JP4017892B2 - 高い振動減衰性能を有する合金の製造法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、立方晶から斜方晶へのマルテンサイト変態を行う合金の特性を利用した高い振動減衰性能を有する合金及びその製造法に関する。
【0002】
【従来の技術】
精密機械、輸送機器などにおいては、振動ならびに騒音防止の立場から振動減衰性能の高い金属材料への期待が大きい。しかし、一般的にいえば、減衰性能と強度とは相反する材料特性であって、両者を兼ね備える金属材料の開発が強く要望されてきた。
【0003】
例えば、マグネシウムは減衰係数が60%でダンピング性は高いが、引張強度は100MPa程度で軟らかく構造用材料として強度が不足していた。一方、鋼は600〜1000MPaの強度を持つが、減衰係数は1%以下である。このような状況から、鋼材と同程度の強度を持ちかつダンピング性能の高い金属材料の開発が強く要望されていた。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、材料の振動減衰性能が高く、かつ、一般構造用部材として使用に耐える強度を有する高い振動減衰性能を有する合金及びその製造法を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明の高い振動減衰性能を有する合金の製造法は、立方晶から斜方晶へマルテンサイト変態を行うチタニウム、ニッケル、銅の3元系形状記憶合金の内部摩擦を利用する高い振動減衰性能を有する合金の製造法において、900℃以上の温度で溶体化熱処理を行った後水中急冷する溶体化処理を行った後500℃以上900℃未満の温度で再加熱することを特徴とするものである。
【0006】
本発明の高い振動減衰性能を有する合金の製造法の好適例として、得られた再加熱後の合金を、一旦室温以下にまで冷却した後再び室温まで昇温する。また、チタニウムの含有量を50モル%とし残余をニッケルと銅とする系において、銅の含有量を10モル%超20モル%以下とする。本例は、本発明をさらに好適に実施することができるため好ましい態様である。
【0007】
【発明の実施の形態】
材料の振動減衰性能は、物性値としては内部摩擦値によって決まる。金属材料の内部摩擦の原因となるメカニズムは数多くあるが、主なものとしては(1)複合型、(2)双晶型、(3)強磁性型、(4)結晶転位型の4つが挙げられる。それらにはそれぞれ特徴があり、使用目的によって一長一短がある。本発明では、特に双晶型に着目し、立方対称のB2結晶構造から斜方対称のB19結晶構造へと変態するTi−Ni−Cu3元系合金が後者の結晶構造をとるとき著しく高い内部摩擦を示すことを発見し、これを高振動減衰性能金属材料として活用しようとするものである。
【0008】
本発明のTi−Ni−Cu3元系合金の内部摩擦値は当然、成分、熱処理履歴、測定温度その他によって大きく変わるが、一例としてTi50Ni30Cu20合金を900℃1時間の溶体化後水中急冷しさらに−150℃まで冷却した後昇温させると、ねじり振動法による内部摩擦値は−20℃で0.2に達した。これはSDC(減衰係数)に換算して約72%である。また、室温でも内部摩擦値は0.1で、SDCは約47%を示している。さらに、この合金の強度は1000MPaであり、構造用材料として十分に高い値を有している。
【0009】
【実施例】
以下、実際の例について説明する。
チタン(Ti)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)をモル比50:50−x:xで溶解し、熱間押し出し及び熱間圧延、冷間圧延(または線引き)の工程を経て、内部摩擦測定に供するための線状、短冊状もしくは細角棒状の試料を得た。ここで、xは10〜20の範囲とした。
【0010】
次に、振動減衰性能を評価するために内部摩擦を測定した。ここで用いた内部摩擦測定方法を図1及び図2を用いて説明する。図1はねじり振動内部摩擦の測定原理図であって、慣性棒2と慣性錘3、4によって線状または細角棒状の試料1にねじり振動を与え、その減衰を測定する。最初のねじり振動振幅をA0、n回目のそれをAnとするとき、内部摩擦Q−1は以下の(1)式で与えられる。
Q−1=(1/nπ)ln(A0/An) …(1)
【0011】
図2は横振動内部摩擦の測定原理図であり、短冊状試料5の振動の節点6、7において細線8、9を用いて試料を吊り上げ、電気的または磁気的方法によって曲げ振動を励起する。この場合は、振幅が減衰して行って初めの振幅に対してある割合になるまでの振動回数nを計測し、(1)式と同様にして、内部摩擦Q−1を決定する。
【0012】
SDC(減衰係数)ηは、1振動周期内に失われるエネルギーΔWを振動エネルギーWの百分比で表したもので、以下の(2)式によって内部摩擦Q−1と関係付けられる。
ただし、(2)式におけるηとQ−1の関係は、Q−1の値が小さいときは厳密に成り立つが、Q−1の値が著しく大きい場合は近似的なものとなる。
【0013】
次に、以下に示す実施例1〜4及び比較例1〜3に従って、準備した所定組成の試料に対し、以下の溶体化熱処理及び必要に応じて再加熱を施し、その後上述したねじり振動法または横振動法により内部摩擦を測定した。
【0014】
(実施例1)Ti50Ni50−xCuxにおいて、x=20とし、900℃で溶体化熱処理を行った後水中急冷し、ねじり振動法によって内部摩擦を測定した。
(実施例2)Ti50Ni50−xCuxにおいて、x=16とし、900℃で溶体化熱処理を行った後水中急冷し、ねじり振動法によって内部摩擦を測定した。
(実施例3)Ti50Ni50−xCuxにおいて、x=10とし、900℃で溶体化熱処理を行った後水中急冷し、ねじり振動法によって内部摩擦を測定した。
(比較例1)Ti50Ni50−xCuxにおいて、x=0とし、900℃で溶体化熱処理を行った後水中急冷し、ねじり振動法によって内部摩擦を測定した。
(比較例2)Ti50Ni50−xCuxにおいて、x=10とし、1100℃で溶体化熱処理を行った後水中急冷し、横振動法によって内部摩擦を測定した。
(比較例3)Ti50Ni50−xCuxにおいて、x=10とし、1100℃で溶体化熱処理を行った後水中急冷し、その後400℃に再加熱し、横振動法によって内部摩擦を測定した。
(実施例4)Ti50Ni50−xCuxにおいて、x=10とし、1100℃で溶体化熱処理を行った後水中急冷し、その後500℃に再加熱し、横振動法によって内部摩擦を測定した。
【0015】
図3、4、5、6にそれぞれ実施例1、2、3及び比較例1の測定結果を示す。いずれの図においても、黒丸は温度を下げながらの測定結果、白丸は温度を上げながらの測定結果を示す。これらを比較してみれば直ちに明らかなように、Ti50Ni50−xCux合金においてx=0とした2元合金の比較例1では、内部摩擦Q−1の最高値はたかだか25×10−3であるのに対し、実施例1、2、3はいずれも120×10−3以上の高い値を示している。さらに、実用上最も多用されると思われる室温(300K)での値を見るに、実施例1、2、3はいずれも60×10−3程度以上の高いダンピング性を示すのに対して、比較例1は8×10−3に過ぎず、ダンピング性を全く示さない。以上のことから、本発明のチタニウム、ニッケル、銅の3元系形状記憶合金が高い内部摩擦を示すこと、及び、銅を含まない2元系合金ではその作用を欠くことがわかる。
【0016】
図3、4、5の実施例1、2、3の昇温データ(図の白丸)を見れば、内部摩擦の値は250K近傍できわめて高いピーク値をとり、その後さらに昇温するにしたがって減少するがなお高いダンピング性を保ち続け、そしてある温度から上では急激にダンピング性を失う。そしてこの特徴は、図6の比較例1においても共通している(ただし、ピーク値そのものは実施例に比してはるかに低いが)。ここで、内部摩擦が50×10−3以上の値を保ち続ける上限の温度(以下「昇温ダンピング限界温度」と呼ぶ)を成分変数xに対してプロットすることで図7に示す結果を得た。高振動減衰能合金が実用上最も多用されるのは室温(300K)であり、図7を見れば明らかなように、本発明のチタニウム、ニッケル、銅の3元系形状記憶合金は全て300Kを超える温度まで高いダンピング性を失わない。しかし、現実問題としては、室温といっても300Kを大幅に超える場合もあり、さらに機器の動力エネルギーが熱エネルギーに変換され、温度上昇を招く可能性も考慮しなければならない。そこで、本発明者らはより望ましい昇温ダンピング温度の下限として325K(52℃)を考えた。そこから、本発明の合金がより高度の性能を発揮し得る合金成分範囲として、チタニウムの含有量を50%とし残余をニッケルと銅とする系において、銅の含有量を10%超20%以下とすることが好ましいことがわかる。銅の含有量の上限を20%としたのは、これ以上銅の含有量を増大させると、合金の加工性が著しく低下して実用上の効果が失われるからである。
【0017】
図8に、比較例2、3及び実施例4の測定結果を示す。1100℃で溶体化したのち水中へ急冷すると(比較例2)、内部摩擦の値は著しく低下しダンピング性能は失われる。これを400℃まで再加熱しても(比較例3)ダンピング性能はほとんど回復しないが、再加熱温度を500℃まであげると(実施例4)ダンピング性能は著しく回復する。本発明者らは、本発明にかかわる合金の製造工程において900℃以上の高温度から急冷する必要がある場合、これを500℃以上の温度で再加熱することによって、急冷によって失われたダンピング性能を取り戻すことができると考えた。そこで、本発明にかかわる合金がより高度の性能を発揮し得る熱処理工程として、900℃以上の温度で溶体化処理を行ったのち500℃以上900℃未満の温度で再加熱することが適切であるとの結論に達した。
【0018】
合金の製造工程においては通常加熱・冷却を繰り返すが、最終的に室温以上の温度から冷却して来る場合が多い。図3、4、5の実施例1、2、3の冷却データ(図の黒丸)を見ればわかるように、内部摩擦の値は高温度では非常に低い値で、ある温度以下でダンピング性を発揮し始める。その温度(以下「降温ダンピング限界温度」と呼ぶ)を図7に黒丸で示した。ここで、降温ダンピング限界温度が昇温ダンピング限界温度より常に低いのは、金属学的に次のように理解される。すなわち、本発明にかかわる合金が高いダンピング性能を持つのは、高温相である立方対称のB2相から低温相である斜方対称のB19相へと相変態するためであって、この変態と逆変態との間には温度ヒステレシスがあり、低温相から高温相への逆変態は高温相から低温相への正変態よりも高温度で起きる。このことから本発明者らは、本発明にかかわる合金により高い温度まで高いダンピング性能を保たせるためには、上述したように溶体化処理・再加熱後の合金を、一旦室温以下望ましくは−50℃以下にまで冷却したのち再び室温まで昇温することが好ましいとの結論に達した。
【0019】
【発明の効果】
以上のとおり、本発明によれば、立方晶から斜方晶へマルテンサイト変態をおこなうチタニウム、ニッケル、銅の3元系形状記憶合金の内部摩擦を利用して高い振動減衰能をもつ合金を得ることができ、これにより精密機械、輸送機器など振動ならびに騒音防止を重要課題とする広範な産業分野からの要請に応えることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 実施例と比較例の試料に対するねじり振動に基づく内部摩擦測定法の原理図である。
【図2】 実施例と比較例の試料に対する横振動に基づく内部摩擦測定法の原理図である。
【図3】 実施例1の内部摩擦測定結果を示すグラフである。
【図4】 実施例2の内部摩擦測定結果を示すグラフである。
【図5】 実施例3の内部摩擦測定結果を示すグラフである。
【図6】 比較例1の内部摩擦測定結果を示すグラフである。
【図7】 実施例1、2、3に対する昇温ダンピング限界温度及び降温ダンピング限界温度を示すグラフである。
【図8】 比較例2、3及び実施例4の内部摩擦測定結果を示すグラフである。
【符号の説明】
1 ねじり振動試料、2 慣性棒、3、4 慣性錘、5 横振動試料、6、7 横振動の節点、8、9 細線(吊り糸)
Claims (3)
- 立方晶から斜方晶へマルテンサイト変態を行うチタニウム、ニッケル、銅の3元系形状記憶合金の内部摩擦を利用する高い振動減衰性能を有する合金の製造法において、900℃以上の温度で溶体化熱処理を行った後水中急冷する溶体化処理を行った後500℃以上900℃未満の温度で再加熱することを特徴とする高い振動減衰性能を有する合金の製造法。
- 得られた再加熱後の合金を、一旦室温以下にまで冷却した後再び室温まで昇温することを特徴とする請求項1に記載の高い振動減衰性能を有する合金の製造法。
- チタニウムの含有量を50モル%とし残余をニッケルと銅とする系において、銅の含有量を10モル%超20モル%以下とすることを特徴とする請求項1または2に記載の高い振動減衰性能を有する合金の製造法。
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