JP2003183732A - 耐hic特性に優れた高強度鋼板の製造方法 - Google Patents

耐hic特性に優れた高強度鋼板の製造方法

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JP2003183732A JP2002288557A JP2002288557A JP2003183732A JP 2003183732 A JP2003183732 A JP 2003183732A JP 2002288557 A JP2002288557 A JP 2002288557A JP 2002288557 A JP2002288557 A JP 2002288557A JP 2003183732 A JP2003183732 A JP 2003183732A
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 API X65グレード以上の高強度鋼板であっ
て、中央偏析部のHIC及び表面近傍や介在物から発生
するHICに対して優れた耐HIC性を示す高強度鋼板
を提供すること。 【解決手段】 質量%で、C:0.02〜0.08%、Si:0.01〜
0.50%、Mn:0.5〜1.8%、P:0.01%以下、S:0.002%以
下、Mo:0.05〜0.50%、Ti:0.04超〜0.10%、Al:0.01〜
0.07%を含有する鋼を、加熱温度:1000〜1250℃、圧延
終了温度:750〜950℃の条件で熱間圧延した後、2℃/s
以上の冷却速度で600〜700℃まで冷却し、次いで600〜7
00℃の温度まで1回以上の加熱を行い、鋼板の平均温度
が600〜700℃である時間を3分以上とすることを特徴と
する、耐HIC性に優れた高強度鋼板の製造方法を用い
る。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、鋼管等の製造に用
いるAPI規格X65グレード以上の強度を有する高強度鋼板
に関し、特に耐水素誘起割れ性(耐HIC性)に優れた
高強度鋼板とその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】硫化水素を含む原油や天然ガスの輸送に
用いられるラインパイプは、強度、靭性、溶接性の他
に、耐水素誘起割れ性(耐HIC性)や耐応力腐食割れ
性(耐SCC性)などのいわゆる耐サワー性が必要とさ
れる。鋼材の水素誘起割れ(HIC)は、腐食反応によ
る水素イオンが鋼材表面に吸着し、原子状の水素として
鋼内部に侵入、鋼中のMnSなどの非金属介在物や硬い第
2相組織のまわりに拡散・集積し、その内圧により割れ
を生ずるものとされている。このような水素誘起割れを
防ぐために、CaやCeをS量に対して適量添加することに
より、針状のMnSの生成を抑制し、応力集中の小さい微
細に分散した球状の介在物に形態を変えて割れの発生・
伝播を抑制する、耐HIC性の優れたラインパイプ用鋼
の製造方法が知られている(例えば、特許文献1参
照。)。また、偏析傾向の高い元素(C、Mn、P等)の低
減や、スラブ加熱段階での均熱処理、冷却時の変態途中
での加速冷却により、中心偏析部での割れの起点となる
島状マルテンサイト、割れの伝播経路となるマルテンサ
イトやベイナイトなどの硬化組織の生成を抑制した、耐
HIC性に優れた鋼が知られている(例えば、特許文献
2、特許文献3参照。)。また、耐HIC性の優れたX8
0グレードの高強度鋼板に関して、低SでCa添加により介
在物の形態制御を行いつつ、低C、低Mnとして中央偏析
を抑制し、それに伴う強度低下をCr、Mn、Niなどの添加
と加速冷却により補う方法が知られている(例えば、特
許文献4、特許文献5、特許文献6参照。)。しかし、
上記の耐HIC性を改善する方法はいずれも中心偏析部
が対象である。API X80グレード等のX65グレードを超え
る高強度鋼板は加速冷却または直接焼入れによって製造
される場合が多いため、冷却速度の速い鋼板表面部が内
部に比べ硬化し、表面近傍から水素誘起割れが発生す
る。また、加速冷却によって得られるこれらの高強度鋼
板のミクロ組織は、表面のみならず内部までベイナイト
またはアシキュラーフェライトの比較的割れ感受性の高
い組織であり、中心偏析部のHICへの対策を施した場
合でも、API X80グレード程度の高強度鋼では硫化物系
または酸化物系介在物を起点としたHICをなくすこと
は困難である。従ってこれらの高強度鋼板の耐HIC性
を問題にする場合は、鋼板の表面部のHICまたは、硫
化物系や酸化物系介在物を起点としたHICの対策が必
要である。一方、ミクロ組織が割れ感受性の高いブロッ
ク状ベイナイトやマルテンサイトを含まない耐HIC性
に優れた高強度鋼として、フェライト−ベイナイト2相
組織である、API X80グレードの耐HIC性に優れた高
強度鋼材が知られている(例えば、特許文献7参
照。)。また、ミクロ組織をフェライト単相組織とする
ことで耐SCC(SSCC)性や耐HIC性を改善し、
MoまたはTiの多量添加によって得られる炭化物の析出強
化を利用した高強度鋼が知られている(例えば、特許文
献8、特許文献9参照。)。
【0003】
【特許文献1】特開昭54−110119号公報
【0004】
【特許文献2】特開昭61−60866号公報
【0005】
【特許文献3】特開昭61−165207号公報
【0006】
【特許文献4】特開平5−9575号公報
【0007】
【特許文献5】特開平5−271766号公報
【0008】
【特許文献6】特開平7−173536号公報
【0009】
【特許文献7】特開平7−216500号公報
【0010】
【特許文献8】特開昭61−227129号公報
【0011】
【特許文献9】特開平7−70697号公報
【0012】
【発明が解決しようとする課題】しかし、特許文献7に
記載の高強度鋼のベイナイト組織は、ブロック状ベイナ
イトやマルテンサイト程ではないが比較的割れ感受性の
高い組織であり、S及びMn量を厳しく制限して、Ca処理
を必須として耐HIC性を向上させる必要があるため、
製造コストが高い。また、特許文献7に記載の圧延・冷
却方法を用いてフェライト−ベイナイト2相組織を安定
的に得ることは難しい。一方、特許文献8、特許文献9
に記載のフェライト相は延性に富んだ組織であり、割れ
感受性が極めて低いため、ベイナイト組織またはアシキ
ュラーフェライト組織の鋼に比べ耐HIC性が大幅に改
善される。しかし、フェライト単相では強度が低いた
め、特許文献8に記載の鋼はC及びMoを多量に添加した
鋼を用いて、炭化物を多量に析出させることによって高
強度化し、特許文献9の鋼帯ではTi添加鋼を特定の温度
で鋼帯に巻き取り、TiCの析出強化を利用して高強度化
している。ところが、特許文献8に記載のMo炭化物が分
散したフェライト組織を得るためには、焼入れ焼戻しの
後に冷間加工を行い、さらに再度焼戻しを行う必要があ
り、製造コストが上昇するだけでなく、Mo炭化物の粒径
が約0.1μmと大きく、強度上昇効果が低いため、C及び
Moの含有量を高め、炭化物の量をふやすことによって所
定の強度を得る必要がある。また、特許文献9に記載の
高強度鋼で利用しているTiCはMo炭化物に比べ微細であ
り、析出強化に有効な炭化物であるが、析出時の温度の
影響を受けて粗大化しやすいにもかかわらず、析出物粗
大化に対する対策が何らなされていない。そのため析出
強化が十分ではなく、多量のTi添加が必要となってい
る。
【0013】したがって本発明の目的は、このような従
来技術の課題を解決し、API X65グレード以上の高強度
鋼板であって、中央偏析部のHIC及び表面近傍や介在
物から発生するHICに対して優れた耐HIC性を示す
高強度鋼板を提供することにある。
【0014】
【課題を解決するための手段】このような課題を解決す
るための本発明の特徴は以下の通りである。
【0015】(1)質量%で、C:0.02〜0.08%、Si:0.
01〜0.50%、Mn:0.5〜1.8%、P:0.01%以下、S:0.002%
以下、Mo:0.05〜0.50%、Ti:0.04超〜0.10%、Al:0.01
〜0.07%を含有する鋼を、加熱温度:1000〜1250℃、圧
延終了温度:750〜950℃の条件で熱間圧延した後、2℃/
s以上の冷却速度で600〜700℃まで冷却し、次いで600〜
700℃の温度まで1回以上の加熱を行い、鋼板の平均温
度が600〜700℃である時間を3分以上とすることを特徴
とする、耐HIC性に優れた高強度鋼板の製造方法。
【0016】(2)さらに、質量%で、Nb:0.005〜0.0
5%および/またはV:0.005〜0.10を含有することを特徴
とする(1)に記載の耐HIC性に優れた高強度鋼板の
製造方法。
【0017】(3)さらに、質量%で、Cu:0.50%以
下、Ni:0.50%以下、Cr:0.50%以下、Ca:0.0005〜0.00
25%の中から選ばれる1種又は2種以上を含有すること
を特徴とする(1)または(2)に記載の耐HIC性に
優れた高強度鋼板の製造方法。
【0018】
【発明の実施の形態】本発明者らは耐HIC特性向上と
高強度の両立のために、鋼材のミクロ組織と鋼板の製造
方法を検討した結果、耐HIC特性を向上するためには
ミクロ組織をフェライト組織とすることが最も効果的で
あり、フェライト組織にTi、Moを含む析出物を分散析出
させることによって高い強度が得られるという知見を得
た。そして、Cに対するMo、Tiの添加量を適正化するこ
とで、炭化物による析出強化を最大限に活用することが
できるという知見を得た。また、さらにNbおよび/また
はVを複合添加すれば、Ti、Mo、Nbおよび/またはVを含
む析出物を分散析出させることによって高い強度が得ら
れること、Cに対するMo、Ti、Nb、Vの添加量を適正化す
ることで、炭化物による析出強化を最大限に活用するこ
とができるという知見を得た。
【0019】本発明は上記のようなTi、Moを含む析出物
が分散析出したフェライト組織を有する鋼板の製造方法
に関するものであり、熱間圧延後の加速冷却とその後の
再加熱処理という製造プロセスを用いて、Ti、Moを含む
析出物が分散析出したフェライト組織を得ることが可能
であることを見出したものである。このようにして製造
した鋼板は、従来の加速冷却等で得られるベイナイトま
たはアシキュラーフェライト組織の鋼板のような表層部
での硬度上昇がないので、表層部からのHICが生じな
い。さらにフェライト組織は割れに対する抵抗が極めて
高いため、鋼板中心部や介在物からのHICも抑制する
ことが可能となる。
【0020】以下、本発明の高強度鋼板について詳しく
説明する。まず、本発明の高強度鋼板の組織について説
明する。
【0021】本発明の鋼板の金属組織は実質的にフェラ
イト単相とする。フェライト相は延性に富んでおり割れ
感受性が極めて低いために、高い耐HIC特性を実現で
きる。フェライト相にベイナイトやマルテンサイト、ま
たはパーライト等の異なる金属組織が1種または2種以上
混在する場合は、異相界面での水素の集積や応力集中に
よってHICを生じやすくなるため、フェライト相以外
の組織分率は少ないほどよい。しかし、フェライト以外
の組織の体積分率が低い場合は影響が無視できるため、
トータルの体積分率で10%以下の他の金属組織を、すな
わちベイナイト、マルテンサイト、パーライト、セメン
タイトを、1種または2種以上含有してもよい(MoとTiと
を含む析出物は除く)。
【0022】次に、本発明において鋼板内に分散析出す
る析出物について説明する。本発明における鋼板はフェ
ライト相中にMoとTiとを基本として含有する析出物が分
散析出しているものである。この析出物は極めて微細で
あるので耐HIC特性に対して何ら影響を与えない。Mo
及びTiは鋼中で炭化物を形成する元素であり、MoC、TiC
の析出により鋼を強化することは従来より行われている
が、本発明ではMoとTiを複合添加して、MoとTiとを基本
として含有する複合炭化物を鋼中に微細析出させること
により、MoCおよび/またはTiCの析出強化の場合に比べ
て、より大きな強度向上効果が得られることが特徴であ
る。この従来にない大きな強度向上効果は、MoとTiとを
基本として含有する複合炭化物が安定でかつ成長速度が
遅いので、粒径が10nm未満の極めて微細な析出物が得ら
れることによるものである。
【0023】MoとTiとを基本として含有する複合炭化物
は、Mo、Ti、Cのみで構成される場合は、MoとTiの合計
とCとが原子比で1:1の付近で化合しているものであ
り、高強度化に非常に効果がある。本発明では、Nbおよ
び/またはVを複合添加することにより、析出物がMo、T
iとNbおよび/またはVを含んだ複合炭化物となり、同様
の析出強化が得られることを見出した。
【0024】本発明において鋼板内に分散析出する析出
物である、MoとTiとを主体とする複合炭化物は、以下に
述べる成分の鋼に本発明の製造方法を用いて鋼板を製造
することにより、フェライト相中に分散させて得ること
ができる。本発明の高強度鋼板がMoとTiとを主体とする
複合炭化物以外の析出物を含有する場合は、MoとTiの複
合炭化物による高強度化の効果を損なわず、耐HIC特
性を劣化させない程度とする。
【0025】次に、本発明で用いる高強度鋼板の化学成
分について説明する。
【0026】C:0.02〜0.08%とする。Cは炭化物として
析出強化に寄与する元素であるが、0.02%未満では十分
な強度が確保できず、0.08%を超えると靭性や耐HIC
性を劣化させるため、C含有量を0.02〜0.08%に規定す
る。
【0027】Si:0.01〜0.50%とする。Siは脱酸のため
添加するが、0.01%未満では脱酸効果が十分でなく、0.5
0%を超えると靭性や溶接性を劣化させるため、Si含有量
を0.01〜0.50%に規定する。
【0028】Mn:0.5〜1.8%とする。Mnは強度、靭性の
ため添加するが、0.5%未満ではその効果が十分でなく、
1.8%を超えると溶接性と耐HIC性が劣化するため、Mn
含有量を0.5〜1.8%に規定する。
【0029】P:0.01%以下とする。Pは溶接性と耐HI
C性を劣化させる不可避不純物元素であるため、P含有
量の上限を0.01%に規定する。
【0030】S:0.002%以下とする。Sは一般的には鋼中
においてはMnS介在物となり耐HIC特性を劣化させる
ため少ないほどよい。しかし、0.002%以下であれば問題
ないため、S含有量の上限を0.002%に規定する。
【0031】Mo:0.05〜0.50%とする。Moは本発明にお
いて重要な元素であり、0.05%以上含有させることで、
熱間圧延後冷却時のパーライト変態を抑制しつつ、Tiと
の微細な複合析出物を形成し、強度上昇に大きく寄与す
る。しかし、0.50%を超えて添加するとベイナイトやマ
ルテンサイトなどの硬化相を形成し耐HIC特性が劣化
するため、Mo含有量を0.05〜0.50%に規定する。
【0032】Ti:0.04超〜0.10%とする。TiはMoと同様
に本発明において重要な元素である。0.04%を超えて添
加することで、Moと複合析出物を形成し、強度上昇に大
きく寄与する。しかし、強度上昇に寄与するのは0.10%
の添加までであり、それ以上の添加はコスト上昇を招く
ため、Ti含有量は0.04超〜0.10%に規定する。
【0033】Al:0.01〜0.07%とする。Alは脱酸剤とし
て添加されるが、0.01%未満では効果がなく、0.07%を超
えると鋼の清浄度が低下し、耐HIC性を劣化させるた
め、Al含有量は0.01〜0.07%に規定する。
【0034】C量とMo、Tiの合計量の比である、C/(Mo+T
i):は0.5〜3.0とすることが好ましい。C/(Mo+Ti)にお
いて各元素記号はその成分の原子%の含有量(at%)を
示す。本発明鋼板における高強度化はTiとMoを含む複合
析出物(炭化物)によるものである。この複合析出物に
よる析出強化を有効に利用するためには、C量と炭化物
形成元素であるMo、Ti量の関係が重要であり、これらの
元素を適正なバランスのもとで添加する事によって、熱
的に安定でかつ非常に微細な複合析出物を得ることがで
きる。このときCの原子%での含有量と、Mo、Tiの原子
%での含有量の合計量の比であるC/(Mo+Ti)の値が0.5未
満または3.0を超える場合はいずれかの元素量が過剰で
あり、本発明のTiとMoとを含む複合析出物以外の析出物
や、ベイナイトなどの硬化組織が過度に形成されて、耐
HIC特性や、靭性が劣化する場合がある。
【0035】本発明では鋼板の強度をさらに改善する目
的で、以下に示すNb、Vの1種又は2種を含有してもよ
い。
【0036】Nb:0.005〜0.05%とする。Nbは組織の微細
粒化により靭性を向上させるが、Ti及びMoと共に複合析
出物を形成し、強度上昇に寄与する。しかし、0.005%未
満では効果がなく、0.05%を超えると溶接熱影響部の靭
性が劣化するため、Nb含有量は0.005〜0.05%に規定す
る。
【0037】V:0.005〜0.10%とする。VもNbと同様にTi
及びMoと共に複合析出物を形成し、強度上昇に寄与す
る。しかし、0.005%未満では効果がなく、0.1%を超える
と溶接熱影響部の靭性が劣化するため、V含有量は0.005
〜0.1%に規定する。
【0038】Nbおよび/またはVを含有する場合には、C
量とMo、Ti、Nb、Vの合計量の比である、C/(Mo+Ti+Nb+
V)は0.5〜3.0とすることが好ましい。本発明鋼板による
高強度化はTiとMoとを含む複合析出物によるが、Nbおよ
び/またはVを含有する場合はそれらを含んだ複合析出
物(主に炭化物)となる。この複合析出物による析出強化
を有効に利用するためには、C量と炭化物形成元素であ
るMo、Ti、Nb、V量の関係が重要であり、これらの元素
を適正なバランスのもとで添加する事によって、熱的に
安定でかつ非常に微細な複合析出物を得ることができ
る。このときCの原子%での含有量と、Mo、Ti、Nb、Vの
原子%での含有量の合計量の比であるC/(Mo+Ti+Nb+V)の
値が0.5未満または3.0を超える場合はいずれかの元素量
が過剰であり、本発明のTiとMoとを含む複合析出物以外
の析出物や、ベイナイトなどの硬化相が過度に形成され
て、耐HIC特性や、靭性が劣化する場合がある。な
お、質量%の含有量を用いる場合は、以下の式(1)を
用いて計算して、その値を0.5〜3.0とするとすることが
好ましい。
【0039】 (C/12.01)/(Mo/95.9+Nb/92.91+V/50.94+Ti/47.9)・・・(1) 本発明では鋼板の強度や耐HIC特性をさらに改善する
目的で、以下に示すCu、Ni、Cr、Caの1種または2種以
上を含有してもよい。
【0040】Cu:0.50%以下とする。Cuは靭性の改善と
強度の上昇に有効な元素であるが、多く添加すると溶接
性が劣化するため、添加する場合は0.50%を上限とす
る。
【0041】Ni:0.50%以下とする。Niは靭性の改善と
強度の上昇に有効な元素であるが、多く添加すると耐H
IC特性が低下するため、添加する場合は0.50%を上限
とする。
【0042】Cr:0.50%以下とする。CrはMnと同様に低C
でも十分な強度を得るために有効な元素であるが、多く
添加すると溶接性を劣化するため、添加する場合は0.50
%を上限とする。
【0043】Ca:0.0005〜0.0025%とする。Caは硫化物
系介在物の形態制御による耐HIC特性向上に有効な元
素であるが、0.0005%未満ではその効果が十分でなく、
0.0025%をこえて添加しても効果が飽和し、むしろ、鋼
の清浄度の低下により耐HIC性を劣化させるので、添
加する場合はCa含有量を0.0005〜0.0025%に規定する。
【0044】上記以外の残部は実質的にFeからなる。
残部が実質的にFeからなるとは、本発明の作用効果を
無くさない限り、不可避不純物をはじめ、他の微量元素
を含有するものが本発明の範囲に含まれ得ることを意味
する。
【0045】次に、本発明の高強度鋼板の製造方法につ
いて説明する。
【0046】本発明の高強度鋼板は上記の成分組成を有
する鋼を用い、加熱温度:1000〜1250℃、圧延終了温
度:750〜950℃で熱間圧延を行い、その後2℃/s以上の
冷却速度で600〜700℃まで冷却し、次いで600〜700℃の
温度まで1回以上の加熱を行い、鋼板の平均温度が600
〜700℃である時間を3分以上とすることで、MoとTiとを
主体とする微細な複合炭化物をフェライト組織中に分散
析出させて製造できる。以下、各製造条件について詳し
く説明する。
【0047】加熱温度:1000〜1250℃とする。加熱温度
が1000℃未満では炭化物の固溶が不十分で必要な強度が
得られず、1250℃を超えると靭性が劣化するため、1000
〜1250℃とする。
【0048】圧延終了温度:750〜950℃とする。圧延終
了温度が低いと、圧延方向に伸展した組織となり耐HI
C特性が劣化するだけでなく、その後のフェライト変態
速度が低下するためフェライト単一組織を得ることが困
難になるので、圧延終了温度を750℃以上とする。ま
た、組織の粗大化による靭性低下を防ぐため、圧延終了
温度の上限を950℃以下と規定する。圧延終了温度が750
℃以上、850℃未満であると、以下で説明する再加熱時
の保持時間を短くすることができる。
【0049】圧延終了後、直ちに2℃/s以上の冷却速度
で冷却する。圧延終了後に放冷または徐冷を行うと高温
域から析出してしまい、析出物が容易に粗大化し強度が
低下する。よって、析出強化に最適な温度まで急冷(加
速冷却)を行い、高温域からの析出を防止することが本
発明における重要な製造条件である。冷却速度が2℃/s
未満では高温域での析出防止効果が十分ではなく強度が
低下するため、圧延終了後の冷却速度を2℃/s以上に規
定する。このときの冷却方法については製造プロセスに
よって任意の冷却設備を用いることが可能である。
【0050】冷却停止温度:600〜700℃とする。冷却停
止温度が600℃未満ではベイナイトが生成するために耐
HIC特性が劣化するので、冷却停止温度を600℃以上
とする。また700℃を超えると析出物が粗大化し十分な
強度が得られないため、加速冷却停止温度を600〜700℃
に規定する。
【0051】加速冷却後直ちに、鋼板の温度を600℃未
満にすることなく、600〜700℃の温度まで1回以上の加
熱(再加熱)を行い、加速冷却停止後の鋼板の平均温度
を600〜700℃とする。かつ、前記鋼板の平均温度が600
〜700℃である時間を3分以上とする。再加熱時の最高温
度および最低温度は600〜700℃の温度域で任意に選択で
きる。2℃/s以上の冷却速度での冷却後、本発明のフェ
ライト組織と微細析出物とを得るためには、600〜700℃
の温度域で一定時間以上保持することが必要である。保
持温度が600℃未満ではベイナイトが生成するために耐
HIC特性が劣化する。また、700℃を超えると析出物
が粗大化し十分な強度が得られないため、保持温度域を
600〜700℃に規定する。また、保持時間が3分未満では
フェライト変態が完了せず、その後の冷却でベイナイト
またはパーライトを生成するために耐HIC特性が劣化
するので、保持時間は3分以上に規定する。保持後の冷
却速度は任意で構わない。再加熱工程での鋼板の熱履歴
の一例を図1に示す。図1では再加熱を2回行う場合を
示したが、再加熱の回数は1回以上の任意の回数とする
ことができる。図1において、保持時間tは加速冷却終
了から鋼板の温度が600℃未満になるまでの時間であ
る。再加熱最高温度(Tmax)は再加熱開始後の鋼板の
最高温度である。再加熱最低温度(Tmin)は再加熱が
2回以上である場合に2回目以降の再加熱を開始する温
度であり、2回目以降の再加熱を開始する鋼板の温度の
内の最低温度とする。従って再加熱が1回である場合に
は再加熱最低温度は定義されない。
【0052】600〜700℃の温度まで1回以上の加熱を行
い、鋼板の平均温度が600〜700℃である時間を3分以上
とするための設備として、冷却設備の下流側に加熱装置
を設置することができる。加熱装置としては、鋼板の急
速加熱が可能であるガス燃焼炉や誘導加熱装置を用いる
事が好ましい。誘導加熱装置は均熱炉等に比べて温度制
御が容易でありコストも比較的低く、冷却後の鋼板を迅
速に加熱できるので特に好ましい。また複数の誘導加熱
装置を直列に連続して配置することにより、ライン速度
や鋼板の種類・寸法が異なる場合にも、通電する誘導加
熱装置の数を任意に設定するだけで、容易に鋼板の平均
温度が600〜700℃である時間を3分以上にすることがで
きる。なお、600〜700℃に3分以上保持することでフェ
ライト変態が完了するので、その後の冷却速度は任意の
速度で構わない。
【0053】また、本発明の製造方法を実施するための
設備として、圧延設備、冷却設備、加熱装置をこの順に
同一ライン上に配置することが好ましい。これにより、
鋼板を圧延後、直ちに冷却を行い、鋼板の温度を600℃
未満に低下させることなく加熱することができる。
【0054】上記の製造方法により製造された本発明の
鋼板は、プレスベンド成形、ロール成形、UOE成形等
で鋼管に成形して、原油や天然ガスを輸送する鋼管(電
縫鋼管、スパイラル鋼管、UOE鋼管)等に利用するこ
とができる。
【0055】
【実施例】表1に示す化学成分の鋼(鋼種A〜L)を連
続鋳造法によりスラブとし、これを用いて板厚18、26mm
の厚鋼板(No.1〜22)を製造した。
【0056】
【表1】
【0057】加熱したスラブを熱間圧延により圧延した
後、直ちに水冷型の加速冷却設備を用いて冷却を行い、
誘導加熱炉またはガス燃焼炉を用いて再加熱を行った。
冷却設備及び誘導加熱炉はインライン型とした。各鋼板
(No.1〜22)の製造条件を表2に示す。表2におけ
る各温度は鋼板平均温度である。表2に示す最高温度と
最低温度は前述した再加熱最高温度と再加熱最低温度で
あり、再加熱回数は3分以上600〜700℃に保持するため
に再加熱を行った回数である。
【0058】以上のようにして製造した鋼板のミクロ組
織を、光学顕微鏡、透過型電子顕微鏡(TEM)により
観察した。析出物の成分はエネルギー分散型X線分光法
(EDX)により分析した。また各鋼板の引張特性、耐
HIC特性を測定した。測定結果を表2に併せて示す。
引張特性は、圧延垂直方向の全厚試験片を引張試験片と
して引張試験を行い、降伏強度、引張強度を測定した。
そして、製造上のばらつきを考慮して、降伏強度480MPa
以上、引張強度580MPa以上であるものをAPI X65グレー
ド以上の高強度鋼板として評価した。耐HIC特性はNA
CE Standard TM-02-84に準じた浸漬時間96時間のHIC
試験を行い、割れが認められない場合を耐HIC性良好
と判断して○で、割れが発生した場合を×で示した。
【0059】
【表2】
【0060】表2において、本発明例であるNo.1〜1
1はいずれも、化学成分および製造方法が本発明の範囲
内であり、引張強度580MPa以上の高強度で、かつ耐HI
C性が優れていた。鋼板の組織は、実質的にフェライト
単層であり、TiとMoと、一部の鋼板についてはさらにNb
および/またはVとを含む粒径が10nm未満の微細な炭化
物の析出物が分散析出していた。
【0061】No.12〜17は、化学成分は本発明の範
囲内であるが、製造方法が本発明の範囲外であり、No.
18〜22は化学成分が本発明の範囲外であるので、金
属組織が実質的にフェライト単相ではないことや、Tiと
Moとを含む析出物が分散析出していないため、十分な強
度が得られないか、HIC試験で割れが生じた。
【0062】なお、再加熱を誘導加熱炉で行った場合も
ガス燃焼炉で行った場合も特に結果に差は見られなかっ
た。
【0063】
【発明の効果】以上述べたように、本発明によれば、AP
I X65グレード以上の高強度を有し、かつ耐HIC性の
優れた鋼板が得られる。このため優れた特性を有する電
縫鋼管、スパイラル鋼管、UOE鋼管等の鋼管を製造す
ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】再加熱工程での鋼板の熱履歴の一例を示すグラ
フ。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 石川 信行 東京都千代田区丸の内一丁目1番2号 日 本鋼管株式会社内 (72)発明者 諏訪 稔 東京都千代田区丸の内一丁目1番2号 日 本鋼管株式会社内 Fターム(参考) 4K032 AA01 AA04 AA08 AA11 AA14 AA16 AA19 AA22 AA23 AA27 AA29 AA31 AA35 AA36 BA01 BA03 CA02 CA03 CC03 CC04 CD02 CF02

Claims (3)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 質量%で、C:0.02〜0.08%、Si:0.01〜
    0.50%、Mn:0.5〜1.8%、P:0.01%以下、S:0.002%以
    下、Mo:0.05〜0.50%、Ti:0.04超〜0.10%、Al:0.01〜
    0.07%を含有する鋼を、加熱温度:1000〜1250℃、圧延
    終了温度:750〜950℃の条件で熱間圧延した後、2℃/s
    以上の冷却速度で600〜700℃まで冷却し、次いで600〜7
    00℃の温度まで1回以上の加熱を行い、鋼板の平均温度
    が600〜700℃である時間を3分以上とすることを特徴と
    する、耐HIC性に優れた高強度鋼板の製造方法。
  2. 【請求項2】 さらに、質量%で、Nb:0.005〜0.05%お
    よび/またはV:0.005〜0.10を含有することを特徴とす
    る請求項1に記載の耐HIC性に優れた高強度鋼板の製
    造方法。
  3. 【請求項3】 さらに、質量%で、Cu:0.50%以下、N
    i:0.50%以下、Cr:0.50%以下、Ca:0.0005〜0.0025%の
    中から選ばれる1種又は2種以上を含有することを特徴
    とする請求項1または請求項2に記載の耐HIC性に優
    れた高強度鋼板の製造方法。
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