JP3960341B2 - 熱加工制御型590MPa級H形鋼及びその製造方法 - Google Patents
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Pcm=C+(Si/30)+(Mn/20)+(Cu/20)+(Ni/60)+(Cr/20)+(Mo/15)+(V/10)+5B・・・・(1)。
△Hv=Hvmax−Hvmin・・・・(2)、
VR=VL/VC・・・・(3)。
なお、(1)式中の元素記号は、その元素の質量%での鋼中含有量を表す。また、(2)式におけるHvmax及びHvminは、それぞれ、フランジ幅1/4の部位における厚さ方向でのビッカース硬さの最大値及び最小値を表す。更に、(3)式におけるVL及びVCは、それぞれ、フランジ幅1/4の部位における圧延方向の音速及びフランジ幅方向の音速を表す。
C:0.041〜0.06%
Cは、母材及び溶接部の強度を高める作用を有する。しかし、その含有量が0.041%未満では添加効果に乏しいばかりか、溶接時に母材の希釈によって溶接金属の特性を確保することが難しくなる。一方、Cの含有量が多くなり、特に、Cの含有量が0.06%を超えると、母材及び溶接部の靱性が低下し、また、溶接割れが発生しやすくなる。したがって、Cの含有量を0.041〜0.06%とした。
Siは、母材及び溶接部の強度を確保する作用を有する。しかしながら、その含有量が0.03%未満では添加効果に乏しい。一方、Siの含有量が多くなり、特に、Siの含有量が0.6%を超えると、溶接割れの発生が多くなり、また、溶接部靱性の低下、なかでもHAZ靱性の低下をきたす。したがって、Siの含有量を0.03〜0.6%とした。
Mnは、母材及び溶接部の強度と靱性を確保する上で不可欠な元素である。しかしながら、Mnの含有量が0.3%未満では十分な添加効果が得られない。一方、Mnの含有量が多くなり、特に、Mnの含有量が1.6%を超えると、焼入れ性が高くなり過ぎて溶接性が低下し、また、溶接部靱性の低下、なかでもHAZ靱性の低下をきたす。したがって、Mnの含有量を0.3〜1.6%とした。
Pは、不純物として鋼中に不可避的に存在する元素で、粒界に偏析して靱性の低下をきたし、更に、溶接時に高温割れを生じさせる。特に、その含有量が0.03%を超えると、靱性の低下と溶接時の高温割れ発生が著しくなる。したがって、Pの含有量を0.03%以下とした。なお、Pは少ないほど好ましい不純物であるため、その下限は特に規定するものではない。
Sは、多すぎると中心偏析を助長し、また、延伸したMnSの多量生成の原因となるので、母材の機械的性質及び溶接部、なかでもHAZの機械的性質の劣化を招く。特に、その含有量が0.015%を超えると、母材及び溶接部の機械的性質の劣化が著しくなる。したがって、Sの含有量を0.015%以下とした。なお、Sは少ないほど好ましい不純物であるため、その下限は特に規定するものではない。
Cuは、強度及び耐食性を高める作用を有する。しかしながら、その含有量が0.1%未満では添加効果に乏しい。一方、Cuの含有量が0.5%を超えると熱間加工時の表面割れが起こりやすくなる。したがって、Cuの含有量を0.1〜0.5%とした。
Niは、母材の靱性を高める作用を有し、その含有量を0.1%以上とすれば、確実な母材の靱性向上効果が得られる。また、Niの含有量が0.1%以上の場合には、焼入れ性向上効果も得られる。しかし、その含有量が1.5%を超えると、鋼塊を鋳込む際に、なかでも、連続鋳造を行う際に、表面疵が発生しやすくなることがある。したがって、Niの含有量を0.1〜1.5%とした。なお、上述のとおり0.1〜0.5%のCuを含有させる本発明において、強度及び耐食性確保のために添加するCuの量が多く、特に含有量で0.2%以上になるような場合には、圧延時の表面割れを防止するために、Niの含有量を上記Cuの含有量の1/2以上とすることが望ましい。
Crは、焼入れ性を高める作用を有する。この効果を確実に得るためには、Crの含有量を0.11%以上とする必要がある。しかしながら、その含有量が1.0%を超えると、溶接部靱性、なかでもHAZ靱性の低下が生じる。したがって、Crの含有量を0.11〜1.0%とした。
Moの添加は任意である。添加すれば、強度を高める作用を有する。しかしながら、Moの含有量が多くなり、特に、Moの含有量が0.29%を超えると、溶接性の低下を招いたり音響異方性が大きくなったりすることがある。したがって、Moの含有量を0〜0.29%とした。
Vは、強度を高める作用を有する。しかしながら、その含有量が0.005%未満では十分な強化作用が得られない。一方、Vの含有量が多くなり、特に、Vの含有量が0.10%を超えると、靱性及び溶接性の低下をきたす場合がある。したがって、Vの含有量を0.005〜0.10%とした。
Nbは、強度及び靱性を向上させる作用を有する。しかしながら、その含有量が0.005%未満では前記の効果が得られない。一方、Nbの含有量が0.039%を超えると、母材における強度と靱性の向上効果が飽和するばかりか、溶接部靱性、なかでもHAZ靱性の著しい低下を招く。更に、音響異方性も極めて大きくなる。したがって、Nbの含有量を0.005〜0.039%とした。
Tiは、鋼塊、なかでも鋳片の表面性状を改善する作用を有する。Tiには、溶接部靱性、なかでもHAZ靱性を高める作用もある。これらの効果を得るためには、その含有量を0.005%以上とする必要がある。しかしながら、Tiの含有量が0.03%を超えると、母材の靱性低下が生じるし、溶接部靱性、なかでもHAZ靱性が却って低下する場合もある。更に、音響異方性が大きくなることもある。したがって、Tiの含有量を0.005〜0.03%とした。
Bの添加は任意である。添加すれば、焼入れ性を向上させて強度を高める作用を有する。しかしながら、その含有量が0.0005%を超えると、母材の靱性低下が生じたり、溶接部靱性、なかでもHAZ靱性が低下したりすることがある。更に、音響異方性が大きくなることもある。したがって、Bの含有量を0〜0.0005%とした。
Alは、製鋼時の脱酸に有効な元素である。Alには結晶粒の微細化作用もある。前記の効果はAlの含有量が0.003%以上で得られる。しかしながら、Alの含有量が多くなり、特に、Alの含有量が0.049%を超えると、介在物の生成量が多くなって靱性の低下をきたす。したがって、Alの含有量を0.003〜0.049%とした。
Nは、多量に存在すると溶接部靱性、なかでもHAZ靱性の低下を招く。特に、その含有量が0.008%を超えると、溶接部靱性の劣化ばかりか母材靱性の劣化も避けられない。したがって、Nの含有量を0.008%以下とした。なお、Nは少ないほど好ましい不純物であるため、その下限は特に規定するものではない。
O(酸素)は、鋼中に不可避的に含まれる不純物である。Oの含有量が多くなり、特に、Oの含有量が0.004%を超えると、母材及び溶接部の靱性や延性の低下を招く。したがって、Oの含有量を0.004%以下とした。なお、Oは少ないほど好ましい不純物であるため、その下限は特に規定するものではない。
Hは、鋼中に不可避的に含まれる不純物であり、水素脆化や溶接欠陥の原因となる。Hの含有量が多くなり、特に、Hの含有量が0.0001%を超えると、水素脆化や溶接欠陥が発生しやすくなる。したがって、Hの含有量を0.0001%以下とした。Hは少ないほど好ましい不純物であるため、その下限は特に規定するものではない。
前記(1)式で表されるPcmの値が0.15以上の場合、母材に所望の引張強度特性、つまり、440〜540MPaの降伏点、590〜740MPaの引張強さ及び80%以下の降伏比という引張強度特性を安定して具備させることができる。
圧延によって伸延したA系介在物を少なくすることで、安定した母材の衝撃特性及び溶接部の衝撃特性を確保することができる。また、A系介在物を少なくすることは溶接金属から拡散してくる水素のトラップサイトの減少につながるため、伸延したA系介在物の応力集中作用による溶接欠陥の発生抑止にも有効である。特に、A系介在物の量がその清浄度で0.04%以下の場合に、安定した母材の衝撃特性及び溶接部の衝撃特性を確保することができ、また、溶接欠陥の発生を安定して抑止することが可能である。
主たる組織をベイナイト組織とすることによって、音響異方性を劣化させることなく、本発明(1)に係るTMCP型590MPa級H形鋼に所望の機械的性質を具備させることができる。特に、組織に占めるベイナイトの割合を70%以上とすることによって、音響異方性が小さく、しかも、所望の機械的性質、つまり、440〜540MPaの降伏点、590〜740MPaの引張強さ、80%以下の降伏比という母材における引張強度特性と、Vノッチ試験片を用いた0℃でのシャルピー吸収エネルギーが47J以上という母材及び溶接部における衝撃特性とを安定して備えるTMCP型590MPa級H形鋼を得ることができる。なお、組織に占めるベイナイトの割合が100%、換言すれば、ベイナイトの単相組織であってもよい。
前記(2)式で表される△Hvの値が50以下の場合、機械的性質の変化が小さいTMCP型590MPa級H形鋼を得ることができる。
3136(2005)に規定された「建築構造用圧延鋼材」におけるH形鋼の試験片採取位置に準拠したものである。
本発明に係るH形鋼では、部位の違いによる音響異方性ばらつきも小さいので、代表位置として、フランジ幅1/4の部位における音響異方性を調査すれば良い。
前述の(A)項で述べた化学組成を有する鋼を、0.5〜1m/min(但し、1m/minを除く)の鋳込み速度で鋳込むことによって、表面及び内部の性状の良好な鋼塊が得られ、また、適正なNb及びTiの炭窒化物の分散状態が得られる。そして、上記鋳込み速度で鋳込んだ鋼塊或いは前記鋼塊から作製した鋼片を素材とし、それにTMCP技術を適用することによって、本発明に係るTMCP型590MPa級H形鋼に所望の機械的性質を安定して具備させることができる。すなわち、440〜540MPaの降伏点、590〜740MPaの引張強さ、80%以下の降伏比という母材における引張強度特性と、Vノッチ試験片を用いた0℃でのシャルピー吸収エネルギーが47J以上という母材及びHAZにおける衝撃特性とを安定して備えるTMCP型590MPa級H形鋼を得ることができる。
前記(F)項で述べた鋳込み速度で鋳込んだ鋼塊或いは前記鋼塊から作製した鋼片は、熱間圧延に際して、1000〜1350℃の温度域に加熱するのがよい。上記の加熱温度条件とすることで、Nb、Vなどが基地に固溶するので最終製品の強度増大が図れ、また、結晶粒の粗大化が防止されるので良好な靱性が確保される。
Claims (2)
- 質量%で、C:0.041〜0.06%、Si:0.03〜0.6%、Mn:0.3〜1.6%、P:0.03%以下、S:0.015%以下、Cu:0.1〜0.5%、Ni:0.1〜1.5%、Cr:0.11〜1.0%、Mo:0〜0.29%、V:0.005〜0.10%、Nb:0.005〜0.039%、Ti:0.005〜0.03%、B:0〜0.0005%、Al:0.003〜0.049%、N:0.008%以下、O:0.004%以下、H:0.0001%以下を含有し、残部はFe及び不純物からなり、下記(1)式で表されるPcmの値が0.15〜0.21である化学組成を有し、A系介在物の清浄度が0.04%以下、長辺の長さが10〜400nmの寸法のNb及びTiの炭窒化物の分布密度が105〜107個/mm2、かつ組織に占めるベイナイトの割合が70〜100%で、しかも、下記(2)式で表される△Hvの値が50以下、下記(3)式で表されるVRの値が0.98〜1.02であることを特徴とする熱加工制御型590MPa級H形鋼。
Pcm=C+(Si/30)+(Mn/20)+(Cu/20)+(Ni/60)+(Cr/20)+(Mo/15)+(V/10)+5B・・・・(1)
△Hv=Hvmax−Hvmin・・・・(2)
VR=VL/VC・・・・(3)
なお、(1)式中の元素記号は、その元素の質量%での鋼中含有量を表す。また、(2)式におけるHvmax及びHvminは、それぞれ、フランジ幅1/4の部位における厚さ方向でのビッカース硬さの最大値及び最小値を表す。更に、(3)式におけるVL及びVCは、それぞれ、フランジ幅1/4の部位における圧延方向の音速及びフランジ幅方向の音速を表す。 - 0.5〜1m/min(但し、1m/minを除く)の鋳込み速度で鋳込んだ鋼塊或いは前記鋼塊から作製した鋼片を1000〜1350℃の温度域の温度に加熱した後、フランジ幅1/4の部位における950℃以下の温度域における真歪での累積圧下率が0.3以上、熱間圧延終了温度が850〜700℃の温度域の温度となるように熱間圧延した後、冷却開始温度が850〜700℃、冷却停止温度が650〜200℃、冷却速度が0.5〜15℃/sとなるように冷却することを特徴とする請求項1に記載の熱加工制御型590MPa級H形鋼の製造方法。
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