JP3937964B2 - 高強度・高靭性マルテンサイト系ステンレス鋼継目無管の製造方法 - Google Patents
高強度・高靭性マルテンサイト系ステンレス鋼継目無管の製造方法 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、優れた耐食性を有し油井管用として好適な、マルテンサイト系ステンレス鋼継目無管の製造方法に係り、とくに靭性の向上および靭性の異方性改善に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、原油価格の高騰から、近い将来に予想される石油資源の枯渇を考慮して、従来は省みられなかったような深層油田や開発が一旦は放棄されていた腐食性の強いサワーガス田等の開発が、世界的規模で盛んになっている。
このような油田、ガス田は、一般に深度が極めて深く、またその雰囲気は高温でかつ、CO2 、Cl- 等を含む厳しい腐食環境となっている。したがって、このような油田、ガス田で使用される油井管には、高強度で高靭性、しかも耐食性を兼ね備えた材質が要求されている。一般に、CO2 、Cl- 等を含む厳しい腐食環境下では、耐CO2 腐食性に優れた13%Crを含むマルテンサイト系ステンレス鋼継目無管が多く使用されている。
【0003】
従来、マルテンサイト系ステンレス鋼継目無管は、鋼素材を穿孔可能な温度に加熱したのち、ピアサーミルによる穿孔圧延と、マンドレルミルあるいはプラグミルによる延伸圧延を行い素管とし、ついでオーステナイト域へ再加熱し、例えばストレッチレデュサーあるいはサイザーによる仕上圧延を行って製品管とされるのが普通であった。仕上圧延後の空冷で継目無管はマルテンサイト組織となるが、仕上圧延後に継目無管は通常、必要な強度と靭性を付与するためにオーステナイト域からの焼入れおよびAc1 変態点以下の温度での焼戻しを施される。
【0004】
しかしながら、最近の油井環境の悪化に伴い、使用される油井管への要求特性がさらに高度化しており、とくに、低温靭性および耐硫化物応力腐食割れ性に優れた油井管用鋼管が強く要望されている。
このような要望に対し、例えば、特開平1-123025 公報には、マルテンサイト系ステンレス鋼片を1050〜1250℃の温度に加熱し穿孔と圧延を行う工程と、少なくとも500 ℃までを30℃/分の冷却速度としてマルテンサイト変態開始温度以下の温度まで冷却して80容量%以上がマルテンサイトで占められる組織とする工程と、(Ac1 変態点)〜(Ac1 変態点−200 ℃)の温度域に再加熱し断面減少率で5%以上の仕上圧延を行う工程と、仕上圧延終了温度で保持するか、または仕上圧延終了後直ちにAc1 変態点以下の温度に再加熱したのち、空冷または強制冷却する工程、を順次行うマルテンサイト系ステンレス鋼継目無管の製造方法が記載されている。また特開平1-123025 公報に記載された技術では、マルテンサイトで占められる組織とする工程のあとに、(Ac1 変態点)〜(Ac1 変態点−200 ℃)の温度域に再加熱し断面減少率で5%以上の仕上圧延を行い、空冷または強制冷却する工程と、さらに、Ac1 変態点以下に加熱し、ついで空冷または強制冷却する工程とを行ってもよいとしている。
【0005】
【発明の解決しようとする課題】
しかしながら、特開平1-123025 公報に記載された技術で製造された継目無管では、未再結晶温度域で圧延されるため、組織が圧延方向に伸長し、そのため圧延方向の特性は優れているが、円周方向の特性が劣化し、靭性や耐食性に顕著な異方性が認められるという問題がある。
【0006】
本発明は、上記した従来技術の問題を有利に解決し、高強度・高靭性でかつ特性の異方性の少ないマルテンサイト系ステンレス鋼継目無管の製造方法を提案することを目的とする。本発明でいう「高強度」とは降伏強さYSが551 MPa 以上を有する場合をいい、また「高靱性」とは−40℃でのシャルピー衝撃値(単位断面積当りの吸収エネルギー)が90 J/cm2以上を有する場合をいうものとする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記した課題を達成するために、靭性に及ぼす仕上圧延条件の影響について鋭意検討した。その結果、仕上圧延前に組織をマルテンサイト組織とした素管を、フェライト(α)+オーステナイト(γ)の二相域に再加熱したのち、圧延開始温度と断面減少率 (圧下率)との関係を特定範囲内とする適正条件で仕上圧延を施し冷却し、その後焼戻し処理を施すことにより、微細でかつ異方性の少ないマルテンサイト組織を有する製品管が得られることを新たに知見した。
【0008】
本発明は、上記した知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものである。
すなわち、本発明は、マルテンサイト系ステンレス鋼素材を、オーステナイト域に加熱し、穿孔圧延と延伸圧延により素管とする素管製造工程と、該素管を再加熱して仕上圧延を行ないその後、冷却して所定寸法の製品管とする仕上圧延工程と、該仕上げ圧延工程後、前記製品管にAc1 変態点以下の温度で焼戻し処理を施す焼戻し処理工程とを、順次施すマルテンサイト系ステンレス鋼継目無管の製造方法において、前記延伸圧延後に前記素管を冷却して実質的にマルテンサイト組織とし、さらに前記仕上圧延工程における前記素管の再加熱温度を(Ac1 変態点)〜(Ac3 変態点)の二相域温度とし、前記仕上圧延の圧延開始温度Tを(Ac1 変態点)〜(Ac3 変態点)の範囲内の温度とすることを特徴とする高強度・高靭性マルテンサイト系ステンレス鋼継目無管の製造方法である。また、本発明では、前記仕上げ圧延の断面減少率Rを10〜90%とし、かつ前記仕上圧延の圧延開始温度Tと前記断面減少率Rとの関係が次 (1) 式
800 ≦T− 0.625R≦ 850 ………(1)
(ここで、T:仕上圧延の圧延開始温度(℃)、R:仕上げ圧延断面減少率(%))
を満足する仕上圧延とすることが好ましい。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明で鋼素材として使用するマルテンサイト系ステンレス鋼は、通常公知のマルテンサイト系ステンレス鋼がすべて好適に使用できる。なお、本発明に好適なマルテンサイト系ステンレス鋼素材として、好ましい組成はつぎのとおりである。なお、組成における質量%は単に%と記す。マルテンサイト系ステンレス鋼素材としては、C:0.30%以下、Si:1.00%以下、Mn:0.05〜2.00%、P:0.03%以下、S:0.005 %以下、Cr:10.0〜15.0%、Al:0.05%以下、を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有することが好ましい。上記組成に加えてさらに、Ni:7.0 %以下、Mo:3.0 %以下、Cu:3.0 %以下のうちの1種または2種以上、および/またはNb:0.2 %以下、V:0.2 %以下、Ti:0.3 %以下、Zr:0.2 %以下、B:0.0005〜0.01%、N:0.07%以下のうちの1種または2種以上、および/またはCa:0.0005〜0.01%、REM :0.0005〜0.01%のうちの1種または2種を含有してもよい。
【0010】
次に、鋼素材の好ましい組成の限定理由について説明する。
C:0.30%以下
Cは、マルテンサイト系ステンレス鋼管の強度を確保するために必要な元素であり、本発明では 0.005%以上含有することが好ましいが、0.30%を超えて含有すると、粗大炭化物が増加し靭性が低下するとともに耐食性が低下する。このため、本発明ではCは0.30%以下に限定することが好ましい。なお、より安定した耐食性を得るためにはCは0.22%以下とすることがより好ましい。
【0011】
Si:1.00%以下
Siは、通常の製鋼過程において脱酸剤として必要な元素であり、0.10%以上含有することが好ましいが、1.00%を超えると靱性を低下させ、さらに熱間加工性をも低下させる。このため、Siは1.00%以下に限定することが好ましい。なお、より好ましくは、0.10〜0.50%である。
【0012】
Mn:0.05〜2.00%
Mnは、マルテンサイト系ステンレス鋼管の強度を確保するために必要な元素であり、本発明では0.05%以上の含有を必要とするが、2.00%を超えて含有すると靭性に悪影響を及ぼす。このため、Mnは0.05〜2.00%の範囲に限定することが好ましい。なお、より好ましくは、0.30〜1.60%である。
【0013】
P:0.03%以下
Pは、耐食性、耐硫化物応力腐食割れ性および熱間加工性をともに劣化させる元素であり、できるだけ低減するのが望ましいが、極端な低減は製造コストの高騰を招く。このため、Pは、工業的に比較的安価に実施可能でかつ耐食性および耐硫化物応力腐食割れ性を劣化させない範囲である0.03%以下とした。
【0014】
S:0.010 %以下
Sは、熱間加工性を著しく劣化させる元素であり、鋼管製造における生産性向上のため、あるいはさらに靭性、耐応力腐食割れ性の向上のためにも、できるだけ低減するのが望ましいが、極端な低減は製造コストの高騰を招く。0.010 %以下に低減すれば、通常の工程での鋼管製造が可能となることから、本発明では、Sの上限を0.010 %とした。なお、好ましくは0.005 %以下である。
【0015】
Cr:10.0〜15.0%
Crは、耐食性、耐応力腐食割れ性を保持するために主要な元素であり、耐食性の観点からは10.0%以上の含有を必要とするが、15.0%を超えて含有すると熱間加工性が劣化する。このことから、Crは10.0〜15.0%の範囲に限定した。
Al:0.05%以下
Alは、強力な脱酸作用を有する元素であり、本発明では0.001 %以上含有することが好ましいが、0.05%を超える含有は酸化物系介在物を増加させ、靭性に悪影響を及ぼす。このため、Alは0.05%以下に限定した。
【0016】
上記した成分に加えてさらにNi、Mo、Cuのうちの1種または2種以上、Nb、V、Ti、Zr、B、Nのうちの1種または2種以上を必要に応じ含有できる。
Ni:7.0 %以下、Mo:3.0 %以下、Cu:3.0 %以下のうちの1種または2種以上
Ni、Mo、Cuは、いずれも耐食性を改善する作用を有する元素であり、必要に応じ選択して含有できる。
【0017】
Niは、耐食性を向上させるとともに、強度、靭性を大きく向上させる元素であり、このような効果は 1.0%以上の含有で顕著に認められるようになるが、7.0 %を超えて含有しても含有量に見合う効果が期待できない。
Moは、孔食に対する抵抗性を増加させ、耐食性を改善する元素である。このような効果は、0.1 %以上の含有で顕著に認められるようになるが、一方、3.0 %を超える含有はδフェライトの発生を招き、耐食性、耐応力腐食割れ性および熱間加工性を低下させる。
【0018】
Cuは、保護被膜を強固にし、耐食性を高める元素であり、このような効果は 0.1%以上の含有で顕著に認められるようになるが、3.0 %を超えて含有すると熱間加工性が低下する。
Nb:0.2 %以下、V:0.2 %以下、Ti:0.3 %以下、Zr:0.2 %以下、B:0.0005〜0.01%、N:0.07%以下のうちの1種または2種以上、
Nb、V、Ti、Zr、B、Nは、いずれも強度や靭性を向上させる効果があり、必要に応じ含有できる。しかし、Nb:0.2 %、V:0.2 %、Ti:0.3 %、Zr:0.2 %、B:0.01%、N:0.07%を超えて含有すると、靭性、耐食性が低下する。
【0019】
Ca:0.0005〜0.01%、REM :0.0005〜0.01%のうちの1種または2種
Ca、REM はいずれも、介在物を球状化する作用を有し、Ca:0.0005%以上、REM :0.0005%以上含有することが好ましい。一方、Ca:0.01%、REM :0.01%をそれぞれ超えて含有すると、靭性、耐食性が低下する。
上記した成分以外の残部は、Feおよび不可避的不純物からなる。
【0020】
本発明では、好ましくは上記した組成のマルテンサイト系ステンレス鋼を、転炉等、通常公知の溶製方法で溶製したのち、連続鋳造法により鋳片(スラブ)としたのち、該鋳片(スラブ)を圧延してビレットとして、素管製造用素材とすることが好ましい。なお、連続鋳造法により直接ビレットとし、素管製造用素材としてもよい。
【0021】
本発明の製造工程の概略を図2に示す。
本発明では、好ましくは上記した組成を有するマルテンサイト系ステンレス鋼素材 (ビレット)を、まず、オーステナイト域に加熱し、穿孔圧延と延伸圧延により素管とする素管製造工程を施す。
マルテンサイト系ステンレス鋼素材の加熱は、オーステナイト域である、1100〜1300℃とすることが好ましい。加熱温度が1100℃未満では次の工程である穿孔圧延,延伸圧延における変形抵抗が大きくなり、一方、1300℃を超えると、δフェライトの発生を招き熱間加工性および靱性が著しく低下するとともに、スケール発生が著しくなり歩留低下、表面性状の低下を招く。
【0022】
穿孔圧延は、通常公知の、傾斜圧延方式(マンネスマン方式)、プレスピアシング方式等のピアサーミルがいずれも適用可能であり、穿孔圧延の方法は特に限定されない。穿孔された鋼素材はついで延伸圧延されて、素管とされる。延伸圧延はマンドレルミル、プラグミル等の通常公知の方法がいずれも適用可能であり、延伸圧延の方法は特に限定されない。なお、延伸圧延は 800℃以上の温度で終了することが好ましい。
【0023】
本発明では、延伸圧延終了後、素管をマルテンサイト変態開始温度(Ms点)以下まで冷却して、組織を実質的にマルテンサイト組織とする。なお、ここでいう「実質的にマルテンサイト組織とする」とは、冷却後の素管組織が、面積率で90%以上のマルテンサイト相からなる状態をいうものとする。なお、マルテンサイト相以外の組織はおよそ10%までのオーステナイト相またはおよそ2%までのフェライト相である。仕上圧延前の素管の組織を実質的にマルテンサイト組織とすることにより、その後の再加熱により微細な再結晶組織が得られる。マルテンサイト組織以外の組織を主相とすると、その後の再加熱により、素管の組織を微細な再結晶組織とすることができず、最終的に靭性の顕著な向上が得られないか、もしくは、靱性の異方性が顕著となる。
【0024】
実質的にマルテンサイト組織とされた素管は、ついで再加熱され、仕上圧延により所定寸法の製品管とされたのち、冷却される仕上圧延工程を施される。
仕上圧延のために、素管を(Ac1 変態点)〜(Ac3 変態点)の二相域温度に再加熱する。二相域に加熱することにより、マルテンサイト組織を微細な再結晶状態の組織とすることができる。本発明では、このような微細な再結晶状態の組織の素管を仕上圧延して、所定寸法の製品管とする。再加熱温度がAc3 変態点を超えると、最終的に結晶粒が粗大化し靱性の向上は認められず、一方、Ac1 変態点未満では、靱性の異方性が顕著となる。
【0025】
本発明では、仕上圧延に際し、圧延開始温度Tを(Ac1 変態点)〜(Ac3 変態点)の範囲内の温度とする。圧延開始温度Tが(Ac1 変態点)未満では、圧延温度が低くなりすぎて、再結晶が不十分となり圧延集合組織が残留しやすく、特性の異方性が顕著となりやすい。一方、圧延開始温度Tが(Ac3 変態点)を超えると、圧延温度が高すぎて、圧延後にも再結晶が過度に進行するため、圧延加工による組織微細化効果が少なく、靭性の向上は認められない。このため、圧延開始温度Tを(Ac1 変態点)〜(Ac3 変態点)の範囲内の温度に限定した。
【0026】
なお、仕上圧延では、断面減少率Rを10〜90%とし、 かつ圧延開始温度Tと断面減少率Rとの関係が次(1)式
800 ≦T− 0.625R≦ 850 ………(1)
(ここで、T:仕上圧延の圧延開始温度(℃)、R:仕上げ圧延断面減少率(%))を満足する条件で行うことが好ましい。断面減少率R(%)は、仕上圧延前の素管断面積に対する仕上圧延前の素管断面積と仕上圧延後の製品管断面積の差の比、{(仕上圧延前素管断面積)−(仕上圧延後製品管断面積)}/(仕上圧延前素管断面積)で定義される。
【0027】
仕上圧延の断面減少率が10%未満では、圧延加工により導入される歪が少なく圧延後の組織微細化の程度が少なく、所望の強度上昇、靭性向上効果が少ない。一方、断面減少率が90%を超えると、組織が伸長し特性の異方性が顕著となる。このため、仕上圧延の圧下率(断面減少率)は10〜90%の範囲に限定することが好ましい。なお、より好ましくは30%〜70%である。
【0028】
本発明における仕上圧延では、圧延開始温度Tを上記した範囲内とした上で、さらに断面減少率Rを上記した範囲内とし、かつ前記(1)式を満足するように断面減少率Rに応じ圧延開始温度Tを調整して圧延することが好ましい。
マルテンサイト系ステンレス鋼継目無管の靭性を、断面減少率Rと圧延開始温度Tとの関係で図1に示す。
【0029】
仕上圧延の圧延開始温度Tが本発明の範囲内((Ac1 変態点)〜(Ac3 変態点))で、かつ圧延開始温度Tと断面減少率Rとの関係が(1)式を満足する領域Cでは、管軸方向(L方向)の−40℃でのシャルピー衝撃値(単位断面積当りの吸収エネルギー)(E-40 )L および管円周方向(C方向)の−40℃でのシャルピー衝撃値(単位断面積当りの吸収エネルギー)(E-40 )C がともに180 J/cm2以上となり、かつ靭性の異方性(E-40 )C /(E-40 )L が0.80以上となる。すなわち、領域Cでは、−40℃でのシャルピー衝撃値(単位断面積当りの吸収エネルギー)が高く、かつ異方性の少ない高靭性を示している。
【0030】
また、圧延開始温度Tが本発明の範囲内((Ac1 変態点)〜(Ac3 変態点))であるが、(1)式左辺が満足されない、すなわちT− 0.625R<800 の場合である、領域Bでは、管軸方向(L方向)のシャルピー衝撃値(単位断面積当りの吸収エネルギー)(E-40 )L は180 J/cm2以上となるが、管円周方向(C方向)のシャルピー衝撃値(単位断面積当りの吸収エネルギー)(E-40 )C は若干低下し90〜180 J/cm2の範囲となる。その結果、(E-40 )C /(E-40 )L が0.80未満となり、異方性が大きくなる。しかし、使用上十分なシャルピー衝撃値(単位断面積当たりの吸収エネルギー)が確保されている。
【0031】
また、圧延開始温度Tが本発明の範囲内((Ac1 変態点)〜(Ac3 変態点))であるが、 (1) 式の右辺が満足されない、すなわち850 <T− 0.625Rの場合である、領域Dでは、管軸方向(L方向)のシャルピー衝撃値(単位断面積当りの吸収エネルギー)(E-40 )L および管円周方向(C方向)のシャルピー衝撃値(単位断面積当りの吸収エネルギー)(E-40 )C がともに若干低下し180 J/cm2未満となるがいずれも90J/cm2以上あり、使用上十分な靭性が確保されている。
【0032】
また、圧延開始温度Tが本発明の範囲((Ac1 変態点)〜(Ac3 変態点))を低く外れる領域Aでは、管軸方向(L方向)のシャルピー衝撃値(単位断面積当りの吸収エネルギー)(E-40 )L は180 J/cm2以上となるが、管円周方向(C方向)のシャルピー衝撃値(単位断面積当りの吸収エネルギー)(E-40 )C が90J/cm2未満となり、(E-40 )C /(E-40 )L が0.80未満で靭性の異方性が大きくなる。
【0033】
また、圧延開始温度Tが本発明の範囲を高く外れる領域Eでは、管軸方向(L方向)のシャルピー衝撃値(単位断面積当りの吸収エネルギー)(E-40 )L および管円周方向(C方向)のシャルピー衝撃値(単位断面積当りの吸収エネルギー)(E-40 )C がともに90J/cm2未満と、靭性が低下する。
すなわち、圧延開始温度Tが本発明の範囲((Ac1 変態点)〜(Ac3 変態点))となる領域では、管軸方向(L方向)のシャルピー衝撃値(単位断面積当りの吸収エネルギー)(E-40 )L および管円周方向(C方向)のシャルピー衝撃値(単位断面積当りの吸収エネルギー)(E-40 )C がともに90J/cm2以上となり、使用上十分な靭性を確保できる。さらに、(1)式を満足する条件で仕上圧延を行なうことにより、管軸方向(L方向)のシャルピー衝撃値(単位断面積当りの吸収エネルギー)(E-40 )L および管円周方向(C方向)のシャルピー衝撃値(単位断面積当りの吸収エネルギー)(E-40 )C がともに180 J/cm2以上となり、かつ(E-40 )C /(E-40 )L が0.80超えとなる、異方性が小さく高靭性を有する継目無鋼管となる。
【0034】
本発明では、仕上圧延開始温度を上記した範囲内とし、好ましくは (1) 式を満足する仕上圧延として、仕上圧延後、空冷するか、あるいは空冷以上の冷却速度で冷却する。その後の焼戻し処理により、組織が微細でかつ異方性の少ないマルテンサイト組織となり、高強度でかつ高靭性の、異方性の少ない特性を有する製品管が得られる。
【0035】
なお、仕上圧延は、ストレッチレデュサー、サイザー等の連続圧延機で行うことが好ましい。
【0036】
【実施例】
表1に示す組成のマルテンサイト系ステンレス鋼溶湯を転炉で溶製し、該溶鋼を連続鋳造法でスラブとしたのち、該スラブを圧延によりビレット(素管製造用素材)とした。これらビレット(マルテンサイト系ステンレス鋼素材)をマンネスマン方式のピアサーミルの穿孔圧延し、ついでマンドレルミルで延伸圧延し、表2に示す寸法の素管とした。なお、延伸圧延後、素管はMs点以下の温度まで冷却し、組織を実質的にマルテンサイト組織とした。素管の一部から試験片を採取し、素管組織を光学顕微鏡で観察した。また、延伸圧延後、Ms点以下の温度まで冷却することなく、直ちに再加熱した例を従来例とした。
【0037】
ついで、素管を表2に示す温度に再加熱したのち、表2に示す、条件で仕上圧延を実施し、表2に示すサイズの製品管とした。なお、仕上圧延は、ストレッチレデュサーを用いた。仕上圧延後、製品管は空冷 (放冷)した。冷却後、製品管はさらに表2に示す温度で焼戻された。
得られた各製品管について管軸方向(L方向)から試験片を採取し、ASTM A370 の規定に準拠して管軸方向の引張試験を実施し、引張特性(降伏強さYS、引張強さTS)を求めた。また、ASTM A370 の規定に準拠してー40℃での管軸方向および円周方向のシャルピー衝撃試験を実施し、−40℃での衝撃値(単位断面積当りの吸収エネルギー)E-40 を求めた。なお、衝撃試験片は板厚5mmのサブサイズとし、管円周方向(C方向)からの試験片は試験片端部を矯正し、試験した。得られた結果から、管円周方向の衝撃値(単位断面積当りの吸収エネルギー)(E-40 )C と管軸方向の衝撃値(単位断面積当りの吸収エネルギー)(E-40 )L との比、(E-40 )C /(E-40 )L を算出した。
【0038】
得られた結果を表3に示す。
【0039】
【表1】
【0040】
【表2】
【0041】
【表3】
【0042】
本発明例(鋼管 No. 2、3、 10 、 12 、 15 、 16 、 18 、 25 )はいずれも、高い強度(YS:550MPa以上)と高い靭性(L方向の(E-40 )L :180 J/cm2以上)を有し、さらに靭性(衝撃値)のC方向とL方向の比、(E-40 )C /(E-40 )L が0.80以上を示しており、従来例(鋼管No. 8)、比較例に比べて、異方性の少ない高強度高靭性鋼管となっている。また、本発明例(鋼管 No. 1、9)は、高い強度( YS : 550MPa 以上)を有し、(E -40 ) L は 180 J /cm 2 以上となるが、(E -40 ) C は若干低下し 90 〜 180 J /cm 2 の範囲となり、(E -40 ) C /(E -40 ) L が 0.80 未満と、異方性が大きくなるが、使用上十分なシャルピー衝撃値が確保されている。、また、本発明例(鋼管 No. 4、 13 、 17 )は、高い強度( YS : 550MPa 以上)を有し、(E -40 ) L 、(E -40 ) C が共には若干低下し 180 J /cm 2 未満となるが、いずれも 90 J /cm 2 以上であり、使用上十分な靭性が確保されている。
一方、本発明の範囲から外れる比較例では、L方向の靭性(衝撃値)が劣化しているか、あるいはC方向の靭性(衝撃値)向上が少なく、また(E-40 )C /(E-40 )L が0.80未満と靭性の異方性が大きくなっている。
【0043】
【発明の効果】
本発明によれば、高強度・高靭性でかつ異方性の少ないマルテンサイト系ステンレス鋼継目無管が安価にかつ安定して製造でき、産業上格段の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】靭性および靭性の異方性におよぼす仕上圧延開始温度と断面減少率との影響を示すグラフである。
【図2】本発明の製造工程の概略を示す説明図である。
Claims (2)
- マルテンサイト系ステンレス鋼素材を、オーステナイト域に加熱し、穿孔圧延と延伸圧延により素管とする素管製造工程と、該素管を再加熱して仕上圧延を行ない、その後、冷却して所定寸法の製品管とする仕上圧延工程と、該仕上圧延工程後、前記製品管にAc1 変態点以下の温度で焼戻し処理を施す焼戻し処理工程とを、順次施すマルテンサイト系ステンレス鋼継目無管の製造方法において、前記延伸圧延後に前記素管を冷却して実質的にマルテンサイト組織とし、さらに前記仕上圧延工程における前記素管の再加熱温度を(Ac1 変態点)〜(Ac3 変態点)の二相域温度とし、前記仕上圧延の圧延開始温度Tを(Ac1 変態点)〜(Ac3 変態点)の範囲内の温度とすることを特徴とする高強度・高靭性マルテンサイト系ステンレス鋼継目無管の製造方法。
- 前記仕上げ圧延の断面減少率Rを10〜90%とし、かつ前記仕上圧延の圧延開始温度Tと前記断面減少率Rとの関係が下記 (1) 式を満足することを特徴とする請求項1に記載の高強度・高靭性マルテンサイト系ステンレス鋼継目無管の製造方法。
記
800 ≦T− 0.625R≦ 850 ………(1)
ここで、T:仕上圧延の圧延開始温度(℃)
R:仕上げ圧延断面減少率(%)
Priority Applications (1)
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