JP3970311B1 - 新生血管阻害剤,DNA合成阻害剤,p44/p42MAPKリン酸化活性阻害剤及び医療用キット - Google Patents

新生血管阻害剤,DNA合成阻害剤,p44/p42MAPKリン酸化活性阻害剤及び医療用キット Download PDF

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Abstract

【課題】新生血管が関連する疾患の治療に有効な新規ペプチド又はその薬理学的に許容される塩,血管新生阻害補助剤,血管新生阻害剤,医療用組成物,及び医療用キットを提供する。
【解決手段】EphB4に対する抗体又はその薬理学的に許容される塩と;(i)特定のアミノ酸配列からなるペプチド,もしくはその薬理学的に許容される塩,又は(ii)この特定のアミノ酸配列において,1又は2個のアミノ酸が欠失,置換,挿入若しくは付加されたアミノ酸配列からなり,前記エフリンB2の新生血管の阻害活性を高めるペプチド,もしくはそれらの薬理学的に許容される塩と;を含有する医薬用組成物又は医療用キット。
【選択図】図1

Description

本発明は,EphB4に対する抗体及びエフリンB2の部分ペプチドを含む新生血管阻害剤及び医療用キットなどに関する。
新生血管は,加齢黄斑変性,糖尿病性網膜症,及び未熟児網膜症のような種々の眼病理症状の顕著な特徴である。したがって,新生血管を阻害し,これらの疾患を治療又は予防できる医薬が望まれる。一方で血管が新生されることは,生体が正常に機能する上でも重要である。そこで,網膜外に向かう病的な血管形成または血管新生を抑制し,かつ網膜中において血管網が形成されることや,血管が成熟することを増強するような医薬が望まれる。
大野京子“加齢黄斑変性における脈絡膜新生血管の分子機構−特に色素上皮由来因子の役割について−”日本眼科学界雑誌(Journal
of Ophthalmological Society)Vol. 107, No. 11, pp. 657−673, 2003(下記非特許文献1)には,以下の内容が開示されている。“加齢黄斑変性(AMD)は,先進諸国における50代以上の失明原因の常に上位を占める重要な疾患であり,人口の高齢化に伴いますますその頻度は増加しつつある。しかしながら,AMDにおける脈絡膜新生血管(CNV)の分子機構は未だ完全には解明されていない。従来から網膜色素上皮(RPE)が産生する血管内皮増殖因子(VEGF)の発現上昇がCNV発生に重要であるとされてきたが,トランスジェニックマウスの結果などからVEGF単独ではCNV発生には不十分であると考えられる。CNVは無血管である網膜外層に新生血管が侵入していく現象であり,この場合には正常で血管侵入を抑制している抑制因子の発現低下の方が重要ではないかと我々は考えた。そして,近年明らかになった最強の血管新生抑制因子,色素上皮由来因子(PEDF)に注目し,加齢や酸化ストレスによって生じるRPEの分化状態の崩れがPEDFの発現低下を惹起し,その結果生じるVEGFとPEDFのバランスの崩れがCNV発現の引き金を引くのではないかというメカニズムを明らかにした。”
T.Kondo et al.,“PKC/MAPK Signaling Suppression by Retinal Pericyte Conditioned Medium Prevents Retinal
Endothelial Cell Proliferation”,Journal of cellular physiology,203,pp.378−386,2005(下記非特許文献2)のFig6では,p44/42MAPKの抑制が,細胞増殖及び脈絡膜の血管新生の抑制と強い相関性があることが示されている。
WO2006/006079号公報(下記特許文献1)には,エフリンB2が,眼内における動脈及び静脈内皮細胞のDNA合成の阻害作用を有すること;エフリンB2が,眼内における動脈及び静脈内皮細胞におけるp44/p42MAPK活性化の阻害作用を有すること;エフリンB2が,眼内における動脈及び静脈内皮細胞における管形成の阻害作用を有することが示されている。同文献では,その実施例3において,CNV(脈絡膜新生血管)モデルを用いてエフリンB2が加齢黄斑変性(AMD)の治療に有効であることが示されている。しかしながら,本発明の抗体や本出願の配列番号2〜配列番号4で表されるペプチドは開示されていない。
エフリンB2に関して,さらに以下の文献が知られている。WO2002/26827号公報(特許文献2)には,エフリンB2が開示されている。そして,エフリンを目の血管新生の遺伝子治療剤として用いるとの記載がある(1頁4行目〜12行目)。しかし,特許文献2は,エフリンB2が新生血管の成長を抑圧するものであるのか,正常血管網の形成を促進するものであるかについては何らの示唆もない。また,特許文献2は,エフリンB2の実施例として,腫瘍細胞の阻害実験しかしていないので,エフリンB2と新生血管との関係や,エフリンB2と正常血管との関係などについては何ら実証されていない。まして,本発明の抗体や本出願の配列番号2〜配列番号4で表されるペプチドは開示されていない。
特表平10-502810号公報(特許文献3)のLERK-5は,エフリンB2に相当するものと考えられる。そして,特許文献3の実施例1では,ヒトエフリンB2のcDNAが単離され,実施例7ではヒトエフリンB2(細胞外ドメイン)とFcの融合タンパク質がレセプターのリン酸化を刺激することをin
vitro(試験管内)実験で実証している。しかしながら,特許文献3では,エフリンB2を神経性疾病へ用いることのみが意図されており(21頁23行目〜22頁2行目),新生血管関連疾患への用途は記載されていない。まして,本発明の抗体や本出願の配列番号2〜配列番号4で表されるペプチドは開示されていない。
特表平10-501701号公報(特許文献4)の“Htkリガンド”は,エフリンB2に相当するものと推定される。特許文献4では,Htkリガンドの用途として,神経変性の治療があげられているが(60頁7行目〜63頁9行目),Htkリガンドを新生血管など抑制などに用いる点は記載も示唆もされていない。まして,本発明の抗体や本出願の配列番号2〜配列番号4で表されるペプチドは開示されていない。
特表2002-511417号公報(特許文献5)には,エフリンB2が,腫瘍による血管新生を増強等するとの記載がある(特許文献5の段落[0062])。よって,エフリンB2を,新生血管を阻害するために用いることについて動機付けとなるものはない。まして,本発明の抗体や本出願の配列番号2〜配列番号4で表されるペプチドは開示されていない。
WO2006/006079号公報 WO2002/26827号公報 特表平10−502810号公報 特表平10−501701号公報 特表2002−511417号公報 大野京子"加齢黄斑変性における脈絡膜新生血管の分子機構−特に色素上皮由来因子の役割について−"日本眼科学界雑誌Vol. 107, No. 11, pp. 657−673, 2003 T.Kondo et al.,"PKC/MAPK Signaling Suppression by Retinal Pericyte Conditioned Medium Prevents RetinalEndothelial Cell Proliferation",Journal of cellular physiology,203,pp.378−386,2005
本発明は,新生血管が関連する疾患の治療に有効な新生血管阻害剤,医療用キットなどを提供することを目的とする。
本発明は,基本的には,エフリンB2の受容体であるEphB4に対する抗体(又は当該抗体と配列番号2などの低分子ポリペプチドをとあわせたもの)を投与することで,新生血管の発生を阻害できるという知見に基づくものである。さらに,本発明は,配列番号2などの低分子ポリペプチドとEphB4に対する抗体を別々に投与すると,これらを同時に投与した場合に比べて,新生血管阻害活性を著しく高めることができるという知見に基づくものである。
すなわち,本発明の第1の側面は,EphB4に対する抗体(又は当該抗体とエフリンB2の部分ペプチド)を含有する新生血管阻害剤に関する。後述の実施例により実証されたとおり,これらはp44/p42MAPKリン酸化活性を示し,したがって,新生血管阻害剤,特に眼内の新生血管阻害剤として有用である。より具体的には,本発明の第1の側面は,配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチドに対する抗体を含有する新生血管阻害剤に関する。そして,本発明の第1の側面の好ましい態様は,前記抗体が,ポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体である上記に記載の新生血管阻害剤に関する。
本発明の第1の側面の好ましい態様は,配列番号1において,1個,2個又は3個のアミノ酸が欠失,置換,挿入若しくは付加されたアミノ酸配列からなるペプチドに対する抗体を含有する新生血管阻害剤に関する。実施例においては,配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチドに対する抗体の活性を実測したが,配列番号1において,1個,2個又は3個のアミノ酸が欠失,置換,挿入若しくは付加されたアミノ酸配列からなるペプチドに対する抗体も実質的に同様な機能を有し,実施例で実証された抗体と同様,新生血管阻害剤,特に眼内の新生血管阻害剤として有用であるといえる。
本発明の第1の側面の好ましい態様は,前記配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチドに対する抗体とともに;“配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるペプチド,又はその薬理学的に許容される塩,及び配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるペプチド,又はその薬理学的に許容される塩”のいずれか又は両方を含有する新生血管阻害剤に関する。後述する実施例により実証されたとおり,前記抗体とともにペプチドを投与すると新生血管の阻害活性が高まるので,この実施態様にかかる新生血管阻害剤は,有用な新生血管阻害剤であるといえる。
本発明の第1の側面の好ましい態様は,前記配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチドに対する抗体とともに;配列番号2において,1又は2個のアミノ酸が欠失,置換,挿入若しくは付加されたアミノ酸配列からなり,エフリンB2の新生血管の阻害活性を高めるペプチド,又はその薬理学的に許容される塩,又は配列番号3において,1又は2個のアミノ酸が欠失,置換,挿入若しくは付加されたアミノ酸配列からなり,エフリンB2の新生血管の阻害活性を高めるペプチド,又はその薬理学的に許容される塩のいずれか又は両方を含有する上記いずれかに記載の新生血管阻害剤に関する。本発明の第1の側面の好ましい態様は,前記配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチドに対する抗体とともに;配列番号4で表されるアミノ酸配列を具備するペプチドであって,当該ペプチドに含まれるアミノ酸残基の数が9以上,100以下であるペプチド,又はその薬理学的に許容される塩を含有する,上記いずれかに記載の新生血管阻害剤に関する。本発明の第1の側面の好ましい態様は,前記配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチドに対する抗体とともに;配列番号5で表されるアミノ酸配列からなるペプチド,又はその薬理学的に許容される塩,及び配列番号6で表されるアミノ酸配列からなるペプチド,又はその薬理学的に許容される塩”のいずれか又は両方を含有する,上記いずれかに記載の新生血管阻害剤に関する。本発明の第1の側面の好ましい態様は,前記配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチドに対する抗体とともに;配列番号5において,1又は2個のアミノ酸が欠失,置換,挿入若しくは付加されたアミノ酸配列からなり,エフリンB2の新生血管の阻害活性を高めるペプチド,又はその薬理学的に許容される塩”,及び“配列番号6において,1又は2個のアミノ酸が欠失,置換,挿入若しくは付加されたアミノ酸配列からなり,エフリンB2の新生血管の阻害活性を高めるペプチド,又はその薬理学的に許容される塩”のいずれか又は両方を含有する,上記いずれかに記載の新生血管阻害剤に関する。本発明の第1の側面の好ましい態様は,前記配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチドに対する抗体とともに;配列番号7または配列番号8で表されるアミノ酸配列を具備するペプチドであって,当該ペプチドに含まれるアミノ酸残基の数が9以上,100以下(好ましくは20以下)であるペプチド,又はその薬理学的に許容される塩を含有する,上記いずれかに記載の新生血管阻害剤に関する。後述する実施例により実証されたとおり,前記抗体とともにペプチドを投与すると新生血管の阻害活性が高まるので,これらの実施態様にかかる新生血管阻害剤は,有用な新生血管阻害剤であるといえる。なお,配列番号7または配列番号8で表されるアミノ酸配列を具備するペプチドには,配列番号7で表されるアミノ酸配列,及び配列番号8で表されるアミノ酸配列の両方のアミノ酸配列を具備するペプチドも含まれる。配列番号7及び配列番号8は,それぞれ配列番号5で表されるアミノ酸配列において4位−9位,及び13位―16位に位置するアミノ酸配列であるから,その双方を含む配列は配列番号7部分と配列番号8部分との間に,1個以上6個以下,好ましくは2個,3個又は4個のアミノ酸残基が挿入されたものが好ましい。その場合のペプチドはアミノ酸残基の数が14以上,100以下(好ましくは20以下)であることが好ましい。配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチドに対する抗体とともに;配列番号7で表されるアミノ酸配列からなるペプチド,及び配列番号8で表されるアミノ酸配列からなるペプチドのいずれか又は両方が含まれていてもよい。
本発明の第1の側面の好ましい態様は,“加齢黄斑変性,虚血性網膜症,眼内血管新生,角膜血管新生,網膜血管新生,脈絡膜血管新生,糖尿病性黄斑浮腫,糖尿病性網膜虚血,糖尿病性網膜浮腫,糖尿病性網膜症”からなる群から選択される,1又は2種以上の疾患の治療剤又は予防剤である上記いずれかに記載の新生血管阻害剤に関する。本発明の第1の側面の好ましい態様は,加齢黄斑変性及び糖尿病性網膜症のいずれか又は両方の疾患の治療剤又は予防剤である上記いずれかに記載の新生血管阻害剤に関する。本発明の第1の側面の好ましい態様は,腫瘍,慢性関節リウマチ,乾癬,アテローム性動脈硬化症,カポジ肉腫,又は固形癌の転移の治療剤である上記いずれかに記載の新生血管阻害剤に関する。すなわち,後述する実施例により実証されたとおり,本発明の抗体及び低分子ペプチドは,新生血管の阻害能を有するので,各種疾患の治療又は予防に有効である。
本発明の第2の側面は,配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチドに対する抗体;及び“配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるペプチド,又はその薬理学的に許容される塩,及び配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるペプチド,又はその薬理学的に許容される塩”のいずれか又は両方を含有する,DNA合成阻害剤に関する。また,本発明の第2の側面の別の態様は,配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチドに対する抗体;及び“配列番号5で表されるアミノ酸配列からなるペプチド,又はその薬理学的に許容される塩,及び配列番号6で表されるアミノ酸配列からなるペプチド,又はその薬理学的に許容される塩”のいずれか又は両方を含有する,DNA合成阻害剤に関する。
後述する実施例により実証されたとおり,本発明の抗体及び低分子ペプチドは,p44/p42MAPKリン酸化活性阻害能を有するので,DNA合成阻害剤として有効に機能する。特に,本発明の抗体及び低分子ペプチドは,眼内における新生血管に関するDNA合成阻害剤として有効である。
本発明の第3の側面は,配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチドに対する抗体;及び“配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるペプチド,又はその薬理学的に許容される塩,及び配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるペプチド,又はその薬理学的に許容される塩”のいずれか又は両方を含有する,p44/p42MAPKリン酸化活性阻害剤に関する。また,本発明の第3の側面は,配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチドに対する抗体;及び“配列番号5で表されるアミノ酸配列からなるペプチド,又はその薬理学的に許容される塩,及び配列番号6で表されるアミノ酸配列からなるペプチド,又はその薬理学的に許容される塩”のいずれか又は両方を含有する,p44/p42MAPKリン酸化活性阻害剤に関する。
後述する実施例により実証されたとおり,本発明の抗体及び低分子ペプチドは,p44/p42MAPKリン酸化活性阻害能を有する。特に,本発明の抗体及び低分子ペプチドは,眼内における新生血管に関する疾患を治療又は予防するためのp44/p42MAPKリン酸化活性阻害剤として有効である。
本発明の第4の側面は,配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチドに対する抗体,及び薬理学的に許容される担体を含有する第1の組成物と;(i)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるペプチド,もしくはその薬理学的に許容される塩,又は(ii)配列番号2において,1又は2個のアミノ酸が欠失,置換,挿入若しくは付加されたアミノ酸配列からなり,前記配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチドに対する抗体の新生血管の阻害活性を高めるペプチド,もしくはそれらの薬理学的に許容される塩,及び薬理学的に許容される担体を含有する第2の組成物と;を含有する医療用キットに関する。
本発明の第4の側面の上記と別の態様は,配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチドに対する抗体,及び薬理学的に許容される担体を含有する第1の組成物と;(i)配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるペプチド,もしくはその薬理学的に許容される塩,又は(ii)配列番号3において,1又は2個のアミノ酸が欠失,置換,挿入若しくは付加されたアミノ酸配列からなり,前記配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチドに対する抗体の新生血管の阻害活性を高めるペプチド,もしくはそれらの薬理学的に許容される塩,び薬理学的に許容される担体を含有する第2の組成物と;を含有する医療用キットに関する。
本発明の第4の側面の上記と別の態様は,配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチドに対する抗体,及び薬理学的に許容される担体を含有する第1の組成物と;配列番号4で表されるアミノ酸配列を含有し,当該ペプチドに含まれるアミノ酸残基の数が9以上,100以下であるペプチドであって,配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチドに対する抗体の新生血管の阻害活性を高めるペプチド,もしくはそれらの薬理学的に許容される塩,及び薬理学的に許容される担体を含有する第2の組成物と;を含有する医療用キットに関する。
本発明の第4の側面の上記と別の態様は,配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチドに対する抗体,及び薬理学的に許容される担体を含有する第1の組成物と;(i)配列番号5で表されるアミノ酸配列からなるペプチド,もしくはその薬理学的に許容される塩,又は(ii)配列番号5において,1又は2個のアミノ酸が欠失,置換,挿入若しくは付加されたアミノ酸配列からなり,前記配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチドに対する抗体の新生血管の阻害活性を高めるペプチド,もしくはそれらの薬理学的に許容される塩,及び薬理学的に許容される担体を含有する第2の組成物と;を含有する医療用キットに関する。
本発明の第4の側面の上記と別の態様は,配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチドに対する抗体,及び薬理学的に許容される担体を含有する第1の組成物と;(i)配列番号6で表されるアミノ酸配列からなるペプチド,もしくはその薬理学的に許容される塩,又は(ii)配列番号6において,1又は2個のアミノ酸が欠失,置換,挿入若しくは付加されたアミノ酸配列からなり,前記配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチドに対する抗体の新生血管の阻害活性を高めるペプチド,もしくはそれらの薬理学的に許容される塩,及び薬理学的に許容される担体を含有する第2の組成物と;を含有する医療用キットに関する。
本発明の第4の側面の上記と別の態様は,配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチドに対する抗体,及び薬理学的に許容される担体を含有する第1の組成物と;配列番号7または配列番号8で表されるアミノ酸配列を含有し,当該ペプチドに含まれるアミノ酸残基の数が9以上,100以下であるペプチドであって,配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチドに対する抗体の新生血管の阻害活性を高めるペプチド,もしくはそれらの薬理学的に許容される塩,及び薬理学的に許容される担体を含有する第2の組成物とを含有する医療用キットに関する。
本発明の第4の側面の上記と別の態様は,血管形成または血管新生に関連する疾患または障害の治療用キットである上記いずれかに記載のキットに関する。
本発明の第4の側面の上記と別の態様は,“加齢黄斑変性,虚血性網膜症,眼内血管新生,角膜血管新生,網膜血管新生,脈絡膜血管新生,糖尿病性黄斑浮腫,糖尿病性網膜虚血,糖尿病性網膜浮腫,糖尿病性網膜症”からなる群から選択される,1又は2種以上の疾患の治療又は予防用キットである上記いずれかに記載のキットに関する。
本発明の第4の側面の上記と別の態様は,加齢黄斑変性及び糖尿病性網膜症のいずれか又は両方の疾患の治療用又は予防用キットである上記いずれかに記載のキットに関する。
本発明の第4の側面の上記と別の態様は,腫瘍,慢性関節リウマチ,乾癬,アテローム性動脈硬化症,カポジ肉腫,又は固形癌の転移の治療用キットである上記いずれかに記載のキットに関する。
本発明の第4の側面の上記と別の態様は,前記第1の組成物が投与された後に,前記第2の組成物が投与される上記いずれかに記載のキットに関する。
後述する実施例により実証されたとおり,本発明によれば,新生血管が関連する疾患の治療に有効な新生血管阻害剤,DNA合成阻害剤,p44/p42MAPKリン酸化活性阻害剤及び医療用キットなどを提供できる。
本発明の第一の側面は,配列番号1(「ヒト,マウスなどの高等哺乳動物のEphB4の,N末端シグナル配列を除いた細胞外ドメイン(16番目から539番目までのアミノ酸残基からなるペプチド)」)で表されるアミノ酸配列からなるペプチドに対する抗体を含有する新生血管阻害剤に関する。すなわち,本発明の第一の側面は,有効量の発明の抗体を有効成分として含有する新生血管阻害剤に関する。有効量とは,新生血管の発生を阻害するために十分な量を意味し,患者によって適宜調整すればよい。
本発明の抗体は,配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチドに対する抗体;又は,配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチドに対する抗体とともに,又は当該抗体に替えて;配列番号1において,1個,2個又は3個のアミノ酸が欠失,置換,挿入若しくは付加されたアミノ酸配列からなるペプチドに対する抗体である。本発明の抗体は,配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチド,又は配列番号1において,1個,2個又は3個のアミノ酸が欠失,置換,挿入若しくは付加されたアミノ酸配列からなるペプチド(以下,「本発明の細胞外領域ペプチド」ともよぶ。)を認識しうる抗体であれば,ポリクローナル抗体,モノクローナル抗体のいずれであってもよいし,キメラ抗体,CDR移植抗体,及びヒト抗体(完全ヒト抗体を含む)であってもよい。
配列番号1で表されるアミノ酸配列を含むペプチド(より具体的にはヒト由来のEphB4の細胞外ドメインに位置する201番目〜400番目のアミノ酸残基からなるペプチド)に対するウサギポリクローナル抗体は,サンタクルズバイオテクノロジー社(SANTA_CRUZ_BIOTECHNOLOGY,INC)のEphB4(H−200):sc−5536として,販売されている。また,EphB4の細胞外ドメインを構成するポリペプチドに対するモノクローナル抗体は,例えば,R&Dシステムズ社からカタログ番号IAP02として,販売されている。すなわち,本発明の抗体は,市販されているものを適宜用いてもよい。また,本発明の抗体は,公知の抗体の産生方法に従って,製造してもよい。本発明の細胞外領域ペプチドを抗原として用い,公知の抗体または抗血清の製造法に従って製造することができる。本発明の抗体単独で,又は下記に説明する本発明のペプチドと合わさって,MAPKリン酸化活性阻害能を有するので,公知の製剤化のための方法を適宜採用することで,本発明のペプチドを含有する新生血管阻害剤に用いることができる。
本発明の細胞外領域ペプチドは,ヒトや哺乳動物の細胞または組織から公知のタンパク質の精製方法によって製造することもできる。また,本発明の細胞外領域ペプチドをコードするDNAを含有する形質転換体を培養することによっても製造することができる。また,後述するタンパク質合成法またはこれに準じた公知の方法により製造することもできる。
本発明の細胞外領域ペプチドを,ヒトや哺乳動物の組織または細胞から製造する場合,ヒトや哺乳動物の組織または細胞をホモジナイズした後,酸などで抽出を行ない,得られた抽出液を逆相クロマトグラフィー,イオン交換クロマトグラフィーなどのクロマトグラフィーを組み合わせることにより単離・精製することができる。
目的の抗体を得るための抗原エピトープは,たとえば,本発明の細胞外領域ペプチドのアミノ酸配列において抗原性の高い領域,表在性がある領域,二次構造をとらない可能性のある領域,他の蛋白質とホモロジーがないか又は低い領域から適宜選択されればよい。ここで抗原性の高い領域は,Parkerらの方法[Biochemistry,25巻,5425−5432頁(1986年)]によって推定することができる。表在性がある領域や二次構造をとらない可能性のある領域は,すでに発表されているEphB4の立体構造解析の結果[(Structure,14巻,321−330頁(2006年)]から同定することができる。さらに,表在性がある領域は,相同性の高いEphB2受容体の立体構造解析の結果[(Nature,414巻,933−938頁(2001年)]から推定することもできる。また,表在性がある領域は,例えばハイドロパシーインデックスを計算し,プロットすることによって推定することができる。二次構造をとらない可能性のある領域は,例えば,ChouとFasmanの方法[Adv.Enzymol.Relat.Areas,Mol.Biol.,47巻,45−148頁(1978年)]によって推定することができる。本発明の細胞外領域ペプチドのうち配列番号1において,1個,2個又は3個のアミノ酸が欠失,置換,挿入若しくは付加されたアミノ酸配列からなるペプチドは,上記の指針に基づき抗原性の高くない領域においてアミノ酸を欠失,置換,挿入若しくは付加すればよい。
上記の手法で推定された本発明のポリペプチドのアミノ酸配列又はその部分アミノ酸配列を基に,ペプチド合成法を利用することによって該アミノ酸配列からなるペプチドを合成することができる。目的のペプチドは,例えば,R.B. Merrifield[Science,232巻,341−347頁(1986年)]によって開発された固相ペプチド合成に基づいた市販のペプチド合成機を使用して合成し,保護基を脱離後,イオン交換クロマトグラフィー,ゲル濾過クロマトグラフィー,逆相クロマトグラフィー等を単独もしくは組合わせた方法により精製すればよい。
ポリクローナル抗体の製造方法は公知であるので,ポリクローナル抗体は公知の製造方法に従って製造すればよい。すなわち,得られたポリペプチドを抗原として動物(ヒト又は非ヒト哺乳動物など。以下同様。)に免疫し,血清等を分離することにより目的とするポリクローナル抗体を製造できる。宿主細胞としては,原核生物(例えば大腸菌のような細菌)および真核生物(例えば酵母,CHO細胞,昆虫細胞等)のいずれも使用され得る。宿主動物から得られた血清から,抗原に結合する画分を集め,精製することにより,ポリクローナル抗体を取得することができる。
モノクローナル抗体の製造方法は,公知であるので,モノクローナル抗体は公知の製造方法に従って製造すればよい。たとえば,得られたポリペプチドを抗原として動物に免疫し,その動物の脾臓細胞などの抗体産生細胞を分離し,ミエローマ細胞などの骨髄腫細胞と細胞融合させてハイブリドーマを作成した後,このハイブリドーマを培養することによりモノクローナル抗体を製造できる。また,ハイブリドーマ細胞を形成するために,ポリエチレングリコールのような適当な融合試薬を用いて,リンパ球を骨髄腫細胞と融合させることにより,モノクローナル抗体を作製することができる[Goding, Monoclonal Antibodies: Principals and Practice,59−103頁,Academic press,(1986年)]。例えば本発明のモノクローナル抗体は,ハイブリドーマ法[Nature,256巻,495頁(1975年)]を用いても,組換えDNA法(Cabillyら,米国特許第4816567号)を用いても作製することができる。モノクローナル抗体産生細胞の作製に際しては,抗原を免疫された温血動物,例えば,マウスから抗体価の認められた個体を選択し最終免疫の2〜5日後に脾臓またはリンパ節を採取し,それらに含まれる抗体産生細胞を骨髄腫細胞と融合させることにより,モノクローナル抗体産生ハイブリドーマを調製することができる。抗血清中の抗体価の測定は,例えば,後記の標識化レセプタータンパク質と抗血清とを反応させたのち,抗体に結合した標識剤の活性を測定することにより行なうことができる。融合操作は既知の方法,例えば,ケーラーとミルスタインの方法〔ネイチャー(Nature),256巻,495頁(1975年)〕に従い実施することができる。融合促進剤としては,例えば,ポリエチレングリコール(PEG)やセンダイウィルスなどが挙げられ,好ましくはPEGが用いられる。骨髄腫細胞として,例えば,NS−1,P3U1,SP2/0などが挙げられるが,P3U1が好ましく用いられる。用いられる抗体産生細胞(脾臓細胞)数と骨髄腫細胞数との好ましい比率は1:1〜20:1程度であり,PEG(好ましくは,PEG1000〜PEG6000)が10〜80%程度の濃度で添加され,約20〜40℃,好ましくは約30〜37℃で約1〜10分間インキュベートすることにより効率よく細胞融合を実施できる。
モノクローナル抗体産生ハイブリドーマのスクリーニングには種々の方法が使用できるが,例えば,レセプタータンパク質の抗原を直接あるいは担体とともに吸着させた固相(例,マイクロプレート)にハイブリドーマ培養上清を添加し,次に放射性物質や酵素などで標識した抗免疫グロブリン抗体(細胞融合に用いられる細胞がマウスの場合,抗マウス免疫グロブリン抗体が用いられる)またはプロテインAを加え,固相に結合したモノクローナル抗体を検出する方法,抗免疫グロブリン抗体またはプロテインAを吸着させた固相にハイブリドーマ培養上清を添加し,放射性物質や酵素などで標識したレセプタータンパク質を加え,固相に結合したモノクローナル抗体を検出する方法などが挙げられる。モノクローナル抗体の選別は,公知あるいはそれに準じる方法に従って行なうことができるが,通常はHAT(ヒポキサンチン,アミノプテリン,チミジン)を添加した動物細胞用培地などで行なうことができる。選別および育種用培地としては,ハイブリドーマが生育できるものならばどのような培地を用いても良い。例えば,1〜20%,好ましくは10〜20%の牛胎児血清を含むRPMI1640培地,1〜10%の牛胎児血清を含むGIT培地(和光純薬工業(株))またはハイブリドーマ培養用無血清培地(SFM−101,日水製薬(株))などを用いることができる。培養温度は,通常20〜40℃,好ましくは約37℃である。培養時間は,通常5日〜3週間,好ましくは1週間〜2週間である。培養は,通常5%炭酸ガス下で行なうことができる。ハイブリドーマ培養上清の抗体価は,上記の抗血清中の抗体価の測定と同様にして測定できる。モノクローナル抗体の分離精製は,通常のポリクローナル抗体の分離精製と同様に免疫グロブリンの分離精製法〔例,塩析法,アルコール沈殿法,等電点沈殿法,電気泳動法,イオン交換体(例,DEAE)による吸脱着法,超遠心法,ゲルろ過法,抗原結合固相またはプロテインAあるいはプロテインGなどの活性吸着剤により抗体のみを採取し,結合を解離させて抗体を得る特異的精製法〕に従って行なうことができる。
キメラ抗体とは,抗体のうち可変領域のみを非ヒト由来とし,定常領域をヒト由来とした抗体である。また,定常領域をヒトの定常領域に置き換えたキメラ抗体,例えばマウス-ヒトキメラ抗体は,Cabillyら,米国特許4816567およびMorrisonら,Proc. Natl. Acad. Sci. USA,89巻,6851頁 (1984年))に開示される方法に従って製造すればよい。また,特許第3440104号公報に記載される「(1)ヒト抗体重鎖定常領域Cγ1をコードするcDNAを動物細胞用発現ベクターに挿入することによりカセットベクターを構築し,該カセットベクターにヒト以外の動物の抗体の重鎖可変領域をコードするcDNAを挿入するためのクローニングサイトを設け,(2)ヒト以外の動物の抗体の重鎖可変領域をコードするcDNAを制限酵素を用いて切り出し,(3)ヒト抗体重鎖定常領域の5’末端側の塩基配列と,ヒト以外の動物の抗体の重鎖可変領域の3’末端側の塩基配列とからなり,制限酵素部位を両端に有する合成DNAと,上記(2)で得られたヒト以外の動物の抗体の重鎖可変領域をコードするcDNAとを該カセットベクターに挿入することにより,該合成DNAを介してヒト抗体重鎖定常領域Cγ1をコードするcDNAとヒト以外の動物の抗体重鎖可変領域をコードするcDNAとが結合されたヒト型キメラ抗体重鎖発現ベクターを構築し,(4)ヒト抗体軽鎖定常領域CκをコードするcDNAを動物細胞用発現ベクターに挿入することによりカセットベクターを構築し,該カセットベクターにヒト以外の動物の抗体の軽鎖可変領域をコードするcDNAを挿入するためのクローニングサイトを設け,(5)ヒト以外の動物の抗体の軽鎖可変領域をコードするcDNAを制限酵素を用いて切り出し,(6)ヒト抗体軽鎖定常領域の5’末端側の塩基配列と,ヒト以外の動物の抗体の軽鎖可変領域の3’末端側の塩基配列とからなり,制限酵素部位を両端に有する合成DNAと,上記(5)で得られたヒト以外の動物の抗体の軽鎖可変領域をコードするcDNAとを該カセットベクターに挿入することにより,該合成DNAを介してヒト抗体軽鎖定常領域CκをコードするcDNAとヒト以外の動物の抗体軽鎖可変領域をコードするcDNAとが結合されたヒト型キメラ抗体軽鎖発現ベクターを構築し,(7)上記(3)で得られたヒト型キメラ抗体重鎖発現ベクターおよび上記(6)で得られたヒト型キメラ抗体軽鎖発現ベクターを動物培養細胞に導入し,(8)上記(7)で得られた動物培養細胞を培地中に培養し,培養物中にヒト型キメラ抗体を生成蓄積させ,該培養物からヒト型キメラ抗体を採取することを特徴とするヒト型キメラ抗体の製造法。」や,特許第2624314号公報に開示される相同組換えによるキメラ抗体の製造方法,すなわち「修飾抗体分子を発現する細胞系を製造する方法であって,(a)抗体生産リンパ細胞系を,(i)リンパ細胞系の免疫グロブリン遺伝子のゲノム配列の一部分を修飾する置換遺伝子,および(ii)変換される免疫グロブリン配列に隣接する第2DNA配列に相同性の標的配列,を含む標的ベクターで,置換遺伝子が生体内でゲノム染色体DNAと共に部位特異性相同組換えにより免疫グロブリン配列を修飾するようにトランスフェクトし,(b)修飾抗体分子を生産するトランスフェクタントを選択する,ことを含む方法」によって製造してもよい。
CDR移植抗体とは,抗体の定常領域のうち抗原との結合に関与する領域のみを非ヒト由来とした抗体である。定常領域および超可変領域(または,Complementary-Determining Region;CDR)を除く全ての可変領域をヒトの配列に置き換えたヒト化抗体は,Carterら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA,89巻,4285ページ(1992年)又はCarterら,BioTechnology,10巻,163頁,(1992年)]に開示される方法に従って製造すればよい。これら抗体をヒトに投与した場合,異種抗原に対する抗体,たとえばヒト抗マウス抗体(HAMA)などの出現が起こらないようにするために,キメラ抗体やモザイク抗体もしくはヒト化抗体の使用が好ましく,最も好ましくは完全ヒト抗体である。
「キメラ抗体」や「ヒト化抗体」はマウス抗体断片を依然含み,「HAMA (human anti−mouse antibody) / HACA (human anti−chimeric antibody)反応」を引き起こすことがある。このような反応を惹き起こさない抗体を産生するためには,Green, L. L. et al., Nature Genet., 7: 13−21, 1994.に記載される方法に従って,マウスの液性免疫系をヒトに置き換えたトランスジェニックマウスを創成すればよい。具体的には,1)イムノグロブリン(Ig)重鎖(IgH)遺伝子不活性化マウスを創成する。2)Ig軽鎖(IgK)遺伝子不活性化マウスを創成する。3)ヒトIgH遺伝子導入マウスを創成する。4)ヒトIgK遺伝子導入マウスを創成する。5)これらマウスの交配により,“マウス由来Ig遺伝子不活性化及びヒト由来Ig遺伝子導入マウス”を創成する。IgHおよびIgKの不活性化マウスの創成にはジーンターゲテイング法,ヒトIgHおよびIgKの導入マウスの創成にはヒトゲノムを組み込んだ酵母人工染色体(YAC)ライブラリーからクローニングされたヒトIgHおよびIgK遺伝子を用いればよい。ヒトIgHおよびIgK遺伝子を含むYAC(HPRT+)を保持する酵母をHPRT-のES細胞とスフェロプラスト融合し,HAT選択し,ジーンターゲテイング法と同様な方法で生殖系列を得ればよい。「抗体」は,マウスまたは他の適した宿主動物(たとえばウサギ,ウシ,ウマ,ヒツジ,ブタ,げっ歯類など)を免疫に用いられた蛋白質に特異的に結合するであろう抗体を産生するか,産生するであろうリンパ球を引き出すために,皮下,腹腔内,または筋肉内の経路によって,抗原あるいは抗原発現細胞により免疫化することによって得ることができる。さらに宿主動物としてはヒト抗体遺伝子のレパートリーを有するトランスジェニック動物に抗原または抗原発現細胞を投与し,所望のヒト化抗体を取得してもよい[Proc. Natl. Acad. Sci. USA,97巻,722−727頁(2000年),国際公開WO96/33735号パンフレット,国際公開WO97/07671号パンフレット,国際公開WO97/13852号パンフレット,国際公開WO98/37757号パンフレット参照]。また,リンパ球をインビトロで免疫化してもよい。
本発明の抗体の発現量および抗原結合活性は酵素免疫抗体法(ELISA;Antibodies:A Laboratory
Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,Chapter 14(1988),Monoclonal Antibodies:Principles
and Practice,Academic Press Limited(1996))により測定できる。具体的には,本発明の細胞外領域ペプチドを合成し,これとウシ血清アルブミンなどのキャリアー蛋白質とを化学的に結合させたコンジュゲートを作製する。このコンジュゲートをELISAプレートに固相化し,本発明の抗体を反応させ,さらにペルオキシダーゼ,ビオチンなどの酵素標識などを施した抗イムノグロブリン抗体あるいは結合断片を反応させた後,発色色素を吸光光度計で測定することにより,本発明の抗体の結合活性を測定することができる。公知の方法により測定できる。また,本発明の抗体の抗原との結合性は免疫酵素抗体法,蛍光抗体法(Cancer
Immunol.Immunother.,36,373(1993)),BIAcoreTM等を用いた表面プラズモン共鳴等によっても測定できる。
本発明の抗体を蛍光性物質(ローダミン,フルオレサミンなど)で直接標識することにより,または本抗体を認識する蛍光標識された二次抗体を用いることにより,さらには本抗体をビオチン標識し蛍光標識ストレプトアビジンを用いることにより,周知のFACSを用いて本発明のペプチドを細胞表面に発現する目的の細胞を検出・分離することができる。また本抗体を固相(たとえばポリスチレンビーズ,マイクロタイターウエル表面,ラテックスビーズなど)に結合して不均一系で,あるいは均一系で,免疫学的反応を行って相同な膜分子を検出,定量(蛍光抗体法,ELISA,ラジオイムノアッセイなどの方法使用)することができる。この場合,免疫学的反応は競合反応であってもよいし非競合反応であってもよい。また2つ以上の抗体(モノクローンまたはポリクローン)を用いるサンドイッチ法による反応も使用できる。上記における検出,定量のためには,当業界で公知のいずれの免疫学的手法も用いることができる。
[本発明のモノクローナル抗体]
本発明のモノクローナル抗体は,ヒト由来EphB4タンパク質と特異的に反応し得るすべてのモノクローナル抗体を包含する。その中でも,ヒト由来EphB4タンパク質の細胞外領域と特異的に反応するモノクローナル抗体が好ましく,後述するハイブリドーマが産生するモノクローナル抗体がより好ましい。
[本発明のモノクローナル抗体の作成]
本発明のヒト由来EphB4タンパク質に特異的に反応するモノクローナル抗体は,例えば,次の各工程を経て製造することができる。すなわち,(1) 抗原の調製,(2) 免疫及び抗体産生細胞の採取,(3) 細胞融合,(4) ハイブリドーマの選択及びクローニング,及び(5) モノクローナル抗体の採取である。以下,各工程について説明する。
[抗原の調整]
抗原とするヒト由来EphB4タンパク質の調製は,公知の方法を適宜採用でき,特定の方法には限定されないが,ヒト由来EphB4タンパク質をコードするcDNAが既に公知であるので[NM_004444],このcDNAを利用して抗原とするヒト由来EphB4タンパク質を調製する方法が好ましい。ヒト由来EphB4タンパク質をコードするcDNAは,例えば,前記した公知のcDNAを利用できる。上記cDNAからヒト由来EphB4タンパク質を調製するためには,例えば,ヒト由来EphB4タンパク質をコードするcDNAを含む組換えべクターを作製し,このべクターを用いて適当な宿主細胞を形質転換し,その形質転換体を適当な培地で培養し,得られる培養物を精製することにより行うことができる。
ここで,使用するcDNAは,ヒト由来EphB4タンパク質をコードするcDNAの全領域であってもよいが,配列番号1に示すヒト由来EphB4タンパク質の細胞外領域(アミノ末端側から25〜521番目のアミノ酸残基)をコードするDNAが好ましい。ヒト由来EphB4タンパク質の細胞外領域をコードするcDNAを使用する際,ヒト由来EphB4タンパク質の細胞外領域の一部(例えば,アミノ末端側から16〜538番目のアミノ酸残基)をコードするcDNAを使用してもよい。組換べクター及び宿主細胞としては,特に限定されず公知のいかなるものを使用してもよいが,特に,CMVプロモータ発現プラスミド及び霊長類培養細胞,または,組換えバキュロウイルス及び昆虫培養細胞を使用するのが好ましい。形質転換体の培養及び培養物の精製は,常法に従って行うことができる。
[免疫及び抗体産生細胞の採取]
上記のようにして得られたヒト由来EphB4タンパク質を免疫原として,アジュバンドとともに哺乳類,鳥類等に投与する。ここで,アジュバンドとしては,市販のフロイント完全アジュバンド,フロイント不完全アジュバンド,BCG,ハンターズ,タイターマックス,キーホールリンペットヘモシアニン含有オイル等が挙げられ,これらを単独で用いてもよいし,これらの2種以上を混合して用いてもよい。
哺乳類としては,ウマ,サル,イヌ,ブタ,ヤギ,ヒツジ,ウサギ,モルモット,ハムスター,マウス等を用いることができ,鳥類としては,ハト,ニワトリ等を用いることができるが,特にマウス,ラット等を用いることが好ましい。投与の方法としては,公知の何れの方法をも用いることができるが,静脈内投与,皮下投与,又は腹腔内投与が好ましい。
抗原の免疫量は1回にマウス1匹当たり,通常10〜200μg,好ましくは25〜100μgである。免疫の間隔は,通常1〜4週,好ましくは2週であり,免疫の回数は,通常2〜5回,好ましくは3〜4回である。
最終免疫日から1〜5日後,好ましくは3日後に,抗体産生細胞を採集する。採取する抗体産生細胞としては,リンパ節細胞,脾臓細胞等が挙げられるが,好ましくは足リンパ節細胞である。
[細胞融合]
抗体産生細胞と細胞融合させるミエローマ細胞としては,マウス,ラット,ヒト等の種々の動物に由来し,当業者が一般に入手可能である株化細胞を使用できる。使用する細胞株としては,薬剤抵抗性を有し,未融合の状態では選択培地(例えば HAT培地)で生存できず,抗体産生細胞と融合した状態でのみ選択培地で生存できる性質を有するものが好ましい。好ましくは,8−アザグアニン耐性株を用いることができる。この細胞株は,ヒポキサンチン−グアニンホスフォリボシルトランスフェラーゼを欠損し(HGPRT),HAT培地で生育できない。
このようなミエローマ細胞としては,P3/X63−Ag8−UI等のマウスミエローマ細胞株,210.RCY.Ag1.2.3等のラットミエローマ細胞株,SKO−007等のヒトミエローマ細胞株等を使用することができる。細胞融合は,例えば,ミエローマ細胞と抗体産生細胞とを混合比1:5〜1:10の割合で,RPMI1640培地等の培地中で融合促進剤存在下,室温で2〜5分間細胞同士を接触させることによって行うことができる。この際,融合促進剤として,平均分子量1500〜4000のポリエチレングリコール,ポリビニールアルコール等を用いることができる。また,融合促進剤として,センダイウィルス等の融合ウイルスを用いることもできる。
[ハイブリドーマの選択及びクローニング]
細胞融合後,目的とするハイブリドーマを選別する。選別方法は,通常の方法に従えばよく,特に限定されない。選別方法としては,例えば,次の方法を用いることができる。すなわち,マイクロプレートの各ウェルにヒト由来EphB4タンパク質を吸着させた後,ブロックエース(大日本製薬)等でブロックする。該マイクロプレートの各ウェルにハイブリドーマの培養上清を加え,37℃で1時間放置し,ヒト由来EphB4タンパク質とヒト由来EphB4タンパク質に特異的に反応するモノクローナル抗体とを反応させる。これを生理的食塩水で洗浄した後,適当に希釈したアルカリフォスファターゼ結合ヤギ抗イムノグロブリンを加える。生理的食塩水で洗浄した後,ALPローゼ(シノテスト社)を用いてアルカリフォスファターゼの活性を測定し,アルカリフォスファターゼの呈色を有するウェルをヒト由来EphB4タンパク質に特異的な抗体を産生する細胞を含むウェルとする。このウェルから目的とするハイブリドーマをクローニングする方法は,通常の方法に従えば良く,特に限定されない。ハイブリドーマのクローニングは,例えば,限界希釈法,軟寒天法,フィブリンゲル法,蛍光励起セルソーター法等により行なうことができる。
[モノクローナル抗体の採取]
取得したハイブリドーマからモノクローナル抗体を採取する方法としては,通常の細胞培養法や腹水形成法等を用いることができる。細胞培養法においては,例えば,ハイブリドーマを10〜20%仔ウシ血清含有RPMI1640培地,MEM培地,E‐RDF培地又は無血清培地等の動物細胞培地中で,通常の培養条件(例えば,37℃,5%C0濃度)で3〜7日間培養し,その培養上清から目的とするモノクローナル抗体を取得できる。
腹水形成法においては,例えば,ミエローマ細胞由来の哺乳動物と同種の動物の腹腔内にプリスタン(2,6,10,14−テトラメチルペンタデカン)等の鉱物油を投与し,その後,ハイブリドーマ1×10〜1×10個,好ましくは5×l0個を腹腔内に投与する。投与した哺乳動物を1〜4週間,好ましくは2週間,飼育した後,腹水又は血清を採取することにより目的とするモノクローナル抗体を取得できる。
上記抗体の採取方法において,抗体の精製が必要とされる場合には,硫酸塩分析法,DEAE−セルロース等の陰イオン交換体を利用するイオン交換クロマトグラフィー,プロテインAセファロース等を用いるアフィニティークロマトグラフィー,分子量や構造によってふるい分ける分子ふるいクロマトグラフィー等の公知の方法を適宜に選択し,これらを単独で又は組み合わせて使用することにより精製を行うことができる。
本発明の好ましい態様は,上記した本発明の抗体と以下説明する本発明のペプチドとを併用することである。すなわち,本発明のペプチドは,“配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるペプチド”,“配列番号2において,1又は2個のアミノ酸が欠失,置換,挿入若しくは付加されたアミノ酸配列からなり,エフリンB2の新生血管の阻害活性を高めるペプチド,又はそれらの薬理学的に許容される塩”,“配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるペプチド,又はその薬理学的に許容される塩”,“配列番号3において,1又は2個のアミノ酸が欠失,置換,挿入若しくは付加されたアミノ酸配列からなり,エフリンB2の新生血管の阻害活性を高めるペプチド,又はその薬理学的に許容される塩”,又は“配列番号4で表されるアミノ酸配列を具備するペプチドであって,当該ペプチドに含まれるアミノ酸残基の数が9以上,100以下であるペプチド,又はその薬理学的に許容される塩”,“配列番号5で表されるアミノ酸配列からなるペプチド”,“配列番号5において,1又は2個のアミノ酸が欠失,置換,挿入若しくは付加されたアミノ酸配列からなり,エフリンB2の新生血管の阻害活性を高めるペプチド,又はそれらの薬理学的に許容される塩”,“配列番号6で表されるアミノ酸配列からなるペプチド,又はその薬理学的に許容される塩”,“配列番号6において,1又は2個のアミノ酸が欠失,置換,挿入若しくは付加されたアミノ酸配列からなり,エフリンB2の新生血管の阻害活性を高めるペプチド,又はその薬理学的に許容される塩”,“配列番号7で表されるアミノ酸配列を具備するペプチドであって,当該ペプチドに含まれるアミノ酸残基の数が9以上,100以下であるペプチド,又はその薬理学的に許容される塩”,又は“配列番号8で表されるアミノ酸配列を具備するペプチドであって,当該ペプチドに含まれるアミノ酸残基の数が9以上,100以下であるペプチド,又はその薬理学的に許容される塩”に関する。以下,これらをまとめて“本発明のペプチド”ともよぶ。本発明のペプチドは,自ら新生血管の阻害能を有するほか,本発明の抗体,又はエフリンB2の新生血管阻害活性を高める働きを有する補助剤としても機能する。そして,本発明の抗体,又はエフリンB2は,新生血管の発生を阻害するので,本発明のペプチドは,新生血管が関与する疾患の治療又は予防用に有用である。
本発明のペプチドのうち,配列番号2において1又は2個のアミノ酸が欠失,置換,挿入若しくは付加されたアミノ酸配列からなるペプチドは,配列番号2で表されるペプチドと同様の活性を有するものである。このようなペプチドは,容易に製造できるし,また,その活性も本明細書における実施例と同様にして行うことで容易に確かめることができる。配列番号2で表されるアミノ酸配列において2位から10位の部分(配列番号4)がG−Hループを構成する部位であると考えられ,しかもこの部位が作用部位であると推測される。従って,“配列番号2において1又は2個のアミノ酸が欠失,置換,挿入若しくは付加されたアミノ酸配列からなるペプチド”として,配列番号2で表されるアミノ酸配列において2位から10位の部分以外の部位におけるアミノ酸が1又は2個欠失,置換,挿入若しくは付加されたアミノ酸配列からなるペプチドであることが好ましい。また,“配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるペプチド,又はその薬理学的に許容される塩”の有効性は,後述する実施例において実証されたとおりである。そして,“配列番号3において,1又は2個のアミノ酸が欠失,置換,挿入若しくは付加されたアミノ酸配列からなり,エフリンB2の新生血管の阻害活性を高めるペプチド,又はその薬理学的に許容される塩”についても,配列番号4で示されるアミノ酸残基が保存され,それ以外の部位について1又は2個のアミノ酸が欠失,置換,挿入若しくは付加されたアミノ酸配列からなるものが好ましい。なお,配列番号2で表されるアミノ酸配列において2位から10位の部分(配列番号4)を含めば,適宜公知のアミノ酸配列が付加されてもよく,例えば5から100個のアミノ酸残基からなるものであっても,10から20個のアミノ酸残基からなるものであってもよい。
また,配列番号5において1又は2個のアミノ酸が欠失,置換,挿入若しくは付加されたアミノ酸配列からなるペプチドは,配列番号5で表されるペプチドと同様の活性を有するものである。このようなペプチドは,容易に製造できるし,また,その活性も本明細書における実施例と同様にして行うことで容易に確かめることができる。配列番号5で表されるアミノ酸配列において8位を除く4位から9位の部分(配列番号7)がストランドA−A’を構成する部位であると考えられ,13位から16位の部分(配列番号8)がA’−Bループを構成する部位であると考えられ,しかもこの部位が作用部位であると推測される。従って,“配列番号5において1又は2個のアミノ酸が欠失,置換,挿入若しくは付加されたアミノ酸配列からなるペプチド”として,配列番号5で表されるアミノ酸配列において8位を除く4位から9位の部分以外の部位におけるアミノ酸が1又は2個欠失,置換,挿入若しくは付加されたアミノ酸配列からなるペプチドであることが好ましく,配列番号5で表されるアミノ酸配列において13位から16位の部分以外の部位におけるアミノ酸が1又は2個欠失,置換,挿入若しくは付加されたアミノ酸配列からなるペプチドであることが好ましい。
また,“配列番号6で表されるアミノ酸配列からなるペプチド,又はその薬理学的に許容される塩”の有効性は,後述する実施例において実証されたとおりである。そして,“配列番号6において,1又は2個のアミノ酸が欠失,置換,挿入若しくは付加されたアミノ酸配列からなり,エフリンB2の新生血管の阻害活性を高めるペプチド,又はその薬理学的に許容される塩”についても,配列番号7または配列番号8で示されるアミノ酸残基が保存され,それ以外の部位について1又は2個のアミノ酸が欠失,置換,挿入若しくは付加されたアミノ酸配列からなるものが好ましい。なお,配列番号5で表されるアミノ酸配列において8位を除く4位から9位の部分(配列番号7),または,13位から16位の部分(配列番号8)を含めば,適宜公知のアミノ酸配列が付加されてもよく,例えば5から100個のアミノ酸残基からなるものであっても,10から20個のアミノ酸残基からなるものであってもよい。なお,このようなペプチドは,例えば,配列番号9で表されるエフリンB2のアミノ酸配列から前記した部位を含む部分ペプチド(例えば5から100個のアミノ酸残基,好ましくは10から30個のアミノ酸残基,より好ましくは10から20個のアミノ酸残基)を取り出すことによって得ることもできる。さらに,そのようにして取り出したエフリンB2の部分ペプチドから,1又は数個(具体的には,2,3,4,又は5個)のアミノ酸が欠失,置換,挿入若しくは付加されたアミノ酸配列からなるペプチドであって,本発明のペプチドと同様の活性を有するものであってもよい。「本発明のペプチドと同様の活性」とは,例えば,眼内の新生血管の抑制能を有するものを意味する。なお,配列番号10で示される塩基配列は,配列番号9で示されるエフリンB2をコードするDNAの塩基配列である。
本発明のペプチド(ポリペプチド)は,左端がN末端(アミノ末端),右端がC末端(カルボキシル末端)として表記される。本発明のペプチドは,C末端がカルボキシル基(-COOH),カルボキシレート(-COO-),アミド(-CONH)又はエステル(-COOR)のいずれであってもよい。ここでエステルにおけるRとして,例えば,メチル,エチル,n−プロピル,イソプロピル,n−ブチルなどのC1−6アルキル基などがあげられる。本発明のペプチドが,C末端以外にカルボキシル基(またはカルボキシレート)を有している場合,そのカルボキシル基がアミド化またはエステル化されていてもよい。さらに,本発明のペプチドは,N末端のアミノ酸残基のアミノ基が保護基(例えば,ホルミル基,アセチル基などのC1−6アルカノイルなどのC1−6アシル基など)で保護されているものなどであってもよい。
本発明のペプチドにおける“薬理学的に許容される塩”として,無機酸(例えば,塩酸,リン酸,臭化水素酸,硫酸)との塩,又は有機酸(例えば,酢酸,ギ酸,プロピオン酸,フマル酸,マレイン酸,コハク酸,酒石酸,クエン酸,リンゴ酸,蓚酸,安息香酸,メタンスルホン酸,ベンゼンスルホン酸)との塩などがあげられる。
本発明のペプチド,本発明の細胞外領域ペプチド,またはそれらの塩は,ヒトや哺乳動物などの細胞または組織から公知のタンパク質の精製方法によって製造することができる。また,ペプチドをコードするDNAを含有する形質転換体を培養することによっても製造できる。また,ペプチド合成法に準じて製造することもできる。ヒトや哺乳動物の組織または細胞から本発明のペプチドを製造する場合,例えば,組織または細胞をホモジナイズした後,酸などで抽出を行ない,該抽出液を逆相クロマトグラフィー,イオン交換クロマトグラフィーなどのクロマトグラフィーを組み合わせることにより,本発明のペプチドまたはその塩を,単離精製することができる。
ペプチドの合成法として,例えば,固相合成法,液相合成法(泉屋信夫,加藤哲夫,青柳東彦,脇 道典,「ペプチド合成の基礎と実験」1985,丸善(株))があげられる。また,反応後は通常の精製法,例えば,溶媒抽出・蒸留・カラムクロマトグラフィー・液体クロマトグラフィー・再結晶などを組み合わせることで,本発明のペプチドを単離精製できる。上記方法で得られるペプチドが遊離体である場合は,公知の方法によって適当な塩に変換することができるし,逆に塩で得られた場合は,公知の方法によって遊離体または他の塩に変換することができる。
本発明のポリペプチドのうち配列番号2で表されるペプチドを固相合成法で製造する場合,例えば,アミノ酸配列の20位の残基の,保護アミノ酸残基のカルボキシル基を直接(又は場合によりスペーサーを介して,)クロロメチル基あるいはオキシメチル基を有する不溶性樹脂に結合させる。その後,アミノ酸配列の19位から1位までの各保護アミノ酸を固相合成法に従って順次結合させる。その後,不溶性樹脂およびアミノ酸の保護基を脱離させる。このようにして,本発明のポリペプチドを得ることができる。前記不溶性樹脂,スペーサー,及びN−保護アミノ酸を不溶性樹脂に結合したN−保護アミノ酸樹脂などは,公知の方法で調製でき,また市販されるものを適宜用いてもよい。また,配列番号2で表されるペプチド以外を合成する場合も,配列番号2で表されるペプチドと同様にして合成できる。
不溶性樹脂は,C末端のN−保護アミノ酸のカルボキシル基と直接結合できるか,又はスペーサーを介して結合でき,前記カルボキシル基から脱離できるものであれば特に限定されず,公知のものを適宜用いることができる。このような不溶性樹脂として,例えば,Boc(t-ブチルオキシカルボニル)ストラテジーによりペプチドを合成する場合は,クロロメチル樹脂(クロロメチル化スチレン- ジビニルベンゼン共重合体),オキシメチル樹脂,又はスペーサーを導入した4−オキシメチル−Pam(フェニルアセタミドメチル)樹脂が好ましい。一方,Fmoc(9−フルオレニルメチルオキシカルボニル)ストラテジーによりペプチドを合成する場合は,オキシメチルフェノキシメチル(Wang)樹脂が好ましい。
保護アミノ酸とは,官能基を公知の方法により保護基で保護したアミノ酸を意味する。保護アミノ酸として,市販される公知の保護アミノ酸を適宜用いることができる。本発明のポリペプチドを合成する場合には,以下に示す保護基のいずれかを選択するのが好ましい。すなわち,アミノ酸のα−アミノ基の保護基として,Boc(t-ブチルオキシカルボニル)又はFmoc (9−フルオレニルメチルオキシカルボニル)が好ましい。アルギニン(Arg)のグアニジノ基の保護基として,Tos(トシル),NO(ニトロ),Mtr(4−メトキシ−2, 3, 6−トリメチル ベンゼンスルホニル)又はPmc(2, 2, 5, 7, 8- ペンタメチルクロマン−6−スルホニル)が好ましい。リジン(Lys)のε−アミノ基の保護基として,Z(ベンジルオキシカルボニル),Cl ・Z(2−クロロベンジルオキシカルボニル),Boc,又はNpys(3−ニトロ−2−ピリジンスルフエニル)が好ましい。ヒスチジン(His)のイミダゾリル基の保護基として,Tos,Z,Pac(フェナシル),Bom(ベンジルオキシメチル),Dnp(ジニトロフェニル)又はTrt(トリチル)が好ましい。システイン(Cys)のメルカプト基の保護基として,Bzl (ベンジル),MBzl (4−メトキシベンジル),4−Me Bzl(4−メチルベンジル),Acm(アセタミドメチル),Trt,Npys,t-Bu (t-ブチル),t-BuS(t-ブチルチオ)があげられ,これらの中では,MBzl,4−Me Bzl,Trt,Acm,又はNpysが好ましい。チロシン(Tyr)の水酸基の保護基として,Bzl,Cl2・Bzl(2, 6−ジクロロベンジル),t-Buがあげられる。一方,チロシン(Tyr)の水酸基は,特に保護基を導入しなくてもよい。トリプトファン(Trp)のインドール基の保護基として,CHO(フォルミル基)があげられる。一方,トリプトファン(Trp)のインドール基は,特に保護基を導入しなくてもよい。メチオニン(Met)のチオメチル基の保護基として,メチルスルホキシド基があげられるが,特に保護基を導入しなくてもよい。セリン(Ser)およびトレオニン(Thr)の水酸基の保護基として,Bzl又はt−Bu基があげられる。アスパラギン酸(Asp)およびグルタミン酸(Glu)のカルボキシル基の保護基として,OBzl(ベンジルエステル),OtBu(t−ブチルエステル),OcHex(シクロヘキシルエステル),又はOPac(フェナシルエステル)が好ましい。アスパラギン(Asn)およびグルタミン(Gln)のカルバミド基の保護基として,Trt又はXan(キサンチル基)が好ましい。
保護アミノ酸の結合は,通常の縮合法,例えば,DCC(ジシクロヘキシルカルボジイミド)法,DIPCDI(ジイソプロピルカルボジイミド)法[Tartar.Aら;J.Org.Chem.,44,5000(1979)],活性エステル法,混合又は対称酸無水物法,カルボニルジイミダゾール法,DCC- HOBt(1−ヒドロキシベンゾトリアゾール)法[Keonig ,Wら;Chem.Ber.,103,788 ,pp.2024-2034(1970)],ジフエニルホスホリルアジド法,BOP試薬(ベンゾトリアゾリル−N−ヒドロキシトリスジメチルアミノホスホニウムヘキサフルオロリン化物塩)を用いるBOP−HOBt法(Hudson, D., J. Org. Chem.,53, 617(1988)),HBTU(2−(1H)−ベンゾトリアゾ−ル−1−イル)−1,1,3,3−テトラメチルウロニウム ヘキサフルオロホスフェート)−HOBt法(Knorr,R.ら, Tetrahedron Lett., 30, 1927 (1989)),TBTU(2−(1H)−ベンゾトリアゾール−1−イル)−1,1,3,3−テトラメチルウロニウム テトラフルオロボレイト)−HOBt法(Knorr,R. ら, Tetrahedron Lett.,30,1927(1989))等に従って行なうことができる。これらのうち,DCC法,DCC−HOBt 法,BOP−HOBt法,HBTU−HOBt法,又は対称酸無水物法が好ましい。
これらの縮合反応は,たとえば,ジクロロメタン,ジメチルホルムアミド(DMF),N−メチルピロリドン(NMP)等の有機溶媒又はそれらの混合溶媒中で行なわれる。α- アミノ基の保護基の脱離試薬としては,トリフルオロ酢酸/ジクロロメタン,HCl /ジオキサン,ピペリジン/DMF又はピペリジン/NMP等が用いられ,該保護基の種類により適宜選択する。また,合成の各段階における縮合反応の進行の程度はE.カイサーらの方法 [Anal. Biochem., 34, 595(1970) ](ニンヒドリン反応法)によって検査されればよい。以上のようにして,所望のアミノ酸配列を有する保護ペプチド樹脂を得ることができる。
保護ペプチド樹脂は,フッ化水素,TFMSA(トリフルオロメタンスルホン酸)[Aademic Press 発行,E. Gross編集,H. Yajimaら; “ The Peptides ”5,65(1983)],TMSOTf (トリメチルシリルトリフラート),TMSBr(トリメチルシリルブロミド)[Fujii,N ら; Chem.Pharm.Bull.,35,3880(1987)],またはトリフルオロ酢酸などで処理することにより,該樹脂および保護基を同時に脱離させることができる。上記の脱離試薬は,該ストラテジー(Boc又はFmoc),該樹脂,該保護基の種類により適宜選択する。
このようにして得られたペプチドは,公知の方法,例えば,抽出,再結晶,各種クロマトグラフィー(ゲルろ過,イオン交換,分配,吸着,逆相),電気泳動,向流分配等により単離精製することができる。これらの中では,逆相高速液体クロマトグラフィーを用いて精製する方法が好ましい。上記方法で得られるペプチドが遊離体である場合は,公知の方法によって適当な塩に変換できる。また,ペプチドが塩の形態で得られた場合は,公知の方法によって遊離体または他の塩に変換することができる。
エフリンB2は,内皮細胞(EC)のDNA合成;ECにおける細胞外シグナル制御キナーゼ(ERK)リン酸化;VEGFおよびbFGFの両方で誘導されるp44/p42MAPキナーゼ活性化;EC脈管形成;bFGFで誘導された角膜血管形成;及び網膜から硝子体腔内に伸びる病的な新生血管を阻害する。
本発明の抗体及び本発明のペプチドのいずれか又は両方は,新生血管阻害活性を有するほか,エフリンB2の新生血管阻害活性を高める作用をも有するものである。
そして,本発明のペプチドは,それ自体MAPKリン酸化活性阻害能を有するので,公知の製剤化のための方法を適宜採用することで,本発明のペプチドを含有する新生血管阻害剤に用いることができる。この新生血管阻害剤は,例えば,本発明の抗体及び本発明のペプチドと薬理学的に許容される担体などを含有する剤であり,眼内の新生血管阻害剤であることが好ましく,眼内の新生血管に関連する疾患の治療剤又は予防剤が好ましい。本発明のペプチドは,エフリンB2に比べて短いので,容易に製造できる。よって,本発明のペプチドを含む新生血管阻害剤は,安定であり,比較的安価に製造することができるという利点もある。
また,本発明のペプチドは,エフリンB2の活性を高めるので,本発明の抗体及び本発明のペプチドを含有する剤は,特に眼内の新生血管阻害補助剤,眼内の静脈内皮細胞におけるDNA合成阻害用補助剤及び眼内の静脈内皮細胞におけるp44/p42MAPKリン酸化活性阻害用補助剤として有用である。これらの補助剤の好ましい態様は,主剤としてエフリンB2を含有する剤を用いるものである。
血管内皮細胞をVEGFで刺激すると受容体下流のシグナル伝達系によりMAPKが活性化され,リン酸化されたMAPKの上昇が認められる(Abedi,H.and Zachary,I.,J.Biol.Chem.,272,15442−15451(1997))。MAPKの活性化は血管新生における血管内皮細胞の増殖に重要な役割を担うことが知られている(Merenmies,J. et al., Cell Growth & Differ.,83−10(1997);Ferrara, N. and Davis−Smyth, T. Endocr. Rev., 18, 4−25(1997))。本発明の抗体及び本発明のペプチドのいずれか又は両方は,MAPKの阻害活性を有することが後述する実施例により実証された。従って,本発明の抗体及び本発明のペプチドのいずれか又は両方は,血管新生抑制作用又はエフリンB2により血管新生抑制作用の補助活性を有するといえる。病態部位における血管新生は,眼内以外では主として,腫瘍,慢性関節リウマチ,乾癬,アテローム性動脈硬化症,カポジ肉腫のような疾患,並びに固形癌の転移と深く結びついている(Forkman, J. Nature Med. 1: 27−31(1995), Bicknell, R., Harris, A.L.Curr. Opin. Oncol. 8: 60−65(1996))。従って,本発明の抗体及び本発明のペプチドのいずれか又は両方は,腫瘍,慢性関節リウマチ,乾癬,アテローム性動脈硬化症,カポジ肉腫のような疾患,並びに固形癌の転移,その他の血管形成または血管新生に関連する疾患または障害の治療に用いることができ,本発明はそのような治療剤をも提供しうる。
新生血管阻害剤や補助剤は,本発明の抗体(及び本発明のペプチド)を有効量含有するものがあげられる。「有効量」とは,所望の目的を達成するために十分な量を意味する。眼内の新生血管阻害剤における「有効量」とは,例えば,眼内の新生血管を阻害するために十分な量を意味する。また,新生血管阻害用補助剤における「有効量」とは,例えば,エフリンB2などの眼内の新生血管阻害剤の新生血管阻害作用を高めるために十分な量を意味する。具体的な,本発明の抗体及び本発明のペプチドの投与量は,対象疾患,投与対象,投与ルートなどにより適宜調整すればよい。本発明の抗体の投与量として,例えば,目に硝子体注射投与する場合,一般的に成人(体重60kgとして)においては,一眼あたり1×10ng〜1mg,好ましくは1×10ng〜1μg,より好ましくは1×10ng〜7×10ngがあげられる。投与回数は適宜調整すればよい。また,本発明の抗体を含有する剤を経口投与する場合,一般的に成人(体重60kgとして)においては,一回につき2μg〜1×10mg,好ましくは2μg〜1mg,より好ましくは2μg〜1×10μgがあげられる。本発明のペプチドの投与量として,例えば,目に硝子体注射投与する場合,一般的に成人(体重60kgとして)においては,一眼あたり1×10ng〜1mg,好ましくは1×10ng〜1μg,より好ましくは1×10ng〜7×10ngがあげられる。投与回数は適宜調整すればよく,例えば,一日一回本発明の抗体を含有する剤とともに投与するものなどがあげられる。また,本発明のペプチドを含有する剤を経口投与する場合,一般的に成人(体重60kgとして)においては,一回につき2μg〜1×10mg,好ましくは2μg〜1mg,より好ましくは2μg〜1×10μgがあげられる。これらの量は,患者の体重,性別などを適宜考慮して,調整すればよい。ヒト以外の哺乳動物に上記の新生血管阻害剤又は補助剤を投与する場合も,体重60kg当たりに換算した量を適宜投与すればよい。
本発明の抗体(及び本発明のペプチド)は,それ自体,又は医薬組成物として投与することができる。本発明の抗体(及び本発明のペプチド)は,たとえば薬理学的に許容され得る担体,希釈剤又は賦形剤を含むものがあげられる。本発明の抗体(及び本発明のペプチド)を含有する補助剤は,投与形態に適する剤形として調整されればよい。
たとえば,本発明の抗体又は新生血管阻害剤を点眼剤又は注射剤として用いる場合,有効量の本発明の抗体(及び本発明のペプチド)と,公知の希釈剤(希釈剤は,薬理学的に許容され得る担体に含まれる)とを含む点眼剤又は注射剤であればよい。希釈剤として,滅菌水,純水,蒸留水などの水;生理食塩水;ブドウ糖溶液;エタノールなどのアルコール;グリセロール,プロピレングリコール,ポリエチレングリコールなどのポリアルコール;滅菌有機溶媒;又は水性デンプン;PBSのいずれか1種又は2種以上の混合物などがあげられる。
本発明の抗体を含有する点眼剤又は注射剤は,エピネフリン,塩酸エピネフリン,塩酸エフェドリン,などの充血除去成分;チル硫酸ネオスチグミン,トロピカミドなどの眼調節薬成分;硫酸亜鉛,乳酸亜鉛,アラントイン,イプシロン−アミノカプロン酸,インドメタシン,塩化リゾチームなどの抗炎症薬成分;アシタザノラスト,アンレキサノクス,イブジラスト,トラニラスト,塩酸ジフェンヒドラミンなどの抗ヒスタミン薬成分又は抗アレルギー薬成分;アミノ酸類;塩酸オキシブプロカイン,塩酸コカイン,塩酸コルネカイン,塩酸ジブカインなどの局所麻酔薬成分;などを適宜含有してもよい。コンドロイチン硫酸ナトリウム,ヒアルロン酸ナトリウムなどの増粘剤;塩化ベンザルコニウムなどの界面活性剤;安息香酸ナトリウム,エタノール,塩化ベンザルコニウムなどの防腐剤,殺菌剤又は抗菌剤;塩酸,ホウ酸,水酸化ナトリウム,炭酸水素ナトリウムなどのpH調節剤;亜硫酸水素ナトリウム,亜硫酸ナトリウム,塩化カリウムなどの等張化剤;メントール
,カンフル,ハッカ油,ペパーミント油などの香料または清涼化剤;クエン酸緩衝剤などの緩衝剤などを適宜含有するものであってもよい。
本発明の抗体を含む新生血管阻害剤は,錠剤,カプセル剤,顆粒剤,散剤,シロップ剤などの経口投与剤であってもよい。この場合,薬理学的に許容される担体として,賦形剤,希釈剤,滑沢剤,結合剤,崩壊剤,安定剤,及び矯味矯臭剤から適宜選択されるものがあげられる。
本発明の抗体を含む新生血管阻害剤は,公知の方法に従って製造できる。点眼剤又は注射剤は,例えば,希釈剤などに本発明の抗体(及び本発明のペプチド)を添加し,アンプルなどの容器に入れることにより製造できる。錠剤は,例えば,本発明の抗体(及び本発明のペプチド)を公知の担体と混合した医薬組成物を打錠機により打錠することにより製造できる。カプセル剤は,例えば,カプセルなどの形態をしている担体中に,本発明の抗体(及び本発明のペプチド)を封入することにより製造できる。
また,本発明のペプチドは,エフリンB2の活性を高めるので,後述するようにエフリンB2を含む医療用組成物,又はキットなどに適宜利用されうる。
WO2006/006079号公報(特許文献1)に開示されるとおり,エフリンB2は,眼内における動脈及び静脈内皮細胞のDNA合成の阻害作用;眼内における動脈及び静脈内皮細胞におけるp44/p42MAPK活性化の阻害作用;眼内における動脈及び静脈内皮細胞における管形成の阻害作用を有する。そして,同文献における生体内実験で実証されたように,エフリンB2は,眼内の脈絡膜における新生血管を抑制し,加齢黄斑変性(AMD)など,眼内の新生血管に関連する疾患の治療に有効である。
一方,本発明のペプチドは,エフリンB2と併用することでエフリンB2のMAPKリン酸化阻害能を飛躍的に高める作用を有する。このことは,エフリンB2が有する,眼内の静脈(動脈)内皮細胞における新生血管の抑制能を高めることを意味する。よって,本発明の抗体及び本発明のペプチドの他にエフリンB2を含有する新生血管阻害剤は,特に眼内の新生血管の抑制など,眼内の新生血管に関連する疾患の治療に特に有効であると考えられる。本発明の新生血管阻害剤の好ましい態様は,有効量のエフリンB2を含有すればよい。
本発明の新生血管阻害剤に用いられるエフリンB2は,アナログおよび改変体を含む任意のエフリンB2であってもよい。なお,エフリンB2は,可溶性エフリンB2(通常,細胞外ドメインを含むが,細胞質ドメインを含まない)であってもよい。エフリンB2は,天然に存在するタンパク質を単離精製したものであっても,遺伝子組換えにより微生物などから生成されたものであってもよい。例えば,米国特許第6,303,769号明細書又はMol Immunol.1995 Nov;32(16):1197−205に記載されるヒトエフリンB2のcDNAの配列を参照して,慣用の技術を用いて,全長タンパク質,細胞外ドメインを含むタンパク質などを作製してもよい。当業者が通常用いる技術を用いることにより,天然のエフリンB2を好ましく改変することもできる。また,エフリンB2は,医薬品や試薬として市販されているいずれを用いてもよい。
エフリンB2は,全長であってもよい。エフリンB2の好ましい態様は,天然のエフリンB2の細胞外ドメインを含み,細胞質ドメインを含まないものである。天然のエフリンB2の細胞外ドメインを含み,細胞質ドメインを含まない領域が,EphB4のファーマコフォアに作用する部位であると考えられるので,そのような部位を含むエフリンB2であれば,全長でなくても新生血管の抑制能を有すると考えられる。そのようなエフリンB2として,配列番号9のうち−25〜308位のアミノ酸残基からなるもの,配列番号9のうち1〜308位のアミノ酸残基からなるもの,配列番号9のうち−25〜199位のアミノ酸残基からなるもの,配列番号9のうち1〜199位のアミノ酸残基からなるもの,及びそれらと90%以上の相同性を有するもの(好ましくは95%以上相同性を有するもの,又は配列番号4で示される部位を含みつつ90%以上の相同性を有するもの)であって,エフリンB2と同様の活性を有するものがあげられる。なお,相同性は,例えば適宜パラメータを最適化したGAPコンピュータプログラムのバージョン6を用いて求めればよい。なお,配列番号9で示されるペプチドは,エフリンB2のN末端シグナルペプチド(配列番号9のアミノ酸−25から−1),細胞外ドメイン(アミノ酸1から199),膜貫通領域(アミノ酸200から225),および細胞質ドメイン(アミノ酸226から308)からなるペプチドである(なお,配列番号9に示されるアミノ酸の番号については配列番号9に係るペプチドのアミノ酸配列及びこのペプチドをコードする遺伝子の塩基配列を図3に示す。)。
また,エフリンB2が,ヒトFcとエフリンB2の融合タンパク質であってもよい。エフリンB2が新生血管の抑制能を発揮するためには,エフリンB2が二量体化していることが望ましいと考えられ,そのためヒトFcとエフリンB2との融合タンパク質であれば,エフリンB2が二量化し,高い新生血管の抑制能を発揮しうる。この融合タンパク質に用いられるエフリンB2は,エフリンB2の細胞外ドメイン,又は細胞外ドメインを含み,細胞質ドメインを含まないものが好ましい。N末端シグナルペプチド及び膜貫通領域については,それら全てが含まれてもよいし含まれなくてもよく,またそれらのうち一部のみが含まれていてもよい。エフリンB2とヒトFcの融合タンパク質は,たとえば,特表平10-502810号公報(特許文献3)に記載される方法により作出できる。
なお,後述する実施例により実証されたとおり,本発明の抗体及び本発明のペプチドをあわせたものは,高いp44/p42MAPKリン酸化活性阻害活性を有する。したがって,本発明は,配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチドに対する抗体;及び “配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるペプチド,又はその薬理学的に許容される塩,及び配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるペプチド,又はその薬理学的に許容される塩”のいずれか又は両方を含有する,p44/p42MAPKリン酸化活性阻害剤をも提供する。また,MAPKリン酸化活性が阻害されれば,DNA合成が阻害されるので,本発明は,配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチドに対する抗体;及び “配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるペプチド,又はその薬理学的に許容される塩,及び配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるペプチド,又はその薬理学的に許容される塩”のいずれか又は両方を含有する,DNA合成阻害剤をも提供する。
本発明の第2の側面は,配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチドに対する抗体;及び“配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるペプチド,又はその薬理学的に許容される塩,及び配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるペプチド,又はその薬理学的に許容される塩”のいずれか又は両方を含有する,DNA合成阻害剤に関する。また,本発明の第2の側面の別の態様は,配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチドに対する抗体;及び“配列番号5で表されるアミノ酸配列からなるペプチド,又はその薬理学的に許容される塩,及び配列番号6で表されるアミノ酸配列からなるペプチド,又はその薬理学的に許容される塩”のいずれか又は両方を含有する,DNA合成阻害剤に関する。
後述する実施例により実証されたとおり,本発明の抗体及び低分子ペプチドは,p44/p42MAPKリン酸化活性阻害能を有するので,DNA合成阻害剤として有効に機能する。特に,本発明の抗体及び低分子ペプチドは,眼内における新生血管に関するDNA合成阻害剤として有効である。
本発明の第3の側面は,配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチドに対する抗体;及び“配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるペプチド,又はその薬理学的に許容される塩,及び配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるペプチド,又はその薬理学的に許容される塩”のいずれか又は両方を含有する,p44/p42MAPKリン酸化活性阻害剤に関する。また,本発明の第3の側面は,配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチドに対する抗体;及び“配列番号5で表されるアミノ酸配列からなるペプチド,又はその薬理学的に許容される塩,及び配列番号6で表されるアミノ酸配列からなるペプチド,又はその薬理学的に許容される塩”のいずれか又は両方を含有する,p44/p42MAPKリン酸化活性阻害剤に関する。
後述する実施例により実証されたとおり,本発明の抗体及び低分子ペプチドは,p44/p42MAPKリン酸化活性阻害能を有する。特に,本発明の抗体及び低分子ペプチドは,眼内における新生血管に関する疾患を治療又は予防するためのp44/p42MAPKリン酸化活性阻害剤として有効である。
[医療用キット]
本発明の第4の側面は,基本的には,本発明の抗体を有する第1の組成物と,本発明のペプチドを有する第2の組成物とを有する医療用キットに関する。すなわち,本発明の第2の側面は,配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチドに対する抗体,及び薬理学的に許容される担体を含有する第1の組成物と;(i)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるペプチド,もしくはその薬理学的に許容される塩,又は(ii)配列番号2において,1又は2個のアミノ酸が欠失,置換,挿入若しくは付加されたアミノ酸配列からなり,前記配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチドに対する抗体の新生血管の阻害活性を高めるペプチド,もしくはそれらの薬理学的に許容される塩,及び薬理学的に許容される担体を含有する第2の組成物と;を含有する医療用キット;配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチドに対する抗体,及び薬理学的に許容される担体を含有する第1の組成物と;(i)配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるペプチド,もしくはその薬理学的に許容される塩,又は(ii)配列番号3において,1又は2個のアミノ酸が欠失,置換,挿入若しくは付加されたアミノ酸配列からなり,前記配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチドに対する抗体の新生血管の阻害活性を高めるペプチド,もしくはそれらの薬理学的に許容される塩,及び薬理学的に許容される担体を含有する第2の組成物と;を含有する医療用キット;及び配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチドに対する抗体,及び薬理学的に許容される担体を含有する第1の組成物と;配列番号4で表されるアミノ酸配列を含有し,当該ペプチドに含まれるアミノ酸残基の数が9以上,100以下であるペプチドであって,配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチドに対する抗体の新生血管の阻害活性を高めるペプチド,もしくはそれらの薬理学的に許容される塩,及び薬理学的に許容される担体を含有する第2の組成物と;を含有する医療用キットなどに関する。
本発明の第4の側面の別の態様は,配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチドに対する抗体,及び薬理学的に許容される担体を含有する第1の組成物と;(i)配列番号5で表されるアミノ酸配列からなるペプチド,もしくはその薬理学的に許容される塩,又は(ii)配列番号5において,1又は2個のアミノ酸が欠失,置換,挿入若しくは付加されたアミノ酸配列からなり,前記配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチドに対する抗体の新生血管の阻害活性を高めるペプチド,もしくはそれらの薬理学的に許容される塩,及び薬理学的に許容される担体を含有する第2の組成物と;を含有する医療用キット;配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチドに対する抗体,及び薬理学的に許容される担体を含有する第1の組成物と;(i)配列番号6で表されるアミノ酸配列からなるペプチド,もしくはその薬理学的に許容される塩,又は(ii)配列番号6において,1又は2個のアミノ酸が欠失,置換,挿入若しくは付加されたアミノ酸配列からなり,前記配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチドに対する抗体の新生血管の阻害活性を高めるペプチド,もしくはそれらの薬理学的に許容される塩,及び薬理学的に許容される担体を含有する第2の組成物と;を含有する医療用キット;及び配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチドに対する抗体,及び薬理学的に許容される担体を含有する第1の組成物と; 配列番号7または配列番号8で表されるアミノ酸配列を含有し,当該ペプチドに含まれるアミノ酸残基の数が9以上,100以下であるペプチドであって,配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチドに対する抗体の新生血管の阻害活性を高めるペプチド,もしくはそれらの薬理学的に許容される塩,及び薬理学的に許容される担体を含有する第2の組成物と;を含有する医療用キットなどに関する。
上記の医療用キットは,後述する実施例によって実証されたとおり,第1の組成物を投与した後に第2の組成物を投与するとMAPKの活性を著しく阻害することが示された。よって,本発明のキットは,特にそのような投与方法に有効に利用されうる。
本発明の医療用キットに含まれる本発明の抗体,及び本発明のペプチドは,先に説明したものを適宜用いることができる。
本発明の医療用キットの好ましい態様は,新生血管阻害用,特に眼内の新生血管阻害用に用いられるものであり,さらに好ましい態様は,眼内の脈絡膜における新生血管阻害用に用いられるものである。本発明の第2の側面の好ましい態様は,眼内の新生血管に関連する疾患の治療又は予防用に用いられる上記いずれかに記載のキットに関する。本発明の第2の側面の好ましい態様は,加齢黄斑変性,虚血性網膜症,眼内血管新生,角膜血管新生,網膜血管新生,脈絡膜血管新生,糖尿病性黄斑浮腫,糖尿病性網膜虚血,糖尿病性網膜浮腫,糖尿病性網膜症”からなる群から選択される,1又は2種以上の疾患の治療用又は予防用に用いられる上記いずれかに記載のキットに関する。本発明の第2の側面の好ましい態様は,加齢黄斑変性及び糖尿病性網膜症のいずれか又は両方の疾患の治療用又は予防用に用いられる上記いずれかに記載のキットに関する。
先に説明したとおり,本発明のペプチドは,血管新生抑制作用又はエフリンB2により血管新生抑制作用の補助活性を有するといえる。病態部位における血管新生は,眼内以外では主として,腫瘍,慢性関節リウマチ,乾癬,アテローム性動脈硬化症,カポジ肉腫のような疾患,並びに固形癌の転移と深く結びついている(Forkman, J. Nature Med. 1: 27−31(1995); Bicknell, R., Harris, A.L.Curr. Opin. Oncol. 8: 60−65(1996))。従って,本発明の第2の側面の好ましい態様は,腫瘍,慢性関節リウマチ,乾癬,アテローム性動脈硬化症,カポジ肉腫,又は固形癌の転移の治療に用いられる上記いずれかに記載のキットに関する。すなわち,本発明の第2の側面の好ましい態様は,腫瘍,慢性関節リウマチ,乾癬,アテローム性動脈硬化症,カポジ肉腫,又は固形癌の転移の治療用キットに関する。
そして,これらに含まれる本発明の抗体や本発明のペプチドの量も上記したものを適宜用いることができる。
後述する実施例によって実証されたとおり,本発明の抗体と本発明のペプチドを同時に投与した場合に比べ,本発明の抗体を投与した後に,本発明のペプチドを投与した場合のほうが,MAPK活性化を抑えることができる。したがって,本発明の第2の側面の好ましい態様は,前記第1の組成物が投与された後に,前記第2の組成物が投与される上記いずれかに記載のキットに関する。前記第1の組成物が投与された後,30秒後〜24時間後,好ましくは1分後〜12時間後,より好ましくは1分後〜10分後に前記第2の組成物が投与される上記いずれかに記載のキットに関する。また,本発明のペプチドを投与した後に本発明の抗体を投与しても,本発明の抗体と本発明のペプチドを同時に投与した場合に比べMAPK活性化を抑えることができる。したがって,本発明の第2の側面の好ましい態様は,前記第2の組成物が投与された後に,前記第1の組成物が投与される上記いずれかに記載のキットに関する。前記第2の組成物が投与された後,30秒後〜24時間後,好ましくは1分後〜12時間後,より好ましくは1分後〜10分後に前記第1の組成物が投与される上記いずれかに記載のキットに関する。
[マウス角膜法における本発明のペプチド及び本発明の抗体の評価]
塩基性FGF(bFGF)は,強力な血管形成因子であることが知られている。bFGFによって誘導されたマウス角膜の血管新生を,本発明のペプチド及び本発明の抗体が抑制し得るかどうかを検討するには,例えば,以下のようにすればよい。
マウスにおける角膜ポケットアッセイおよび角膜血管新生の定量は,基本的にKenyon, B.M.ら,(1996)Ophthalmol.
Vis. Sci.,37巻,8号,1625-1632頁に基づいて行う。簡単に言えば,90ngのヒトbFGFを含む0.3μLのHydronペレット(IFN Sciences, New Brunswick, New Jersey, USA)を調製し,雄BALB/cマウスの角膜に移植する。本発明の抗体とペプチドを,bFGF/Hydron溶液に直接添加する。ペレットを,角膜縁から1.0mmに配置する。移植後,オフロキサシン/点眼剤を各眼に適用する。6日後,動物を屠殺し,そして角膜血管を写真撮影する。マウス角膜における血管新生の定量分析を,ソフトウエアパッケージNIH Imageを用いて行う。このようにすれば,マウス角膜における本発明のペプチド及び本発明の抗体の同時投与によるbFGFで誘導した血管形成の阻害について検証できる。
[CNVモデルに対する本発明のペプチド及び本発明の抗体の評価]
本発明のペプチド及び本発明の抗体が,AMDなど,眼内の血管形成または血管新生に関連する疾患または障害の治療剤として有効であることは,たとえば,レーザー誘導性脈絡膜血管新生(CNV)モデルを用いて実証できる。レーザー誘導性CNVモデルは,AMDの生態モデルと考えられる。以下,CNVモデルのプロトコル例について説明する。
−マウスの実験的脈絡膜血管新生(CNV)の誘導―
マウスの眼の眼底後極部をグリーンレーザー(グリーンレーザー光凝固装置 Novus Verdi,コヒーレント社,スリットランプ 30SL-M,ZEIS)で光凝固する。レーザー光の強度はたとえば,約200mWとする。その際,凝固サイズを75μm,凝固時間を0.1秒とし,1眼あたり4発の凝固を行えばよい。このようにすればCNVモデルを得ることができる。
−マウス眼への本発明のペプチド及び本発明の抗体の投与方法−
本発明の抗体及び本発明のペプチドの投与方法は,対象にレーザー照射直後と照射後5日の合計2回,下記の硝子体内濃度のPBS,本発明の抗体,及び本発明のペプチドを硝子体内に投与する。1投与あたり0.002mLずつ,33G針を用いて毛様体扁平部から眼内に注射する。ネガティブコントロールとして,0.002mLのPBSを注射する。ポジティブコントロールとして,1.66nMのエフリンB2を用いる。動物番号3〜5は,3分差で投与を行う。例えば,動物番号3(右眼)は,エフリンB2(2μL)を投与した3分後に配列番号2のペプチド(2μL)を投与するので,2種類の被験物質を各2μLの計4μL投与することになる。
−マウスCNVの評価−
CNVモデル実験は,例えば,以下のようにして評価する。レーザー照射後7日目に脈絡膜フラットマウント法を行って,脈絡膜新生血管を評価する。20%ネンブタールをマウス腹腔内に0.2mL投与して麻酔をしたのち開腹し,50mG/mLフルオレセイン-デキストラン(SIGMA,0.5mL/匹)を心臓左心室に注射して灌流させる。その後眼球を摘出し4%パラホルムアルデヒドで固定をする。眼球組織固定後に前眼部と網膜を除去して脈絡膜フラットマウントを作製したのち,封入剤(Beckamn coulter, Aqueouse mountintg medium
permafluor)を用いてスライドガラスに封入して試料を作製する。
その後,蛍光顕微鏡を用いて作製した試料を観察する。レーザー照射部位の写真をCCDカメラで撮影し,イメージ画像化する。脈絡膜新生血管である管腔構造部位の面積をソフトウエアパッケージMacScopeで測定する。
また,CNVモデルは,6匹のカニクイザル(オス3〜6kg)由来の12眼を用いてもよい。これらの動物は全て,苦痛のないように無病原状態で収容する。そのため,カニクイザルを用いたCNVモデル実験は,塩酸ケタミンで全身麻酔を施した状態で行う。
−カニクイザルの実験的脈絡膜血管新生(CNV)の誘導―
上記サルの眼の眼底部の後部極において,眼科レーザー用レンズ(3−M
Infant Laser OG 3MIA,Ocular Instruments, Inc.)を使用し,眼底後極部をクリプトンレーザー(マルチカラーレーザー光凝固装置 MC−300,株式会社ニデック,スリットランプ 900BQ,HaagStreit)で光凝固する。レーザー光の強度はたとえば,約700mWとする。その際,凝固サイズを100μm,凝固時間を0.1秒とし,1眼あたり8発の凝固を行えばよい。
−カニクイザル眼への本発明のペプチド及び本発明の抗体の投与方法−
本発明の抗体及び本発明のペプチドの投与方法は,レーザー照射直後と照射後5日の合計2回,下記の硝子体内濃度のPBS,EphB4に対する抗体,本発明のペプチドをカニクイザルの硝子体内に投与する。1投与あたり0.1mLずつ,30G針を用いて毛様体扁平部から眼内に注射する。ネガティブコントロールとして,0.1mLのPBSを注射する。ポジティブコントロールとして,1.66nMのエフリンB2を用いる。動物番号3〜5は,3分差で投与を行う。例えば,動物番号3(右眼)は,エフリンB2(100
μL)を投与した3分後に配列番号2のペプチド(100μL)を投与するので,2種類の被験物質を各100μLの計200μL投与することになる。
−カニクイザルCNVの評価−
カニクイザルを用いたCNVモデル実験は,例えば,以下のようにして評価する。レーザー照射後10日目に蛍光眼底造影検査を行って,脈絡膜新生血管を評価する。検査は両眼で時間をずらして実施する。両眼ともにフルオレセイン(蛍光眼底造影剤フルオレサイト®注射液1号,日本アルコン株式会社,0.1mL/kg)投与後5分及び10分に,それぞれ右,左の順に連続して2枚ずつ撮影を行う。撮影された写真に基づいて,眼科専門医が評価を行う。
その後,ペントバルビタールナトリウム(東京化成工業株式会社)水溶液(64.8 mg/mL,0.4 mL/kg)の静脈内投与により試験動物に麻酔を行い,体重を測定後,放血安楽死させ,外表,内部器官及び組織を肉眼的に観察する。左右眼球(視神経を含む)について,摘出後3%グルタールアルデヒド・2%パラホルムアルデヒド混合固定液で浸漬固定する。固定後の眼球のレーザー照射部位(8部位)を細切し,パラフィン包埋を行い,パラフィン切片(10切片)を作製した後,H.E.染色(1切片のみ)を施す。
配列表の説明
配列番号1 ヒトEphB4においてN末端シグナル配列を除いた細胞外ドメイン(16番目から539番目までのアミノ酸残基からなるペプチド)のアミノ酸配列を示す。
配列番号2 ヒトエフリンB2の部分ペプチドのアミノ酸配列を示す。
配列番号3 ヒトエフリンB2の部分ペプチドのアミノ酸配列を示す。
配列番号4 ヒトエフリンB2の部分ペプチドのアミノ酸配列を示す。
配列番号5 ヒトエフリンB2の部分ペプチドのアミノ酸配列を示す。
配列番号6 ヒトエフリンB2の部分ペプチドのアミノ酸配列を示す。
配列番号7 ヒトエフリンB2の部分ペプチドのアミノ酸配列を示す。
配列番号8 ヒトエフリンB2の部分ペプチドのアミノ酸配列を示す。
配列番号9 ヒトエフリンB2のアミノ酸配列を示す。
配列番号10 配列番号9で示されるエフリンB2をコードするDNAの塩基配列を示す。
以下,実施例に基づいて本発明を具体的に説明する。しかしながら,本発明は,以下の実施例によって限定されない。
−配列番号2で表されるポリペプチドの合成−
配列番号2(EFSPNLWGLEFQKNKDYYII)で表されるポリペプチドを以下のようにして合成した。すなわち,マルチシンテック(MultiSyntech)社の自動ペプチド合成装置“シロII(SyroII )” を用い,Fmoc (9−フルオレニルメチルオキシカルボニル)ストラテジーによる固相合成法により調整した。合成には,HBTU(2−(1H)−ベンゾトリアゾ−ル−1−イル)−1,1,3,3−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート)−HOBt(1−ヒドロキシベンゾトリアゾール)法(Knorr,R.ら, TetrahedronLett., 1927 (1989))を用いた。合成スケールは,25マイクロモルであった。なお,用いたレジン及びアミノ酸は,それぞれ表2と表3とに示すとおりであった。
(1)Fmoc−アミノ酸樹脂を反応ベッセル及びFmocアミノ酸用カートリッジにとり,そのベッセル及びカートリッジを,上記した自動ペプチド合成装置に装着し,FastMocプログラムにより自動合成操作を行った。
(2)ペプチドの自動合成に際し,まずDCM(ジクロロメタン)にて5分間樹脂を潤滑させた。その後,NMP(N−メチル−2−ピロリドン)にて5分間処理し,洗浄した。その後,以下のプロトコルを繰返し行った。1サイクルの合成反応は,下表1のとおりである。
Figure 0003970311
(3)脱保護基及び脱樹脂操作
上記のようにして得られた合成ペプチドをTFA(トリフルオロ酢酸)/水/トリエチルシラン(Triethylsilan)[90:5:5]を用い,室温にて2時間反応させた。反応混合液から樹脂をろ別し,トリフルオロ酢酸1mlにて2回洗浄し,ろ液及び洗液をあわせたものに氷冷下エーテル100mlを加え,生じた沈殿物を遠心分離し,残渣をデカンテーションにより上清から分離した。
(4)精製
得られた残渣を,氷冷下エーテルにて洗浄した後,遠心分離し,上清を逆相高速液体クロマトグラフィーにより精製した。逆相高速液体クロマトグラフィーは,島津社製HPLC“LC10AD”を用い,カラムはクロマシル(Kromasil)KR“100−10
C18”の250x30mmのものを用いた。逆相高速液体クロマトグラフィーの条件は,溶離液として,0.1%TFA水溶液(A液)及び80%アセトニトリルを含む0.1%TFA水溶液(B液)の2液グラジエントで,当初B液5%,30分後にB液80%,検出波長210nmであった。精製されたペプチドを含む画分を回収後,凍結乾燥した。
(5)ポリペプチドの分析
最終的に精製されたペプチドを,島津社製HPLC“LC10AD”及び,クロマシル(Kromasil)KR“100−10C18”の250x4(又は6)mmのカラムを用いた高速液体クロマトグラフィーにより確認した。また,最終的に精製されたペプチドを,ブルカー(Bruker)社製MALDI−TOF質量分析装置“リフレックス(Reflex)II”によっても確認した。
Figure 0003970311
Figure 0003970311
−細胞培養−
本実施例は,HUVEC(人臍帯静脈内皮細胞)を用いて行った。細胞株は37℃の恒温槽で解凍し,10mlの血管内皮細胞培地(Humedia,EG-2キット,クラボウ製)に溶解後,タイプIコラーゲンコート 10cm 培養皿(IWAKI製)1枚に全量をプレーティングした。その後,37℃,CO/air=6%/94%でHUVECを24時間培養した。DMSOを除去するため,EG−2培地10mlに培地の交換を行った。80〜90%コンフルエント(confluent)の状態になったら継代培養を行った。この時の細胞濃度は,およそ5×10個/Dish程度であった。72時間程でコンフルエントになった。
コラーゲンコート6ウェルプレート(IWAKI製)に5×10個/well程度でプレーティングを行った。培養を続け,コンフルエントになったら血管内皮細胞培地(Humedia,EG-2キット,クラボウ製)から細胞増殖因子(hEGF,hFGF-B)を除いた培地(6wellの場合は2ml)に培地交換して24時間培養した(starvation)。培地を除き,血管内皮細胞培地(Humedia,EG-2キット,クラボウ製)から細胞増殖因子を除いた培地にペプチド分解酵素の阻害剤バシトラシン(最終濃度100マイクロg/ml)を加えたものをコントロールとして加えた。他の処理群は,このトンコロール培地でペプチド及びEphB4の部分ペプチドに対する抗体を希釈して細胞に加え,10分後(もしくは適当な時間を設定)にPBSで2回洗浄した後,ライシスバッファ(LysisBuffer)(6wellの場合は0.2ml/well)を用いて細胞の全細胞ライセートを回収した。
−p44/42MAPKリン酸化に対する配列番号2で表されるアミノ酸配列を有するペプチドの効果−
p44/42MAPKリン酸化に対する配列番号1で表されるアミノ酸配列を含むペプチドに対するウサギポリクローナル抗体(SANTA_CRUZ_BIOTECHNOLOGY,INC),実施例1で得られたペプチド(配列番号2で表されるペプチドである。以下,「配列番号2のペプチド」とも呼ぶ),また実施例1と同類の方法で得られたペプチド(配列番号3で表されるペプチドである。以下,「配列番号3のペプチド」とも呼ぶ),及びそれらの併用剤の効果を以下のように実証した。
血管内皮細胞を,血管内皮細胞培地(HumediaEG-2キット,クラボウ製)から細胞増殖因子を除いた培地にペプチド分解酵素の阻害剤バシトラシン(最終濃度100μg/ml)を加えたものをコントロールとし,実施例1で得られた配列番号2のペプチドとウサギポリクローナル抗体を混合したものなどを用いて10分間処理した。ドデシル硫酸ナトリウムーポリアクリルアミド電気泳動(SDS-PAGE)は10%のアクリルアミドを用い,200ボルトにて40分間の条件で分離し,ウェット方式で100ボルトの条件下一時間PVDF膜に転写した。3%スキムミルクで1時間ブロッキングした後,膜を一次抗体としてリン酸化p44/42MAPKに対する抗体(Cell Signaling technology社,Danvers, MA, USA)を用い,これとともに4℃にて一晩インキュベートした(1 : 2,000)。TBS-tで10分間×4回の洗浄後,膜を西洋ワサビペルオキシダーゼ標識2次抗体(Bio-Rad, Richmond, CA, USA)(1 : 20,000)と共に室温にて40分間インキュベートした。可視化を製造業者の指示に従ってアマシャム社製増強化学発光(ECL)検出システムを用いて行った。
図1は,実施例3におけるp44/42MAPKリン酸化に対する配列番号1で表されるアミノ酸配列を含むペプチドに対するウサギポリクローナル抗体(SANTA_CRUZ_BIOTECHNOLOGY,INC),配列番号2および配列番号3のペプチド,及びそれらの併用剤の結果を示すウェスタンブロッティングの写真である。図1中,第1レーンはコントロールを示し;第2レーンは,配列番号2の100nMのペプチドで処理したものを示し;第3レーンは,配列番号3の100nMのペプチドで処理したものを示し;第4レーンは,100nMのウサギポリクローナル抗体で処理したものを示し;第5レーンは,10nMのウサギポリクローナル抗体で処理したものを示し,;第6レーンは,200nMのウサギポリクローナル抗体で処理し,3分後に200nMの配列番号2のペプチドで処理したものを示し;第7レーンは,200nMのウサギポリクローナル抗体で処理し,3分後に200nMの配列番号3のペプチドで処理したものを示し;第8レーンは,20nMのウサギポリクローナル抗体で処理し,3分後に200nMの配列番号2のペプチドで処理したものを示し;第9レーンは,20nMのウサギポリクローナル抗体で処理し,3分後に200nMの配列番号3のペプチドで処理したものを示す。第1レーンから第9レーンは,処理開始から13分後に撮影を行った。なお,処理開始から13分後の全細胞ライセート回収時における第6,第7における最終濃度は,それぞれ配列番号2および配列番号3のペプチドが100nM,ウサギポリクローナル抗体が100nMであった。また,処理開始から13分後の全細胞ライセート回収時における第8,及び第9レーンにおける最終濃度は,それぞれ配列番号2および配列番号3のペプチドが100nM,ウサギポリクローナル抗体が10nMであった。
また,図1に,一次抗体としてリン酸化・脱リン酸化型を問わずすべてのp44/42MAPKを認識する抗体,または,α−チューブリンを認識する抗体を用いてウェスタンブロッティング解析した写真を示す。
第1レーンと,第2,第3,及び第4レーンを比較すると,ほとんどMAPKリン酸化活性を阻害することができないことがわかる。しかし,第1レーンと第5レーンを比較すると,10nMの抗体がMAPKリン酸化活性を阻害することが分かる。また,第1レーンと,第6レーン及び第7レーンを比較すると200nMの抗体と200nMの配列番号2,3それぞれのペプチドの併用でMAPKリン酸化活性を阻害することが分かる。さらに,第1レーンと,第8レーン及び第9レーンを比較すると,20nMの抗体と200nMの配列番号2,3それぞれのペプチドの併用でMAPKリン酸化活性を阻害することが分かる。
参考例1
配列番号1で表されるアミノ酸配列を含むペプチドに対するウサギポリクローナル抗体をEphB4の細胞外ドメインを構成するポリペプチドに対するモノクローナル抗体(R&Dシステムズ社:カタログ番号IAP02)に変えて,配列番号2および配列番号3のペプチドを配列番号2と配列番号5と配列番号6のペプチドに変えた以外は,実施例3と同様にしてウェスタンブロットを行った。図2は,実施例4におけるp44/42MAPKリン酸化に対するエフリンB2を投与した結果を示すウェスタンブロッティング解析した写真である。図2中,第1レーンはコントロールを示し;第2レーンは20nMのモノクローナル抗体で処理し,3分後に200nMの配列番号5のペプチドで処理したものを示し;第3レーンは20nMのモノクローナル抗体で処理し,3分後に200nMの配列番号6のペプチドで処理したものを示し;第4レーンは20nMのモノクローナル抗体で処理し,3分後に200nMの配列番号2で処理したものを示す。なお,処理開始から13分後の撮影時における第2レーンから第4レーンの最終濃度は,それぞれモノクローナル抗体が10nM,ペプチドの濃度が100nMであった。
また,図2に,上記と同じ全細胞ライセートを,リン酸化・脱リン酸化型を問わずp44/42MAPKを認識する抗体,または,α−チューブリンを認識する抗体を用いてウェスタンブロッティング解析した写真を示す。第1レーンと,第2,第3,及び第4レーンを比較すると,10nMの抗体と100nMの配列番号2,5,6それぞれのペプチドの併用でMAPKリン酸化活性を阻害することが分かる。
本発明の新生血管阻害剤及び医療用キットは,医薬産業などにおいて利用されうる。
図1は,実施例3におけるp44/42MAPKリン酸化に対する配列番号1で表されるアミノ酸配列を含むペプチドに対するウサギポリクローナル抗体(SANTA_CRUZ_BIOTECHNOLOGY,INC),配列番号2のペプチド,配列番号3のペプチド及びそれらの併用剤の結果を示す図面に替わるウェスタンブロッティングの写真である。 図2は,参考例1におけるp44/42MAPKリン酸化に対するEphB4の細胞外ドメインを構成するポリペプチドに対するモノクローナル抗体(R&Dシステムズ社:カタログ番号IAP02),配列番号2のペプチド,配列番号5のペプチド,配列番号6のペプチドを投与した結果を示すウェスタンブロッティング解析した図面に替わる写真である。 図3は,配列番号9に係るペプチドのアミノ酸配列及びこのペプチドをコードする遺伝子の塩基配列を示す図であり,図3Aは配列番号9に示されるアミノ酸の−25番目から167番目までのアミノ酸を示す。 図3Bは,図3Aの続きを示す。

Claims (3)

  1. 配列番号1で表されるアミノ酸配列の186番目〜385番目のアミノ酸残基からなるペプチドに対する抗体とともに;
    “配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるペプチド,又はその薬理学的に許容される塩,及び配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるペプチド,又はその薬理学的に許容される塩”のいずれか又は両方を含有する,
    新生血管阻害剤。
  2. 配列番号1で表されるアミノ酸配列の186番目〜385番目のアミノ酸残基からなるペプチドに対する抗体;及び
    “配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるペプチド,又はその薬理学的に許容される塩,及び配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるペプチド,又はその薬理学的に許容される塩”のいずれか又は両方を含有する,DNA合成阻害剤。
  3. 配列番号1で表されるアミノ酸配列の186番目〜385番目のアミノ酸残基からなるペプチドに対する抗体;及び
    “配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるペプチド,又はその薬理学的に許容される塩,及び配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるペプチド,又はその薬理学的に許容される塩”のいずれか又は両方を含有する,p44/p42MAPKリン酸化活性阻害剤。
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