JP3952922B2 - 耐hic特性に優れた高強度鋼板の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、鋼管等の製造に用いるAPI規格X65グレード以上の強度を有する高強度鋼板に関し、特に耐水素誘起割れ性(耐HIC性)に優れた高強度鋼板とその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
硫化水素を含む原油や天然ガスの輸送に用いられるラインパイプは、強度、靭性、溶接性の他に、耐水素誘起割れ性(耐HIC性)や耐応力腐食割れ性(耐SCC性)などのいわゆる耐サワー性が必要とされる。鋼材の水素誘起割れ(HIC)は、腐食反応による水素イオンが鋼材表面に吸着し、原子状の水素として鋼内部に侵入、鋼中のMnSなどの非金属介在物や硬い第2相組織のまわりに拡散・集積し、その内圧により割れを生ずるものとされている。
このような水素誘起割れを防ぐために、CaやCeをS量に対して適量添加することにより、針状のMnSの生成を抑制し、応力集中の小さい微細に分散した球状の介在物に形態を変えて割れの発生・伝播を抑制する、耐HIC性の優れたラインパイプ用鋼の製造方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。また、偏析傾向の高い元素(C、Mn、P等)の低減や、スラブ加熱段階での均熱処理、冷却時の変態途中での加速冷却により、中心偏析部での割れの起点となる島状マルテンサイト、割れの伝播経路となるマルテンサイトやベイナイトなどの硬化組織の生成を抑制した、耐HIC性に優れた鋼が知られている(例えば、特許文献2、特許文献3参照。)。また、耐HIC性の優れたX80グレードの高強度鋼板に関して、低SでCa添加により介在物の形態制御を行いつつ、低C、低Mnとして中央偏析を抑制し、それに伴う強度低下をCr、Mn、Niなどの添加と加速冷却により補う方法が知られている(例えば、特許文献4、特許文献5、特許文献6参照。)。
しかし、上記の耐HIC性を改善する方法はいずれも中心偏析部が対象である。API X80グレード等のX65グレードを超える高強度鋼板は加速冷却または直接焼入れによって製造される場合が多いため、冷却速度の速い鋼板表面部が内部に比べ硬化し、表面近傍から水素誘起割れが発生する。また、加速冷却によって得られるこれらの高強度鋼板のミクロ組織は、表面のみならず内部までベイナイトまたはアシキュラーフェライトの比較的割れ感受性の高い組織であり、中心偏析部のHICへの対策を施した場合でも、API X80グレード程度の高強度鋼では硫化物系または酸化物系介在物を起点としたHICをなくすことは困難である。従ってこれらの高強度鋼板の耐HIC性を問題にする場合は、鋼板の表面部のHICまたは、硫化物系や酸化物系介在物を起点としたHICの対策が必要である。
一方、ミクロ組織が割れ感受性の高いブロック状ベイナイトやマルテンサイトを含まない耐HIC性に優れた高強度鋼として、フェライト−ベイナイト2相組織である、API X80グレードの耐HIC性に優れた高強度鋼材が知られている(例えば、特許文献7参照。)。また、ミクロ組織をフェライト単相組織とすることで耐SCC(SSCC)性や耐HIC性を改善し、MoまたはTiの多量添加によって得られる炭化物の析出強化を利用した高強度鋼が知られている(例えば、特許文献8、特許文献9参照。)。
【0003】
【特許文献1】
特開昭54−110119号公報
【0004】
【特許文献2】
特開昭61−60866号公報
【0005】
【特許文献3】
特開昭61−165207号公報
【0006】
【特許文献4】
特開平5−9575号公報
【0007】
【特許文献5】
特開平5−271766号公報
【0008】
【特許文献6】
特開平7−173536号公報
【0009】
【特許文献7】
特開平7−216500号公報
【0010】
【特許文献8】
特開昭61−227129号公報
【0011】
【特許文献9】
特開平7−70697号公報
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、特許文献7に記載の高強度鋼のベイナイト組織は、ブロック状ベイナイトやマルテンサイト程ではないが比較的割れ感受性の高い組織であり、S及びMn量を厳しく制限して、Ca処理を必須として耐HIC性を向上させる必要があるため、製造コストが高い。また、特許文献7に記載の圧延・冷却方法を用いてフェライト−ベイナイト2相組織を安定的に得ることは難しい。一方、特許文献8、特許文献9に記載のフェライト相は延性に富んだ組織であり、割れ感受性が極めて低いため、ベイナイト組織またはアシキュラーフェライト組織の鋼に比べ耐HIC性が大幅に改善される。しかし、フェライト単相では強度が低いため、特許文献8に記載の鋼はC及びMoを多量に添加した鋼を用いて、炭化物を多量に析出させることによって高強度化し、特許文献9の鋼帯ではTi添加鋼を特定の温度で鋼帯に巻き取り、TiCの析出強化を利用して高強度化している。ところが、特許文献8に記載のMo炭化物が分散したフェライト組織を得るためには、焼入れ焼戻しの後に冷間加工を行い、さらに再度焼戻しを行う必要があり、製造コストが上昇するだけでなく、Mo炭化物の粒径が約0.1μmと大きく、強度上昇効果が低いため、C及びMoの含有量を高め、炭化物の量をふやすことによって所定の強度を得る必要がある。また、特許文献9に記載の高強度鋼で利用しているTiCはMo炭化物に比べ微細であり、析出強化に有効な炭化物であるが、析出時の温度の影響を受けて粗大化しやすいにもかかわらず、析出物粗大化に対する対策が何らなされていない。そのため析出強化が十分ではなく、多量のTi添加が必要となっている。
【0013】
したがって本発明の目的は、このような従来技術の課題を解決し、API X65グレード以上の高強度鋼板であって、中央偏析部のHIC及び表面近傍や介在物から発生するHICに対して優れた耐HIC性を示す高強度鋼板を提供することにある。
【0014】
【課題を解決するための手段】
このような課題を解決するための本発明の特徴は以下の通りである。
【0015】
(1)質量%で、C:0.02〜0.08%、Si:0.01〜0.50%、Mn:0.5〜1.8%、P:0.01%以下、S:0.002%以下、Mo: 0.05〜0.50%、Ti:0.04超〜0.10%、Al:0.01〜0.07%を含有し、残部Feおよび不可避不純物からなる鋼を、加熱温度:1000〜1250℃、圧延終了温度:750〜950℃の条件で熱間圧延した後、2℃/s以上の冷却速度で600〜700℃まで加速冷却し、次いで600〜700℃の温度域で1回以上の加熱を行うことで鋼板の平均温度を600〜700℃に3分以上保持することを特徴とする、耐HIC性に優れた高強度鋼板の製造方法。
【0016】
(2)さらに、質量%で、Nb:0.005〜0.05%および/またはV:0.005〜0.10を含有することを特徴とする(1)に記載の耐HIC性に優れた高強度鋼板の製造方法。
【0017】
(3)さらに、質量%で、Cu:0.50%以下、Ni:0.50%以下、Cr:0.50%以下、Ca:0.0005〜0.0025%の中から選ばれる1種又は2種以上を含有することを特徴とする(1)または(2)に記載の耐HIC性に優れた高強度鋼板の製造方法。
【0018】
【発明の実施の形態】
本発明者らは耐HIC特性向上と高強度の両立のために、鋼材のミクロ組織と鋼板の製造方法を検討した結果、耐HIC特性を向上するためにはミクロ組織をフェライト組織とすることが最も効果的であり、フェライト組織にTi、Moを含む析出物を分散析出させることによって高い強度が得られるという知見を得た。そして、Cに対するMo、Tiの添加量を適正化することで、炭化物による析出強化を最大限に活用することができるという知見を得た。また、さらにNbおよび/またはVを複合添加すれば、Ti、Mo、Nbおよび/またはVを含む析出物を分散析出させることによって高い強度が得られること、Cに対するMo、Ti、Nb、Vの添加量を適正化することで、炭化物による析出強化を最大限に活用することができるという知見を得た。
【0019】
本発明は上記のようなTi、Moを含む析出物が分散析出したフェライト組織を有する鋼板の製造方法に関するものであり、熱間圧延後の加速冷却とその後の再加熱処理という製造プロセスを用いて、Ti、Moを含む析出物が分散析出したフェライト組織を得ることが可能であることを見出したものである。このようにして製造した鋼板は、従来の加速冷却等で得られるベイナイトまたはアシキュラーフェライト組織の鋼板のような表層部での硬度上昇がないので、表層部からのHICが生じない。さらにフェライト組織は割れに対する抵抗が極めて高いため、鋼板中心部や介在物からのHICも抑制することが可能となる。
【0020】
以下、本発明の高強度鋼板について詳しく説明する。まず、本発明の高強度鋼板の組織について説明する。
【0021】
本発明の鋼板の金属組織は実質的にフェライト単相とする。フェライト相は延性に富んでおり割れ感受性が極めて低いために、高い耐HIC特性を実現できる。フェライト相にベイナイトやマルテンサイト、またはパーライト等の異なる金属組織が1種または2種以上混在する場合は、異相界面での水素の集積や応力集中によってHICを生じやすくなるため、フェライト相以外の組織分率は少ないほどよい。しかし、フェライト以外の組織の体積分率が低い場合は影響が無視できるため、トータルの体積分率で10%以下の他の金属組織を、すなわちベイナイト、マルテンサイト、パーライト、セメンタイトを、1種または2種以上含有してもよい(MoとTiとを含む析出物は除く)。
【0022】
次に、本発明において鋼板内に分散析出する析出物について説明する。
本発明における鋼板はフェライト相中にMoとTiとを基本として含有する析出物が分散析出しているものである。この析出物は極めて微細であるので耐HIC特性に対して何ら影響を与えない。Mo及びTiは鋼中で炭化物を形成する元素であり、MoC、TiCの析出により鋼を強化することは従来より行われているが、本発明ではMoとTiを複合添加して、MoとTiとを基本として含有する複合炭化物を鋼中に微細析出させることにより、MoCおよび/またはTiCの析出強化の場合に比べて、より大きな強度向上効果が得られることが特徴である。この従来にない大きな強度向上効果は、MoとTiとを基本として含有する複合炭化物が安定でかつ成長速度が遅いので、粒径が10nm未満の極めて微細な析出物が得られることによるものである。
【0023】
MoとTiとを基本として含有する複合炭化物は、Mo、Ti、Cのみで構成される場合は、MoとTiの合計とCとが原子比で1:1の付近で化合しているものであり、高強度化に非常に効果がある。本発明では、Nbおよび/またはVを複合添加することにより、析出物がMo、TiとNbおよび/またはVを含んだ複合炭化物となり、同様の析出強化が得られることを見出した。
【0024】
本発明において鋼板内に分散析出する析出物である、MoとTiとを主体とする複合炭化物は、以下に述べる成分の鋼に本発明の製造方法を用いて鋼板を製造することにより、フェライト相中に分散させて得ることができる。本発明の高強度鋼板がMoとTiとを主体とする複合炭化物以外の析出物を含有する場合は、MoとTiの複合炭化物による高強度化の効果を損なわず、耐HIC特性を劣化させない程度とする。
【0025】
次に、本発明で用いる高強度鋼板の化学成分について説明する。
【0026】
C:0.02〜0.08%とする。Cは炭化物として析出強化に寄与する元素であるが、0.02%未満では十分な強度が確保できず、0.08%を超えると靭性や耐HIC性を劣化させるため、C含有量を0.02〜0.08%に規定する。
【0027】
Si:0.01〜0.50%とする。Siは脱酸のため添加するが、0.01%未満では脱酸効果が十分でなく、0.50%を超えると靭性や溶接性を劣化させるため、Si含有量を0.01〜0.50%に規定する。
【0028】
Mn:0.5〜1.8%とする。Mnは強度、靭性のため添加するが、0.5%未満ではその効果が十分でなく、1.8%を超えると溶接性と耐HIC性が劣化するため、Mn含有量を0.5〜1.8%に規定する。
【0029】
P:0.01%以下とする。Pは溶接性と耐HIC性を劣化させる不可避不純物元素であるため、P含有量の上限を0.01%に規定する。
【0030】
S:0.002%以下とする。Sは一般的には鋼中においてはMnS介在物となり耐HIC特性を劣化させるため少ないほどよい。しかし、0.002%以下であれば問題ないため、S含有量の上限を0.002%に規定する。
【0031】
Mo:0.05〜0.50%とする。Moは本発明において重要な元素であり、0.05%以上含有させることで、熱間圧延後冷却時のパーライト変態を抑制しつつ、Tiとの微細な複合析出物を形成し、強度上昇に大きく寄与する。しかし、0.50%を超えて添加するとベイナイトやマルテンサイトなどの硬化相を形成し耐HIC特性が劣化するため、Mo含有量を0.05〜0.50%に規定する。
【0032】
Ti:0.04超〜0.10%とする。TiはMoと同様に本発明において重要な元素である。0.04%を超えて添加することで、Moと複合析出物を形成し、強度上昇に大きく寄与する。しかし、強度上昇に寄与するのは0.10%の添加までであり、それ以上の添加はコスト上昇を招くため、Ti含有量は0.04超〜0.10%に規定する。
【0033】
Al:0.01〜0.07%とする。Alは脱酸剤として添加されるが、0.01%未満では効果がなく、0.07%を超えると鋼の清浄度が低下し、耐HIC性を劣化させるため、Al含有量は0.01〜0.07%に規定する。
【0034】
C量とMo、Tiの合計量の比である、C/(Mo+Ti):は0.5〜3.0とすることが好ましい。C/(Mo+Ti)において各元素記号はその成分の原子%の含有量(at%)を示す。本発明鋼板における高強度化はTiとMoを含む複合析出物(炭化物)によるものである。この複合析出物による析出強化を有効に利用するためには、C量と炭化物形成元素であるMo、Ti量の関係が重要であり、これらの元素を適正なバランスのもとで添加する事によって、熱的に安定でかつ非常に微細な複合析出物を得ることができる。このときCの原子%での含有量と、Mo、Tiの原子%での含有量の合計量の比であるC/(Mo+Ti)の値が0.5未満または3.0を超える場合はいずれかの元素量が過剰であり、本発明のTiとMoとを含む複合析出物以外の析出物や、ベイナイトなどの硬化組織が過度に形成されて、耐HIC特性や、靭性が劣化する場合がある。
【0035】
本発明では鋼板の強度をさらに改善する目的で、以下に示すNb、Vの1種又は2種を含有してもよい。
【0036】
Nb:0.005〜0.05%とする。Nbは組織の微細粒化により靭性を向上させるが、Ti及びMoと共に複合析出物を形成し、強度上昇に寄与する。しかし、0.005%未満では効果がなく、0.05%を超えると溶接熱影響部の靭性が劣化するため、Nb含有量は0.005〜0.05%に規定する。
【0037】
V:0.005〜0.10%とする。VもNbと同様にTi及びMoと共に複合析出物を形成し、強度上昇に寄与する。しかし、0.005%未満では効果がなく、0.1%を超えると溶接熱影響部の靭性が劣化するため、V含有量は0.005〜0.1%に規定する。
【0038】
Nbおよび/またはVを含有する場合には、C量とMo、Ti、Nb、Vの合計量の比である、C/(Mo+Ti+Nb+V)は0.5〜3.0とすることが好ましい。本発明鋼板による高強度化はTiとMoとを含む複合析出物によるが、Nbおよび/またはVを含有する場合はそれらを含んだ複合析出物(主に炭化物)となる。この複合析出物による析出強化を有効に利用するためには、C量と炭化物形成元素であるMo、Ti、Nb、V量の関係が重要であり、これらの元素を適正なバランスのもとで添加する事によって、熱的に安定でかつ非常に微細な複合析出物を得ることができる。このときCの原子%での含有量と、Mo、Ti、Nb、Vの原子%での含有量の合計量の比であるC/(Mo+Ti+Nb+V)の値が0.5未満または3.0を超える場合はいずれかの元素量が過剰であり、本発明のTiとMoとを含む複合析出物以外の析出物や、ベイナイトなどの硬化相が過度に形成されて、耐HIC特性や、靭性が劣化する場合がある。なお、質量%の含有量を用いる場合は、以下の式(1)を用いて計算して、その値を0.5〜3.0とするとすることが好ましい。
【0039】
(C/12.01)/(Mo/95.9+Nb/92.91+V/50.94+Ti/47.9)・・・(1)
本発明では鋼板の強度や耐HIC特性をさらに改善する目的で、以下に示すCu、Ni、Cr、Caの1種または2種以上を含有してもよい。
【0040】
Cu:0.50%以下とする。Cuは靭性の改善と強度の上昇に有効な元素であるが、多く添加すると溶接性が劣化するため、添加する場合は0.50%を上限とする。
【0041】
Ni:0.50%以下とする。Niは靭性の改善と強度の上昇に有効な元素であるが、多く添加すると耐HIC特性が低下するため、添加する場合は0.50%を上限とする。
【0042】
Cr:0.50%以下とする。CrはMnと同様に低Cでも十分な強度を得るために有効な元素であるが、多く添加すると溶接性を劣化するため、添加する場合は0.50%を上限とする。
【0043】
Ca:0.0005〜0.0025%とする。Caは硫化物系介在物の形態制御による耐HIC特性向上に有効な元素であるが、0.0005%未満ではその効果が十分でなく、0.0025%をこえて添加しても効果が飽和し、むしろ、鋼の清浄度の低下により耐HIC性を劣化させるので、添加する場合はCa含有量を0.0005〜0.0025%に規定する。
【0044】
上記以外の残部は実質的にFeからなる。残部が実質的にFeからなるとは、本発明の作用効果を無くさない限り、不可避不純物をはじめ、他の微量元素を含有するものが本発明の範囲に含まれ得ることを意味する。
【0045】
次に、本発明の高強度鋼板の製造方法について説明する。
【0046】
本発明の高強度鋼板は上記の成分組成を有する鋼を用い、加熱温度:1000〜1250℃、圧延終了温度:750〜950℃で熱間圧延を行い、その後2℃/s以上の冷却速度で600〜700℃まで冷却し、次いで600〜700℃の温度まで1回以上の加熱を行い、鋼板の平均温度が600〜700℃である時間を3分以上とすることで、MoとTiとを主体とする微細な複合炭化物をフェライト組織中に分散析出させて製造できる。以下、各製造条件について詳しく説明する。
【0047】
加熱温度:1000〜1250℃とする。加熱温度が1000℃未満では炭化物の固溶が不十分で必要な強度が得られず、1250℃を超えると靭性が劣化するため、1000〜1250℃とする。
【0048】
圧延終了温度:750〜950℃とする。圧延終了温度が低いと、圧延方向に伸展した組織となり耐HIC特性が劣化するだけでなく、その後のフェライト変態速度が低下するためフェライト単一組織を得ることが困難になるので、圧延終了温度を750℃以上とする。また、組織の粗大化による靭性低下を防ぐため、圧延終了温度の上限を950℃以下と規定する。圧延終了温度が750℃以上、850℃未満であると、以下で説明する再加熱時の保持時間を短くすることができる。
【0049】
圧延終了後、直ちに2℃/s以上の冷却速度で冷却する。圧延終了後に放冷または徐冷を行うと高温域から析出してしまい、析出物が容易に粗大化し強度が低下する。よって、析出強化に最適な温度まで急冷(加速冷却)を行い、高温域からの析出を防止することが本発明における重要な製造条件である。冷却速度が2℃/s未満では高温域での析出防止効果が十分ではなく強度が低下するため、圧延終了後の冷却速度を2℃/s以上に規定する。このときの冷却方法については製造プロセスによって任意の冷却設備を用いることが可能である。
【0050】
冷却停止温度:600〜700℃とする。冷却停止温度が600℃未満ではベイナイトが生成するために耐HIC特性が劣化するので、冷却停止温度を600℃以上とする。また700℃を超えると析出物が粗大化し十分な強度が得られないため、加速冷却停止温度を600〜700℃に規定する。
【0051】
加速冷却後直ちに、鋼板の温度を600℃未満にすることなく、600〜700℃の温度まで1回以上の加熱(再加熱)を行い、加速冷却停止後の鋼板の平均温度を600〜700℃とする。かつ、前記鋼板の平均温度が600〜700℃である時間を3分以上とする。再加熱時の最高温度および最低温度は600〜700℃の温度域で任意に選択できる。2℃/s以上の冷却速度での冷却後、本発明のフェライト組織と微細析出物とを得るためには、600〜700℃の温度域で一定時間以上保持することが必要である。保持温度が600℃未満ではベイナイトが生成するために耐HIC特性が劣化する。また、700℃を超えると析出物が粗大化し十分な強度が得られないため、保持温度域を600〜700℃に規定する。また、保持時間が3分未満ではフェライト変態が完了せず、その後の冷却でベイナイトまたはパーライトを生成するために耐HIC特性が劣化するので、保持時間は3分以上に規定する。保持後の冷却速度は任意で構わない。再加熱工程での鋼板の熱履歴の一例を図1に示す。図1では再加熱を2回行う場合を示したが、再加熱の回数は1回以上の任意の回数とすることができる。図1において、保持時間tは加速冷却終了から鋼板の温度が600℃未満になるまでの時間である。再加熱最高温度(Tmax)は再加熱開始後の鋼板の最高温度である。再加熱最低温度(Tmin)は再加熱が2回以上である場合に2回目以降の再加熱を開始する温度であり、2回目以降の再加熱を開始する鋼板の温度の内の最低温度とする。従って再加熱が1回である場合には再加熱最低温度は定義されない。
【0052】
600〜700℃の温度まで1回以上の加熱を行い、鋼板の平均温度が600〜700℃である時間を3分以上とするための設備として、冷却設備の下流側に加熱装置を設置することができる。加熱装置としては、鋼板の急速加熱が可能であるガス燃焼炉や誘導加熱装置を用いる事が好ましい。誘導加熱装置は均熱炉等に比べて温度制御が容易でありコストも比較的低く、冷却後の鋼板を迅速に加熱できるので特に好ましい。また複数の誘導加熱装置を直列に連続して配置することにより、ライン速度や鋼板の種類・寸法が異なる場合にも、通電する誘導加熱装置の数を任意に設定するだけで、容易に鋼板の平均温度が600〜700℃である時間を3分以上にすることができる。なお、600〜700℃に3分以上保持することでフェライト変態が完了するので、その後の冷却速度は任意の速度で構わない。
【0053】
また、本発明の製造方法を実施するための設備として、圧延設備、冷却設備、加熱装置をこの順に同一ライン上に配置することが好ましい。これにより、鋼板を圧延後、直ちに冷却を行い、鋼板の温度を600℃未満に低下させることなく加熱することができる。
【0054】
上記の製造方法により製造された本発明の鋼板は、プレスベンド成形、ロール成形、UOE成形等で鋼管に成形して、原油や天然ガスを輸送する鋼管(電縫鋼管、スパイラル鋼管、UOE鋼管)等に利用することができる。
【0055】
【実施例】
表1に示す化学成分の鋼(鋼種A〜L)を連続鋳造法によりスラブとし、これを用いて板厚18、26mmの厚鋼板(No.1〜22)を製造した。
【0056】
【表1】
【0057】
加熱したスラブを熱間圧延により圧延した後、直ちに水冷型の加速冷却設備を用いて冷却を行い、誘導加熱炉またはガス燃焼炉を用いて再加熱を行った。冷却設備及び誘導加熱炉はインライン型とした。各鋼板(No.1〜22)の製造条件を表2に示す。表2における各温度は鋼板平均温度である。表2に示す最高温度と最低温度は前述した再加熱最高温度と再加熱最低温度であり、再加熱回数は3分以上600〜700℃に保持するために再加熱を行った回数である。
【0058】
以上のようにして製造した鋼板のミクロ組織を、光学顕微鏡、透過型電子顕微鏡(TEM)により観察した。析出物の成分はエネルギー分散型X線分光法(EDX)により分析した。また各鋼板の引張特性、耐HIC特性を測定した。測定結果を表2に併せて示す。引張特性は、圧延垂直方向の全厚試験片を引張試験片として引張試験を行い、降伏強度、引張強度を測定した。そして、製造上のばらつきを考慮して、降伏強度480MPa以上、引張強度580MPa以上であるものをAPI X65グレード以上の高強度鋼板として評価した。耐HIC特性はNACE Standard TM-02-84に準じた浸漬時間96時間のHIC試験を行い、割れが認められない場合を耐HIC性良好と判断して○で、割れが発生した場合を×で示した。
【0059】
【表2】
【0060】
表2において、本発明例であるNo.1〜11はいずれも、化学成分および製造方法が本発明の範囲内であり、引張強度580MPa以上の高強度で、かつ耐HIC性が優れていた。鋼板の組織は、実質的にフェライト単層であり、TiとMoと、一部の鋼板についてはさらにNbおよび/またはVとを含む粒径が10nm未満の微細な炭化物の析出物が分散析出していた。
【0061】
No.12〜17は、化学成分は本発明の範囲内であるが、製造方法が本発明の範囲外であり、No.18〜22は化学成分が本発明の範囲外であるので、金属組織が実質的にフェライト単相ではないことや、TiとMoとを含む析出物が分散析出していないため、十分な強度が得られないか、HIC試験で割れが生じた。
【0062】
なお、再加熱を誘導加熱炉で行った場合もガス燃焼炉で行った場合も特に結果に差は見られなかった。
【0063】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明によれば、API X65グレード以上の高強度を有し、かつ耐HIC性の優れた鋼板が得られる。このため優れた特性を有する電縫鋼管、スパイラル鋼管、UOE鋼管等の鋼管を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】再加熱工程での鋼板の熱履歴の一例を示すグラフ。
Claims (3)
- 質量%で、C:0.02〜0.08%、Si:0.01〜0.50%、Mn:0.5〜1.8%、P:0.01%以下、S:0.002%以下、Mo: 0.05〜0.50%、Ti:0.04超〜0.10%、Al:0.01〜0.07%を含有し、残部Feおよび不可避不純物からなる鋼を、加熱温度:1000〜1250℃、圧延終了温度: 750〜950℃の条件で熱間圧延した後、2℃/s以上の冷却速度で600〜700℃まで加速冷却し、次いで600〜700℃の温度域で1回以上の加熱を行うことで鋼板の平均温度を600〜700℃に3分以上保持することを特徴とする、耐HIC性に優れた高強度鋼板の製造方法。
- さらに、質量%で、Nb:0.005〜0.05%および/またはV:0.005〜0.10を含有することを特徴とする請求項1に記載の耐HIC性に優れた高強度鋼板の製造方法。
- さらに、質量%で、Cu:0.50%以下、Ni:0.50%以下、Cr:0.50%以下、Ca:0.0005〜0.0025%の中から選ばれる1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の耐HIC性に優れた高強度鋼板の製造方法。
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