JP3975310B2 - 透明導電性基材とその製造方法およびこの基材が適用された表示装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、透明基板とこの上に順次形成された透明導電層と透明コート層から成る透明2層膜を備え、例えばブラウン管(CRT)、プラズマディスプレイパネル(PDP)、蛍光表示管(VFD)、液晶ディスプレイ(LCD)等表示装置の前面板等に利用される透明導電性基材に係り、特に、耐候性、導電性等に優れしかも製造コストの低減が図れる透明導電性基材の改良とその製造方法およびこの透明導電性基材が適用された表示装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年のオフィスオートメーション(OA)化によりオフィスに多くのOA機器が導入され、OA機器のディスプレイと向き合って終日作業を行わねばならないという環境が最近珍しくない。
【0003】
ところで、OA機器の一例としてコンピュータの陰極線管(上記ブラウン管とも称する:CRT)等に接して仕事を行う場合、表示画面が見やすく、視覚疲労を感じさせないことの外に、CRT表面の帯電によるほこりの付着や電撃ショックがないこと等が要求されている。更に、これ等に加えて最近では、CRTから発生する低周波電磁波の人体に対する悪影響が懸念され、このような電磁波が外部に漏洩しないことがCRTに対して望まれている。
【0004】
そして、上記電磁波は偏向コイルやフライバックトランスから発生し、テレビジョンの大型化に伴って益々大量の電磁波が周囲に漏洩する傾向にある。
【0005】
ところで、磁界の漏洩は偏向コイルの形状を変えるなどの工夫で大部分を防止することができる。一方、電界の漏洩もCRTの前面ガラス表面に透明導電層を形成することにより防止することが可能である。
【0006】
このような電界の漏洩に対する防止方法は、近年、帯電防止のために取られてきた対策と原理的には同一である。しかし、上記透明導電層は、帯電防止用に形成されていた導電層よりもはるかに高い導電性が求められている。すなわち、帯電防止用には表面抵抗で108 Ω/□程度で十分とされているが、漏洩電界を防ぐ(電界シールド)ためには、少なくとも106 Ω/□以下、好ましくは103 Ω/□以下である低抵抗の透明導電層を形成する必要がある。
【0007】
そこで、上記要求に対処するため、従来よりいくつかの提案がなされているが、その中でも低コストでかつ低い表面抵抗を実現できる方法として、導電性微粒子をアルキルシリケート等の無機バインダーと共に溶媒中に分散した透明導電層形成用塗布液を、CRTの前面ガラスに塗布・乾燥後、200℃以下の温度で焼成する方法が知られている。
【0008】
そして、この透明導電層形成用塗布液を用いた方法は、真空蒸着やスパッタ法等の他の透明導電層の形成方法に比べてはるかに簡便であり、製造コストも低く、CRTに処理可能な電界シールドとして極めて有利な方法である。
【0009】
この方法に用いられる上記透明導電層形成用塗布液として、導電性微粒子にインジウム錫酸化物(ITO)を適用したものが知られている。しかし、得られる膜の表面抵抗が104 〜106 Ω/□と高いため、漏洩電界を十分に遮蔽するには電界キャンセル用の補正回路が必要となることから、その分、製造コストが割高となる問題があった。一方、上記導電性微粒子に金属粉を用いた透明導電層形成用塗布液では、ITOを用いた塗布液に比べ、若干、膜の透過率が低くなるものの、102 〜103 Ω/□という低抵抗膜が得られる。従って、上述した補正回路が必要なくなるためコスト的に有利となり、今後主流になると思われる。
【0010】
そして、上記透明導電層形成用塗布液に適用される金属微粒子としては、特開平8−77832号公報や特開平9−55175号公報等に示されるように空気中で酸化され難い、銀、金、白金、ロジウム、パラジウム等の貴金属に限られている。これは、貴金属以外の金属微粒子、例えば、鉄、ニッケル、コバルト等が適用された場合、大気雰囲気下でこれ等金属微粒子の表面に酸化物皮膜が必ず形成されてしまい透明導電層として良好な導電性が得られなくなるからである。
【0011】
また、一方では表示画面を見易くするために、フェイスパネル表面に防眩処理を施して画面の反射を抑えることも行われている。この防眩処理は、微細な凹凸を設けて表面の拡散反射を増加させる方法によってもなされるが、この方法を用いた場合、解像度が低下して画質が落ちるためあまり好ましい方法とはいえない。従って、むしろ反射光が入射光に対して破壊的干渉を生ずるように、透明皮膜の屈折率と膜厚とを制御する干渉法によって防眩処理を行うことが好ましい。このような干渉法により低反射効果を得るため、一般的には高屈折率膜と低屈折率膜の光学的膜厚をそれぞれ1/4λと1/4λ、あるいは1/2λと1/4λに設定した二層構造膜が採用されており、前述のインジウム錫酸化物(ITO)微粒子からなる膜もこの種の高屈折率膜として用いられている。
【0012】
尚、金属においては、光学定数(n−ik,n:屈折率,i2 =−1,k:消衰係数)のうち、nの値は小さいがkの値がITO等と比べ極端に大きいため、金属微粒子からなる透明導電層を用いた場合でも、ITO(高屈折率膜)と同様に、二層構造膜で光の干渉による反射防止効果が得られる。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、従来の透明導電層形成用塗布液に適用される金属微粒子としては、上述したように銀、金、白金、ロジウム、パラジウムなどの貴金属に限定されているが、これ等の電気抵抗を比較した場合、白金、ロジウム、パラジウムの比抵抗は、それぞれ10.6、5.1、10.8μΩ・cmで、銀、金の1.62、2.2μΩ・cmに比べて高いため、表面抵抗の低い透明導電層を形成するには銀微粒子や金微粒子を適用した方が有利であった。
【0014】
しかし、銀微粒子を適用した場合、硫化や食塩水による劣化が激しく耐候性に問題があり、他方、金微粒子を適用した場合、上記耐候性の問題はなくなるが白金微粒子、ロジウム微粒子、パラジウム微粒子等が適用された場合と同様にコスト上の問題を有していた。更に、金微粒子を適用した場合には、金特有の光学特性により形成された透明導電層自体が可視光線の一部を吸収するため、可視光線全域でフラットな透過光線プロファイルが要求されるCRTなど表示装置の表示面には適用できない問題点を有していた。
【0015】
本発明はこのような問題点に着目してなされたもので、その課題とするところは、耐候性、導電性などに優れ、しかも製造コストの低減が図れる透明導電性基材とその製造方法を提供し、合わせてこの透明導電性基材が適用された表示装置を提供することにある。
【0016】
【課題を解決するための手段】
すなわち、請求項1に係る発明は、
透明基板、および、この透明基板上に順次形成された透明導電層と透明コート層とで構成された透明2層膜を備える透明導電性基材を前提とし、
上記透明導電層が、銀微粒子の表面に金単体がコーティングされた平均粒径1〜100nmの貴金属コート銀微粒子とバインダーマトリックスを主成分としていることを特徴とし、
また、請求項2に係る発明は、
請求項1記載の発明に係る透明導電性基材を前提とし、
上記貴金属コート銀微粒子における金のコーティング量が、銀100重量部に対し5〜100重量部の範囲に設定されていることを特徴とするものである。
【0017】
次に、請求項3に係る発明は、
請求項1または2記載の発明に係る透明導電性基材を前提とし、
上記透明導電層内に導電性酸化物微粒子が含まれていることを特徴とし、
請求項4に係る発明は、
請求項3記載の透明導電性基材を前提とし、
上記導電性酸化物微粒子が、酸化錫、錫アンチモン酸化物またはインジウム錫酸化物から選択された1種以上の微粒子であることを特徴とするものである。
【0018】
また、請求項5に係る発明は、
請求項1〜4のいずれかに記載の透明導電性基材を前提とし、
透明導電層の上記バインダーマトリックスおよび透明コート層が、酸化ケイ素を主成分としていることを特徴とし、
請求項6に係る発明は、
請求項1〜5のいずれかに記載の透明導電性基材を前提とし、
上記透明導電層の表面抵抗が10〜3000Ω/□であり、かつ、可視光線波長域(380〜780nm)の5nmおきの各波長における上記透明基板を含まない透明2層膜だけの透過率の標準偏差が0〜5%であることを特徴とするものである。
【0019】
次に、請求項7〜12に係る発明は上記透明導電性基材の製造方法を特定した発明に関する。
【0020】
すなわち、請求項7に係る発明は、
請求項1記載の透明導電性基材の製造方法を前提とし、
溶媒とこの溶媒に分散されかつ銀微粒子の表面に金単体がコーティングされた平均粒径1〜100nmの貴金属コート銀微粒子を主成分とする透明導電層形成用塗布液を上記透明基板上に塗布し、次いで透明コート層形成用塗布液を塗布した後、加熱処理することを特徴とし、
請求項8に係る発明は、
請求項7記載の透明導電性基材の製造方法を前提とし、
上記貴金属コート銀微粒子における金のコーティング量が、銀100重量部に対し5〜100重量部の範囲に設定されていることを特徴とするものである。
【0021】
また、請求項9に係る発明は、
請求項7または8記載の透明導電性基材の製造方法を前提とし、
上記透明導電層形成用塗布液内に、導電性酸化物微粒子が含まれていることを特徴とし、
請求項10に係る発明は、
請求項9記載の透明導電性基材の製造方法を前提とし、
上記導電性酸化物微粒子が、酸化錫、錫アンチモン酸化物またはインジウム錫酸化物から選択された1種以上の微粒子であることを特徴とする。
【0022】
また、請求項11に係る発明は、
請求項7〜10のいずれかに記載の透明導電性基材の製造方法を前提とし、
上記透明導電層形成用塗布液内に、透明導電層のバインダーマトリックスを構成する無機バインダーが含まれていることを特徴とし、
請求項12に係る発明は、
請求項7〜11のいずれかに記載の透明導電性基材の製造方法を前提とし、
上記透明コート層形成用塗布液が、シリカゾルを主成分としていることを特徴とするものである。
【0023】
次に、請求項13に係る発明は、
装置本体とこの前面側に配置された前面板とを備える表示装置を前提とし、
上記前面板として、請求項1〜6のいずれかに記載の透明導電性基材がその透明2層膜側を外面にして組込まれていることを特徴とするものである。
【0024】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0025】
まず、本発明は、金若しくは白金が化学的に安定で、耐候性、耐薬品性、耐酸化性等に優れているため、銀微粒子の表面に金若しくは白金単体または金と白金の複合体をコーティングすればその化学的安定性を高めることができるという考え方に基づいている。また、白金の電気抵抗は、上述したように銀、金に比べて若干高いが、金若しくは白金単体または金と白金の複合体材料は上記銀微粒子表面のコーティング層として適用されていることから銀の良好な導電性を損なうこともない。尚、上記金若しくは白金単体または金と白金の複合体を銀微粒子にコーティングする代わりに、銀を金若しくは白金または金並びに白金と合金化させて合金微粒子とし、上述した耐候性等の特性を改善させる方法も考えられるが、この方法では微粒子全体における金若しくは白金単体、または金と白金の濃度を高くする必要があることから多量の金若しくは白金、または金と白金を必要としコスト的に難がある。以上の考えから、本発明においては、透明導電層形成用塗布液における金属微粒子として、銀微粒子の表面に金単体がコーティングされた貴金属コート銀微粒子を適用することで上述した問題点の解決を図っている。
【0026】
すなわち、銀微粒子の表面に金をコーティングすると、貴金属コート銀微粒子内部の銀が金により保護されるため、耐候性、耐薬品性等が著しく改善される。例えば、銀微粒子と、酸化ケイ素を主成分とするバインダーマトリックスから成る透明導電層を5%食塩水に浸漬すると、食塩水中の塩素イオンと透明導電層の銀微粒子が反応して1時間以内の短時間で著しく劣化し、透明導電層における膜の剥離さえ生じるが、金がコーティングされた貴金属コート銀微粒子を適用した透明導電層の場合には、金のコーティング量にもよるが24時間以上の浸漬でも透明導電層は全く変化せず、優れた耐候性を示す。また、金は大気中で酸化しないため、酸化による電気抵抗の劣化もなく、貴金属コート銀微粒子が適用された透明導電層は、銀微粒子が適用された透明導電層の表面抵抗よりも優れている。
【0027】
ここで、本発明における上記貴金属コート銀微粒子は、その平均粒径が1〜100nmであることを要する(請求項1)。1nm未満の場合、この微粒子の製造は困難であり、更に、塗液中で凝集し易く実用的でない。また、100nmを越えると、形成された透明導電層の可視光線透過率が低くなり過ぎてしまい、仮に、膜厚を薄く設定して可視光線透過率を高くした場合でも、表面抵抗が高くなり過ぎてしまい実用的ではないからである。尚、ここでいう平均粒径とは、透過電子顕微鏡(TEM)で観察される微粒子の平均粒径を示している。
【0028】
次に、上記貴金属コート銀微粒子において、金のコーティング量は、銀100重量部に対し5〜100重量部の範囲に設定することが望ましく(請求項2)、好ましくは10〜50重量部の範囲に設定するとよい。金のコーティング量が5重量部未満だと、コーティングの保護効果が弱まって耐候性が若干悪くなる場合があり、逆に、100重量部を越えるとコスト的に難があるからである。
【0029】
尚、透明導電層における膜透過率の向上を図る目的で、透明導電層内に酸化錫、錫アンチモン酸化物またはインジウム錫酸化物から選択された1種以上の導電性酸化物微粒子を加えてもよい(請求項3、請求項4)。この場合、透明導電層内の貴金属コート銀微粒子と導電性酸化物微粒子の配合比は、貴金属コート銀微粒子100重量部に対し導電性酸化物微粒子1〜200重量部、好ましくは10〜100重量部の範囲に設定するとよい。導電性酸化物微粒子の配合量が1重量部未満だと、導電性酸化物微粒子添加の効果がみられず、逆に200重量部を越えると、透明導電層の抵抗が高くなり過ぎてしまい実用的ではないからである。また、上記貴金属コート銀微粒子と同様、導電性酸化物微粒子の平均粒径は1〜100nm程度が好ましい。
【0030】
次に、上記貴金属コート銀微粒子を含有する透明導電層形成用塗布液は、以下の方法でこれを製造することができる。すなわち、既知の方法[例えば、Carey −Lea法、Am.J.Sci.、37、47(1889)、Am.J.Sci.、38(1889)]により、銀微粒子のコロイド分散液を調製した後、この分散液にヒドラジン等の還元剤を加え、更にそこに金酸塩の溶液を加えることにより銀微粒子に対し金のコーティングを行い、貴金属コート銀微粒子分散液が得られる。また、必要により、金のコーティング工程で、銀微粒子のコロイド分散液、金酸塩の溶液の少なくともいずれか一つ、または、それぞれに少量の分散剤を加えてもよい。この後、透析、電気透析、イオン交換、限外濾過等の方法で分散液内の電解質濃度を下げることが好ましい。これは、電解質濃度を下げないとコロイドは電解質で一般に凝集してしまうからであり、この現象は、Schulze−Hardy則としても知られている。尚、同様の理由から、上記貴金属コート銀微粒子分散液内若しくは透明導電層形成用塗布液内に、酸化錫、錫アンチモン酸化物またはインジウム錫酸化物から選択された導電性酸化物微粒子を配合する場合も、これ等導電性酸化物微粒子若しくはその分散液の脱塩を十分に行っておくことが望ましい。そして、最終的には、得られた貴金属コート銀微粒子分散液からの濃縮脱水、有機溶剤等の添加による成分調整(微粒子濃度、水分濃度等)等がなされ、上記透明導電層形成用塗布液が調製される。この透明導電層形成用塗布液において、銀微粒子表面に金がコーティングされていることの根拠は、透過電子顕微鏡(TEM)による粒子観察と成分分析(EDX:エネルギー分散型X線解析装置)にて、金のコーティング前後で粒子径がほとんど変化してないこと、および、金の分布が各粒子に対して一様であること、更にはEXAFS(Extended X-ray Absorption Fine Structure:広域X線吸収微細構造)解析による金の配位数から技術的に確認されている。
【0032】
また、上記方法において銀微粒子表面への金のコーティング反応が起こるのは、金酸塩の還元により金が生じる際に、既に液中に微細な銀微粒子が多量に存在するためで、金が単独で核発生(均一核発生)するよりも、銀微粒子を核としてその表面に成長する方がエネルギー的に有利な条件で進行するからである。
【0033】
このように本発明に係る透明導電性基材は、ガラス基板、プラスチック基板等の透明基板、および、この透明基板上に形成された平均粒径1〜100nmの貴金属コート銀微粒子とバインダーマトリックスを主成分とする透明導電層の下層と、この透明導電層上に形成された透明コート層の上層から成る透明2層膜とでその主要部が構成されている。
【0034】
そして、透明基板上に上記透明2層膜を形成するには以下の方法でこれを行うことができる。例えば、溶媒とこの溶媒に分散された平均粒径1〜100nmの貴金属コート銀微粒子を主成分とする透明導電層形成用塗布液を、ガラス基板、プラスチック基板等の透明基板上にスプレーコート、スピンコート、ワイヤーバーコート、ドクターブレードコート等の手法にて塗布し、必要に応じて乾燥した後、例えばシリカゾル等を主成分とする透明コート層形成用塗布液を上述した手法によりオーバーコートする。次に、オーバーコートした後、例えば50〜250℃程度の温度で加熱処理を施しオーバーコートした透明コート層形成用塗布液の硬化を行って上記透明2層膜を形成する(請求項7)。尚、50〜250℃程度の加熱処理では、貴金属コート銀微粒子は金で保護されているため問題を生じないが、銀微粒子であると200℃を超えた場合に酸化拡散により表面抵抗値が上昇し膜の劣化が生じる。
【0035】
ここで、シリカゾル等を主成分とする透明コート層形成用塗布液を上述した手法によりオーバーコートした際、予め塗布された貴金属コート銀微粒子を主成分とする透明コート層形成用塗布液により形成された貴金属コート銀微粒子層の間隙に、オーバーコートしたシリカゾル液(このシリカゾル液は上記加熱処理により酸化ケイ素を主成分とするバインダーマトリックスとなる)がしみ込むことで、導電性の向上、強度の向上、耐候性の一層の向上が同時に達成される。更に、貴金属コート銀微粒子が酸化ケイ素を主成分とする上記バインダーマトリックス中に分散された透明導電層の光学定数(n−ik)において、屈折率nはさほど大きくないが消衰係数kが大きいため、上記透明導電層と透明コート層の透明2層膜構造により、透明2層膜の反射率を大幅に低下できる。そして、図1に示すように、ITO微粒子(比較例2)や銀微粒子(比較例1)が適用された場合と比較しても、金単体がコーティングされた貴金属コート銀微粒子(実施例1)を用いた場合、可視光線の短波長域(380〜500nm)で反射率が改善される。また、透明2層膜の透過光線プロファイルも、図2に示すように、可視光線の短波長域で、銀微粒子に金単体をコーティングすることで改善される。例えば、可視光線波長域(380〜780nm)の5nmおきの各波長での透明基板を含まない透明2層膜だけの透過率について、その標準偏差を比較すると、銀微粒子(比較例1)を用いた場合7%程度あるが、銀微粒子に貴金属コートする(実施例1〜7、参考例1〜4)と2〜3%程度の小さな値となり、非常にフラットな透過プロファイルが得られている(請求項6)。これら透明2層膜の反射、透過特性が改善される理由については未だ明らかでないが、銀微粒子に金若しくは白金単体または金と白金の複合体をコーティングしたことによる金属微粒子の表面プラズモンの変化が考えられる。
【0036】
ここで、上記透明コート層形成用塗布液に適用されるシリカゾルとしては、オルトアルキルシリケートに水や酸触媒を加えて加水分解し、脱水縮重合を進ませた重合物、あるいは既に4〜5量体まで加水分解縮重合を進ませた市販のアルキルシリケート溶液を、さらに加水分解と脱水縮重合を進行させた重合物等を利用することができる。尚、脱水縮重合が進行すると、溶液粘度が上昇して最終的には固化してしまうので、脱水縮重合の度合いについては、ガラス基板やプラスチック基板などの透明基板上に塗布可能な上限粘度以下のところに調整する。但し、脱水縮重合の度合いは上記上限粘度以下のレベルであれば特に指定されないが、膜強度、耐候性等を考慮すると重量平均分子量で500から3000程度が好ましい。。そして、アルキルシリケート部分加水分解重合物は、透明2層膜の加熱焼成時に脱水縮重合反応がほぼ完結して、硬いシリケート膜(酸化ケイ素を主成分とする膜)になる。尚、上記シリカゾルに、弗化マグネシウム微粒子、アルミナゾル、チタニアゾル、ジルコニアゾル等を加え、透明コート層の屈折率を調節して透明2層膜の反射率を変えることも可能である。
【0037】
また、上記透明導電層の形成工程において、溶媒とこの溶媒に分散された平均粒径1〜100nmの貴金属コート銀微粒子に加え、バインダーマトリックスを構成する無機バインダー成分としてのシリカゾル液が配合された透明導電層形成用塗布液を用いてもよい(請求項11)。この場合においても、シリカゾル液が含まれる透明導電層形成用塗布液を塗布し、必要に応じて乾燥させた後に透明コート層形成用塗布液を上述した手法によりオーバーコートすることで、同様の透明2層膜が得られる。尚、透明導電層形成用塗布液内に導電性酸化物微粒子を配合する場合と同様の理由から、透明導電層形成用塗布液内に配合する上記シリカゾル液についてもその脱塩を十分に行っておくことが望ましい。
【0038】
以上説明したように本発明に係る透明導電性基材は、従来よりも優れた反射防止効果と透過光線プロファイルを有し、かつ、良好な耐候性と高い電界シールド効果を有するため、例えば、上述したブラウン管(CRT)、プラズマディスプレイパネル(PDP)、蛍光表示管(VFD)、フィールドエミッションディスプレイ(FED)、エレクトロルミネッセンスディスプレイ(ELD)、液晶ディスプレイ(LCD)等表示装置においてその一部を構成する前面板等に適用することができる。
【0039】
【実施例】
以下、本発明の実施例を具体的に説明するが本発明はこれら実施例に限定されるものではない。また、本文中の『%』は、透過率、反射率、ヘーズ値の(%)を除いて『重量%』を示し、また『部』は『重量部』を示している。
【0040】
[実施例1]
前述のCarey−Lea法により銀微粒子のコロイド分散液を調製した。具体的には、9%硝酸銀水溶液33gに、23%硫酸鉄(II)水溶液39gと37.5%クエン酸ナトリウム水溶液48gの混合液を加えた後、沈降物をろ過・洗浄した後、純水を加えて、銀微粒子のコロイド分散液(Ag:0.45%)を調製した。この銀微粒子のコロイド分散液15gに、1%ヒドラジン水溶液0.5gを加えて攪拌しながら、金酸カリウム[KAu(OH)4 ]水溶液(Au:0.1%)15gと2%高分子分散剤水溶液0.3gの混合液を加え、金単体がコーティングされた貴金属コート銀微粒子のコロイド分散液を得た。この貴金属コート銀微粒子のコロイド分散液をイオン交換樹脂(三菱化学社製 商品名ダイヤイオンSK1B,SA20AP)で脱塩した後、限外ろ過により濃縮した液に、エタノール(EA)、ジアセトンアルコール(DAA)を加え、貴金属コート銀微粒子が含まれる透明導電層形成用塗布液(Ag:0.217%、Au:0.057%、水:11.8%、EA:82.9%、DAA:5.0%)を得た。得られた透明導電層形成用塗布液を透過電子顕微鏡で観察した結果、貴金属コート銀微粒子の平均粒径は、7.2nmであった。
【0041】
次に、貴金属コート銀微粒子が含まれる透明導電層形成用塗布液を、40℃に加熱されたガラス基板(厚さ3mmのソーダライムガラス)上に、スピンコート(130rpm,60秒間)した後、続けて、シリカゾル液をスピンコート(130rpm,60秒間)し、さらに、180℃、20分間硬化させて、貴金属コート銀微粒子を含有する透明導電層と、酸化ケイ素を主成分とするシリケート膜から成る透明コート層とで構成された透明2層膜付きのガラス基板、すなわち、実施例1に係る透明導電性基材を得た。
【0042】
ここで、上記シリカゾル液は、メチルシリケート51(コルコート社製商品名)を19.6部、エタノール57.8部、1%硝酸水溶液7.9部、純水14.7部を用いて、SiO2 (酸化ケイ素)固形分濃度が10%のものを調製し、最終的に、SiO2 固形分濃度が0.7%となるようにイソプロピルアルコール(IPA)とn−ブタノール(NBA)の混合物(IPA/NBA=3/1)により希釈して得ている。
【0043】
そして、ガラス基板上に形成された透明2層膜の膜特性(表面抵抗、可視光線透過率、透過率の標準偏差、ヘーズ値、ボトム反射率/ボトム波長)を以下の表1に示す。尚、上記ボトム反射率とは透明導電性基材の反射プロファイルにおいて極小の反射率をいい、ボトム波長とは反射率が極小における波長を意味している。また、製造された実施例1に係る透明導電性基材の反射プロファイルを図1と図3に、また、透過プロファイルを図2と図4に合わせて示す。
【0044】
尚、表1において可視光線波長域(380〜780nm)の5nmおきの各波長における透明基板(ガラス基板)を含まない透明2層膜だけの透過率は、以下の様にして求められている。すなわち、
透明基板を含まない透明2層膜だけの透過率(%)
=[(透明基板ごと測定した透過率)/(透明基板の透過率)]×100
ここで、本明細書においては、特に言及しない限り、透過率としては、透明基板ごと(すなわち透明基板を含む透明2層膜のことで上記透明導電性基材を意味する)測定した値を用いている。
【0045】
また、透明2層膜の表面抵抗は、三菱化学(株)製の表面抵抗計ロレスタAP(MCP−T400)を用い測定した。ヘーズ値と可視光線透過率は、透明基板ごと、村上色彩技術研究所製のヘーズメーター(HR−200)を用いて測定した。反射率、及び反射・透過プロファイルは、日立製作所(株)製の分光光度計(U−4000)を用いて測定した。また、貴金属コート銀微粒子の粒径は日本電子製の透過電子顕微鏡で評価している。
【0046】
[実施例2]
実施例1と同様の方法で調製した銀微粒子のコロイド分散液を用い、1.5%ヒドラジン水溶液と金酸カリウム水溶液(Au:0.15%)を用いて、平均粒径6.3nmの貴金属コート銀微粒子が分散した透明導電層形成用塗布液(Ag:0.221%、Au:0.079%、水:5.0%、EA:89.7%、DAA:5.0%)を得、かつ、シリカゾル液のSiO2 (酸化ケイ素)固形分濃度が0.65%となるように希釈した以外は、実施例1と同様に行い、貴金属コート銀微粒子を含有する透明導電層と、酸化ケイ素を主成分とするシリケート膜から成る透明コート層とで構成された透明2層膜付きのガラス基板、すなわち、実施例2に係る透明導電性基材を得た。
【0047】
そして、ガラス基板上に形成された透明2層膜の膜特性を以下の表1に示す。また、製造された実施例2に係る透明導電性基材の反射プロファイルを図5に、また、透過プロファイルを図6に示す。
【0048】
[実施例3]
実施例1と同様の方法で調製した銀微粒子のコロイド分散液を用い、0.5%ヒドラジン水溶液と金酸カリウム水溶液(Au:0.05%)を用いて、平均粒径6.8nmの貴金属コート銀微粒子が分散した透明導電層形成用塗布液(Ag:0.24%、Au:0.028%、水:3.7%、EA:91.0%、DAA:5.0%)を得、かつ、シリカゾル液のSiO2 (酸化ケイ素)固形分濃度が0.65%となるように希釈した以外は、実施例1と同様に行い、貴金属コート銀微粒子を含有する透明導電層と、酸化ケイ素を主成分とするシリケート膜から成る透明コート層とで構成された透明2層膜付きのガラス基板、すなわち、実施例3に係る透明導電性基材を得た。
【0049】
ガラス基板上に形成された透明2層膜の膜特性を以下の表1に示す。
【0050】
[実施例4]
実施例1と同様の方法で調製した銀微粒子のコロイド分散液を用い、還元剤としてのヒドラジン水溶液を加えずに、撹拌しながら、金酸カリウム水溶液(Au:0.05%)15gを加え、金と銀の置換反応により、貴金属コート銀微粒子のコロイド分散液を得、かつ、平均粒径6.5nmの貴金属コート銀微粒子が分散した透明導電層形成用塗布液(Ag:0.245%、Au:0.025%、水:7.6%、EA:87.1%、DAA:5.0%)を得た以外は、実施例1と同様に行い、貴金属コート銀微粒子を含有する透明導電層と、酸化ケイ素を主成分とするシリケート膜から成る透明コート層とで構成された透明2層膜付きのガラス基板、すなわち、実施例4に係る透明導電性基材を得た。
【0051】
ガラス基板上に形成された透明2層膜の膜特性を以下の表1に示す。
【0052】
[実施例5]
実施例1と同様の方法で調製した銀微粒子のコロイド分散液を用い、1%ヒドラジン水溶液0.4gと金酸カリウム水溶液(Au:0.075%)を用いて、平均粒径7.1nmの貴金属コート銀微粒子が分散した溶液を得た。次に、この溶液内に、平均粒径0.03μmのインジウム錫酸化物(ITO)微粒子(住友金属鉱山社製、商品名SUFP−HX)を用いかつイオン交換により十分に脱塩して得られたITO分散液を加えて、最終的に貴金属コート銀微粒子とITO微粒子が分散した透明導電層形成用塗布液(Ag:0.294%、Au:0.049%、ITO:0.1%、水:9.7%、EA:84.95%、DAA:4.9%)を得、かつ、重量平均分子量が1920のシリカゾル液を用い、SiO2 (酸化ケイ素)固形分濃度が0.8%となるように希釈し、更に35℃に加熱されたガラス基板を用いると共に、透明導電層形成用塗布液とシリカゾル液を150rpmで60秒間の条件でスピンコートし、かつ、210℃、20分間硬化させた以外は、実施例1と同様に行い、貴金属コート銀微粒子とITO微粒子を含有する透明導電層と、酸化ケイ素を主成分とするシリケート膜から成る透明コート層とで構成された透明2層膜付きのガラス基板、すなわち、実施例5に係る透明導電性基材を得た。
【0053】
そして、ガラス基板上に形成された透明2層膜の膜特性を以下の表1に示す。また、製造された実施例5に係る透明導電性基材の反射プロファイルを図7に、また、透過プロファイルを図8に示す。
【0054】
[実施例6]
実施例1と同様の方法で調製した銀微粒子のコロイド分散液を用い、1%ヒドラジン水溶液0.4gと金酸カリウム水溶液(Au:0.075%)を用いて、平均粒径7.1nmの貴金属コート銀微粒子が分散した溶液を得た。次に、この溶液内に、平均粒径0.01μmのアンチモン錫酸化物(ATO)微粒子(石原産業社製、商品名SN−100P)を用いかつイオン交換により十分に脱塩して得られたATO分散液を加えて、最終的に貴金属コート銀微粒子とATO微粒子が分散した透明導電層形成用塗布液(Ag:0.29%、Au:0.048%、ATO:0.174%、水:11.0%、EA:83.58、DAA:4.9%)を得、かつ、重量平均分子量が1920のシリカゾル液を用い、SiO2 (酸化ケイ素)固形分濃度が0.8%となるように希釈し、更に35℃に加熱されたガラス基板を用いると共に、透明導電層形成用塗布液とシリカゾル液を150rpmで60秒間の条件でスピンコートし、かつ、210℃、20分間硬化させた以外は、実施例1と同様に行い、貴金属コート銀微粒子とATO微粒子を含有する透明導電層と、酸化ケイ素を主成分とするシリケート膜から成る透明コート層とで構成された透明2層膜付きのガラス基板、すなわち、実施例6に係る透明導電性基材を得た。
【0055】
そして、ガラス基板上に形成された透明2層膜の膜特性を以下の表1に示す。また、製造された実施例6に係る透明導電性基材の反射プロファイルを図9に、また、透過プロファイルを図10に示す。
【0056】
[実施例7]
実施例1と同様の方法で調製した銀微粒子のコロイド分散液を用い、1%ヒドラジン水溶液0.4gと金酸カリウム水溶液(Au:0.075%)を用いて、貴金属コート銀微粒子の分散濃縮液を得、これに無機バインダーとしてのテトラメチルシリケートの4量体(コルコート社製商品名メチルシリケート51)を含んだ溶液を加えて、平均粒径7.0nmの貴金属コート銀微粒子が分散した透明導電層形成用塗布液(Ag:0.29%、Au:0.052%、SiO2 :0.02%、水:8.78%、EA:85.85%、DAA:5.0%)を得、かつ、重量平均分子量が2460のシリカゾル液を用い、SiO2 (酸化ケイ素)固形分濃度が0.7%となるように希釈し、更に35℃に加熱されたガラス基板を用いると共に、透明導電層形成用塗布液とシリカゾル液を150rpmで60秒間の条件でスピンコートし、かつ、210℃、20分間硬化させた以外は、実施例1と同様に行い、貴金属コート銀微粒子を含有する透明導電層と、酸化ケイ素を主成分とするシリケート膜から成る透明コート層とで構成された透明2層膜付きのガラス基板、すなわち、実施例7に係る透明導電性基材を得た。
【0057】
ガラス基板上に形成された透明2層膜の膜特性を以下の表1に示す。
【0058】
[参考例1]
9%硝酸銀水溶液33gに、23%硫酸鉄(II)水溶液39gと37.5%クエン酸ナトリウム水溶液48gの混合液を加えた後、沈降物を濾過・洗浄した後、純水を加えて、銀微粒子のコロイド分散液(Ag:0.49%)を調製した。この銀微粒子のコロイド分散液240gにヒドラジン1水和物(N2H4・H2O )の1%水溶液5gを加えて攪拌しながら、白金(IV)酸カリウム[K2Pt(OH)6]水溶液(Pt:0.06%)200gを加え、白金単体がコーティングされた貴金属コート銀微粒子のコロイド分散液を得た。この貴金属コート銀微粒子のコロイド分散液を、限外濾過により濃縮した後、この濃縮液に純水を加えて再び限外濾過により濃縮する工程を繰返して得た脱塩された濃縮液に、エタノール(EA)、ジアセトンアルコール(DAA)を加え、透明導電層形成用塗布液(Ag:0.245%、Pt:0.025%、水:7.48%、EA:87.25%、DAA:5.0%)を得た。得られた透明導電層形成用塗布液を透過電子顕微鏡で観察した結果、貴金属コート銀微粒子の平均粒径は、9.2nmであった。
【0059】
次に、この透明導電層形成用塗布液を、40℃に加熱されたガラス基板(厚さ3mmのソーダライムガラス)上に、スピンコート(130rpm,60秒間)した後、続けて、シリカゾル液をスピンコート(130rpm,60秒間)し、さらに、180℃、20分間硬化させて、貴金属コート銀微粒子を含有する透明導電層と、酸化ケイ素を主成分とするシリケート膜から成る透明コート層とで構成された透明2層膜付きのガラス基板、すなわち、参考例1に係る透明導電性基材を得た。
【0060】
ここで、上記シリカゾル液は、メチルシリケート51(コルコート社製商品名)を19.6部、エタノール57.8部、1%硝酸水溶液7.9部、純水14.7部を用いて、SiO2 (酸化ケイ素)固形分濃度が10%のものを調製し、最終的に、SiO2 固形分濃度が0.65%となるようにイソプロピルアルコール(IPA)とn−ブタノール(NBA)の混合物(IPA/NBA=3/1)により希釈して得ている。
【0061】
そして、ガラス基板上に形成された透明2層膜の膜特性を以下の表1に示す。また、製造された参考例1に係る透明導電性基材の反射プロファイルを図11と図13に、また、透過プロファイルを図12と図14に合わせて示す。
【0062】
[参考例2]
参考例1と同様の方法で調製した銀微粒子のコロイド分散液を用い、かつ、ヒドラジン1水和物(N2H4・H2O)の1%水溶液6.3gと、金酸塩[KAu(OH)4]水溶液(Au:0.098%)121gおよび白金酸カリウム[K2Pt(OH)6]水溶液(Pt:0.065%)121gの混合溶液を用いて、 金と白金の複合体がコーティングされた平均粒径11.7nmの貴金属コート銀微粒子を分散した透明導電層形成用塗布液(Ag:0.26%、Au:0.03%、Pt:0.02%、水:7.48%、EA:87.2%、DAA:5.0%)を得た以外は、参考例1と同様に行い、貴金属コート銀微粒子を含有する透明導電層と、酸化ケイ素を主成分とするシリケート膜から成る透明コート層とで構成された透明2層膜付きのガラス基板、すなわち、参考例2に係る透明導電性基材を得た。
【0063】
そして、ガラス基板上に形成された透明2層膜の膜特性を以下の表1に示す。また、製造された参考例2に係る透明導電性基材の反射プロファイルを図15に、また、透過プロファイルを図16に示す。
【0064】
[参考例3]
参考例1と同様の方法で調製した銀微粒子のコロイド分散液を用い、還元剤としての上記ヒドラジン水溶液を加えずに、撹拌しながら、白金酸カリウム[K2Pt(OH)6]水溶液(Pt:0.064%)203gを加え、白金と銀の置 換反応により、白金がコーティングされた平均粒径9.2nmの貴金属コート銀微粒子を分散した透明導電層形成用塗布液(Ag:0.24%、Pt:0.025%、水:9.2%、EA:85.53%、DAA:5.0%)を得た以外は、参考例1と同様に行い、貴金属コート銀微粒子を含有する透明導電層と、酸化ケイ素を主成分とするシリケート膜から成る透明コート層とで構成された透明2層膜付きのガラス基板、すなわち参考例3に係る透明導電性基材を得た。
【0065】
ガラス基板上に形成された透明2層膜の膜特性を以下の表1に示す。
【0066】
[参考例4]
参考例1と同様の方法で調製した銀微粒子のコロイド分散液(Ag:0.49%)240gを用い、還元剤としての上記ヒドラジン水溶液を加えずに、撹拌しながら、白金酸カリウム[K2Pt(OH)6]水溶液(Pt:0.064%)203gを加え、白金と銀の置換反応により、白金がコーティングされた平均粒径9.2nmの貴金属コート銀微粒子を分散した溶液を得た。次に、この溶液内に、平均粒径0.03μmのインジウム錫酸化物(ITO)微粒子(住友金属鉱山社製、商品名SUFP−HX)を用いかつイオン交換により十分に脱塩して得られたITO分散液を加えて、最終的に上記貴金属コート銀微粒子とITO微粒子が分散した透明導電層形成用塗布液(Ag:0.312%、Pt:0.0325%、ITO:0.12%、水:12.3%、EA:87.23%)を得、かつ、重量平均分子量が1920のシリカゾル液を用い、SiO2 (酸化ケイ素)固形分濃度が0.8%となるように希釈し、更に35℃に加熱されたガラス基板を用いると共に、透明導電層形成用塗布液とシリカゾル液を150rpmで60秒間の条件でスピンコートし、かつ、210℃、20分間硬化させた以外は、参考例1と同様に行い、貴金属コート銀微粒子とITO微粒子を含有する透明導電層と、酸化ケイ素を主成分とするシリケート膜から成る透明コート層とで構成された透明2層膜付きのガラス基板、すなわち、参考例4に係る透明導電性基材を得た。
【0067】
そして、ガラス基板上に形成された透明2層膜の膜特性を以下の表1に示す。また、製造された参考例4に係る透明導電性基材の反射プロファイルを図17に、また、透過プロファイルを図18に示す。
【0068】
[比較例1]
実施例1と同様の方法で調製した銀微粒子のコロイド分散液を用い、金コーティングせずに、平均粒径6.9nmの銀微粒子が分散した透明導電層形成用塗布液(Ag:0.3%、水:4.0%、EA:90.7%、DAA:5.0%)を得た以外は、実施例1と同様に行い、銀微粒子を含有する透明導電層と、酸化ケイ素を主成分とするシリケート膜から成る透明コート層とで構成された透明2層膜付きのガラス基板、すなわち、比較例1に係る透明導電性基材を得た。
【0069】
そして、ガラス基板上に形成された透明2層膜の膜特性を以下の表1に示す。また、製造された比較例1に係る透明導電性基材の反射プロファイルを図1と図11に、また、透過プロファイルを図2と図12に示す。
【0070】
[比較例2]
平均粒径30nmのITO微粒子が溶剤に分散された透明導電層形成用塗布液(住友金属鉱山社製、商品名SDA−104、ITO:2%)を40℃に加熱されたガラス基板(厚さ3mmのソーダライムガラス)上に、スピンコート(150rpm,60秒間)した後、続けて、SiO2 (酸化ケイ素)固形分濃度が1.0%となるように希釈したシリカゾル液をスピンコート(150rpm,60秒間)し、さらに、180℃、30分間硬化させて、ITO微粒子を含有する透明導電層と、酸化ケイ素を主成分とするシリケート膜から成る透明コート層とで構成された透明2層膜付きのガラス基板、すなわち比較例2に係る透明導電性基材を得た。
【0071】
そして、ガラス基板上に形成された透明2層膜の膜特性を以下の表1に示す。また、製造された比較例2に係る透明導電性基材の反射プロファイルを図1に示す。
【0072】
【表1】
【0073】
『耐候性試験』
実施例1〜7、参考例1〜4に係る透明導電性基材と比較例1に係る透明導電性基材を、5%食塩水に浸漬し、透明基板(ガラス基板)上に設けた透明2層膜の表面抵抗値、膜の外観を調べた。この結果を以下の表2に示す。
【0074】
【表2】
【0075】
『評 価』
(1)表1に示された結果から明らかなように、実施例1〜7、参考例1〜4に係る透明2層膜の表面抵抗(Ω/□)と透過率の標準偏差の値が、各比較例に係る透明2層膜の値と較べて著しく改善されていることが確認される。また、図2と図12に示された実施例1および参考例1に係る透明導電性基材の透過プロファイルと比較例1に係る透明導電性基材の透過プロファイルの比較から明らかなように、実施例1および参考例1の透明導電性基材では非常にフラットな透過プロファイルが得られていることも確認される。
また、図1と図11の反射プロファイルから明らかなように、比較例1、2に較べて実施例1および参考例1に係る透明導電性基材では可視光線波長域における反射特性も改善されていることが確認される。
(2)また、表2に示された結果から明らかなように、比較例1に係る透明2層膜に較べて実施例1〜7、参考例1〜4に係る透明2層膜の耐候性も著しく改善されていることが確認される。
(3)次に、金単体がコーティングされた貴金属コート銀微粒子を適用している実施例1〜7に係る透明導電性基材の可視光線透過率を比較した場合、表1から確認されるようにITOを含ませた実施例5とATOを含ませた実施例6の可視光線透過率が他の実施例に較べて高い値を示している。
【0076】
他方、白金単体または金、白金複合体がコーティングされた貴金属コート銀微粒子を適用している参考例1〜4に係る透明導電性基材の表面抵抗を比較した場合、表1から確認されるようにITOを含ませた参考例4の表面抵抗が一番小さな値になっており、かつ、可視光線透過率についてはそれぞれ略同一の値になっている。すなわち、参考例4で、参考例1〜3の表面抵抗値と略同一となるように透明導電層の厚みをより薄く設定した場合、透明導電層の可視光線透過率を参考例1〜3より高くできることを示している。
【0077】
これ等からITOやATO等の導電性酸化物微粒子を透明導電層内に含ませた場合、透明導電層における膜透過率の向上を図れることが確認される。
(4)尚、実施例1〜7、参考例1〜4においては、上記金酸塩と白金酸塩として金酸カリウムおよび白金酸カリウムを適用して貴金属コート銀微粒子を調製しているが、これ等金酸カリウムおよび白金酸カリウムに代えて金酸ナトリウムおよび白金酸ナトリウムを適用した実験も行っている。
【0078】
そして、金酸ナトリウムおよび白金酸ナトリウムを適用して得られた貴金属コート銀微粒子についても実施例1〜7、参考例1〜4と同様の評価試験を行い、かつ、同様の評価が得られることを確認している。
【0079】
【発明の効果】
請求項1〜6記載の発明に係る透明導電性基材によれば、
透明2層膜の一方を構成する透明導電層が、表面に金単体をコーティングした平均粒径1〜100nmの貴金属コート銀微粒子とバインダーマトリックスとを主成分としているため、従来の透明導電性基材に較べ優れた反射防止効果と透過光線プロファイルを有し、かつ、良好な耐候性と導電性を有している。
【0080】
また、請求項7〜12記載の発明に係る透明導電性基材の製造方法によれば、
溶媒とこの溶媒に分散されかつ銀微粒子の表面に金単体がコーティングされた平均粒径1〜100nmの貴金属コート銀微粒子を主成分とする塗液を透明基板上に塗布し、次いで透明コート層形成用塗布液を塗布した後、加熱処理しているため、請求項1〜6に係る透明導電性基材を低コストでかつ簡便に製造できる効果を有している。
【0081】
更に、請求項13記載の発明に係る表示装置によれば、
前面板として請求項1〜6のいずれかに記載の透明導電性基材がその透明2層膜側を外面にして組込まれているため、表示画面の表面反射が抑制されかつ高い電界シールド効果を具備している。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1および比較例1〜2に係る透明導電性基材の反射プロファイルを示すグラフ図。
【図2】実施例1および比較例1に係る透明導電性基材の透過プロファイルを示すグラフ図。
【図3】実施例1に係る透明導電性基材の反射プロファイルを示すグラフ図。
【図4】実施例1に係る透明導電性基材とこの基材の構成部材であるガラス基板の透過プロファイルを示すグラフ図。
【図5】実施例2に係る透明導電性基材の反射プロファイルを示すグラフ図。
【図6】実施例2に係る透明導電性基材とこの基材の構成部材であるガラス基板の透過プロファイルを示すグラフ図。
【図7】実施例5に係る透明導電性基材の反射プロファイルを示すグラフ図。
【図8】実施例5に係る透明導電性基材とこの基材の構成部材であるガラス基板の透過プロファイルを示すグラフ図。
【図9】実施例6に係る透明導電性基材の反射プロファイルを示すグラフ図。
【図10】実施例6に係る透明導電性基材とこの基材の構成部材であるガラス基板の透過プロファイルを示すグラフ図。
【図11】 参考例1および比較例1〜2に係る透明導電性基材の反射プロファイルを示すグラフ図。
【図12】 参考例1および比較例1に係る透明導電性基材の透過プロファイルを示すグラフ図。
【図13】 参考例1に係る透明導電性基材の反射プロファイルを示すグラフ図。
【図14】 参考例1に係る透明導電性基材とこの基材の構成部材であるガラス基板の透過プロファイルを示すグラフ図。
【図15】 参考例2に係る透明導電性基材の反射プロファイルを示すグラフ図。
【図16】 参考例2に係る透明導電性基材とこの基材の構成部材であるガラス基板の透過プロファイルを示すグラフ図。
【図17】 参考例4に係る透明導電性基材の反射プロファイルを示すグラフ図。
【図18】 参考例4に係る透明導電性基材とこの基材の構成部材であるガラス基板の透過プロファイルを示すグラフ図。
Claims (13)
- 透明基板、および、この透明基板上に順次形成された透明導電層と透明コート層とで構成された透明2層膜を備える透明導電性基材において、
上記透明導電層が、銀微粒子の表面に金単体がコーティングされた平均粒径1〜100nmの貴金属コート銀微粒子とバインダーマトリックスを主成分としていることを特徴とする透明導電性基材。 - 上記貴金属コート銀微粒子における金のコーティング量が、銀100重量部に対し5〜100重量部の範囲に設定されていることを特徴とする請求項1記載の透明導電性基材。
- 上記透明導電層内に導電性酸化物微粒子が含まれていることを特徴とする請求項1または2記載の透明導電性基材。
- 上記導電性酸化物微粒子が、酸化錫、錫アンチモン酸化物またはインジウム錫酸化物から選択された1種以上の微粒子であることを特徴とする請求項3記載の透明導電性基材。
- 透明導電層の上記バインダーマトリックスおよび透明コート層が、酸化ケイ素を主成分としていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の透明導電性基材。
- 上記透明導電層の表面抵抗が10〜3000Ω/□であり、かつ、可視光線波長域(380〜780nm)の5nmおきの各波長における上記透明基板を含まない透明2層膜だけの透過率の標準偏差が0〜5%であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の透明導電性基材。
- 請求項1記載の透明導電性基材の製造方法において、
溶媒とこの溶媒に分散されかつ銀微粒子の表面に金単体がコーティングされた平均粒径1〜100nmの貴金属コート銀微粒子を主成分とする透明導電層形成用塗布液を上記透明基板上に塗布し、次いで透明コート層形成用塗布液を塗布した後、加熱処理することを特徴とする透明導電性基材の製造方法。 - 上記貴金属コート銀微粒子における金のコーティング量が、銀100重量部に対し5〜100重量部の範囲に設定されていることを特徴とする請求項7記載の透明導電性基材の製造方法。
- 上記透明導電層形成用塗布液内に、導電性酸化物微粒子が含まれていることを特徴とする請求項7または8記載の透明導電性基材の製造方法。
- 上記導電性酸化物微粒子が、酸化錫、錫アンチモン酸化物またはインジウム錫酸化物から選択された1種以上の微粒子であることを特徴とする請求項9記載の透明導電性基材の製造方法。
- 上記透明導電層形成用塗布液内に、透明導電層のバインダーマトリックスを構成する無機バインダーが含まれていることを特徴とする請求項7〜10のいずれかに記載の透明導電性基材の製造方法。
- 上記透明コート層形成用塗布液が、シリカゾルを主成分としていることを特徴とする請求項7〜11のいずれかに記載の透明導電性基材の製造方法。
- 装置本体とこの前面側に配置された前面板とを備える表示装置において、
上記前面板として、請求項1〜6のいずれかに記載の透明導電性基材がその透明2層膜側を外面にして組込まれていることを特徴とする表示装置。
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