JP3962220B2 - 塗料組成物およびこれを利用する耐候性鋼材の防食方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、塗料組成物に関し、更に詳細には、溶接構造用耐候性熱間圧延鋼材および高耐候性鋼材等の耐候性鋼材に塗布することにより、当該鋼材の耐食性を向上せしめることができるとともに、当該鋼材で作られる構造物の外観および意匠性を向上させることのできる塗料組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、多くの鋼材が提供されてきたが、このうち、溶接構造用耐候性熱間圧延鋼材(以下、「SMA材」という)および高耐候性鋼材(以下「SPA材」という)は、その耐候性を生かして、橋梁、構造物、鉄道車両などの様々な分野で使用されてきた。このSMA材やSPA材は、素地のまま大気中に放置されると、最初は通常の普通綱と同様に鋼材の表面に赤さびが形成されるが、その後鋼材の合金元素が作用し、表面に酸化被膜(安定さび)が形成され、以後の腐食を防止するというものである。
【0003】
このようにSMA材やSPA材は、最初の赤さびの形成が安定さびの形成と深く関わっており、これが耐候性に関係するため、鋼材でありながら無塗装で使用(裸使用)されてきた。
【0004】
その一方で、裸使用されるSMA材やSPA材の表面は、初期に赤さびが形成され、これが風雨により流れ落ちるなどして構造物等周辺を汚染することがあり、外観的には好ましくないものであった。また、結露頻度が多い部分や風通しが悪いところなどでは表面の酸化被膜(安定化さび層)が形成されにくく、十分な耐候性が得られないことがあるなどの問題もあった。
【0005】
このような理由から、実用面では問題はないものの、構造物の外観という面からは、SMA材やSPA材は使用しにくい面もあり、SMA材やSPA材をより広い範囲で使用するためには、外観を向上させるための手段の開発が求められていた。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
従って本発明は、SMA材やSPA材に優れた耐候性を維持しながら、SMAやSPA材を裸使用したときに生じる赤さびの発生を防ぎ、その外観を向上させることを課題とするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、導電性ポリマーを含有する塗料組成物をSMA材やSPA材の表面に塗布することにより、赤さびの生成工程を経ることなく耐蝕性に寄与する安定化さび層が早期に形成されることを見出した。また、この塗料組成物に有色顔料を添加しておけば、SMA材やSPA材ないしこれで作られる構造物の外観を任意な色とすることができ、その応用範囲を広げることが可能になることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち本発明は、導電性ポリマー粒子、塗膜形成成分、有色顔料および溶剤成分を含有する塗料組成物を提供するものである。
【0009】
また本発明は、耐候性鋼材、特にSMA材やSPA材に、上記塗料組成物を塗布することを特徴とするSMA材やSPA材の防食方法を提供するものである。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明の塗料組成物は、上記のように導電性ポリマー粒子、塗膜形成成分、有色顔料および溶剤成分を含むものである。
【0011】
本発明の塗料組成物に使用される成分のうち、導電性ポリマー粒子は、ポリ共役π電子系を有する有機ポリマーの粒子であり、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン等が使用される。このうち、ポリアニリンがより好ましい。
【0012】
この導電性ポリマーのうち、ポリア二リン粒子としては、塗料組成物中で、分散性を有するポリアニリンであれば特に制限されないが、例えば、特許2519551号公報(PCT/EP 88/00798の実施例2により合成される)や、特公平8−510275号公報(VERSICON アライドシグナル社製)などで開示されているポリアニリンを使用することができる。
【0013】
また、この導電性ポリマー粒子の粒径は特に制約されるものではないが、平均粒子径が10nm〜500nm 程度のものが好ましい。
【0014】
一方、本発明の塗料組成物を構成する成分のうち塗膜形成成分は、特に制約はなく、従来公知の塗膜形成成分が使用される。この塗膜成分としては、天然樹脂や加工樹脂および合成樹脂等が使用される。このうち、天然樹脂としては、アセチルセルロース、ニトロセルロース、ベンジルセルロース等のセルロース誘導体、ロジン、シェラック等が、加工樹脂としては、硬化ロジン、エステルゴム等が例示される。また、合成樹脂としては、アルキッド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、アミノ樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、アルデヒド樹脂、ケトン樹脂、ビニル樹脂、アクリル樹脂、フッ素樹脂等が挙げられる。これらの樹脂は、必要とされる塗膜の強度、厚さに応じ適宜選択使用される。
【0015】
更に、有色顔料としては、各種の無機顔料、例えば、酸化鉄、カーボンブラック、酸化クロム、紺青、群青等や、有機顔料、例えば、タール系色素をレーキ化したもの等が挙げられる。これらの有色顔料も、塗料組成物に要求される色調に応じて選択されるが、例えばポリアニリン粒子は導電性を有する状態で緑色に着色しているので、あまり薄い色調を選択することは好ましくない。好ましい色調としては、たとえば、茶(ブラウン)、黒(ブラック)等のものである。
【0016】
更にまた、溶剤成分としては、炭化水素系溶剤、脂肪族系溶剤、芳香族系溶剤、アルコール系溶剤、エステル系溶剤、ケトン系溶剤、エーテル系溶剤、塩素系溶剤等の有機系溶剤が使用される。これらの溶剤成分は、塗膜形成成分等の他の配合成分に応じ、適宜選択使用することができる。
【0017】
本発明の塗料組成物は、上記各成分を常法に従って混合することにより調製される。例えば、塗膜形成成分を溶剤成分中に溶解させた後、この溶液に微細に粉砕された有色顔料やその他の成分を加え、均一となるまで混合することにより調製される。
【0018】
本発明の塗料組成物における、各成分の配合量は、導電性ポリマー粒子が、 0.1から45質量%(以下、「%」とする)程度、特に、1から10%程度とすることが好ましく、他の塗膜形成成分、有色顔料および溶剤成分については、通常の塗料組成物における配合量、例えば、塗膜形成成分が20から65%程度、有色顔料が0.5から4%程度、溶剤成分が20から75%程度とすることが好ましい。
【0019】
この塗料組成物の調製に当たっては、上記した成分の他、一般に塗料組成物において用いられる各種添加剤を適宜使用することができる。このような添加剤としては、例えば、可塑剤、乾燥剤(硬化剤)、顔料分散剤、乳化剤、増粘剤、飛散防止剤などが挙げられる。
【0020】
かくして得られる本発明の塗料組成物は、主に耐候性鋼材に塗布することによりその効果を発揮させることができる。被塗布対象となる耐候性鋼材の種類は特に制限はないが、本発明の塗料組成物の機能を最大限に発揮するという点からは、SMA材及びSPA材に塗布することが好ましい。このSMA材は、JISにおいて、SMA400AW、AP、BW、BP、CW、CP、SMA490AW、AP、BW、BP、CW、CPおよびSMA570W、Pとして規格化されている溶接構造用耐候性熱間圧延鋼材である(JIS G 3114)。またSPA材としてはSPA−HおよびSPA−Cとして規格化されている高耐候性圧延綱材である(JIS G 3125)。市販品としては、例えば「COR−TEN」として新日本製鐵(株)から販売されているものを挙げることができる。
【0021】
本発明の塗料組成物の耐候性鋼材に塗布する方法としては、一般的な塗装方法であれば特に制限はなく、素地の前処理を行った後、または一部赤さびが発生した状態ではけ塗り、吹きつけ塗装、浸漬塗装、静電スプレー塗装、静電粉体塗装、電着塗装等の種々の塗装方法を用いて、塗料を耐候性鋼材に塗布することができる。
【0022】
またその塗布も、1回塗り、多層塗りのいずれであっても良く、本塗装に先立ちプライマー処理してから塗布しても良い。なお、プライマー処理に当たっては、公知の導電性ポリマー粒子を含有するプライマー、例えば、ポリアニリンプライマーである「CORRPASSIV」(日本オルメコン社製)を使用することもできる。
【0023】
このようにして本発明の塗料組成物が塗布されたSMA材等の耐候性鋼材は、赤さびを発生することなく、その表面に高耐食性の「安定化さび層」を形成するものであり、外観の良い状態で高耐食性を達成することができる。
【0024】
【作用】
本発明の塗料組成物が、耐候性鋼材、特にSMA材やSPA材に優れた耐食性と外観を付与しうるのは、次のような理由によるものと解される。すなわち、本発明の塗料組成物中に含有されている導電性ポリマー粒子は、塗布された鋼材との関係においては酸化還元触媒として機能する。そして、この酸化還元反応により、鋼材表面には、最大で1μmの主としてFeOOH(α、β)、Fe、Feからなる酸化皮膜が形成される。そして、この皮膜は固有電位が貴の方向に移行するとともに、耐候性鋼材に含有されるP、Ni、Cu、Cr等の耐光性に寄与する単体及び化合物を含むことにより初期の安定化さび層が人工的に形成され、以後この人工的に形成されたさび層は耐候性鋼材固有の「安定化さび層」の形成に寄与する。つまり、SMA材やSPA材の裸使用では、自然に発生する赤さびにより徐々に形成される「安定化さび層」が、本発明の塗料組成物中の導電性ポリマー粒子の作用により、人工的に形成され、耐食性を奏するのである。
【0025】
そして、本発明の塗料組成物を使用した場合は、赤さびの発生を経ずして「安定化さび層」が形成されると共に、当該組成物が塗料としても作用するために、構造物の外観を任意の色調とすることができ、構造物の外観をも向上することができ、耐候性鋼材の使用範囲を広げることができるものである。
【0026】
【実施例】
以下に実施例および参考例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0027】
参 考 例 1
塗料組成物の製造:
以下に示した成分を、常法を用いて本発明品1の塗料組成物を製造した。
【0028】
Figure 0003962220
【0029】
参 考 例 2
塗料組成物の製造:
以下に示した成分を、常法を用いて比較品1の塗料組成物を製造した。
【0030】
Figure 0003962220
【0031】
参 考 例 3
塗料組成物の製造:
以下に示した成分を、常法を用いて比較品3の塗料組成物を製造した。
【0032】
Figure 0003962220
【0033】
実 施 例 1
暴露後の保護皮膜形成の確認(1):
参考例1(本発明品1とする)及び参考例2(比較品1とする)で得られた塗料組成物を、厚さ6mm、大きさ65mm×200mmの耐候性綱材にスプレーにて一様に塗布し、耐候性表面に20μmの皮膜を形成した。これらの試料を 田園環境下で2年6月間暴露し、暴露後の試料及び暴露後の試料をシンナーにて皮膜を除去した試料について、下記の方法にてイオン透過抵抗値を測定して、酸化被膜(安定化さび層)の形成を確認した。
【0034】
( イオン透過抵抗値の測定 )
測定器「Rust Stability Tester(新日本製鐵社製)」を用い、0.1NのNaSOを含有するプローブを構成する2本の電極を試料の測定面に当てて、2本の電極間に約10kHzの高周波をかけて、酸化被膜を形成している鋼材の表面を間接電解して、イオン透過抵抗値を測定すした。
一般に、イオン透過抵抗値は1kΩ以上の測定値を示せばさび層は安定化の方向に向かっているといえ、さらに3kΩあれば十分に安定化さび層が形成されているといえる。また、安定化さび層が形成されるのに費やされる期間は、一般に、無塗装材(裸材)では約4〜7年ほどと長期であり、2〜3年程度の初期化段階で0.5kΩ前後またはそれ以上のイオン透過抵抗値を示すことができれば、安定化傾向に向かう初期化段階のさび層(酸化被膜)が形成されていることを示す。
【0035】
(結果)
【表1】
Figure 0003962220
【0036】
表1の結果のように、本発明品1の塗料組成物を塗布した試料を暴露試験後に塗布被膜をシンナーで除去した後のイオン透過抵抗値が0.832kΩの値を示し、塗布後短期間で初期段階の保護酸化被膜(さび層)が形成されていることが確認できた。一方、比較品1の塗料組成物を塗布した試料は、塗布皮膜をシンナーで除去すると、鋼材表面はショットブラストを施した状態と同じく、イオン透過抵抗値を測定することができなかった。よって、保護酸化被膜が形成がされていないことが確認できた。
【0037】
実 施 例 2
暴露後の保護皮膜形成の確認(2):
参考例1で得られた本発明品1の塗料組成物を、厚さ3.2mm、大きさ914mm×300mmの耐候性綱材にスプレーにて一様に塗布し、耐候性表面に10μm及び20μmの皮膜を形成した2種類の試料を作成した。これらの試料について田園環境下にて1年間暴露し、シンナーにて皮膜を除去して、実施例1と同様にイオン透過抵抗値を測定した。また、同サイズの耐候性綱にショットブラスト処理を施し、同様な環境下で暴露した試料(比較品2とする)についても、イオン透過抵抗値を測定した。結果を表2に示す。
【0038】
【表2】
Figure 0003962220
表2の結果のように、本発明品1の塗料組成物を塗布した試料は、シンナーにて皮膜を除去しても、0.5kΩ前後のイオン透過抵抗値を示し、ショットブラスト処理を施し暴露した試料と同レベルの保護酸化被膜が形成されていることが確認できた。
【0039】
実 施 例 3
1週間放置後の保護皮膜形成の確認(2):
本発明品1の塗料組成物を、厚さ6mm、大きさ50mm×150mmの耐候性綱材に、スプレーにて一様に塗布し、耐候性鋼材表面に10μm及び20μmの皮膜を形成した2種類の試料を作成した後、これらを田園環境下にて1週間放置した。得られた試料についてシンナーにて皮膜を除去して、実施例1と同様にイオン透過抵抗値を測定した。結果は0.123kΩと0.145kΩであり、1週間という短期間でも保護酸化被膜が形成されていることが確認できた。
【0040】
実 施 例 4
暴露後の外観確認:
参考例1(本発明品1)及び参考例3(比較品3)の塗料組成物を、厚さ6mm、大きさ50mm×150mmの耐候性綱材に、スプレーにて一様に塗布し、耐候性表面に20μmの皮膜を形成した。これらの試料について田園環境下にて2年6月間暴露し、塗布直後及び暴露後の試料の外観を比較した。外観写真を図1〜図4(図1、2は塗布直後、図3、4は暴露後)に示す。
【0041】
本発明品1の塗料組成物を塗布した試料は、塗布直後(図1)も暴露後(図3)も顔料の色がそのままであり、ポリアニリン粒子が導電性を有するときに生じる色(薄緑色)が外観に表れることはない。一方、比較品3の塗料組成物を塗布した試料は、塗布直後(図2)と暴露後(図4)を比較すると、暴露後にはポリアニリンが導電性を有する時に生じる色(薄緑色)が表面に表れてしまう。よって、顔料を含有させることによりポリアニリンの色が鋼材表面に表れるのを防止できる。
【0042】
【発明の効果】
本発明の塗料組成物によれは、耐候性鋼材、特にSMA材やSPA材上に、赤さびを発生させることなく「安定化さび層」を形成することができるものである。また、本発明の塗料組成物に配合する有色顔料成分を適宜選択することにより、任意の色調とすることができ、また、ポリアニリンの色が表面に表れるのを防ぐことができる。
【0043】
従って、本発明の塗料組成物は、従来問題とされていた赤さびを発生させることなくSMA材やSPA材等の耐食性鋼材に高耐食性を付与すると同時に、任意の色調、外観を付与することができるため、これら耐候性鋼材の使用範囲を大きく拡大することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】 参考例1で得られた塗料組成物を耐候性鋼材に塗布した直後の表面写真である。
【図2】 参考例3で得られた塗料組成物を耐候性鋼材に塗布した直後の表面写真である。
【図3】 参考例1で得られた塗料組成物を耐候性鋼材に塗布し2年6月暴露した直後の表面写真である。
【図4】 参考例3で得られた塗料組成物を耐候性鋼材に塗布し2年6月暴露した後の表面写真である。
以 上

Claims (10)

  1. 導電性ポリマー粒子、塗膜形成成分、有色顔料および溶剤成分を含有する耐候性鋼材用塗料組成物。
  2. 導電性ポリマーの配合量が塗料組成物全体に対して0.1〜45質量%である請求項第1項記載の耐候性鋼材用塗料組成物。
  3. 導電性ポリマーがポリアニリンである請求項第1項または第2項記載の耐候性鋼材用塗料組成物。
  4. 溶剤成分が有機溶剤である請求項第1項ないし第3項の何れかの項記載の耐候性鋼材用塗料組成物。
  5. 耐候性鋼材が溶接構造用耐候性熱間圧延鋼材または高耐候性鋼材である請求項第1項ないし第4項の何れかの項記載の塗料組成物。
  6. 耐候性鋼材に、導電性ポリマー粒子、塗膜形成成分、有色顔料および溶剤成分を含有する塗料組成物を塗布することを特徴とする耐候性鋼材の防食方法。
  7. 導電性ポリマー粒子の配合量が塗料組成物全体に対して0 . 1〜45質量%である請求項第6項記載の耐候性鋼材の防食方法。
  8. 導電性ポリマーがポリアニリンである請求項第6項または第7項記載の耐候性鋼材の防食方法。
  9. 溶剤成分が有機溶剤である請求項第6項ないし第8項のいずれかの項記載の耐候性鋼材の防食方法。
  10. 耐候性鋼材が溶接構造用耐候性熱間圧延鋼材または高耐候性鋼材である請求項第6項ないし第9項のいずれかの項記載の耐候性鋼材の防食方法。
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