JP3978250B2 - テストステロン5α−リダクターゼ阻害剤 - Google Patents

テストステロン5α−リダクターゼ阻害剤 Download PDF

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は,イソラムネチン3−O−ロビノビオシドあるいはその薬学的に許容せられる溶媒和物を有効成分として含有するテストステロン5α−リダクターゼ阻害剤、更にはそれらを用いた排尿障害、前立腺肥大症または前立腺癌の予防剤若しくは治療剤に関する。
【0002】
こで薬学的に許容せられる溶媒としては水,エタノール,n−プロパノール,イソプロパノール,n−ブタノール,イソブタノール,第2ブタノール,第3ブタノール等炭素数2〜4のアルコールまたはこれらの混合物であることが好ましい。
【0003】
【従来の技術】
従来,日本人は欧米人に比べ前立腺疾患の頻度は低いとされてきたが,近年,前立腺肥大症,前立腺癌等の患者は増加している。前立腺肥大症は,男性の加齢と共に前立腺が肥大する疾患で,夜間頻尿,尿勢の減弱,頻尿,排尿中断,残尿感などを伴う。排尿障害の主原因は,前立腺肥大症に伴う肥大した前立腺による尿道の機械的圧迫と,交感神経活性の亢進による前立腺及び尿道の機能的収縮によると考えられる。前立腺肥大症の患者数は,潜在患者を含めると55歳以上の5人に1人といわれるくらい多く,平均寿命の延長,高齢化社会の到来と共に増加傾向にあり,平成7年7月10日の薬事日報によると,2005年の前立腺肥大症患者は1990年の289%に達すると予測されている。そして,前立腺肥大症患者における前立腺癌になる確率は,対照に比べ4倍であるとの報告もある[Armenianら,Lancet,2,p115(1974)]。
【0004】
前立腺肥大症,前立腺癌等の発症または憎悪には過剰なジヒドロテストステロンが関与し,この高いアンドロゲン作用を有するジヒドロテストステロンは,テストステロン5α−リダクターゼの代謝によって男性ホルモンの一種テストステロンがら生じる。また,前立腺及び尿道の機能的収縮に伴う排尿障害は,交感神経の緊張,特に前立腺に多く分布するαC−レセプターによる作用であることがわかっている。よって,テストステロン5α−リダクターゼの阻害及びαC−サブタイプを選択的にブロックする薬剤は,これら前立腺疾患の治療剤として有用である。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
これまで前立腺疾患の治療は,ステロイド性の抗アンドロゲン剤による薬物療法か,α阻害剤など肥大に伴う自覚症状を改善する対症療法,または手術しかなかった。しかし,抗アンドロゲン剤は女性化するために長期使用が不可能であり,性欲の減退やインポテンスを高頻度に併発したり,注射部位の硬結等を高頻度に発現する。また,α遮断剤では,血管のα受容体の阻害によるめまい,血圧降下等が報告されている[薬局,45(6),p1385(1994);ibidem,45(6),p1393(1994)]。
【0006】
最近,特異的なα遮断薬としてタムスロシンが開発されたが[化学と工業,48(9),p1060(1995)],急速な薬物血中濃度の上昇を避けるための投与形態の問題が指摘されている。また,ステロイド構造を有する薬物,フィナステリド(MK−906,Merck,米国特許4760071)が開発中であるが,好ましくないホルモン様副作用がある。よって,ステロイド構造を有さない非ステロイド性の治療剤として,テストステロン5α−リダクターゼ阻害剤は,血中テストステロンが低下,中枢抑制,性生活に及ぼす影響の副作用が少なく,効果が優れ,かつ投与形態の適用が容易等の理由で,開発が望まれている。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは,長年にわたる天然の抽出物中の有効成分やその薬理作用の研究に基づき,前立腺肥大症の原因酵素であるテストステロン5α−リダクターゼ阻害作用を有する物質を提供すべく鋭意研究を重ねた結果,臨床で前立腺肥大症治療に効果を示した生薬サボテン[Opuntia ficus - indica (L.) Miller]の花から単離・精製された化合物の中のフラボノイド誘導体であるイソラムネチン3−O−ロビノビオシドに,前立腺肥大症の原因酵素であるテストステロン5α−リダクターゼを強く阻害する作用があることを見出し,本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明が対象とする化合物はフラボノイド誘導体であって,化学名イソラムネチン3−O−ロビノビオシド(Isorhamnetin 3- O- robinobioside)であり,この化合物は,強力なテストステロン5α−リダクターゼ阻害作用を有し,また利尿作用,抗炎症作用等も有している。よって,前立腺肥大症及びそれに伴う排尿障害,前立腺癌等の治療並びに予防に有用である。
【0011】
テストステロン5α−リダクターゼ阻害作用を有するフラボノイド誘導体は既にいくつか報告されているが(特開平 1-96126号,特開平 7-17858号),本発明化合物は,これらと構造的に異なった化合物である。
【0012】
すなわち,本化合物の特徴は,フラボノイドの2位フェニル置換基の3’−メトキシ基の存在にあり,この置換基が無いか或いは水酸基である対応化合物,例えば,ケンフェリン,ケンフェロール,ムルチフロリン,ケルセチン,ケルシトリン,ルチン,ヒペリン等のフラボノイド誘導体より数段高い活性を有する。
【0013】
このフラボノイド誘導体は,天然の植物から単離・精製したものであっても,化学的に合成したものであっても同等のテストステロン5α−リダクターゼ阻害活性を有している。
【0014】
天然の植物から単離・精製する場合には,一般に,植物を0〜100℃,好ましくは室温から35℃で,極性溶媒例えば水,エタノール,n−プロパノル,イソプロパノール,n−ブタノール,イソブタノール,第2ブタノール,第3ブタノール等炭素数2〜4のアルコール類,アセトン,酢酸メチル,酢酸エチル,酢酸イソアミル等の酢酸エステル,アセトニトリル,ジメチルホルムアミド,ジメチルアセトアミド,ジメチルスルホキシド,N−メチルピロリドン,ヘキサメチルホスファミド等、とくに好ましくは水、メタノール、エタノール、イソプロパノールまたはそれらの混合物で抽出し,カラムクロマトグラフィーにより分画した後,ペーパークロマトグラフィー,薄層クロマトグラフィー,又は,高速液体クロマトグラフィーにより単離・精製する方法が用いられる(一般のフラボノイド類の抽出単離法[Ishikura and Yang,Z.Naturforsch.,45c,1081(1990)])。この場合,所望により薬学的に許容せられる溶媒中で再結晶して精製することが出来、また結晶は溶媒和物として得られることもある。
【0015】
合成する場合は,一般に対応する有機酸等から縮合剤の存在下でフラボノイド骨格を構築し,次いで,特異酵素を使ってフラボノイドアグリコンから対応する配糖体を容易に合成することができる(フラボノイド類の合成一般法[Ishikura and Yang,Z.Naturforsch.,46c,p1003(1991);ibidem,48c,p563(1993);Phytochemistry,36(5),p1139(1994)])。
【0016】
本化合物はそのままか,あるいは慣用の製剤担体と共に動物および人に投与することができる。投与形態としては,特に限定がなく,必要に応じ適宜選択して使用され,錠剤,カプセル剤,顆粒剤,細粒剤,散剤等の経口剤,及び注射剤,坐剤等の非経口剤が挙げられる。
【0017】
以下,本発明についてさらに説明するために具体例を示す。
【0018】
【実施例1】
単離,同定:
Ishikura and Yangの方法[Z.Naturforsch.,45c,p1081(1990)]に従って,生薬サボテン[Opuntiaficus−indica(L.)Miller]の乾燥した花(700g)をメタノール2l抽出し濃縮した。その残渣(63.18g)を石油エーテル1.5l,次いでジエチルエテル2lで洗浄した後,水を溶媒としてポリアミドを担体としたカラムクロマトグラフィーに付し,主波長360nmのUVランプの紫外線で黄色に発色する画分を分取した。得られた画分に対して0.2Mリン酸緩衝液(pH7.0)を溶媒として,DEAE−Sephacelを担体としたカラムクロマトグラフィーに付し,前記と同様に紫外線で発色する画分を分取した。更に得られた画分を,東洋ろ紙(No.51A)を用いてペーパークロマトグラフィーに付し,60%酢酸を溶媒として展開した後,Rf値0.85付近を切取り、その画分を更に薄層クロマトグラフィーに付し,n−ブタノール;酢酸:水(4:1:5)の溶液で展開し,Rf値0.67付近のスポットをかきとった。このかぎとり部分にメタノールを加えて混和した後,濾過し,ろ液を濃縮乾固し,6.09g の乾固物を得た。この乾固物をジオキサン:水(1:1)の溶液で4回再結晶を行い,淡黄色針状結晶670mgの目的物を得た。
【0019】
構造決定は,完全加水分解により得られたアグリコンと結合糖の同定,ペーパークロマトグラフィー,及び薄層クロマトグラフィーにおけるRf値,UV吸収スペクトル,部分加水分解等による糖結合位置とその結合様式の同定,及び元素分析,紫外吸収スペクトル,赤外分光分析,H−核磁気共鳴分析,13C−核磁気共鳴分析,質量分析(SIMS),熱分析等により,イソラムネチン3−O−ロビノビオシドと同定した。
【0020】
この化合物の物理化学性質を以下に示す。
融点:163.4〜168.5℃
Figure 0003978250
Figure 0003978250
【0021】
Figure 0003978250
【0022】
Figure 0003978250
【0023】
【実施例2】
(1)テストステロン5α−リダクターゼの調製:
成熟したSprague−Dawley(SD)系雄性ラット(11週齢以上)を屠殺して腹部切開し,前立腺を摘出した。前立腺周囲の脂肪組織及び皮膜を取り除いた後,0.32M ショ糖,1.0mM ジチオスレイトールを含む200mM カリウム−リン酸緩衝液(pH6.5)を加え,細胞破砕機でホモジナイズした。得られたホモジネートを遠心分離により分画して,3,000×gと147,600×gのミクロソーム画分を得,それぞれを20%グリセロール2ml,0.25M ショ糖及び0.1mMジチオスレイトールを含む20mMカリウムーリン酸緩衝液(pH6.5)に懸濁し粗酵素液とした。これをそれぞれセファデックスG−100カラムで精製し,酵素液,としてテストステロン5α−リダクターゼの活性測定に供した。
【0024】
(2)テストステロン5α−リダクターゼの活性測定:
50nM NADPH,0.67nM [14C]テストステロン,20μl酵素液,20mMカリウムーリン酸緩衝液(pH6.5)及び本化合物を加え,総量を120μlとした。反応は酵素液を加える時点からスタートし,30℃で2時間反応させた。20μlの6N塩酸で反応を終了させた後,400μlの酢酸エチル(またはn−ヘキサン)を加え,反応物と生成物を抽出した。薄層クロマトグラフィーで[14C]テストステロンと[14C]5α−ジヒドロテストステロン を分離し,液体シンチレーションカウンターで,[14C]テストステロンと[14C]5α−ジヒドロテストステロンの放射活性をそれぞれ測定した。
【0025】
(3)阻害率の計算法:
阻害率(%)は,本化合物を加えない以外は上記と同様にしたものを対照として.下式により算出した。
【0026】
【数1】
Figure 0003978250
【0027】
上記の数式において,Aは本化合物を加えない場合の5α−ジヒドロテストステロン生成量,Bは本化合物を加えた場合の5α−ジヒドロテストステロン生成量である。
【0028】
【発明の効果】
本化合物は,フラボノイドの2位のフェニル置換基の3’位にメチル基の無い対照化合物,ケンフェロール,ケルセチンより数段高い活性を有し,前立腺肥大の原因酵素であるテストステロン5α−リダクターゼを用量依存的に強力に阻害した(表1)。
【0029】
【表1】
Figure 0003978250
【0030】
【実施例3】
ラット前立腺に対する縮小作用:
老齢雄性SDラット(36週齢,650g)に本化合物を21日間経口投与した。その結果,前立腺の腹部葉及び背部葉の重量は,投与量1.8mg/kg/日以上で,対照群に比し有意に減少した(表2)。
【0031】
【表2】
Figure 0003978250
【0032】
【実施例4】
テストステロン5α−リダクターゼの阻害作用:
本化合物を老齢雄性SDラット(36週齢,650g)に21日間,投与量0.0,0.6,1.8,5.4mg/kg/日で経口投与し,前立腺の腹部葉及び背部葉を摘出し,それぞれのテストステロン5α−リダクターゼの酵素活性を測定した。その結果,投与量0.6mg/kg/日以上で,酵素活性は対照群に比し有意に減少した(図1)。
【0034】
一方,他の臓器(精嚢,副腎,脳下垂体等)の重量,体重及び病理組織学的所見に著変は認めらず,本化合物は内因性及び外因性テストステロンによる前立腺肥大を特異的に抑制することが示された。
【0035】
【実施例5】
摘出膀胱に対する作用:
摘出した膀胱の自動運動に対して,本化合物は、10−5Mの濃度では明かな影響を及ぼさなかったが,10−3Mに濃度で膀胱の緊張性は軽度低下した。また,本化合物10−5Mを,収縮剤であるアセチルコリン(10−5M)と同時に添加すると,その収縮強度はアセチルコリン単独添加より1.5〜2倍高かった。
更に,5.4mg/kg/日の用量で本化合物を21日間経口投与した老齢雄性SDラットの膀胱を摘出して,その自動運動を測定した。その結果,生理食塩水だけ投与した対照群より2倍以上の弛緩強度が見られた。
【0036】
以上の結果から,本化合物は,膀胱に対しては直接的に作用して弛緩させ,尿容量が増加できると同時に,コリン作動性及び筋親和性の作用と異なる機序で膀胱の収縮を促し,排尿機能を改善させるものと考えられる。
【0037】
【実施例6】
浮腫に対する作用:
本化合物をSDラットに経口投与し,1時間後に起炎物質である卵白アルブミンを皮下投与して,容積法を用いて浮腫を測定した結果,卵白アルブミンの急性浮腫に対し,本化合物5.4mg/kgの経口投与により,4.6〜12.2%の抑制作用を示した。
【0038】
【実施例7】
肉芽増殖抑制作用:
1.5mgのカナマイシンを含有する0.3mlの生理食塩液を浸漬した濾紙ペレットをSDラットに皮下挿入した後,本化合物を7日間経口投与した結果,濾紙ペレット法による肉芽増殖に対し,本化合物5.4mg/kg日により,湿潤重量で17.6%,乾燥重量で15.1%の抑制作用を認めた。
【0039】
【実施例8】
毒性試験:
次に,本化合物の急性毒性試験をICR系雄性マウスを用いて行った結果,1.0g/kgの経口投与で死亡例はなく,安全性の高い薬物であった。
このように,本化合物は極めて毒性が低く,安全性の高いものである。
【0040】
【実施例9】
カプセル剤の製造例:
【0041】
【表3】
Figure 0003978250
【0042】
本化合物,乳糖及びデキストリンを均一に混合し,圧縮成型したのち粉砕し,ステアリン酸マグネシウムを混ぜた表3に示す処方の混合物を3号硬ゼラチンカプセルに充填し,カプセル剤を製造した。この1カプセルには,本化合物20mgが含有されている。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は,SDラットに,本化合物を投与量,0.0,0.6,1.8,5.4mg/kg/日で21日間経口投与した後,前立腺の腹部葉及び背部葉を摘出し,それぞれのテストステロン5α−リダクターゼの酵素活性を測定した時の結果である。

Claims (2)

  1. イソラムネチン3−O−ロビノビオシドあるいはその薬学的に許容せられる溶媒和物を有効成分として含有するテストステロン5α−リダクターゼ阻害剤。
  2. 排尿障害、前立腺肥大症または前立腺癌のいずれかの予防若しくは治療に用いられるためのものであることを特徴とする請求項1記載のテストステロン5α−リダクターゼ阻害剤。
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