JP3957660B2 - 活性酸素種包接物質の合成方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、活性酸素種包接物質の合成方法、特に、比表面積が高く、多量に活性酸素種を包接する物質の合成方法に関する。
なお、本発明における部や%は特に規定しない限り質量基準で示す。
【0002】
【従来の技術とその課題】
12CaO・7Al2O3と表されるカルシウムアルミネート系化合物の一種は、その結晶格子中に空隙(ケージ)を有している。
一方、活性酸素種として、O2 -イオンラジカルやO-イオンラジカルが知られている。
一般に、O2 -イオンラジカルは、固体構造中では常にカチオンで配位されており、フリーな状態になることはほとんどない。しかしながら、12CaO・7Al2O3結晶中では、O2 -イオンラジカルは、ケージ内に存在し、カチオンと結合できず、フリーな状態になっている。このような状態を「包接」といい、この状態は、固体表面に吸着した状態と類似しており、化学的に非常に活性な状態である。
【0003】
そして、12CaO・7Al2O3と表されるカルシウムアルミネート系化合物の一種には1×1019cm-3程度のO2 -が包接されていることを電子スピン共鳴の測定から見いだし、フリー酸素の一部がO2 -の形でケージ内に存在することが発表されている(非特許文献1参照)。
【0004】
近年、活性酸素種を多量に包接する化合物が見出され、酸化触媒、イオン伝導体、及び固体電解質燃料電池用電極等への利用が期待されている(特許文献1、非特許文献2参照)。
【0005】
この方法は、12CaO・7Al2O3と表されるカルシウムアルミネート系化合物の一種を、酸素分圧104Pa以上、水蒸気分圧102Pa以下の条件下で、1,200〜1,415℃で加熱処理することにより得られるもので、活性酸素種を1020cm-3以上の高濃度に包接するものであった。
しかしながら、従来の方法で得られる活性酸素種を包接する化合物は、その比表面積が小さく、例えば、触媒用途へ用いる場合においては、充分なものではなかった。
【0006】
この方法は、CaO原料とAl2O3原料を所定の割合で混合して熱処理することにより、12CaO・7Al2O3を生成せしめるものであるが、この場合、得られる12CaO・7Al2O3は焼成反応により結晶成長を起す。このため、このような方法で得た12CaO・7Al2O3を機械的に粉砕しても、触媒用途などに利用できるほどの高い比表面積を持つものを得ることは不可能で、このような方法で得られる12CaO・7Al2O3の比表面積は、BET比表面積で表して、せいぜい2m2/g程度のものであった。
【0007】
例えば、触媒用途などに用いることを想定すれば、少なくともその比表面積は5m2/g以上が必要であり、好ましくは10m2/g以上、最も好ましくは20m2/gが望まれる。
また、従来の活性酸素種包接化合物の活性酸素包接量は、多くても5×1021cm-3程度であった。
さらに、従来法は、焼成温度1,200℃以上を必要するものであり、エネルギー原単位や炭素排出量原単位の観点からは必ずしも環境負荷の小さい合成方法ではなかった。
【0008】
今日では、触媒用途などにも利用可能な、より比表面積の高い、しかもより多くの活性酸素種を包接し、さらにより低温で合成できる環境負荷の小さい合成方法の開発が強く求められている。
【0009】
本発明者は、鋭意努力を重ねた結果、特定の化合物を出発物質として、特定の条件で処理することにより、比表面積が高く、しかも活性酸素種をこれまでにないほど多量に包接した活性酸素種包接物質が得られること、さらにその物質を800℃程度の熱処理温度でも得ることが可能となることなどを知見し、本発明を完成するに至った。
【0010】
【特許文献1】
特開平14−003218号公報
【非特許文献1】
H.Hosono and Y.Abe,Inorg.Chem.26,1193,1987
【非特許文献2】
細野秀雄他、ケミカルエンジニアリング、2002年4月号、pp249〜252
【0011】
【課題を解決するための手段】
即ち、本発明は、2CaO・Al2O3・8H2Oを主体とするカルシウムアルミネート水和物を、酸素分圧4×104Pa以上、水蒸気分圧102Pa以下の条件下で、800〜1,150℃で加熱処理する活性酸素種包接物質の合成方法であり、800℃以下の温度から、酸素分圧4×104Pa以上、水蒸気分圧102Pa以下に保ち、800〜1,150℃の温度範囲まで昇温して加熱処理する該活性酸素種包接物質の合成方法である。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
本発明で言う活性酸素種包接物質とは、一般的に12CaO・7Al2O3と呼ばれるカルシウムアルミネート系化合物を含む物質を総称するものである。
本発明の活性酸素種包接物質は、12CaO・7Al2O3を、例えば、50%以上含んでいれば良く、その他のカルシウムアルミネート類が混在していても何ら差し支えない。
カルシウムアルミネート類とは、CaOとAl2O3を主体とする化合物を総称するものであり、その具体例としては、例えば、CaO・Al2O3、11CaO・7Al2O3・CaF2、11CaO・7Al2O3・CaCl2、3CaO・Al2O3、及び3CaO・3Al2O3・CaSO4などが混在する場合がある。
また、カルシウムアルミネートのほかにも、4CaO・Al2O3・Fe2O3、6CaO・2Al2O3・Fe2O3、及び6CaO・Al2O3・2Fe2O3などのカルシウムアルミノフェライト類、ダイカルシウムシリケート2CaO・SiO2、ランキナイト3CaO・2SiO2、及びワラストナイトCaO・SiO2などのカルシウムシリケート類、ゲーレナイト2CaO・Al2O3・SiO2などのカルシウムアルミノシリケート類、並びに、遊離石灰等が混在する場合もある。
【0014】
本発明は、2CaO・Al2O3・8H2O(以下、C2AH8という)を出発物質として12CaO・7Al2O3(以下、C12A7という)を含む活性酸素種包接物質を得るものである。
C2AH8はカルシウムアルミネート水和物の一種であり、通常でも、5m2/g以上の比表面積を有し、生成条件を変えることで比表面積をより高いものに調整することが可能である。
C2AH8は加熱すると脱水・分解し、700〜800℃程度でC12A7を形成する。この際、得られるC12A7を主体とする活性酸素種包接物質の比表面積は、出発物質のC2AH8の比表面積に依存する。
【0015】
C2AH8を得る方法としては、カルシウムアルミネート類を水和させる方法や、カルシウム塩とアルミン酸塩を加水分解させる方法等が挙げられ、その代表例としては、CaO・Al2O3と、水酸化カルシウム及び/又は酸化カルシウムを、CaOとAl2O3のモル比が2対1となるように配合して水和させる方法や、水酸化カルシウムとアルミン酸ナトリウムをCaOとAl2O3のモル比が1以下となるように配合して加水分解させる方法等を挙げることができる。
【0016】
上記方法でC2AH8を合成する際の温度は25℃以下が好ましく、20℃以下がより好ましい。25℃を超えると3CaO・Al2O3・6H2Oが生成する場合がある。3CaO・Al2O3・6H2OはC2AH8と比べて比表面積が小さい傾向にあり、また、得られるC12A7の純度が低くなるため好ましくない。
【0017】
なお、比表面積の高いC2AH8を得るためには、より低い温度で反応させることが好ましく、また、水酸化物イオン濃度の高い条件下で反応させることが好ましい。このため、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどのアルカリ金属塩を併用することが好ましい。
【0018】
本発明の合成方法によって得られる活性酸素種包接物質の比表面積は、出発物質のC2AH8の比表面積に依存する。そのため、出発物質のC2AH8の比表面積は高いものほど好ましく、5m2/g以上が好ましく、10m2/g以上がより好ましく、20m2/g以上が最も好ましい。
【0019】
C2AH8を工業的に得る場合、不純物が含まれることがある。その具体例としては、例えば、Li2O、Na2O、K2O、MgO、TiO2、MnO、Fe2O3、B2O3、SiO2、P2O5、S、フッ素、及び塩素等が挙げられる。
また、C2AH8には、C2AH8以外の他のカルシウムアルミネート系水和物として、例えば、CaO・Al2O3・10H2O、3CaO・Al2O3・6H2O、4CaO・Al2O3・nH2O、及び4CaO・Al2O3・CO3・11H2Oなどが共存する場合もある。
【0020】
本発明の活性酸素種包接物質の合成方法において、C2AH8を主体とするカルシウムアルミネート水和物を熱処理する。
熱処理方法は、C2AH8を主体とするカルシウムアルミネート水和物を800〜1,150℃で加熱処理することが必要であり、800〜1,000℃で加熱処理することが好ましい。800℃未満で加熱処理してもC12A7がほとんど生成しないため活性酸素種の包接量が極めて少なく、1,150℃を超えると焼結反応が進み比表面積が小さくなるばかりでなく、3CaO・Al2O3の生成量が増加し、やはり活性酸素種を包接しにくくなる。3CaO・Al2O3の生成は1,000℃を超えると顕在化し、C12A7の純度が低下して活性酸素包接量が少なくなる傾向にある。活性酸素種を多く包接させる観点からは、熱処理温度は800〜1,000℃の範囲が最も好ましい。
【0021】
また、熱処理の際、酸素分圧を4×104Pa以上、水蒸気分圧を102Pa以下の条件下で行う必要がある。上記の条件を満たさないと活性酸素種の包接量を多くすることができない。
【0022】
なお、熱処理の過程で昇温するが、本発明では、昇温の段階から、酸素分圧を高めておくことが望ましい。
即ち、C12A7が生成する800℃程度の温度よりも低い温度領域から酸素分圧を4×104Pa以上にし、水蒸気分圧を102Pa以下に保つことが好ましく、このような方法を行うことで、より多量の活性酸素種を包接することができるC12A7を生成することが可能である。
【0023】
【実施例】
以下、本発明の実験例に基づいてさらに説明する。
【0024】
実験例1
合成したC2AH8を昇温速度20℃/min.で900℃まで加熱し、3時間保持した。この際、加熱開始から酸素分圧を5×104Pa、水蒸気分圧を102Paに保った。得られた物質を粉末X線回折法により同定した。また、BET比表面積と活性酸素種の包接量を測定した。結果を表1に併記する。
【0025】
<使用材料>
C2AH8▲1▼ :CaO・Al2O3と水酸化カルシウムをCaOとAl2O3のモル比が2対1となるように配合して水/(CaO・Al2O3と水酸化カルシウム)比(以下、水/粉体比という)100%で28日間水和させたもの。BET比表面積4.5m2/g
C2AH8▲2▼ :水酸化カルシウムの1モル/リットルのスラリーと、アルミン酸ナトリウムの1モル/リットルの溶液を20℃で加水分解して沈殿物を生成させ、攪拌しながら16時間反応させた。その後、固液分離してアセトンを用いて余剰水を除去し、アスピレータにて減圧乾燥した。BET比表面積9.3m2/g
C2AH8▲3▼ :水酸化カルシウムの2モル/リットルのスラリーと、アルミン酸ナトリウムの2モル/リットルの溶液を10℃で加水分解して沈殿物を生成させ、攪拌しながら、16時間反応させた。その後、固液分離してアセトンを用いて余剰水を除去し、アスピレータにて減圧乾燥した。BET比表面積18.7m2/g
C12A7イ :従来法で得た活性酸素包接C12A7、試薬1級の炭酸カルシウム12モルと酸化アルミニウム7モルを混合粉砕して原料を調製し、電気炉で1,350℃で3時間焼成する工程を2回繰り返して合成した。得られたC12A7を振動式ボールミルにて可能なまで粉砕した。ブレーン比表面積5,500cm2/g、BET比表面積1m2/g
C12A7ロ :従来法で得た活性酸素包接C12A7、活性酸素包接C12A7イをアセトン溶媒中でさらに湿式粉砕し、可能なまで微粉化した。BET比表面積2m2/g
【0026】
<測定方法>
活性酸素種の包接量:電子スピン共鳴(ESR)とラマンスペクトル法により定量
【0027】
【表1】
【0028】
実験例2
C2AH8▲2▼を使用し、表2に示す温度で熱処理したこと以外は実験例1と同様に行った。結果を表2に併記する。
【0029】
【表2】
【0030】
実験例3
C2AH8の代わりに他のカルシウムアルミネート水和物を使用したこと以外は実験例1と同様に行った。結果を表3に併記する。
【0031】
<使用材料>
C3AH6 :3CaO・Al2O3・6H2O、水酸化カルシウムの2モル/リットルのスラリーとアルミン酸ナトリウムの1モル/リットルの溶液を20℃で加水分解して沈殿物を生成させ、攪拌しながら、16時間反応させた。その後、固液分離してアセトンを用いて余剰水を除去し、50℃で乾燥した。BET比表面積1.2m2/g
C4AH13 :4CaO・Al2O3・13H2O、CaO・Al2O3と水酸化カルシウムをCaOとAl2O3のモル比が4対1となるように配合して水/粉体比100%で28日間水和させたもの。BET比表面積4.1m2/g
【0032】
【表3】
【0033】
実験例4
C2AH8▲2▼を使用し、酸素分圧を高める温度のタイミングを表4に示すように変化したこと以外は実験例1と同様に行った。結果を表4に併記する。
【0034】
【表4】
【0035】
実験例5
C2AH8▲2▼を使用し、表5に示すように酸素分圧を変化させたこと以外は実験例1と同様に行った。結果を表5に併記する。
【0036】
【表5】
【0037】
【発明の効果】
本発明の活性酸素種を包接する物質の合成方法によれば、比表面積が非常に高く、活性酸素種の包接量も多い活性酸素種を包接する物質が得られる。
また、従来よりも低い熱処理温度で合成でき、エネルギー原単位が小さく環境負荷の小さい合成方法でもある。
Claims (2)
- 2CaO・Al2O3・8H2Oを主体とするカルシウムアルミネート水和物を、酸素分圧4×104Pa以上、水蒸気分圧102Pa以下の条件下で、800〜1,150℃で加熱処理することを特徴とする活性酸素種包接物質の合成方法。
- 800℃以下の温度から、酸素分圧4×104Pa以上、水蒸気分圧102Pa以下に保ち、800〜1,150℃の温度範囲まで昇温して加熱処理することを特徴とする請求項1に記載の活性酸素種包接物質の合成方法。
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