JP4019918B2 - 電動パワーステアリング装置の統合設計システム - Google Patents

電動パワーステアリング装置の統合設計システム Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動車や車両の操舵系にモータによる操舵補助力を付与するようにした電動パワーステアリング装置をコンピュータでシミュレーションし、効率的かつ迅速に電動パワーステアリング装置を設計するための電動パワーステアリング装置の統合設計システムに関する。
【0002】
【従来の技術】
自動車や車両のステアリング装置をモータの回転力で補助負荷付勢する電動パワーステアリング装置は、モータの駆動力を減速機を介してギア又はベルト等の伝達機構により、ステアリングシャフト或いはラック軸に補助負荷付勢するようになっている。かかる電動パワーステアリング装置は、アシストトルク(操舵補助トルク)を正確に発生させるため、モータ電流のフィードバック制御を行っている。フィードバック制御は、電流制御値とモータ電流検出値との差が小さくなるようにモータ印加電圧を調整するものであり、モータ印加電圧の調整は、一般的にPWM(パルス幅変調)制御のデュ−ティ比の調整で行っている。
【0003】
ここで、電動パワーステアリング装置の一般的な構成を図3に示して説明すると、操向ハンドル1の軸2は減速ギア3、ユニバーサルジョイント4a及び4b、ピニオンラック機構5を経て操向車輪のタイロッド6に結合されている。軸2には、操向ハンドル1の操舵トルクを検出するトルクセンサ10が設けられており、操向ハンドル1の操舵力をアシストするモータ20が減速ギア3を介して軸2に結合されている。パワーステアリング装置を制御するコントロールユニット30には、バッテリ14からイグニションキー11及び電源リレー13を経て電力が供給され、コントロールユニット30は、トルクセンサ10で検出された操舵トルクTと車速センサ12で検出された車速Vとに基いてアシスト指令の操舵補助指令値Iの演算を行い、演算された操舵補助指令値Iに基いてモータ20に供給する電流を制御する。
【0004】
コントロールユニット30は主としてCPUで構成されるが、そのCPU内部においてプログラムで実行される一般的な機能を示すと図4のようになる。例えば位相補償器31は独立したハードウェアとしての位相補償器を示すものではなく、CPUで実行される位相補償機能を示している。
【0005】
コントロールユニット(ECU)30の機能及び動作を説明すると、トルクセンサ10で検出されて入力される操舵トルクTは、操舵系の安定性を高めるために位相補償器31で位相補償され、位相補償された操舵トルクTAが操舵補助指令値演算器32に入力される。又、車速センサ12で検出された車速Vも操舵補助指令値演算器32に入力される。操舵補助指令値演算器32は、入力された操舵トルクTA及び車速Vに基いてモータ20に供給する電流の制御目標値である操舵補助指令値Iを演算して決定する。操舵補助指令値Iは減算器30Aに入力されると共に、応答速度を高めるためのフィードフォワード系の微分補償器34に入力され、減算器30Aの偏差(I−i)は比例演算器35に入力され、その比例出力は加算器30Bに入力されると共に、フィードバック系の特性を改善するための積分演算器36に入力される。微分補償器34及び積分演算器36の出力も加算器30Bに加算入力され、加算器30Bでの加算結果である電流制御値Eが、モータ駆動信号としてモータ駆動回路37に入力される。モータ20のモータ電流値iはモータ電流検出手段38で検出され、検出されたモータ電流値iは減算器30Aに入力されてフィードバックされる。
【0006】
このような電動パワーステアリング装置(EPS)を設計する場合、従来は図5に示すような形態で行っている。即ち、電動パワーステアリング装置の製造会社(部品メーカー)ではパソコン等を使用してシステム設計を行い、上述した電動パワーステアリング装置のプロトタイプを作製する。プロトタイプに対してHIL(Hardware in the Loop)テストやベンチシミュレータを実施し、電動パワーステアリング装置の評価やパラメータのキャリブレーションを行い、その最終調整後に製品としての電動パワーステアリング装置を自動車メーカーに納入する。HILはハードウェアとバーチャルシステム(車を含めたECU以外の部分)と繋がり、ECUの性能や品質を評価する手段であり、ベンチシミュレータは製品(ECU、モータ、ステアリングギア等)と製品以外の擬似的な部分(車)で構成されたシステムの性能や品質を評価する装置である。
【0007】
電動パワーステアリング装置の自動車メーカーへの納入時に、電動パワーステアリング装置の製造会社は自動車メーカーに対して、制御プログラムやチューニングパラメータをE−メールで送信する。部品メーカーから自動車メーカーへの送信データは、ECUの実行ファイル(例えば、“.mot”の実行ファイル)とチューニング用パラメータファイル(例えば、“.c”等のC言語ファイル)である。
【0008】
自動車メーカーでは納入された電動パワーステアリング装置に対して、送信された制御プログラムやチューニングパラメータを用いてCAN(Control Area Network)でチューニングを行うと共に、チューニングを繰り返して搭載する自動車に適したキャリブレーションデータを決定する。そして、最終調整された電動パワーステアリング装置を車に搭載すると共に、電動パワーステアリング装置の製造会社(部品メーカー)に当該データをE−メール等でフィードバックする。キャリブレーションデータを受信した電動パワーステアリング装置の製造会社は、自動車メーカーから送られたデータを基にして上記システム設計動作を繰り返し、より良い製品の完成を目指している。
【0009】
【特許文献1】
特開2000−215195
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
上述のような設計、製造形態において、従来設計の効率化を図るためのソフトウェア開発及びその利用が普及しており、制御系の設計に関しては図6に示すようなソフトウェアの支援を受けており、機械系の設計に関しては図7に示すようなソフトウェアの支援を受けている。即ち、制御系の設計では、例えばMatlab/Simulink(商標名)、JMAG(商標名)といった支援ソフトが市販されており、図6に示すようにトルク指令(電流指令)を与えて(ステップS10)モータ制御を行い(ステップS11)、モータからの電流出力を検出し(ステップS12)、その出力に基づいてモータ解析を行う(ステップS13)。モータ解析によってトルク、電圧を算出し(ステップS14)、これらトルク、電圧をモータ制御にフィードバックしている。ステップS13及びS14はJMAGで計算し、その他はMatlab/Simulinkで計算し、その間のデータのやり取りはインタフェース(S-Function)を経由して行う。このようなソフト支援によってモータ制御の設計が容易になっている。
【0011】
また、機械系の設計では、例えばADAMS(商標名)といった支援ソフトが市販されており、図7に示すように操舵角(操舵トルク)を与えて(ステップS20)電動パワーステアリング制御を行い(ステップS21)、電動パワーステアリングの機械系を駆動し(ステップS22)、その出力に基づいて車を走行させる(ステップS23)。車の走行によって得られる特性を、電動パワーステアリングの制御にフィードバックしている。このようなソフト支援によって機械系制御の設計が容易になっている。
【0012】
上述のように従来は電動パワーステアリングの開発のための設計において、制御系の支援ソフトがあったり、機械系の支援ソフトがあったりして開発の迅速化を実現しているが、全体的な統合を図ったものは出現していなかった。そのため、制御系と機械系で個別に開発せざるを得なかった。
【0013】
また、製品のサブシステム(ECU+モータ+メカ)と車を組合わせる前に、製品のサブシステム及び製品のサブシステムを含めた車システムの解析、設計の最適化検討、機能・性能等の事前評価を行うことが必要である。例えばモータの慣性はどのように操舵性能に影響するかは、モータ・制御系及び電動パワーステアリング機構の設計と車の特性に関わる。従って、サブシステム及び全体システムの解析・評価を行い得る設計支援システムが必要である。
【0014】
本発明は上述のような事情よりなされたものであり、本発明の目的は、電動パワーステアリングの開発における支援ソフトを、制御系と機械系を統合することによって効率的かつ迅速に行い得るようにした電動パワーステアリング装置の統合設計システムを提供することにある。
【0015】
【課題を解決するための手段】
本発明は、操舵トルク及び車速に基いて演算手段で演算された操舵補助指令値と、モータ電流検出手段で検出されたモータ電流値とから演算した電流制御値に基いてステアリング機構に操舵補助力を与える電動パワーステアリング装置の統合設計システムに関するもので、本発明の上記目的は、シミュレーションコントローラと、前記シミュレーションコントローラに接続されているインタフェースと前記インタフェースに接続されている制御系解析ツールと、前記インタフェースに接続されているモータ電磁界の解析ツールと、前記インタフェースに接続されている車の機構解析ツールとを備え、前記インタフェースは、データ定義の共通化、フォーマットの共通化、及びデータの高速通信の機能を有しており、前記制御系解析ツール、前記モータ電磁界の解析ツール及び前記車の機構解析ツールのファイルを読み込み可能な共通ファイルに変換し、変数のシーケンスについて説明するインデックスアレイを生成するようになっており、前記シミュレーションコントローラは、前記インタフェースを通って各サブルーチンを呼ぶことにより全体のシーケンスを制御・管理し、前記電動パワーステアリング装置の統合的なシミュレーションを行い得るようにすることによって達成される。
【0016】
また、本発明の上記目的は、前記電動パワーステアリング装置の前記統合的なシミュレーションを行うために、ステップ1:まず、前記操舵トルクを与えて前記電動パワーステアリング装置のトルク制御を行い、モータ制御を行い、モータからの電流出力を検出し、ステップ2:検出された電流出力に基づいてモータ解析を行い、前記モータ解析によってトルク、電圧を算出し、算出されたトルク、電圧を前記モータ制御にフィードバックし、ステップ3:その後、前記電動パワーステアリング装置の機械系を駆動し、その出力に基づいて車を走行させ、車の走行によって得られる特性を前記電動パワーステアリング装置の制御にフィードバックするようになっており、前記制御系解析ツールは前記ステップ1において用いられ、前記モータ電磁界の解析ツールは前記ステップ2において用いられ、前記車の機構解析ツールは前記ステップ3において用いられ、前記3つの解析ツール間のデータやり取りは、前記インタフェースを経由して行うことによって、より効果的に達成される。
【0017】
【発明の実施の形態】
本発明では、電動パワーステアリング装置の開発時に制御系の解析ツール、モータ電磁界の解析ツール、車の機構解析ツールをソフトウェア的に統合することで、電動パワーステアリング装置の設計を容易にし、しかも設計の効率化と迅速化を実現している。
【0018】
以下に本発明の実施例を、図面を参照して説明する。
【0019】
図1は本発明の原理構成を示しており、統合設計システムのシミュレーションコントローラ300により、各サブルーチンを呼ぶことによって全体の手順を制御し、シミュレーションコントローラ300は(1)マヌーバー、(2)シミュレーション、(3)生成すべきであるデータ及び(4)結果を読込み可能な共通ファイルで保存する、といった4つの内容を含んでいる。また、シミュレーションコントローラ300にはインタフェース200が接続されており、インタフェース200には制御系解析ツール100、モータ電磁界解析ツール110及び機構解析ツール120が接続されている。そして、インタフェース200は、各解析ツールのファイルを読込み可能な共通ファイルに変換し、変数シーケンスについて説明するインデックスアレイを生成する。インタフェース200は主として、(1)データ定義の共通化、(2)フォーマットの共通化及び(3)データの高速通信の機能を有している。制御系解析ツール100、モータ電磁界解析ツール110及び機構解析ツール120は前述した従来のソフトウェアであり、制御系解析ツール100はMatlab/Simulink又はその類似ソフトであり、モータ電磁界解析ツール110はJMAG又はその類似ソフトであり、機構解析ツール120はADAMS又はその類似ソフトである。
【0020】
例えば制御系解析ツール100のMatlab/Simulinkで提供されているS−Function機能を通して、制御系解析ツール100のMatlab/Simulink及びモータ電磁界解析ツール110のJMAGと、制御系解析ツール100のMatlab/Simulink及び車の機構解析ツール120のADAMSと、制御系解析ツール100のMatlab/Simulinkを経由したモータ電磁界解析ツール110のJMAG及び車の機構解析ツール120のADAMSとの間のデータやり取りを行う。制御系解析ツール100のMatlab/Simulinkで提供されたWORKVECTORを使用して、インタフェース200のデータやり取りに必要な常駐メモリ領域を確保し、構成されたインタフェースソフト(S−Function)をDLL(DynamicLink Library)にすることにより、解析ツール間のデータやり取りの速度を一層向上することができる。計算状態の管理はMatlab/Simulinkで行う。例えば計算ステップの進行はMatlab/Simulinkで行い、インタフェース200を通してステップ毎にJMAG及びADAMSを計算させる。計算結果は、インタフェース200を通してお互いに共有する。
【0021】
本発明では図2に示すように、先ず操舵角(操舵トルク)を与えて(ステップS30)電動パワーステアリングのトルク制御を行い(ステップS31)、モータ制御を行い(ステップS32)、モータからの電流出力を検出し(ステップS33)、その出力に基づいてモータ解析を行う(ステップS34)。モータ解析によってトルク、電圧を算出し(ステップS35)、これらトルク、電圧をモータ制御にフィードバックしている。その後、電動パワーステアリングの機械系を駆動し(ステップS36)、その出力に基づいて車を走行させる(ステップS37)。車の走行によって得られる特性を電動パワーステアリングの制御にフィードバックしている。
【0022】
上記ステップS34(モータ解析)とステップS35(トルク、電圧/電流計算)はJMAGで行い、ステップS36(EPS機械系)とステップS37(車)はADAMSで行い、その他の計算はMatlab/Simulinkで行う。また、3つの解析ツール間のデータやり取りはインタフェース200を経由して行う。
【0023】
上述の例では制御系解析ツール100としてMatlab/Simulinkを、モータ電磁界解析ツール110としてJMAGを、車の機構解析ツール120としてADAMSをそれぞれ例に挙げているが、他のソフトウェアでも代替可能である。
【0024】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明では汎用解析ツールの間にインタフェースを設け、各コンポーネントの解析ツールを統合化し、システムの解析及び設計の最適化検討、プロトタイプでの検証評価、客先での評価、評価結果のシステム再解析及び設計の最適化検討へのフィードバックを行っているので、効率的で迅速な設計環境を実現できる。また、製品のサブシステム(ECU+モータ+メカ)と車を組合わせる前に、製品のサブシステム及び製品のサブシステムを含めた車システムの解析、設計の最適化検討、機能・性能等の事前評価を簡単に行うことができる。
【0025】
更に、車の「止まる・曲がる・走る」の統合制御が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の原理を説明するためのブロック構成図である。
【図2】本発明の動作例を示すフローチャートである。
【図3】電動パワーステアリング装置の一例を示す図である。
【図4】コントロールユニットの一般的な内部構成を示すブロック図である。
【図5】従来の電動パワーステアリングの開発環境を説明するための図である。
【図6】制御系の開発ツールを説明するためのフローチャートである。
【図7】機械系の開発ツールを説明するためのフローチャートである。
【符号の説明】
1 操向ハンドル
5 ピニオンラック機構
10 トルクセンサ
12 車速センサ
20 モータ
30 コントロールユニット
31 位相補償部
32 操舵補助指令値演算器
37 モータ駆動回路
38 モータ電流検出回路
100 制御系解析ツール
110 モータ電磁界解析ツール
120 車の機構解析ツール
200 インタフェース
300 シミュレーションコントローラ

Claims (2)

  1. 操舵トルク及び車速に基いて演算手段で演算された操舵補助指令値と、モータ電流検出手段で検出されたモータ電流値とから演算した電流制御値に基いてステアリング機構に操舵補助力を与える電動パワーステアリング装置の統合設計システムであり、
    シミュレーションコントローラと、
    前記シミュレーションコントローラに接続されているインタフェースと、
    前記インタフェースに接続されている制御系解析ツールと、
    前記インタフェースに接続されているモータ電磁界の解析ツールと、
    前記インタフェースに接続されている車の機構解析ツールと、
    を備え、
    前記インタフェースは、データ定義の共通化、フォーマットの共通化、及びデータの高速通信の機能を有しており、前記制御系解析ツール、前記モータ電磁界の解析ツール及び前記車の機構解析ツールのファイルを読み込み可能な共通ファイルに変換し、変数のシーケンスについて説明するインデックスアレイを生成するようになっており、
    前記シミュレーションコントローラは、前記インタフェースを通って各サブルーチンを呼ぶことにより全体のシーケンスを制御・管理し、前記電動パワーステアリング装置の統合的なシミュレーションを行い得るようにしたことを特徴とする電動パワーステアリング装置の統合設計システム。
  2. 請求項1に記載の電動パワーステアリング装置の統合設計システムを用いて、前記電動パワーステアリング装置の前記統合的なシミュレーションを行うために、
    ステップ1:まず、前記操舵トルクを与えて前記電動パワーステアリング装置のトルク制御を行い、モータ制御を行い、モータからの電流出力を検出し、
    ステップ2:検出された電流出力に基づいてモータ解析を行い、前記モータ解析によってトルク、電圧を算出し、算出されたトルク、電圧を前記モータ制御にフィードバックし、
    ステップ3:その後、前記電動パワーステアリング装置の機械系を駆動し、その出力に基づいて車を走行させ、車の走行によって得られる特性を前記電動パワーステアリング装置の制御にフィードバックするようになっており、
    前記制御系解析ツールは前記ステップ1において用いられ、前記モータ電磁界の解析ツールは前記ステップ2において用いられ、前記車の機構解析ツールは前記ステップ3において用いられ、
    前記3つの解析ツール間のデータやり取りは、前記インタフェースを経由して行うことを特徴とする電動パワーステアリング装置の統合設計システム。
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