JP3983645B2 - ヌバック調人工皮革 - Google Patents
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【発明の属する技術分野】
本発明は、短く、均一かつ緻密な立毛外観とそこから得られるライティング効果と弾力性と通気性を有するヌバック調人工皮革に関するものであり、自動車内装材、椅子張り地、靴地、ブックカバーおよび模擬皮膚として好適なヌバック調人工皮革を提供するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、毛足の長い立毛を有するスエード調の人工皮革および毛足が極めて短い立毛を有するヌバック調の人工皮革については様々な提案がなされている。
例えば、立毛を有する基材に弾性重合体を含浸または塗布して立毛を固定し、次いで立毛面をカレンダーロールでプレスすることにより立毛を毛羽伏せして密着させた後、該立毛面をバフィングすることによりヌバック調の人工皮革を得る方法が公知である(特許文献1参照)。
また、立毛面をカレンダーロールでプレスすることにより立毛を毛羽伏せして密着させた後、基材に弾性重合体を含浸または塗布した後、該立毛面をバフィングする方法も公知である(特許文献2参照)。
しかしながら、これらの方法では弾性重合体を繊維間に固定化することが不可欠であり、その結果、弾性重合体が繊維間に充填された構造となるため、靴、外衣等を着用時に蒸れ感を招くものであった。
一方、通気性と軽量性を向上させるためにマトリックス繊維と弾性ポリマーを繊維表面に配したバインダー繊維がマトリックス繊維中に分散しながら融着した繊維集合体を人工皮革用基布とする非含浸型基材(特許文献3参照)が知られているが、人工皮革用に転換する場合には表面層にエラストマー膜を形成させるために非プロトン性極性溶媒が用いられ、さらにこれを抽出するための工程が必要となり、製品を得るためにはやはり煩雑な工程が必要となっていた。
また、弾性ポリマー成分が非弾性ポリマー成分の表面の少なくとも一部に露出した複合繊維からなる繊維シート状物の表面を加熱ローラーにより加圧・加熱処理することで表面層を緻密化せしめて得られる皮革様シート物が公知であるが(特許文献4参照)、加熱処理により非弾性ポリマー成分と弾性ポリマー成分とが剥離した状態ではなく、単に弾性ポリマー成分相互が融着するのみであるため、弾性ポリマー成分の風合であるゴムライクなものとなってしまう課題が残されていた。
【0003】
【特許文献1】
特公昭62−42076号公報
【特許文献2】
特公昭63−42075号公報
【特許文献3】
特開平11−200255号公報
【特許文献4】
特開昭52−87201号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は大掛かりな設備を必要とせず、従来の繊維質基材に高分子弾性体を含浸して得られるような人工皮革が有する弾力性を保持したまま、かつ、蒸れ感のないヌバック調人工皮革を煩雑な工程を経ることなく安価に提供することを目的とするものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
すなわち、本発明は、重合体成分Aと、該重合体成分Aよりも40℃以上低い融点をもつ重合体成分Bとからなる分割型複合繊維から形成された繊維集合体の少なくとも一表面が重合体成分Bの融着によりスキン層を形成しており、該スキン層表面には該分割型複合繊維が分割された極細繊維による毛足の短い立毛が存在すると共に該スキン層の下層部は繊維集合体の厚み方向に繊維が配列されていることを特徴とするヌバック調人工皮革である。
【0006】
【発明の実施の形態】
次に、本発明を詳細に説明する。まず、本発明に使用する分割型複合繊維について説明する。
該分割型複合繊維は少なくとも2成分からなる極細化可能な分割型複合繊維であって、例えば、衝撃によって分割し得る成分より構成されている。さらに、一成分である重合体成分Aは他の成分である重合体成分Bよりも40℃以上高い融点を有する重合体からなるものである。
この融点差が40℃未満であると、後工程における熱処理工程で低融点重合体成分Bのみならず、高融点重合体成分Aまで軟化溶融することになり、硬化した不織布となってしまう。もちろん、融点差が大きくなり過ぎると溶融複合紡糸が出来なくなってしまうといった問題がある。
したがって、現実的に融点差は180℃以下とするのが好ましい。
【0007】
分割型複合繊維断面の複合形態などは特に限定されないが、具体例としては、図1(a)、(b)に示したような横断面を持つものが好ましい。これらは、分割型複合繊維を構成する繊維形成性重合体の両成分が相互を仕切るように配置されているものである。
また、分割型複合繊維が分割して得られる極細繊維の単繊維繊度は0.05〜0.5dtexであることが好ましい。0.05dtexを下回ると、溶融紡糸性が悪くなり、また0.5dtexを上回るとヌバック調の風合いが得られにくくなる。より好ましくは0.1〜0.5dtex以下とすることである。
【0008】
本発明に使用し得る重合体成分としてはポリオレフィン系重合体、ポリエステル系重合体、ポリアミド系重合体およびポリビニルアルコール系重合体が挙げられるが、均質な熱処理が出来る湿熱処理を利用する方法においても接着性が得られるポリビニルアルコール系重合体を低融点重合体成分Bとすることが好ましい。また高融点重合体成分Aとしてはポリビニルアルコール系重合体とは相溶性の低いポリオレフィン系重合体またはポリエステル系重合体を挙げることができる。
前記湿熱処理による接着性を発現する重合体成分Bとしては、特にエチレン−ビニルアルコール系共重合体を好適に使用することができる。
ここでエチレン−ビニルアルコール系共重合体とは、ポリビニルアルコールにエチレン残基が10モル%以上、60モル%以下共重合されたものを示す。とくにエチレン残基が30モル%以上、50モル%以下共重合されたものが、湿熱接着性の点で好ましい。またビニルアルコール部分は95モル%以上の鹸化度を持つものである。
また、主に重合体成分Aとして利用されるポリエステルとしては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレン−2、6−ジカルボン酸、フタル酸、α,β−(4−カルボキシフェノキシ)エタン、4,4−ジカルボキシジフェニル、5−ナトリウムスルホイソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸;アゼライン酸、アジピン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸またはこれらのエステル類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサン−1,4−ジメタノール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のジオールからなる繊維形成性のポリエステルを挙げることができ、構成単位の80モル%以上がエチレンテレフタレート単位であることが好ましい。 エチレン−ビニルアルコール系共重合体を代表とする重合体成分Bと他の熱可塑性重合体成分Aからなる複合繊維のそれぞれの成分の複合比については、前者:後者(質量比)=10:90〜90:10、とくに30:70〜70:30であることが、紡糸性の点で好ましい。
【0009】
次に、本発明の人工皮革用基布の構造について説明する。
先ず、天然皮革は厚み方向について、上層が緻密で下層が粗な構造となっており、これらの構造が張り腰、風合いを醸し出しているが、本発明においては、人工皮革用基布として上記で説明した分割型複合繊維を用いることが重要である。
すなわち、本発明の人工皮革においては、その表面層(以下スキン層と称する場合がある)をカレンダーロール処理することにより極細繊維からなる立毛を融着緻密化させること、及び該融着緻密化させたスキン層の下層に人工皮革の厚み方向に繊維を配列させることで天然皮革調の外観と風合いを達成させるものである。
本発明に使用される繊維集合体としては、丸編地によるシンカーベロア地、ハイパイル地、両面フリース地や経編地におけるポール編地、ダブルラッセル編地、トリコット起毛編地等のカットベロア地、織物におけるモケット地、コールテン地および片面または両面シール織地、あるいはタフティングによるベロア地などカットパイルを有する各種織編物を挙げることが出来る。
尚、カットパイルの高さは製品品位に影響を及ぼし、該品位は下記に記すカレンダーロールによる加熱処理と加圧処理後の表面形成に影響し、カットパイル高さが10mmを上回ると形成された融着緻密層が基布に加えられた張力により引き裂かれる場合が生じるので、カットパイル高さは10mm以下とすることが必要であり、好ましくは5mm以下とすることである。
本発明においては、上記のカットパイルを有する編織地の表面(カットパイルの先端部で形成される面)を、重合体成分Aと重合体成分Bと融点の中間温度に加熱されたカレンダーロールで加圧することにより加熱処理と加圧処理を同時に行い、重合体成分B同士を融着させて立毛部先端部でスキン層を形成し、次いで、該スキン層の表面をバフィング処理することにより表面に存在する分割型複合繊維を分割させ、極細繊維からなる毛羽を発現させる。これら一連の処理により、スキン層表面には該分割型複合繊維が分割された極細繊維による毛足の短い立毛(毛羽)が形成されると共に該スキン層の下層部は繊維集合体の厚み方向に分割度の低い分割型複合繊維が捲縮を発現したバルキーな状態で配列されるものである。スキン層の表面にはバフィング処理による主として重合体成分Aから形成される繊維が産毛状に緻密に存在する構造が形成される。また、スキン層の下層に形成される分割度の低い分割型複合繊維の捲縮は、例えば、熱水処理などで発現させることが可能である。
【0010】
従来の人工皮革の製造方法では表面層を緻密化するには上記の如くカレンダーロールで加熱・加圧を行えばよいが、下層部を粗な物にするためには2種以上の粗密差のあるシートの組み合わせにより上記の操作を施すか、厚み方向の温度勾配を制御しながら表面を過熱・加圧することが重要なポイントであった。
しかしながら、本発明においてはスキン層の下層部は繊維集合体の厚み方向に繊維が立設されたバルキーな構造を有しているため、上記のような2種以上のシートの組み合わせが不要であり、加熱処理における温度勾配の利用も不要である。
本発明においては重合体成分Bの融点近傍の温度条件で接着性を示すものであり、該成分Bは重合体成分Aからなる繊維糸条とは接着しない点が重要である。
低融点重合体成分Bが高融点重合体成分Aと接着すると、人工皮革となった段階で、風合いが硬化し、目的とするライティング効果が得られる短毛緻密なヌバック調人工皮革が得られない。
以下、図を用いて本発明を更に詳細に説明する。
図2は本発明のヌバック調人工皮革の横断面の一例を示す電子顕微鏡による写真である。
スキン層1は、繊維集合体の表面をカレンダーロールによる加熱処理と加圧処理を同時に行うことにより極細化可能な分割型複合繊維の重合体成分Bが相互に融着して形成される融着層でもあり、該スキン層の表面にはカレンダー処理後のバフィング加工により形成された毛足の短い立毛(毛羽)2が存在している。このような表面外観がヌバック調人工皮革を形成するのである。
また、スキン層1の下層部には繊維集合体の地部4に分割度の低い分割型複合繊維3が捲縮を発現した状態で立設している。この点は分割型複合繊維が部分的にも分割されて極細化されているため、人工皮革としてのしなやかさを付与している。
尚、分割型複合繊維の立設構造は地部4からの高さが0.1mm以上立設して存在していることが好ましい。
また、本発明のヌバック調人工皮革は繊維集合体の内部に弾性重合体を含有していないため、繊維間空隙が有効に存在し、通気性の発現に影響していると考えられる。
図3は本発明のヌバック調人工皮革のカレンダー処理後の表面実体顕微鏡写真を示す。
図3において、分割型複合繊維5が圧縮されて、網目構造が形成されていることが判る。このような構造も通気性の発現に寄与していると考えられる。
図4は本発明のヌバック調人工皮革の一例を示す仕上げ表面の実体顕微鏡写真である。
図4において、極細繊維6からなる立毛がスキン層1の表面(スキン層1の面)に毛足の短い状態で存在し、ヌバック調人工皮革の風合いを発現するのである。
【0011】
【実施例】
以下実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の各物性は以下の方法により求めた。
(1)捲縮率
カセ取機で5500dtexのカセとなるまで糸条を巻き取った後、カセの下端中央に10gの荷重を吊るし、上部でこのカセを固定し、0.009cN/dtexの荷重がかかった状態で90℃にて30分間熱水処理を行なった。次いで、無荷重状態で室温に放置して乾燥した後、再び10gの荷重をかけて5分間放置後の糸長を測定し、これをL1(mm)とする。次に1kgの荷重を掛け、30秒間放置後の糸長を測定し、これをL2(mm)とするとき、下記式により算出した。
捲縮率(%)={(L2−L1)/L2}×100
(2)融点の測定
メトラー社製、熱示差分析計TA3000(DSC)を用いて、昇温速度10℃/分で測定し、吸熱ピーク温度を融点とした。
【0012】
実施例1
(1)分割型複合繊維の製造
重合体成分Bとしてケン化度が99%でエチレン含有量が44モル%のエチレン−ビニルアルコール共重合体(以下EVALと略記)で、85%含水フェノールを用いて30℃で測定した固有粘度が1.05dl/gのチップを用いた。重合体成分Aとしては、イソフタル酸を8モル%共重合したポリエチレンテレフタレートでフェノール/テトラクロロエタン等量混合溶媒を用いて30℃で測定した固有粘度が0.64のポリエステルチップを用いた。重合体成分Aと重合体成分Bとの複合比率を7:3とし、その横断面は図1(a)で示されるようなEVALが5層(B成分)、ポリエステルが6層(A成分)の分割型複合繊維となるように複合ポリマーを紡糸温度265℃、紡糸速度1000m/分の紡糸条件下で巻取り、得られた紡糸原糸を通常のローラーブレート方式の延伸機により70℃の熱ローラー及び120℃の熱プレートに接触させて延伸して80dtex/24fの複合フィラメントを得た。
得られた複合フィラメントについてDSC測定をした結果、重合体成分Bの融点は166.6℃であり、重合体成分Aは218.6℃であった。
この延伸糸を用いてスピンドル型仮撚方式により仮撚数3000T/M、1段ヒーター温度130℃、オーバーフィード率0.5%により仮撚加工を実施して重合体成分A繊維と重合体成分B繊維とが部分的に分割せしめた捲縮伸長率が11%の仮撚加工糸を得た。
次いで、得られた仮撚加工糸をインターレースノズル(クラレエンジニアリング製)を用いて、6本を引き揃えて、エア圧2.3kg/cm2、加工速度250m/minにより480dtex/144フィラメントの混繊糸を得た。
【0013】
(2)人工皮革用基布の製造
上記(1)で得られた480dtex/144フィラメントの混繊糸をカットパイル糸とし、165dtex/48フィラメントのポリエチレンテレフタレート仮撚加工糸を地糸として16ゲージのシールフライス編機を用いてカットパイル高さが3mmとなる立毛布帛を編み立てた。
次いで、得られた立毛布帛のカットパイル糸を毛割機により重合体成分Aと重合体成分Bとを剥離させ人工皮革用基布を得た。
【0014】
(3)ヌバック調人工皮革の製造
上記(2)で得た人工皮革用基布を80℃の熱水・乾燥処理により繊維糸条に捲縮を発現させた後、立毛面を185℃に加熱したカレンダーロールを用いて加熱処理と加圧処理を同時に行い、立毛面を重合体成分B繊維間の融着により表面を平滑化した基布を得た。
次いで、平滑化面をバフィング処理により毛羽立たせてヌバック調人工皮革を得た。
得られた人工皮革の通気度は2.1cc/cm2/sec(JIS P8117により測定)となり、高い通気性を示すものであった。
【0015】
参考例1
実施例1で得た原反をポリテトラメチレンエーテル系ポリウレタンを主体とする固型分13%のポリウレタンのトリクロールエチレン溶液に含浸し、40℃のジメチルホルムアミド(DMFと略す)/水混合液の中に浸して湿式凝固して人工皮革を得た。
得られた人工皮革は通気度は0.09cc/cm2/sec(JIS P8117により測定)となり、低い通気性を示すものであった。
【0016】
【発明の効果】
本発明のヌバック調人工皮革は、弾力性と天然皮革であるヌバックの外観と風合いを兼ね備えたヌバック調人工皮革であり、低コストで提供できることに大きなメリットがある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に使用可能な分割型複合繊維の横断面の一例を示す電子顕微鏡写真
【図2】本発明のヌバック調人工皮革の一例を示す横断面の電子顕微鏡写真
【図3】本発明のヌバック調人工皮革の一例を示すカレンダー処理後表面の実体顕微鏡写真
【図4】本発明のヌバック調人工皮革の一例を示す仕上げ表面の実体顕微鏡写真
【符号の説明】
1:スキン層1
2:立毛
3:捲縮を発現した分割型複合繊維からなる立設構造
4:地部
5:分割型複合繊維
6:極細繊維
Claims (5)
- 重合体成分Aと、該重合体成分Aよりも40℃以上低い融点をもつ重合体成分Bとからなる分割型複合繊維から形成された繊維集合体の少なくとも一表面が重合体成分Bの融着によりスキン層を形成しており、該スキン層表面には該分割型複合繊維が分割された極細繊維による毛足の短い立毛が存在すると共に該スキン層の下層部は繊維集合体の厚み方向に分割度の低い分割型複合繊維が捲縮を発現した状態で配列されていることを特徴とするヌバック調人工皮革。
- 繊維集合体が編織物である請求項1に記載のヌバック調人工皮革。
- 繊維集合体が不織布である請求項1に記載のヌバック調人工皮革。
- 繊維集合体がフロッキー加工による立毛を有する布帛である請求項1に記載のヌバック調人工皮革。
- 重合体成分Bがエチレン−ビニルアルコール系共重合体である請求項1〜4のいずれか1項に記載のヌバック調人工皮革。
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- 2002-10-23 JP JP2002308554A patent/JP3983645B2/ja not_active Expired - Lifetime
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