JP3955639B2 - 血液透析及び腹膜透析患者における鉄デリバリーのための方法及び医薬組成物 - Google Patents
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Description
本発明は、血液透析(hemo dialysis)及び腹膜透析(peritoneal dialysis)患者における鉄障害の予防又は治療のための、透析、そしてより特に透析溶液を補足する方法に関する。
本発明の背景
慢性腎不全を患う患者は、透析により治療される。透析は、末期腎不全を患う患者におけるホメオスタシスを維持するために要求される。透析は、患者の血液を透析溶液から分離する半透性の膜を通しての溶質と水の動きとして定義される。この半透性膜は、腹膜透析患者においては腹膜の膜、又は血液透析患者においては人工透析機の膜のいずれかであることができる。
慢性腎不全を患う患者は、エリスロポイエチンの減じられた生産に因り貧血に苦しむ〔Erslev, 1991〕。尿毒症及び過負荷容量のような慢性腎不全の改善の臨床的顕示は、透析により矯正される。しかしながら、エリスロポイエチンの欠損による貧血は、末期腎不全患者の機能的福祉において大きな制限になっている。
エリスロポイエチン遺伝子の分子クローニング〔Jacobs, et al., 1985〕は、組換えエリスロポイエチンの商業的生産を導き、これは、腎貧血の治療における大きな進歩であった〔Erslev, 1991; Levin, 1992〕。エリスロポイエチン治療は、赤血球生産を、そしてそれにより鉄の利用を刺激することにより機能する。エリスロポイエチンの使用により、輸血(transfusions)は、ほとんどの慢性透析患者において回避される。血液テスト及び胃腸出血は、さらに鉄の損失に貢献する。それ故、鉄の血液透析及び増加された胃腸損失による、過剰の身体血液の小ささが不可避的な損失に関連する加速された鉄の利用は、長期間の維持透析について、ほとんど全ての患者において鉄欠乏を導く。
鉄欠乏状態に寄与することができる他の因子は、鉄において欠乏であることができる制限された腎臓の食餌であり、そして鉄吸収は、尿毒症自体により減じられることができる。追加の投薬、例えばホスフェート・バインダーと食事の同時投与も、鉄の吸収を弱めることができる。それ故、鉄の欠乏は、エリスロポイエチンにより治療される透析患者において大きな問題になっている。
臨床業務においては、トランスフェリン飽和(血清鉄対全イオン結合能力の比)と血清フェリチン(ferritin)が、鉄の状態を評価するために使用される。エリスロポイエチン治療を受けている大多数の維持透析患者は、彼(女)らの鉄状態に依存して6つの群に任意に分類されることができる(表1)。
鉄欠乏の状態においては、骨髄への鉄の供給は、維持されず、そしてエリスロポイエチンに対する応答は弱められる。実際、鉄の欠乏は、エリスロポイエチン耐性の最も一般的な原因である〔Kleiner et al., 1995〕。絶対的又は機能的な鉄欠乏を患う尿毒症患者は、それらが有効な鉄の補足を受容する場合、より低い投与量のエリスロポイエチンを要求する。上記の考慮に基づき、Van Wyck et al.,〔1989〕は、低〜正常の鉄保存をもつ全ての腎患者が予防的に鉄を受容すべきであると提案してきた。鉄の補給(足)は、最も便利には、1日1〜3回の鉄の経口投与により達成される。
胃腸の副作用に因り経口鉄がしばしば許容されないために、問題が在る。実際的な問題、例えば、服薬不履行(noncompliance)、食事と共に摂取されるときの弱められた吸収、その他の要因は、経口鉄を許容する問題さらに組み合される。また、それは、弱められた鉄の吸収に因り、有効でない。Macdougall et al.,〔1989〕も、経口鉄についての、血液透析患者における組換えヒト・エリスロポイエチンに対する遅延された応答を発見し、これは、一旦、鉄が静脈内に与えられると、矯正された。Schaefer and Schaefer〔1995〕は、最近、経口鉄ではなく静脈内鉄だけが、組換えエリスロポイエチン治療の矯正期の間の、適当な骨髄鉄供給を保証することを証明した。
ヨーロッパにおいては、鉄は、鉄デキストラン、鉄サッカラート、及び鉄グルコネートとして静脈内投与のために利用されることができる。米国においては、鉄デキストランだけが、静脈内使用のために認可され、そして透析患者におけるこの目的のために広く使用されている。しかしながら、その投与量、及び注射の頻度に関しては論争が在る。
一方において、静脈内鉄治療は、経口投与を超えるいくらかの利点をもつ。静脈内治療は、経口治療において患者においてしばしば観察される服薬履行の問題と低胃腸耐性の両方を克服する。Schaefer and Schaefer〔1992〕は、経口鉄により先に処置された鉄欠乏血液透析患者に、静脈鉄が与えられたとき、エリスロポイエチン投与量における47%の低下を報告した。他方において、静脈内鉄治療は、危険及び欠点をもつ。アナフィラキシー様の(Anaphylactoid)反応が、患者において報告されている〔Hamstra et al., 1980; Kumpf et al., 1990〕。それ故、非経口的鉄治療が最初に処方されるとき、テスト投与量が投与されなければならない。静脈内鉄治療は、また、高血圧を引き起こし、そして治療を停止させるために十分に重い透析の間の、腰(loin)及び上腹部(epigastric)の痛みを引き起こすことができる。さらに、静脈内医薬は、高価であり、そして投与のための製薬及び看護時間を必要とする。静脈内鉄治療により、血清鉄、トランスフェリン、及びフェリチンのレベルは、鉄の必要量を推定し、そして治療への応答を計測するために定期的にモニターされなければならない。最終的に、静脈治療に伴う潜在的鉄過負荷についての問題も在る。なぜなら、感染及びおそらく癌の危険も鉄過負荷をもつ患者において高められるからである〔Weinberg, 1984〕。最近の証拠は、頻繁に静脈内鉄を与えられた米国医療保険ESRD患者における原因の特定した感染死についての35%高まったリスクをさらに示唆している〔Collins et al., 1997〕。
上記の点から、経口及び静脈内鉄治療経路のいずれも理想的ではなく、そして鉄投与の別の経路が、透析患者にとって望ましい。静脈内鉄デキストランの血圧低下効果は、輸液速度の減少又は等張性生理食塩水による鉄デキストランの予備的希釈により、投与される合計投与量に拘らず、完全に廃止される〔Cox et al., 1965〕。血液透析又は腹膜透析溶液への鉄化合物の添加は、その透析膜が鉄塩に対して透過性である場合に、血液区画内への鉄のゆっくりした移行を導くはずである。コロイド・イオン化合物又はその鉱物形態における鉄は、水溶液中で可溶性ではなく、そしてそれ故、透析溶液への添加のために好適ではない。さらに、鉄は、その鉱物形態で非経口的に投与されるとき、毒性であることが知られている。この毒性効果は、血液中での鉄の沈殿から生じることができ、多肺及びときどき全身性塞栓を作り出す。脂質塞栓の兆候に似た兆候が生じる。胃腸管の痛み(irritation)は、下痢及び吐を生じさせる。また、中枢神経系の抑うつは、昏腫(coma)と死を導くことができる〔Heath et al., 1982〕。
ひじょうに数少ない非コロイド状の鉄化合物が、静脈投与のために好適である。最近5年間、少なくとも2グループの研究者が、慢性血液透析患者における鉄欠乏の治療のために、ナトリウム・グルコン酸第2鉄(ferric gluconate sodium)を静脈内に投与してきた〔Pascual et al., 1992; Allegra et al., 1981〕。上記の及びさまざまな他の研究において、各種第2鉄化合物の溶解度、生物学的利用能及び毒性が異なっていることが示された。
最近の研究は、ポリリン酸化合物が細胞内鉄輸送のための可能性ある候補であるということを示している〔Konopka et al., 1981; Pollack et al., 1985〕。これらのポリリン酸化合物の中で、ピロホスフェートが、トランスフェリンからの鉄の除去の引き金を引く際に最も有効な剤であることが示されている〔Pollack et al., 1977; Morgan, 1979; Carver et al., 1978〕。ピロホスフェートは、トランスフェリンからフェリチンへの鉄の移動を強化することも示されている〔Konopka et al., 1980〕。それは、トランスフェリン分子間の鉄の交換をも促進する〔Morgan, 1977〕。それは、さらに、単離されたラット肝ミトコンドリアへの鉄のデリバリーを容易にする〔Nilsom et at., 1984〕。
ピロリン酸第2鉄は、食品の鉄強化のために、及び鉄欠乏貧血の経口治療のために使用されてきた〔Javaid et al., 1991〕。ピロリン酸第2鉄は、培養において成長した。真核及びバクテリア細胞に鉄を供給するためにも使用されてきた〔Byrd et al., 1991〕。ピロリン酸第2鉄の毒性効果は、動物モデルにおいてMaurer and共同研究者により研究されてきた〔1990〕。この研究は、体重1kg当り325mgより僅かに高いピロリン酸第2鉄又は約35mgの鉄を示した。血液透析患者において鉄の損失を代替するために有効な投与量は、透析期間当り体重1kg当り0.2〜0.3mgの鉄であると推定される。それ故、安全係数(LD50対有効投与量の比)は、100を超える。
他の金属ピロホスフェート錯体、ピロリン酸第1スズは、低カルシウム血症及び既時的毒性効果を引き起こすと報告されている。第2鉄イオンは、第1スズのイオン又はカルシウム・イオンよりもピロリン酸とより強い錯体を形成するので〔Harken et al., 1981; Sillen et al., 1964〕、低カルシウム血症は、ピロリン酸第2鉄投与の知られた副作用ではない。
1988年7月12日にVeltmanに発行された米国特許第4,756,838号は、水に容易に溶解することができ、そして血液透析における使用のための溶液の調製のために有用である、乾燥した、流動性の、安定性の易可溶性の、非ケーキ形成性の、粒状可溶性製品について開示している。上記特許は、最近使用された特許手順が、タンパク質結合されている血液中の材料を、通常、考慮していないという事実を開示している。これらの例は、鉄、亜鉛、銅、及びコバルトである。上記特許は、乾燥透析産物の不可欠な部分として上記材料を作ることが本発明の目的であるということを述べている。しかしながら、血液透析を通して利用することができる鉄をどのように作るかについての特定の開示はなされていない。いずれかの他の鉄化合物又は鉱物鉄に反して、非コロイド状鉄化合物に対する方向は全く与えられていない。
上記の点から、鉄の進行性の損失を代替し、又は鉄欠乏を治療するために、透析溶液に、可溶性の非コロイド状鉄化合物を添加することにより、透析患者のほとんどに鉄を投与することが望ましい。この可溶性の、非コロイド状鉄化合物は、好ましくは、ピロリン酸第2鉄である。
本発明の要約
本発明に従って、透析の方法により、透析溶液中で可溶性である、非コロイド状第2鉄化合物の輸液により、透析患者において鉄を投与する方法が提供される。本発明は、さらに、可溶性の、非コロイド状第2鉄化合物を含む透析溶液から本質的に成る医薬組成物を提供する。好ましくは、この第2鉄化合物は、ピロリン酸第2鉄である。
【図面の簡単な説明】
本発明の他の利点は、以下の添付図面と共に考慮するとき以下の詳細な説明を参酌することによりよりよく理解されるようになるとき、より容易に理解されるであろう:
図1は、血清鉄対時間、及びTIBC当りの鉄(パーセント)対時間を示す一対のグラフであり;
図2は、全鉄結合能力(total ion binding capacity(TLBC))当りの血清イオン(パーセント)を示すグラフであり;
図3は、試験デザインと試験期間にわたる透析溶液中の鉄の濃度を示すグラフであり;
図4は、試験期間にわたる群の全血ヘモグロビン平均のグラフであり;
図5は、試験期間にわたる群の網状赤血球ヘモグロビンの平均量のグラフであり;
図6は、試験期間にわたる群の透析前血清イオン・レベル平均のグラフであり;
図7は、試験期間にわたる透析による平均血清鉄における群の増加のグラフであり;
図8は、試験期間にわたる群の透析前全鉄結合能力平均のグラフであり;
図9は、試験期間にわたる群の透析前トランスフェリン飽和(TSAT)平均のグラフであり;
図10は、試験期間にわたる群の透析後トランスフェリン飽和(TSAT)のグラフであり;
図11は、試験期間にわたる群の間のトランスフェリン飽和(TSAT)における群の平均変化のグラフであり;
図12は、試験期間にわたる透析による平均トランスフェリン飽和(TSAT)における群の平均パーセンテージ変化のグラフであり;
図13は、試験期間にわたる群の透析前フェリチン平均のグラフであり;
図14は、試験期間にわたる処置平均当りの群のエリスロポイエチン投与量のグラフであり;
図15は、試験期間にわたる静脈内鉄(Infed▲R▼)平均の群の週用量のグラフであり;
図16は、ピロリン酸第2鉄を含む透析溶液による、急性腹膜透析を経験するウサギにおける血清鉄を示すグラフであり;
図17は、腹膜透析の間のウサギにおける全鉄結合能力(TIBC)を示すグラフであり;そして
図18は、ピロリン酸第2鉄を含む透析溶液による急性腹膜透析を経験するウサギにおけるトランスフェリン飽和(血清Fe/TIBC,%)を示すグラフである。
本発明の詳細な説明
本発明に従って、透析治療の間に、患者を透析するための、可溶性の非コロイド状第2鉄化合物の投与のための方法が、提供される。この投与は、血液透析(急性又は維持)又は腹膜透析(急性又は維持)上の、患者のために使用されることができる。
より特に、先に討議したように、透析患者は、腎不全のために血液透析又は腹膜透析を経験する患者である。末期腎不全の治療のための長期透析治療は、維持(maintenance)透析といわれる。維持血液透析上の患者は、全ての源からの約6ml/日(2リッター/年)の血液の損失に対応して、約2〜3グラムの鉄/年を失うと推定されている〔Eschbach et al., 1977〕。上記患者は、一般に、1週間当り3回、血液透析を受容する。
血液透析系の特定の例は、Fresenius系である。このFresenius系においては、酸:重炭酸塩:水:合計の比は、1:1.23:32.77:35である。それ故、濃縮された重炭酸塩溶液の1部は、他(酸;水)の27.5部と混合されて、最終透析溶液が作られる。この重炭酸塩濃縮物を作るために、精製された水は、精製水源から大きなタンク内にポンプ供給される。Freseniusは、プラスチック・バッグ内に包装された重炭酸ナトリウム粉末を供給し、そして各バッグの内容物は、上記タンク内の精製水と混合されて、25ガロン(94.6リッター)の重炭酸塩溶液が作られる。撹拌機により完全混合された後、濃縮された溶液を、プラスチック容器内で動かす。この濃縮物を、使用の24時間以内に調製する。
ピロリン酸第2鉄は、重炭酸塩濃縮物中に自由に溶解することができる。ピロリン酸第2鉄は、透析濃縮物に乾燥又は溶液形態で添加されることができる。4μg/dlの透析溶液鉄濃度又は40μg/dlのFePyP濃度のために、重炭酸塩濃度物が、40×27.5=1100μg/dl、又は11mg/リッターのピロリン酸第2鉄の濃度をもつべきであると計算されることができる。それ故、94.6リッター(25ガロン)の重炭酸塩濃度物に添加される1040mgのピロリン酸第2鉄は、4μg/dlの鉄濃度をもつ透析溶液を作り出すであろう。
透析溶液のFe濃度は、上記重炭酸塩濃縮物に異なる量のFePyPを添加することにより、高められることができる(表2)。ピロリン酸第2鉄は、その結晶形態又は水溶液として上記透析溶液濃縮物に添加されることができる。
本明細書中以下の実施例1中に示すように、血漿(3.5リッター)が、300ml/分における血漿流量及び800ml/分の透析溶液流量をもって、F−80透析装置を使用してインビトロにおいて透析された。ピロリン酸第2鉄(420mg)は、20リッターの重炭酸塩濃縮物に添加され、そして透析前に1時間にわたり断続的に撹拌された。これは、明緑色っぽい薄黄色の透析溶液であった。最終透析溶液は、透明、無色の溶液であり、熱量測定アッセイにより計測されるとき、5μg/dlの鉄含量であった。生理学的生理食塩水溶液を、必須の限外濾過を補償し、そして血漿液量を一定に保つために、15分間毎に上記血漿に添加した。上清FeとTIBCを、頻繁な間隔で計測した。図1中に示すように、血清鉄濃度(A)とトランスフェリン飽和(B)における漸進的な増加が在った。
別個の実験において、インビトロ透析を、透析溶液中のピロリン酸第2鉄の3つの異なる濃厚を使用して行った。他の同一の実験条件下で、トランスフェリン飽和における増加は、上記透析溶液の鉄濃度に依存していた(図2)。
透析は、患者の血液をクレンジンブ溶液(透析溶液)から分離する半透性膜(透析装置)を通しての溶質と水の動きとして定義される。4つの輸送プロセスが、透析の間に同時に生じることができる。
1.拡散輸送は、膜を横切る溶質の動きであり、そして血漿水と透析溶液の間の濃度勾配に依存し;
2.対流輸送は、水力学的圧力の差異の方向における透析装置を通しての溶質のバルク流であり;
3.浸透圧は、浸透圧の濃度勾配の方向における膜を横切る溶媒(水)の通過であり;そして
4.限外濾過は、膜を横切る水力学的圧力勾配に沿った溶質を含まない水の動きである。
患者の血漿は、時間にわたり透析溶液により平衡化される傾向にある。透析溶液の組成は、患者が、患者から、そして患者内に、溶質を除去し、バランスさせ、又はさらに注入することを許容する。電気化学的濃度勾配は、透析溶液と患者の血液区画の間の受動拡散と平衡を許容する駆動力である。上記透析プロセスは、人工腎臓(血液透析及び血液濾過)又は患者の腹部(腹膜透析)を使用することにより達成されることができる。
人工腎臓においては、酢酸セルロース、キュプラファン(cupraphane)、ポリアクリロニトリル、ポリメチル・メタクリレート、又はポリスルフォンのいずれかから作られた、合成又は半合成の半透性膜が使用される。上記膜の片側上の血液及び他の側上の透析溶液の一定流が、廃産物の除去を許容する。人工腎臓が血液透析を行うために使用されることができ、その間、拡散は、溶質除去のための主要なメカニズムである。他方において、ヘモダイアフィルトレーション及びダイアフィルトレーションともいわれる)血液濾過は、高多孔度の半透性膜を横切って溶質を動かすために、拡散よりもむしろ限外濾過及び対流輸送に頼る。この適用の目的をもって、用語、血液透析は、体外血液回路及び人工膜を必要とする全ての透析技術(例えば、血液濾過)を含むように使用される。
他方において、腹膜透析は、溶質と液体を血液区画と交換するための患者の腹膜の膜を使用する。それ故、腹膜の透析は、拡散の力による水溶性代謝産物の力学的輸送、及び腹膜を横切る浸透圧の力による水の輸送の適用による、尿毒症の治療である。腹膜は、体の中で最大の重要な膜である(成人において約2m2)。それは、腹壁(頭頂部の腹膜)と内蔵(内蔵の腹膜)の内側に層をなす。この膜の頭頂部と内蔵部分の間の空間は、“腹腔”といわれる。この腹腔内に注入された水性溶液(透析溶液)は、腹膜内の毛細管網を通して血管空間に接する。腹腔内に注入された溶液は、時間にわたり血漿水により平衡化されるようになり、そしてそれは、部分的又は完全平衡の後、1の交換の終りに除去される。この透析溶液の組成は、患者から、そして内に、溶質を除去し、バランスさせ、又はさらに注入することを許容する。電気化学的濃度勾配は、透析溶液と血液区画の間の受動拡散と平衡を許容する駆動力である。
本発明の透析溶液(血液透析又は腹膜透析)は、好ましくは5000ダルトン未満の分子量をもつ、添加された非コロイド状第2鉄化合物を特徴とする。最適には、第2鉄化合物は、1)適当な濃度において透析溶液中、可溶性であり;2)透析溶液から血液区画へ効率的に移行し;3)血漿中のトランスフェリンに結合し、そして組織による使用のために利用されることができ;4)いずれかの短期又は長期の副作用を伴わずによく耐えられ;そして5)経済的、でなければならない。ピロリン酸第2鉄は、上記の特徴の全てを有するようであり、そしてそれ故、本発明における使用のための好ましい鉄化合物である。但し、他の可溶性第2鉄化合物を使用することもできる。
ピロリン酸第2鉄(Fe4O2P6)は、745.25の分子量をもつ。それは、黄色〜緑色の結晶をもつ9水和物である。それは、防火合成繊維及び腐食防止顔料中、触媒として使用されてきた。
現在、血液透析装置は、最終的な透析溶液を作るために特定の割合において脱イオン水で塩を混合するために、自動化されたプロポーショニング・システムを使用する。この透析溶液濃縮物は、通常、すぐに使用できる溶液又は大きなリザーバー内で精製水に添加されるプレミックス粉末として、製造者により供給される。これら濃縮物は、最終的な透析溶液を作るためにそれらが精製水と混合されるところの透析装置内でチャンバー内にポンプ供給される。
一般に、血液透析のための最終透析溶液のイオン組成は、以下のようである:Na+ 132〜145mmol/L,K+0〜4.0mmol/L,Cl-99〜112mmol/L,Ca++1.0〜2.0mmol/L,Mg+20.25〜0.75mmol/L、グルコース0〜5.5mmol/L。代謝性アシド−シスの矯正は、透析の基本的ゴールの中の1つである。透析においては、血液からのH+除去の方法は、主に、透析溶液から血液中にアルカリ当量を流入し、それにより緩衝液化の化学的方法において通常使用される生理学的バッファーで置き代えることにより、達成される。透析手順においては、透析膜を横切る塩基の移動は、アセテート又は重炭酸塩含有透析溶液を使用することにより達成される。“重炭酸塩透析”においては、透析溶液は、27〜35mmol/Lの重炭酸塩と2.5〜10mmol/Lのアセテートを含む。他方において、“アセテート透析”においては、透析溶液は、重炭酸塩を欠き、そして31〜45mmol/Lのアセテートを含む。ピロリン酸第2鉄は、アセテート及び重炭酸塩ベースの血液透析溶液と混和性である。
腹膜透析溶液は、通常、Na+ 132〜135mmol/L,K+0〜3mmol/L,Ca++1.25〜1.75mmol/L,Mg++0.25〜0.75mmol/L,Cl-95〜107.5mmol/L、アセテート35mmol/L又はラクテート35〜40mmol/L及びグルコース1.5〜4.25gm/dLを含む。ピロリン酸第2鉄は可溶性であり、そして腹膜透析溶液と混和性である。
本発明に従って、ピロリン酸第2鉄は、腹膜透析溶液に、又は血液透析のための濃縮物に、直接添加される。血液透析の場合には、上記濃縮物は、水との混合により装置内で数倍に希釈されるので、上記化合物は、その濃縮物中の比例的に高い濃度において添加されなければならない。
好ましくは、血液透析溶液のデシリッター当り2〜25μgの第2鉄イオン(ピロリン酸第2鉄としてのもの)を血液透析のために使用する。従って、4〜50ミリグラムの鉄が、2〜5時間の血液透析期間の間に患者に注入される。最近、血液透析患者数は、米国内で230〜250,000、そして世界で約百万人である。上記患者のほとんどは、10〜12gm/dLの標的レンジ内でヘモグロビンを維持するためにエリスロポイエチン治療を必要とする。エリスロポイエチンで処置される透析上の全ての患者は、経口鉄治療を処方され、45%だけが、経口鉄治療により20パーセントを超えるトランスフェリン飽和レベルを維持する〔Ifudu et al., 1996〕。血液透析集団の少なくとも1/2が、鉄バランスを維持するために静脈内鉄を必要とするということが文書化されている〔Sepandj et al., 1996〕。たとえ、透析溶液鉄治療が全ての血液透析患者のために潜在的に有用であったとしても、静脈内鉄を必要とする者は、より恩恵を受けるであろう。透析溶液鉄治療が慣用の療法よりも経済的であるかどうかを評価するために、血液透析の1患者年のための比較コスト分が行われた。1グラムのピロリン酸第2鉄は、1回の透析手順の間に使用される20リッターの重炭酸塩濃縮物に添加される必要がある。全部で156グラムのピロリン酸第2鉄が、患者年当り透析溶液に添加されるであろう。FePyPのコストは、1kg当り$25.00であり(Mallinckrodt Baker, Inc., Chesterfield, Missouri)、そしてそれ故、FePyPの年間コストは、患者年当り約$5.00であると推定される。透析溶液鉄治療が、静脈内鉄よりも経済的であることは明らかである。
以下明細書中実施例2に示すように、透析溶液に添加されるピロリン酸第2鉄の効率及び安全性が示される。定期的な維持静脈内鉄を受容している、慢性血液透析上の尿毒症患者を、2群にランダムに分けた。1の同齢集団を、透析溶液鉄治療を受容するように選択し、可溶性ピロリン酸第2鉄を透析溶液に添加することにより達成した。他の同齢集団を、定期的な維持静脈内鉄デキストラン上に続けた。ベースラインには、人口統計学(demographics)、同時罹患(comorbid)条件(高血圧/糖尿病)、栄養パラメーター(体重、アルブミン、脂質)、鉄パラメーター、並びにエリスロポイエチン又は静脈内鉄デキストランのための要求に関して、上記2群において有意差は存在しなかった。この投与量ファインディング試験において、6ヶ月間の観察後、唯一の上記2群の間の差異は、透析溶液鉄群における静脈鉄要求における低下であった(p=0.002)。透析鉄に関する有害効果は全く同定されなかった。結論として、ピロリン酸第2鉄としての透析溶液への鉄の添加は、血液透析患者への、安全かつ、有効な鉄投与方法である。透析溶液鉄治療は、経口又は静脈内鉄補給のための必要性を伴わずに、血液透析患者のほとんどにおいて鉄バランスを維持することができる。透析鉄治療を受容する患者の小部分においては、静脈内鉄のための要求は、完全に排除されなかったが、有意に減少された。
上記の点から、本発明は、透析患者の鉄の補給又は治療の必要性に適合するように、透析溶液に添加されることができる、可溶性の、非コロイド状第2鉄化合物の医薬組成物を提供する。しかしながら、いくらかの透析患者は、未だ、経口又は静脈内鉄補給を必要とすることができる。
以下の実施例は、本発明の調製及び用途を証明する。
実施例1
透析溶液中のピロリン酸第2鉄の溶解度についてのインビトロ試験
ピロリン酸第2鉄(Fe4(P2O7)3, M.W. 745.2, CAS 10058-44-3)(以下、FePyP)は、温水中で1ml当り50mgの溶解度をもつことが知られている緑色の、黄色の結晶性化合物である(Catalog no. P 6526; Sigma Chemical Co., St. Louis, Missouri)。まず、少量のFePyP結晶を、酸(pH2.49)及び塩基(pH7.81)濃縮物、並びに重炭酸塩透析溶液(pH7.15)に添加した。FePyPは、上記重炭酸塩透析溶液及び重炭酸塩濃縮物に容易に溶解し、そして黄−オレンジ色の溶液を形成した。しかしながら、沈殿がはっきり見えた、酸濃縮物中の不完全溶液が在った。上記濃縮された重炭酸溶液は、最終透析溶液の形成において数倍に希釈されるので、重炭酸塩濃縮物中のFePyPの濃度は、所望の透析溶液の濃度よりも適当に高くなければならない。
それ故、重炭酸塩濃縮物中のFePyPの溶解度を、異なる量のFePyPを添加し、そして標準的な熱量測定方法により上記混合物の鉄含量を計測することによりテストした。これらの結果を表3中に示す。鉄の、計測された濃度と予想濃度は、同様であり、FePyPが、テストされた濃縮物中で高い溶解性をもつことを示している。透析手順においては、FePyPの特定濃度をもつ透析溶液を、比例的により高い濃度のFePyPを含む重炭酸塩濃縮物を使用して生成することができる。同様の実験を、血液透析のためのアセテート濃縮物を使用して行い、そしてピロリン酸第2鉄が可溶性であり、そしてアセテート・ベースの透析溶液と混和性であることが判明した。
ピロリン酸第2鉄を含む透析溶液によるインビトロ血液透析
第2セットの実験において、慣用の血液透析設定を使用した、血漿のインビトロ透析を、透析溶液へのほんの少量のピロリン酸第2鉄の添加が、透析の間の、血液区画内への鉄の有意な輸送をもたらすということを示すために、使用した。これは、移動した鉄が血漿中のトランスフェリンに強く(avidly)結合することにより、生じる。
A.方法
血漿を、グッドパスチャー(Good pastures)症候群のための血漿交換治療を経験している尿毒症患者から得た。クエン酸添加した血漿を、プラスチック・バッグ内に−20℃で保存した。3つの別個の実験において、血漿を、重炭酸塩濃縮物に異なる量のFePyPを添加することにより調製した、異なる濃度のFeをもつ透析溶液に対して、透析した。ポリスルホン膜を用いた透析装置(Fresenius, USA)を使用した。透析される血漿容量が1000ml未満であったとき、小さな血液容量(65ml)及び表面積(0.8平方メーター)を用いた小さな透析装置(F−4,Fresenius)を、100ml/分の血漿流量において使用した。大きな血漿容量の場合、120mlのブライミング容量と、1.8平方メーターの表面積を用いたF−80透析装置を、300ml/分の血漿流量において使用した。ヘパリン(1時間500ユニット)を、その回路内で血液凝固を防止するために注入した。血清を、その実験の間、一定間隔で吸引し、そして血清鉄(Fe)、全鉄結合能力(TIBC)、及びトランスフェリン飽和(Fe/TIBC×100)を、熱量測定アッセイにより計測した。血液透析の間の液体の強制限外濾過は、0.9%生理食塩水の連続注入により補償された。上記鉄パラメーターは、それらの結果をトランスフェリン飽和として表すことにより正味限外濾過について補正された。
B.結果
鉄が透析溶液に添加されるとき、血清鉄とトランスフェリン飽和は時間とともに増加した(図1と2)。血清Feとトランスフェリン飽和における増加は、透析溶液中の鉄の濃度が増加するとき、より大きかった(図2)。8μg/dlの透析溶液鉄濃度による2時間の透析後に、約2倍のトランスフェリン飽和が在った(図2)。
実験パラメーターは、実際の透析手順において普及している条件を真似るように選ばれた。それ故、3.5リッターの血漿(70kgの患者における血漿容量に近い)を、5μg/dlのFe濃度をもつ透析溶液に対して透析した。これらの結果を図1に示す。
血漿鉄濃度における時間当りの増加は、23,23,35、及び45μg/dlであり、そして鉄濃度における正味の増加は、実験の経過にわたり140μg/dlであった。それ故、5mgの鉄(又は〜50mgのFePyP)を、5μg鉄/dlをもつ透析溶液を使用して、3.5リッターの血漿中に注入した。
結果として、ポリリン酸第2鉄は、患者におけるFe欠乏のさまざまなレベルに適合するように最終透析溶液中2〜50μg/dlの鉄濃度を達成するように、重炭酸塩濃縮物に添加されることができる。鉄含有透析溶液を用いた血液透析は、その血液区画への鉄の移動をもたらす。上記のインビトロ実験において、最大鉄移動は、トランスフェリンが閉じた系に拘束されるために、得られることができない。インビボにおいては、トランスフェリンによる骨髄中のエリトロンへの及び組織への、鉄放出が、血液区画に侵入することができる鉄の合計量を増加させる。従って、透析鉄治療は、血液透析患者への鉄のデリバリーの、安全かつ有効な経路である。上記実験から、鉄化合物、例えば、ピロリン酸第2鉄を含有する血液透析溶液を使用した血液透析が哺乳類において生物学的に利用できる鉄の量を増加させるために使用されることができるということが明らかである。これらのデータは、ピロリン酸第2鉄が、適当な濃度において血液透析溶液中で可溶性であり、透析溶液から血液区画へ効率的に移動し、そして血漿中のトランスフェリンに結合することを証明している。ピロリン酸の安全性を示す、先の研究と共に、上記データは、哺乳類、特に、経口又は非経口鉄補給を必要とする透析患者において生物学的に利用することができる鉄を提供するための1手段としての本発明の有用性を証明している。
実施例2
可溶性イオンを含有する透析溶液を使用した、透析による血液透析患者への鉄の投与:第I/II期臨床試験
A.試験の設計
透析溶液イオンの安全かつ有効な投与量を決定するために、慢性血液透析患者の同齢集団を、ピロリン酸第2鉄含有透析溶液で透析し、一方、同時発生対照は、オープン・ラベル、第I/II期臨床試験において、静脈内鉄の定期的な投薬を受容した。上記試験における全ての被検体は、末期腎不全のための維持血液透析を受容しており、そして10〜12gm/dlのレンジ内にヘモグロビンを維持するためにエリスロポイエチンと静脈内鉄を必要としていた。インフォームド・コンセントを得た後に、患者を登録し、そして経口鉄を中断した。全ての患者が、4週間の長さの処置前期の間に、維持静脈内鉄(1〜2週間毎に50〜100mg)を受容した。この処置前期間の最後の2週間を、“ベースライン”血清鉄と血液学的パラメーターを確立するために使用した。この処置期において、10人の患者を、4ヶ月の期間にわたり鉄含有透析溶液で透析した(透析溶液−Fe群)。透析溶液中の鉄の濃度は、最初の4週間の間、2μg/dlであり、そして、4週間毎に、4,8、及び12μg/dlに段階的に増加された。上記最大濃度を用いてさえ有害反応は経験されなかったので、12μg/dlの透析溶液鉄を使用した試験を、さらに2.5ヶ月間程延長した。6.5ヶ月間の全試験期間にわたり、11人の対照患者(IV−Fe群)は、1〜2週間毎に50〜200mgの鉄を静脈内に受容し続けた。
静脈内鉄デキストランの投与量は、血清フェリチン及びトランスフェリン飽和に基づき調製された。初期投与量は、1週間当り50mg元素鉄であった。トランスフェリン飽和が25%未満であり、又は血清フェリチンが200μg/L未満であった場合、上記投与量は、10Omgに高められた。この投与量は、上記パラメーターを超えたとき、1週間当り50mgに減少された。
血清トランスフェリン飽和が60%を超えようとし、又は血清フェリチンが1500μg/dlを超えようとする場合、静脈内又は透析溶液鉄の投与は中断された。他方において、いずれかの患者が重大な鉄欠乏の証拠を示す場合(すなわち、トランスフェリン飽和<15%又は血清フェリチン<50μg/L)、その患者を、本発明者の裁量において、500〜1000mgの合計投与量まで、各透析期間における100〜200mgの鉄の静脈内投与により鉄欠乏のために処置した。骨髄細胞に対する鉄の高められた利用能は、エリスロポイエチンに対する応答性を改善し、それにより、ヘモグロビン及びヘマトクリットを上昇させることができる。ヘモグロビンとヘマトクリットは、毎週モニターされ、そして改善された赤血球新生の事件においては、エリスロポイエチンの投与量は、2週間毎に、又は必要な場合、安定したヘモグロビンを維持するために、10%ずつ減少された。
B.対照群の選択
National Kidney Foundation-Dialysis Outcomes Quality Initiative(NKF-DOQI)の推奨に従って、ほとんどの血液透析患者は、各透析期間において又は1〜2週間毎に静脈内鉄を投与されなければならない(維持治療)。NKF-DOQIガイドラインは、維持静脈内鉄についての慢性血液透析患者における経口鉄補給の継続を推奨していない。これは、対照群が静脈内鉄の定期的な投与量上で維持され、一方、経口鉄が中断される理由の根拠である。これは、標準的な治療であるので、維持静脈内鉄(IV−Fe群)上の被験体は、透析溶液鉄治療を受ける実験群に対する対照として役立つ(透析溶液−Fe群)。
C.試験集団
試験集団を、Clara Ford Dialysis装置において維持血液透析溶液を経験している全ての患者からランダムに選んだ。如何に記載するような、編入及び除外基準に適合する患者は、上記プロトコールの性質及び目的が彼(女)らに説明された後、かつ、彼(女)らが参加するための書面によるインフォームド・コンセントを自ら与えた後にのみ、上記試験の処置前期に入る資格を与えられた。
1.編入基準 以下の基準の全てに適合する患者だけが、上記試験の処置前期に入る資格を与えられた:
・インフォームド・コンセントに自ら署名した患者;
・18歳以上の患者;
・血液透析上に残ることが予想され、そして上記試験を完結することができる、維持血液透析を経験している末期腎疾患を患う患者。比較的短い期間のために、屍体移植リスト上の患者は除外される;
・女性の場合、最短で1年間にわたり無月経であるか、又は有効な避妊法を使用しているに違いない患者;
・軽い鉄欠乏(18〜25%の間のトランスフェリン飽和、及び100〜200μg/Lの血清フェリチン)をもち、そしてそれ故、通常の臨床手順において維持静脈内鉄治療の資格がある患者。
2.除外基準 以下の特徴の中のいずれかを示す患者を、上記試験の編入から除外した:
・トランスフェリン飽和<15%及び/又は血清フェリチン<50μg/Lとして定義される重度の鉄欠乏をもつ患者;
・非経口鉄治療によらずに、適当な鉄保存(トランスフェリン飽和>25%及び血清フェリチン>200μg/L)を維持することができる患者;
・鉄に対する臨床的にかなりのアレルギー反応の病歴をもつ患者;
・悪性又は明らかな肝疾患をもつ患者;
・最後の6ヶ月間内に薬物又はアルコール乱用の病歴をもつ患者;
・インフォームド・コンセントを与える能力を喪失していると考えられる患者;
・試験全体を完結することができないと予想される患者(例えば、同時発生の疾患);
・B型肝炎、又はHIV感染をもつ患者;
・妊娠しており又は授乳している患者;
・月経があり、かつ、試験期間にわたり避妊するために安全、かつ、有効な避妊法を使用したくない/することができない女性患者。
乱数発生装置を、24人のメンバーのリストを作製するために使用した。偶数と奇数を、それぞれ、A又はB表示に割り当てた。23患者のリストを、本試験への参加のための同意が得られた順番に基づいて創製した。患者を、上記リスト中の彼(女)らの順番に基づきA又はB群に割り当てた。22人の患者が、治療期に入った。透析溶液鉄群内の1患者が、上記治療期の第1日目に興味を喪失したために、本試験から除外されるように選ばれた。残る21人の患者は、本試験を完結した。
D.投与量の選択
1.透析溶液−Fe群のための投与量の選択
FePyPが透析溶液に添加されるとき、膜を横切る鉄の移動のインビトロ・テストから得た予備データを、上記試験における投与量を選択するために使用した(実施例1参照)。相対的な鉄欠乏が疑われるとき、100〜200mgの鉄のボーラス投与量を、1〜5の連続的透析期間にわたり、各透析において静脈内に投与した。
2.IV−Fe群のための投与量の選択
NKF-DOQIガイドラインに基づき、IV−Fe群内の患者は、25〜100mg/週の静脈内鉄の維持量を処方された。相対的な鉄欠乏が疑われるとき、100〜200mgの鉄のボーラス投与量が、5〜10の連続的透析期間にわたり、各透析において静脈内投与された。
E.記録された有効性及び安全変数
1.有効性 この変数を、
・ヘモグロビン/ヘマトクリット及び鉄パラメーターをモニタリングし、
・上記2群内の静脈内鉄及びエリスロポイエチンの投与量をモニタリングする、
ことにより計測した。
2.安全変数 以下の安全変数を、計測し、そして/又は頻繁にモニターした。
・心臓血管毒性、呼吸毒性、又は過敏反応のいずれかを検出するための、生命徴候の頻繁なモニタリング。
・透析溶液鉄投与量におけるいずれかの増加の前に指示された病歴及び身体検査、
・(貧血の診断のための)ヘモグロビン、
・(鉄欠乏又は毒性の検出のための)鉄パラメーター、
・(肝毒性を検出するための)肝機能テスト、
・栄養パラメーター、例えば、重量、アルブミン、コレステロール、及びトリグリセリドを、栄養不良を検出するために計測した。
・血清電解質。
・ピロリン酸第2鉄投与に対して2次的ないずれかの潜在的な低カルシウム血症又は高リン酸血症を検出するための:血清カルシウム及び無機リン酸。
F.透析溶液鉄治療の有効性についての基準
維持静脈内鉄を受容する患者と比較するとき、透析溶液中の鉄を受容する患者が;
・エリスロポイエチン投与量における増加を伴わずに、ヘモグロビン・レベルを維持し;そして
・静脈内の鉄についての減少された必要性にも拘らずに、適当な鉄保存を維持し、かつ、鉄欠乏に発展しなかった、
場合に、実験的治療は有効であると考えられるであろう。本試験においてモニターされた鉄欠乏の3つの重要なテストは、TSAT(トランスフェリン飽和)、網状赤血球ヘモグロビン(Retic Hgb、骨髄に利用可能な広く行き渡った鉄の尺度、及び血清フェリチン(組織保存の尺度)であった。
G.併用治療
・経口鉄を、両群において中断した。
・透析溶液−Fe群内の患者は、臨床指示されるとき、静脈内鉄の補給投与量を受容した。
・両群内の患者は、臨床指示されるとき、輸血を受けた。
H.統計的方法及び分析
時間にわたり個々の患者の変数をプロットすることを除き、鉄試験データは、分析前に要約された。記述的分析を行った。ここに示す分析データのほとんどは、4又は6/7週間の間隔にわたり平均されたデータを使用している。4週間の間隔は、各投与レベルが本試験の投与量の段階的増大の間に使用されたところの時間の長さに対応する。しかしながら、使用された最終試験間隔は、6又は7週間の長さであった。なぜなら、最終データの収集は、介在の開始後、26又は27週間まで行われなかったからである(図4〜21参照)。
0ヶ月と表示されたベースライン期間は、本介在の開始直前の4週間にわたるデータを含んでいた。(介在前の第5週のいくつか又は全てについて利用することができるいくつかのデータが存在したが、この週からのデータは、正式なデータ分析から除かれている。)
2μg/dlの透析溶液投与量が使用されるとき、第1〜4週を、第1月と、第5〜8週を、第2月と、第9〜12週を、第3月と、第13〜16週を、第4月と、第17〜20週を、第5月と、そして第21〜26(又は27)週を、第6月と表示する。
治療投与量、血清フェリチン、及びトランスフェリン飽和を、各群内の各患者について時間にわたりプロットした。各群内で最適な鉄状態を達成した患者の割合、並びにこれに必要な平均時間を、計算した。平均血清フェリチン及びトランスフェリン飽和レベルを、各時間点において各群について計算した。
平均血清フェリチン及びトランスフェリン飽和レベルにおける差異を、各時間点において、それらの95%の信頼度の間隔と共に計算した。重度又は軽度に拘らず、副作用を示す患者の割合を、各時間点において各群について記録した。
ベースラインの人口統計及び栄養状態の変数を、別個のデータ・セットから分析した。上記栄養パラメーター;重量、アルブミン、コレステロール、及びトリグリセリドを、各試験月について1回だけ入れた。
合併症、投薬及び手順の例に関するデータを、定期的に集められた臨床情報を含むGreenfield Health Systemデータベースから抽出した。各変数については、このデータを、4週の1ヶ月の間、日のカウントとして要約し、その間、合併症、投薬投与又は手順を行った。多くの例が1日で生じた場合、これを、1回の発生としてカウントした。上記変数の多くはまれであるため、このデータを、ベースライン月について(0)、全部で6ヶ月の試験月について(1〜6)、そして最後の観察月について(6)要約した。
血液透析の間の合併症の時に記録された血圧と共に、血液透析前後の重量及び血圧に関するデータを、定期的に集められた臨床情報を含むGreenfield Health Systemデータベースから抽出した。この血圧を、期間(session)の間、最小値と最大値を抽出することにより要約した。なぜなら、低血圧及び/又は高血圧の例は、重要であろうからである。
I.上記試験の結果
1.個々の患者の人口統計及びベースライン並びに処置群の比較性
2群のベースライン特性を表4中に示す。ベースラインの差異のいずれも統計的に有意ではなかった。
2.血液学的及び鉄パラメーター
試験の間、エリスロポイエチンと静脈内鉄の投与量は、ヘモグロビン/ヘマトクリット及び鉄パラメーター(トランスフェリン飽和とフェリチン)が標的レンジ内に留るであろうように、検査員により、調節され、そして処方された。いずれの群においても、第6月におけるパラメーターがベースラインと比較されたとき、ヘモグロビン又はTSAT/フェリチンにおける有意な変化は存在しなかった(図4,9、及び13)。さらに、上記2群が比較されたとき、第0〜6月において、ヘモグロビン(図4)、透析前血清鉄(図6)、TSAT(図9)、又はフェリチン(図13)において有意な差異は存在しなかった。
“網状赤血球ヘモグロビン”(Retic-Hgb)についてのテストは、第0〜1月の間、利用できず、そしてその後、Retic-Hgbを、第2〜6月においてのみ計測した。第2月において、Retic-Hgbは、透析溶液−Fe群において28.4±0.9pgに対して、IV−Fe群において27.0±1.Opgであった(p>0.1)。両群において、Retic-Hgbは、上記試験の経過の間、有意に変化しなかった(図5)。
b.エリスロポイエチン投与量
エリスロポイエチンの投与量は、上記2群において、上記試験の間、有意に変化しなかった(図14)。さらに、ベースライン又は試験の間のいずれの時においても、上記2群の間に、エリスロポイエチン要求における有意差はなかった。
c.IV鉄(Infed ▲R▼ )の投与量
前処置期間の間(第0月)、静脈内鉄の平均週用量は、IV−Fe群において59.6mg、そして透析溶液−Fe群において68.7mgであった(図15)。上記2群の間に、ヘモグロビン、トランスフェリン飽和、フェリチン又はエリスロポイエチン投与量における有意差はなかったにも拘らず、静脈内鉄についての要求は、透析溶液鉄により有意に減少された(8〜12μg/dlの透析溶液鉄によりp≦0.002)。
静脈内鉄の平均週用量を、ベースライン・レベルについて調整した。透析溶液−Fe群においては、静脈内鉄の平均週用量は、第0月における68.7mg平均〜第6月における8.9mg平均に、有意に低下した(p<0.002)。IV−Fe群における静脈内鉄の平均週用量は、ベースライン期間における68.7mg〜第6月における56.2mgと有意に変化しなかった(p>0.7)。さらに、第6月において、透析溶液鉄を受容する10患者の中の2人だけが、追加の静脈内鉄補給を要求した。
3.透析溶液から血液区画への鉄の移動
透析溶液−Fe群における静脈内鉄要求における減少は、透析による血清鉄における増加を、反映するように、透析溶液から血液区画への鉄の投与量依存移動を伴っていた(図7)。透析溶液への鉄の添加により、2μg/dl上31.7±6.8%,4μg/dl上37.0±8.3%,8μg/dl上54.7±9.9%、及び12μg/dl上71.75±13.4%までの透析後TSAT(平均±SD)における投与量依存性増加が存在した(図10)。これ故、透析の間の、TSATにおける増加及びTSATにおけるパーセンテージ変化は、透析溶液鉄の濃度に依存していた(図11と12)。
4.全鉄結合能力
ベースライン全鉄結合能力(TIBC、平均±S.D.)は、透析溶液−Fe群において222.3±43.8μg/dl、そしてIV−Fe群において192.7±48.1μg/dlであり、そしてこれら2群の間の差異は、有意でなかった(p>0.14)(図8)。上記ベースライン値について調整された、第6月におけるTIBCは、透析溶液−Fe群において有意に高かった(p>0.05)。循環トランスフェリンは、鉄欠乏の存在下、増加した。しかしながら、網状赤血球ヘモグロビンと血清鉄パラメーターに基づき、上記2群の間に、鉄の状態における差異は存在しなかった。トランスフェリンは、細網内皮のブロック及び慢性疾患の貧血を患う患者において抑制されることができる。しかしながら、上記2群における栄養パラメーター、血清フェリチン、及び網状赤血球ヘモグロビンは、IV−Fe群内の患者がより重く患い又は鉄放出における細網内皮のブロックをもっていたということを示唆していない。それ故、上記試験の終りに向けての上記2群の間のTIBCにおける差異の理由は、不明のままである。
5.鉄の組織保存
血清フェリチンは、鉄の組織保存のためのマーカーである。骨髄への鉄の適当な供給を保証するため、エリスロポイエチン治療を受けている透析患者における血清フェリチンのための推奨された標的レンジは、100〜150μg/Lである。ベースライン血清フェリチンは、透析溶液−Fe群において154±120μg/Lであり、そしてIV−Fe群において261±211μg/L(平均±S.D.)であり、そして上記2群の間の差異は、統計的に有意ではなかった(図13)。試験の経過の間、各群において、血清フェリチンにおける有意差は存在しなかった。第6月における血清フェリチン・レベルは、透析溶液−Fe群において154±120μg/L、そしてIV−Fe群において261+211μg/L(平均±S.D.)であり、そして上記2群の間の差は、統計的に有意ではなかった(図3)。これらの結果は、透析溶液経路による毎透析期間(session)における鉄の注入が、鉄の過剰な組織蓄積又は鉄過負荷を導かないということを証明している。
6.安全性の結果
透析溶液鉄治療の使用に2次的な悪影響は全く同定されなかった。特に、生命徴候、身体徴候、及び実験パラメーターのモニタリングは、肺、心臓血管又は肝毒性のいずれの証拠をも現さなかった。透析溶液鉄を受容した患者のいずれも、いずれのアレルギー又はアナフィラキシー性反応を顕示した。透析溶液鉄は、血清カルシウム又はホスフェート濃度に対して有意な効果をもっていなかった。
7.要約及び結論
6ヶ月の期間にわたる、維持血液透析患者において、透析溶液鉄治療は:
(a)安全であり、かつ、低血圧又はアナフィラキシーを導かず;
(b)補給経口又は静脈内鉄によらず、約80%の患者において鉄バランスを維持し;
(c)静脈内鉄の要求は、約80%程減少されることができ;
(d)エリスロポイエチン要求における増加を伴わずに、ヘモグロビンを維持し;
(e)鉄過負荷を導かない。
実施例3
ウサギにおける鉄補給のためのピロリン酸第2鉄を含有する溶液による腹膜透析
腹膜透析(PD)患者は、血液透析患者よりも鉄欠乏になる傾向が小さい。しかしながら、PD患者は、胃腸管を通して、そして実験室テストのための静血切開(phlebotomy)から血液を失う。さらに、鉄利用は、エリスロポイエチンにより処置された透析患者において高められる。従って、鉄欠乏は、PD患者において一般的である。PD患者における鉄補給は、一般に、経口経路により達成される。なぜなら、静脈内アクセスは、PD患者におけるように容易に利用可能ではないからである。実際、末梢静脈アクセスは、静脈切開又はカニューレ挿入により、静脈が血栓症になっていたとき、いくらかの患者において得ることができなくなる。この状態においては、静脈内鉄注入は、中心静脈のカニューレ挿入を必要とするであろう。鉄欠乏の経口及び静脈内経路の両方は、多くの副作用と関連する。それ故、腹膜透析溶液への鉄化合物の添加は、投与の容易さのために、鉄デリバリーの他の手段として、調査するに値する。この方法は、進行中の鉄の損失の遅く連続性の、かつ、より生理学的な代替手段を提供することも期待されるであろう。
鉄の腹膜内投与は、期待はずれの結果をもってラットにおいてテストされてきた。(コロイド状鉄デキストランとして)984μg/dlの鉄を含有する透析溶液による腹膜透析は、6時間後に血清鉄濃度を高めることに失敗した(Suzuki, et al., 1995)。血清鉄濃度の増加において成功したけれども、より高い濃度の鉄デキストランは、腹膜にとって毒性である。鉄デキストランは、腹膜接着及び繊維症を導く炎症性応答を誘導し、そして鉄凝集の沈着からの腹膜の褐色の色素沈着を誘導する(Park, et al, 1997)。それ故、コロイド状鉄テギストランは、腹膜経路による投与のために好適ではない。他のコロイド状鉄化合物も、腹膜に対して同様の毒性効果をもつようである。可溶性の鉄塩、塩化第2鉄が、同一群により先にテストされてきた(Suzuki, et al., 1994)。上記試験においては、(塩化第2鉄として)400μg/dlの透析溶液鉄濃度にも拘らず、6時間の腹膜透析後に、血清鉄濃度における変化はなかった(Suzuki, et al., 1994)。
維持血液透析患者における透析溶液経路による鉄デリバリーの第I/II期臨床試験の結果は、これが、安全、有効、かつ、よく耐えられるものであることを示唆している。それ故、腹膜透析溶液への可溶性ピロリン酸第2鉄の添加を、急性腹膜透析のウサギ・モデルにおける、鉄欠乏のための潜在的な治療法としてテストした
A.材料及び方法
1kg当り16μgの鉄を含有する標準ウサギ食餌上の、かつ、2.5〜3.5kgの重量の、New Zealand白ウサギ(n=10)を得た。対照ウサギ(n=3)は、標準食餌を受容し続けた。7ウサギを、鉄欠乏(20〜25ppmの元素状鉄)食餌に切り替えて、鉄欠乏状態を作り出した(鉄欠乏群)。
1日目に、22gのバタフライ針を使用して、耳の中心動脈から採血した。全血ヘモグロビン、血清鉄、及び全鉄結合能力(TIBC)を推定した。合計10mlの血液を対照ウサギから吸引し、そして鉄欠乏食餌上のウサギから20mlを吸引した。鉄欠乏を悪化させるために、鉄欠乏の食餌上のウサギからより多くの血液を吸引した。7日目と14日目に、ヘモグロビン及び鉄試験のために、全部で10のウサギから、さらに8〜10mlの血液を吸引した。
腹膜透析を、鉄欠乏群においてのみ行った。交換当りの腹膜透析溶液の容量は、約210ml(70ml/kg体重)であり、そして透析を、14,21、及び28日目においてのみ行った。
B.ピロリン酸第2鉄を含有する腹膜透析溶液の調製
上記透析溶液を、腹膜透析溶液の2リッターのバッグ(4.25%Dianeal▲R▼)に滅菌濾過されたピロリン酸第2鉄溶液を添加することにより調製した。最終透析溶液中の鉄濃度は、500μg/dlであった。
C.手順及びデータ分析
ウサギを、2mg/kgのアセプロマジン及び0.2mg/kgのブトルファノールの皮下注射により麻酔し、そしてあおむけで、ボード上に拘束した。血液を、ヘモグロビン及び鉄試験のために吸引した。腹壁上の皮膚を薄く切り、ベタジン(betadine)を殺菌し、そして1%のリドカインの点滴注入により麻酔した。18gのangiocathを、透析溶液の注入のために腹腔内に進めた。210mlの透析溶液を2リッターのバッグから注入した後、注入を止め、上記angiocathを取り出し、そしてウサギを、そのカゴに戻した。
血液サンプルを、透析開始後30分目と120分目に、鉄試験のために吸引した。120分目の血液吸引後、ウサギを先に記載したように鎮静させ、そしてうつ伏せ直立位に拘束した。18gのangiocathを腹腔内に挿入し、そして透析溶液を重力により排出させた。透析溶液の排出が止った後、上記angiocathを取り出し、そしてウサギをそのカゴに戻した。
血清鉄レベルを、トランスフェリンから鉄を分離し、そしてその後、それを2価鉄に変換した後、熱量測定方法により推定した。全鉄結合能力(TIBC)を、Goodwinの修飾方法を使用して計測した。
上記血清鉄レベル及びトランスフェリン飽和を、Wilcoxon署名ランク・テスト(Wilcoxon signed rank test)を使用して、0,30、及び120分目において比較した。0.05未満のp値が、統計的に有意であると考えられた。この試験手順は、動物の権利に関するInstitutional Review Boardにより認可されたものであった。
D.結果
ベースライン血清鉄及びトランスフェリン飽和における有意な減少が、対照群に比較して、鉄欠乏食餌を食べたウサギにおいて観察された(図16と18)。図16〜18中の斜線を引いた長方形は、対照群において平均±1 S.D.を表す。
鉄欠乏ウサギを、ピロリン酸第2鉄を含有する透析溶液を用いて透析した。腹膜交換を、試験14,21、及び28日目に行った。同様の結果が、全ての実験において見られた。21日目に行われた実験透析の結果を以下に記載する。
腹膜透析の経過の間、血清Feとトランスフェリン飽和における有意な増加が、30分目において明らかであった(p<0.03)。従って、平均血清鉄及びトランスフェリン飽和は、透析開始から30分以内に鉄欠乏ウサギの上記群において、正常なレンジ内に増加した。腹膜透析を、全部で2時間の期間にわたり続けた。鉄の血清レベル及びトランスフェリン飽和における有意な増加が、実験期間の間接続した。
28日目に、最後の透析が完了した後に、全ての動物を安楽死させ、そして内蔵及び頭頂部の腹膜の試料を、組織学的検査のために得た。肉眼又は顕微鏡変化は全く観察されず、そして見かけの鉄沈着がPrussianブルー染色により検出された。それ故、ピロリン酸第2鉄は、腹膜に対する急性毒性効果を全くもっていない。
E.要約
以上が、(1)腹膜透析における鉄補給のための新規配合物の1例;及び(2)腹膜透析溶液への可溶性鉄塩の添加が、鉄デリバリーの実行可能な方法であるというこの最初の証明、である。
実施例4
非経口経路による可溶性鉄の投与
透析は、半透性膜を横切る分子の拡散輸送を含む。この膜の両側上に存在する分子について、両方向における輸送が存在するが、正味の輸送は、その濃度勾配に沿って生じる。遊離の血漿鉄は高く毒性であり、そしてそれ故、ほとんど全ての循環イオンが、タンパク質に結合されており、そして遊離鉄の血漿濃度は、無視できる量である。従って、透析の間、血液から透析溶液区画への鉄の移動は全くない。実際、ピロリン酸第2鉄が透析溶液に添加されるとき、透析の間、血液区画への鉄の1方向の移動が存在する。これは、静脈内、筋中、皮下、又は経皮の如き経路による非経口デリバリーに似ている。それ故、透析及び非透析患者の両者において、上記経路により非経口的にピロリン酸第2鉄を投与することができる。
血液透析患者におけるピロリン酸第2鉄の臨床試験においては、3〜4時間の透析期間(session)の間の血清鉄濃度における平均増加は、約140μg/dlであった。3.5リッターの血漿容量を仮定すれば、トランスフェリンに結合した循環鉄における増加は、透析期間当り約5.25mgであったと、推定することができる。血管外空間は、血管内空間とほぼ同じ量のトランスフェリンを含み、そしてトランスフェリンの上記2つのプールの間に、鉄の自由な交換が存在する。それ故、合計約10.5mgの鉄(又は約105mgのポリリン酸第2鉄)が、1透析期間の間に患者に移されると推定することができる。これは、透析及び非透析患者において、約40mg/時の速度でピロリン酸第2鉄の滅菌溶液を注入することが可能であるということを、示している。断続的又は連続的な静脈内注入が、静脈内アクセスを利用することができる場合に、投与されることができる。非血液透析患者においては、静脈内アクセスは困難であり、そして皮下インプラント、又は経皮デリバリー・システムにより、ピロリン酸第2鉄をデリバリーすることができる。
要するに、ピロリン酸第2鉄は、血液透析において透析溶液経路により(実施例1と2)、腹膜透析患者において腹膜経路により(実施例3)、又は透析又は非透析患者において静脈内/皮下/筋中/経皮経路により(実施例4)、デリバリーされることができる。
実施例5
透析溶液の修飾による透析患者における血液学的パラメーターの調節
実施例2における臨床試験の結果は、透析による鉄の規則的デリバリーにより狭い標的レンジ内に血液学的パラメーターを維持することにより例示されるように、透析溶液の修飾による透析の間の、新規の血液学的操作方法を示す。
鉄デリバリーの経口又は静脈内方法は、しばしば、透析患者において最適鉄バランスを維持することができない。エリスロポイエチン治療の間の、鉄の連続した損失及び増加した鉄消費により、鉄欠乏が発展する。ヘモグロビン/ヘマトクリットが低下するとき、標的レンジ内にヘモグロビン/ヘマトクリットを維持するために、エリスロポイエチンの投与量がしばしば増加され、そして鉄が静脈内投与される。その結果、ヘモグロビン/ヘマトクリットは上昇し、そしてこの現象は、“ヘマトクリット又はヘモグロビン・サイクリング”といわれてきた。
各透析期間の間の透析溶液経路によるピロリン酸第2鉄(ferricpyrophoshate)の投与は、狭い標的レンジ内に、鉄、トランスフェリン飽和(図6と9)、及びヘモグロビン(図4)のレベルを維持することができる。それ故、ピロリン酸第2鉄の透析溶液デリバリーは、エリトロンへの最適鉄のデリバリーを維持することにより(図5)、ヘマトクリット・サイクリング(図4)を廃止する。これも、透析溶液の修飾による血液学的操作の最初の例である。
本発明をこれまで説明的に記載してきた。そして使用した用語は、限定的ではなくよりもむしろ説明的な用語の性質をもって使用されていると意図されているということを理解すべきである。
明らかに、本発明の多くの修正及び変更は、上記教示に照らして可能である。それ故、添付の請求の範囲内で本発明は、特に記載したようにではなく他の方法でも実施されることができるということを理解すべきである。
文献
Claims (5)
(a)重炭酸透析濃縮物と酸透析濃縮物を用意し;
(b)上記両濃縮物の内の少なくとも1つに、非コロイド状の第2鉄化合物を添加し、当該第2鉄化合物は、10,000ダルトン未満の分子量をもち、かつ、透析の間に哺乳動物に生物学的に利用可能な鉄を提供するために有効なものであり;そして
(c)上記両濃縮物を混合し、そしてそれに水を添加して、その中に上記非コロイド状の第2鉄化合物を溶解して含有する透析溶液を生成する、
を含む前記方法。
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