JP3988353B2 - 色素増感型太陽電池の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、太陽光または人工光のエネルギーを電気エネルギーに変換する色素増感型太陽電池の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
色素増感型太陽電池は、導電性を有する基材の表面に金属酸化物膜を形成してなる一方の電極と、この金属酸化物膜に吸着した色素の層と、電解質層を介して対極を備えるものであり、太陽光または人工光のエネルギーを電気エネルギーに変換するものとして近年注目されている。
【0003】
上記色素増感型太陽電池は、Nature,353(1991)P737のB.O’ReganとM.Glatzelの報告以来、各国で追試や改良が行われている。日本においても、有機色素を用いて増感する太陽電池が特開平10−92477号公報等で開示されている。
【0004】
このような色素増感型太陽電池は、フッ素が添加された酸化スズ(フッ素ドープ酸化スズと記す)をコートしたガラス基板(透明導電ガラス)の表面に、酸化チタン等の金属酸化物の粒子を分散したゾルをドクターブレード法等によって塗布し、この金属酸化物を塗布した基板を500℃程度の温度で焼成して電極を形成するものである。そして、光電変換効率を向上させるために、上記電極を四塩化チタンの水溶液に浸漬することが採用されている。
【0005】
また、上記色素増感型太陽電池の電極を色素増感するために用いる色素は、例えば、Ru(4,4’−dicarboxil−2−2’−bipyridine)2 (NCS)2 などのRu錯体が多用されている。上記特開平10−92477号公報で開示された太陽電池は、この色素を有機色素に置き換えるものである。
【0006】
また、上記色素増感型太陽電池の対極は、透明導電ガラスに白金を蒸着したものが汎用されている。実験等の簡易的に作製する場合、対極は、透明導電ガラスの表面を鉛筆で黒く塗ることでカーボンを付着させたものを用いることがある。上記色素増感型太陽電池の電解質は、例えば、エチレンカーボネートとアセトニトリルの混合溶液にヨウ化テトラプロピルアンモニウムとヨウ素を混合したものが用いられ、液漏れを防止するために固体化したものが利用されているものもある(例えば、特開2000-90990号公報等)。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
上記色素増感型太陽電池は、P−N接合型半導体太陽電池と比較して、製造に真空を必要としないので製造のためのエネルギーが小さい、資源枯渇が危惧されているシリコン等の材料を用いない、コスト的にも低コストで作製が可能である等の理由から、新しい太陽電池として注目されている。しかし、上記色素増感型太陽電池の実用化にあたっては、より発生電流の増大したものが要望されており、また、同出力であればその装置が小型のものが要望されている。そのため、上記色素増感型太陽電池として、光電変換効率がより向上したものが求められている。
【0008】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、光電変換効率がより良好な色素増感型太陽電池の製造方法を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、導電性及び透明性を有する基材の表面に粒子を分散したゾルをコートして粒子膜を形成した後に、金属のフッ化物溶液又はフッ化錯体溶液と粒子膜を接触させて上記粒子の表面に微細構造を有する金属酸化物膜を析出させて被膜を形成すると、この被膜は、優れた光電変換効率を発揮することを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0010】
なかでも、色素増感型太陽電池としては、粒子膜を形成する酸化スズあるいは酸化チタンの粒子に、後述する液相析出法で酸化チタンの微粒子を析出させて作製した膜が、高い光電変換効率を発揮することを見出したものである。この光電変換効率の向上は、粒子膜の粒子の表面に微粒子からなる金属酸化物膜を形成させることで被膜の表面積が増すため色素吸着量が多くなることによるものか、あるいは、、粒子の表面に微粒子からなる金属酸化物膜を形成させることで、粒子の粒子間界面の面積が拡大することで粒子膜内の内部抵抗の抑制効果(インターパーティクルネッキングの拡大効果)によるものか、いずれかであると推考される。
【0011】
請求項1記載の色素増感型太陽電池の製造方法は、導電性及び透明性を有する基材の表面に金属酸化物の被膜を形成して一方の電極とし、この被膜の表面に色素を吸着した後に、電解質層を介して対極を形成する色素増感型太陽電池の製造方法において、上記基材の表面に粒子を分散したゾルをコートして粒子膜を形成した後に、金属のフッ化物溶液又はフッ化錯体溶液と粒子膜を接触させて上記粒子の表面に微細構造を有する金属酸化物膜を析出させて被膜を形成して一方の電極とし、次いでこの電極の被膜の表面に色素を吸着することを特徴とする。
【0012】
請求項2記載の色素増感型太陽電池の製造方法は、請求項1記載の色素増感型太陽電池の製造方法において、上記粒子が、酸化スズ、酸化チタンの少なくともいずれか一つであることを特徴とする。上記によって、粒子が酸化チタンの場合は、粒子膜の表面に金属酸化膜が十分に覆っていない部分が生じたとしてもその部分への色素からの電子注入の速度が大きくなるので、光電変換効率の良好な色素増感型太陽電池が得られるものである。また、上記によって、粒子が酸化スズの場合は、耐熱性が高く、内部電気抵抗が小さくなるので、光電変換効率の良好な色素増感型太陽電池が得られるものである。
【0013】
請求項3記載の色素増感型太陽電池の製造方法は、請求項1又は請求項2記載の色素増感型太陽電池の製造方法において、上記金属酸化物膜は、酸化チタンの膜であることを特徴とする。上記によって、色素からの電子注入速度が大きくなるので、光電変換効率の良好な色素増感型太陽電池が得られるものである。
【0014】
請求項4記載の色素増感型太陽電池の製造方法は、請求項3記載の色素増感型太陽電池の製造方法において、上記金属酸化物膜の析出が、下記(1)で表されるチタンフッ化アンモニウムの加水分解平衡反応を右に進める添加剤を添加して酸化チタン膜を形成することを特徴とする。
(NH4)2 TiF6 +2H2 O ⇔ TiO2 +4HF+2NH4 F (1)
請求項5記載の色素増感型太陽電池の製造方法は、請求項1乃至請求項4いずれか記載の色素増感型太陽電池の製造方法において、上記金属酸化物膜の膜厚を1〜100nmに形成してなることを特徴とする。
【0015】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明の実施の形態の一例を摸式的に示した概略断面図であり、図2は、被膜の作製工程をステップ毎に示した概略断面図である。
【0016】
本発明の対象となる色素増感型太陽電池は、導電性及び透明性を有する基材1の表面に金属酸化物を含む被膜5を形成してなる一方の電極と、この被膜5に吸着した色素の層6と、電解質層7を介して対極8を備えるものである。
【0017】
上記基材1は、導電性及び透明性を有するものであり、その材料としては、後述の液相析出法で用いる反応液と反応しないか又は反応が非常に遅いものであれば、どのような材料のものでも採用することができるが、導電性、透明性、及び耐熱性の点からスズ系酸化物をコートしたコート層1bを有するガラス1aが好ましい。上記スズ系酸化物としては、例えば、インジウム/スズ複合酸化物(ITOと記す)、アンチモン/スズ複合酸化物(ATOと記す)、フッ素ドープ酸化スズ等が挙げられ、なかでも、数百℃の熱によっても導電性が低下しない点や取扱い易い点からはフッ素ドープ酸化スズが好ましく、大量に生産されているので安価で入手のし易い点からはITOが好ましい。
【0018】
本発明においては、導電性及び透明性を有する基材1の表面に粒子3を分散したゾルをコートして、図2(a)に示すような粒子3が積み重なった粒子膜2を形成する。
【0019】
上記ゾルは、溶液中に固体成分である粒子(粉体)3が分散されたものを用いる。溶媒としては、有機溶媒あるいは水をそれぞれ単独で用いてもよいし、有機溶媒と水の混合物を用いてもよい。また分散される固体の粒子3は、反応液と反応しない又は反応しにくいものであれば、どのようなものでも採用することができ、例えばセラミックや金属や有機ポリマーなどの粒子3を用いることができる。特に、上記粒子3としては、焼成などの熱処理により性質や粒径等が変化しにくいという理由からセラミックの粒子3を用いるのが好ましい。上記セラミックの粒子3としては、例えば、酸化スズ、酸化チタン、シリカ、アルミナ、アンチモン/スズ複合酸化物(ATO)、酸化亜鉛等が挙げられ、これらを単独、または二種類以上を複合したり混合したりして用いることができる。なかでも、上記粒子3としては、酸化スズまたは酸化チタンが、電池に高い光電変換効率を発現する点で特に好ましい。上記粒子3の粒径は、任意に設定されるが、被膜5の表面積を大きくして色素の吸着量を増加させるという理由から、粒子3の粒径は、小さいほど好ましい。しかし粒子3の粒径が小さ過ぎると、ゾルをコートすることが難しくなって粒子膜2を形成するのが困難となる恐れがある。そこで粒子3の粒径は、5〜100nmに設定するのが好ましい。
【0020】
上記ゾルは、被膜5の内部で光の散乱を利用して光電変換効率をより向上させるために、光を散乱する1μm以上の粒子を添加してもよい。また、上記ゾルは、電池から取り出される電流及び電圧を増加するために、上記粒子3と異なる粒径で異なるバンドキャップエネルギーを有する金属酸化物を添加してもよい。また、上記ゾルは、粒子膜2に多孔性を付与するために、ポリエチレングリコール等の有機高分子を添加してもよい。上記有機高分子は、ゾルをコートした後に数百℃の温度で焼成することで炭酸ガスに分解され、粒子膜2の多孔度を増加することができ、その結果色素増感型太陽電池の光電変換効率を向上させることができるものである。
【0021】
上記ゾルを調製する方法としては、溶液中に粒子3をほぼ均一に分散させることができるのであれば、どのような方法を用いてよいが、例えば、粒子3を空気中や不活性ガス中で焼成することにより結晶化させ、この結晶化した粒子3を溶媒に配合してペイントシェイカーなどの攪拌機で攪拌することによって、溶液中に粒子3が分散したゾルを調製することができる。また、ゾルの調製方法としては、結晶化する前の粒子3を溶媒に配合してペイントシェイカーなどの攪拌機で攪拌して溶液中に粒子3を分散させ、この後、溶液中の粒子3をオートクレーブ中で結晶化させるようにしてゾルを調製するようにしてもよい。ゾルをコートして形成される粒子膜2の透明性をより高くしたり表面積をより大きくしたりする場合は、溶液中の粒子3をオートクレーブ処理して結晶化させる方法を採用することが好ましく、ゾルをコートして形成される粒子膜2を安価に作製する場合は、空気中や不活性ガス中で焼成して結晶化させた粒子3を溶媒に分散させる方法を採用することが好ましい。
【0022】
基材1にゾルをコートする方法は、例えば、グラビアコート法、スピンコート法、ドクタブレード法、ディップコーティング法等の従来から行なわれている方法を適宜採用することができる。上記粒子膜2の膜厚は、2μm以上に設定するのが好ましく、これを考慮してゾルの塗布量を調整する。上記粒子膜2の膜厚が2μm未満であると光電変換効率が低下する恐れがある。また、粒子膜2の膜厚の上限は、基材1と被膜5の密着性が低下しない程度であればよく、例えば20μmに設定することができる。上記粒子膜2を形成した後、基材1と粒子膜2の密着性を高めるために、必要に応じて、焼成工程を行なってもよい。
【0023】
次に、本発明においては、上記粒子膜2を形成した後に、金属のフッ化物溶液又はフッ化錯体溶液と粒子膜2を接触させて、図2(b)に示すような上記粒子3の表面に微細構造を有する金属酸化物膜4を析出させて被膜5を形成する。
【0024】
上記微細構造を有する金属酸化物膜4を析出させる方法としては、液相析出法が用いられる。この液相析出法で反応液として用いる金属のフッ化物溶液又はフッ化錯体溶液は、水や有機溶媒等の溶媒に金属のフッ化物あるいは金属のフッ化錯体を混合して調製されるものであって、金属酸化物膜4として酸化チタン(チタニア)の膜を形成する場合には、フッ化チタン酸水溶液やチタンフッ化アンモニウム水溶液などを用いることができる。均一な膜厚や性質の金属酸化物膜4を短時間で形成するためには、チタンフッ化アンモニウム水溶液等のフッ化錯体溶液とこれらの加水分解平衡反応を移動させる添加剤を用いるのが好ましい。
【0025】
上記液相析出法とは、金属のフッ化物溶液又はフッ化物錯体溶液の加水分解平衡反応を利用して、その溶液と基材1や粒子膜2を接触させることで基材1や粒子膜2の粒子3の表面に金属酸化物膜(特に薄膜)4を形成させる方法である。加水分解平衡反応を移動させる手段は、どのようなものであっても構わないが、例えば、温度差によって平衡移動させたり、ほう酸等の平衡を移動させる添加剤を添加して平衡移動させたりする方法を採用することができる。
【0026】
例えば、液相析出法が反応液としてチタンフッ化アンモニウム水溶液を用いる場合、下記(1)で表される加水分解平衡反応を右に進める添加剤を添加して反応液を酸化チタンの過飽和溶液にし、この溶液と粒子膜を接触させることによって、粒子膜2の粒子3の表面に酸化チタンの薄膜を形成する。
(NH4)2 TiF6 +2H2 O ⇔ TiO2 +4HF+2NH4 F (1)
この場合、チタンフッ化アンモニウムの濃度は、0.3モル/リットル未満であることが好ましい。上記濃度が、0.3モル/リットル以上であると酸化チタンの金属酸化物膜4を得ることができず、NH4 TiOF3 とTiOF2 が混在した金属酸化物膜4となる恐れがある。反応液中のチタンフッ化アンモニウム濃度の下限は、特に設定されないが、十分な製膜速度を得るために0.08モル/リットル以上であることが好ましい。また反応液に添加される添加剤の使用量が少な過ぎると、酸化チタンが粒子膜2の粒子3の表面に析出しない恐れがあり、多過ぎると水溶液中に酸化チタンの沈澱物が生じると共に均一な厚みの酸化チタンの膜を形成することができない恐れがある。従って、添加剤としてほう酸を用いる場合は、反応液中のほう酸の濃度が0.01〜0.4モル/リットルとなるように反応液にほう酸を添加する。さらに、粒子膜2と反応液を接触させている間において、反応液の温度は、25℃以上100℃未満であることが好ましい。反応液の温度が25℃未満であれば、所定の膜厚の酸化チタンの膜を得るまでに時間がかかり生産性が低くなる恐れがあり、反応液の温度が100℃以上になると、反応液が沸騰してしまって均一な酸化チタンの膜の析出が妨げられる恐れがある。
【0027】
上述のようにして、本発明は、粒子3の表面に微細構造を有する金属酸化物膜4を析出させる。上記金属酸化物4の膜厚は、1〜100nmに設定することができ、これを考慮して反応液中のフッ化物やフッ化錯体の濃度を調整したり粒子膜2と溶液の接触時間を調整する。金属酸化物4の膜厚が1nm未満であれば、十分に大きな光電変換効率を得られない恐れがあり、金属酸化物4の膜厚が100nmを超えると、金属酸化物膜4の形成後の乾燥や焼成による金属酸化物膜4の体積収縮で粒子膜2が破壊される恐れがある。特に、表面積の大きな被膜5を得るために粒子3として粒径の小さなものを用いた場合は、液相析出法により粒子膜2の構造が壊れ易いので、金属酸化物4の膜厚は1〜10nmに設定するのが好ましい。このようにして粒子膜2とその粒子3の表面の金属酸化物膜4とから構成される被膜5を有する電極を形成することができる。
【0028】
次に、本発明においては、この電極の被膜5の表面に色素を吸着する。上記色素としては、公知のものを用いることができ、例えば、Ru(4,4’−dicarboxil−2−2’−bipyridine)2 (NCS)2 などのRu錯体が挙げられる。色素を吸着させる方法は、例えば、上記色素をエタノール等の溶媒に溶解させて色素吸着液を作製し、この色素吸着液に電極を浸漬する方法が挙げられる。
【0029】
本発明において電解質層7を形成する電解質は、例えば、エチレンカーボネートとアセトニトリルの混合溶液にヨウ化テトラプロピルアンモニウムとヨウ素を混合した電解液を用いることができ、液漏れを防止するためには、固体化したものが好ましい。
【0030】
本発明において形成される対極8は、透明導電ガラスに白金を蒸着したものが挙げられる。また、実験等の簡易的に作製する場合、上記対極8としては、例えば、透明導電ガラスの表面を鉛筆で黒く塗ることでカーボンを付着させたものを用いることができる。
【0031】
本発明の製造方法で得られる色素増感型太陽電池は、従来の色素増感型太陽電池と比較して光電変換効率が優れたものである。
【0032】
【実施例】
本発明の効果を確認するために、スペーサーを用いて評価用の色素増感型太陽電池を組み立て、評価試験を行った。
【0033】
(実施例1)
導電性及び透明性を有する基材として、縦、横の長さがそれぞれ40mm、35mm、厚さが1.1mmのITO膜付のガラスを十分に洗浄、乾燥したものを用いた。ゾルとして酸化チタンゾル(テイカ株式会社製、品番TK−298)を用い、ゾルをグラビアコート法でこの基材の表面に20×20mmの範囲内に膜厚が5μmとなるようにコートした。次に、これを室温で乾燥した後、空気中で500℃の温度で1時間焼成して基材の表面に酸化チタンの粒子からなる粒子膜を形成した。
【0034】
次に、上記粒子膜を形成した基材に液相析出法で酸化チタンの薄膜を以下のようにして形成した。先ず、濃度が0.4モル/リットルのチタンフッ化アンモニウムの水溶液を62.5ミリリットル用意し、これに濃度が0.5モル/リットルのほう酸水溶液を100ミリリットル加え、これを水で希釈して250ミリリットルの反応液を調製した。この反応液中のチタンフッ化アンモニウムの濃度は0.1モル/リットルで、またほう酸の濃度は0.2モル/リットルであった。この反応液に粒子膜が形成された上記基材を浸漬し、粒子膜の粒子の表面に膜厚が約10nmの酸化チタンの薄膜を析出させた。この後、これを空気中で300℃の温度で焼成して粒子の表面に酸化チタンの薄膜である金属酸化物膜を形成し、基材の表面に粒子膜と金属酸化物膜からなる被膜を有する電極を作製した。
【0035】
次に、色素の吸着を行った。ルテニウム色素(Solaronix株式会社製、品番Ruthenium535)0.184gを1リットルのエタノールに溶解させて色素吸着液とした。作製した電極をこの色素吸着液に1昼夜浸漬することで、電極の表面に色素を吸着させた。その後、この色素が吸着した電極をエタノールで洗浄し、室温で乾燥した。
【0036】
次に、電解質層を形成するために、電解液を調製した。エチレンカーボネート80体積%とアセトニトリル20体積%の混合溶液に、ヨウ化テトラプロピルアンモニウムを0.46モル/リットル、及びヨウ素を0.06モル/リットルとなるように溶解して電解液とした。
【0037】
対極は、以下のものを準備した。縦、横の長さがそれぞれ40mm、35mm、厚さが1.1mmのITO膜付のガラスを十分に洗浄、乾燥した。このガラスの表面を2Bの鉛筆で黒く塗ることでカーボンを付着させて対極とした。
【0038】
スペーサーは、以下のものを準備した。縦、横の長さがそれぞれ30mm、30mm、厚さが0.5mmのシリコーンゴムの中心部に、20mm×20mmで切り抜いてスペーサーとした。このスペーサーは、20mm×20mmの窓とその周囲に5mmの枠がある構造のものである。
【0039】
色素増感型太陽電池は、以下のようにして組み立てた。上記色素が吸着した電極の上に上記スペーサーを、被膜が見えるようにして置き、スペーサーの空洞部分に電解液を入れた。その上に対極を空気が入らないようにして置き、クリップで電極と対極を挟んで固定し、色素増感型太陽電池とした。
【0040】
得られた色素増感型太陽電池の光電変換効率を解放電圧と短絡電流を測定し、評価した。色素増感型太陽電池を蛍光灯(松下電工株式会社製、品番SQ982F、54W)のもとにおき、電極と対極との間の解放電圧と短絡電流を測定した。結果は、解放電圧が0.755V、短絡電流が4.55mAであった。
【0041】
(比較例1)
実施例1において、液相析出法で酸化チタンの薄膜を形成する工程を行わずに、粒子膜に色素を吸着した以外は、実施例1と同様の方法で色素増感型太陽電池を作製した。この色素増感型太陽電池を実施例1と同様にして解放電圧と短絡電流を測定した。結果は、解放電圧が0.684V、短絡電流が3.60mAであった。
【0042】
(比較例2)
実施例1と同様にして粒子膜を形成した後に、この粒子膜を形成した基材に四塩化チタン処理を以下のようにして行った。氷冷した水に2.0モル/リットルとなるように四塩化チタンを溶解して、四塩化チタン保存液を作製した。この四塩化チタン保存液を水で0.2モル/リットルに希釈して、直ちに粒子膜を形成した基材を浸漬した。3時間後に粒子膜を形成した基材を取り出し、水で洗浄し、乾燥した後に、500℃で1時間焼成を行って、塩化チタン処理した電極とした。
【0043】
この塩化チタン処理した電極を用いた以外は、実施例1と同様の方法で色素増感型太陽電池を作製した。この色素増感型太陽電池を実施例1と同様にして解放電圧と短絡電流を測定した。結果は、解放電圧が0.691V、短絡電流が3.84mAであった。
【0044】
【表1】
【0045】
実施例1は、比較例1,2に比較して解放電圧と短絡電流が良好であることから、光電変換効率が優れていることが確認された。
【0046】
(実施例2)
導電性及び透明性を有する基材として、縦、横の長さがそれぞれ40mm、35mm、厚さが1.1mmのITO膜付のガラスを十分に洗浄、乾燥したものを用いた。ゾルとしてフッ素ドープ酸化スズ(多木化学株式会社製、品名セラメースS−8)を用い、ゾルを1000rpm、10秒の条件でスピンコートし、500℃の温度で10分間焼成した。このスピンコートを5回繰り返して基材の表面に酸化スズの粒子からなる膜厚が2.5μmの粒子膜を形成した。
【0047】
次に、実施例1と同様の方法で、粒子膜を形成した基材に液相析出法で酸化チタンの薄膜を形成し、基材の表面に粒子膜と金属酸化物膜からなる被膜を有する電極を作製した。
【0048】
この電極を用いた以外は、実施例1と同様の方法で色素増感型太陽電池を作製した。この色素増感型太陽電池を実施例1と同様にして解放電圧と短絡電流を測定した。結果は、解放電圧が0.485V、短絡電流が1.56mAであった。
【0049】
(比較例3)
実施例2において、液相析出法で酸化チタンの薄膜を形成する工程を行わずに、粒子膜に色素を吸着した以外は、実施例2と同様の方法で色素増感型太陽電池を作製した。この色素増感型太陽電池を実施例2と同様にして解放電圧と短絡電流を測定した。結果は、解放電圧が0.162V、短絡電流が0.25mAであった。
【0050】
【表2】
【0051】
実施例2は、比較例3に比較して解放電圧と短絡電流が良好であることから、光電変換効率が優れていることが確認された。
【0052】
(実施例3)
導電性及び透明性を有する基材として、縦、横の長さがそれぞれ40mm、35mm、厚さが1.1mmのITO膜付のガラスを十分に洗浄、乾燥したものを用いた。ゾルとして酸化ケイ素ゾル(日産化学株式会社製、品名MT−ST)を用い、ゾルをグラビアコート法でこの基材の表面に20×20mmの範囲内に膜厚が5μmとなるようにコートした。次に、これを室温で乾燥した後、空気中で500℃の温度で1時間焼成して基材の表面に酸化ケイ素の粒子からなる粒子膜を形成した。
【0053】
次に、実施例1と同様の方法で、粒子膜を形成した基材に液相析出法で酸化チタンの薄膜を形成し、基材の表面に粒子膜と金属酸化物膜からなる被膜を有する電極を作製した。
【0054】
この電極を用いた以外は、実施例1と同様の方法で色素増感型太陽電池を作製した。この色素増感型太陽電池を実施例1と同様にして解放電圧と短絡電流を測定した。結果は、解放電圧が0.264V、短絡電流が0.38mAであった。
【0055】
(比較例4)
実施例3において、液相析出法で酸化チタンの薄膜を形成する工程を行わずに、粒子膜に色素を吸着した以外は、実施例3と同様の方法で色素増感型太陽電池を作製した。この色素増感型太陽電池を実施例3と同様にして解放電圧と短絡電流を測定した。結果は、解放電圧が0V、短絡電流が0mAであった。
【0056】
【表3】
【0057】
実施例3は、比較例4に比較して解放電圧と短絡電流が良好であることから、光電変換効率が優れていることが確認された。
【0058】
【発明の効果】
請求項1記載の色素増感型太陽電池の製造方法は、電極が粒子膜の粒子の表面に微細構造を有する金属酸化物膜を析出させて被膜を形成するので、高い光電変換効率を発揮する色素増感型太陽電池を得ることができる。
【0059】
さらに、請求項2記載の色素増感型太陽電池の製造方法は、特に、粒子が酸化チタンの場合は、粒子膜の表面に金属酸化膜が十分に覆っていない部分が生じたとしてもその部分への色素からの電子注入の速度が大きくなるので、光電変換効率のより良好な色素増感型太陽電池を得ることができ、また、粒子が酸化スズの場合は、耐熱性が高く、内部電気抵抗が小さくなるので、光電変換効率のより良好な色素増感型太陽電池を得ることができる。
【0060】
さらに、請求項3記載の色素増感型太陽電池の製造方法は、特に、色素からの電子注入速度が大きくなるので、光電変換効率のより良好な色素増感型太陽電池を得ることができる。
【0061】
さらに、請求項4記載の色素増感型太陽電池の製造方法は、特に、より均一な酸化チタン膜を短時間で得られるので、光電変換効率のより良好な色素増感型太陽電池を短時間で作製することができる。
【0062】
さらに、請求項5記載の色素増感型太陽電池の製造方法は、特に、金属酸化物膜の形成後の乾燥や焼成による金属酸化物膜の体積収縮で粒子膜が破壊されることがなく、且つ、光電変換効率のより良好な色素増感型太陽電池を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態の一例を摸式的に示した概略断面図である。
【図2】(a)、(b)は被膜の作製工程をステップ毎に示した概略断面図である。
【符号の説明】
1 基材
2 粒子膜
3 粒子
4 金属酸化物膜
5 被膜
6 色素の層
7 電解質層
8 対極
Claims (5)
- 導電性及び透明性を有する基材の表面に金属酸化物の被膜を形成して一方の電極とし、この被膜の表面に色素を吸着した後に、電解質層を介して対極を形成する色素増感型太陽電池の製造方法において、上記基材の表面に粒子を分散したゾルをコートして粒子膜を形成した後に、金属のフッ化物溶液又はフッ化錯体溶液と粒子膜を接触させて上記粒子の表面に微細構造を有する金属酸化物膜を析出させて被膜を形成して一方の電極とし、次いでこの電極の被膜の表面に色素を吸着することを特徴とする色素増感型太陽電池の製造方法。
- 上記粒子が、酸化スズ、酸化チタンの少なくともいずれか一つであることを特徴とする請求項1記載の色素増感型太陽電池の製造方法。
- 上記金属酸化物膜は、酸化チタンの膜であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の色素増感型太陽電池の製造方法。
- 上記金属酸化物膜の析出が、下記(1)で表されるチタンフッ化アンモニウムの加水分解平衡反応を右に進める添加剤を添加して酸化チタン膜を形成することを特徴とする請求項3記載の色素増感型太陽電池の製造方法。
(NH4)2 TiF6 +2H2 O ⇔ TiO2 +4HF+2NH4 F (1) - 上記金属酸化物膜の膜厚を1〜100nmに形成してなることを特徴とする請求項1乃至請求項4いずれか記載の色素増感型太陽電池の製造方法。
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