しかし、上記方法(1)又は(2)では、記録媒体に対するインクの浸透性が異なるために、浸透性の大きなインクで記録した場合には記録部分のエッジでの紙の繊維に沿ったにじみが大きくなってしまい、シャープさがなくなり、画質が大幅に劣化するという問題があった。
上記方法(3)では、色の境界部分に白い未記録部分が形成されるため、画像全体のイメージや記録濃度が低下してしまうという問題があった。特に、白とのコントラストが大きな暗色との色境界部分では、画質の劣化が著しいという問題があった。
上記方法(4)では、記録を行うヘッドの記録媒体に対する走査回数が多くなるので、記録速度が低下するという問題があった。上記方法(5)では、インクにより形成されるドットの大きさが小さくなるので、記録濃度が低下したり、ドットにむらが生じたりして画質が劣化するという問題があった。又、ユーザは、専用の記録媒体を使用しなければならず、不便であるという問題もあった。
上記方法(6)では、色の境界部分で解像度が低下したり、記録濃度が低下したりして画質が劣化するという問題があった。上記方法(7)では、比較的大型の定着器を設ける必要があり、インクジェット記録装置が大型化すると共に、消費電力も増加してしまうという問題があった。
ところで、インクジェット記録装置において所望の解像度で記録媒体に線画や一般画像を記録するには、所望の解像度に適した大きさのドットが得られるようにヘッドから吐出されるインク量を調整する必要がある。浸透性の低いインクは、浸透性の高いインクより記録媒体上でのドットの広がりが小さいため、浸透性の高いインクより多いインク量が記録媒体上に記録される。この傾向は、記録媒体としてインクの浸透を抑制するサイズ等の処理が施されているコピー用紙やボンド紙、葉書等の普通紙で顕著に見られる。これに対し、インクジェット記録専用のコート紙、オーバーヘッドプロジェクタ(OHP)フィルムや光沢紙等のインクジェット記録用紙では、用紙/フィルムの基材の上にインク受容層が設けられており、インクの浸透を均一に、又は、速めるように設計されているので、インクの浸透性の影響は比較的小さい。尚、インク受容層は、例えばポリビニルアルコール、カチオン樹脂等の親水・吸水性のポリマーや樹脂、顔料、バインダー等からなる。
このように、浸透性の異なるインクは記録媒体上で性質が大きく異なるので、夫々のインクに対して十分な性能を満たす記録媒体を設計することは困難であるという問題点もあった。又、ヘッドのノズルの径は例えば50μm〜100μmと小さいため、ノズルの先端(ノズルオリフィス)でインクが蒸発乾燥して目詰まりを起こさないように、不揮発性で、且つ、吸湿性の大きな溶媒(溶剤)がインクに添加されている。しかし、ノズルオリフィス内での染料の折出による目詰まりは防止できても、溶媒の蒸発によるインクの増粘は避けられない。インクの増粘が進むと、インクの噴射方向が定まらなくなり、記録媒体に記録されるドットの位置ずれを生じると共に、極端な場合にはインクの噴射が行えなくなり、ドット抜けを生じてしまう。そこで、ノズルからバックアップユニットに対してインクを噴射(スプレー)し、インクの粘度が一定以上にならないようにする方法が提案されている。ところが、インクの増粘の程度は、インク中に含まれる湿潤剤や染料等の種類及び濃度によって異なり、同一のインクジェット記録装置内で使用される多種類のインク間でも異なる場合があるにも拘らず、従来はインク間で異なる増粘の程度は一切考慮されていなかった。
そこで、本発明は、高品位の記録を行うことのできるインクジェット記録方法及び装置を提供することを目的とする。より具体的には、本発明は、色の境界部分でのブリードを抑制して、同色相の記録部分での記録濃度、明度及び彩度に差が生じないように及び/又は文字等を印字したときににじみが生じないようにすることのできるインクジェット記録方法及び装置を提供することを第1の課題とする。
本発明は、浸透性の異なるインクを用いても記録濃度にむらのない高品位な記録を可能とするインクジェット記録方法及び装置を提供することを第2の課題とする。更に、本発明は、インクの増粘に左右されるインクの噴射を安定化して高品位な記録を高い信頼性をもって実現できるインクジェット記録方法及び装置を提供することを第3の課題とする。
上記の第1の課題は、請求項1記載の、同色相で、且つ、互いに浸透性の異なる少なくとも第1及び第2のインク及びその他の色相のインクを用いて記録媒体にカラー画像を記録するインクジェット記録方法において、異なる色相のインクが該記録媒体上に隣接することなく記録される場合には浸透性の低い方の第1のインクを用いて記録を行い、異なる色相のインクが該記録媒体上で隣接して記録される場合には浸透性の高い方の第2のインクを用いて記録を行い、該第2のインクの色材濃度は、該第1のインクの色材濃度より高いインクジェット記録方法によっても達成できる。
請求項2記載の発明では、請求項1の発明において、前記第1及び第2のインクの色材濃度は、夫々前記記録媒体に印字率100%の記録を行うと該記録媒体上の記録濃度の差が0.3以下となるように設定されている。請求項3記載の発明では、請求項1の発明において、前記第1及び第2のインクの色材濃度は、夫々前記記録媒体が普通紙の場合に印字率100%の記録を行うと該普通紙上の記録濃度が0.9以上となるように設定されている。
請求項4記載の発明では、請求項1の発明において、前記第1及び第2のインクの色材濃度は、夫々前記記録媒体が浸透性の高いインクに対して記録特性が調整されたインクジェット記録専用のインクジェット記録用紙の場合に印字率100%の記録を行うと該インクジェット記録用紙上の記録濃度が1.3以上となるように設定されている。
請求項5記載の発明では、請求項1〜4のいずれかの発明において、前記第1及び第2のインクのうち、前記記録媒体上の記録濃度の低い方のインクを用いて記録を行う際には、複数回重ねて記録を行う。請求項6記載の発明では、請求項1〜5のいずれかの発明において、前記第1及び第2のインクは、黒色のインクである。
上記の第1の課題は、請求項7記載の、同色相で、且つ、互いに浸透性の異なる少なくとも第1及び第2のインク及びその他の色相のインクを用いて記録媒体にカラー画像を記録するインクジェット記録方法において、異なる色相のインクが該記録媒体上に隣接することなく記録される場合には浸透性の低い方の第1のインクを用いて記録を行い、異なる色相のインクが該記録媒体上で隣接して記録される場合には浸透性の高い方の第2のインクを用いて記録を行い、該第1及び第2のインクのうち、前記記録媒体上の記録濃度の低い方のインクを用いて記録を行う際には、複数回重ねて記録を行うインクジェット記録方法によっても達成できる。
請求項8記載の発明では、請求項7の発明において、前記第1及び第2のインクの色材濃度は、夫々前記記録媒体に印字率100%の記録を行うと該記録媒体上の記録濃度の差が0.3以下となるように設定されている。請求項9記載の発明では、請求項7の発明において、前記第1及び第2のインクの色材濃度は、夫々前記記録媒体が普通紙の場合に印字率100%の記録を行うと該普通紙上の記録濃度が0.9以上となるように設定されている。
請求項10記載の発明では、請求項7の発明において、前記第1及び第2のインクの色材濃度は、夫々前記記録媒体が浸透性の高いインクに対して記録特性が調整されたインクジェット記録専用のインクジェット記録用紙の場合に印字率100%の記録を行うと該インクジェット記録用紙上の記録濃度が1.3以上となるように設定されている。
請求項11記載の発明では、請求項7〜10のいずれかの発明において、前記第1及び第2のインクは、黒色のインクである。
上記の第1の課題は、請求項12記載の、同色相で、且つ、互いに浸透性の異なる少なくとも第1及び第2のインク及びその他の色相のインクを用いて記録媒体にカラー画像を記録するインクジェット記録装置において、異なる色相のインクが該記録媒体上に隣接することなく記録される場合には浸透性の低い方の第1のインクを用いて記録を行う手段と、異なる色相のインクが該記録媒体上で隣接して記録される場合には浸透性の高い方の第2のインクを用いて記録を行う手段とを備え、該第2のインクの色材濃度は、該第1のインクの色材濃度より高く設定されているインクジェット記録装置によっても達成できる。
請求項13記載の発明では、請求項12の発明において、前記第1及び第2のインクの色材濃度は、夫々前記記録媒体に印字率100%の記録を行うと該記録媒体上の記録濃度の差が0.3以下となるように設定されている。請求項14記載の発明では、請求項12の発明において、前記第1及び第2のインクの色材濃度は、夫々前記記録媒体が普通紙の場合に印字率100%の記録を行うと該普通紙上の記録濃度が0.9以上となるように設定されている。
請求項15記載の発明では、請求項12の発明において、前記第1及び第2のインクの色材濃度は、夫々前記記録媒体が浸透性の高いインクに対して記録特性が調整されたインクジェット記録専用のインクジェット記録用紙の場合に印字率100%の記録を行うと該インクジェット記録用紙上の記録濃度が1.3以上となるように設定されている。
請求項16記載の発明では、請求項12〜15のいずれかの発明において、前記第1及び第2のインクのうち、前記記録媒体上の記録濃度の低い方のインクを用いて記録を行う際には、複数回重ねて記録を行う手段を更に備えた。請求項17記載の発明では、請求項12〜16のいずれかの発明において、前記第1及び第2のインクは、黒色のインクである。
上記の第1の課題は、請求項18記載の、同色相で、且つ、互いに浸透性の異なる少なくとも第1及び第2のインク及びその他の色相のインクを用いて記録媒体にカラー画像を記録するインクジェット記録装置において、異なる色相のインクが該記録媒体上に隣接することなく記録される場合には浸透性の低い方の第1のインクを用いて記録を行う手段と、異なる色相のインクが該記録媒体上で隣接して記録される場合には浸透性の高い方の第2のインクを用いて記録を行う手段と、該第1及び第2のインクのうち、前記記録媒体上の記録濃度の低い方のインクを用いて記録を行う際には、複数回重ねて記録を行う手段とを備えたインクジェット記録装置によっても達成できる。
請求項19記載の発明では、請求項18の発明において、前記第1及び第2のインクの色材濃度は、夫々前記記録媒体に印字率100%の記録を行うと該記録媒体上の記録濃度の差が0.3以下となるように設定されている。請求項20記載の発明では、請求項18の発明において、前記第1及び第2のインクの色材濃度は、夫々前記記録媒体が普通紙の場合に印字率100%の記録を行うと該普通紙上の記録濃度が0.9以上となるように設定されている。
請求項21記載の発明では、請求項18の発明において、前記第1及び第2のインクの色材濃度は、夫々前記記録媒体が浸透性の高いインクに対して記録特性が調整されたインクジェット記録専用のインクジェット記録用紙の場合に印字率100%の記録を行うと該インクジェット記録用紙上の記録濃度が1.3以上となるように設定されている。
請求項22記載の発明では、請求項18〜21のいずれかの発明において、前記第1及び第2のインクは、黒色のインクである。
請求項1記載の発明によれば、記録媒体に記録される線画と一般画像との記録濃度の差を少なくすることができる。請求項2記載の発明によれば、線画と一般画像との目視による記録濃度の差を少なくすることができる。
請求項3記載の発明によれば、普通紙上で十分な記録濃度を得ることができる。請求項4記載の発明によれば、インクジェット記録用紙上で十分な記録濃度を得ることができる。
請求項5記載の発明によれば、記録媒体に記録される線画と一般画像との記録濃度の差を更に少なくすることができ、色材濃度の低下によるヘッドのノズルの耐目詰まり性の向上とヘッドの走査回数の減少による記録速度の向上を実現できる。
請求項6記載の発明によれば、特に白色の記録媒体に線画及び一般画像を少ない記録濃度差で、且つ、高品位で記録することができる。請求項7記載の発明によれば、記録媒体に記録される線画と一般画像との記録濃度の差を少なくすることができる。
請求項8記載の発明によれば、線画と一般画像との目視による記録濃度の差を少なくすることができる。請求項9記載の発明によれば、普通紙上で十分な記録濃度を得ることができる。
請求項10記載の発明によれば、インクジェット記録用紙上で十分な記録濃度を得ることができる。請求項11記載の発明によれば、特に白色の記録媒体に線画及び一般画像を少ない記録濃度差で、且つ、高品位で記録することができる。
請求項12記載の発明によれば、記録媒体に記録される線画と一般画像との記録濃度の差を少なくすることができる。
請求項13記載の発明によれば、線画と一般画像との目視による記録濃度の差を少なくすることができる。請求項14記載の発明によれば、普通紙上で十分な記録濃度を得ることができる。
請求項15記載の発明によれば、インクジェット記録用紙上で十分な記録濃度を得ることができる。請求項16記載の発明によれば、記録媒体に記録される線画と一般画像との記録濃度の差を更に少なくすることができ、色材濃度の低下によるヘッドのノズルの耐目詰まり性の向上とヘッドの走査回数の減少による記録速度の向上を実現できる。
請求項17記載の発明によれば、特に白色の記録媒体に線画及び一般画像を少ない記録濃度差で、且つ、高品位で記録することができる。請求項18記載の発明によれば、記録媒体に記録される線画と一般画像との記録濃度の差を少なくすることができる。
請求項19記載の発明によれば、線画と一般画像との目視による記録濃度の差を少なくすることができる。請求項20記載の発明によれば、普通紙上で十分な記録濃度を得ることができる。
請求項21記載の発明によれば、インクジェット記録用紙上で十分な記録濃度を得ることができる。請求項22記載の発明によれば、特に白色の記録媒体に線画及び一般画像を少ない記録濃度差で、且つ、高品位で記録することができる。
また、本発明は、次のように特定することもできる。
(付記1) 複数の色相のインクを記録媒体に付着して画像を記録するインクジェット記録方法において、少なくとも1つの所定の色相については該記録媒体への浸透性の異なる2種類のインクを用いると共に、該インクのうち、浸透性の低いインクは、該所定の色相以外の色相のインクよりも浸透性が低いような該複数の色相のインクを用い、該記録媒体上の、該所定の色相を含む第1の記録領域と該所定の色相とは異なる色相からなり該第1の記録領域に隣接する第2の記録領域との境界部分では、該2種類のインクのうち浸透性の高い方のインクで該第2の記録領域までの少なくとも所定記録幅にわたって記録を行い、該境界部分の残りの部分は該2種類のうち浸透性の低い方のインクで記録を行う、インクジェット記録方法。
(付記2) 前記所定の色相の明度は他の色相の明度より低い、付記1記載のインクジェット記録方法。
(付記3) 前記所定の色相で浸透性の高い方のインク及び同等に高い浸透性を有する他の色相のインクは、色相の明度が低い程高い浸透性を有する、付記1又は2記載のインクジェット記録方法。
(付記4) 前記所定の色相は黒である、付記1〜3のうちいずれか1項記載のインクジェット記録方法。
(付記5) 前記他の色相は夫々イエロー、マゼンタ及びシアンである、付記4記載のインクジェット記録方法。
(付記6) 明度の低い色相のインクから先に記録する、付記1〜5のうちいずれか1項記載のインクジェット記録方法。
(付記7) 前記第1の記録領域及び境界部分の残りの部分を前記所定の色相で浸透性の低い方のインクで記録し、その後前記第2の記録領域を該所定の色相以外の色相のインクで記録し、その後前記所定記録幅の部分を該所定の色相で浸透性の高い方のインクで順に記録する、付記1〜5のうちいずれか1項記載のインクジェット記録方法。
(付記8) 前記境界部分の前記残りの部分が前記所定記録幅の部分より大きい場合は、前記所定の色相で浸透性の高い方のインクによる記録を該所定の色相で浸透性の低い方のインクによる記録より先に行う、付記1〜5のうちいずれか1項記載のインクジェット記録方法。
(付記9) 前記境界部分の前記残りの部分が前記所定記録幅の部分より大きい場合は、前記所定の色相で浸透性の低い方のインクによる記録を該所定の色相で浸透性の高い方のインクによる記録より先に行う、付記1〜5のうちいずれか1項記載のインクジェット記録方法。
(付記10) 前記境界部分の前記残りの部分が前記所定記録幅の部分より小さい場合は、前記所定の色相で浸透性の低い方のインクによる記録を該所定の色相で浸透性の高い方のインクによる記録より先に行う、付記1〜5のうちいずれか1項記載のインクジェット記録方法。
(付記11) 前記第1の記録領域及び境界部分の残りの部分を前記所定の色相で浸透性の低い方のインクで記録し、その所定時間後に前記所定記録幅の部分を該所定の色相で浸透性の高い方のインクで記録し、該所定時間は該所定の色相で浸透性の低い方のインクの前記記録媒体に対する馴染み時間より長く設定される、付記1〜5のうちいずれか1項記載のインクジェット記録方法。
(付記12) 前記所定記録幅は、前記境界部分を記録するインクの量及びこれらのインクの浸透性のうち少なくとも一方に基づいて調整される、付記1〜5のうちいずれか1項記載のインクジェット記録方法。
(付記13) 前記第1及び第2の領域のうち少なくとも一方は、2以上の色相のインクで重ね記録される、付記1〜5のうちいずれか1項記載のインクジェット記録方法。
(付記14) 前記境界部分において、前記所定記録幅の部分と前記残りの部分とがほぼ同じ明度及び/又は彩度を有する、付記1〜5のうちいずれか1項記載のインクジェット記録方法。
(付記15) 前記境界部分において、前記所定記録幅の部分と前記残りの部分との色差が5以下である、付記14記載のインクジェット記録方法。
(付記16) 前記所定の色相で浸透性の高い方のインクと該所定の色相で浸透性の低い方のインクとは、夫々同じ染料を用いる、付記1〜5のうちいずれか1項記載のインクジェット記録方法。
(付記17) 前記境界部分において、前記所定記録幅の部分と前記残りの部分とがほぼ同じ記録濃度を有する、付記1〜5のうちいずれか1項記載のインクジェット記録方法。
(付記18) 前記境界部分において、前記所定記録幅の部分と前記残りの部分との記録濃度の差が0.3以下である、付記1〜5のうちいずれか1項記載のインクジェット記録方法。
(付記19) 前記所定の色相で浸透性の高い方のインクが含む染料量は、該所定の色相で浸透性の低い方のインクが含む染料量より多い、付記18記載のインクジェット記録方法。
(付記20) 前記所定の色相で浸透性の低い方のインクが前記境界部分の前記残りの部分内で単位面積当り付着するインク量は、該所定の色相で浸透性の高い方のインクが該境界部分の所定記録幅の部分内で単位面積当り付着するインク量より多い、付記18記載のインクジェット記録方法。
(付記21) 複数の色相のインクを記録媒体に付着して画像を記録するインクジェット記録装置において、少なくとも1つの所定の色相については該記録媒体への浸透性の異なる2種類のインクを用い、インクの種類に応じた数のヘッドを有するヘッド部と、該記録媒体上の、該所定の色相を含む第1の記録領域と該所定の色相とは異なる色相からなり該第1の記録領域に隣接する第2の記録領域との境界部分では、該2種類のインクのうち浸透性の高い方のインクで該第2の記録領域までの少なくとも所定記録幅にわたって記録を行い、該境界部分の残りの部分は該2種類のうち浸透性の低い方のインクで記録を行うように該ヘッド部を制御する制御手段とを備えた、インクジェット記録装置。
(付記22) 前記ヘッド部は、前記所定の色相の明度は他の色相の明度より低いインクを用いる、付記21記載のインクジェット記録装置。
(付記23) 前記ヘッド部が用いる前記所定の色相で浸透性の高い方のインク及び同等に高い浸透性を有する他の色相のインクは、色相の明度が低い程高い浸透性を有する、付記21又は22記載のインクジェット記録装置。
(付記24) 前記ヘッド部が用いるインクの前記所定の色相は黒である、付記21〜23のうちいずれか1項記載のインクジェット記録装置。
(付記25) 前記ヘッド部が用いるインクの前記他の色相は夫々イエロー、マゼンタ及びシアンである、付記24記載のインクジェット記録装置。
(付記26) 前記制御手段は、明度の低い色相のインクから先に記録するように前記ヘッド部を制御する、付記21〜25のうちいずれか1項記載のインクジェット記録装置。
(付記27) 前記制御手段は、前記第1の記録領域及び境界部分の残りの部分を前記所定の色相で浸透性の低い方のインクで記録し、その後前記第2の記録領域を該所定の色相以外の色相のインクで記録し、その後前記所定記録幅の部分を該所定の色相で浸透性の高い方のインクで順に記録するように前記ヘッド部を制御する、付記21〜25のうちいずれか1項記載のインクジェット記録装置。
(付記28) 前記制御手段は、前記境界部分の前記残りの部分が前記所定記録幅の部分より大きい場合には、前記所定の色相で浸透性の高い方のインクによる記録を該所定の色相で浸透性の低い方のインクによる記録より先に行うように前記ヘッド部を制御する、付記21〜25のうちいずれか1項記載のインクジェット記録装置。
(付記29) 前記制御手段は、前記境界部分の前記残りの部分が前記所定記録幅の部分より小さい場合には、前記所定の色相で浸透性の低い方のインクによる記録を該所定の色相で浸透性の高い方のインクによる記録より先に行うように前記ヘッド部を制御する、付記21〜25のうちいずれか1項記載のインクジェット記録装置。
(付記30) 前記制御手段は、前記境界部分の前記残りの部分が前記所定記録幅の部分より大きい場合には、前記所定の色相で浸透性の低い方のインクによる記録を該所定の色相で浸透性の高い方のインクによる記録より先に行うように前記ヘッド部を制御する、付記21〜25のうちいずれか1項記載のインクジェット記録装置。
(付記30) 前記制御手段は、前記第1の記録領域及び境界部分の残りの部分を前記所定の色相で浸透性の低い方のインクで記録し、その所定時間後に前記所定記録幅の部分を該所定の色相で浸透性の高い方のインクで記録するように前記ヘッド部を制御し、該所定時間は該所定の色相で浸透性の低い方のインクの前記記録媒体に対する馴染み時間より長く設定される、付記21〜25のうちいずれか1項記載のインクジェット記録装置。
(付記31) 前記所定記録幅は、前記境界部分を記録するインクの量及びこれらのインクの浸透性のうち少なくとも一方に基づいて調整される、付記21〜25のうちいずれか1項記載のインクジェット記録装置。
(付記32) 前記制御手段は、前記第1及び第2の領域のうち少なくとも一方が、2以上の色相のインクで重ね記録されるように前記ヘッド部を制御する、付記21〜25のうちいずれか1項記載のインクジェット記録装置。
(付記33) 前記境界部分において、前記所定記録幅の部分と前記残りの部分とがほぼ同じ明度又は彩度を有する、付記21〜25のうちいずれか1項記載のインクジェット記録装置。
(付記34) 前記境界部分において、前記所定記録幅の部分と前記残りの部分との色差が5以下である、付記33記載のインクジェット記録装置。
(付記35) 前記ヘッド部が用いる前記所定の色相で浸透性の高い方のインクと該所定の色相で浸透性の低い方のインクとは、夫々同じ染料を使用する、付記21〜25のうちいずれか1項記載のインクジェット記録装置。
(付記36) 前記境界部分において、前記所定記録幅の部分と前記残りの部分とがほぼ同じ記録濃度を有する、付記21〜25のうちいずれか1項記載のインクジェット記録装置。
(付記37) 前記境界部分において、前記所定記録幅の部分と前記残りの部分との記録濃度の差が0.3以下である、付記21〜25のうちいずれか1項記載のインクジェット記録装置。
(付記38) 前記ヘッド部が用いる前記所定の色相で浸透性の高い方のインクが含む染料量は、該所定の色相で浸透性の低い方のインクが含む染料量より多い、付記37記載のインクジェット記録装置。
(付記39) 前記制御手段は、前記所定の色相で浸透性の低い方のインクが前記境界部分の前記残りの部分内で単位面積当り付着するインク量が、該所定の色相で浸透性の高い方のインクが該境界部分の所定記録幅の部分内で単位面積当り付着するインク量より多くなるように前記ヘッド部を制御する、付記37記載のインクジェット記録装置。
(付記40) 前記制御手段は、前記所定の色相で浸透性の低い方のインクが前記境界部分の前記残りの部分内で単位面積当り付着するインク量が、該所定の色相で浸透性の高い方のインクが該境界部分の所定記録幅の部分内で単位面積当り付着するインク量より多くなるように前記ヘッド部を制御する、付記38記載のインクジェット記録装置。
(付記41) 記録媒体に対してインクジェット記録を行う際に複数の色相のインクと共に使用される所定の色相のインクを貯蔵するインクカートリッジであって、カートリッジ本体と、該カートリッジ本体内に貯蔵された所定の色相のインクとからなり、該所定の色相のインクは、該記録媒体に対して該複数の色相のインクより低い浸透性を有し、且つ、該複数の色相のインクより明度が低い、インクカートリッジ。
(付記42) 前記所定の色相のインクは黒のインクである、付記41記載のインクカートリッジ。
(付記43) 前記所定の色相のインクは、前記複数の色相のインクと同じ染料を用いる、付記41又は42記載のインクカートリッジ。
(付記44) 前記所定の色相のインクが含む染料量は、前記複数の色相のインクが含む染料量より多い、付記41〜43のうちいずれか1項記載のインクカートリッジ。
(付記45) 記録媒体に対してインクジェット記録を行う際に黒のインクと共に使用される所定の色相のインクを貯蔵するインクカートリッジであって、カートリッジ本体と、該カートリッジ本体内に貯蔵された所定の色相のインクとからなり、該所定の色相のインクは、該記録媒体に対して該黒のインクより高い浸透性を有し、且つ、該黒のインク以上の明度を有する、インクカートリッジ。
(付記46) 前記所定の色相のインクは、黒、イエロー、マゼンタ及びシアンから選択された1つの色相のインクである、付記45記載のインクカートリッジ。
(付記47) 前記所定の色相のインクは、明度が低い程高い浸透性を有する、付記46記載のインクカートリッジ。
(付記48) 前記所定の色相のインクは、前記黒のインクと同じ染料を用いる黒のインクである、付記45記載のインクカートリッジ。
(付記49) 前記所定の色相のインクが含む染料量は、前記黒のインクが含む染料量より多い、付記45〜48のうちいずれか1項記載のインクカートリッジ。
(付記50) 記録媒体に対してインクジェット記録を行う際に複数の色相のインクと共に使用される所定の色相のインクを貯蔵するインクカートリッジであって、カートリッジ本体と、該カートリッジ本体内に貯蔵された所定の色相のインクとからなり、該所定の色相のインクは、色材の移動率であるRf値が該複数の色相のインクのRf値とは異なり、その明度より高い明度の色相のインクよりRf値が低く設定されている、インクカートリッジ。
(付記51) 前記所定の色相のインクは、その明度に応じてRf値を異ならせた染料を用いる、付記50記載のインクカートリッジ。
(付記52) 記録媒体に対してインクジェット記録を行う際に複数の色相のインクと共に使用される所定の色相のインクを貯蔵するインクカートリッジであって、カートリッジ本体と、該カートリッジ本体内に貯蔵された所定の色相のインクとからなり、該所定の色相のインクの該記録媒体に対する接触角は85°以上又は70°以下である、インクカートリッジ。
(付記53) 前記所定の色相のインクは黒のインクである、付記52記載のインクカートリッジ。
(付記54) 記録媒体に対してインクジェット記録を行う際に複数の色相のインクと共に使用される所定の色相のインクを貯蔵するインクカートリッジであって、カートリッジ本体と、該カートリッジ本体内に貯蔵された所定の色相のインクとからなり、該所定の色相のインクの該記録媒体に対する表面張力は49dyne/cm以上で又は45dyne/cm以下である、インクカートリッジ。
(付記55) 前記所定の色相のインクは黒のインクである、付記52記載のインクカートリッジ。
(付記56) 記録媒体に対してインクジェット記録を行う際に複数の色相のインクと共に使用される所定の色相のインクを貯蔵するインクカートリッジであって、カートリッジ本体と、該カートリッジ本体内に貯蔵された所定の色相のインクとからなり、該所定の色相のインクの該記録媒体に対する吸収係数Ka(nl/(mm2 ・s1/2 ))は15未満に設定されている、インクカートリッジ。
(付記57) 前記所定の色相のインクは黒のインクである、付記56記載のインクカートリッジ。
(付記58) 記録媒体に対してインクジェット記録を行う際に黒のインクと共に使用される所定の色相のインクを貯蔵するインクカートリッジであって、カートリッジ本体と、該カートリッジ本体内に貯蔵された所定の色相のインクとからなり、該所定の色相のインクの該記録媒体に対する吸収係数Ka(nl/(mm2 ・s1/2 ))は40以上に設定されている、インクカートリッジ。
(付記59) 前記所定の色相のインクは、黒、イエロー、マゼンタ及びシアンのうち1つの色相のインクである、付記58記載のインクカートリッジ。
(付記60) 記録媒体に対してインクジェット記録を行う際に黒のインクと共に使用される所定の色相のインクであって、該所定の色相のインクは、該記録媒体に対して該黒のインクより高い浸透性を有し、且つ、該黒のインク以上の明度を有する、インク。
(付記61) 前記所定の色相は、黒、イエロー、マゼンタ及びシアンから選択された1つの色相である、付記60記載のインク。
(付記62) 前記所定の色相のインクは、明度が低い程高い浸透性を有する、付記61記載のインク。
(付記63) 前記所定の色相のインクは、前記黒のインクと同じ染料を用いる黒のインクである、付記60記載のインク。
(付記64) 前記所定の色相のインクが含む染料量は、前記黒のインクが含む染料量より多い、付記60〜63のうちいずれか1項記載のインク。
(付記65) 記録媒体に対してインクジェット記録を行う際に複数の色相のインクと共に使用される所定の色相のインクであって、該所定の色相のインクは、色材の移動率であるRf値が該複数の色相のインクのRf値とは異なり、その明度より高い明度の色相のインクよりRf値が低く設定されている、インク。
(付記66) 前記所定の色相のインクは、その明度に応じてRf値を異ならせた染料を用いる、付記65記載のインク。
(付記67) 記録媒体に対してインクジェット記録を行う際に複数の色相のインクと共に使用される所定の色相のインクあって、該所定の色相のインクの該記録媒体に対する接触角は85°以上又は70°以下である、インク。
(付記68) 前記所定の色相は黒である、付記67記載のインク。
(付記69) 記録媒体に対してインクジェット記録を行う際に複数の色相のインクと共に使用される所定の色相のインクであって、該所定の色相のインクの該記録媒体に対する表面張力は49dyne/cm以上で又は45dyne/cm以下である、インク。
(付記70) 前記所定の色相は黒である、付記69記載のインク。
(付記71) 記録媒体に対してインクジェット記録を行う際に複数の色相のインクと共に使用される所定の色相のインクであって、該所定の色相のインクの該記録媒体に対する吸収係数Ka(nl/(mm2 ・s1/2 ))は15未満に設定されている、インク。
(付記72) 前記所定の色相は黒である、付記71記載のインク。
(付記73) 記録媒体に対してインクジェット記録を行う際に黒のインクと共に使用される所定の色相のインクであって、該所定の色相のインクの該記録媒体に対する吸収係数Ka(nl/(mm2 ・s1/2 ))は40以上に設定されている、インク。
(付記74) 前記所定の色相は、黒、イエロー、マゼンタ及びシアンのうち1つの色相である、付記73記載のインク。
上記の第1の課題は、付記1記載の、複数の色相のインクを記録媒体に付着して画像を記録するインクジェット記録方法において、少なくとも1つの所定の色相については該記録媒体への浸透性の異なる2種類のインクを用いると共に、該インクのうち、浸透性の低いインクは、該所定の色相以外の色相のインクよりも浸透性が低いような該複数の色相のインクを用い、該記録媒体上の、該所定の色相を含む第1の記録領域と該所定の色相とは異なる色相からなり該第1の記録領域に隣接する第2の記録領域との境界部分では、該2種類のインクのうち浸透性の高い方のインクで該第2の記録領域までの少なくとも所定記録幅にわたって記録を行い、該境界部分の残りの部分は該2種類のうち該所定の色相以外の色相のインクに対しても浸透性の低い方のインクで記録を行うインクジェット記録方法によって達成できる。
付記2記載の発明では、付記1の発明において、前記所定の色相の明度は他の色相の明度より低い。付記3記載の発明では、付記1又は2の発明において、前記所定の色相で浸透性の高い方のインク及び同等に高い浸透性を有する他の色相のインクは、色相の明度が低い程高い浸透性を有する。
付記4記載の発明では、付記1〜3のうちいずれか1つの発明において、前記所定の色相は黒である。付記5記載の発明では、付記4の発明において、前記他の色相は夫々イエロー、マゼンタ及びシアンである。
付記6記載の発明では、付記1〜5のうちいずれか1つの発明において、明度の低い色相のインクから先に記録する。付記7記載の発明では、付記1〜5のうちいずれか1つの発明において、前記第1の記録領域及び境界部分の残りの部分を前記所定の色相で浸透性の低い方のインクで記録し、その後前記第2の記録領域を該所定の色相以外の色相のインクで記録し、その後前記所定記録幅の部分を該所定の色相で浸透性の高い方のインクで順に記録する。
付記8記載の発明では、付記1〜5のうちいずれか1つの発明において、前記境界部分の前記残りの部分が前記所定記録幅の部分より大きい場合は、前記所定の色相で浸透性の高い方のインクによる記録を該所定の色相で浸透性の低い方のインクによる記録より先に行う。
付記9記載の発明では、付記1〜5のうちいずれか1つの発明において、前記境界部分の前記残りの部分が前記所定記録幅の部分より大きい場合は、前記所定の色相で浸透性の低い方のインクによる記録を該所定の色相で浸透性の高い方のインクによる記録より先に行う。
付記10記載の発明では、付記1〜5のうちいずれか1つの発明において、前記境界部分の前記残りの部分が前記所定記録幅の部分より小さい場合は、前記所定の色相で浸透性の低い方のインクによる記録を該所定の色相で浸透性の高い方のインクによる記録より先に行う。
付記11記載の発明では、付記1〜5のうちいずれか1つの発明において、前記第1の記録領域及び境界部分の残りの部分を前記所定の色相で浸透性の低い方のインクで記録し、その所定時間後に前記所定記録幅の部分を該所定の色相で浸透性の高い方のインクで記録し、該所定時間は該所定の色相で浸透性の低い方のインクの前記記録媒体に対する馴染み時間より長く設定される。
付記12記載の発明では、付記1〜5のうちいずれか1つの発明において、前記所定記録幅は、前記境界部分を記録するインクの量及びこれらのインクの浸透性のうち少なくとも一方に基づいて調整される。付記13記載の発明では、付記1〜5のうちいずれか1つの発明において、前記第1及び第2の領域のうち少なくとも一方は、2以上の色相のインクで重ね記録される。
付記14記載の発明では、付記1〜5のうちいずれか1つの発明において、前記境界部分において、前記所定記録幅の部分と前記残りの部分とがほぼ同じ明度及び/又は彩度を有する。付記15記載の発明では、付記14の発明において、前記境界部分において、前記所定記録幅の部分と前記残りの部分との色差が5以下である。
付記16記載の発明では、付記1〜5のうちいずれか1つの発明において、前記所定の色相で浸透性の高い方のインクと該所定の色相で浸透性の低い方のインクとは、夫々同じ染料を用いる。付記17記載の発明では、付記1〜5のうちいずれか1つの発明において、前記境界部分において、前記所定記録幅の部分と前記残りの部分とがほぼ同じ記録濃度を有する。
付記18記載の発明では、付記1〜5のうちいずれか1つの発明において、前記境界部分において、前記所定記録幅の部分と前記残りの部分との記録濃度の差が0.3以下である。付記19記載の発明では、付記18の発明において、前記所定の色相で浸透性の高い方のインクが含む染料量は、該所定の色相で浸透性の低い方のインクが含む染料量より多い。
付記20記載の発明では、付記18の発明において、前記所定の色相で浸透性の低い方のインクが前記境界部分の前記残りの部分内で単位面積当り付着するインク量は、該所定の色相で浸透性の高い方のインクが該境界部分の所定記録幅の部分内で単位面積当り付着するインク量より多い。
上記の第1の課題は、付記21記載の、複数の色相のインクを記録媒体に付着して画像を記録するインクジェット記録装置において、少なくとも1つの所定の色相については該記録媒体への浸透性の異なる2種類のインクを用い、インクの種類に応じた数のヘッドを有するヘッド部と、該記録媒体上の、該所定の色相を含む第1の記録領域と該所定の色相とは異なる色相からなり該第1の記録領域に隣接する第2の記録領域との境界部分では、該2種類のインクのうち浸透性の高い方のインクで該第2の記録領域までの少なくとも所定記録幅にわたって記録を行い、該境界部分の残りの部分は該2種類のうち浸透性の低い方のインクで記録を行うように該ヘッド部を制御する制御手段とを備えたインクジェット記録装置によっても達成できる。
付記22記載の発明では、付記21の発明において、前記ヘッド部は、前記所定の色相の明度は他の色相の明度より低いインクを用いる。付記23記載の発明では、付記21又は22の発明において、前記ヘッド部が用いる前記所定の色相で浸透性の高い方のインク及び同等に高い浸透性を有する他の色相のインクは、色相の明度が低い程高い浸透性を有する。
付記24記載の発明では、付記21〜23のうちいずれか1つの発明において、前記ヘッド部が用いるインクの前記所定の色相は黒である。付記25記載の発明では、付記24の発明において、前記ヘッド部が用いるインクの前記他の色相は夫々イエロー、マゼンタ及びシアンである。
付記26記載の発明では、付記21〜25のうちいずれか1つの発明において、前記制御手段は、明度の低い色相のインクから先に記録するように前記ヘッド部を制御する。付記27記載の発明では、付記21〜25のうちいずれか1つの発明において、前記制御手段は、前記第1の記録領域及び境界部分の残りの部分を前記所定の色相で浸透性の低い方のインクで記録し、その後前記第2の記録領域を該所定の色相以外の色相のインクで記録し、その後前記所定記録幅の部分を該所定の色相で浸透性の高い方のインクで順に記録するように前記ヘッド部を制御する。
付記28記載の発明では、付記21〜25のうちいずれか1つの発明において、前記制御手段は、前記境界部分の前記残りの部分が前記所定記録幅の部分より大きい場合には、前記所定の色相で浸透性の高い方のインクによる記録を該所定の色相で浸透性の低い方のインクによる記録より先に行うように前記ヘッド部を制御する。
付記29記載の発明では、付記21〜25のうちいずれか1つの発明において、前記制御手段は、前記境界部分の前記残りの部分が前記所定記録幅の部分より小さい場合には、前記所定の色相で浸透性の低い方のインクによる記録を該所定の色相で浸透性の高い方のインクによる記録より先に行うように前記ヘッド部を制御する。
付記30記載の発明では、付記21〜25のうちいずれか1つの発明において、前記制御手段は、前記境界部分の前記残りの部分が前記所定記録幅の部分より大きい場合には、前記所定の色相で浸透性の低い方のインクによる記録を該所定の色相で浸透性の高い方のインクによる記録より先に行うように前記ヘッド部を制御する。
付記31記載の発明では、付記21〜25のうちいずれか1つの発明において、前記制御手段は、前記第1の記録領域及び境界部分の残りの部分を前記所定の色相で浸透性の低い方のインクで記録し、その所定時間後に前記所定記録幅の部分を該所定の色相で浸透性の高い方のインクで記録するように前記ヘッド部を制御し、該所定時間は該所定の色相で浸透性の低い方のインクの前記記録媒体に対する馴染み時間より長く設定される。
付記32記載の発明では、付記21〜25のうちいずれか1つの発明において、前記所定記録幅は、前記境界部分を記録するインクの量及びこれらのインクの浸透性のうち少なくとも一方に基づいて調整される。付記33記載の発明では、付記21〜25のうちいずれか1つの発明において、前記制御手段は、前記第1及び第2の領域のうち少なくとも一方が、2以上の色相のインクで重ね記録されるように前記ヘッド部を制御する。
付記34記載の発明では、付記21〜25のうちいずれか1つの発明において、前記境界部分において、前記所定記録幅の部分と前記残りの部分とがほぼ同じ明度又は彩度を有する。付記35記載の発明では、付記34の発明において、前記境界部分において、前記所定記録幅の部分と前記残りの部分との色差が5以下である。
付記36記載の発明では、付記21〜25のうちいずれか1つの発明において、前記ヘッド部が用いる前記所定の色相で浸透性の高い方のインクと該所定の色相で浸透性の低い方のインクとは、夫々同じ染料を使用する。付記37記載の発明では、付記21〜25のうちいずれか1つの発明において、前記境界部分において、前記所定記録幅の部分と前記残りの部分とがほぼ同じ記録濃度を有する。
付記38記載の発明では、付記21〜25のうちいずれか1つの発明において、前記境界部分において、前記所定記録幅の部分と前記残りの部分との記録濃度の差が0.3以下である。付記39記載の発明では、付記38の発明において、前記ヘッド部が用いる前記所定の色相で浸透性の高い方のインクが含む染料量は、該所定の色相で浸透性の低い方のインクが含む染料量より多い。
付記40記載の発明では、付記38の発明において、前記制御手段は、前記所定の色相で浸透性の低い方のインクが前記境界部分の前記残りの部分内で単位面積当り付着するインク量が、該所定の色相で浸透性の高い方のインクが該境界部分の所定記録幅の部分内で単位面積当り付着するインク量より多くなるように前記ヘッド部を制御する。
付記41〜49記載の発明によれば、にじみのない高品位な文字等の線画の記録と、ブリードのない高品位な図形等の一般画像の記録とを行うことができ、線画と一般画像との記録濃度や色相の差を抑制することが可能となる。付記50及び51記載の発明によれば、異なる色相の境界部分におけるブリードを防止して、鮮明なカラー画像を記録することができる。
付記52〜55記載の発明によれば、普通紙を含む様々な種類の記録媒体に対して線画及び一般画像を高品位で記録することができる。付記56〜59記載の発明によれば、にじみのない高品位な文字等の線画の記録と、ブリードのない高品位な図形等の一般画像の記録とを行うことができ、線画と一般画像との記録濃度や色相の差を抑制することが可能となる。
付記60〜64記載の発明によれば、にじみのない高品位な文字等の線画の記録と、ブリードのない高品位な図形等の一般画像の記録とを行うことができ、線画と一般画像との記録濃度や色相の差を抑制することが可能となる。付記65及び66記載の発明によれば、異なる色相の境界部分におけるブリードを防止して、鮮明なカラー画像を記録することができる。
付記67〜70記載の発明によれば、普通紙を含む様々な種類の記録媒体に対して線画及び一般画像を高品位で記録することができる。付記71〜74記載の発明によれば、にじみのない高品位な文字等の線画の記録と、ブリードのない高品位な図形等の一般画像の記録とを行うことができ、線画と一般画像との記録濃度や色相の差を抑制することが可能となる。
請求項1記載の発明によれば、記録媒体に記録される線画と一般画像との記録濃度の差を少なくすることができる。
請求項2記載の発明によれば、線画と一般画像との目視による記録濃度の差を少なくすることができる。請求項3記載の発明によれば、普通紙上で十分な記録濃度を得ることができる。
請求項4記載の発明によれば、インクジェット記録用紙上で十分な記録濃度を得ることができる。請求項5記載の発明によれば、記録媒体に記録される線画と一般画像との記録濃度の差を更に少なくすることができ、色材濃度の低下によるヘッドのノズルの耐目詰まり性の向上とヘッドの走査回数の減少による記録速度の向上を実現できる。
請求項6記載の発明によれば、特に白色の記録媒体に線画及び一般画像を少ない記録濃度差で、且つ、高品位で記録することができる。請求項7記載の発明によれば、記録媒体に記録される線画と一般画像との記録濃度の差を少なくすることができる。
請求項8記載の発明によれば、線画と一般画像との目視による記録濃度の差を少なくすることができる。請求項9記載の発明によれば、普通紙上で十分な記録濃度を得ることができる。
請求項10記載の発明によれば、インクジェット記録用紙上で十分な記録濃度を得ることができる。請求項11記載の発明によれば、特に白色の記録媒体に線画及び一般画像を少ない記録濃度差で、且つ、高品位で記録することができる。
請求項12記載の発明によれば、記録媒体に記録される線画と一般画像との記録濃度の差を少なくすることができる。
請求項13記載の発明によれば、線画と一般画像との目視による記録濃度の差を少なくすることができる。請求項14記載の発明によれば、普通紙上で十分な記録濃度を得ることができる。
請求項15記載の発明によれば、インクジェット記録用紙上で十分な記録濃度を得ることができる。請求項16記載の発明によれば、記録媒体に記録される線画と一般画像との記録濃度の差を更に少なくすることができ、色材濃度の低下によるヘッドのノズルの耐目詰まり性の向上とヘッドの走査回数の減少による記録速度の向上を実現できる。
請求項17記載の発明によれば、特に白色の記録媒体に線画及び一般画像を少ない記録濃度差で、且つ、高品位で記録することができる。請求項18記載の発明によれば、記録媒体に記録される線画と一般画像との記録濃度の差を少なくすることができる。
請求項19記載の発明によれば、線画と一般画像との目視による記録濃度の差を少なくすることができる。請求項20記載の発明によれば、普通紙上で十分な記録濃度を得ることができる。
請求項21記載の発明によれば、インクジェット記録用紙上で十分な記録濃度を得ることができる。請求項22記載の発明によれば、特に白色の記録媒体に線画及び一般画像を少ない記録濃度差で、且つ、高品位で記録することができる。
付記1〜20記載の発明によれば、にじみのない高品位な文字等の線画の記録と、ブリードのない高品位な図形等の一般画像の記録とを行うことができ、線画と一般画像との記録濃度や色相の差を抑制することが可能となる。
付記21〜40記載の発明によれば、にじみのない高品位な文字等の線画の記録と、ブリードのない高品位な図形等の一般画像の記録とを行うことができ、線画と一般画像との記録濃度や色相の差を抑制することが可能となる。
付記41〜49記載の発明によれば、にじみのない高品位な文字等の線画の記録と、ブリードのない高品位な図形等の一般画像の記録とを行うことができ、線画と一般画像との記録濃度や色相の差を抑制することが可能となる。
付記50及び51記載の発明によれば、異なる色相の境界部分におけるブリードを防止して、鮮明なカラー画像を記録することができる。付記52〜55記載の発明によれば、普通紙を含む様々な種類の記録媒体に対して線画及び一般画像を高品位で記録することができる。
付記56〜59記載の発明によれば、にじみのない高品位な文字等の線画の記録と、ブリードのない高品位な図形等の一般画像の記録とを行うことができ、線画と一般画像との記録濃度や色相の差を抑制することが可能となる。付記60〜64記載の発明によれば、にじみのない高品位な文字等の線画の記録と、ブリードのない高品位な図形等の一般画像の記録とを行うことができ、線画と一般画像との記録濃度や色相の差を抑制することが可能となる。
付記65及び66記載の発明によれば、異なる色相の境界部分におけるブリードを防止して、鮮明なカラー画像を記録することができる。付記67〜70記載の発明によれば、普通紙を含む様々な種類の記録媒体に対して線画及び一般画像を高品位で記録することができる。
付記71〜74記載の発明によれば、にじみのない高品位な文字等の線画の記録と、ブリードのない高品位な図形等の一般画像の記録とを行うことができ、線画と一般画像との記録濃度や色相の差を抑制することが可能となる。
先ず、本発明になるインクジェット記録装置の第1実施例を、図1及び図2と共に説明する。図1はインクジェット記録装置の第1実施例の要部を示す斜視図であり、図2はヘッド部を示す斜視図である。インクジェット記録装置の第1実施例では、前記インクジェット記録装置及びインクジェット記録方法に用いられるインク及びインクカートリッジの第1実施例を用いる。
図1において、インクジェット記録装置40は、大略フレーム41、キャリア42、ステージシャフト43、紙送りローラ44、ヘッド部45、バックアップユニット46、モータ47、ベルト48等からなる。キャリア42は、ベルト48と介してモータ47により駆動され、ステージシャフト43に案内されて同図中X方向へ移動可能である。ヘッド部45は、このキャリア42に取り付けられている。紙等の記録媒体50は、紙送りローラ44により送られて、ヘッド部45は例えば上位装置(図示せず)から受信した画像データに基づいて記録媒体50に画像を記録(印刷)する。
バックアップユニット46は、ヘッド部45の保護機構として設けられている。バックアップユニット46は、ヘッド部45が待機中のときヘッド部45のノズル面をキャップして目詰まり等を防止したり、又、ユーザにより所定の操作が行われると、目詰まり等によるドット抜けを回復するためにヘッド部45のノズルからインク及び気泡を吸引して排出させる等の機能を有する。
上記フレーム41、キャリア42、ステージシャフト43、紙送りローラ44、バックアップユニット46、モータ47、ベルト48等からなるインクジェット記録装置40の部分には、夫々公知の構成を用いることができるので、これらの構造及び動作の詳細な説明は省略する。
次に、ヘッド部45の構成を図2と共に説明する。図2は、ヘッド部45をカバーを取り除いた状態で示す。図2において、ヘッド部45はハウジング51を有し、ハウジング51には複数の着脱レバー5−1〜5−5が設けられている。又、ハウジング51の着脱レバー5−1〜5−5に対応する位置には、夫々スロット52が設けられている。インクカートリッジ11−1〜11−5は、対応するスロット52に挿入され、夫々着脱レバー5−1〜5−5の操作により対応するプリントヘッド(図示せず)に対して装着脱可能である。プリントヘッドは、インクを噴射するノズルを有する構成となっており、プリントヘッド自体には公知の構成のものを使用できるので、本明細書ではその図示及び詳細な説明は省略する。図2では、インクカートリッジ5−1のみがスロット52へ完全に挿入される前又はスロット52から抜き取られる状態で示されている。本実施例では、5つのインクカートリッジ11−1〜11−5に対応させて5つのプリントヘッドがハウジング51の下部に設けられているが、図2では見えない。各インクカートリッジ11−1〜11−5及び各プリントヘッドは、基本的には公知の構成を有するものでも良く、各プリントヘッドはインクを吐出する1又は複数のノズルを有する。
例えば、インクカートリッジ11−1〜11−4は、夫々カラー記録時に用いられる黒、イエロー、マゼンタ及びシアンのインクを貯蔵しているカートリッジ本体からなる。又、インクカートリッジ5−5は、他のインクカートリッジ11−1〜11−4より多少大きいカートリッジ本体からなり、モノクロ記録時に用いられる黒のインクを貯蔵している。従って、本実施例では、カラー記録時とモノクロ記録時とでは、黒のインクを異なるインクカートリッジから供給する。この様な構成とすることにより、例えばインクカートリッジ11−1〜11−4に対応するプリントヘッドとインクカートリッジ5−5に対応するプリントヘッドとに、異なる構造のプリントヘッドを用いることも可能となる。
本実施例では、インクカートリッジ11−1〜11−4内に貯蔵されている黒、イエロー、マゼンタ及びシアンのインクの組成は、例えば酸性染料2重量%、グリセリン10重量%、アニオン系界面活性剤0.5重量%及び残量水である。又、インクカートリッジ11−5内に貯蔵されている黒のインクの組成は、例えば直接染料2重量%、グリセリン10重量%、イソプロパノール4重量%及び残量水である。これらの組成のインクは、インクの種類毎に密閉ポリ容器に計量し、50℃で湯煎しながら3時間撹拌溶解した後、室温まで冷却してポアサイズ0.2μmのフィルタでろ過することにより得た。インクカートリッジ11−5内に貯蔵されている黒のインクは、インクカートリッジ11−1〜11−4内に貯蔵されている黒、イエロー、マゼンタ及びシアンのインクに比べて、記録媒体50への浸透性が低くなるような組成を有する。例えば、コピー用上質紙への浸透時間は、インクカートリッジ11−5内に貯蔵されているモノクロ用黒のインクで約25秒で、その他のインクで約3秒であった。
図3は、これらのインクを用いて360dpiの解像度で「ABC」なる文字をコピー用上質紙に記録した場合の記録結果の写真を拡大して模式的に示す図である。同図中、(a)はインクカートリッジ11−5内に貯蔵されているモノクロ用黒のインクで記録を行った場合の記録結果を示し、(b)はインクカートリッジ11−1内に貯蔵されているカラー用黒のインクで記録を行った場合の記録結果を示す。同図からわかるように、インクカートリッジ11−5内に貯蔵されている浸透性の低いモノクロ用黒のインクで記録を行った場合の方が、インクカートリッジ11−1内に貯蔵されている浸透性の高いカラー用黒のインクで記録を行った場合に比べて、インクのにじみのない高品位の記録が行える。特に、同図(b)では、インクの浸透性が高いために、インクのにじみが大きく、文字の微細な部分が潰れ、エッジのシャープさもなく記録の品位が同図(a)の場合に比べて大幅に低下していることがわかる。そこで、本実施例では、記録される画像がモノクロの場合、又は、記録される画像が黒で他の色相と接する部分を有さない場合は、浸透性の低いモノクロ用黒のインクで記録を行う。
他方、本実施例では、例えば黄色と黒とが接する部分を有する画像の記録時には、黒領域のうち黄色領域との境界部分の一部のみを浸透性の高いカラー用黒のインクで記録し、黒領域の他の部分は浸透性の低いモノクロ用黒のインクで記録する。
図4は、黄色と黒からなる画像を記録する場合の記録結果の写真におけるブリードの状態を拡大して模式的に示す図である。同図中、(a)は本実施例において黒領域Bのうち黄色領域Yとの境界部分xの6ドット幅分のみを浸透性の高いカラー用黒のインクで記録し、黒領域Bの他の部分は浸透性の低いモノクロ用黒のインクで記録した場合の記録結果の写真を拡大して模式的に示し、(b)は境界部分xを含めた黒領域B全体を浸透性の低いモノクロ用黒のインクで記録した場合の記録結果の写真を拡大して模式的に示し、(c)は境界部分xを含めた黒領域B全体を浸透性の高いカラー用黒のインクで記録した場合の記録結果の写真を拡大して模式的に示し、(d)は境界部分xに非記録部分(白ぬき部分)を設けて記録した場合の記録結果の写真を拡大して模式的に示す。本実施例では、同図(a)に示すように、同図(c)の場合と同等のブリードの少ない記録が実現できる。しかし、同図(b)ではブリードが著しく大きく、同図(d)では境界部分xに白領域が顕著に認識されるので、これらの場合には記録結果が記録されるべき所望の画像と大きく異なることが確認できた。
尚、図4(c)では、図3(a)に示す文字と比べると、黒領域Bの記録濃度が低く、黒文字と黒領域Bとの色の違いが認識できる程度となってしまい、記録画像全体の品位が低下してしまう。これに対して、本実施例では、図4(a)に示すように黒領域Bの記録濃度が高く、図3(a)に示す文字と黒領域Bとの色の差が殆ど認識できなかった。
従って、図3(a)及び図4(a)に示すように、本実施例によれば、にじみのない高品位の文字の記録とブリードのない高品位の色境界部の記録とを同時に実現できる。又、文字と図形等との記録濃度、明度や彩度を同等にすることができるので、記録される画像全体の品位を著しく向上することができる。
黒領域Bのうち、浸透性の高いカラー用の黒インクで記録する境界部分xの幅は、大きい程ブリードを低減する効果が大きくなる。しかし、境界部分xのドット幅が大きくなる程、明度、彩度及び記録濃度の差が認識できる程度に大きくなってしまう。そこで、2種類の、浸透性の低いモノクロ用黒のインク及び浸透性の高いカラー用黒のインクに使用する染料の種類を同一にすることで、色差を小さくすることができる。又、第4実施例と共に後述する如く、浸透性の高いカラー用黒のインクの染料濃度を浸透性の低いモノクロ用黒のインクの染料濃度より高くすることで、記録濃度の差を小さくすることができる。
図5は、浸透性の高いカラー用黒のインクの染料を、酸性染料から浸透性の低いモノクロ用黒のインクに使用しているのと同じ直接染料とし、染料の組成比を2重量%から4重量%に増加して得た調整された浸透性の高い黒のインクを用いて記録を行った場合の記録結果の写真を拡大して模式的に示す図である。同図と図4(a)との比較からも明らかなように、図5ではブリードが図4(a)の場合と同程度に小さく、且つ、黒の境界も認識しにくくなっており、記録の均一性が向上されることが確認された。
後述する第4及び第5実施例と共により詳細に説明するが、本発明者らは、種々の色相のサンプルで主観評価を行ったところ、色差が5以下の場合には明度及び彩度の差が許容範囲となり、浸透性の異なるインクで記録した領域の色差は5以下となることが望ましいことが確認された。又、同色相の記録領域の記録濃度についても主観評価を行ったところ、マクベス濃度計で測定した記録濃度(OD)が約1.0以上の場合には、同色相の記録領域間での記録濃度差が0.3以下であれば濃度の差が許容範囲内であることが確認された。従って、浸透性の高いインクで記録した記録領域と浸透性の低いインクで記録した記録領域との記録濃度の差は、ODで0.3以下であることが望ましいことがわかった。
又、浸透性の低いインクは、記録媒体上での広がりが小さい傾向にある。このため、浸透性の低いインクを浸透性の高いインクとの両方を使用して記録を行う場合には、単位面積当り、浸透性の低いインクを浸透性の高いインクよりも多く付着することが望ましい。この様にすることにより、インクジェット記録装置の所定の解像度に適したドットを記録することができる。
境界部分において、浸透性の高い黒のインクで記録する幅を、境界部分を形成する各色領域のインク量や記録媒体自体のインクの浸透性により調整することにより、記録される画像の品位を向上することができる。つまり、インク量が多い程、又、記録媒体自体のインクの浸透性が低い程、ブリードは増加する傾向にあるので、境界部分において浸透性の高い黒のインクで記録する幅は、広く設定すると効果的である。
図6はインクの浸透性が第1の値である記録媒体に、黄色領域Yと黒領域Bとの境界部分xで浸透性の高い黒のインクを用いて記録した場合の記録結果の写真におけるブリードの状態を拡大して模式的に示す図である。同図中、(a),(b),(c),(d)は夫々浸透性の高い黒のインクによる境界部分xの記録幅が1ドット,2ドット,4ドット,6ドットの場合のブリードの状態を示す。
又、図7はインクの浸透性が第1の値である記録媒体に、赤領域Rと黒領域Bとの境界部分xで浸透性の高い黒のインクを用いて記録した場合の記録結果の写真におけるブリードの状態を拡大して模式的に示す図である。赤領域Rは、イエロー及びマゼンタのインクの重ね記録により得られ、黄色領域Yをイエローのインクで記録する場合と比べると、約2倍のインクの量が使用される。同図中、(a),(b),(c),(d)は夫々浸透性の高い黒のインクによる境界部分xの記録幅が1ドット,2ドット,4ドット,6ドットの場合のブリードの状態を示す。
図6及び図7からわかるように、浸透性の低い黒のインクによる境界部分xの記録幅が大きくなる程、ブリードは小さくなった。又、黒領域Bと黄色領域Yとの境界よりも、黒領域Bと赤領域Rとの境界でのブリードの方が大きい傾向があった。ブリードを少なくすると共に同等の記録品位を得るには、浸透性の高い黒のインクによる境界部分xの記録幅は、インク量の少ない黒領域Bと黄色領域Yとの境界では約4ドット、インク量の多い黒領域Bと赤領域Rとの境界では約6ドット必要であった。このように、インク量が多い境界では、浸透性の高い黒のインクによる境界部分xの記録幅を広くする(この例ではドット数を増やす)ことが、ブリードを少なくすると共に同等の記録品位を得る上で効果的である。
図8はインクの浸透性が第1の値より低い第2の値である記録媒体に、黄色領域Yと黒領域Bとの境界部分xで浸透性の高い黒のインクを用いて記録した場合の記録結果の写真におけるブリードの状態を拡大して模式的に示す図である。同図中、(a),(b),(c),(d)は夫々浸透性の高い黒のインクによる境界部分xの記録幅が2ドット,4ドット,6ドット,8ドットの場合のブリードの状態を示す。
又、図9はインクの浸透性が第2の値である記録媒体に、赤領域Rと黒領域Bとの境界部分xで浸透性の高い黒のインクを用いて記録した場合の記録結果の写真におけるブリードの状態を拡大して模式的に示す図である。赤領域Rは、イエロー及びマゼンタのインクの重ね記録により得られ、黄色領域Yをイエローのインクで記録する場合と比べると、約2倍のインクの量が使用される。同図中、(a),(b),(c),(d)は夫々浸透性の高い黒のインクによる境界部分xの記録幅が2ドット,4ドット,6ドット,8ドットの場合のブリードの状態を示す。
図8及び図9と図6及び図7との比較からわかるように、浸透性の低い記録媒体程、ブリードが大きい傾向があった。ブリードを少なくすると共に同等の記録品位を得るには、浸透性の高い黒のインクによる境界部分xの記録幅は、インク量の少ない黒領域Bと黄色領域Yとの境界では約6ドット、インク量の多い黒領域Bと赤領域Rとの境界では約8ドット必要であった。このように、記録媒体の浸透性に応じて境界部分xでの浸透性の高い黒のインクによる記録幅(ドット数)を調整することが、ブリードを少なくすると共に同等の記録品位を得る上で効果的である。
図10は、隣合う領域の明度(コントラスト)差に応じたブリードの状態を説明する図である。同図中、(a)は黒領域Bと黒との明度差が大きい赤領域Rとの境界部分でのブリードの状態を示す写真を拡大して模式的に示し、(b)は黒領域Bと黒との明度差が小さい紫領域Pとの境界部分でのブリードの状態を示す写真を拡大して模式的に示す。図10中、浸透性の高い黒のインクによる境界部分での記録幅は2ドットである。図10(a)では境界部分でのブリードが認識できるが、図10(b)では境界部分でのブリードが殆ど認識できない。このように、ブリードは、明度(コントラスト)の差が大きい色境界で特に顕著に見えるので、本実施例は、隣合う領域を記録するインクの色の明度差が大きい場合に適用すると特に効果的である。
図11は、隣合う領域の境界部分において、使用する高い浸透性のインクの浸透性を変えて記録した場合のブリードの状態を説明する図である。同図中、(a)は黒領域Bに使用する黒のインクの方の浸透性を高くして黄色領域Yに使用するイエローのインクの浸透性を低くした場合の境界部分でのブリードの状態を示す写真を拡大して模式的に示し、(b)は黒領域Bに使用する黒のインクの方の浸透性を低くして黄色領域Yに使用するイエローのインクの浸透性を高くした場合の境界部分でのブリードの状態を示す写真を拡大して模式的に示す。使用する浸透性の高いインクの組成としては、浸透性の低い方のインクは界面活性剤の量を0.3%とし、浸透性の高い方のインクは界面活性剤の量を0.5%として、2種類のインクを各色調整してインクの浸透性を変えて、各々のインクの組み合せで記録を行った。
黒のインクの方の浸透性をイエローのインクの浸透性より高くした場合には、図11(a)に示すように、ブリードが見えなかった。他方、イエローのインクの方の浸透性を黒のインクの浸透性より高くした場合には、図11(b)に示すように、黒のインクが黄色領域Y内に流れ出し、ブリードが比較的顕著に見えた。
このように、隣接する2つの領域を浸透性の異なる2種類の浸透性の高いインクで記録する場合、例えば黒等の明度の低い色のインクが例えばイエロー等の明度の高いインクに流れ込むと、境界部分でのブリードが顕著に見えてしまう。このため、隣接する2つの領域を浸透性が共に高く、且つ、浸透性が互いに異なる2種類のインクで記録する場合には、例えばイエロー等の明度の高い方のインクが例えば黒等の明度の低い色のインクに流れ込むように、明度の低い方のインクの浸透性を明度の高いインクの浸透性より高く設定することが、境界部分でのブリードをなくし記録品位を向上させる上で効果的である。
又、浸透性の高いインクを使用した記録を行う際には、明度の高いインクの方が明度の低いインクへ流れ込み易いように、明度の低いインクによる記録を先に行い、先にインクの定着を進行させておいてから、次に明度の高いインクによる記録を行うと、境界部分でのブリードをなくし記録品位を向上させる上で一層効果的である。
図12は、高低2種類の浸透性の異なる黒のインクと、高い浸透性のその他の色相のインクにより記録を行う場合の、境界部分でのブリードの状態の記録順序の依存性を説明する図である。同図中、(a)は浸透性の低い黒のインク、浸透性の高いイエローのインク、浸透性の高い黒のインクの順に記録を行った場合の記録結果の写真を拡大して模式的に示す。同図中、(b)は浸透性の高いイエローのインク、浸透性の低い黒のインク、浸透性の高い黒のインクの順に記録を行った場合の記録結果の写真を拡大して模式的に示す。同図中、(c)は浸透性の低い黒のインク、浸透性の高い黒のインク、浸透性の高いイエローのインクの順に記録を行った場合の記録結果の写真を拡大して模式的に示す。図12では、浸透性の高い黒のインクによる境界部分の記録幅は2ドットである。
本実施例では、浸透性の低い黒のインク、浸透性の高いイエロー等の他の色相のインク、浸透性の高い黒のインクの順に記録を行う。このため、図12(a)に示すように、境界部分でのブリードは殆どない。しかし、上記の如きこれ以外の記録順序の場合、図12(b),(c)に示すように、境界部分でのブリードが顕著に見られる。
従って、高低2種類の浸透性の異なる黒のインクと、高い浸透性のその他の色相のインクにより記録を行う場合には、2種類の黒のインクによる記録の間にその他の色相のインクによる記録を行うような記録順序を採用することが望ましい。このような記録順序を採用すれば、黒のインクが定着する時間を比較的長くとることができ、黒のインク同士が接触するまでの時間も比較的長くできるので、境界部分でのブリードや黒領域の濃度むら等を抑制することができる。
更に、浸透性の低い黒のインクによる記録領域が、その周辺の浸透性の高い黒のインクによる記録領域よりも大きい場合には、浸透性の高い黒のインクによる記録を浸透性の低い黒のインクによる記録より先に行うことが望ましい。このように、浸透性の高い黒のインクによる記録を先に行うことにより、境界部分でのブリードや濃度むらを低減することができ、高品位の記録が可能となる。すなわち、このように記録することで、浸透性の低いインクが浸透性の高いインクの記録領域に流れ込み記録インク量が増加して、黒記録領域の濃度を均一化する。
図13は、このように異なる浸透性の黒のインクによる記録順序を変えた場合の境界部分でのブリードの状態を説明する図である。同図(a)は、浸透性の低い黒のインクによる記録を48ドットの記録幅で先に行い、次に浸透性の高い黒のインクによる記録を8ドット幅で行った場合の記録結果の写真を拡大して模式的に示す。又、同図(b)は、浸透性の高い黒のインクによる記録を8ドットの記録幅で先に行い、次に浸透性の低い黒のインクによる記録を48ドット幅で行った場合の記録結果の写真を拡大して模式的に示す。図13の場合、浸透性の高いイエローのインクによる記録は、2種類の黒のインクによる記録の間に行われた。
図13からもわかるように、同図(a)の場合には境界部分でのブリードが見えず、黒記録領域で濃度むらも見られない。他方、同図(b)の場合には、黒記録領域での濃度むらが顕著に見られた。又、浸透性の低い黒のインクによる記録領域が、その周辺の浸透性の高い黒のインクによる記録領域よりも大きい場合には、インクの記録媒体への裏抜けを防止する意味からも、浸透性の低い黒のインクによる記録を浸透性の高い黒のインクによる記録より先に行うことが望ましい。インクの記録媒体への裏抜けとは、記録媒体の裏面までインクが染み出す現象であり、記録媒体の両面への記録を考慮すると、好ましくない。しかし、浸透性の低い黒のインクによる記録を先に行うことにより、この様なインクの記録媒体への裏抜けを減少させることができる。すなわち、浸透性の低い黒インクを先に記録することで浸透性の低い黒インクが浸透性の高い黒インクの記録領域に流れ込みにくくして、浸透性の高い黒インクの記録領域のインク量増加を防ぎ、裏抜けを防止する。
図14は、このように異なる浸透性の黒のインクによる記録順序を変えた場合の記録媒体の裏面の状態を説明する図である。同図(a)は、記録媒体の表面に対して、浸透性の低い黒のインクによる記録を48ドットの記録幅で先に行い、次に浸透性の高い黒のインクによる記録を8ドット幅で行った場合の記録媒体の裏面の写真を拡大して模式的に示す。又、同図(b)は、記録媒体の表面に対して、浸透性の高い黒のインクによる記録を8ドットの記録幅で先に行い、次に浸透性の低い黒のインクによる記録を48ドット幅で行った場合の記録媒体の裏面の写真を拡大して模式的に示す。図14の場合、浸透性の高いイエローのインクによる記録は、2種類の黒のインクによる記録の間に行われた。又、図1414中、梨地は記録媒体の裏面での色の濃度を模式的に示す。
図14からもわかるように、同図(a)の場合には記録媒体への裏抜けが殆ど見られない。他方、同図(b)の場合には、記録媒体への裏抜けが顕著に見られた。ところで、浸透性の低い黒のインクによる記録領域が、その周辺の浸透性の高い黒のインクによる記録領域よりも小さい場合には、浸透性の低い黒のインクによる記録を浸透性の高い黒のインクによる記録より先に行うことが望ましい。このように、浸透性の低い黒のインクによる記録を先に行うことにより、境界部分でのブリードや濃度むらを低減することができ、高品位の記録が可能となる。すなわち、このように記録すると浸透性の低いインクが浸透性の高いインクの記録領域に流れ込むのを防ぎ、浸透性の低いインクの記録領域の濃度低下を防止できる。
図15は、このように異なる浸透性の黒のインクによる記録順序を変えた場合の境界部分でのブリードの状態を説明する図である。同図(a)は、浸透性の低い黒のインクによる記録を4ドットの記録幅で先に行い、次に浸透性の高い黒のインクによる記録を6ドット幅で行った場合の記録結果の写真を拡大して模式的に示す。又、同図(b)は、浸透性の高い黒のインクによる記録を6ドットの記録幅で先に行い、次に浸透性の低い黒のインクによる記録を4ドット幅で行った場合の記録結果の写真を拡大して模式的に示す。図15の場合、浸透性の高いイエローのインクによる記録は、2種類の黒のインクによる記録の間に行われた。
図15からもわかるように、同図(a)の場合には境界部分でのブリードが見えず、濃度むらも見られない。他方、同図(b)の場合には、黒記録領域での濃度むらが顕著に見られた。コピー紙等に使用される上質紙や中質紙には、通常サイズというインクのにじみ防止処理が施されている。このため、インクをこの様な記録媒体に付着させると、インクは馴染み時間と呼ばれる所定の時間で記録媒体の表面と馴染みが良くなり、その後記録媒体の内部への浸透が開始される。一般に、浸透性の低いインクは、浸透性の高いインクに比べると馴染み時間が長く、又、馴染み時間後の浸透速度も遅い。従って、隣接する領域を浸透性の高いインクと浸透性の低いインクで記録する場合、浸透性の低いインクが記録媒体の表面に存在する時間が長く、浸透性の高いインクが記録媒体の表面に存在する時間が短い。このため、隣接する領域をこれらの2つのインクで記録すると、浸透性の低いインクで記録した領域から浸透性の高いインクで記録した領域へインクが流れ込み、記録濃度に濃淡が生じたり、インクの裏抜けが生じたりする。そこで、浸透性の異なる2つのインクを使用する場合、インクの浸透のタイミングを上記の如く調整することにより、これらの問題を回避して高品位の記録を実現できる。
即ち、浸透開始が遅い方の、浸透性の低いインクを浸透性の高いインクよりも早く記録媒体に付着することにより、浸透性の高いインクが記録媒体に付着した時点で既に浸透性の低いインクが記録媒体内に浸透し始めているようにすることが望ましい。この様な記録を行うことにより、浸透性の低いインクで記録した領域から浸透性の高いインクで記録した領域へのインクの流れ込みを減少させることができる。
図16は、ブリストー(Bristow)試験(J.TAPPI 紙パルプ試験方法No.51)の結果を、浸透性の高いインクと浸透性の低いインクとについて示す図である。同図中、aは浸透性の低いインクの接触時間に対する浸透量を示し、bは浸透性の高いインクの接触時間に対する浸透量を示す。
浸透性の低いインクは、サイズ等のにじみ防止処理が施された上質紙に対しては浸透しにくく、にじみのない高品位の記録が行える。しかし、比較的インクの浸透性が高い記録紙に対しては、浸透性の低いインクであっても、紙の繊維の長手方向に沿った羽毛状のにじみ(フェザ)を生じ易くなり、記録品位を著しく低下させてしまう。
他方、この様に比較的インクの浸透性が高い記録媒体に対して浸透性の高いインクで記録を行うと、フェザを小さくすることができ、記録品位の低下を少なくすることができる。従って、比較的インクの浸透性が高い記録媒体にたいして記録を行う際には、文字部分を含めて、記録媒体上の全ての記録領域を、浸透性の高いインクで記録することが、フェザを小さくする上では望ましい。
図17は、比較的インクの浸透性が高い記録媒体に対して記録を行った場合の記録結果を示す図である。同図中、(a)は浸透性の高い黒のインクでコピー紙等の再生紙に文字を記録した場合の記録結果の写真を拡大して模式的に示し、(b)は浸透性の低い黒のインクでコピー紙等の再生紙に文字を記録した場合の記録結果の写真を拡大して模式的に示す。図17からわかるように、同図(b)ではフェザが生じているが、同図(a)ではフェザがあまり見られない。
尚、上記実施例では、色相の例として、黒について2種類の浸透性の異なるインクを使用しているが、シアン、マゼンタ及びイエロー等のその他の色相の各々について浸透性の異なる複数のインクを使用して記録を行うようにしても良いことは言うまでもない。この場合、記録品位がより一層向上される。又、色相は上記4色に限定されるものではなく、赤、青、緑等の色相に対しても、同様に浸透性の異なるインクを使用できる。
次に、本実施例におけるインクジェット記録装置内の要部の構成及びその動作を、図18〜図24と共により詳細に説明する。図18は、インクジェット記録装置の第1実施例における画像データ処理系を示すブロック図である。同図中、画像データ処理系は、大略黒データの境界色判別部20、黒データの分離部21、ドット制御部22及び駆動部23からなる。黒データの境界色判別部20は、記録するべき画像に関する画像データを入力され、画像中の黒部分が接触する色相を判別する。黒データの分離部21は、画像データから、浸透性の高い黒のインクで記録する黒部分及び浸透性の低い黒のインクで記録する黒部分に関する黒データを分離する。ドット制御部22は、黒部分と他の色相の部分との境界部分における浸透性の低い黒のインクによる記録幅の設定等を含むドット制御を行う。又、駆動部23は、画像データ、黒データ及び境界部分における浸透性の低い黒のインクによる記録幅等に基づいて、図1に示すヘッド部45の各ヘッドを駆動する。黒データの境界色判別部20及び黒データの分離部21の動作は、図18中破線で示すように、単一の中央制御装置(CPU)25等のメモリ26内に格納されたソフトウェアにより実現可能である。又、ドット制御部22及び駆動部23の動作もこのCPU25のソフトウェアにより実現するようにしても良い。更に、記録するべき画像に関する画像データは、一旦メモリ26又はバッファメモリ(図示せず)に格納してから読み出して黒データの境界色判別部20に入力するようにしても良い。
尚、紙送りローラ44等の記録媒体の送り機構を制御する制御系や、キャリア42の移動を制御する制御系等は公知であるので、本明細書ではこれらの図示及び説明は省略する。先ず、黒データの境界色判別部20、黒データの分離部21及びドット制御部22の動作を説明する。以下の説明では、図19に示すように、画像データのドット記録位置がDXm,n等で表され、XはY,M,C,K,K’のいずれかの色相を表し、m,nは整数を表すものとする。ここで、色相Xは、Yがイエローで浸透性の高いイエローのインクで記録され、Mがマゼンタで浸透性の高いマゼンタのインクで記録され、Cがシアンで浸透性の高いシアンのインクで記録され、Kが黒で浸透性の高い黒のインクで記録され、K’が黒で浸透性の低い黒のインクで記録されるものとする。これらY,M,C,K,K’のインクの基本色を組み合せることでその中間色が実現できる。例えば、Rは赤でR=Y+Mで表され、Gは緑でG=Y+Cで表され、Bは青でB=M+Cで表される。
図20は、境界部分における浸透性の高い黒のインクによる記録幅が1ドットの場合の黒データの境界色判別部20、黒データの分離部21及びドット制御部22の動作を示すフローチャートである。同図及び後述する図において、dXm,nは、ドット記録位置DXm,nに関する色相Xの画像データを表すものとする。入力されるカラー画像データdXm,nには、X=K’のものが含まれない。
図20中、ステップS1は、m及びnを夫々0に初期化する。ステップS2は、ドット記録位置DKm,nに関する画像データdKm,nが1であるか否かを判定する。ステップS2の判定結果がNOであれば、処理は後述するステップS5へ進む。他方、ステップS2の判定結果がYESであれば、ステップS3で各ドット記録位置DKm,nに隣接する黒以外の各色相画像データが0であるか否かを判定する。つまり、画像データdYm−1,n、dYm+1,n、dYm,n−1、dYm,n+1、dMm−1,n、dMm+1,n、dMm,n−1、dMm,n+1、dCm−1,n、dCm+1,n、dCm,n−1、dCm,n+1、が全て0の場合、ステップS3の判定結果はYESとなる。ステップS3の判定結果がYESの場合、ステップS4で画像データdKm,nを0に設定すると共に、画像データdK’m,nを1に設定する。このステップS4により、画像データdKm,nについては浸透性の高い黒のインクによる記録は行わず、画像データdKm,nは画像データdK’m,nに置き換えられ、浸透性の低い黒のインクで記録が行われる。
ステップS5は、m=aであるか否かを判定し、判定結果がNOであれば、ステップS6でmをm+1に設定し、処理をステップS2へ戻す。ここで、aはmの最終値を示す。他方、ステップS5の判定結果がYESであれば、ステップS7でn=bであるか否かを判定する。ここで、bはnの最終値を示す。ステップS7の判定結果がNOであれば、ステップS8でmを0に設定すると共にnをn+1に設定し、処理をステップS2へ戻す。ステップS7の判定結果がYESであれば、処理は終了する。
これにより、黒領域と黒以外の色相の領域との境界部分において、浸透性の低い黒のインクで記録される部分が浸透性の高い黒のインクで記録される部分に1ドット分置き換えられる。つまり、境界部分において、浸透性の高い黒のインクによる記録幅が1ドットに設定される。
尚、境界部分において、浸透性の高い黒のインクによる記録幅をpドットに設定する場合は、基本的には図20においてdXm±p,n±pの範囲内にある画像データを検索すれば良い。図21は、境界部分における浸透性の高い黒のインクによる記録幅がpドットの場合の黒データの境界色判別部20、黒データの分離部21及びドット制御部22の動作を示すフローチャートである。
図21中、ステップS11は、ドット記録位置Dm,nに対する画像データdXm,nが存在するか否か、即ち、黒又は他の色相による記録が行われるべきか否かを判定する。ドット記録位置Dm,nが白ぬきでステップS11の判定結果がNOの場合、ステップS12で次のドット記録位置を検索するためにmをm+1に設定するか、nをn+1に設定する。初期状態では、m=1及びn=1であり、この状態から順次ドット記録位置を検索する。従って、最初はステップS12においてmがm+1に設定され、m=aまでの検索が行われると、今度はステップS12においてnがn+1に設定されて、n=bとなるまで検索が順次繰り返される。他方、ステップS11の判定結果がYESの場合、ステップS13でドット記録位置Dm,nに対する画像データdXm,nが黒、即ち、dKm,n=1であるか否かを判定する。ステップS13の判定結果がNOであれば処理はステップS12に戻るが、YESであれば処理は後述するステップS14へ進む。
上記ステップS11〜S13により、黒又は他の色相による記録が行われるべきか否かの判断及び色相の判別がなされる。ステップS14は、ドット記録位置Dm,nに隣接するいずれかのドット記録位置Dx,yに対する画像データdXx,yが存在するか否か、即ち、黒又は他の色相による記録が行われるべきか否かを判定する。ここで、(x,y)は(m,n+1)、(m+1,n)、(m+1,n+1)である。全てのドット記録位置Dx,yが白ぬきでステップS14の判定結果がNOの場合、処理はステップS26へ進む。ステップS26は、画像データdKm,nを0に設定すると共に、画像データdK’m,nを1に設定し、その後処理がステップS12へ戻る。他方、ステップS14の判定結果がYESの場合は、ステップS15でいずれかのドット記録位置Dx,yに対する画像データdXx,yが黒、即ち、dKx,y=1であるか否かを判定する。ステップS15の判定結果がNOの場合、ステップS16は画像データdK’m,nを0に設定して処理がステップS12へ戻る。又、ステップS15の判定結果がYESの場合は、ステップS17で2つのドット記録位置Dx,yに対する画像データdKx,yをdK’x,yに置き換えるか否かを判定する。即ち、ステップS17は、境界部分において浸透性の高い黒のインクで記録する記録幅を2ドットに設定するか否かを判定する。ステップS17の判定結果がNOの場合は処理がステップS12へ戻り、YESの場合は後述するステップS18へ進む。
上記ステップS14〜S17により、1ドット目の隣接ドットの色相が判定され、境界部分において浸透性の高い黒のインクで記録する記録幅を1ドットに設定される。ステップS18は、ドット記録位置Dm,nに隣接するいずれかのドット記録位置Dx,yに対する画像データdXx,yが存在するか否か、即ち、黒又は他の色相による記録が行われるべきか否かを判定する。ここで、(x,y)は(m,n+2)、(m+1,n+2)、(m+2,n)、(m+2,n+1)、(m+2,n+2)である。全てのドット記録位置Dx,yが白ぬきでステップS18の判定結果がNOの場合、処理は上記ステップS26へ進む。他方、ステップS18の判定結果がYESの場合は、ステップ19でいずれかのドット記録位置Dx,yに対する画像データdXx,yが黒、即ち、dKx,y=1であるか否かを判定する。ステップS19の判定結果がNOの場合、ステップS20は画像データdK’m,nを0に設定して処理がステップS12へ戻る。又、ステップS19の判定結果がYESの場合は、ステップS21で3つのドット記録位置Dx,yに対する画像データdKx,yをdK’x,yに置き換えるか否かを判定する。即ち、ステップS21は、境界部分において浸透性の高い黒のインクで記録する記録幅を3ドットに設定するか否かを判定する。ステップS21の判定結果がNOの場合は処理がステップS12へ戻り、YESの場合は後述するステップS22へ進む。
上記ステップS18〜S21により、2ドット目の隣接ドットの色相が判定され、境界部分において浸透性の高い黒のインクで記録する記録幅を2ドットに設定される。ステップS22は、ドット記録位置Dm,nに隣接するいずれかのドット記録位置Dx,yに対する画像データdXx,yが存在するか否か、即ち、黒又は他の色相による記録が行われるべきか否かを判定する。ここで、(x,y)は(m,n+3)、(m+1,n+3)、(m+2,n+3)、(m+3,n)、(m+3,n+1)、(m+3,n+2)、(m+3,n+3)である。全てのドット記録位置Dx,yが白ぬきでステップS22の判定結果がNOの場合、処理は上記ステップS26へ進む。他方、ステップS22の判定結果がYESの場合は、ステップ23でいずれかのドット記録位置Dx,yに対する画像データdXx,yが黒、即ち、dKx,y=1であるか否かを判定する。ステップS23の判定結果がNOの場合、ステップS24は画像データdK’m,nを0に設定して処理がステップS12へ戻る。又、ステップS23の判定結果がYESの場合は、ステップS25で4つのドット記録位置Dx,yに対する画像データdKx,yをdK’x,yに置き換えるか否かを判定する。即ち、ステップS25は、境界部分において浸透性の高い黒のインクで記録する記録幅を4ドットに設定するか否かを判定する。ステップS25の判定結果がNOの場合は処理がステップS12へ戻り、YESの場合は次のステップ(図示せず)へ進む。
上記ステップS22〜S25により、3ドット目の隣接ドットの色相が判定され、境界部分において浸透性の高い黒のインクで記録する記録幅を3ドットに設定される。以下同様にして、境界部分において浸透性の高い黒のインクで記録する記録幅がpドットに設定されるまで、上記の如き動作が繰り返される。
次に、隣接する領域の色相の明度差に応じて、色境界部分において浸透性の高い黒のインクで記録する記録幅を調整する場合の黒データの境界色判別部20、黒データの分離部21及びドット制御部22の動作について、図22と共に説明する。図22は、この場合の黒データの境界色判別部20、黒データの分離部21及びドット制御部22の動作を示すフローチャートである。
図22では、色相を数値で表す。説明の便宜上、明度の高い順に、白ぬき(データなし)=0、Y=2、M=3、C=4、R(Y+M)=5、G(Y+C)=6、B(M+C)=7、K=K’=9とする。黒(K,K’)との明度差が大きく、境界部分でブリードが目立つ順に、境界部分での浸透性の高い黒のインクで記録する記録幅、即ち、K’をKに置き換えるドット数を、Yでは3ドット、M、C、R、Gでは2ドット、Bでは1ドットとした場合の動作を以下に説明する。
図22中、ステップS31は、ドット記録位置Dm,nに対する画像データdm,nが存在するか否か、即ち、dm,n≠0で黒又は他の色相による記録が行われるべきか否かを判定する。ドット記録位置Dm,nが白ぬきでステップS31の判定結果がNOの場合、ステップS32で次のドット記録位置を検索するためにmをm+1に設定するか、nをn+1に設定する。初期状態では、m=1及びn=1であり、この状態から順次ドット記録位置を検索する。従って、最初はステップS32においてmがm+1に設定され、m=aまでの検索が行われると、今度はステップS32においてnがn+1に設定されて、n=bとなるまで検索が順次繰り返される。他方、ステップS31の判定結果がYESの場合、ステップS33でドット記録位置Dm,nに対する画像データdm,n=9、即ち、dKm,n=1であるか否かを判定する。ステップS33の判定結果がNOであれば処理はステップS32に戻るが、YESであれば処理は後述するステップS34へ進む。
上記ステップS31〜S33により、黒又は他の色相による記録が行われるべきか否かの判断及び色相の判別がなされる。ステップS34は、ドット記録位置Dm,nに隣接するいずれかのドット記録位置Dx,yに対する画像データdx,yが存在するか否か、即ち、dx,y=≠0で黒又は他の色相による記録が行われるべきか否かを判定する。ここで、(x,y)は(m,n+1)、(m+1,n)、(m+1,n+1)である。全てのドット記録位置Dx,yが白ぬきでステップS34の判定結果がNOの場合、処理はステップS45へ進む。ステップS45は、画像データdKm,nを0に設定すると共に、画像データdK’m,nを1に設定し、その後処理がステップS32へ戻る。他方、ステップS34の判定結果がYESの場合は、ステップS35でいずれかのドット記録位置Dx,yに対する画像データdx,yが黒、即ち、dx,y=9であるか否かを判定する。ステップS35の判定結果がNOの場合、ステップS36は画像データdK’m,nを0に設定して処理がステップS32へ戻る。又、ステップS35の判定結果がYESの場合は、後述するステップS37へ進む。
上記ステップS34〜S36により、1ドット目の隣接ドットの色相が判定され、境界部分において浸透性の高い黒のインクで記録する記録幅を1ドットに設定される。ステップS37は、ドット記録位置Dm,nに隣接するいずれかのドット記録位置Dx,yに対する画像データdx,yが存在するか否か、即ち、dx,y≠0で黒又は他の色相による記録が行われるべきか否かを判定する。ここで、(x,y)は(m,n+2)、(m+1,n+2)、(m+2,n)、(m+2,n+1)、(m+2,n+2)である。全てのドット記録位置Dx,yが白ぬきでステップS37の判定結果がNOの場合、処理は上記ステップS45へ進む。他方、ステップS37の判定結果がYESの場合は、ステップ38でいずれかのドット記録位置Dx,yに対する画像データdx,yが黒、即ち、dx,y=9であるか否かを判定する。ステップS38の判定結果がNOの場合、ステップS39はdx,yが0〜7であるか否かを判定することにより、dx,yの色相が黒以外であるか否かを判定する。ステップS39の判定結果がYESの場合は、処理がステップS45へ進む。他方、ステップS39の判定結果がNOの場合は、ステップS40で画像データdK’m,nを0に設定して処理がステップS32へ戻る。又、ステップS38の判定結果がYESの場合は、後述するステップS41へ進む。
上記ステップS37〜S40により、2ドット目の隣接ドットの色相が判定され、境界部分において浸透性の高い黒のインクで記録する記録幅を2ドットに設定される。ステップS41は、ドット記録位置Dm,nに隣接するいずれかのドット記録位置Dx,yに対する画像データdx,yが存在するか否か、即ち、dx,y≠0で黒又は他の色相による記録が行われるべきか否かを判定する。ここで、(x,y)は(m,n+3)、(m+1,n+3)、(m+2,n+3)、(m+3,n)、(m+3,n+1)、(m+3,n+2)、(m+3,n+3)である。全てのドット記録位置Dx,yが白ぬきでステップS41の判定結果がNOの場合、処理は上記ステップS45へ進む。他方、ステップS41の判定結果がYESの場合は、ステップ42でいずれかのドット記録位置Dx,yに対する画像データdx,yが黒、即ち、dx,y=9であるか否かを判定する。ステップS42の判定結果がNOの場合、ステップS43はdx,yが2以外であるか否かを判定することにより、dx,yの色相がイエロー以外であるか否かを判定する。ステップS42又はS43の判定結果がYESの場合は、処理がステップS45へ進む。他方、ステップS43の判定結果がNOの場合は、ステップS44で画像データdK’m,nを0に設定して処理がステップS32へ戻る。
上記ステップS41〜S44により、3ドット目の隣接ドットの色相が判定され、境界部分において浸透性の高い黒のインクで記録する記録幅を3ドットに設定される。次に、隣接する領域を記録するインクの量に応じて、色境界部分において浸透性の高い黒のインクで記録する記録幅を調整する場合の黒データの境界色判別部20、黒データの分離部21及びドット制御部22の動作について、図23と共に説明する。図23は、この場合の黒データの境界色判別部20、黒データの分離部21及びドット制御部22の動作を示すフローチャートである。図23中、図22と同一ステップには同一符号を付し、その説明は省略する。
図23では、色相を数値で表す。説明の便宜上、明度の高い順に、白ぬき(データなし)=0、Y=2、M=3、C=4、R(Y+M)=5、G(Y+C)=6、B(M+C)=7、K=K’=9とする。一次色Y,M,Cを重ねて、二次色R,G,Bを記録する場合、一次色に比べて二次色のインクの量は約2倍になる。この時、境界部分の一次色側の部分では浸透性の高い黒のインクで記録する記録幅を1ドットに設定し、境界部分の二次色側の部分では浸透性の高い黒のインクで記録する記録幅を2ドットに設定した場合の動作を以下に説明する。
図23では、ステップS38の判定結果がYESであると、処理はステップS45へ進む。他方、ステップS38の判定結果がNOであると、ステップS49はdx,yが4以上であるか否かを判定することにより、dx,yの色相がシアンかシアンより明度の低い色相であるか否かを判定する。ステップS49の判定結果がYESの場合は、処理がステップS45へ進む。他方、ステップS49の判定結果がNOの場合は、ステップS44で画像データdK’m,nを0に設定して処理がステップS32へ戻る。
次に、黒の領域内で、浸透性の高い黒のインクで記録する記録面積と浸透性の低い黒のインクで記録する記録面積との算出方法について、図24と共に説明する。図24は、浸透性の高い黒のインクで記録する記録面積と浸透性の低い黒のインクで記録する記録面積とを算出する場合の黒データの境界色判別部20、黒データの分離部21及びドット制御部22の動作を示すフローチャートである。
図24では、色相を数値で表す。説明の便宜上、明度の高い順に、白ぬき(データなし)=0、Y=2、M=3、C=4、R(Y+M)=5、G(Y+C)=6、B(M+C)=7、K=K’=9とする。又、インクジェット記録装置はシリアル記録方式を採用するものとし、例えばm=1〜2950,n=1〜48の一走査分のデータを対象として、浸透性の高い黒のインクで記録する記録面積と浸透性の低い黒のインクで記録する記録面積とを算出するものとする。更に、上記の如き処理により、黒データは、浸透性の高い黒のインクで記録する黒データdKm,nと浸透性の低い黒のインクで記録する黒データdK’m,nとに分解されているものとする。
図24中、ステップS51は、例えば図18に示したメモリ26又はバッファメモリ内の画像データを対象として、m<2950又はn<48であるか否かを判定する。ステップS51の判定結果がNOであれば、処理は後述するステップS59へ進む。他方、ステップS51の判定結果がYESの場合は、ステップS52でドット記録位置Dm,nに対する画像データdm,nがdm,n=9であるか否か、即ち、画像データdm,nが黒を表すか否かを判定する。ステップS52の判定結果がNOであれば、ステップS53で次のドット記録位置を検索するためにmをm+1に設定するか、nをn+1に設定する。初期状態では、m=1及びn=1であり、この状態から順次ドット記録位置を検索する。従って、最初はステップS53においてmがm+1に設定され、m=2950までの検索が行われると、今度はステップS53においてnがn+1に設定されて、n=48となるまで検索が順次繰り返される。他方、ステップS52の判定結果がYESの場合は、処理が後述するステップS54へ進む。
ステップS54は、ドット記録位置Dm,nに隣接するいずれかのドット記録位置Dx,yに対する画像データdx,yがdx,y=9であるか否か、即ち、dx,yが黒を表すか否かを判定する。ここで、(x,y)は(m−1,n−1)、(m,n−1)、(m+1,n−1)、(m−1,n)、(m+1,n)、(m−1,n+1)、(m,n−1)、(m+1,n+1)、1≦x≦2950、1≦y≦48である。ステップS54の判定結果がNOであると、単独で孤立したドットは無視して処理はステップS53へ戻る。他方、ステップS54の判定結果がYESの場合は、ステップS55で画像データdpqをdpq=9に設定する。
ステップS56は、p=m−1、且つ、q=n又はq=n−1であるか否かを判定する。ステップS56の判定結果がNOであれば、ステップS57で(m,n)をメモリ26又はバッファメモリ内の新規メモリ領域Mrに格納し、処理がステップS53へ戻る。他方、ステップS56の判定結果がYESの場合は、ステップS58で(m,n)を(p,q)を格納しているメモリ26又はバッファメモリ内の既存メモリ領域Moに格納する。ここで、o<rである。ステップS58の後、処理はステップS53へ戻る。
上記ステップS51の判定結果がNOの場合、ステップS59は同一既存メモリ領域Mo内の各座標(v,w)に該当する画像データdKv,w,dK’v,wの個数を各々算出する。これにより、記録面積が算出される。又、ステップS60は、ステップS59で算出された個数、即ち、算出された記録面積を比較して、この比較結果に基づいて浸透性の高い黒のインクで記録する記録面積と浸透性の低い黒のインクで記録する記録面積との記録順序を決定する。図18に示した駆動部23は、この様にして決定された記録順序に基づいてヘッド部45の各ヘッドを駆動する。
次に、本発明になるインクジェット記録装置の第2実施例を説明する。インクジェット記録装置の第2実施例では、本発明になるインクジェット記録方法の第2実施例及び前記インクジェット記録装置及びインクジェット記録方法に用いられるインク及びインクカートリッジの第2実施例を用いる。インクジェット記録装置及びインクカートリッジの構成は、図1及び図2に示したものと同様のものを使用できるので、これらの図示及び説明は省略する。
本実施例では、黒のインクを含めた複数の異なる色のインクを用いてカラー画像を記録する際に、各色のインクのRf値を所定の条件を満足するように設定する。つまり、少なくとも1つのインクのRf値を他のインクのRf値と異ならせ、且つ、明度の低い色のインクの方が明度の高い色のインクよりもRf値が低いようにする。
ここで、Rf値とは、以下に規定するペーパークロマト法により得られる色材の移動率の値を示す。即ち、Rf値が高い色材程、普通紙上のセルロース繊維との親和力が低くなり、記録媒体に対して広がり易くなる。Rf値は次の様に求められる。
所望の色材を、重量比55/45の水/ジエチレングリコール混合溶媒に5重量%溶解させて、試験を行うための試験液を得る。この様にして得た試験液を、東洋ろ紙株式会社製の商品名トーヨー・フィルター・ペーパーNo.50なるフィルタの下端部に2μlチャージした後、上記混合溶媒を展開溶媒として常法に従って所定時間展開を行う。この展開の結果、チャージ点から展開溶媒の展開距離A及びチャージ点からの染料の移動距離Bを測定し、両者の比であるB/A=Rf値を求める。
本実施例では、インクジェット記録液、即ち、インクを構成する液媒体に、水及び水と水溶性の有機溶媒との混合物を使用する。有機溶媒としては、メタノール,エタノール,(ノルマル)プロピルアルコール,イソプロピルアルコール等の1価アルコール、エチレングリコール,プロピレングリコール,ブチレングリコール,ヘキシレングリコール,ジエチレングリコール,トリエチレングリコール等の2価アルコール、グリセリン等の3価アルコール、ポリエチレングリコール,ポリブチレングリコール等のポリアルキレングリコール、N−メチル−2−ピロリドン,1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等の含窒素複素環式化合物、エチレングリコールモノメチルエーテル,ジエチレングリコールモノメチルエーテル,トリエチレングリコールモノメチルエーテル等の多価アルコールの低級アルキルエーテル等が使用可能であり、これらを1種類以上混合して使用しても良い。特に、これらの中でも2価以上の多価アルコール等の蒸発しにくく吸湿性のあるものを使用することが好ましい。
インク中における上記有機溶媒の含有量は、5〜80重量%であり、好ましくは5〜50重量%の範囲内である。これは、有機溶媒の含有量が5重量%未満であると、インクの乾燥が速くなったり、染料の溶解性が低下したりしてインク中の染料が析出し易くなり目詰まりを生じ易く、又、80重量%を越えるとインクの粘度が高くなってしまいヘッドのノズルからインクを噴射しにくくなってしまうからである。
本実施例で使用するインクの基本組成は以上の通りであるが、必要に応じてその他の分散剤、カチオン系,アニオン系,ノニオン系等の界面活性剤、ポリビニルアルコール,セルロース類,水溶性樹脂等の粘度調整剤、ジエタノールアミン,トリエタノールアミン等のpH調整剤等を添加しても良いことは言うまでもない。
本発明者らは、先ず以下の如き組成1で、且つ、Rf値が殆ど同じイエロー、マゼンタ、シアン及び黒のインクを使用してカラー画像の記録を行った。
(組成1)
染料 2重量% イエロー:C.I.アシッドイエロー23,Rf値=0.90 マゼンタ:C.I.アシッドレッド265,Rf値=0.91 シアン :C.I.アシッドブルー120,Rf値=0.91 黒 :C.I.アシッドブラック139,Rf値=0.90ジエチレングリコール 10重量%エチルアルコール 5重量%エチレングリコールジベンジルエーテル 1重量%蒸留水 88重量%上記組成1を使用した場合、図25に示すように、ある色のベタ記録領域31と別の色のベタ記録領域32とが隣接する境界部分33で、意図せぬ色の混じり合い、即ち、ブリード34が発生した。このブリード34のために、記録画像が不鮮明になり、シャープさの欠けた画像しか得られなかった。特に、異なる色の境界部分で生じるブリードは、黄色と他色との境界部分において目立った。これは、人間の目による視覚的影響によるもので、明度差の大きい色との境界部分において、人間の目には明度の低い方から高い方へにじんだように見えるためと考えられる。
図26は、図25のブリードを模式的に示す図である。図26中、図25と同一部分には同一符号を付し、その説明は省略する。図26中、黄色領域31と青色領域32との境界部分33には、イエローとマゼンタとシアンとが混合した黒っぽいブリード領域34が生じる。このブリード領域34の黒っぽい色と青領域32の青色との明度差は比較的小さいので、ブリード部分は目立ちにくい。しかし、黄色領域31の黄色とブリード領域34の黒っぽい色との明度差は大きいので、ブリード部分は目立つ。このため、人間の目には、あたかも明度の低い青色領域32から明度の高い黄色領域31の方へブリードが生じたかのように見えると考えられる。
そこで、本実施例では、各色のインクの溶媒組成比は変えずに、明度の低い色のインクの染料のRf値が明度の高い色のインクの染料のRf値より低くなるように染料を選択する。つまり、以下に示すように、イエロー、マゼンタ、シアン及び黒の染料のRf値Yr、Mr、Cr及びKrが夫々Yr>Mr≧Cr>Krなる関係を満足するように各Rf値を選択する。又、明度の低い色のインクほど、記録媒体として使われる紙の主成分であるセルロース繊維との親和力を大きく設定する。この結果、ブリードを目立たなくすることができる。
本発明者らは、これらの条件を満足する以下の如き組成2のイエロー、マゼンタ、シアン及び黒のインクを使用してカラー画像の記録を行った。
(組成2)
染料 2重量% イエロー:C.I.アシッドイエロー23,Rf値=0.90 マゼンタ:C.I.アシッドレッド161,Rf値=0.86 シアン :C.I.ダイレクトブルー86,Rf値=0.86 黒 :C.I.ダイレクトブラック154,Rf値=0.72ジエチレングリコール 10重量%エチルアルコール 5重量%エチレングリコールジベンジルエーテル 1重量%蒸留水 88重量%上記組成2を使用した場合、従来特に目立ち易かった黄色と他色との境界部分でのブリードが殆ど目立たなくなることが確認できた。これは、シアン、マゼンタ及び黒のインクがイエローのインクに流れ込もうとする力よりも、イエローのインクが他色のインクに流れ込もうとする力の方が強いため、他色のインクが境界部分を越えて黄色領域に侵入しにくくなったからと考えられる。これと同様の理由で、黒のインクが他色のインクに流れ込むことも防止することができ、鮮明なカラー画像の記録が可能となることも確認できた。
更に、本発明者らは、特にブリードが目立ち易い黄色領域と黒領域を隣接して記録する場合に、使用するイエローと黒のインクのRf値の差のブリードへの影響を実験により調べた。この結果、Rf値の差とブリードの程度との関係は、図27に示すようになった。図27中、横軸はRf値の差、縦軸はブリードの程度を主観評価で示す。主観評価の値は、5の場合は大いに満足、4の場合は満足、3の場合は我慢できる、2の場合は不満、1の場合は大いに不満を示し、値が大きい程ブリードが目立たない。図27からわかるように、主観評価の値が3以上となるためには、Rf値の差が0.04以上、望ましくは(主観評価の値を4以上とするには)0.1以上である必要があることが確認できた。
尚、インクジェット記録装置において、上記組成2の各色のインクを使用してカラー画像の記録を行う際には、上記第1実施例でも説明したように、明度の低い色のインクから順に用いて記録を行うことが望ましい。これは、後から記録媒体に付着するインクは、先に付着しているインクに引き寄せられてブリードを生じ易い傾向にあるからである。本発明者らの実験によれば、セルロース繊維との親和力が強い黒のインクによる記録を最初に行い、親和力の弱いイエローのインクによる記録を最後に行うとブリードを防止する効果が特に向上された。
更に、本発明者らは、組成2と同じ条件を満足する以下の如き組成3のイエロー、マゼンタ、シアン及び黒のインクを使用してカラー画像の記録を行った。
(組成3)
イエローのインク染料 2重量% イエロー:C.I.アシッドイエロー23,Rf値=0.90ジエチレングリコール 10重量%エチルアルコール 5重量%エチレングリコールジベンジルエーテル 1重量%アニオン系界面活性剤 0.5重量%蒸留水 87.5重量%マゼンタのインク染料 2重量% マゼンタ:C.I.アシッドレッド161,Rf値=0.86ジエチレングリコール 10重量%エチルアルコール 5重量%エチレングリコールジベンジルエーテル 1重量%アニオン系界面活性剤 0.3重量%蒸留水 87.7重量%シアンのインク染料 2重量% シアン :C.I.ダイレクトブルー86,Rf値=0.86ジエチレングリコール 10重量%エチルアルコール 5重量%エチレングリコールジベンジルエーテル 1重量%アニオン系界面活性剤 0.2重量%蒸留水 87.8重量%黒のインク染料 2重量% 黒 :C.I.ダイレクトブラック154,Rf値=0.72ジエチレングリコール 10重量%エチルアルコール 5重量%エチレングリコールジベンジルエーテル 1重量%蒸留水 88重量%上記組成3を使用した場合、浸透効果のある界面活性剤を各色のインク毎に変えて添加しているので、明度の低い色のインクの浸透性を明度の高い色のインクの浸透性より低くできる。この結果、境界部分でのブリードを防止する効果が更に向上することが確認できた。
本発明者らは、各インクの浸透性をブリストー法により比較したところ、図28に示すように、明度の一番低い黒のインクの馴染み時間が一番短く、シアン及びマゼンタのインクの馴染み時間は同程度、明度の高いイエローのインクの馴染み時間が一番長くなった。図28中、横軸はインクの記録媒体上の接触時間、縦軸はインクの浸透量を示す。又、Y、M、C及びKは、夫々イエロー、マゼンタ、シアン及び黒のインクに対応している。これらのインクで記録を行った結果を調べたところ、ブリードが更に軽減され、非常に鮮明なカラー画像が記録できることが確認された。
ところで、従来のインクジェット記録方式では、ノート、レポート用紙、コピー用紙、便箋等の一般に使用される紙を記録媒体として用いると、満足する記録品位を得ることは非常に難しかった。これは、紙に付着するインクが紙の繊維に沿って広がり、にじみが生じるからである。このため、細い罫線、細かい文字、JIS第二水準として規定されているような複雑な漢字等が不鮮明で見づらい場合が多かった。
又、水性インクを使って筆記する場合ににじみが発生しにくいように、サイズ処理が施された紙もある。このようなサイズ処理を施された紙に対してインクジェット記録装置により記録を行うと、インクが紙の内部へ浸透しにくいので、記録画像や文字の定着性が悪い。このため、ユーザが手で紙上の記録画像や文字に触れたり、連続記録の場合のように記録済みの紙が順次スタックされる場合には、記録画像や文字がかすれてしまうこともあった。更に、インクの定着性が悪いと、異なる色相のインクの境界部分でブリードが容易に発生してしまった。
これらの不都合を解消する方法として、上記方法(1)〜(7)に加えて、特開平6−143795号公報にも1つの方法が提案されている。この提案方法では、使用するインクを、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)表面上での接触角で規定している。インクのPTFEに対する接触角は、PTFEの表面粗さによって大きく左右される。又、本発明者らがPTFEに対する接触角と実際の記録媒体に対する接触角との関係を調べたところ、相関性がなく、PTFEに対する接触角のみでインクを規定したのでは、上記不都合を解消するのには不十分であることがわかった。
そこで、サイジングされ、且つ、記録面に紙の繊維が露呈している、所謂普通紙と呼ばれている記録媒体に対しても、インクジェット記録によりにじみやブリードを効果的に抑制することのできる実施例を次に説明する。本発明になるインクジェット記録装置の第3実施例を説明する。インクジェット記録装置の第3実施例では、本発明になるインクジェット記録方法の第3実施例及び前記インクジェット記録装置及びインクジェット記録方法に用いられるインク及びインクカートリッジの第3実施例を用いる。インクジェット記録装置及びインクカートリッジの構成は、図1及び図2に示したものと同様のものを使用できるので、これらの図示及び説明は省略する。
本実施例では、2種類以上の異なる色相のインクを使用して記録を行う際に、少なくとも1種類が他の種類のインクに対して4dyne/cm以上の表面張力の差を有する。又、表面張力の高い方のインクは文字等の線画を記録するのに用い、表面張力の低い方のインクは図形等の一般画像(又は、面画)を記録するのに用いる。尚、後述するように、表面張力の高い方のインクの表面張力は好ましくは49dyne/cm以上で、表面張力の低い方のインクの表面張力は好ましくは45dyne/cm以下である。
本発明者らは、文字等の線画を記録する場合、にじみの大きなインクを使用しても、記録媒体との色差が少なければにじみが目立たず実際の使用に充分耐え得ることを実験により確認した。又、通常の場合、文字を記録するのに使用するインクは殆ど黒のインクであるので、本実施例では、文字等の線画と一般の画像とに2種類のインクを使用するのは、通常白である記録媒体との色差が大きい色相のみか、或は、黒のみに限定する。これにより、インクの種類の減少及びヘッドの数の減少が実現でき、インクジェット記録装置の構成の簡単化と低価格化が可能となる。
又、本発明者らは、種々の主観評価を交えた検討の結果、線のにじみ量が15μm以下で、ブリード量が200μm以下であれば、記録品位としては満足できることを実験により確認した。尚、にじみ量とは、線のエッジのギザギザのことである。図29に示すように、線のエッジを細分化して仮想線から各エッジまでの距離を測定し、その距離(凹凸量)の平均が0になるように最小二乗法により直線近似を行い、その凹凸量の標準偏差σをにじみ量とした。
他方、ブリード量とは、図30に示すように、隣接した異なる色相の境界線からインクがはみ出している面積を算出し、この面積を境界線の長さで割って、単位長さ当りに対してインクが流れ出た長さで評価した。このような評価を行ったのは、面積では境界部分の長さによってブリード量が左右されるからである。
図31は、インクの表面張力とにじみ量との関係を示す図である。又、図32は、インクの表面張力とブリード量との関係を示す図である。図31から、にじみ量を15μm以下とするには、表面張力を49dyne/cm以上にする必要があることがわかった。更に、図32から、ブリード量を200μm以下とするには、表面張力を45dyne/cm以下にする必要があることがわかった。
上記表面張力の範囲内で同じ表面張力を有する黒とイエローのインクAk,Ayと、同じく上記表面張力の範囲内でインクAk,Ayとは異なる表面張力の黒とイエローのインクBk,Byとを用いて記録を行い、にじみとブリードの評価を行った評価結果を図33に示す。評価のために、3ドット幅の線画と、ベタの画像とを記録した。又、線画のにじみは黒で、ベタのブリードは黒と黄色との境界部分とし、色差が最も大きい関係にある色相を記録した。図33中、○印はにじみ量が15μm以下又はブリード量が200μm以下であることを示し、×印はにじみ量又はブリード量がこれら以外であることを示す。
図33からわかるように、インクAk,Ayの場合、表面張力は53dyne/cmであり、にじみ量は充分に小さいがブリード量が大きい。他方、インクBk,Byの場合、表面張力は33.6dyne/cmであり、ブリード量は充分に小さいがにじみ量が大きい。これにより、インクAk,Ayは文字等の線画を記録するのに適しており、インクBk,Byは一般の画像を記録するのに適していることが確認できた。
本実施例は、インクの色相と記録媒体の色相との色差が大きい程効果的である。通常、記録媒体の色相は白であるため、インクの色相が黒である場合に本実施例の効果が最も大きい。次に、本発明になるインクジェット記録装置の第4実施例を説明する。インクジェット記録装置の第4実施例では、本発明になるインクジェット記録方法の第4実施例及び前記インクジェット記録装置及びインクジェット記録方法に用いられるインク及びインクカートリッジの第4実施例を用いる。インクジェット記録装置及びインクカートリッジの構成は、図1及び図2に示したものと同様のものを使用できるので、これらの図示及び説明は省略する。
上記の如く、ブリードを低減するには定着時間が短い浸透性の高いインクを用いることが有効であるが、浸透性の高いインクはにじみ易く、文字や表等の記録には適していない。他方、にじみを抑さえて高品位の記録を行うには浸透性の低いインクを用いることが有効であるが、この場合には定着時間が長くなり、ブリードが増加してしまう。
そこで、記録する画像の種類に応じて異なる浸透性のインクを使用することが上記ブリード及びにじみを低減するのに有効であるが、単に浸透性の異なるインクを用いただけでは記録濃度が使用したインク毎に異なってしまう。例えば、文字と図形等が混在する画像を記録すると、記録濃度が使用したインク毎に異なってしまうため、記録する画像の種類や使用するインクの色相によっては、十分高品位な記録を行えない場合もある。尚、記録濃度(OD)とは、印字率が100%の記録を行った際の濃度を示し、黒色のインクを用いて記録した場合には光学反射濃度を指し、黒色以外の色相のインクを用いて記録した場合にはステータスA濃度を指す。
本実施例では、色相は同じで浸透性の異なる2種類のインクを少なくとも1つの色相について使用し、異なる色相のインクが記録媒体上で隣接しない画像を記録する際には浸透性の低い方のインクを使用して記録を行い、異なる色相のインクが記録媒体上で隣接する画像を記録する際には浸透性の高い方のインクを使用して記録を行う。更に、2種類のインクの色材の濃度(以下、色材濃度と言う)は、2種類のインクによる記録媒体上の記録濃度が略同じとなるように、互いに異なる値に設定される。尚、色材には染料や顔料等が含まれる。
本発明者らは、インクの染料に黒の染料を用い、記録媒体に一般的に良く使用されているゼロックス社製の普通紙Xerox4024DPを用いて実験を行い、以下の実験結果を得た。先ず、第1の実験Ex1では、夫々同じ染料濃度を有する黒の染料を用いた浸透性の低いインクI1と浸透性の高いインクI2を使用して、記録媒体に対して印字率100%の画像を記録した。図34は、インクI1,I2の染料濃度と、測定された記録媒体上の記録濃度を示す図である。同図からわかるように、同じ染料濃度のインクI1,I2を使用したのでは、記録濃度に大きな差が生じてしまう。尚、図34及び後述する図35〜図37では、染料濃度が重量パーセント(wt%)で表されている。
これに対し、第2の実験Ex2では、互いに異なる染料濃度を有する黒の染料を用いた浸透性の低いインクI3と浸透性の高いインクI4を使用して、上記実験Ex1と同様に記録媒体に対して印字率100%の画像を記録した。図35は、インクI3,I4の色材濃度と、測定された記録媒体上の記録濃度を示す図である。同図からわかるように、互いに異なる染料濃度のインクI3,I4を使用すると、記録濃度にが略同じになることが確認された。より具体的には、浸透性の低いインクI3の色材濃度を、浸透性の高いインクI4の色材濃度より低く設定することにより、記録媒体上の記録濃度を2種類のインクI3,I4について略同じとすることができる。
従って、本実施例によれば、ブリード及びにじみを効果的に、且つ、確実に抑制することができる。一般に、カラーインクジェット記録装置では、イエロー、マゼンタ、シアン及び黒の4色のインクを備えているが、記録媒体の色相が通常は白色であるので、イエローのインクを使用して文字や表等を記録することは非常にまれである。又、仮にイエローのインクを使用して文字や表等を記録媒体に記録したとしても、イエローのインクのにじみは殆ど目立たない。このため、本実施例の効果は、色相が同じで浸透性の異なる2種類のインクと記録媒体の色相との色差又は明度差が大きい程大きく、インクの色相が黒色で記録媒体の色相が白色の場合の効果が最も大きい。
尚、本発明者らは、十分に高い記録品位を得られる記録濃度を主観評価等を行って調べたところ、記録媒体が普通紙の場合には記録濃度が0.9以上であれば記録品位が許容範囲内となり、又、記録媒体がインクジェット記録専用のインクジェット記録用紙の場合には専用紙のため要求値が普通紙の場合より高く記録濃度が1.3以上であれば許容範囲内となることがわかった。更に、同じ色相で浸透性の異なる2種類のインクを用いた画像記録の場合には、記録媒体の種類に拘らず、夫々のインクによる記録濃度の差が約0.3以下であれば許容範囲内の記録品位が得られることもわかった。
通常、記録濃度の差が0.3もあると、人間の目にはかなり大きな違いとして検知されるが、本実施例では浸透性の異なる2種類のインクは画像の種類に応じて使い分けされるので、本発明者らは記録される画像全体としては大きな違いとしては見えないことを見いだした。例えば、線画として文字を記録すると共に、図形等の一般画像として印字率100%のパターンを記録してこれらの記録媒体上の記録濃度を比較したところ、記録濃度の差が0.3以下の場合には十分許容範囲内の記録品位が得られることが確認できた。尚、この場合の線画を記録するのに用いたインクの記録媒体上の記録濃度は、そのインクを用いて印字率100%のパターンを記録した時の記録濃度である。
次に、本発明になるインクジェット記録装置の第5実施例を説明する。インクジェット記録装置の第5実施例では、本発明になるインクジェット記録方法の第5実施例及び前記インクジェット記録装置及びインクジェット記録方法に用いられるインク及びインクカートリッジの第5実施例を用いる。インクジェット記録装置及びインクカートリッジの構成は、図1及び図2に示したものと同様のものを使用できるので、これらの図示及び説明は省略する。
本実施例では、色相は同じで浸透性の異なる2種類のインクを少なくとも1つの色相について使用し、異なる色相のインクが記録媒体上で隣接しない画像を記録する際には浸透性の低い方のインクを使用して記録を行い、異なる色相のインクが記録媒体上で隣接する画像を記録する際には浸透性の高い方のインクを使用して記録を行う。更に、記録媒体上の記録濃度が低い方のインク(この場合、浸透性の高い方のインク)を使用して記録を行う際には、複数回重ねて記録を行う。
本発明者らは、インクの染料に黒の染料を用い、記録媒体に一般的に良く使用されている普通紙Xerox4024DPを用いて実験を行い、以下の実験結果を得た。先ず、第3の実験Ex3では、互いに異なる染料濃度を有する黒の染料を用いた浸透性の低いインクI3と浸透性の高いインクI4を使用して、上記実験Ex2と同様に記録媒体に対して印字率100%の画像を記録し、浸透性の高いインクI4を使用した記録は所謂重ね記録を行うことにより複数回行った。図36は、インクI4を使用した記録回数である重複度と、測定された記録媒体上の記録濃度を示す図である。同図からわかるように、染料濃度の高いインクI4を使用した記録を複数回行って得られる記録濃度が、浸透性の低いインクI3を使用した記録により得られる記録濃度と略同じになることが確認された。より具体的には、浸透性の高いインクI4を使用した記録を複数回行うと共に、浸透性の低いインクI3を使用した記録を1回行うことにより、記録媒体上の記録濃度を2種類のインクI3,I4について略同じとすることができる。
従って、本実施例によれば、ブリード及びにじみを効果的に、且つ、確実に抑制することができる。一般に、カラーインクジェット記録装置では、イエロー、マゼンタ、シアン及び黒の4色のインクを備えているが、記録媒体の色相が通常は白色であるので、イエローのインクを使用して文字や表等を記録することは非常にまれである。又、仮にイエローのインクを使用して文字や表等を記録媒体に記録したとしても、イエローのインクのにじみは殆ど目立たない。このため、本実施例の効果は、色相が同じで浸透性の異なる2種類のインクと記録媒体の色相との色差又は明度差が大きい程大きく、インクの色相が黒色で記録媒体の色相が白色の場合の効果が最も大きい。
尚、本実施例においても、記録媒体が普通紙の場合には記録濃度が0.9以上であれば記録品位が許容範囲内となり、又、記録媒体がインクジェット記録専用のインクジェット記録用紙の場合には記録濃度が1.3以上であれば許容範囲内となる。更に、同じ色相で浸透性の異なる2種類のインクを用いた画像記録の場合には、記録媒体の種類に拘らず、夫々のインクによる記録濃度の差が約0.3以下であれば許容範囲内の記録品位が得られる。
次に、第5実施例の変形例を説明する。本変形例では、上記第5実施例と同様に、色相は同じで浸透性の異なる2種類のインクを少なくとも1つの色相について使用し、異なる色相のインクが記録媒体上で隣接しない画像を記録する際には浸透性の低い方のインクを使用して記録を行い、異なる色相のインクが記録媒体上で隣接する画像を記録する際には浸透性の高い方のインクを使用して記録を行う。記録媒体上の記録濃度の低い方のインク(この場合、浸透性の高い方のインク)を使用して記録を行う際には、複数回重ねて記録を行う。更に、上記第4実施例の如く、2種類のインクの色材濃度を、2種類のインクによる記録媒体上の記録濃度が略同じとなるように、互いに異なる値に設定する。
本発明者らは、インクの染料に黒の染料を用い、記録媒体に一般的に良く使用されている普通紙Xerox4024DPを用いて実験を行い、以下の実験結果を得た。先ず、第4の実験Ex4では、互いに異なる染料濃度を有する黒の染料を用いた浸透性の低いインクI5と浸透性の高いインクI6を使用して、上記実験Ex2と同様に記録媒体に対して印字率100%の画像を記録し、浸透性の高いインクI6を使用した記録は所謂重ね記録を複数回行った。図37は、インクI6を使用した記録回数である重複度と、測定された記録媒体上の記録濃度を示す図である。同図からわかるように、染料濃度の高いインクI6を使用した記録を複数回行って得られる記録濃度が、浸透性の低いインクI5を使用した記録により得られる記録濃度と略同じになることが確認された。より具体的には、浸透性の高いインクI6を使用した記録を複数回行うと共に、浸透性の低いインクI5を使用した記録を1回行うことにより、記録媒体上の記録濃度を2種類のインクI5,I6について略同じとすることができる。
従って、本変形例によれば、ブリード及びにじみを効果的に、且つ、確実に抑制することができる。一般に、カラーインクジェット記録装置では、イエロー、マゼンタ、シアン及び黒の4色のインクを備えているが、記録媒体の色相が通常は白色であるので、イエローのインクを使用して文字や表等を記録することは非常にまれである。又、仮にイエローのインクを使用して文字や表等を記録媒体に記録したとしても、イエローのインクのにじみは殆ど目立たない。このため、本実施例の効果は、色相が同じで浸透性の異なる2種類のインクと記録媒体の色相との色差又は明度差が大きい程大きく、インクの色相が黒色で記録媒体の色相が白色の場合の効果が最も大きい。
尚、本変形例においても、記録媒体が普通紙の場合には記録濃度が0.9以上であれば記録品位が許容範囲内となり、又、記録媒体がインクジェット記録専用のインクジェット記録用紙の場合には記録濃度が1.3以上であれば許容範囲内となる。更に、同じ色相で浸透性の異なる2種類のインクを用いた画像記録の場合には、記録媒体の種類に拘らず、夫々のインクによる記録濃度の差が約0.3以下であれば許容範囲内の記録品位が得られる。
次に、本発明になるインクジェット記録装置の第6実施例を説明する。インクジェット記録装置の第6実施例では、本発明になるインクジェット記録方法の第6実施例及び前記インクジェット記録装置及びインクジェット記録方法に用いられるインク及びインクカートリッジの第6実施例を用いる。インクジェット記録装置及びインクカートリッジの構成は、図1及び図2に示したものと同様のものを使用できるので、これらの図示及び説明は省略する。
本実施例では、2種類以上の異なる色相のインクを使用して記録を行う際に、少なくとも1種類が他の種類のインクに対して15°以上の記録媒体に対する接触角の差を有する。又、記録媒体に対する接触角の高い方のインクは文字等の線画を記録するのに用い、接触角の低い方のインクは図形等の一般画像を記録するのに用いる。尚、後述するように、接触角の高い方のインクの接触角は好ましくは85°以上で、接触角の低い方のインクの接触角は好ましくは70°以下である。
図38は、インクの接触角とにじみ量との関係を示す図である。又、図39は、インクの接触角とブリード量との関係を示す図である。図38から、にじみ量を15μm以下とするには、接触角を85°以上にする必要があることがわかった。更に、図39から、ブリード量を200μm以下とするには、接触角を70°以下にする必要があることがわかった。
上記接触角の85°以上の範囲内で同じ接触角を有する黒とイエローのインクCk,Cyと、同じく上記接触角の70°の範囲内で同じ接触角を有する黒とイエローのインクDk,Dyとを用いて記録を行い、にじみとブリードの評価を行った評価結果を図40に示す。評価のために、3ドット幅の線画と、ベタの画像とを記録した。又、線画のにじみは黒で、ベタのブリードは黒と黄色との境界部分とし、色差が最も大きい関係にある色相を記録した。更に、インクの接触角は、記録媒体である普通紙の一例として、上記ゼロックス社製の普通紙Xerox4024DPに対するものを示す。紙上では、インクの浸透が起こるので、インクが普通紙Xerox4024DPに付着した直後(約0.1秒後)のインクの接触角を測定した。測定自体は、インクを付着する瞬間をカメラで撮影し、得られた静止画から接触角を測定した。図40中、○印はにじみ量が15μm以下又はブリード量が200μm以下であることを示し、×印はにじみ量又はブリード量がこれら以外であることを示す。
図40からわかるように、インクCk,Cyの場合、接触角は102°であり、にじみ量は充分に小さいがブリード量が大きい。他方、インクDk,Dyの場合、接触角は51°であり、ブリード量は充分に小さいがにじみ量が大きい。これにより、インクCk,Cyは文字等の線画を記録するのに適しており、インクDk,Dyは一般の画像を記録するのに適していることが確認できた。
本実施例は、インクの色相と記録媒体の色相との色差が大きい程効果的である通常、記録媒体の色相は白であるため、インクの色相が黒である場合に本実施例の効果が最も大きい。尚、本発明者らは、比較のために、上記と同じインクCk,Cy,Dk,Dyを用いてPTFEに対する接触角を測定した。この測定結果を図41に示す。図41から、インクDk,Dyの接触角が、上記特開平6−143795号公報で規定されている接触角の範囲外であることがわかる。又、図40と比較すると、図41に示すインクCk,Cyの接触角は図40の場合と殆ど変化していないが、図41に示すインクDk,Dyの接触角は図40の場合と比べると大きく変化している。つまり、インクの接触角はPTFEという特種な材料よりも、使用する記録媒体に対する接触角が記録品位との相関性が非常に強いことがわかる。
従って、上記特開平6−143795号公報で提案されている方法のように、インクの表面張力と、記録媒体と関係のないPTFEとの接触角では、インクの浸透性を充分に規定することができないことがわかった。又、上記特開平6−143795号公報で提案されている方法では、インクの浸透性が異なるため、浸透性の低いインクで記録された主に文字部分と、浸透性の高いインクで記録された主に画像部分とが同じ色相であったとしても、両者間で記録濃度、彩度、明度等に差が生じてしまい、結果的に記録品位を低下させてしまうという問題もある。そこで、この問題を解決し得る実施例を次に説明する。
本発明になるインクジェット記録装置の第7実施例を説明する。インクジェット記録装置の第7実施例では、本発明になるインクジェット記録方法の第7実施例及び前記インクジェット記録装置及びインクジェット記録方法に用いられるインク及びインクカートリッジの第7実施例を用いる。インクジェット記録装置及びインクカートリッジの構成は、図1及び図2に示したものと同様のものを使用できるので、これらの図示及び説明は省略する。
インクと記録媒体との浸透性は、ルーカス−ウォッシュバーン(Lucas−Washburn)の式を基に種々検討され、例えば、門屋卓也,「新・紙の科学」,中外産業調査会発行,pp.345〜370,平成元年6月12日により解明されようとしている。この理論に基づき浸透性を測定する試験方法が、ブリストー試験方法である。ブリストー試験方法で得られる吸収係数Ka(ml/(m2 ・ms1/2 ))は、インクと記録媒体との吸収性を一義的に表すことができる。 従って、記録媒体とインクの吸収係数Kaが小さい組み合せで記録を行うと、記録媒体内へのインクの浸透が抑制されるので、にじみのない高品位の記録が可能となる。
他方、記録媒体とインクの吸収係数Kaが大きい組み合せで記録を行うと、記録媒体内へのインクの浸透が促進され、インクの記録媒体上での存在時間が短縮されるので、ブリードのない高品位の記録が可能となる。又、記録媒体への吸収係数Kaが異なる2つのインク群を用い、吸収係数Kaが大きなインク群のインクで複数色相が隣接する主に一般画像を記録し、吸収係数Kaが小さなインク群のインクで複数の色相が隣接しない主に文字等の線画を記録する。これにより、色境界部分でブリードのない高品位の一般画像記録と、にじみのないシャープで高品位の文字等の線画記録とを両立することができる。
更に、色境界部分を形成する少なくとも1画素(ドット)を吸収係数Kaが大きなインク群のインクで記録し、それ以外の画素を吸収係数Kaが小さなインク群の同色相のインクで記録する。これにより、色境界部分でブリードのない高品位の一般画像記録と、にじみのないシャープで高品位の文字等の線画記録とを両立することができると共に、記録媒体上で記録濃度のむらや、彩度、明度等に差のない高品位の記録を行うことができる。
本発明者らは、モノクロ用黒のインクK’1〜K’5について、各種記録媒体に対する吸収係数Ka及びにじみの程度を実験により調べたところ、図42のような結果が得られた。インクK’1〜K’5の組成は、酸性染料2重量%とジエチレングリコール5重量%をベースとし、エタノールを0〜20.0重量%添加し、残量が水である。インクK’1,K’2,K’3,K’4,K’5の夫々のエタノールの含有量は0,5.0重量%,10.0重量%,15.0重量%,20.0重量%である。吸収係数Kaの単位は通常(ml/(m2 ・ms1/2 ))であるが、図42及び後述する図43及び図44では、吸収係数Kaの単位が便宜上(nl/(mm2 ・s1/2 ))で表されている。
又、カラー用黒、イエロー、マゼンタ及びシアンのインクK6,Y6,M6,C6〜K9,Y9,M9,C9について、各種記録媒体に対する吸収係数Ka及びブリードの程度を実験により調べたところ、図43のような結果が得られた。インクK6,Y6,M6,C6〜K9,Y9,M9,C9の組成は、直接染料4重量%とグリセリン5重量%をベースとし、ノニオン系界面活性剤を0〜2.0重量%添加し、残量が水である。インクK6,Y6,M6,C6、インクK7,Y7,M7,C7、インクK8,Y8,M8,C8及びインクK9,Y9,M9,C9の夫々の第1のノニオン系界面活性剤の含有量は0,0.5重量%,1.0重量%及び2.0重量%である。
尚、上記インクK’1〜K’5及びインクK6,Y6,M6,C6〜K9,Y9,M9,C9は、各々の素材をインクの種類毎に密閉ポリ容器に計量し、50℃で湯煎しながら3時間撹拌溶解した後、室温まで冷却してポアサイズ0.2μmのフィルタでろ過することにより得た。又、図42及び図43中、各インクの吸収係数Kaは、記録媒体として3種類のコピー上質紙を用いてブリストー試験を行うことにより求めた。更に、にじみ及びブリードの程度は、上記3種類のコピー上質紙に360dpiの解像度で記録を行うことにより求めた。
図42において、にじみの程度は3段階で評価されている。同図中、○印は殆どにじみが見えずシャープなエッジが実現されている状態、△印は少しにじみが見えエッジが多少ギザギザしている状態、×印は大きなにじみが見えてエッジの凹凸が著しい状態を表している。尚、図42の結果は、各コピー上質紙上のインクの噴射粒量を、真円換算径で約100μmが得られる約120〜40plとした。
図42から、吸収係数Kaが15未満のインクと記録媒体との組み合せでにじみの程度の評価が「△」となり、吸収係数Kaが10未満のインクと記録媒体との組み合せでにじみの程度の評価が「○」となることが確認された。他方、図43において、ブリードの程度も3段階で評価されている。同図中、○印は殆どブリードが見えず色境界部分が比較的鮮明である状態、△印は少しブリードが見え色境界部分が多少混色している状態、×印は大きなブリードが見えて色境界部分が認識できない状態を表している。尚、図43の結果は、各コピー上質紙上のインクの噴射粒量を、約120〜50plとした。
図43から、吸収係数Kaが50以上のインクと記録媒体との組み合せでブリードの程度の評価が「△」となり、吸収係数Kaが89以上のインクと記録媒体との組み合せでブリードの程度の評価が「○」となることが確認された。図44は、図43の場合と同様にしてインクK10,Y10,M10,C10〜K15,Y15,M15,C15について得られた実験結果を示す。インクK10,Y10,M10,C10〜K12,Y12,M12,C12は、上記第1のノニオン系界面活性剤の代わりに、第2〜第4のノニオン系界面活性剤を2重量%添加されている。又、インクK13,Y13,M13,C13は、上記第1のノニオン系界面活性剤の代わりに、第5のノニオン系界面活性剤を1重量%添加されている。更に、インクK14,Y14,M14,C14は、上記第1のノニオン系界面活性剤の代わりに、エタノールを15重量%添加されており、インクK15,Y15,M15,C15は、上記第1のノニオン系界面活性剤の代わりに、エタノールを20重量%添加されている。各コピー上質紙上のインクの噴射粒量は、約80〜45plとして、ブリードの評価方法は図43の場合と同じとした。
図44から、吸収係数Kaが40以上のインクと記録媒体との組み合せでブリードの程度の評価が「△」となり、吸収係数Kaが83以上のインクと記録媒体との組み合せでブリードの程度の評価が「○」となることが確認された。本実施例により、図42に示すインクK’2及び図43に示すインクK9,Y9,M9,C9の5種類のインクを使用して記録を行った。イエロー、マゼンタやシアン等の異なる色相と境界を接しない黒領域をインクK’2で記録し、その他の領域をインクK9,Y9,M9,C9で記録した。これにより、インクK’2で記録した文字等の線画にはにじみがなく、高記録濃度で高品位の記録が行えた。これと同時に、インクK9,Y9,M9,C9で記録した一般画像中色境界部分では、ブリードのない高品位のカラー記録が行えた。
しかし、異なる特性のインクを使用するので、インクK’2で記録した黒領域の記録濃度とインクK9で記録した黒領域の記録濃度とが異なって見え、記録品位が多少低下するという新たな問題も発生した。そこで、本実施例においては、境界部分の黒領域を所定記録幅(例えば2ドット幅)分インクK9で記録して、その他の黒領域をインクK’2で記録することが望ましい。この場合、黒領域間の記録濃度差がほぼなくなり、記録品位の低下を防止できた。
上述の如く、本実施例は、にじみのない高品位の要求が強い文字等の線画を記録する機会の多い黒のインク及びカラー記録の基本色であるイエロー、マゼンタ、シアンの各色のインクに適用することが望ましい。又、記録媒体としては、最も一般的に使用され、且つ、記録表面に紙の繊維が露呈しているコピー紙等の所謂普通紙であることが望ましい。
ところで、インクジェット記録装置において所望の解像度で記録媒体に線画や一般画像を記録するには、所望の解像度に適した大きさのドットが得られるようにヘッドから吐出されるインク量を調整する必要がある。浸透性の低いインクは、浸透性の高いインクより記録媒体上でのドットの広がりが小さいため、浸透性の高いインクより多いインク量が記録媒体上に記録される。この傾向は、記録媒体としてインクの浸透を抑制するサイズ等の処理が施されているコピー用紙やボンド紙、葉書等の普通紙で顕著に見られる。これに対し、インクジェット記録専用のコート紙、オーバーヘッドプロジェクタ(OHP)フィルムや光沢紙等のインクジェット記録用紙では、用紙/フィルムの基材の上にインク受容層が設けられており、インクの浸透を均一に、又は、速めるように設計されているので、インクの浸透性の影響は比較的小さい。尚、インク受容層は、例えばポリビニルアルコール、カチオン樹脂等の親水・吸水性のポリマーや樹脂、顔料、バインダー等からなる。
このように、浸透性の異なるインクは記録媒体上で性質が大きく異なるので、夫々のインクに対して十分な性能を満たす記録媒体を設計することは困難である。そこで、使用する記録媒体の種類や性質に応じてヘッドから吐出するインク量を調整する方法が提案されている。
記録媒体の種類によってヘッドから吐出するインク粒子の量を調整する方法は、効果的である反面、インク粒子の吐出量に応じてヘッドの駆動条件を制御する必要があり、ヘッドの駆動系の制御が複雑になると共に、ヘッドの駆動系の構成が複雑、且つ、高価となってしまう。又、ヘッドの駆動条件によっては、正確にインク粒子の吐出量を調整できない場合もある。
インク粒子の吐出量を調整する方法としては、記録媒体上の同じ位置にインク粒子を複数回重ね記録することでドットの径を調整することが提案されており、例えば特願平6−344652号公報では浸透性の異なるインクを同時に使用する場合に適用した例が提案されている。具体的には、浸透性の低いモノクロ画像記録用のインクに対して調整された専用の記録媒体を用いて浸透性の高いカラー画像記録用のインクを使用して記録を行う場合に、浸透性の高いインクのインク粒子は複数回重ね記録し、ドットの径を浸透性の低いインクの1つのインク粒子と同程度の径に調整する。
しかし、浸透性の低いインクは、記録媒体が普通紙であっても高品位の記録を可能とするものであり、それ専用に調整された記録媒体を必要とはしない。他方、浸透性の高いインクの場合、記録媒体が普通紙であってもブリードを生じないものの、文字等の線画を記録すると線分の周辺部分がにじんでしまい、輪郭が鮮明な画像を記録することができない。このため、特に発色性や色再現性及び鮮明さが要求されるカラー画像記録を実現するためには、浸透性の高いインクに対して最適化された専用の記録媒体が望まれる。
このように、浸透性の低いインク用に調整された専用の記録媒体の必要性や要求は低い。これに対し、浸透性の高いインクを用いた記録時にインク粒子を複数回重ね記録してドットの径を調整しても、得られる彩度、色相や色再現性等の記録品位は、浸透性の高いインク用に調整された専用の記録媒体を使用して普通に記録した場合の記録品位よりも一般的には低い。更に、浸透性の高いインク用に調整された専用の記録媒体を使用して浸透性の低いインクを用いて記録を行った場合には、インクの吐出量を減少させる必要があり、重ね記録を行うことはできない。
従って、通常は、記録媒体上のインクの広がり等を含む記録媒体特性は、鮮明で美しいカラー画像記録を実現するという要求から、浸透性の高いインク用に調整される。このため、この様な浸透性の高いインク用に調整された専用の記録媒体に、普通紙に対するのと同様の方法で浸透性の低いインクを用いて記録を行うと、一度に多量のインクが記録媒体上に付着してしまう。この結果、記録媒体上のインクの量が記録媒体のインク受容層のインク吸収能力を越えてしまい、記録される文字がつぶれたり、インクがインク受容層で凝結してしまい記録濃度にむらが生じたりする可能性が高い。更に、記録媒体上に付着するインクの量が多いので、インクの乾燥及び定着時間が長くなり、インクジェット記録装置の実用的な記録速度を考慮すると必要なインク乾燥・定着時間を確保するのが困難となるという不都合も生じやすい。特に、記録密度が高いベタ記録時の記録濃度のむらや長い定着時間の問題は、高い光透過性を必要とするためにインクを全く吸収しない透明なプラスチックフィルム等を基材として緻密で均一なインク受容層を設けたOHPフィルム等で顕著となる。
そこで、使用する記録媒体がOHPフィルム等であってもこれらの問題をより確実に防止し得る本発明になるインクジェット記録装置の第8実施例を以下に説明する。インクジェット記録装置の第8実施例では、図2に示すインクカートリッジを用いることが可能であり、本発明になるインクジェット記録方法の第8実施例を用いる。インクジェット記録装置の構成は、図1に示したものと同様のものを使用できるので、その図示及び説明は省略する。
本実施例では、浸透性の低いインクを用いてOHPフィルム等のインクジェット記録専用の記録媒体に対して記録を行う際に、1回のヘッド走査時に記録媒体に付着されるインクの量を少なくすることで、略同時に大量のインクが記録媒体に付着されるのを防止する。具体的には、1回のヘッド走査による単位面積当りの平均記録インク量を、浸透性の高いインクを用いて記録媒体に対して記録する際に1回のヘッド走査で記録媒体に付着される所定のインク量と同程度に設定する。つまり、浸透性の低いインクを用いて記録媒体に対して記録を行う際に、1回のヘッド走査時に記録媒体に付着されるインクの量を記録媒体のインク吸収能力以下に設定する。又、この様な浸透性の低いインクを用いた記録時のヘッドの走査を複数回繰り返すことで、記録媒体に付着される浸透性の低いインクの単位面積当りのインク量を上記所定のインク量と略同程度とすることができる。本実施例では、インクの溶媒の蒸発性も利用し、1回のヘッド走査時に記録媒体に付着するインク量が記録媒体のインク吸収能力を越えないようにしているので、記録濃度のむらを低減すると共に、インクの乾燥及び定着に必要な時間を確実に確保することができる。
本実施例の場合、図2に示すインクカートリッジ11−5内に貯蔵されている黒のインクの組成は、例えば酸性黒染料2重量%、ジエチレングリコール5重量%、エタノール5重量%及び残量水である。他方、インクカートリッジ11−1〜11−4内に貯蔵されている黒、イエロー、マゼンタ及びシアンのインクの組成は、例えば各色の直接染料3重量%、ジエチレングリコール10重量%、ノニオン系界面活性剤1.5重量%及び残量水である。これらの組成のインクは、インクの種類毎に密閉ポリ容器に計量し、50℃で湯煎しながら3時間撹拌溶解した後、室温まで冷却してポアサイズ0.2μmのフィルタでろ過することにより得た。各インクの浸透性を、コピー用紙Xerox4024DPに対するブリストー試験(J.TAPPI紙パルプ試験方法No.51)の吸収係数Kaで示すと、インクカートリッジ11−5内の浸透性の低い黒のインクが約9nl/(mm2 ・s1/2 )で、インクカートリッジ11−1〜11−4内の浸透性の高い黒、イエロー、マゼンタ及びシアンのインクが夫々約110〜150nl/(mm2 ・s1/2 )となった。
図45は、インクカートリッジ11−5内の浸透性の低い黒のインクを用いて記録媒体に対して記録を行った場合に記録媒体上に付着したインク量及びドット径の関係を示す図である。同図中、縦軸はドット径を示し、横軸はインク量を示す。又、特性Ia、IIa、IIIa及びIVaは夫々第1、第2及び第3のコピー用紙及びOHPフィルムが記録媒体として使用された場合を示す。ドット径は、記録媒体上に記録した50個のドットの面積を測定し、各ドットを真円とみなした場合の真円直径の平均値を示す。
又、図46は、インクカートリッジ11−1内の浸透性の高い黒のインクを用いて記録媒体に対して記録を行った場合に記録媒体上に付着したインク量及びドット径の関係を示す図である。同図中、縦軸はドット径を示し、横軸はインク量を示す。又、特性Ib、IIb、IIIb及びIVbは夫々第1、第2及び第3のコピー用紙及びOHPフィルムが記録媒体として使用された場合を示す。ドット径は、図45の場合と同様に、記録媒体上に記録した50個のドットの面積を測定し、各ドットを真円とみなした場合の真円直径の平均値を示す。尚、インクカートリッジ11−2〜11−4内の浸透性の高いイエロー、マゼンタ及びシアンのインクを用いて記録媒体に対して記録を行った場合に記録媒体上に付着したインク量及びドット径の関係は夫々図46と類似した関係となったので、それらの図示は省略する。
これらのインクを用いて360dpiの解像度で記録を行うのに適した所定のドット径を、斜めに隣接するドットが繋がって斜線となる100μm=√2×25.4mm/360より多少大きい約110±10μmとすると、上記第1〜第3のコピー用紙等の普通紙上での所定のドット径を得るためのインク量は浸透性の低いインクで約100plで、浸透性の高いインクで約50plであった。この様なインク量でOHPフィルム等のインクジェット記録用紙に対してドットを記録してその径を測定したところ、浸透性の低いインクの場合にはドット径が所定のドット径より多少大きくなるものの、浸透性の高いインクの場合には所定のドット径、即ち、最適値が得られた。
本発明者らは、この条件下でこれらのインクを用いて普通紙に対して記録を行ったところ、にじみのない高品位のモノクロ(黒)記録が行え、ブリードのない高品位のカラー記録が行えることが確認できた。又、同じ条件下でこれらのインクを用いてOHPフィルムに対して記録を行ったところ、高品位のカラー記録が可能であることが確認できたが、モノクロ(黒)記録の場合には特に記録密度の高いベタ記録部分でインクの凝集による記録濃度のむらが顕著となることが確認できた。
そこで、本発明者らは、本実施例を適用してOHPフィルムに48個のノズルを有するヘッド部により浸透性の低い黒のインクを用いて360dpiのベタ記録をヘッド部を2回走査させて各種パターンを記録することで行い、ヘッド部の1回の走査で1行48ドットをベタ記録した比較例Ce1と比較した。尚、ヘッド部の1回の走査時間は約1秒に設定した。この結果、比較例Ce1では、インクの凝集により記録濃度にむらが生じ、記録品位が低かった。これに対し、図47に示す如き水平方向に1ドット置きラインパターンと図48に示すその反転パターンを2回のヘッド部の走査により重ねて記録した実験ex1の場合、比較例Ce1と比べるとインクの凝集による記録濃度のむらが大幅に低減でき、記録品位が著しく向上することが確認できた。同様に、図49に示す如き市松パターンと図50に示すその反転パターンを2回のヘッド部の走査により重ねて記録した実験ex2の場合、比較例Ce1と比べるとインクの凝集による記録濃度のむらが大幅に低減でき、記録品位が著しく向上することが確認できた。更に、他の比較例Ce2では、ヘッド部の1回の走査の後、次の走査が開始されるまでの待機時間を約1秒に設定し、全体としての記録時間が2回のヘッド部の走査による重ね記録を行う実験ex1,ex2の場合と同等となるように1行48ドットをベタ記録したが、結果は上記比較例Ce1の場合と同様となり、インクの凝集により記録濃度にむらが生じ、記録品位が低かった。
更に、本発明者らは、上記実験ex1,ex2を組み合わせた場合についても記録結果を確認した。実験ex3では、図47に示す如き水平方向に1ドット置きラインパターンと図49に示す如き市松パターンを連続する2回のヘッド部の走査により重ねて記録すると共に、図48に示す如き水平方向に1ドット置きラインパターンの反転パターンと図50に示す如き市松パターンの反転パターンを次の連続する2回のヘッド部の走査により重ねて記録した。この実験ex3の場合、比較例Ce1と比べるとインクの凝集による記録濃度のむらが大幅に低減でき、記録品位が著しく向上することが確認できた。実験ex4では、図49に示す如き市松パターンと図50に示すその反転パターンを連続する2回のヘッド部の走査により重ねて記録すると共に、図47に示す如き水平方向に1ドット置きラインパターンと図48に示すその反転パターンを次の連続する2回のヘッド部の走査により重ねて記録した。この実験ex4の場合、ドット同士が隣接しないパターンを優先して重ね記録するので、比較例Ce1と比べるとインクの凝集による記録濃度のむらが実験ex3より更に大幅に低減でき、記録品位も更に向上することが確認できた。
又、48個のノズルを有するヘッド部を用い、4個のノズルずつ計12回走査することにより、通常の1走査分に対応する48ドット幅のベタ記録をOHPフィルムに行ったところ、記録濃度のむらが大幅に低減でき、記録品位が向上することが確認できた。このように、1回の走査で記録するドット数を少なくし、且つ、走査回数を多くすることにより、記録濃度をより効果的に低減でき、十分な乾燥・定着時間を確保できることも確認できた。
例えば実験ex4と同様の方法で画像の記録を行う場合、ヘッド部の1回目の走査時には上位装置等からインクジェット記録装置に入力される画像データと図49に示す市松パターンとのアンド(論理積)に基づいてヘッド部を制御し、2回目の走査時には画像データと図50に示す市松パターンの反転パターンとのアンドに基づいてヘッド部を制御する。又、ヘッド部の3回目の走査時には画像データと図47に示すラインパターンとのアンドに基づいてヘッド部を制御し、4回目の走査時には画像データと図48に示すラインパターンの反転パターンとのアンドに基づいてヘッド部を制御する。
更に、実験ex4と同様の方法で画像の記録を行う場合、ヘッド部の1回目の走査時には画像データと図49に示す市松パターンとのアンドに対応する入力画像データを直接上位装置等からインクジェット記録装置に入力し、2回目の走査時には画像データと図50に示す市松パターンの反転パターンとのアンドに対応する入力画像データをインクジェット記録装置に入力しても良い。この場合、ヘッド部の3回目の走査時には画像データと図47に示すラインパターンとのアンドに対応する入力画像データを直接上位装置等からインクジェット記録装置に入力し、4回目の走査時には画像データと図48に示すラインパターンの反転パターンとのアンドに対応する入力画像データをインクジェット記録装置に入力する。
このように、本実施例では浸透性の高いインクに対して記録特性が調整された記録媒体に浸透性の低いインクを用いて記録を行う際に、ヘッド部の1回の走査で単位面積当りに記録するインク量を浸透性の高いインクを用いて1回の走査で記録するインク量以下とし、且つ、浸透性の低いインクを用いてヘッド部を複数回走査させることで順次記録を行う時に、ベタ記録の場合には補完し合う複数の間引きパターンを記録し、画像データを記録する場合には補完し合う複数の間引きパターンと画像データとのアンドを記録する。この場合、間引きパターンは上記ラインパターン及び市松パターンに限定されるものではなく、例えば1対の対称な間引きパターンを使用しても良い。又、対称な間引きパターンを複数対用いて順次記録を行うこともでき、その場合、ドット同士が隣接しないパターンを優先した順序で重ね記録することが望ましい。更に、浸透性の低いインクを吐出する複数のノズルを有するヘッド部が1回の走査で記録できる走査方向と垂直な方向上の最大記録幅をDドットとした場合、このヘッド部によるDドット幅の画像データをDドット未満のドット幅のN個のデータに分解し、この分解した画像データを順次N回の走査で記録媒体に記録しても良い。
尚、本実施例は、特に記録媒体としてOHPフィルムを用いた場合に好適であるが、OHPフィルムとしては二重構造を有するOHPフィルムを用いることも可能である。二重構造のOHPフィルムは、表と裏で特性が異なる。つまり、浸透性の高いインクに対して設計された第1のOHPフィルムと、浸透性の低いインクに対して設計された第2のOHPフィルムとを貼り合わせているので、表は高品位のカラー画像の記録に適しており、裏は記録濃度むらのないモノクロ画像の記録に適している。本発明者らは、この様な二重構造を有するOHPフィルムに対しても上記の如き記録を行ったところ、例えば第2のOHPフィルムのインク受容層の厚みを第1のOHPフィルムの約1.5倍に設定したところ、表の第1のOHPフィルムには高品位のカラー画像の記録が行え、裏の第2のOHPフィルムには記録濃度むらのないモノクロ画像の記録が行えることが確認できた。
本実施例で用いるOHPフィルムには、各種の水溶性、吸水性或いはこれらの特性を付与した各種のポリマー等を使用することができる。更に、特性を調整するために不溶性の各種ポリマーやクレイ、タルク、アルミナ、シリカ等の無機顔料を適量添加することもできる。ただし、OHPフィルムの場合には、透明性を阻害しないようにする必要がある。ポリマーとしては、ポリビニルアルコール、ゼラチン、アルブミン、カゼイン、カチオンデンプン、アラビアゴム、ポリアミド、ポリビルニピロリドン、水溶性セルロース等が使用可能である。
尚、OHP等の記録媒体に設けられるインク受容層は、予め記録媒体に形成されていても、記録時に形成されるものでも良い。インク受容層を記録媒体に形成しながら記録を行う方式自体は公知であり、例えば特開昭63−299939号公報、特開平5−96720号公報、特開平6−23973号公報や特開平6−92010号公報等に開示されている方式を採用し得る。
ところで、ヘッドのノズルの径は例えば30μm〜100μmと小さいため、ノズルの先端(ノズルオリフィス)でインクが蒸発乾燥して目詰まりを起こさないように、不揮発性で、且つ、吸湿性の大きな溶媒(溶剤)がインクに添加されている。しかし、ノズルオリフィス内での染料の析出による目詰まりは防止できても、溶媒の蒸発によるインクの増粘は避けられない。インクの増粘が進むと、インクの噴射方向が定まらなくなり、記録媒体に記録されるドットの位置ずれを生じると共に、極端な場合にはインクの噴射が行えなくなり、ドット抜けを生じてしまう。そこで、図1に示す如きバックアップユニット46を用いてインクの増粘によるノズルからのインク噴射のバラツキを抑制する。具体的には、全ノズルからバックアップユニット46に対して増粘しかけたインクを噴射(スプレー)し、インクの粘度が一定以上にならないようにしている。ところが、インクの増粘の程度は、インク中に含まれる湿潤剤や染料等の成分の種類及び濃度によって異なり、同一のインクジェット記録装置内で使用される多種類のインク間でも異なる場合があるにも拘らず、従来はインク間で異なる増粘の程度は一切考慮されていなかった。
そこで、同一のインクジェット記録装置内で使用される多種類のインク間で増粘の程度が異なる場合、各インクに対応してノズルのスプレーを行うことが考えられる。しかし、この場合には、頻繁にノズルのスプレーを行う必要が生じてしまい、インクの消費量が多くなると共に、記録速度が遅くなってしまうという不都合も生じてしまう。又、増粘の程度が最も大きいインクに応じてノズルのスプレーを行うことも考えられるが、この場合もインクの消費量が比較的多くなってしまい、記録速度もある程度以上向上できないという不都合がある。
次に、これらの不都合を解消し得る本発明になるインクジェット記録装置の第9実施例を以下に説明する。インクジェット記録装置の第9実施例では、図2に示すインクカートリッジを用いることが可能であり、本発明になるインクジェット記録方法の第9実施例を用いる。インクジェット記録装置の構成は、図1に示したものと同様のものを使用できるので、その図示及び説明は省略する。
本実施例では、同一のインクジェット記録装置内で用いる2種類以上のインクについて、溶媒蒸発によるインクの増粘を同程度に設定してある。これにより、ノズルのスプレー条件は、2種類以上のインクの増粘が同程度であるため最小限に抑さえることができ、記録速度を向上することができると共に、インクの消費量も抑制することが可能となる。
インクの溶媒には、水及び水と水溶性の有機溶媒との混合物を使用する。有機溶媒としては、メタノール,エタノール,(ノルマル)プロピルアルコール,イソプロピルアルコール等の1価アルコール、エチレングリコール,プロピレングリコール,ブチレングリコール,ヘキシレングリコール,ジエチレングリコール,トリエチレングリコール等の2価アルコール、グリセリン等の3価アルコール、ポリエチレングリコール,ポリブチレングリコール等のポリアルキレングリコール、N−メチル−2−ピロリドン,1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等の含窒素複素環式化合物、エチレングリコールモノメチルエーテル,ジエチレングリコールモノメチルエーテル,トリエチレングリコールモノメチルエーテル等の多価アルコールの低級アルキルエーテル等が使用可能である。
インク中における上記有機溶媒の含有量は、5〜80重量%であり、好ましくは5〜50重量%の範囲内である。これは、有機溶媒の含有量が5重量%未満であると、インクの乾燥が速くなったり、染料の溶解性が低下したりしてインク中の染料が析出し易くなり目詰まりを生じ易く、又、80重量%を越えるとインクの粘度が高くなってしまいヘッドのノズルからインクを噴射しにくくなってしまうからである。
本実施例で使用するインクの基本組成は以上の通りであるが、必要に応じてその他の分散剤、カチオン系,アニオン系,ノニオン系等の界面活性剤、ポリビニルアルコール,セルロース類,水溶性樹脂等の粘度調整剤、ジエタノールアミン,トリエタノールアミン等のpH調整剤等を添加しても良いことは言うまでもない。
本発明者らは、以下の如き組成のインクの増粘の程度を実験により測定した。
インクIK1:黒染料8%+ジエチレングリコール5%+添加剤2%+残余水インクIK2:黒染料8%+ジエチレングリコール15%+添加剤2%+残余水インクIK3:黒染料4%+ジエチレングリコール5%+エタノール6%+残余水インクIK4:色染料(アシッドブルー9)3%+ジエチレングリコール10%+エタノール3%+添加剤2%+残余水上記インクIK1〜IK4を、開放するインクの体積をVmm3 、開放表面積をSmm2 とした場合、V/S≒10mmが満たされるように例えば半径r=36.6mmで深さh=20mmの4つのシャーレに別々に42g(≒42000mm3 ,比重約1.04)だけ入れ、常温常湿(25℃60%RH)に放置して溶媒を蒸発させた。又、一定時間(24時間)毎に残インクを良く撹拌し、E型粘度計により各インクの粘度を第1日目から第12日目まで測定した。
その結果、各インクの粘度は時間が経過するにつれて図51に示すように増加することが確認できた。同図中、縦軸は粘度を示し、横軸は時間を示す。又、インクIK1は○印、インクIK2は□印、インクIK3は×印、インクIK4は+印で示す。図51からわかるように、第4日目まではいずれのインクもあまり増粘が発生しなかったが、第5日目を過ぎると増粘が顕著に見られた。更に、インクIK2〜IK4は夫々1000cp以下という同程度の粘度変化を示したのに対し、インクIK1では粘度が極端に増加することが確認できた。
本発明者らは、図51の縦軸を拡大し、更に詳細に各インクの増粘状態を調べたところ、図52に示す如き結果が得られた。図52では、各インクIK1〜IK4について図51と同じ記号が用いられている。又、これらの結果を用いて実際に各インクIK1〜IK4を使用して記録を行い、インクの増粘による影響を調べた。
図1及び図2と共に説明したインクジェット記録装置により、(i)第5日目以後の粘度の差が200cp以上のインクIK1とインクIK4との組み合わせにより20秒に1回の頻度でノズルのスプレーを行いながら連続記録を行い、(ii)第10日目以後の粘度の差が200cp以上のインクIK2とインクIK4との組み合わせにより20秒に1回の頻度でノズルのスプレーを行いながら連続記録を行い、(iii)第7日目以後の粘度の差が200cp以上のインクIK3とインクIK4との組み合わせにより20秒に1回の頻度でノズルのスプレーを行いながら連続記録を行い、夫々の場合について記録不良の有無を検査した。その結果、(i)のインクの組み合わせの場合にドット抜け等の記録不良が発生し、(ii)及び(iii)のインクの組み合わせの場合にはいずれも記録不良は発生しないことが確認された。
更に、イエロー、マゼンタ、シアン及び黒のインクY0,M0,C0,K0の組成を以下のようにインク粘度の増加が図53に示すように同程度となるように調整し、上記と同様に20秒に1回の頻度でノズルのスプレーを行いながら連続記録を行ったところ、ドット抜けやドットずれ等の記録不良を発生することなく良好な記録を行えることも確認できた。尚、図53中、縦軸は上記と同様の条件で測定した粘度を示し、横軸は時間を示す。又、イエローのインクY0は○印、マゼンタのインクM0は×印、シアンのインクC0は+印、黒のインクK0は△印で示す。
イエローのインクY0:黄色染料2%+ジエチレングリコール10%+エタノール3%+添加剤2%+調整剤2%+残余水マゼンタのインクM0:赤色染料4%+ジエチレングリコール10%+エタノール3%+添加剤2%+調整剤1%+残余水シアンのインクC0: 青色染料3%+ジエチレングリコール10%+エタノール3%+添加剤2%+残余水黒のインクK0: 黒色染料6%+ジエチレングリコール10%+添加剤2%+残余水従って、少なくとも2色以上のインクを用いてインクジェット記録を行う場合、各インクの溶媒蒸発によるインク粘度の増加、即ち、増粘の度合いを同程度に設定することにより、ノズルのスプレーを最低限の回数行うスプレー条件であっても正常な記録を継続することができることが確認できた。尚、各インクの溶媒蒸発によるインク粘度の増加は、例えば半径r=36.6mmで深さh=20mmのシャーレに各インクを別々に42gだけ入れ、常温常湿(25℃60%RH)に放置して溶媒を蒸発させた時の第5日目の粘度の差が約1000cp以下で、望ましくは約200cp以内であることも確認できた。更に、各インクは、染料及び有機溶媒を含む水性インク、顔料を分散したインク等であっても良いことも確認できた。
尚、本実施例では、各インクの増粘が同程度となるようにインクの組成を調整しているが、本実施例の変形例として、各インクを噴射するヘッドのノズルの使用頻度に応じて常に各インクの増粘の差が一定範囲内に収まるように各インクの組成を調整しても良い。
つまり、インクジェット記録装置において記録を高品位、且つ、高速に行うには、使用するヘッドのノズル数を記録する画像の種類に応じて設定するのも1つの方法である。この場合、文字等の線画を記録する際には多い数のノズルを使用してできるだけ高速に記録を行い、図形等のカラーの一般画像を記録する際には少ない数のノズルを使用して高品位の記録を行うので、各ヘッドのノズルが一様に使用されることはなく、各ヘッドによってノズルの非使用時間(待機時間)が異なる。例えば、一般画像を記録する場合の少ない数のヘッドのノズル数がm=16で線画像を記録する場合の多い数のヘッドのノズル数がn=128であると、一般画像の記録時間は線画記録時間の約n/m=8倍となる。そこで、本変形例では、少ない数のノズルを有するヘッドに供給するインクの増粘の割合が、多い数のノズルを有するヘッドに供給するインクの増粘の割合の約8倍となるように各インクの組成を調整することで、上記と同様の効果を得る。
又、インクの増粘の割合を同程度に設定するためには、(ア)染料濃度の調整、(イ)溶媒濃度の調整及び(ウ)添加剤濃度の調整等の方法を取ることが可能である。上記(ア)の方法の場合、記録濃度の低下が起きる可能性があり、上記(イ),(ウ)の方法の場合、初期インク粘度の増加及び定着時間の延長等が起きる可能性がある。しかし、本発明者らの実験結果によると、上記(ア)〜(ウ)のいずれの方法を採用した場合でも、問題のない範囲内でインクの増粘の程度を調整できることが確認できた。
尚、上記各実施例において、使用するインクの種類の数、インクの組成、記録媒体の特性等は上記のものに限定されるものではなく、各種インク及び記録媒体の組み合せが可能であることは言うまでもない。更に、用途に応じて複数の実施例及び又は変形例を適宜組み合わせても良い。
以上、本発明を実施例により説明したが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々の変形及び改良が可能である。