JP3959992B2 - 電動パワーステアリング装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、操舵力補助のための永久磁石回転型ブラシレスモータを備えた電動パワーステアリング装置に関し、特に、安価な構成で且つ慣性補償制御を操舵系に適用することにより、キックバック感あるいは慣性感を操舵者に伝えることなく快適な操舵フィーリングを実現できるようにした電動パワーステアリング装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
自動車や車両の操舵系にモータによる操舵補助力を付与するようにした電動パワーステアリング装置(EPS)において、アシストモータとして、ブラシ付きモータとブラスレスモータの両方が使われている。
【0003】
電動パワーステアリング装置のアシストモータとしてのブラシ付きモータは、フェライトマグネット材で作られている。しかし、フェライトマグネット材は低価格ではあるが、大きなトルクを得るために、ブラシ付きモータのロータを大きくしなければならず、結果としてモータのハンドル軸換算イナーシャが10×10−2kg・m2以上になってしまうので、慣性感により操舵フィーリングが悪くなるという問題点があった。
【0004】
このような問題に対し、慣性補償制御を操舵系に適用することで、操舵フィーリングのある程度の改善は可能であるが、モータのハンドル軸換算イナーシャが10×10−2kg・m2以上になると、慣性補償制御が効かなくなり、制御の効果がかなり弱くなる。
【0005】
一方、近年、電動パワーステアリング装置用アシストモータとして、Nd−Fe−B希土類磁石を用いた永久磁石回転型ブラシレスモータが使用されるようになってきた。これは、もともと高価であるNd−Fe−B希土類磁石の低価格化が大きな要因と思われる。
【0006】
しかし、Nd−Fe−B希土類磁石は、フェライト磁石に比較すると、その磁力が非常に強いため(Nd−Fe−B希土類磁石の最大エネルギー積の値はフェライト磁石の約7倍程度である)、Nd−Fe−B希土類磁石を用いたブラシレスモータをEPS用モータとして設計する場合に、得られるモータイナーシャは、フェライト磁石を用いたブラシレスモータの得られるモータイナーシャに比べ、かなり小さい(つまり、Nd−Fe−B希土類磁石を用いたブラシレスモータのハンドル軸換算イナーシャは、4×10−2kg・m2以下になる)。従って、路面からのキックバック反力がハンドルに敏感に伝わり、操舵者に不快感を与えてしまい、操舵フィーリングが悪いという問題点があった。
【0007】
また、電動パワーステアリング装置用モータは、自動車のエンジンの近くに設置されることが多く、例えば、図1に示すようなピニオンアシストタイプあるいは図2に示すようなデュアルピニオンアシストタイプの電動パワーステアリング装置の場合、そもそも自動車のエンジンルームが高温であるため、さらにモータM自身の発熱を加味すると、モータMの内部温度は230℃までに達してしまう。
【0008】
一方、フェライト磁石とNd−Fe−B希土類磁石について、磁石の特性である残留磁束密度及び固有保磁力の温度変化率は、下記表1のようになる。
【0009】
【表1】
なお、Nd−Fe−B希土類磁石は、20℃時の固有保磁力が1990kA/mである。上記表1に示されるように、Nd−Fe−B希土類磁石の固有保磁力の温度変化率は−0.5%/℃であるため、温度が230℃になると、下記(1)式が成立する。
【0010】
{1−0.5/100×(230℃−20℃)}×1990=−99.5…(1)
従って、Nd−Fe−B希土類磁石は、230℃時の固有保磁力が0kA/mとなる(計算値は−99.5kA/mである)。つまり、Nd−Fe−B希土類磁石は、その材料特性上で高温に対し性能変化が大きいので、Nd−Fe−B希土類磁石を用いたブラシレスモータは高温環境での使用が難しい。よって、Nd−Fe−B希土類磁石を用いたブラシレスモータは、230℃の高温環境下で、モータとしての性能が得られない問題点がある。
【0011】
従って、上記のように高温特性に難点のあるNd−Fe−B希土類磁石を用いたブラシレスモータについては、エンジンルーム内の高温環境下での使用には問題点があった。Nd−Fe−B希土類磁石を用いたブラシレスモータを使用する場合には、温度センシング等を行うか、あるいは、モータ内部温度が上がらないように電流を調整して使用するようにしていた。よって、電動パワーステアリング装置のコストが高くなる問題点があった。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
上述したように、Nd−Fe−B希土類マグネット材は温度特性がシビアであるため、Nd−Fe−B希土類磁石を用いたブラシレスモータは、エンジンルーム内の高温環境で使用し難いという問題があった。
【0013】
また、図3に示すようなコラムアシストタイプの電動パワーステアリング装置ならば、そのアシストモータMが自動車のエンジンルームの近くではなくハンドル軸に取りつけられているので、モータMの内部温度は230℃までに達していないため、Nd−Fe−B希土類磁石を用いたブラシレスモータでも使用できるが、やはり、Nd−Fe−B希土類磁石はフェライト磁石に比べて高価であるため、コストのメリットがないという問題もある。
【0014】
要は、電動パワーステアリング装置のアシストモータとしてのブラシレスモータについては、Nd−Fe−B希土類磁石を用いたブラシレスモータしか使用されていなくて、フェライト磁石を用いたEPS用ブラシレスモータがまだ実現されていない。その理由としては、車種にもよるが自動車にとって必要である特定のモータトルクを得るためには、ある程度のロータサイズが必要となるので、そのロータをフェライト磁石で構成すると、モータイナーシャが大きくなり過ぎることにより、慣性感が強くなってしまうという問題が発生するためである。
【0015】
従って、モータイナーシャを小さくするために、EPS用ブラシレスモータには、Nd−Fe−B希土類磁石で構成されるロータを用いている。しかし、Nd−Fe−B希土類磁石を用いたブラシレスモータの得られるモータイナーシャが小さ過ぎるために、路面からのキックバック反力をハンドルに敏感に伝えすぎて操舵フィーリングが悪くなるという問題がある。
【0016】
本発明は上述のような事情よりなされたものであり、本発明の目的は、操舵力補助のための永久磁石回転型ブラシレスモータを備えた電動パワーステアリング装置において、安価で高温環境に強いブラシレスモータを備えると共に、キックバック感あるいは慣性感を操舵者に伝えることなく快適な操舵フィーリングが得られるようにした電動パワーステアリング装置を提供することにある。
【0017】
【課題を解決するための手段】
本発明は、操舵力補助のための永久磁石回転型ブラシレスモータを備えた電動パワーステアリング装置に関し、本発明の上記目的は、永久磁石回転型ブラシレスモータを備え、該ブラシレスモータのトルクを減速機構部を介してステアリング軸部にアシストトルクとして伝達する電動パワーステアリング装置において、前記ブラシレスモータの直径が70〜90mm、長さが110〜140mmの範囲であり、前記減速機構部の減速ギア比を12〜27の範囲とすることにより、前記減速ギヤ比及び前記ブラシレスモータのロータイナーシャで決定される前記ブラシレスモータのハンドル軸換算イナーシャが、快適な操舵フィーリングが得られる所定範囲に入り、キックバックの外乱を有効に遮蔽でき、良好な操舵フィーリングが得られるように、キックバック入力から操舵トルクまでの周波数伝達特性に基づき、前記所定範囲の下限値が4×10−2kg・m2 であり、前記キックバック入力から操舵トルクまでの周波数伝達特性のカットオフ周波数が20Hz以下であり、慣性感を感じない良好な操舵フィーリングが得られるように、慣性補償制御を実施し、操舵トルク出力から舵角までの周波数伝達特性に基づき、前記所定範囲の上限値が10×10−2kg・m2 であり、前記操舵トルク出力から舵角までの周波数伝達特性のコーナ周波数が5Hz以上であることによって達成される。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下、図面に基づいて本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0020】
本実施形態においては、本発明に係る電動パワーステアリング装置において、慣性補償制御を操舵系に適用すると共に、フェライト磁石を用いた永久磁石回転型ブラシレスモータを備え、該フェライト磁石ラシレスモータのトルクを減速機構部を介してステアリング軸部にアシストトルクとして伝達するようになっている。なお、該電動パワーステアリング装置のアシストモータ出力の範囲が300〜600ワットであることを前提とする。
【0021】
一般に、電動パワーステアリング装置での操舵フィーリング改善のためには、慣性補償制御を効果的に使用する一方、キックバックによるハンドルへの反力を軽減することが求められる、両者の性能に影響を及ぼすのがハンドル軸換算イナーシャである。
【0022】
要は、ハンドル軸換算イナーシャが大き過ぎると、慣性感により操舵フィーリングが悪くなる。慣性補償制御を働かせることで改善可能であるが、ハンドル軸換算イナーシャが10×10−2kg・m2以上になると、制御の効果が弱い。一方、ハンドル軸換算イナーシャが小さ過ぎると、キックバック反力をハンドルに敏感に伝えすぎて、やはり操舵フィーリングが悪い。
【0023】
上記のことにより、適切なハンドル軸換算イナーシャを選定する必要があり、一方では慣性補償制御で調整し、他方ではブラシレスモータの材質選定と仕様設計によりハンドル軸換算イナーシャを所定範囲に入るようにすることが本発明の最大の特徴である。
【0024】
本実施形態では、ハンドル軸換算イナーシャとは、操舵軸系のうち減速機構部のイナーシャとモータ部のイナーシャをもとに定義する(軸その他の部材のイナーシャは影響が小さく、ほぼ同一とみなす)。
【0025】
ここで、図1に示すようなピニオンアシストタイプ、図2に示すようなデュアルピニオンアシストタイプ及び図3に示すようなコラムアシストタイプの電動パワーステアリング装置を説明する。モータMと、コラム軸あるいはラック軸とのトルク伝達は、図示されていないウォーム及びウォームホイールを介して行なわれる。
【0026】
このときのウォームとウォームホイールのギヤ比をGR、モータトルクをτM、アシストトルク(ハンドル軸トルク)ΤH、モータイナーシャをIM、モータMのハンドル軸換算イナーシャをIHとすると、下記の(2)式及び(3)式が成立する。なお、ギヤ比GRの範囲は12〜27である。
【0027】
ΤH=GR×τM …(2)
IH=GR2×IM …(3)
下記表2は、アシストトルクΤHが75Nmで、フェライト磁石を使用した場合のギヤ比GR(最小、中、最大)、モータのロータイナーシャIM、ハンドル軸換算イナーシャIHの値を示す表である。
【0028】
【表2】
下記表3は、アシストトルクΤHが40Nmで、フェライト磁石を使用した場合のギヤ比GR(最小、中、最大)、モータのロータイナーシャIM、ハンドル軸換算イナーシャIHの値を示す表である。
【0029】
【表3】
要は、上記表2及び表3から、下記のようなことが分かる。
【0030】
▲1▼及び▲5▼の場合は、キックバックがなく良好な操舵フィーリングが得られる。
【0031】
▲2▼及び▲6▼の場合は、キックバックにより外乱を遮蔽することができない。
【0032】
▲3▼及び▲7▼の場合は、慣性感無しであるため、良好な操舵フィーリングが得られる。
【0033】
▲4▼及び▲8▼の場合は、慣性感有り、操舵フィーリングが悪い。
【0034】
なお、上記の実施形態では、永久磁石回転型ブラシレスモータにフェライト磁石を使用したが、Nd−Fe−B希土類磁石を使用しても同じような結果が得られる。しかし、下記のような欠点がNd−Fe−B希土類磁石には存在する。
【0035】
つまり、ここで、Nd−Fe−B希土類磁石を使用してモータを設計する場合、フェライトに比べその大きさは1/3程度になる。
【0036】
一般に使用されているフェライト磁石及びNd−Fe−B希土類磁石の磁気特性を図4に示す。図4より、モータ設計上の磁気回路の磁気抵抗(1/Pc)を同一とした場合、Pc=3とする。Nd−Fe−B磁石の磁束密度は0.9Tで、一方、フェライト磁石の磁束密度は0.3Tで、両者を比較すると、3倍の違いがある。
【0037】
ここで、相数をm、極数をp、巻線係数をkw、1相の直列巻数をw、1極の有効磁束をΦg、ギャップ磁束密度をB、ギャップ断面積をSとすると、m相機モータのトルクτは、下記(4)式に表すように、1極の有効磁束Φgに比例するようになる。
【0038】
τ=(m/2)√2・pkwwΦg … (4)
すなわち、下記(5)式に基づき、ギャップ断面積Sが同じである場合に、m相機モータのトルクτは、ギャップ磁束密度Bだけに比例するようになる。
【0039】
Φg=BS … (5)
従って、フェライト磁石とNd−Fe−B希土類磁石を使用して、適度で同様なトルク出力を得る永久磁石回転型ブラシレスモータを設計する場合において、フェライト磁石を用いたモータに比べ、Nd−Fe−B希土類磁石を用いたモータのほうは、得られるモータのロータイナーシャが小さ過ぎる。その結果として、Nd−Fe−B希土類磁石を用いたモータのハンドル軸換算イナーシャは4×10−2kg・m2以下にならざるを得ない。
【0040】
また、ギヤ比GRは、かみ合いやギヤの大きさ等の関係から、12〜27の範囲でしかとり得ない。例えば、定格電圧は12Vで、定格トルクは2.5Nmで、定格回転数は1800min−1で、電流は80Aであるような設計仕様を有する電動パワーステアリング装置において、Nd−Fe−B希土類磁石を使用したモータ及びフェライト磁石を使用したモータのそれぞれのモータイナーシャは、下記の通りである。
【0041】
フェライト磁石を使用したブラシレスモータは、モータイナーシャが1.3×10−4kg・m2である。更に、ギヤ比GRが27である場合には、モータのハンドル軸換算イナーシャIHは9.5×10−2kg・m2になる。
【0042】
一方、Nd−Fe−B磁石を使用したブラシレスモータは、モータイナーシャが5.3×10−5kg・m2である。更に、ギヤ比GRが27である場合には、モータのハンドル軸換算イナーシャIHは3.9×10−2kg・m2になる。
【0043】
その結果、従来においては、Nd−Fe−B磁石を用いたブラシレスモータを設計する場合に、図5に示すように、モータのロータを長くするか、あるいは、図6に示すように、モータにフライホイールを取り付けるように工夫することによって、モータのハンドル軸換算イナーシャを4×10−2kg・m2以上にするようにしていた。
【0044】
しかし、本発明に係るフェライト磁石を用いたブラシレスモータの場合は、上述のようにフライホイール等を取り付けることなく、モータのハンドル軸換算イナーシャが、4×10−2kg・m2以上になるので、快適な操舵フィーリングを得ることができる。
【0045】
フェライト磁石を用いたブラシレスモータを設計する場合に、ギヤ比GRを12〜27に、モータイナーシャIMを6.9×10−5〜6.9×10−1kg・m2に選択することにより、モータのハンドル軸換算イナーシャIHが4×10−2〜10×10−2kg・m2という範囲に入ることを達成でき、快適な操舵フィーリングを提供することができる。
【0046】
図7及び図8は、このモータのハンドル軸換算イナーシャの所定範囲を説明するための図である。要は、本発明に係る電動パワーステアリング装置において、ブラスレスモータのハンドル軸換算イナーシャの所定範囲は、下限値が4×10−2kg・m2で、上限値が10×10−2kg・m2である。
【0047】
前述したように、ハンドル軸換算イナーシャは、モータのロータイナーシャにギヤ比の2乗を掛けた値である。従って、ある大きさのハンドル軸換算イナーシャにおいて、キックバック入力はそのイナーシャの影響によりハンドル軸では減衰する。図7は、キックバック入力から操舵トルクまでの周波数伝達特性G1(s)を表したものである。
【0048】
図7より、ハンドル軸換算イナーシャが大きくなるほど周波数伝達特性G1(s)のカットオフ周波数は低くなることが判る。ハンドル軸でのハンドル軸換算イナーシャによるフィルタ効果を実現させる(キックバック入力を有効に減衰させる)ためには、周波数伝達特性G1(s)のカットオフ周波数をキックバック入力下限周波数より低くする必要がある。具体的には、キックバックの下限周波数は約20Hzであるため、周波数伝達特性G1(s)のカットオフ周波数は、20Hz以下にしなければならない。従って、それに相応するモータのハンドル軸換算イナーシャは、4×10−2kg・m2以上でなければならない。
【0049】
更に図7を詳しく説明する。ここで、キックバック入力周波数を下限値である20Hz、ハンドル軸換算イナーシャ大のイナーシャを4×10−2kg・m2、ハンドル軸換算イナーシャ小のイナーシャを2×10−2kg・m2、平坦部を20log(|G1(s)|)=A(dB)とする。
【0050】
よって、ハンドル軸換算イナーシャ大によるカットオフ周波数は20Hz、ハンドル軸換算イナーシャ小によるカットオフ周波数は40Hzになる。ハンドル軸換算イナーシャ大による20Hzでの減衰は、−3(dB)であるが、ハンドル軸換算イナーシャ小の20Hzでの減衰は、0(dB)であることが判る。
【0051】
要は、G1(s)により慣性が、4×10−2kg・m2以上の場合、カットオフ周波数は20Hz以下になる。キックバックの周波数は約20Hz以上なので、G1(s)によりキックバックの外乱を有効に遮蔽することができる。
【0052】
つまり、所定範囲の下限値4×10−2kg・m2は、下記(6)式に表されるG1(s)に基づき、定義される。
【0053】
G1(s)=Th/Td … (6)
ここで、上記(6)式において、Thは操舵トルクで、Tdはキックバックトルク(つまり、キックバック入力)である。キックバックトルクに対して操舵トルクの振幅が小さいことにより、キックバックの外乱を有効に遮蔽している。慣性が小さい場合は操舵トルクの振幅が大となるので操舵者がキックバックを感じる。
【0054】
図8は、操舵トルク出力から舵角までの周波数伝達特性G2(s)を表したものである。図8の2つの曲線は、慣性補償制御有りと慣性補償制御無しの場合の周波数伝達特性G2(s)を示す。操舵トルク出力から舵角までの周波数伝達特性G2(s)はハイパスフィルタような特性になる。
【0055】
慣性補償制御有りの場合、G2(s)特性のコーナ周波数は、慣性補償制御無しの場合より高くなる。G2(s)特性のコーナ周波数とは、図8の平坦部とコーナ部を加えた周波数である。コーナ周波数以下の周波数領域では、舵角周波数が大きくなっても操舵者は、操舵トルクを増す必要が無い。つまり、操舵者は慣性感を感じないことを意味している。
【0056】
要は、20log(|G2(s)|)=B(dB)とした場合、+3(dB)までは、慣性感を感じない。逆に、コーナ周波数を超えた場合、操舵者は操舵トルクを増す必要があるので慣性感を感じてしまう。通常、G2(s)のコーナ周波数は5Hz以上であれば、操舵者は操舵時に慣性感を感じない。慣性補償制御後のコーナ周波数を5Hz以上にするには、ハンドル軸換算イナーシャを10×10−2kg・m2以下にする必要がある。
【0057】
要は、G2(s)により慣性が、10×10−2kg・m2以下の場合、5Hzまでは周波数特性がフラットで、それ以上の周波数領域ではゲインが上昇する。なお、ゲイン上昇とは、同じ舵角を操舵するためにより大きな操舵トルクが必要になるということである。つまり、ゲイン上昇の場合には、慣性感を感じてしまう。
【0058】
つまり、所定範囲の上限値10×10−2kg・m2は、下記(7)式に表されるG2(s)に基づき、定義される。
【0059】
G2(s)=Th/θh … (7)
ここで、上記(7)式において、Thは操舵トルク出力で、θhは舵角である。つまり、慣性補償制御が効いている時に、舵角入力に対して同程度の操舵トルクで十分であるが、慣性補償制御が効いていないと、舵角入力に対して大きな操舵トルクが必要になる。
【0060】
電動パワーステアリング装置のアシストトルクは、自動車の前軸荷重により、適切な値が決まる。軽自動車の場合はアシストトルクの値が小さく、自動車の車種が大型になればなるほど、アシストトルクの値は大きくなる。本実施形態では、アシストトルクΤHの値が40Nm〜75Nmの範囲に入る電動パワーステアリングに限定する。
【0061】
アシストトルクΤHは、ギヤ比GRとモータトルクτMとの積算により求められる。ギヤ比GRはかみ合い、ギヤの大きさの関係で12〜27の間でしかとり得ない。
【0062】
モータトルクτMはトルク定数τ×電流Iで表される。ブラシレスモータのトルク定数τは、上記(4)式に表すように、(m/2)・√2・p・kw・w・Φgで表される。
【0063】
同一形状の場合、極数と有効磁束は反比例する。電流Iは、モータに流し得る電流であるが、電動パワーステアリング装置の場合、電子コントロールユニットをもってモータを制御する。この場合、上記の発生トルクが、電流に比例することを利用し、電流をコントロールすることにより、アシスト力を決定している。電子コントロールユニットのパワー部には、FETあるいはトランジスタが使用される。最大電流は、素子特性により決められる。
【0064】
本実施形態では、定格電流を60A〜90Aとし、定格バッテリー電圧は12Vの電動パワーステアリング装置に限定する。また、ブラシレスモータの大きさは、空間的な制約により直径70mm〜90mmで、長さ110mm〜140mmでのモータに限定する。
【0065】
要は、
(1)アシストトルク:40Nm〜75Nm
(2)定格バッテリー電圧:12V
(3)モータ電流:60A〜90A
(4)ギヤ比:12〜27
(5)永久磁石回転型ブラシレスモータ
(6)モータサイズ:直径Φ70mm〜Φ90mmで、長さ110mm〜140mm
上記(1)〜(6)の条件がすべて揃った電動パワーステアリング装置において、図7に示すような周波数伝達G 1 (S)より、ハンドル軸換算イナーシャを4×10−2kg・m2以上にすることにより、快適な操舵フィーリングを提供することができる。
【0066】
なお、上述では、本発明をコラムアシストタイプ、ピニオンアシストタイプ又はデュアルピニオンアシストタイプの電動パワーステアリング装置に適用した場合について説明したが、本発明はそれに限定するものではなく、他の同軸モータラックアシストタイプやオフセットアシストタイプの電動パワーステアリング装置についても本発明を同様に適用することができる。また、上述の実施形態では、ハンドル軸換算イナーシャを支配するファクターとしては、モータイナーシャとギヤ比を挙げていたが、電動パワーステアリング装置の種類によって、ハンドル軸換算イナーシャを支配するファクターは例えばボールねじナットをとしても良い。
【0067】
【発明の効果】
以上のように、本発明に係る電動パワーステアリング装置によれば、安価で且つ高温環境に強いフェライト磁石ブラシレスモータを提供すると共に、良好な操舵フィーリングを実現することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】ピニオンアシストタイプの電動パワーステアリング装置の略図である。
【図2】デュアルピニオンアシストタイプの電動パワーステアリング装置の略図である。
【図3】コラムアシストタイプの電動パワーステアリング装置の略図である。
【図4】フェライト磁石及びNd−Fe−B希土類磁石の磁気特性を示す図である。
【図5】モータのロータを長くするのを説明するための模式図である。
【図6】モータにフライホイールを取り付けるのを説明するための模式図である。
【図7】キックバックの影響による下限値の定義を説明するための図である。
【図8】慣性補償制御による慣性感を無くすための上限値の定義を説明するための図である。
【符号の説明】
G1(s) ハンドル軸換算イナーシャの範囲下限値に係る周波数伝達特性
G2(s) ハンドル軸換算イナーシャの範囲上限値に係る周波数伝達特性
GR ギヤ比
IM モータイナーシャ
IH モータのハンドル軸換算イナーシャ
M モータ
τM モータトルク
ΤH アシストトルク(ハンドル軸トルク)
τ m相機モータのトルク(モータのトルク定数)
Claims (1)
- 永久磁石回転型ブラシレスモータを備え、該ブラシレスモータのトルクを減速機構部を介してステアリング軸部にアシストトルクとして伝達する電動パワーステアリング装置において、
前記ブラシレスモータの直径が70〜90mm、長さが110〜140mmの範囲であり、前記減速機構部の減速ギア比を12〜27の範囲とすることにより、前記減速ギヤ比及び前記ブラシレスモータのロータイナーシャで決定される前記ブラシレスモータのハンドル軸換算イナーシャが、快適な操舵フィーリングが得られる所定範囲に入り、
キックバックの外乱を有効に遮蔽でき、良好な操舵フィーリングが得られるように、キックバック入力から操舵トルクまでの周波数伝達特性に基づき、前記所定範囲の下限値が4×10−2kg・m2 であり、前記キックバック入力から操舵トルクまでの周波数伝達特性のカットオフ周波数が20Hz以下であり、
慣性感を感じない良好な操舵フィーリングが得られるように、慣性補償制御を実施し、操舵トルク出力から舵角までの周波数伝達特性に基づき、前記所定範囲の上限値が10×10−2kg・m2 であり、前記操舵トルク出力から舵角までの周波数伝達特性のコーナ周波数が5Hz以上であることを特徴とする電動パワーステアリング装置。
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