以下添付図面に従って本発明の好ましい実施の形態について詳説する。
〔インクジェット記録装置の全体構成〕
図1は本発明の実施形態に係る画像処理装置を用いたインクジェット記録装置の全体構成図である。同図に示したように、このインクジェット記録装置10は、黒(K),シアン(C),マゼンタ(M),イエロー(Y)の各インクに対応して設けられた複数のインクジェットヘッド(以下、ヘッドという。)12K,12C,12M,12Yを有する印字部12と、各ヘッド12K,12C,12M,12Yに供給するインクを貯蔵しておくインク貯蔵/装填部14と、記録媒体たる記録紙16を供給する給紙部18と、記録紙16のカールを除去するデカール処理部20と、前記印字部12のノズル面(インク吐出面)に対向して配置され、記録紙16の平面性を保持しながら記録紙16を搬送する吸着ベルト搬送部22と、印字部12による印字結果を読み取る印字検出部24と、印画済みの記録紙(プリント物)を外部に排紙する排紙部26と、を備えている。
インク貯蔵/装填部14は、各ヘッド12K,12C,12M,12Yに対応する色のインクを貯蔵するインクタンクを有し、各タンクは所要の管路を介してヘッド12K,12C,12M,12Yと連通されている。また、インク貯蔵/装填部14は、インク残量が少なくなるとその旨を報知する報知手段(表示手段、警告音発生手段)を備えるとともに、色間の誤装填を防止するための機構を有している。
図1では、給紙部18の一例としてロール紙(連続用紙)のマガジンが示されているが、紙幅や紙質等が異なる複数のマガジンを併設してもよい。また、ロール紙のマガジンに代えて、又はこれと併用して、カット紙が積層装填されたカセットによって用紙を供給してもよい。
複数種類の記録紙を利用可能な構成にした場合、紙の種類情報を記録したバーコード或いは無線タグなどの情報記録体をマガジンに取り付け、その情報記録体の情報を所定の読取装置によって読み取ることで、使用される記録媒体の種類(メディア種)を自動的に判別し、メディア種に応じて適切なインク吐出を実現するようにインク吐出制御を行うことが好ましい。
給紙部18から送り出される記録紙16はマガジンに装填されていたことによる巻きクセが残り、カールする。このカールを除去するために、デカール処理部20においてマガジンの巻きクセ方向と逆方向に加熱ドラム30で記録紙16に熱を与える。このとき、多少印字面が外側に弱いカールとなるように加熱温度を制御するとより好ましい。
ロール紙を使用する装置構成の場合、図1のように、裁断用のカッター(第1のカッター)28が設けられており、該カッター28によってロール紙は所望のサイズにカットされる。カッター28は、記録紙16の搬送路幅以上の長さを有する固定刃28Aと、該固定刃28Aに沿って移動する丸刃28Bとから構成されており、印字裏面側に固定刃28Aが設けられ、搬送路を挟んで印字面側に丸刃28Bが配置される。なお、カット紙を使用する場合には、カッター28は不要である。
デカール処理後、カットされた記録紙16は、吸着ベルト搬送部22へと送られる。吸着ベルト搬送部22は、ローラ31、32間に無端状のベルト33が巻き掛けられた構造を有し、少なくとも印字部12のノズル面及び印字検出部24のセンサ面に対向する部分が水平面(フラット面)をなすように構成されている。
ベルト33は、記録紙16の幅よりも広い幅寸法を有しており、ベルト面には多数の吸引穴(不図示)が形成されている。図1に示したとおり、ローラ31、32間に掛け渡されたベルト33の内側において印字部12のノズル面及び印字検出部24のセンサ面に対向する位置には吸着チャンバ34が設けられており、この吸着チャンバ34をファン35で吸引して負圧にすることによって記録紙16がベルト33上に吸着保持される。
ベルト33が巻かれているローラ31、32の少なくとも一方にモータ(図7中符号88)の動力が伝達されることにより、ベルト33は図1上の時計回り方向に駆動され、ベルト33上に保持された記録紙16は図1の左から右へと搬送される。
縁無しプリント等を印字するとベルト33上にもインクが付着するので、ベルト33の外側の所定位置(印字領域以外の適当な位置)にベルト清掃部36が設けられている。ベルト清掃部36の構成について詳細は図示しないが、例えば、ブラシ・ロール、吸水ロール等をニップする方式、清浄エアーを吹き掛けるエアーブロー方式、或いはこれらの組み合わせなどがある。清掃用ロールをニップする方式の場合、ベルト線速度とローラ線速度を変えると清掃効果が大きい。
なお、吸着ベルト搬送部22に代えて、ローラ・ニップ搬送機構を用いる態様も考えられるが、印字領域をローラ・ニップ搬送すると、印字直後に用紙の印字面をローラが接触するので画像が滲み易いという問題がある。したがって、本例のように、印字領域では画像面を接触させない吸着ベルト搬送が好ましい。
吸着ベルト搬送部22により形成される用紙搬送路上において印字部12の上流側には、加熱ファン40が設けられている。加熱ファン40は、印字前の記録紙16に加熱空気を吹き付け、記録紙16を加熱する。印字直前に記録紙16を加熱しておくことにより、インクが着弾後乾き易くなる。
印字部12の各ヘッド12K,12C,12M,12Yは、当該インクジェット記録装置10が対象とする記録紙16の最大紙幅に対応する長さを有し、そのノズル面には最大サイズの記録媒体の少なくとも一辺を超える長さ(描画可能範囲の全幅)にわたりインク吐出用のノズルが複数配列されたフルライン型のヘッドとなっている(図2参照)。
ヘッド12K,12C,12M,12Yは、記録紙16の送り方向に沿って上流側から黒(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の色順に配置され、それぞれのヘッド12K,12C,12M,12Yが記録紙16の搬送方向と略直交する方向に沿って延在するように固定設置される。
吸着ベルト搬送部22により記録紙16を搬送しつつ各ヘッド12K,12C,12M,12Yからそれぞれ異色のインクを吐出することにより記録紙16上にカラー画像を形成し得る。
このように、紙幅の全域をカバーするノズル列を有するフルライン型のヘッド12K,12C,12M,12Yを色別に設ける構成によれば、紙送り方向(副走査方向)について記録紙16と印字部12を相対的に移動させる動作を1回行うだけで(すなわち1回の副走査で)、記録紙16の全面に画像を記録することができる。これにより、記録ヘッドが紙搬送方向と直交する方向に往復動作するシャトル型ヘッドに比べて高速印字が可能であり、生産性を向上させることができる。
本例では、KCMYの標準色(4色)の構成を例示したが、インク色や色数の組み合わせについては本実施形態に限定されず、必要に応じて淡インク、濃インクを追加してもよい。例えば、ライトシアン、ライトマゼンタなどのライト系インクを吐出するインクジェットヘッドを追加する構成も可能である。また、各色ヘッドの配置順序も特に限定はない。
図1に示した印字検出部24は、印字部12の打滴結果を撮像するためのイメージセンサを含み、該イメージセンサによって読み取った打滴画像からノズルの目詰まりその他の吐出不良をチェックする手段として機能する。
本例の印字検出部24は、少なくとも各ヘッド12K,12C,12M,12Yによるインク吐出幅(画像記録幅)よりも幅の広い受光素子列を有するラインセンサで構成される。このラインセンサは、赤(R)の色フィルタが設けられた光電変換素子(画素)がライン状に配列されたRセンサ列と、緑(G)の色フィルタが設けられたGセンサ列と、青(B)の色フィルタが設けられたBセンサ列と、からなる色分解ラインCCDセンサで構成されている。なお、ラインセンサに代えて、受光素子が2次元配列されて成るエリアセンサを用いることも可能である。
各色のヘッド12K,12C,12M,12Yにより印字されたテストパターン又は実技画像が印字検出部24により読み取られ、各ヘッドの吐出判定が行われる。吐出判定は、吐出の有無、ドットサイズの測定、ドット着弾位置の測定などで構成される。
印字検出部24の後段には後乾燥部42が設けられている。後乾燥部42は、印字された画像面を乾燥させる手段であり、例えば、加熱ファンが用いられる。印字後のインクが乾燥するまでは印字面と接触することは避けたほうが好ましいので、熱風を吹き付ける方式が好ましい。
多孔質のペーパーに染料系インクで印字した場合などでは、加圧によりペーパーの孔を塞ぐことでオゾンなど、染料分子を壊す原因となるものと接触することを防ぐことで画像の耐候性がアップする効果がある。
後乾燥部42の後段には、加熱・加圧部44が設けられている。加熱・加圧部44は、画像表面の光沢度を制御するための手段であり、画像面を加熱しながら所定の表面凹凸形状を有する加圧ローラ45で加圧し、画像面に凹凸形状を転写する。
こうして生成されたプリント物は排紙部26から排出される。本来プリントすべき本画像(目的の画像を印刷したもの)とテスト印字とは分けて排出することが好ましい。このインクジェット記録装置10では、本画像のプリント物と、テスト印字のプリント物とを選別してそれぞれの排出部26A、26Bへと送るために排紙経路を切り換える不図示の選別手段が設けられている。なお、大きめの用紙に本画像とテスト印字とを同時に並列に形成する場合は、カッター(第2のカッター)48によってテスト印字の部分を切り離す。カッター48は、排紙部26の直前に設けられており、画像余白部にテスト印字を行った場合に本画像とテスト印字部を切断するためのものである。カッター48の構造は前述した第1のカッター28と同様であり、固定刃48Aと丸刃48Bとから構成される。
また、図1には示さないが、本画像の排出部26Aには、オーダー別に画像を集積するソーターが設けられる。
〔ヘッドの構造〕
次に、ヘッドの構造について説明する。色別の各ヘッド12K,12C,12M,12Yの構造は共通しているので、以下、これらを代表して符号50によってヘッドを示すものとする。
図3(a) はヘッド50の構造例を示す平面透視図であり、図3(b) はその一部の拡大図である。また、図3(c) はヘッド50の他の構造例を示す平面透視図、図4は1つの液滴吐出素子(1つのノズル51に対応したインク室ユニット)の立体的構成を示す断面図(図3(a) 中の4−4線に沿う断面図)である。
記録紙16上に印字されるドットピッチを高密度化するためには、ヘッド50におけるノズルピッチを高密度化する必要がある。本例のヘッド50は、図3(a),(b) に示したように、インク滴の吐出口であるノズル51と、各ノズル51に対応する圧力室52等からなる複数のインク室ユニット(液滴吐出素子)53を千鳥でマトリクス状に(2次元的に)配置させた構造を有し、これにより、ヘッド長手方向(紙送り方向と直交する方向)に沿って並ぶように投影される実質的なノズル間隔(投影ノズルピッチ)の高密度化を達成している。
記録紙16の送り方向と略直交する方向に記録紙16の全幅に対応する長さにわたり1列以上のノズル列を構成する形態は本例に限定されない。例えば、図3(a) の構成に代えて、図3(c) に示すように、複数のノズル51が2次元に配列された短尺のヘッドブロック50’を千鳥状に配列して繋ぎ合わせることで記録紙16の全幅に対応する長さのノズル列を有するラインヘッドを構成してもよい。
各ノズル51に対応して設けられている圧力室52は、その平面形状が概略正方形となっており(図3(a),(b) 参照)、対角線上の両隅部にノズル51への流出口と供給インクの流入口(供給口)54が設けられている。なお、圧力室52の形状は、本例に限定されず、平面形状が四角形(菱形、長方形など)、五角形、六角形その他の多角形、円形、楕円形など、多様な形態があり得る。
図4に示したように、各圧力室52は供給口54を介して共通流路55と連通されている。共通流路55はインク供給源たるインクタンク(図4中不図示、図6中符号60として記載)と連通しており、インクタンク60から供給されるインクは図4の共通流路55を介して各圧力室52に分配供給される。
圧力室52の一部の面(図において天面)を構成している加圧板(共通電極と兼用される振動板)56には個別電極57を備えたアクチュエータ58が接合されている。個別電極57に駆動電圧を印加することによってアクチュエータ58が変形して圧力室52の容積が変化し、これに伴う圧力変化によりノズル51からインクが吐出される。なお、アクチュエータ58には、ピエゾ素子などの圧電体が好適に用いられる。インク吐出後、共通流路55から供給口54を通って新しいインクが圧力室52に供給される。
かかる構造を有するインク室ユニット53を図5に示す如く主走査方向に沿う行方向及び主走査方向に対して直交しない一定の角度θを有する斜めの列方向とに沿って一定の配列パターンで格子状に多数配列させることにより、本例の高密度ノズルヘッドが実現されている。
すなわち、主走査方向に対してある角度θの方向に沿ってインク室ユニット53を一定のピッチdで複数配列する構造により、主走査方向に並ぶように投影されたノズルのピッチPはd× cosθとなり、主走査方向については、各ノズル51が一定のピッチPで直線状に配列されたものと等価的に取り扱うことができる。このような構成により、主走査方向に並ぶように投影されるノズル列が1インチ当たり2400個(2400ノズル/インチ)におよぶ高密度のノズル構成を実現することが可能になる。
なお、印字可能幅の全幅に対応した長さのノズル列を有するフルラインヘッドで、ノズルを駆動する時には、(1)全ノズルを同時に駆動する、(2)ノズルを片方から他方に向かって順次駆動する、(3)ノズルをブロックに分割して、ブロックごとに片方から他方に向かって順次駆動する等が行われ、用紙の幅方向(用紙の搬送方向と直交する方向)に1ライン(1列のドットによるライン又は複数列のドットから成るライン)を印字するようなノズルの駆動を主走査と定義する。
特に、図5に示すようなマトリクス状に配置されたノズル51を駆動する場合は、上記(3)のような主走査が好ましい。すなわち、ノズル51-11 、51-12 、51-13 、51-14 、51-15 、51-16 を1つのブロックとし(他にはノズル51-21 、…、51-26 を1つのブロック、ノズル51-31 、…、51-36 を1つのブロック、…として)、記録紙16の搬送速度に応じてノズル51-11 、51-12 、…、51-16 を順次駆動することで記録紙16の幅方向に1ラインを印字する。
一方、上述したフルラインヘッドと用紙とを相対移動することによって、上述した主走査で形成された1ライン(1列のドットによるライン又は複数列のドットから成るライン)の印字を繰り返し行うことを副走査と定義する。
本発明の実施に際してノズルの配置構造は図示の例に限定されない。また、本実施形態では、ピエゾ素子(圧電素子)に代表されるアクチュエータ58の変形によってインク滴を飛ばす方式が採用されているが、本発明の実施に際して、インクを吐出させる方式は特に限定されず、ピエゾジェット方式に代えて、ヒータなどの発熱体によってインクを加熱して気泡を発生させ、その圧力でインク滴を飛ばすサーマルジェット方式など、各種方式を適用できる。
〔インク供給系の構成〕
図6はインクジェット記録装置10におけるインク供給系の構成を示した概要図である。インクタンク60はヘッド50にインクを供給する基タンクであり、図1で説明したインク貯蔵/装填部14に設置される。インクタンク60の形態には、インク残量が少なくなった場合に、不図示の補充口からインクを補充する方式と、タンクごと交換するカートリッジ方式とがある。使用用途に応じてインク種類を変える場合には、カートリッジ方式が適している。この場合、インクの種類情報をバーコード等で識別して、インク種類に応じた吐出制御を行うことが好ましい。なお、図6のインクタンク60は、先に記載した図1のインク貯蔵/装填部14と等価のものである。
図6に示したように、インクタンク60とヘッド50の中間には、異物や気泡を除去するためにフィルタ62が設けられている。フィルタ・メッシュサイズは、ノズル径と同等若しくはノズル径以下(一般的には、20μm程度)とすることが好ましい。図6には示さないが、ヘッド50の近傍又はヘッド50と一体にサブタンクを設ける構成も好ましい。サブタンクは、ヘッドの内圧変動を防止するダンパー効果及びリフィルを改善する機能を有する。
また、インクジェット記録装置10には、ノズル51の乾燥防止又はノズル近傍のインク粘度上昇を防止するための手段としてのキャップ64と、ノズル面50Aの清掃手段としてのクリーニングブレード66とが設けられている。これらキャップ64及びクリーニングブレード66を含むメンテナンスユニットは、不図示の移動機構によってヘッド50に対して相対移動可能であり、必要に応じて所定の退避位置からヘッド50下方のメンテナンス位置に移動される。
キャップ64は、図示せぬ昇降機構によってヘッド50に対して相対的に昇降変位される。電源OFF時や印刷待機時にキャップ64を所定の上昇位置まで上昇させ、ヘッド50に密着させることにより、ノズル面50Aをキャップ64で覆う。
クリーニングブレード66は、ゴムなどの弾性部材で構成されており、図示せぬブレード移動機構によりヘッド50のインク吐出面(ノズル板表面)に摺動可能である。ノズル板にインク液滴又は異物が付着した場合、クリーニングブレード66をノズル板に摺動させることでノズル板表面を拭き取り、ノズル板表面を清浄する。
印字中又は待機中において、特定のノズルの使用頻度が低くなり、ノズル近傍のインク粘度が上昇した場合、その劣化インクを排出すべくキャップ64に向かって予備吐出が行われる。
また、ヘッド50内のインク(圧力室52内)に気泡が混入した場合、ヘッド50にキャップ64を当て、吸引ポンプ67で圧力室52内のインク(気泡が混入したインク)を吸引により除去し、吸引除去したインクを回収タンク68へ送液する。この吸引動作は、初期のインクのヘッド50への装填時、或いは長時間の停止後の使用開始時にも粘度上昇(固化)した劣化インクの吸い出しが行われる。
ヘッド50は、ある時間以上吐出しない状態が続くと、ノズル近傍のインク溶媒が蒸発してノズル近傍のインクの粘度が高くなってしまい、吐出駆動用のアクチュエータ58が動作してもノズル51からインクが吐出しなくなる。したがって、この様な状態になる手前で(アクチュエータ58の動作によってインク吐出が可能な粘度の範囲内で)、インク受けに向かってアクチュエータ58を動作させ、粘度が上昇したノズル近傍のインクを吐出させる「予備吐出」が行われる。また、ノズル面50Aの清掃手段として設けられているクリーニングブレード66等のワイパーによってノズル板表面の汚れを清掃した後に、このワイパー摺擦動作によってノズル51内に異物が混入するのを防止するためにも予備吐出が行われる。なお、予備吐出は、「空吐出」、「パージ」、「唾吐き」などと呼ばれる場合もある。
また、ノズル51や圧力室52に気泡が混入したり、ノズル51内のインクの粘度上昇があるレベルを超えたりすると、上記予備吐出ではインクを吐出できなくなるため、以下に述べる吸引動作を行う。
すなわち、ノズル51や圧力室52のインク内に気泡が混入した場合、或いはノズル51内のインク粘度があるレベル以上に上昇した場合には、アクチュエータ58を動作させてもノズル51からインクを吐出できなくなる。このような場合、ヘッド50のノズル面50Aに、圧力室52内のインクをポンプ等で吸い込む吸引手段を当接させて、気泡が混入したインク又は増粘インクを吸引する動作が行われる。
ただし、上記の吸引動作は、圧力室52内のインク全体に対して行われるためインク消費量が大きい。したがって、粘度上昇が少ない場合はなるべく予備吐出を行うことが好ましい。
〔制御系の説明〕
図7はインクジェット記録装置10のシステム構成を示す要部ブロック図である。インクジェット記録装置10は、通信インターフェース70、システムコントローラ72、画像メモリ74、ROM75、モータドライバ76、ヒータドライバ78、プリント制御部80、画像バッファメモリ82、ヘッドドライバ84等を備えている。
通信インターフェース70は、ホストコンピュータ86から送られてくる画像データを受信するインターフェース部である。通信インターフェース70にはUSB(Universal Serial Bus)、IEEE1394、イーサネット(登録商標)、無線ネットワークなどのシリアルインターフェースやセントロニクスなどのパラレルインターフェースを適用することができる。この部分には、通信を高速化するためのバッファメモリ(不図示)を搭載してもよい。ホストコンピュータ86から送出された画像データは通信インターフェース70を介してインクジェット記録装置10に取り込まれ、一旦画像メモリ74に記憶される。画像メモリ74は、通信インターフェース70を介して入力された画像を一旦格納する記憶手段であり、システムコントローラ72を通じてデータの読み書きが行われる。画像メモリ74は、半導体素子からなるメモリに限らず、ハードディスクなど磁気媒体を用いてもよい。
システムコントローラ72は、中央演算処理装置(CPU)及びその周辺回路等から構成され、所定のプログラムに従ってインクジェット記録装置10の全体を制御する制御装置として機能するとともに、各種演算を行う演算装置として機能する。すなわち、システムコントローラ72は、通信インターフェース70、画像メモリ74、モータドライバ76、ヒータドライバ78等の各部を制御し、ホストコンピュータ86との間の通信制御、画像メモリ74の読み書き制御等を行うとともに、搬送系のモータ88やヒータ89を制御する制御信号を生成する。
ROM75には、システムコントローラ72のCPUが実行するプログラム及び制御に必要な各種データなどが格納されている。なお、ROM75は、書換不能な記憶手段であってもよいし、EEPROMのような書換可能な記憶手段であってもよい。画像メモリ74は、画像データの一時記憶領域として利用されるとともに、プログラムの展開領域及びCPUの演算作業領域としても利用される。
モータドライバ76は、システムコントローラ72からの指示にしたがってモータ88を駆動するドライバ(駆動回路)である。ヒータドライバ78は、システムコントローラ72からの指示にしたがって後乾燥部42等のヒータ89を駆動するドライバである。
プリント制御部80は、システムコントローラ72の制御に従い、画像メモリ74内の画像データから印字制御用の信号を生成するための各種加工、補正などの処理を行う信号処理機能を有し、生成した印字データ(ドットデータ)をヘッドドライバ84に供給する制御部である。プリント制御部80において所要の信号処理が施され、該画像データに基づいてヘッドドライバ84を介してヘッド50のインク液滴の吐出量や吐出タイミングの制御が行われる。これにより、所望のドットサイズやドット配置が実現される。
プリント制御部80には画像バッファメモリ82が備えられており、プリント制御部80における画像データ処理時に画像データやパラメータなどのデータが画像バッファメモリ82に一時的に格納される。なお、図7において画像バッファメモリ82はプリント制御部80に付随する態様で示されているが、画像メモリ74と兼用することも可能である。また、プリント制御部80とシステムコントローラ72とを統合して1つのプロセッサで構成する態様も可能である。
ヘッドドライバ84はプリント制御部80から与えられる印字データに基づいて各色のヘッド12K,12C,12M,12Yのアクチュエータを駆動する。ヘッドドライバ84にはヘッドの駆動条件を一定に保つためのフィードバック制御系を含んでいてもよい。
印刷すべき画像のデータは、通信インターフェース70を介して外部から入力され、画像メモリ74に蓄えられる。この段階では、RGBの画像データが画像メモリ74に記憶される。
画像メモリ74に蓄えられた画像データは、システムコントローラ72を介してプリント制御部80に送られ、該プリント制御部80においてインク色ごとのドットデータに変換される。すなわち、プリント制御部80は、入力されたRGB画像データをKCMYの4色のドットデータに変換する処理を行う。プリント制御部80で生成されたドットデータは、画像バッファメモリ82に蓄えられる。
ヘッドドライバ84は、画像バッファメモリ82に記憶されたドットデータに基づき、ヘッド50の駆動制御信号を生成する。ヘッドドライバ84で生成された駆動制御信号がヘッド50に加えられることによって、ヘッド50からインクが吐出される。記録紙16の搬送速度に同期してヘッド50からのインク吐出を制御することにより、記録紙16上に画像が形成される。
印字検出部24は、図1で説明したように、ラインセンサを含むブロックであり、記録紙16に印字された画像を読み取り、所要の信号処理などを行って印字状況(吐出の有無、打滴のばらつきなど)を検出し、その検出結果をプリント制御部80に提供する。
プリント制御部80は、必要に応じて印字検出部24から得られる情報に基づいてヘッド50に対する各種補正を行う。
〔画像処理の説明〕
次に、上記の如く構成されたインクジェット記録装置10における画像信号の処理について説明する。
図8は、本例のインクジェット記録装置10における画像処理機能の概略を示したブロック図である。同図に示したように、このインクジェット記録装置10は、入力された画像データ(RGBデータ)100からKCMYデータを生成する色変換部102、デジタルハーフトーニング処理部104、ヘッド駆動信号生成部106を備えており、デジタルハーフトーニングの結果得られるドットデータに基づいてヘッド50の駆動信号を生成し、所望のドット打滴108を実施するようになっている。
印画すべき画像のデータ(RGBデータ)100は、図7で説明したように、通信インターフェース70等の所定の画像入力部を通じてインクジェット記録装置10に入力され、図8に示した色変換部102に送られる。色変換部102は、画像内の各画素のRGBデータをこれに対応するKCMYデータに変換する処理を行う。色変換部102で生成されたKCMYデータは、階調補正等の処理が行われた後、デジタルハーフトーニング処理部104へ送られる。
デジタルハーフトーニング処理部104は、KCMYの階調画像をハーフトーン化して疑似階調画像のドットパターンに変換する処理部であり、詳細は後述するが、閾値マトリクスを用いる量子化処理と誤差の拡散とを組み合わせたアルゴリズムによって疑似階調画像を生成する。インクジェット記録装置10では、インク(色材) による微細なドットの打滴密度やドットサイズを変えることによって、人の目に疑似的な連続階調の画像を形成するため、入力されたデジタル画像の階調(画像の濃淡)をできるだけ忠実に再現するようなドットパターンに変換する必要がある。デジタルハーフトーニング処理部104は、後述のハーフトーニングアルゴリズムを用いて入力画像データからドットパターンを生成する。
〔ハーフトーニング処理の方法〕
ここで、本例におけるハーフトーニング処理の方法について説明する。図9は、デジタル画像を構成している画素配列の一部を示した模式図であり、矩形の各枡目がそれぞれ画素110を表している。図示のように画素110は行方向及び列方向に2次元配列されている。これら全画素について図9の黒塗りで示した画素位置Aの画素と、図9の白抜きで示した画素位置Bの画素とにグループ分けする。説明の便宜上、画素位置Aの画素グループを「第1グループ」と呼び、画素位置Bの画素グループを「第2グループ」と呼ぶことにする。
画素位置Aは、周囲画素からの誤差補正を行わない画素位置であり、閾値マトリクスによる量子化で発生する誤差(量子化誤差)を第2グループの隣接画素位置Bに拡散させる。図9の矢印は、各画素位置Aの量子化で発生した量子化誤差の拡散先の画素位置を示している。
画素位置Bは、拡散された誤差による補正後に量子化される画素位置である。画素位置Bの量子化によって発生する誤差は計算せず、もちろんその誤差を他の画素位置へ拡散させる処理も行わない。
画素位置Aは、画像の全面にわたってまばらで略均一に、且つ規則性をもって分散している。好ましくは、画素位置A同士が互いに1〜2画素の範囲で離れて散在していることが好ましい。
図9では、行方向について5画素に1画素の割合で画素位置Aが定められた分散パターン(つまり、行方向について画素位置A間には第2グループに属する4つ画素が存在するアレイパターン)を列方向に2画素ピッチずらしてながら行方向に繰り返して成る分布例が示されている。
同図において画素位置Aの量子化誤差は、当該画素位置Aの上下左右に隣接する4つの画素位置Bに拡散される。また、異なる画素位置Aで発生した量子化誤差の拡散先の画素位置Bは重複しないようになっている。なお、誤差配分の割合は、等配分(ここでは1/4ずつ)でもよいし、拡散方向に対して重み付けを行ってもよく、また、ランダムに変更されてもよい。
画素位置Aの分布形態及び誤差の拡散形態は図9の例に限定されず、多様な形態が可能である。図10〜図12に他の形態例を示す。
図10の例は、画素位置Aと画素位置Bとが市松模様を形成する配置形態で分布している。各画素位置Aの量子化誤差は、上下左右の4つの隣接画素位置Bに拡散されるため、1つの画素位置Bに対しては上下左右の4つの画素位置Aから配分される誤差が重畳的に加算される。
図11の例は、行方向について画素位置Aと画素位置Bとを交互に配置する分散パターンを1行おきに繰り返し、画素位置Aを列方向及び行方向に1画素おきに分布されたものとなっている。また、画素位置Aからの誤差の振分け方法について2種類の振分けパターンが設定されている。すなわち、斜め方向の右上、右下、左下、左上の4方向に誤差を拡散させる画素位置(例えば、図11の符号111)と、上下左右の4方向に誤差を拡散させる画素位置(例えば、図11の符号112)とが行方向及び列方向に交互に繰り返されるように設定されている。
図12の例は、図11における分布形態と比較して、列方向に並ぶ画素位置Aの列を互いに列方向に1画素ピッチずらした分布形態となっている。また、各画素位置Aの量子化で発生した誤差は、上、右下、左下の3方向の隣接画素位置Bに拡散され、拡散先が重複しない構成である。
図9乃至図12で例示した形態における各画素について以下の述べる手順で量子化を行う。図13(a)は量子化の処理手順を示すフローチャートである。
(手順1):まず、画素位置Aを閾値マトリクスを用いて量子化する(ステップS1310)。閾値マトリクスは、画素位置 (x,y)にドットを置くか否かを判定するための判定基準となる閾値を規定したマトリクスである。画素位置(x,y)の画素値とその位置に対応した閾値とが比較され、画素値が閾値よりも大きければ、その位置(x,y)にドットが置かれ、閾値よりも小さければその位置にドットは置かれない。なお、階調値と閾値が等しい場合の取り扱いについては、どちらかに定めておけばよい。
ここで用いる閾値マトリクスは、ブルーノイズ特性を有していることが好ましい。ブルーノイズマスクは、画像の直流成分に対して視覚的に好ましいドット配置になるように設計されている。このとき、量子化ノイズ(階調数が少なくなることで発生するノイズ)を視認されにくい高周波側へ集中させている。入力画像の画像成分が主に低周波成分である場合、ブルーノイズ特性のため量子化結果は高画質である。
しかし、主に高周波数成分を含む画像の場合、画像成分と量子化ノイズが近接するため、ノイジーな量子化結果になる。このとき、図9乃至図12で示したように、量子化誤差を周囲画素へ配分することで、より画質を高めることができる。
(手順2):次に、上述のステップS1310による画素位置Aの量子化で発生した誤差を求める(ステップS1320)。具体的には、量子化結果と画素値との間の差が誤差として計算される。
(手順3):こうして求めた誤差を、隣接する未量子化画素位置Bへ配分する(ステップS1330)。誤差の拡散先(配分先)の画素位置とその配分割合については図9乃至図12で説明したように、適宜選択される。未量子化画素位置Bの画素値は、元々の階調値と画素位置Aから配分された誤差値との和の値に修正(誤差補正)される。
(手順4):上述のステップS1330にて誤差補正された未量子化画素位置Bを閾値マトリクスで量子化する(ステップS1340)。なお、画素位置Bの量子化については、誤差計算せず、画素位置Bの量子化で発生する誤差については周囲画素への拡散を行わない。
図13(a)のステップS1330で示した誤差配分制御工程について、より詳細な工程を例示したフローチャートを図13(b)に示す。同図において、図13(a)と同一又は類似する工程には同一のステップ番号を付し、その説明は省略する。
図13(b)に示したように、ステップS1320で量子化誤差を求めた後、ステップS1332に進む。ステップS1332では、誤差配分位置及び誤差配分割合のうち少なくとも一方を所定の方法で決定する。次いで、ステップS1333に進み、ステップS1332において決定された誤差配分位置及び誤差配分に従って、隣接する未量子化画素位置へ誤差を配分する(ステップS1333)。ステップS1333の後は、ステップS1340に進み、上述のステップS1333にて誤差補正された未量子化画素位置Bを閾値マトリクスで量子化する(ステップS1340)。
上記で説明したように、本実施形態による量子化処理によれば、誤差を計算しない画素位置Bと、誤差補正処理をしない画素位置Aとが存在するので、従来の手法と比較して量子化に関わる演算量は大幅に減少する。また、逐次処理ではないため、並列処理を容易に構成できる。更に、一部の画素位置(第1グループに属する画素位置A)については、量子化で発生した誤差を考慮しているので、従来の単なる閾値マトリクス法と比較すれば、入力画像の平均値が保存されるので高画質であり、従来の誤差拡散法の欠点であるドット遅延も発生しない。
なお、ここで「ブルーノイズ特性」について概説しておく。デジタルハーフトーニングの結果としてドットパターンが得られるが、このドットパターン(ドット配置)の評価法としては、Robert,Ulichneyが提唱した方法が一般的である(『Digital Halftoning』; The MIT Press出版)。
すなわち、ドット配置の2次元パワースペクトラムを極座標に変換して、図14のように、極座標の半径に相当する空間周波数fr について全角度のスペクトラムの平均と分散に相当する指標を用いる。
極座標パワースペクトラムの平均指標を「R.A.P.S (Radially Averaged Power Spectrum) 」と呼び、次式で表す。
また、分散指標を「 Anisotropy 」と呼び、次式で表す。
ドット配置の視認性に関する指標であり、Anisotropyは、ドット配置の異方性に関する指標である。
図15には、ある条件で計算されたR.A.P.S の例が示されている。図15においてσg は、次式で表される。
ただし、gは規格化された入力値を示し、0≦g≦1である。
図15に示したグラフでは視覚特性は考慮されていなが、これに、図16のような、公知の視覚特性(VTF)を考慮すると(掛け合わせると)、全体にエネルギーが低く抑えられたものになる。なお、R.A.P.S やAnisotropyを計算する際のVTFには、Dooly&Shawが提唱するものに限定されず、公知のものを使うことができる。
また、図17には、ある条件で計算されたAnisotropy の一例が示されている。Robert Ulichney によると、Anisotropyが−10デシベル〔dB〕以下であれば、ドットの異方性は目立たないとされている。
図14乃至図17で説明した方法を用いてドット配置を評価したときに、R.A.P.S が低周波域で小さく、中周波でピークを持ち、高周波で一定になるような特性を備え、かつAnisotropy が−10デシベル〔dB〕以下であるようなドット配置が「ブルーノイズ特性」であり、閾値マトリクスによって決定されたドット配置がブルーノイズ特性を有するときに、当該閾値マトリクスをブルーノイズマスクという。なお、図15に示したグラフも概ねブルーノイズ特性を示しているが、典型的なグラフの例は図18のようなものである。
次に、上述の「手順3」(図13(a)のステップS1330)で説明した誤差の配分方法に関する態様例について説明する。「手順3」における誤差の配分方法について、以下のような構成を加えることも可能である。
(追加構成1):隣接する未量子化画素位置Bへの誤差配分の割合をランダム化する。これにより、画質上好ましくない固有パターン(ムラ)の発生を抑制できる。
図13(c)にそのフローチャートを示す。同図中図13(a)と同一又は類似する工程には同一のステップ番号を付し、その説明は省略する。図13(c)に示したように、ステップS1320で量子化誤差を求めた後、ステップS1334に進む。ステップS1334では、誤差配分位置及び誤差配分のうち少なくとも一方を変更するパラメータ集合を予め用意しておき、前記パラメータ集合から、ランダムに1つを選択する。次いで、ステップS1335に進み、ステップS1334において選択したパラメータの誤差配分位置及び誤差配分に従って、隣接する未量子化画素位置へ誤差を配分する(ステップS1335)。ステップS1335の後は、ステップS1340に進み、上述のステップS1335にて誤差補正された未量子化画素位置Bを閾値マトリクスで量子化する(ステップS1340)。
(追加構成2):周囲画素の傾き(階調値の勾配)に応じて誤差配分を制御する。例えば、隣接画素間の階調値の差を求め、その差(傾き)の程度が大きいほど、その傾き方向に垂直な方向へ誤差拡散を促進し、傾き方向への誤差拡散を抑制する。これにより、エッジ再現が向上する。
図13(d)にそのフローチャートを示す。同図中図13(a)と同一又は類似する工程には同一のステップ番号を付し、その説明は省略する。図13(d)に示したように、ステップS1320で量子化誤差を求める一方で、画素位置A近傍の階調値勾配を求める(ステップS1322)。その後、ステップS1336に進む。ステップS1336では、階調値勾配に対応した誤差配分位置及び誤差配分のうち少なくとも一方を変更するパラメータ集合を予め用意しておき、前記ステップS1322で計算した階調値勾配に基づいてパラメータ集合から1つを選択する。
次いで、ステップS1337に進み、ステップS1336において選択したパラメータの誤差配分位置及び誤差配分に従って、隣接する未量子化画素位置へ誤差を配分する(ステップS1337)。ステップS1337の後は、ステップS1340に進み、上述のステップS1337にて誤差補正された未量子化画素位置Bを閾値マトリクスで量子化する(ステップS1340)。
(追加構成3):周囲画素の周波数特性に応じて誤差配分を制御する。例えば、高周波成分が小さいほど、誤差拡散を抑制する。これにより、既述したブルーノイズ特性を積極的に利用できる。また、周波数成分の方向性に応じて誤差拡散先を変更してもよい。例えば、誤差拡散方向の周波数成分を調べて、その方向の誤差の拡散を制御する。
図13(e)にそのフローチャートを示す。同図中図13(a)と同一又は類似する工程には同一のステップ番号を付し、その説明は省略する。図13(e)に示したように、ステップS1320で量子化誤差を求める一方で、画素位置A近傍の空間周波数特性を求める(ステップS1324)。その後、ステップS1338に進む。ステップS1338では、空間周波数特性に対応した誤差配分位置及び誤差配分のうち少なくとも一方を変更するパラメータ集合を予め用意しておき、前記ステップS1324で計算した空間周波数特性に基づいてパラメータ集合から1つを選択する。
次いで、ステップS1339に進み、ステップS1338において選択したパラメータの誤差配分位置及び誤差配分に従って、隣接する未量子化画素位置へ誤差を配分する(ステップS1339)。ステップS1339の後は、ステップS1340に進み、上述のステップS1339にて誤差補正された未量子化画素位置Bを閾値マトリクスで量子化する(ステップS1340)。
(追加構成4):カラー処理の場合、色によって閾値マトリクスのサイズを異ならせたり、色によって誤差を拡散させる画素位置Aや誤差を拡散させない画素位置Bを異ならせたりする。特に、視覚的に目立つ色(例えば、シアンとマゼンタなど)は互いに画素位置A、Bを色間で異ならせることが好ましい。或いは、色によって誤差拡散のパターン(図9乃至図12など)を異ならせるという態様もある。具体的には、視覚的に目立つシアンとマゼンタについては図10のような誤差拡散パターンを用い、視覚的に目立たないイエローについては図9のような誤差拡散パターンを用いる。このように、色ごとに量子化処理を異ならせることにより、色間の干渉を低減できる。
(追加構成5):上記した「追加構成4」とは逆に、カラー処理において、複数の色をまとめて共通の閾値マトリクス及び誤差拡散パターンによって一括処理する態様も可能である。
RGB信号のように1画素に対して2つ以上の信号を持つ画像に対して、R画像、G画像、B画像を別々に(色平面別に)量子化処理せず、1画素のRGB信号を同時に量子化処理することが可能であり、このような手法をベクトル量子化という。色ごとに別々の量子化処理を行う場合には、RGB間の量子化結果(ドットの重なり)を制御することが困難であるのに対し、1画素のRGB信号を同時には量子化処理することにより、容易にRGB間の量子化結果(ドットの重なり)を制御できる。
本発明の実施形態においてベクトル量子化を適用する場合の利点は、以下のような点にある。
誤差拡散処理においてドット重なりを考慮する場合、演算量が非常に大きくなり、且つ正確に望ましい結果が得られるとは限らない(特開平8−279920参照)。
一方、閾値マトリクス処理では望ましい結果(望ましいドット重なり)が得られるが(参考資料:Modified Jointly Blue Noise Mask Approach Using S-CIELAB Color Difference., J Imaging Sci Technol, VOL. 46 NO. 6;PAGE.543-551;(200111-200212) もしくは Properties of Jointly-Blue Noise Masks and Applications to color Halftoning, J Imaging Sci Technol, VOL. 44 NO. 4;PAGE.360-370 ) 、画像の周波数成分が中高周波にある場合には誤差を考慮しないので画質が劣るという欠点がある。
ドット重なりを考慮した閾値マトリクス(作成方法については上記参考資料を参照)に対して、本発明の実施形態のように部分的に誤差を拡散することで、画像の周波数成分が中高周波にある場合にも、誤差を考慮した高画質の処理を行うことができる。
なお、図10に示した例のように、誤差を計算する画素が多いものほど高画質であるが、誤差計算量が多くなる。したがって、画質と計算量のバランスを考えて画素位置A、Bの分布形態と誤差拡散のパターン(例えば図9乃至図12)を選択することが好ましい。
図13(a)で説明したフローチャートに代えて、図19(a)に示すフローチャートによる量子化処理を行う態様も可能である。
(手順1):まず、画素位置Aを含む周辺画素の代表値を求める(ステップS1410)。例えば、注目画素を中心として周辺隣接8画素を含む3×3画素の範囲で代表値を計算する。代表値としては、平均値や中央値などを用いることができる。
(手順2):次に、代表値を閾値マトリクスを用いて量子化し、その量子化結果を画素位置Aの量子化結果とする(ステップS1420)。図13(a)〜図13(e)と同様、閾値マトリクスはブルーノイズ特性を有していることが好ましい。
(手順3):画素位置Aの階調値と、上述のステップS1420による画素位置Aの量子化結果との誤差を求める(ステップS1430)。
(手順4):こうして求めた誤差を、隣接する未量子化画素位置Bへ配分する(ステップS1440)。
(手順5):上述のステップS1440にて誤差補正された未量子化画素位置Bを閾値マトリクスで量子化する(ステップS1450)。画素位置Bの量子化については、誤差計算せず、画素位置Bの量子化で発生する誤差については周囲画素への拡散を行わない点は図13(a)〜図13(e)のフローチャートと同様である。
図19(a)で説明したフローチャートの変形例を図19(b)〜図19(g)に示す。これらの図面中、図19(a)と同一又は類似する工程には同一のステップ番号を付し、その説明は省略する。
図19(b)は、色によって閾値マトリクスのサイズを異ならせる態様を示したフローチャートである。図示のように、まず、処理する色を設定し(ステップS1401)、処理する色でサイズの異なる閾値マトリクスを設定する(ステップS1402)。次いで、画素位置Aを含む周辺画素の代表値を求める(ステップS1410)。こうして求めた代表値を、前記ステップS1402で設定した閾値マトリクスを用いて量子化し、その量子化結果を画素位置Aの量子化結果とする(ステップS1420)。以後の処理(ステップS1430〜ステップS1450)は、図19(a)と同様である。なお、図19(b)に示したステップS1450の量子化で使用する閾値マトリクスはステップS1402で設定された閾値マトリクスである。
図19(c)は、色によって画素位置Aの位置を異ならせる態様を示したフローチャートである。図示のように、まず、処理する色を設定し(ステップS1401)、処理する色で画素位置Aが異なるように画素位置Aを設定する(ステップS1403)。次いで、画素位置Aを含む周辺画素の代表値を求める(ステップS1410)。こうして求めた代表値を閾値マトリクスを用いて量子化し、その量子化結果を画素位置Aの量子化結果とする(ステップS1420)。以後の処理(ステップS1430〜S1450)は、図19(a)と同様である。
図19(d)は、色によって誤差の拡散方法を異ならせる態様を示したフローチャートである。図示のように、まず、処理する色を設定し(ステップS1401)、処理する色に対応した誤差拡散係数を設定する(ステップS1404)。次いで、画素位置Aを含む周辺画素の代表値を求める(ステップS1410)。こうして求めた代表値を閾値マトリクスを用いて量子化し、その量子化結果を画素位置Aの量子化結果とする(ステップS1420)。その後、ステップS1430で求めた誤差を、隣接する未量子化画素位置へ前記誤差拡散係数(ステップS1404で設定した係数)に基づいて配分する(ステップS1442)。ステップS1442にて誤差補正された未量子化画素位置Bを閾値マトリクスで量子化する(ステップS1450)。
図19(e)は、色によって誤差の拡散方法を異ならせる他の態様を示したフローチャートである。図示のように、まず、処理する色を設定し(ステップS1401)、処理する色で画素位置Aの配置パターンと誤差の配分が異なる画素位置Aを設定する(ステップS1406)。次いで、ステップS1406での設定に係る画素位置Aを含む周辺画素の代表値を求める(ステップS1410)。こうして求めた代表値を閾値マトリクスを用いて量子化し、その量子化結果を画素位置Aの量子化結果とする(ステップS1420)。その後、ステップS1430で求めた誤差を、隣接する未量子化画素位置へ前記誤差の配分で(ステップS1406で設定した誤差の配分方法にし従って)配分する(ステップS1444)。こうしてステップS1444にて誤差補正された未量子化画素位置Bを閾値マトリクスで量子化する(ステップS1450)。
図19(f)は、1画素の複数色信号をまとめてベクトル量子化処理する態様を示したフローチャートである。図示のように、まず、少なくとも1つの色がONとなる各色の全てのON・OFFの組合せに対応した閾値マトリクスを設定する(ステップS1408)。すなわち、複数色の色成分が全てONに対応した閾値マトリクス、1つの色成分がOFFに対応した閾値マトリクスク、2つの色成分がOFFに対応した閾値マトリクス、…、1つの色成分だけがONに対応した閾値マトリクスを設定する。
次いで、少なくとも1つの色がONとなる各色の全てのON・OFFの組合せの順序を設定する(ステップS1409)。その後、画素位置Aを含む周辺画素の代表値を各色で求める(ステップS1411)。ステップS1411で求めた代表値を前記閾値マトリクス(ステップS1408で設定した閾値マトリクス)を用いてベクトル量子化し、このベクトル量子化結果を当該画素位置Aの各色の量子化結果とする(ステップS1422)。
そして、画素位置Aの各色の値と、ステップS1422で求めた前記画素位置Aの各色の量子化結果の誤差を求め(ステップS1433)、各色の誤差を、隣接する未量子化画素位置へ所定の配分方法に従って配分する(ステップS1446)。こうしてステップS1446にて誤差補正された未量子化画素位置Bを前記閾値マトリクスで量子化する(ステップS1452)。
ステップS1422及びS1452におけるベクトル量子化処理のフローチャートを図19(g)に示す。図示のように、ベクトル量子化の処理は、前記ON・OFFの組合せの順序(図19(f)のステップS1409で設定した順序)に従って処理が実行される(ステップS2012)。該当する順序に係る前記ON・OFFの組合せに対応したONとなる各色の値だけを加算した値を求める(ステップS2014)。次に、前記組合せに対応した閾値マトリクスと比較して、前記加算結果が所定条件を満たすか否かを判定する(ステップS2016)。
ステップS2016において所定条件を満たしている場合には、ステップS2018に進み、前記組合せのON・OFFを量子化結果とする。その一方、ステップS2016において所定条件を満たしていない場合には、ステップS2020に進み、未処理の前記組合せが存在していないか否かを確認する。未処理の組合せが存在している場合は、組合せの順序(ステップS1409で設定された順序)に従い、次のON・OFFの組合せへ処理対象を変更し(ステップS2022)、ステップS2014へ戻る。
また、ステップS2020の判定において、未処理の組合せが存在していない場合には、「全ての色がOFF」を量子化結果とする(ステップS2024)。 こうして、ステップS2018又はステップS2024によって量子化結果が確定したら、ベクトル量子化処理のサブルーチンを抜けて、図19(f)のフローチャートに復帰する。
図19(a)〜図19(g)で説明した量子化フローによる量子化を行う場合も図13(a)〜図13(e)と同様、逐次処理ではないため並列処理を容易に構成できる。また、量子化で発生した誤差を考慮しているので、従来の閾値マトリクス法と比較すれば入力画像の平均値が保存されるため高画質であり、従来の誤差拡散法の欠点であるドット遅延が発生しない。
図9乃至図19(g)で説明した量子化処理を実現するデジタルハーフトーニング処理部104の構成例を図20に示す。
デジタルハーフトーニング処理部104は、グループ分割部202、グループ化制御部204、第1量子化処理部206、閾値マトリクス格納部208、誤差演算部210、拡散パターン制御部212、誤差加算部214、第2量子化処理部216を含んで構成されている。なお、各ブロック(202〜216)は、電子回路、信号処理回路などのハードウエアで実現してもよいし、その機能をソフトウエアによって実現してもよく、もちろんこれらの適宜の組み合わせによって実現することもできる。
グループ分割部202は、図9乃至図12で説明したような所定の分布形態によって入力画像(階調画像)220の構成画素を第1グループと第2グループとに分ける処理を行う。グループ化制御部204は、画素位置A及び画素位置Bの分布形態を切り換える制御を行う。
第1量子化処理部206は、グループ分割部202によりグループ分けされた画素群のうち、第1グループに属する画素位置Aについて閾値マトリクスを用いて量子化を行う処理部である。なお、図19(a)〜図19(f)で説明した代表値を求める場合には、この第1量子化処理部206の前段で代表値が計算される。
図20に示した閾値マトリクス格納部208には、量子化の演算に用いる閾値マトリクスのデータが格納されている。閾値マトリクスは、低中周波域を考慮したブルーノイズマスク特性を有するものであることが好ましい。また、複数の閾値マトリクスを記憶しておき、必要に応じて使用するマトリクスを切り換える構成も可能である。
誤差演算部210は、第1量子化処理部206の量子化によって発生した誤差を計算する。元の画素値と量子化結果の差が誤差として算出される。
拡散パターン制御部212は、誤差演算部210で求めた量子化誤差の配分方法を設定する制御部であり、グループ化制御部204と連携して誤差の拡散先の画素位置やその配分割合を決定する。
誤差加算部214は、拡散パターン制御部212で決定された拡散先の画素位置とその画素位置への誤差の配分割合に従って、拡散先の画素位置の画素値を補正する演算部である。誤差演算部210で求めた誤差に配分割合をかけて得られる誤差補正値を当該注目画素の画素値に加算して新たな画素値(誤差補正後の画素値)を得る。
第2量子化処理部216は、誤差加算部214による誤差補正を行った第2グループの未量子化画素位置Bについて閾値マトリクスを用いて量子化を行う処理部である。第2量子化処理部216において、第1量子化処理部206と同じ閾値マトリクスを用いてもよいし、異なる閾値マトリクスを用いてもよい。第2量子化処理部216で量子化した画素位置については、誤差の拡散を行わないため、誤差の計算も不要である。
こうして、グループ別に2段階の量子化処理を経てハーフトーン画像222が生成される。
上述の説明では、画像形成装置の一例としてインクジェット記録装置を例示したが、本発明の適用範囲はこれに限定されず、サーモオートクローム(TA)方式のプリンタ、昇華方式のプリンタ、レーザプリンタなどドットによって階調を表現する画像形成装置や表示装置など多様な出力装置について本発明を適用できる。
また、本発明の画像処理装置は、インクジェット記録装置などの画像形成装置に組み込まれる態様に限らず、コンピュータによっても実現可能である。上述した画像処理機能をコンピュータに実現させるためのプログラムをCD−ROMや磁気ディスクその他の情報記憶媒体に記録し、該情報記憶媒体を通じて当該プログラムを第三者に提供したり、インターネットなどの通信回線を通じて当該プログラムのダウンロードサービスを提供したりすることも可能である。
10…インクジェット記録装置、12…印字部、12K,12C,12M,12Y…ヘッド、14…インク貯蔵/装填部、16…記録紙、18…給紙部、22…吸着ベルト搬送部、50…ヘッド、50A…ノズル面、51…ノズル、52…圧力室、72…システムコントローラ、75…ROM、80…プリント制御部、104…デジタルハーフトーニング処理部、202…グループ分割部、204…グループ化制御部、206…閾値マトリクス格納部、206…第1量子化処理部、210…誤差演算部、212…拡散パターン制御部、214…誤差加算部、216…第2量子化処理部