからである。これにより染色布帛の表面への付着性が良好になり、付着した部分の衣料表面を覆って、脱色を効果的に抑制することができる。また、付着した部分の周辺の水分を吸収するので、染色布帛中に水分の分布ムラを形成することができる。前述のように、水分の含有率によってオゾンによる脱色の速度は異なるので、この点から脱色模様の形成が可能となる場合もある。
【0028】
コントラストの大きい染色模様を得たい場合には、前記粉状体又は粒状体が、アルカリ又は還元剤から選択されるいずれかの化合物からなるものであることが好ましい。アルカリ性水溶液中、あるいは還元剤を含有する水溶液中では、オゾンの分解速度が極めて大きいことから、このような塩が付着した部分では、オゾンは染料分子と反応する前にアルカリ又は還元剤の働きによって分解してしまい、脱色反応の進行が大きく抑制される。これにより、粉状体又は粒状体の付着部分とそれ以外の部分との染色濃度のコントラストが大きくなる。
【0029】
ここで使用されるアルカリは特に限定されず、金属水酸化物や、強塩基と弱酸とから形成された塩などが使用される。金属水酸化物としては水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウムなどが例示され、強塩基と弱酸とから形成された塩としては炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、リン酸リチウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウムなどが例示される。これらのうちでもアルカリ度が適度で扱いやすく、価格も安価である点から、アルカリ金属の炭酸塩、特に炭酸ナトリウムが好適に使用される。
【0030】
使用される還元剤は、オゾンと酸化還元反応することが可能なものであればよく、特に限定されないが、チオ硫酸ナトリウム(ハイポ)などのチオ硫酸塩、次亜硫酸ナトリウム(ハイドロサルファイト)などの次亜硫酸塩、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウムなどの亜硫酸塩、亜硝酸ナトリウムなどの亜硝酸塩、ヒドロキシメタンスルフィン酸ナトリウム(ロンガリット)などのスルフィン酸塩、ブドウ糖などの還元糖が使用可能なものとして例示される。なかでも、チオ硫酸ナトリウム、次亜硫酸ナトリウムが好適に使用される。
【0031】
使用されるアルカリ又は還元剤の量は、使用するアルカリや還元剤の種類によっても調整されるが、水分を含有させる前の染色布帛の重量100重量部に対して、0.1〜10重量部であることが好適である。より好適には0.5重量部以上であり、さらに好適には1重量部以上である。またより好適には5重量部以下である。
【0032】
このとき、前記アルカリ又は還元剤が水溶性を有することが、脱色処理後に容易に水洗除去できることから好ましい。アルカリ又は還元剤が、結晶水を含有することのできる塩の無水物であることも、繊維表面への付着性が良好で好ましい。例えば炭酸ナトリウムは無水物、一水和物、七水和物、十水和物が知られていて、その無水物は、この点からも好適に使用されるものの一例である。また、アルカリ又は還元剤を、結晶水を含有することのできる塩の無水物と混合して使用することも好ましい。こうすることによって、布帛表面への付着性が良好になって好ましい。また、アルカリ又は還元剤を適度に希釈することもできるから、脱色模様のコントラストの程度を所望のレベルに調整することもできる。
【0033】
また、水分量を調整した染色布帛に対して振りかける粉状体又は粒状体が糊剤を含有することが好適である。糊剤を含有することによって、水分を含有する染色布帛の表面に対して粉状体又は粒状体をより確実に定着させることが可能だからである。確実に定着させることによって、凸部を濃色部分として確実に残した脱色模様を形成することができる。特に、縫製加工された縫い目から遠い部分に形成されている折れ皺のように、撹拌中に変形しやすい凸部においても粉状体又は粒状体の定着性が改善され、例えばパンツの足の部分全体にランダムな脱色模様を形成することもできる。
【0034】
使用される糊剤は、通常の繊維加工において使用されるものであれば特に限定されない。天然糊剤としては、小麦粉、コーンスターチ、馬鈴薯デンプンなどのデンプン類やゼラチン、にかわなどのタンパク類が例示される。また、合成糊剤としては、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩などから選択される合成高分子化合物が例示される。これらの糊剤は粉状体又は粒状体の形態で使用される。
【0035】
粉状体又は粒状体に含有される糊剤の量は、水分を含有させる前の染色布帛の重量100重量部に対して、0.1〜10重量部であることが好適である。より好適には0.5重量部以上であり、さらに好適には1重量部以上である。またより好適には5重量部以下である。
【0036】
このような糊剤は、上述の水溶性の塩や、アルカリ又は還元剤から選択されるいずれかの化合物と混合して使用されることが好ましい。それぞれの化合物の有する効果を有しながら、染色布帛表面への定着性を向上させることができるからである。
【0037】
本発明で使用される粉状体又は粒状体の配合処方は、原料の染色布帛や得ようとする脱色模様によって適宜調整される。例えば、コントラストが低めのナチュラル感のある脱色模様を形成したい場合には、水溶性の塩、特に結晶水を含有することのできる塩の無水物のみからなる粉状体又は粒状体を使用することが好ましい。また、コントラストを向上させた脱色模様を形成したい場合には、アルカリ又は還元剤から選択される化合物を使用することが好ましく、それを希釈して配合すればコントラストの程度を調整することもできる。衣料全体に脱色ムラを形成したい場合には、さらに糊剤を配合することが好ましく、縫い目から遠い部分に対しても、皺の形状に由来するまだら模様を形成することができる。衣料品に形成される脱色模様に対する消費者の要求は多様かつ流動的であるが、使用する粉状体又は粒状体の配合処方を調整することによって、その多様な要求に対応可能である点も、本発明の有利な点の一つである。なお、粉状体又は粒状体として混合物を使用する場合には、十分に混合してから振りかけることが好ましい。
【0038】
水分量を調整した染色布帛に対して前記粉状体又は粒状体を振りかけ、振りかけた後に流動水が存在しない状態で撹拌する。撹拌時に流動水が存在したのでは染色布帛の表面の凸部に選択的に付着させることができないために、流動水がない状態で撹拌することが重要である。
【0039】
撹拌する方法は特に限定されず、前記粉状体又は粒状体が、染色布帛と十分に接触できればよい。好適な方法としては、回転ドラム中で両者を撹拌する方法が挙げられる。撹拌操作に際しては、接触槽内に流動水が存在しない状態で撹拌しながらオゾンガスと接触させても良いし、予め撹拌してから引き続きオゾンガスと接触させても良い。染色布帛の凸部に粉状体又は粒状体を付着させた後に布帛全体を効率的に脱色できることから、接触槽内に流動水が存在しない状態で予め撹拌してから、引き続き撹拌しながらオゾンガスと接触させることが好ましい。
【0040】
水分量を調整した染色布帛に対して前記粉状体又は粒状体を振りかけ、予め撹拌する場合の撹拌時間は通常1〜60分である。撹拌時間が短すぎると染色布帛から染み出す水分によって粉状体又は粒状体が固定される時間が十分でなく、凸部の脱色防止が十分になされないおそれがある。より好適には2分以上である。一方、撹拌時間が長すぎると一旦凸部に付着した粉状体又は粒状体が脱落するおそれがある。より好適には40分以下であり、さらに好適には20分以下である。
【0041】
オゾンガスと接触させる容器はオゾンガスを封入可能なものであれば良く、特に限定されないが、通常、オゾンガスが連続的に導入され、同時に内部の気体が連続的に排出されるものである。容器の中には撹拌可能な手段を有していることが好ましく、好適には回転ドラム中で染色衣料を撹拌できるようになっていることが好ましい。水分の調整操作、粉状体又は粒状体を振りかける操作、予め撹拌する操作、オゾンガスに接触させながら撹拌する操作をいずれも単一の槽内で行うことが、作業性が良好であるため好ましい。このような場合には、洗浄や脱水操作も可能な回転ドラム付きウォッシャーが好適に使用される。
【0042】
オゾンガスの発生装置は特に限定されず、電気分解式、放電式、紫外線式のいずれの発生装置を使用することもできる。これらのうち紫外線式の場合にはオゾンガス濃度が不十分になる場合があり、高濃度のオゾンガスを含む気体を得るには電気分解式または放電式の発生装置を使用することが好ましい。大量のオゾンガスを得るには放電式、特に無声放電式のオゾン発生装置が好ましく使用される。オゾンガスの発生量は、接触槽の容量や、処理する染色布帛の重量などによって調整される。
【0043】
接触槽内のオゾンガス濃度は、1〜200g/m3であることが好ましい。濃度が低すぎると脱色の速度が遅くなりすぎて効率的ではないし、濃度が高すぎると脱色ムラを生じやすい。好適には2g/m3以上であり、より好適には5g/m3以上である。また好適には100g/m3以下であり、より好適には50g/m3以下である。ここでいうオゾンガス濃度は、接触槽内から排出される気体のオゾンガス濃度を測定することで得られるものである。接触槽内のオゾンガス濃度は、オゾンガスを含有する気体が導入されることによって徐々に増加していくが、上記オゾンガス濃度は、接触操作中で最大になったときの濃度のことである。通常、接触操作を終了するときの濃度が最大になる場合が多いが、場合によっては途中で一定の濃度まで上昇したときにオゾンガス供給能力を低下させて調整する場合もある。
【0044】
このようなオゾンガス濃度にすることができるように、オゾンガスを含有する気体が接触槽内に導入される。導入される気体のオゾンガス濃度は、導入される気体の流量や接触槽の内容積、さらには槽内で消費される量を考慮して設定される。通常、槽内濃度よりもかなり大きい濃度、例えば20〜500g/m3程度に設定される。導入気体のオゾンガス濃度は好適には50g/m3以上であり、より好適には100g/m3以上である。また好適には300g/m3以下である。導入される気体の流量は、大きすぎると未反応のオゾンガスの排出量が増加して利用効率が低下するし、小さすぎると脱色操作に時間がかかりすぎる。通常、接触槽の内容積の0.1〜10体積%程度の気体を毎分当たり導入することが好適である。より好適には0.2体積%以上であり、また5体積%以下である。
【0045】
染色布帛にオゾンガスを接触させる時間は通常2〜100分である。接触時間が短すぎると脱色が不十分になるおそれがあり、より好適には5分以上であり、さらに好適には10分以上である。一方、撹拌時間が長すぎると凸部の脱色も進行してしまうおそれがあり、より好適には60分以下であり、さらに好適には40分以下である。この間、撹拌を継続することが染色布帛全体からみて脱色ムラが少なくできて好ましい。
【0046】
接触操作が終了した後に接触槽内のオゾンガスを排出する。オゾンガスの排出方法は特に限定されないが、圧縮空気を吹き込んで接触槽内の気体を置換する方法などが挙げられる。このように接触操作後に排出されるオゾンガスや、接触操作中に接触槽から導出されるオゾンガスは、分解処理してから大気中に放出される。オゾンガスの分解処理方法は特に限定されず、公知の方法を採用することができる。例えば、熱分解法、活性炭法、薬液処理法、触媒法などを例示することができる。分解コストや維持管理の容易さから、触媒法による分解操作が、工業的には好適である。
【0047】
オゾンガスを排出した後の染色布帛を洗浄して、付着した粉状体又は粒状体や、僅かに残存するオゾンを洗浄除去する。このとき、粉状体又は粒状体が水溶性の塩である場合には、容易に水洗できて好ましい。特に粉状体又は粒状体に糊剤を含有する場合には温水で洗浄することが、付着した糊剤を効率的に洗浄除去できて好ましい。このときの温水の温度は50〜90℃程度にすることが好ましい。また、洗浄水に界面活性剤を含有させることが洗浄効果を向上できて好ましい。したがって、界面活性剤を含有する洗浄水が温水であることが特に好ましい。好適な工程としては、予め水又は温水で洗浄してから、界面活性剤を含有する洗浄水で洗浄するものである。特に、本発明で使用する粉状体又は粒状体が水溶性の塩からなる場合には、水洗によって多量の塩が水中に溶け出して界面活性剤の働きを抑制してしまうので、一旦塩分を除去してから、界面活性剤入りの洗浄水で洗浄する方法が好適である。界面活性剤入りの洗浄水で洗浄した後にはさらに水によってすすぎが施される。すすぎ工程は複数回行うことも好適であるし、温水を使用することも好適である。例えば、温水で一度すすいでから、引き続いて常温の水で洗浄する方法などが好適な操作として例示される。すすぎ工程後に、引き続き脱水、乾燥を施して、脱色模様が形成された染色布帛が得られる。
【0048】
こうして得られた染色布帛には、布帛表面の凸部ではなく、凹部が脱色されるという、従来にない斬新な脱色模様が形成されている。ここでいう凸部とは衣料表面において周辺よりも出っ張った部分のことを言い、凹部とは周辺よりも引っ込んだ部分のことをいう。例えば縫製加工によって縫い合わせた部分に形成された段差や、縫い目周辺部で形成される皺などの付近に、このような凹凸に由来する脱色模様が比較的明瞭に形成される。また厚手の綿織物などでは、縫い目から遠い部分にも、皺によって発生した凹凸に由来する脱色模様が形成される場合がある。従来のケミカルウォッシュ法で形成されていた脱色模様とは、その濃淡が反転している点が最大の特徴であり、斬新な模様を提供することができる。
【0049】
以上、オゾンガスを使用した染色布帛の脱色模様形成方法について説明したが、オゾンガス以外の酸化性ガスや還元性ガス等の脱色性ガスを使用しても、同様の脱色模様を得られる場合もある。また、このように斬新な脱色模様が形成された衣料は、従来なかった新規なものである。したがって、脱色模様を形成する方法が限定されない衣料自体もまた有用であり、本発明の別の態様である。すなわち、本発明は脱色模様が形成された染色衣料であって、その凸部の染色濃度が凹部の染色濃度よりも高くなるように脱色されていることを特徴とする染色衣料である。したがって、得られる脱色模様が上記特定の模様でありさえすれば、全く別の方法で脱色した染色衣料であっても良い。
【0050】
また、染色布帛を脱色する際に撹拌操作を施さずに染色布帛を脱色する方法であっても、従来なかった新規な方法があり、それもまた本発明の別の態様である。すなわち、本発明は、染色布帛の一部を選択的に脱色する脱色模様形成方法であって、染色布帛に水分を含有させてから、水溶性の塩からなる粉状体又は粒状体を振りかけて不均一に付着させて、オゾンガスと接触させることを特徴とする脱色模様形成方法である。この場合には、衣料表面の凹凸に由来する脱色模様が形成されない場合があるものの、水溶性の塩を振りかけて不均一に付着させることで任意の脱色模様が形成されるし、水溶性の塩であるために脱色操作後の洗浄も容易であり、有用である。この方法においても、染色布帛を脱色する際に撹拌操作を施さない点を除けば、前述の脱色方法の操作が採用できる。
【0051】
さらに、染色布帛に対して粉状体又は粒状体を振りかける操作を施さずに染色布帛を脱色する方法であっても、従来なかった新規な方法があり、それもまた本発明の別の態様である。すなわち、本発明は、染色布帛の一部を選択的に脱色する脱色模様形成方法であって、アルカリ又は還元剤から選択されるいずれかの化合物を、当該化合物が濃度差を有して分布するように染色布帛に含有させて、オゾンガスと接触させることを特徴とする脱色模様形成方法である。この方法によれば、コントラストの高い脱色模様を形成することができて有用である。染色布帛に対して粉状体又は粒状体を振りかける操作を施す代わりに、例えば、前記化合物を溶液の形態で塗布したり吹付けたりして含有させてもよい。なお、この方法においても、染色布帛に対して粉状体又は粒状体を振りかける操作を施さない点を除けば、前述の脱色方法の操作が採用できる。
【0052】
【実施例】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明する。
【0053】
実施例1
脱色模様を形成する染色衣料として、以下に記載したパンツ6本(合計重量4kg)を準備して使用した。
染色衣料1(2本):
デンプン分解酵素を含有する60℃の温水で糊抜き処理を施した後に、一旦乾燥した、生地の目付けが14オンス/平方ヤードのインディゴデニムパンツ。
染色衣料2(2本):
縫製加工後にそれぞれ下記の2種類の直接染料で染色してから、一旦乾燥した、生地の目付けが12オンス/平方ヤードのデニムパンツ。
・日本化薬株式会社製「カヤラス スプラ レッド BWS」2%owf
・日本化薬株式会社製「カヤラス ブラック B160」4%owf
染色衣料3(2本):
縫製加工後にそれぞれ下記の2種類の反応染料で染色してから、一旦乾燥した、生地の目付けが12オンス/平方ヤードのデニムパンツ。
・ダイスタージャパン株式会社製「レマゾール レアノバ ブルー CA」2%owf
・ダイスタージャパン株式会社製「レマゾール レアノバ レッド CA」2%owf
【0054】
本実施例で使用した脱色装置は、工業用ウォッシャーにオゾン発生装置と排オゾン分解処理装置とを配管を介して接続したものである。使用した工業用ウォッシャーは、横方向回転方式の全自動型の株式会社稲本製作所製「LAVNET IWE−22EB」である。処理槽の内容積は580リットルであり、槽内部の回転ドラムによって撹拌、洗浄、脱水などの操作が可能である。これに接続したオゾン発生器は、株式会社ササクラ製の「オゾンマスターOM−72」である。電気分解法によってオゾンを発生させるものであり、オゾンガスの発生能力は、最大出力での運転時で72g/時間であり、そのときに槽内に導入される気体中のオゾン濃度は210g/m3である。また、導入される気体の流量は約6リットル/分である。前記ウォッシャーに接続された排オゾン分解処理装置は、ヨウ化カリウム水溶液中に導出ガスをバブリングさせる形式のものである。
【0055】
前記パンツ6本を、前記脱色装置の槽内に投入し、80リットルの水を注入し、ドラムを回転させて30℃で5分間水洗した後、遠心脱水した。遠心脱水後に低速で15分間回転させて、パンツ全体をほぐした。こうして得られたパンツには2.6kg(パンツ100重量部に対して65重量部)の水分が含まれていた。このとき、槽内には流動水は存在せず、パンツの生地の内部及び表面に水分が保持されている状態であった。引き続き、800g(パンツ100重量部に対して20重量部)の無水硫酸ナトリウム(無水芒硝)をパンツに振りかけ、5分間ドラムを回転させて、硫酸ナトリウムをパンツ表面にまぶしつけた。
【0056】
引き続き、210g/m3の濃度でオゾンガスを含有する気体を約6リットル/分の流量で槽内に導入しながら、ドラムの回転を継続した。この操作を20分間継続している間に、槽内のオゾンガス濃度は徐々に上昇していき、20分後に18g/m3まで上昇した。この濃度は接触層から排出される気体中のオゾンガス濃度を測定したものである。20分後にオゾンガスの供給を停止し、槽内に圧縮空気を導入しながら20分間残留オゾンガスを排出した。オゾンガスとの接触工程及び残留オゾンの排出工程で排出されたオゾンガスは、ヨウ化カリウム水溶液中にバブリングして除去してから、大気中に放出した。
【0057】
オゾンガスの排出操作後、槽内に80リットルの水を注入して5分間撹拌し、脱色処理後の染色布帛内に僅かに残留するオゾンとその表面に付着している硫酸ナトリウムを洗浄除去した。引き続き、温水80リットルと界面活性剤120gを投入して、70℃で10分間のソーピング洗浄操作を行った。引き続き、60℃の温水での洗浄工程及び水での洗浄工程を経て、遠心脱水して、乾燥することによって、脱色模様が形成されたパンツを得た。
【0058】
得られたパンツの脱色模様は、6本とも、縫い目付近において凸部が濃色で凹部が淡色になっており、インディゴ染料、直接染料及び反応染料のいずれでも目的とする脱色模様を得ることができた。また、縫い目から遠い部分においてもある程度の脱色が進行して、脱色ムラに由来する僅かなまだら模様が認められた。すなわち、パンツ全体にある程度の脱色が進行しており、コントラストが比較的低い、ナチュラル感を有する脱色模様が形成された。得られたインディゴデニムパンツの裾の縫い目付近の脱色模様を示す写真を図2に示す。また、従来のケミカルウォッシュ法で脱色模様が形成されたインディゴデニムパンツの裾の縫い目付近の脱色模様を示す写真を図1に示す。本実施例で得られた脱色模様(図2)は、ケミカルウォッシュ法で得られた脱色模様(図1)に比べて、濃淡が反転した模様であることがわかる。
【0059】
また、無水硫酸ナトリウムを振りかける前の水分率だけを変化させて、上記同様の試験を行って、水分率が脱色模様に与える影響を検討した。その結果、パンツ100重量部に対して70重量部の水分量では、上記同様の脱色模様を得ることができた。また、60重量部あるいは75重量部ではコントラストが若干低下するものの、同様の脱色模様を得ることができた。55重量部以下、あるいは80重量部以上の場合には、脱色模様のコントラストがかなり低くなった。
【0060】
実施例2
実施例1において、水分を含有するパンツに、無水硫酸ナトリウムと無水炭酸ナトリウム(無水ソーダ灰)の混合物をパンツに振りかける以外は実施例1と同じ条件でパンツに脱色模様を形成した。前記混合物は、800g(パンツ100重量部に対して20重量部)の無水硫酸ナトリウムと、80g(パンツ100重量部に対して2重量部)の無水炭酸ナトリウムとを予め十分に混合したものである。なお、このときのオゾンガスの供給条件は実施例1と同じであったが、供給開始から20分後の槽内のオゾンガス濃度は15g/m3であり、実施例1よりも多くのオゾンガスが分解されている事がわかる。
【0061】
得られたパンツの脱色模様は、6本とも、縫い目付近においての凸部が濃色で凹部が淡色になっており、インディゴ染料、直接染料及び反応染料のいずれでも目的とする脱色模様を得ることができた。その濃淡のコントラストは実施例1で得られたものに比べて大きく、明確なものであった。また、縫い目から遠い部分においては、脱色の進行が抑制されて比較的濃色のままで残っていて、脱色ムラに由来する僅かなまだら模様が認められた。これらはアルカリ(無水炭酸ナトリウム)の配合によるオゾンガス分解の効果によるものと考えられる。パンツ全体としては脱色が抑制されていながら、縫い目等のはっきりとした凹凸部分を中心にコントラストの高い脱色模様が形成された。
【0062】
また、無水硫酸ナトリウムと無水炭酸ナトリウムの混合物を振りかける前の水分率だけを変化させて、上記同様の試験を行って、水分率が脱色模様に与える影響を検討した。その結果、パンツ100重量部に対して60重量部あるいは70重量部の水分量では、上記同様の高コントラストの脱色模様を得ることができた。また、50重量部、55重量部及び75重量部ではコントラストが若干低下するものの、同様の脱色模様を得ることができた。45重量部以下、あるいは80重量部以上の場合には、脱色模様のコントラストがかなり低くなってしまった。
【0063】
実施例3
実施例1において、水分を含有するパンツに、無水硫酸ナトリウムと無水炭酸ナトリウムと小麦粉の混合物をパンツに振りかける以外は実施例1と同じ条件でパンツに脱色模様を形成した。前記混合物は、800g(パンツ100重量部に対して20重量部)の無水硫酸ナトリウムと、80g(パンツ100重量部に対して2重量部)の無水炭酸ナトリウムと、80g(パンツ100重量部に対して2重量部)の小麦粉とを予め十分に混合したものである。なお、このときのオゾンガスの供給条件は実施例1と同じであったが、供給開始から20分後の槽内のオゾンガス濃度は15g/m3であり、実施例2同様、実施例1よりも多くのオゾンガスが分解されている事がわかる。
【0064】
得られたパンツの脱色模様は、6本とも、縫い目付近においての凸部が濃色で凹部が淡色になっており、インディゴ染料、直接染料及び反応染料のいずれでも目的とする脱色模様を得ることができた。その濃淡のコントラストは実施例2で得られたものと同様に大きく、明確なものであった。また、縫い目から遠い部分においても、折れ皺に由来すると思われる比較的明瞭なまだら模様が形成されていた。このようなまだら模様が形成されたのは、糊剤を配合することによって粉状体又は粒状体の付着性が向上し、形態の不安定な凹凸部分でも脱落しにくくなったためではないかと考えられる。また、当該まだら模様はインディゴデニムパンツ(生地の目付けが14オンス/平方ヤード)の方が、直接染料や反応染料で染めたデニムパンツ(生地の目付けが12オンス/平方ヤード)よりも明瞭に形成されていた。これは、生地の目付けが大きいほど、撹拌中において、皺に由来する凹凸の形態維持性が良好であるためであると思われる。結果として、パンツ全体としてまだら感のある、それでいてコントラストの高い脱色模様が形成された。得られたインディゴデニムパンツの裾の縫い目付近の脱色模様を示す写真を図3に示す。実施例1で得られた脱色模様(図2)よりもコントラストの大きい脱色模様が形成されており、縫い目から遠い部分でも比較的明瞭なまだら模様が形成されていることが認められる。
【0065】
また、無水硫酸ナトリウムと無水炭酸ナトリウムと小麦粉の混合物を振りかける前の水分率だけを変化させて、上記同様の試験を行って、水分率が脱色模様に与える影響を検討した。その結果、パンツ100重量部に対して60重量部、70重量部あるいは75重量部の水分量では、上記同様の高コントラストの脱色模様を得ることができた。また、50重量部、55重量部及び80重量部ではコントラストが若干低下するものの、同様の脱色模様を得ることができた。45重量部以下、あるいは90重量部以上の場合には、脱色模様のコントラストがかなり低くなってしまった。
【0066】
実施例4
実施例1において、水分を含有するパンツに、無水硫酸ナトリウムとチオ硫酸ナトリウムと小麦粉の混合物をパンツに振りかける以外は実施例1と同じ条件でパンツに脱色模様を形成した。前記混合物は、800g(パンツ100重量部に対して20重量部)の無水硫酸ナトリウムと、80g(パンツ100重量部に対して2重量部)のチオ硫酸ナトリウムと、80g(パンツ100重量部に対して2重量部)の小麦粉とを予め十分に混合したものである。なお、このときのオゾンガスの供給条件は実施例1と同じであったが、供給開始から20分後の槽内のオゾンガス濃度は16g/m3であり、実施例1と、実施例2及び3の中間程度のオゾンガスが分解されている事がわかる。
【0067】
得られたパンツの脱色模様は、6本とも、縫い目付近においての凸部が濃色で凹部が淡色になっており、インディゴ染料、直接染料及び反応染料のいずれでも目的とする脱色模様を得ることができた。その濃淡のコントラストは実施例1で得られたものと実施例3で得られたものの中間程度であった。このことから、同重量で比較すると、炭酸ナトリウムのほうがチオ硫酸ナトリウムよりも脱色を阻害する効果が大きいようである。また、縫い目から遠い部分において僅かなまだら模様が形成されていた。パンツ全体として、コントラスト、脱色度ともに中程度の脱色模様が形成された。
【0068】
実施例5
実施例1において、水分を含有するパンツに、無水炭酸ナトリウムと小麦粉の混合物をパンツに振りかける以外は実施例1と同じ条件でパンツに脱色模様を形成した。前記混合物は、160g(パンツ100重量部に対して4重量部)の無水炭酸ナトリウムと、80g(パンツ100重量部に対して2重量部)の小麦粉とを予め十分に混合したものである。なお、このときのオゾンガスの供給条件は実施例1と同じであったが、供給開始から20分後の槽内のオゾンガス濃度は13g/m3であり、実施例2及び3以上に多くのオゾンガスが分解されている事がわかった。
【0069】
得られたパンツの脱色模様は、6本とも、縫い目付近においての凸部が濃色で凹部が淡色になっており、インディゴ染料、直接染料及び反応染料のいずれでも目的とする脱色模様を得ることができた。その濃淡のコントラストは実施例2及び3で得られたものと同程度の高いものであった。また、縫い目から遠い部分においても、折れ皺に由来すると思われるまだら模様が形成されていた点は実施例3と同様であったが、その模様は若干不鮮明であった。パンツ全体として、若干のまだら感のある、コントラストの高い脱色模様が形成された。
【0070】
【発明の効果】
本発明の方法によって脱色模様が形成された染色衣料は、斬新な脱色模様、特に凸部の染色濃度が凹部の染色濃度よりも高くなるように脱色された脱色模様を有しており、デニムパンツを代表とする各種衣料として有用である。また、本発明の方法では脱色剤としてオゾンガスを使用して流動水のない状態で染色衣料又は染色布帛と接触させるので、大量の漂白剤含有廃液を排出することがなく、環境への負荷も小さいものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】従来のケミカルウォッシュ法で脱色模様が形成されたインディゴデニムパンツの裾の縫い目付近の脱色模様を示す写真である。
【図2】実施例1において得られたインディゴデニムパンツの裾の縫い目付近の脱色模様を示す写真である。
【図3】実施例3において得られたインディゴデニムパンツの裾の縫い目付近の脱色模様を示す写真である。
Claims (8)
- 染色布帛の一部を選択的に脱色する脱色模様形成方法であって、染色布帛に水分を含有させてから、結晶水を含有することのできる塩の無水物である水溶性の塩からなる粉状体又は粒状体を振りかけ、流動水が存在しない状態で撹拌しながらオゾンガスと接触させることを特徴とする脱色模様形成方法。
- 染色布帛の一部を選択的に脱色する脱色模様形成方法であって、染色布帛に水分を含有させてから、結晶水を含有することのできる塩の無水物である水溶性の塩からなる粉状体又は粒状体を振りかけて流動水が存在しない状態で撹拌してから、オゾンガスと接触させることを特徴とする脱色模様形成方法。
- 染色布帛の一部を選択的に脱色する脱色模様形成方法であって、染色布帛に水分を含有させてから、結晶水を含有することのできる塩の無水物である水溶性の塩からなる粉状体又は粒状体を振りかけて不均一に付着させて、オゾンガスと接触させることを特徴とする脱色模様形成方法。
- 染色布帛100重量部に対し40〜100重量部の水分を含有させてから前記粉状体又は粒状体を振りかける請求項1〜3のいずれか記載の脱色模様形成方法。
- 前記粉状体又は粒状体がアルカリ又は還元剤から選択されるいずれかの化合物からなる請求項1〜4のいずれか記載の脱色模様形成方法。
- 前記粉状体又は粒状体が糊剤を含有する請求項1〜5のいずれか記載の脱色模様形成方法。
- 染色布帛が、縫製加工された衣料である請求項1〜6のいずれか記載の脱色模様形成方法。
- 縫製加工された衣料の凸部の染色濃度が凹部の染色濃度よりも高くなるように脱色する請求項7記載の脱色模様形成方法。
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