JP3942280B2 - 六方晶窒化ほう素焼結体の製造方法 - Google Patents

六方晶窒化ほう素焼結体の製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、六方晶窒化ほう素焼結体の製造方法に関する。本発明で製造された六方晶窒化ほう素焼結体は、高強度であり、使用中の耐変形性にも優れているので、半導体や電子部品等の製造用もしくは組み付け用の治具、電気絶縁性放熱材料、セラミックス焼成用のるつぼ・治具等として使用される。
【0002】
【従来の技術】
六方晶窒化ほう素は、黒鉛類似の層状構造を有し、熱伝導性、電気絶縁性、化学的安定性、固体潤滑性、耐熱衝撃性などの特性に優れる。また、その焼結体は、化学的安定性が大であり、耐食性・被切削性・耐熱性・低誘電性・低誘電損失性等の特性に優れているため、さまざまな分野で広範に用いられている。特に、近年セラミックス焼成用治具を初めとする大型板材の需要が増えており、最大長400mmをこえ1000mm程度に達する形状の焼結体への対応が求められている。
【0003】
六方晶窒化ほう素焼結体は、酸化物系焼結助剤を用いたホットプレス法ないしは常圧焼結法で製造されている。しかし、ホットプレス法では、スリーブ・ダイス等の強度限界ないしは均熱確保の限界から、最大長400mm程度までの製品しか製造することができない。ここでいう最大長とは、四角形状であれば対角線、円形状であれば直径、楕円形状であれば長径の長さを指すものとする。
【0004】
そこで、最大長400mmをこえる大型形状にも対応できる常圧焼結法が、次第に多く採用されるようになってきた。常圧焼結法で製造された六方晶窒化ほう素焼結体は、焼成後の密度のバラつきが少なく、セラミックス焼成用治具として好適な特性を有しているなどの利点がある。
【0005】
しかしながら、このような常圧焼結法による六方晶窒化ほう素焼結体にあっては、その大型化にともない高温下での使用中に変形を生じやすい問題がある。これは、六方晶窒化ほう素焼結体内部に残存している焼結助剤成分、特に酸素が、高温下での使用中に窒化ほう素結晶を成長させ、変形を助長していることによるものと考えられている。
【0006】
また、六方晶窒化ほう素焼結体の治具を高温下で使用した場合、被焼成物から応力負荷を受け塑性変形を生じるので、繰り返しの使用が困難であった。塑性変形量は加わる応力に従って増大し、また六方晶窒化ほう素焼結体の強度が大きいほど小さくなる。以上のことから、セラミックス焼成用治具としては、耐変形性に優れ、高強度の六方晶窒化ほう素焼結体の出現が待たれていた。
【0007】
従来、常圧焼結法については、アモルファス窒化ほう素粉末を原料とし還元窒化雰囲気もしくは窒化雰囲気中で焼結する方法(特公平3−36781号公報)などが提案されている。この発明によれば、高強度な六方晶窒化ほう素焼結体を得ることができるが、耐変形性に優れた六方晶窒化ほう素焼結体とはならない。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、その目的は、高強度かつ耐変形性に優れた六方晶窒化ほう素焼結体を提供することである。特に、これらの特性を備え、最大長400mmをこえる大型形状の六方晶窒化ほう素焼結体を提供することである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
すなわち、本発明は、窒化ほう素粉末を含む成形原料を、窒素成分10vol%以下(0を含む)の不活性ガス雰囲気下、温度1700℃以上で常圧焼結する方法において、上記窒化ほう素粉末が、メタノールで除去できない酸素を0.4〜0.6重量%含み、しかも該酸素は、ヘリウムガス雰囲気下、温度1800℃で180分間保持した場合に、その45〜55重量%が放出されるものであることを特徴とする、常温3点曲げ強度が25.9MPa以上、以下で定義される耐変形指数が0.54以下である六方晶窒化ほう素焼結体の製造方法である。
[耐変形指数の定義]
六方晶窒化ほう素焼結体の板状試片を窒素ガス大気圧雰囲気下、温度1900℃で10時間保持した際に発生した反り量を測定し、耐変形指数=〔反り発生量(mm)×試片幅(mm)×{試片厚み(mm)}2 〕/〔試片長さ(mm)〕、の式を用いて算出された値。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下に、更に詳しく本発明について説明する。
【0011】
常圧焼結法による六方晶窒化ほう素焼結体の焼結機構は、概略以下のとおりである。すなわち、原料の窒化ほう素粉末は、その合成の過程において、メタノールで除去できない微量の酸素を不純物として含む。この微量の酸素は、B、N、Oの三元素系化合物(一般式「Bx Ny Oz 」で表される)の形態で存在していると考えられている。このような原料粉末を成形・常圧焼結すると、先ずBx Ny Oz の酸素がB2 3 の形で放出される。次いで、このB2 3 によって液相が形成され、その中に六方晶窒化ほう素粒子が溶解・再析出して成長し、この粒成長と同時に起こる粒子間の接合により六方晶窒化ほう素焼結体となる。
【0012】
本発明は、六方晶窒化ほう素焼結体の常圧焼結法において、窒化ほう素原料粉末として、メタノールで除去できない酸素量とその放出特性とを適正化されたものを用い、焼成雰囲気中の窒素成分の分圧を下げて焼成するものであり、これによって常温3点曲げ強度が25.9MPa以上、耐変形指数0.54以下の六方晶窒化ほう素焼結体を製造することが特徴である。
【0013】
本発明でいう耐変形指数とは、六方晶窒化ほう素焼結体の板状試片を窒素ガス大気圧雰囲気下、温度1900℃で10時間保持した際に発生した反り量を測定し、耐変形指数=〔反り発生量(mm)×試片幅(mm)×{試片厚み(mm)}2 〕/〔試片長さ(mm)〕、の式を用いて算出された値をいう。
【0014】
耐変形指数が大きいほど、高温中での使用中に変形が生じやすくなり、従来のホットプレス法による六方晶窒化ほう素焼結体の多くは、この耐変形指数が5以上であった。
【0015】
本発明の製造方法に用いられる六方晶窒化ほう素原料粉末は、メタノールで除去できない酸素を0.4〜0.6重量%含有しているものである。
【0016】
ここで、「メタノールで除去できない酸素」とは、上記のように、六方晶窒化ほう素粉末中に不純物として含まれる酸素を主体とするもので、Bx Ny Oz の形態で存在し、常圧焼結中に酸素をB2 3 の形で放出して、液相を形成すると考えられるものである
【0017】
一方、メタノールで除去できる酸素については、六方晶窒化ほう素粉末中に当初からB23 やH3BO3などの形態で存在する酸素であると考えられる。これらの酸素については、常圧焼結中の温度の低い段階で放出されるため、焼結体の物性向上にはあまり寄与しない。
【0018】
メタノールで除去できる酸素を除去するには、大気中、120℃で2時間乾燥させた六方晶窒化ほう素粉末1gあたり、3mlのメタノールを添加し、B2 3 やH3BO3などの形態で存在する酸素をメタノール中に抽出させてから、70〜80℃の温度でメタノールとともに揮散させ、1.5時間乾燥させることにより行うことができる。
【0019】
そして、メタノールで除去できなかった酸素量の測定については、上記方法によりB2 3 やH3BO3などの形態で存在する酸素を除去したのち、例えば堀場製作所製O/N同時分析計を用いて行うことができる。
【0020】
また、メタノールで除去できない酸素の放出特性としては、この酸素を含む窒化ほう素粉末を、ヘリウムガス雰囲気下、温度1800℃で180分間で保持した場合に、このメタノールで除去できない酸素の45〜55重量%が放出されることが好ましい。この時、酸素はB2 3の形で揮散・放出されると考えられる。このような酸素の放出特性は、六方晶窒化ほう素粉末と炭素粉末の均一混合物をヘリウムガスフローの下、上記温度で保持した際に生成した一酸化炭素量を定量することによって求めることができる。
【0021】
本発明において、六方晶窒化ほう素粉末中に含まれる、メタノールで除去できない酸素の量が0.4重量%未満では、焼結不足となって強度低下する。逆に、0.6重量%をこえると、六方晶窒化ほう素焼結体の残留酸素量が増大し、使用時における塑性変形の原因となる。しかも、焼結時の液相量が多くなり過ぎることによって六方晶窒化ほう素粒子の粒成長が大きくなり、その結果、焼結体の変形が生じやすくなったり、純度や密度が低下したり、更には多量のB23の急激な揮散によりクラックが発生したりする。
【0022】
メタノールで除去できない酸素の六方晶窒化ほう素粉末原料中の含有量は、製造される六方晶窒化ほう素焼結体の厚みにもとづいて調整することが好ましく、例えば厚みが35mm程度である場合は、0.5〜0.6重量%の含有量とすることが好ましい。
【0023】
また、本発明において、メタノールで除去できない酸素の放出特性が45重量%未満では、六方晶窒化ほう素焼結体中の酸素量が増大し、また55重量%をこえると割れなどが発生する。
【0024】
以上のような、メタノールで除去できない酸素の放出特性と適正量を有する窒化ほう素粉末原料は、その放出特性と含有量が既知である六方晶窒化ほう素粉末と、一次粒子径の平均値が10〜15μm程度にまで十分に発達させた高結晶、かつメタノールで除去できない酸素を殆ど含んでいない六方晶窒化ほう素粉末とを適宜混合するとによって製造することができる。
【0025】
前者の六方晶窒化ほう素粉末は、オルトほう酸やほう砂等のほう酸源と、窒素尿素、メラミン、アンモニア等の窒素源とを反応させる際、その温度域が1200〜1400℃で製造され、そのメタノールで除去できない酸素の放出特性と適正量は、焼成温度、触媒の種類・量等によって調整することができる。また、後者の高結晶六方晶窒化ほう素粉末は、上記反応温度1800〜2100℃とすることによって製造される。両粉末の混合には、リボンブレンダー、V型混合機、ダブルコーンブレンダー、ヘンシェルミキサー等の混合機が用いられる。
【0026】
六方晶窒化ほう素粉末原料の成形方法については、金型プレス法、静水圧プレス法、泥漿鋳込み成形法、押出し成形法、射出成形法などの一般的な方法を採用することができる。また、これらを組み合わせることもできる。これらの方法において、成形用有機バインダー等を用いた場合には、焼成前にこれを取り除く必要がある。特に、高強度で、耐変形性に優れる六方晶窒化ほう素焼結体を得るためには、0.5トン/cm2 以上の静水圧プレスを加えることが望ましい。
【0027】
六方晶窒化ほう素成形体の焼成は、窒素成分10vol%以下(0を含む)の不活性ガス雰囲気下の常圧で行われる。その不活性ガスとしては、ヘリウム、ネオン、アルゴン等の単味もしくは混合物を用いることができる。また、窒素成分としては、窒素ガスのほか、アンモニア等、その組成に窒素を含むガスが用いられる。窒素成分が10vol%をこえると、残留酸素量の低減と強度発現を充分に両立させることができない。この理由については定かでないが、以下のとおりであると考えている。
【0028】
すなわち、B23のつくる液相中で六方晶窒化ほう素粒子の溶解・再析出により焼結の進行する温度域は、1200〜1900℃であるが、1900℃をこえるとB23の飽和蒸気圧が急激に立ち上がる。飽和蒸気圧の高い温度域で形成されたB23液相は速やかに揮散してしまい、六方晶窒化ほう素の焼結に寄与することができない。そのため、飽和蒸気圧の低い低温域においてBx Ny OzをB23に変化させることが六方晶窒化ほう素の焼結にとって好都合である。本発明における不活性雰囲気下では、飽和蒸気圧の低い温度域でB23の形成が促進されるため、六方晶窒化ほう素粉末原料中に存在するメタノールで除去できない酸素を充分に焼結に寄与させることができるものと考えられる。
【0029】
そして、窒素成分の割合が10vol%をこえると、残留酸素量の低減と強度の発現を充分に両立させることができないことの理由は、窒素成分の割合が多いと、B23の飽和蒸気圧の低い温度域においてメタノールで除去できない酸素のB23への変化が不充分となり、焼結に有効に寄与するB23液相の必要量が確保されず、焼結体の充分な強度が得られにくい状態となっているためと考えられる。
【0030】
焼成温度は、1700℃以上である。この温度よりも低いと焼結が充分に進行しない。温度を更に上げることによって残留酸素を低減させ、焼結体の純度を高めることも可能である。温度を上げることにより、焼結体の使用時に有害となる酸素を揮散させることができる。この場合、工業的に昇温が可能なのは2300℃程度までである。
【0031】
焼成時の昇温速度については、1000℃未満の温度域においてはいくらでも構わないが、工業的には速いほうが有利である。1000℃以上の温度域においては50〜500℃/時間程度とするのが望ましい。
【0032】
本発明の製造方法によれば、常温3点曲げ強度が25.9MPa以上の高強度で、しかも耐変形指数が0.54以下である耐変形性に優れた六方晶窒化ほう素焼結体を製造することができる。
【0033】
【実施例】
以下、実施例、比較例をあげて更に具体的に本発明を説明する。
【0034】
実施例1〜7 比較例1〜8
放出特性が表1に示すとおりであり、しかもメタノールで除去できない酸素を表1の割合で含有する、種々の六方晶窒化ほう素粉末原料をゴム型に充填し、1.5トン/cm2で静水圧プレスにより略寸法が550mm×650mm×35mmに成形した。この成形体を六方晶窒化ほう素製るつぼ内に充填し、表1に示される雰囲気ガスフロー下、昇温速度100℃/時間で表1に示される焼成保持温度まで昇温し、その温度で3時間保持した。その後、昇温速度100℃/時間で2000℃まで昇温し、その温度で3時間保持したのち放冷して六方晶窒化ほう素焼結体を製造した。
【0035】
得られた六方晶窒化ほう素焼結体について、密度、常温3点曲げ強度、残留酸素量及び耐変形指数を以下に従って測定した。それらの結果を表2に示した。
【0036】
(1)密度は、焼結体の各部より3mm×4mm×50mmの曲げ試片を均等に10個切り出し、その重量と寸法から密度を求め、その平均値を算出した。
(2)常温3点曲げ強度は、密度測定に使用した試片をJIS R1601に準拠して測定した。
(3)残留酸素量は、焼結体の一部を乳鉢で粉砕し、六方晶窒化ほう素粉末原料の酸素量と同様に測定した。
(4)耐変形指数は、六方晶窒化ほう素焼結体から板状試片(50mm×100mm×4mm)を切り出し、それを窒素ガス雰囲気下、温度1900℃で10時間保持した際に発生した反り量を測定し、上式により算出した。
【0037】
【表1】
Figure 0003942280
【0038】
【表2】
Figure 0003942280
【0039】
【発明の効果】
本発明によれば、高密度、高強度で残留酸素量が少なく、しかも高温下での使用における耐変形性に優れた六方晶窒化ほう素焼結体を常圧焼結によって得ることができる。

Claims (1)

  1. 窒化ほう素粉末を含む成形原料を、窒素成分10vol%以下(0を含む)の不活性ガス雰囲気下、温度1700℃以上で常圧焼結する方法において、上記窒化ほう素粉末が、メタノールで除去できない酸素を0.4〜0.6重量%含み、しかも該酸素は、ヘリウムガス雰囲気下、温度1800℃で180分間保持した場合に、その45〜55重量%が放出されるものであることを特徴とする、常温3点曲げ強度が25.9MPa以上、以下で定義される耐変形指数が0.54以下である六方晶窒化ほう素焼結体の製造方法。
    [耐変形指数の定義]
    六方晶窒化ほう素焼結体の板状試片を窒素ガス大気圧雰囲気下、温度1900℃で10時間保持した際に発生した反り量を測定し、耐変形指数=〔反り発生量(mm)×試片幅(mm)×{試片厚み(mm)} 2 〕/〔試片長さ(mm)〕、の式を用いて算出された値。
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