JP3945757B2 - 黒鉛構造材料に吸着した放射性核種炭素14を分離・回収する方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
原子力施設から発生する14Cは半減期が長く、かつ生体の健康に影響する核種であることから、局所的放出であっても環境中を拡散し、世界的規模で人類に被爆被害を与える恐れがあり、対策を講じる必要がある。したがって、これら気体状になり、生体に影響を与える放射性核種の回収、処理、輸送及び処理に関する研究は、重要度が高い分野である。
【0002】
本発明はマグノックス炉、改良型ガス冷却炉、高温ガス炉の廃炉に伴って黒鉛構造物に含まれる14Cを空気酸化により、分離し回収する方法である。
【0003】
【従来の技術】
マグノックス炉、改良型ガス冷却炉、高温ガス炉の炉心構造物に使用されている黒鉛材料中には極めて半減期の長い炭素14(14C)等の放射性核種が生じる。黒鉛材料は複雑な形状を有する減速材や反射材等の構造物として使用されているが、多孔質材料であることから、14Cは黒鉛部品の内部にまで吸着されていて分離除去が極めて困難となっている。
【0004】
大型構造物として大量の黒鉛材料を使用している原子炉は、世界に約110基以上が存在するが、放射性黒鉛構造物の処理・処分方法は、未だに明確となっていないのが現状である。又、ガス冷却型原子炉の廃炉に伴う黒鉛構造物中に含まれる14Cを回収除去する方法は、現在各国において研究段階にあり確固たる方法が定まっていない。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
現在、14Cは黒鉛を燃焼し、14CO2の化学形に転換してから、不溶性のCa14CO3、Ba14CO3(沈殿物)を生成させて固定化する方法とゼオライト等の吸収材に吸収分離する方法とが検討されている。
【0006】
しかし、燃焼法では黒鉛構造物の全量をガス化するために800℃以上の高温酸化装置が新たに必要となる。また、黒鉛中に含まれる14C以外の放射性核種の内、融点の高い核種はスラッジ中に、又融点の低い核種は燃焼ガス中に同時に発生することになり、それらを炭素14と分離して回収する装置が必要である。さらに、分離回収された炭素14を安定保存できるところまで研究が進んでいないのが現状である。
【0007】
現時点で検討されている放射性黒鉛構造物の処理・処分法は高温域において、全量を燃焼して14Cをゼオライト等の吸収材で捕集する方法があるが、本発明を適用することによって、14Cを含む黒鉛構造物を廃原子炉内において一括酸化処理によって14Cだけを分離・回収することができる。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明においては、放射性黒鉛構造物を600℃以下の温度において空気酸化することによって、14Cだけを選択的に分離・回収するとともに、本発明の酸化処理を廃原子炉内で行うことによって安全に一括分離・回収することができる。
【0009】
即ち、本発明の空気酸化による乾式酸化を用いることにより、14C放射性核種を選択的に分離することができ、かかる空気酸化法では、酸化温度、酸化時間等の処理条件は黒鉛材料の製造条件等に起因する材料固有の微細気孔構造に依存するが、照射された黒鉛は未照射のものに比べてより酸化され易いので、概ね600℃以下の温度において均一に酸化することができるため、炭素14核種だけを14CO2として気層に分離することができる。
【0010】
同時に、原子炉という非常に密閉性の高い建造物中で炉心黒鉛構造物全体を一括酸化処理できるので、本発明方法を適用することによって、14C放射性核種の選択的な分離・回収するとともに、放射性黒鉛構造物の処理・処分及び安定保存方法の開発にも寄与することができる。
【0011】
【発明の実施の態様】
本発明においては、放射性黒鉛構造物を600℃以下の温度において空気酸化することによって、14Cだけを選択的に分離・回収するとともに、本発明の処理を廃原子炉内で行うことによって安全に一括分離・回収することができるが、その詳細は次のとおりである。
【0012】
(イ) 本発明は、放射性黒鉛構造物を600℃以下の温度において空気酸化する。酸化の程度は燃焼法と比較して非常に小さく、14Cのように黒鉛の表面及び内部の気孔表面にある放射性核種は、選択的酸化により分離・回収される。
【0013】
(ロ) 放射性黒鉛構造物が原子炉内に存在していることを考慮し、本発明を適用して、既存の施設を利用して一括処理する。
即ち、1,000トン以上の黒鉛構造物を解体しながら処理・処分することは、時間と経費を要するばかりでなく、微粉末となり易い黒鉛材料の特性から、周辺環境の汚染及び作業員の被曝の可能性が大きい。そこで、本発明を廃原子炉内で適用するには、周辺設備を含めた工学的な検討が必要であるが、圧力容器内は外界から遮断された領域であり、放射性物質の取り扱いには最適な場所である。
【0014】
ところで、照射黒鉛中に存在している放射性核種は、黒鉛材料中の含有不純物が放射化して生じた核種が主である。これらを閉じこめる場所として黒鉛は最適であり、黒鉛ブロック表面をリン酸塩系化合物で覆うことで内部の放射性核種は安定的に存在している。しかし、半減期が長く、かつ生体の健康に影響する核種である14Cだけは取り除く必要がある。
【0015】
又、分離・回収した14Cの安定保存方法が確立していない現状では、ゼオライトを始めとする吸収材に吸収させるよりは、アルカリ水溶液中で保存して、14Cの安定化処理の研究開発を待つ方が得策と考えられる。
【0016】
本発明を実験室レベルで空気酸化処理を行う場合には、図1に示されるように、照射黒鉛6を燃焼炉3に配置し、空気(Air)をフィルタ1及び流量計2を経て燃焼炉に供給し、照射黒鉛を約600℃で空気酸化する。燃焼炉で発生した炭素酸化物等を含有するガスを炭酸ガス転換炉4の白金触媒に導入して炭素酸化物を14CO2に変換する。変換処理ガスは、H2SO4、KMnO4を収容した捕集容器8及び9において134Cs、137Cs等が捕集された後、水酸化ナトリウム水溶液を収容した捕集容器10及び11に導入されて14CO2が吸収される。その後のガスは活性炭吸収容器12を経て吸引ポンプ13にて吸引されて大気中に排出される。
【0017】
又、本発明を廃原子炉内で空気酸化処理を行う場合には、図2に示されるように、原子炉の圧力容器内の照射黒鉛ブロックに設けられた制御棒孔に発熱体を挿入して加熱する。空気流はその流入筒を経て圧力容器内及び照射黒鉛ブロックの冷却ガス流入孔内に供給される。照射黒鉛の空気の存在下での加熱により発生した14CO2及び14COの混合ガスは、白金触媒炉に導入されて14CO2に変換した後に、吸収筒に導入されて水酸化ナトリウム水溶液に吸収される。
【0018】
即ち、原子炉においては、制御棒孔、冷却ガス流入孔等がその炉心の黒鉛ブロック中に開いている。そこで、原子炉の使用期限が過ぎて廃炉となった際に、その廃炉の炉心に設けられた14Cで汚染された黒鉛構造物から14Cを空気酸化により分離回収するに当たっては、上記制御棒孔、流入孔等中に発熱体(カンタル発熱体等)をその炉の圧力容器壁を通して挿入して炉心の黒鉛構造物を加熱する。その際には、できるだけ均一な温度分布が得られるように多くの発熱体を装填する。この場合の発熱体は黒鉛が良電体であることから、シース・ヒータとする。又、黒鉛材料は、電極に用いられるように、良電体であるので、直接通電でも昇温が可能である。
【0019】
【実施例】
(実施例1) 実験室レベルでの空気酸化処理
図1に示されるように、アルミナ製ボート5上の照射黒鉛を流量約600ml/mmの空気流中585℃で酸化し、発生した14CO2及び14COの混合ガスを白金触媒6(680℃)を通して14CO2に変換して、水酸化ナトリウム水溶液10及び11中に回収し液体シンチレーションカウンターで炭素14の放射能濃度を分析した。
【0020】
5時間の空気酸化処理によって、照射黒鉛中に存在していた14C放射能量の33%が、10時間の酸化処理によって42%が選択的に分離除去できた。照射黒鉛1g当たりの14C濃度(Bq/g)で比較すると、約90%が除去できた。
【0021】
また、14C以外の比較的融点の低い134Cs、137Cs等の放射性核種を分別捕集するために設置したH2SO4、KMnO4吸収カラムに汚染は無かった。以上のように、空気酸化処理によって14Cサイトのみが選択的に酸化され他の放射性核種と分別捕集できることを実験的に証明した。
【0022】
(実施例2) 原子炉内における空気酸化処理
図2に示されるように、原子炉周辺機器を利用して発熱体を黒鉛ブロック内の照射孔や制御棒用孔に装填して黒鉛ブロック全体の温度を550〜585℃の範囲で加熱する。その際、300〜600ml/minの流量で空気を送り込みながら酸化する。発生した14CO2、14COを白金触媒炉で14CO2に変換して水酸化ナトリウム水溶液に吸収する。水酸化ナトリウム水溶液中に吸収された炭素14の放射能濃度を液体シンチレーションカウンターで分析した。
【0023】
【発明の効果】
本発明により、下記に記載される本発明に特有の顕著な効果が生ずる。
(イ) 照射黒鉛を約600℃で空気酸化して14C濃度が低減できることが実験的に確認されたことによって、原子炉内において放射性黒鉛構造物を一括処理できる。
【0024】
(ロ) 本発明によって効果的かつ選択的に14C核種を分離・除去することによって放射性黒鉛構造物を低レベル廃棄物として取り扱うことができる。
(ハ) 確実に14Cだけが回収できる結果が得られたことによって、高分子膜、中空子膜を用いた安定化と安全な貯蔵方法の開発に向けて貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 実験室レベルで行われる本発明の空気酸化処理を示す図である。
【図2】 原子炉内で行われる本発明の空気酸化処理を示す図である。
Claims (2)
- 廃原子炉内の黒鉛構造物に吸着した放射性核種炭素14(14C)を空気酸化によって分離・回収する方法において、
廃原子炉の圧力容器内の照射黒鉛構造物に設けられた原子炉制御棒用孔及び/又は放射線照射用孔に発熱体を挿入装填し、前記圧力容器内に空気流入筒を通して空気のみを送込みながら前記黒鉛構造物全体を前記発熱体により550〜585℃に加熱し、黒鉛構造物を空気のみによる乾式酸化して比較的融点の低い134Cs及び137Csと共に14CO2及び14COを含有する混合ガスを発生させ、この混合ガスを白金触媒炉に導入してそのガス中の14COを14CO2に酸化処理し、その酸化処理された混合ガスを順次H2SO4水溶液及びKMnO4水溶液中に導入して134Cs及び137Csを除去処理した後、その除去処理後のガスを水酸化ナトリウム水溶液に導入してそれから14CO2を分離・回収することを特徴とする、上記方法。 - 前記発熱体がシース・ヒータである請求項1記載の方法。
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