JP4011519B2 - 建築物床下のシロアリ防除構造 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、建築物床下のシロアリ防除構造に関し、さらに詳しくは、シロアリの負傷忌避本能を巧みに利用して殺虫成分を極く微量に用いるだけでシックハウス症候群の原因となるような環境汚染を伴うことなく、建築物のシロアリ食害を劇的に防止することができる新技術に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
周知のとおり、建築物の木材構造部分に対するシロアリ食害は、年々大きくなっているうえ、その被害地域も地球温暖化の影響により北へ北へと広がってゆく傾向が顕著になっている。そこで、最近、建築物を建てるに際して、床下となる敷地に様々の防蟻対策が講じられるようになってきた。
【0003】
ところで、従来における建築物床下の防蟻対策としては、次の方式が代表的である。
(1) 建築物の床下となるべき敷地の土壌に殺虫剤、例えば、ジベンジルエーテル系殺虫剤を散布することによって建築物へのシロアリの攻撃を予防する方式(特許文献1:特開平7−187913号公報の段落[0005]および[0006]参照) 。
(2) 建築物の床下地盤全面に、例えば、マイクロカプセル化した防蟻剤を固定させた防蟻シートを敷き詰めると共に、これら防蟻シートの端部間の接合部並びに防蟻シート端部と建物基礎および束石などの建物構造物間の接合部を粘着テープによって密封する方式(特許文献2:特開平5−346047号公報の
“要約”参照)。
【0004】
【特許文献1】
特開平7 −187913号公報
【特許文献2】
特開平5−346047号公報
【0005】
しかしながら、これら従来の建築物に対する防蟻対策においては、何れも揮発性の有機化合物である防蟻薬剤を相当の量使用するところから、当該建築物の中で生活あるいは長時間にわたって仕事を行う人達にシックハウス症候群を発症させることが多く、最近、深刻な社会問題となってきた。
【0006】
このような社会情勢から、建築物のシロアリ食害を有効に防止できて、しかも環境衛生的にもシックハウス症候群を引き起こすことのない健康的な建築物が求められるようになり、特許文献3(特開2001-11962号公報)に示されるような「建物の防虫構造」が提案されるに至った。
【0007】
即ち、特許文献3に開示される「建物の防虫構造」は、建築物の床下における土壌に無機物粒子を敷き詰めて床下土壌の表面にバリア層を形成してシロアリの木質部分への這い上がりを抑制しようとするものであり(特開2001-11962号公報の“要約")、無機物粒子の粒径が「例えば 0.5〜5.0 mm程度、特に 2.0mm程度…の範囲内にあれば、粒子の間隙が害虫の体の寸法より小となり、かつ害虫自体が害虫によって排除され得ないものとなるため、該害虫が物理的に通過し得なくなってその侵入が十全に防止されるようになる。特に、例えばシロアリのうちでも加害の程度がやや大きいイエシロアリの場合、 1.0〜3.0 mm程度の粒径としておくと、該シロアリの侵入を効果的防止することができる」という説明がなされている(特許文献3の段落[0012]参照)。
【0008】
【特許文献3】
特開2001−11962号公報("要約”および段落[0012])
【0009】
しかしながら、上記特許文献3記載の「建物の防虫構造」は、その段落[0012]の記載からも明らかなとおり、無機物粒子を敷き詰めることによって形成されるバリア層の粒子間隙をシロアリの虫体寸法よりも小さくして通れなくするだけの単純な発想であって、シロアリにとっては多少重いだけで実質的に砂に埋もれた状態と変わらず蟻道の築成が容易で、時間が経つ裡に蟻道を形成してバリア層に孔をあけて自由に床上の木質部に侵入してしまうのであった。
【0010】
ところで、本発明者は、長年にわたりシロアリの生態やシロアリによる建築物木造部分の食害をテーマとして研究してきた学究であって、シロアリの生態や行動本能について多数の書籍・論文発表の実績を有する。しかして、シロアリは等翅目に属する不完全変態の昆虫であり、膜翅目のアリ(蟻)と外観的にも一見よく似て多数の個体が女王の下に共同生活を営んで増殖するが、アリよりも格段に下等でシロアリの体は極めて軟弱で傷付き易く、特に胴体の負傷を嫌う。
【0011】
そして、群中のシロアリの一頭が傷付き易い環境の中に迷込んで負傷すると、その負傷シロアリの危険情報は他のシロアリに伝播して、負傷した場所に近づくことを警戒する負傷忌避の性向がある。そこで、本発明者は、かゝるシロアリの負傷忌避性向をシロアリ防除に利用すべく種々の試行錯誤的な工夫研究を開始した次第である。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
即ち、本発明は、殺虫剤を使用するところの建築物の防蟻技術には環境汚染やシックハウス症候群の発症という弊害があり、また無機物のバリア層を形成してシロアリを物理的に撃退しようとする建築物の防蟻技術にはシロアリが本能的に形成する蟻道によって通過されてしまうといった従来の欠点に鑑みて為されたものであり、その目的とするところは、シロアリの負傷忌避本能を巧みに利用して殺虫成分を極く微量の用いるだけでシックハウス症候群の原因となるような健康傷害を誘発することがなく、シロアリが床下から建築物の木質部分への這い上りを確実に防止できる画期的な建築物床下のシロアリ防除構造を提供するにある。
【0013】
また、本発明の他の目的は、施工作業が簡易にして工期を大幅に短縮化でき、しかも工費も極端に低減化することができる経済的な建築物床下のシロアリ防除構造を提供するにある。
【0014】
さらに、本発明の他の目的は、防蟻性能の有効期間が従来の防蟻技術に比較して非常に長く、しかも地下水・河川湖水の化学汚染も引き起こす危険もない安全かつ有効な建築物床下のシロアリ防除構造を提供するにある。
【0015】
そこで、本発明者が上記の目的を達成するために採用した手段を、添附図面に参照して説明すれば、次のとおりである。
【0016】
【課題を解決するために採用した手段】
即ち、本発明「建築物床下のシロアリ防除構造」は、尖角形状のガラス薄片1に微量の防蟻成分を付加し、これを建築物Hの床下Sに所要の厚さに堆積させて防蟻バリアBを形成することを要旨とするものであり、具体的には、次の形式が含まれる。
(a) 建築物Hにおける床下Sの地面G全域にわたり、防蟻成分を帯有させた尖角形状のガラス薄片1'、又は尖角形状のガラス薄片1と防蟻成分とを含有した防蟻粒材2とを堆積状態に敷詰め全面層状の防蟻バリアBを形成する方式。この場合には1〜2cm程の層厚にて十分シロアリによる防蟻バリアの貫通を防止でき、それより分厚く防蟻バリアを形成する必要はない。
(b) 建築物Hにおける床下Sのシロアリが這い上るべき束石Fおよび布基礎Cに沿って、防蟻成分を帯有させた尖角形状のガラス薄片1a、又は尖角形状のガラス薄片1と防蟻成分とを含有した防蟻粒材2とを堆積させて防蟻バリアBを形成する方式。この場合には、束石・布基礎に沿って2〜3cm程の厚さの防蟻バリアを形成するものとする。この場合においても、それ以上の層厚は防蟻性能の向上に関係ない。
【0017】
次に、本発明構造において使用する上記の材料について注釈しておくと、次のとおりである。
(1) 尖角形状のガラス薄片1としては厚さが約2mm以下の薄肉ガラス、例えば、注射のアンプル,試験管,蛍光灯や電球を粉砕し、2〜8mmのサイズの破片を篩分けしたものを使用するものとする。
尖角形状のガラス薄片1を製する場合においては、特別に薄肉の板ガラスを作り、これを破砕して尖角形状のガラス薄片1を成形することも可能であるけれども、使用済の廃品であるアンプル,試験管,蛍光灯や電球を用いれば資源のリサイクルともなり、省資源的で経済的である。
(2) 本発明においては、上記尖角形状のガラス薄片1’に防蟻成分を帯有させて使用してもよい。ガラス薄片に防蟻成分を帯有させるには、例えばシロアリに有効な天然・合成殺虫剤を付着させるか、あるいは無機金属塩系の殺虫性金属化合物(モリブテン酸ナトリウム、モリブテン酸カリウム、タングステン酸ナトリウム、タングステン酸カリウム等=本件発明者の特許 2813236号公報参照)をガラス薄板の製造の際に混入させればよい。
(3) 防蟻成分を含有させるべき粒材2の素材としてはシリカゲル,ゼオライト,シラス,珪藻土,活性炭,その他多孔セラミックなど従来周知の多孔質粒子を採択することが可能である。
(4) 上記の粒材に含有させる防蟻成分は、天然の防蟻成分としては台湾ヒノキや青森ヒバ、あるいは北米のウェスタンレッドシダ等から抽出されるヒノキチオール,ヒバ油,除虫菊からピレトリンなど周知の天然殺虫剤を採用でき、合成殺虫剤としては従来周知の有機リン系殺虫剤,カーバメート系殺虫剤,クロルチアニジン系殺虫剤,ピレスロイド系殺虫剤の中から適宜採択することができる。さらに、シロアリに有効な殺虫性の金属化合物として、前述ののほか、ネオニコチノイド系化合物、ピレスロイド系化合物、ピレスロイド様化合物、チアメトキサム系化合物、アセタプリド系化合物、イミダプリド系化合物、ジノテフラン系化合物、キトサンの金属錯塩(例えば、Cu,Ag,Znなどの錯塩)も採択することができる。
(5) 上記(2) の粒材に(3) の防蟻成分を含有させるには、前述の天然・合成殺虫剤を溶解した所定濃度の殺虫液を調製し、その中に粒材を浸漬して含浸させてから、乾燥処理させる等、使用薬剤の性質に応じて従来周知の方法を適宜選択して採用することができる。
(6) 尖角形状のガラス薄片1と防蟻性成分とを含有した防蟻粒材2とは混合して堆積させることも可能であるが、ガラス薄片1を堆積させたガラス堆積層1aと、防蟻粒材2を堆積させた粒材層2aとを積層して防蟻バリアBを形成するのが、防蟻粒材2の偏在を防げるので望ましい。
(7) さらに、本発明においては、尖角形状のガラス薄片と防蟻性成分を含有した防蟻粒材とを堆積させた防蟻バリアB、または防蟻成分を帯有した尖角形状のガラス薄片1’を堆積させた防蟻バリアBの上には、セメント・モルタルや、アスファルトなどを塗装して硬質被覆層を形成することも防蟻対策上、非常に有効である。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好ましい実施の形態を図示する添附図面に準拠して、本発明の具体的内容を更に詳しく説明する。
【0019】
〔第1実施形態〕
図1は、本発明の第1実施形態としての“建築物床下のシロアリ防除構造”の概要を図示した説明図である。図1において、符号Cは布基礎、符号Fは束石を表わし、布基礎Cの上にはゴム状基礎パッキンを挟んで“土台”が敷設され、この土台の上に所要の間隔で柱が立設され、また、前記束石Fには前記同様の基礎パッキンを挟んで床束が立てられ、その上には“大引き”が横架されると共に、この大引きに直交する如く“根太”が前記土台に付設された“根太掛け”を介して横架されることにより床下Sの上方に当該建築物Hの床組が構築される。しかして、図1において土台,柱,床束,大引き,根太,根太掛けは何れも木材が使用されるので、シロアリに食害される危険が高い。
【0020】
本発明の第1実施形態においては、厚さ 0.5mmの蛍光灯バルブを破砕して平均3〜4mmサイズに篩分けした尖角形状のガラス薄片1(かさ比重=0.9)を、建築物Hの床下の地面Gの全面にわたり散布して敷き詰め、厚さ6mmのガラス堆積層1aを堆積させる。そして、このガラス堆積層1aの全面に防蟻成分を含有する防蟻粒剤2を散布して厚さ3mmの粒材層2aを堆積させ、この粒材層2aの全面に尖角形状のガラス薄片1を被せて厚さ14mmのガラス堆積層1aを堆積させれば、防蟻バリア層B(ガラス堆積層1a−粒材層2a−ガラス堆積層2a)が当該床下Sの地面G全面を被覆ガードしてシロアリの侵入を阻止することになる(なお、本実施形態においては、布基礎Cの外側の“犬走り”部分にも同じ構造の防蟻バリアBが形成してある)。
【0021】
しかして、上記第1実施形態のように尖角形状のガラス薄片1を床下地面Gの全面に敷き詰めてガラス堆積層1aを形成しておくと、当該床下の地中に棲息しているシロアリが床下から上方へ這い上がろうとしても、胴体の皮殻が薄く柔らかなシロアリはガラス薄片1の刃物のように鋭く尖った角に接触して負傷することになるので、その経験が忌避本能を刺戟して侵攻への抵抗となる。しかも、本実施形態においては、前記ガラスガラス堆積層1aに加えて、防蟻粒材3を堆積させた粒材層2aより微かながらも防蟻成分がベーパーしているので、シロアリを強く畏怖せしめ、当該建築物Hの木質部への侵攻を完全に阻止することができるのである。
【0022】
なお、本実施形態においては、防蟻粒材2の担持素材として、平均粒径が3〜4mmのシリカゲル(富士シリシア化学株式会社:CARiACT G−3)に、防蟻薬剤としてアセタミプリドを 1 ppmとシラフルオーフェンを 3 ppmとを含浸させたものを使用した。
【0023】
〔第2実施形態〕
図2は、本発明の第2実施形態としての“建築物床下のシロアリ防除構造”の概要を図示した説明図である。第2実施形態における建築物Hおよび当該建築物における布基礎C、束石、および床組の構造は、前述した第1実施形態の場合と全く同じである。
【0024】
第2実施形態が前述の第1実施形態と異なる点は、建築物Hにおける床下Sのシロアリが這い上る通路となり易い束石Fおよび布基礎Cに沿って、尖角形状のガラス薄片1と、防蟻成分を含有した防蟻粒材2とを帯状(厚さ=3cm、幅=5cm) に堆積して防蟻バリアBを形成している。
【0025】
この第2実施形態においては、床下Sの中央域には防蟻バリアBが存在しないので、シロアリは地表までは這い出てくることは可能である。しかし、上方に位置する建築物Hの木質部に侵攻しようとしても、伝い上るべき足掛かりがないので、それ以上進むことができず、また、シロアリが布基礎Cや束石Fの根際に形成された防蟻バリアBの上面を移動しようとしても、その上面のガラス堆積層1aには尖ったガラス薄片1が刺々しく無数に並んでいるので、皮殻が薄くて柔らかなシロアリは忽ちに負傷してしまうのに加え、防蟻成分を含有した粒剤層2aの臭いがシロアリの危機本能を追打ち的に刺戟することになり、シロアリは怯えて引き返さざるを得なくなるのである。それゆえ、この第2実施形態のシロアリ防除構造によっても、建築物をシロアリ食害から効果的に防ぐことができるのである。
【0026】
〔第3実施形態〕
図3は、本発明の第3実施形態としての“建築物床下のシロアリ防除構造”の概要を図示した説明図である。第3実施形態における建築物Hおよび当該建築物における布基礎C、束石、および床組の構造も、前述した第1実施形態の場合と全く同じである。
【0027】
第3実施形態が前述の第1実施形態と異っている点は、床下Sの地面Gの全面にわたり敷き詰めて防蟻バリアBを形成しているガラス薄片1と防蟻粒材2とが混合状態で堆積していることである。
【0028】
第3実施形態に使用するガラス薄片1は、第1実施形態と同じ蛍光灯バルブを破砕して平均3〜4mmサイズに篩分けした尖角形状のガラス薄片であり、防蟻粒剤2としてはヒノキチオールを含有するシロアリ防除用砂(株式会社トピックス製=「ターマイトストーン」)とヒバ油を含有したシロアリ防除砂(トピックス社製=「ターマイトサンド」)とを混ぜて使用している。そして、ガラス薄片1と前記「ターマイトストーン」と「ターマイトサンド」との混合比は、体積比が(ガラス薄片)90:(ターマイトストーン)5:(ターマイトサンド)5の割合で均等に混合させたものを使用した。
【0029】
しかして、この第3実施形態も、上記第1実施形態と同様に尖角形状のガラス薄片1が高密度で床下地面Gの全面を覆っているので、地中に棲息するシロアリが防蟻バリアBを突き破って床下から上方へ這い上がろうにも、尖ったガラス薄片の刃物のように鋭い角部がシロアリの薄く柔らかい皮殻に突き刺さって負傷させるので、シロアリは防蟻バリアBに孔を開けることができないのに加え、当該防蟻バリアにはヒノキチオールを含有した商品名「ターマイトストーン」とヒバ油を含有した「ターマイトサンド」が混合されているので、其処から発せられる臭いにも敏感に忌避反応して、シロアリは退散を余儀なくされることになるのである。しかも、第3実施形態において防蟻粒剤2に含有されるヒノキチオールとヒバ油は何れも、自然界おいて生育した木材から抽出した天然の防蟻成分であって人間には全く害にならず、却って心身の状態を改善する健康増進の効能があるので、最近問題になっているシックハウス症候群の心配は皆無である。
【0030】
〔第4実施形態〕
図4は、本発明の第4実施形態としての“建築物床下のシロアリ防除構造”の概要を図示した説明図である。第4実施形態における建築物Hおよび当該建築物における布基礎C、束石、および床組の構造も、前述した第1実施形態の場合と全く同じである。
【0031】
第4実施形態に使用するガラス薄片1'は、第1実施形態と同じ蛍光灯バルブを破砕して平均3〜4mmサイズに篩分けした尖角形状のガラス薄片を基材としており、これらガラス薄片1'の表面には微量(3ppm)の有機リン系の殺虫剤「ホキシム」が付着してある。ちなみに、ガラス薄片1'の表面にホキシム(図示せず)付着させるには、ホキシムと界面活性剤とを混合して水に分散させて乳液状に調製し、これに尖角形状のガラス薄片を投入して乾燥させれば簡単に得られる。また、他の方法としては、ホキシムを溶かした溶剤中にガラス薄片を投入してから溶剤のみを揮散させることによっても得ることができる。
【0032】
こうして調製されたガラス薄片1'を、床下Sの地面Gの全面にわたり敷き詰めればガラス堆積層1a’が形成されると同時に、床下地面Gの全面に防蟻バリアBも形成されるので、非常に施工性が良好である。
【0033】
しかして、第4実施形態は、図4のように建築物Hの床下Sに防蟻成分を付着させたガラス薄片1'を層状に堆積させるだけでも施工することができるが、図5に示すにようにガラス薄片1'を層状に堆積させたガラス堆積層1a’の上にモルタル層Mを塗装するならば理想的である。
【0034】
〔第5実施形態〕
図5は、本発明の第5実施形態としての“建築物床下のシロアリ防除構造”の概要を図示した説明図である。第5実施形態における建築物Hおよび当該建築物における布基礎C、束石、および床組の構造も、前述した第1実施形態の場合と全く同じであるが、本実施形態にあってはシロアリが這い上る通路となり易い束石Fおよび布基礎Cに沿って、尖角形状のガラス薄片1'を帯状(厚さ=3cm、幅=5cm) に堆積させてガラス堆積層1a' を形成している点に差異がある。なお、図5において束石Fおよび布基礎Cに沿って堆積するガラス薄片1'としては、第4実施形態の場合と同様に平均3〜4mmサイズに篩分けした得た尖角形状のガラス薄片に微量(3ppm)の有機リン系の殺虫剤「ホキシム」を防蟻成分として付着させたものを用いている。
【0035】
そして、図5に示す第5実施形態においては、束石Fと布基礎Cの周辺以外における床下地面Gの上に、防蟻成分を含んでいないガラス薄片1を上記ガラス堆積層1a' と同じレベルに堆積させてガラス堆積層1aを形成し、これらガラス堆積層1a' とガラス堆積層1aの上に、更にモルタル層Mが塗装されている。
【0036】
しかして、第5実施形態の束石Fと布基礎Cの周辺以外における床下地面Gの上に散布堆積される防蟻成分を含んでいないガラス薄片1もまた、蛍光灯バルブを破砕して平均3〜4mmサイズに篩分けして得たものが使用される。
と、防蟻成分を含有した防蟻粒材2とを帯状(厚さ=3cm、幅=5cm) に堆積して防蟻バリアBを形成している。
【0037】
〔実 験 例〕
次に、本発明の第1〜第3実施形態において使用した尖角形状のガラス薄片1のシロアリ斜断性能を、無機物粒子(特許文献3の段落[0011]:岩石、スラグ、ガラス、陶磁器…を粉砕して粒状に調製してなるもの。段落[0012]粒径:0.5 〜5.0mm)、および川砂(粒径:0.24〜0.6mm)と比較実験した。図7は、その実験に用いた装置の概要を示しており、右側には腐葉土Lmを収容してシロアリ培養瓶31(符号Tは、シロアリを示す);左側にはマツ材の削り屑Wsを収容した木屑瓶32;前記シロアリ培養瓶31と木屑瓶32との間に連通状態に繋いで、内部には前述のガラス薄片1、無機粒子、および川砂の何れかが収容される移動管33(内径=1.5cm 、長さ=5cm)とから構成されており、これらシロアリ培養管31、木屑瓶32、および移動管33は何れも透明なガラスにより成形されている。なお、図8の図面代用写真は、本実験で実際に使用した実験装置のカラー写真である。
【0038】
本実験では、3台の実験装置3を用い、腐葉土Lmを収容した各々のシロアリ培養瓶31にはイエシロアリの働きアリを 150頭と兵アリ50頭とを培養している。そして、第1の実験装置における移動管33には厚さ 0.5mmの蛍光灯バルブを破砕して2〜5mmに篩分けした尖角形状のガラス薄片を収容し(実験A)、第2の実験装置の移動管33には粒径が 0.5〜5.0mm の上記特許文献3の公知技術で使用されたと目される無機物粒子を収容し(実験B)、第3の実験装置における移動管33には粒径が0.24〜0.6mm の川砂を収容して(実験C)、各々の移動管33・33・33における前記シロアリの行動を観察してところ、次に掲げる結果が得られた。なお、本実験におけるシロアリ貫通試験は、社団法人日本木材保存協会、ならびに社団法人日本しろあり対策協会で共通規格として定められた試験方法に準拠して、京都大学「木質科学研究所」において実施したものである。
【0039】
(1) [実験A] 実験Aでは、21日の期間中、シロアリが木屑瓶に向ってガラス薄片の密集する移動管内を進行できた距離は 10mm 弱であった。
「木質科学研究所」の評価:穿孔度 1(図9の図面代用写真を参照)。
(2) [実験B] 実験Bでは、シロアリは無機粒子の密集する移動管内を21日の期間内に40〜50mmもの距離を貫通した。
「木質科学研究所」の評価:穿孔度 4(図10の図面代用写真を参照)。(3) [実験C] 実験Cでは、シロアリは川砂の密集する移動管内を50mmの距離を唯の1日で貫通してしまい、2日で木屑瓶内のマツ削り屑を食し始めた。
「木質科学研究所」の評価:穿孔度 5(図11の図面代用写真“移動管の上端部付近”を外して撮影したもの)。
【0040】
上記の実験Bによれば、シロアリは粒径 0.5〜5.0mm の無機物粒子が堆積した厚さ5cmの無機物粒子堆積層を21日で突破貫通してしまうことを示しており、そのことは特許文献3に提案される「建物の防虫構造」では防蟻効果が不完全であることを顕著に示している。また、上記の実験Cにおける川砂は、前記無機物粒子を組成する岩石粉砕物と実質的に同じであり、シロアリにとって何らの障害物にもならないことは学問上の常識である。
【0041】
これに対し、上記の実験Aの場合にあっては、21日の期間中に 10mm 弱しかガラス薄片の堆積層の中を進行できない。もっとも、単純計算によれば、移動管は5cm(= 50mm)であるから、105日ほどの日数が経過すると当該ガラス薄片の堆積層でもシロアリは貫通してしまいように思えよう。しかし、尖角形状のガラス薄片が密集したガラス堆積層の中は、各々のガラス薄片の刺々しく鋭い尖角に満ちているので、これに当面したシロアリは全身を負傷し、負傷した場所に近づくことに危険本能を刺戟されて負傷忌避性向を示すようになるから、穿孔速度は“0”に近いまでに遅延することになる。そして、本発明においては、尖角形状のガラス薄片によるガラス堆積層に加えて、防蟻成分を含有する防蟻粒材を併用する構成を採用しているから、そのシロアリ防除効果は非常に大きくなり、しかも使用する防蟻成分の絶対量は極めて微量で足り、従来の建築物の防蟻処理に使用される防蟻薬剤の量と比較すると、1/10〜1/100 で十分に足りる。
【0042】
本明細書に具体的に例示した本発明の実施形態、および実験例は前述のとおりであるが、本発明は前述の実施形態に限定されるものでは決してなくて、「特許請求の範囲」の記載内において種々の変更実施が可能であり、例えば次のような事例が本発明の技術的範囲に属することは云うまでもない。
(1) 本明細書に例示した実施形態例においては、防蟻成分として、合成殺虫剤と天然殺虫剤とを併用する事例は具体的に挙げていないが、合成殺虫剤と天然の殺虫剤とを同一の多孔性粒子に含有させたり、合成殺虫剤と天然の殺虫剤とを別々の多孔性粒子に含有させて使用時に調合して用いることも、本発明の実施形態の変形例としては当然に予測の範囲に属する。
(2) また、前述の第1実施形態では、ガラス堆積層1aの間に粒材層2aを1層だけしか形成していないが、粒材層2aを何層も設けるのも自由である。しかし、粒材層2aを多くすると、防蟻成分の絶対量が多くなるので、居住者にシックハウス症候群を誘発させない限度内に止めることが肝要である。
(3) 前述の第1実施形態〜第5実施形態は何れも、床下の地盤が土壌の場合を想定して説明しているが、土壌でなくとも、コンクリートスラブの上にでも適用が可能であり、また、布基礎や束石、床束を使用しない置床構造の建築物にも適用が可能である。
【0043】
【発明の効果】
以上説明したとおり、本発明にあっては、皮殻が薄く柔らかで軟弱であるというシロアリの形態的特徴に着目し、建築物の床下に尖角形状のガラス薄片と防蟻性成分を含有した防蟻粒材とを所要の厚さに堆積せしめて防蟻バリアを形成するという仕組みを採用したので、その施工作業は非常に簡易であって、工期も大幅に短縮化することができ、しかも工費も非常に安く「建築物床下のシロアリ防除構造」提供することが可能となる。
【0044】
また、本発明のシロアリ防除構造は、シロアリの虫体に傷害を与え易い尖角形状のガラス薄片を巧みに併用して、シロアリの負傷忌避本能を効果的に刺戟する防蟻バリアを床下に形成しているので、合成殺虫成分を使用するとしても極めて微量で足りて居住者にシックハウス症候群を誘発させるような健康傷害を与える憂いもなく、しかも地下水・河川湖水の化学汚染を引き起こす危険もなく、さらには防蟻性能の有効期間も当該建築物の耐用年数を優に越えて長期に亙って効果を発揮し続けるので、建築物の防蟻技術としては実に理想的である。
【0045】
さらに、本発明のシロアリ防除構造に使用するガラス薄片は、もちろんガラスの薄板を作製して破砕することによっても可能であるが、現代の産業構造の下で日々大量に廃棄されてくる蛍光灯バルブ、白熱電球、注射のアンプルなどを破砕して再利用することも可能であるので、供給量としても十分であり、頗る省資源的である。
【0046】
このように本発明によれば、従来における建築物の床下防蟻技術の難点を悉く解消することが可能であるにも拘わらず、構造は頗る簡素で施工は容易、それに使用する材料も極めて安価であって、その産業上の利用価値は頗る大きい。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、本発明の第1実施形態である“建築物床下のシロアリ防除構造”の概要を図示した説明図である。
【図2】図2は、本発明の第2実施形態である“建築物床下のシロアリ防除構造”の概要を図示した説明図である。
【図3】図3は、本発明の第3実施形態である“建築物床下のシロアリ防除構造”の概要を図示した説明図である。
【図4】図4は、本発明の第4実施形態である“建築物床下のシロアリ防除構造”の概要を図示した説明図である。
【図5】図5は、第4実施形態の変形例であって、“建築物床下のシロアリ防除構造”にモルタル層を形成した構造説明図である。
【図6】図6は、本発明の第5実施形態である“建築物床下のシロアリ防除構造”の
概要を図示した説明図である。
【図7】図7は、本発明におけるガラス薄片の堆積層に関するシロアリ斜断性能の比較実験に使用した実験装置の説明図である。
【図8】図8は、本発明の比較実験で実際に使用した実験装置の図面代用写真(カラー写真)である。
【図9】図9は、実験Aの状態を表わす図面代用写真である。
【図10】図10は、実験Bの状態を表わす図面代用写真である。
【図11】図11は、実験Cの状態を表わす図面代用写真である。
【符号の説明】
1 ガラス薄片
1' 防蟻成分を帯有させた尖角形状のガラス薄片
1a ガラス堆積層
1a’ 防蟻成分を帯有するガラス薄片で形成されたガラス堆積層
2 防蟻粒材
2a 粒材層
3 実験装置
31 シロアリ培養瓶
32 木屑瓶
33 移動管
B 防蟻バリア
C 布基礎
F 束石
G 地面
H 建築物
Lm 腐葉土
M モルタル層
S 床下
T シロアリ
Ws スギ材の削り屑
Claims (13)
- 建築物における床下に、尖角形状のガラス薄片と防蟻性成分を含有した防蟻粒材とを所要の厚さに堆積せしめて防蟻バリアを形成したことを特徴とする建築物床下のシロアリ防除構造。
- 建築物における床下の地面全域にわたり、尖角形状のガラス薄片と防蟻成分を含有した防蟻粒材とを堆積状態に敷き詰め層状の防蟻バリアを形成したことを特徴とする建築物床下のシロアリ防除構造。
- 建築物における床下のシロアリの這い上るべき束石および布基礎に沿って、尖角形状のガラス薄片と防蟻成分を含有した防蟻粒材とを堆積させ防蟻バリアを形成したことを特徴とする建築物床下のシロアリ防除構造。
- 建築物における床下の地面全域にわたり、防蟻成分を帯有した尖角形状のガラス薄片を堆積状態に敷き詰め層状の防蟻バリアを形成したことを特徴とする建築物床下のシロアリ防除構造。
- 建築物における床下のシロアリの這い上るべき束石および布基礎に沿って、防蟻成分を帯有した尖角形状のガラス薄片を堆積させ防蟻バリアを形成したことを特徴とする建築物床下のシロアリ防除構造。
- 尖角形状のガラス薄片として、2〜8mmほどのサイズに粉砕したアンプル、試験管、蛍光灯・電球など薄肉ガラス成形物の破片を使用する
ことを特徴とする請求項1〜5の何れか一つに記載の建築物床下のシロアリ防除構造。 - 防蟻成分として、シロアリ防除に有効な天然殺虫剤、及び/又は合成殺虫剤を使用することを特徴とする請求項1〜6の何れか一つに記載の建築物床下のシロアリ防除構造。
- 防蟻成分として、ネオニコチノイド系化合物、ピレスロイド系化合物、ピレスロイド様化合物、チアメトキサム系化合物、アセタプリド系化合物、イミダプリド系化合物、ジノテフラン系化合物、キトサンの金属錯塩の中から選択される少なくとも一種を使用することを特徴とする請求項1〜6の何れか一つに記載の建築物床下のシロアリ防除構造。
- 防蟻成分を含有する防蟻粒材として、ヒノキチオールを含有して徐放する無機質の多孔性粒子を使用することを特徴とする請求項1〜3の
何れか一つに記載の建築物床下のシロアリ防除構造。 - 尖鋭形状のガラス薄片が堆積して形成されたガラス薄片層の間に、防蟻成分を含有した防蟻粒材を少なくとも一層介在せしめたことを特徴とする請求項1〜3および請求項6〜8の中の何れか一つに記載された建築物床下のシロアリ防除構造。
- 尖鋭形状のガラス薄片と防蟻成分を含有した防蟻粒材とを混合して堆積せしめることを特徴とする請求項1〜3および請求項6〜8の中の何れか一つに記載された建築物床下のシロアリ防除構造。
- 尖鋭形状のガラス薄片が堆積して形成されたガラス薄片層の上に、防蟻成分を含有した防蟻粒材を積層させることを特徴とする請求項1〜3および請求項6〜10の中の何れか一つに記載された建築物床下のシロアリ防除構造。
- 尖角形状のガラス薄片と防蟻性成分を含有した防蟻粒材とを所要の厚さに堆積せしめて形成した防蟻バリア、又は防蟻成分を帯有した尖角形状のガラス薄片を堆積状態に敷き詰めて形成した防蟻バリアの上にモルタル、アスファルトなどで形成した硬質被覆層を形成することを特徴とする請求項1〜12の中の何れか一つに記載された建築物床下のシロアリ防除構造。
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