JP3939970B2 - 貯炭場排水の処理方法 - Google Patents
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【発明の属する技術分野】
本発明は、貯炭場排水の処理方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、石炭火力発電所の貯炭場排水を処理するに際して、懸濁物質の沈降速度を高め、処理水の濁度を低減することができる貯炭場排水の処理方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
石炭火力発電所において、岸壁に接岸された船舶から荷揚げされた石炭は、貯炭場に一時貯留されたのち、ボイラーで燃料として使用される。貯炭場が屋外に設けられている場合、降雨時に石炭と接触した雨水がヤード排水として発生する。また、炭塵の飛散防止のための散水も、少量ではあるが貯炭場排水の発生源となる。
貯炭場排水は、石炭粉を含有する黒色濁質排水であり、懸濁物質濃度として2,000mg/L程度まで増大する場合がある。貯炭場排水は、側溝や底部の集水パイプで集められ、排水ピットに一時貯留して、粒径の大きな石炭粒子を沈降させる。しかし、微細な石炭粒子は沈降せずに排水中に含まれるので、貯炭場排水は黒く着色し、懸濁物質の除去が必要になる。貯炭場排水に含まれる懸濁物質の大部分は石炭の微粒子であるが、石炭中の不純物である鉄、アルミニウムなどの金属分が微量に含まれる場合もある。
貯炭場排水は、通常は中性であるが、石炭の種類により、硫酸分などが多い場合には酸性になり、カルシウム分やマグネシウム分が多い場合にはアルカリ性になる。貯炭場排水のpHの範囲は、通常は6〜8程度であるが、炭種により4〜10程度まで変動する場合がある。
貯炭場排水中の懸濁物質を除去するために、さまざまな方法が検討されている。例えば、特開平9−75949号公報には、貯炭場排水を環境基準を満たす清浄な処理水として系外へ排出し、許容量を超える大雨のときでも貯炭場に蓄えられた石炭を濡らさないで済ませることができる揚運炭設備用水処理施設として、貯炭場排水を中和するための中和槽を設け、中和槽で中和された排水に凝集剤を加えて固形浮遊物を凝集分離するための凝集設備を設けた水処理施設が提案されている。また、貯炭場排水の処理方法として、第一、第二及び第三沈殿池を設け、沈降促進剤として、硫酸バンドを、第一、第二沈殿池出口に注入して清澄水としたのち、さらに第三沈殿池出口に設けたフィルターを兼ねる溜桝を経由して外海へ放流する方法(火力原子力発電、29巻、1号、53頁、1978年)や、自然沈殿及びろ過を行い、処理水を回収再利用する方法(火力原子力発電、43巻、10号、114頁、1992年)が報告されている。
従来技術では、降雨状態によっては、懸濁物質を除去しきれないことがあり、処理水を散水や洗浄などに再利用する場合、散水ノズルに摩耗や閉塞が生じたり、ろ過器圧損が急上昇して短時間でろ過不能になるなどの問題があった。このために、より確実に固液分離できる方法が求められていた。また、敷地スペース上の制約から、沈殿池の設置面積を変えずに固液分離性能を向上させたいという要望が出されていた。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、石炭火力発電所の貯炭場排水を処理するに際して、懸濁物質の沈降速度を高め、処理水の濁度を低減することができる貯炭場排水の処理方法を提供することを目的としてなされたものである。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、貯炭場排水のpHを4以下に調整したのち、凝集剤を添加することにより、懸濁物質の凝集により生成したフロックの沈降速度を高め、処理水の濁度を低減することが可能となることを見いだし、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、
(1)貯炭場排水のpHを4以下に調整する第1のpH調整を行ったのち、硫酸アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム、塩化アルミニウム、塩化第二鉄及び硫酸第二鉄の少なくとも1種からなる無機凝集剤を添加し、さらに、アルカリを添加して貯炭場排水のpHを6〜7 . 5に調整する第2のpH調整を行ったのち、固液分離することを特徴とする貯炭場排水の処理方法、
(2)第1のpH調整をpH2〜3に調整する第1項記載の貯炭場排水の処理方法、及び、
(3)第2のpH調整を行ったのち、さらに高分子凝集剤を添加して固液分離する第1項又は第2項記載の貯炭場排水の処理方法、
を提供するものである。
さらに、本発明の好ましい態様として、
(4)pHを4以下に調整し、5分以上経過したのちに、凝集剤を添加する第1項記載の貯炭場排水の処理方法、
を挙げることができる。
【0005】
【発明の実施の形態】
本発明の貯炭場排水の処理方法においては、貯炭場排水のpHを4以下に調整したのち、凝集剤を添加して固液分離する。貯炭場排水のpHは、2〜3に調整することがより好ましい。貯炭場排水のpHを4以下に調整して凝集剤を添加することにより、凝集したフロックの沈降速度を高め、上澄水の濁度を低下させることができる。
本発明方法において、貯炭場排水のpH調整に用いる酸に特に制限はなく、例えば、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸などを挙げることができる。これらの中で、硫酸及び塩酸は、排水に添加された酸に起因する環境の富栄養化を生ずるおそれがないので、好適に用いることができる。
貯炭場排水のpHを4以下に調整したのち凝集剤を添加することにより、凝集したフロックの沈降速度が大となり、上澄水の濁度が低下する機構は明らかではないが、式[1]で表される反応により排水中の炭酸イオンが除去されることと、排水中に鉄やアルミニウムが存在する場合は、式[2]、式[3]で表される反応により、鉄やアルミニウムがイオン化して水に溶解し、凝集作用に寄与することによると推定される。
HCO3 - + H+ → CO2 + H2O …[1]
Fe + 2H+ → Fe2+ + H2 …[2]
2Al + 6H+ → 2Al3+ + 3H2 …[3]
本発明方法においては、貯炭場排水のpHを2〜3に調整することがより好ましい。pHを2未満に調整するためには多量の酸を必要とし、さらに処理水を中和するに必要なアルカリの量も増えるので、経済性が損なわれるおそれがある。貯炭場排水のpHを3以下に調整することにより、式[1]〜[3]で表される反応を短時間で確実に進めることができる。
【0006】
本発明方法においては、貯炭場排水のpHを4以下に調整し、5分以上経過したのちに、凝集剤を添加することが好ましい。貯炭場排水のpHを4以下に調整しても、経過時間5分未満で凝集剤を添加すると、式[1]〜[3]で表される反応が十分に進行していないので、凝集フロックの沈降速度を高める効果と、上澄水の濁度を低下させる効果が、十分に発現しないおそれがある。pHを3以下とし、式[1]〜[3]で表される反応を5分以上進めることによって、pH調整を行わない場合に比べて、凝集フロックの沈降速度は約2倍となり、上澄水の濁度を低下させることができる。貯炭場排水のpH4以下への調整から凝集剤添加までの経過時間の上限には、本発明方法の効果の発現の面からは特に制限はないが、経過時間が長くなると処理設備が大型化するので、実用性の面からは2時間以下であることが好ましい。
本発明方法においては、凝集剤として、無機凝集剤を添加し、pHを6〜7.5に調整したのち、さらに高分子凝集剤を添加することが好ましい。無機凝集剤を添加することにより、石炭の微粉末からなる懸濁粒子の表面荷電を中和して、微小フロックを形成することができる。使用する無機凝集剤に特に制限はなく、例えば、硫酸アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム、塩化アルミニウム、塩化第二鉄、硫酸第二鉄などを挙げることができる。本発明方法において、無機凝集剤の添加量に特に制限はないが、10〜500mg/Lであることが好ましく、30〜250mg/Lであることがより好ましい。無機凝集剤の添加量が10mg/L未満であると、凝集効果が不足するおそれがある。無機凝集剤の添加量は500mg/L以下で通常は十分な凝集効果が得られ、無機凝集剤の添加量が500mg/Lを超えると、汚泥の発生量が過大となるおそれがある。
【0007】
本発明方法においては、無機凝集剤を添加するとともにアルカリ剤を添加して、pHを調整することが好ましい。pH範囲は、アルミニウム系無機凝集剤を用いた場合はpH6〜8であることが好ましく、鉄系無機凝集剤を用いた場合はpH4〜10であることが好ましく、いずれの場合もpH6〜7.5であることがより好ましい。無機凝集剤を添加し、pH調整することにより、荷電中和による凝集効果と、不溶性水酸化物によるフロック化効果を、十分に発現することができる。pH調整に用いるアルカリ剤に特に制限はなく、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウムなどを挙げることができる。
本発明方法に用いる高分子凝集剤は、アニオン性高分子凝集剤又はノニオン性高分子凝集剤であることが好ましい。アニオン性高分子凝集剤としては、例えば、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリルアミド部分加水分解物、ポリ−2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸ナトリウムなどを挙げることができる。ノニオン性高分子凝集剤としては、例えば、ポリアクリルアミドなどを挙げることができる。これらの高分子凝集剤は、1種を単独で用いることができ、あるいは、2種以上を組み合わせて用いることもできる。使用する高分子凝集剤の種類と添加量に特に制限はないが、それぞれの系について、ジャーテストによりあらかじめ適切な高分子凝集剤とその最適添加量を求めることが好ましい。高分子凝集剤の添加量は、通常は0.1〜10mg/Lであることが好ましく、0.5〜5mg/Lであることがより好ましい。無機凝集剤の添加量が少ない場合は、懸濁物質表面の吸着点が少ないので、カルボキシル基を多数有するアニオン性高分子凝集剤を用いることが好ましい。無機凝集剤の添加量が多い場合は、吸着点が多く、アニオン性高分子凝集剤では吸着が必要以上に起こりやすいので、ノニオン性高分子凝集剤を用いることが好ましい。高分子凝集剤を添加したのち、5分以上ゆるやかに撹拌して凝集作用により粗大フロックを形成することが好ましい。
【0008】
本発明方法において、貯炭場排水のpHを4以下とするpH調整、無機凝集剤の添加、アルカリ剤によるpH調整、高分子凝集剤の添加を行う装置に特に制限はなく、例えば、すべての操作を同一の反応槽で行うことができ、あるいは、pH4以下への調整をpH調整槽で行い、無機凝集剤の添加、アルカリ剤によるpH調整を第1の凝集槽で行い、高分子凝集剤の添加を第2の凝集槽で行うこともできる。
本発明方法においては、凝集剤の添加により形成された凝集フロックを固液分離により除去する。固液分離方法に特に制限はなく、例えば、沈殿処理、ろ過、膜分離などを挙げることができる。沈殿処理方法に特に制限はなく、例えば、沈殿槽などを用いる自然沈殿処理と遠心分離機などを用いる強制沈殿処理のいずれをも行うことができる。ろ過方法にも特に制限はなく、例えば、重力式、圧力式、サイフォン式、上向流式、ろ材循環式、連続ろ過式などのろ過器と、アンスラサイト、砂、けい砂、砂利、活性炭、プラスチックなどのろ材を用いてろ過することができる。膜分離方法にも特に制限はなく、例えば、精密ろ過膜、限外ろ過膜などを用いて膜分離することができる。
図1は、本発明方法の実施の一態様の工程系統図である。本態様においては、貯炭場排水をpH調整槽1に導入し、酸を添加してpHを4以下に調整する。pH4以下の状態で5分以上保ったのち、被処理水を第1の凝集槽2に送り、無機凝集剤とアルカリ剤を添加して急速撹拌下に凝集を行い、次いで第2の凝集槽3で高分子凝集剤を添加して、緩速撹拌下に粗大な凝集フロックを形成させる。次に、粗大な凝集フロックが形成された被処理水を沈殿槽4に送り、懸濁物質を沈降させ、槽底から沈降した汚泥を引き抜き、上澄水を処理水として排出する。
本発明方法によれば、貯炭場排水のpHを4以下に調整するという簡単な一工程を加えることにより、従来の処理方法に比べて、凝集フロックの沈降速度を格段に高め、上澄水の濁度を低下させ、効率的に貯炭場排水を処理し、処理設備を小型化することができる。
【0009】
【実施例】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によりなんら限定されるものではない。
実施例1
排水ピットで粒径の大きい石炭粒子を沈降させて除去したのちの貯炭場排水について、処理を行った。この貯炭場排水は、pH7.0、懸濁物質300mg/Lであった。
貯炭場排水1Lを1Lビーカー(深さ11cm)にとり、硫酸を添加してpH3.0に調整し、5分間撹拌したのち、液体硫酸バンド(Al2O38重量%)50mgを添加し、直ちに水酸化ナトリウム水溶液を添加してpH6.9に調整した。次いで、高分子凝集剤[栗田工業(株)、クリフロックPA331、アニオン性]1mgを添加し、5分間撹拌した。
撹拌停止後、直ちに撹拌羽根を引き上げ静置した。凝集し、粗大化したフロックの大部分がビーカー底部に沈殿した時間を計測した。沈降長さを10cmとし、沈殿に要した時間から沈降速度を求めた。沈殿に要した時間は12秒であり、フロックの沈降速度は30m/hであった。フロックの沈降開始15分後の上澄水について、JIS K 0101 9.1にしたがって、濁度を測定したところ、1.2度であった。
液体硫酸バンドの添加量を100mg又は150mgとして、同じ操作を繰り返した。液体硫酸バンド100mgを添加したとき、フロックの沈降速度は20m/hであり、上澄水の濁度は1度未満であった。液体硫酸バンド150mgを添加したとき、フロックの沈降速度は15m/hであり、上澄水の濁度は1度未満であった。
実施例2
貯炭場排水に硫酸を添加してpH2.0に調整した以外は、実施例1と同様に操作して、フロックの沈降速度と上澄水の濁度を測定した。
実施例3
貯炭場排水に硫酸を添加してpH4.0に調整した以外は、実施例1と同様に操作して、フロックの沈降速度と上澄水の濁度を測定した。
比較例1
貯炭場排水に硫酸を添加してpH5.0に調整した以外は、実施例1と同様に操作して、フロックの沈降速度と上澄水の濁度を測定した。
比較例2
貯炭場排水に硫酸を添加することなくpH7.0のまま処理した以外は、実施例1と同様に操作して、フロックの沈降速度と上澄水の濁度を測定した。
実施例1〜3及び比較例1〜2の結果を、第1表に示す。
【0010】
【表1】
【0011】
第1表に見られるように、貯炭場排水のpHを2.0〜4.0に調整した実施例1〜3と、貯炭場排水のpHが5.0〜7.0である比較例1〜2を比べると、同一の液体硫酸バンドの添加量については、実施例1〜3の方がフロック沈降速度が速く、上澄水の濁度も小さい。
【0012】
【発明の効果】
本発明方法によれば、凝集処理工程の前に酸処理工程を付加することにより、凝集剤の添加量が同一のとき、フロックの沈降速度が約2倍となり、上澄水の濁度も大幅に低下する。その結果、沈殿処理効率を高めた貯炭場排水処理施設の運転が可能となり、処理設備を小型化することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、本発明方法の実施の一態様の工程系統図である。
【符号の説明】
1 pH調整槽
2 第1の凝集槽
3 第2の凝集槽
4 沈殿槽
Claims (3)
- 貯炭場排水のpHを4以下に調整する第1のpH調整を行ったのち、硫酸アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム、塩化アルミニウム、塩化第二鉄及び硫酸第二鉄の少なくとも1種からなる無機凝集剤を添加し、さらに、アルカリを添加して貯炭場排水のpHを6〜7 . 5に調整する第2のpH調整を行ったのち、固液分離することを特徴とする貯炭場排水の処理方法。
- 第1のpH調整をpH2〜3に調整する請求項1記載の貯炭場排水の処理方法。
- 第2のpH調整を行ったのち、さらに高分子凝集剤を添加して固液分離する請求項1又は2記載の貯炭場排水の処理方法。
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