JP3940201B2 - 3,3’−ジチオジベンゾヒドロキサム酸 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ヘリコバクター・ピロリウレアーゼの活性を阻害する新規な3,3’−ジチオジベンゾヒドロキサム酸に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、慢性胃炎、胃・十二指腸潰瘍などの胃腸疾患の発症に、ヘリコバクター・ピロリ菌が生産するヘリコバクター・ピロリウレアーゼが深く関与していることが明らかとなった。
かかるヘリコバクター・ピロリウレアーゼによる胃粘膜障害機序は次のように考えられている。
【0003】
胃壁から分泌されている尿素は、ヘリコバクター・ピロリウレアーゼによって加水分解され、アンモニアと二酸化炭素とを生産する。
前記アンモニアは強い粘膜障害作用を有し、胃粘膜血流障害を引き起こすとともに、胃酸を中和し、厳しい酸性環境である胃内でのヘリコバクター・ピロリ菌の生息を可能にしている。
【0004】
一方、ヘリコバクター・ピロリ菌が胃粘膜に粘着すると、胃粘膜上皮細胞よりサイトカインIL(インターロイキン)−8が生産され、かかるIL−8が好中球に作用し、遊走化させ活性化させる。前記活性化された好中球は貪食と貪食空胞を形成させるとともに、活性酸素の産生と脱顆粒とを引き起こす。
前記活性酸素はそれ自身が粘膜障害を引き起こすとともに、胃内に存在する塩素とミエロペルオキシターゼの作用により、次亜塩素酸へと導かれ、上記アンモニアによって、モノクロラミンへ変換され、細胞障害を引き起こすと考えられている。
【0005】
また、上記アンモニアは活性酸素の消去剤である還元グルタチオンを減少させ、活性酸素の産生を亢進させている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、ヘリコバクター・ピロリ菌が生産する前記ウレアーゼの活性を阻害するウレアーゼ活性阻害剤が注目されるようになった。かかるウレアーゼ活性阻害剤としては、例えばアセトヒドロキサム酸(A)、ベンゾヒドロキサム酸(B)、ニコチノヒドロキサム酸(C)などのヒドロキサム酸類;2,2’−ジピリジル ジスルフィド、システィン、ジスルフィラムなどのジスルフィド類;ヒドロキノン、p−ニトロフェノール、p−アミノフェノールなどのフェノール類が知られている。
【0007】
上記ヒドロキサム酸類(A)〜(C)は、小橋らによるバイオケミカ エト バイオフィジカ アクタ,65,380−383(1962)(K.Kobayashi et al.,Biochem.Biophys.Acta.,65,380-383(1962)) およびバイオケミカ エト バイオフィジカ アクタ,227,429−441(1971)(K.Kobayashi et al.,ibid,227,429-441(1971)) に報告されている化合物である。
【0008】
また、ジスルフィド類は、ノリスらによるバイオケミカル ジャーナル,159,245−257(1976)(R.Norris et al.,Biochem.J.,159,245-257(1976))またはトッドらによるジャーナル オブ バイオロジカル ケミストリー,266,10260−10267(1991)(Matthew J.Todd,Robert P.Hausinger,J.Biol.Chem.,266,10260-10267(1991))に報告されている化合物である。
【0009】
しかし、これらの化合物は、上述したヘリコバクター・ピロリ菌のウレアーゼ活性阻害作用に不十分である。
そこで、本発明の目的は、ウレアーゼ活性阻害作用、特にヘリコバクター・ピロリウレアーゼに対して優れた活性阻害作用をもつ新規な化合物を提供することである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、ウレアーゼ活性阻害、特にヘリコバクター・ピロリ菌のウレアーゼ活性阻害に有効な化合物を開発すべく鋭意研究を重ねた結果、式(1):
【0011】
【化2】
Figure 0003940201
【0012】
で表される新規な3,3’−ジチオジベンゾヒドロキサム酸(1)またはその医薬的に許容される塩が従来のウレアーゼ活性阻害作用を有する化合物に比べて極めて強いウレアーゼ活性阻害作用を有するという新たな事実を見出し本発明を完成するに至ったのである。
即ち、本発明の3,3’−ジチオジベンゾヒドロキサム酸(1)は、ウレアーゼ活性阻害作用を有するヒドロキサム酸類のヒドロキシム基とジスルフィド類のジスルフィド基とを同一分子内に合わせ持つため、これらの各官能基が有する阻害力が同時にあるいは段階的に発現されることによって相乗的なウレアーゼ活性阻害作用が発揮される。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明の3,3’−ジチオジベンゾヒドロキサム酸は、以下の製造方法によって製造することができる。なお、下記反応工程式中、低級アルキル基としては、例えばメチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシルなどの炭素数が1〜6の低級アルキル基があげられる。また、以下に示す式(1)〜(3)において、カルボキシル基、基:COR1、およびヒドロキシアミノ基の置換位置は、ジフェニルジスルフィドの3位と3’位とに限定される。
【0014】
ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素があげられる。
反応工程式I
【0015】
【化3】
Figure 0003940201
【0016】
この反応は、一般式(3)で表される化合物を通常のエステル化反応に付すことにより、化合物(2)のエステルを得、ついで塩基存在下で、ヒドロキシルアミンと反応させることにより、一般式(1)で表される本発明の化合物を得るものである。
上記のエステル化反応は、例えば触媒の存在下で化合物(3)に一般式:
1 −OH
(式中、R1 は低級アルキル基を示す。)
で表されるアルコール類を反応させることにより行なわれる。使用される触媒としては、エステル化反応に慣用の触媒が用いられ、具体的には塩化水素、濃硫酸、リン酸、ポリリン酸、三フッ化ホウ素、過塩素酸等の無機酸、トリフルオロ酢酸、トリクロロメタンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、エタンスルホン酸等の有機酸、トリクロロメタンスルホン酸無水物、トリフルオロメタンスルホン酸無水物等の酸無水物、塩化チオニル等の触媒があげられる。また、カチオン交換樹脂(酸型)も使用できる。
【0017】
上記のエステル化反応は、無溶媒または適当な溶媒の存在下に行なわれる。使用される溶媒としては、エステル化反応に慣用の溶媒のいずれも使用でき、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類などが挙げられる。
【0018】
化合物(3)に対する酸の使用割合は、等モル〜100倍モル量、好ましくは10〜30倍モル量とするのがよい。また、反応温度は−20℃〜200℃、好ましくは0〜150℃で行なうのがよい。
また、化合物(2)は、化合物(3)のアルカリ金属塩(例えばナトリウム塩、カリウム塩等)に、一般式:
1 −X
(式中、Xはハロゲン原子を示す。R1 は前記同じである。)
で表されるハライド化合物を反応させる方法、化合物(3)に、ジアゾメタン、ジアゾエタン、ジアゾプロパン等のジアゾアルカン類を反応させる方法、化合物(3)のカルボキシ基を反応性基( 酸塩化物、アミドまたは無水物) に変換した後、一般式:
1 −OH
(式中、R1 は前記と同じである。)
で表されるアルコール類を反応させる方法等によっても得ることができる。これらのエステル化反応は慣用の方法に準じて行うことができる。
【0019】
(2)から(1)を得る反応に使用する溶媒としては、メタノール、エタノール等のアルコール類、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類等があげられる。
上記塩基としては、例えばトリエチルアミン、トリブチルアミン等のトリアルキルアミン、ピリジン、ピコリン、1,5−ジアザビシクロ〔4.3.0〕ノネン−5、1,4−ジアザビシクロ〔2.2.2〕オクタン、1,8−ジアザビシクロ〔5.4.0〕ウンデセン−7などの有機塩基、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等のアルカリ金属炭酸水素塩等の無機塩基があげられる。
【0020】
これらの塩基は化合物(2)に対して、1〜20倍モル量、好ましくは1〜10倍モル量の割合で使用するのが適当である。反応は0〜150℃、好ましくは0℃〜室温で1〜24時間程度行えばよい。
また、化合物(2)に対するヒドロキシルアミンの使用割合は、少なくとも2倍モル量、好ましくは、2〜2.5倍モル量用いるのがよい。反応は、通常、0℃〜室温にて行われる。
反応工程式 II
【0021】
【化4】
Figure 0003940201
【0022】
この反応は、無溶媒または適当な溶媒中で式(3)の化合物とヒドロキシルアミンとを、N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)などの縮合剤を使用することにより、本発明の一般式(1)で表される化合物を得るものである。
その際、第三級アミンを添加すると、前記ヒドロキシルアミンの塩基性が向上するため、反応が促進する。
【0023】
また、DCCに代えて、例えばイソブチル クロロホルメート、ジフェニルホスフィニック クロライド等の縮合剤を使用することが可能である。
使用される溶媒としては、テトラヒドロフラン(THF)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、塩化メチレン、クロロホルム等が例示できる。
【0024】
上記第三級アミンとしては、例えばトリエチルアミン、トリブチルアミン、ピリジン、ピリミジン、モルホリン、ルチジンなどがあげられる。
化合物(3)に対するN,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)の使用割合は、少なくとも2倍モル量、好ましくは、2〜2.5倍モル量用いるのがよい。
【0025】
また、化合物(3)に対するヒドロキシルアミンの使用割合は、上記反応工程式Iと同じである。反応は、通常、−10℃〜室温℃にて行われ、1〜36時間程度で終了する。
反応工程式 III
反応工程式Iの出発原料となる化合物(3)を得るには、例えば下記反応式(i) 〜(v) に示す種々の方法があげられる。
【0026】
【化5】
Figure 0003940201
【0027】
(各式中、Rは基:
【0028】
【化6】
Figure 0003940201
【0029】
を示す。また、Phはフェニル基を示し、Xは前記と同じである。)
反応式(i) の反応は、ハロゲン化物にチオ硫酸ナトリウムを反応させることにより、チオ硫酸塩を得、ついで安息香酸チオールを反応させることにより、化合物(3)を得るものである。
反応式(ii)の反応は、アミノ安息香酸と亜硝酸ナトリウムとを反応させることにより、ジアゾニウム塩を得、ついでナトリウムジスルフィドを反応させることにより、化合物(3)を得るものである。
【0030】
反応式(iii) の反応は、安息香酸チオール2分子をジメチルスルホキシドを用いて酸化的にカップリングすることにより、化合物(3)を得るものである。
反応式(iv)の反応は、安息香酸チオールに二酸化窒素を用いてチオニトレートを得、ついで他のチオールまたはジベンゾアミンを反応させることにより、化合物(3)を得るものである。
【0031】
反応式(v) の反応は、触媒量のテトラキストリフェニルホスフィンパラジウムとテトラメチル錫との存在下、ハロゲン化スルフェニルを用いたカップリング反応により化合物(3)を得るものである。
上記反応式(i) 〜(v) のうち、使用する試薬の安全性または取扱の簡便性、もしくは生成物(3)とその他化合物との分離容易性などを考慮すると、反応式(ii)に基づいて化合物(2)の合成を行うのが好ましい。
【0032】
反応式(ii)で使用する亜硝酸ナトリウムは、化合物(5−b)に対して、少なくとも等倍モル量、好ましくは1〜1.5倍モル量の割合で使用するのが適当である。
使用するナトリウムジスルフィドは、化合物(5−b)に対して、少なくとも0.5倍モル量、好ましくは1〜1.5倍モル量の割合で使用するのが適当である。反応は−10℃〜室温、好ましくは0℃〜室温で2〜5時間程度行えばよい。
【0033】
上記3,3’−ジチオジベンゾヒドロキサム酸(1)は、医薬的に許容される酸または塩基化合物の付加塩を包含する。前記塩は下記の酸または塩基を作用させることにより容易に形成される。
塩形成に使用される酸としては、例えば塩酸、硫酸、リン酸、臭化水素酸などの無機酸、また場合によってはシュウ酸、マレイン酸、フマル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸などの有機酸があげられる。
【0034】
また塩形成に使用される塩基としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウムなどがあげられる。
本発明の3,3’−ジチオジベンゾヒドロキサム酸は、通常一般的な医薬製剤の形態で用いられる。製剤は通常使用される充填剤、増量剤、結合剤、付湿剤、崩壊剤、表面活性剤、滑沢剤などの希釈剤または賦形剤を用いて調整される。
【0035】
この医薬製剤としては各種の形態が治療目的に応じて選択でき、その代表的なものとして錠剤、丸剤、散剤、液剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤、カプセル剤、坐剤、注射剤、(液剤、懸濁剤など)、軟膏剤などがあげられる。
錠剤の形態に成型する際にしては、担体として例えば乳糖、白糖、塩化ナトリウム、ブドウ糖、尿素、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、結晶セルロース、ケイ酸などの賦形剤、水、エタノール、プロパノール、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン液、カルボキシメチルセルロース、セラック、メチルセルロース、リン酸カルシウム、ポリビニルピロリドンなどの結合剤、乾燥デンプン、アルギン酸ナトリウム、カンテン末、ラミナラン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、デンプン、乳糖などの崩壊剤、白糖、ステアリン、カカオバター、水素添加油などの崩壊抑制剤、第4級アンモニウム塩、ラウリル硫酸ナトリウムなどの吸収促進剤、グリセリン、デンプンなどの保湿剤、デンプン、乳糖、カオリン、ベントナイト、コロイド状ケイ酸などの吸着剤、精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ酸末、ポリエチレングリコールなどの滑沢剤を使用できる。さらに、錠剤は必要に応じて通常の剤皮を施した錠剤、例えば糖衣錠、ゼラチン被包錠、腸液被錠、フィルムコーティング錠あるいは二重錠、多層錠とすることができる。
【0036】
丸剤の形態に成型するに際しては、担体として例えばブドウ糖、乳糖、デンプン、カカオ脂、硬化植物油、カオリン、タルクなどの賦形剤、アラビアゴム末、トラガント末、ゼラチン、エチルアルコールなどの結合剤、ラミナラン、カンテンなどの崩壊剤を使用できる。
坐剤の形態に成型するに際しては、担体として例えばポリエチレングリコール、カカオ脂,高級アルコール、高級アルコールのエステル類、ゼラチン、半合成グリセライドなどを使用できる。
【0037】
カプセル剤の調製は常法に従い、通常上記に例示した各種の担体と本発明の3,3’−ジチオジベンゾヒドロキサム酸またはその医薬的に許容される塩を混合し、硬質ゼラチンカプセル、硬質カプセルなどに充填して行われる。
注射剤として調製される場合、液剤、乳剤および懸濁剤は殺菌され、かつ血液と等張であるのが好ましい。これらの形態に成型するに際しては、希釈剤として例えば水、乳酸水溶液、エチルアルコール、プロピレングリコール、エトキシ化イソステアリンルアルコール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類などを使用できる。なお、この場合等張性の溶液を調製するのに充分な量の食塩、ブドウ糖あるいはグリセリンを医薬製剤中に含有させてもよく、また通常の溶解補助剤、緩衝剤、無痛化剤などを添加してもよい。さらに、必要に応じて着色剤、保存剤、香料、風味剤、甘味剤などや他の医薬品を医薬製剤中に含有させてもよい。
【0038】
ペースト、クリームおよびゲルの形態に製剤するに際しては、希釈剤として例えば白色ワセリン、パラフィン、グリセリン、セルロース誘導体、ポリエチレングリコール、シリコン、ベントナイトなどを使用できる。
本発明の3,3’−ジチオジベンゾヒドロキサム酸またはその医薬的に許容される塩の量は、特に限定されず広い範囲から適宜選択されるが、通常医薬製剤中に1〜70重量%とするのがよい。
【0039】
本発明の3,3’−ジチオジベンゾヒドロキサム酸の投与方法は特に制限はなく、患者の年齢、性別その他の条件、疾患の状態など、また各種製剤形態などに応じて各種決定されるが、通常全身的あるいは局所的に、経口または非経口で投与される。例えば錠剤、丸剤、液剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤およびカプセル剤の形態で経口投与され、注射剤の形態で、必要に応じて通常の補液と混合して静脈内、筋肉内、皮内、皮下または腹腔内投与される他、坐剤として直腸内投与され、または軟膏剤として投与される。
【0040】
本発明の3,3’−ジチオジベンゾヒドロキサム酸の人に対する投与量は、年齢、体重、症状、治療効果、投与方法、処理時間などにより適宜選択されるが、通常1日当たり体重1kgに対して0.1〜100mgを1〜数回に分けて投与される。
また、本発明の3,3’−ジチオジベンゾヒドロキサム酸(1)は、単独で使用してもよく、あるいは他の薬理作用を有する薬剤、例えばアモキシリン、クラリスロマイシンなどの抗生物質;メトロニダゾール、チニダゾールなどのニトロニダゾール系抗虫剤;ビスマス製剤やソファルコン、プロウノトールなどの抗潰瘍剤;オメプラゾール、ランソプラゾールなどのプロトンポンプ阻害剤などと併用してもよく、高い確率でヘリコバクター・ピロリ菌を除去することができ、慢性胃炎、胃・十二指腸潰瘍などの胃腸疾患を完治することができる。
【0041】
【実施例】
以下、参考例および実施例をあげて本発明を詳細に説明する。
参考例1
〔ジエチル 2,2’−ジチオジベンゾエートの合成〕
硫化ナトリウム(39g,0.15モル)と硫黄(4.8g,0.15モル)とを蒸留水(80ml)に懸濁させたのち、その反応混合物を100℃で加熱した。30分後、その混合物に7.5Nの水酸化ナトリウム水溶液を加え、0℃まで冷却してナトリウムジスルフィドを得た。
【0042】
次に、氷冷下で6N塩酸水溶液(180ml)に2−アミノ安息香酸(13.7g,0.10モル)を加え、攪拌したのち、約5℃に冷却した。ついでこの混合物に、45mlの水に溶かした亜硝酸ナトリウム(10.4g,0.15モル)を徐々に加え、室温下で攪拌した。約30分間後、2−アミノ安息香酸が完全に溶けて混合物の色が薄茶色となり、ジアゾニウム塩を形成した。
【0043】
そして、0℃下で前記ナトリウムジスルフィドの溶液に、ジアゾニウム塩溶液をゆっくり添加した。添加終了後、混合物を室温まで昇温し、3時間攪拌した。ついで、その混合物に6N塩酸(40ml)を加え、析出した沈澱物を濾過し、濾過物を水で洗浄した。ついで、その濾過物を3N水酸化ナトリウム水溶液(100ml)に溶かし、酢酸エチル(500ml)で洗浄した。水層を6Nの塩酸(50ml)で酸性とし、析出した沈澱物を濾過し、水洗し、デシケーターで乾燥することにより、ジチオジ安息香酸を得た。
【0044】
さらに、上記未精製のジチオジ安息香酸を硫酸(10ml)と無水エタノール(100ml)との混合溶液に溶かしたのち、反応液を100℃に加熱した。12時間後、反応液を室温まで冷却し、飽和炭酸ナトリウム水溶液で中和したのち、クロロホルムで3回抽出した。有機層を水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧下で溶媒を留去した。得られた残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(シリカゲル:和光純薬化学工業社製、溶出液:クロロホルム:ヘキサン=1:2)で分離精製したのち、エタノールで再結晶することにより、標記化合物を得た(8.26g,トータル収率45.6%)。
融点:101〜104℃
1H−NMR(300MHz,CDCl3 )δ:
1.45(t,J=7.2Hz,3H)、4.46(q,J=7.2Hz,2H)、7.24(ddd,J=1.6,7.4,8.2Hz,2H)、7.41(ddd,J=1.1,7.4,7.6Hz,2H)、7.76(dd,J=1.1,8.2Hz,2H)、8.08(dd,J=1.6,7.6Hz,2H)
13C−NMR(75MHz,CDCl3 )δ:
14.3、61.5、125.6、125.9、127.7、131.4、133.0、140.4、166.6
FT−IR(KBr):2982、1699、1459、1270cm-1
EI−MS m/z(相対強度 %):362(M+ ,36)、153(100)、181(69)、136(41)
元素分析値は下記のとおりである。
計算値(%):C,59.7;H,5.0.
実測値(%):C,59.7;H,5.0.
参考例2
〔ジエチル 3,3’−ジチオジベンゾエートの合成〕
2−アミノ安息香酸に代えて3−アミノ安息香酸を同モル量使用した以外は、参考例1と同様にして反応を行い、シリカゲルクロマトグラフィー(シリカゲル:前出、溶出液:酢酸エチル:ヘキサン=1:20)で分離精製することにより、油状物の標記化合物を得た(トータル収率 70.7%)。
【0045】
1H−NMR(300MHz,CDCl3 )δ:
1.38(t,J=7.2Hz,3H)、4.37(q,J=7.2Hz,2H)、7.41(t,J=7.7Hz,2H)、7.69(dd,J=1.1,7.7Hz,2H)、7.90(dd,J=1.1,7.7Hz,2H)、8.17(t,J=1.1Hz,2H)
13C−NMR(75MHz,CDCl3 )δ:
14.2、61.2、128.6、128.8、129.2、131.8、134.6、137.4、165.8.
FT−IR(KBr):2982、1721、1418、1260cm-1
FAB−MS(グリセロ−ル) m/z:363(MH+ ).
参考例3
〔ジエチル 4,4’−ジチオジベンゾエートの合成〕
2−アミノ安息香酸に代えて4−アミノ安息香酸を同モル量使用した以外は、参考例1と同様にして反応を行い、シリカゲルクロマトグラフィー(シリカゲル:前出、溶出液:酢酸エチル:ベンゼン:ヘキサン=1:1:50)で分離精製することにより、油状物の標記化合物を得た(トータル収率 70.9%)。
【0046】
H−NMR(300MHz,CDCl)δ:
1.38(t,J=7.2Hz,3H)、4.36(q,J=7.2Hz,2H)、7.45〜7.60(m,2H×2)、7.95〜8.00(m,2H×2)
13C−NMR(75MHz,CDCl)δ:
14.2、61.1、126.0、129.0、130.3、142.0、166.0
FT−IR(KBr):2982、1721、1418、1260cm−1
EI−MS m/z(相対強度 %):362(M,100)、137(72)、136(34)、182(32).
参考例4
〔2,2’−ジチオジベンゾヒドロキサメートの合成〕
0.1N水酸化ナトリウム水溶液(10ml)に、室温下でヒドロキシルアミン塩酸塩(2.1g,30.22ミリモル)を加え、攪拌して完全に溶解させた。得られた反応溶液に、室温下、前記ジエチル 2,2’−ジチオジベンゾエート(1.07g,2.95ミリモル)の1,4−ジオキサン溶液(30ml)を攪拌しながら15分間かけてゆっくり加えた後、36時間攪拌した。反応終了後、0℃下、3N塩酸を用いて反応液を酸性にした後、クロロホルムで3回抽出した。ついで有機層を水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥したのち、減圧下で溶媒を留去した。
【0047】
得られた残渣をクロロホルムで再結晶することにより、標記化合物を得た。
融点:142〜145℃
H−NMR(300MHz,CDCl)δ:
7.45(ddd,J=2.7,5.5,8.0Hz,2H)、7.60〜7.72(m,2H×2)、8.08(dt,J=0.9,8.0Hz,2H)
13C−NMR(75MHz,CDCl)δ:
120.8、124.3、125.3、126.0、131.7、144.9、169.2
FT−IR(KBr):3058、2912、2688、1638、1433cm−1
FAB−MS(グリセロール+メタノール)m/z:337(MH
実施例
〔3,3’−ジチオジベンゾヒドロキサメートの合成〕
ジエチル 2,2’−ジチオジベンゾエートに代えてジエチル 3,3’−ジチオジベンゾエートを同モル量使用した以外は参考例4と同様にして反応を行い、50%エタノールで再結晶することにより、標記化合物を得た。
融点:175〜177℃
H−NMR(300MHz,CDOD)δ:
7.43(t,J=7.8Hz,2H)、7.61(m,2H)、7.69(m,2H)、7.92(dd,J=1.7Hz,2H)
13C−NMR(75MHz,CDOD)δ:
127.3、127.5、130.8、131.8、135.0、138.9、167.3
FT−IR(KBr):3311、3058、2823、1619、1467cm−1
FAB−MS(グリセロール+メタノール)m/z:337(MH
参考例5
〔4,4’−ジチオジベンゾヒドロキサメートの合成〕
ジエチル 2,2’−ジチオジベンゾエートに代えてジエチル 4,4’−ジチオジベンゾエートを同モル量使用した以外は参考例4と同様にして反応を行い、50%エタノールで再結晶することにより、標記化合物を得た。
融点:175〜177℃
1H−NMR(300MHz,CDOD)δ:
7.26〜7.40(m,2H×2)、7.52〜7.64(m,2H×2)
13C−NMR(75MHz,CDOD)δ:
128.8、129.3、130.0、139.4、167.9
FT−IR(KBr):3287、3068、2742、1648、1438cm−1
FAB−MS(グリセロール+メタノール)m/z:337(MH
上記実施例1、参考例4および5で得られた化合物について、下記のウレアーゼ活性阻害試験を行い、評価した。なお、アセトヒドロキサム酸(A)を比較例1、ベンゾヒドロキサム酸(B)を比較例2、ニコチノヒドロキサム酸(C)を比較例3として使用した。
【0048】
測定は、ウレアーゼ活性阻害を直接観測するのは困難であるため、基質である尿素に13C−尿素を使用して、ウレアーゼ酵素反応により消失する尿素の経時的変化を13C−NMRで追跡した。
13C−NMR装置および測定条件)
装置:バリアン社製 GEMINI300(75MHz)
獲得時間:1.0秒
パルス減衰時間:0.5秒
スキャン数:8〜30回
プローブ温度:20℃
スペクトル幅:18102.9Hz
データ ポイント:36192
パルス角度:27°
(試料サンプルの調整)
直径5mmのNMRチューブに、400μlの0.07Mリン酸緩衝液(pH6.5)に溶かしたヘリコバクター・ピロリウレアーゼ(大塚製薬株式会社製,1.6ユニット)を加え、100μlのエタノールに溶かした実施例1〜3または比較例1〜3の供試化合物を加えたのち、20℃で30分間、ついで氷浴上で10分間放置した。
【0049】
そして、上記NMRチューブに、別に0℃に冷やしていた、100μlの0.07Mリン酸緩衝液(pH6.5)に溶かした13C−尿素(マストレース社製(99atom%13C),1mg)を加え、素早く振り混ぜて、反応溶媒量が600μlのサンプルを調整した。また、供試化合物を含まないサンプルをコントロールとした。
【0050】
なお、実施例1、参考例4および5の化合物の濃度は4.95×10−6M、比較例1の化合物(A)の濃度は1.11×10−4M、比較例2の化合物(B)の濃度は1.22×10−5M、比較例3の化合物(C)の濃度は1.21×10−5Mとした。
(測定方法)
上記サンプルをプローブ内に挿入し、反応温度(プローブの温度)20℃で酵素反応を行い、反応開始後1分から4分まで20秒ごとに、4分後からは1分ごとに13C−NMR装置を用いて測定を行った。
【0051】
上記条件下で一分毎に、基質である13C−尿素のシグナル165ppmの消失と同時に、ウレアーゼにより前記13C−尿素が加水分解を受け、発生する13C−二酸化炭素由来の、163ppmの13C−炭酸塩のシグナルの増加を時間とともに測定した。
(ウレアーゼ阻害力の評価方法)
供試化合物を加えないとき(コントロール)の反応速度を半減する供試化合物の濃度(Iv50 )により評価を行った。Iv50 は下記の方法に従って求められる。
【0052】
上述した測定条件下、13C−NMR装置を用いて参考例1〜3の供試化合物の濃度を変化させ、各濃度に対する供試化合物の13C−尿素の消失速度を算出した。そして、この13C−尿素の消失速度をコントロールの13C−尿素の消失速度で割ったものと、供試化合物の濃度との関係をプロットしたところ、図1に示す直線式が得られた。
【0053】
この関係は、
【0054】
【数1】
Figure 0003940201
【0055】
y=(コントロールにおける13C−尿素の消失速度/供試化合物の存在下における13C−尿素の消失速度)
〔a〕=供試化合物の濃度(M)
COnt=コントロールにおける13C−尿素のシグナルの消失時間(分)
i =供試化合物の存在下における13C−尿素のシグナルの消失時間(分)
で表され、供試化合物の濃度〔I〕に対する一次関係式として表される。
【0056】
ところで、前記Iv50は式(2)においてyの値が2になるときの〔I〕にあたる。従って、y=2を数式(2)に代入することにより、数式(3)が導かれ、Iv50を求めることができる。
実施例1、参考例4〜5および比較例1〜3の供試化合物のIv50を算出し、その結果を表1に示す。
【0057】
【表1】
Figure 0003940201
【0058】
表1の結果から明らかなように、比較例1〜3の化合物に比べて実施例1の化合物は、ヘリコバクター・ピロリウレアーゼに対してIv50が低いことが分かった。
【0059】
【発明の効果】
本発明の3,3’−ジチオジベンゾヒドロキサム酸は、ヘリコバクター・ピロリ菌のウレアーゼに対して優れた活性阻害作用を有するものである。
従って、本発明の3,3’−ジチオジベンゾヒドロキサム酸は、ヘリコバクター・ピロリ菌のウレアーゼが起因する慢性胃炎、胃・十二指腸潰瘍などの胃腸疾患の治療に好適なものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】供試化合物の濃度と、コントロールにおける13C−尿素の消失速度/供試化合物の存在下における13C−尿素の消失速度との関係を示すグラフである。

Claims (1)

  1. 下記式(1):
    Figure 0003940201
    で表される3,3’−ジチオジベンゾヒドロキサム酸またはその医薬的に許容される塩。
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