JP4004691B2 - 金具付きゴム製品の製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【技術分野】
本発明は、鉄材質からなる金具にゴムを一体的に加硫接着せしめてなる、金具付きゴム製品の製造方法に係り、特に、その金具における錆乃至は腐食の発生が効果的に防止され得ると共に、そのような金具とゴムとの接着性に優れる金具付きゴム製品を、有利に製造する方法に関するものである。
【0002】
【背景技術】
従来から、強度に優れる鉄鋼材を用いて、所定形状の金具を形成し、そしてそのようにして形成された鉄材質からなる金具(鉄製金具)に対して、弾性特性を有する所定のゴムを一体的に加硫接着せしめてなる金具付きゴム製品が、各種の分野において、広く用いられている。例えば、自動車等の車両や機械設備などにおいては、振動或いは衝撃伝達系の部材間に介装されて、防振性乃至は緩衝性を発揮する防振ゴムとして、そのような鉄製金具及びゴムにて構成される製品が、好適に採用されており、信頼性や耐久性の向上等が図られているのである。そして、このような金具付きゴム製品においては、一般に、それを構成する鉄製金具の防錆乃至は防食を目的として、その金具の表面に所定の塗装を施すことが、求められている。
【0003】
ところで、そのような金具表面に塗装が施されてなる金具付きゴム製品を得る方法としては、従来より、各種の手法が提案されてきており、そのうちの一つとして、特公昭59−51905号公報には、脱脂処理、次いでリン酸亜鉛皮膜処理を実施した後、エポキシ系カチオン形電着塗料を用いて電着塗装を施し、更に焼付乾燥を行なうことにより得られた金具に対して、ゴムを加硫接着せしめて、目的とする金具付きゴム製品を形成する技術が、明らかにされている。
【0004】
しかしながら、かかる公報に記載の手法にあっては、加硫接着後に常温乾燥型塗料を用いて塗装を行なう従来の手法に比して極めて高い耐蝕性能を発揮する塗膜を、ゴムの熱劣化等の不具合を惹起することなく、金具表面上に形成して、その金具に有効な防錆乃至は防食機能を付与せしめ得るという利点を有しているのであるが、特公平4−55589号公報にも明らかにされているように、かかる手法にて作製された金具付きゴム製品にあっては、特に100℃以上の高温中では、金具の皮膜表面と、その上に形成された塗膜との密着性が悪化してしまい、そのために、金型を用いた加硫接着操作後において製品を高温下で脱型する際や、高温環境下での使用時等において、製品に応力が掛かると、金具とゴムとの接着剥離が惹起される恐れがある等の問題を内在しているのであり、そのために、製品不良が発生して、歩留りが低下したり、その用途が著しく限定されるといった問題があったのである。
【0005】
【解決課題】
かかる状況下、本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、カチオン形電着塗料を用いた電着塗装を行なうに先立って、鉄製金具に対して、所定の化成皮膜処理を施し、更にシランカップリング剤を用いた後処理を実施することによって、それら処理及び塗装が施されてなる金具とゴムとの加硫接着操作にて得られる金具付きゴム製品において、金具の化成皮膜表面と塗膜との密着性が、効果的に改善され得ることを、見い出したのである。
【0006】
従って、本発明は、かかる知見に基づいて完成されたものであって、その解決課題とするところは、鉄材質からなる金具(鉄製金具)に所定のゴムを一体的に加硫接着せしめてなる金具付きゴム製品にして、その鉄製金具において防錆乃至は防食機能を良好に発揮し得ると共に、そのような金具とゴムとの接着性に優れる金具付きゴム製品を、有利に製造することにある。
【0007】
【解決手段】
そして、本発明にあっては、そのような課題を解決するために、鉄材質からなる金具にゴムを一体的に加硫接着せしめてなる金具付きゴム製品を製造する方法にして、前記金具に対して所定の化成皮膜処理を実施した後、シランカップリング剤による後処理を施し、次いでカチオン形電着塗料を用いた電着塗装を行ない、そしてその得られた電着塗装金具に対して、所定のゴムを加硫接着せしめることを特徴とする金具付きゴム製品の製造方法を、その要旨とするものである。
【0008】
すなわち、この本発明に従う金具付きゴム製品の製造方法にあっては、鉄材質からなる金具(鉄製金具)と所定のゴムとの加硫接着操作に先立って、金具に対して、特定の2種類の処理、具体的には、リン酸亜鉛系化成処理剤を用いた化成皮膜処理とシランカップリング剤を用いた後処理とを、この順序で実施した後、それらの処理が施された金具にカチオン形電着塗料を用いた電着塗装を行なうところに、大きな特徴を有しているのである。
【0009】
要するに、このような本発明手法にあっては、鉄製金具とゴムとの加硫接着の前に、その金具にカチオン形電着塗料を用いた電着塗装を行なうものであることから、その塗装作業によりゴムに何等影響を与えることなく、極めて有効な耐蝕性能を奏し得るカチオン塗膜を形成することが出来ることは、勿論のこと、そのような電着塗装に先立ち、金具に対して、先ず、所定の化成皮膜処理を施して化成皮膜を形成し、その後において、更に、シランカップリング剤による後処理を実施する、換言すれば、シランカップリング剤による処理を、所定の化成皮膜処理と電着塗装の間において行なうことによって、金具における化成皮膜表面と電着塗装にて形成されるカチオン塗膜との密着性を飛躍的に向上し得るという効果を発揮するものなのであり、それによって、100℃以上の高温状態下においても、かかる密着性が充分に確保され得ることとなったのである。
【0010】
従って、かくの如き本発明に従う金具付きゴム製品の製造方法によれば、上述せる如く、優れた耐蝕性能を有するカチオン塗膜の形成と、金具(皮膜表面)と塗膜との密着性の向上とを共に実現し得るところから、金具における優れた防錆乃至は防食性能と、金具とゴムとの良好なる接着性とを、温度や使用環境条件等に大きな影響を受けることなく、両立して達成し得る金具付きゴム製品を、高い歩留りにおいて、有利に製造することが出来るのであり、しかも、その得られる製品にあっては、極めて汎用性の高いものとなっているのである。
【0011】
また、本発明に従う金具付きゴム製品の製造方法によれば、化成皮膜処理として、リン酸亜鉛系化成処理剤を用いた化成皮膜処理手法採用することによって、細かな粒子からなる緻密な化成皮膜を極めて有利に形成することが出来るのであり、その結果として、最終的に得られる製品において、金具とカチオン塗膜との密着性が著しく高められ得、以て、金具とゴムとの間において、一段と優れた接着性が有利に実現され得ることとなるのである。
【0012】
なお、本発明に従う金具付きゴム製品の製造方法の好ましい態様の一つにおいては、前記化成皮膜処理に先立って、前記金具に対して、表面調整処理が実施されることとなる。かくの如く、鉄製金具に対して表面調整処理を実施した後に、化成皮膜処理を行なうことによって、金具表面において、目的とする化成皮膜を綺麗に且つ緻密に形成することが出来るのであり、それ故に、金具とカチオン塗膜との密着性、ひいては、金具とゴムとの接着性が、より一層効果的に向上され得るのである。そして、本発明においては、かかる表面調整処理の後に、前述の如く、化成皮膜処理としてリン酸亜鉛系化成処理剤を用いた皮膜処理を実施するものであって、それにより、更に一層緻密で且つ綺麗な皮膜の形成が、可能となるのである。
【0013】
【発明の実施の形態】
ここにおいて、かくの如き本発明手法は、例えば、図1に示されるような、互いに対向配置された鉄材質からなる円盤型の鉄製金具2,2の間において、厚肉円盤形状のゴム4が、それら鉄製金具2,2に加硫接着せしめられ、以て、鉄製金具2,2を相互に連結するようにして介装されてなる、金具付きゴム製品としての防振ゴム6の製造に、有利に適用されることとなるのである。
【0014】
すなわち、先ず、適当な鉄鋼材から圧延等の各種の手法にて作製された鉄製金具2,2に対して、本発明に従って、必須の2種類の処理として、化成皮膜処理、及びシランカップリング剤による後処理を順に実施し、更に、かくして2つの処理が施された鉄製金具2,2に、カチオン形電着塗料を用いたカチオン形電着塗装を行なった後において、かかる鉄製金具2,2に対して、所定のゴム4を加硫接着せしめることによって、所望の特性を奏し得る防振ゴム6が形成されるのである。なお、この本発明に従って製造される防振ゴム6は、振動伝達系や衝撃伝達系を構成する2つの部材間に介装せしめられることにより、所期の防振乃至は緩衝性能を発揮するものであって、図1において、8は、そのような所定の2つの部材のそれぞれに、防振ゴム6の鉄製金具2,2を各別に取付,固定せしめるための取付ボルトである。
【0015】
より具体的には、かかる本発明に従う防振ゴム6の製造における、必須の処理のうちの一つとしての化成皮膜処理は、従来より鉄材質の化成皮膜処理手法としてよく知られている各種の手法を適宜に用いて、実施されるものであって、例えば、浸漬処理法に基づいて、所定の化成処理剤からなる処理浴中に鉄製金具2を直接に浸漬せしめたり、或いは、スプレー噴射や刷毛乃至はブラシ塗り等により、化成処理剤を鉄製金具2の表面に接触せしめる等して、鉄製金具2の素地表面に化成皮膜を形成するのであり、これにより、前記カチオン形電着塗装にて形成されるカチオン塗膜の付着性を良くすると共に、そのカチオン塗膜による防錆乃至は防食機能を効果的に発揮させることが可能となるといった効果が、得られるのである。
【0016】
そして、このような化成皮膜処理においては、化成処理剤として、鉄材質の化成皮膜処理において一般に用いられているリン酸亜鉛系処理剤の何れもが有利に採用され得、例えば、JIS−K−3151に明らかにされている1種〜5種の各種のリン酸塩化成処理剤、具体的には、リン酸二水素亜鉛、リン酸二水素ニッケル、リン酸二水素コバルト、リン酸二水素マンガン、リン酸二水素カルシウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素アンモニウム等のリン酸塩の1種若しくは2種以上の組合わせを主成分とする処理剤が用いられることとなるが、本発明においては、それらの中でも、リン酸二水素亜鉛を処理剤の一成分として含むリン酸亜鉛系化成処理剤、特に、リン酸二水素亜鉛、リン酸二水素ニッケル及びリン酸二水素マンガンの3成分を主成分として含む化成処理剤(JIS−K−3151の3種)が、好適に用いられるのである。
【0017】
一般に、所定の皮膜が化成されてなる鉄材質に塗装を施す場合、その塗装により得られる塗膜の付着性、即ち、塗膜の化成皮膜に対する密着性は、化成皮膜の状態に大きく左右されることは、よく知られているところであるが、上記のリンン酸亜鉛系化成処理剤、特にリン酸二水素亜鉛などの3成分を組み合わせた化成処理剤を用いた化成皮膜処理によれば、鉄製金具2の表面に、細かな結晶粒子よりなる緻密な化成皮膜を極めて有利に形成することが出来、それ故に、前記電着塗装により得られるカチオン塗膜の付着性乃至は密着性をより良好なものと為すことが出来るところから、本発明では、そのような化成皮膜処理手法が、特に採用されるのである。
【0018】
また、かかる化成皮膜処理において採用される処理時間、処理浴の温度や濃度等の処理条件、形成する化成皮膜の厚さにあっては、特に限定されるものではなく、化成処理剤の種類等に応じて、適宜に設定されるものである。更に、化成皮膜処理の後においては、電着塗装に影響を与える電解質物質を除去するために、通常、水による洗浄が充分に行なわれることとなる。
【0019】
なお、本発明手法においては、かくの如き化成皮膜処理において、より緻密で且つピンホール(孔)の少ない綺麗な化成皮膜の形成を実現するために、化成皮膜処理に先立って、鉄製金具2を所定の処理浴中に浸漬せしめて、その鉄製金具2の表面調整を行なうことが、好ましいのである。尤も、そのような表面調整処理において使用される処理浴にあっては、その処理浴への浸漬によって、上記化成皮膜処理にて形成される化成皮膜の緻密化やポーラス性の改善化を効果的に促進し得るものであることが必要とされるのであり、そして、そのような効果を奏し得る処理浴としては、水酸化チタンコロイドの水溶液等にて構成されるものが、有利に採用されるのである。また、かかる処理浴の温度や濃度、処理時間は、浴を構成する薬剤や求められる表面調整度に応じて、適宜に定められるものであるが、処理時間にあっては、一般に、30秒〜2分程度とされる。更に、このような表面調整処理は、化成皮膜処理の中でも、特に、上述の如き優れた効果を発揮するリン酸亜鉛系化成処理剤を用いた処理と組み合わせて実施することが、より推奨されるのであり、それによって、相乗効果が発現され得、以て、更に一層緻密で且つ綺麗な化成皮膜の形成が有利に達成され得るのである。
【0020】
また、本発明では、上記化成皮膜処理に先立って、或いは、表面調整処理を行なう場合には該表面調整処理に先立って、更に、鉄製金具2の脱脂処理を実施して、鉄製金具2の表面に付着する油脂を除去したり、鉄製金具2の除錆処理を実施して、鉄製金具2の表面上の錆を取り除くことが、より望ましい。これら脱脂処理や除錆処理を行なうことで、先述の化成皮膜処理にて、更に一層有効な化成皮膜を形成することが可能となるという利点がある。
【0021】
なお、脱脂処理に際しては、アルカリ脱脂法、エマルジョン脱脂法、溶剤脱脂法、電解脱脂法等、一般に用いられる各種の化学的手法や、ブラスト等の物理的手法を採用することが出来るのであるが、それらの中でも、アルカリ脱脂法に従って、所定のアルカリ脱脂浴中に鉄製金具2を浸漬せしめることにより、脱脂処理を行なうことが、好ましい。また、かくの如くアルカリ脱脂処理を実施する場合においては、鉄製金具2を浸漬せしめる脱脂浴(脱脂剤)として、従来と同様、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ピロ四リン酸ナトリウム、ロジン酸やオレイン酸等のナトリウム塩(石鹸)等のうちの1種若しくは2種以上が組み合わされて、水系媒体に添加,含有せしめられてなるものが、有利に用いられることとなる。
【0022】
一方、除錆処理にあっては、酸洗い法、アルカリ除錆法、電解除錆法等の従来から公知の各種の化学的乃至は物理的除錆手法に従って、所定の処理剤を用いて適宜に実施されるのであり、更に、必要に応じて、適当な中和剤による中和処理が実施されることとなる。
【0023】
さらに、このような脱脂処理や除錆処理における処理浴の温度や濃度、処理時間等の処理条件は、通常の範囲内において、適宜に定められるものである。更にまた、上記脱脂処理や除錆処理、中和処理の後においても、水洗処理を行なって、鉄製金具2に付着,残留した各処理剤を洗い流すことが、好ましい。
【0024】
そして、本発明手法にあっては、上述の如くして、化成皮膜処理により表面に化成皮膜が形成された鉄製金具2に対して、必須の処理工程の他の一つとしてのシランカップリング剤を用いた後処理を実施することとなるのである。即ち、本発明者らの検討によれば、所定の化成皮膜が形成されてなる鉄製金具(2)に、シランカップリング剤による処理を施して、シランカップリング剤を化成皮膜の表面に付着せしめることによって、そのような処理の後、前記カチオン形電着塗装を実施することにより金具の化成皮膜上に形成されるカチオン塗膜と、化成皮膜との間において、化学結合が生じると推測されており、従って、その電着塗装金具(2)とゴム(4)とを加硫接着せしめることにより得られる金具付きゴム製品(防振ゴム6)において、金具の化成皮膜表面とカチオン塗膜との密着性が大幅に向上することとなるのである。なお、本発明は、前述した推測に何等拘束されるものではないことは、言うまでもないところである。
【0025】
なお、本発明においては、このような特徴的な後処理において使用されるシランカップリング剤としては、従来よりシランカップリング剤乃至はシランカプラーとして知られているものの何れもが採用され得るのであるが、有利には、下記化1にて示されるアルコキシシラン化合物が、好適に採用されることとなる。
【化1】
Figure 0004004691
但し、上記化1において、OR1 ,OR2 は、アルコキシ基である。また、R3 ,R4 は、それぞれ同一若しくは異なる任意の官能基であり、その具体例としては、アルキル基,アルコキシ基、アミノアルキル基、メルカプトアルキル基、ハロゲン化アルキル基、ビニル基、ビニルアルキル基、メタクリロキシアルキル基等を挙げることが出来るが、特に、R3 ,R4 のうちの何れか一方が、アミノ基や、アミノアルキル基の如きアミノ基を含む官能基であることが、より好ましいのである。因みに、このようなアルコキシシラン化合物としては、例えば、アミノメチルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、アミノプロピルトリプロポキシシラン、N−アミノエチル−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−アミノエチル−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−フェニル−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アニリノプロピルトリメトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0026】
また、かかるシランカップリング剤を用いた後処理の具体的方法としては、鉄製金具2上の化成皮膜の表面にシランカップリング剤を均一に付着せしめ得るものであれば良く、例えば、シランカップリング剤から構成される処理浴中に、鉄製金具2を直接に浸漬せしめる、所謂、浸漬処理法の他、スプレー噴射や刷毛又はブラシ塗り等により、シランカップリング剤を鉄製金具2の表面に塗布せしめる手法等を採用することが、可能である。また、処理浴の温度、濃度、処理時間といった処理条件やシランカップリング剤の付着量にあっては、何等限定されるものではないのであって、使用するシランカップリング剤や前記化成処理剤、後に詳述するカチオン形電着塗料の種類等を考慮して、適宜に規定されるものである。更に、このような処理の後においては、通常、鉄製金具2を乾燥せしめることが、望ましい。
【0027】
さらに、本発明にあっては、化成皮膜処理の後、シランカップリング剤による後処理の施された鉄製金具2に対して、カチオン形電着塗料を用いてカチオン形の電着塗装を行ない、更に、一般に、水洗の後、所定の焼付処理若しくは加熱乾燥処理等を行なうことによって、鉄製金具2の表面上、要するに、シランカップリング剤による処理が施された化成皮膜表面上に、鉄製金具2における錆乃至は腐食の発生の防止性能を有するカチオン塗膜を、積層形成せしめるのである。
【0028】
ところで、このカチオン形電着塗装は、従来と同様な電着装置を用いて、所定のカチオン形電着塗料からなる処理浴に鉄製金具2を浸し、かかる鉄製金具2を陰極とする一方、浴のワ−ク若しくは該ワークに設けられた適当な電極部材を陽極として、直流電流を通電せしめる一般的な手順に従って、実施されるものであって、そこで採用される通電時間、電圧、浴温等は、化成皮膜の溶出性などを加味して、適宜に設定されることとなる。また、かくの如くして形成されるカチオン塗膜にあっては、上記有効な特性が充分に奏され得る厚さとされることは、言うまでもない。更に、このような電着塗装の後において、焼付処理乃至は加熱乾燥処理を実施するに際しては、一般に、それらの処理温度として、130℃〜200℃が採用され、また、処理時間は、20分〜30分程度とされる。
【0029】
また、本発明において用いられるカチオン形電着塗料は、鉄材質のカチオン形電着塗装において、通常用いられる水溶性又は水分散性のものであれば、その種類が特に限定されるものではないが、一般に、化成皮膜の溶出を少なくし得ると共に、防振ゴム6の使用条件に基づいて要求される防錆性能乃至は防食性能を有利に実現し得るものが選択されて、用いられるのである。そして、そのような塗料としては、エポキシ樹脂とアミン若しくはポリアミド樹脂の付加物に、架橋剤として、トリレンジイソシアネート(TDI)等のイソシアネートを一価のアルコールでブロックした形で導入したものを、酸で中和して水に溶解せしめてなるエポキシ樹脂系塗料が、好適に採用され得、特に、その中でも、焼付形(加熱乾燥硬化型)のものが、非常に高い耐蝕性を発現する塗膜を与え得るという点で、好ましいのである。
【0030】
而して、上述せる如き必須の2種類の処理が施されて、更に電着塗装が施されてなる鉄製金具2,2(電着塗装金具)を用いて、それら鉄製金具2,2とゴム4との加硫接着操作を実施することにより、図1に示される如き防振ゴム6が得られるのである。詳しくは、鉄製金具2,2におけるゴム4との接着部位に、塩化ゴム系接着剤等の適当な加硫接着剤を塗布せしめた後、かかる鉄製金具2,2にゴム4を加硫接着せしめることにより、防振ゴム6を作製することとなるのであるが、そのような加硫接着作業に際しては、従来から公知の各種の手法が適宜に採用され得、例えば、先ず、鉄製金具2,2における接着面に加硫接着剤を塗布せしめ、次いで、それら鉄製金具2,2に対して、適当なゴム組成物を用いて予め形成されたゴム4を加硫接着せしめる手法や、加硫成形金型を用いて、その成形キャビティ内の所定位置に、鉄製金具2,2を配置せしめると共に、その接着表面に加硫接着剤を塗布せしめた後、かかる成形キャビティ内にゴム組成物を注入して、加硫成形せしめると同時に、鉄製金具2,2とゴム4との加硫接着を行なう方法等が、採用されることとなる。なお、本発明において、ゴム4を与えるゴム組成物としては、天然ゴムやジエン系合成ゴム等の各種のゴム材料に対して、必要に応じて、補強剤、軟化剤、加硫剤、加硫促進剤、加硫促進助剤、老化防止剤等の公知の各種のゴム用配合剤を、通常の範囲内において配合せしめてなるものの何れもが、有利に用いられることとなる。
【0031】
このように、本発明に従う防振ゴム6の製造方法にあっては、鉄製金具2とゴム4との加硫接着操作よりも先に、カチオン形電着塗装を実施するものであることから、ゴム4の劣化を何等顧慮することなく、塗料の焼付乃至は加熱乾燥を行なうことが可能となり、従って、極めて高度な耐蝕性を発現する塗膜を有利に形成し得るという利点を有しているばかりでなく、そのような電着塗装にあっては、先ず、鉄製金具2の化成皮膜処理を実施して、その表面に化成皮膜を形成し、次いで、かかる鉄製金具2の化成皮膜表面に対して、シランカップリング剤による後処理を施した後において、行なわれるところから、カチオン塗膜と鉄製金具2の皮膜表面との密着性が効果的に高められ得、以て100℃以上の高温下にあっても、塗膜と金具表面の有効な密着状態が有利に保持され得るといった効果をも、もたらすことが出来るのである。
【0032】
従って、かくの如き本発明手法に従って製造される防振ゴム6にあっては、その鉄製金具2に形成される前記耐蝕性発現塗膜により、防振ゴム6が厳しい条件下で使用される場合でも、かかる鉄製金具2の防錆機能や防食機能が耐久的に且つ有効に働くこととなるのであり、しかも、鉄製金具2(皮膜表面)と塗膜との密着性が、高温状態においても、充分に確保され得て、鉄製金具2とゴム4との接着剥離が効果的に防止され得ることから、その適用範囲が従来よりも著しく拡大すると共に、特に上記した金型を用いて加硫接着を行なう場合には、製品の脱型作業により、接着剥離が発生して製品不良が惹起されるようなことが、効果的に阻止乃至は解消され得るのである。
【0033】
なお、本発明手法は、鉄材質からなる金具にゴムを一体的に加硫接着せしめてなる金具付きゴム製品であれば、何れのものにも適用可能であり、その適用対象が、例示したような防振ゴムに何等限定されるものではないことは、言うまでもないところである。
【0034】
また、自動車等の車両や機械設備等の防振ゴムを製造するに際して、本発明手法を適用する場合において、その作製する防振ゴムの具体的構成にあっても、例示のものに限定されるものでは決してないのであって、例えば、防振ゴムを構成する鉄製の金具が、上記円盤形状のものの他に、楕円形状や四角形、五角形等の多角形形状や、中心に向かって次第に凹陥するような断面V字型形状を呈するものであっても、何等差し支えなく、或いはまた、鉄製の内筒金具と外筒金具とがゴムにて連結されてなる円筒型乃至はブッシュ型の防振ゴムにも、本発明は有利に適用され得るのである。
【0035】
【実施例】
以下に、本発明の幾つかの実施例を示し、本発明を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、そのような実施例の記載によって、何等の制約をも受けるものでないことは、言うまでもないところである。また、本発明には、以下の実施例の他にも、更には上記の具体的記述以外にも、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて種々なる変更、修正、改良等を加え得るものであることが、理解されるべきである。
【0036】
先ず、常温及び120℃接着力試験のためのテストピースを、それぞれ、作製した。具体的には、かかるテストピースは、図1において示される防振ゴム(6)と同様の形状を呈してなるものであって、冷間圧延鋼板:SPCC材からなる一対の円盤型鉄製金具(2,2)の各々に対して、所定のゴム組成物にて形成された厚さ:15mmのゴム部材(4)が、それら金具を互いに正対せしめた状態において、接着面積:10cm2 にて加硫接着せしめられて、構成されている。また、ここでは、各金具におけるゴム部材とは反対側の面には、外周面に螺子溝が刻設されてなるロッド状の取付部材(8,8)が垂直方向に突設されている。そして、このようなテストピースの作製にあっては、先ず、下記に示される配合組成に従って、前記ゴム部材(4)を与えるゴム組成物を調製する一方、前記鉄製金具(2)を与える所定形状のSPCC材に対して、下記の金具試料の作製方法に従って、鉄製金具に所定の処理を施すことにより、金具試料No.1及び2を得た。
【0037】
ゴム部材を与えるゴム組成物の配合組成
天然ゴム 100 (重量部)
カーボンブラック 30
加硫剤(硫黄) 2.5
スルフェンアミド系加硫促進剤 1
酸化亜鉛 5
ステアリン酸 1
老化防止剤 4.5
ナフテン系鉱物油 5
【0038】
金具試料の作製方法
先ず、上記テストピースの鉄製金具(2)を与える所定形状のSPCC材を4つ準備した。次いで、その準備されたSPCC材に対して、本発明に従って、下記表1に示される如き各処理工程を上から順に実施して、4枚の金具試料No.1を得た。
【0039】
なお、脱脂工程においては、処理浴として、無機塩類及び界面活性剤を主成分とするアルカリ脱脂剤(サーフクリーナー53;日本ペイント株式会社製)を2w/v%の濃度となるように水にて希釈せしめてなるものを用いて、処理温度:50℃及び処理時間:2分において、処理浴中にSPCC材を浸漬せしめることにより、アルカリ洗浄を行なった。また、酸洗いは、SPCC材の表面上の錆を除去するために、市販の硫酸を5w/v%濃度となるように水にて希釈せしめてなる処理浴中に、常温下で2分間、SPCC材を浸漬せしめることにより、実施した。更に、下記表1に示されるように、前記酸洗いの後には、所定の水洗処理の後、中和工程において、SPCC材に付着,残存する硫酸を中和することとなるのであるが、その中和処理は、アルカリ系中和剤(NPシーラー4;日本ペイント株式会社製)を2w/v%の割合において水に添加せしめてなる浴中に、常温で30秒間、SPCC材を浸漬せしめることにより、行なった。
【0040】
また、表面調整工程においては、水酸化チタンコロイドを主成分とする薬剤(サーフファイン5N−11;日本ペイント株式会社製)を0.2w/v%の割合において含む水溶液を用いて、処理浴を構成する一方、常温×30秒の処理条件を採用して、かかる浴中に、SPCC材を浸漬せしめて、表面調整処理を実施した。更に、そのような表面調整処理に引き続いて行なわれる化成皮膜処理は、リン酸二水素亜鉛を主成分として含む化成処理剤(サーフダインSD6000;日本ペイント株式会社製)を2w/v%の濃度において水に添加せしめてなる処理浴中に、45℃×2分の処理条件下、SPCC材を浸漬せしめることにより、行なった。一方、シラン処理工程においては、処理浴として、アミノシラン系カップリング剤(サーフライトLX;日本ペイント株式会社製)を4w/v%の濃度となるように水にて希釈せしめてなるものを用いて、常温とされた浴中に、10秒間、SPCC材を浸漬せしめた。
【0041】
この他、水洗工程においては、水道水からなる水洗浴を用い、下記表1に示される如き処理温度及び処理時間にて、かかる水洗浴にSPCC材を浸漬せしめて、水洗した。また、乾燥工程においては、SPCC材を適宜な時間において、熱風乾燥せしめた。
【0042】
一方、比較のために、上記したテストピースの鉄製金具(2)を与えるSPCC材を4つ準備し、それに対して、下記表1に示される処理工程のうち、シラン処理以外の工程を上から順に実施することにより、4枚の金具試料No.2を作製した。なお、シラン処理を除く各工程の詳細については、上述した金具試料No.1の作製の場合と同様であった。
【0043】
Figure 0004004691
【0044】
次に、上記で得られた金具試料No.1及び2(各4枚ずつ)を用いて、それらに対して電着塗装を施して、それぞれの表面に塗膜を形成した。詳しくは、電着液として、ビスフェノールA型エポキシ系電着塗料(日本ペイント株式会社製)を用い、各金具試料を陰極として、液温:28℃、塗装電圧:200V、塗装時間(通電時間):3分の条件で、カチオン形電着塗装を行なった後、電着液中より各金具試料を取り出して、水からなる水洗浴中に、常温下で30秒間浸漬せしめることにより、水洗せしめ、更に、200℃の温度で20分間、焼き付けることによって、各金具試料の表面上に、厚さ:18〜20μmのカチオン塗膜を形成した。
【0045】
そして、上記において電着塗装の施された金具試料No.1及びNo.2のそれぞれ2枚ずつを1組として、2組に分けて、それら各組毎に、その1組を構成する一対の金具試料の各片側面(接着面)に、塩化ゴム系接着剤(ケムロック205;ロード・ファー・イースト社製)を下塗りして、熱風乾燥せしめ、更に、別の塩化ゴム系接着剤(ケムロック220;ロード・ファー・イースト社製)を上塗りして、熱風乾燥せしめた後、通常のゴムインジェクション加硫操作に従って、かかる一対の金具試料を互いの接着面を対向させた状態で金型内に配置する一方、上記で得られたゴム組成物を170℃の温度に加熱し、金型の成形キャビティ内に射出注入せしめて、7分間保持することにより、ゴム部材(4)を加硫成形すると同時に、金具試料とゴム部材とを加硫接着せしめ、更に、金具試料のゴム部材とは反対側面に取付部材(8,8)を固着せしめることによって、鉄製金具(2)が金具試料No.1にて構成される本発明例たるテストピースNo.1、及び鉄製金具が金具試料No.2にて構成される比較例としてのテストピースNo.2を、それぞれ2つずつ作製した。
【0046】
かくして作製されたテストピースNo.1,2を用いて、常温及び120℃接着力試験を行なった。なお、かかる常温接着力試験は、上記で得た各2つずつのテストピースのうちの一方をそれぞれ用い、公知の引張機を使用して、各テストピースの鉄製金具(金具試料)に固設された取付部材のそれぞれを、引張機に互いに対向位置して備えられた一対の治具に固定せしめた後、常温下において、ゴム部材が破断するまで、或いは鉄製金具とゴム部材との接着剥離が起こるまで、取付部材をその突設方向で互いに反対に(即ち、180度方向に)、100mm/分の速度で引張ると共に、その時に要する荷重値(MPa)を、それぞれ測定し、その結果を接着力として、下記表2に示した。また、120℃接着力試験は、上記で得た各2つずつのテストピースのうちの他方を用いて、120℃の温度条件下、前記常温接着力試験と同様な、テストピースの引張試験を行なって、接着力を求めた結果を下記表2に示した。なお、下記表2において、接着力と共に併せ示したゴム破断率とは、上述の常温乃至は120℃接着力試験を実施することにより生じた、「ゴム部材における破断」及び「鉄製金具とゴム部材の接着剥離」によるテストピースの破損状況のうち、「ゴム部材における破断」の占める割合(%)を示すものであって、例えば、ゴム破断率が100%であるということは、鉄製金具とゴム部材との接着界面において、接着剥離が何等発生しなかったものと、解することが出来る。
【0047】
Figure 0004004691
【0048】
かかる表2の結果からも明らかなように、本発明例としてのNo.1のテストピースは、常温及び120℃の雰囲気下においても、充分な接着性を確保し得るものであることが、認められる。これに対して、比較例のテストピースNo.2にあっては、120℃という比較的に高温な状態下においては、金具(化成皮膜)と塗膜との間において剥離が発生することによって、No.1のテストピースに比して接着力が低下し、金具とゴム部材との接着剥離が惹起されることが、認識される。
【0049】
【発明の効果】
以上の説明より明らかなように、本発明に従う金具付きゴム製品の製造方法にあっては、その金具付きゴム製品を構成する鉄材質からなる金具に対して、耐蝕性に優れる塗膜を有利に形成することが出来ると共に、かかる塗膜と金具との密着性を大幅に向上せしめることが出来るのである。従って、本発明手法によれば、金具における防錆性能乃至は防食性能と、金具とゴムとの接着性とを共に高度に実現し得る金具付きゴム製品を、極めて有利に製造することが可能となるのである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の適用される防振ゴムの一例を示す断面図である。
【符号の説明】
2 鉄製金具
4 ゴム
6 防振ゴム

Claims (3)

  1. 鉄材質からなる金具にゴムを一体的に加硫接着せしめてなる金具付きゴム製品を製造する方法にして、前記金具に対して、リン酸亜鉛系化成処理剤を用いた化成皮膜処理を実施した後、シランカップリング剤による後処理を施し、次いでカチオン形電着塗料を用いた電着塗装を行ない、そしてその得られた電着塗装金具に対して、所定のゴムを加硫接着せしめることを特徴とする金具付きゴム製品の製造方法。
  2. 前記化成皮膜処理に先立って、前記金具に対して、表面調整処理が実施される請求項1記載の金具付きゴム製品の製造方法。
  3. 前記表面調整処理が、水酸化チタンコロイドの水溶液を用いて実施される請求項2記載の金具付きゴム製品の製造方法。
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