JP3971166B2 - ブレーキ液圧制御装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えば、車輪のロック防止、加速時等における駆動輪のホイルスピン防止、制動力のアシスト、車両姿勢の安定性確保等を目的として、各車輪の制動力を可変制御可能なブレーキ液圧制御装置に関し、特に、制御応答性改善技術に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、車両に備え付けられているブレーキ装置には、各輪のブレーキ液圧を可変制御する多種多様な機能が付加されている。例えば、低μ路等における車輪のロックを防止して車両の挙動を安定に保ちながら制動距離の短縮を図るアンチスキッド制御装置(ABS)、車両の加速時等において駆動輪のホイルスピンを防止するトラクションコントロール装置(TCS)、あるいは、運転者が操作したブレーキ圧力が不足している場合にその不足したブレーキ圧力をホイールシリンダに供給するように構成された制動力アシスト装置や、車両のオーバステアまたはアンダステアを解消するように運転者のブレーキ操作の有無に係らず車輪に制動力を与えて車両の走行安定性を確保する車両挙動制御装置(VDC)等がある。
特に、この車両挙動制御装置においては、運転者がブレーキ操作をしていなくても、車両にオーバステアやアンダステアの可能性が生じた時に、各ホイールシリンダのブレーキ圧力を自動的に調整し、オーバステアやアンダステアに対向する横力を車両に発生させるものである。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、車両が旋回している時、特に車両がオーバステア走行をしている時には、車両に比較的大きな横方向加速度が発生する。この横方向加速度は、図5(ブレーキキャリパ部分を示す断面図)に示すように、各車輪のホイールシリンダにも影響し、例えば、ロータ31を中心としてブレーキピストン33側に横方向加速度が発生した場合には、ブレーキピストン33がロータ31から離れる方向に移動する。このため、ブレーキピストン33がブレーキ力を解除する方向に移動した状態になってしまう虞がある。
【0004】
このような現象は、特に運転者によってブレーキ操作が成されていない時、即ち、ホイールシリンダ内液圧が大気圧状態になっている時に発生し易く、従って、横方向加速度によってブレーキピストン33がブレーキ解除方向に移動した状態から、ブレーキ圧力を増圧しようとした場合、このブレーキピストン33がブレーキ解除方向に移動した分だけストロークロスとなって昇圧特性を悪化させ、これにより、図7の点線で示すように、増圧開始(制動力発生)までに遅れを生じさせる虞があるという問題点があった。
【0005】
特に、車両挙動制御装置は、車両の挙動を安定させることを目的としていることから、ごく短い時間で車両の挙動に対して反応しなくてはならない。つまり、アンチスキッド制御装置と違って、極めて短時間でブレーキ(制動)を行うことが要求されている関係で、増圧の遅れは車両挙動の安定性確保に悪影響を及ぼす。
【0006】
本発明は、上述の従来の問題点に着目してなされたもので、車両に発生する横方向加速度によるブレーキピストンの移動を防止することで、ブレーキ圧力増圧時におけるブレーキピストンのストロークロスの発生をなくし、これにより、ブレーキ圧力昇圧特性の悪化を防止して制御応答性を高めることができるブレーキ液圧制御装置を提供することを目的とするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上述の目的を達成するために、本発明請求項1記載のブレーキ液圧制御装置は、運転者のブレーキ操作に応じて液圧を発生させるマスタシリンダと、車輪と一体に回転するロータに対向して配置されたブレーキパッドを導入液圧によって車輪の回転軸軸線方向に動作するブレーキピストンで押圧することにより制動力を発生させるホイールシリンダと、該ホイールシリンダと前記マスタシリンダとを結ぶ主回路と、該主回路の開閉を行う常開の増圧制御弁と、該増圧制御弁と前記マスタシリンダとの間における主回路の開閉を行う常開のアウト側ゲート弁と、前記ホイールシリンダの液圧をリザーバに排出させるドレーン回路の開閉を行う常閉の減圧制御弁と、吐出回路が前記アウト側ゲート弁と増圧制御弁との間の主回路に接続される一方吸入回路が前記マスタシリンダおよびリザーバに接続されていて加圧液圧を主回路側へ供給する液圧ポンプと、前記吸入回路の開閉を行う常開のイン側ゲート弁と、前記増圧制御弁、減圧制御弁および両ゲート弁の作動ならびに液圧ポンプの駆動を制御するブレーキ液圧制御手段と、を備えたブレーキ液圧制御装置において、車両に作用する横方向加速度に基づく不安定走行状態を検出する不安定走行状態検出手段と、該不安定走行状態検出手段で不安定走行状態が検出された時は車両に発生している横方向加速度に対向するように少なくとも1つの車輪における前記アウト側ゲート弁を閉じると共に液圧ポンプを駆動させて加圧液圧を該車輪のホイールシリンダに供給する不安定走行回避制御手段と、前記不安定走行状態検出手段で検出される不安定走行状態検出値に基づき不安定走行の可能性が高まったか否かを判断する不安定走行推定手段と、該不安定走行推定手段により不安定走行の可能性が高まったと判断された時には前記不安定走行回避制御手段の制御開始に先立って前記アウト側ゲート弁を閉じることによりホイールシリンダのブレーキピストンがロータから離間する方向に後退するのを阻止する後退阻止制御手段と、を備えている手段とした。
【0008】
また、請求項1のブレーキ液圧制御装置にあっては、前記主回路は、H配管またはX配管によりそれぞれ左右の2つの車輪に分岐した2系統に設けられ、該各系統の主回路に前記アウト側ゲート弁がそれぞれ設けられると共に各分岐回路に各車輪の増圧制御弁が設けられ、前記後退阻止制御手段が、前記不安定走行推定手段により不安定走行の可能性が高まったと判断され、かつ、前記アウト側ゲート弁を閉じる主回路と同系統の他方の車輪側の増圧制御弁が開制御されている時には前記不安定走行回避制御手段の制御開始に先立って前記アウト側ゲート弁を閉じると共に、該アウト側ゲート弁を閉じる主回路と同系統の他方の車輪側の増圧制御弁を閉じることによりホイールシリンダのブレーキピストンがロータから離間する方向に後退するのを阻止するように構成されている手段とした。
【0009】
【作用】
本発明請求項1記載のブレーキ液圧制御装置では、前記不安定走行推定手段において、不安定走行状態検出手段で検出される不安定走行状態検出値に基づき不安定走行の可能性が高まったか否かが判断され、不安定走行の可能性が高まったと判断された時には、後退阻止制御手段において、前記不安定走行回避制御手段の制御開始に先立って前記アウト側ゲート弁を閉じる制御が行われるもので、これにより、車両に発生する横方向加速度によってブレーキピストンがロータから離間する方向に後退するのが防止されるため、その後の不安定走行回避制御でのブレーキ圧力増圧時におけるブレーキピストンのストロークロスの発生がなくなり、従って、ブレーキ圧力昇圧特性の悪化を防止して制御応答性を高めることができるようになる。
【0010】
請求項2記載のブレーキ液圧制御装置では、上述のように、H配管またはX配管によりそれぞれ左右の2つの車輪に分岐した2系統の主回路が設けられ、該各系統の主回路に前記アウト側ゲート弁がそれぞれ設けられると共に各分岐回路に各車輪の増圧制御弁が設けられたものにおいては、前記不安定走行推定手段により不安定走行の可能性が高まったと判断され、かつ、前記アウト側ゲート弁を閉じる主回路と同系統の他方の車輪側が非増圧制御状態である時には、前記後退阻止制御手段において、前記不安定走行回避制御手段の制御開始に先立って前記アウト側ゲート弁を閉じると共に、該アウト側ゲート弁を閉じる主回路と同系統の他方の車輪側の増圧制御弁を閉じることにより、同系統の他方の車輪側の増圧制御弁を介して該他方の車輪のホイールシリンダ側に液圧が逃げることによって、前記不安定走行回避制御手段による制御開始側車輪におけるホイールシリンダのブレーキピストンがロータから離間する方向に後退するのを阻止することができるようになる。
即ち、同系統の他方の車輪側のブレーキピストンが横方向加速度によりロータから離間する方向に移動している状態や、ロータの偏心分だけロータとブレーキピストンとの間が離間した状態となっていた場合でも、同系統の他方の車輪側の増圧制御弁を閉じることで該他方の車輪のホイールシリンダ側に液圧が逃げることを阻止することができる。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の実施の形態のブレーキ液圧制御装置の全体構成図であり、図において、WCFRは右前輪のホイールシリンダ、WCRLは左後輪のホイールシリンダ、MCは各ホイールシリンダWCFR、WCRLに供給する液圧発生源としてのマスタシリンダである。このマスタシリンダMCは、ブレーキペダルBPを踏み込むのに連動して、図示を省略した左前輪および右後輪側のホイールシリンダに接続された主回路を構成する第1チャンネル回路1と、右前輪および左後輪側のホイールシリンダWCFR、WCRLに接続された主回路を構成する第2チャンネル回路2とのX配管された2系統のブレーキ液圧を発生するように構成されている。なお、前記マスタシリンダMCには、作動液を溜めておくリザーバタンクRTが設けられている。
【0012】
以下、構成を説明するにあたり両チャンネル回路1、2の構成は、同一であるので、以下に第2チャンネル回路2の構成についてのみ説明する。
前記第2チャンネル回路2は、右前輪のホイールシリンダWCFRに至る前輪分岐回路2aと、左後輪のホイールシリンダWCRLに至る後輪分岐回路2bとに分岐されている。
【0013】
前記第2チャンネル回路2の上流には、アウト側ゲート弁3が設けられている。このアウト側ゲート弁3は、非作動時にはスプリング力で第2チャンネル回路2を連通状態とし、作動時には第2チャンネル回路2を遮断する常開の2ポート2ポジションの電磁切替弁により構成されている。また、このアウト側ゲート弁3を迂回するゲート弁バイパス回路2cにはマスタシリンダMC側からホイールシリンダWCFR、WCRL側への(以下、相対的にマスタシリンダMCに近い側を上流といい、ホイールシリンダWCFR、WCRLに近い側を下流という)流通のみを可能とする一方弁2dが設けられている。
【0014】
前記各分岐回路2a、2bには、各ホイールシリンダWCFR、WCRLのブレーキ液圧を減圧・保持・増圧するための増圧制御弁5a、5bおよび減圧制御弁6a、6bが設けられている。即ち、前記増圧制御弁5a、5bは、前記各分岐回路2a、2bの途中に設けられ、非作動時にスプリング力によりそれぞれ分岐回路2a、2bを連通状態とし、作動時に各分岐回路2a、2bを遮断する常開の2ポート2ポジションの電磁切替弁により構成されている。また、前記減圧制御弁6a、6bは、前記各分岐回路2a、2bの増圧制御弁5a、5bよりも下流(ホイールシリンダWCFR、WCRL側)に設けられた分岐点2e、2eから分岐されてリザーバ7に至る排出回路(ドレーン回路)8の途中に設けられて、非作動時に排出回路8を遮断し、作動時に排出回路8を連通させる常閉の2ポート2ポジションの電磁切替弁により構成されている。
なお、各分岐回路2a、2bには、増圧制御弁5a、5bを迂回して途中に下流から上流への流通のみを可能とする一方弁2g、2gを有したバイパス回路2f、2fが設けられている。
【0015】
また、ホイールシリンダWCFR、WCRL側に加圧液圧を供給するための液圧ポンプ4が備えられている。即ち、この液圧ポンプ4は、その吸入回路4aが前記リザーバ7およびリザーバタンクRTに接続される一方、吐出回路4bが前記アウト側ゲート弁3と両分岐回路2a、2bとの間に設けられた接続点2hに接続されている。
【0016】
そして、前記吸入回路4aの途中にはイン側ゲート弁9が設けられている。このイン側ゲート弁9は、非作動時はスプリング力により吸入回路4aを遮断し、作動時には吸入回路4aを連通させる常閉の2ポート2ポジションの電磁切替弁により構成されている。なお、前記液圧ポンプ4とリザーバ7との間の吸入回路4aには液圧ポンプ4方向への流通のみを可能とする一方弁4cが設けられている。
【0017】
前記ホイールシリンダWCFR、WCRLは、図5に示すように、車輪と一体に回転するロータ31に対向して配置されたブレーキパッド32a、32bを、運転者のブレーキ操作に基づきマスタシリンダMCで発生するマスタシリンダ液圧、または液圧ポンプ4の吐出液圧(加圧液圧)に基づいて略車輪の回転軸軸線方向に動作するブレーキピストン33で押圧することにより制動力を発生させる。
【0018】
前記電磁弁構造の各弁3、5a、5b、6a、6b、9は、図示を省略したコントロールユニット(ブレーキ液圧制御手段)により作動を制御される。即ち、コントロールユニットには、図外車輪の回転速度を検出する車輪速センサ、車体のヨーレイトを検出するヨーレイトセンサ、車両の舵角を検出する舵角センサ、ブレーキ操作状態であるか否かを検出するブレーキセンサ等のセンサ群からの信号が入力され、コントロールユニットでは、これらセンサ群から入力される信号に基づいて車輪のスリップ率を求めて、制動時にスリップ率が所定以上になるとこのスリップ率を低下させるABS制御あるいは、非制動時に駆動輪スリップが生じた場合にそれを抑制させるTCS制御ならびに車両のオーバステアまたはアンダステアを解消するように一部の車輪に制動力を与えて車両の走行安定性を確保する車両挙動制御(VDC制御)を行う。
【0019】
次に、本発明の実施の形態のブレーキ液圧制御装置の作動を説明する。なお、この作動についても第1・第2チャンネル回路1、2の作動はそれぞれ同様であるので、第2チャンネル回路2についてのみ説明する。また、前記ABS制御は本発明の主要な要素ではないためその説明を省略する。
【0020】
急発進・急加速により駆動輪のスリップ率が高くなったのに応じてスリップ率を所定の範囲内に納める制御(TCS制御)を行ったり、あるいは車両の姿勢が乱れそうになったのに応じて、車両の姿勢を制動力により安定方向に制御(VDC制御)するというような安定制御を行う時には、コントロールユニットは、まず、図1に示すように一部の車輪の増圧制御が行われる。
【0021】
この増圧制御においては、液圧ポンプ4のモータMを駆動させるとともにイン側ゲート弁9およびアウト側ゲート弁3に通電する。よって、アウト側ゲート弁3が閉弁されてその位置で第2チャンネル回路2が遮断され、かつ、イン側ゲート弁9が開弁されて吸入回路4aが連通される。従って、液圧ポンプ4が、白矢印で示すように吸入回路4aを経由してマスタシリンダMCあるいはリザーバタンクRT内の作動液を吸引し、吐出回路4bに加圧液圧を吐出する結果、黒矢印で示すように両分岐回路2a、2bに設けられた常開の増圧制御弁5a、5bを経由してホイールシリンダWCFR、WCRLの圧力を上昇させて制動力を発生可能な状態となる。なお、この時、例えば、左後輪のホイールシリンダWCRLは増圧制御したくない場合(非増圧制御時)は、常開の増圧制御弁5bに通電することにより、分岐回路2b側を遮断する。
【0022】
次に、保持制御においては、図2に示すように、前記増圧制御状態からイン側ゲート弁9およびアウト側ゲート弁3に通電する。これにより、両ゲート弁9、3が閉弁されて吸引回路4aおよび第2チャンネル回路2が遮断される。従って、増圧制御された右前輪のホイールシリンダWCFRの液圧が保持された状態となる。なお、この保持制御において液圧ポンプ4のモータMは駆動状態のままであるが、イン側ゲート弁9の閉弁により吸入回路4aが遮断されているため、液圧ポンプから加圧液圧が吐出されることはない。
【0023】
次に、減圧制御においては、図3に示すように、前記保持制御状態からアウト側ゲート弁3のみに通電する。これにより、アウト側ゲート弁3が開弁して第2チャンネル回路2が開かれる。従って、右前輪のホイールシリンダWCFR内の作動液が常開の増圧制御弁5aおよびアウト側ゲート弁3を経由してマスタシリンダMCあるいはリザーバタンクRTに排出されることで減圧される。
【0024】
以上のように、イン側ゲート弁9およびアウト側ゲート弁3を開閉制御することにより、所望車輪のホイールシリンダ液圧を増圧・保持・減圧して所望の制動力を発生させ、これにより、車体にヨーモメントを生じさせて車両姿勢を制御し、不安定走行状態を回避させることができる。ちなみに、この不安定走行状態を回避する車両挙動制御(VDC)の一例を示せば、オーバステア時には旋回外輪の前輪に制動力を与えることによりアンダステア方向のヨーモーメントを生じさせ、また、アンダステア時には旋回内輪の後輪に制動力を与えてオーバステア方向のヨーモーメントを生じさせて車両姿勢を安定方向に制御することができる。
【0025】
次に、前記車両挙動制御時におけるノックバック制御の内容を図4〜7に基づいて説明する。なお、ノックバック制御とは、発明が解決しようとする課題で述べたように、車両に発生する横方向加速度によるブレーキピストンの移動を阻止する制御をいう。
まず、図4のノックバック制御の内容を示すブロック図において、21は不安定走行状態検出手段、22は不安定走行回避制御手段、23は不安定走行推定手段、24は後退阻止制御手段を示すもので、これらの手段は、コントロールユニット内に組み込まれている。
【0026】
前記不安定走行状態検出手段21は、車両に作用する横方向加速度に基づく不安定走行状態を検出するもので、この発明の実施の形態では、車両に実際に作用しているヨーレイトを算出する実ヨーレイト算出手段211と、車両が安定的に走行可能な目標ヨーレイトを算出する目標ヨーレイト算出手段212と、該目標ヨーレイト算出手段212で算出された目標ヨーレイトと前記実ヨーレイト算出手段211で算出された実ヨーレイトとの差分に相当するヨーレイト値を前記不安定走行状態検出値として算出する差分値算出手段213と、で構成されている。
【0027】
前記不安定走行回避制御手段22は、前記不安定走行状態検出手段21で検出された不安定走行状態検出値に応じて車両に発生している横方向加速度に対向するように少なくとも1つの車輪のホイールシリンダ(この発明の実施の形態では右前輪のホイールシリンダWCFR)に液圧ポンプ4からの吐出液圧を供給して制動力を発生させる。
【0028】
前記不安定走行推定手段23は、前記不安定走行状態検出手段21で検出される不安定走行状態検出値に基づき不安定走行の可能性が高まったか否かを判断するものであり、また、前記後退阻止制御手段24は、前記不安定走行推定手段23により不安定走行の可能性が高まったと判断された時には、前記右前輪のホイールシリンダWCFRのブレーキピストン33がブレーキパッド32bから離間する方向に後退するのを阻止する制御、所謂ノックバック制御が行われるもので、この発明の実施の形態では、ノックバック制御として右前輪ホイールシリンダWCFRのブレーキ液圧を保持させる制御が行われる。
【0029】
次に、前記ノックバック制御の内容を、図6のフローチャートおよび図7のタイムチャートに基づいて説明する。なお、この発明の実施の形態では、VDC制御において右前輪に制動力を与える場合について説明する。
【0030】
まず、図6のフローチャートのステップS101では、実ヨーレイト算出手段211において、ヨーレイトセンサからの信号に基づき、車両に実際に作用している実ヨーレイトYAWを算出し、続くステップS102では、目標ヨーレイト算出手段212において、舵角センサからの信号に基づき、車両が安定的に走行可能な目標ヨーレイトTYAWを算出する。
【0031】
続くステップS103では、次式に示すように、以上のように算出された目標ヨーレイトTYAWと実ヨーレイトYAWとの差分の絶対値に相当する差分ヨーレイト値ΔYAWを不安定走行状態検出値として算出する。
ΔYAW=|TYAW−YAW|
【0032】
続くステップS104では、前記差分ヨーレイト値ΔYAWがノックバック制御閾値NBsを越えているか否かを判定し、YES(ΔYAW>NBs)である時は、ステップS105に進む。なお、前記ノックバック制御閾値NBSは、車両挙動制御開始の可能性が高いか否かを判定するためのものであるため、オーバステア状態(不安定走行状態)の発生により車両挙動制御を開始させるためのVDC介入閾値VDCsより小さい値に設定されている。前記ステップS103およびS104が前記不安定走行推定手段23を構成している。
【0033】
続くステップS105では、右前輪と同系統の他の車輪が非増圧制御状態であるか否かを判定し、YES(非増圧制御状態)である時は、ステップS106に進んで同系列他方の増圧制御弁5bに通電して閉弁した後、ステップS107に進む。この同系列他方の増圧制御弁5bの閉弁により、右前輪のホイールシリンダWCFRと左後輪のホイールシリンダWCRLとの連通状態を分岐回路2b側で遮断した状態となる。
【0034】
なお、前記ステップS105の判定がNO(右前輪と同系統の他の車輪が増圧制御状態)である時は、ステップS106の制御は不要であるため、そのままステップS107に進む。そして、このステップS107では、常開のアウト側ゲート弁3に通電して閉弁させることにより、第2チャンネル回路2自体を遮断する。即ち、この時点では、増圧制御弁5aのみ、または、両増圧制御弁5a、5bのみが開弁した閉回路状態となっている。従って、この状態で車両に横方向加速度が作用しても、右前輪のホイールシリンダWCFRのブレーキピストン33が図5において右方向に移動(特に、図5において右方向にブレーキ解除方向に移動)することが完全に阻止された状態となる。なお、前記ステップS106およびS107が前記後退阻止制御手段24を構成している。
【0035】
続くステップS108では、前記差分ヨーレイト値ΔYAWがVDC介入閾値VDCsを越えているか否かを判定し、YES(ΔYAW>VDCs)である時は、車両がオーバステア状態であるためVDC制御を行うステップS109に進む。即ち、このステップS109では、イン側ゲート弁9に通電して開弁させ、吸入回路4aを開くと同時に、モータMに通電して液圧ポンプ4を駆動させることにより、右前輪のホイールシリンダWCFR内液圧を増圧させ、これにより、右前輪に制動力を発生させることによりオーバステア状態を回避させることができる。
以上で一回のフローを終了し、以後は以上のフローを繰り返す。
【0036】
即ち、この発明の実施の形態のブレーキ液圧制御装置のノックバック制御においては、図6のタイムチャートに示すように、前記不安定走行推定手段23によりオーバステア状態(不安定走行)の可能性が高まったと判断され、かつ、第2チャンネル回路2と同系統の他方の車輪(左後輪)側が非増圧制御状態である時には、後退阻止制御手段24において、不安定走行回避制御手段22による不安定走行回避制御の開始に先立ってアウト側ゲート弁3を閉じると共に、該アウト側ゲート弁3を閉じる第2チャンネル回路2と同系統の他方の車輪側の増圧制御弁5bを閉じるもので(図6のステップS101→S102→S103→S104→S105→S106→S107の流れ)、これにより、同系統の他方の車輪側の増圧制御弁5bを介して非増圧制御中の他方の車輪(左後輪)のホイールシリンダWCRL側に液圧が逃げることによって、不安定走行回避制御手段22による不安定走行回避制御開始側車輪(右前輪)におけるホイールシリンダWCFRのブレーキピストン33がロータ31から離間する方向に後退するのを阻止することができるようになる。
【0037】
即ち、同系統の他方の車輪(左後輪)側が非増圧制御状態で、該ブレーキピストン33が横方向加速度によりロータ31から離間する方向に移動している状態や、ロータ31の偏心分だけロータ31とブレーキピストン33との間が離間した状態となっていた場合でも、同系統の他方の車輪(左後輪)側の増圧制御弁5bを閉じることで該他方の車輪(左後輪)のホイールシリンダWCRL側に液圧が逃げることを阻止することができ、これにより、不安定走行回避制御開始側車輪(右前輪)におけるホイールシリンダWCFRのブレーキピストン33がロータ31から離間する方向に後退するのを確実に阻止することができるようになる。
【0038】
そして、その後、不安定走行回避制御手段22により、オーバステア(不安定走行状態)が検出され、VDC制御が開始されると、イン側ゲート弁9に通電して開弁させ、吸入回路4aを開くと同時に、モータMに通電して液圧ポンプ4を駆動させることにより、右前輪のホイールシリンダWCFR内液圧を増圧させ、これにより、右前輪に制動力を発生させることによりオーバステア状態を回避させることができる、そして、VDC制御のが開始時点においては、ブレーキピストン33がロータ31に当接した状態となっているため、図7の実線で示すように、VDC制御開始と同時に、右前輪のホイールシリンダWCFRの液圧を上昇させることができる。
従って、ブレーキ圧力昇圧特性の悪化を防止してVDC制御の制御応答性を高めることができるようになるという効果が得られる。
【0039】
以上図面により発明の実施の形態について説明したが本発明はこれに限定されるものではない。
例えば、発明の実施の形態では、X配管の車両を例にとって説明したが、H配管の車両にも同様に適用することができる。
また、発明の実施の形態では、液圧ポンプのみを設けた例で説明したが、過給ポンプを追加したものにおいても同様に本発明を適用することができる。
【0040】
また、発明の実施の形態では、不安定走行状態として、オーバステア状態を例にとって説明したが、アンダステア状態や、その他に車両姿勢が乱れそうになった場合にも、本発明を適用することができる。
また、発明の実施の形態では、不安定走行状態検出手段である実ヨーレイト算出手段211として、ヨーレイトセンサを用いる例を示したが、車両の前後に備えた横加速度センサを用いるようにしてもよい。
また、発明の実施の形態では、目標ヨーレイト算出手段212として、舵角センサを用いる例を示したが、スリップ角に基づいて算出するようにしてもよい。
【0041】
【発明の効果】
以上詳細に説明してきたように、本発明請求項1記載のブレーキ液圧制御装置にあっては、車両に作用する横方向加速度に基づく不安定走行状態を検出する不安定走行状態検出手段と、該不安定走行状態検出手段で不安定走行状態が検出された時は車両に発生している横方向加速度に対向するように少なくとも1つの車輪における前記アウト側ゲート弁を閉じると共に液圧ポンプを駆動させて加圧液圧を該車輪のホイールシリンダに供給する不安定走行回避制御手段と、前記不安定走行状態検出手段で検出される不安定走行状態検出値に基づき不安定走行の可能性が高まったか否かを判断する不安定走行推定手段と、該不安定走行推定手段により不安定走行の可能性が高まったと判断された時には前記不安定走行回避制御手段の制御開始に先立って前記アウト側ゲート弁を閉じることによりホイールシリンダのブレーキピストンがロータから離間する方向に後退するのを阻止する後退阻止制御手段と、を備えている手段としたことで、車両に発生する横方向加速度によってブレーキピストンがロータから離間する方向に後退するのが防止されるため、その後の不安定走行回避制御でのブレーキ圧力増圧時におけるブレーキピストンのストロークロスの発生がなくなり、従って、ブレーキ圧力昇圧特性の悪化を防止して制御応答性を高めることができるようになるという効果が得られる。
【0042】
また、請求項1のブレーキ液圧制御装置にあっては、H配管またはX配管によりそれぞれ左右の2つの車輪に分岐した2系統の主回路が設けられ、該各系統の主回路に前記アウト側ゲート弁がそれぞれ設けられると共に各分岐回路に各車輪の増圧制御弁が設けられ、前記後退阻止制御手段が、前記不安定走行推定手段により不安定走行の可能性が高まったと判断され、かつ、前記アウト側ゲート弁を閉じる主回路と同系統の他方の車輪側の増圧制御弁が開制御されている時には前記不安定走行回避制御手段の制御開始に先立って前記アウト側ゲート弁を閉じると共に、該アウト側ゲート弁を閉じる主回路と同系統の他方の車輪側の増圧制御弁を閉じることによりホイールシリンダのブレーキピストンがロータから離間する方向に後退するのを阻止するように構成されている手段としたことで、同系統の他方の車輪側のブレーキピストンが横方向加速度によりロータから離間する方向に移動している状態や、ロータの偏心分だけロータとブレーキピストンとの間が離間した状態となっていた場合でも、同系統の他方の車輪側の増圧制御弁を閉じることで該他方の車輪のホイールシリンダ側に液圧が逃げることを阻止することができ、これにより、その後の不安定走行回避制御でのブレーキ圧力増圧時におけるブレーキピストンのストロークロスの発生がなくなり、従って、ブレーキ圧力昇圧特性の悪化を防止して制御応答性を高めることができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【図1】発明の実施の形態のブレーキ液圧制御装置の増圧制御状態を示す全体図である。
【図2】発明の実施の形態のブレーキ液圧制御装置の保持制御状態を示す全体図である。
【図3】発明の実施の形態のブレーキ液圧制御装置の減圧制御状態を示す全体図である。
【図4】発明の実施の形態のブレーキ液圧制御装置におけるノックバック制御の内容を示すブロック図である。
【図5】発明の実施の形態のブレーキ液圧制御装置におけるホイールシリンダ部分を示す説明図である。
【図6】発明の実施の形態のブレーキ液圧制御装置におけるノックバック制御の内容を示すフローチャートである。
【図7】発明の実施の形態のブレーキ液圧制御装置におけるノックバック制御の内容を示すタイムチャートである。
【符号の説明】
WSFR 右前輪のホイールシリンダ
WSRL 左後輪のホイールシリンダ
BP ブレーキペダル
MC マスタシリンダ
RT リザーバタンク
1 第1チャンネル回路(主回路)
2 第2チャンネル回路(主回路)
2a 分岐回路
2b 分岐回路
2c ゲート弁バイパス回路
2d 一方弁
2e 分岐点
2f バイパス回路
2g 一方弁
2h 接続点
3 アウト側ゲート弁
4 液圧ポンプ
4a 吸入回路
4b 吐出回路
4c 一方弁
5a 増圧制御弁
5b 増圧制御弁
6a 減圧制御弁
6b 減圧制御弁
7 リザーバ
8 排出回路(ドレーン回路)
9 イン側ゲート弁
31 ロータ
32a ブレーキパッド
32b ブレーキパッド
33 ブレーキピストン
Claims (1)
- 運転者のブレーキ操作に応じて液圧を発生させるマスタシリンダと、
車輪と一体に回転するロータに対向して配置されたブレーキパッドを導入液圧によって前記車輪の回転軸軸線方向に動作するブレーキピストンで押圧することにより制動力を発生させるホイールシリンダと、
該ホイールシリンダと前記マスタシリンダとを結ぶ主回路と、
該主回路の開閉を行う常開の増圧制御弁と、
該増圧制御弁と前記マスタシリンダとの間における前記主回路の開閉を行う常開のアウト側ゲート弁と、
前記ホイールシリンダの液圧をリザーバに排出させるドレーン回路の開閉を行う常閉の減圧制御弁と、
吐出回路が前記アウト側ゲート弁と前記増圧制御弁との間の前記主回路に接続される一方吸入回路が前記マスタシリンダおよび前記リザーバに接続されていて加圧液圧を前記主回路側へ供給する液圧ポンプと、
前記吸入回路の開閉を行う常開のイン側ゲート弁と、
前記増圧制御弁、前記減圧制御弁および前記両ゲート弁の作動ならびに前記液圧ポンプの駆動を制御するブレーキ液圧制御手段と、
を備えたブレーキ液圧制御装置において、
車両に作用する横方向加速度に基づく不安定走行状態を検出する不安定走行状態検出手段と、
該不安定走行状態検出手段で不安定走行状態が検出された時は車両に発生している横方向加速度に対向するように少なくとも1つの車輪における前記アウト側ゲート弁を閉じると共に前記液圧ポンプを駆動させて前記加圧液圧を該車輪のホイールシリンダに供給する不安定走行回避制御手段と、
前記不安定走行状態検出手段で検出される不安定走行状態検出値に基づき不安定走行の可能性が高まったか否かを判断する不安定走行推定手段と、
該不安定走行推定手段により不安定走行の可能性が高まったと判断された時には前記不安定走行回避制御手段の制御開始に先立って前記アウト側ゲート弁を閉じることにより前記ホイールシリンダの前記ブレーキピストンが前記ロータから離間する方向に後退するのを阻止する後退阻止制御手段と、
を備え、
前記主回路は、H配管またはX配管によりそれぞれ左右の2つの車輪に分岐した2系統に設けられ、
該各系統の主回路に前記アウト側ゲート弁がそれぞれ設けられると共に、各分岐回路に各車輪の増圧制御弁が設けられ、
前記後退阻止制御手段が、前記不安定走行推定手段により不安定走行の可能性が高まったと判断され、かつ、前記アウト側ゲート弁を閉じる主回路と同系統の他方の車輪側が非増圧制御状態にある時には前記不安定走行回避制御手段の制御開始に先立って前記アウト側ゲート弁を閉じると共に、該アウト側ゲート弁を閉じる主回路と同系統の他方の車輪側の増圧制御弁を閉じることによりホイールシリンダのブレーキピストンがロータから離間する方向に後退するのを阻止するように構成されていること
を特徴とするブレーキ液圧制御装置。
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