JP4012376B2 - スターリング装置のディスプレーサ・シール組立 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ディスプレーサやシリンダ等の加工精度を緩和しつつ、ガス洩れの防止と摩擦力の減少とを可能にするスターリング装置のディスプレーサ・シール組立に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から、スターリング装置の配置構造の1つとして、ディスプレーサと駆動ピストンとを同一シリンダ内に配置する、いわゆるベータ配置構造が採用されている。この構造では、高性能を維持し、かつ適切なガス洩れ防止を確保するために、ピストンやロッド等の可動部品に対する直径方向間隙を、0.025mm程度の非常に小さな値にする必要がある。したがって、このような小さな間隙を確保するためには、ディスプレーサ、駆動ピストンあるいはシリンダの可動部間の、同心度、真直度および内外径間隙寸法に対しては、厳しい許容誤差が要求されるが、このような厳しい許容誤差の要求は、加工コストの増加や、使用中に寸法が変化しない高価な材料の選択が必要となる。
【0003】
ところで、このような厳しい許容誤差の緩和手段としては、従来から内燃機関内等のピストンに用いるような割りリングを使用することが考えられる。この割りリングは、それ自体のスプリング力によって、シリンダの内面に直角に均等な圧力を加えるように設計されている。また、圧縮中にガス圧によってシールがシリンダ壁に圧着されるよう設計されている場合もある。このような圧着手段を採用しているのは、内燃機関内等の圧縮、燃焼ガスの圧力が高いため、この高圧ガスの漏洩を確実に防止するためである。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、シリンダに圧着して摺動する割りリング等を用いたシールは、摩擦力や発熱を抑えるために、潤滑油等で潤滑することが必要となるが、スターリング装置のディスプレーサには、構造上潤滑油を利用し難い。また、潤滑油が無い状態での、割りリングの圧着によって生ずる摩擦力は、スターリング装置のディスプレーサの正常な作動を阻害する。すなわち、スターリング装置のディスプレーサは、後述するように、僅かな受圧面積の差に基づく小さな力によって作動するものであるため、この摩擦力がディスプレーサの作動に大きな抵抗力となるからである。したがって、スターリング装置のディスプレーサについては、要求される高精度を軽減すると同時に、許容限度以上の圧着力及び摩擦損失を生じさせないように、適切な手段やその他の技術を用いた工夫が必要となる。
【0005】
そこで本発明の目的は、許容誤差の緩和による加工コストの軽減、材料の寸法安定性の緩和による材料コストの軽減、長寿命、部品の少ない単純構造、および組立ての容易性と迅速性とを合わせて達成することができる、スターリング装置のディスプレーサ・シール組立を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
請求項1に記載のスターリング装置のディスプレーサ・シール組立は、ディスプレーサと、駆動ピストンと、シリンダと、シールと、保持リングとを備えている。このディスプレーサと駆動ピストンとは、シリンダに同心状に形成した円筒穴の内周面に沿って、それぞれ往復運動するように構成してある。そして、このディスプレーサは円筒形状からなるピストン部と、このピストン部とそれぞれ同心状の段差とロッドとからなる。
【0007】
ディスプレーサのピストン部の外周は、シリンダの内周面に所定の間隙で挿入可能な直径を有している。段差は、ピストン部の一端に連設してあって、このピストン部の外周より小さい直径を有している。また、この段差の外周とピストン部の外周端とを連ぐ側面は、軸心に垂直に形成してある。ロッドは段差の一端に連設してあって、円断面形状を有している。
【0008】
シールは、シリンダの内周面に半径方向の圧着力を及ぼさない、円周上にスリットを有しないリング形状であって、その中心に円形穴を有している。このシールの外周は、シリンダの内周面に密接挿入可能な直径を有している。一方シールの円形穴の内周は、段差の外周に所定の間隙で装着可能な直径を有している。保持リングは円筒形状であって、その中心に貫通穴を有している。この保持リングの外周は、ピストン部の外周と同等の直径に形成してある。また、この保持リングの一端面は、軸心に対して垂直に形成してある。
【0009】
ディスプレーサのロッドは、駆動ピストンの軸心に形成した円筒穴を貫通して、この円筒穴に設けた軸受シールによって半径方向を支持されている。シールは段差の外周に装着され、保持リングは、この段差に装着したシールに軸方向圧力をかけない位置に挿設されている。そして、このシールは、保持リングの一端面と段差の側面との間で、半径方向に移動可能であるように構成してあることを特徴とする。
【0010】
次に、上記スターリング装置のディスプレーサ・シール組立の作用効果について説明する。このシールは、それぞれ軸方向に垂直な段差の側面と保持リングの側面との間に挟まれて、この段差の外周に装着されているが、軸方向に圧縮力を受けていない。すなわち、段差の側面と保持リングの側面との軸方向間隙は、このシールの巾より僅かに広くなっている。したがって、シールは、このシールの両端に掛かるガスの僅かな圧力差によって、一方の側面に押し付けられて、この側面とシールの側面との間からガスが漏洩するのを防止する。
【0011】
また、シールの円形穴の内周は、段差の外周より大きい直径を有しているため、シールを段差の外周に挿入した場合は、段差に対して半径方向に相対移動が可能である。一方シールの外周は、シリンダの内周に密接挿入可能な形状に形成してある。したがって、ディスプレーサの外周とシリンダの内周との間隙や真直度や同心度が、多少大きめになっても、シールが半径方向に移動することによって、シールの外周とシリンダの内周との密接状態が保持され、ガスが漏洩するのを防止する。
【0012】
このシールは、従来の割りリング等とは異なって円周上にスリットを有しないため、シリンダに対してなんら半径方向の圧着力を及ぼさないが、一方、スターリング装置では、駆動ピストンの往復運動によって生じるディスプレーサの前後空間の圧力差は極めて少ない。したがって、シリンダの内周面に密接挿入可能なシールを採用すれば、半径方向圧力を掛けてシールを圧着しなくても、ガス洩れを十分防止する効果が得られる。そして、シリンダへ半径方向の圧力を与えないため、シリンダとシールとの摩擦力は極めて小さくなり、この摩擦力がディスプレーサの作動に影響することや、焼付けの発生がなくなる。さらに、このシールの採用によってガス洩れを十分防止できるので、シリンダとディスプレーサとの間隙を極めて小さく設定するために摺動面を高精度に仕上げる必要がなくなる。
【0013】
また、このシールは、ディスプレーサの外周摺動面とロッド外径に対する厳しい同心度の要求を解消する。すなわち、ディスプレーサの半径方向位置は、ロッドが駆動ピストンの貫通穴に設けた軸受シールによって支持される位置で決まるが、シールがディスプレーサに設けられた段差内で半径方向に移動可能であるため、ディスプレーサの外周摺動面とロッド外径との同心度は、もはや重要ではなくなるからである。
【0014】
なお本発明は、スターリング装置を原動機として使用する場合と、外部から動力を与えて冷凍機として使用する場合とのいずれに適用する場合も含む。ここでシールの材料としては、原動機として使用する場合は金属等の耐熱材料、冷凍機として使用する場合は金属材料に限らずプラスチック材等の合成樹脂も含まれる。また、段差へ保持リングを取り付ける手段は、ネジ止めが望ましいが、ロウ付け等の保持リングを軸方向に固定する手段であれば、その他ロウ付け等も含まれる。
【0015】
請求項2に記載のスターリング装置のディスプレーサ・シール組立は、請求項1において、シールの外周を、中央部が軸心に平行であって、この中央部両端からこのシールの両側面に向けて直径を減少させ、シリンダの内周面とで楔形状の空間を形成するように形成してあることを特徴する。
【0016】
ここで、シールの中央部両端からこのシールの両側面に向けて直径を減少させる形状とは、単にシールの外周両端にチャンファやコーナリングアールを付けるものではなく、先端角度の小さい楔型空間を形成するものを意味する。
【0017】
このように発明を構成することにより、シールとシリンダとの摩擦力を更に減少することができる。すなわち、上述したように、シールは、スリットの無い連続リングであるため、シールの外周はシリンダの内周に圧着されない。一方、圧着しなくても、ディスプレーサの前後空間の圧力差は小さいので、ガス洩れは十分防止できる。
【0018】
さて、シールの外周両端を、シリンダの内周面と楔形状の空間を形成するように形成した場合には、ディスプレーサが往復運動すると、この楔状の隙間に、空気が圧入されて、シールの外周とシリンダの内周との間隙に圧縮空気層が形成される。したがってシールは、この圧縮空気層をクッションとして、シリンダの内周からいわば浮揚した状態で往復運動することになり、摺動面の機械的接触が無くなって摩擦力が殆どゼロに低減し、摺動面の磨耗が更に低減できる。
【0019】
【発明の実施の形態】
図1〜3を参照しつつ、請求項1に記載したスターリング装置のディスプレーサ・シール組立を説明する。なお、このスターリング装置は、冷凍機として使用するものである。図1及び図2に示すスターリング装置は、それぞれアルミ材からなるディスプレーサ2と、駆動ピストン9と、シリンダ5と、後述するシール1と、保持リング3とを備えている。ディスプレーサ2と駆動ピストン9とは、シリンダ5に同心状に形成した円筒穴の内周面5a,5bに沿って、それぞれ往復運動するように構成してある。ディスプレーサ2は、円筒形状からなるピストン部2aと、このピストン部とそれぞれ同心状の2つの段差、すなわち第1の段差2bと第2の段差2cと、ロッド4とから構成される。
【0020】
ピストン部2aの外周は、シリンダ5の内周面5aに、十分な半径方向の間隙をもって挿入可能な直径に形成してある。第1の段差2bはピストン部2aの一端に連設してあり、このピストン部の外周より小さい直径の外周を有している。第1の段差2bの外周とピストン部2aの外周端とを連ぐ側面2dは、軸心に垂直に形成してある。また、第2の段差2cは、第1の段差2bの一端に連設してあり、この第1の段差の外周面より小さい直径の外周を有している。ロッド4は、第2の段差2cの一端に連設してあり、この第2の段差の外周より小さい直径の円断面形状を有している。ロッド4の先端4aは、駆動ピストン9の軸心に形成した円筒穴9aを貫通して、この円筒穴に設けた軸受シール10によって、半径方向を支持されている。
【0021】
なお、ロッド4と軸受シール10との間隙は、駆動ピストン9の前後間のガス洩れを防止するために十分小さくすることが必要になるが、ディスプレーサ2の質量が十分小さい場合は、軸受シール10がロッド4に密接する、単純なプラスチックのすべり軸受とすることが好ましい。たとえば、ポリテトラフルオロエチレン加工したホモポリマーアセタール樹脂を使用した軸受シール10は、陽極酸化処理アルミニウム製のロッド4に対して良好に作動する。なお、摩擦力をより低減するためには、軸受シール10を気体軸受とすることもできる。
【0022】
また、ロッド4の端部4aは、シリンダ5の一端部にネジ20により取り付けられた円形バネ21の中心に支持されている。なお、駆動ピストン9の一端部も、同様な円形バネに支持されている。円形バネ21等は、駆動ピストン9とディスプレーサ2との、相対往復運動の位相を最適に調整するものであるが、半径方向の弾性力は小さい。したがって、ディスプレーサ2は、ロッド4の外周と駆動ピストン9の中心に設けた軸受シール10によって、半径方向を支持されている。
【0023】
図3に示すシール1は、射出成形プラスチック材からなり、矩形断面形状のリング形状を有している。シール1の外周は、シリンダ5の内周面5bに密接挿入可能な形状に形成してある。すなわち、シール1の外周とシリンダ5の内周との半径方向の間隙は、過度なガス漏れを防ぐのに十分なほど小さくなければならないが、大きな摩擦力が発生しないようにしてある。通常は、この半径方向の間隙は、最大で駆動ピストン9の外周に要求される半径方向の間隙の4倍以内である。なお、スターリング装置を原動機として使用する場合は、シール1は、ステンレス等の金属材料を使用する。
【0024】
シール1の円形穴の内周は、第1の段差2bの外周にこのシールを挿入した場合に、半径方向に移動可能な直径に形成してある。すなわち、シール1の円形穴の内周と第1の段差2bの外周との半径方向間隙は、シリンダ5の内周面5aとピストン部2aの外周との半径方向間隙より大きくしてある。これにより、たとえピストン部2aの外周がシリンダ5の内周面5aの一方に接触するまで偏心したとしても、この偏心とは無関係にシール1の外周とこのシリンダの内周面との接触が確保される。また、シール1の巾は、第1の段差2bの軸方向長さより僅かに狭い巾に形成してある。
【0025】
第2の段差2cの外周には雄ネジが形成してあり、この雄ネジにプラスチック材からなる保持リング3を螺設する。保持リング3の一端面3aは軸心に対して垂直に形成してある。保持リング3は、第1の段差2bと第2の段差2cとを連ぐ側面2eに当設する位置で、軸方向位置が定まる。シール1は、保持リング3の一端面3aとこの第1の段差の側面2dとに挟まれて、第1の段差2bの外周に装着される。なお、シール1の巾は、第1の段差2bの軸方向長さより僅かに狭い巾に形成してあるため、保持リング3は、このシールに対して軸方向圧縮力を与えない。
【0026】
なお図4に、保持リング3の他の軸方向位置決め手段を示す。なお、関連する部位等の番号は、図3に示す番号に100を加えて区別してある。この手段では、図3に示す第2の段差2cを設けていない。ディスプレーサ102の第1の段差102bの外周の軸方向長さは、シール101の巾より長くしてあり、この第1の段差の一端には、この第1の段差の外周より直径の小さい外径の雄ネジ104bが形成してある。一方保持リング103の軸心には、第1の段差102bの外周に密接挿入可能な円筒穴と、雄ネジ104bに螺合する雌ネジとが同心状に形成してある。そして、シール101の軸方向巾は、保持リング103の円筒穴と雌ネジとを連ぐ側面103bが、ディスプレーサ102の第1の段差102bと雄ネジ104bとを連ぐ側面102eに当設する場合に、このシールに軸方向圧縮力を与えない寸法にしてある。
【0027】
次に、図1〜3を参照して、冷凍機としてのスターリング装置の作用を概説しつつ、シール1の作用効果について説明する。スターリング装置は、板金製の円筒形状をした後部ケーシング30と前部ケーシング31と薄板からなる前部カバー32とによって密閉されており、この後部ケーシング30内の空間12には、圧縮ヘリウムが作動媒体として密封してある。図2において、駆動ピストン9が、リニアモータ40によって右方向に移動すると、この駆動ピストンとディスプレーサ2とに挟まれた、空間11にあるヘリウムガスは、圧縮されて高温高圧のガスになる。空間11は、前部ケーシング31内に収納した放熱部41と蓄熱部42と吸熱部43内を通じて、ディスプレーサ2の右端面と前部カバー32とで挟まれた右側空間13と連通している。したがって、ディスプレーサ2の空間13のガスも同時に高圧となり、このディスプレーサの左右空間11,13の圧力は同じになる。
【0028】
ところが、ディスプレーサ2の左側の受圧面積は、ロッド4の断面積分だけ少なくなっており、このロッド4の先端には、駆動ピストン9の左側空間12内の密封ガスの圧力が掛かっているが、この圧力は右側空間13の圧縮されたガス圧力より低い。したがって、僅かなロッド4の断面積分の差による小さな圧力差によって、ディスプレーサ2は左方向に移動し、このディスプレーサの左側空間11内にある圧縮された高温高圧ガスを、放熱部41と蓄熱部42と吸熱部43内を通して、ディスプレーサ2の右側空間13に移動する。そして、この移動に際して、高温高圧の圧縮ガスの熱は、放熱部41で外部に放熱し、蓄熱部42で吸熱され蓄熱される。
【0029】
次に、駆動ピストン9が、リニアモータ40によって左方向に移動すると、この駆動ピストンの右側とディスプレーサ2の左側とに挟まれた空間11にあるガスは膨張する。そして同時に、空間11と連通しているディスプレーサ2の右側空間13にあるガスも膨張して、低温低圧のガスになる。この場合は上記と逆に、ディスプレーサ2の右側圧力が、ロッド4の断面積分だけ左側圧力より低くなるため、このディスプレーサは、右方向に移動する。したがって、ディスプレーサ2の右側の空間13にあるガスは、吸熱部43と蓄熱部42と放熱部41とを通じて左側空間11に移動する。そしてこの移動に際して、低圧低温ガスは吸熱部43で外部から熱を吸熱し、さらに放熱部41で蓄熱されている熱を回収する。
【0030】
このようにして、冷凍機としてのスターリング装置は、駆動ピストン9をリニアモータ40によって圧縮、膨張行程を繰り返させ、ロッド4の断面積分の差圧によって、ディスプレーサ2とこの駆動ピストンとをそれぞれ往復運動させる。そして、ディスプレーサ2の往復運動によって、高圧高温ガスと低温低圧ガスを、交互に放熱部41と蓄熱部42と吸熱部43を通過させ、この放熱部で熱を外部に放出する一方、この吸熱部で外部から熱を吸熱して外部の冷凍区画を冷凍する。なお、蓄熱部42は、圧縮時にガスの熱の一部を蓄え、膨張時にこの蓄熱を回収する。したがって、冷凍機としての動作係数を高めることができる。
【0031】
さて以上説明したように、スターリング装置のディスプレーサ2は、このディスプレーサの左右空間11,13の圧力は同じであり、ロッド4の断面積分の僅かな圧力差によって往復運度を行なうものである。したがって、このような条件のもとで、シール1は次の作用効果を有する。シール1は、第1の段差2bに、保持リング3とこの段差の側面2dに挟まれて軸方向位置が拘束されるが、この段差の外周の軸方向長さより僅かに巾が狭いので、軸方向に圧縮力を受けない。一方、保持リング3の端面と第1の段差2bの側面2dとは、軸方向に垂直になっている。したがって、ピストン1の左右の圧力が過渡的に変化した場合には、その圧力差によってこのピストンの側面が一方の垂直面に密接して、このシールの側面からのガス洩れを防止する。
【0032】
また、シール1の外周は、シリンダ5の内周面5aに密接する形状になっているが、割シールリングのようにこのシリンダの内周面に圧着するものではない。したがって、シール1の外周を、シリンダ5の内周面5aに密着する直径に形成しておけば、このシリンダとの摩擦力は極めて小さくすることができ、さらに磨耗の進行も抑えることができる。一方において、上述したようにディスプレーサ2の前後空間11,13の圧力はほぼ同じであるため、シール1の外周とシリンダ5の内周5aとの僅かな隙間から洩れるガスを、極めて少量に抑えることができる。
【0033】
さらに、シール1の円形穴の内周と第1の段差2bの外周との半径方向の間隙は、想定されるシリンダ5の内周面5aとピストン部2aの外周との最大間隙より大きくしてある。一方、ディスプレーサ2自体は、ロッド4と駆動ピストン9の貫通穴に設けた軸受シール10とによって半径方向に支持される。したがって、シリンダ5の内周面5aとピストン部2aの外周との間隙をある程度大きくしておけば、ロッド4とピストン部2aとの真直度や同心度、あるいは軸受シール10の真直度や同心度等が多少ずれて、このピストン部の外周がこのシリンダの内周面の一方に偏心した場合にも、シール1が半径方向に移動することにより、このシールの外周はこのシリンダの内周に適正に密接する。
【0034】
図4に示すシール101の外周は、中央部が軸心に平行でこの中央部両端からこのシールの両側面に向けて半径を減少させた楔形状101aに形成してある。なお、この楔形状のシール101の設計については、ゼット・ピー・モールレートス(Z. P. Mourelatos)が理論および実験に基づき、1988年に発行されたアメリカ機械学会誌(ASME Paper No. 88-Trib-26)、題名:運動荷重を受ける内燃機関に使用されるシールリングを装着しないピストンのガス潤滑(Gas Lubrication of a Ringless Piston in an Internal Combustion Engine under Dynamic Loading)に公表した、理論計算手段を利用することができる。
【0035】
シール101をこのように形成すると、ディスプレーサ2が往復運動をするときに、このシール外周の両端の楔形状101aの空間にガスが圧入され、このガス圧力によってこのシールの外周がシリンダ5の内周面5aから浮揚する。したがって、シール1とシリンダ5との機械的な接触が無くなり、摩擦力は殆どゼロに減少する。
【0036】
【発明の効果】
シールの外周とシリンダの内周との間でガス洩れを防止できるので、ディスプレーサの外周とシリンダの内周との間隙を、ある程度大きく設定することができる。このため、ディスプレーサの外周とシリンダの内周との摺動面、並びにディスプレーサ、駆動ピストン及びシリンダ間相互の同心度や間隙寸法等を、高精度に仕上げる必要がなくなり、また、変形しない材料を使用するための材料費や加工費を低減できる。
【0037】
スターリング装置のディスプレーサの前後圧力差は小さいので、シールの外周をシリンダの内周に密接する寸法にしておけば、十分ガス洩れを防止できる。なお、シールの側面は圧力差によって保持リングの側面等に押し付けられるので、シールの側面からのガス洩れも防止できる。一方シールは連続リング形状であるため、割りリングのようにシリンダの内周に半径方向の圧力を負荷しない。したがってシールとシリンダとの摩擦力は極小さくなるため、ディスプレーサの往復運動に影響を与えない。また、シールとシリンダとの摺動面の磨耗も低減することができる。
【0038】
シールは、軸方向及び半径方向に拘束されないように装着されるので、半径方向にディスプレーサと相対移動できる。したがって、ディスプレーサの軸心が多少ずれても、シールの外周とシリンダの内周との密接性を保持することができるだけでなく、シールの外周がシリンダの内周に圧着力を掛けることも防止できる。また、シールの巾はそれほど広くないので、ディスプレーサの軸心が多少傾いても、シールの外周とシリンダの内周との密接性は殆ど変化しない。
【0039】
以上をまとめると、ディスプレーサの外周とシリンダの内周との間隙をある程度大きく設定することができること、及びディスプレーサの偏心によってシール外周の密接性が殆ど変化しないことにより、ディスプレーサや駆動ピストンやシリンダ間の同心度及び間隙寸法等の加工精度を緩和することが可能になり、製造コストが大幅に低減する。
【0040】
シールはシリンダの内周に圧着力を掛けないので、ディスプレーサの作動に影響を与えず、また磨耗が少ないために耐久性が向上する。シール自体は、冷凍機に使用する場合は射出形成プラスチック材、そして原動機として使用する場合はステンレス等の耐熱性金属を使用でき、加工も円筒リング形状にするだけであるので、極めて安価に製造できる。さらにシールは、保持リングによりディスプレーサの段差に装着するだけで組み付けることができるので、組立性や交換性も向上する。
【図面の簡単な説明】
【図1】 スターリング装置のディスプレーサ・シール組立の斜視構成図である。
【図2】 スターリング装置のディスプレーサ・シール組立の断面構成図である。
【図3】 スターリング装置のディスプレーサ・シール組立の拡大断面構成図である。
【図4】 スターリング装置のディスプレーサ・シール組立の拡大断面構成図である。
【符号の説明】
1,101 シール
2,102 ディスプレーサ
2a ピストン部
2b,102b 第1の段差
2c 第2の段差
3,103 保持リング
4,104 ロッド
5 シリンダ
5a,5b シリンダの内周面
9 駆動ピストン
10 軸受シール
Claims (2)
- ディスプレーサ(2)と駆動ピストン(9)とシリンダ(5)とシール(1)と保持リング(3)とを備え、
上記ディスプレーサ(2)と駆動ピストン(9)とは、上記シリンダ(5)と同心状に形成した円筒穴の内周面(5a)、(5b)に沿って、それぞれ往復運動するように構成してあり、
上記ディスプレーサ(2)は、円筒形状からなるピストン部(2a)と、このピストン部とそれぞれ同心状の段差(2b)とロッド(4)とからなり、
上記ピストン部(2a)の外周は、上記シリンダ(5)の内周面(5a)に所定の間隙で挿入可能な直径を有し、
上記段差(2b)は上記ピストン部(2a)の一端に連設してあって、このピストン部の外周より小さい直径の外周を有し、
上記段差(2b)の外周と上記ピストン部(2a)の外周端とを連ぐ側面(2d)は、軸心に垂直に形成してあり、
上記ロッド(4)は上記段差(2b)の一端に連設してあって円断面形状を有しており、
上記シール(1)は、上記シリンダ(5)の内周面(5a)に半径方向の圧着力を及ぼさない、円周上にスリットを有しないリング形状であって、その中心に円形穴を有しており、
上記シール(1)の外周は、上記シリンダ(5)の内周面(5a)に密接挿入可能な直径を有し、
上記シール(1)の円形穴の内周は、上記段差(2b)の外周に所定の間隙で装着可能な直径を有し、
上記保持リング(3)は円筒形状であって、その中心に貫通穴を有しており、
上記保持リング(3)の外周は、上記ピストン部(2a)の外周と同等の直径に形成してあり、
上記保持リング(3)の一端面(3a)は軸心に対して垂直に形成してあり、
上記ロッド(4)は、上記駆動ピストン(9)の軸心に形成した円筒穴(9a)を貫通して、この円筒穴に設けた軸受シール(10)によって半径方向を支持されており、
上記シール(1)は、上記段差(2b)の外周に装着され、
上記保持リング(3)は、上記段差(2b)に装着した上記シール(1)に軸方向圧力をかけない位置に挿設され、
上記シール(1)は、上記保持リング(3)の一端面(3a)と上記段差(2b)の側面(2d)との間で、半径方向に移動可能であるように構成してある
ことを特徴とするスターリング装置のディスプレーサ・シール組立。 - 請求項1において、前記シール(1)の外周を、中央部が軸心に平行であってこの中央部の両端からこのシールの両側面に向って直径を減少させ、前記シリンダ(5)の内周面(5a)とで楔形状の空間を形成するように形成してあることを特徴するスターリング装置のディスプレーサ・シール組立。
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