JP4013540B2 - ガス発生剤組成物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えば車両に搭載され、人員保護のエアバッグを膨張させるためのガス発生装置、あるいはシートベルトを巻き込むためのプリテンショナーに使用され、作動時に燃焼ガスを発生させるために用いられるガス発生剤組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、有害性の高い無機アジド系化合物、特にアジ化ナトリウムを主剤とするガス発生剤に代わるものとして、より安全性の高い非アジド系ガス発生剤の研究開発が各方面でなされている。ガス発生剤としては、ガス化率が90%以上で、燃焼速度が5.0mm/秒以上(窒素ガスにより7MPaに加圧された条件下)の性能を有することが望ましい。特にガス化率が大きいことは、ガス発生装置等に充填するガス発生剤の量を低減できるため、装置等の小型化、軽量化が可能となり、製造工数も低減する利点を有する。近年はガス化率が90%以上のガス発生剤が求められつつある。
【0003】
また、作動時の乗員への影響を考えると、ガス発生剤の燃焼残渣が中性に近いことが必要である。
さらに、一酸化炭素の発生をも極力減少したガス発生剤が求められている。
【0004】
非アジド系ガス発生剤の酸化剤として、アンモニウムの酸素酸塩である硝酸アンモニウムが注目されている。硝酸アンモニウムは、本来ガス化率が大きく、有害ガスや燃焼残査を発生せず、かつ低毒性・低危険性等の利点を有する酸化剤である。しかしながら、硝酸アンモニウムは、酸化剤として用いる場合、燃焼速度が小さいため、燃焼速度の向上を目的として、硝酸カリウム、硝酸ナトリウム、硝酸ストロンチウム等の金属酸素酸塩が添加されることが多い。また硝酸アンモニウムの相転移に伴う体積変化によりガス発生剤の成形体が粉化するという問題を同時に解決するため、カリウムの酸素酸塩、特に硝酸カリウムが添加されることが多い。
【0005】
金属の酸素酸塩では、取扱い上の問題(潮解性、有害性、熱安定性)などから遷移金属の酸素酸塩は好まれず、一般的にアルカリ金属あるいはアルカリ土類金属の酸素酸塩が用いられる。このためアルカリ金属の酸素酸塩あるいはアルカリ土類金属の酸素酸塩など、燃焼により塩基性物質を発生する成分が含まれる場合、ガス発生装置外に強塩基性の燃焼残査が放出されるという問題があった。
【0006】
例えば、特表平9−503194号公報には、相安定化した硝酸アンモニウムを主成分とし、硝酸トリアミノグアニジン類、および0〜12%の有機ポリマー結合剤からなるガス発生剤組成物が開示されている。
また、特開2000−503194号公報では、相安定化した硝酸アンモニウム、ニトログアニジン、および酸素含有カリウム塩からなるガス発生剤組成物が開示されている。
しかしながら、このガス発生剤組成物では、燃焼により塩基性の燃焼残査(水酸化カリウムや炭酸カリウム)が大量に放出されるという問題が残る。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、前記従来技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的は、硝酸アンモニウムを主成分とし、燃焼時のガス化率が大きく、さらに適切な燃焼速度を有し、塩基性の燃焼残査が中和され、かつ一酸化炭素の発生量を抑制したガス発生剤組成物を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、上記課題の全てを解決すべく鋭意検討した結果、硝酸アンモニウム、燃焼時に塩基性物質を発生する金属酸素酸塩、過塩素酸アンモニウム、および高分子系結合剤、高エネルギー物質および粉末状微結晶炭素からなる3群より選ばれる少なくとも1種の燃料成分を含むガス発生剤組成物が、上記問題点を改善することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、第1の発明は、下記の(a)成分、(b)成分、(c)成分および(d)成分、さらにガス発生剤組成物の自然分解を抑制するための安定剤を含有し、(a)/{(a)+(b)+(c)}×100の値が、50〜97重量%であり、ガス発生剤組成物の酸素バランスが−0.1〜+0.1(g/g)であることを特徴とするガス発生剤組成物。
(a)硝酸アンモニウム、(b)アルカリ金属硝酸塩、アルカリ金属亜硝酸塩、アルカリ土類金属硝酸塩およびアルカリ土類金属亜硝酸塩からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属酸素酸塩、(c)配合比がアルカリ金属の硝酸塩若しくは亜硝酸塩1モルに対して0.8〜1.2モル又はアルカリ土類金属の硝酸塩若しくは亜硝酸塩1モルに対して1.6〜2.4モルである過塩素酸アンモニウム、(d)高分子系結合剤、高エネルギー物質および粉末状微結晶炭素からなる群より選ばれる少なくとも1種の燃料成分。
【0013】
第2の発明は、第1の発明において、(d)/{(a)+(b)+(c)+(d)}×100の値が、2〜60重量%であるガス発生剤組成物である。
【0014】
第3の発明は、第1又は第2のいずれかの発明において、(a)成分の硝酸アンモニウムが、(b)成分の硝酸カリウムにより相安定化された硝酸アンモニウムであるガス発生剤組成物である。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。本発明のガス発生剤組成物は、(a)硝酸アンモニウム、(b)アルカリ金属硝酸塩、アルカリ金属亜硝酸塩、アルカリ土類金属硝酸塩およびアルカリ土類金属亜硝酸塩からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属酸素酸塩、(c)配合比がアルカリ金属の硝酸塩若しくは亜硝酸塩1モルに対して0.8〜1.2モル又はアルカリ土類金属の硝酸塩若しくは亜硝酸塩1モルに対して1.6〜2.4モルである過塩素酸アンモニウム、および(d)高分子系結合剤、高エネルギー物質および粉末状微結晶炭素からなる群より選ばれる少なくとも1種の燃料成分、さらにガス発生剤組成物の自然分解を抑制するための安定剤を必須成分とし、かつ硝酸アンモニウム、金属酸素酸塩および過塩素酸アンモニウムとの合計含有量に対する硝酸アンモニウムの含有率が50〜97重量%であり、ガス発生剤組成物の酸素バランスが−0.1〜+0.1(g/g)である。
【0018】
本発明で用いる前記(a)成分の硝酸アンモニウムは、ガス発生剤組成物の酸化剤の主要成分である。硝酸アンモニウムは、ガス化率が大きく、有害性が少なく、かつ有害ガスや燃焼残渣の発生量が少ないため最も望ましい酸化剤である。
硝酸アンモニウムは混合性と燃焼速度との面から粉末であることが望ましい。その平均粒子径は1〜1000μmの範囲であることが好ましく、ガス発生剤成形物の機械的物性および燃焼速度を考慮すれば2〜200μmの範囲であることがさらに好ましい。
平均粒子径が1μm未満の場合、製造性が悪化する傾向にある。一方、平均粒子径が1000μmを超えると、成形物の機械的物性が悪くなる傾向にあり、しかも燃焼速度が遅くなる傾向にある。
(a)成分の硝酸アンモニウムは、その相転移による体積変化が原因となってガス発生剤の性能が変化するのを抑制するために、相安定化されていることが望ましい。
【0019】
(b)成分の燃焼時に塩基性物質を発生する金属酸素酸塩は、ガス発生剤組成物の燃焼性を向上させる目的で用いられる。このような金属酸素酸塩としてはアルカリ金属硝酸塩、アルカリ金属亜硝酸塩、アルカリ土類金属硝酸塩およびアルカリ土類金属亜硝酸塩であり、特に好ましいのは、カリウム、ナトリウム、ストロンチウムの硝酸塩である。(b)成分の形態は成形性と燃焼性とから粉末である。その平均粒子径は1〜1000μmの範囲であることが好ましく、ガス発生剤成形物の機械的物性および燃焼速度を考慮すれば2〜200μmの範囲であることがさらに好ましい。その平均粒子径が1μm未満の場合、製造性が悪化する傾向にある。一方、平均粒子径が1000μmを超えると、成形物の機械的物性が悪化する傾向にあり、しかも燃焼速度が遅くなる傾向にある。
【0020】
ガス発生剤組成物の燃焼性向上および硝酸アンモニウムの相安定化効果を考慮すると、(b)成分として好ましくはカリウム塩、特に好ましくは硝酸カリウムである。相安定化された硝酸アンモニウム中におけるカリウム塩の配合量は、相安定化効果が発現される範囲および燃焼残渣が実用上問題とならない範囲で適宜設定できる。例えば硝酸カリウムが相安定化剤の場合、好ましくは硝酸アンモニウムが70〜98重量%、硝酸カリウムが2〜30重量%であり、より好ましくは硝酸アンモニウムが75〜96重量%、硝酸カリウムが4〜25重量%である。
【0021】
相安定化された硝酸アンモニウムの製造法としては、適当な物理的方法、例えば硝酸アンモニウムと所定量の硝酸カリウムとの両者が溶解した水溶液を、加熱下で蒸発・乾燥させることにより得られる。
このようにして得られた相安定化された硝酸アンモニウムは混合性と燃焼速度とから粉末であることが望ましい。その平均粒子径は1〜1000μmの範囲であることが好ましく、ガス発生剤成形物の機械的物性および燃焼速度とを考慮すれば2〜200μmの範囲であることがさらに好ましい。
その平均粒子径が1μm未満の場合、製造性が悪化する傾向にある。一方、平均粒子径が1000μmを超えると、成形物の機械的物性が悪くなる傾向にあり、しかも燃焼速度が遅くなる傾向にあるので好ましくない。
【0022】
本発明に用いる(c)成分の過塩素酸アンモニウムは、ガス発生剤組成物の燃焼時に(b)成分から発生する塩基性物質を化学的に中和する。すなわち、過塩素酸アンモニウムが分解して塩化水素や塩素が発生する。それらが塩基性物質と反応して、中性物質であるアルカリ金属塩化物またはアルカリ土類金属塩化物に変化するので、自動車内への塩基性物質の放出が抑制される。
【0023】
例えば(b)成分の酸化剤として硝酸カリウムを用いた場合、過塩素酸アンモニウムを添加することにより、金属水酸化物、炭酸塩といった強塩基性燃焼残渣の発生が抑制され、塩化物の燃焼残査となる。
【0024】
過塩素酸アンモニウムは分解後のガス化率が大きい酸化剤であるため、過塩素酸アンモニウムを添加することにより、ガス発生剤のガス化率の低下は問題にならず、硝酸アンモニウムを主成分とするガス発生剤の利点が生かされる。さらに、ガス発生剤の燃焼速度を向上させることができる。
【0025】
過塩素酸アンモニウムは、混合性と燃焼速度から粉末であることが望ましい。その平均粒子径は1〜1000μmの範囲であることが好ましく、ガス発生剤成形物の機械的物性および燃焼性能を考慮すれば2〜200μmの範囲であることがさらに好ましい。
その平均粒子径が1μm未満の場合、製造性が悪化する傾向にある。一方、平均粒子径が1000μmを超えると、成形物の機械的物性が悪くなる傾向にあり、しかも燃焼速度が遅くなる傾向にあるので好ましくない。
【0026】
(d)成分は、(d1)高分子系結合剤、(d2)高エネルギー物質および(d3)粉末状微結晶炭素から選ばれる少なくとも1種の燃料成分である。
(d1)の高分子系結合剤としては、例えば、ポリビニル系高分子、セルロース系高分子、ポリエステル系高分子、ポリウレタン系高分子、ポリエーテル系高分子、熱可塑エラストマー類、ポリアクリル系高分子、ポリアミド、ポリイミド、ケトン樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、多糖類、ゴム類およびエネルギー性化合物結合剤などが挙げられる。
【0027】
ポリビニル系高分子の具体例としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリビニルエーテル、ポリビニルアセタール、ポリビニルホルマール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマーなどが挙げられる。
セルロース系高分子の具体例としては、酢酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、ニトロセルロース、セルロースアセテートナイトレート、セルロースナイトレートカルボキシメチルエーテル、カルボキシメチルセルロースおよびその塩、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、結晶性セルロースなどが挙げられる。
【0028】
ポリエステル系高分子の具体例としては、ポリエステル合成繊維、ポリエチレンテレフタラート、不飽和ポリエステル樹脂などが挙げられる。
ポリウレタン系高分子の具体例としては、ウレタン樹脂などが挙げられる。
ポリエーテル系高分子の具体例としては、ポリプロピレンオキシド、ポリフェニレンオキシド、ポリエーテルイミドなどが挙げられる。
【0029】
熱可塑性エラストマー類の具体例としては、ポリウレタンエラストマー、ポリエステルエラストマーなどが挙げられる。
ポリアクリル系高分子の具体例としては、ポリアクリルアミドおよびその誘導体、ポリアクリルヒドラジド、ポリアクリル酸塩、ポリアクリル酸誘導体、ポリアクリレート、ポリメタクリレートなどが挙げられる。
ポリアミドの具体例としては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン46、共重合ポリアミド、メトキシメチル化ポリアミドなどが挙げられる。
【0030】
多糖類の具体例としては、可溶性デンプン、グアガム、ペクチン、キチン、およびそれらの誘導体などが挙げられる。
ゴム類の具体例としては、アクリルゴム、イソプレンゴム、ウレタンゴム、シリコンゴム、バイトン、ブタジエンゴム、ブチルゴム、ニトリルブチルゴム、フッ素ゴムなどが挙げられる。
【0031】
エネルギー性化合物結合剤の具体例としては、グリシジルアジドポリマー、3,3−ビス(アジドメチル)オキセタンポリマー、3−アジドメチル−3−メチルオキセタンポリマー、3−ナイトレートメチル−3−メチルオキセタンポリマーなどが挙げられる。
【0032】
高分子系結合剤は、粉体として単に燃料成分として用いられる場合と、押出成形時のバインダーの役割を兼ねて用いられる場合とがある。押出成形による製造方法の場合、溶剤への溶解性、熱安定性、取扱い性および燃焼速度を考慮すると、高分子系結合剤の中では酢酸セルロースが好ましい。
【0033】
(d2)の高エネルギー物質としては、例えば、RDX(トリメチレントリニトロアミン)、HMX(テトラメチレンテトラニトロアミン)、PETN(ペンタエリスリト−ルテトラナイトレ−ト)、TAGN(トリアミノグアニジンナイトレ−ト)、HN(硝酸ヒドラジン)、NQ(ニトログアニジン)などが挙げられる。
【0034】
また、(d3)の粉末状微結晶炭素としては、例えば、活性炭、木炭、骨炭、カーボンブラックなどが挙げられる。これらの中では、燃焼速度の向上という点から活性炭、木炭が好ましい。
【0035】
前記燃料成分は、複数の物質の混合物としても使用可能である。燃料成分の中で、粉末状微結晶炭素は硝酸アンモニウムの分解を促進する効果を有し、ガス発生剤の燃焼速度を著しく向上させる効果があるため、特に好ましい。
燃料成分が粉体として用いられる場合の平均粒子径は、1〜500μmの範囲であることが好ましく、ガス発生剤成形物の機械的物性および燃焼性能を考慮すれば2〜60μmの範囲であることがさらに好ましい。
平均粒子径が1μm未満では成形が困難である。一方、平均粒子径が500μmを超えると、製造性と燃焼速度とが低下する傾向にある。
【0036】
前記(a)、(b)および(c)については、(a)/{(a)+(b)+(c)}×100の値が50〜97重量%でなければならない。50重量%未満では、ガス化率が低下する。また97重量%を超えると、燃焼速度が遅くなる。さらに、硝酸アンモニウムを硝酸カリウムで相安定化する場合は、硝酸アンモニウム(a)の割合が前記式で97重量%を超えると、相安定化された硝酸アンモニウム中における硝酸カリウムの配合量が減少するため、硝酸アンモニウムが十分に相安定化されなくなるおそれがある。なお、ガス発生剤のガス化率、燃焼速度を考慮すれば、54〜92重量%の範囲がさらに好ましい。
【0037】
金属酸素酸塩としてアルカリ金属の硝酸塩または亜硝酸塩を使用した場合の過塩素酸アンモニウムの配合比は、アルカリ金属の硝酸塩または亜硝酸塩1モルに対して0.8〜1.2モルが好ましく、燃焼による塩基性物質の発生量および塩化水素の発生量を抑制するためには0.9〜1.1モルがさらに好ましい。この配合比が0.8未満ではアルカリ金属の硝酸塩または亜硝酸塩から発生する塩基性物質は充分に中和されず、自動車内に高濃度の強塩基性物質が放出される傾向にある。逆に1.2モルを超えると、過塩素酸アンモニウムから発生した未反応の塩化水素などが高濃度で自動車内に放出される傾向にある。
【0038】
金属酸素酸塩としてアルカリ土類金属の硝酸塩または亜硝酸塩を使用した場合の過塩素酸アンモニウムの配合比は、アルカリ土類金属の硝酸塩または亜硝酸塩1モルに対して1.6〜2.4モルが好ましく、燃焼による塩基性物質の発生量および塩化水素の発生量とを抑制するためには1.8〜2.2モルがさらに好ましい。この配合比が1.6モル未満ではアルカリ土類金属の硝酸塩または亜硝酸塩から発生する塩基性物質は十分に中和されず、自動車内に高濃度の強塩基性物質が放出される傾向にある。逆に2.4モルを超えると、過塩素酸アンモニウムから発生した、塩基性物質と未反応の塩化水素とが高濃度で自動車内に放出される傾向にある。
【0039】
燃料成分(d)の配合量は、前記(a)、(b)、(c)および(d)成分の合計重量を基準にして、2〜60重量%が好ましい。着火性、燃焼速度および生成ガス中に一酸化炭素が実質的に生成しないことを考慮すれば4〜40重量%がより好ましい。
燃料成分の配合量が2重量%未満では、燃焼速度が遅くなり製造性、物性も悪化する傾向がある。また60重量%を超えると、燃焼速度が遅くなり、着火性が悪化し、不完全燃焼による未燃焼物や一酸化炭素などの有害ガスが増加する傾向にある。
また、燃料成分が高エネルギー性物質を含む場合の衝撃などに対する感度を考慮すれば、高エネルギー性物質の配合量はガス発生剤組成物の総重量を基準にして、15重量%未満が好ましい。
【0040】
さらに、ガス発生剤組成物の自然分解を抑制するために、安定剤を配合する。安定剤としてはガス発生剤組成物の経時安定性を向上させることが可能なもの全てが使用できる。例えば、ジフェニルウレア、メチルジフェニルウレア、エチルジフェニルウレア、ジエチルジフェニルウレア、ジメチルジフェニルウレア、メチルエチルジフェニルウレアなどのジフェニルウレア誘導体;ジフェニルアミン、2−ニトロジフェニルアミンなどのジフェニルアミン誘導体;エチルフェニルウレタン、メチルフェニルウレタンなどのフェニルウレタン誘導体;ジフェニルウレタンなどのジフェニルウレタン誘導体;レゾルシノールなどが挙げられる。前記安定剤の使用量は、ガス発生剤組成物の経時安定性が実用に耐え得る水準となるまで配合できる。好ましくはガス発生剤組成物の総重量を基準にして5重量%以下であり、さらに燃焼速度および生成ガス中に一酸化炭素が実質的に生成しないことを考慮すれば0.5〜4.5重量%がより好ましい。安定剤の配合量を5重量%より多く配合すると、(a)、(b)、(c)および(d)成分からなる組成の配合量が低下するため、燃焼速度が低下する傾向にあり、また生成ガス中に一酸化炭素が生成する傾向にあるので好ましくない。
【0041】
さらに、ガス発生剤組成物に可塑性を付与し成形性を向上させるために、可塑剤を配合してもよい。そのような可塑剤としては、高分子系結合剤と相溶性のよいものであれば全て使用可能である。例えば、ジブチルフタレート、ジメチルフタレート、ジエチルフタレートなどのフタル酸ジエステル可塑剤;リン酸エステル、トリアセチン、アセチルトリエチルナイトレートなどの脂肪酸エステル可塑剤;トリメチロールエタントリナイトレート、ジエチレングリコールジナイトレート、トリエチレングリコールジナイトレート、ニトログリセリン、ビス−2,2−ジニトロプロピルアセタール/ホルマールなどのニトロ基含有可塑剤;グリシジルアジド基含有可塑剤などが挙げられる。
可塑剤の配合量は、ガス発生剤組成物の総重量を基準にして3重量%以下であることが好ましく、生成ガス中に一酸化炭素が実質的に生成しないことを考慮すれば2重量%以下がさらに好ましい。
可塑剤の配合量が3重量%を超えると、前記(a)、(b)、(c)および(d)成分の配合比率が低下するため、燃焼速度が低下し、また、生成ガス中に一酸化炭素が生成する傾向にある。
【0042】
また、ガス発生剤の燃焼速度をさらに向上させるため、燃焼触媒を添加することができる。そのような燃焼触媒は、硝酸アンモニウムあるいは過塩素酸アンモニウムの燃焼触媒から選ぶことが好ましい。
具体例としては、二酸化マンガン、酸化鉄、酸化銅、酸化クロム、酸化コバルト、酸化ニッケルなどの遷移金属酸化物、酸化アルミニウムなどの金属酸化物、フェロセン、カトセンなどのフェロセン誘導体、フッ化リチウムなどの金属フッ化物などが挙げられる。
燃焼触媒の平均粒子径は、1〜500μmの範囲であることが好ましく、ガス発生剤組成物の機械的物性および燃焼速度を考慮すれば2〜60μmの範囲であることがさらに好ましい。
また、燃焼触媒の配合量は、ガス発生剤組成物の総重量を基準にして、10重量%以下であることが好ましいが、燃焼残渣量の低減を考慮すれば、5重量%以下がさらに好ましい。
【0043】
本発明のガス発生剤組成物の形状は、打錠機などを用いた加圧成形か、若しくは有機溶剤を添加し均一に混合した後、押出装置による押出成形にて所定の形状を得ることが好ましい。
このように成形体にすることにより、ガス発生剤組成物をガス発生装置に応じた形状とすることができる。
押出成形による場合は、(d)成分として、適切な有機溶剤に溶解する高分子系結合剤を用いる必要がある。
【0044】
ガス発生剤組成物を打錠機で加圧成形する場合、成形体の強度を優れたものとするために、必要に応じて成形剤を添加することができる。そのような成形剤としては、例えば、アルミナ、シリカ、雲母、二硫化モリブデンなどの無機系結合剤が挙げられる。また、成型時において原料の流動性を改善するために、必要に応じてステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛、二硫化モリブデンなどの成形助剤を添加することができる。
【0045】
成形剤および成形助剤の配合量は、ガス発生剤組成物の総重量を基準にして、5重量%以下であることが好ましく、ガス発生剤の燃焼速度を考慮すれば4重量%以下がさらに好ましい。
【0046】
ガス発生剤組成物の酸素バランスは、−0.1〜+0.1(g/g)の範囲であり、燃焼速度、および生成ガス中に一酸化炭素あるいは有害物質が実質的に生成しないことを考慮すれば、−0.05〜+0.05(g/g)がさらに好ましい。酸素バランスが+0.1(g/g)を超えると、燃焼速度が遅くなる傾向にあり、−0.1(g/g)未満では、燃焼速度が遅くなり、生成ガス中の一酸化炭素や不完全燃焼に伴う有害物質の濃度が高くなる傾向がある。ここで酸素バランスとは、ある物質あるいは混合物質が完全に酸化還元反応を起こし、CO2、H2O、N2といった完全な酸化還元反応生成物を生成するとした場合の酸素の過不足を表し、燃焼前の物質あるいは混合物1g当たりのg数で表記する。具体的には、ある物質の分子式、または混合物の平均分子式をCxHyOzNuで表すと、その完全燃焼の反応式は、下記式CxHyOzNu→xCO2+y/2H2O+u/2N2−1/2(2x+y/2−z)O2で表され、酸素バランスは、−1/2(2x+y/2−z)×32÷(物質または混合物の平均分子量)(g/g)で計算される。ガス発生剤組成物の原材料において、酸素バランスがプラスである物質は酸化剤として作用し、酸素バランスがマイナスである物質は還元剤として作用する。また燃焼前後で変化しない原材料成分の酸素バランスはゼロである。具体例を挙げると、硝酸アンモニウムの酸素バランスは+0.20(g/g)、過塩素酸アンモニウムの酸素バランスは+0.34(g/g)、粉末状微結晶炭素の酸素バランスは、−2.66(g/g)である。
【0047】
【発明の効果】
本発明によれば次のような優れた効果を奏する。
第1の発明によれば、硝酸アンモニウムおよび燃焼時に塩基性物質を発生する金属酸素酸塩とを含むので、高度のガス化率、適切な燃焼速度を有しつつ、塩基性物質の発生量を低減することができる。
第2の発明によれば、第1の発明の効果に加えて、潮解性、有害性、熱安定性といったガス発生剤を取扱う上での問題を低減することができる。
第3の発明によれば、第2の発明の効果に加えて、燃焼により発生する、アルカリ金属の硝酸塩または亜硝酸塩に起因する塩基性物質の発生量をさらに低減することができる。
第4の発明によれば、第2の発明の効果に加えて、燃焼により発生するアルカリ土類金属の硝酸塩または亜硝酸塩に起因する塩基性物質の発生量を低減することができる。さらに、アルカリ金属の硝酸塩または亜硝酸塩を併用することもできる。
第5の発明によれば、第1から第4の発明の効果に加えて、良好な燃焼速度を維持し、不完全燃焼による未燃焼物の発生を抑制することができる。
第6の発明によれば、第1から第5の発明の効果に加えて、硝酸アンモニウムの相転移による体積変化に伴う、ガス発生剤の性能変化を抑制することができる。
第7の発明によれば、第1から第6の発明の効果に加えて、ガス発生剤組成物の自然分解の抑制を図ることができる。
第8の発明によれば、第1から第7の発明の効果に加えて、一酸化炭素や有害物質の発生を抑制することができる。
【0048】
【実施例】
以下に、具体例を挙げて、さらに詳細に本発明を説明する。
なお、例中の%も特記しない限り、全て重量%である。
【0049】
<相安定化された硝酸アンモニウムの製造>
硝酸アンモニウムと硝酸カリウムを併用している実施例1〜3、6、7および比較例1、2、4、5、6〜9では、次の手順で得られた相安定化された硝酸アンモニウムを使用した。
すなわち、硝酸アンモニウムと硝酸カリウムとを蒸留水に溶解後、約90℃の湯浴中で水分を蒸発させ、さらに真空乾燥を行う。次に、100メッシュのふるいを通過させてガス発生剤組成物の試作に供与した。この相安定化された硝酸アンモニウムの平均粒径は125μmであった。
【0050】
<ガス化率、燃焼速度、pH測定>
上記のガス発生剤組成物について、ガス化率(ガス発生剤組成物の燃焼生成物のうち気体成分の重量比を%で表記した。なお、COの発生量は、北川式ガス検知管(光明理化学工業(株))により測定した。)を表1に示した。
また、ストランドに成形したガス発生剤組成物について、窒素ガスにより7MPaに加圧された条件下で測定した燃焼速度を、表1に記した。
さらに、ガス噴出孔を有し、点火薬としてボロン/硝酸カリウムが装填されたインフレーターの燃焼室内に、粒状のガス発生剤組成物を30g装填した後、インフレーター内部をアルゴンガスで20.6MPa(210kgf/cm2)に加圧し、60リットルタンク内にインフレーターを設置し、電気着火によりガス発生剤を燃焼させた。試験後、タンク内を1リットルの蒸留水で洗浄した洗浄水のpHを測定し、表1の燃焼後のpH欄に記した。
【0051】
実施例1
硝酸アンモニウムと硝酸カリウムとの混合物(混合比は重量比で90/10とした)から得られた相安定化された硝酸アンモニウムに、過塩素酸アンモニウム、活性炭、ジフェニルアミン、酢酸セルロースを配合し、全配合重量に対して0.24倍重量のアセトンおよび0.06倍重量のエタノールとを加え、ウェルナー混和機で均一に混合し、塊状の混合物を得た。
次いで、この混合物を押出装置に装填した。押出装置には予め5.4mmのダイスおよび0.8mmのピンが取り付けられている。混合物は圧力をかけられてダイスを通りながら押出され、7個の貫通孔を有する7孔状に成型される。この成型物を4mmの長さに切断し、乾燥することにより粒状のガス発生剤組成物を得た。前記の方法により測定した結果を表1に示す。
また別途、上記の混合物をストランドに成形し、燃焼速度の測定用とした。
【0052】
実施例2〜5、比較例4、5
表1および表2に記載した配合割合となるように実施例1に準じた方法でガス発生剤組成物を調製し、実施例1と同様に試験し各種のデータを、表1、2に示す。
【0053】
実施例6、7、比較例1〜3、6〜9
表1および2に記載した配合割合で粉末状の混合物を得、次いで、打錠機を用いて直径7mm、厚さ1.6mmのペレット状の成形物とした。また別途、上記の混合物をストランドに成形し、燃焼速度の測定用に用いた。
さらに実施例1と同様に試験し、各種のデータを表1、2に示す。
【0054】
以上の結果、過塩素酸アンモニウムを配合していない比較例1〜7のガス発生剤では、いずれも塩基性燃焼残渣の発生に起因して、pHが9.5以上と強いアルカリ性を示した。これに対して、過塩素酸アンモニウムを配合した各実施例では、主に中性物質である金属塩化物の形態で燃焼残磋が生成するため、いずれもpHは中性付近を呈し、自動車衝突時の乗員への影響が低減されることが明らかとなった。
また比較例5、7では、燃焼速度が著しく低下した。比較例6は、pHが著しく高かった。
【0055】
さらに、(a)/{(a)+(b)+(c)}×100の値が48重量%である比較例8、そして98重量%の組成である比較例9について表2に示した。比較例8は、同一種類の成分で構成される実施例6と比較して、ガス化率が低下し、また、比較例9においても実施例6と比較して、燃焼速度が大きく低下していることがわかる。
【0056】
【表1】
【0057】
【表2】
【0058】
なお、表1、表2に使用したガス発生剤組成物の仕様は以下の通りである。
硝酸アンモニウム:平均粒径125μm、
硝酸ナトリウム:平均粒径125μm、
硝酸ストロンチウム:平均粒径125μm、
過塩素酸アンモニウム:平均粒径125μm、
活性炭:平均粒径15μm、
酸化銅:平均粒径15μm、
ジフェニルアミン:平均粒径125μm、
酢酸セルロース:ジアセテート品、
ポリビニルアルコール:平均粒径25μm、
ポリエステルエラストマー:東洋紡績(株)製、商品名:ペルプレンP−30B、
アルミナ:平均粒径0.3μm。
Claims (3)
- 下記の(a)成分、(b)成分、(c)成分および(d)成分、さらにガス発生剤組成物の自然分解を抑制するための安定剤を含有し、(a)/{(a)+(b)+(c)}×100の値が、50〜97重量%であり、ガス発生剤組成物の酸素バランスが−0.1〜+0.1(g/g)であることを特徴とするガス発生剤組成物。
(a)硝酸アンモニウム、(b)アルカリ金属硝酸塩、アルカリ金属亜硝酸塩、アルカリ土類金属硝酸塩およびアルカリ土類金属亜硝酸塩からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属酸素酸塩、(c)配合比がアルカリ金属の硝酸塩若しくは亜硝酸塩1モルに対して0.8〜1.2モル又はアルカリ土類金属の硝酸塩若しくは亜硝酸塩1モルに対して1.6〜2.4モルである過塩素酸アンモニウム、(d)高分子系結合剤、高エネルギー物質および粉末状微結晶炭素からなる群より選ばれる少なくとも1種の燃料成分。 - (d)/{(a)+(b)+(c)+(d)}×100の値が、2〜60重量%である請求項1に記載のガス発生剤組成物。
- (a)成分の硝酸アンモニウムが(b)成分から選ばれる硝酸カリウムにより相安定化された硝酸アンモニウムである請求項1又は2のいずれか1項に記載のガス発生剤組成物。
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