JP3954462B2 - 内燃機関の空燃比制御装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、内燃機関の空燃比制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、内燃機関の排気通路に備えた触媒装置の所要の浄化性能を確保するために、該触媒装置の下流側に、排ガスの特定成分に感応する素子部を有する排ガスセンサを配置し、その排ガスセンサの出力を所定の目標値に収束させるように内燃機関から触媒装置に供給する排ガスの空燃比を制御するものが知られている。例えば、特開平11−324767号公報には、排ガスセンサとしてのO2センサ(排ガス中の酸素濃度に応じた出力を発生するセンサ)を三元触媒により構成された触媒装置の下流側に配置し、このO2センサの出力を所定の目標値に収束させるように空燃比を制御することで、触媒装置によるCO(一酸化炭素)、HC(ハイドロカーボン)、NOx(窒素酸化物)等の浄化を良好に行うようにした技術が本願出願人により提案されている。この技術は、内燃機関から触媒装置に供給される排ガスの空燃比を、触媒装置下流のO2センサの出力(出力電圧)がある所定の目標値に整定するような空燃比状態に制御したとき、触媒装置の浄化対象成分であるCO(一酸化炭素)、HC(ハイドロカーボン)、NOx(窒素酸化物)のそれぞれの浄化率が、該触媒装置の劣化状態等によらずに比較的に高い浄化率に確保されるという現象に着目してなされたものである。
【0003】
尚、本明細書において、触媒装置による各浄化対象成分の「浄化率」は、触媒装置に進入する排ガス(触媒装置の上流側の排ガス)中の該浄化対象成分の濃度をA、該触媒装置の通過後の排ガス中の該浄化対象成分の濃度をBとしたとき、Aに対するA−Bの割合(A−B)/Aを意味する。つまり、「浄化率」は、ある一定量の排ガスを触媒装置に供給したときに、その供給前の該一定量の排ガス中に含まれる浄化対象成分の全量に対する、該浄化対象成分の触媒装置により浄化される量の割合を意味する。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、触媒装置による排ガス中の浄化対象成分は、CO、HC、NOx等、複数種類の成分である。そして、本願発明者等の知見によれば、各浄化対象成分の触媒装置による浄化率が最大となるような排ガスの空燃比状態は、各浄化対象成分毎に多少相違している。例えば、三元触媒から成る触媒装置によるCO、HC、NOxの浄化率については、NOxの浄化率が最大となるような排ガスの空燃比状態は、CO、HCの浄化率が最大となるような空燃比状態よりも多少リッチ側の空燃比である。このため、O2センサ等の排ガスセンサの出力が所定の目標値に整定するような空燃比状態に排ガスの空燃比を制御する従来の技術では、排ガスの空燃比状態を規定する排ガスセンサの出力の目標値は、基本的にはCO、HC、NOx等の各浄化対象成分の浄化率がバランスよく比較的高い浄化率となるような値に設定される。
【0005】
一方、本願発明者等の知見によれば、触媒装置の浄化対象成分のうち、特にNOxは、内燃機関の高負荷運転状態など、内燃機関の所定の運転状態で排ガス中に含まれる量(濃度)がCOやHCに比して多くなり易い。この場合、触媒装置の容量や、該触媒装置に担持させる白金等の貴金属の量を多くすれば、該触媒装置により十分な量のNOxを浄化することができ、触媒装置通過後の各浄化対象成分の濃度をNOxを含めて十分に小さくできる。
【0006】
しかし、近年では、省資源化等を目的として、触媒装置の容量や貴金属の担持量の低減が望まれている。また、触媒装置の容量や貴金属の担持量を増大させることは排気システムの小型化の点、あるいはコスト面で不利である。従って、触媒装置の容量や貴金属の担持量を増大させることは困難である。このため、排ガス中のNOxの濃度が比較的大きくなるような内燃機関の運転状態では、触媒装置によるNOxの浄化性能を十分に確保することが困難となる虞れがあった。
【0007】
本発明はこのような背景に鑑みてなされたものであり、触媒装置によるNOx以外の浄化対象成分の浄化性能を十分に確保しつつ、内燃機関の運転状態によらずに触媒装置によるNOxの浄化性能を高めることができる内燃機関の空燃比制御装置を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明の内燃機関の空燃比制御装置は、かかる目的を達成するために、内燃機関の排気通路に設けた触媒装置の下流側に配置され、該触媒装置を通過した排ガス中の特定成分の濃度に応じた出力を発生する排ガスセンサを備え、前記触媒装置による排ガスの所要の浄化性能を確保するために該排ガスセンサの出力を所定の目標値に収束させるように内燃機関から触媒装置に供給する排ガスの空燃比を制御する内燃機関の空燃比制御装置において、前記内燃機関の運転状態が所定の運転状態であるか否かを判断し、該内燃機関の運転状態が前記所定の運転状態以外の運転状態であるときには、排ガス中の窒素酸化物を含む複数種類の浄化対象成分のそれぞれの前記触媒装置による浄化率が所定の浄化率以上に確保されるように前記目標値を設定すると共に、該内燃機関の運転状態が前記所定の運転状態であるときには、該所定の運転状態以外の運転状態のときよりも、前記触媒装置による排ガス中の窒素酸化物の浄化率をより高めるように前記目標値を設定する目標値設定手段を備え、前記所定の運転状態は、前記内燃機関のアイドリング状態と、該内燃機関の回転数が該アイドリング状態から上昇している最中の運転状態とを含むことを特徴とするものである。
【0009】
かかる本発明によれば、前記目標値設定手段は、内燃機関の運転状態が所定の運転状態であるときには、該所定の運転状態以外の運転状態であるときよりも、排ガスセンサの出力の目標値を、触媒装置によるNOxの浄化率がより高まるような目標値に設定する。ここで触媒装置によるNOxの浄化率は、一般にリーン側寄りの空燃比状態よりもリッチ側寄りの空燃比状態の方が高くなる傾向があるので、前記所定の運転状態で前記目標値に対応して制御される排ガスの空燃比状態は、該所定の運転状態以外の運転状態よりもリッチ寄りの空燃比状態となる。つまり、前記所定の運転状態で触媒装置によるNOxの浄化率をより高めるように前記目標値を設定するということは、該目標値に対応する排ガスの空燃比状態を、該所定の運転状態以外の運転状態よりも、リッチ側の空燃比にするように該目標値を設定するということを意味する。従って、前記所定の運転状態では、内燃機関から触媒装置に供給される排ガスの空燃比状態が、該触媒装置によってより多くのNOxを浄化し得るような空燃比状態に制御されることとなる。このため、触媒装置に供給される排ガス中のNOxの濃度が比較的多くなるような運転状態を上記所定の運転状態として定めておくことで、触媒装置により該NOxを十分に浄化することが可能となる。つまり、触媒装置に供給される排ガス中のNOxの濃度が比較的多くなるような内燃機関の運転状態であっても、触媒装置通過後の排ガス中のNOxの濃度を十分に小さくできる。
【0010】
また、一酸化炭素(CO)、ハイドロカーボン(HC)等、NOx以外の浄化対象成分に関しては、触媒装置によるNOxの浄化率がより高くなるような排ガスの空燃比状態に制御される前記所定の運転状態では、一般には、CO、HC等、排ガス中のNOx以外の浄化対象成分の触媒装置による浄化率は、該所定の運転状態以外の運転状態よりも低下する。但し、本願発明者等の知見によれば、触媒装置によるCO、HC等の浄化率が大幅に低下するわけではなく、また、排ガス中のNOxの濃度が比較的高くなるような運転状態で触媒装置に供給される排ガス中のCO、HC等の濃度までもが多くなるわけではない。従って、前記所定の運転状態で、触媒装置通過後の排ガス中のCO、HC等のNOx以外の浄化対象成分の濃度を十分に小さくできる。
【0011】
一方、前記所定の運転状態以外の運転状態では、前記所定の運転状態よりも触媒装置によるNOxの浄化率は低下することとなるものの、該所定の運転状態以外の内燃機関の運転状態は、触媒装置に供給される排ガス中のNOxの濃度が比較的少なくなるような運転状態となる。さらに、前記所定の運転状態以外の運転状態では、NOxを含めて複数種類の浄化対象成分(NOx、CO、HC等)のそれぞれの浄化率が所定の浄化率以上に確保されるように前記目標値が目標値設定手段により設定される。このため、所定の運転状態以外の運転状態において触媒装置によりNOxの浄化率が該所定の運転状態よりも大幅に低下するようなことはない。従って、前記所定の運転状態以外の運転状態では、前記所定の運転状態よりも触媒装置によるNOxの浄化率が低下しても、触媒装置通過後の排ガス中のNOxの濃度を十分に小さくすることが可能となる。
【0012】
さらに、CO、HC等、NOx以外の浄化対象成分に関しては、前記所定の運転状態以外の運転状態では、排ガスの空燃比状態が触媒装置によるNOxの浄化率が前記所定の運転状態よりも低下する空燃比状態に制御されることで、CO、HC等、NOx以外の浄化対象成分の触媒装置による浄化率は、一般にNOxの浄化率とは逆に上昇する。このため、前記所定の運転状態以外の内燃機関の運転状態では、CO、HC等、NOx以外の浄化対象成分の浄化を十分に行って、触媒装置通過後の排ガス中のそれらの浄化対象成分の濃度を十分に小さくできる。
【0013】
以上説明したようにして、本発明によれば、排ガス中のNOx以外の浄化対象成分の触媒装置による浄化性能を十分に確保しながら、内燃機関の運転状態によらずに触媒装置によるNOxの浄化性能を高めることが可能となる。
【0014】
尚、本発明において、内燃機関の前記所定の運転状態以外の運転状態において、触媒装置によるNOx、CO、HCの浄化率をバランスよく比較的高い浄化率に確保するためには、それらのNOx、CO、HCの浄化率がほぼ等しくなるような排ガスセンサの出力の目標値を設定することが好適である。
【0015】
かかる本発明において、排ガス中のNOxの濃度が比較的高くなるような内燃機関の運転状態は、例えば内燃機関を推進源として搭載した車両の発進時のように、内燃機関の回転数がアイドリング状態から上昇して行く際の状態や、内燃機関の負荷が比較的大きなものとなる運転状態である。
【0016】
そこで、本発明では、前記所定の運転状態には、前記内燃機関の回転数がアイドリング状態から上昇している最中の運転状態を含ませる。このようにすることにより、触媒装置によるNOxの浄化率をより高めるような目標値の設定を好適な運転状態で行うことができる。
【0018】
この場合、内燃機関の回転数がアイドリング状態から上昇していくとき、その上昇の開始直後から排ガス中のNOxの濃度が多くなりやすい。一方、排ガスセンサの出力の目標値を変更したとき、排ガスの空燃比状態が変更後の目標値に対応した空燃比状態になるまでには一般に遅れを生じる。そこで、本発明では、触媒装置によるNOxの浄化率をより高めるように目標値を設定する前記所定の運転状態には、前記内燃機関の回転数がアイドリング状態から上昇している最中の運転状態に加えて、内燃機関のアイドリング状態をも含める。このようにすることにより、内燃機関のアイドリング状態では、排ガスの空燃比状態が触媒装置によるNOxの浄化率がより高まるような空燃比状態に制御されることとなる。このため、そのアイドリング状態から内燃機関の回転数が上昇していくとき、その上昇の開始時から排ガス中のNOxを十分に浄化することができる。また、アイドリング状態からの内燃機関の回転数の上昇が開始するとき、前記目標値が急変することもないので、該目標値に応じた空燃比制御(該目標値に排ガスセンサの出力を収束させる空燃比制御)を安定して行うことができ、触媒装置に供給される排ガスの空燃比状態が過渡的に触媒装置によるNOx等の浄化率の低下を招くような空燃比状態になるような事態も防止できる。尚、この場合、内燃機関のアイドリング状態では、NOx以外のCO、HC等の浄化対象成分の触媒装置による浄化率は一般に前記所定の運転状態以外の運転状態よりも低くなるものの、該アイドリング状態では排ガスの流量自体が他の運転状態よりも小さい。このため、アイドリング状態でも触媒装置通過後の排ガス中のCO、HC等の量を十分に小さくでき、触媒装置による所要の浄化性能を十分に確保できる。
【0019】
さらに、本発明では、前記所定の運転状態には、前記内燃機関の負荷が所定値以上となる運転状態を含ませることが好ましい。この場合、前記目標値設定手段は、前記内燃機関の負荷が前記所定値以上であるとき、該負荷の増加に伴い前記目標値に対応する排ガスの空燃比状態がよりリッチ側の空燃比状態になるように該目標値を負荷に応じて設定することが好ましい。ここで、内燃機関の負荷は、内燃機関の吸入空気あるいは排ガスの流量により表されるものであり、例えばそれらの流量を検出するフローセンサを備えた場合には該センサの検出値を内燃機関の負荷を表すものとして用いることができる。また、吸入空気や排ガスの流量は、例えば内燃機関の回転数及び吸気圧(吸気管内圧)の検出値、あるいは燃料供給量の指令値等から推定することも可能であり、その推定値を内燃機関の負荷を表すものとして用いてもよい。
【0020】
すなわち、内燃機関の負荷が所定値以上であるとき、該負荷の増加に伴い、触媒装置に供給される排ガス中のNOxの濃度が増加していく傾向がある。また、前述したように、触媒装置によるNOxの浄化率は、リーン側寄りの空燃比状態よりもリッチ側寄りの空燃比状態の方が高くなる傾向がある。従って、内燃機関の負荷の増加に伴い前記目標値に対応する排ガスの空燃比状態(排ガスセンサの出力が該目標値になるような空燃比状態)がよりリッチ側の空燃比状態になるように該目標値を内燃機関の負荷に応じて設定することで、該内燃機関の負荷の増加に伴い、触媒装置によるNOxの浄化率を高めていくことができる。換言すれば、内燃機関の負荷の増加による排ガス中のNOxの濃度の増加に合わせるようにしてNOxの浄化率を高めていくことができる。この場合、NOxの浄化率を高めると、前述したようにCO、HC等、NOx以外の浄化対象成分の触媒装置による浄化率は低下するものの、内燃機関の負荷の増加に対するNOx以外の浄化対象成分の浄化率の低下幅は、内燃機関の負荷の増加に対するNOxの浄化率の低下幅に比して極めて小さい。このため、内燃機関の負荷の増加に合わせてNOxの浄化率を高めつつ、NOx以外の浄化対象成分の触媒装置による浄化率の低下を最小限にとどめることができる。従って、触媒装置によるNOxの浄化を必要十分に行いながら、NOx以外のCO、HC等の浄化対象成分の浄化も十分な浄化率で行うことができる。さらに、内燃機関の負荷の増加に合わせて目標値を変化させるので、該目標値の急変を防止することができ、ひいては、該目標値に応じた排ガスの空燃比制御の安定性を確保することができる。
【0021】
また、排ガスセンサの出力特性(前記特定成分の濃度に応じた出力レベルの特性)は、一般に、該排ガスセンサの素子部(排ガスに接触して前記特定成分に感応する部分)の温度状態の影響を受けて変化する。このため、排ガスの空燃比状態をある所望の空燃比状態に制御するための前記排ガスセンサの出力の目標値も、排ガスセンサの素子部の温度状態によって変化する。そこで、本発明では、前記目標値設定手段が前記内燃機関の運転状態に応じて設定する前記目標値(内燃機関の運転状態が前記所定の運転状態であるか否かに応じて設定する目標値)を、前記排ガスセンサの前記排ガスの特定成分に感応する素子部の温度状態が所定の温度状態であるとした場合における排ガスセンサの出力の目標値とする。そして、該目標値を排ガスセンサの素子部の温度状態に応じて補正する手段を備えることが好ましい。このようにすることにより、前述のように内燃機関の運転状態に応じて触媒装置によるNOx等の浄化率を好適に調整し得る目標値を、排ガスセンサの素子部の温度状態によらずに適正に設定することができる。その結果、触媒装置による排ガスの浄化性能を確実に高めることができる。
【0022】
尚、上記のように排ガスセンサの素子部の温度状態に応じて目標値を補正する場合、該素子部の温度状態を把握する必要がある。この場合、該素子部の温度状態は、温度センサを用いて直接的に把握してもよいことはもちろん、排ガスの温度の検出値もしくは推定値等のパラメータから推定して把握するようにしてもよい。
【0023】
また、本発明では、排ガスセンサの素子部の温度による出力特性の変化の影響を極力少なくするために、前記素子部を加熱するヒータと、該素子部の温度を所定温度に維持するように該ヒータを制御するヒータ制御手段とを備えるようにしてもよい。これによれば、排ガスセンサの素子部の温度が変化するのを極力抑え、該素子部の温度、ひいては排ガスセンサの出力特性を極力安定化することができる。このため、排ガスセンサの素子部の温度の影響を補償し、触媒装置によるNOx等の浄化対象成分の所要の浄化率を得るための排ガスセンサの出力の目標値を好適に設定することができる。
【0024】
尚、このように素子部の温度を制御するようにした場合、素子部の温度状態に応じて排ガスセンサの出力の目標値を補正することは必ずしも必要ではないが、素子部の温度状態に応じた目標値の補正を併せて行うようにしてもよい。すなわち、素子部の温度は、内燃機関の運転状態の変化に伴う排ガスの温度の変化等、種々の外乱の影響を受けるので、素子部の温度を所定温度に十分に安定に維持することが困難となる場合もある。そして、このような場合には、前記素子部の温度状態に応じて排ガスセンサの出力の目標値を補正することで、素子部の温度の所定温度に対する温度変化の影響を適正に補償することができる。
【0025】
また、前記素子部の所定温度は、排ガスセンサの出力特性を安定化する上では基本的には一定値であることが望ましいが、内燃機関の始動直後や、大気温度が比較的低いような場合には、ヒータの過熱等を防止するために、通常の場合よりも目標とする素子部の所定温度を低くしたりするようにしてもよい。また、素子部の温度を所定温度に維持するように制御する場合、例えば素子部の温度の検出値もしくは推定値と、素子部の目標温度としての所定温度との偏差等に応じたフィードバック制御処理によりヒータへのエネルギー供給量をヒータ制御手段により制御するようにすればよい。あるいは、素子部の温度とヒータの温度とは比較的高い相関性を有するため、例えば、ヒータの温度の検出値もしくは推定値と、素子部の目標温度(所定温度)に対応するヒータの目標温度との偏差等に応じてフィードバック制御処理によりヒータへのエネルギー供給量をヒータ制御手段により制御し、それにより間接的に素子部の温度を所定温度に維持するようにしてもよい。
【0026】
【発明の実施の形態】
本発明の一実施形態を図1〜図12を参照して説明する。図1は、本実施形態の装置の全体構成を模式的に示すブロック図である。同図中、1は例えば自動車やハイブリッド車に搭載されたエンジン(内燃機関)であり、このエンジン1が燃料及び空気の混合気を燃焼させて生成する排ガスは、該エンジン1の排気ポート2に連通する排気通路3を介して大気側に排出される。排気通路3には、排ガスを浄化するための触媒装置4,5が上流側から順次介装されている。排気通路3のうち、触媒装置4の上流側の部分(排気ポート2と触媒装置4の間の部分)と、両触媒装置4,5の間の部分と、触媒装置5の下流側の部分とはそれぞれ管状の排気管6a,6b,6cにより構成されている。
【0027】
各触媒装置4,5はそれぞれ触媒7(本実施形態では三元触媒)を内蔵するものである。この触媒7は、表面に白金等の貴金属を担持させたハニカム構造の通路形成物であり、その内部を排ガスが流れるようになっている。そして、該触媒7は、排ガス中のCO(一酸化炭素)、HC(ハイドロカーボン)、NOx(窒素酸化物)等を浄化対象成分として、これらの浄化対象成分を酸化、還元反応により浄化する。尚、触媒装置4,5は一体構造のもの(例えば同一のケース内に三元触媒からなる二つの触媒床を上流部と下流部とに内蔵したもの)であってもよい。
【0028】
本実施形態の装置では、基本的には触媒装置4の良好な浄化性能(触媒装置4によるCO、HC、NOxの浄化性能)を確保するようにエンジン1の排ガスの空燃比を制御する。そして、この空燃比制御を行うために、触媒装置4,5の間の排気通路3(排気管6bにより形成される排気通路)にO2センサ8が配置され、触媒装置4の上流側の排気通路3(排気管6aにより形成される排気通路)に広域空燃比センサ9が配置されている。尚、触媒装置4,5が前述のように一体構造で、二つの触媒床を内蔵したものである場合には、O2センサ8は、上流側の触媒床と下流側の触媒床との間に配置するようにすればよい。
【0029】
ここで、O2センサ8は、本発明における排ガスセンサに相当するものであり、その基本構造や特性等をさらに説明する。このO2センサ8は、図2に模式的に示すように、酸素イオンを通しやすい固体電解質、例えば安定ジルコニア(ZrO2+Y2O3)を主材質とする有底筒形状の素子部10(感応部)を備え、この素子部10の外面及び内面には、それぞれ、多孔質の白金電極11,12がコーティングされている。また、この素子部10の内部には、該素子部10の昇温・活性化や温度制御等を行うために電熱ヒータとしての棒状のセラミックヒータ13(以下、単にヒータ13という)が挿入されると共に、ヒータ13の周囲の空間には一定酸素濃度(一定の酸素分圧)の空気が充填されている。そして、このO2センサ8は、その素子部10の先端部の外面が排気管6b内の排ガスに接触するようにセンサ筐体14を介して排気管6bに装着されている。
【0030】
尚、図2中、15は、排気管6b内の素子部10に異物等が当たらないようにするための筒状のプロテクタであり、排気管6b内の素子部10は、プロテクタ15に穿設されている複数の孔(図示省略)を介して排ガスに接触するようになっている。
【0031】
かかる構造のO2センサ8では、素子部10の先端部外面に接触する排ガスの酸素濃度と素子部10の内部の空気の酸素濃度との差によって、前記白金電極11,12間に排ガスの酸素濃度に応じた起電力が生じる。そして、該O2センサ8は、その起電力を図示しない増幅器で増幅してなる出力電圧Voutを外部に出力する。
【0032】
この場合、排ガスの酸素濃度、あるいは該酸素濃度から把握される排ガスの空燃比に対するO2センサ8の出力電圧Voutの特性(出力特性)は、基本的には図3に実線のグラフaで示すような特性(所謂Zカーブ特性)となる。尚、図3の実線のグラフaは、より詳しくは、素子部10の温度が800℃であるときのO2センサ8の出力特性を示すグラフである。素子部10の温度とO2センサ8の出力特性との関係については後述する。
【0033】
図3のグラフaに見られるように、O2センサ8の出力特性は、一般的に、排ガスの酸素濃度により表わされる空燃比が理論空燃比近傍の狭い空燃比域Δに存する状態でのみ、出力電圧Voutが排ガスの空燃比に対してほぼリニアに高感度な変化を示す。つまり、その空燃比域Δ(以下、高感度空燃比域Δという)において、空燃比の変化に対する出力電圧Voutの変化の傾き(出力特性のグラフの傾き)が大きなものとなる。そして、その高感度空燃比域Δよりもリッチ側の空燃比域とリーン側の空燃比域とでは、排ガスの空燃比の変化に対する出力電圧Voutの変化の傾き(出力特性のグラフの傾き)が微小なものとなる。
【0034】
尚、前記広域空燃比センサ9は、ここでの詳細な説明は省略するが、例えば特開平4−369471号公報にて本願出願人が開示した空燃比センサであり、O2センサ8よりも広い空燃比域において、排ガスの空燃比に対してリニアに変化する出力電圧KACTを発生するセンサである。以下の説明では、O2センサ8の出力電圧Vout、広域空燃比センサ9の出力電圧KACTをそれぞれ単に出力Vout、KACTという。
【0035】
本実施形態の装置は、さらに排ガスの空燃比制御やO2センサ8の素子部10の温度制御等の処理を実行するコンントロールユニット16を備えている。このコントロールユニット16は、図示を省略するCPU、RAM、ROMを含むマイクロコンピュータにより構成されたものであり、後述の制御処理を実行するために、前記O2センサ8、広域空燃比センサ9からそれらの出力Vout,KACTが入力されると共に、エンジン1に備えられたセンサ(図示省略)からエンジン1の回転数NE(回転速度)、吸気圧PB(詳しくはエンジン1の吸気管内圧の絶対圧)、大気温度TA、機関温度TW(詳しくはエンジン1の冷却水温)等の検出値を示すデータが与えられる。さらに、コントロールユニット16には、エンジン1の点火装置(図示省略)やコントロールユニット16、前記セラミックヒータ13等の電装品の電源としてのバッテリ(図示省略)の電圧VB(以下、バッテリ電圧VBという)の検出値を示すデータが図示しないセンサから与えられる。
【0036】
尚、エンジン1の回転数NE、吸気圧PB、大気温度TA、機関温度TWの検出データは、エンジン1の基本的な運転状態に関するデータであり、後述する空燃比制御手段17や排気温オブザーバ19等、コントロールユニット16の各種の処理に用いられる。また、バッテリ電圧VBの検出データは、本実施形態では後述の素子温オブザーバ20の処理に用いられる。また、O2センサ8、広域空燃比センサ9のそれぞれの出力Vout,KACTは、空燃比制御手段17の処理に用いられる。
【0037】
上記コントロールユニット16は、その処理の機能的手段として、エンジン1の排ガスの空燃比を制御する空燃比制御手段17と、その空燃比制御のためのO2センサ8の出力Voutの目標値Vtgtを逐次設定するO2出力目標値設定手段18と、O2センサ8の配置箇所近傍での排ガス温度Tgdの推定値を逐次求める排ガス温オブザーバ19と、O2センサ8の素子部10の温度TO2(以下、素子温度TO2という)の推定値を逐次求める素子温オブザーバ20と、素子温度TO2の目標値Rを設定する素子温目標値設定手段21と、その素子温度TO2の目標値Rと素子温オブザーバ20による素子温度TO2の推定値とを用いて該目標値Rに素子温度TO2を収束させるように前記ヒータ13への供給電力(ヒータ13の発熱用エネルギー)を制御するヒータコントローラ22とを備えている。
【0038】
この場合、排気温オブザーバ19が求める排ガス温度Tgdの推定値は、素子温オブザーバ20の推定処理に用いられ、素子温オブザーバ20が求める素子温度TO2の推定値は、O2出力目標値設定手段18及びヒータコントローラ22の処理に用いられ、素子温目標値21が求める目標値Rは、ヒータコントローラ22の処理に用いられる。コントロールユニット16の機能的手段のうち、O2出力目標値設定手段18は、本発明の第1の態様における目標値設定手段に相当するものである。また、素子温オブザーバ20が求める素子温度TO2の推定値は、O2センサ8の素子部10の温度状態を表すものである。
【0039】
ここで、本実施形態では、前記ヒータ13は、図示を省略するヒータ通電回路にパルス電圧を付与することにより通電制御(PWM制御)されるものであり、該ヒータ13への供給電力は、そのパルス電圧のデューティDUT(パルス電圧の1周期に対するパルス幅の割合)を調整することによって制御できる。このため、ヒータコントローラ22は、上記ヒータ通電回路に付与するパルス電圧のデューティDUTをヒータ13を制御するための制御入力(操作量)として逐次求め、このデューティDUTを調整することにより、該ヒータ13への供給電力、ひいては、該ヒータ13の発熱量を制御するようにしている。尚、ヒータコントローラ22が生成するデューティDUTは、O2センサ8のヒータ13の制御に用いられる他、素子温オブザーバ20の処理にも用いられる。
【0040】
コントロールユニット16の上述の各機能的手段をさらに詳説する。まず、排気温オブザーバ19は、本実施形態では、エンジン1の排気ポート2からO2センサ8の配置箇所までの排気通路3(O2センサ8の上流側の排気通路3)を該排気通路3の延在方向(排ガスの流れ方向)に沿って複数(本実施形態では例えば4個)の部分排気通路3a〜3dに区分けしておき、所定のサイクルタイム(周期)で、排気ポート2(排気通路3の入り口部分)における排ガスの温度と、各部分排気通路3a〜3dにおける排ガスの温度(詳しくは各部分排気通路3a〜3dの下流端における排ガスの温度)とを上流側のものから順番に推定するものである。これらの部分排気通路3a〜3dのうち、部分排気通路3a,3bは、触媒装置4の上流側の排気通路3(排気管6aにより形成された排気通路)を2つに区分けしてなる部分排気通路であり、部分排気通路3cは、触媒装置4の入り口から出口までの部分排気通路(触媒装置4の触媒7の内部に形成された排気通路)、部分排気通路3dは、触媒装置4の出口からO2センサ8の配置箇所までの排気管6bにより形成された部分排気通路である。この排気温オブザーバ19のアルゴリズムは次のように構築されている。
【0041】
まず、エンジン1の排気ポート2における排ガス温度は、エンジン1の定常的な運転状態(詳しくはエンジン1の回転数NE及び吸気圧PBが一定に維持される運転状態で)では、基本的にはエンジン1の回転数NEと吸気圧PBとに応じたものとなる。従って、排気ポート2における排ガス温度は、基本的にはエンジン1の運転状態を表すパラメータとしての回転数NE及び吸気圧PBの検出値から例えばあらかじめ実験等に基づいて定めたマップに基づいて推定することができる。但し、エンジン1の運転状態(回転数NEや吸気圧PB)が変動する場合には、排ガスと排気ポート2の近傍の壁部やエンジン1の燃焼室等との熱交換によって、排気ポート2における排ガス温度は、上記のようにマップにより求められる排ガス温度(以下、基本排ガス温度TMAP(NE,PB)という)に対して応答遅れを生じる。
【0042】
そこで、本実施形態では、排気温オブザーバ19は、所定のサイクルタイム(演算処理周期)毎に、エンジン1の回転数NE及び吸気圧PBの検出値(最新の検出値)から基本排ガス温度TMAP(NE,PB)をマップにより求めた後に、さらに排気ポート2における排ガス温度Texgを、次式(1)のように基本排ガス温度TMAP(NE,PB)に対して遅れ(一次遅れ)を伴って追従する値として逐次推定する。
【0043】
【数1】
ここで、式(1)中のkは、排気温オブザーバ19の演算処理周期の番数である。また、Ktexはあらかじめ実験等に基づき定められた係数(遅れ係数)であり、0<Ktex<1である。尚、本実施形態では、エンジン1の吸気圧PBは、エンジン1の吸入空気量を表すパラメータとしての意味をもつものである。従って、例えば吸入空気量を直接的に検出するフローセンサが備えられている場合には、そのフローセンサの出力(吸入空気量の検出値)を吸気圧PBの検出値の代わりに用いてもよい。また、排ガス温度Texgの推定値の初期値Texg(0)は、本実施形態では、後述するように、エンジン1の運転開始時(エンジン1の始動時)に大気温度センサ(図示省略)により検出された大気温度TA、あるいは、機関温度センサ(図示省略)により検出された機関温度TW(エンジン1の冷却水温)に設定される。
【0044】
このようにして求められる排気ポート2の排ガス温度Texgの推定値を用いて、各部分排気通路3a〜3dにおける排ガスの温度は以下に説明するように推定される。まず、説明の便宜上、一般的に、図5に示すように、大気中でZ軸方向に延びる円管23内を流体が円管23の管壁と熱交換しながら流れる場合における熱伝達に関して説明する。ここで、流体温度Tg、管壁の温度Tw(以下、円管温度Twという)が時刻tとZ軸方向の位置zとの関数Tg(t,z)、Tw(t,z)であるとし、円管23の管壁の熱伝導率は径方向に無限大で、且つZ軸方向には「0」であると仮定する。また、流体と円管23の管壁との間の熱伝達、並びに、円管23の管壁とその外部の大気との間の熱伝達は、ニュートンの冷却則に従ってそれぞれの温度差に比例するものとする。このとき、次式(2−1)、(2−2)が成立する。
【0045】
【数2】
ここで、Sg、ρg、Cgはそれぞれ流体の密度、比熱、流路断面積、Sw、ρw、Cwはそれぞれ円管23の管壁の密度、比熱、断面積、Vは円管23を流れる流体の流速、TAは円管23の外部の大気温度である。また、Uは円管23の内周長、α1は流体と円管23の管壁との間の熱伝達率、α2は円管23の管壁と大気との間の熱伝達率である。尚、大気温度TAは、円管23の周囲で一定に維持されているとする。
【0046】
これらの式(2−1)、(2−2)を整理すると、次式(3−1)、(3−2)が得られる。
【0047】
【数3】
但し、これらの式(3−1)、(3−2)において、a,b,cは定数であり、a=α1・U/(Sg・ρg・cg)、b=α1・U/(Sw・ρw・cw)、c=α2・U/(Sw・ρw・cw)である。
【0048】
式(3−1)の右辺第1項は、位置zでの流体の流れ方向の温度勾配と流体の流速とに応じた流体温度Tgの時間的変化率(単位時間当たりの温度変化量)を表す移流項である。また、式(3−1)の右辺第2項は、位置zでの流体温度Tgと円管温度Twとの偏差に応じた流体温度Tgの時間的変化率(単位時間当たりの温度変化量)、すなわち、流体と円管23の管壁との間の熱伝達に伴う流体温度Tgの時間的変化率を表す熱伝達項である。従って、この式(3−1)は、位置zでの流体温度Tgの時間的変化率∂Tg/∂tが、上記移流項の温度変化成分と、上記熱伝達項の温度変化成分とに応じたもの(それらの温度変化成分の総和)になるということを示すものである。
【0049】
また、式(3−2)の右辺第1項は、位置zでの円管温度Twと流体温度Tgとの偏差に応じた円管温度Twの時間的変化率(単位時間当たりの温度変化量)、すなわち、位置zでの流体と円管23の管壁との間の熱伝達に伴う円管温度Twの時間的変化率を表す熱伝達項である。また、式(3−2)の右辺第2項は、位置zでの円管温度Twと外部の大気温度TAとの偏差に応じた円管温度Twの時間的変化率(単位時間当たりの温度変化量)、すなわち、位置zでの円管23の管壁から大気への放熱に応じた円管温度Twの時間的変化率を表す放熱項である。そして、式(3−2)は、位置zでの円管温度Twの時間的変化率∂Tw/∂tが、上記熱伝達項の温度変化成分と放熱項の温度変化成分とに応じたもの(それらの温度変化成分の総和)になるということを示すものである。
【0050】
これらの式(3−1)、(3−2)を差分法によって書き改めて整理すると次式(4−1),(4−2)が得られる。
【0051】
【数4】
これらの式(4−1)、(4−2)は、位置z、時刻tでの流体温度Tg(t,z)及び円管温度Tw(t,z)と、位置zの直前(上流側)の位置z-Δzにおける時刻tでの流体温度Tg(t,z-Δz)とが判れば、位置zにおける次の時刻t+Δtでの流体温度Tg(t+Δt,z)、Tw(t+Δt,z)を求めることができ、さらにこれらの式を直列的に連立させることで、位置z+Δz、z+2Δz、……での流体温度Tg及び円管温度Twを順番に求めることができることを意味する。つまり、各位置z、z+Δz、z+2Δz、…でのTg、Twの初期値(t=0での初期値)を与えるとともに、円管23のZ軸方向の任意の原点(例えば円管23の入り口)の流体温度Tg(t,0)を与えれば(ここではz-Δz=0とする)、位置z、z+Δz、z+2Δz、…における各時刻t、t+Δt、t+2Δt、…でのTg、Twを算出できる。
【0052】
この場合、位置zでの流体温度Tg(t,z)は、所定時間毎に、流速Vと位置zでの温度勾配とに応じた温度変化成分(式(4−1)の第2項が表す温度変化成分)と、位置zでの流体温度Tgと円管温度Twとの偏差に応じた温度変化成分(式(4−1)の第3項が表す温度変化成分)とを、初期値Tg(0,z)に累積加算(積分)することにより算出できる。他の位置z+Δz、z+2Δz、…についても同様である。また、位置zでの円管温度Tw(t,z)は、所定時間毎に、位置zでの流体温度Tgと円管温度Twとの偏差に応じた温度変化成分(式(4−2)の第2項が表す温度変化成分)と、位置zでの円管温度Twと大気温度TAと偏差に応じた温度変化成分(式(4−2)の第3項が表す温度変化成分)を、初期値Tw(0,z)に累積加算(積分)することにより算出できる。
【0053】
そこで、本実施形態では、排気温オブザーバ19は、式(4−1)、(4−2)のモデル式を基本式として用い、各部分排気通路3a〜3dにおける排ガスの温度を次のようにして求める。
【0054】
まず、部分排気通路3a〜3dのうち、部分排気通路3a,3bは、いずれも排気管6aを通路形成物として形成されている。そして、本実施形態では、これらの部分排気通路3a,3bにおける排ガスの温度を推定するために、前記円管23に関して説明した場合と同様に、排ガスの流速と温度勾配(排ガスの流れ方向での温度勾配)とに応じた温度変化と、排ガスと排気管6aとの間の熱伝達と、排気管6aから大気への放熱とを考慮する。
【0055】
この場合、部分排気通路3aにおける排ガス温度Tgaの推定値は、部分排気通路3aにおける排気管6aの温度Twa(以下、排気管温度Twaという)の推定値と併せて、排気温オブザーバ19の処理のサイクルタイム毎に、次の熱モデルの式(5−1)、(5−2)により求められる。また、部分排気通路3bにおける排ガスの温度Tgbの推定値は、部分排気通路3bにおける排気管温度Twbの推定値と併せて、排気温オブザーバ19の処理のサイクルタイム毎に、次の熱モデルの式(6−1)、(6−2)により求められる。尚、式(5−1)、(5−2)により求められる排ガス温度Tga及び排気管温度Twaはより詳しくは、部分排気通路3aの下流端近傍における温度の推定値である。同様に、式(6−1)、(6−2)により求められる排ガス温度Tgb及び排気管温度Twbはより詳しくは、部分排気通路3bの下流端近傍における温度の推定値である。
【0056】
【数5】
【0057】
【数6】
これらの式(5−1)、(5−2)、(6−1)、(6−2)中のdtは、排気温オブザーバ19の処理の周期(サイクルタイム)であり、前記式(4−1)、(4−2)のΔtに相当する。このdtの値はあらかじめ定められている。また、式(5−1)、(6−1)中のLa,Lbはそれぞれ部分排気通路3a,3bの長さ(固定値)であり、前記式(4−1)のΔzに相当する。また、式(5−1)、(5−2)中のAa,Ba,Ca、並びに式(6−1)、(6−2)中のAb,Bb,Cbは、それぞれ式(4−1)、(4−2)のa,b,cに相当するモデル係数であり、それらの値はあらかじめ実験やシミュレーションに基づいて設定(同定)される。また、式(5−1)、(6−1)中のVgは排ガスの流速を示すパラメータ(これは後述するように求められる)であり、式(4−1)のVに相当するものである。
【0058】
ここで、式(5−1)により排ガス温度Tgaの新たな推定値Tga(k+1)を算出するために必要な排ガス温度Texg(k)(排気ポート2における排ガス温度)は、基本的には前記式(1)により求められた最新値が用いられる。同様に、式(6−1)により排ガス温度Tgbの新たな推定値Tgb(k+1)を算出するために必要な排ガス温度Tga(k)(部分排気通路3aにおける排ガス温度)は、基本的には前記式(5−1)により求められた最新値が用いられる。また、式(5−2)、(6−2)の演算に必要な大気温度TA(k)は、図示しない大気温度センサ(これは本実施形態ではエンジン1に備えらたセンサが代用的に用いられる)により検出された大気温度TAの最新値が用いられる。さらに、式(5−1)、(6−1)の演算に必要な流速パラメータVgは、本実施形態では、エンジン1の回転数NE及び吸気圧PBの最新の検出値から、次式(7)により算出された値が用いられる。
【0059】
【数7】
この式(7)中のNEBASE、PBBASEは、それぞれあらかじめ定めた所定回転数、所定吸気圧であり、それぞれ例えばエンジン1の最大回転数、760mmHg(≒101kPa)に設定されている。この式(7)により算出される流速パラメータVgは排ガスの流速に比例し、また、Vg≦1となる。
【0060】
尚、排ガス温度Tga及び排気管温度Twa、並びに排ガス温度Tgb及び排気管温度Twbのそれぞれの推定値の初期値Tga(0)、Twa(0)、Tgb(0)、Twb(0)は、本実施形態では、後述するように、エンジン1の運転開始時(エンジン1の始動時)に前記大気温度センサ(図示省略)により検出された大気温度TA、あるいは、機関温度センサ(図示省略)により検出された機関温度TW(エンジン1の冷却水温)に設定される。
【0061】
次に、部分排気通路3cは、触媒装置4の触媒7を通路形成物として形成された排気通路である。そして、この触媒7はその排ガス浄化作用(詳しくは酸化・還元反応)によって自己発熱を伴い、その発熱量(単位時間当たりの発熱量)は概ね排ガスの流速に比例する。これは、排ガスの流速が大きい程、単位時間当たりに触媒7と反応する排ガス成分が多くなるためである。
【0062】
そこで、本実施形態では、部分排気通路3cにおける排ガス温度の推定に関しては、その推定を精度よく行うために、排ガスの流速と温度勾配とに応じた温度変化と、排ガスと触媒装置4の触媒7との間の熱伝達と、該触媒7から大気への放熱とを考慮することに加えて、さらに、該触媒7の自己発熱を考慮する。
【0063】
この場合、部分排気通路3cにおける排ガス温度Tgcの推定値は、部分排気通路3cを形成する触媒7の温度Twc(以下、触媒温度Twcという)の推定値と併せて、排気温オブザーバ19の処理のサイクルタイム毎に、次の熱モデルの式(8−1)、(8−2)により求められる。尚、式(8−1)により求められる排ガス温度Tgc及び触媒温度Twcはより詳しくは、部分排気通路3aの下流端(触媒装置4の出口近傍)における温度の推定値である。
【0064】
【数8】
式(8−1)中のLcは部分排気通路3cの長さ(固定値)であり、前記式(4−1)のΔzに相当する。また、式(8−1)、(8−2)中のAc,Bc,Ccは、それぞれ式(4−1)、(4−2)のa,b,cに相当するモデル係数であり、それらの値はあらかじめ実験やシミュレーションに基づいて設定(同定)される。また、式(8−2)の右辺第4項は、触媒装置4の触媒7の自己発熱による触媒7の温度変化成分(排気温オブザーバ19の処理の1周期当たりの温度変化量)を示すものであり、流速パラメータVgに比例する。そして、この第4項のDcは、前記Ac〜Ccと同様に、その値があらかじめ実験やシミュレーションに基づいて設定(同定)されるモデル係数である。従って、式(8−2)は、前記式(4−2)の右辺に、さらに通路形成物(ここでは触媒7)の自己発熱に伴う温度変化成分を付加したものに相当する。
【0065】
尚、式(8−1)、(8−2)中のdt、Vgの意味及びその値は、前記式(5−1)〜(6−2)のものと同一である。また、式(8−2)の演算で用いるTAの値は、前記式(5−2)、(6−2)で用いるものと同一である。さらに、排ガス温度Tgc及び触媒温度Twcの初期値Tgc(0)、Twc(0)は、本実施形態では、式(5−1)〜(6−2)の場合と同様、エンジン1の運転開始時における大気温度TAの検出値、あるいは機関温度TWの検出値である。
【0066】
次に、部分排気通路3dは、それを形成する通路形成物が、前記部分排気通路3a,3bと同様の排気管6bである。従って、この部分排気通路3dの排気温度Tgd及び排気管温度Twd(より詳しくは部分排気通路3dの下流端における温度)は、前記式(5−1)〜(6−2)と同様の次の熱モデルの式(9−1)、(9−2)により求められる。
【0067】
【数9】
式(9−1)中のLdは部分排気通路3dの長さ(固定値)であり、前記式(4−1)のΔzに相当する。また、式(9−1)、(9−2)中のAd,Bd,Cdは、それぞれ式(4−1)、(4−2)のa,b,cに相当するモデル係数であり、それらの値はあらかじめ実験やシミュレーションに基づいて設定(同定)される。
【0068】
尚、式(9−1)、(9−2)中のdt、Vgの意味及びその値は、前記式(5−1)〜(6−2)のものと同一である。また、式(9−2)の演算で用いるTAの値は、前記式(5−2)、(6−2)、(8−2)で用いるものと同一である。さらに、排ガス温度Tgd及び触媒温度Twdの推定値の初期値Tgd(0)、Twd(0)は、式(5−1)〜(6−2)の場合と同様、エンジン1の運転開始時における大気温度TAの検出値、あるいは機関温度TWの検出値である。
【0069】
以上説明した排気温オブザーバ19の処理によって、各サイクルタイム毎に、エンジン1の排気ポート2及び各部分排気通路3a〜3dの排ガス温度Texe、Tga、Tgb、Tgc、Tgdの推定値が上流側から順番に求められる。別の言い方をすれば、排気温オブザーバ19は、エンジン1の運転状態を表すパラメータ(本実施形態ではNE、PB)を用いて、排気ポート2における排ガス温度Texgの推定値を求め、さらに、その排気ポート2から排ガスがO2センサ8の配置箇所近傍まで流れる過程での該排ガスの温度変化を表す熱モデルの式(5−1),(5−2)〜(9−1),(9−2)と、排気ポート2における排ガス温度Texgの推定値とを用いて最下流側の部分排気通路3dの排ガス温度Tgdの推定値を求める。
この場合、最下流側の部分排気通路3dの排ガス温度Tgdの推定値は、O2センサ8の配置箇所近傍での排ガスの温度に相当するものとなり、該排ガス温度Tgdの推定値がO2センサ8の配置箇所近傍での排ガス温度の推定値として得られる。
【0070】
上記排気温オブザーバ19の推定処理のアルゴリズムをブロック図で表すと、図6に示すように表される。同図6では、前記式(1)のモデル式を排気ポート熱モデル24、前記式(5−1)及び(5−2)のモデル式と、式(6−1)及び(6−2)のモデル式とをそれぞれCAT前排気系熱モデル25,26、式(8−1)及び(8−2)のモデル式をCAT部排気系熱モデル27、式(9−1)及び(9−2)のモデル式をCAT後排気系熱モデル28と称している。同図示のように、各熱モデル24〜28には、エンジン1の回転数NE及び吸気圧PBの検出値が与えられる。尚、排気ポート熱モデル24に与えられるNE、PBは、基本排ガス温度TMAPを求めるためのものであり、排気系熱モデル25〜28に与えられるNE、PBは、前記流速パラメータVgの値を求めるためのものである。さらに、排気系熱モデル25〜28には、大気温度TAの検出値が与えられる。そして、CAT前排気系熱モデル25、CAT前排気系熱モデル26、CAT部排気系熱モデル27、CAT後排気系熱モデル28には、それぞれの一つ上位側の熱モデル24,25,26,27の出力としての排ガス温度Texg、Tga、Tgb、Tgcの推定値がそれぞれ与えられ、最終的にCAT後排気系熱モデル28により、O2センサ8の配置箇所近傍での排ガス温度Tgdの推定値(排ガスの温度を表す排ガス温度データ)が得られる。
【0071】
尚、本実施形態では、上述のように排ガス温度Tgdの推定値を求めるようにしたが、例えばO2センサ8の近傍に排ガス温度センサを配置し、その排ガス温度センサにより排ガス温度Tgdを検出するようにしてもよい。あるいはO2センサから排ガスの流れ方向で離間した箇所に配置された排ガス温度センサの検出値から、O2センサ8の配置箇所近傍での排ガス温度Tgdを推定するようにしてもよい。例えば、部分排気通路3aにおける排ガス温度Tgaを排ガス温度センサにより検出できる場合には、前記式(6−1)のTgaとして検出値を用いれば、式(6−1),(6−2)〜式(9−1),(9−2)によりO2センサ8の配置箇所近傍での排ガス温度Tgdを推定することができる。また、排ガス温度センサを用いずに排ガス温度Tgdを推定する場合においても、その推定値の求め方は前述のような手法に限られるものではない。例えば、エンジン1の排気系のレイアウトや構造等によって、排気ポート2における排ガス温度TexgとO2センサ8の配置箇所近傍での排ガス温度とがほぼ等しくなるような場合には、排ガス温度Texgの推定値をO2センサ8の配置箇所近傍での排ガス温度として用いてもよい。いずれにせよ、排ガス温度はエンジン1の運転状態と密接な関係があるので、排ガス温度センサを用いずに排ガス温度を精度よく推定する上では、少なくとも該エンジン1の運転状態を表すパラメータを用いることが好適である。そして、そのパラメータには、エンジン1の回転数及び吸入空気量の状態を表すパラメータを含ませることが好適である。また、本実施形態では、各部分排気通路3a〜3dの通路形成物(排気管6a、触媒装置4の触媒7、排気管6b)の温度を推定するために、エンジン1に備えた大気温度センサの検出値を代用するようにしたが、排気通路3の外方に大気温度センサを別途配置しておき、その大気温度センサの検出値を用いるようにしてもよい。
【0072】
次に、前記素子温オブザーバ20は、本実施形態では、O2センサ8の素子部10とこれに接触する排ガスとの間の熱伝達(熱授受関係)、素子部10からその内部の空気への放熱(熱授受関係)、並びに、該素子部10とこれを加熱するヒータ13との間の熱伝達(熱授受関係)を考慮して素子温度TO2を所定のサイクルタイム(演算処理周期)で逐次推定するものである。そして、この推定を行うためにヒータ13の温度Tht(以下、ヒータ温度Thtという)の推定も併せて行うようにしている。この場合、ヒータ温度Thtの推定処理においては、該ヒータ13と素子部10との間の熱伝達(熱授受関係)、並びにヒータ13から素子部10の内部の空気への放熱を考慮すると共に、該ヒータ13への電力供給(ヒータ13への発熱用エネルギーの供給)に伴う該ヒータ13の発熱を考慮する。このような推定処理を行う素子温オブザーバ20の推定アルゴリズムは以下に説明するように構築されている。
【0073】
すなわち、素子温オブザーバ20は、O2センサ8の素子温度TO2の推定値と、ヒータ温度Thtの推定値とを、それぞれ次の熱モデルの式(10−1)、(10−2)によりそれぞれ所定のサイクルタイム(演算処理周期)で逐次求める。式(10−1)は、素子温モデルの式であり、式(10−2)はヒータ温モデルの式である。
【0074】
【数10】
ここで、式(10−1)、(10−2)中のkは、素子温オブザーバ20の演算処理周期(これは本実施形態では前記排気温オブザーバ19の演算処理の周期と同一としている)の番数であり、TA’は素子部10の内部の空気の温度である。式(10−1)は、素子温オブザーバ20のサイクルタイム毎の素子部10の温度変化量が、排気温オブザーバ19が前述の通り推定する排ガス温度Tgd(O2センサ8の配置箇所近傍での排ガス温度)と素子温度TO2との偏差に応じた温度変化成分(式(10−1)の右辺第2項)、すなわち、素子部10とこれに接触する排ガスとの間の熱伝達に伴う温度変化成分(これは素子部10と排ガスとの間の熱授受関係を表す)と、素子温度TO2とヒータ温度Thtとの偏差に応じた温度変化成分(式(10−1)の右辺第3項)、すなわち、素子部10とヒータ13との間の熱伝達に伴う温度変化成分(これは素子部10とヒータ13との間の熱授受関係を表す)と、素子温度TO2と素子部10の内部の空気の温度TA’との偏差に応じた温度変化成分(式(1−1)の右辺第4項)、すなわち、素子部10からその内部の空気への放熱に伴う温度変化成分(これは素子部10とその内部の空気との間の熱授受関係を表す)とに応じたもの(それらの温度変化成分の総和)になるということを示している。
【0075】
また、式(10−2)は、サイクルタイム毎のヒータ13の温度変化量が、素子温度TO2とヒータ温度Thtとの偏差に応じた温度変化成分(式(10−2)の右辺第2項)、すなわち、素子部10とヒータ13との間の熱伝達に伴う温度変化成分(これは素子部10とヒータ13との間の熱授受関係を表す)と、ヒータ温度Thtと素子部10の内部の空気の温度TA’との偏差に応じた温度変化成分(式(10−2)の右辺第3項)、すなわちヒータ13から素子部10の内部の空気への放熱に伴う温度変化成分(これはヒータ13と素子部10の内部の空気との熱授受関係を表す)と、ヒータコントローラ22が後述するように生成するデューティDUT(より正確には、ヒータコントローラ22がヒータ13の通電を制御するために実際に用いるデューティDUT)とバッテリ電圧VBの2乗値VB2との積に応じた温度変化成分(式(10−2)の右辺第4項)、すなわちヒータ13への電力供給による該ヒータ13の発熱に伴う温度変化成分とに応じたもの(それらの温度変化成分の総和)になるということを示している。式(10−2)におけるデューティDUTは、本発明におけるヒータエネルギー供給量データに相当するものである。
【0076】
尚、式(10−1)、(10−2)中のAx,Bx,Cx,Dx,Ex,Fxは、その値があらかじめ実験やシミュレーションに基づいて設定(同定)されるモデル係数である。また、dtは素子温オブザーバ20のあらかじめ定めた演算処理周期(サイクルタイム)である。また、式(10−2)中のNVBは、バッテリ電圧VBのあらかじめ定めた基準値(例えば14V)である。該基準値は、基本的にはバッテリ電圧VBの標準的な電圧(通常的に採り得る電圧)で任意に設定すればよい。
【0077】
ここで、式(10−2)の右辺第4項に関して補足説明をしておくと、ヒータ13のPWM制御のデューティを一定とし、また、ヒータ13の通電抵抗値が一定であるとしたとき、ヒータ13の供給電力は、ヒータ13の印加電圧の2乗に比例し、該印加電圧は、バッテリ電圧VBに比例する。また、デューティDUTは、PWM制御用のパルス電圧の1周期当たりのヒータ13の通電時間を規定するものである。従って、このデューティDUTとバッテリ電圧VBの2乗値VB2との積がヒータ13への供給電力に比例するものとなる。そして、バッテリ電圧VBは、例えば、バッテリの充電用のオルタネータのON/OFF等によって変動する。そこで、式(10−2)では、ヒータ13への電力供給による該ヒータ13の発熱に伴う温度変化成分を得るために、デューティDUTとバッテリ電圧VBの2乗値VB2とを乗算するようにしている。
【0078】
尚、式(10−2)の演算に必要なデューティDUT(k)は、ヒータコントローラ22がヒータ13の通電制御(PWM制御)を行うために実際に使用したデューティDUTの最新値が用いられる。また、式(10−1),(10−2)の演算に必用な素子部10内の空気の温度TA’(k)は、本実施形態では、前記大気温度センサ(図示省略)により検出された大気温度TAの最新値が代用的に用いられる。従って、本実施形態ではTA’(k)=TA(k)である。さらに、素子温度TO2及びヒータ温度Thtの推定値の初期値TO2(0)、Tht(0)は、本実施形態では、後述するように、エンジン1の運転開始時における大気温度TAの検出値あるいは機関温度TWの検出値である。
【0079】
以上説明したアルゴリズムにより、素子温オブザーバ20は、素子温度TO2及びヒータ温度Thtの推定値を逐次算出する。尚、本実施形態では、熱モデルの式(10−1)、(10−2)には、それぞれ、素子部10とその内部の空気との間の熱授受関係を表す成分、ヒータ13と素子部10の内部の空気との間の熱授受関係を表す成分(式(10−1)の第4項、式(10−2)の第3項)を含めたが、これらの成分は、素子温度TO2、ヒータ温度Thtに及ぼす影響は比較的小さいので、これらの成分を省略するようにしてもよい。また、本実施形態では、O2センサ8がヒータ13を備えるものであるため、素子温度TO2の推定値を求めるために式(10−1)、(10−2)を用いたが、ヒータ13を備えない場合には、例えば式(10−1)の第3項を省略した式、あるいは、第3項及び第4項を省略した式によって、素子温度TO2の推定値を逐次求めることができる。式(10−1)の第3項及び第4項を省略した場合には、排ガス温度Tgdに応答遅れ(一次遅れ)を伴って追従する値が素子温度TO2の推定値として求められることとなる。また、本実施形態では素子温度TO2を推定するようにしたが、素子温度TO2を温度センサにより直接的に検出するようにしてもよい。
【0080】
次に、前記O2出力目標値設定手段19は、触媒装置4の主たる浄化対象成分としてのCO、HC、NOxの所要の浄化性能を確保する上で好適なO2センサ8の出力Voutの目標値Vtgtを設定するものである。ここで、O2センサ8の出力Voutと触媒装置4によるCO、HC、NOxの浄化率との関係について図4を参照して説明しておく。
【0081】
図4を参照して、触媒装置4による排ガス中のCO、HC、NOxの浄化率は、O2センサ8の素子温度TO2が一定であるとした場合、例えば図4に実線グラフのグループ、あるいは破線グラフのグループで例示するように、O2センサの出力Voutとの間に相関性を有する。ここで、図4の実線グラフのグループは、O2センサ8の素子温度TO2が例えば800℃である場合に対応するグラフ、破線グラフのグループは、素子温度TO2が650℃である場合に対応するグラフである。尚、素子温度TO2と浄化率との関係については後述する。
【0082】
図4の実線グラフあるいは破線グラフに見られるように、素子温度TO2が一定であるとき、CO、HC、NOxのそれぞれの浄化率が最大となるようなO2センサ8の出力Vout(これは排ガスの空燃比状態を表す)は浄化対象成分毎に多少相違するものとなる。基本的には、NOxの浄化率が最大となるようなO2センサ8の出力値(出力電圧値)は、CO、HCの浄化率が最大となるようなO2センサ8の出力値よりも多少高いものとなる。尚、本実施形態のO2センサ8は、図3に示したように排ガスの空燃比がよりリッチ側の空燃比であるほど、出力電圧が高くなるので、O2センサ8の出力値がより高いものとなるということは、排ガスの空燃比状態がよりリッチ側の空燃比状態であることを意味する。
【0083】
また、図4の実線のグラフもしくは破線のグラフにおいて、例えばO2センサ8の出力Voutが値Vop(より詳しくはTO2=800℃のときは図4中のVop(800℃)、TO2=650℃のときは図4中のVop(600℃))となるような排ガスの空燃比状態においては、触媒装置4によるCO、HC、NOxのそれぞれの浄化率はいずれもほぼ同等の浄化率になると共に比較的高い浄化率(例えば97%以上の浄化率)となる。従って、Vout=Vopとなるような排ガスの空燃比状態では、CO、HC、NOxのいずれの浄化対象成分についても触媒装置4による浄化を比較的高い浄化率で行うことができ、それらの浄化対象成分の浄化をバランスよく適正に行うことができる。尚、以下の説明では、触媒装置4によるCO、HC、NOxのそれぞれの浄化率のいずれもがほぼ同等になるようなO2センサ8の出力値を一般的に浄化適正出力Vopと称する。
【0084】
一方、排ガス中の各浄化対象成分のうち、NOxの濃度は、エンジン1を搭載した車両の発進時のようにエンジン1の回転数NEがアイドリング状態から上昇していくようなエンジン1の運転状態や、エンジン1の負荷(吸入空気もしくは排ガスの流量)が比較的大きなものとなるエンジン1の運転状態等、該エンジン1の特定の運転状態において、CO、HC等に比して高くなる傾向がある。尚、エンジン1の負荷と、排ガス中のNOxの濃度との関係については、エンジン1の負荷が大きくなることに伴い、排ガス中のNOxの濃度が高くなっていく傾向がある。
【0085】
そして、上記のように排ガス中のNOxの濃度が比較的高くなるようなエンジン1の運転状態では、触媒装置4による各浄化対象成分の浄化性能を総合的に適正に確保する上では、触媒装置4によるNOxの浄化率を高めることが望ましい。詳細は後述するが、このようなことから、前記O2出力目標値設定手段19は、基本的には、排ガス中のNOxの濃度が比較的低いものとなるようなエンジン1の運転状態では、触媒装置4によるCO、HC、NOxのそれぞれの浄化率のいずれもがほぼ均等に比較的高いものとなるようなO2センサ8の出力値、すなわち、前記浄化適正出力VopをO2センサ8の出力Voutの目標値Vtgtとして設定するようにしている。また、O2出力目標値設定手段19は、排ガス中のNOxの濃度が比較的高いものとなるようなエンジン1の運転状態(本発明における所定の運転状態)では、前記浄化適正出力VopよりもNOxの浄化率がより高まるようなO2センサ8の出力値(例えば図4のVnox、あるいは、VopよりもVnox寄りの値)に設定するようにしている。
【0086】
ところで、上記の説明は、O2センサ8の素子温度TO2が一定であるとした場合の説明であるが、O2センサ8の出力特性は、図3に示すように素子温度TO2の影響を受けて変化する。例えば、素子温度TO2が800℃、750℃、700℃、600℃であるときのO2センサ8の出力特性は、それぞれ図3の実線のグラフa、破線のグラフb、一点鎖線のグラフb、二点鎖線のグラフdで示すような特性となる。この場合、図3を参照して明らかなように、特に750℃よりも低い温度域で素子温度TO2が変化すると、理論空燃比近傍(前記高感度空燃比域Δ)におけるO2センサ8の出力Voutの変化の傾き(感度)や、該高感度空燃比域Δよりもリッチ側における出力Voutのレベル等が変化しやすい。尚、素子温度TO2が750℃以上である場合には、素子温度TO2の変化に対するO2センサ8の出力特性の変化は微小になり、該出力特性がほぼ一定になる。
【0087】
そして、このようにO2センサ8の出力特性が素子温度TO2に応じて変化するため、O2センサ8の出力Voutと、触媒装置4による各浄化対象成分の浄化率との関係も、図4に例示したように素子温度TO2によって異なるものとなる。従って、図4の実線及び破線のグラフに見られるように、CO、HC、NOxのそれぞれの浄化率が最大となるようなO2センサ8の出力Voutや、それらの各浄化対象成分の浄化率がほぼ同等となるような浄化適正出力Vopは、素子温度TO2によって変化するものとなる。尚、前述のように750℃以上の素子温度TO2ではO2センサ8の出力特性はほぼ一定となるので、浄化適正出力Vopもほぼ一定(≒Vop(800℃))となる。また、750℃よりも低い素子温度TO2における浄化適正出力Vopや、各浄化対象成分の浄化率が最大となるようなO2センサ8の出力は、基本的には該素子温度TO2が低い程、大きくなっていく傾向がある。さらに、NOxの浄化率がほぼ最大となるようなO2センサ8の出力(図4のVnox等)と浄化適正出力Vopとの差は、素子温度TO2によらずにほぼ同等になる。例えばTO2=800℃において、NOxの浄化率がほぼ最大となるようなO2センサ8の出力Vnoxと浄化適正出力Vop(800℃)との差(Vnox−Vop(800℃))と、TO2=650℃においてNOxの浄化率がほぼ最大となるようなO2センサ8の出力Vnox’と浄化適正出力Vop(650℃)との差(Vnox’−Vop(650℃))とはほぼ同一になる。
【0088】
そこで、本実施形態では、O2出力目標値設定手段19は、前述のようにエンジン1の運転状態に応じて(排ガス中のNOxの濃度が比較的高いか否かに応じて)設定するO2センサ8の出力Voutの目標値を、O2センサ8の素子温度TO2が所定温度(例えば800℃)であるときの基本目標値とする。そして、この基本目標値を、前記素子温オブザーバ20が求める素子温度TO2の推定値(O2センサ8の素子部10の温度状態)に応じて補正することで、最終的にO2センサ8の出力Voutの目標値Vtgtを設定するようにしている。この補正は、本実施形態では、例えば上記基本目標値に、素子温度TO2の推定値に応じて定めた補正係数KVO2を乗算することにより行われる。そして、該補正係数KVO2は、素子温度TO2の推定値から例えば図11に示すようにあらかじめ定められたデータテーブルに基づいて求められる。この場合、本実施形態では、素子温度TO2が例えば800℃であるときを基準としていると共に、素子温度TO2が750℃以上であるときには、前述したようにO2センサ8の出力特性はほぼ一定となるので、図11のデータテーブルでは、TO2≧750℃の温度域では、KVO2=1とされている。但し、TO2≧750℃の温度域において、素子温度TO2に応じたO2センサ8の出力特性の僅かな変化等に起因して、O2センサ8の出力特性が厳密に一定になるわけではないので750℃以上の温度域でも補正係数KVO2の値を素子温度TO2に応じて多少変化させるようにしてもよい。また、TO2<750℃の温度域では、素子温度TO2の低下に伴い補正係数KVO2の値が「1」よりも大きな値に増加していくように図11のデータテーブルが設定されている。尚、本実施形態ではTO2=600℃のときの補正係数KVO2の値を上限値とし、TO2≦600℃の温度域では補正係数KVO2をその上限値に維持するようにしている。
【0089】
このような補正係数KVO2を前記基本目標値に乗算することにより、素子温度TO2によらずにCO、HC、NOxの所望の浄化率を得るためのO2センサ8の出力Voutの目標値Vtgtを求めることができることとなる。例えば、排ガス中のNOxの濃度が比較的少ないものとなるエンジン1の運転状態においてO2センサ8の出力の基本目標値を図4の浄化適正出力Vop(800℃)に設定したとき、O2センサ8の素子温度TO2の推定値が650℃であるときには、その基本目標値(=浄化適正出力Vop(800℃))に補正係数KVO2を乗算してなる目標値Vtgtは、図4の浄化適正出力Vop(650℃)にほぼ一致するものとなる。同様に、例えば排ガス中のNOxの濃度が比較的高いものとなるエンジン1の運転状態においてO2センサ8の基本目標値を図4の出力値Vopに設定したとき、素子温度TO2の推定値が650℃であるときには、その基本目標値Vnoxに補正係数KVO2を乗算してなる目標値Vtgtは、図4の出力値Vnox’(TO2=650℃であるときにNOxの浄化率がほぼ最大となるようなO2センサ8の出力値)にほぼ一致するものとなる。
【0090】
空燃比制御手段18は、上述したようにO2出力目標値設定手段19が設定する目標値Vtgt(前記基本目標値を補正係数KVO2で補正したもの)に、該O2センサ8の実際の出力Voutを収束(整定)させるように、触媒装置4にエンジン1から供給される排ガスの空燃比を制御する処理を実行するものである。この空燃比制御の技術自体は、公知の手法を適用すればよいので、ここでの詳細な説明は省略するが、例えば本願出願人が特開平11−324767号公報にて公開した明細書の段落番号[0071]〜[0362]に記載されているように行われる。すなわち、その概要を説明すると、エンジン1の排気系のうち、広域空燃比センサ9からO2センサ8にかけての触媒装置4を含む排気系(以下、ここでは参照符号Eを付する)を、広域空燃比センサ9の出力KACTを入力量、O2センサ8の出力Voutを出力量とする制御対象とし、この排気系Eの出力であるO2センサ8の出力Voutを前記目標値Vtgtに収束させるために要する該排気系Eの目標入力としての目標空燃比(広域空燃比センサ9が検出する排ガスの空燃比の目標値)がフィードバック制御の一手法としての適応スライディングモード制御の処理により逐次求められる。そして、この目標空燃比に広域空燃比センサ9が検出する排ガスの空燃比を収束させるように適応制御の処理あるいはPID制御の処理によりエンジン1の燃料供給量(ひいてはエンジン1で燃焼させる混合気の空燃比)を調整するための燃料指令が生成され、その燃料指令に応じてエンジン1の燃料供給量が調整される。
【0091】
この場合、前記目標空燃比の算出処理においては、広域空燃比センサ9の出力KACT(排気系Eの入力)とO2センサ8の出力Vout(排気系Eの出力)との間に存する無駄時間、並びに、目標空燃比と広域空燃比センサ9が検出する排ガスの空燃比との間に存する無駄時間の影響を補償するために、それらの無駄時間を合わせた合計無駄時間後のO2センサ8の出力Voutの推定値が逐次求められる。そして、この推定値を目標値Vtgtに収束させる(結果的にO2センサ8の出力Voutを目標値Vtgtに収束させる)ように適応スライディングモードの制御処理により、前記目標空燃比が算出される。さらに、排気系Eの動的な特性変化等の影響を補償するために、適応スライディングモード制御の処理や合計無駄時間後のO2センサ9の出力Voutの推定値の算出処理に用いる排気系Eのモデルのパラメータが広域空燃比センサ9の出力KACTとO2センサ8の出力Voutとを用いて逐次同定される。
【0092】
尚、上記特開平11−324767号公報の技術では、触媒装置下流のO2センサの出力の目標値をあらかじめ定められた一定値としているが、本実施形態の場合には、その目標値としてO2出力目標値設定手段19が前述のように逐次設定する目標値Vtgtを用いるようにすればよい。また、空燃比制御手段18による制御処理は、上記公報に開示されたものに限定されるものではなく、O2センサ8の出力を目標値Vtgtに良好に制御し得るものであれば、他の制御手法を用いてもよい。但し、O2センサ8の出力を目標値Vopに精度よく制御する上では、応答指定型の制御により空燃比制御(O2センサ8の出力Voutを目標値Vtgtに収束させる空燃比制御)を行うことが好ましい。そして、その応答指定型制御としては、例えば上記公報の技術で用いているようなスライディングモード制御(よい好ましくは、外乱や制御対象のモデル化誤差の影響を排除するための適応アルゴリズムを付加した適応スライディングモード制御)のアルゴリズムを用いることが好適である。
【0093】
ところで、O2センサ8の出力Voutの目標値Vopを上述のように素子温度TO2に応じて可変的に設定することで、基本的には、素子温度TO2によらずに触媒装置4の良好な浄化性能を確保することが可能である。但し、O2センサ8の出力Voutの目標値Vtgtへの収束制御は、空燃比の微妙な制御が要求されるため、素子温度TO2の変動によってO2センサ8の出力特性が頻繁に変動すると、空燃比制御手段18による空燃比の制御性(制御の安定性や速応性)が損なわれる虞れがある。このために、本実施形態では、前記素子温目標値設定手段21は基本的には素子温度TO2の目標値Rを所定の一定値に設定するようにしている。その一定値の目標値Rは750℃以上の温度で例えば800℃である(この理由については後述する)。
【0094】
但し、エンジン1の運転開始時から、素子温度TO2の目標値Rを800℃のような高温に設定すると、エンジン1の運転開始時にO2センサ8の素子部10に水分等が付着していたような場合には、該素子部10が急激な加熱に伴う応力で損傷する虞れがある。このため、本実施形態では、素子温目標値設定手段21は、エンジン1の運転開始後、所定時間(例えば15秒)が経過するまでは、素子温度TO2の目標値Rを750℃よりも低い温度、例えば600℃に設定するようにしている。尚、詳細は後述するが、本実施形態では、エンジン1の運転開始後、所定時間が経過した後であっても、大気温度TAが低い場合(例えばTA<0℃)には、素子温度TO2の目標値Rを、通常的な目標値(800℃)よりも若干低い温度(750℃≦R<800℃)に設定するようにしている。
【0095】
ここで、素子温度TO2の基本的な目標値Rを750℃以上の温度(本実施形態では800℃)に設定する理由を補足説明しておく。前述したように、O2センサ8の出力特性は、750℃以上の素子温度TO2では、ほぼ一定になって安定する。また、本願発明者等の知見によれば、素子温度TO2を750℃以上の温度で、例えば800℃に維持すると、触媒装置4によるCO、HC、NOxの全ての浄化率がほぼ均等となるようなO2センサ8の出力、すなわち、前記浄化適正出力Vop(空燃比制御でのO2センサ8の通常的な目標値とする値)が、図3のグラフaにおいて参照符号Yを付した部分、すなわち、O2センサ8の出力特性のグラフaの傾きが空燃比のリッチ化に伴い大きな傾きから微小な傾きに切替る変曲点部分Yに存するようになる。そして、このとき、この浄化適正出力Vopを目標値として、この目標値VopにO2センサ8の出力Voutを収束させるような空燃比制御を良好に行うことができる。これは、変曲点部YにおけるO2センサ8の出力Voutの空燃比に対する感度が過大でも過小でもない適正な感度になるためと考えられる。このようなことから、本実施形態では、素子温度TO2の基本的な目標値R(通常的な目標値)を750℃以上の温度で、例えば800℃に設定している。尚、素子温度TO2が750℃以上の温度(例えば800℃)であるとき、NOxの浄化率がほぼ最大となるようなO2センサの出力Vnox(図4参照)は、浄化適正出力Vopよりも若干高いレベルとなるものの、該出力Vnoxも浄化適正出力Vopと同様、前記変曲点分Yに存するようになる。従って、このVnoxを目標値Vtgtとして、空燃比制御を行った場合でも、その制御を良好に行うことができる。
【0096】
前記ヒータコントローラ22は、上記のように素子温目標値設定手段21が設定する素子温度TO2の目標値Rに、素子温オブザーバ20により求められる素子温度TO2の推定値を収束させるようにフィードバック制御処理のアルゴリズムによりデューティDUTを算出するものである。この場合、デューティDUTは、例えばPI制御もしくはPID制御等のフィードバック制御アルゴリズムにより算出される。例えばPI制御のアルゴリズムによりデューティDUTを算出する場合には、素子温度TO2の推定値と目標値Rとの偏差に比例する制御入力成分(比例項)と、該偏差の積分値に比例する制御入力成分(積分項)との総和として、デューティDUTが算出される。尚、素子温度TO2の目標値Rへのフィードバック制御処理は、PI制御もしくはPID制御以外のアルゴリズム、例えば最適制御のアルゴリズムや予見制御のアルゴリズム等、現代制御のアルゴリズムを用いて構築してもよい。素子温度TO2の目標値Rへの制御をより安定に精度よく行うためには、基本的には、素子温度TO2の推定値と目標値Rとの偏差に応じた制御入力成分(上記比例項や積分項)にさらに、例えばヒータ温度Tht(これは本実施形態では素子温オブザーバ20により推定される)に応じた制御入力成分や、排ガス温度Tgd(これは本実施形態では排気温オブザーバ19により推定される)に応じた制御入力成分、目標値Rに応じた制御入力成分等を加えてデューティDUTを算出することがより好適である。
【0097】
次に、本実施形態の装置の全体的な作動を説明する。まず、O2センサ8の素子温度TO2の制御に関して説明する。エンジン1の運転開始時(始動時)において、コントロールユニット16は、前記排ガス温度Texg,Tga,Tgb,Tgc,Tgd、排気管温度Twa,Twb,Twd、触媒温度Twc、素子温度TO2、及びヒータ温度Thtのそれぞれの推定値の初期値Texg(0),Tga(0),Tgb(0),Tgc(0),Tgd(0),Twa(0),Twb(0),Twd(0),TO2(0),Tht(0)を次のように設定する。すなわち、本実施形態では、エンジン1の運転停止中にその停止時間を計時するようにしており、コントロールユニット16は、エンジン1の始動時にその直前の停止時間が所定時間(例えば2時間)を超えているか否かを判断する。そして、停止時間>所定時間であるときには、排気通路3の内部やその管壁の温度がほぼ大気温度と同等になっていると考えられるので、センサ温度制御手段12は、上記初期値Texg(0),Tga(0),Tgb(0),Tgc(0),Tgd(0),Twa(0),Twb(0),Twd(0),TO2(0),Tht(0)を、エンジン1の始動時における大気温度TAの検出値に設定する。また、停止時間≦所定時間である場合には、排気通路3の内部やその管壁の温度は、前回のエンジン1の運転停止後の余熱によって、大気温度よりもエンジン1の機関温度TW(冷却水温)に近い温度になっていると考えられるので、センサ温度制御手段12は、上記初期値Texg(0),Tga(0),Tgb(0),Tgc(0),Tgd(0),Twa(0),Twb(0),Twd(0),TO2(0),Tht(0)を、エンジン1の始動時における機関温度TWの検出値に設定する。これにより、それらの初期値が実際の温度に近い温度に設定される。
【0098】
そして、エンジン1が始動され、その運転が開始すると、コントロールユニット17は、図7のフローチャートに示すルーチン処理を所定のサイクルタイム(例えば10msec)で実行する。
【0099】
コントロールユニット17は、まず、エンジン1の回転数NE、吸気圧PB、大気温度TA及びバッテリ電圧VBの検出データを取得し(STEP1)、さらに前記素子温目標値設定手段21及びヒータコントローラ22の演算処理の1周期分の時間をカウントするためのカウントダウンタイマCOPCの値を判断する(STEP2)。このカウントダウンタイマCOPCの値は、エンジン1の始動時に「0」に初期化されている。
【0100】
そして、コントロールユニット17は、COPC=0である場合には、素子温目標値設定手段21及びヒータコントローラ22の演算処理の1周期に相当するタイマ設定時間TM1をCOPCの値として新たに設定した後(STEP3)、O2センサ8の素子温度TO2の目標値Rを設定する処理、及びヒータ13のデューティDUTを算出する処理を、それぞれ前記素子温目標値設定手段21及びヒータコントローラ22により順次実行する(STEP4)。また、STEP2でCOPC≠0である場合には、コントロールユニット17は、STEP5でCOPCの値をカウントダウンし、STEP3,4の処理を省略する。従って、STEP4の処理(素子温目標値設定手段21及びヒータコントローラ22の処理)は、上記タイマ設定時間TM1により規定される周期で実行されることとなる。
【0101】
上記STEP4の処理は、より詳しくは図8のフローチャートに示すように実行される。まず、素子温目標値設定手段21による処理がSTEP4−1〜4−3で実行される。すなわち、まず、エンジン1の始動後の経過時間を表すパラメータTSHの値があらかじめ定めた所定値XTM(例えば15秒)と比較される(STEP4−1)。このとき、TSH≦XTMである場合、すなわち、エンジン1の運転開始直後の状態である場合には、素子温目標値設定手段21は、前述のようにO2センサ8の素子部10の損傷を防止するために、素子温度TO2の目標値Rを低温側の温度(例えば600℃)に設定する(STEP4−2)。
【0102】
また、STEP4−1でTSH>XTMである場合には、素子温目標値設定手段21は、大気温度TAの現在の検出値(図6のSTPE1で取得されたもの)から、あらかじめ定められたデータテーブルに基づいて前述したように素子温度TO2の目標値Rを設定する(STEP4−3)。ここで設定される目標値Rは、前述したように大気温度TAが常温程度(例えばTA≧0℃)の通常的な温度である場合には、750℃以上の所定値(本実施形態では800℃)である。但し、寒冷地でのエンジン1の運転時等、大気温度TAが低いとき(例えばTA<0℃)には、素子部10やヒータ13の放熱量が比較的大きいために素子温度TO2の目標値Rが800℃のような高温であると、ヒータ13の温度が過剰に高温になりやすい。そして、本実施形態では、後述するヒータ13の過熱防止処理によって、ヒータ13の温度が過剰に高温になると、該ヒータ13の故障を避けるために該ヒータ13への通電を強制的に中止するようにしている。
【0103】
そこで、本実施形態では、STEP4−3では、大気温度TAが低い場合(例えばTA<0℃)には、素子温度TO2の目標値Rを通常の場合よりも多少低い値(例えば750℃≦R<800℃となる値)に設定するようにしている。より詳しく言えば、TA≧0℃である通常的な大気温度では、目標値Rは通常的な目標値である800℃に設定され、TA<0℃では、750℃≦R<800℃の範囲で目標値Rが大気温度TAに応じて可変的に(大気温度TAが低い程、目標値Rがより小さくなるように)設定される。このように目標値Rを設定することで、ヒータ13が過剰に高温になるのを回避しつつ、該ヒータ13の通電を強制的に中止しなければならないような状況の発生をできるだけ少なくすることができる。
【0104】
上記のように素子温目標値設定手段21の処理を実行した後、コントロールユニット17は、次にヒータコントローラ22の処理をSTEP4−4〜4−8で実行する。このヒータコントローラ22の処理では、まず、前述したように、素子温オブザーバ20が求める素子温度TO2の推定値を、前記STEP4−3又は4−2で設定された目標値Rに収束させるようにPI制御等のフィードバック制御のアルゴリズムによりヒータ13に対する制御入力としてのデューティDUTの今回値DUT(n)が算出される(STEP4−4)。尚、このデューティDUTの今回値DUT(n)の算出に用いられる素子温度TO2の推定値は、今回のSTEP4の処理以前で素子温オブザーバ20が求めた値(これは後述のSTEP13で求められる)である。但し、エンジン1の始動後、初めてSTEP4の処理が実行されるときには、前述のようにエンジン1の始動時に設定される初期値TO2(0)がDUT(n)の算出に用いられる。
【0105】
次いで、ヒータコントローラ22は、STEP4−4で算出したデューティDUT(n)のリミット処理をSTEP4−5〜4−8で実行する。すなわち、デューティDUT(n)が所定の下限値(例えば0%)よりも小さいか否かを判断し(STEP4−5)、DUT(n)<下限値である場合には、DUT(n)の値を強制的にその“下限値”に設定し直す(STEP4−6)。また、DUT(n)≧下限値である場合には、さらに、デューティDUT(n)が所定の上限値(例えば100%)よりも大きいか否かを判断する(STEP4−7)。このときDUT(n)>上限値である場合には、DUT(n)の値を強制的にその“上限値”に設定し直す(STEP4−8)。以上により素子温目標値設定手段21及びヒータコントローラ22による4の処理は終了する。
【0106】
図7のメインルーチンの処理に戻って、コントロールユニット17は、次に、STEP6〜10に示す処理を実行する。この処理は、ヒータ13の過熱防止のための処理であり、まず、STEP6において、ヒータ温度Thtの推定値の現在値(最新値)があらかじめ定められた所定の上限値THTLMT(例えば930℃)以上であるか否かが判断される。この場合、本実施形態では、基本的には、Tht≧THTLMTとなった場合に、ヒータ13の損傷等を防止するために、該ヒータ13への通電を強制的に遮断する。但し、外乱等の影響で、Thtの推定値の値が一時的に上記上限値THTLMT以上に上昇することも考えられる。そこで、本実施形態では、Tht≧THTLMTとなる状態が所定時間(例えば3秒。以下、ヒータOFF遅延時間という)以上、継続した場合に、ヒータ13の通電を遮断することとする。
【0107】
このため、前記STEP6で、Tht<THTLMTである場合には、コントロールユニット17は、上記ヒータOFF遅延時間を計時するためのカウントダウンタイマTMHTOFFの値を上記ヒータOFF遅延時間に相当する所定値TM2に設定しておく(STEP7)。そして、この場合には、ヒータ13の通電は遮断しないので、コントロールユニット17の処理は、後述のSTEP11の処理に移る。
【0108】
一方、STEP6でTht≧THTLMTである場合には、コントロールユニット17は、カウントダウンタイマTMHTOFFの値を“1”だけカウントダウンした後(STEP8)、さらに、このカウントダウンタイマTMHTOFFの値が“0”になったか否か、すなわち、Tht≧THTLMTの状態のまま、前記ヒータOFF遅延時間TM2が経過したか否かを判断する(STEP9)。
【0109】
このときTMHTOFF≠0である場合には、コントロールユニット17の処理は、STEP11の処理に移る。また、TMHTOFF=0である場合には、コントロールユニット17は、デューティDUTの現在値DUT(n)を強制的に“0”に設定し直し(STEP10)、STEP11の処理に移る。
【0110】
尚、上記のようにヒータ13の過熱防止処理の実行によって、最終的にデューティDUTの今回値DUT(n)が確定する。そして、コントロールユニット17は、そのデューティDUTの今回値DUT(n)に従ってパルス電圧を図示しないヒータ通電回路に付与し、該デューティDUT(n)に応じた電力で該ヒータ13に通電させる。但し、この場合、DUT(n)=0である場合には、ヒータ12の通電回路にパルス電圧が付与されず、これにより、該ヒータ13への通電が遮断されることとなる。
【0111】
上述のようにしてSTEP6〜STEP10に係わる処理(ヒータ13の過熱防止処理)を実行した後、コントロールユニット17は、次に、素子温オブザーバ20の処理の1周期分の時間dtをカウントするためのカウントダウンタイマCOBSの値を判断する(STEP11)。このカウントダウンタイマCOBSの値は、エンジン1の始動時に「0」に初期化されている。
【0112】
そして、コントロールユニット16は、COBS=0である場合には、素子温オブザーバ20の処理の1周期dtに相当するタイマ設定時間TM3をCOBSの値として新たに設定した後(STEP12)、排ガス温度Tgd(O2センサ8の配置箇所近傍の排ガス温度)を推定する処理と、素子温度TO2を推定する処理(ヒータ温度Thtの推定処理を含む)とをそれぞれ、排気温オブザーバ19及び素子温オブザーバ20により実行する(STEP13。詳細は後述する)。また、STEP11でCOBS≠0である場合には、コントロールユニット16は、STEP14でCOBCの値をカウントダウンし、STEP13の処理を省略する。従って、STEP14の処理は、上記タイマ設定時間TM3により規定される周期dtで実行されることとなる。以上説明した処理が、図7のルーチン処理である。
【0113】
尚、本実施形態では、前記素子温目標値設定手段21及びヒータコントローラ22の演算処理の周期(STEP4の処理の実行周期)を規定するタイマ設定時間TM1は、素子温オブザーバ20の演算処理の周期dt(STEP13の処理の実行周期)を規定するタイマ設定時間TM3よりも長い値に設定されている。この点について補足説明をすると、素子温オブザーバ20の演算処理は、温度推定の精度を高めるために、比較的早い周期(例えば20〜50msecの周期)で行うことが望ましい。一方、ヒータコントローラ22の制御処理に関しては、制御入力(デューティDUT)に対する素子温度の変化の応答速度が比較的遅い(周波数換算で数Hz程度)ため、該制御処理の周期は、素子温オブザーバ20の演算処理の周期よりも長くてよい。そこで、本実施形態では、TM1>TM3とすることで、素子温目標値設定手段21及びヒータコントローラ22の処理の周期を、素子温オブザーバ20の演算処理の周期dtよりも長い時間(例えば300〜500msec)に設定している。これにより、コントロールユニット17の演算処理の負荷が軽減される。
【0114】
前記STEP13の処理は、より具体的には、図9のフローチャートに示すように行われる。すなわち、コントロールユニット16は、まず、排気温オブザーバ19により、STEP13−1〜STEP13−6の処理を順次実行し、O2センサ8の配置箇所近傍での排ガス温度Tgdの推定値を求める。STEP13−1では、エンジン1の回転数NE及び吸気圧PBの現在の検出値(前記STEP1で取得された最新値)を用いて前記式(7)により流速パラメータVgが求められる。尚、この流速パラメータVgの値は、エンジン1の過回転等により前記式(7)の算出結果が“1”を越えたような場合には、強制的にVg=1に設定される。
【0115】
次いで、排気温オブザーバ19は、前記式(1)に基づいてエンジン1の排気ポート2での排ガス温度Texgの推定値を算出する(STEP13−2)。すなわち、エンジン1の回転数NE及び吸気圧PBの現在の検出値から所定のマップにより基本排ガス温度TMAP(NE,PB)を求め、さらに、このTMAP(NE,PB)と、排ガス温度Texgの推定値の現在値Texg(k-1)(前回のサイクルタイムにおけるSTEP13−2で求められた値)と、あらかじめ定められた係数Ktexの値とを用いて前記式(1)の右辺の演算を行う。これにより、排ガス温度Texgの新たな推定値Texg(k)が算出される。尚、本実施形態では、エンジン1のアイドリング運転時と、フュエルカット中においては、式(1)の演算に用いる基本排ガス温度TMAPを、それぞれの運転状態に対応してあらかじめ定めた所定値に設定するようにしている。また、排ガス温度Texgの推定値は、前述のようにエンジン1の運転開始時(始動時)に、その時に検出された大気温度TA又は機関温度TWが初期値Texg(0)として設定されており、エンジン1の運転開始後、初めて式(1)の演算を行うときには、その初期値Texg(0)がTexg(k-1)の値として用いられる。
【0116】
次いで、排気温オブザーバ19は、前記式(5−1)、(5−2)に基づいて前記部分排気通路3aでの排ガス温度Tgaの推定値及び排気管温度Twaの推定値を算出する(STEP13−3)。すなわち、排ガス温度Tgaの推定値の現在値Tga(k)(前回のサイクルタイムにおけるSTEP13−3で求められた最新値)と、排気管温度Twaの推定値の現在値(前回のサイクルタイムにおけるSTEP13−3で求められた最新値)と、前記STEP13−2で先に算出した排ガス温度Texgの推定値の現在値と、前記STEP13−1で算出した流速パラメータVgの現在値と、あらかじめ定められたモデル係数Aaの値及び排気温オブザーバ19の処理の周期dtの値とを用いて前記式(5−1)の右辺の演算を行うことで、排ガス温度Tgaの新たな推定値Tga(k+1)を求める。
【0117】
さらに、排ガス温度Tgaの推定値の現在値Tga(k)(前回のサイクルタイムにおけるSTEP13−3で求められた最新値)と、排気管温度Twaの推定値の現在値(前回のサイクルタイムにおけるSTEP13−3で求められた最新値)と、あらかじめ定められたモデル係数Ba,Caの値及び排気温オブザーバ19の処理の周期dtの値とを用いて前記式(5−2)の右辺の演算を行うことで、排気管温度Twaの新たな推定値Twa(k+1)を求める。
【0118】
尚、排ガス温度Tga及び排気管温度Twaの推定値は、前述のようにエンジン1の運転開始時(始動時)に、その時に検出された大気温度TA又は機関温度TWがそれぞれの初期値Tga(0),Twa(0)として設定されており、エンジン1の運転開始後、初めて式(5−1),(5−2)の演算を行うときには、それらの初期値Tga(0),Twa(0)がそれぞれTga(k-1),Twa(k-1)の値として用いられる。
【0119】
次いで、排気温オブザーバ19は、前記式(6−1)、(6−2)に基づいて前記部分排気通路3bでの排ガス温度Tgbの推定値及び排気管温度Twbの推定値を算出する(STEP13−4)。すなわち、排ガス温度Tgbの推定値の現在値Tgb(k)(前回のサイクルタイムにおけるSTEP13−4で求められた最新値)と、排気管温度Twbの推定値の現在値(前回のサイクルタイムにおけるSTEP13−4で求められた最新値)と、前記STEP13−3で先に算出した排ガス温度Tgaの推定値の現在値と、前記STEP13−1で算出した流速パラメータVgの現在値と、あらかじめ定められたモデル係数Abの値及び排気温オブザーバ19の処理の周期dtの値とを用いて前記式(6−1)の右辺の演算を行うことで、排ガス温度Tgbの新たな推定値Tgb(k+1)を求める。
【0120】
さらに、排ガス温度Tgbの推定値の現在値Tgb(k)(前回のサイクルタイムにおけるSTEP13−4で求められた最新値)と、排気管温度Twbの推定値の現在値(前回のサイクルタイムにおけるSTEP13−4で求められた最新値)と、あらかじめ定められたモデル係数Bb,Cbの値及び排気温オブザーバ19の処理の周期dtの値とを用いて前記式(6−2)の右辺の演算を行うことで、排気管温度Twbの新たな推定値Twb(k+1)を求める。
【0121】
尚、排ガス温度Tgb及び排気管温度Twbの推定値は、前述のようにエンジン1の運転開始時(始動時)に、その時に検出された大気温度TA又は機関温度TWがそれぞれの初期値Tgb(0),Twb(0)として設定されており、エンジン1の運転開始後、初めて式(6−1),(6−2)の演算を行うときには、それらの初期値Tgb(0),Twb(0)がそれぞれTgb(k-1),Twb(k-1)の値として用いられる。
【0122】
次いで、排気温オブザーバ19は、前記式(8−1)、(8−2)に基づいて前記部分排気通路3cでの排ガス温度Tgcの推定値及び触媒温度Twcの推定値を算出する(STEP13−5)。すなわち、排ガス温度Tgcの推定値の現在値Tgc(k)(前回のサイクルタイムにおけるSTEP13−5で求められた最新値)と、触媒温度Twcの推定値の現在値(前回のサイクルタイムにおけるSTEP13−5で求められた最新値)と、前記STEP13−4で先に算出した排ガス温度Tgbの推定値の現在値と、前記STEP13−1で算出した流速パラメータVgの現在値と、あらかじめ定められたモデル係数Acの値及び排気温オブザーバ19の処理の周期dtの値とを用いて前記式(8−1)の右辺の演算を行うことで、排ガス温度Tgcの新たな推定値Tgc(k+1)を求める。
【0123】
さらに、排ガス温度Tgcの推定値の現在値Tgc(k)(前回のサイクルタイムにおけるSTEP13−5で求められた最新値)と、触媒温度Twcの推定値の現在値(前回のサイクルタイムにおけるSTEP13−5で求められた最新値)と、前記STEP13−1で算出した流速パラメータVgの現在値と、あらかじめ定められたモデル係数Bc,Cc,Dcの値及び排気温オブザーバ19の処理の周期dtの値とを用いて前記式(8−2)の右辺の演算を行うことで、触媒温度Twcの新たな推定値Twc(k+1)を求める。
【0124】
尚、排ガス温度Tgc及び触媒温度Twcの推定値は、前述のようにエンジン1の運転開始時(始動時)に、その時に検出された大気温度TA又は機関温度TWがそれぞれの初期値Tgc(0),Twc(0)として設定されており、エンジン1の運転開始後、初めて式(8−1),(8−2)の演算を行うときには、それらの初期値Tgc(0),Twc (0)がそれぞれTgc(k-1),Twc(k-1)の値として用いられる。
【0125】
次いで、排気温オブザーバ19は、前記式(9−1)、(9−2)に基づいて前記部分排気通路3dでの(O2センサ8の配置箇所近傍での)排ガス温度Tgdの推定値及び排気管温度Twdの推定値を算出する(STEP13−6)。すなわち、排ガス温度Tgdの推定値の現在値Tgd(k)(前回のサイクルタイムにおけるSTEP13−6で求められた最新値)と、排気管温度Twdの推定値の現在値(前回のサイクルタイムにおけるSTEP13−6で求められた最新値)と、前記STEP13−5で先に算出した排ガス温度Tgcの推定値の現在値と、前記STEP13−1で算出した流速パラメータVgの現在値と、あらかじめ定められたモデル係数Adの値及び排気温オブザーバ19の処理の周期dtの値とを用いて前記式(9−1)の右辺の演算を行うことで、排ガス温度Tgdの新たな推定値Tgd(k+1)を求める。
【0126】
さらに、排ガス温度Tgdの推定値の現在値Tgd(k)(前回のサイクルタイムにおけるSTEP13−6で求められた最新値)と、排気管温度Twdの推定値の現在値(前回のサイクルタイムにおけるSTEP13−6で求められた最新値)と、あらかじめ定められたモデル係数Bd,Cdの値及び排気温オブザーバ19の処理の周期dtの値とを用いて前記式(9−2)の右辺の演算を行うことで、排気管温度Twdの新たな推定値Twd(k+1)を求める。
【0127】
尚、排ガス温度Tgd及び排気管温度Twdの推定値は、前述のようにエンジン1の運転開始時(始動時)に、その時に検出された大気温度TA又は機関温度TWがそれぞれの初期値Tgd(0),Twd(0)として設定されており、エンジン1の運転開始後、初めて式(9−1),(9−2)の演算を行うときには、それらの初期値Tgd(0),Twd(0)がそれぞれTgd(k-1),Twd(k-1)の値として用いられる。
【0128】
次に、コントロールユニット16は、素子温オブザーバ20により、STEP13−7の処理を実行し、O2センサ8の素子温度TO2及びヒータ温度Thtの推定値を前記式(10−1)、(10−2)に基づいて求める。すなわち、素子温度TO2の推定値の現在値TO2(k)(前回のサイクルタイムにおけるSTEP13−7で求められた最新値)と、ヒータ温度Thtの推定値の現在値Tht(k)(前回のサイクルタイムにおけるSTEP13−7で求められた最新値)と、前記STEP13−6で先に算出された排ガス温度Tgdの推定値の現在値Tgd(k)と、素子部10の内部の空気の温度TA’としての大気温度TAの検出値の現在値TA(k)(図7のSTEP1で取得した最新値)と、あらかじめ定められたモデル係数Ax,Bxの値及び素子温オブザーバ20の処理の周期dt(=排気温オブザーバ19の処理の周期)の値とを用いて前記式(10−1)の右辺の演算を行うことで、素子温度TO2の新たな推定値TO2(k+1)を求める。
【0129】
さらに、素子温度TO 2の推定値の現在値TO2(k)(前回のサイクルタイムにおけるSTEP16−7で求められた最新値)と、ヒータ温度Thtの推定値の現在値Tht(k)(前回のサイクルタイムにおけるSTEP16−7で求められた最新値)と、素子部10の内部の空気の温度TA’としての大気温度TAの検出値の現在値TA(k)(図8のSTEP1で取得した最新値)と、デューティDUTの現在値DUT(k)と、あらかじめ定められたモデル係数Cx,Dxの値及び素子温オブザーバ20の処理の周期dtの値とを用いて前記式(10−2)の右辺の演算を行うことで、ヒータ温度Thtの新たな推定値Tht(k+1)を求める。
【0130】
尚、素子温度TO2及びヒータ温度Thtの推定値は、前述のようにエンジン1の運転開始時(始動時)に、その時に検出された大気温度TA又は機関温度TWがそれぞれの初期値TO2(0),Tht(0)として設定されており、エンジン1の運転開始後、初めて式(10−1),(10−2)の演算を行うときには、それらの初期値TO2(0),Tht(0)がそれぞれTO2(k-1),Tht(k-1)の値として用いられる。また、式(10−2)で用いるデューティDUT(k)は、基本的には前述のSTEP4でヒータコントローラ22が求めた最新値である。但し、前記STEP10でデューティDUTの値が“0”に制限された場合(ヒータ13への通電を遮断する場合)には、その値が式(10−2)で用いられる。
【0131】
次に、エンジン1の空燃比の制御に関して説明する。コントロールユニット16は、前述のようにO2センサ8の素子温度TO2の制御を行いながら、これと並行して、所定のサイクルタイム(処理周期)で、前記O2出力目標値設定手段18によりO2センサ8の出力の目標値Vtgtを逐次設定する。この処理は、図10のフローチャートに示すように実行される。
【0132】
O2出力目標値設定手段18は、まず、エンジン1の負荷を表すパラメータとしての排ガスボリュームSVを求める(STEP21)。この排ガスボリュームSVは、排ガスの流量を表すものであり、本実施形態では、空燃比制御手段17が空燃比を制御するために逐次算出するエンジン1の単位時間当たりの燃料消費量NTIの最新値から、あらかじめ定めたデータテーブルに基づいて求められる。ここで、エンジン1の単位時間当たりの燃料消費量は、エンジン1の回転数NE及び吸気圧PBの検出値からマップ等により定められるエンジン1の基本燃料噴射量(エンジン1の回転数NEと吸気圧PBとに応じた燃料噴射量の標準値(基本値))に、エンジン1の回転数NEを乗算することで求められるものである。尚、エンジン1の吸入空気や排ガスの流量をフローセンサにより直接的に検出するようにした場合には、その検出値を排ガスボリュームSVの代わりに用いてもよい。
【0133】
次いで、O2出力目標値設定手段18は、O2センサ8の出力Voutの目標値Vtgtを素子温度TO2に応じて可変的に設定するために、前記した図11のデータテーブルに基づいて、前記素子温オブザーバ20が求めた素子温度TO2の推定値の最新値(現在値)から補正係数KVO2を求める(STEP22)。
【0134】
次いで、O2出力目標値設定手段18は、エンジン1のアイドリング状態であるか否かを判断し(STEP23)、アイドリング状態である場合には、O2センサ8の出力Voutの基本目標値を、あらかじめ定めた所定値Vnoxを設定する(STEP24)。ここで、上記所定値Vnoxは、前記図4に示したように素子温度TO2が所定温度(例えば800℃)であるときに触媒装置4によるNOxの浄化率がほぼ最大となるようなO2センサ8の出力値であり、その所定温度においてCO、HC、NOxの全ての浄化率がほぼ同等に良好となるような前記浄化適正出力Vopよりも排ガスの空燃比がリッチ側になるようなO2センサ8の出力値である。
【0135】
尚、以下の説明では、O2センサ8の各素子温度TO2において、触媒装置4によるNOxの浄化率がほぼ最大となるようなO2センサ8の出力値を一般的にNOx浄化最適出力と称し、特に素子温度TO2が800℃であるときのNOx浄化最適出力をNOx浄化基準最適出力と称する。この場合、各素子温度TO2におけるNOx浄化最適出力は、上記NOx浄化基準最適出力Vnoxに、前記STEP22で図11のデータテーブルにより求められる補正係数KVO2を乗算してなる値にほぼ等しくなる。
【0136】
上記STEP24で基本目標値をNOx浄化基準最適出力Vnoxに設定した後、O2出力目標値設定手段18は、この基本目標値VnoxにSTEP22で求めた補正係数KVO2を乗算することにより該基本目標値Vnoxを補正し、これによりO2センサ8の出力Voutの今回の目標値Vtgt(j)を設定する(STEP30)。尚、jは、図10のルーチン処理のサイクルタイムの番数を意味している。
【0137】
このようにしてSTEP23の判断結果がYESである場合に、STEP30で設定される目標値Vtgt(j)(=Vnox・KVO2)は、前記補正係数KVO2を求めるときに用いた素子温度TO2の推定値の最新値、すなわち、現在の素子温度TO2において触媒装置4によるNOxの浄化率がほぼ最大となるようなO2センサ8の出力値である。例えば、図4を参照して、素子温度TO2が650℃であるときには、目標値Vtgt(j)は図4に示した出力値Vnox’とほぼ等しい値に設定されることとなる。尚、エンジン1のアイドリング状態で目標値Vtgtを上記のように設定する理由については後述する。
【0138】
前記STEP23の判断結果が、アイドリング状態でない場合には、O2出力目標値設定手段18は、エンジン1の回転数NEがアイドリング状態から上昇している最中の状態であるか否かを判断する(STEP25)。この判断結果がYESとなるような状態は、例えば、エンジン1を搭載した車両の発進の際等の状態である。そして、このような状態では、一般に、排ガス中のNOxの濃度が、CO、HC等、他の浄化対象成分に比して多くなる。このため、本実施形態では、STEP25の判断結果がYESであるときには、O2出力目標値設定手段18は、前記STEP24,30の処理を実行して、触媒装置4によるNOxの浄化率がほぼ最大となるようなO2センサ8の出力値、すなわち、NOx浄化最適出力(=Vnox・KVO2)を目標値Vtgt(j)として設定する。尚、STEP25の判断は、エンジン1の回転数NEの検出値やその変化速度(単位時間当たりのNEの変化量)に基づいて行われる。例えばエンジン1の回転数NEがアイドリング状態での回転数よりも所定値以上高くなり、且つ、該回転数NEの変化速度が該回転数NEの上昇側に所定値以上であるときに、回転数NEのアイドリング状態からの上昇中であると判断することが可能である。また、エンジン1の回転数NEがアイドリング状態から上昇していく状態は、基本的にはエンジン1を搭載した車両の発進時に生じるので、車両の発進時であるか否かを、車速の検出値や、ブレーキ操作のON/OFF信号等に基づいて判断し、車両の発進時であるときに、エンジン1の回転数NEがアイドリング状態から上昇していく最中の状態であると判断してもよい。
【0139】
さらに、STEP25の判断結果がNOである場合には、O2出力目標値設定手段18は、前記STEP21で求めた排ガスボリュームSVがあらかじめ定めた高負荷側閾値SVHよりも大きいか否かを判断する(STEP26)。このとき、SV>SVHである場合(エンジン1の高負荷運転が行われてる場合)には、エンジン1の回転数NEがアイドリング状態から上昇している最中の状態の場合と同様に、排ガス中のNOxの濃度が他の浄化対象成分に比して高くなる。このため、O2出力目標値設定手段18は、STEP26の判断結果がYESであるときには、前記STEP24,30の処理を実行して、NOx浄化最適出力(=Vnox・KVO2)を目標値Vtgt(j)として設定する。
【0140】
また、STEP26の判断結果がNOである場合には、O2出力目標値設定手段18は、前記STEP21で求めた排ガスボリュームSVがあらかじめ定めた低負荷側閾値SVLよりも小さいか否かを判断する(STEP27)。尚、この低付加側閾値SVLは、本発明における内燃機関の負荷に関する所定値に相当するものである。このとき、SV<SVLである場合(エンジン1の低負荷運転が行われている場合)には、排ガス中のNOxの濃度は比較的小さい状態であるので、O2出力目標値設定手段18は、O2センサ8の素子温度TO2が所定温度(本実施形態では800℃)であるときの浄化適正出力NVop(以下、基準浄化適正出力NVopと称する)を基本目標値として設定する(STEP28)。そして、前記STEP30において、この基本目標値NVopにSTEP22で求めた補正係数KVO2を乗算することにより今回の目標値Vtgt(j)(=NVop・KVO2)を設定する。
【0141】
このようにしてSTEP27の判断結果がNOである場合(エンジン1の低負荷運転状態の場合)にSTEP30で設定される目標値Vtgt(j)は、現在の素子温度TO2(STEP22で補正係数KVO2を求めたときに用いた素子温度TO2の推定値の最新値)においてCO、HC、NOxの全てについてほぼ均等に比較的高い浄化率が得られるようなO2センサ8の出力値、すなわち、前記浄化適正出力Vopとなる。尚、SV<SVLとなるようなエンジン1の低負荷運転状態は、例えばエンジン1を搭載した車両をほぼ一定の速度で走行させているような状態である。
【0142】
前記STEP28の判断結果がNOである場合(SVL≦SV≦SVHである場合(エンジン1の中負荷運転の場合)には、O2出力目標値設定手段18は、例えば図12に示すようにあらかじめ定められたデータテーブルに基づいて、基本目標値を排ガスボリュームSVに応じて設定する(STEP29)。この場合、基本目標値は排ガスボリュームSVが大きい程、より大きな値(排ガス空燃比がよりリッチ側になるようなO2センサ8の出力値)に設定される。また、SV=SVLであるときの基本目標値は前記基準浄化適正出力NVopであり、SV=SVHであるときの基本目標値は、前記NOx浄化最適出力Vnoxである。従って、エンジン1の中負荷運転時には、基本目標値は、前記基準浄化適正出力NVopと前記NOx浄化基準最適出力Vnoxとの間で排ガスボリュームSVに応じて(エンジン1の負荷に応じて)連続的に変化するように設定される。そして、このようにSTEP29に基本目標値を設定した後には、O2出力目標値設定手段18は、前記STEP30において、この基本目標値にSTEP22で求めた補正係数KVO2を乗算することにより今回の目標値Vtgt(j)を設定する。従って、この場合に設定される目標値Vtgt(j)は、エンジン1の負荷がより大きい程、触媒装置4によるNOxの浄化率がより高まるようなO2センサ8の出力値に設定される。以上説明した処理がO2出力目標値設定手段18の詳細な処理である。
【0143】
尚、空燃比制御手段17は、前述したように、O2出力目標値設定手段18が上記のように設定した目標値VtgtにO2センサ8の出力Voutを収束させるようにフィードバック制御処理によりエンジン1で燃焼させる混合気の空燃比を操作する。
【0144】
以上説明した本実施形態の装置では、O2センサ8の出力Voutの目標値Vtgtは、エンジン1の回転数NEがアイドリング状態から上昇している最中や、エンジン1の高負荷運転状態のように、排ガス中のNOxの濃度が多くなるようなエンジン1の運転状態では、触媒装置4によるNOxの浄化率がほぼ最大となるようなNOx浄化最適出力(例えば図4のVnox、Vnox’)に設定される。このため、排ガス中のNOx濃度が多くなるようなエンジン1の運転状態での触媒装置4によるNOxの浄化性能を高めることができる。そして、この場合、触媒装置4によるCO、HCの浄化率が極端に低くなるわけではないので(図4参照)、CO、HCについても触媒装置4による必要な浄化性能を十分に確保できる。
【0145】
さらに、エンジン1の負荷の増加に伴い排ガス中のNOxの濃度が増えていくようなエンジン1の中負荷運転状態においては、エンジン1の負荷(排ガスボリュームSV)に応じてO2センサ8の出力Voutの基本目標値を、前記基準浄化適正出力NVopとNOx浄化基準最適出力Vnoxとの間で連続的に変化させる。従って、該基本目標値に補正係数KVO2を乗算してなる目標値Vtgtは、エンジン1の負荷の増加に伴いNOxの浄化率をより高めていくように、浄化適正出力Vop側からNOx浄化最適出力までエンジン1の負荷に応じて連続的に変化するように設定される。そして、排ガス中のNOxの濃度が比較的少なくものとなるエンジン1の低負荷運転状態(但しアイドリング状態を除く)では、触媒装置4の浄化対象成分であるCO、HC、NOxの浄化率のいずれもがほぼ同等に比較的高い浄化率となるような浄化適正出力VopがO2センサ8の出力Voutの目標値Vtgtとして設定される。このため、エンジン1の中負荷運転状態では、浄化適正出力Vopから、NOxの浄化率をより高める方向での目標値Vtgtの変位量(排ガスの空燃比のリッチ側への変位量)をエンジン1の負荷(排ガスボリュームSV)に適合した最小限の変位量に留めることができる。つまり、CO、HCの浄化率をできるだけ高い浄化率に確保しつつ、NOxの浄化率を高めることができる。同時に、上記基本目標値に補正係数KVO2を乗算してなる目標値Vtgtが不連続に変化するの避け、ひいては、空燃比の制御を円滑に行うことができる。
【0146】
ところで、本実施形態ではエンジン1のアイドリング状態でもO2センサ8の出力Voutの目標値Vtgtを、触媒装置4によるNOxの浄化率がほぼ最大となるようなNOx浄化最適出力に設定しているが、これは次のような理由による。すなわち、車両に搭載されるエンジン1では、車両の発進等によって、その回転数NEがアイドリング状態から上昇を開始するタイミングは、一般に予測することが困難であるため、エンジン1の回転数NEがアイドリング状態から上昇している最中であると判断できるタイミング(図10のSTEP25の判断結果がNOからYESに変化するタイミング)は、エンジン1の回転数NEが実際にアイドリング状態から上昇を開始したタイミングに対して遅れを生じる。また、実際のO2センサの出力Voutが、触媒装置4によるNOxの浄化率がほぼ最大となるような目標値Vtgtにほぼ収束するまでには多少の遅れを生じる。このため、仮にエンジン1のアイドリング状態における目標値Vtgtをエンジン1の低負荷運転状態の場合と同じように設定した場合には、エンジン1の回転数NEがアイドリング状態から上昇を開始してから、実際のO2センサの出力Voutが、触媒装置4によるNOxの浄化率がほぼ最大となるような目標値Vtgtにほぼ収束するまでの期間でNOxの浄化率を十分に高めることが困難となる。そこで、本実施形態では、エンジン1のアイドリング状態でも、O2センサ8の出力Voutの目標値Vtg tを、触媒装置4によるNOxの浄化率がほぼ最大となるような値に設定しておき、これによりエンジン1に回転数NEが上昇を開始する前から触媒装置4によるNOxの浄化を十分に行うことができるような空燃比状態にしておく。これにより、エンジン1の回転数NEがアイドリング状態から上昇していく際におけるNOxの浄化を十分に行うことができる。
【0147】
また、本実施形態では、前記補正係数KVO2を図11のデータテーブルにより素子温度TO2に応じて設定することで、O2センサ8の出力Voutの目標値Vtgtが素子温度TO2に応じて可変的に設定される。このため、素子温度TO2によらずに、触媒装置4による所要の浄化性能(CO、HC、NOxの所要の浄化率)を確保する上で好適な目標値Vtgtを設定することができる。そして、この目標値VtgtにO2センサ8の出力Voutを収束させるように空燃比を操作することで、素子温度TO2によらずに触媒装置4の所要の浄化性能を安定して確保することができる。
【0148】
併せて、素子温度TO2は、素子温目標値設定手段21が設定する目標値Rに維持されるようにヒータコントローラ22によってヒータ13が制御される。そして、該目標値Rは、エンジン1の始動直後や大気温度TAがかなり低い場合(本実施形態ではTA<0℃)を除いて基本的には一定値である。このため、素子温度TO2が変動するのが極力抑えられる。その結果、O2センサ8の出力特性を極力安定させ、ひいては、触媒装置4の所要の浄化性能の安定性を高めることができる。尚、エンジン1の定常的な運転状態において、素子温度TO2の目標値が一定値に維持されている状態では、ヒータコントローラ22によるヒータ13の制御によって、実際の素子温度TO2がほぼ目標値Rと同じ温度に維持されるため、O2センサ8の出力Voutの目標値Vtgtもほぼ一定値に維持されることとなる。但し、大気温度TAがかなり低い場合には、排ガスの温度が比較的低いものとなること、大気側への放熱量が多くなること等に起因して、実際の素子温度TO2は目標値Rまで到達できない場合もある。また、エンジン1の運転状態の変化に起因する排ガスの温度の変化等によって、実際の素子温度TO2が過渡的に目標値Rに対して変動を生じる。そして、このような場合には、O2センサ8の出力Voutの目標値Vtgtが素子温度TO2に応じて設定されることで、触媒装置4の所要の浄化性能が確実に確保されることとなる。
【0149】
以上説明したようにして、本実施形態の装置では、O2センサ8の素子部10の温度状態によらずに、エンジン1の運転状態に適合させた触媒装置4の所要の浄化性能(CO、HC、NOxの所要の浄化率)を確保する上で好適な目標値Vtgtを設定することができ、ひいては、触媒装置4による排ガスの浄化性能を高めることができる。
【0150】
尚、以上説明した実施形態では、素子温度TO2の目標値Rを設定し、この目標値Rに素子温度TO2を制御する(目標値Rと素子温度TO2の推定値との偏差を“0”に収束させる)ようにしたが、ヒータ温度Thtの目標値を設定し、この目標値にヒータ温度Thtを制御するようにしてもよい。すなわち、素子温度TO2とヒータ温度Thtとは高い相関性を有し、定常状態ではThtは、素子温度TO2よりも一定温度(例えば100℃)だけ高くなる傾向がある。従って、例えば前記素子温度TO2の目標値Rよりも所定温度(例えば100℃)だけ高い温度をヒータ温度Thtの目標値として設定し、この目標値にヒータ温度Thtを制御することで、間接的に素子温度Thtを前記目標値Rに制御できることとなる。この場合、ヒータ温度Thtを目標値の制御するためには、例えば前記素子温オブザーバ20が求めるヒータ温度Thtの推定値(もしくは温度センサによる検出値でもよい)と目標値との偏差を“0”に収束させるようにフィードバック制御によりヒータ13を制御するようにすればよい。
【0151】
また、前記実施形態では、O2センサ8にヒータ13を備えたものを示したが、O2センサがヒータを備えないものであってもよい。この場合には、コントロールユニット16は、素子温目標値設定手段21及びヒータコントローラ22を省略できる。
【0152】
また、前記実施形態では、エンジン1の低負荷運転状態(アイドリング状態を除く)では、触媒装置4によりCO、HC、NOxの浄化率がいずれもほぼ同等となるようなO2センサ8の出力(浄化適正出力Vop)を目標値Vtgtとして設定するようにしたが、この場合の目標値Vtgtは、必ずしもCO、HC、NOxの浄化率がいずれもほぼ同等となるような浄化適正出力Vopである必要はない。基本的には各浄化対象成分毎に所要の浄化率(例えば97%)以上となるようなO2センサ8の出力値であれば、上記浄化適正出力Vopと異なる値を目標値Vtgtとして設定してもよく、その目標値Vtgtにおける各浄化対象成分毎の浄化率が互いに異なっていてもよい。
【0153】
また、前記実施形態では、O2センサ8を排ガスセンサとして備えたものを示したが、O2センサ8以外の排ガスセンサ(例えば、前記広域空燃比センサ9や、HCセンサ、NOxセンサ等)を触媒装置4の下流側に備えた場合についても本発明を適用することができることはもちろんである。
【0154】
また、内燃機関としては、通常のポート噴射式内燃機関、筒内直接噴射型火花点火式内燃機関、ディーゼル機関等、さらには船外機用の内燃機関等についても本発明を適用可能であることは言うまでも無い。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1実施形態の装置の全体構成を模式的に示すブロック図。
【図2】図1の装置に備えたO2センサ(排ガスセンサ)の構造を示す断面図。
【図3】図2のO2センサの出力特性を示すグラフ。
【図4】図2のO2センサの出力と触媒装置による排ガスの浄化率との関係を示すグラフ。
【図5】図1の装置のコントロールユニットの排気温オブザーバの処理を説明するための断面図。
【図6】図1の装置の排気温オブザーバの機能的構成を示すブロック図。
【図7】図1の装置のコントロールユニットによるO2センサの素子部の温度制御に係わる全体的処理を示すフローチャート。
【図8】図7のフローチャートのサブルーチン処理を示すフローチャート。
【図9】図7のフローチャートのサブルーチン処理を示すフローチャート。
【図10】図1の装置のコントロールユニットによるO2センサの出力の目標値の設定処理を示すフローチャート。
【図11】図10の要部の処理で用いるデータテーブルを示すグラフ。
【図12】図10の要部の処理で用いるデータテーブルを示すグラフ。
【符号の説明】
1…エンジン(内燃機関)、3…排気通路、4…触媒装置、8…O2センサ(排ガスセンサ)、10…素子部、13…ヒータ、17…空燃比制御手段、18…O2出力目標値設定手段、22…ヒータコントローラ(ヒータ制御手段)。
Claims (5)
- 内燃機関の排気通路に設けた触媒装置の下流側に配置され、該触媒装置を通過した排ガスの特定成分の濃度に応じた出力を発生する排ガスセンサを備え、前記触媒装置による排ガスの所要の浄化性能を確保するために該排ガスセンサの出力を所定の目標値に収束させるように内燃機関から触媒装置に供給する排ガスの空燃比を制御する内燃機関の空燃比制御装置において、
前記内燃機関の運転状態が所定の運転状態であるか否かを判断し、該内燃機関の運転状態が前記所定の運転状態以外の運転状態であるときには、排ガス中の窒素酸化物を含む複数種類の浄化対象成分のそれぞれの前記触媒装置による浄化率が所定の浄化率以上に確保されるように前記目標値を設定すると共に、該内燃機関の運転状態が前記所定の運転状態であるときには、該所定の運転状態以外の運転状態のときよりも、前記触媒装置による排ガス中の窒素酸化物の浄化率をより高めるように前記目標値を設定する目標値設定手段を備え、前記所定の運転状態は、前記内燃機関のアイドリング状態と、該内燃機関の回転数が該アイドリング状態から上昇している最中の運転状態とを含むことを特徴とする内燃機関の空燃比制御装置。 - 前記所定の運転状態は、前記内燃機関の負荷が所定値以上となる運転状態を含むことを特徴とする請求項1記載の内燃機関の空燃比制御装置。
- 前記目標値設定手段は、前記内燃機関の負荷が前記所定値以上であるとき、該負荷の増加に伴い前記目標値を該目標値に対応する排ガスの空燃比状態がよりリッチ側の空燃比状態になるように該目標値を負荷に応じて設定することを特徴とする請求項2記載の内燃機関の空燃比制御装置。
- 前記目標値設定手段が前記内燃機関の運転状態に応じて設定する前記目標値は、前記排ガスセンサの前記排ガスの特定成分に感応する素子部の温度状態が所定の温度状態であるとした場合における排ガスセンサの出力の目標値であり、該目標値を排ガスセンサの素子部の温度状態に応じて補正する手段を備えたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の内燃機関の空燃比制御装置。
- 前記排ガスセンサの前記排ガスの特定成分に感応する素子部を加熱するヒータと、該素子部の温度を所定温度に維持するように該ヒータを制御するヒータ制御手段とを備えたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の内燃機関の空燃比制御装置。
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