本発明は、誘導加熱装置、さらに詳しくは、乾式電子写真機器(複写機、レーザプリンタ等の画像形成装置等)における定着装置、湿式電子写真機器における乾燥装置、インクジェットプリンタにおける乾燥装置、リライタブルメディア用消去装置等で好適に使用される誘導加熱方式を用いた加熱装置、ならびに誘導加熱装置を備えた定着装置、定着装置を備えた画像形成装置およびフルカラー画像形成装置に関する。
たとえば乾式電子写真方式の画像形成装置における定着装置では、加熱ローラ、加熱ローラに被加熱材である記録用紙を押圧する加圧ローラおよび加熱ローラを加熱する加熱手段が設けられ、現像工程を経て定着装置に送られてきた未定着像を有する用紙が、所定の温度に加熱された加熱ローラと加圧ローラによって形成された接触ニップ部を通過し、その間に用紙上の未定着像が熱と圧力により用紙に定着される。
加熱手段として、たとえば特許文献1に記載されているように、加熱ローラ内に設けられたハロゲンランプによって加熱ローラを内側から加熱するようにしたものが従来から広く用いられていた。しかしながら、これには、加熱開始時の立ち上がりが遅いという問題があった。
この問題を解決するため、特許文献1において、加熱ローラに導電層が形成され、磁界発生手段から交番磁界を加熱ローラに与えることで加熱ローラに渦電流によるジュール熱を発生させて、加熱ローラ自体を発熱させるようにした誘導加熱装置を備えた定着装置が提案されており、その概略が図7および図8に示されている。
図7において、(P)は被加熱材としての用紙、(2)は加熱ローラ、(3)は加圧ローラ、(4)は磁界発生手段としての誘導加熱体である。加熱ローラ(2)には、導電層が形成されている。加圧ローラ(3)は、図示しないばねによって加熱ローラに押圧されている。用紙(P)は、加熱ローラ(2)と加圧ローラ(3)の間を通って、その幅方向と直交する方向(図7の矢印方向)に送られる。
図8に詳細に示すように、加熱体(4)は、加熱ローラ(2)の上部外周に沿うように配置された半円筒状の絶縁支持体(5)と、その内部に埋設状態に配設された1組の誘導コイル(6)とからなる。コイル(6)は支持体(5)の全体にわたって渦巻状に配設され、用紙(P)の幅方向にのびる複数の直線状部分(6a)と対応する直線状部分(6a)の端部同志を連結する複数の連結部分(6b)とからなる。直線状部分(6a)は加熱ローラ(2)の周方向すなわち用紙(P)の移動方向に対応する方向に所定の間隔をおいて配設され、連結部分(6b)は用紙(P)の幅方向に所定の間隔をおいて配設されている。
コイル(6)には図示しない誘導加熱用電源から交流電流が供給され、コイル(6)に発生する交番磁界が加熱ローラ(2)に与えられることにより、加熱ローラ(2)自体が発熱し、所定の温度に昇温される。
また、加熱手段としてハロゲンランプを用いた従来の定着装置における前記の問題を解決するため、上記の加熱ローラ(2)の代わりに2つのローラの間に巻きかけられた導電層を有する無端状加熱ベルトが用いられ、ベルトの外周に配設された磁界発生手段で発生する交番磁界によってベルト自体を発熱させるようにした誘導加熱装置を備えた定着装置が提案されている(特許文献2参照)。この装置では、磁界発生手段は、ベルトの移動方向すなわち用紙の移動方向に対応する方向にのびる複数の直線状部分と対応する直線状部分の端部同志を連結する複数の連結部分とからなる誘導コイルより構成されている。
特許第2616433号公報
特開平1−144048号公報
特許文献1に記載された定着装置において、性能を向上させるためには、加熱ローラ(2)を均一に加熱して、用紙(P)を均一に加熱することが必要であり、そのためには、誘導コイル(6)により発生する磁束密度を用紙(P)の幅方向に均一にする必要がある。ところで、コイル(6)の直線状の部分では、磁束密度の分布はコイル(6)の長さ方向に均一であるが、コイル(6)の長さ方向と直交する方向については、コイル(6)の間に間隔があるため、磁束密度の分布は不均一になる。すなわち、図8に符号Eで示す加熱体(4)の幅方向中央部では、コイル(6)の直線状部分(6a)が用紙(P)の幅方向にのびているため、磁束密度は用紙(P)の幅方向に均一である。これに対し、図8に符号Fで示す加熱体(4)の幅方向両端寄りの部分では、コイル(6)の連結部分(6b)が用紙(P)の幅方向と直交する用紙(P)の移動方向に対応する方向にのびているため、磁束密度の分布は用紙(P)の幅方向に不均一になる。また、コイル(6)の直線状部分(6a)と連結部分(6b)との間の屈曲部分においても、内側では磁束が集中するために磁束密度が高くなるが、外側では逆に磁束密度が低くなり、磁束密度の分布が不均一になる。このため、加熱ローラ(2)の幅方向中央部(コイル(6)の直線状部分(6a)とのみ対向する領域)では、発熱量が均一で、均一に加熱されるが、加熱ローラ(2)の幅方向両端寄りの部分(コイル(6)の直線状部分(6a)と連結部分(6b)とに対向する領域)では、発熱量が不均一で、均一に加熱されない。したがって、加熱体(4)の幅とほぼ等しい最大幅の用紙(P)の場合には、その幅方向中央部以外の部分が均一に加熱されない。コイル(6)の直線状部分(6a)を長くし、加熱ローラ(2)の幅を直線状部分(6a)のみが対向する長さとほぼ等しくすれば、加熱ローラ(2)を均一に加熱して、最大幅の用紙(P)でも均一に加熱することができる。しかし、このようにすると、加熱ローラ(2)の幅すなわち用紙(P)の最大幅に対して、発熱体(4)の幅がコイル(6)の連結部分(6b)の分だけ大きくなり、発熱体(4)が大型化し、その結果、加熱装置全体が大型化してしまう。
特許文献2に記載された定着装置においては、誘導コイルの直線状部分が用紙の移動方向に対応する方向にのびているため、加熱ベルトの幅方向について、コイルの直線状部分がある部分では磁束密度が高く、直線状部分の間の部分では磁束密度が低くなり、磁束密度の分布がベルトの幅方向に不均一になる。したがって、ベルトが均一に加熱されず、用紙を均一に加熱することができない。
本発明の目的は、加熱ベルトの広い領域を効率良く加熱することができ、しかも装置の大型化を招かない誘導加熱装置、定着装置、画像形成装置およびフルカラー画像形成装置を提供することにある。
課題を解決するための手段および発明の効果
本発明による誘導加熱装置は、互いに近接して配列された第1のローラおよび第2のローラと、これらのローラに巻き回されて所定の張力が加えられている無端状加熱ベルトと、前記第1のローラに巻きかけられた前記加熱ベルトの部分に圧接してニップ部を形成する加圧手段と、少なくとも前記2つのローラに巻きかけられた前記加熱ベルトの部分の外周に沿うように配列され前記加熱ベルトを加熱するための磁界発生手段とを備えており、前記2つのローラは、変動磁場中で発熱する導電層を表面に有するものであることを特徴とするものである。
本発明による誘導加熱装置は、また、互いに近接して配列された第1のローラおよび第2のローラと、これらのローラに巻き回されて所定の張力が加えられている無端状加熱ベルトと、前記第1のローラに巻きかけられた前記加熱ベルトの部分に圧接してニップ部を形成する加圧手段と、前記2つのローラに巻きかけられた前記加熱ベルトの部分とこれらの間の加熱ベルトの部分の外周に沿うように配列され前記加熱ベルトを加熱するための磁界発生手段とを備えており、前記2つのローラは、変動磁場中で発熱する導電層を表面に有するものであることを特徴とするものである。
この装置は、たとえば、乾式電子写真方式の画像形成装置の定着装置に使用される。その場合、たとえば、被加熱材は記録用紙である。
無端状の加熱ベルトの外周の表面積は大きいので、これに沿う磁界発生手段の表面積を大きくして、加熱ベルトの広い領域を効率良く加熱することができる。しかも、ベルトの熱容量は小さいので、加熱開始時の立ち上がりが早く、温度制御の応答性も良い。また、磁界発生手段は加熱ベルトの外周に沿うものであるから、その表面積を多くしても、装置が大型化することがない。
このように、本発明の誘導加熱装置によれば、装置の大型化を招くことなく、加熱ベルトの広い領域を効率良く加熱することができる。また、加圧手段で被加熱材を加熱ベルトに押圧することにより、被加熱材を確実にかつ均一に加熱することができる。
また、磁界発生手段に発生する交番磁界により、導電層を有するローラにも発熱が生じ、この熱によっても加熱ベルトが加熱されるため、加熱効率が良い。
本発明の誘導加熱装置においては、たとえば、前記加熱ベルトは、変動磁場中で発熱する少なくとも1層の導電層を有し、表面に離型層が形成されている。
本発明による定着装置は、上記3つの誘導加熱装置のいずれかを備えていることを特徴とするものである。
本発明による画像形成装置は、上記の定着装置を備えていることを特徴とするものである。
本発明によるフルカラー画像形成装置は、記録用紙に4色のフルカラートナー可視像を形成する4色の可視像形成ユニットと、前記4色のフルカラートナー可視像を前記記録用紙に定着する定着装置とを備えており、前記定着装置が、前記のものであることを特徴とするものである。
本発明のフルカラー画像形成装置においては、たとえば、前記加熱ベルトは、変動磁場中で発熱する少なくとも1層の導電層を有し、表面に離型層が形成されているものである。
本発明の誘導加熱装置においては、たとえば、磁界発生手段は、互いに直列に接続された複数の磁界発生部より構成されている。
この場合、好ましくは、各磁界発生部が、加熱ベルトの幅方向にのびる直線状部分と該直線状部分の端部同志を連結する連結部分とからなる誘導コイルであり、これら複数の誘導コイルが加熱ベルトの移動方向に対応する方向に配列されている。
各誘導コイルは、通常、環状(渦巻状)に巻かれる。その場合、各コイルにおいて、加熱ベルトの移動方向の両側の直線状部分を流れる電流の向きは互いに逆方向になる。したがって、好ましくは、各コイルにおける両側の直線状部分の間隔は、各直線状部分に発生する磁場が互いに影響を及ぼさない程度とする。
各誘導コイルの巻数は、できるだけ少ないのが好ましい。磁界発生手段は複数の誘導コイルが直列に接続されたものであるから、各コイルの巻数を少なくしても、磁界発生手段全体の巻数を多くして、十分な発熱量を確保することができる。仮に複数のコイルを並列に接続した場合、所定の発熱量を得るのに大きな印加電流が必要である。これに対し、複数のコイルが直列に接続されていれば、所定の発熱量を得るために印加電流を大きくする必要がない。
各誘導コイルの巻数を少なくすると、各コイルにおける直線状部分の各端部の連結部分の加熱ベルトの幅方向の寸法を小さくすることができる。したがって、仮に加熱ベルトの幅を磁界発生手段の全幅とほぼ等しくしても、加熱ベルトの幅方向両端部における発熱量の不均一な部分の同幅方向の寸法は小さくなり、最大幅の用紙でも、均一に加熱されない部分は非常に少なくなる。しかし、好ましくは、加熱ベルトの幅をコイルの直線状部分の長さとほぼ等しくして、加熱ベルトおよび用紙全体が均一に加熱されるようにする。このようにしても、上記のように各コイルにおける連結部分の寸法を小さくすることができるので、加熱ベルトの幅すなわち用紙の最大幅に対する磁界発生手段の寸法増加を小さくすることができる。したがって、磁界発生手段によって誘導加熱装置があまり大型化することがない。
したがって、上記のようすれば、装置の大型化を招くことなく、加熱ベルトを均一に加熱して、被加熱材を均一に加熱することができる。
上記の誘導加熱装置においては、たとえば、複数の誘導コイルが加熱ベルトの移動方向に対応する方向に所定の間隔をおいて配列されている。
この場合、好ましくは、磁界発生手段の誘導コイルの巻き方向を全て同一にする。そうすると、隣接するコイルの直線状部分を流れる電流の向きは互いに逆方向になる。したがって、好ましくは、隣接するコイルの間隔は、各コイルの直線部分に発生する磁場が互いに影響を及ぼさない程度とする。
このようにすると、簡単な構成の磁界発生手段で加熱ベルトの温度の均一化を図ることができる。この場合、磁界発生手段における誘導コイルの数、各コイルの巻数が一定であるとすると、磁界発生手段の全長はコイルの間隔の分だけ大きくなる。したがって、この誘導加熱装置は、とくに加熱ベルトを加熱するのに適している。
上記の誘導加熱装置においては、たとえば、複数の誘導コイルが加熱ベルトの移動方向に対応する方向に近接して配列されている。
この場合、好ましくは、隣接する誘導コイルの間隔をほぼ0にする。また、隣接するコイルの巻き方向を互いに逆方向にし、隣接するコイルの近接して配列された直線状部分を流れる電流の向きを同一にする。
このようにすると、隣接する誘導コイルの近接して配列された直線状部分における磁束密度が高くなって、大きな発熱量を得ることができる。この場合、隣接するコイルの間隔が非常に小さいので、磁界発生手段におけるコイルの数、各コイルの巻数が一定であるとすると、磁界発生手段の全長は短くなる。したがって、小型の磁界発生手段で、効率良くかつ均一に加熱することができる。
以下、図面を参照して、この発明を乾式電子写真方式の画像形成装置に適用した実施形態について説明する。
なお、本発明の実施形態について説明する前に、図1〜図4を参照して、本発明が適用される乾式電子写真方式の画像形成装置の1例について説明する。
図1は、画像形成装置の主要部を示している。
この画像形成装置は、4色の可視像形成ユニット(10Y)(10M)(10C)(10B)が被加熱材である記録用紙(P)の搬送路に沿って配列されたいわゆるタンデム式のプリンタである。可視像形成ユニットは、符号(10)で総称する。4組の可視像形成ユニット(10)は、用紙(P)の供給トレイ(11)と定着装置(12)との間の記録用紙搬送手段としての記録用紙搬送装置(13)に沿って配設されている。そして、画像形成装置は、搬送装置(13)で搬送される用紙(P)に可視像形成ユニット(10)により各色トナーを多重転写した後、これを定着装置(12)により定着して、フルカラー画像を形成する。
さらに詳しく説明すると、搬送装置(13)は、前後1対の駆動ローラ(14)およびアイドルローラ(15)によって架張され所定の周速度(この例では134mm/s)に制御されて回動する無端状搬送ベルト(16)を備え、このベルト(16)上に用紙(P)を静電吸着させてトレイ(11)から定着装置(12)に搬送する。各可視像形成ユニット(10)は、感光体ドラム(17)の周囲に帯電ローラ(18)、レーザ光照射装置(19)、現像器(20)、転写ローラ(21)およびクリーナ(22)を備え、各ユニット(10)の現像器(20)にはイエロー(Y)、マゼンダ(M)、シアン(C)、ブラック(B)のトナーが収容されている。各可視像形成ユニット(10)は、以下の工程により、用紙(P)上にトナー画像を形成する。すなわち、まず、感光体ドラム(17)の表面を帯電ローラ(18)で一様に帯電した後、レーザ光照射装置(19)により感光体ドラム(17)の表面を画像情報に応じてレーザ露光し、静電潜像を形成する。その後、現像器(20)により感光体ドラム(17)上の静電潜像に対しトナー像を現像し、この顕像化されたトナー像を、トナーとは逆極性のバイアス電圧が印加された転写ローラ(21)により、搬送装置(13)により搬送される用紙(P)に順次転写する。定着装置(12)の前方に1対の排出ローラ(23)(24)が設けられ、搬送ベルト(16)と定着装置(12)との間および定着装置(12)と排出ローラ(23)(24)との間に、用紙ガイド(25)(26)が設けられている。転写の終了した用紙(P)は、駆動ローラ(14)の曲率により搬送ベルト(16)から剥離された後、ガイド(25)を通って定着装置(12)に搬送される。定着装置(12)において、後に詳しく説明するように、定着が行われ、定着の終了した用紙(P)はガイド(26)を通って排出ローラ(23)(24)により排出される。
定着装置(12)の1例が、図2に示されている。
この定着装置(12)における加熱装置は、加熱部材である加熱ローラ(30)、磁界発生手段であるコイルユニット(31)、温度検出手段を構成する温度センサであるサーミスタ(32)、温度制御手段である励磁回路(33)、および加圧手段を構成する加圧ローラ(34)を備えている。
加熱ローラ(30)は定着装置(12)の部分を移動している被加熱材である用紙(P)を加熱するためのもので、コイルユニット(31)からの変動磁界を受けて発熱するために少なくとも1層の導電層を有するように構成されている。また、加熱ローラ(30)は、用紙(P)からトナーがオフセット(付着)するのを防止するために、表面に離型層を有するように構成されている。この例では、加熱ローラ(30)全体が1層の円筒状の導電層(35)より構成され、その表面に薄い離型層(36)が形成されている。
導電層(35)は、比透磁率の大きいものが適しており、たとえば、純鉄、STKM(JIS)材、SUS430(JIS)等の磁性ステンレス鋼、けい素鋼板、電磁鋼板、ニッケル鋼等から構成されるのが望ましい。また、比透磁率が低い材料であっても、たとえばSUS304(JIS)等の非磁性ステンレス鋼等の抵抗率の大きい材料は、渦電流発生時の発熱量が大きいので、使用できる。あるいは、加熱ローラ(30)は、たとえばセラミックス等の非磁性のベース部材に比透磁率の高い前記材料が導電性を有するように配置されているような構成であってもよい。この例では、加熱ローラ(30)に、直径30mm、厚さ0.4mmのSTKM材製の鉄ローラを使用している。
離型層(36)には、PFA(テトラフルオロエチレンとペルフルオロアルキルビニルエーテルとの共重合体)やPTFE(ポリテロラフルオロエチレン)等のフッ素樹脂、シリコーンゴム、フッ素ゴム等が適している。この例では、PTFEを20μmコートしている。
コイルユニット(31)は、加熱ローラ(30)を渦電流で発熱させるためのもので、全体として半円筒状に形成されて、加熱ローラ(30)の約半周の外周に沿うように配置されている。
コイルユニット(31)の1例が、図3に示されている。これは、半円筒状のコイルユニット(31)を平面上に展開して示したものである。
コイルユニット(31)は、誘導コイル(U1)(U2)…(Un)が用紙(P)の移動方向に対応する加熱ローラ(30)の周方向(回転方向)にn組(n≧2)設けられて、互いに直列に接続されたものであり、全体が1本の線材により構成されている。誘導コイルは、符号(U)で総称する。各コイル(U)は、用紙(P)の幅方向である加熱ローラ(30)の幅方向にのびる直線状部分(a)(b)と、対応する直線状部分(a)(b)の端部同志を連結する連結部分(c)とからなる2重の渦巻状のフラットコイルであり、コイル(U)は全て対応する直線状部分(a)(b)が加熱コイル(30)の周方向に関して同じ側に配置されている。そして、隣接する2組のコイル(U)において、一方のコイル(U)の第1の直線状部分(a)と他方のコイル(U)の第2の直線状部分(b)が、加熱ローラ(30)の周方向にのびる直列接続部分(37)により接続されている。これにより、コイル(U)の巻き方向は全て同一になり、全コイル(U)の第1の直線状部分(a)には同一方向に電流が流れ、第2の直線状部分(b)にはこれとは逆方向の同一方向に電流が流れるようになっている。端部での温度の落ち込みを防ぐためには、個々のコイル(U)の巻数は、できるだけ少ないのが好ましい。この例では、巻数は2である。各コイル(U)において、第1の直線状部分(a)同志が互いに近接して配置されるとともに、第2の直線状部分(b)同志が互いに近接して配置され、第1の直線状部分(a)と第2の直線状部分(b)は、各部分(a)(b)に発生する磁場が互いに影響を及ぼさない程度の間隔Gをおいて配置されている。また、隣接するコイル(U)も、一方のコイル(U)の第1の直線状部分(a)に発生する磁場と他方のコイル(U)の第2の直線状部分(b)に発生する磁場が互いに影響を及ぼさない程度の間隔Hをおいて配置されている。コイルユニット(31)は、励磁回路(33)に接続されている。
コイルユニット(31)を構成する線材の表面には、絶縁層が形成される。この例では、線材は、表面にたとえば酸化膜等の絶縁層が形成されたアルミニウム単線より構成されている。あるいは、銅線、銅ベースの複合部材線、エナメル線等を撚り線にしたリッツ線等を使用することもできる。どのような材料の線材を使用しても、コイル(U)でのジュール損を抑えるために、コイルユニット(31)の全抵抗値は、0.5Ω以下、望ましくは0.1Ω以下である方がよい。
詳細な図示は省略したが、コイルユニット(31)は、非導電性材料よりなる適宜の支持部材により支持される。
加圧ローラ(34)は、詳細な図示は省略したが、鉄、ステンレス鋼、アルミニウム等の芯金上にシリコーンゴム等の耐熱弾性材層を有するように構成されている。加圧ローラ(34)の表面には、加熱ローラ(30)の場合と同様の離型層が形成されていてもよい。加圧ローラ(34)は、弾性部材である圧縮コイルばね(38)により加熱ローラ(30)にたとえば100Nの力で圧接され、これにより、加熱ローラ(30)との間に幅が約3.5mm程度の接触ニップ部(S)が形成される。
上記の定着装置(12)の動作は、次のとおりである。
まず、ウォームアップ時において、励磁回路(33)がオンとなり、コイルユニット(31)に交流電流が供給される。これにより、各コイル(U)が励磁され、加熱ローラ(30)の導電層(35)に交流渦電流が誘起され、ジュール熱により発熱する。このときの発熱量は、たとえば約800Wである。一方、励磁回路(33)による通電が開始すると同時に、加熱ローラ(30)が図示しない適宜の駆動手段によって回転駆動され、これにより、加圧ローラ(37)が従動回転する。また、加熱ローラ(30)の表面温度がサーミスタ(32)によって常時検知され、加熱ローラ(30)の表面温度が所定の温度(この例では180℃)に達すると、ウォームアップが完了し、励磁回路(33)によるコイルユニット(31)への通電がサーミスタ(32)の温度検出値に基づくオン・オフ制御に切り替わり、加熱ローラ(30)の表面温度が所定の温度に維持される。そして、このような状態で、前記のように未定着トナー像が転写された用紙(P)が接触ニップ部(S)に搬送され、加熱ローラ(30)と加圧ローラ(37)の圧力により、トナー像は溶融定着され、用紙(P)上に固定され、堅牢な画像となる。
上記の誘導加熱装置において、コイルユニット(31)は複数のコイル(U)が直列に接続されたものであるから、各コイル(U)の巻数を少なくしても、コイルユニット(U)全体の巻数を多くして、十分な発熱量を確保することができる。
各コイル(U)の巻数を少なくすると、各コイル(U)における直線状部分(a)(b)の各端部の連結部分(c)の加熱ローラ(30)の幅方向の寸法を小さくすることができる。したがって、仮に加熱ローラ(30)の幅をコイルユニット(31)の全幅Lとほぼ等しくしても、加熱ローラ(30)の幅方向両端部における発熱量の不均一な部分の同幅方向の寸法は小さくなり、最大幅の用紙(P)でも、均一に加熱されない部分は非常に少なくなる。しかし、好ましくは、加熱ローラ(30)の幅をコイル(U)の直線状部分(a)(b)の長さLaとほぼ等しくして、加熱ローラ(30)および用紙(P)全体が均一に加熱されるようにする。このようにしても、上記のように各コイル(U)における連結部分(c)の寸法を小さくすることができるので、加熱ローラ(30)の幅すなわち用紙(P)の最大幅に対するコイルユニット(31)の寸法増加を小さくすることができる。
コイルユニット(31)の他の1例が、図4に示されている。なお、図4において、図3のものと対応する部分には同一の符号を付している。
図4のコイルユニット(31)の場合、全体構成および各誘導コイル(U)の構成は図3の場合と同様であるが、複数のコイル(U)が加熱ローラ(30)の周方向に近接して配列されている点、それに伴って隣接するコイル(U)の巻き方向が互いに逆方向になっている点において、図3の場合と異なっている。つまり、図4に示すように、第1のコイル(U1)と第2のコイル(U2)については、第1のコイル(U1)の第1の直線状部分(a)と第2のコイル(U2)の第2の直線状部分(b)とが加熱ローラ(30)の周方向(図4の左右方向)の同じ側(図4の左側)に位置し、第1のコイル(U1)の第2の直線状部分(b)と第2のコイル(U2)の第1の直線状部分(a)とが同方向のそれらとは反対の同じ側(図4の右側)に位置しており、これらのコイル(U1)(U2)の第2の直線状部分(b)同志が近接し、第1のコイル(U1)の第2の直線状部分(b)と第2のコイル(U2)の第1の直線状部分(a)とが直列接続部分(37)によって接続されている。第2のコイル(U2)と第3のコイル(U3)についても、同様に、これらのコイル(U2)(U3)の第1の直線状部分(a)同志が近接し、第2のコイル(U2)の第2の直線状部分(b)と第3のコイル(U3)の第1の直線状部分(a)とが直列接続部分(37)によって接続されている。第3のコイル(U3)以降についても、同様である。したがって、この場合も、前記同様、全コイル(U)の第1の直線状部分(a)に流れる電流の方向は互いに同一であり、第2の直線状部分(b)に流れる電流の方向も互いに同一である。そして、隣接するコイル(U)において、第1の直線状部分(a)同志あるいは第2の直線状部分(b)同志が近接しているので、近接する直線状部分(a)(b)に流れる電流の向きは同じになる。なお、この場合、隣接するコイル(U)の間隔は0にするのが好ましい。
次に、図5および図6を参照して、本発明の定着装置の2つの実施形態について説明する。本発明の画像形成装置は、図1に示す画像形成装置において、図2の定着装置(12)の代わりに、図5または図6の定着装置(12)を備えたものである。
本発明による定着装置(12)の第1の例が、図5に示されている。
この加熱装置では、加熱部材として、図2の例の加熱ローラ(30)の代わりに、無端状加熱ベルト(42)が使用されている。ベルト(42)は互いに近接して配置された駆動ローラ(43)とバックアップローラ(44)に巻き回され、駆動ローラ(43)により所定の張力が加えられている。ベルト(42)は水平よりバックアップローラ(44)側が少し高い状態に配置され、駆動ローラ(43)の下端部に接触しているベルト(42)の部分に加圧ローラ(34)が押圧されて、接触ニップ部(S)が形成される。ベルト(42)も、加熱ローラ(30)と同様、少なくとも1層の導電層を有し、表面に離型層を有するように構成されている。この例では、ベルト(42)全体が1層の導電層(45)より構成され、その表面に薄い離型層(46)が形成されている。導電層(45)は、加熱ローラ(30)における導電層(35)と同様、導電性の磁性材料である純鉄やSTKM材、SUS304、SUS430、ニッケル鋼、ニッケルクロム鋼、フェライトやSi-Fe合金(けい素鋼)、Al-Fe合金、Ni-Fe合金,Co-Fe合金等の合金系材料等が適している。離型層(46)は、加熱ローラ(30)における離型層(36)の場合と同様の材料が適している。駆動ローラ(43)およびバックアップローラ(44)は、たとえば、外形30mm、内径29mmの円筒形状をなす非導電性耐熱支持部材(47)(48)より構成されている。支持部材(47)(48)には、ガラス、セラミックス、ポリイミド樹脂等の非導電性耐熱材料が適しているが、前記した加熱ローラ(30)の導電層(35)と同じ材料を使用してもよい。
コイルユニット(31)は、図3あるいは図4に示されているような構成を有し、ベルト(42)の外周に沿うように配置されている。この例では、コイルユニット(31)は、ベルト(42)の上部において、2つのローラ(43)(44)に巻きかけられた部分とその間のベルト(42)の外周に沿うように配置され、コイルユニット(31)のベルト(42)の移動方向の両端部は、ローラ(43)(44)の外周に沿うように円筒状に彎曲されている。
他は図2の例の場合と同様であり、対応する部分には同一の符号を付している。
第1の例の場合、無端状の加熱ベルト(42)の外周の表面積は大きいので、これに沿うコイルユニット(31)の表面積を大きくし、すなわち、コイルユニット(31)のコイル(U)の数を多くして、加熱ベルト(42)の広い領域を効率良く加熱することができる。しかも、ベルト(42)の熱容量は小さいので、加熱開始時の立ち上がりが早く、温度制御の応答性も良い。また、加熱ベルト(42)を使用すると、接触ニップ部(S)のベルト(42)移動方向の幅を大きくすることができる。さらに、コイルユニット(31)は加熱ベルト(42)の外周に沿うほぼ平坦なものであるから、その表面積を多くしても、装置が大型化することがない。また、加熱部材である加熱ベルト(42)が近接して配列された2つのローラ(43)(44)の間に巻きかけられているので、加熱ベルトを使用することによる加熱部材の大型化をある程度抑制して、加熱部材の小型化を図ることができる。
図3に示すコイルユニット(31)の場合、コイル(U)の数、各コイル(U)の巻数が一定であるとすると、コイルユニット(31)の全長はコイル(U)の間隔Hの分だけ大きくなる。したがって、このコイルユニット(31)は、とくに大径の加熱ローラや加熱ベルトを加熱するのに適している。また、この場合、簡単な構成のコイルユニット(31)で加熱ローラ(30)あるいは加熱ベルト(42)の温度の均一化を図ることができる。
図4に示すコイルユニット(31)の場合、隣接するコイル(U)の近接して配列された直線状部分(a)(b)を流れる電流の方向が同じであるから、この部分における磁束密度が高くなって、大きな発熱量を得ることができる。また、この場合、隣接するコイル(U)の間隔が非常に小さいので、コイルユニット(31)におけるコイル(U)の数、各コイル(U)の巻数が一定であるとすると、コイルユニット(31)の全長は短くなる。したがって、小径の加熱ローラ(30)であっても、効率良くかつ均一に加熱することができる。
本発明による定着装置(12)の第2の例が、図6に示されている。
この加熱装置は、駆動ローラ(43)およびバックアップローラ(44)の非導電性支持部材(47)(48)の表面に導電層(50)(51)が形成されている点を除いて、第1の例と同様であり、対応する部分には、同一の符号を付している。
導電層(50)(51)には、図2の例の加熱ローラ(30)の導電層(35)と同様の材料が適している。
この場合、駆動ローラ(43)およびバックアップローラ(44)にも導電層(50)(51)が形成され、コイルユニット(31)がこれらのローラ(43)(44)の外周の一部に沿うように配置されているので、ローラ(43)(44)にも発熱が生じ、この熱によってもベルト(42)が加熱するため、加熱効率が良い。
駆動ローラ(43)とバックアップローラ(44)のいずれか一方にのみ、導電層が形成されてもよい。その場合、好ましくは、加圧ローラ(34)が押圧されるベルト(42)の部分が巻きかけられた駆動ローラ(43)に導電層が形成される。
加熱ベルト(42)は、3つ以上のローラに巻き回されてもよい。その場合も、少なくとも1つのローラに導電層が形成されるのが好ましく、さらに好ましくは、コイルユニット(31)が沿わされている全てのローラに導電層が形成される。
上記の実施形態では、加熱ベルト(42)の外周に沿ってコイルユニット(31)が1組だけ設けられているが、用紙(P)のサイズ等に応じて、加熱ベルト(42)の移動方向に複数組のコイルユニット(31)を配置するようにしてもよい。
本発明による誘導加熱装置は、上記のような乾式電子写真方式の画像形成装置における定着装置に限らず、たとえば湿式電子写真機器における乾燥装置、インクジェットプリンタにおける乾燥装置、リライタブルメディア用消去装置の加熱装置としても用いることができる。
図1は、本発明による誘導加熱装置が適用されるカラーレーザプリンタの主要部の構成の1例を示す概略構成図である。
図2は、図1における定着装置の1例を示す構成図である。
図3は、図2の定着装置におけるコイルユニットの構成の1例を示す展開図である。
図4は、図2の定着装置におけるコイルユニットの構成の他の1例を示す展開図である。
図5は、本発明による定着装置の第1の例を示す構成図である。
図6は、本発明による定着装置の第2の例を示す構成図である。
図7は、誘導加熱装置を備えた定着装置の従来例を示す構成図である。
図8は、図7の定着装置における誘導加熱体を示す斜視図である。
符号の説明
(P) 記録用紙
(S) ニップ部
(10Y)(10M)(10C)(10B) 可視像形成ユニット
(12) 定着装置
(31) コイルユニット
(34) 加圧ローラ
(42) 加熱ベルト
(43) 駆動ローラ
(44) バックアップローラ
(45)(50)(51) 導電層