JP3948258B2 - 増圧式燃料噴射装置及び増圧式燃料噴射方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、増圧式の燃料噴射装置及び増圧式燃料噴射方法に関し、特に噴射終わりの噴射率を改善した燃料噴射装置及び増圧式燃料噴射方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
この増圧式の燃料噴射装置は、特開平5−256224号公報などに開示されるように、燃料が供給される燃料増圧室と、この燃料増圧室の燃料を増圧する増圧ピストンと、前記燃料増圧室で増圧された燃料が噴射される噴出口の開閉を行う噴射弁体と、前記増圧ピストンを駆動する作動流体が流入する加圧室と、前記加圧室への作動流体の給排を制御する電磁弁とを備えてなる。
【0003】
この増圧式の燃料噴射装置は、噴射時に増圧ピストンを介して燃料を加圧するため、予め所定圧力まで増圧しておいた燃料を噴射する蓄圧式の燃料噴射装置に比べて、燃料噴射時の燃料の噴射率の立ち上がりが緩やかになる傾向がある。エンジンの特性上、燃料の噴射時においては燃料の噴射率が緩やかに上昇すると、NOxや燃焼騒音の発生を抑制することができる。また、噴射終了時においては増圧燃料の圧力が利用できず、噴射弁体に設けた押し付けばねのばね力により噴射弁体の閉弁を行うので、噴射率の低下が緩やかになる傾向がある。このように、増圧式燃料噴射装置によると、噴射率の増加と低下が比較的緩やかになる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、エンジンの高回転領域では、短時間で噴射する必要があるが、噴射率の増加と低下が追いつかず、低い山形の噴射率波形となる。特に、エンジンの高回転及び高負荷領域では、短時間に出来るだけ多くの燃料を噴射する必要があるが、前述した増圧式の燃料噴射装置では、有効な噴射期間内に噴射を終わらせることができず、スモークが発生するという問題点がある。
【0005】
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みてなされたものであり、エンジン回転数又は/及び負荷に応じて閉弁力を変更し、エンジン回転数又は/及び負荷に応じた適正な噴射率制御を行える燃料噴射装置及び燃料噴射方法を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上述した課題を解決する燃料噴射装置は、(1)両端に加圧室と燃料増圧室とを有する増圧ピストンを有し、前記加圧室に作動流体を流入させて前記増圧ピストンを付勢し、前記燃料増圧室内の燃料を加圧する増圧手段と、前記燃料を噴射する噴射位置から前記燃料を噴射しない非噴射位置へと移動する噴射弁体を有する噴射手段と、エンジンの回転数を検出する回転数検出手段と、エンジンの負荷を検出する負荷検出手段と、前記噴射弁体の閉弁力を変更する閉弁力変更手段と、前記回転数検出手段と前記負荷検出手段のうち少なくとも一方の検出値が所定の値を超えると、閉弁力が高くなるように前記閉弁力変更手段を制御する閉弁力制御手段と、を備えてなることを要旨とする。
上記(1)の構成によれば、回転数検出手段と前記負荷検出手段のうち少なくとも一方の検出値が所定の値を超えると、閉弁力制御手段が、閉弁力が高くなるように前記閉弁力変更手段を制御するため、噴射率の上昇と下降が急になり、回転数と負荷の少なくとも一方に応じた適正な燃焼制御が行われる。
【0007】
上記(1)において、(2)前記閉弁力制御手段は、前記回転数検出手段及び前記負荷検出手段の検出値が所定の値を超えると、閉弁力が高くなるように前記閉弁力変更手段を制御するものが好ましい。
上記(2)の構成によれば、回転数及び負荷に応じた適正な燃焼制御が行われる。
【0008】
上記(1)または(2)において、(3)前記作動流体を蓄えておく蓄圧器を有し、前記閉弁力変更手段は前記蓄圧器に蓄えられた作動流体により前記噴射弁体の閉弁力を変更するものであり、前記閉弁力制御手段は前記閉弁力変更手段に使用される作動流体の供給を調整するものが好ましい。
上記(3)の構成によれば、蓄圧器に蓄えられた作動流体を使って閉弁力の変更を行い、この作動流体の供給調整により閉弁力の制御を行う。
【0009】
上記(1)〜(3)のいずれかにおいて、(4)前記噴射手段は、前記噴射弁体を閉弁する方向に付勢する弾性体を有してなり、前記閉弁力変更手段は、前記弾性体の受け部として移動可能に設けられたピストンを有してなり、前記ピストンを前記作動流体によって移動させることで前記噴射弁体の閉弁力を変更することが好ましい。
上記(4)の構成によると、噴射弁体を閉弁する方向に付勢する弾性体の受け部をピストンで移動させると、弾性体の押し付け力が増大し、閉弁力を高めることができる。
【0010】
上記(4)において、(5)前記ピストンは、エンジン回転数及び負荷が所定の値を超えると、閉弁力の低い第1の位置から閉弁力の高い第2の位置へと移動するものが好ましい。
上記(5)の構成によれば、エンジン回転数及び負荷が所定の値を超えると、ピストンが第1位置から第2位置に移動し、弾性体の押し付け力を増大させ、閉弁力を高める。
【0011】
上記(3)〜(5)のいずれかにおいて、(6)前記閉弁力変更手段に使用される作動流体を排出する排出部と、前記蓄圧器と前記排出部とを連通する通路上に絞りを有し、前記排出部は前記閉弁力制御手段により開閉されるものが好ましい。
上記(6)の構成によれば、蓄圧器からの作動流体が絞りを介して作用室に至り、更に作用室からの排出部の開閉により、作用室に対する作動流体の供給量を調整することができる。また、前記絞りによって蓄圧器内の圧力の変化が抑えられる。
【0012】
上記(6)において、(7)前記閉弁力制御手段は、2方向切換弁より成るものが好ましい。
上記(7)の構成によれば、排出路を開閉する2方向切換弁により、作用室に対する作動流体の供給量を調整することができる。
【0013】
上述した課題を解決する燃料噴射方法は、(8)両端に加圧室と燃料増圧室とを有する増圧ピストンを有し、前記加圧室に作動流体を流入させて前記増圧ピストンを付勢し、前記燃料増圧室内の燃料を加圧する増圧手段と、前記燃料を噴射する噴射位置から前記燃料を噴射しない非噴射位置へと移動する噴射弁体を有する噴射手段と、を備える増圧式燃料噴射装置を用いた増室式燃料噴射方法であって、前記噴射弁体の閉弁力を変更する閉弁力変更手段を設け、エンジンの回転数を検出する回転数検出手段による検出値と、エンジンの負荷を検出する負荷検出手段による検出値との少なくとも一方の検出値が所定の値を超えると、閉弁力が高くなるように前記閉弁力変更手段を制御することを要旨とする。
上記(8)の構成によれば、回転数検出手段と前記負荷検出手段のうち少なくとも一方の検出値が所定の値を超えると、閉弁力制御手段が、閉弁力が高くなるように前記閉弁力変更手段を制御するため、噴射率の上昇と下降が急になり、回転数と負荷の少なくとも一方に応じた適正な燃焼制御が行われる。
【0014】
上記(8)において、(9)前記回転数検出手段及び前記負荷検出手段による検出値が所定の値を超えると、閉弁力が高くなるように前記閉弁力変更手段を制御するものが好ましい。
上記(9)の構成によれば、回転数及び負荷に応じた適正な燃焼制御が行われる。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明の実施形態を説明するための燃料噴射装置であって、閉弁力変更手段が作動していない状態の断面図である。図2は、本実施の形態における燃料噴射システムの概略図を示す。
【0016】
燃料噴射装置1は図示のように噴射口28を下にした下向き姿勢でディーゼルエンジンなどのエンジンに組付けられる。この下向き姿勢は、垂直下方向きに限らず、斜め下向きも含まれる。
【0017】
図1において、燃料噴射装置1は、頭部10a付きの筒体状であるハウジング10内に、上から下へと、電磁弁2と、増圧機構3と、噴射機構4とを順に収容して構成される。
【0018】
電磁弁2が収容される頭部10aには、作動流体の供給ポート31と、作動流体の排出ポート32とが開口している。供給ポート31には、コモンレール(蓄圧器)112からの作動流体として高圧の燃料が圧送される。排出ポート32からは、作動流体としての燃料が流出し、回収装置113(図2参照)に回収される。また、電磁弁2を挟んで排出ポート32の反対側には、作用ポート33が開口している。この作用ポート33は、後述する加圧室11に連通している。
【0019】
電磁弁2は、頭部10a内に横向きに設けられた弁孔35内を移動可能な切換弁36と、切換弁36のヨーク36aに対して設けられたソレノイド部37と、切換弁36のヨーク36aに対して設けられた復帰ばね39とを備える、3方向2位置切り換え弁に構成されている。
【0020】
弁孔35と切換弁36の間には、ソレノイド部37を励磁することで円板状のヨーク36aが吸引されて開くポペット式の第1弁Aと、ソレノイド部37が消磁することで円板状のヨーク36bが復帰ばね39で押し戻されて開くポペット式の第2弁Bとが設けられている。この第1弁Aと第2弁Bとは、一方が閉じると、他方が開く関係にある。第1弁Aが開くとともに、第2弁Bが閉じ、供給ポート31からの作動流体が作用ポート33に流入する。第2弁Bが開くと、第1弁Aが閉じ、作用ポート33から作動流体が排出ポート32に吐出する。
【0021】
増圧機構(増圧手段)3は、ハウジング10内の上方に収容されている。作用ポート33に連通する加圧室11を形成する大径シリンダ10bと、燃料増圧室16を形成する小径シリンダ10cとに、増圧ピストン12が上下方向にスライド自在に収容されている。この増圧ピストン12は、被ガイドロッド部12a及び増圧プランジャ部12bとから構成されている。
【0022】
増圧プランジャ部12bは、被ガイドロッド部12aの下部中央より下方に同軸で延在しており、燃料増圧室16内に上下スライド自在に収容されている。増圧ピストン12の被ガイドロッド部12aの下方には、中空部13が形成されている。この中空部13にはピストンスプリング15が介在されていて、増圧ピストン12を上方に向けて付勢する。また、中空部13の下端部と前記排出ポート32を連通するように、バイパス路14が形成されている。
【0023】
前記増圧プランジャ部12bの径は被ガイドロッド部12aの径より小さい。そのため、燃料増圧室16内の燃料は、加圧室11に導入される作動流体の圧力以上に増圧される。その増圧比率は、「被ガイドロッド部12aの受圧面積/増圧プランジャ部12bの受圧面積」である。
【0024】
増圧ピストン12の下方に形成された燃料増圧室16は燃料供給通路20を経由して燃料供給部21に連通している。燃料供給用のポンプ121から燃料供給部21に送られて来る燃料が燃料増圧室16内に流入する。燃料増圧室16と燃料供給通路20の間には逆止弁22が介在されている。この逆止弁22は、燃料増圧室16内の圧力が一定以上になると、上方に移動し、燃料増圧室16と燃料供給通路20の連通を遮断する。
【0025】
噴射機構(噴射手段)4は、ハウジング10の下方に、噴射弁体23と押し付けばね(弾性体)24を収容して構成される。噴射弁体23は、ハウジング10内に上下スライド可能に収容されていて、押し付けピストン部23aと、大径部23bと、段差部23cと、小径部23dとからなる。押し付けピストン部23aの上方には押し付けばね24が介在されていて、噴射弁体23を下方に付勢する。
【0026】
噴射弁体23の段差部23cの周囲には、燃料充填室25が形成されている。燃料充填室25は燃料通路26を経由して燃料増圧室16と連通している。また、燃料充填室25から下方に向かって燃料通路27が伸びていて、燃料通路27の先端部付近に噴射口28が形成されている。燃料充填室25の燃料が所定圧力に達すると、噴射弁体23に上向きに作用する力が押し付けばね24の付勢力に打ち勝ち、噴射弁体23が上方に移動して噴射口28から燃料が噴射される。燃料充填室25に燃料が供給され続ける。燃料充填室25内が所定圧力以上であり続ける間は、所定圧の燃料が噴射口28から噴射される。燃料増圧室16内の圧力が低下し、燃料充填室25の圧力が下がると、噴射弁体23に作用する押し付けばね24により、噴射弁体23が着座し、噴射口28からの燃料の噴出が停止される。
【0027】
この噴射機構4には、エンジン回転数及び負荷に応じて前記閉弁力を変更する閉弁力変更手段6が設けられている。この閉弁力変更手段6は、噴射弁体23を閉弁する方向に付勢する弾性体である押し付けばね24と、この押し付けばね24の収容室29に対してスライド可能に設けられ、押し付けバネ24を押し込むピストン41と、このピストン41に対する作用室42と、作用室42に至る作動流体通路43と、通路43に至る作動流体の制御弁44とを備えて構成される。制御弁44は、絞り45を介して、コモンレール(蓄圧器)112に接続されている。
【0028】
コモンレール112からの作動流体は、電磁弁2を経て加圧室11に流入するとともに、絞り45、制御弁44、作動流体通路43を経て、噴射機構4の上部にあるピストン41の作用室42に流入する。噴射機構4の上部に位置する作用室42に作動流体が流入すると、ピストン41は、押し付けばね24を長くする第1位置(図1の状態)から、押し付けばね24を短くする第2位置(図3の状態)に移動する。第2位置では、第1位置より押し付けばね24による閉弁力が高くなる。
【0029】
制御弁44は、コモンレール112と作用室42を連通させ、コモンレール112及び作用室42と回収装置113とを遮断する第1切換位置と、作用室42と回収装置113を連通し、作用室42及び回収装置113とコモンレール112とを遮断する第2切換位置とを有する三方向切換タイプの電磁弁である。制御弁44の切換のタイミングは制御部5により制御される。
【0030】
制御部5は、図示されない負荷検出器(負荷検出手段)からの負荷信号f1及び図示されないエンジン回転数検出器(回転数検出手段)からの回転数信号f2の入力を受け、エンジン回転数及び負荷が所定の値を超えたことを判断する判断手段を有する。エンジン回転数及び負荷が所定の値を超えた場合、この判断手段が高回転及び高負荷領域と判断し、制御弁44を作用室42に作動流体を供給する第1位置に切り換える。判断手段が高回転及び高負荷領域から外れたと判断すると、制御弁44を作用室42の作動流体を回収装置113に排出させる第2位置に切り換える。また、制御部5は、電磁弁2を介して、噴射のタイミングを制御する。この制御部5及び制御弁44は、前記回転数検出手段及び前記負荷検出手段の検出値が所定の値を超えると、閉弁力が高くなるように前記閉弁力変更手段を制御する閉弁力制御手段を構成する。
【0031】
図2は、前述した燃料噴射装置1が適用される燃料噴射システム100を示す。図2において、図示しないエンジンの各シリンダヘッド内に装着される1又はそれ以上の増圧式の燃料噴射装置1を備え、この燃料噴射装置1に作動流体として燃料を供給し更に回収する作動流体循環系統101と、前記燃料噴射装置1に燃料を供給する燃料供給系統102と、燃料噴射装置1の電磁弁2の開閉動作を電子的に制御するコンピュータ等を備えた制御部5等より構成される。
【0032】
作動流体循環系統101は、燃料供給ポンプ110、高圧ポンプ111、コモンレール112、回収装置113などにより構成されている。燃料供給ポンプ110は、燃料タンク114内の燃料を高圧ポンプ111に圧送する。高圧ポンプ111は燃料を例えば200気圧程度まで加圧し、加圧された燃料はコモンレール112に圧送される。コモンレール112内に蓄えられた作動流体としての燃料は、電磁弁2の作動により、供給ポート31(図1参照)に供給される。回収装置113は、電磁弁2の作動により、燃料噴射装置1の排出ポート32(図1参照)から流出される作動流体としての燃料を回収すると共に、回収した燃料を高圧ポンプ111に再循環させる。コモンレール112の作動流体は、制御弁44を経て燃料噴射装置1内の作用室42(図1参照)に至る。制御弁44から排出される作動流体は、回収装置113に回収される。
【0033】
燃料供給系統102は、ポンプ121及びバルブ122により構成されている。ポンプ121は、燃料タンク114内の燃料を各燃料噴射装置1の燃料供給部21(図1参照)に圧送する。バルブ122は、燃料噴射装置1に供給される燃料の供給量を調整する。
【0034】
制御部5は、各燃料噴射装置1の電磁弁2の開閉を制御するため制御信号を生成するとともに、負荷の大小に応じて、高圧ポンプ111による作動流体としての燃料の圧力を調整する。エンジンの負荷が高いときは、高圧ポンプ111による作動流体としての燃料の圧力を高くし、エンジンの負荷が低い時は、高圧ポンプ111による作動流体としての燃料の圧力を低くする。また、制御部5は、電磁弁2の切換制御と、制御弁44の切換制御とを行う。
【0035】
つぎに、上述した構成の燃料噴射装置1の作動を図1及び図3により説明する。まず、図1により、エンジン回転数及び負荷が所定の値に達しない場合の作動を説明する。制御部5に入力される負荷信号f1及び回転数信号f2により、制御部5が高負荷及び高回転領域でないと判断すると、制御弁44を第2切換位置に保つ。作用室42は、回収装置113に連通する。ピストン41は上限位置である第1位置に止まっており、押し付けばね24は長い第1長さL1を保っている。
【0036】
図1において、燃料供給部21から燃料が供給され、燃料増圧室16に燃料が充填されている。噴射時に至ると、ソレノイド部37が励磁され、ヨーク36aが吸引され、切換弁36が図面右方向に移動し、第1弁Aが開き、第2弁Bが閉じ、供給ポート31と作用ポート33が連通し、加圧室11に作動流体が導入される。増圧ピストン12で決まる増圧比で燃料増圧室16内の燃料が加圧される。このとき、逆止弁22は閉じた状態になっており、燃料充填室25の燃料が所定の高圧になると、噴射弁体23が第1長さL1となった押し付けばね24の閉弁力に打ち勝ち、噴射口28から高圧燃料が噴射される。燃料の噴射を終える時期になると、ソレノイド部37が消磁され、第1弁Aが閉じ、第2弁Bが開く。加圧室11に導入されていた作動流体が排出ポート32から排出され、増圧ピストン12はピストンスプリング15(図1参照)の付勢力で上昇のストロークに転じる。
【0037】
この場合の噴射パターンが図4(a)に示される。噴射時には作動流体が増圧ピストン12を介して燃料を加圧するとともに、押し付けばね24の長さはL1となっており、閉弁力は比較的弱くなっているため、a1ラインのように燃料噴射時の燃料の噴射率の立ち上がりが緩やかになる傾向がある。噴射終了時には、押し付けばね24による低い閉弁力で閉弁を行うので、a2ラインのように噴射率の低下は緩やかになる傾向がある。
【0038】
つぎに、エンジン回転数及び負荷が所定の値に達した場合の作動を図3により説明する。図3において、制御部5に入力される負荷信号f1及び回転数信号f2により、制御部5が高負荷及び高回転領域であると判断すると、制御弁44を第1位置に切り換える。コモンレール112からの作動流体が、作用室42に供給され、ピストン41を第2位置まで押し下げ、押し付けばね24を長さL2まで押し込む。
【0039】
図3に示したように、ピストン41が第2位置にある状態で燃料の噴射を行った場合の噴射パターンが図4(b)に示される。噴射時には高圧となった作動流体が増圧ピストン12を介して燃料を加圧するとともに、長さL2の押し付けばね24による高い閉弁力に対抗するため、b1ラインのように燃料噴射時の燃料の噴射率の立ち上がりが急になり、天井がb2ラインのようにフラットに近づく。噴射終了時には、押し付けばね24による高い閉弁力で閉弁を行うので、b3ラインのように噴射率の低下は急激になる。
【0040】
以上説明した実施の形態は以下の効果を有する。
(1)図4(a)に示すように、エンジンの高回転及び高負荷領域以外では、閉弁力を低くして、増圧式噴射による初期噴射率の上昇を緩やかにして、NOxの低減や、燃焼騒音を抑えることができる。加えて、図4(b)に示すように、エンジンの高回転及び高負荷領域では、閉弁力を高くして、燃料噴射量を多くしするとともに、短い噴射期間内に噴射を終わらせるというスクエア形の噴射率波形にすることができ、スモークの発生を抑えることができる。また、エンジンの高回転及び高負荷領域において燃料噴射量が増えるので、高トルクを受ることができる。
【0041】
(2)増圧式燃料噴射装置1の増圧ピストン12を作動させるための作動流体を、噴射機構4の上部に導入することによる閉弁力変更手段6としているため、閉弁力変更のための別途の駆動源を必要とせず、簡単な構造で閉弁力を制御することができる。
また、作動流体の流入を制御弁44で制御しているため、作動流体の流入及び排出を、制御弁44を制御する制御部5で行うことができ、エンジンの回転数及び負荷に応じ、的確に閉弁力を変更することができる。
【0042】
(3)噴射弁体を閉弁する方向に付勢する弾性体である押し付けばね24に対するエンドプレートをピストン42にして、このピストン42に作動流体を導入するため、閉弁力変更のための機構を簡単な構造にすることができる。
また、制御部5が回転数及び負荷が所定の値を超える高回転及び高負荷領域であると判断すると、制御弁44を介して作動流体が作用室42に導入され、ピストンが閉弁力の低い第1位置から閉弁力の高い第2位置へと移動する。そのため、簡単な構造で閉弁力をエンジン回転数及び負荷に応じて変更することができる。
【0043】
(4)作動流体をコモンレール(蓄圧器)112から導入しているため、複数の燃料噴射装置1の閉弁力変更手段6に対して、同じ条件の作動流体を供給することができる。
また、コモンレール(蓄圧器)112から絞り45を介して噴射機構4の上部に作動流体を供給するため、コモンレール(蓄圧器)112の圧力の抜けによる変動を少なくすることができる。
【0044】
なお、実施形態は前記に限定されるものではなく、例えば、次のように変更して実施してもよい。
(1)図5に示すように、コモンレール(蓄圧器)112からの作動流体を絞り45を介して作用室42に供給し、作用室42からの排出路51に制御弁52を設けるものであってもよい。この制御弁52は、排出路51を遮断又は開放する2方向切換弁タイプでよい。
この場合、制御弁52を開放状態にすると、作用室42に供給される作動流体は、回収装置113に放出され、ピストン41は、閉弁力の低い第1位置となる。なお、回収装置113に放出される作動流体は、絞り45によって絞られる。この絞り45がコモンレール(蓄圧器)112の圧力の低下を制御している。
制御弁52を遮断状態にすると、作用室42に至る作動流体の圧力が上がり、ピストン41は、閉弁力の高い第2位置となる。
【0045】
(2)図6に示すように、制御部5は、電磁弁2のソレノイド部37による噴射の制御と、制御弁44による噴射機構4上部への作動流体の供給の制御とを連動させる連動制御手段53を設けることができる。これにより、一回ごとの噴射における噴射率波形を種々に制御することができる。連動制御手段53に基づいて、制御弁42を第1位置にして、作動流体を噴射機構4の上部に供給したり、制御弁を第2位置にして、噴射機構4に供給された作動流体を排出したりすることができる。
例えば、噴射終了時にだけ閉弁力を高める制御を行うと、図7(a)のように、噴射終わりの噴射率の低下をa11ラインのように急激なものとすることができる。
例えば、噴射始めに、閉弁力がごく低い状態から、徐々に閉弁力が上げながら、噴射を開始させると、図7(b)のように、噴射初期の噴射率の立ち上げをラインb11のように極めて緩やかなものとすることできる。
例えば、噴射の前後にわたって閉弁力を大きくしておき、噴射開始前に短時間だけ閉弁力を弱めて元に戻す制御を行うと、図7(c)のように、ラインc11のスクエア形の噴射の前に、ラインc12のパイロット噴射を付加することができる。
【0046】
(3)上述した実施形態ではエンジン回転数及び負荷の両方の値に応じて閉弁力を変更するように制御していたが、エンジン回転数、あるいは負荷のどちらか一方の検出値に応じて、閉弁力を変更する閉弁力制御手段としてもよい。
【0047】
(4)閉弁力変更手段として、押し付けばね24を押し込むピストン41に代わって、電磁シリンダのように進退駆動手段を設け、押し付けばね24の押し付け長さを変更するものを採用することができる。
【0048】
(5)図8に示すように、ピストン41の収納室29に段差部29aを設け、ピストン41の下方への移動の規制を行い、第2位置が一定に決まる構造とすることができる。これにより、閉弁力を一定値だけ高めることができる。
【0049】
(6)制御弁44に圧力調整弁を用い、作用室42に作用させる作動流体の圧力を任意に変更し、それに応じて閉弁力を任意に変更できる制御弁44とすることができる。また、図5において、制御弁52に流量調整弁又は圧力調整弁を用いて、作用室42に作用させる作動流体の圧力を任意に変更し、それに応じて閉弁力を任意に変更できる制御弁52とすることができる。
【0050】
(7)押し付けばね24をなくして噴射弁の上部に直接作動流体の圧力を加え、その作動流体の圧力を制御することで噴射弁の開弁力を変更させるようにしてもよい。このとき、制御弁を流量調整弁又は圧力調整弁にして、前記ピストンが閉弁力を付与する押し付けばね(弾性体)と閉弁力を変更する閉弁力変更手段との兼用することができる。
【0051】
【発明の効果】
以上詳述したように本発明の燃料噴射装置及び燃料噴射方法によると、増圧式燃料噴射による初期噴射率の緩やかな上昇により、NOxの低減や、燃焼騒音を抑えることができる。また、回転数又は/及び負荷に応じて閉弁力を変化させ、回転数又は/及び負荷に応じた適切な制御を行うことができる。例えば、高回転及び高負荷領域において、閉弁力を高くして、スクエア形の噴射率波形にし、スモークの発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態に係る燃料噴射装置であって、閉弁力変更手段が作動していない状態の断面図である。
【図2】上記実施形態に係る燃料噴射装置を組み込んだコモンレール式の燃料噴射システムの概略図である。
【図3】本発明の実施形態に係る燃料噴射装置であって、閉弁力変更手段が作動している状態の断面図である。
【図4】本発明の実施形態の閉弁力制御手段による噴射率の制御例を示す噴射率パターン図である。
【図5】他の実施形態に係る燃料噴射装置の断面図である。
【図6】更に他の実施形態に係る燃料噴射装置の断面図である。
【図7】更に他の実施形態の閉弁力制御手段による噴射率の制御例を示す噴射率パターン図である。
【図8】ピストンの他の収容例を示す部分断面図である。
【符号の説明】
1 燃料噴射装置
2 電磁弁
3 増圧機構(増圧手段)
4 噴射機構(噴射手段)
5 制御部(閉弁力制御手段)
6 閉弁力変更手段
10 頭部
11 加圧室
12 増圧ピストン
16 燃料増圧室
23 噴射弁体
24 押し付けばね(弾性体)
41 ピストン
42 作用室
44 制御弁(閉弁力制御手段)
45 絞り
52 制御弁(閉弁力制御手段)
54 排出路
Claims (8)
- 両端に加圧室と燃料増圧室とを有する増圧ピストンを有し、前記加圧室に作動流体を流入させて前記増圧ピストンを付勢し、前記燃料増圧室内の燃料を加圧する増圧手段と、前記燃料を噴射する噴射位置から前記燃料を噴射しない非噴射位置へと移動する噴射弁体を有する噴射手段と、エンジンの回転数を検出する回転数検出手段と、エンジンの負荷を検出する負荷検出手段と、前記噴射弁体の閉弁力を変更する閉弁力変更手段と、前記回転数検出手段と前記負荷検出手段のうち少なくとも一方の検出値が所定の値を超えると、閉弁力が高くなるように前記閉弁力変更手段を制御する閉弁力制御手段と、を備え、
前記作動流体を蓄えておく蓄圧器を有し、前記閉弁力変更手段は前記蓄圧器に蓄えられた作動流体により前記噴射弁体の閉弁力を変更するものであり、前記閉弁力制御手段は前記閉弁力変更手段に使用される作動流体の供給を調整するものである増圧式燃料噴射装置。 - 前記閉弁力制御手段は、前記回転数検出手段及び前記負荷検出手段の検出値が所定の値を超えると、閉弁力が高くなるように前記閉弁力変更手段を制御する請求項1に記載の増圧式燃料噴射装置。
- 前記噴射手段は、前記噴射弁体を閉弁する方向に付勢する弾性体を有してなり、前記閉弁力変更手段は、前記弾性体の受け部として移動可能に設けられたピストンを有してなり、前記ピストンを前記作動流体によって移動させることで前記噴射弁体の閉弁力を変更する請求項1又は請求項2に記載の増圧式燃料噴射装置。
- 前記ピストンは、エンジン回転数及び負荷が所定の値を超えると、閉弁力の低い第1の位置から閉弁力の高い第2の位置へと移動する請求項3に記載の増圧式燃料噴射装置。
- 前記閉弁力変更手段に使用される作動流体を排出する排出部と、前記蓄圧器と前記排出部とを連通する通路上に絞りを有し、前記排出部は前記閉弁力制御手段により開閉される請求項1〜請求項4のいずれかに記載の増圧式燃料噴射装置。
- 前記閉弁力制御手段は、2方向切換弁より成る請求項5に記載の増圧式燃料噴射装置。
- 両端に加圧室と燃料増圧室とを有する増圧ピストンを有し、前記加圧室に作動流体を流入させて前記増圧ピストンを付勢し、前記燃料増圧室内の燃料を加圧する増圧手段と、前記燃料を噴射する噴射位置から前記燃料を噴射しない非噴射位置へと移動する噴射弁体を有する噴射手段と、前記作動流体を蓄えておく蓄圧器と、を備える増圧式燃料噴射装置を用いた増室式燃料噴射方法であって、
前記噴射弁体の閉弁力を変更する閉弁力変更手段を設け、エンジンの回転数を検出する回転数検出手段による検出値と、エンジンの負荷を検出する負荷検出手段による検出値との少なくとも一方の検出値が所定の値を超えると、前記蓄圧器に蓄えられた作動流体により前記噴射弁体の閉弁力が高くなるように前記閉弁力変更手段を制御する増圧式燃料噴射方法。 - 前記回転数検出手段及び前記負荷検出手段による検出値が所定の値を超えると、前記蓄圧器に蓄えられた作動流体により前記噴射弁体の閉弁力が高くなるように前記閉弁力変更手段を制御する請求項7に記載の増圧式燃料噴射方法。
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