JP3947353B2 - 穴拡げ性と延性に優れた高強度熱延鋼板及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、主としてプレス加工される自動車足廻り部品等を対象とし、1.0 〜6.0mm 程度の板厚で、690N/mm2以上の強度を有する穴拡げ性と延性に優れた高強度熱延鋼板及びその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、自動車の環境問題を契機に燃費改善対策としての車体軽量化、部品の一体成形化によるコストダウンのニーズが強まり、プレス加工性に優れた高強度熱延鋼板の開発が進められてきた。従来、かかる加工用高強度熱延鋼板としては、フェライト・マルテンサイト組織、フェライト・ベイナイト組織からなる混合組織のもの、或いはベイナイト、フェライト主体のほぼ単相組織のものが広く知られている。
【0003】
しかし、フェライト・マルテンサイト組織においては、変形の初期からマルテンサイトの周囲にミクロボイドが発生して割れを生じるため、穴拡げ性に劣る問題があり、足廻り部品等の高い穴拡げ性が要求される用途には不向きであった。
【0004】
また、特開平4−88125号公報、特開平3−180426号公報には、ベイナイトを主体とした組織を有する鋼板が開示されているが、ベイナイトを主体とした組織であるため穴拡げ性は優れるものの、軟質なフェライト相が少ないので延性に劣る。さらに、特開平6−172924号公報、特開平7−11382号公報ではフェライトを主体とした組織を有する鋼板が開示されているが、同様に穴拡げ性は優れているものの、強度を確保するために硬質な炭化物を析出させているので延性に劣る。
【0005】
また、特開平6−200351号公報にはフェライト・ベイナイト組織を有する穴拡げ性、延性に優れた鋼板が開示されており、特開平6−293910号公報には2段冷却を用いることによってフェライト占有率を制御することで穴拡げ性、延性が両立する鋼板の製造方法が開示されている。しかしながら、自動車のさらなる軽量化、部品の複雑化等を背景にさらに高い穴拡げ性、延性が求められ、最近の高強度熱延鋼板には上記した技術では対応しきれない高度な加工性が求められている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記した従来の問題点を解決するためになされたものであって、690N/mm2以上の高強度化に伴う穴拡げ性と延性の劣化を防ぎ、高強度であっても高い穴拡げ性と延性を有する高強度熱延鋼板およびその鋼板の製造方法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決するためになされた本発明の穴拡げ性と延性に優れた高強度熱延鋼板は、質量%で、C 0.01〜0.08%、Si 0.30 〜1.50%、Mn 1.00 〜 1.50 %、P ≦0.03%、S ≦0.005%、及びTi 0.01 〜0.20%、Nb 0.01 〜0.04%の1種または2種を含有し、残部鉄及び不可避的不純物からなる鋼よりなる高強度熱延鋼板であって、全結晶粒のうち短径(ds)と長径(dl)の比(ds/dl) が0.1 以上である結晶粒が80面積%以上存在し、且つ、鋼組織がフェライト80面積%以上、残部ベイナイトよりなり、強度が690N/mm2以上であり、初期穴径(d 0 :10mm) の打抜き穴を 60 °円錐ポンチにて押し拡げ、クラックが板厚を貫通した時点での穴径( d) から (d-d 0 )/d 0 × 100 の式で求めた穴拡げ値が100%以上であることを特徴とするものである。なお、高強度熱延鋼板はCa、REM の1種または2種を0.0005〜0.01%含有することができる。
【0008】
【0009】
【発明の実施の形態】
高強度熱延鋼板において、穴拡げ性と延性とは相反する傾向を示すことは良く知られている。本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究した結果、フェライト・ベイナイト鋼において結晶粒をできる限り球状化することによって穴拡げ性を劣化させることなく延性が改善できることを知見し、本発明を完成するに至った。即ち、フェライト・ベイナイト鋼において延性を高めるフェライトと強度を確保するTiC 、NbC からなる析出物に着目し、フェライト粒を十分球状なものとして穴拡げ性を低下させずに延性を改善し、その後に析出物を生成させて強度を確保することによって上記課題を解決したものである。
【0010】
本発明において高強度熱延鋼板中のCは 0.01 〜0.08%とする。Cは炭化物を析出して強度を確保するに必要な元素であって0.01%未満では所望の強度を確保することが困難になる。一方、0.08%を超えると延性の低下が大きくなるからである。
【0011】
Siは本発明において最も重要な元素の一つであり、有害な炭化物の生成を抑え組織をフェライト主体で残部ベイナイトの複合組織とするに重要であって、またSiの添加により強度と延性を両立させることができる。このような作用を得るためには0.3%以上の添加が必要である。しかし、添加量が増加すると化成処理性が低下するほか点溶接性も劣化するため1.5%を上限とする。なお、Siの範囲を0.9〜1.2%とするのが穴拡げ性と延性を効果的に両立させることができて望ましい。
【0012】
Mnは本発明において重要な元素の一つで、強度の確保に必要な元素であるが、多量に添加するとミクロ偏析、マクロ偏析が起こりやすくなり、穴拡げ性を劣化させる。穴拡げ性と延性を効果的に両立させるには Mn の範囲を 1.00 〜 1.50 %とする。
【0013】
Pはフェライトに固溶してその延性を低下させるので、その含有量は0.03%以下とする。また、S はMnS を形成して破壊の起点として作用し著しく穴拡げ性、延性を低下させるので0.005%以下とする。
【0014】
Ti、Nbも本発明において最も重要な元素の一つであり、TiC 、NbC などの微細な炭化物を析出させて強度を確保するに有効な元素である。この目的のためにはTi 0.05 〜0.20%、Nb 0.01 〜0.04%の1種または2種を添加することが必要である、Tiが0.05%未満、Nbが0.01%未満では強度を確保することが困難であり、Tiが0.20%、Nbが0.04%を超えると析出物が多量生成しすぎて延性が劣化するからである。
【0015】
Ca、REM は硫化物系介在物の形態を制御し穴拡げ性の向上に有効な元素である。この形態制御効果を有効ならしめるためには、Ca、REM の1種または2種を0.0005%以上の添加するのが望ましい。一方、多量の添加は硫化物系介在物の粗大化を招き、清浄度を悪化させて延性を低下させるのみならず、コストの上昇を招くので、上限を0.01%とする。
【0016】
また、結晶粒の短径(ds)と長径(dl)の比(ds/dl) は粒成長の度合いを示す指標であって、本発明において最も重要な指標の一つである。穴拡げ性と延性を両立させるには粒が成長して短径/長径比(ds/dl) が0.1 以上であることが必要である。結晶粒の短径/長径比が0.1 未満である場合には、結晶粒が偏平しており、十分に回復した結晶粒となっておらず、延性低下の原因となるからである。そして、このような短径/長径比を有する粒が全結晶粒に占める割合が80%以上であることが必要である。この割合が80%未満となると延性が低下し、引張強度690N/mm2以上では穴拡げ性との両立ができないからである。図1に引張強度 780〜820N/mm2、λ値 (穴拡げ値)100〜115 の高強度熱延鋼板における短径/長径比≧0.1 の粒の占める割合と伸びとの相関を示すが、割合が80%未満では延性が低下してしまうことが判る。従って、穴拡げ性と延性を両立させるには短径/長径比≧0.1 の結晶粒の全結晶粒に占める割合が80%以上であることが必要である。なお、より顕著な効果を得るには短径/長径比≧0.2 である結晶粒の割合を80%以上とするのが望ましい。
【0017】
本発明の穴拡げ性と延性に優れた高強度熱延鋼板は、上記したような成分を含有するスラブなどの鋼片を熱間圧延して製造すればよいが、高強度熱延鋼板における鋼組織はフェライトが80%以上、残部ベイナイトよりなる二相組織のものとする。その理由はフェライトが80%未満である場合には延性の低下が大きくなるので、フェライト・ベイナイト組織中のフェライトの量を80%以上とする必要があるのである。
【0018】
しかして、本発明の穴拡げ性と延性に優れた高強度熱延鋼板を製造するには、熱間圧延で製造するに際し、圧延終了温度をAr3変態点〜950 ℃とし、引続き20℃/sec以上の冷却速度で650 〜800 ℃まで冷却したうえ、2〜15秒空冷し、さらに、20℃/sec以上の冷却速度で350 〜600 ℃に冷却して巻き取る。圧延終了温度はフェライトの生成を抑え穴拡げ性を良好にするためAr3変態点以上とする必要があるが、あまり高温にすると組織の粗大化による強度及び延性の低下を招くことになるので仕上げ圧延終了温度は 950℃以下とする必要がある。
【0019】
また、圧延終了直後に高い穴拡げ性を得るために鋼板を急速冷却することは重要であって、その冷却速度は、20℃/sec未満では穴拡げ性に有害な炭化物形成を抑制するのが困難となるから、20℃/sec以上を必要とする。
【0020】
次に、鋼板の急速冷却を一旦停止して空冷を施すことがフェライトを析出してその占有率を増加させ、延性を向上させるために重要である。しかしながら、空冷開始温度が650 ℃未満では穴拡げ性に有害なパーライトが早期より発生する。一方、空冷開始温度が800 ℃を超える場合にはフェライトの生成が遅く空冷の効果が得にくいばかりでなく、その後の冷却中におけるパーライトの生成が起こりやすい。従って、空冷開始温度は650 〜800 ℃とする。また、空冷時間が15秒を超えてもフェライトの増加は飽和するばかりでなく、その後の冷却速度、巻取温度の制御に負荷がかかる。従って、空冷時間は15秒以下とする。なお、空冷時間が2秒未満ではフェライトを十分析出させることはできない。
【0021】
空冷後は再度鋼板を急速に冷却するが、その冷却速度が20℃/sec未満では有害なパーライトが生成し易くなるから、前記した冷却温度と同様20℃/sec以上を必要とする。そして、この急冷の停止温度、すなわち、巻取温度は350 〜600 ℃とする。巻取温度が350 ℃未満では穴拡げ性に有害な硬質のマルテンサイトが発生するためであり、一方、600 ℃を超えると穴拡げ性に有害なパーライト、セメンタイトが生成し易くなるからである。
【0022】
以上のような成分と熱延条件の組み合わせにより、フェライト占有率80%以上で残部ベイナイトの鋼組織を有する穴拡げ性と延性に優れた高強度熱延鋼板強度を製造することができる。更に、本発明鋼板の表面に表面処理(例えば亜鉛メッキ等) が施されていても本発明の効果を有し、本発明を逸脱するものではない。
【0023】
【実施例】
表1に示す化学成分組成を有する鋼を転炉溶製して、連続鋳造によりスラブとし、同じく表1に示す熱延条件にて圧延・冷却し、板厚2.6 〜3.2mm の熱延鋼板を製造した。
【0024】
【表1】
【0025】
【表2】
【0026】
このようにして得られた熱延鋼板について、JIS5号試験片による引張試験、穴拡げ試験、組織観察を行なった。30視野の光学顕微鏡写真より全結晶粒をトレースし、トレースした各結晶粒の短径と長径の比(ds/dl) を求めた。また、穴拡げ試験は初期穴径(d0:10mm) の打抜き穴を60°円錐ポンチにて押し拡げ、クラックが板厚を貫通した時点での穴径(d)から穴拡げ値(λ値)=(d-d0)/d0×100 を求めて評価した。これらの結果を表2に示す。
【0027】
No.1〜11は、化学成分、仕上温度、空冷開始温度、巻取温度の何れも本発明の範囲内であって、且つ、短径/長径比(ds/dl) が0.1 以上である結晶粒の割合が80%以上である本発明例であり、高いλ値と伸びを有する穴拡げ性と延性に優れた高強度熱延鋼板である。一方、No.11〜21の本発明の条件を外れた比較例のものは強度、穴拡げ性、延性のバランスに劣るものである。
【0028】
また、No.1に示す成分の鋼を用いて仕上温度 920℃、空冷開始温度 625℃、巻取温度 460℃として熱間圧延した場合には空冷開始温度が本発明の範囲より低過ぎたために組織にパーライトが生成し、またフェライトの占有率も76%と低いものであって、従って伸び20%、λ値93%となり、穴拡げ性、延性バランスの劣るものとなってしまった。また、同様にNo.1に示す成分の鋼を用いて仕上温度 910℃、空冷開始温度 690℃、巻取温度 330℃として熱間圧延した場合には巻取温度が本発明の範囲より低過ぎたために組織にマルテンサイトが生成し、またフェライトの占有率も64%と低いものであって、このため伸び20%、λ値64%となり、やはり穴拡げ性、延性バランスの劣るものとなってしまった。
【0029】
【発明の効果】
以上に詳述したように、本発明によれば引張強度が690N/mm2以上の高強度であって穴拡げ性、延性が両立する高強度熱延鋼板を経済的に提供することができるので本発明は高い加工性を有する高強度熱延鋼板として好適である。また、本発明の高強度熱延鋼板は車体の軽量化、部品の一体成形化、加工工程の合理化が可能であって、燃費の向上、製造コストの低減を図ることができるものとして工業的価値大なものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】 ds/dl ≧0.1 の結晶粒の割合と伸びの相関を示す散布図である。
Claims (2)
- 質量%で、C 0.01〜0.08%、Si 0.30 〜1.50%、Mn 1.00 〜 1.50 %、P ≦0.03%、S ≦0.005%、及びTi 0.01 〜0.20%、Nb 0.01 〜0.04%の1種または2種を含有し、残部鉄及び不可避的不純物からなる鋼よりなる高強度熱延鋼板であって、全結晶粒のうち短径(ds)と長径(dl)の比(ds/dl) が0.1 以上である結晶粒が80面積%以上存在し、且つ、鋼組織がフェライト80面積%以上、残部ベイナイトよりなり、強度が690N/mm2以上であり、初期穴径(d 0 :10mm) の打抜き穴を 60 °円錐ポンチにて押し拡げ、クラックが板厚を貫通した時点での穴径( d) から (d-d 0 )/d 0 × 100 の式で求めた穴拡げ値が100%以上であることを特徴とする穴拡げ性と延性に優れた高強度熱延鋼板。
- Ca、REM の1種または2種を0.0005〜0.01%含有する請求項1記載の穴拡げ性と延性に優れた高強度熱延鋼板。
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