JP3983493B2 - ジルコニウム基合金の製造法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、原子炉用ジルコニウム基合金の製造法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
現在、ジルコニウム合金は、沸騰水型軽水炉、加圧水型軽水炉などにおいて燃料被覆管および炉心構造材料として広く使用されている。これまで最も一般的に用いられてきたジルコニウム合金は、ジルカロイ−2(Sn 1.2〜1.7質量%、Fe 0.07〜0.20質量%、Cr 0.05〜0.15質量%、Ni 0.03〜0.08質量%、残部Zr)及びジルカロイ−4(Sn 1.2〜1.7質量%、Fe 0.18〜0.24質量%、Cr 0.07〜0.13質量%、残部Zr)であるが、他にもZr−2.5%Nb、Zr−1%Nb合金なども原子炉に適用されている。上記合金は、主に中性子経済性、強度および耐食性を考慮して開発された合金である。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、沸騰水型原子炉においては、原子炉運転中に上記材料表面にノジュラー腐食と呼ばれるレンズ状の局部腐食が発生することが問題となっていた。ノジュラー腐食は照射の進行につれて成長し、腐食層が厚くなると剥離に至ることもある。従って、ノジュラー腐食の発生は構造材の減肉をもたらすのみならず、腐食層の剥離によって冷却材中の放射線濃度を高め、定検時の被曝量を増加させる恐れがある。このようなノジュラー腐食を防止するための技術としては、合金をα+β相あるいはβ相温度範囲に短時間加熱し急冷する熱処理方法(特公昭61−45699号公報および特公昭63−58223号公報)および合金組成を変更する方法(特開昭60−43450号公報および特開昭62−228442号公報)等が知られている。
【0004】
例えば、ジルカロイをα+β相温度範囲あるいはβ相温度範囲の高温から急冷する熱処理(βクエンチ処理)では、合金中に析出している金属間化合物(主にZr(Cr,Fe),Zr(Ni,Fe)の2種類が存在する)を微細化させることがなされている。上記したようなβクエンチ処理によって、析出物が微細化し、これに伴いノジュラー腐食の発生が抑制され耐食性が大幅に向上することが知られている。
【0005】
上記のような改良により、ノジュラー腐食の発生は抑制され、腐食形態は腐食生成物である酸化被膜が均一に成長するという一様腐食へと変化しつつある。
【0006】
耐ノジュラー腐食性が改善された上記材料は、腐食形態が一様腐食となり、また形成される一様酸化膜が非常にうすく高い保護性を持つことから、現在の実炉の運転条件下ではその機能を充分に果たしているといえる。
【0007】
ところが、現在原子力発電プラントの経済性向上のため燃料のさらなる高燃焼度化が段階的に進められている。このような高燃焼化に伴って原子炉燃料集合体の炉内滞在時間が長期化すると、合金には耐食性だけでなく水素吸収特性も問題となる。すなわち、炉内滞在時間が長期化すると、ジルコニウム合金基材に吸収される水素吸収量が増加し、構造材が脆化する可能性が指摘されている。
【0008】
特開昭62−228442号公報に示されているように、ジルカロイ中のFe添加濃度を高めることにより、水素吸収量が低減することは定性的に知られている。したがって、現在、主に沸騰水型原子炉で使用されるジルカロイ2においては、そのスペック範囲内でFe濃度を高める等の成分調整を実施し、その結果現在の運転条件下では、耐食性および水素吸収特性の両面においてその機能を果たしている。しかしながら、近年原子炉炉水給水系への水素注入等の環境変化や材料部材の薄肉化といった変更等によって、特に水素吸収に関してより厳しい条件となってきており、原子炉燃料の信頼性向上、高性能化のためには、水素吸収量を低減することは大きな課題となっている。
【0009】
以上のように、さらなる高燃焼度化にともなう長期使用に対して、また水素注入等といった環境の変化に対しても、耐食性に優れ且つ水素吸収量が少ないジルコニウム合金の開発が急がれる。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明の目的は、原子炉内で使用されるジルコニウム合金に係り、軽水冷却原子炉の炉心条件で長期間使用されても、耐食性に優れ、且つ水素吸収量が少ないジルコニウム基合金の製造法を提供することにある。
【0011】
したがって、本発明によるジルコニウム基合金は、Sn、Fe、Ni、Cr、Zrおよび不可避不純物から構成される原子炉用ジルコニウム基合金であって、該ジルコニウム基合金中のFe含有量(X(質量%))および該ジルコニウム基合金における析出物の平均析出物サイズ(Y(nm))が、前記Fe含有量(X)をx軸とし、前記析出物の平均析出物サイズをy軸とする直交座標平面で、(1)Y=−444×X+154、(2)Y=910×X−46、(3)Y=0、(4)Y=300および(5)X=0.6の5本の線で囲まれた領域内に存在すること、を特徴とするものである。
【0012】
そして、本発明による好ましいジルコニウム基合金は、該ジルコニウム基合金中のFe含有量(X(質量%))および該ジルコニウム基合金における析出物の平均析出物サイズ(Y(nm))が、前記Fe含有量(X)をx軸とし、前記析出物の平均析出物サイズをy軸とする直交座標平面で、(1)Y=−989×X+362、(2)Y=910×X−46、(3)Y=0、(4)Y=300および(5)X=0.6の5本の線で囲まれた領域内に存在すること、を特徴とするものである。
【0013】
また、本発明によるジルコニウム基合金は、Sn、Fe、Ni、Cr、Zrおよび不可避不純物から構成される原子炉用ジルコニウム基合金であって、該ジルコニウム基合金中のFe含有量(X(質量%))および該ジルコニウム基合金のアニーリングパラメータ(ΣAi)Yが、前記Fe含有量(X)をx軸とし、前記アニーリングパラメータをy軸とする直交座標平面で、(1)30+1.6×10×exp(0.7×log(Y))=−444×X+154、(2)30+1.6×10×exp(0.7×log(Y))=910×X−46、(3)Y=1×10−21、(4)Y=1×10−15および(5)X=0.6の5本の線で囲まれた領域内に存在すること、を特徴とするものである。
【0014】
そして、本発明による好ましいジルコニウム基合金は、該ジルコニウム基合金中のFe含有量(X(質量%))および該ジルコニウム基合金のアニーリングパラメータ(ΣAi)Yが、前記Fe含有量(X)をx軸とし、前記アニーリングパラメータをy軸とする直交座標平面で、(1)30+1.6×10×exp(0.7×log(Y))=−989×X+362、(2)30+1.6×10×exp(0.7×log(Y))=910×X−46、(3)Y=1×10−21、(4)Y=1×10−15および(5)X=0.6の5本の線で囲まれた領域内に存在すること、を特徴とするものである。
【0015】
ここで、アニーリングパラメータ(ΣAi)とは、ジルコニウム基合金を830℃以上に30〜300℃/秒の冷却速度で水冷却する、いわゆるβクエンチ処理後の入熱量を下記式により定量化した指標であって、下記式に従って求められるものである。
【0016】
ΣAi=Σti×exp(−40,000/Ti)
ti:熱処理温度Tiでの保持時間(h)
Ti:熱処理温度(K)
なお、上記の本発明によるジルコニウム基合金において、該ジルコニウム基合金中のFe含有量(X(質量%))および析出物の平均析出物サイズ(Y(nm))を規定している直交座標平面ならびに直線(1)〜(5)に囲まれた領域は、添付の図1および図2に示されている通りである。
【0017】
本発明は、Sn 0.5〜2質量%、Fe0.07〜0.6質量%、Ni 0.03〜0.2質量%、Cr 0.05〜0.2質量%で、残部が不可避的不純物を含むジルコニウムから構成された原子炉用ジルコニウム基合金の製造法であって、α+β領域温度からβクエンチ処理後に該ジルコニウム基合金中のFe含有量(X(質量%))および該ジルコニウム基合金のアニーリングパラメータ(ΣAi) が、前記Fe含有量(X)をx軸とし、前記アニーリングパラメータをy軸とする直交座標平面で、(1)30+1.6×10×exp(0.7×log(Y))=−444×X+154、(2)30+1.6×10×exp(0.7×log(Y))=910×X−46、(3)Y=1×10−21、(4)Y=1×10−15および(5)X=0.6の5本の線で囲まれた領域内に存在する熱処理を行うことによって、該ジルコニウム基合金中のFe含有量(X(質量%))および該ジルコニウム基合金における析出物の平均析出物サイズ(Y(nm))が、前記Fe含有量(X)をx軸とし、前記析出物の平均析出物サイズをy軸とする直交座標平面で、(1)Y=−444×X+154、(2)Y=910×X−46、(3)Y=0、(4)Y=300および(5)X=0.6の5本の線で囲まれた領域内に存在するジルコニウム基合金を得ることを特徴とする、ジルコニウム基合金の製造法である。
【0018】
【発明の実施の形態】
本発明者らは、耐食性と水素吸収両面に優れた材料仕様を検討するために、耐食性、水素吸収両面について個別にデータを整理した。耐食性については、「Y.Etoh et al.:ASTM STP 1354,p.661、(2000)」に示されているように、平均析出物サイズが小さくなると、最大酸化膜が小さくなり、耐食性が向上することが公知である。平均析出物サイズが大きくなると酸化膜厚さが厚くなるのは、ノジュラー腐食が発生するためである。一方、平均析出物サイズが小さくなると酸化膜厚さが小さくなるのは、ノジュラー腐食が抑制されるためである。
【0019】
次に、発明者らは、水素吸収量低減策について検討を行った。その結果、ジルコニウム基合金中の析出物が大きいほど水素吸収量が少なくなるという結論を得た。図3に、400℃、10.3MPa水蒸気中で480時間の腐食試験における水素吸収量と平均析出物サイズとの相関を整理した。この結果、平均析出物サイズが大きいほど水素吸収量が少なくなることが明らかとなった。また、Fe添加量を増加しても水素吸収量が少なくなることが分かる。
【0020】
以上のジルカロイの水素吸収特性に関する検討結果より、平均析出物サイズが大きいこと、添加Fe濃度を増加させることによって、水素吸収量が低減できると結論できる。しかしながら、耐食性に関しては、析出物が大きくなるとノジュラー腐食が発生して酸化膜厚さが増加する。このように、耐食性の向上と、水素吸収量の低減は、平均析出物サイズの大小という観点からは相反する傾向をもつことが分かった。
【0021】
したがって、以下に示すように耐食性と水素吸収特性両面に優れた材料仕様を検討した。まず耐食性に関しては、析出物が小さくノジュラー腐食が発生しない条件では、酸化膜厚さは非常に薄く一定で高耐食性であることから、ノジュラー腐食が発生するしきい値、すなわちノジュラー腐食が発生する最小の平均析出物サイズ、を評価することが重要と考えた。ジルカロイ中に析出した析出物(主にZr(Cr,Fe)、Zr(Ni,Fe)の2種類が存在する)に着目すると、照射により析出物中からFe、Cr、Niといった原子がはじき出されて金属中に固溶する、いわゆる照射誘起固溶が発生することが知られており、本発明者らの検討により、照射誘起固溶現象とノジュラー腐食発生とには良い相関があることが分かった。すなわち、析出物中からのマトリクス中へのFeとNiの固溶速度がある値以上になるとノジュラー腐食が発生しないことが分かった。この相関を図4に整理する。この図4には、3種類のFe濃度について平均析出物サイズとFeとNiの固溶速度、すなわちFe+Ni(at%/s)の相関が示されている。図4中、各曲線において、ノジュラー腐食発生しきい値よりも下の領域がノジュラーが発生する領域となる。この結果、ジルカロイ中の添加Fe濃度が増加すると、ノジュラー腐食が発生するしきい平均析出物サイズが増加することが分かる。
【0022】
以上のようにして評価したノジュラー腐食発生のしきい値を図1上に記す。図1は直交座標系で、X軸は添加Fe濃度(質量%)、Y軸は析出物の平均析出物サイズ(nm)である。図1中、ノジュラー腐食発生しきい値よりも左上の領域はノジュラー腐食が発生する領域である。ノジュラー腐食発生しきい平均析出物サイズはFe濃度の増加とともに次第に増加することがわかる。
【0023】
次に、水素吸収特性と平均析出物サイズとの相関を整理する。図3に示したように、平均析出物サイズが増加すると水素吸収量が低下することは明らかであるが、添加Fe濃度にも依存することが分かる。したがって、図3のデータを用いて水素吸収量とFe濃度および平均析出物サイズとの相関をまとめた。水素吸収量は、現在使用のジルカロイ2の材料仕様(Fe濃度:0.16〜0.18質量%、平均析出物サイズ:50〜90nm)で水素吸収量が1となるように規格化した。このように規格化した相対水素吸収量を図1に示す。図1中には相対水素吸収量0.5、0.6、0.8、1.0の曲線を示す。また、図1には現行使用のジルカロイ2の仕様(Fe濃度:0.16〜0.18質量%、平均析出物サイズ:50〜90nm)を示す。
【0024】
図1より、水素吸収量は添加Fe濃度を増加させること、平均析出物サイズを増加させることにより低減することができる。しかしながら、平均析出物サイズをノジュラー腐食発生しきい平均析出物サイズより大きくすると、ノジュラー腐食が発生し耐食性が極端に悪化するので、最適仕様は、ノジュラー腐食発生しきい平均析出物サイズよりも小さくなければならない。以上の結果に検討に基づき、耐食性、水素吸収特性の両面に優れたジルコニウム基合金の仕様を規定する。ここでは、ジルカロイ2と同じ添加元素で構成されるSn、Fe、Ni、Cr、Zrおよび不可避不純物から構成される原子炉用ジルコニウム基合金の仕様を規定する。
【0025】
水素吸収量は相対量で0.6程度までは急激に低下するが、0.6以下になると飽和して低下しない傾向があることから、まず第一に水素吸収量が相対値で現行材の0.6以下になる範囲とする。また添加Fe濃度は、0.6質量%以上となると、加工性が低下すること、材料の延性が低下すること等の理由により、最大0.6質量%とする。すなわち、Fe含有量をX軸(質量%)、平均析出物サイズをY軸(nm)とする直交座標平面で(1)Y=−989×X+362、(2)Y=910×X−46、(3)Y=0、(4)Y=300および(5)X=0.6の5本の曲線で囲まれた平面の組成と平均析出物サイズをもつジルコニウム基合金が規定される。
【0026】
また、図2に示すように範囲を大きくとって、水素吸収量が現行と同等以下となる場合、すなわち相対水素吸収量が1以下となる仕様を規定すると、Fe含有量をX軸(質量%)、平均析出物サイズをY軸(nm)とする直交座標平面で(1)Y=−444×X+154、(2)Y=910×X−46、(3)Y=0、(4)Y=300および(5)X=0.6の5本の曲線で囲まれた平面の組成と平均析出物サイズをもつジルコニウム基合金が規定される。
【0027】
さらに、平均析出物サイズは製造工程における熱処理に依存し、この熱処理を定量化した指標として、アニーリングパラメータ(ΣAi)が知られている。アニーリングパラメータはβクエンチ処理後の入熱量を下記式により定量化したものである。
【0028】
ΣAi=Σti×exp(−40,000/Ti)
ti:熱処理温度Tiでの保持時間(h)
Ti:熱処理温度(K)
このアニーリングパラメータ(ΣAi)と平均析出物サイズ(nm)との間には
(nm)=30+1.6×10×exp(0.7×log(ΣAi))
という相関があるので、上で規定した二つのジルコニウム合金の材料仕様は、平均析出物サイズをΣAiで置き換えて以下のように規定することができる。図1、図2中のY2軸にΣAiの値を記す。またΣAiの上限、下限はそれぞれ、1E−15(即ち、1×10−15)、1E−21(即ち、1×10−21)とする。
【0029】
上記のアニーリングパラメータによって、本発明によるジルコニウム基合金は、Sn、Fe、Ni、Cr、Zrおよび不可避不純物から構成される原子炉用ジルコニウム基合金であって、該ジルコニウム基合金中のFe含有量(X(質量%))および該ジルコニウム基合金のアニーリングパラメータ(ΣAi)、Yが、前記Fe含有量(X)をx軸とし、前記アニーリングパラメータをy軸とする直交座標平面で、(1)30+1.6×10×exp(0.7×log(Y))=−444×X+154、(2)30+1.6×10×exp(0.7×log(Y))=910×X−46、(3)Y=1×10−21、(4)Y=1×10−15および(5)X=0.6の5本の線で囲まれた領域内に存在することを特徴とする、ジルコニウム基合金と規定することができる。
【0030】
特に好ましい本発明によるジルコニウム基合金は、該ジルコニウム基合金中のFe含有量(X(質量%))および該ジルコニウム基合金のアニーリングパラメータ(ΣAi)Yが、前記Fe含有量(X)をx軸とし、前記アニーリングパラメータをy軸とする直交座標平面で、(1)30+1.6×10×exp(0.7×log(Y))=−989×X+362、(2)30+1.6×10×exp(0.7×log(Y))=910×X−46、(3)Y=1×10−21、(4)Y=1×10−15および(5)X=0.6の5本の線で囲まれた領域内に存在することを特徴とするものである。
【0031】
本発明によるジルコニウム基合金は、Sn、Fe、Ni、Cr、Zrおよび不可避不純物から構成されるものである。Fe含有量は、上記のように析出物の平均析出物サイズあるいはアニーリングパラメータ(ΣAi)との相関で定められている。Fe以外の必須成分の含有量は、Sn:0.5〜2質量%、Ni:0.03〜0.2質量%、Cr:0.05〜0.2質量%、残部Zrである。
【0032】
Snは、主として、ジルコニウム基合金の強度および耐食性を向上させる成分である。Sn含有量が0.5質量%未満では強度が不十分であり、2質量%超過では耐食性が悪化することから、本発明でのSn含有量を0.5〜2質量%と定めた。本発明で好ましいSn含有量は0.8〜1.5質量%である。
【0033】
Niは主として、ジルコニウム基合金の耐食性を向上させる成分である。Ni含有量が0.03質量%未満では耐食性向上効果が不十分であり、0.2質量%超過では水素吸収特性が著しく悪化することから、本発明でのNi含有量を0.03〜0.2質量%と定めた。本発明で好ましいNi含有量は0.05〜0.10質量%である。
【0034】
Crは主として耐食性を向上させる成分であり、またFe、Ni、Crが添加されたジルコニウム基合金中で、主に存在する2種類の析出物(Zr(Fe、Ni)型、Zr(Fe、Cr)型)の存在割合に寄与し、間接的に耐食性や水素吸収特性に影響を与える元素である。Cr含有量が0.05質量%未満では耐食性向上効果が不十分であり、0.2質量%以上では析出物の分布に悪影響を及ぼすことから、本発明でのCr含有量を0.05〜0.2質量%と定めた。本発明で好ましいCr含有量は0.07〜0.15質量%である。
【0035】
本発明によるジルコニウム基合金は、例えば以下の方法によって製造することができる。
【0036】
溶解されたインゴットは、熱間鍛造(700〜750℃)、溶体化処理(約1000℃で数時間)の後、切断、表面削り、穴空け加工を施し押し出し用ビレットに成形される。ここで化学組成の違う2種類の合金を組み合わせた二重合わせビレットを用いる場合もある。押し出し用ビレットは600〜700℃で熱間押し出しにより押し出し素管に成形される。通常、この素管は冷間圧延と焼なましを交互に3回繰り返し燃料被覆管に成形される。また耐食性を向上させるために、βクエンチ処理をいずれかの冷間圧延工程の前に施し、βクエンチ処理後、冷間圧延と焼なましとを交互に繰り返す成形方法も実施されている。現行の被覆管の製造工程を例にとると、βクエンチ処理実施時期としては、素管段階で管内面に水を流して冷却しながら外面を高周波加熱でα+β領域(930℃前後)まで加熱する、いわゆる素管外面焼入れを施す製造方法や、素管から燃料被覆管に成形するために通常3回程度実施される冷間圧延と焼なましの途中にβクエンチ処理を実施する製造方法、また素管成形までの途中工程でβクエンチ処理を実施する製造方法等が実施されている。本発明ジルコニウム合金の製造法は、上記したような全ての製造方法に対して適用可能である。またアニーリングパラメータ(ΣAi)による熱処理の定量化についても上記した全ての製造方法に適用可能であり、その際には、製造工程中、一番最後に実施されたβクエンチ処理を基準として、その後の入熱量がアニーリングパラメータにより定量化される。
【0037】
以上のような本発明によるジルコニウム基合金は、耐食性および水素吸収特性に優れたものであって、例えば各種の原子炉用構造部品、特に燃料集合体用被覆管、スペーサバンド、スペーサセルおよびウォータロッドを構成するジルコニウム基合金として好適なものである。
【0038】
【実施例】
<実施例1および比較例1>
本発明による合金を実際の原子炉用材料に適用した例を以下に説明する。図5は沸騰水型原子炉に装荷される燃料集合体の斜視図、図6は沸騰水型原子炉の模式図を示す。原子炉では炉心15内において燃料要素16で発生した熱エネルギーで水18を蒸気17に変え、その蒸気でタービン19を回して発電する。使用された蒸気は復水器20で水に戻され再び循環して蒸気となる。図6中の燃料要素16は図5に示す燃料集合体を一つの単位としてこれを多数配置することにより構成される。燃料集合体1は、一般に、チャンネルボックス2内に所定数の燃料棒6とウォータロッド7などの棒状要素を正方配列し、それらの上下端を端栓を介して上部タイプレート3及び下部タイプレート4にそれぞれ装着し、中間高さ位置の複数箇所にスペーサー5を所定間隔で配置する構成になっている。図5中、チャンネルボックス、ウォターロッド、燃料棒およびスペーサーは水と直接接しており、現在これらの部分がジルカロイ−2あるいはジルカロイ−4製であり高耐食性および水素吸収量の低減が要求されている。
【0039】
図7は、本発明で規定される仕様内の試作合金を、400℃、10.3MPa水蒸気中で腐食試験した結果(約1100時間腐食試験後)を示す。
【0040】
Fe濃度が0.18質量%であるジルコニウム基合金(比較例1)およびFe濃度が0.26質量%であるジルコニウム基合金(実施例1)で、いずれの平均析出物サイズも約80nmで、従来のジルカロイ2材とほぼ同じ大きさである。
【0041】
なお、実施例1および比較例1による合金は、具体的には下記のものである。
【0042】
比較例1:化学組成が、Sn;1.35質量%、Fe;0.18質量%、Ni;0.07質量%、Cr;0.11質量%、残部Zrであるジルコニウム基合金。
【0043】
実施例1:化学組成が、Sn;1.35質量%、Fe;0.26質量%、Ni;0.07質量%、Cr;0.11質量%、残部Zrであるジルコニウム基合金。
【0044】
比較例1、実施例1による合金は、以下の製法で製作された。
【0045】
溶解されたインゴットは、熱間鍛造(700〜750℃)、溶体化処理(約1000℃で数時間)の後、切断、表面削り、穴空け加工を施し押し出し用ビレットに成形される。押し出し用ビレットは600〜700℃で熱間押し出しにより押し出し素管に成形される。この素管を、耐食性を向上させるためのβクエンチ処理として、管内面に水を流して冷却しながら外面を高周波加熱でα+β領域(930℃前後)まで加熱する、いわゆる素管外面焼入れを施した。その後、冷間圧延と焼なましを交互に3回繰り返し燃料被覆管に成形される。
【0046】
図7より、Fe濃度増加により、実施例1によるジルコニウム基合金は、比較例1による合金に比べて、水素吸収量が0.8になっていることが分かる。平均析出物サイズとFe濃度より、図1を用いて水素吸収特性を予想すると、Fe濃度が0.18質量%から0.26質量%に増加することにより、相対水素濃度が1.1から0.8へ低下することが予想される。この結果は図7の試験結果とよく一致しているとおり、本発明による改良ジルコニウム基合金が現行材よりも水素吸収特性に優れていることが分かる。
【0047】
このように、本発明による改良ジルコニウム基合金を上記ジルカロイ部分に適用することにより、現行のものより特に水素吸収特性に優れた燃料集合体を提供することができる。
【0048】
<実施例2>
図8は、図5中のスペーサを示した図である。スペーサはスペーサセル内に燃料棒を個別に通し、燃料棒を束ねて配列する役割をもっている。現在燃料の高性能化に向け、ウランインベントリーの増加、圧力損失の低減といった観点から、スペーサセルやスペーサバンドには薄肉化が要求されている。現行ではスペーサセル、スペーサバンドともに0.5mm程度のものが主流であるが、次期燃料では0.3〜0.4mm、あるいは更なる薄肉化が計画されている。しかしながら、水素吸収の観点から、材料中の水素濃度は、おおよそ肉厚に半比例して増加し、また材料の延性、強度特性は、水素濃度に大きく支配されることから、現行の水素吸収特性のままでは、更なる薄肉化は困難となっている。このように水素吸収量の低減は、特にスペーサで要求されている。例えば、スペーサの水素吸収量を現行の50%に低減できれば、現行スペーサと同等の延性、強度が保ったまま、肉厚を半減することが可能となるためである。図8に示したように、本発明による合金材料をこのスペーサに適用すれば、水素吸収量が現行の50%となるため、現行では困難であるレベルの薄肉化も可能となる。
【0049】
<実施例3>
図9は、図5中の燃料棒6を示した図である。燃料棒は核分裂反応を起こして発熱する9核燃料物質、それを被覆する被覆管8、プレナム12、上部端栓13および下部端栓14より構成される。図9(a)は燃料棒の斜視図、(b)は横断面図、(c)は縦断面図である。図9において、8は燃料被覆管でその内部に核燃料物質9が収納されている。従来の燃料被覆管8は、ジルカロイ−2製の管10の内側に純ジルコニウムのライナー層11が設けられているが、このうち高耐食性、低水素吸収特性が要求されるジルカロイ−2製の管10部を本発明による改良ジルコニウム合金とすることにより、より耐食性の優れた燃料棒とすることができる。
【0050】
【発明の効果】
本発明によるジルコニウム合金はいずれも耐食性および水素吸収特性に優れており、原子炉用の材料として有用である。特に核燃料要素の燃料被覆管の材料として優れており、被覆管の長寿命化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 図1は、本発明による材料仕様を規定した図(水素吸収量が現行材の60%以下を目標)であり、横軸は添加Fe濃度(質量%)、Y軸は平均析出物サイズ(nm)、Y2軸はΣAiを示す。
【図2】 図2は、本発明による材料仕様を規定した図(水素吸収量が現行材以下を目標)であり、横軸は添加Fe濃度(質量%)、Y軸は平均析出物サイズ(nm)、Y2軸はΣAiを示す。
【図3】 図3は、水素吸収量と平均析出物サイズとの相関を示した図で、横軸は平均析出物サイズ(nm)、縦軸は0.86μm肉厚で規格化した水素吸収量(ppm)である。データは、400℃、10.3MPa水蒸気中×480h腐食試験結果である。
【図4】 図4は、ノジュラー腐食感受性と平均析出物サイズとの相関を示した図で、横軸は平均析出物サイズ(nm)、縦軸は、照射初期における析出物からの照射誘起固溶速度(Fe+Ni:at%/s)を示す。
【図5】 図5は、燃料集合体の構造を示す斜視図である。
【図6】 図6は、沸騰水型原子炉の概略構成を表す模式図である。
【図7】 図7は、400℃、10.3MPa水蒸気中で腐食試験した二つの材料の水素吸収量を比較したものであり、Y軸は水素吸収量の相対値を示す。
【図8】 図8は、スペーサの構造を示す図である。
【図9】 図9は、燃料棒の構造を示す斜視図である。

Claims (1)

  1. Sn 0.5〜2質量%、Fe0.07〜0.6質量%、Ni 0.03〜0.2質量%、Cr 0.05〜0.2質量%で、残部が不可避的不純物を含むジルコニウムから構成された原子炉用ジルコニウム基合金の製造法であって、α+β領域温度からβクエンチ処理後に該ジルコニウム基合金中のFe含有量(X(質量%))および該ジルコニウム基合金のアニーリングパラメータ(ΣAi) が、前記Fe含有量(X)をx軸とし、前記アニーリングパラメータをy軸とする直交座標平面で、(1)30+1.6×10×exp(0.7×log(Y))=−444×X+154、(2)30+1.6×10×exp(0.7×log(Y))=910×X−46、(3)Y=1×10−21、(4)Y=1×10−15および(5)X=0.6の5本の線で囲まれた領域内に存在する熱処理を行うことによって、該ジルコニウム基合金中のFe含有量(X(質量%))および該ジルコニウム基合金における析出物の平均析出物サイズ(Y(nm))が、前記Fe含有量(X)をx軸とし、前記析出物の平均析出物サイズをy軸とする直交座標平面で、(1)Y=−444×X+154、(2)Y=910×X−46、(3)Y=0、(4)Y=300および(5)X=0.6の5本の線で囲まれた領域内に存在するジルコニウム基合金を得ることを特徴とする、ジルコニウム基合金の製造法。
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