JP3954843B2 - 炭化タングステン基超硬合金 - Google Patents
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【発明に属する技術分野】
本願発明は、超硬合金に関し、特に平均粒径が0.6μm以下の炭化タングステン(以下、WCと記す。)粒子を有する、いわゆる超微粒超硬合金に関する。
【0002】
【従来の技術】
平均粒径が1μm以下のWC粒子を含有する超微粒超硬合金は、硬さとともに靭性も高いのでエンドミル、プリント基板用ドリル、各種せん断刃などに広範囲に用いられている。近年微細加工の傾向とともに超微粒合金の平均粒径も益々小さくなってきている。微細加工の用途に適合させるには超硬合金を構成するWCの粒径をより微細化させることが必要となることから、従来から周知のV、Ta、Crなどの金属若しくはそれらの金属の化合物(炭化物、窒化物、炭窒化物など)をWCに対する粒成長抑制材として、単独に用いられていたものが、0.6μm以下の平均粒径をめざし2種以上を添加するようになってきた。例えば、特公昭62−56224号公報(特許第1539991号)では、VとCrの2種を添加し、且つ、合金内に第3相が出現しないようにして靭性を劣化させない工夫が開示されている。また、特許第3008532号公報ではやはりVとCrを複合添加しかつVとWを含む複合炭化物を第3相として金属結合相とWCの粒界に存在させることにより抗折力の向上が図れることが開示されている。特許第3010859号公報もVとCrの複合添加の特許であるが、Cr炭化物や(W、V)Cを析出させることなくCrとVの複合炭化物、より正確に記すれば(Cr、V)2Cのみを素地中に分散させて、硬さと靭性の双方の向上を図ることが開示されている。
【0003】
3種の複合添加では、特公昭62−56493号公報(特許第1467291号)において、VとCrとMoの3種添加が開示されている。また特公昭62−56494号公報(特許第1487479号)では、VとCrと0.5〜8.0重量%のTaC又は(Ta、Nb)Cの3種を添加し、より微細な超硬合金が得られることを開示している。この場合TaC又は(Ta、Nb)Cを主体とする固溶体炭化物相の析出相が一定量以下であれば、靭性の低下を招聘しないとされている。特公平03−46538号公報においても、VとCrと0.4〜0.5%のTaNbCの3種添加が開示されている。特許第3206375号公報においてもVとCrと0.05〜2.5%のTaCの複合添加によるWC粒径0.7〜1.0μmの超微粒合金が開示されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
WC粒子の微細化について、WC粒子は焼結中に粒成長を起こすので、合金中のWC粒子の粒径は焼結前よりも大きい。そのため粒成長抑制材を添加してWCの粒成長を抑制する方法の研究が進められ、Vが最も有効で、Cr、Ta、Moも効果のあることがわかっている。平均粒径が0.6μm以下、願わくば0.5μm以下としたいならば、多量の粒成長抑制材、特に、Vを添加すればよいが、Vを多量に添加すると合金の靭性が急激に低下する。そのためVの添加量を減らして、その結果生じる粒成長抑制効果の減少分をCrやTaで補填する試み、すなわち粒成長抑制材の複合添加が行われてきたのである。しかしながら上記の先行技術を含め発明者らが鋭意検討したところではVとCrの組合せでは、焼結後の冷却中に結合相やWC相とは別の第3相が析出し、それが靭性を低下させることが明らかとなった。そのため第3相が析出しない程度に添加量を少なくすると、粒成長抑制効果が希薄になる。VとTaの組合せは第3相の出現がより容易くなり、靭性の低下が激しい。そこで平均粒径が0.6μm以下、願わくば0.5μmとした高靭性の超硬合金を得ようとするならば、VとCrとTaの3種の添加に頼らざるを得ない。しかしながら、上述の先行技術を追試した結果、Taの添加はVとTaの組合せ同様、靭性の低下が大きな障害となることが分った。
【0005】
【課題を解決するための手段】
そこで本発明者等は、なぜVとCrとTaの3種添加が粒成長抑制効果は評価できるものの靭性の著しい低下がなぜ起きるかの観点から種々検討した結果、結合相やWC相とは明らかに異なる別の相とおぼしきものが合金全体に広がっていることが観察された。この別相とおぼしきもの(以後、出現相と記す。)はTa添加量とともに増加すること、同じTa量では低カーボン合金ほど少なく、また焼結終了後から液相消失温度までの冷却速度が速いほど減少し、場合によっては出現しなくなることがわかった。また、この出現相は量の増加に伴って抗折力値で評価される靭性が急激に低下することなどが明らかとなった。本願発明では、Co及びNiのうちの1種又は2種:2〜30%、V:0.1〜2.0%、Cr:0.1〜2.0%、Ta:0.01%以上0.4%未満、を含有し、残り:炭化タングステン及び不可避不純物、とからなる組成を有する超硬合金で、該超硬合金のミクロ組織は、Co及び/又はNiを主体とする結合相と、平均粒径が0.6μm以下の炭化タングステン相と、Cr、Ta、V及びWから選ばれた1種又は2種以上の金属元素を主体とする化合物相との、3相又は3相以上を有する加圧焼結したことを特徴とする炭化タングステン基超硬合金であり、加圧焼結後に急速冷却したことを特徴とするものである。
【0006】
そこで、Ta(Ta化合物の場合はTa分)の適正量について厳密な調査を行ったところ、0.4%を超えると出現相が過多となり、V添加量が0.1〜2.0の範囲において充分な靭性が保てないことが明らかとなった。さらに記すればVが0.1〜2.0%かつCrが0.1〜2.0%の範囲において、いかに合金カーボン量を調整しようが、また実用範囲で冷却速度を大きくしようが、出現相の望ましい上限値を超えてしまい、充分に靭性のあるWCの平均粒径が0.6μm以下の合金が得られない。
【0007】
本発明において、V(V化合物の場合はそのV分)は0.1〜2.0%とする。0.1%未満では充分な粒成長抑制効果が得られず、本発明の趣旨に反する。0.2%を超えると充分な靭性が得られず、抗折力が実用範囲以下に低下する。ここで抗折力の実用範囲は3000MPa以上としたが、用途によりそれ未満でも使用可能な場合もあり、厳格に規定するものではない。
Cr(Cr化合物の場合はそのCr分)は0.1〜2.0%とする。0.1%未満では充分な粒成長抑制効果が得られず、本発明の趣旨に反する。0.2%を超えると充分な靭性が得られず、抗折力が実用範囲以下に低下する。
Ta(Ta化合物の場合はそのTa分)は0.01%以上0.4%未満に規定する。0.01%未満では充分なV+Cr+Taの粒成長抑制に対する相乗効果とが得られず、本発明の趣旨に反する。0.4%以上では充分な靭性が得られず、抗折力が実用範囲以下に低下する。
Co及び/又はNiは2〜30%の範囲とする。2%未満では充分な靭性が得られない。30%を超えると超硬合金の本質的な性質の一つである硬さの低下が著しく、一部の用途を除いて実用的でない。
【0008】
本発明の超硬合金のミクロ組織は、金属相とWC相の2相が基本であるが、製造条件によりその他の相が出現する場合がある。しかも、その出現相は一つの場合も複数の場合も条件により観察される。出現相はCr、Ta、Vのうちの一つ又は二つ以上の金属とCを主体とするもので、その他時によりCoやWをその構成要素とする。該出現相は製造条件により構成元素も組成比も種々変化するものなので厳密に化学組成を規定するものではない。本発明者らが鋭意検討したところ、該出現相がある量以上に増加すると靭性が著しく低下する。従って、本発明のもうひとつはTaの量を規定することで該出現相の量に制限を与え、結果として靭性のあるWCの平均粒度が0.6μm以下好ましくは0.5μm以下の超微粒合金を得るところにある。
【0009】
焼結は大気圧以上の加圧雰囲気下で実施する。粒成長抑制材は基本的には拡散抑止剤であるので焼結性の阻害材でもある。特に、Vは焼結阻害効果が大であるので真空焼結を行う場合には通常の焼結温度では未焼結気味となり、密度比が充分に100%に近づかず、その結果靭性が充分に向上しない。そこで焼結温度を上げて焼結を促進させると、今度は粒成長が起こるという弊害を招く。この相反性を打破するには、加圧焼結が極めて有効であることを発明者らは検証した。ここで超硬合金の焼結について付言すると、超硬合金の原料は1μm前後の極めて微細な粉末である。表面積が大きく該粉末の表面は酸素が吸着しているか、あるいは酸化物となって存在している。通常超硬合金の焼結炉は炉内の構造物はヒーターも含めカーボン(以下、Cと記す。)製が一般的となっている。1673K付近の温度で継続的に使用できる適当な材料がほかに無いからである。こうしたC存在下での真空雰囲気のもとではCoとWCは1273K近傍で表面の酸素は還元される。しかしV、Cr及びTaの化合物は還元開始温度がさらに高く、特に、Taの化合物は一般的に難還元物である。従って、還元が進行している間はなるべく加圧は避けて真空あるいは減圧下にしておきたい。残留した酸化物は基本的には靭性を阻害することになるからである。そこで焼結の適当な最終段階のみを真空あるいは減圧から大気圧以上の高圧化に切りかえることは、充分な酸素除去と充分な密度向上の双方を実現する良い手段である。しかし、このような手段も酸素量の多寡によるものなので場合により適宜最良の方策を採用すれば良い。圧力は特に制限を設けない。その趣旨は減圧下よりも大気圧以上で焼結したほうが明らかに、微細なポアが減少して靭性が改善される効果が認められるということである。圧力媒体は実用上Arなどの不活性ガスが好ましいが、場合により窒素ガスなどを使用してもよい。高圧雰囲気下で焼結を行ったあとは、炉冷ではなく、冷媒としてのガスを炉内に導入するなどしてある程度強制的に冷却速度を上げると、さらに抗折強度が向上することも本発明者らは検証した。金属結合相が固溶強化されたことと、基本的には靭性を劣化させる出現相の量が少なくなるためと考えられる。以下、本発明を実施例によって詳細に説明する。
【0010】
【実施例】
原料粉末として、平均粒径0.6μmのWC粉末、同約1μmのCo、VC、Cr3C2、TaCの各原料粉末を表1に示される最終組成が得られるように配合し、(VC、Cr3C2、TaCはそれぞれV、Cr、Ta量に換算して示す。)成形バインダーを含んだアルコール中アトライターで12時間混合した後、スプレードライで造粒乾燥した。
【0011】
【表1】
【0012】
得られた造粒粉末を100MPaの圧力でプレス成形して圧粉体とし、この圧粉体を10Paの真空雰囲気中で焼結し、焼結体を得た。また、一部は真空高温保持後Arを圧力媒体として3MPaの圧力による加圧焼結を実施した。さらにその一部は加圧焼結後一旦圧力媒体をのArを排気し、新たに低温のArガスを導入することで急速冷却を実施した。焼結温度、雰囲気などは表2に示し、適用した条件は表1に示した。
【0013】
【表2】
【0014】
次に、これらの各焼結体を研削して4mm×8mm×24mmのJIS抗折試験片を作成し、スパン20mmで3点曲げによる抗折力を大気中常温と真空中973Kで測定するとともに、ロックウェルAスケール硬さ(HRA)も測定した。別途、走査型電子顕微鏡(SEM)で組織観察してWCの平均粒径を求めた。また、常温での抗折力測定後の破面をX線マイクロアナライザー(XMA)で元素マッピングを行い出現相の有無を調査した。これらの結果もまとめて表1に示す。
【0015】
靭性については、VとCrとTaの複合添加はそれぞれの量を規制すること及び加圧焼結を実施することでその相乗効果が顕著に現れることが実施例から分かる。比較例1は、Ta添加量が0であるため3種混合の相乗効果が無く抗折力が3000MPa以下と低い値を示す。靭性を落とす性質が顕著な出現相が内在するためと推測される。比較例2と本発明例3、比較例4と本発明例5、比較例6と本発明例7、比較例8と本発明例9とを比較すると、本発明品例3、5、7、9は加圧焼結で抗折力が4000MPaを超え靭性が大幅に向上することがわかる。比較例10は、Ta含有量が過剰で、かつ、真空焼結のため靭性に劣る。比較例11は、真空焼結gで靭性に劣るが、本発明例12は加圧焼結で抗折力が4000MPaを超える。比較例13、14、16、18、20、21、22、24は真空又は減圧焼結で靭性が充分に上がっていない。本発明例15、17、19、23、26、27は加圧焼結で抗折力が4000MPaを超え、靭性に優れる。比較例25は、Coが過少で加圧焼結を実施するものの充分な靭性が得られていない。比較例28はCoが過多で剛性不足となり、加圧焼結を実施するものの充分な抗折強度が得られていない。
【0016】
【発明の効果】
以上述べたことから、本発明の加圧焼結による超硬合金及び加圧焼結急速冷却による超硬合金はWCの粒径が極めて小さく、かつ、高い靭性と耐熱性と有するもので、各種切削工具、せん断工具、小径エンドミル、プリント基板用ドリルなどに用いた場合に優れた性能を発揮する。
Claims (2)
- Co及びNiのうちの1種又は2種:2〜30%、V:0.1〜2.0%、Cr:0.1〜2.0%、Ta:0.01%以上0.4%未満、を含有し、残り:炭化タングステン及び不可避不純物、とからなる組成を有する超硬合金で、該超硬合金のミクロ組織は、Co及び/又はNiを主体とする結合相と、平均粒径が0.6μm以下の炭化タングステン相と、Cr、Ta、V及びWから選ばれた1種又は2種以上の金属元素を主体とする化合物相との、3相又は3相以上を有する加圧焼結したことを特徴とする炭化タングステン基超硬合金。
- 請求項1記載の炭化タングステン基超硬合金において、加圧焼結後に急速冷却したことを特徴とする炭化タングステン基超硬合金。
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