JP3930456B2 - アレイアンテナ通信装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、複数のアンテナを用いて送受信アンテナ・パターンを制御する通信装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
空間的に離間させて配置された複数のアンテナで受信された各信号を適切に加算合成することにより、希望波の到来方向にビームを有し、かつ干渉波の到来方向にヌルを有する受信アンテナ・パターンを形成して、希望信号を選択的に受信するアダプティブ・アレイ・アンテナを備えた通信装置が知られている。そして、この通信装置で送信を行う場合には、希望局の方向にビームを有し、かつ干渉局の方向にヌルを有する送信アンテナ・パターンを形成するのが望ましい。これにより、希望局の方向にビームを形成することで希望局方向に選択的に送信電力を振り向けることができ、また干渉局方向にヌルを向けることで干渉局にとっては本通信装置からの干渉を受けないこととなり、本通信装置と希望局の組と独立して通信を行っている干渉局に影響を与えにくくなる意味で有効である。
【0003】
ここで、図4を参照して、従来のアダプティブ・アレイ・アンテナを備えた通信装置50について説明する。なお、ここでは、一例として、送受周波数は同一で、時分割で送受通信を行い、また4本のアンテナ52を空間的に離間させて配置したアダプティブ・アレイ・アンテナを用いる場合について説明する。
【0004】
まずは、受信時の処理について説明する。アンテナ52で受信された信号は、送信/受信を切り替える送受切替器54(図4では受信時の接続状態を示している)を経由して、低雑音増幅器(LNA)56で増幅された後、ミキサ58に入力され、ここでローカル発信器60からのローカル周波数と掛け合わされることにより中間周波数(IF)に変換される。次に、信号は、IFフィルタ62により受信周波数付近の周波数信号とされた後、IF増幅器64にて増幅され、ミキサ66に入力され、ここでローカル発信器68からのローカル周波数とミキシングされてベースバンド信号に変換される。次に、信号は、ローパスフィルタ70によって必要帯域幅に弁別され、アナログ・ディジタル変換器(A/D)72にてディジタル信号に変換される。4つのアンテナ52における受信信号はそれぞれこのようにしてベースバンド信号に変換される。これらの信号は受信側処理部74に入力され、ここで振幅及び位相により特徴付けられる重み付け(係数:w1〜w4)が行われた後に加算され、受信信号として処理される。アンテナで受信された信号には、希望局信号のみならず干渉局信号も含まれるが、アダプティブ・アレイ処理部76において参照信号および受信信号に基づいて適切に重みづけ係数(受信重みづけ値)を決定することで、受信信号から干渉局信号を除去して希望局信号のみを受信することができる。この処理に関しては非特許文献1に詳しい。
【0005】
次に、送信時の処理について説明する。送信側処理部78は、入力される送信信号を4分割して、それぞれに重み付けを行う。ここで、送信時の重み付け値として、受信時の重み付けの値を用いる場合がある。これは、送信信号と受信信号の相反性を利用して、受信アンテナ・パターンと同様のビーム、ヌルを有する送信アンテナ・パターンを形成するという考えに基づくものである。さて、分割され重みづけされた各信号は、ディジタル・アナログ変換器(D/A)80、ローパスフィルタ82を経由してミキサ84に入力され、ここでローカル周波数によるミキシングによってIF周波数に変換される。次に、信号は、IFフィルタ86によってフィルタリングされ、IF増幅器88によって増幅された後、ミキサ90に入力され、ここで、ローカル周波数によるミキシングによってRF周波数に変換される。そして、信号は、送信電力増幅器(PA)92、および送受切替器54を経由してアンテナ52から送信される。
【0006】
さて、上述した従来技術では、送信時の重み付けパターンと受信時の重み付けパターンとを同じにした。これは、アンテナ52以降の空間での信号の相反性に基づくことによるが、無線部では、送信信号の通過する送信部(TX)と受信信号の通過する受信部(RX)とは異なるため、相反性が成立しない。したがって、上記従来技術のように、送信側処理部78で受信側処理部74で用いたのと同一の重み付け値を用いても、受信時と同一の送信指向性を得ることはできなかった。すなわち、TX側を通過する送信信号の位相回転量および振幅変化量は、RX側を通過する受信信号の位相回転量および振幅変化量と異なるため、送受信で同一の重み付けを行っても、送信信号がTXを通過してアンテナに達したときの信号の振幅および位相は、受信信号が受信される場合の振幅および位相と異なるものとなってしまう。つまり、送受信で同じ重み付けを行うと、送信アンテナ・パターンは受信アンテナ・パターンと異なるものとなり、受信信号のビーム方向とヌル方向は、送信時のビーム方向とヌル方向とは異なるものとなる。
【0007】
このため、この種のアダプティブ・アレイ・アンテナを備える通信装置では、4系統のそれぞれについて、送信部(TX)における送信信号の位相回転量が受信部(RX)における受信信号の位相回転量と同一となり、かつ、送信部(TX)における送信信号の振幅変化量が受信部(RX)における受信信号の振幅変化量とアンテナ間で共通の一定倍率となるように、適切な調整を行う必要がある。
【0008】
このような場合、通常、4系統の全ての受信部(RX)について振幅変化量と位相回転量とが相互で一定値となるように調整され(受信側キャリブレーション)、また4系統の全ての送信部(TX)について振幅変化量と位相回転量とが相互で一定値となるように調整される(送信側キャリブレーション)。かかる調整は、受信側処理部74において各系統(各受信部)に対して設けられた振幅・位相補正部94、および送信側処理部78において各系統(各送信部)に対して設けられた振幅・位相補正部96にて行われる。このキャリブレーション(校正)は、具体的には、特許文献1や特許文献2に開示されるように、各系統で受信側または送信側に切り替え、受信信号が受信部(RX)を通過する際の振幅と位相と、送信信号が送信部(TX)を通過する際の振幅と位相とを順次測定して行うものである。
【0009】
しかしながら、特許文献1あるいは特許文献2に開示される方法では、複数系統のそれぞれについて順次送信及び受信に切り替えて通過する際の振幅と位相を順次測定するため、キャリブレーションが完了するまでに時間を要するという問題があった。さらに、キャリブレーションの実施中に、新たに振幅変化、位相回転が生じ、精度良くキャリブレーションを行うのが難しいという問題があった。そして、一般的には、キャリブレーション実施中に送信部および受信部を特性変化の無い状況に保つことは極めて難しく、その対策として特許文献3に開示されるような運用時に常時キャリブレーションを並行して継続するという非常に手間を要するキャリブレーションを実施せざるを得ない場合も多かった。
【0010】
加えて、希望局、干渉局からの信号のレベルは希望局、干渉局までの距離などによって大きく変動するため、受信部には一般に自動利得調整機構(AGC)が設けられているが、この自動利得調整機構を設けたことで、受信レベルの変化により受信部相互間で振幅変化量と位相回転量に差が生じることがあり、折角行ったキャリブレーション補正値が実際には有効に利用できない場合も多かった。
【0011】
さらに、受信側の振幅・位相補正部に何らかの異常が生じ、正常な補正を行えない状態となった場合、それによる誤差は受信側処理部の重み付け値に上乗せされる。そして、さらにその誤差の上乗せされた重み付け値が送信側に用いられるため、送信アンテナ・パターンと受信アンテナ・パターンとが大きく異なるものになってしまうという問題があった。
【0012】
そこで、上記問題を解決することができる従来の通信装置について図5を参照して説明する。図5は、通信装置10の要部の一例を示すブロック図である。なお、ここでは、4つのアンテナ(単位アンテナ)12によってアダプティブ・アレイ・アンテナが構成される場合の例について説明する。
【0013】
各アンテナ12に入力された信号は、送受切替器14,20が受信側に接続されている状態で、バンドパス・フィルタ(BPF)16および低雑音増幅器(LNA)18を通過し、さらに送受切替器20を通って、双方向ベクトル変調器22に入力される。ここで、送受切替器14と送受切替器20との間では、送信系と受信系とでそれぞれ別個独立した回路(すなわちRF送信系回路およびRF受信系回路)を有しており、ここでは、この部分を非共用回路部24と称する。そして、双方向ベクトル変調器22においてそれぞれ重み付けされた複数系統の信号が分配・合成部26で加算され、送受信部(TRX)28を通って受信される(受信信号)。この受信信号の一部はアダプティブ処理部(APU)30に入力される。
【0014】
また、低雑音増幅器(LNA)18から出力された信号は、各系統毎に設けられた受信部(RX)32を通ってアダプティブ処理部30に入力される。
【0015】
アダプティブ処理部30は、入力される参照信号およびTRX28からの信号を基にして、干渉波、雑音等から分離して希望波信号を取り出すための重み付け値(各双方向ベクトル変調器22における重み付け値)を取得し、これを各双方向ベクトル変調器22に設定する。これにより、希望局方向にビームを、また干渉局方向にヌルを有する受信アンテナ・パターンを形成することができる。また、希望局からの信号のSN比を改善することもできる。
【0016】
一方、ベースバンド送信信号は送受信部(TRX)28を通過し、分配・合成部26にて各系統に分配される。分配された信号は、それぞれ双方向ベクトル変調器22に入力され、送受切替器20、調整器(主として位相調整器として機能するが振幅調整器としての機能を含めてもよい)34を通過し、送信電力増幅器(PA)36にて電力増幅された後、送受切替器14を通って単位アンテナ12から出力される。なお、送信時は、送受切替器14,20はいずれも送信側に接続されている。
【0017】
さて、かかる構成においてRF段で送信/受信で信号の経路が異なるのは、送受切替器14と送受切替器20との間の回路構成部分、すなわち非共用回路部24である。ところが、ここでは、非共用回路部24には、調整器34が設けられており、各系統について、送信経路(RF送信系回路)と受信経路(RF受信系回路)とで、振幅変化量相互の差および位相回転量相互の差がそれぞれ各アンテナ(単位アンテナ)12間でほぼ同じ値となるように構成し(または調整し)ている。また、各系統に対する重み付け値は、送信/受信で共用される双方向ベクトル変調器22に対するものである。すなわち、この通信装置10によれば、調整器34を用いて各系統で送信経路/受信経路における信号の特性変化を定数倍とすることで、各系統に対し送信/受信で共通の重み付け値を用いて、送信アンテナ・パターンと受信アンテナ・パターンとを、同じパターン(すなわち同じビーム、ヌルを有するもの)として形成することができる。
【0018】
なお、非共用回路部24については、さらに、送信系と受信系とで通過遅延時間が等しくなるように構成する(あるいは調整可能な構成要素を備える)のが好適である。これは、遅延時間(より詳しくは群遅延時間)の等しい回路間では、通過位相の周波数傾斜が等しいという群遅延時間の定義に基づく。すなわち、ある特定の周波数で送信系と受信系との位相差を一定としても、別の周波数においては一定値からの位相差が生じてしまうことを防ぐためである。すなわち、かかる構成は、より広い周波数帯域について送信経路と受信経路との間の位相差をほぼ同一とすることができるから、複数の周波数を利用するような通信装置について特に有効となる。
【0019】
さらに、この通信装置10では、受信系において、双方向ベクトル変調器22、分配・合成部26、TRX28を通ってアダプティブ処理部30に入力される信号と、双方向ベクトル変調器22の前段(アンテナ12側)から分配され、各系統の受信部(RX)32を通ってアダプティブ処理部に入力される信号と、の間の振幅差および位相差を検出し、かつそれを補正する手段(すなわちアダプティブ処理部30)を設けるのが好適である。通信自体には関与しないがアダプティブ制御の収束性を向上するために設けた受信部(RX)32のアダプティブ処理部30への出力に対して、この手段により、アダプティブ制御の収束性の更なる向上、ひいてはSN比の更なる改善を図ることができる。なお、この手段は、受信時に重み付け合成する前の信号を各系統についてそれぞれ独立に取得し、また、重み付け合成後の信号(すなわちTRX28から出力された信号)から希望信号を選択的に取得して、重み付け制御の収束性を向上しようとするものであるが、かかる制御を実行するには、双方向ベクトル変調器22において重み付け移相量を零とした場合におけるTRX28の出力信号の位相差に対し、RX32を通過した信号の位相差を、少なくとも0°±90°以下とする必要がある。
【0020】
以上説明したように、上記通信装置10によれば、送信/受信で信号の経路をできるだけ共用化することで、送受信で同一のパラメータによるアダプティブ動作が可能となり、より容易にかつより精度良く送信/受信間でのアンテナ・パターンの差を小さくすることができるという効果が得られる。
【0021】
【特許文献1】
特許第3332911号公報
【特許文献2】
特表2003−501971号公報
【特許文献3】
特開2001−53663号公報
【非特許文献1】
菊間信良著,「アレーアンテナによる適応信号処理」,初版,株式会社科学技術出版,1998年11月
【0022】
【発明が解決しようとする課題】
上述した第二の従来技術(図5に示すもの)では、送信部は送受信部28に内蔵される一つのみとなっており、これは、第一の従来技術(図4に示すもの)では4系統それぞれに設けていたものを一つに統合したことになる。すなわち、この点では、上記第二の従来技術(図5)は、第一の従来技術(図4)に比べて、構成が簡素化されるという利点を有している。
【0023】
しかしながら、上述した第二の従来技術(図5)では、受信部は送受信部28に内蔵される受信部に加えて、アダプティブ動作させるために新たに受信部32が4系統分設けられている。すなわち、この点では、上記第二の従来技術(図5)は、第一の従来技術(図4)に比べて、逆に回路が複雑になるという問題を有していた。
【0024】
【課題を解決するための手段】
本発明にかかるアレイアンテナ通信装置は、複数の単位アンテナを含むアダプティブ・アレイ・アンテナを用いる通信装置であって、上記単位アンテナ毎に設けられ少なくとも送信電力増幅器を含むRF送信系回路と、上記単位アンテナ毎に上記RF送信系回路と並列に設けられるRF受信系回路であって少なくとも低雑音増幅器を含むRF受信系回路と、上記RF送信系回路およびRF受信系回路に単位アンテナの他方側で共通に接続される双方向ベクトル変調器と、複数の双方向ベクトル変調器に接続される分配・合成部と、上記分配・合成部に接続される送受信部(TRX)と、上記RF受信系回路のそれぞれとアダプティブ処理部との間に設けられる統合化された受信部(RX)と、上記受信部(RX)から入力された信号と、上記送受信部(TRX)から入力された信号と、に基づいて、上記双方向ベクトル変調器を制御することにより、複数の単位アンテナをアダプティブ・アレイ・アンテナとして機能させるアダプティブ処理部と、を備え、各単位アンテナに対応する上記RF送信系回路およびRF受信系回路について、それらを信号が通過する際の振幅変化量相互の差および位相回転量相互の差が各単位アンテナ間でほぼ等しく、上記RF受信系回路から出力される信号に、直接または周波数変換した後各単位アンテナ毎に相互に直交化された符号信号を掛け合わせ、その後それらを加算合成して上記受信部(RX)に入力し、その受信部(RX)の出力に各単位アンテナに対応した符号を再度掛け合わせることにより、各アンテナに対応する信号を再生し、これをアダプティブ処理部に入力するように構成される。
【0025】
また上記本発明にかかるアレイアンテナ通信装置では、各単位アンテナに対応する上記RF送信系回路およびRF受信系回路について、それらを信号が通過する際の遅延時間がほぼ等しいのが好適である。
【0026】
また上記本発明にかかるアレイアンテナ通信装置では、各単位アンテナに対応する上記RF送信系回路およびRF受信系回路のうち少なくともいずれか一方には、上記振幅変化量、位相回転量、および遅延時間のうち少なくとも一つを調整するための調整部が設けられるのが好適である。
【0027】
また上記本発明にかかるアレイアンテナ通信装置では、同一の通信相手に対し同一周波数で送受信を行う時分割双方向通信装置であるのが好適である。
【0028】
【発明の実施の形態】
まず、本発明の第一の実施形態について図1を参照して説明する。図1は、本実施形態にかかる通信装置10の要部の一例を示すブロック図である。なお、ここでは、4つのアンテナ(単位アンテナ)12によってアダプティブ・アレイ・アンテナが構成される場合の例について説明する。
【0029】
各アンテナ12に入力された信号は、送受切替器14,20が受信側に接続されている状態で、バンドパス・フィルタ(BPF)16および低雑音増幅器(LNA)18を通過し、さらに送受切替器20を通って、双方向ベクトル変調器22に入力される。ここで、送受切替器14と送受切替器20との間では、送信系と受信系とでそれぞれ別個独立した回路(すなわちRF送信系回路およびRF受信系回路)を有しており、本実施形態では、この部分を非共用回路部24と称する。そして、双方向ベクトル変調器22においてそれぞれ重み付けされた複数系統の信号が分配・合成部26で加算され、送受信部(TRX)28を通って受信される(受信信号)。この受信信号の一部はアダプティブ処理部(APU)30に入力される。
【0030】
また、低雑音増幅器(LNA)18から出力された信号は、送受切替器20の後段から取り出され、それぞれ乗算器102に入力される。各信号には、乗算器102において、符号発生器110により生成される各々直交化した4つの符号信号が乗算され、それら信号は合成器104で加算合成された後、受信部106に入力される。すなわち、受信された信号は、各単位アンテナ12毎に直交化された後、加算され、受信部(RX)106においてベースバンド信号に変換される。このベースバンド信号には、乗算器108において、再度符号発生器110からの直交化された符号信号が掛けられ、各単位アンテナからの信号に分離される。ここで、遅延回路112は、乗算器102(で直交化符号が掛けられるタイミング)から合成器104および受信部106を通過する間に生じた遅延量を打ち消す(補償する)のに用いられる。なお、図において、*は複素共役であることを示す。こうして分離された信号はアダプティブ処理部30に入力される。
【0031】
アダプティブ処理部30は、入力される参照信号およびTRX28からの信号を基にして、干渉波、雑音等を除いた希望波信号を取り出すための重み付け値(各双方向ベクトル変調器22における重み付け値)を取得し、これを各双方向ベクトル変調器22に設定する。これにより、希望局方向にビームを、また干渉局方向にヌルを有する受信アンテナ・パターンを形成することができる。また、希望局からの信号のSN比を改善することもできる。
【0032】
一方、ベースバンド送信信号は送受信部(TRX)28を通過し、分配・合成部26にて各系統に分配される。分配された信号は、それぞれ双方向ベクトル変調器22に入力され、送受切替器20、調整器(主として位相調整器として機能するが振幅調整器としての機能を含めてもよい)34を通過し、送信電力増幅器(PA)36にて電力増幅された後、送受切替器14を通って単位アンテナ12から出力される。なお、送信時は、送受切替器14,20はいずれも送信側に接続されている。
【0033】
さて、かかる構成においてRF段で送信/受信で信号の経路が異なるのは、送受切替器14と送受切替器20との間の回路構成部分、すなわち非共用回路部24である。ところが、本実施形態では、非共用回路部24には、調整器34が設けられており、各系統について、送信経路(RF送信系回路)と受信経路(RF受信系回路)とで、振幅変化量相互の差および位相回転量相互の差がそれぞれ各アンテナ(単位アンテナ)12間でほぼ同じ値となるように構成し(または調整し)ている。また、本実施形態では、各系統に対する重み付け値は、送信/受信で共用される双方向ベクトル変調器22に対するものである。すなわち、本実施形態にかかる通信装置10によれば、調整器34を用いて各系統で送信経路/受信経路における信号の特性変化を定数倍とすることで、各系統に対し送信/受信で共通の重み付け値を用いて、送信アンテナ・パターンと受信アンテナ・パターンとを、同じパターン(すなわち同じビーム、ヌルを有するもの)として形成することができる。
【0034】
なお、本実施形態では、非共用回路部24については、さらに、送信系と受信系とで通過遅延時間が等しくなるように構成する(あるいは調整可能な構成要素を備える)のが好適である。これは、遅延時間(より詳しくは群遅延時間)の等しい回路間では、通過位相の周波数傾斜が等しいという群遅延時間の定義に基づく。すなわち、ある特定の周波数で送信系と受信系との位相差を一定としても、別の周波数においては一定値からの位相差が生じてしまうことを防ぐためである。すなわち、かかる構成は、より広い周波数帯域について送信経路と受信経路との間の位相差をほぼ同一とすることができるから、複数の周波数を利用するような通信装置について特に有効となる。
【0035】
さらに、本実施形態にかかる通信装置10では、受信系において、双方向ベクトル変調器22、分配・合成部26、TRX28を通ってアダプティブ処理部30に入力される信号と、双方向ベクトル変調器22の前段(単位アンテナ12側)から分配され、直交化符号が掛けられた後、受信部106(RX)を通ってアダプティブ処理部30に入力される信号と、の間の振幅差および位相差を検出し、かつそれを補正する手段(本実施形態ではアダプティブ処理部30がこの手段に相当する)を設けるのが好適である。通信自体には関与しないがアダプティブ制御の収束性を向上するために設けた受信部(RX)106のアダプティブ処理部30への出力に対して、この手段により、アダプティブ制御の収束性の更なる向上、ひいてはSN比の更なる改善を図ることができる。なお、この手段は、受信時に重み付け合成する前の信号を各系統についてそれぞれ独立に取得し、また、重み付け合成後の信号(すなわちTRX28から出力された信号)から希望信号を選択的に取得して、重み付け制御の収束性を向上しようとするものであるが、かかる制御を実行するには、双方向ベクトル変調器22において重み付け移相量を零とした場合におけるTRX28の出力信号の位相差に対し、RX106を通過した信号の位相差を、少なくとも0°±90°以下とする必要がある。
【0036】
なお、本発明の別の実施形態にかかる通信装置10aとして、図2に示すように、直交化疑似雑音(PN)符号はバイナリの2値符号としてもよい。この実施形態では、符号発生器110の出力は乗算器102に直接入力可能で、多数ビットのD/A変換器にて変換した後掛ける必要もなく、また図2の破線部内をディジタル回路として構成することができるため、回路実装の点で極めて有利となる。図2中で、114,118はA/D変換器、116はD/A変換器である。さらに、本発明の別の実施形態にかかる通信装置10bとして、図3に示すように、送受切替器20の後段から取り出された信号を周波数変換器101にて周波数変換した後、乗算器102にて直交化してもかまわない。加えて、図1,図2および図3において、低雑音増幅器(LNA)18から出力された信号は、送受切替器20の後段より取り出しているが、受信部(RX)への信号は受信信号のみであるから、低雑音増幅器(LNA)18の後段でありかつ送受切替器20の前段となる位置から取り出すようにしてもかまわない。
【0037】
ところで、上記実施形態(図1,図2および図3)では、直交符号で符号化した信号を合成し、その後、分離するという構成を有するが、このとき、合成・分離回路を複雑化する主たる要因は、合成の際の符号を掛け合わせるタイミングである。ここで時間的なずれがある場合には完全な直交化が難しくなるし、分離する際にも符号とのタイミングがずれると完全な分離が難しくなる。そして、この直交化が不完全な場合には、入力信号間で大きなレベル差があると、大レベルの信号が他信号に紛れこむいわゆる干渉等の問題が生じる場合がある。しかしながら、この点については、上記実施形態にかかる構成によれば、各単位アンテナを比較的容易に同一条件で設置することが可能となるため、実はそれら相互間での大きなレベル差が生じにくくなるという利点がある。加えて、各受信系から乗算器102までの電気長を同一とすれば、符号相互のタイミングが同一となるようにより一層調整しやすくなるとともに、合成器104、受信部106の遅延時間を別途測定して、直交分離するための符号タイミングを、遅延回路112により極めて高精度に合わせ込むことが可能となる。つまり、本実施形態にかかる回路構成は、アダプティブ・アレイ・アンテナを用いた通信装置を実現する上で問題となる各経路間のばらつきを軽減するのに、非常に効果的なものである。
【0038】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、送信/受信で信号の経路をできるだけ共用化することで、より簡素な回路構成によって、送受信で同一のパラメータによるアダプティブ動作が可能となり、より容易にかつより精度良く送信/受信間でのアンテナ・パターンの差を小さくすることができるという効果が得られる。また、アダプティブアレイ処理に用いられる各単位アンテナからの信号を共通の受信部で受信するため、各単位アンテナからの信号相互間で誤差が生じにくいというメリットがある。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施形態にかかるアレイアンテナ通信装置の要部構成を示すブロック図である。
【図2】 本発明の別の実施形態にかかるアレイアンテナ通信装置の要部構成を示すブロック図である。
【図3】 本発明の別の実施形態にかかるアレイアンテナ通信装置の要部構成を示すブロック図である。
【図4】 従来のアレイアンテナ通信装置の要部構成を示すブロック図である。
【図5】 従来のアレイアンテナ通信装置の要部構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
10,10a,10b 通信装置、12 単位アンテナ、14,20 送受切替器、16 バンドパス・フィルタ、18 低雑音増幅器(LNA)、22 双方向ベクトル変調器、24 非共用回路部、26 分配・合成部、28 送受信部(TRX)、30 アダプティブ処理部、34 調整器、36 送信電力増幅器(PA)、101 周波数変換器、102,108 乗算器、104 合成器、106 受信部(RX)、110 符号発生器、112 遅延回路、114,118 A/D変換器、116 D/A変換器。
Claims (4)
- 複数の単位アンテナを含むアダプティブ・アレイ・アンテナを用いる通信装置であって、
前記単位アンテナ毎に設けられ少なくとも送信電力増幅器を含むRF送信系回路と、
前記単位アンテナ毎に前記RF送信系回路と並列に設けられるRF受信系回路であって少なくとも低雑音増幅器を含むRF受信系回路と、
前記RF送信系回路およびRF受信系回路に単位アンテナの他方側で共通に接続される双方向ベクトル変調器と、
複数の双方向ベクトル変調器に接続される分配・合成部と、
前記分配・合成部に接続される送受信部(TRX)と、
前記RF受信系回路のそれぞれとアダプティブ処理部との間に設けられる統合化された受信部(RX)と、
前記受信部(RX)から入力された信号と、前記送受信部(TRX)から入力された信号と、に基づいて、前記双方向ベクトル変調器を制御することにより、複数の単位アンテナをアダプティブ・アレイ・アンテナとして機能させるアダプティブ処理部と、
を備え、
各単位アンテナに対応する前記RF送信系回路およびRF受信系回路について、それらを信号が通過する際の振幅変化量相互の差および位相回転量相互の差が各単位アンテナ間でほぼ等しく、
前記RF受信系回路から出力される信号に、直接または周波数変換した後各単位アンテナ毎に相互に直交化された符号信号を掛け合わせ、その後それらを加算合成して前記受信部(RX)に入力し、その受信部(RX)の出力に各単位アンテナに対応した符号を再度掛け合わせることにより、各アンテナに対応する信号を再生し、これをアダプティブ処理部に入力するように構成されることを特徴とするアレイアンテナ通信装置。 - 各単位アンテナに対応する前記RF送信系回路およびRF受信系回路について、それらを信号が通過する際の遅延時間がほぼ等しいことを特徴とする請求項1に記載のアレイアンテナ通信装置。
- 各単位アンテナに対応する前記RF送信系回路およびRF受信系回路のうち少なくともいずれか一方には、前記振幅変化量、位相回転量、および遅延時間のうち少なくとも一つを調整するための調整部が設けられることを特徴とする請求項1に記載のアレイアンテナ通信装置。
- 同一の通信相手に対し同一周波数で送受信を行う時分割双方向通信装置であることを特徴とする請求項1〜3のうちいずれか一つに記載のアレイアンテナ通信装置。
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