JP3986299B2 - レーザー加工用プラスチック材料及び該材料が加工されたプラスチック光学素子 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、プラスチック材料の高機能化・高性能化のためのレーザーによる加工に関する技術分野に属しており、さらにはプラスチックに超短パルスのレーザーを照射して屈折率を変化させる加工を行う目的に適したレーザー加工用プラスチック材料、及び該プラスチック材料に超短パルスレーザーを照射して得られるプラスチック光学素子に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、プラスチック構造体(部品)の表面や内部を高機能化する要求が高まってきている。このような高機能化の要求に対して、プラスチック構造体自身をポリマーアロイ化又は複合化する材料面での技術対応と、要求に合わせて機能部位を組み込んだり、構造の制御を行ったりする加工面での技術対応との2つの面での取り組みが行われている。例えば、プラスチック構造体の内部(バルク)の高機能化・高性能化では、電気や光の伝導性、光の透過性又は遮断性、水分やガスの透過性又は遮断性、熱・光・応力等の外部刺激に対する応答性又は記憶性などの様々な特性の要求に対応して、材料・加工面の両面から種々の技術的な取り組みがなされている。具体的には、プラスチック構造体の内部に、元のプラスチック内部の構造と異なった構造部位を形成する方法(技術)として、熱を加えることにより相分離(組成変化)、再結晶化(密度や結晶化度の変化)や熱反応を生じさせる方法、圧力や応力を加えることにより分子配向(配向度、光学的・機械的異方性)を促進したり電気的・光学的変化を促進したりする方法、光を照射することにより光反応(電気的化学結合反応)・光架橋(架橋や硬化)・光分解(結合の開裂)などを生じさせる方法が検討されてきている。このような方法(技術)の中で、熱や圧力などは、プラスチック構造体全体に作用させる場合が多く、プラスチック構造体内部における任意の場所(部位)に限定して作用させ、元のプラスチック構造体内部と異なる構造を形成するのは不向きである。一方、光は、本質的に、プラスチック構造体内部の任意の場所への作用させることに適した手段であり、より微細な構造制御による高機能化・高性能化の技術のトレンドに貢献できる可能性がある。
【0003】
一方、レーザー光源に対する技術進歩は著しく、特に、パルスレーザーでは、ナノ秒(10-9秒)のオーダーのパルス幅から、ピコ秒(10-12秒)のオーダーのパルス幅へと超短パルス化が進んでおり、更に最近では、チタン・サファイア結晶などをレーザー媒質とするフェムト秒(10-15秒)のオーダーのパルス幅を有するパルスレーザーなども開発されてきている。パルス幅が10-12秒以下である(例えば、パルス幅がフェムト秒のオーダーである)超短パルスレーザー又はそのシステムは、通常のレーザーが持つ、指向性、空間的・時間的なコヒーレントなどの特徴を有するとともに、パルス幅が極めて狭いことから、同じ平均出力であっても、単位時間・単位空間当たりの電場強度が極めて高いという特徴を有している。そのため、この高い電場強度を利用して、超短パルスレーザーを物質中に照射して新たな構造(誘起構造)を形成させる試みが、無機ガラス材料を主な対象物として行われてきている。
【0004】
また、高分子材料であるアモルファス・プラスチック等は、無機ガラス材料と比較して、ガラス転移温度が低い。これは、無機ガラス材料が共有結合で三次元的に結合してアモルファス構造が形成されているのに対して、高分子材料は、一次元的に共有結合で繋がった高分子鎖が三次元的に絡み合ってアモルファス構造が形成されていることを反映した結果である。従って、無機ガラス材料に対しては、大きな照射エネルギーで照射しないと、誘起構造が形成されないが、高分子材料では、高いエネルギーの照射は材料の劣化を引き起こす虞があるので、高いエネルギーの照射は回避する必要がある。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、高分子材料は、熱伝導性が低いという特徴を有している。従って、高分子材料は熱伝導性が低いので、蓄熱し易い傾向がある。すなわち、高分子材料は熱運動が無機ガラス材料に比べて容易に起こり、運動や反応に必要な熱量が少なくて済むので、無機ガラス材料に比べて、比較的低い照射エネルギーでも誘起構造が形成される可能性がある。しかし、高分子材料であるプラスチック構造体に関して、パルス幅が10-12秒以下である(例えば、パルス幅がフェムト秒のオーダーである)超短パルスレーザーの照射による誘起構造形成の検討は、現在まで、無機ガラス材料ほどには行われていなかった。そのため、どのような高分子材料が、パルス幅が10-12秒以下のレーザーを外部から照射することにより加工して、誘起構造を容易に形成することができるかが調べられておらず、レーザー加工用プラスチック材料として有用なものが求められている。
【0006】
従って、本発明の目的は、パルス幅が10-12秒以下の超短パルスレーザーの照射により、劣化を生じさせずに、精密に制御して、屈折率が大きく変調した屈折率変調部を有する光学素子を作製するための加工に適したプラスチック材料、および該プラスチック材料に超短パルスレーザーを照射して得られるプラスチック光学素子を提供することにある。
本発明の他の目的は、さらに、パルス幅が10-12秒以下の超短パルスレーザーの照射により、屈折率が変調した屈折率変調部と、屈折率が変調していない屈折率未変調部との屈折率差がより一層大きいプラスチック光学素子であっても、優れた作業性で容易に作製するための加工に適したプラスチック材料、および該プラスチック材料に超短パルスレーザーを照射して得られるプラスチック光学素子を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の目的を達成するため鋭意検討した結果、ポリシラン系ポリマーを含有するプラスチック材料に対して、パルス幅が10-12秒以下の超短パルスレーザー(以下、単に「超短パルスレーザー」と称する場合がある)の照射を行うと、レーザー加工が円滑に行われるとともに、クラックなどの劣化が生じておらず、しかも精密に屈折率変調部が制御され、さらに該屈折率変調部は屈折率未変調部に対して屈折率差が大きいプラスチック材料の加工品を得ることができることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、パルス幅が10-12秒以下のレーザーを外部から照射することにより、屈折率が変調する屈折率変調部形成加工用プラスチック材料であって、ポリシラン系ポリマーとともに、2つ以上のガラス転移温度を有するポリマーが混合されていることを特徴とする屈折率変調部形成加工用プラスチック材料である。また、ポリシラン系ポリマーの含有割合は、ポリマー成分全量に対して10重量%以上90重量%以下となる割合であることが好ましい。
【0009】
ポリシラン系ポリマーは、下記式(1)で表される構造単位を有していてもよい。
【化2】
Figure 0003986299
(式(1)において、R1、R2は、同一又は異なって、水素原子、ヒドロキシル基、アルコキシ基、炭化水素基、ハロゲン原子、ポリシラン骨格を示す。)
【0010】
本発明には、屈折率変調部形成加工用プラスチック材料に、パルス幅が10-12秒以下のレーザーを外部から照射して屈折率を変調させることにより得られる、屈折率が変調した屈折率変調部を有するプラスチック光学素子も含まれる。該プラスチック光学素子において、屈折率が変調した屈折率変調部の屈折率と、屈折率が変調していない屈折率未変調部の屈折率との屈折率差が、0.0005以上であってもよい。さらに、本発明は、ポリシラン系ポリマーとともに、2つ以上のガラス転移温度を有するポリマーが混合されている屈折率変調部形成加工用プラスチック材料に、パルス幅が10-12秒以下のレーザーを外部から照射することにより、屈折率が変調した屈折率変調部を有するプラスチック光学素子を得るプラスチック光学素子の製造方法を提供する。
【0011】
【発明の実施の態様】
以下に、本発明を必要に応じて図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、同一の部材については、同一の符号を付している場合がある。
[プラスチック材料]
本発明の屈折率変調部形成加工用プラスチック材料(以下、単に、「レーザー加工用プラスチック材料」と称する場合がある)は、ポリシラン系ポリマーとともに、他のポリマー(以下、「併用ポリマー」と称する場合がある)を含有している。プラスチック材料は、少なくともポリシラン系ポリマー及び2つ以上のガラス転移温度を有するポリマーを含有していればよく、ポリシラン系ポリマーの含有割合は、例えば、ポリマー成分全量に対して10重量%以上(好ましくは15重量%以上、さらに好ましくは20重量%以上)の範囲から選択することができる。ポリシラン系ポリマーの含有割合が少ないと(例えば、10重量%未満であると)、パルス幅が10-12秒以下の超短パルスレーザーの照射により形成された屈折率変調部を精密に制御することが困難になり、屈折率変調部と屈折率未変調部との屈折率差が小さくなる。
【0012】
なお、ポリシラン系ポリマーの含有割合の上限は、例えば、ポリマー成分全量に対して90重量%以下(好ましくは85重量%以下、さらに好ましくは80重量%以下)の範囲から選択することもできる。ポリシラン系ポリマーの含有割合が多いと(例えば、90重量%を越えると)、プラスチック材料が脆くなり、パルス幅が10-12秒以下の超短パルスレーザーによる加工時のハンドリング性が低下し、また、プラスチック材料をフィルム状に加工することができなくなる場合がある。
【0013】
なお、本発明のプラスチック材料は、可視光波長領域(例えば、400nm〜800nm)において全光線透過率が10%以上である透明性が高いものを好適に用いることができる。このように、10%以上の光透過性を有していると、パルス幅が10-12秒以下であり且つ波長が可視光波長領域にある超短パルスレーザーの照射により、レーザー加工が容易に出来るようになる。
【0014】
(ポリシラン系ポリマー)
ポリシラン系ポリマーは、ケイ素−ケイ素結合を有する主鎖から構成されているポリマーである。主鎖のケイ素原子に置換している置換基としては、特に制限されず、例えば、水素原子、有機基、ハロゲン原子などが挙げられる。ポリシラン系ポリマーは単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0015】
より具体的には、ポリシラン系ポリマーとしては、例えば、前記式(1)で表される構造単位を有するポリマーを用いることができる。前記式(1)において、R1、R2は、同一又は異なっていてもよい。R1又はR2のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブチルオキシ基、イソブチルオキシ基、s−ブチルオキシ基、t−ブチルオキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基、デシルオキシ基、ドデシルオキシ基などの炭素数が1〜20程度のアルコキシ基が挙げられる。
【0016】
炭化水素基としては、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基などが挙げられる。アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基などの炭素数1〜20程度のアルキル基が挙げられる。シクロアルキル基には、シクロヘキシル基などの炭素数5〜10程度のシクロアルキル基が含まれる。また、アリール基としては、フェニル基、ナフチル基や、ビフェニル基、クメニル基、メシチル基、トリル基、キシリル基などが挙げられる。炭化水素基は、例えば、ヒドロキシル基、アルコキシ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アシル基、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、ハロゲン原子、炭化水素基などの置換基を有していてもよい。
【0017】
ハロゲン原子には、フッ素、塩素、臭素原子が含まれる。
【0018】
ポリシラン骨格は、前記式(1)で表される構造単位を有するポリシランの骨格を示している。
【0019】
ポリシラン系ポリマーは、ホモポリマーであってもよく、コポリマーであってもよい。なお、ポリシラン系ポリマーがコポリマーの場合、ポリシラン系ポリマーとしては、例えば、前記式(1)で表される複数種(2種以上)の構造単位を有するコポリマーが挙げられる。コポリマーは、ランダム共重合体又はブロック共重合体のいずれであってもよい。
【0020】
ポリシラン系ポリマーとしては、例えば、ポリシラン;ポリ(ジメチルシラン)、ポリ(メチルエチルシラン)、ポリ(メチルプロピルシラン)、ポリ(メチルブチルシラン)、ポリ(メチルヘキシルシラン)、ポリ(ジヘキシルシラン)、ポリ(ジドデシルシラン)等のポリ(アルキルアルキルシラン);ポリ(メチルシクロヘキシルシラン)等のポリ(アルキルシクロアルキルシラン);ポリ(メチルフェニルシラン)等のポリ(アルキルアリールシラン);ポリ(ジフェニルシラン)等のポリ(アリールアリールシラン);ポリ(ジメチルシラン−メチルシクロヘキシルシラン)、ポリ(ジメチルシラン−メチルフェニルシラン)などのコポリマーなどが挙げられる。
【0021】
ポリシラン系ポリマーの分子量(重量平均分子量など)は特に制限されない。ポリシラン系ポリマーの分子量(重量平均分子量など)は、目的とするプラスチック光学素子に応じて適宜選択することができ、例えば、1,000〜50,000程度の範囲から選択することができる。
【0022】
このようなポリシラン系ポリマーに対して、パルス幅が10-12秒以下の超短パルスレーザーを照射すると、シロキサン結合やシラノール基(Si−OH)が生成されて、屈折率が大きく低下し、屈折率が変調された屈折率変調部を形成することができる。
【0023】
(併用ポリマー)
前記併用ポリマーとしては、特に制限されないが、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂など種々の樹脂を用いることができる。併用ポリマーを用いることにより、プラスチック材料の機械的特性などを適宜調整することができる。また、該併用ポリマーが、屈折率変調部における屈折率の変調に寄与していてもよい。このような併用ポリマーとしては、2つ以上のガラス転移温度(ガラス転移点)を有するポリマーを好適に用いることができる。併用ポリマーは単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0024】
2つ以上のガラス転移温度を有する併用ポリマーには、熱的な運動性が異なったお互いに相溶性のない2つ以上の成分を含んで構成された材料系が含まれる。このような材料系としては、2つ以上の異種材料のブレンド物(例えば、2種以上のホモポリマー及び/又はランダム共重合体のブレンド物、2種以上のブロック共重合体のブレンド物など)、2つ以上の異種成分から構成されたブロック共重合体などが挙げられる。該材料系は、単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0025】
これらの材料系の中で、異種材料のブレンド物はブレンドする各成分の成分比を変えることや分散加工条件を変えることにより、その構造形態として、ドメイン状、シリンダー状、層状、共連続状などの様々な非相溶な形態を作り出す事が出来る。一方、ブロック共重合体並びにそれらのブレンド物(2種以上のブロック共重合体のブレンド物)は、ブロック的に結合された高分子鎖の非相溶性が系全体の非相溶性を担っているので、その構造形態としては前記例示の非相溶な形態が挙げられ、該非相溶な形態としては、ブレンド物よりもより一層微細なものにすることが出来る。
【0026】
また、2つ以上のブロックからなるブロック共重合体高分子鎖におけるミクロ相分離により、2つ以上のガラス転移温度が発現されている場合には、通常の異種成分のブレンド系に比べて形成されるミクロドメイン構造等を、サブミクロン以下の大きさにまで小さく出来るので、透明性に優れたフィルムを作製することが出来る。すなわち、このようなミクロ相分離を生ずるようなブロック共重合体に対して、超短パルスレーザーの照射による加工を行うと、サブミクロン以下という極めて小さなミクロドメイン構造又は誘起構造を形成することができる。このような形態を有しているプラスチック構造体は、照射により部分的に形成されたミクロドメイン構造が極めて小さいので、光学材料等に応用することが可能である。従って、併用ポリマーとしては、ブロック共重合体高分子鎖のミクロ相分離により、2つ以上のガラス転移温度を発現することができるポリマーを好適に用いることができる。
【0027】
これらの併用ポリマーを含むプラスチック材料に超短パルスレーザーの照射を行うと、レーザーの照射部において、併用ポリマーにより、一旦ミクロドメイン熱溶融が起こり、照射の終了や照射部の移動により、再度相分離構造が形成されて、すなわち、構造が変化して屈折率が変調された屈折率変調部と、構造が変化しておらず屈折率が変調されていない屈折率未変調部とによる相分離構造が形成されることになる。この相分離構造の再生時に架橋(硬化)反応などが並列的に起こると、相分離が一層促進され、出来上がった相分離構造は、元の相分離構造よりもドメイン構造などの寸法や形態が大きくなる場合がある。また、相分離形態のプラスチック構造体(前述のようにして形成されたドメインなどの相分離構造物)が、特定の成分を選択的に含んだり、架橋(硬化)や光異性化などを起こしたりすることにより、元の成分とは異なるように化学的変化を起こすことが可能な場合には、より一層効果的に屈折率が変調された屈折率変調部を安定的に形成することができる。
【0028】
超短パルスレーザーの照射により相分離を起こすことができ、且つ2つ以上のガラス転移温度を有する併用ポリマーとしては、各種の高分子材料を組み合わせて用いることができる。このような高分子材料の組み合わせは数多くあり、むしろ異種成分高分子材料の組み合わせで相分離を起こさずに相溶して単一のガラス転移温度を示す組み合わせの方が少ないといえる。従って、本発明では、このような数多くある組み合わせを利用することができ、極めて実用性が高い。なお、高分子材料の相溶性やガラス転移温度などの各種特性は、例えば、ポリマーハンドブックなどに記載されている。
【0029】
具体的には、超短パルスレーザーの照射により相分離を起こすことができるとともに、2つ以上のガラス転移温度を発現する高分子材料の組み合わせの中で、例えば、低温側のガラス転移温度が常温(例えば、20〜25℃、特に23℃)以下で光学的に透明性を有するアモルファスな成分としては、例えば、ポリイソプレンやポリブタジエンなどのポリジエン類;ポリイソブチレンなどのポリアルケン類;ポリアクリル酸ブチル、ポリアクリル酸エチルなどのポリアクリル酸エステル類;ポリブトオキシメチレンなどのポリビニルエステル類;ポリウレタン類;ポリシロキサン類;ポリサルファイド類;ポリフォスファゼン類;ポリトリアジン類;ポリカーボラン類などが挙げられる。なお、これらのうちポリジエン類、ポリアルケン類、ポリアクリル酸エステル類、ポロシロキサン類などは、ガラス転移温度が低いことを利用して粘着剤の構成成分として幅広く使用されている。
【0030】
また、高温側にガラス転移温度を有し光学的に透明性の高い材料としては、ポリカーボネート(PC);ポリメチルメタクリレート(PMMA)などのメタクリレート系樹脂;ポリエチレンテレフタレート(PET)などのポリエステル系樹脂;ポリエーテルスルホン(PES);ポリノルボルネン;エポキシ系樹脂;ポリアリール;ポリイミド;ポリアミド;ポリスチレン;ポリアリーレンエーテル;ポリアリレートなどが挙げられる。
【0031】
2つ以上のブロックからなるブロック共重合体の高分子鎖のミクロ相分離により、2つ以上のガラス転移温度を有するブロック共重合体は、上記の低温側にガラス転移温度を発現する成分と、高温側にガラス転移温度を発現する成分とを適当に組み合わせて、ブロック共重合体となるように重合(共重合)して、共重合化すれば良い。重合方法(共重合方法)としては、特に制限されず、例えば、リビングアニオン重合法、リビングカチオン重合法、リビングラジカル重合法などの公知のリビング重合法を採用することができる。
【0032】
なお、このような併用ポリマーのガラス転移温度は、2つ以上であれば、2つであってもよく、3つ以上であってもよい。併用ポリマーとしては、2つのガラス転移温度を有するポリマーが好適であり、特に、2つのガラス転移温度を有するブロック共重合体からなるポリマーが好ましい。
【0033】
併用ポリマーの分子量(重量平均分子量など)は特に制限されない。併用ポリマーの分子量(重量平均分子量など)は、目的とするプラスチック光学素子に応じて適宜選択することができ、例えば、10,000〜500,000程度の範囲から選択することができる。
【0034】
なお、本発明のプラスチック材料は、ポリシラン系ポリマーを少なくとも含有していれば、無機化合物や金属化合物などの他の材料を分散状態で含んだ複合体や他の材料を層状の状態で含んだ積層体であってもよい。また、架橋剤を含有していてもよい。
【0035】
パルス幅が10-12秒以下の超短パルスレーザーの照射により、プラスチック材料を加工する方法において、超短パルスレーザーが照射された照射部やその近辺部は、プラズマ発生など化学的・物理的作用を受けながら、局部的に高温状態となり、その後、レーザーの照射の終了や、照射されている部位の移動に伴い、温度が低下して、通常は常温に戻される。例えば、プラスチック材料中のポリシラン系ポリマーは、レーザーの照射により、シロキサン結合やシラノール基(Si−OH)を生成して、屈折率を大きく低下させて、屈折率が変調される。また、例えば、併用ポリマーとして2つのガラス転移温度を有し且つ低温側のガラス転移温度が常温付近又は常温以下であるポリマーを含んでいる場合、レーザーの照射開始後の高温状態から照射終了後の常温状態にかけて温度が低下する過程において、高温側のガラス転移温度を示す成分から順に固化され、該照射部及びその近辺部の構造が、照射される前の構造に対して変化して、屈折率が変調される。この併用ポリマーによる屈折率の変調度合いは、ポリシラン系ポリマーによる屈折率の変調度合いよりも小さいが、適宜選択された併用ポリマーを、ポリシラン系ポリマーと併用することにより、脆い材料であるポリシラン系ポリマーのハンドリング性を併用ポリマーで補うことができる。すなわち、ポリシラン系ポリマーにより変調度合いが大きい屈折率変調部を形成し、併用ポリマーによりプラスチック材料のハンドリング性や機械的特性(例えば、硬さ又は脆さ、強度、伸度、粘弾性など)を良好に調整することができる。例えば、ポリシラン系ポリマーのみからなるプラスチック材料では、フィルム状に加工することが困難な場合であっても、ポリシラン系ポリマー及び併用ポリマーを含有するプラスチック材料を用いることにより、プラスチック材料のハンドリング性を高めることができ、フィルム状に容易に加工することができるようになり、しかも、屈折率の変調度合いが大きい屈折率変調部を超短パルスレーザーの照射により形成することができる。
【0036】
従って、本発明では、ポリシラン系ポリマーを含有するプラスチック材料(特に、ポリシラン系ポリマー及び併用ポリマーを含有するプラスチック材料)に超短パルスレーザーを照射することにより、精密に制御され且つ屈折率の変調度合いが大きい屈折率変調部を有しているプラスチック光学素子を容易に優れた作業性で、得ることができる。前記屈折率変調部は、屈折率が変調されていない屈折率未変調部の屈折率に対して、0.0005以上異なる(すなわち、前記各部の屈折率の差が0.0005以上である)屈折率を有していれば、光導波路などの光学的な機能材料(すなわち、プラスチック光学素子)として、使用出来る可能性がある。従って、屈折率変調部と、屈折率未変調部の屈折率との差としては、0.0005以上(好ましくは0.0008以上、さらに好ましくは0.001以上)であることが望ましい。また、前記屈折率差は、0.005以上(特に0.01以上)であると、光学的な機能材料としてより一層有効に使用できる。
【0037】
(超短パルスレーザー)
超短パルスレーザーは、そのパルス幅が10-12秒以下である。超短パルスレーザーとしては、パルス幅が10-12秒以下であれば特に制限されず、パルス幅が10-15秒のオーダーのパルスレーザーを好適に用いることができる。パルス幅が10-15秒のオーダーであるパルスレーザーには、パルス幅が1×10-15秒〜1×10-12秒であるパルスレーザーが含まれる。より具体的には、超短パルスレーザーとしては、パルス幅が10×10-15秒〜500×10-15秒(好ましくは50×10-15秒〜300×10-15秒)程度であるパルスレーザーが好適である。
【0038】
パルス幅が10-12秒以下である超短パルスレーザーは、例えば、チタン・サファイア結晶を媒質とするレーザーや色素レーザーを再生・増幅して得ることができる。
【0039】
超短パルスレーザーにおいて、その波長としては、例えば、可視光の波長領域(例えば、400〜800nm)であることが好ましい。また、超短パルスレーザーにおいて、その繰り返しとしては、例えば、1Hz〜80MHzの範囲から選択することができ、通常、10Hz〜500kHz程度である。
【0040】
なお、超短パルスレーザーの平均出力又は照射エネルギーとしては、特に制限されず、目的とする変化部の大きさや変化の種類又は該変化の程度等に応じて適宜選択することができ、例えば、500mW以下(例えば、1〜500mW)、好ましくは5〜300mW、さらに好ましくは10〜100mW程度の範囲から選択することができる。このように、本発明では、超短パルスレーザーの照射エネルギーは低くてもよい。
【0041】
また、超短パルスレーザーの照射スポット径としては、特に制限されず、目的とする変化部の大きさやその変化の種類又は該変化の程度、レンズの大きさや開口数又は倍率などに応じて適宜選択することができ、例えば、0.1〜10μm程度の範囲から選択することができる。
【0042】
(プラスチック光学素子)
本発明のプラスチック光学素子は、前記プラスチック材料に、パルス幅が10-12秒以下の超短パルスレーザーを外部から照射することにより、プラスチック材料の表面又は内部に屈折率が変調(変化)した屈折率変調部を形成して作製される。図1は本発明のプラスチック光学素子の一例を示す概略鳥瞰図である。図1において、1はプラスチック光学素子(以下、単に「光学素子」と称する場合がある)、2は屈折率変調部、3は屈折率未変調部である。光学素子1は屈折率変調部2と、屈折率未変調部3とを有している。屈折率変調部2は、屈折率(n)を有するプラスチック材料の内部における特定の部位に、パルス幅が10-12秒以下の超短パルスレーザーの焦点を合わせて照射することにより、屈折率が変調した部位である。従って、屈折率変調部2は、超短パルスレーザーが照射された(レーザーの焦点が合わせられた)レーザー照射部であり、超短パルスレーザー照射前のプラスチック材料の屈折率(n)と異なる屈折率(n´)を有している。一方、屈折率未変調部3は、超短パルスレーザーが照射されていない(レーザーの焦点が合わせられていない)レーザー未照射部であり、超短パルスレーザー照射前のプラスチック材料の屈折率(n)と同じ屈折率(n)を有している。
【0043】
図1では、光学素子1および屈折率変調部2は、説明を容易にするために、両者とも直方体として表現しているが、それぞれ、如何なる形状のものであってもよく、またその大きさも特に制限されない。
【0044】
また、1つのプラスチック光学素子において、屈折率変調部の数は、特に制限されず、図1で示されているように単数であってもよく、複数であってもよい。複数の屈折率変調部が設けられている場合、複数の屈折率変調部の三次元的な配置は特に制限されない。複数形成されている屈折率変調部の位置関係は、例えば、互いに平行な位置関係であってもよく、隣接する屈折率変調部の間隔が一方の側から他方の側にかけて変化している位置関係であってもよく、また、各屈折率変調部が交差する位置関係であってもよい。さらにまた、複数形成された屈折率変調部が格子群を形成しているとともに、該複数の屈折率変調部を有する格子群を複数有し、且つ前記複数の格子群がそれぞれ層状に形成されている位置関係であってもよい。
【0045】
(プラスチック光学素子の作製方法)
本発明の光学素子1は、例えば、図2で示されるように、屈折率(n)を有するプラスチック材料11の内部における特定の部位に、パルス幅が10-12秒以下の超短パルスレーザー4の焦点を合わせてプラスチック材料11の外部から照射することにより、屈折率が変調された屈折率変調部2を形成させて作製することができる。図2は本発明のプラスチック光学素子を作製する一例を示す概略図である。図2において、1、2、3は、それぞれ、図1と同様である。また11はプラスチック材料、1aはプラスチック材料11の上面、4はパルス幅が10-12秒以下である超短パルスレーザー(単に「レーザー」と称する場合がある)、Lはレーザー4の照射方向であり、5はレンズである。
【0046】
レーザー4は、プラスチック材料11に向けて、照射方向Lの向きで、すなわちZ軸と平行な方向で、照射している。なお、レーザー4はレンズ5を用いることにより焦点を絞って合わせることができる。従って、レーザーの焦点を絞って合わせる必要が無い場合等では、レンズを用いる必要はない。
【0047】
また、プラスチック材料11は略直方体であり、その上面1aは、X−Y平面に対して平行、又はZ軸に対して垂直となっている。なお、プラスチック材料11の形状としては、直方体を用いているが、如何なる形状のものであってもよく、またその大きさも特に制限されない。
【0048】
6aはレーザー4の照射をし始めたときの焦点を合わせた最初の位置又はその中心位置(「照射開始位置」と称する場合がある)、6bはレーザー4の照射を終えたときの焦点を合わせた最終の位置又はその中心位置(「照射終了位置」と称する場合がある)であり、6cはレーザー4の照射の焦点又はその中心位置(単に「焦点位置」と称する場合がある)が照射開始位置6aから照射終了位置6bに移動する移動方向である。6はレーザー4の照射の焦点位置又は焦点の中心位置が移動した軌跡(「焦点位置軌跡」と称する場合がある)である。すなわち、図2では、レーザー4の焦点位置を、照射開始位置6aから照射終了位置6bにかけて、焦点位置の移動方向6cの方向で、連続的に直線的に移動させており、該移動した焦点位置の軌跡が焦点位置軌跡6である。該焦点位置軌跡6において、焦点位置が移動した方向6cは、レーザー4の照射方向Lと垂直な方向(図2では、X軸と平行な方向)である。
【0049】
具体的には、プラスチック材料11にレーザー4が照射方向Lの方向で照射されて、レーザー4の焦点位置を、プラスチック材料11の上面1aから一定の深さに保持して、レーザー4の照射方向Lとは垂直な方向である移動方向6cの方向に、照射開始位置6aから照射終了位置6bに移動させている。この際、前記レーザー4の焦点位置軌跡6上の各焦点位置及びその周辺部(近辺部)において、プラスチック材料11の屈折率に変調が生じる。また、レーザー4の照射に際して、その焦点の位置を連続的に移動させているので、プラスチック材料11の屈折率が変調している部位も焦点位置の移動に応じて連続的に移動して、移動方向に延びて変調した部位(「変化部位」と称する場合がある)からなる屈折率変調部2が形成されている。すなわち、図2に示すように、レーザー4の照射方向Lに対して垂直な方向(X軸と平行な方向)に沿って形成された屈折率変調部2が形成されている。従って、屈折率変調部2の長手方向は、移動方向6cの方向である。
【0050】
なお、屈折率未変調部3は、レーザー4の照射による影響を受けておらず、屈折率が変調していない部位(元の状態又は形態を保持している部位)である。
【0051】
このように、本発明では、レーザー4の焦点の位置を移動させることにより、焦点位置の移動方向に連続的に屈折率が変調して形成された屈折率変調部2を形成することができる。この際、レーザー4の移動方向は、特に制限されず、如何なる方向であってもよい。例えば、レーザー4の照射方向Lに対して、垂直な方向、平行な方向(レーザー4の照射方向と同一の方向又は反対の方向)、斜めの方向などが挙げられる。レーザー4の焦点位置は、何れかの方向のみに直線的に移動させることもでき、種々の方向に曲線的に移動させることもできる。また、レーザー4の焦点位置は、連続的又は間欠的に移動させることもできる。
【0052】
レーザー4の焦点位置を移動させる速度(移動速度)は、特に制限されず、プラスチック材料11の材質やレーザー4の照射エネルギーの大きさ等に応じて適宜選択することができる。なお、前記移動速度をコントロールすることにより、屈折率変調部の大きさ等をコントロールすることも可能である。
【0053】
本発明では、屈折率変調部は、超短パルスレーザーの焦点位置又は照射位置を起点にし、照射方向側に屈折率が変調した屈折率変調部位が連続して、焦点位置の移動方向(長手方向)に向かって形成されているような状態又は形態として作製することができる。例えば、焦点位置を照射方向に垂直な方向に移動させた場合、長手方向に対する垂直断面形状が、焦点位置を起点として(すなわち、上端として)、照射方向に延びた又は拡がるような略楕円形状又は略長方形状となり、該長手方向に対する垂直断面形状が焦点の移動方向(長手方向)に連続して形成されたような屈折率変調部を形成することができる。
【0054】
なお、本発明では、レーザーの焦点位置の移動方向を適宜選択することにより、屈折率変調部において、長手方向に対する垂直断面形状や照射方向に対する平行断面形状などの断面形状を様々なものに調整することができる。
【0055】
また、本発明では、屈折率変調部において、屈折率の変調の程度は、均一であってもよく、不均一であってもよい。従って、屈折率変調部は、変調した程度が均一的であるように屈折率が変調しているような構成であってもよく、また、屈折率未変調部側の端部から内部又は焦点位置若しくはその中心に向かって、変調した程度が徐々に連続的に増加するように屈折率が変調しているような構成であってもよい。従って、屈折率変調部と、屈折率未変調部との界面(又は境界)は、明瞭又は不明瞭となっていてもよい。
【0056】
本発明では、屈折率変調部の大きさ、形状、屈折率の変調の程度は、レーザーの照射時間、レーザーの焦点位置の移動方向やその速度、プラスチック構造体の材質の種類、レーザーのパルス幅の大きさや照射エネルギーの大きさ、レーザーの焦点を調整するためのレンズの開口数等により適宜調整することができる。
【0057】
特に本発明では、屈折率変調部(又はその断面)の大きさが、直径又は1辺の長さが1mm以下(好ましくは500μm以下)の極めて小さなものであっても、精密に屈折率変調部を制御して作製することができる。
【0058】
本発明では、プラスチック光学素子は、そのままプラスチック部材として用いてもよく、他の部材と組み合わせて用いてもよい。屈折率変調部を有するプラスチック光学素子は、延伸や収縮などの加工処理を行い、さらに必要に応じて後処理を行うこともできる。すなわち、屈折率変調部を有するプラスチック光学素子には、任意の加工や処理を施すことが可能である。
【0059】
本発明のレーザー加工用プラスチック材料は、超短パルスレーザーの照射による誘起構造形成などの加工に対して、優れた加工性を有している。そのため、本発明のプラスチック光学素子を容易に作製することができる。該プラスチック光学素子は、例えば、拡散板や散乱素子などの光機能部材;精密な空間や流路などの形成用スペーサー機能を利用したマイクロマシーンやセンサー;電気的探針;バイオ機器;マイクロリアクターチップ;埋め込み型人工臓器などの高機能なレーザー加工品の他、回折格子(透過型回折格子など)、光導波路などとして好適に利用することができる。
【0060】
【発明の効果】
本発明のプラスチック材料は、パルス幅が10-12秒以下の超短パルスレーザーの照射により、屈折率が大きく変調した屈折率変調部をプラスチック材料の内部に形成することができる。また、クラック等の劣化を起こさずに、屈折率変調部を精密に制御して形成することができる。特に、ポリシラン系ポリマーとともに他のポリマーを併用することにより、プラスチック材料のハンドリング性や機械的特性を向上させることができ、優れた作業性でプラスチック光学素子を作製することができる。従って、本発明のプラスチック材料は、屈折率の変調度合いが大きい屈折率変調部を有するプラスチック光学素子を作製するためのレーザー加工に適している。
【0061】
【実施例】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。なお、参考例1及び2は、本発明の範囲に含まれないが、参考として記載する。
(実施例1)
重合用容器に、モノマー成分としてアクリル酸ブチル(BA)と、アクリル酸エチル(EA)とを等モル比の割合で入れ、重合開始剤として2−ブロモイソ酪酸エチル(前記モノマー成分全量に対して0.0012モル%)、重合触媒として臭化銅(前記モノマー成分全量に対して0.0012モル%)、助触媒として2、2´−ビピリジン系誘導体(前記モノマー成分全量に対して0.0036モル%)を用いた公知のリビングラジカル重合法により、先ず、重量平均分子量約25,000のアクリル酸ブチル・アクリル酸エチルランダム共重合体[ポリ(BA・EA)ランダム共重合体]を作製した。
引き続いて、前記ポリ(BA・EA)ランダム共重合体を含む反応混合物に、ブロック共重合体を作製するための共重合性モノマー成分としてメチルメタアクリレート(MMA)を追加して、さらにリビングラジカル重合を行うことにより、ポリ(BA・EA)ランダム共重合体に、ブロック的に、重量平均分子量が約58,000のポリメチルメタクリレート(PMMA)を結合させた、PMMA・(ポリ(BA・EA)ランダム共重合体)ブロック共重合体[ポリ(MMA/BA・EA)ブロック共重合体]を得た。該ポリ(MMA/BA・EA)ブロック共重合体(「ブロック共重合体A」と称する場合がある)において、ブロック共重合体全体の重量平均分子量は約83,000であり、PMMAの比率は70重量%(重量平均分子量比)である。
このブロック共重合体Aをフィルターやイオン交換樹脂を用いて精製した後、紫外線(UV)により架橋させることができ且つ約250nm及び約360nmに最大吸収波長(λmax)を有するトリアジン系架橋剤を、ブロック共重合体(ブロック共重合体A)100重量部に対して1重量部添加し、さらにテトラヒドロフラン(THF)を加えて、濃度が約30重量%の溶液(溶液A)を調製した。
【0062】
一方、ポリシラン系ポリマーとしてのポリ(メチルフェニルシラン)を、THFに溶解させて、濃度が約20重量%の溶液(溶液B)を調製した。
【0063】
前記溶液A中の固形分と、前記溶液B中の固形分との固形分比が50:50となる割合で、前記溶液Aと前記溶液Bとを混合して攪拌し、さらに、キャスティング法により、膜厚:約40μmのフィルム状サンプルと、膜厚:約0.8mmのフィルム状サンプル(「照射サンプルA」と称する場合がある)とを作製した。
【0064】
前記膜厚:約40μmのフィルム状サンプルを用いて、(株)村上色彩技術研究所のMICC製反射・透過計HR−100を用いて、400nmから800nmの全光線透過率を測定したところ、該フィルム状サンプルの波長:400nm〜800nmにおける全光線透過率は91.2%であった。
【0065】
前記照射サンプルAの上面から深さが約60μmである内部の位置を焦点にして、チタン・サファイア・フェムト秒パルスレーザー装置及び対物レンズ(倍率:20倍)を使用して、超短パルスレーザー(照射波長:800nm、パルス幅:150×10-15秒、繰り返し:200kHz)を、照射エネルギー(平均出力):20mW、照射スポット径:約3μmの条件で、照射サンプルAを照射方向に垂直な方向に移動速度:約500μm/秒で移動させながら、照射サンプルAの上面側から照射したところ、照射サンプルAの内部に、超短パルスレーザーの照射を開始した焦点位置(照射開始位置)から、照射を止めた焦点位置(照射終了位置)にかけて、元のサンプルAとは異なる構造を有する構造変化部が形成された。該構造変化部において、焦点位置の移動方向に対して垂直な面で切断した断面の形状は、略長方形状(長方形に近似した形状)であり、該略長方形状は、短軸が約7μm、長軸が約240μmであった。また、該略長方形状の構造変化部は、照射点又は焦点を起点に深さ方向(照射方向)に進行したものであった。
【0066】
さらに、構造変化部と、構造が変化していない元のままの状態である構造未変化部との屈折率差を求めたところ、2.8×10-3であった。従って、超短パルスレーザーの照射により形成された構造変化部は、屈折率が変調された屈折率変調部である。
【0067】
(参考例1)
重量平均分子量が約200,000のポリメチルメタクリレート(PMMA)をTHFに溶解させて、濃度が約20重量%の溶液(溶液C)を調製した。また、ポリシラン系ポリマーを含む溶液として、実施例1で調製された溶液Bを用いた。前記溶液C中の固形分と、前記溶液B中の固形分との固形分比が80:20となる割合で、前記溶液Cと前記溶液Bとを混合して攪拌し、さらに、キャスティング法により、膜厚:約50μmのフィルム状サンプルと、膜厚:約1mmのフィルム状サンプルとを作製した。この参考例1に係る膜厚:約50μmのフィルム状サンプルを、実施例1と同様の測定条件で全光線透過率を測定したところ、93.2%であった。
【0068】
前記参考例1に係る膜厚:約1mmのフィルム状サンプル(「照射サンプルB」と称する場合がある)に対して、実施例1と同じパルスレーザー装置を使用して、同様の照射条件で照射したところ、照射サンプルBの内部に、超短パルスレーザーの照射を開始した焦点位置(照射開始位置)から、照射を止めた焦点位置(照射終了位置)にかけて、元のサンプルBとは異なる構造を有する構造変化部が形成された。該構造変化部において、焦点位置の移動方向に対して垂直な面で切断した断面の形状は、略楕円形状(楕円形に近似した形状)であり、該略楕円形状は、短軸が約10μm、長軸が約25μmであった。また、該略楕円形状の構造変化部は、照射点又は焦点を起点に深さ方向(照射方向)に進行したものであった。
【0069】
さらに、構造変化部と、構造が変化していない元のままの状態である構造未変化部との屈折率差を求めたところ、2.2×10-3であった。従って、超短パルスレーザーの照射により形成された構造変化部は、屈折率が変調された屈折率変調部である。
【0070】
(参考例2)
重量平均分子量が約180,000のポリカーボネート(PC)をTHFに溶解させて、濃度が約20重量%の溶液(溶液D)を調製した。また、ポリシラン系ポリマーを含む溶液として、実施例1で調製された溶液Bを用いた。前記溶液D中の固形分と、前記溶液B中の固形分との固形分比が20:80となる割合で、前記溶液Dと前記溶液Bとを混合して攪拌し、さらに、キャスティング法により、膜厚:約60μmのフィルム状サンプルと、膜厚:約1mmのフィルム状サンプルとを作製した。この参考例2に係る膜厚:約60μmのフィルム状サンプルを、実施例1と同様の測定条件で全光線透過率を測定したところ、90.2%であった。
【0071】
前記参考例2に係る膜厚:約1mmのフィルム状サンプル(「照射サンプルC」と称する場合がある)に対して、実施例1と同じパルスレーザー装置を使用して、同様の照射条件で照射したところ、照射サンプルCの内部に、超短パルスレーザーの照射を開始した焦点位置(照射開始位置)から、照射を止めた焦点位置(照射終了位置)にかけて、元のサンプルCとは異なる構造を有する構造変化部が形成された。該構造変化部において、焦点位置の移動方向に対して垂直な面で切断した断面の形状は、略楕円形状(楕円形に近似した形状)であり、該略楕円形状は、短軸が約10μm、長軸が約400μmであった。また、該略楕円形状の構造変化部は、照射点又は焦点を起点に深さ方向(照射方向)に進行したものであった。
【0072】
さらに、構造変化部と、構造が変化していない元のままの状態である構造未変化部との屈折率差を求めたところ、3.5×10-3であった。従って、超短パルスレーザーの照射により形成された構造変化部は、屈折率が変調された屈折率変調部である。
【0073】
なお、実施例1及び参考例1〜2では、光干渉顕微鏡(菱化システム社製)、反射型電子顕微鏡(SEM)(日立製作所社製)を用いて、構造変化部を有するプラスチック構造体の表面並びに断面の形態や形状の観察を行って、構造変化部の形状などを観測した。
【0074】
従って、実施例1及び参考例1〜2では、ポリシラン系ポリマーを含有するプラスチック材料に、超短パルスレーザーを照射することにより、前記プラスチック材料の内部に元の屈折率とは異なる屈折率を有する、屈折率が変調された屈折率変調部が形成されたプラスチック光学素子を容易に得ることができる。特に、該プラスチック光学素子の屈折率変調部には、クラックなどの劣化が生じていない。また、屈折率変調部を精密に作製することができる。しかも、屈折率が変調した屈折率変調部と、屈折率が変調していない屈折率未変調部との屈折率差が大きい。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のプラスチック光学素子の一例を示す概略鳥瞰図である。
【図2】本発明のプラスチック光学素子を作製する一例を示す概略図である。
【符号の説明】
1 プラスチック光学素子
11 プラスチック材料
1a プラスチック材料11の上面
2 屈折率変調部
3 屈折率未変調部
4 パルス幅が10-12秒以下である超短パルスレーザー
5 レンズ
L レーザー4の照射方向
6 レーザー4の焦点位置軌跡
6a レーザー4の照射開始位置
6b レーザー4の照射終了位置
6c レーザー4の焦点位置の移動方向

Claims (6)

  1. パルス幅が10-12秒以下のレーザーを外部から照射することにより、屈折率が変調する屈折率変調部形成加工用プラスチック材料であって、ポリシラン系ポリマーとともに、2つ以上のガラス転移温度を有するポリマーが混合されていることを特徴とする屈折率変調部形成加工用プラスチック材料。
  2. ポリシラン系ポリマーの含有割合が、ポリマー成分全量に対して10重量%以上90重量%以下となる割合である請求項1記載の屈折率変調部形成加工用プラスチック材料。
  3. ポリシラン系ポリマーが、下記式(1)で表される構造単位を有している請求項1又は2記載の屈折率変調部形成加工用プラスチック材料。
    Figure 0003986299
    (式(1)において、R1、R2は、同一又は異なって、水素原子、ヒドロキシル基、アルコキシ基、炭化水素基、ハロゲン原子、ポリシラン骨格を示す。)
  4. 前記請求項1〜3の何れかの項に記載の屈折率変調部形成加工用プラスチック材料に、パルス幅が10-12秒以下のレーザーを外部から照射して屈折率を変調させることにより得られる、屈折率が変調した屈折率変調部を有するプラスチック光学素子。
  5. プラスチック光学素子において、屈折率が変調した屈折率変調部の屈折率と、屈折率が変調していない屈折率未変調部の屈折率との屈折率差が、0.0005以上である請求項4記載のプラスチック光学素子。
  6. ポリシラン系ポリマーとともに、2つ以上のガラス転移温度を有するポリマーが混合されている屈折率変調部形成加工用プラスチック材料に、パルス幅が10-12秒以下のレーザーを外部から照射することにより、屈折率が変調した屈折率変調部を有するプラスチック光学素子を得るプラスチック光学素子の製造方法。
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