JP3992961B2 - インピーダンス測定用自動平衡回路の調整方法と同自動平衡回路の検出抵抗測定方法 - Google Patents
インピーダンス測定用自動平衡回路の調整方法と同自動平衡回路の検出抵抗測定方法 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、LCRメータ、インピーダンスアナライザなどに適用されるインピーダンス測定用自動平衡回路の調整方法に関し、さらに詳しく言えば、高周波帯域においても平衡状態がとれ、被測定試料のインピーダンスおよび位相角を高精度に測定可能とする技術に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
まず、LCRメータ、インピーダンスアナライザなどのインピーダンス測定器に用いられている自動平衡回路の基本的な構成を図3に示し、これについて説明する。
【0003】
この自動平衡回路300は、信号入力側のH端子から被測定試料304に所定周波数の正弦波信号を印加する発振器301と、被測定試料304の他方の端子側にL端子を介して接続される信号検出部とを備えている。
【0004】
この場合、信号検出部は電流−電圧変換器としての演算増幅器306を有し、その(−)入力端子側にL端子からの検出信号が入力され、(+)入力端子は接地されている。また、演算増幅器306の出力端子と(−)入力端子との帰還系には検出抵抗305が接続されている。
【0005】
演算増幅器306の利得が十分に大きい場合には、イマジナリショートによりL端子は0Vとなるため、発振器301の振幅をA,その位相角をθa、演算増幅器306から出力される出力信号の振幅をB,その位相角をθb、検出抵抗305のインピーダンスをZf,その位相角をθfとすると、被測定試料304のインピーダンスZmと位相角θmは次式により求められる。
【0006】
Zm=Zf×A/B
θm=θf+θa−θb−180゜
【0007】
この自動平衡回路300は構成が簡単ではあるが、発振器301から被測定試料304に与えられる測定用正弦波信号の周波数が高くなると、演算増幅器306の利得が低くなるため、イマジナリショートが成立しなくなり、L端子に電圧が生ずる。その結果、L端子と接地(GND)との間に存在する入力容量Cに電流が流れ測定誤差が発生することになる。
【0008】
そこで、高周波帯域までL端子を0Vに維持できるようにするため、ヌルループ方式と呼ばれる自動平衡ループが提案されており、図4に図3の自動平衡回路にヌルループ方式を採用した回路構成を示す。
【0009】
このヌルループ方式においては、L端子に流れ込む被測定試料302の電流が反転型演算増幅器からなるヌル検出回路401で電圧に変換・増幅され、後段の乗算器402,403に入力される。一方の乗算器402には、発振器301の正弦波信号が基準信号として与えられ、他方の乗算器403には、発振器301の正弦波信号が90゜移相器404を介して余弦波信号として与えられ、これによりベクトル検波が行なわれる。
【0010】
続いて、乗算器402,403の各出力は、積分回路405,406でそれぞれ積分され平滑化される。そして、この平滑化されたベクトル検波信号は、乗算器407,408に与えられる。一方の乗算器407では、乗算器402でベクトル検波された正弦波成分に発振器301からの正弦波信号が乗算され、他方の乗算器408では、乗算器403でベクトル検波された余弦波成分に90゜移相器404からの余弦波信号が乗算される。
【0011】
これらの各乗算結果が加算器409で加算され、検出抵抗305を介してヌル検出回路401に帰還される。このヌルループ方式によれば、検出抵抗305を介してヌル検出回路401に帰還される電流は、被測定試料を流れる電流と同じ値となる。すなわち、ヌル検出回路401から出力される電圧が常に0Vとなるように、検出抵抗305による帰還電流が変化するため、自動平衡ループが構成される。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
ヌルループ方式によれば、測定用正弦波の周波数が高い場合でも、L端子の電圧を0Vに維持することが可能であり、したがって、L端子と接地(GND)間に存在する入力容量の影響を受けることなく、正確なインピーダンス測定を行なうことができるが、次のような課題がある。
【0013】
すなわち、多くの回路部品を要し、その構成が複雑で装置が大型化し、高価にならざるを得ない。また、アナログ的に平衡をとるようにしているため、回路が不安定になりがちである。さらには、同期検波用の乗算器や積分器の直流オフセットにより、完全な平衡状態を得ることが難しい。
【0014】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたもので、その目的は、回路構成が簡単かつ安定しており、ディジタル制御によって容易に平衡状態を得ることができるようにしたインピーダンス測定用自動平衡回路の調整方法を提供することにある。
【0015】
また、本発明の他の目的は、上記インピーダンス測定用自動平衡回路により被測定試料を測定するに先立って、同自動平衡回路が有する検出抵抗のインピーダンスをも高精度に測定することができる検出抵抗の測定方法を提供することにある。
【0016】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、本発明のインピーダンス測定用自動平衡回路の調整方法は、被測定試料の一方の端子に所定周波数の正弦波信号を印加する第1発振器と、上記被測定試料の他方の端子側に所定の検出素子(基準インピーダンス素子)を介して上記第1発振器の正弦波信号と同一周波数の正弦波信号を出力する第2発振器と、上記被測定試料の他方の端子側の電圧を検出する電圧検出器およびその検出電圧をデジタルの電圧データに変換するA/D変換器と、上記電圧データに基づいて上記第1発振器もしくは上記第2発振器の振幅および位相角を制御する制御手段とを含み、上記制御手段により上記被測定試料の他方の端子側の電圧を最小電圧(好ましくは0V)とした平衡状態の下で、上記第1発振器の振幅および位相角、上記第2発振器の振幅および位相角、上記検出素子のインピーダンスおよび位相角から上記被測定試料のインピーダンスおよび位相角を算出するにあたって、上記制御手段は、上記第1発振器もしくは上記第2発振器のいずれか一方の発振器に対して、その振幅を任意の振幅aとした状態で、3つの異なる位相角θx,θyおよびθzを順次設定して、その各位相角ごとに上記被測定試料の他方の端子側に現れる電圧Vx,VyおよびVzを測定し、下記の式(A)により上記平衡状態の第1成立要因としての位相角θminを求めて上記いずれか一方の発振器の位相角を上記位相角θminに調整した後、その発振器の振幅を2つの異なる振幅B1,B2(好ましくは同一レンジ内)に順次設定して、その各振幅ごとに上記被測定試料の他方の端子側に現れる電圧V1,V2を測定し、下記の式(B)もしくは式(C)により上記平衡状態の第2成立要因としての振幅Bminを求めて上記いずれか一方の発振器の振幅を上記振幅Bminに調整することを特徴としている。
【数5】
【数6】
【数7】
【0017】
上記のアルゴリズムで算出される位相角θminは、測定対象がコンデンサ、抵抗、コイルなどである場合には、通常、90゜〜180゜〜270゜の範囲内に納まる。しかしながら、測定回路で使用されているオペアンプやフィルタなどで生ずる位相誤差によって位相角θminが90゜〜180゜〜270゜の範囲外になる場合がある。
【0018】
この点を考慮して、本発明では、上記いずれか一方の発振器の位相角を上記式(A)による位相角θminに調整した後、その発振器の振幅を上記振幅aとしたときに上記被測定試料の他方の端子側に現れる電圧がVaであるとして、その電圧Vaが上記電圧Vx,Vy,Vz以上である場合には、上記いずれか一方の発振器に設定する位相角θminを下記式(D)により求められる値とし、この式(D)による位相角θminを上記平衡状態の第1成立要因として上記いずれか一方の発振器に設定することを特徴としている。なお、このときに設定する振幅aは平衡状態の第2成立要因としての振幅Bminを求める際に設定される振幅B1,B2のいずれか一方と同値であってもよい。
【数8】
【0019】
この場合において、上記3つの異なる位相角として、90゜,180゜,270゜を選択することにより、上記位相角θminを算出する上記式(A)および(D)がそれぞれ下記の式(A−1)および式(D−1)のように簡略化され、制御手段の演算に要する負担を軽減することができる。なお式中、V90,V180,V270は、位相角90゜,180゜,270゜に対応してL端子(電圧検出側)に現れる電圧である。
【数9】
【数10】
【0020】
本発明のインピーダンス測定用自動平衡回路の調整方法によれば、上記第1発振器と上記第2発振器の絶対精度もしくは相対精度が同じであるとして、被測定試料の測定精度は、信号印加側の出力抵抗と信号検出側の検出抵抗の精度で決まる。
【0021】
上記検出抵抗を測定するため、本発明は、被測定試料の一方の端子に所定周波数の正弦波信号を印加する第1発振器と、上記被測定試料の他方の端子側に所定の検出素子(基準インピーダンス素子)を介して上記第1発振器の正弦波信号と同一周波数の正弦波信号を出力する第2発振器と、上記被測定試料の他方の端子側の電圧を検出する電圧検出器およびその検出電圧をデジタルの電圧データに変換するA/D変換器と、上記電圧データに基づいて上記第1および第2発振器の振幅および位相角を制御する制御手段とを含み、上記制御手段により上記被測定試料の他方の端子側の電圧を最小電圧(好ましくは0V)とした平衡状態の下で、上記第1発振器の振幅および位相角、上記第2発振器の振幅および位相角、上記検出素子のインピーダンスおよび位相角から上記被測定試料のインピーダンスおよび位相角を算出するに先だって、上記第1発振器と上記被測定試料の一方の端子との間にインピーダンスおよび位相角がともに既知の出力素子を介在させるとともに、上記被測定試料の一方の端子と他方の端子間を直結し、上記被測定試料の他方の端子に現れる電圧が最小電圧となるように、上記制御手段により上記第1発振器の振幅および位相角を設定し、そのときの上記第1発振器の振幅をA,位相角をθa、上記第2発振器の振幅をB,位相角をθb、上記出力素子のインピーダンスをZo,位相角をθoとして、上記検出素子のインピーダンスZf,位相角θfを、
Zf=Zo×B/A,
θf=θo+θb−θa−180゜
なる式により求めることを特徴としている。
【0022】
【発明の実施の形態】
まず、図1を参照しながら、本発明の第1実施態様である自動平衡回路とその調整方法について説明する。
【0023】
この自動平衡回路100は、第1発振器101と第2発振器106の2つの発振器を備え、第1発振器101側のH端子(信号印加側端子)と第2発振器106側のL端子(電流検出側端子)との間に被測定試料102が装着される。
【0024】
第1発振器101から所定周波数の正弦波信号が被測定試料102に与えられる。第2発振器106からも上記測定用正弦波信号と同一周波数の正弦波信号が出力されるが、第2発振器106とL端子との間には、検出抵抗105が接続されている。なお、検出抵抗105に代えて、インピーダンスが正確に分かっていることを条件として、コンデンサ(C)やコイル(L)を用いてもよい。
【0025】
また、この自動平衡回路100は、L端子の電圧を検出する電圧検出器107およびその検出電圧をディジタル信号に変換するA/D変換器108と、同A/D変換器108からの検出電圧データに基づいて第2発振器106の振幅および位相角を制御するとともに、被測定試料102のインピーダンスおよび位相角などを算出する機能を有する制御手段としてのCPU109とを備えている。
【0026】
本発明によれば、CPU109により第2発振器106に対して、その振幅を任意の振幅aとした状態で、任意の異なる3つの位相角を設定することにより、上記式(A)に基づいてL端子を最小電圧(好ましくは0V)とする第1成立要因としてのθminが求められ、しかる後、CPU109により第2発振器106に対して任意の異なる2つの振幅値を設定することにより、上記式(B)もしくは式(C)に基づいてL端子を最小電圧(好ましくは0V)とする第2成立要因としてのBminが求められる。本発明において、平衡状態とはL端子が0Vに設定された状態のほかに、その近辺で最小電圧に設定された状態をも含むものとする。
【0027】
まず、上記式(A)の導出過程について説明する。第1発振器101の振幅をA,その位相角をθa、第2発振器106の振幅をB,その位相角をθb,検出抵抗105のインピーダンスをZf,その位相角をθf,L端子に発生する入力容量CのインピーダンスをZi,その位相角をθi,そして被測定試料102のインピーダンスをZm,その位相角をθmとする。なお、第1発振器101と第2発振器106の周波数はともに同一でωとする。
【0028】
L端子には第1発振器101側と第2発振器106側から電流が流れ込むが、キルヒホッフの電流則から、L端子の電圧をVLとして各電流間には下記の式(1)の関係が成り立つ。
【数11】
【0029】
式(1)を変形してVLで括り下記の式(2)とする。
【数12】
【0030】
式を簡略化するため、式(2)の左辺の{1/(Zm∠θm)+1/(Zi∠θi)+1/(Zf∠θf)}をYt∠θtとして、式(2)を下記の式(3)のように変形する。
【数13】
【0031】
したがって、VLは下記の式(4)で表される。
【数14】
【0032】
ここで、任意の2つの複素ベクトルV1,V2の合成ベクトルの絶対値|V|は下記式(5)の一般式で表され、また、その合成ベクトルの位相角θは下記式(6)の一般式で表される。なお、式中θ1は複素ベクトルV1の位相角、θ2は複素ベクトルV2の位相角である。
【数15】
【数16】
【0033】
したがって、上記一般式(5)のV1に、上記式(4)中の右辺第1項(Zf∠θf)・Asin(ωt+θa)/{(Zm∠θm)(Zf∠θf)(Yt∠θt)}を代入し、V2に上記式(4)中の右辺第2項(Zm∠θm)・Bsin(ωt+θb)/{(Zm∠θm)(Zf∠θf)(Yt∠θt)}を代入することにより、次式(7)に示されるVLの合成ベクトルの絶対値と、次式(8)に示されるVLの合成ベクトルの位相角θが得られる。
【0034】
【数17】
【数18】
【0035】
上記式(7)を簡略化するため、
A2・Zf2+B2・Zm2/(Zf・Zm・Yt)2 =C
2・A・Zf・B・Zm/(Zf・Zm・Yt)2 =D
と置き換えて、VLを次式(9)とする。
【数19】
【0036】
ここで、第1発信器101の位相θaと検出抵抗105の位相角θfが、あらかじめ0゜に調整済とすると、VLは次式(10)で表される。
【数20】
【0037】
したがって、第2発信器106の位相角θbを任意の異なる3つの位相角θx,θy,θzとすると、そのときにL端子に現れる各出力電圧Vx,Vy,Vzは次式(11)〜(13)で表される。
【数21】
【数22】
【数23】
【0038】
上記の各式(11)〜(13)を自乗した後、cos展開すると次式(14)〜(16)が得られる。
【数24】
【数25】
【数26】
【0039】
次に、上記式(14)と式(15)との差と、式(15)と式(16)との差をとって次式(17)と(18)とを得る。
【数27】
【数28】
【0040】
続いて、上記式(17)と式(18)の比をとって次式(19)を得る。
【数29】
【0041】
上記式(19)を正接関数tanθmについて解くと、次式(20)が得られる。
【数30】
【0042】
上記式(20)を逆正接関数に書き換えることにより、θmについての次式(21)が求められる。なお、ここで求められるθmはL端子が未だ平衡状態に調整されていないときの計算上での被測定試料102の位相角である。
【数31】
【0043】
L端子の電圧VLについての上記式(10)によると、VL={C+D・cos(θb+θm)}1/2であるから、この式においてVLが最小となるのは、cos(θb+θm)=−1、すなわちθb+θm=180゜のときである。
【0044】
したがって、第2発振器106の位相角をθbを180゜−θmに設定することにより、L端子の電圧VLを0Vに近づけることができる。このときの第2発振器106の位相角をθminとすれば上記式(21)により、
θmin=180゜−θm
=180゜−tan−1[{(Vx2 −Vy2 )・(cosθy−cos
θz)−(Vy2−Vz2 )・(cosθx−cosθy)}/
{(Vx2 −Vy2 )・(sinθy−sinθz)−(Vy2 −V
z2 )・(sinθx−sinθy)}]
となり、この式がL端子を平衡状態(最小電圧、好ましくは0V)とする第1成立要因としての式(A)である。
【0045】
このようにして算出される位相角θminは、90゜〜180゜〜270゜の範囲になる。測定対象がコンデンサ、抵抗、コイルなどである場合には、位相角θminは、通常、90゜〜180゜〜270゜の範囲内に納まるため、上記のアルゴリズムで特に問題はない。しかしながら、測定回路に使用されているオペアンプやフィルタなどで生ずる位相誤差によって位相角θminが90゜〜180゜〜270゜の範囲外になる場合がある。
【0046】
そこで、本発明においては、いずれか一方の発振器、この実施形態では第2発振器106の位相角を上記式(A)による位相角θminに調整した後、第2発振器106の振幅を上記電圧Vx,Vy,Vzを求めたときの振幅aとして、L端子に現れる電圧Vaを測定する。
【0047】
そして、その電圧Vaと上記電圧Vx,Vy,Vzとを比較し、電圧Va≧(Vx,Vy,Vz)の場合には、位相角θminが90゜〜180゜〜270゜の範囲外であると判断して、位相角θminを下記式(D)により求められる値とし、この式(D)による位相角θminを上記平衡状態の第1成立要因として第2発振器106に設定する。
【0048】
θmin=−θm
=−tan−1[{(Vx2 −Vy2 )・(cosθy−cosθz)
−(Vy2−Vz2 )・(cosθx−cosθy)}/
{(Vx2 −Vy2 )・(sinθy−sinθz)−(Vy2 −V
z2 )・(sinθx−sinθy)}]……式(D)
【0049】
なお、電圧Vaが上記電圧Vx,Vy,Vzよりも低い場合には、上記式(A)による位相角θminをそのまま採用する。このように、位相角θminを算出するにあたって、式(A)と式(D)とを用意したことにより、平衡条件の位相を360゜全域で捉えることができ、例えば実装回路基板による位相誤差が生じたとしても、上記アルゴリズムは正確に動作する。
【0050】
これらの式(A)および式(D)から分かるように、第2発振器106の最適位相角θminは、第2発振器106の位相角を任意の3つの異なる値θx,θy,θzに設定することにより算出することができる。
【0051】
上記式(A)および式(D)を簡略化するには、同式に含まれているsin項およびcos項をそれぞれ1,−1,0のいずれかとなるようにすればよい。例えば、
θx=90゜,そのときのL端子電圧をV90、
θy=180゜,そのときのL端子電圧をV180、
θz=270゜,そのときのL端子電圧をV270、
とすると、上記式(A)および式(D)はそれぞれ下記の簡略化された式(A−1)および式(D−1)で表される。
【0052】
【数32】
【数33】
この式(A−1)もしくは式(D−1)によれば、制御手段としてのCPU109の負担を軽減することができる。
【0053】
本発明では、CPU109により第2発振器106の位相角を上記θminに設定した後、さらにL端子が平衡状態(最小電圧、好ましくは0V)に近づくように、第2発振器106の振幅BをCPU109により第2発振器106に対して任意の異なる2つの振幅値(好ましくは同一レンジ内の異なる2つの振幅値)を設定することにより、L端子を平衡状態とする第2成立要因としてのBminに調整する。
【0054】
上記式(7)のように、L端子の電圧VLの合成ベクトルの絶対値は、
VL={A2・Zf2+B2・Zm2+2・A・Zf・B・Zm・cos(θa−
θb+θf−θm)}1/2/(Zf・Zm・Yt)
で表され、θminに設定した場合、cos(θa−θb+θf−θm)=1となるため、この平方根を外すと、次式(22)となる。
【数34】
となる。
【0055】
上記式(22)において、第2発振器106の振幅を任意の振幅をB1とした場合のL端子の電圧VLをV1とし、任意の振幅をB2とした場合のL端子の電圧VLをV2とすると、V1に関する次式(23)、式(24)と、V2に関する次式(25)、式(26)が得られる。
【0056】
【数35】
または、
【数36】
【0057】
【数37】
または、
【数38】
【0058】
上記式(23)と(24)との両辺に(Zf・Zm・Yt)/V1を乗ずると、次式(27)と式(28)とが得られ、上記式(25)と式(26)との両辺に(Zf・Zm・Yt)/V2を乗ずると、次式(29)と式(30)とが得られる。
【0059】
【数39】
【数40】
【0060】
【数41】
【数42】
【0061】
上記式(27)と式(29)の左辺が等しいことから、下記の式(31)が得られ、同様に、上記式(27)と式(30)とから、下記の式(32)が得られる。また、上記式(28)と式(29)とからも、同様に、下記の式(32)が得られ、上記式(28)と式(30)とからも、同様に、下記の式(31)が得られる。
【0062】
【数43】
【数44】
【0063】
上記式(31)、式(32)をZmについて解くと、次式(33)、式(34)が得られる。
【数45】
【数46】
【0064】
ここで、L端子の電流に関するキルヒホッフの電流則、B/Zf−A/Zm=0から導かれるB=A・Zf/Zmに、上記式(33)、式(34)のZmを代入すると、L端子を平衡状態(0V)とする第2成立要因としてのBminを得るための次式(B)もしくは式(C)が得られる。
【0065】
Bmin=(B1・V2−B2・V1)/(V2−V1)・・・式(B)
Bmin=(B1・V2+B2・V1)/(V2+V1)・・・式(C)
【0066】
以上説明してきたように、本発明によれば、CPU109により第2発振器106に対して任意の異なる3つの位相角を設定することにより、L端子を0Vとする第1成立要因としてのθminが求められ、しかる後、CPU109により第2発振器106に対して任意の異なる2つの振幅値を設定することにより、L端子を0Vとする第2成立要因としてのBminが求められ、L端子を平衡状態(0V)とすることが可能となる。
【0067】
なお、平衡条件をより精度よく求めるには、上記の位相角θx,θy,θzおよび振幅B1,B2の各値を変えて上記のアルゴリズムを数回繰り返し、その中からθmin,Bminの最適値を選択すればよい。また、上記のようにしてθmin,Bminを求めた後、それらの値を+,−方向にわずかずつスイープしてL端子の電圧が0Vとなるように調整することもできる。また、変形例として、第2発振器106側の発振周波数を固定し、CPU109により第1発振器101側を上記実施形態と同様に制御するようにしてもよい。
【0068】
本発明のインピーダンス測定用自動平衡回路100によれば、第1発振器101と第2発振器106の絶対精度もしくは相対精度が同じであるとして、被測定試料102の測定精度は、信号印加側の出力抵抗と信号検出側の検出抵抗の精度で決まるといえる。
【0069】
精度のよい抵抗とは、絶対精度のよい抵抗(または校正がとれている抵抗)、高周波まで位相回転のない抵抗、経時変化の少ない抵抗などをいうが、このような高精度の抵抗を用いるにしても、基板に実装した場合には、その周辺に存在する回路パターンのL成分や線間容量Cなどの影響を受け、これが測定誤差要因となるおそれがある。
【0070】
また、高精度測定を実現する別の方法としては、被測定試料102の代わりにH−L端子間に標準器を接続するとともに、出力抵抗および/または検出抵抗に可変抵抗を用い、測定値が標準器の基準値と同じとなるように、その可変抵抗を調整する方法、もしくはその調整量をメモリに校正データとして保存する方法がある。
【0071】
しかしながら、標準器を用いる方法では、検出抵抗の各レンジごとに標準器を用意する必要があるばかりでなく、標準器自体の校正やそれに伴なう測定器側での基準値の再設定などを必要とし、ユーザー側でこれを行なうには大きな負担となるので好ましくない。
【0072】
本発明の検出抵抗測定方法によれば、上記インピーダンス測定用自動平衡回路100自体で、その検出抵抗のインピーダンスおよび位相角を高精度に測定することができる。以下に、図2を参照しながら、その実施形態について説明する。
【0073】
まず、この実施形態においては、選択されるレンジに対応してスイッチSWを介して択一的に切り換えられる3つの検出抵抗205〜207を備えているが、以下の例ではその内の検出抵抗205のインピーダンスZfおよび位相角θfを測定するものとする。
【0074】
検出抵抗の測定にあたっては、信号印加側(H端子側)の出力抵抗204には、周波数特性が良好で絶対精度のよい抵抗を用いる。特に、50Ω付近の値は、電極間の容量成分Cや回路パターンのL成分などの影響を受けにくく周波数特性もよいので出力抵抗204として好ましい。
【0075】
H−L端子間はショート状態とする。また、この検出抵抗測定時には、上記被測定試料の測定時とは反対に、CPU109により第1発振器101側の振幅Aと位相角θaが制御される。すなわち、この検出抵抗測定時においては、第2発振器106が信号印加側の発振器、検出抵抗205が被測定試料、出力抵抗204が検出抵抗となる。
【0076】
まず、上記被測定試料の測定時と同様に、CPU109より第1発振器101に3つの異なる任意の位相角(好ましくは90゜,180゜,270゜)を与えて、L端子を最小電圧(好ましくは0V)とする第1成立要因としてのθminを求めて、第1発振器101の位相角をθminに設定する。
【0077】
次に、CPU109より第1発振器101に2つの異なる任意の振幅A1,A2(好ましくは同一レンジ内)を与えて、L端子を最小電圧(好ましくは0V)とする第2成立要因としてのAminを求めて、第1発振器101の振幅をAminに設定する。
【0078】
これにより、L端子が最小電圧(好ましくは0V)となる平衡状態が得られ、したがって、第1発振器101の振幅をA(この場合、Amin),その位相角をθa(この場合、θmin)、第2発振器106の振幅をB,その位相角をθb、出力抵抗204のインピーダンスをZo,その位相角をθoとすれば、検出抵抗205のインピーダンスZf,位相角θfは、
Zf=Zo×B/A,
θf=θo+θb−θa−180゜
により求めることができる。残る2つの検出抵抗206,207についても、同様にして、そのインピーダンスと位相角とが求められる。
【0079】
このように、本発明によれば、出力抵抗のみに例えば校正のとれた高精度の抵抗を用いればよいため、コスト低減を図ることができる。また、標準器を用意する必要もないため、ユーザー側で例えば検出抵抗の経時的な変化をも適宜補正することができる。
【0080】
ところで、上記の方法によって被測定試料のインピーダンスを測定する場合、実際の測定では、フィクスチャ(ピンボード)や測定ケーブルなどの接続治具が用いられる。これらの接続治具に寄生インピーダンスが存在する場合、その寄生インピーダンスが検出抵抗と直列に入るため、測定誤差が生ずることになる。
【0081】
この測定誤差を排除するには、次の方法(ショート補正方法)を採用するとよい。まず、第1ステップとして、被測定試料202に図示省略のフィクスチャや測定ケーブルなどの接続治具が接続された状態で、上記のアルゴリズムにしたがって、被測定試料202および接続治具を含むそれら全体のインピーダンスZmsと位相角θmsを得る。
【0082】
次に、第2ステップとして、測定系から被測定試料202を外して、接続治具のみを測定対象とした場合のインピーダンスZsと位相角θsを得る。そして、下記式(a),(b)によって抵抗成分Rmとリアクタンス成分Xmを求めた後、この抵抗成分Rmとリアクタンス成分Xmとから、下記式(c),(d)によって被測定試料202のインピーダンスZmと位相角θmとを求める。なお、第1ステップと第2ステップの順序は逆であってもよい。
【0083】
Rm=Zms・cosθms−Zs・cosθs……(a)
Xm=Zms・sinθms−Zs・sinθs……(b)
Zm=(Rm・Rm+Xm・Xm)1/2……(c)
θm=tan−1(Xm/Rm)……………(d)
【0084】
このショート補正方法によれば、被測定試料202に極力近い場所の電圧を検出するのではなく、L端子の電圧を検出するものであるため、接続治具の寄生インピーダンスが検出抵抗側に含まれず、その結果、被測定試料202のインピーダンスZmと位相角θmを正確に測定することができる。
【0085】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、信号印加側の第1発振器とは別に、信号検出側にも第1発振器と発振周波数が同一の第2発振器を設け、制御手段によりその2発振器の振幅と位相角を調整することにより、回路構成が簡単かつ安定しており、ディジタル制御によって容易に平衡状態を得ることができる。
【0086】
また、信号印加側(H端子側)の出力抵抗に精度のよい抵抗を用いるとともに、H−L端子間をショート状態とし、制御手段により上記第1発振器側の振幅および位相角を調整して平衡状態とすることにより、このインピーダンス測定用自動平衡回路自体で、その検出抵抗のインピーダンスおよび位相角をも高精度に算出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明によるインピーダンス測定用自動平衡回路の実施形態を示したブロック図。
【図2】本発明の検出抵抗測定方法を説明するためのブロック図。
【図3】インピーダンス測定用自動平衡回路の基本的な構成を示したブロック図。
【図4】従来例として、ヌルループ方式を採用した自動平衡回路を示したブロック図。
【符号の説明】
100 自動平衡回路
101 第1発振器
102 被測定試料
105 検出抵抗
106 第2発振器
107 電圧検出器
108 A/D変換器
109 CPU
204 出力抵抗
205〜207 検出抵抗
SW スイッチ
Claims (4)
- 被測定試料の一方の端子に所定周波数の正弦波信号を印加する第1発振器と、上記被測定試料の他方の端子側に所定の検出素子を介して上記第1発振器の正弦波信号と同一周波数の正弦波信号を出力する第2発振器と、上記被測定試料の他方の端子側の電圧を検出する電圧検出器およびその検出電圧をデジタルの電圧データに変換するA/D変換器と、上記電圧データに基づいて上記第1発振器もしくは上記第2発振器の振幅および位相角を制御する制御手段とを含み、上記制御手段により上記被測定試料の他方の端子側の電圧を最小電圧とした平衡状態の下で、上記第1発振器の振幅および位相角、上記第2発振器の振幅および位相角、上記検出素子のインピーダンスおよび位相角から上記被測定試料のインピーダンスおよび位相角を算出するにあたって、
上記制御手段は、上記第1発振器もしくは上記第2発振器のいずれか一方の発振器に対して、その振幅を任意の振幅aとした状態で、任意の3つの異なる位相角θx,θyおよびθzを順次設定して、その各位相角ごとに上記被測定試料の他方の端子側に現れる電圧Vx,VyおよびVzを測定し、下記の式(A)により上記平衡状態の第1成立要因としての位相角θminを求めて上記いずれか一方の発振器の位相角を上記位相角θminに調整した後、その発振器の振幅を2つの異なる振幅B1,B2に順次設定して、その各振幅ごとに上記被測定試料の他方の端子側に現れる電圧V1,V2を測定し、下記の式(B)もしくは(C)により上記平衡状態の第2成立要因としての振幅Bminを求めて上記いずれか一方の発振器の振幅を上記振幅Bminに調整することを特徴とするインピーダンス測定用自動平衡回路の調整方法。
- 上記3つの異なる位相角として、90゜,180゜,270゜が選択されることを特徴とする請求項1または2に記載のインピーダンス測定用自動平衡回路の調整方法。
- 被測定試料の一方の端子に所定周波数の正弦波信号を印加する第1発振器と、上記被測定試料の他方の端子側に所定の検出素子を介して上記第1発振器の正弦波信号と同一周波数の正弦波信号を出力する第2発振器と、上記被測定試料の他方の端子側の電圧を検出する電圧検出器およびその検出電圧をデジタルの電圧データに変換するA/D変換器と、上記電圧データに基づいて上記第1および第2発振器の振幅および位相角を制御する制御手段とを含み、上記制御手段により上記被測定試料の他方の端子側の電圧を最小電圧とした平衡状態の下で、上記第1発振器の振幅および位相角、上記第2発振器の振幅および位相角、上記検出素子のインピーダンスおよび位相角から上記被測定試料のインピーダンスおよび位相角を算出するに先だって、
上記第1発振器と上記被測定試料の一方の端子との間にインピーダンスおよび位相角がともに既知の出力素子を介在させるとともに、上記被測定試料の一方の端子と他方の端子間を直結し、上記被測定試料の他方の端子に現れる電圧が最小電圧となるように、上記制御手段により上記第1発振器の振幅および位相角を設定し、そのときの上記第1発振器の振幅をA,位相角をθa、上記第2発振器の振幅をB,位相角をθb、上記出力素子のインピーダンスをZo,位相角をθoとして、上記検出素子のインピーダンスZf,位相角θfを、
Zf=Zo×B/A,
θf=θo+θb−θa−180゜
なる式により求めることを特徴とするインピーダンス測定用自動平衡回路の検出抵抗測定方法。
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