本実施形態に係るまくらぎ構造体1は、図1に示すように、平行に配置される一対のレールR,Rの間隔を一定に保持するとともに、レールR,Rに作用する列車の重量を分散させるものであり、レールRの長手方向に複数連設され、レールR,Rとともに「軌きょう」を構成する。なお、以下の説明においては、レールRの長手方向を前後方向と称し、レールR,Rと直交する方向を左右方向と称する場合がある。
まくらぎ構造体1は、レールR,Rの下側に設置されるものであり、レールRと交差する方向(左右方向)に配置される横梁10と、レールRの長手方向(前後方向)に沿って配置される縦梁20とを含んで構成されていて、バラスト道床Bの上部に埋設されている。なお、本実施形態では、路盤上にバラスト(道床バラスト)を盛り立てて形成したバラスト道床Bにまくらぎ構造体1を埋設した場合を例示するが、まくらぎ構造体1の適用範囲を限定する趣旨ではない。
本実施形態に係るまくらぎ構造体1は、コンクリート製であり、図2に示すように、間隔をあけて平行に配置された前後二本の横梁10,10と、この横梁10,10と交差する左右二本の縦梁20,20とを備えて構成されていて、格子状を呈している。
横梁10の下部には、その側方(前方または後方)に向かって張り出す横梁フランジ10aが形成されている。横梁フランジ10aは、横梁10の短手方向の両側面に設けられており、かつ、縦梁20との交差部分を除き、横梁10の全長に亘って連続して形成されている。横梁フランジ10aの断面形状は、先細りの台形状を呈しているが、横梁フランジ10aの下面は、横梁10の本体部分の下面と面一になっている(図3の(d)参照)。なお、横梁フランジ10aは、無筋になっている。
横梁フランジ10aの厚さ寸法に特に制限はないが、レールRが載置される部位の桁高を100〜300(mm)とした場合には、その基端部の厚さ寸法を20〜50(mm)とすることが望ましい。また、横梁フランジ10aの突出長さ寸法にも特に制限はないが、横梁10の本体部分の幅寸法を100〜300(mm)とした場合には、20〜100(mm)とすることが望ましい。
縦梁20の下部には、その側方(右側方または左側方)に向かって張り出す縦梁フランジ20aが形成されている。縦梁フランジ20aは、縦梁20の短手方向の両側面に設けられており、かつ、横梁10との交差部分を除き、縦梁20の全長に亘って連続して形成されている。縦梁フランジ20aの断面形状は、先細りの台形状を呈しているが、縦梁フランジ20aの下面は、縦梁20の本体部分の下面と面一になっている(図3の(b)参照)。なお、縦梁フランジ20aは、無筋になっている。
縦梁フランジ20aの厚さ寸法に特に制限はないが、レールRが載置される部位の桁高を100〜300(mm)とした場合には、その基端部の厚さ寸法を20〜50(mm)とすることが望ましい。また、縦梁フランジ20aの突出長さ寸法にも特に制限はないが、縦梁20の本体部分の幅寸法を50〜300(mm)とした場合には、20〜100(mm)とすることが望ましい。
横梁10および縦梁20の構成をより詳細に説明する。横梁10は、レールRを支持する一対の支持部11,11と、一対の支持部11,11を繋ぐ連結部12と、支持部11,11から連結部12と反対方向に向かって方持ち梁状に延出する延出部13,13とを備えて構成されている。また、横梁10は、プレストレストコンクリート構造からなり、図3の(a)および(b)に示すように、横梁10の内部には、その長手方向に沿って複数本(本実施形態では四本)のPC鋼材14が挿通されている。なお、本実施形態では、最大で15(N/mm2)以上の圧縮応力(有効プレストレス)を横梁10に導入することができる。また、横梁10に配筋された鋼材(鉄筋やPC鋼材など)は、縦梁20との交差部分を除き、PC鋼材14のみであり、スターラップやスパイラル筋は配筋されていない。
図3の(b)に示すように、支持部11には、レールRが載置されるとともに、レールRを保持する締結部品(図示略)が固定される。なお、支持部11の上面は、隣接する連結部12の上面および延出部13の上面よりも低くなっていて、横梁10の上部に形成された凹部の底面になっている。なお、図示は省略するが、支持部11の上面とレールRの下面との間に、列車走行時の振動や騒音を緩和する軌道パッドを介設してもよい。図3の(a)に示すように、支持部11には、レールRが載置される部位の両側に、上面に開口する埋込栓(雌ネジ)11a,11aが埋設されている。埋込栓には、板ばねや線ばね(パンドロール)などからなる締結部品(図示略)を固定するためのボルト(図示略)が螺合される。
連結部12は、支持部11と一体に形成されている。連結部12の端部(支持部11に隣接する部位)には、脱線防止ガード(図示略)を設置する際に利用されるインサート12a,12aが埋設されている。列車の逸脱を防止する脱線防止ガード(図示略)をレールRに並設する場合には、図3の(b)に示すように、インサート12a,12aを利用して、連結部12の端部(支持部11に隣接する部位)の上面にブラケット15を固定し、このブラケット15に脱線防止ガードを保持させる。なお、インサート12aには、ブラケット15を固定するためのボルト(図示略)が螺合される。
延出部13は、支持部11と一体に形成されている。ポストテンション方式を採用する本実施形態においては、図3の(d)に示すように、延出部13の側端面に、円錐台状を呈する複数(本実施形態では四つ)の定着穴13a,13a,…が形成されている。定着穴13aには、PC鋼材14を定着するための定着ナット14aが収容される。また、定着穴13aの底面には、定着板13b,13bが埋設されている。
PC鋼材14は、公称径が9(mm)以上で、周囲に被膜層が形成されたアンボンドPC鋼棒からなり、横梁10の内部に埋設されている。PC鋼材14は、ポストテンション方式を採用する本実施形態においては、端部に螺合させた定着ナット14aによって横梁10に定着されている。なお、PC鋼材14の種類に特に制限はなく、従来より使用されているPC鋼棒やPC鋼より線などを使用することができる。また、アンボンドタイプではないPC鋼材14を用いる場合には、横梁10の内部に埋設したシースにPC鋼材14を挿通すればよい。
図3の(b)に示すように、左右の縦梁20,20は、レールR,Rの設置間隔と等しい間隔をあけて対向している。すなわち、縦梁20は、レールRの直下に位置するように配置されており、横梁10の支持部11において横梁10と交差する(図3の(a)参照)。また、縦梁20の上面は、レールRを支持できるように、横梁10の支持部11の上面と面一になっている。すなわち、本実施形態では、横梁10の支持部11と縦梁20とによって、レールRが連続的に支持されることになる。なお、図示は省略するが、縦梁20の上面とレールRの下面との間に、列車走行時の振動や騒音を緩和する軌道パッドを介設してもよい。
縦梁20は、図2に示すように、横梁10,10間に位置する中間部21と、横梁10,10から片持ち梁状に突出する突出部22,22とを備えて構成されている。また、縦梁20は、鉄筋コンクリート構造からなり、縦梁20の内部には、その長手方向に沿って複数本の主筋(図示略)が埋設されている。なお、縦梁20に配筋された鋼材は、横梁10との交差部分を除き、主筋のみであり、スターラップやスパイラル筋は配筋されていない。
中間部21および突出部22には、脱線防止ガード(図示略)を設置する際に利用されるインサート21a,22aが埋設されている。インサート21a,22aは、本実施形態では、他の縦梁20と対向する側面に開口している。インサート21a,22aには、図示せぬ脱線防止ガードやブラケットを固定するためのボルト(図示略)が螺合される。
突出部22は、中間部21の長さの半分だけ、横梁10から突出している。突出部22の先端部分(すなわち、縦梁20の長手方向の端部)には、隣接する他のまくらぎ構造体1’の縦梁20’の端部に係合する係合手段である係合凸部23または係合凹部24が形成されている。すなわち、一方の突出部22の先端面には、その幅方向の中央部に半円柱状の係合凸部23が形成されており、他方の突出部22の先端面には、その幅方向の中央部に係合凸部23と略同形の半円柱状の係合凹部24が形成されている。係合凸部23は、他のまくらぎ構造体1’の係合凹部24’に横ズレ不能に係合し、係合凹部24は、他のまくらぎ構造体1’の係合突部23’に横ズレ不能に係合する。なお、本実施形態では、縦梁20の一端に係合凸部23を設けるとともに、他端に係合凹部24を設けた場合を例示したが、これに限定されることはなく、隣接する他のまくらぎ構造体1’の係合手段の形態によっては、縦梁20の両端に係合凸部23,23を設けてもよいし、両端に係合凹部24,24を設けてもよい。
まくらぎ構造体1を構成するコンクリートは、超高強度繊維補強コンクリートである。本実施形態では、硬化体の圧縮強度が150(N/mm2)以上であり、割裂引張強度が5(N/mm2)以上であり、曲げ強度が15(N/mm2)以上である超高強度繊維補強コンクリートであって、硬化体の500年中性化深さの推定値が5(mm)以下で塩化物イオン拡散係数が0.01(cm2/年)以下である超高強度繊維補強コンクリートを使用している。なお、中性化深さの推定値y(mm)は、年数をt(年)、中性化速度係数をα(mm/年0.5)とすると、y=α・t0.5により算出することができるから、500年中性化深さの推定値が5(mm)以下であるためには、中性化速度係数αが0.23(mm/年0.5)以下であればよい。また、塩化物イオン拡散係数は、例えば、浸漬試験により得られた塩化物イオン濃度分布から推定することができる。
なお、前記したような強度・特性を有する超高強度繊維補強コンクリートは、例えば、セメントとポゾラン系反応粒子と最大粒径2.5(mm)以下の骨材とを含むプレミックス紛体に高性能減水剤と水とを混入して得られたセメント系マトリックスに、直径が0.1〜0.25(mm)で長さが10〜20(mm)の形状を有する鋼繊維を1.0容積%以上混入することで得ることができる。なお、水セメント比は、0.24以下であることが望ましい。ここで、ポゾラン系反応粒子とは、例えば、シリカフューム、フライアッシュ、高炉スラグのほか、カオリンの誘導体から選定した化合物、沈降シリカ、火山灰、シリカゾル等からなる粒子のことである。具体的な配合の一例として、表1に示すような配合により実現することができる。なお、表1の配合により得られた超高強度繊維補強コンクリートの中性化速度係数αは、0.089(mm/年0.5)であったので、500年中性化深さの推定値yは、1.99(mm)となる。
次に、図4および図5を参照して、まくらぎ構造体1の製造方法を説明する。まくらぎ構造体1は、図4の(a)〜(e)に示す型枠30を用いて製造する。なお、まくらぎ構造体1は、その上下を反対にした状態で製造される。
図4の(a)に示すように、型枠30は、第一側枠31と、第二側枠32と、第三側枠33と、横梁底枠34(図4の(b)参照)と、縦梁底枠35(図4の(c)参照)と、基盤36(図4の(c)参照)と、妻枠37と備えて構成されている。
第一側枠31は、まくらぎ構造体1の四隅にある入隅部(横梁10の延出部13の側面および縦梁20の突出部22の側面)を成形するものであり、鋼製材料や木製材料で形成されていて、平面視L字状を呈している。
第二側枠32は、一本の横梁10に二本の縦梁20,20が交差することで形成される平面視コ字状を呈する部分、又は、二本の横梁10,10に一本の縦梁20が交差することで形成される平面視コ字状を呈する部分を成形するものであり、平面視コ字状を呈している。すなわち、第二側枠32は、横梁10の連結部12と左右の縦梁20,20の突出部22,22とによって形成される二つの入隅部を含む部位、又は、前後の横梁10,10の延出部13,13と縦梁20の中間部21とによって形成される二つの入隅部を含む部位と、を成形するものである。第二側枠32は、図4の(c)および(e)にも示すように、鋼材や木材で形成された外枠32aと、鋼材や木材よりも弾性係数の小さい材料(例えば、天然ゴム、合成ゴム、硬質ウレタン、発泡スチロールなどの樹脂系材料)で形成された内枠32bとを備えて構成されている。内枠32bは、横梁フランジ10aを含む横梁10の側面および縦梁フランジ20aを含む縦梁20の側面を成形するものであり、外枠32aによって保持される。
第三側枠33は、図4の(a)に示すように、二本の横梁10,10に二本の縦梁20,20が交差することで形成される平面視ロ字状を呈する部分を成形するものであり、平面視ロ字状を呈している。すなわち、第三側枠33は、前後の横梁10,10の連結部12,12と左右の縦梁20,20の中間部21,21とによって形成される四つの入隅部を含む部位を成形するものである。第三側枠33は、図4の(c)および(e)にも示すように、鋼材や木材で形成された外枠33aと、鋼材や木材よりも弾性係数の小さい材料(例えば、天然ゴム、合成ゴム、硬質ウレタン、発泡スチロールなどの樹脂系材料)で形成された内枠33bとを備えて構成されている。内枠33bは、横梁フランジ10aを含む横梁10の側面および縦梁フランジ20aを含む縦梁20の側面を成形するものであり、外枠33aによって保持される。
図4の(b)および(e)に示す横梁底枠34は、横梁10の上面(図では下面)を成形するためのものであり、鋼材や木材などで形成されている。横梁底枠34の大部分は、鋼製材料や木製材料で形成されているが、図4の(b)に示すように、横梁底枠34のうち、横梁10の支持部11の上面(図では下面)を成形する突部の肩部分は、鋼製材料や木製材料よりも弾性係数の小さい材料(例えば、天然ゴム、合成ゴム、硬質ウレタン、発泡スチロールなどの樹脂系材料)からなるブロック34aが配置されている。
図4の(c)および(d)に示す縦梁底枠35は、縦梁20の上面(図では下面)を成形するためのものであり、図4の(c)および(e)に示す基盤36は、第一側枠31、第二側枠32および第三側枠33の台座となるものである。また、図4の(a)〜(e)に示す妻枠37は、少なくとも横梁底枠34および縦梁底枠35の端部に配置される。
型枠30を組み立てたら、図示は省略するが、横梁10となる空間に、PC鋼材14(図3の(a)参照)を所定のかぶりや間隔を確保しつつ配置するとともに、埋込栓11a、インサート12a(図3の(a)参照)、定着穴13a(図3の(c)参照)を形成するための治具(中子)などを所定の位置に配置し、さらに、縦梁20となる空間に、所定のかぶりや間隔を確保しつつ主筋を配置するとともに、インサート21a,22a(図3の(a)参照)を配置する。
なお、PC鋼材14(図3の(a)参照)の位置決め方法に特に制限はないが、例えば、図12に示すような治具70を利用するとよい。
ここで、治具70の構成を詳細に説明する。治具70は、妻枠37に取り付けられる有底筒状の取付部材71と、PC鋼材14の端部を保持する保持部材72とを備えて構成されている。
取付部材71は、型枠30内に挿入される挿入部71aと、妻枠37に設けられた雌ねじ37aに螺合する雄ねじ部71bと、妻枠37の外面に突設された円筒状の係止壁37bに係止される係止部71cとを備えて構成されている。挿入部71aは、定着穴13a(図3の(c)参照)を形成するための中子としての役割を担う部位であり、先細りの円錐台状を呈していて、その先端部(すなわち、取付部材71の底部)には、PC鋼材14が挿通される挿通孔71dが形成されている。係止部71cは、雄ねじ部71bよりも大きな外径を備えていて、雄ねじ部71b側の端面が係止壁37bの端面に係止される。定着板13bは、取付部材71の先端部(底部)に取り付けておくとよい。なお、図示は省略するが、定着板13bは、型枠30の脱型後に定着穴13aの底部に取り付けてもよい。
保持部材72は、取付部材71の係止端面(妻枠37の外側に突出した端面)71eに係止される基部72aと、この基部72aの取付部材71側の端面72bに突設された保持部72cと、基部72aの係止面72bとは反対側の端面に突設された突部72dとを備えて構成されている。基部72aの外径は、取付部材71の内径よりも大きくなっている。保持部72cは、取付部材71の内部に挿入可能な形状に成形されている。保持部72cの先端部には、PC鋼材14の端部に形成された雄ねじが螺入される雌ネジ72eが形成されている。突部72dは、保持部材72を回転させる際に使用される部位であり、図示せぬ工具等で把持できるように角柱状に成形されている。
このような構成の治具70でPC鋼材14を保持するには、まず、妻枠37の雌ねじ37aに取付部材71の挿入部71aを挿入するとともに、雌ねじ37aに雄ねじ部71bを螺合し、係止部71cが係止壁37bの端面に当接するまで取付部材71を回転させる。次に、取付部材71の内部に保持部材72の保持部72cを挿入し、取付部材71の挿通孔71dに挿通させたPC鋼材14の雄ねじを、保持部72cの雌ねじ72eに螺入する。その後、保持部材72の基部72aが取付部材71の係止端面71eに当接するまで保持部材72を回転させ、さらに、PC鋼材14にたるみが無くなるまで、保持部材72を回転させる。このような治具70を使用すれば、スターラップ等を省略した場合であっても、PC鋼材14を正確に設置することが可能となる。
型枠30の組立やPC鋼材14の設置作業が終了したら、所定の配合で練り混ぜられたフレッシュな超高強度繊維補強コンクリートを打設し、適宜な方法で締固め、その後、適宜な期間、養生を行い、超高強度繊維補強コンクリートが脱型強度に達したら、型枠30を脱型する。
なお、第二側枠32および第三側枠33を鋼材だけで構成すると、超高強度繊維補強コンクリートの自己収縮が拘束されて内部応力が発生するので、弱材齢の超高強度繊維補強コンクリートにひび割れが発生する虞があるが、弾性係数の小さい樹脂系材料からなる内枠32b,33b(図4の(a),(c),(e)参照)を具備する場合には、超高強度繊維補強コンクリートの自己収縮を吸収して内部応力の発生を抑制するので、ひび割れが発生し難くなる。また、第二側枠32および第三側枠33を鋼材だけで構成すると、超高強度繊維補強コンクリートの自己収縮に起因して、第二側枠32および第三側枠33に大きな側圧(拘束力)が作用するので、脱型作業をスムーズに行えない虞があるが、内枠32b,33b(図4の(a),(c),(e)参照)を具備する場合には、自己収縮に伴う変形が吸収されるので、第二側枠32および第三側枠33に大きな側圧(拘束力)が作用することはなく、したがって、脱型作業をスムーズに行うことが可能となる。
同様に、横梁底枠34を鋼材だけで構成すると、横梁底枠34の突部の周囲にある超高強度繊維補強コンクリートの自己収縮が拘束されて内部応力が発生するので、弱材齢の超高強度繊維補強コンクリートにひび割れが発生する虞があるが、弾性係数の小さい樹脂系材料からなるブロック34a(図4の(b)参照)を具備する場合には、超高強度繊維補強コンクリートの自己収縮を吸収して内部応力の発生を抑制するので、ひび割れが発生し難くなる。また、横梁底枠34を鋼材だけで構成すると、超高強度繊維補強コンクリートの自己収縮に起因して、横梁底枠34の突部に大きな圧力(拘束力)が作用するので、脱型作業をスムーズに行えない虞があるが、ブロック34a(図4の(b)参照)を具備する場合には、自己収縮に伴う変形が吸収されるので、横梁底枠34に大きな側圧(拘束力)が作用することはなく、したがって、脱型作業をスムーズに行うことが可能となる。
なお、妻枠37を脱型する際には、治具70を取り外す。治具70を取り外す場合には、まず保持部材72を回転させてPC鋼材14から取り外し、その後に、取付部材71を回転させて妻枠37から取り外せばよい。
そして、ポストテンション方式を採用する本実施形態においては、図5の(b)に示すように、PC鋼材14にジャッキなどを用いて所定の引張力を導入して横梁10に圧縮応力(プレストレス)を付与すると、まくらぎ構造体1が得られる。
なお、複数のPC鋼材14,14,…について一本ずつ引張力を導入してもよいが、プレストレスを付与する過程において縦梁20に二次応力が発生するのを防ぐために、図5の(a)に示すように、ラムチェア40と、ジャッキ装置50と、油圧源であるポンプ60とを用いて複数のPC鋼材14,14,…に一括して引張力を導入したほうがよい。特に、複数の横梁10,10を備える本実施形態においては、複数の横梁10,10の各々にラムチェア40とジャッキ装置50とを配置し、複数のジャッキ装置50,50に同時に油圧を付与するポンプ60を用いて、複数の横梁10,10の各々に配置された複数のPC鋼材14,14,…に一括して引張力を導入することにより、複数の横梁10,10に同時にプレストレスを付与することが望ましい。このようにすると、複数の横梁10,10に均等にプレストレスが導入されることになるので、プレストレスを付与する過程において縦梁20の二次応力発生を防ぐことができる。
ラムチェア40は、図5の(b)に示すように、定着ナット14aを締め付けるためのスペースを確保する治具であり、ジャッキ装置50が取り付けられる台座41と、この台座41から延びる外脚42および内脚43とを備えて構成されている。外脚42は、四つの定着穴13a,13a,…を取り囲むように配置され、その突端が横梁10の端面に当接する。また、内脚43は、隣り合う定着穴13a,13aの間に配置され、その突端が横梁10の端面に当接する。図5の(c)に示すように、台座41は、四つの定着穴13a,13a,…に対応して四つの開口部を備えており、本実施形態では、格子状(田の字状)を呈している。
図5の(a)に示すように、ジャッキ装置50は、一の横梁10に挿通される複数(本実施形態では四つ)のPC鋼材14,14,…に一括して引張力を付与するものであって、PC鋼材14の本数に対応する数(本実施形態では四つ)のセンターホールジャッキ51,51,…(図5では二つのみ図示)を束ねて一体化したものである。各センターホールジャッキ51には、ポンプ60に通じる親ホース61から分岐した子ホース62が接続されていて、ポンプ60を作動させると、複数のセンターホールジャッキ51,51,…に同じ大きさの油圧(液圧)が一括して付与される。つまり、複数のセンターホールジャッキ51,51,…は、同一の油圧源(ポンプ60)によって同時に作動する。なお、図5の(b)に示すように、センターホールジャッキ51の中央部には、本実施形態では、PC鋼材14にカプラー52を介して接続されたテンションバー53が挿通されていて、テンションバー53を介してPC鋼材14に引張力が付与される。
このような構成のジャッキ装置50を用いれば、複数のPC鋼材14,14,に一括して且つ均一に引張力を導入することができる。
以上説明した本実施形態に係るまくらぎ構造体1によれば、横梁10をプレストレストコンクリート構造としたので、横梁10の小断面化を図ることが可能となり、ひいては、まくらぎ構造体1の軽量化を推し進めることが可能となる。また、縦梁20を鉄筋コンクリート構造としたので、横梁10と縦梁20の交差部分におけるPC鋼材の錯綜を避けることが可能となり、ひいては、まくらぎ構造体1の製造工程を簡素化することが可能となる。
また、本実施形態の如くまくらぎ構造体1の形態を格子状にすると、横梁のみからなるまくらぎ構造体に比べて、道床に埋設したときの横方向の抵抗力を1.5倍以上に増大させることが可能となる。
本実施形態においては、横梁フランジ10aと縦梁フランジ20aとによってバラスト道床Bとの接触面積が増大することになるので、横梁10および縦梁20を細くして軽量化を図っても、バラスト道床Bに作用する列車荷重等を適度に分散させることが可能となり、列車通過時の横梁10および縦梁20の沈み込みを抑制するとともに、バラスト道床Bの沈下や横移動などを抑制することが可能となる。すなわち、まくらぎ構造体1によれば、バラスト道床Bとの接地面積を確保しつつも、その軽量化を図ることが可能となる。また、このまくらぎ構造体1をバラスト道床Bの上部に埋設したときに、横梁フランジ10aおよび縦梁フランジ20a上に敷き詰められたバラストによって、横梁10および縦梁20が押さえ込まれることになるので、軌きょうの安定性が向上することになる。
このように、まくらぎ構造体1では、接地面積と重量を増やさずに、従来の横まくらぎに比べて軌きょうの沈下量を少なくすることが可能になるとともに、軌きょう横抵抗力を増やすことが可能となり、その結果、夏期においてレール温度の上昇に起因するレールの横座屈が防止され、急曲線高速走行時や地震時の走行安全性が向上することになる。なお、この効果は、実験およびFEM解析により確認している。
本実施形態においては、縦梁20によってレールRを長手方向に沿って連続的に支持することとしたので、安定性のよい軌きょうを得ることが可能となり、さらには、列車走行時の振動や騒音を緩和する軌道パッドをレールRとまくらぎ構造体1との間に連続して介在させることも可能となる。
本実施形態においては、縦梁20の長手方向の端部に設けた係合手段(係合凸部23,係合凹部24)によって、隣接するまくらぎ構造体1,1間に横ズレが発生し難くなるので、軌きょうの安定性がより一層向上することになる。
本実施形態においては、脱線防止ガードを設置する際に利用するインサート12a,21a,22aが横梁10や縦梁20に埋設されているので、脱線防止ガードの取付作業が容易になる。なお、インサート12a,21a,22aを後付けする場合には、その挿入孔を穿設する際に鉄筋やPC鋼材を切断・損傷する虞があるので、慎重かつ精度の高い作業が要求され、その結果、脱線防止ガードの取付作業が長期化する虞があるが、インサート12a,21a,22aを予め埋設しておけば、かかる心配が不要となるので、脱線防止ガードの取付作業を簡易迅速に行うことが可能になる。
本実施形態においては、横梁フランジ10aおよび縦梁フランジ20aを無筋としているので、まくらぎ構造体1の軽量化を図るとともに、製造工程の簡素化を図ることが可能となる。
また、まくらぎ構造体1を超高強度繊維補強コンクリート製とすると、通常のコンクリートに比べてひび割れ耐力、破壊耐力、付着強度などが向上するので、スターラップ、スパイラル筋、インサート12a,21a,22aの定着筋などを省略あるいは削減することが可能となり、従来不可能であった合理的なまくらぎ断面形状を造ることができる。また、その結果、配筋作業を簡略化とまくらぎ構造体の軽量化を図ることが可能となる。なお、超高強度繊維補強コンクリートでまくらぎ構造体1を形成すると、その重量を普通コンクリートで形成した場合の60%以下に抑えることが可能となる。
また、まくらぎ構造体1を超高強度繊維補強コンクリート製とすると、支圧強度も向上するので、横梁10に設けた定着板13bの面積を小さくすることが可能となり、ひいては、横梁10の小断面化を図ることが可能となる。
特に、本実施形態では、超高強度繊維補強コンクリートの硬化体の圧縮強度を150(N/mm2)以上とし、割裂引張強度を5(N/mm2)以上とし、曲げ強度を15(N/mm2)以上としたので、従来のコンクリートでは不可能であった15(N/mm2)以上の圧縮応力(有効プレストレス)を横梁10に導入することが可能となり、ひいては、横梁10の小断面化を図ることが可能となる。
加えて、本実施形態では、超高強度繊維補強コンクリートの硬化体の500年中性化深さの推定値を5(mm)以下とし、塩化物イオン拡散係数を0.01(cm2/年)以下としたので、従来50年程度であった耐用年数を100年以上にすることが可能となり、また、PC鋼材や主筋等のかぶりを20(mm)以下に設定することが可能となる。まくらぎ構造体1の耐用年数が100年以上になると、まくらぎ構造体1の更新周期が長期化するので、ライフサイクルコストを低減し、環境負荷を少なくすることが可能となり、また、PC鋼材や主筋等のかぶりが小さくなると、横梁10や縦梁20の小断面化を図ることが可能となる。
なお、前記したまくらぎ構造体1の構成は、適宜変更しても差し支えない。例えば、前記した実施形態では、横梁フランジ10aおよび縦梁フランジ20aの断面形状が先細りの台形状を呈している場合を例示したが、これに限定されることはなく、図示は省略するが、断面長方形を呈するものであっても差し支えない。また、前記した実施形態では、横梁フランジ10aの上面および縦梁フランジ20aの上面が平面状を呈している場合を例示したが、これに限定されることはなく、例えば、図6に示す横梁フランジ10a’および縦梁フランジ20a’のように、その上面が凹曲面状を呈しているものであっても差し支えない。
また、前記した実施形態では、横梁10の短手方向の両側に横梁フランジ10a,10aを設けた場合を例示したが、これに限定されることはなく、図示は省略するが、横梁10の片側のみに横梁フランジ10aを設けても差し支えない。縦梁フランジ20aについても同様である。
前記した実施形態では、縦梁20の端部に設けた係合手段が、横ズレ不能に係合する縦向きの係合凸部23と係合凹部24である場合を例示したが、これに限定されることはなく、図7の(a)に示すように、縦ズレ不能に係合する係合凸部25と係合凹部26であっても差し支えない。すなわち、縦梁20の桁高方向の中央部において横向きに形成した半円柱状の係合凸部25と係合凹部26を係合手段としても差し支えない。このようにすると、隣接するまくらぎ構造体1,1間に縦ズレが発生し難くなるので、軌きょうの安定性がより一層向上することになる。
また、図7の(b)に示すように、横ズレ不能且つ縦ズレ不能に係合する係合凸部27と係合凹部28を係合手段としても差し支えない。すなわち、縦梁20の中央部に形成した半球状の係合凸部27と係合凹部28を係合手段としても差し支えない。このようにすると、隣接するまくらぎ構造体1,1間に横ズレも縦ズレも発生し難くなるので、軌きょうの安定性がより一層向上することになる。
また、前記した実施形態では、二本の横梁10,10を備えるまくらぎ構造体1を例示したが、これに限定されることはなく、図8の(a)に示すように、一本の横梁10を備えるまくらぎ構造体2であっても差し支えない。なお、横梁10と交差する縦梁220は、横梁10,10から片持ち梁状に突出する突出部222,222を具備し、突出部222の下部には、その側方に張り出す縦梁フランジ220a,220aが形成されている。このようなまくらぎ構造体2をバラスト道床の上部に埋設しても、縦梁220によってまくらぎ構造体の横ズレが抑制され、さらに、縦梁フランジ220a上に敷き詰められたバラストによって、縦梁220が押さえ込まれることになるので、安定性の高い軌きょうを得ることが可能となる。なお、図8の(b)に示すように、三本以上の横梁10を備えるまくらぎ構造体3であっても勿論差し支えない。
なお、鉛直方向の荷重分散と軌きょう横抵抗力向上とはその設計思想が異なるため、軌きょう横抵抗力向上を主目的とする場合には、縦梁20をレールRの直下に位置させなくともよい。すなわち、前記した実施形態では、縦梁20がレールRの直下に位置する場合を例示したが、これに限定されることはなく、図9の(a)および(b)に示すまくらぎ構造体4のように、縦梁420がレールRの真下に位置しないものであっても差し支えない。まくらぎ構造体4も、間隔をあけて平行に配置された前後二本の横梁10,10と、この横梁10,10と交差する左右二本の縦梁420,420とを備えて構成されているが、縦梁420が横梁10,10の端部を繋ぐように配置されている。なお、縦梁420は、断面矩形を呈しており、縦梁フランジを具備していないが、まくらぎ構造体4をバラスト道床の上部に埋設すれば、縦梁420によってまくらぎ構造体4の横ズレが抑制されることになるので、安定性の高い軌きょうを得ることが可能となる。
また、前記した実施形態では、横梁フランジ10aを横梁10の長手方向に沿って連続して形成した場合を例示したが、これに限定されることはなく、図10の(a)および(b)に示すまくらぎ構造体5のように、横梁510の一部に横梁フランジ510aを形成してもよい。なお、まくらぎ構造体5においては、縦梁フランジ520aを縦梁520の長手方向に沿って連続して形成しているが、縦梁520の一部に縦梁フランジ520aを形成しても差し支えない。
横梁510は、レールRを支持する一対の支持部511,511と、一対の支持部511,511を繋ぐ連結部512と、支持部511,511から連結部512と反対方向に向かって方持ち梁状に延出する延出部513,513とを備えて構成されており、横梁フランジ510aは、支持部511の下部のみに形成されている。
なお、図10の(a)に示すように、支持部511は、連結部512よりも幅広に形成されている。すなわち、連結部512が、支持部511よりも細くなっている。このようにすると、まくらぎ構造体5のより一層の軽量化を図ることが可能になる。また、支持部511,511と連結部512とで横梁510の側面に凹凸が形成されることになるので、まくらぎ構造体5をバラスト道床の上部に埋設したときに、まくらぎ構造体5の横ズレ(レールRと交差する方向への変位)を抑制することが可能となる。
また、前記した実施形態では、横梁10および縦梁20の断面形状が逆T字状を呈する場合を例示したが、これに限定されることはなく、図11の(a)〜(c)に示すまくらぎ構造体6のように、横梁610および縦梁620の断面形状がI字状を呈するものであっても差し支えない。
図11の(c)を参照してより詳細に説明すると、横梁610は、ウェブ610cと、ウェブ610cの下部の両側に形成された第一の横梁フランジ610a,610aと、ウェブ610cの上部の両側に形成された第二の横梁フランジ610b,610bとを備えて構成されていて、ウェブ610cの上部と下部にPC鋼材14が配置されている。なお、ウェブ610cは、桁高方向の中央部の幅が狭められた中細りの形状を呈しており、ウェブ610cの側面は、凹面(円筒面)状を呈している。
また、ウェブ610cは、図11の(a)に示すように、縦梁620との交差部分に向かうに従って幅広になり、横梁610と縦梁620の交差部分において平面視略ひし形の支持部611を形成している。すなわち、横梁610は、レールRを支持する一対の支持部611,611と、一対の支持部611,611を繋ぐ連結部612とを備えているが、支持部611が連結部612よりも幅広になっている。
縦梁620は、図11の(b)に示すように、レールRの真下に位置するウェブ620cと、ウェブ620cの下部の両側に形成された第一の縦梁フランジ620a,620aと、ウェブ620cの上部の両側に形成された第二の縦梁フランジ620b,620bとを備えて構成されていて、ウェブ620cの上部と下部に主筋(図示略)が配置されている。なお、ウェブ620cも、桁高方向の中央部の幅が狭められた中細りの形状を呈しており、ウェブ620cの側面は、凹面(円筒面)状を呈している。また、図11の(a)に示すように、ウェブ620cも、横梁610との交差部分に向かうに従って幅広になる。
このようにすると、横梁610および縦梁620の断面積が小さくなるので、まくらぎ構造体6の軽量化を図ることが可能となる。
また、まくらぎ構造体6においては、横梁610の支持部611を連結部612よりも幅広にしているので、まくらぎ構造体6のより一層の軽量化を図ることが可能になる。
前記した実施形態においては、プレストレスの導入方法がポストテンション方式である場合を例示したが、プレテンション方式であっても勿論差し支えない。
プレストレスをプレテンション方式により導入する場合でも、従来より使用されているPC鋼材(PC鋼棒やPC鋼より線など)を使用することができるが、全長に亘ってネジ加工やインデント加工(凹凸加工)が施されているPC鋼材(PC鋼棒やPC鋼より線など)を使用すれば、付着強度が高まるため必要定着長が短くなり好適である。
まくらぎ構造体を超高強度繊維補強コンクリート製とする場合には、公称径が9mm以上の太径のPC鋼材を使用することが望ましい。太径のPC鋼材を使用すれば、従来では不可能であった高いプレストレス(15N/mm2以上)を導入することが可能となるので、ひび割れ耐力と破壊耐力を低下させずに、横梁や縦梁の小断面化を図ることが可能となり、ひいては、まくらぎ構造体の軽量化を図ることが可能となる。
なお、参考までに、PC鋼材の付着強度の測定結果を表1に示す。表2に示すように、公称径16(mm)の異径鉄筋を試験対象とする場合、普通コンクリート(補強繊維のないコンクリート)の圧縮強度を41.3(N/mm2)とした場合(No.1)の付着強度を「1」とすると、超高強度繊維補強コンクリートの圧縮強度を200(N/mm2)とした場合(No.2)の付着強度は「4.1」となる。つまり、プレテンション方式の場合は、PC鋼材が同じであれば、超高強度繊維補強コンクリートを用いる場合の方が普通コンクリートを用いる場合よりも大きなプレストレスを導入することができる。また、まくらぎに埋設されている埋込栓、脱線防止インサートなどの定着耐力は数倍向上する。
また、No.1の付着強度を「1」とすると、ネジ加工を施した公称径13(mm)のPC鋼棒を用い、超高強度繊維補強コンクリートの圧縮強度を200(N/mm2)とした場合(No.4)の付着強度は「3.0」となり、インデント加工を施した公称径7.0(mm)のPC鋼線を用い、超高強度繊維補強コンクリートの圧縮強度を200N/mm2とした場合(No.5)の付着強度は「1.4」となる。つまり、プレテンション方式の場合には、PC鋼材にネジ加工やインデント加工を施すと、大きなプレストレスを導入することができる。