JP4018488B2 - 無機物多孔質体及びこれを利用した無機物体及びポンプの羽根車,ケーシング又はライナーリング - Google Patents

無機物多孔質体及びこれを利用した無機物体及びポンプの羽根車,ケーシング又はライナーリング Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、無機物多孔質体及びこれを利用した無機物体及びポンプの羽根車,ケーシング又はライナーリングに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、金属や無機化合物からなる粉末状の骨材を有機材料によって結合することで構成される多孔質体や、この多孔質体を焼成することで前記有機材料を無機物化してなる無機物多孔質体がある。この種の多孔質体は、例えばそのまま鋳型(精密鋳造用鋳型)として利用したり、これに金属やセラミックを含浸させて複合材として各種部品、例えばポンプの羽根車、ケーシング、ライナーリング等として利用される。
【0003】
そして前記無機物多孔質体の製造方法としては、金属或いは無機化合物よりなる球状或いは塊状で粉末状の骨材に有機の粘結材料としてフェノールを混合したものを所定形状に成形して多孔質体とした後、エチルシリケートとアルコキシドを含浸させ、これを400℃で加熱してフェノールを熱分解してなくし、その後真空或いは雰囲気中で、高温(例えば1000℃)で焼成して無機物多孔質体を製造する方法であった。なお前記骨材と粘結材料の混合物の成形方法としては、選択レーザー焼結装置による成形方法や、成形型に入れた前記粉末を加熱(例えば200℃)・加圧(例えば150kg/cm2)することによる成形方法を用いる。選択レーザー焼結装置による成形方法の場合、加熱温度が低い(例えば180℃程度)のでフェノールによる間接焼結が完全には行なえず、このため成形品を改めて200℃程度で加熱してフェノールによる間接焼結を完全に行なわせる必要がある。
【0004】
ここでフェノールは、化学式(C65OHCH2O)n+nH2Oで、前記400℃で加熱した際に全てガス成分となってなくなってしまう。一方高温(例えば1000℃)で焼成させる際、含浸したエチルシリケート(C25O)3Si(OSi(OC252)nOC25とアルコキシドであるナトリウムエトキシドC25ONaは、それぞれ以下の反応を行なう。なおエチルシリケートの反応はエステル交換反応である。
(C25O)3Si(OSi(OC252)nOC25+(n+2)H2O=(n+1)SiO2+2(n+2)C25OH …〔化学式1〕
25ONa+H2O=C25OH+NaOH …〔化学式2〕
【0005】
以上の反応によって、C25OH成分は揮発するので、結局SiO2とNaOHが残る。そしてさらにこの焼成時に、両成分が以下に示す硬化反応を行なう。
2NaOH+SiO2=Na2O・SiO2+H2O …〔化学式3〕
【0006】
この反応によって得られたNa2O・SiO2は無機物のガラス成分であり、結局この無機物を結合材として前記骨材を結合した無機物多孔質体が得られる。
【0007】
しかしながら上記従来の方法によって製造される無機物多孔質体は、当初の粘結材料であるフェノールが加熱工程で全て揮発してしまうので、無機物多孔質体内の気孔の容積が大きくなり、このため気孔の均一分布の制御及び気孔の容積量の制御が困難であった。また前述のようにフェノールを全て揮発させるためには、400℃での加熱状態を所定時間保持する必要があり、製造時間の短縮が図れなかった。また外表面よりシリケートを含浸させるため、中心部の含浸が不十分となることが多かった。またエチルシリケートの使用可能時間が短いことも不便であった。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上述の点に鑑みてなされたものでありその目的は、気孔の制御が容易に行なえ、均一にシリコン樹脂が混合することで中心部まで硬化し、また製造時間の短縮も図れる無機物多孔質体及びこれを利用した無機物体及びポンプの羽根車,ケーシング又はライナーリングを提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記問題点を解決するため本発明にかかる無機物多孔質体は、金属又は酸化物又は炭化物又は窒化物からなる粉末状の骨材を、常温で固体のシリコーン樹脂(SiO2(CH32)nからなる結合材によって結合し、さらにシリケート及びアルコキシドを含浸させて焼成することで、前記結合材を、シリケートをエステル交換反応させて得られるシリカ(SiO 2 )成分と前記シリコーン樹脂中のシリカ(SiO 2 )成分とアルコキシドより生成するガラス成分によって構成した。
【0010】
粉末状の骨材は球状或いは塊状であり、酸化物としては例えばSiO2、Al23、Zr23等を使用し、また炭化物としてはSiC、TiC等を使用し、また窒化物としてはSi34等を使用する。また骨材の粒径は10〜150μmである。シリコーン樹脂は、メチル基等の有機基を持った常温で固体の有機熱可塑性シリコーン樹脂である。また骨材とシリコーン樹脂の配合比率は重量%で、99:1〜70:30であることが好ましい。
【0011】
前記無機物多孔質体の作成は、図1に示すように、前記球状或いは塊状の骨材にシリコーン樹脂の粉末を混合した混合粉末10を、成形しようとする形状の成形金型20内に投入してヒータ25と加圧手段30とによって約200℃、150kg/cm2で加熱・加圧して行なうか、或いは選択レーザー焼結装置(SLS)によって三次元形状を造形することによって行なう。
【0012】
選択レーザー焼結装置によって成形物を焼結・成形する方法は、例えば図2に示すように、選択レーザー焼結装置130のチャンバー132内に、前記球状或いは塊状の粉末からなる骨材にシリコーン樹脂の粉末を混合してなる粉末状の素材を供給して、例えば0.1mmの厚さhの粒子層134を形成する。そして炭酸ガスレーザー発生装置等のレーザー光源136からのレーザー光をミラー138を介して粒子層134に照射し、このレーザー光が照射された部分に位置する前記有機材料を選択的に溶融硬化(焼結)し、薄片140を形成する。以下この工程を繰り返して薄片140を順次積層し、所定形状の成形物を成形していく方法である。シリコーン樹脂はフェノール樹脂に比べて焼結に必要な温度が低いので、選択レーザー焼結装置での成形時のひずみ量が少ない。
【0013】
以上のようにして成形された多孔質体はそのまま鋳型(精密鋳造用鋳型等)やポンプの軸受、羽根車、ケーシング、ライナーリング等の製品として利用でき、またこの多孔質体に金属含浸やセラミック含浸をしてなる複合材としても利用できるが、本発明においてはさらに以下のように無機物多孔質体として利用する。
【0014】
即ち前記成形した多孔質体に、アルコキシド及びエチルシリケートを含浸させて加熱焼成(約1000℃)することで、このエチルシリケートをエステル交換反応させてSiO2を得ると同時に、このSiO2成分とシリコーン樹脂中のSiO2成分から無機物化した結合材を生成することで無機物多孔質体を得る。
【0015】
即ちエチルシリケートのエステル交換反応とアルコキシドの反応は、前述のように化学式1,化学式2で示す反応によって行なわれ、結局SiO2とNaOHが残り、さらに前述のように高温(例えば1000℃)によって、両成分が以下に示す硬化反応を行ない、焼成する。
2NaOH+SiO2=Na2O・SiO2+H2O …〔化学式3〕
【0016】
そしてNa2O・SiO2は無機物のガラス成分であり、この無機物が結合材となって前記骨材を結合した多孔質体になるが、本発明においては、骨材の有機結合材料としてシリコーン樹脂(SiO2(CH32)nを使用しているので、シリコーン樹脂中のSiO2成分が前記高温(1000℃)での焼成の際に前記化学式3によってNa2O・SiO2+H2Oになり、結合材の一部を構成することとなる。つまり本発明の場合はシリコーン樹脂中のSiO2成分は揮発せず、揮発するのはシリコーン樹脂中の20重量%程度の部分だけである。従って前記フェノールを有機結合材料として構成した従来例の場合は高温焼成時にフェノールの全てがガス化して揮発するのに比べて、かなりの量が無機物化して結合材として多孔質体中に残り、多孔質体の気孔の容積を小さくできる。
【0017】
従って骨材中に混合する有機材料であるシリコーン樹脂の混合比率を変更することや、含浸させるエチルシリケートの濃度を変更することによって任意の気孔率の多孔質体を作成できる。
【0018】
なおシリコーン樹脂の場合、無機物化する際に揮発する成分・量が少ないので、全て揮発するフェノール樹脂のように400℃で加熱して熱分解して全て揮発するまで待つ中間加熱の必要がなく、前記焼成時の熱で揮発できるので、この点からも工程の短縮化が図れると共に加熱による成形品の収縮も減り、この低い収縮率によって高い寸法精度が得られる。
【0020】
そして以上のようにして製造された無機物多孔質体に金属含浸を行うことで無機物体を構成したり、セラミックを含浸させて無機物体を構成したりする。これによって複数の材質からなる複合材が構成できる。例えば金属と無機物の複合材の場合、金属の潤滑性と無機物の硬度とを併せ持つ複合材となる。含浸する金属としては例えば銅、ニッケル、ステンレス等を用いる。1000〜1500℃で溶解する金属が好ましいが、これに限定されるものではない。
【0021】
金属含浸は、例えば前記多孔質体を溶融した金属中に浸漬して液体浸透圧で含浸させることによって行なう。
【0022】
セラミック含浸には例えば化学蒸着法を用いる。即ち例えばICVI(アイソサーマルケミカルベーパインフィルタレーション)や、FCVI(フォースドフローサーマルケミカルベーパインフィルタレーション)を用い、ガス化したセラミックを多孔質体の孔内に進入させて含浸させる。
【0023】
【発明の実施の形態】
参考例1〕骨材としてSiC、結合材料としてシリコーン樹脂を使用してセラミック多孔質体及び複合材(無機物体)を作成した例
【0024】
SiCの粉末(粒径50〜100μmで球形のもの)とシリコーン樹脂の粉末を、SiC粉末99重量%〜70重量%、シリコーン樹脂粉末1重量%〜30重量%の割合の範囲で混合比を変えて混合したものを、図1に示すような成形金型20に入れて200℃、100kgf/cm2で加熱・加圧して硬化させて多孔質体を得、その後るつぼ中で1000℃で加熱してセラミック多孔質体を得た。
【0025】
図3は以上のようにしてシリコーン樹脂の混合比を変えて製造したセラミック多孔質体の状態を示す図である。同図に示すように200℃で低温硬化させた多孔質体は、シリコーン樹脂粉末1重量%〜30重量%の全ての範囲で好適な硬化が得られた。つまりシリコーン樹脂粉末1重量%でも成形品となるように硬化させることができた。次にこの多孔質体を1000℃で焼成した際は、シリコーン樹脂粉末5重量%〜30重量%の範囲で好適な硬化が得られた。シリコーン樹脂粉末の量が5重量%未満のときは高温の焼成によって成形品の形状を良好なまま維持できなかった。次に前記高温焼成の後の冷却時の成形品の収縮による歪み又は割れを検査すると、シリコーン樹脂粉末5重量%〜26重量%の範囲で歪み又は割れがなく、好適な状態を保っていた。以上のことから、低温硬化のみによる多孔質体の場合はシリコーン樹脂粉末1重量%〜30重量%(従ってSiC等の骨材粉末99重量%〜70重量%)の配合割合のものが好適であり、またさらに高温焼成した多孔質体(又はその多孔質体に金属又はセラミックを含浸させた複合材)の場合はシリコーン樹脂粉末5重量%〜26重量%(従ってSiC等の骨材粉末95重量%〜74重量%)の配合割合のものが好適である。
【0026】
一方前記シリコーン樹脂粉末の配合割合を5重量%として高温焼成した前記SiCを骨材とするセラミック多孔質体を、TiCl4+2BCl3+5H2雰囲気により、FCVI処理を行なって、空孔内にTiB2を生成・含浸させた複合材を製造してその物性(ビッカース硬度とヤング率)を検査した。その結果を以下に示すが、実用に十分耐えられるものであった。
ビッカース硬度Hv:2000〜2500
ヤング率:175GPa
【0027】
実施の形態1〕骨材としてFe−13Cr鋼、結合材料としてシリコーン樹脂を使用して無機物多孔質体及び複合材(無機物体)を作成した例
【0028】
Fe−13Cr鋼の粉末(粒径35〜100μmで球形のもの)とシリコーン樹脂の粉末を、Fe−13Cr鋼粉末98重量%、シリコーン樹脂粉末2重量%の割合で混合したものを、図2に示すような選択レーザー焼結装置130を用いて成形することで多孔質体を得、次にこの多孔質体にエチルシリケートとアルコキシドを含浸して乾燥固化後、1100℃で2時間加熱・焼成し、さらにこの多孔質体を1000℃として銅合金を溶融含浸させて無機物体(複合材)を得た。
【0029】
そして上記エチルシリケートとアルコキシドを含浸して乾燥固化後に1100℃で加熱・焼成したときの無機物多孔質体の引っ張り強さを測定すると50MPaであった。また銅合金の含浸処理後の無機物体(複合材)の引っ張り強さは500MPaであった。従って高温焼成後の無機物多孔質体に金属を含浸させることで金属の特性が加わってその引っ張り強度が強くなることが分かる。
【0030】
実施の形態2〕骨材としてZr23、結合材料としてシリコーン樹脂を使用して鋳型材料を作成した例
【0031】
Zr23の粉末(粒径50〜150μmで球形のもの)とシリコーン樹脂の粉末を、Zr23粉末95重量%、シリコーン樹脂粉末5重量%の割合で混合したものを、図2に示すような選択レーザー焼結装置130を用いて成形することで多孔質体を得、次にこの多孔質体にエチルシリケートとアルコキシドを含浸透して乾燥固化後、1000℃で2時間加熱・焼成して無機物多孔質体製の鋳型を得た。
【0032】
そして上記レーザー焼結後の多孔質体の圧縮強さを測定すると5kgf/cm2であり、また高温焼成後の無機物多孔質体の圧縮強さは50kgf/cm2であった。高温焼成後の無機物多孔質体の方が圧縮強度が強く、鋳型材料として好適であることが分かる。
【0033】
以上本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲、及び明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内において種々の変形が可能である。なお直接明細書及び図面に記載がない何れの材質や温度や配合割合であっても、本願発明の作用・効果を奏する以上、本願発明の技術的思想の範囲内である。
【0034】
【発明の効果】
以上詳細に説明したように本発明によれば以下のような優れた効果を有する。
(1)骨材の結合材としてシリコーン樹脂を用いたので、結合材としてフェノール樹脂を用いた場合に比べて焼結に必要な温度が低くて済み、工程の簡略化、短縮化が図れ、安価に鋳型或いはICVI,FCVI用等に用いて好適な無機物多孔質体を供給できる。
【0035】
(2)骨材の結合材としてシリコーン樹脂を用いたので、これを高温焼成した際でもシリコーン樹脂中のSiO2成分は無機物として多孔質体中に残ってその多くがガス化せず、結合材料としてフェノール樹脂を用いた場合に比べて気孔率が少なくなり、従ってシリコーン樹脂の混合比率を変更することや含浸させるエチルシリケートの濃度を変更することによって気孔率を容易に管理でき、安定した品質の鋳型或いはICVI,FCVI用等に用いて好適な無機物多孔質体を供給できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】成形金型20による多孔質体の作成方法を示す概略図である。
【図2】選択レーザー焼結装置130を示す概略図である。
【図3】 参考例1にかかるセラミック多孔質体においてシリコーン樹脂の混合比率を変えた場合の状態を示す図である。
【符号の説明】
10 混合粉末
20 成形金型
25 ヒータ
30 加圧手段
130 選択レーザー焼結装置
132 チャンバー
134 粒子層
136 レーザー光源
138 ミラー
140 薄片

Claims (3)

  1. 金属又は酸化物又は炭化物又は窒化物からなる粉末状の骨材を、常温で固体のシリコーン樹脂からなる結合材によって結合し、さらにシリケート及びアルコキシドを含浸させて焼成することで、前記結合材を、シリケートをエステル交換反応させて得られるシリカ(SiO 2 )成分と前記シリコーン樹脂中のシリカ(SiO 2 )成分とアルコキシドより生成するガラス成分によって構成したことを特徴とする無機物多孔質体。
  2. 請求項1にかかる無機物多孔質体に、金属又はセラミックを含浸させてなることを特徴とする無機物体
  3. 請求項1にかかる無機物多孔質体又は請求項2にかかる無機物体によって構成されることを特徴とするポンプの羽根車,ケーシング又はライナーリング
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