JP3932590B2 - アルドースまたはアルドース同族体をエピマー化する方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、アルドースまたはアルドース同族体をエピマー化する方法に関する。更に詳しくは、高転化率および高選択性を実現させるエピマー化する方法に関する。
アルドースまたはアルドース同族体のエピマー化は、非天然糖製造等に有用な反応であり、例えばL−アラビノースのエピマー化生成物であるL−リボースは、核酸系抗ウイルス薬中間体として有用であり、L−ラムノースのエピマー化生成物であるアルドース同族体L−6−デオキシ−グルコースは、医薬中間体および非栄養性甘味料として有用である。
【0002】
【従来技術】
アルドースまたはアルドース同族体のエピマー化生成物は医薬中間体等の有機合成中間体として有用であることが知られているが、その工業的製造方法はまだ、確立されていない。
例えば、カルボニル基のエノール化が塩基により誘起されるように、同様な条件下でアルドースは、1,2−エンジオールを経由して、そのエピマーおよび相当する2−ケトースに相互変換することが知られている[ Adv.Carbohydr.Chem.,13, 63 (1958)]。しかし、この転位反応の平衡はケトースの方に偏っているので、ケトースの合成には利用できる可能性があるが、反応過程で、2,3−エンジオール化等のエンジオール化反応を繰り返すため、糖のカルボニル基は炭素鎖に沿って移動し、多種のケトースと同時に多種のエピマー化生成物を与えるため、エピマー製造の観点からは、目的エピマー化合物の選択性が低すぎる[Carbohydr.Res.,11, 17 (1969)]。また、強塩基性条件下ではこのエンジオールから1,2−脱離し、ついで分解し種々の低分子化合物を与えることも知られている[ Adv. Carbohydr.Chem.,12,35(1957)]。このように、塩基触媒による異性化反応により、アルドースのエピマーを得る方法は、多くの複雑な副生物を与えるため実用的ではない。
【0003】
また、アルドースをモリブデン酸(IV)水溶液中で加熱することで、アルドースの2位水酸基のエピマー化反応が起こり、対応するエピマーが生成することが報告されている[ Chem.Zvesti., 27, 547 (1973)]。この方法はモリブデン酸(IV)が触媒として作用し、アルドースの2位水酸基のエピマーが生成するものの、原料アルドースの転化率が低く、また2位水酸基のみならず3位、4位等、他の部位の水酸基も同時にエピマー化したアルドースが相当量副成し、2位水酸基のエピマー化生成物の選択性が低い点が問題である。
【0004】
さらに、アルドースと等モルの[Ni(H2O)2(tmen)2]Cl2錯体(tmenはN,N,N'-トリメチルエチレンジアミンを示す)を加温処理することによりアルドースーニッケルーtmen錯体を生成し、これを加水分解することにより対応する2位水酸基のエピマー、例えばD−グルコースからはD−マンノースが、またD−マンノースからD−グルコースが得られることが報告されている[J.Chem.Soc,Chem.Commun.,1001 (1986) および 659 (1987)]。この方法は穏和な反応条件であり、比較的選択性が高く、対応する2位水酸基のエピマーが製造できるものの、原料アルドースの転化率は充分とはいえない。また、ニッケル錯体が、原料アルドースの当量分必要であり、エピマー化反応は触媒的には進行しない。従って、反応終了後の反応液中に大量に存在するニッケル化合物および原料アルドースを、エピマーと分離するのは技術的に困難であり、この方法も、有効な製造方法とはいえなかった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、アルドースまたはアルドース同族体のエピマー化を工業的に行う方法を提供することである。即ち、穏和な反応条件でも、高転化率を維持し、2位水酸基のみが選択的にエピマー化するアルドースまたはアルドース同族体のエピマー化方法を提供することである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、アルドースまたはアルドース同族体のエピマー化について鋭意検討した結果、タングステン化合物の存在下に、エピマー化することで、高転化率となり、更に、2位水酸基でのエピマー化が選択的に進行することを見出し、本発明を完成するに至った。即ち、本発明の要旨は、アルドース、n−デオキシ−アルドース(ここで、nはアルデヒド炭素を1位として4〜6位の炭素原子上の水酸基が水素原子に置換されていることを示す)、アルドースのエステル、または、アルドースのケタールを、タングステン酸塩の存在下に、エピマー化する方法に存する。
【0007】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
(原料)
本発明でエピマー化反応の原料となるアルドースはアルデヒド基を含有する炭水化物であり、通常、炭素原子4個のテトロース、炭素原子5個のペントース、炭素原子6個のヘキソース、炭素原子7個のヘプトースが挙げられる。これらの具体例として、テトロースとしてはエリスロースおよびトレオース、ペントースとしてはアラビノース、キシロース、リキソースおよびリボース、ヘキソースとしてはアロース、アルトロース、グルコース、マンノース、ガラクトース、グロース、イドースおよびタロースが挙げられる。これらアルドースは本発明のエピマー化反応により2位水酸基のエピマーを選択的に生成する。本発明のエピマー化にとって、原料化合物の重要な構造は下記のものと考えられる。
【0008】
【化1】
【0009】
一方、アルドース同族体としては、アルドース以外のもので、上記構造を有する化合物であり、代表的には、通常、n−デオキシ−アルドース(nは4〜10の整数)が挙げられる。これらはアルドースの一般的な表記方法であるが、アルデヒド炭素を1位としてn位の炭素原子上の水酸基が水素原子に置換されたものを意味する。この具体例としては、ラムノース、6−デオキシ−グルコース、4−デオキシ−リキソース、5−デオキシ−アラビノース、4−デオキシ−マンノースおよび5−デオキシ−タロースが挙げられる。
【0010】
また、アルドース同族体として、アルドースのエステルおよび/またはケタールも挙げられる。エステルおよび/またはケタールの置換部位はn位(nは4〜10の整数)であり、このような同族体を例示すると、グルコース−6−アセテート、マンノース−5,6−ブチレートおよび4,6−O−イソプロピリデン−マンノースが挙げられる。さらに、アルドース同族体としてグルクロン酸、マンヌロン酸、ガラクツロン酸等のアルドウロン酸類も挙げられる。これらアルドース同族体は、アルドースと同様にエピマー化反応を受け、2位水酸基のエピマーを選択的に生成する。
尚、原料として、アルドースおよびアルドース同族体を同時に用いてもよいし、また、各々を2種以上併用してもよい。この場合、両原料は同時にエピマー化されることとなる。
【0011】
(タングステン化合物)
本発明に用いられるタングステン化合物としては、通常、タングステンの酸化物、酸、ハロゲン化物、リン縮合物、ポリ酸等が挙げられる。またタングステン酸またはポリ酸の場合は、そのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩または重金属塩が好ましい。具体的には、二酸化タングステン、三酸化タングステン、タングステン酸、二塩化タングステン、五塩化タングステン、二臭化タングステン、五臭化タングステン、リンタングステン酸、タングステン酸カリウム、タングステン酸ナトリウム、タングステン酸リチウム、パラタングステン酸ナトリウム、パラタングステン酸カリウム、タングステン酸カルシウム、タングステン酸バリウム、タングステン酸マグネシウム、タングステン酸アンモニウム、パラタングステン酸アンモニウム、タングステン酸カドミウム、タングステン酸コバルト、タングステン酸第二鉄、タングステン酸鉛、タングステン酸第二銅、タングステン酸ビスマス等が挙げられる。好ましくはタングステン酸のアルカリ金属塩であり、より好ましくは、タングステン酸カリウム、タングステン酸ナトリウムである。
【0012】
これら、タングステン化合物は単独でも、混合して使用しても差し支えない。また、これら触媒はそのままの形で使用してもよいが、必要により、成形して、あるいはシリカ、アルミナ、ゼオライト等の担体に公知の方法で担持して使用することもできる。これら触媒の反応系への添加方法としては単独で加えてもよいが、例えば、水などの希釈剤と混合したものを加えてもよい。
本発明に用いられるタングステン化合物の使用量は、通常、原料アルドースおよびアルドース同族体に対して0.01重量%以上、好ましくは0.1〜50重量%、特に好ましくは1〜20重量%である。
【0013】
(反応溶媒、添加物)
本発明においては、反応系を均一にし反応速度の向上あるいは反応操作を容易ならしめる等の目的で、原料アルドースまたはアルドース同族体は通常溶液として用いる。用いられる溶媒は、適当な極性溶媒であり、例えば、水、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル等のエーテル類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類、ジメチルスルホキシド、スルホラン、N-メチルピロリドンもしくはアルコール類が例示できる。好ましい溶媒は、水およびアルコール類であり、用いられるアルコールとしては特に制限はなく経済的に有利なものであればよい。代表的なアルコール類の例としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、i−ブタノール、tert−ブタノール等の低級脂肪族1価アルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール等の脂肪族2価アルコール、グリセリン等の脂肪族多価アルコール等が挙げられる。特に好ましい溶媒は、水であり高いエピマー化収率が得られる。用いられる水は、特に制限はないが、蒸留水、イオン交換水が好ましい。
【0014】
これら溶媒中に含有される、アルドースまたはアルドース同族体の濃度は本発明においては重要ではない。その粘度等が反応液の撹拌を阻害しない範囲内で、可能な限り高濃度で用いることが有利であり、これによりエピマー化されるアルドースまたはアルドース同族体の量に関する生産性は向上可能である。実際には5〜50重量%の濃度が一般に用いられる。反応溶液は他の物質、例えば細菌やカビ等の増殖を防止するための添加物、例えば亜硫酸水素塩や亜硫酸塩等を添加して使用しても差し支えない。
【0015】
(反応方法・反応条件)
反応方法は用いるタングステン化合物の種類、形態などにより異なるが、本発明は均一系反応でも、不均一系反応でもよく、また、不均一系反応の場合、懸濁床タイプでも固定床タイプでもよい。更に、反応は回分法又は連続法で実施でき、触媒の添加方法は、一括添加でも、分割添加でもよいが、例えば、所定量のアルドースまたはアルドース同族体とタングステン化合物を溶媒に溶解した溶液を反応装置に仕込み、所定温度に保持し充分撹拌することによって反応させることができる。反応温度は通常、液相保持圧力下で0〜200℃、好ましくは20〜150℃であり、反応温度があまり低いと、エピマー化に長時間有し、得策ではなく、逆にあまり高すぎると選択率の低下が起る傾向にある。反応時間は使用するタングステン化合物、アルドースまたはアルドース同族体および反応条件により異なるが、通常は数時間から数十時間で完了する。生成エピマーは必要により、反応液中の固形分を分離した後、これを例えば、晶析あるいは、カルシウムを担持した強酸型イオン交換樹脂を用いたカラム精製等の方法にて処理することにより高純度で単離可能である。
【0016】
【実施例】
以下に実施例、比較例および参考例を用いて、本発明をさらに具体的に説明する。
尚、反応液中の生成物は、液体クロマトグラフィーを用い、N-メチルピロリドンを内部標準物質とした内部標準法によって定量分析し、下式により収率、転化率および組成比を求めた。
【0017】
【数1】
【0018】
【数2】
【0019】
(実施例1)
冷却管および温度計を付した50mlの3口フラスコに攪拌子、タングステン酸酸ナトリウム・二水和物 143.5 mg(0.435mmol)および脱イオン水25mlを入れ均一な溶液にした。これにL−アラビノース 1000mg(6.66mmol)を入れ、撹拌して均一にした後95℃で4.5時間反応を実施した。反応器を冷却し反応液を得た。液体クロマトグラフィーによって生成物を定量分析した結果、未反応のL−アラビノース 735.6mg(4.90mmol)が残存し、L−リボース 113.3mg(0.75mmol)が生成していた。L−リボース選択率は42.8%、L−アラビノース転化率は26.4%であった。
【0020】
(比較例1)
実施例1において、タングステン酸ナトリウム・二水和物の代りに、モリブデン酸ナトリウム・二水和物107.8mg(0.446mmol)を用い、同様の反応を実施した結果、未反応のL−アラビノース 783.2mg(5.21mmol)が残存し、L−リボース 75.4mg(0.50mmol)が生成していた。L−リボース選択率は34.8%、L−アラビノース転化率は21.7%であった。
【0021】
(実施例2)
冷却管および温度計を付した50mlの3口フラスコに攪拌子、タングステン酸酸ナトリウム・二水和物 143.5 mg(0.435mmol)および脱イオン水25mlを入れ均一な溶液にした。これにL−ラムノース 1093mg(6.66mmol)を入れ、撹拌して均一にした後95℃で20時間反応を実施した。反応器を冷却し反応液を得た。液体クロマトグラフィーによって生成物を定量分析した結果、未反応のL−ラムノース ス 464.1mg(2.83mmol)が残存し、L−6−デオキシ−グルコース 236.2mg(1.44mmol)が生成していた。L−6−デオキシ−グルコース 選択率は37.7%、L−ラムノース転化率は57.5%であった。
【0022】
(比較例2)
実施例2において、タングステン酸ナトリウム・二水和物の代りに、モリブデン酸ナトリウム・二水和物 107.8 mg(0.446mmol)を用い、同様の反応を実施した結果、未反応のL−ラムノース ス 477.2mg(2.91mmol)が残存し、L−6−デオキシ−グルコース 133.7mg(0.81mmol)が生成していた。L−6−デオキシ−グルコース 選択率は21.7%、L−ラムノース転化率は56.3%であった。
【0023】
【発明の効果】
本発明の方法により、アルドースまたはアルドース同族体から、モリブデン酸(IV)等を用いた従来のエピマー化反応に比し、高い転化率および高い選択率で対応する2位水酸基のエピマーを得ることができ、工業的な利用価値は高い。
Claims (6)
- アルドース、n−デオキシ−アルドース(ここで、nはアルデヒド炭素を1位として4〜6位の炭素原子上の水酸基が水素原子に置換されていることを示す)、アルドースのエステル、または、アルドースのケタールを、タングステン酸塩の存在下に、エピマー化する方法。
- アルドースが、アラビノース、キシロース、リキソース、リボース、アロース、アルトロース、グルコース、マンノース、ガラクトース、グロース、イドースおよびタロースよりなる群から選ばれる少なくとも1種のアルドースであることを特徴とする請求項1記載の方法。
- アルドースが、L−アラビノースであることを特徴とする、請求項2記載の方法。
- n−デオキシ−アルドースが、L−ラムノースであることを特徴とする請求項1記載の方法。
- タングステン酸塩がタングステン酸のアルカリ金属塩であることを特徴とする請求項1記載の方法。
- エピマー化を水性媒体中、0〜200℃で行なうことを特徴とする請求項1記載の方法。
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