JP3975730B2 - スクロール圧縮機 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ポンプとして用いられるスクロール圧縮機に関し、詳しくは可動スクロールと固定スクロールの羽根間の隙間を小さくしてポンプ効率を向上させ、羽根の接触による騒音を低減するのに適したスクロール圧縮機に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来のスクロール圧縮機として、鏡板の一面側に渦巻状の可動羽根を有する可動スクロールと、上記可動羽根と対向する渦巻状の固定羽根を有する固定スクロールとを羽根の側面同士が対向するように配置すると共に、モータの動力をモータシャフトを中心とする可動スクロールの公転運動に変換するための駆動伝達機構と、可動スクロールの公転時に可動スクロールの自転を防止するための自転防止機構とを設け、可動スクロールを自転を伴うことなく公転させることで可動羽根と固定羽根との間に形成される密閉空間を渦巻の外側から中心側へ移動させて容積を逐次縮小させて圧縮した後に吐出口から圧縮空気を吐出させるようにしたものが知られている。
【0003】
この種のスクロール圧縮機においては、可動スクロールと固定スクロールの羽根間の隙間が大きくなるとポンプの効率が低下するため、上記隙間を小さくするようにしているが、例えばモータに可動スクロールと固定スクロールとを順に組み付ける際に高い組み立て精度が必要となり、隙間を小さくすることはきわめて困難である。
【0004】
また従来、特開2000−46046号や、特開平1−167781号には、可動スクロールの公転を拘束する案内機構を設けて、可動スクロールの公転運動を案内機構の基準により行うようにしたものが開示されている。しかしこのように可動スクロールの公転運動が案内機構の基準により行われる場合にあっては、固定スクロールの取付け基準と可動スクロールの公転基準の誤差を小さくするために、各部品の高い加工精度が必要となる。
【0005】
また、他の従来例として、特開平11−257253号のように、羽根のラジアル方向に板バネによるコンプライアンス機能を持たせることにより、羽根の側面同士を接触させて隙間をなくし、これによりポンプの効率を向上させたものが知られているが、この従来例では、羽根同士の接触は、公転運動の中で、羽根の内側(公転中心側)が接触する時と外側が接触する時があり、連続した接触ではない。そのために羽根同士の衝突音がスクロール圧縮機の騒音の原因となっていた。
【0006】
更に他の従来例として、実開平4−91292号には、図12に示すように、固定スクロール3に可動スクロール2の鏡板端面9aに対向する傾斜防止用ガイド40を設け、可動スクロール2が公転時に傾斜するのを防止するようにしたものが知られているが、この傾斜防止用ガイド40にあっては、可動スクロール2をスラスト方向Bに傾くのを防止するためのものにすぎず、可動羽根4と固定羽根(図示せず)との接触を防止するものとは異なっている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記の従来例の問題点に鑑みて発明したものであって、その目的とするところは、各部品の高い組み立て精度や加工精度を必要とせずに、可動スクロールと固定スクロールの羽根同士の接触を容易に防止でき、騒音の低減及びポンプ効率の向上を図ることができるスクロール圧縮機を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために本発明にあっては、鏡板9の一面側に渦巻状の可動羽根4を有する可動スクロール2と、上記可動羽根4と対向する渦巻状の固定羽根5を有する固定スクロール3とを羽根4,5の側面同士が対向するように配置すると共に、モータ11の動力をモータシャフト12を中心とする可動スクロール2の公転運動に変換するための駆動伝達機構8と、可動スクロール2の公転時に可動スクロール2の自転を防止するための自転防止機構7とを設け、可動スクロール2を自転を伴うことなく公転させることで可動羽根4と固定羽根5との間に形成される密閉空間15を渦巻の外側から中心側へ移動させて容積を逐次縮小させて圧縮した後に吐出口16から圧縮空気を吐出させるようにしたスクロール圧縮機において、可動スクロール2の公転時に可動羽根4と固定羽根5とが互いに接触しないように可動スクロール2の鏡板端面9aを案内するための案内部6を固定スクロール3に設けたことを特徴としており、このように構成することで、可動スクロール2の公転時に可動スクロール2と固定スクロール3の羽根4,5の側面同士が接触するのを鏡板端面9aが案内部6に摺接することによって防止でき、羽根4,5の側面同士の接触による騒音防止を図ることができると共に、案内部6を固定スクロール3に設けたことで、固定スクロール3の固定羽根5と案内部6とを一括して製作できるようになり、羽根4,5間の隙間35の精度が出しやすくなり、ポンプの効率を向上させることができる。
【0009】
また上記可動スクロール2の鏡板端面9aの外周形状を円形にすると共に、固定スクロール3の案内部6の形状を、可動スクロール2の鏡板半径rbと可動スクロール2の公転半径rcとを加えた値を半径raとする円形にしたことを特徴とするのが好ましく、この場合、可動スクロール2の公転時に可動スクロール2の鏡板端面9aを固定スクロール3の案内部6に対して連続的にしかも確実に摺接させることができるようになる。
【0010】
また上記可動スクロール2の鏡板端面9aと固定スクロール3の案内部6との摺接面を、可動スクロール2及び固定スクロール3の板面f,f’と直交する面に対してそれぞれ略等しい角度で傾斜させたことを特徴とするのが好ましく、この場合、可動スクロール2の公転に伴うラジアル方向Aの移動により鏡板端面9aが案内部6に摺接する際に、鏡板端面9aが案内部6に摺接するときの圧力がラジアル方向Aの力とスラスト方向Bの力とに分散され、これによりラジアル方向Aに移動する鏡板端面9aと案内部6との摺接面の磨耗を低減できる。
【0011】
また上記可動スクロール2の鏡板端面9a部分を形成する材料と、鏡板端面9a部分以外の鏡板本体部分9b及び可動羽根4を形成する材料とが異なる材料からなり、これら異なる材料で鏡板端面9a部分と鏡板本体部分9bと可動羽根4とを一体化することで可動スクロール2が形成されていることを特徴とするのが好ましく、この場合、案内部6と鏡板端面9a部分の摺接面の材料として、例えば耐摩耗性、低摩擦材料を用いれば摺接面の摩耗量を低減を図ることができ、例えば樹脂材料を用いれば、摺接面の密着性を向上させることが可能となる。
【0012】
また上記可動スクロール2の鏡板端面9aと固定スクロール3の案内部6と摺接面の少なくとも一方に、可動スクロール2及び固定スクロール3を形成する材料とは異なる材料からなる摺動部材30をインサート成形したことを特徴とするのが好ましく、この場合、可動スクロール2の鏡板端面9a部分に、例えば耐摩耗性、低摩擦材料からなる摺動部材30をインサート成形することで摩耗量を低減できるようになる。
【0013】
また上記固定スクロール3に設けられる案内部6は、可動スクロール2の公転に伴うラジアル方向Aの力を受けるラジアル受け面6aと、可動スクロール2のスラスト方向Bの力を受けるスラスト受け面6bとで構成されていることを特徴とするのが好ましく、この場合、可動スクロール2におけるラジアル方向Aとスラスト方向Bのそれぞれの位置規制が同一部品(固定スクロール3)内に一体的に設けられるので、羽根4,5間の隙間35の管理がしやすくなる。
【0014】
また上記モータ11の動力をモータシャフト12を中心とする可動スクロール2の公転運動に変換するための駆動伝達機構8は、可動スクロール2の公転時に可動スクロール2がラジアル方向Aのみに移動可能となるように可動スクロール2の駆動軸10を偏心カム13に係合させる係合手段20を備えていることを特徴とするのが好ましく、この場合、モータシャフト12に対して可動スクロール2はラジアル方向Aに移動可能に係合しているため、可動スクロール2の公転時にその鏡板端面9aを固定スクロール3の案内部6に対して確実に摺接させることができる。
【0015】
また上記係合手段20は、可動スクロール2の公転時の遠心力により可動スクロール2の鏡板端面9aが固定スクロール3の案内部6に摺接するように可動スクロール2をモータシャフト12に係合させることを特徴とするのが好ましく、この場合、可動スクロール2の公転時の遠心力によって可動スクロール2の鏡板端面9aと固定スクロール3の案内部6とが連続的に摺接することとなり、騒音防止を図ることができる。
【0016】
また上記係合手段20は、可動スクロール2の公転時に可動スクロール2をラジアル方向Aへ押圧して可動スクロール2の鏡板端面9aと固定スクロール3の案内部6とを摺接状態で保持するための弾性体21を備えていることを特徴とするのが好ましく、この場合、弾性体21を設けるだけの簡単な構造で、衝突音をより一層低減できるようになる。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を添付図面に示す実施形態に基づいて説明する。
【0018】
本実施形態のスクロール圧縮機1は、外周側に吸気口(図示せず)、中心部に吐出口16を配置し、吸気口から吸い込んだ空気を吐出口16から吐出するようにしたものであり、具体的には図2、図3に示すように、モータ11の外郭には有底円筒形状をしたハウジング14が取り付けられており、モータシャフト12にはモータシャフト12の中心から所定量偏心した位置に係合孔17を有する偏心カム13が取り付けられており、この偏心カム13の係合孔17に、可動スクロール2の下面から突出した駆動軸10が係合している。図2中の10aはころであり、駆動軸10の外周に取り付けられている。この駆動軸10は可動スクロール2の鏡板9の中心から偏心して設けられており、この駆動軸10とモータシャフト12とを偏心カム13を介して連結することで、モータ11の動力をモータシャフト12を中心とする可動スクロール2の公転運動に変換するための駆動伝達機構8が構成されている。つまり伝達機構8は、図2に示すように、モータシャフト12に取り付けられる偏心カム13と、可動スクロール2に設けられる駆動軸10とからなる。
【0019】
可動スクロール2の鏡板9の上面には渦巻状の可動羽根4が設けられ、固定スクロール3には上記可動羽根4と対向する渦巻状の固定羽根5が設けられており、可動羽根4と固定羽根5との間に密閉空間15(図11)が形成されるように、羽根4,5の側面同士が対向して配置されている。なお、固定スクロール3はその外周下面をハウジング14の外周上面に当てた状態で、固定ネジ(図示せず)によってハウジング14に固着されている。このハウジング14は別の固定ネジ18によってモータ11の外郭に固着されている。
【0020】
可動スクロール2とハウジング14との間には、可動スクロール2の公転時に可動スクロール2の自転を防止するための自転防止機構7としてオルダムリング7a(図2)が配置されている。オルダムリング7aは、図3に示すように、ハウジング14にラジアル方向Aに沿って設けたオルダムリング溝19にスライド自在に係合する下側係合部23と、可動スクロール2の鏡板9の下面にラジアル方向Aに沿って設けたオルダムリング溝24にスライド自在に係合する上側係合部25とが設けられており、このオルダムリング7aによって後述のように可動スクロール2の自転運動が防止され、可動スクロール2は公転動作のみが可能となっている。
【0021】
また、上記固定スクロール3には、図1に示すように、可動スクロール2の鏡板端面9aを案内するための案内部6が設けられており、可動スクロール2の公転時にその鏡板端面9aが案内部6に摺接することで、可動羽根4と固定羽根5とが互いに接触しない構造となっている。ここで図4において、可動スクロール2の鏡板端面9aの寸法と案内部6の寸法の一例を示している。ここでは、可動スクロール2の鏡板端面9aの外周形状を円形とし、固定スクロール3の案内部6の形状を、可動スクロール2の鏡板半径rbと可動スクロール2の公転半径rcとを加えた値を半径ra(=rb+rc)とする円形としている。このように、案内部6の半径raを可動スクロール2の鏡板半径rbと可動スクロール2の公転半径rcとを加えた値にすることで、可動スクロール2の鏡板端面9aを固定スクロール3の案内部6に対して、連続的に摺接させることができるようになっている。ここにおいて案内部6と鏡板端面9aの摺接面の少なくとも一方を、耐摩耗性材料或いは低摩擦材料を用いて形成するのが望ましい。また、摺接面にグリースや油などの潤滑材の塗布や低摩擦材をコーティングしてもよい。なお、図4では羽根4,5の側面同士が接触した状態を図示しているが、実際は図1(a)のように羽根4,5間には隙間35が形成されているものであり、このことは後述の他の各実施形態を示す図5〜図8においても同様である。
【0022】
次に、上記構成のスクロール圧縮機1の動作を説明すると、モータシャフト12が回転することにより、偏心カム13はモータシャフト12に対して公転運動を行う。このとき、可動スクロール2も偏心カム13の運動に従い、モータシャフト12に対して公転運動を行うが、このとき可動スクロール2はオルダムリング7aによってその自転を抑制されているので、固定スクロール3に対して公転運動のみを行う。この公転運動を繰り返すことにより、図11に示すように、吸気口から吸引された空気が密閉空間15で連続的に圧縮されて、可動羽根4と固定羽根5との間に形成される密閉空間15を渦巻の外側から中心側へ移動させて容積を逐次縮小させて圧縮して、吐出口16(図2)から圧縮空気を吐出させることができるものである。
【0023】
しかして、固定スクロール3に設けた案内部6に対して可動スクロール2の鏡板端面9aを摺接させることで、可動スクロール2と固定スクロール3の羽根4,5の側面同士を接触させないようにしているので、羽根4,5の側面同士の接触による騒音防止を図ることができ、ポンプの騒音を低減できる。さらに図4に示すように、案内部6の半径raを可動スクロール2の鏡板半径rbと可動スクロール2の公転半径rcとを加えた値にすることで、可動スクロール2の鏡板端面9aを固定スクロール3の案内部6に対して、連続的に摺接させることができるようになり、可動スクロール2と固定スクロール3の衝突音をより一層低減することができる。また、案内部6を固定スクロール3に設けているため、モータ11に可動スクロール2と固定スクロール3とを順に組み付ける際に高い組み立て精度が必要なくなる。つまり、組み立て精度を高めなくても、固定スクロール3の案内部6によって可動スクロール2の公転に伴うラジアル方向Aの移動範囲が規制されるため、羽根4,5間の隙間を小さくすることがきわめて容易となる。そのうえ、可動スクロール2の可動羽根4と鏡板本体部分9b及び鏡板端面9a部分を一括して製作でき、さらに固定スクロール3の固定羽根5と案内部6とを一括して製作できることから、羽根4,5間の隙間35の精度が出しやすくなり、これにより羽根4,5間の隙間35を小さくすることが容易となり、ポンプの効率を一層向上させることができる結果、低騒音で高効率のスクロール圧縮機1を提供できるようになる。
【0024】
図5は更に他の実施形態として、上記可動スクロール2の鏡板端面9aと固定スクロール3の案内部6との摺接面を、可動スクロール2及び固定スクロール3の板面f,f’(或いは板面f,f’と直交する面)に対してそれぞれ略等しい角度θ,θ’で傾斜させた場合の一例を示している。他の構成は図1の実施形態と同様であり、異なる点だけを述べる。本例では、可動スクロール2の鏡板端面9aは上端から下端にいくほど外側に向かって突出するような傾斜角度θでテーパー状に形成されており、固定スクロール3の案内部6は上記鏡板端面9aと略等しい角度θ’(θ≒θ’)でテーパー状に形成されている。これにより、可動スクロール2の公転に伴うラジアル方向Aの移動により鏡板端面9aが案内部6に摺接する際に、鏡板端面9aが案内部6に摺接するときの圧力がラジアル方向Aの力とスラスト方向Bの力とに分散され、これによりラジアル方向Aに移動する鏡板端面9aとこれを受ける案内部6との摺接面の磨耗を効果的に低減できるようになる。
【0025】
図6は更に他の実施形態として、上記可動スクロール2を形成する材料の一例を示している。他の構成は図1の実施形態と同様であり、異なる点だけを述べる。本例では、可動スクロール2の鏡板端面9a部分を形成する材料と、鏡板端面9a部分以外の鏡板本体部分9b及び可動羽根4を形成する材料とが異なる材料2a,2bからなり、これら異なる材料で鏡板端面9a部分と鏡板本体部分9bと可動羽根4とを一体化することで可動スクロール2が形成されている。ここにおいて、鏡板本体部分9bや可動羽根4を形成する材料2aとしては、例えばアルミや亜鉛等の金属材料や、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂等の合成樹脂を使用することができる。特に量産性に優れている合成樹脂を用いるのが好ましい。この場合、合成樹脂には成形精度を高めたり、使用環境による寸法精度を高めるためにシリカやガラスビーズやガラス繊維等の無機充填材を充填するのが好ましい。一方、案内部6に摺接する鏡板端面9a部分の材料2bとして、例えば網状に青銅粉末を多孔質に焼結後、PTFEを含浸させた材料のようなもの、例えば金属に有機潤滑剤を含浸させた金属材料を使用でき、或いは炭素繊維や四フッ化エチレン樹脂(PTFE)や二硫化モリブデン等の潤滑助剤を含有させた合成樹脂を使用できる。このように、固定スクロール3の案内部6に摺接する可動スクロール2の鏡板端面9a部分の材料2bとして、耐摩耗性、低摩擦材料を使用することで、摺接面の摩耗量を低減でき、寿命の向上させることができるようになり、特に樹脂材料を用いれば、固定スクロール3の案内部6との密着性を向上させることができるものである。
【0026】
図7は更に他の実施形態として、上記可動スクロール2の鏡板端面9aと固定スクロール3の案内部6と摺接面の少なくとも一方に、可動スクロール2及び固定スクロール3を形成する材料とは異なる材料からなる摺動部材30をインサート成形した場合を示している。他の構造は図1の実施形態と同様であり、異なる点だけを述べる。本例では、可動スクロール2の鏡板端面9aに可動スクロール2の鏡板本体部分9bを形成する材料とは異なる材料からなる摺動部材30がインサート成形されている。インサート方法としては、あらかじめ作製した可動スクロール2に対して合成樹脂からなる摺動部材30を射出成形においてインサート成形する方法、或いは可動スクロール2を合成樹脂を用いて金型に射出成形し、続いてその金型を回転させて他のノズルから可動スクロール2の鏡板端面9a部分に摺動材料を射出成形して摺動部材30を形成する方法を用いることができる。しかして、可動スクロール2の鏡板端面9a部分に、耐摩耗性、低摩擦材料からなる摺動部材30をインサート成形することで、摩耗量を低減し、寿命の向上させることができるものであり、特に、金属材料からなる摺動部材30を用いることで、スクロールを形成する材料との密着性を向上させることができる。なお図7の他例として、固定スクロール3の案内部6側に、固定スクロール3を形成する材料とは異なる材料からなる摺動部材30をインサート成形してもよいものである。
【0027】
図8は更に他の実施形態として、上記固定スクロール3に設けられる案内部6が、可動スクロール2の公転に伴うラジアル方向Aの力を受けるラジアル受け面6aと、可動スクロール2のスラスト方向Bの力を受けるスラスト受け面6bとで構成されている場合を示している。他の構成は図1の実施形態と同様であり、異なる点だけを述べる。本例では、図8に示すように、可動スクロール2をスラスト方向Bに押圧するためのスラスト力を発生させるコイルバネ32が設けられている。コイルバネ32の一端と可動スクロール2の鏡板9下面との間には耐摩耗、低摩擦材料からなる摺動材31が介在されている。コイルバネ32の他端はハウジング14の凹所50(図2)に挿入されてバネ受け板51にて支持されている。固定スクロール3の案内部6の上面は、可動スクロール2のスラスト方向Bの力を受けるスラスト受け面6bとなっており、このスラスト受け面6bと摺動材31との間に鏡板端面9a部分が挟まれており、この状態で可動スクロール2が公転するようになっている。また、案内部6の垂直面は、可動スクロール2の公転に伴うラジアル方向Aの力を受けるラジアル受け面6aとなっており、可動スクロール2の公転に伴うラジアル方向Aへの移動を一定範囲内で規制できるようになっている。
【0028】
しかして、ラジアル受け面6aとスラスト受け面6bとが一体となった案内部6を固定スクロール3に設けることにより、可動スクロール2におけるラジアル方向Aとスラスト方向Bのそれぞれの位置規制が同一部品(固定スクロール3)内に一体的に設けられるようになり、羽根4,5間の隙間35(図1(a))が小さくなるように管理がしやすくなり、ひいてはポンプの効率向上につながる。さらに、固定スクロール3の案内部6のスラスト受け面6bに向かって可動スクロール2の鏡板端面9a部分を摺動材31を介してコイルバネ32で押圧するようにしたので、摩擦による機械ロスを低減しながら、可動スクロール2の安定した公転運動ができるという利点もある。
【0029】
図9は、本発明の更に他の実施形態であり、図2、図3に示すモータ11の動力をモータシャフト12を中心とする可動スクロール2の公転運動に変換するための駆動伝達機構8が、可動スクロール2の公転時に可動スクロール2がラジアル方向Aのみに移動可能となるように可動スクロール2の駆動軸10を偏心カム13に係合させる係合手段20を設けた場合を示している。他の構成は図2、図3の実施形態と同様であり、異なる点だけを述べる。本例では、モータシャフト12に取り付けられる偏心カム13に、可動スクロール2の駆動軸10が係合する係合孔17が設けられている。この係合孔17は偏心カム13の中心側から外周側に向かって可動スクロール2のラジアル方向Aと平行に長く延びた長孔からなり、この長孔からなる係合孔17に沿って可動スクロール2の駆動軸10がスライド可能に挿入されている。そして、モータシャフト12(図2)により偏心カム13が回転して可動スクロール2が公転運動をするとき、可動スクロール2の公転に伴う遠心力により駆動軸10がラジアル方向Aに向かって係合孔17の外端側に移動して可動スクロール2の鏡板端面9aが固定スクロール3の案内部6に摺接して羽根4,5の側面同士を接触しない状態で保持できるようになっている。
【0030】
しかして、可動スクロール2の公転時の遠心力によって可動スクロール2の鏡板端面9aが固定スクロール3の案内部6に必ず摺接することとなり、しかもこの摺接は連続的なものとなるので、可動スクロール2と固定スクロール3との衝突音をなくすことができ、スクロール圧縮機1の低騒音化を図ることができる。しかも駆動軸10を係合する係合孔17を長孔に形成するだけでよいので、構造が簡単になるという利点もある。ちなみに従来では、羽根4,5間の隙間の精度を高めるためには、可動スクロール2と固定スクロール3の加工精度を高めたり、モータ11に対する固定スクロール及び可動スクロールの組み立て精度を高める必要がある。これに対して本発明では、羽根4,5間の隙間を管理する案内部6を固定スクロール3に設けているため、可動スクロール2と固定スクロール3の加工精度を高めるだけで、羽根4,5間の隙間精度を容易に高めることができるものであり、組み立て精度は要求されないという利点がある。
【0031】
図10は、図9の変形例であり、可動スクロール2の公転時に可動スクロール2をラジアル方向Aへ押圧して可動スクロール2の鏡板端面9aと固定スクロール3の案内部6とを摺接状態で保持するための弾性体21を備えている場合を示している。他の構成は図9の実施形態と同様であり、異なる点だけを述べる。本例では、偏心カム13の係合孔17内には、可動スクロール2の駆動軸10を係合孔17の外周側に向かって弾性押圧するためのコイルバネからなる弾性体21が設けられている。しかして、可動スクロール2の鏡板端面9aは弾性体21のバネ力によって常に固定スクロール3の案内部6と摺接する方向に押圧されて鏡板端面9aと案内部6とが必ず摺接されるようになり、これによって可動スクロール2と固定スクロール3との摺接が連続的なものなり、固定スクロール3と可動スクロール2との衝突音を低減できるものであり、さらに係合孔17に弾性体21を取り付けるだけでよいので、より簡単な構造で低騒音化を達成できるものである。
【0032】
【発明の効果】
上述のように請求項1記載の発明にあっては、可動スクロールの公転時に可動羽根と固定羽根とが互いに接触しないように可動スクロールの鏡板端面を案内するための案内部を固定スクロールに設けたので、可動スクロールの公転時に可動スクロールと固定スクロールの羽根の側面同士が接触するのを鏡板端面と案内部との摺接によって防止でき、羽根の側面同士の接触による騒音防止を図ることができ、ポンプの騒音を低減できる。しかも案内部を固定スクロールに設けているため、固定スクロールの固定羽根と案内部とを一括して製作できるようになり、羽根間の隙間の精度が出しやすくなり、これにより羽根間の隙間が小さくできて、ポンプの効率を向上させることができる結果、低騒音で高効率のスクロール圧縮機を提供できるものである。
【0033】
また請求項2記載の発明は、請求項1記載の効果に加えて、上記可動スクロールの鏡板端面の外周形状を円形にすると共に、固定スクロールの案内部の形状を、可動スクロールの鏡板半径と可動スクロールの公転半径とを加えた値を半径とする円形にしたので、可動スクロールの公転時には可動スクロールの鏡板端面を固定スクロールの案内部に対して連続的にしかも確実に摺接させることができるようになり、可動スクロールと固定スクロールの衝突音を一層低減することができる。
【0034】
また請求項3記載の発明は、請求項1記載の効果に加えて、上記可動スクロールの鏡板端面と固定スクロールの案内部との摺接面を、可動スクロール及び固定スクロールの板面と直交する面に対してそれぞれ略等しい角度で傾斜させたので、可動スクロールの公転に伴うラジアル方向の移動により鏡板端面が案内部に摺接する際に、鏡板端面が案内部に摺接するときの圧力がラジアル方向の力とスラスト方向の力とに分散され、これによりラジアル方向に移動する鏡板端面と案内部との摺接面の磨耗を低減できる結果、可動スクロール及び固定スクロールの長寿命化を図ることができる。
【0035】
また請求項4記載の発明は、請求項1記載の効果に加えて、上記可動スクロールの鏡板端面部分を形成する材料と、鏡板端面部分以外の鏡板本体部分及び可動羽根を形成する材料とが異なる材料からなり、これら異なる材料で鏡板端面部分と鏡板本体部分と可動羽根とを一体化することで可動スクロールが形成されているので、例えば案内部と鏡板端面部分の摺接面の材料として、耐摩耗性、低摩擦材料を使用すれば、摺接面の摩耗量を低減を図ることができ、例えば樹脂材料を使用すれば、摺接面の密着性を向上させることができるものである。
【0036】
また請求項5記載の発明は、請求項1記載の効果に加えて、上記可動スクロールの鏡板端面と固定スクロールの案内部と摺接面の少なくとも一方に、可動スクロール及び固定スクロールを形成する材料とは異なる材料からなる摺動部材をインサート成形したので、可動スクロールの鏡板端面部分に、例えば耐摩耗性、低摩擦材料からなる摺動部材をインサート成形することで、摩耗量を低減し、寿命の向上させることができるものとなる。
【0037】
また請求項6記載の発明は、請求項1記載の効果に加えて、上記固定スクロールに設けられる案内部は、可動スクロールの公転に伴うラジアル方向の力を受けるラジアル受け面と、可動スクロールのスラスト方向の力を受けるスラスト受け面とで構成されているので、可動スクロールにおけるラジアル方向とスラスト方向のそれぞれの位置規制が同一部品(固定スクロール)内に一体的に設けられるようになり、羽根間の隙間の管理がしやすくなり、ひいてはポンプの効率向上につながる。さらに、固定スクロールの案内部のスラスト受け面に向かって可動スクロールの鏡板端面部分を押圧する構造とすることで、可動スクロールのより安定した公転運動が可能となる。
【0038】
また請求項7記載の発明は、請求項1記載の効果に加えて、上記モータの動力をモータシャフトを中心とする可動スクロールの公転運動に変換するための駆動伝達機構は、可動スクロールの公転時に可動スクロールがラジアル方向のみに移動可能となるように可動スクロールの駆動軸を偏心カムに係合させる係合手段を備えているので、モータシャフトに対して可動スクロールはラジアル方向に移動可能に係合しているため、可動スクロールの鏡板端面と固定スクロールの案内部とを確実に摺接させることができ、可動スクロールと固定スクロールとの衝突音をなくすことができ、騒音防止に一層効果的となる。また、従来のように駆動軸を偏心カムに圧入により取り付ける構造の場合は、可動スクロールの公転に伴うラジアル方向の移動範囲が偏心カムによって固定されてしまうために、可動スクロールの鏡板端面を固定スクロールの案内部に対して確実に摺接させるためには、可動スクロールと固定スクロールの加工精度を高める必要となるが本発明では可動スクロールをラジアル方向に移動可能となるように可動スクロールの駆動軸を偏心カムに係合させているので、可動スクロールの鏡板端面を固定スクロールの案内部に対して確実に摺接させることが可能となり、可動スクロールと固定スクロールの加工精度を高める必要がないという効果もある。
【0039】
また請求項8記載の発明は、請求項7記載の効果に加えて、上記係合手段は、可動スクロールの公転時の遠心力により可動スクロールの鏡板端面が固定スクロールの案内部に摺接するように可動スクロールをモータシャフトに係合させるので、可動スクロールの公転時の遠心力によって可動スクロールの鏡板端面と固定スクロールの案内部とが連続的に摺接することとなり、可動スクロールと固定スクロールとの衝突音をなくすことができ、スクロール圧縮機の低騒音化を図ることができる。
【0040】
また請求項9記載の発明は、請求項7記載の効果に加えて、上記係合手段は、可動スクロールの公転時に可動スクロールをラジアル方向へ押圧して可動スクロールの鏡板端面と固定スクロールの案内部とを摺接状態で保持するための弾性体を備えているので、可動スクロールの公転運動時には弾性体のバネ力によって可動スクロールの鏡板端面と固定スクロールの案内部とを確実に摺接させることができ、弾性体を設けるだけの簡単な構造で、衝突音をより一層低減できるものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態の一例を示し、(a)は可動スクロールと固定スクロールの羽根間が接触しない状態にある場合の説明図、(b)は可動スクロールの鏡板と固定スクロールの案内部を下面側から見た説明図である。
【図2】同上のスクロール圧縮機の側面断面図である。
【図3】同上のスクロール圧縮機の分解斜視図である。
【図4】(a)は他の実施形態の説明図、(b)は鏡板の半径と案内部の半径との関係を説明する説明図である。
【図5】(a)は更に他の実施形態の説明図、(b)は鏡板端面と案内部の角度を説明する説明図である。
【図6】更に他の実施形態の説明図である。
【図7】更に他の実施形態の説明図である。
【図8】更に他の実施形態の説明図である。
【図9】(a)は更に他の実施形態の説明図、(b)は可動スクロールの側面図である。
【図10】更に他の実施形態の説明図である。
【図11】(a)〜(d)は同上のスクロール圧縮機の動作原理の説明図である。
【図12】従来例の説明図である。
【符号の説明】
1 スクロール圧縮機
2 可動スクロール
3 固定スクロール
4 可動羽根
5 固定羽根
6 案内部
6a ラジアル受け面
6b スラスト受け面
7 自転防止機構
8 駆動伝達機構
9 鏡板
9a 鏡板端面
9b 鏡板本体部分
11 モータ
12 モータシャフト
15 密閉空間
20 係合手段
21 弾性体
30 摺動部材
35 隙間
A ラジアル方向
B スラスト方向
ra 案内部の半径
rb 可動スクロールの半径
rc 公転半径
Claims (9)
- 鏡板の一面側に渦巻状の可動羽根を有する可動スクロールと、上記可動羽根と対向する渦巻状の固定羽根を有する固定スクロールとを羽根の側面同士が対向するように配置すると共に、モータの動力をモータシャフトを中心とする可動スクロールの公転運動に変換するための駆動伝達機構と、可動スクロールの公転時に可動スクロールの自転を防止するための自転防止機構とを設け、可動スクロールを自転を伴うことなく公転させることで可動羽根と固定羽根との間に形成される密閉空間を渦巻の外側から中心側へ移動させて容積を逐次縮小させて圧縮した後に吐出口から圧縮空気を吐出させるようにしたスクロール圧縮機において、可動スクロールの公転時に可動羽根と固定羽根とが互いに接触しないように可動スクロールの鏡板端面を案内するための案内部を固定スクロールに設けたことを特徴とするスクロール圧縮機。
- 上記可動スクロールの鏡板端面の外周形状を円形にすると共に、固定スクロールの案内部の形状を、可動スクロールの鏡板半径と可動スクロールの公転半径とを加えた値を半径とする円形にしたことを特徴とする請求項1記載のスクロール圧縮機。
- 上記可動スクロールの鏡板端面と固定スクロールの案内部との摺接面を、可動スクロール及び固定スクロールの板面と直交する面に対してそれぞれ略等しい角度で傾斜させたことを特徴とする請求項1記載のスクロール圧縮機。
- 上記可動スクロールの鏡板端面部分を形成する材料と、鏡板端面部分以外の鏡板本体部分及び可動羽根を形成する材料とが異なる材料からなり、これら異なる材料で鏡板端面部分と鏡板本体部分と可動羽根とを一体化することで可動スクロールが形成されていることを特徴とする請求項1記載のスクロール圧縮機。
- 上記可動スクロールの鏡板端面と固定スクロールの案内部の少なくとも一方に、可動スクロール及び固定スクロールを形成する材料とは異なる材料からなる摺動部材をインサート成形したことを特徴とする請求項1記載のスクロール圧縮機。
- 上記固定スクロールに設けられる案内部は、可動スクロールの公転に伴うラジアル方向の力を受けるラジアル受け面と、可動スクロールのスラスト方向の力を受けるスラスト受け面とで構成されていることを特徴とする請求項1記載のスクロール圧縮機。
- 上記モータの動力をモータシャフトを中心とする可動スクロールの公転運動に変換するための駆動伝達機構は、可動スクロールの公転時に可動スクロールがラジアル方向のみに移動可能となるように可動スクロールの駆動軸を偏心カムに係合させる係合手段を備えていることを特徴とする請求項1記載のスクロール圧縮機。
- 上記係合手段は、可動スクロールの公転時の遠心力により可動スクロールの鏡板端面が固定スクロールの案内部に摺接するように可動スクロールをモータシャフトに係合させることを特徴とする請求項7記載のスクロール圧縮機。
- 上記係合手段は、可動スクロールの公転時に可動スクロールをラジアル方向へ押圧して可動スクロールの鏡板端面と固定スクロールの案内部とを摺接状態で保持するための弾性体を備えていることを特徴とする請求項7記載のスクロール圧縮機。
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