JP3924942B2 - 内燃機関の燃料噴射装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、内燃機関の気筒内に燃料を直接噴射供給する燃料噴射装置に関し、詳しくは、その燃料噴射を、内燃機関の1サイクル当たりに複数回に分けて行う燃料噴射装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、燃料ポンプから供給される高圧燃料をコモンレールに一旦蓄積して、その蓄積した高圧燃料を燃料噴射弁に供給し、所定の燃料噴射時期に燃料噴射弁を開弁させることにより、燃料噴射弁から内燃機関の気筒内に燃料を直接噴射供給するようにした燃料噴射装置が知られている。
【0003】
この種の燃料噴射装置は、所謂直噴式の内燃機関であれば、燃料混合気を圧縮着火させるディーゼルエンジンに限らず、燃料混合気を点火プラグにより発生させた点火火花により着火させるガソリンエンジンでも使用されるが、近年では、燃料噴射弁からの燃料噴射を、内燃機関の1サイクル当たりに早期噴射と後期噴射とに分けて実行させることにより、燃焼効率を向上することが考えられている(例えば、特開平4−252830号公報,SAE980505参照)。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、こうした従来の燃料噴射装置では、早期噴射で、内燃機関の気筒内に噴射すべき全燃料の半分以上を噴射し、且つ、気筒内全域に燃料を配分するようにされていることから、早期噴射により気筒内全域が希薄混合気となり、その後のピストンの移動による気筒内の圧縮により燃料混合気が部分的に過早着火して、ノッキングが発生し易くなり、ノッキングの発生を抑えようとすると、良好なエンジン性能が得られなくなるという問題があった。
【0005】
例えば、特開平4−252830号公報に開示された装置では、火花点火式のガソリンエンジンにおいて、アイドル運転時等、エンジンの軽負荷・低回転時に、燃料噴射を早期噴射と後期噴射とに分けて行い、早期噴射によって、気筒内全域を希薄な燃料混合気にし、その後の後期噴射によって、燃料混合気の着火に用いられるピストン頂面部分の燃焼室内に燃料を噴射供給することにより、気筒内全域では希薄となる比較的少ない燃料供給量でも、燃料混合気を確実に燃焼させて、必要トルクが得られるようにしている。また、エンジンの高負荷・高回転時には、気筒内で均一な混合気を形成する時間に余裕がないため、全量を早期噴射にして、気筒内での燃料混合気の均一化を図っている。
【0006】
しかし、この装置では、早期噴射による燃料混合気の過早着火によるノッキングを避けるために、圧縮比を下げているため、高負荷・高回転時のエンジン出力が低下し、また燃費も悪化するという問題がある。
また例えば、SAE980505にて提案された装置では、圧縮着火式のディーゼルエンジンにおいて、早期噴射でエンジンの運転に必要な略半分の燃料を気筒内に噴射することにより、気筒内全体に均一な燃料混合気を形成し、エンジンの圧縮行程で着火条件に達した際に、その燃料混合気を冷炎着火させる。そして、この冷炎着火により気筒内の燃料混合気が低温燃焼しているときに、後期噴射により残りの燃料を噴射して、この燃料を着火遅れなく燃焼させる。この結果、気筒内の温度上昇を抑制して、NOx、黒煙を同時に低減することができる。
【0007】
しかし、この提案の装置でも、エンジン高負荷時等には、ノッキングが発生するため、早期噴射と後期噴射とで、噴射に用いる燃料を低セタン価燃料と通常燃料とに使い分けている。この結果、燃料噴射系統が二系統必要であるばかりでなく、ピストンが上死点に達する前の熱発生が多く、燃費が悪化するという問題がある。また、後期噴射による燃料の微粒化と噴射率を高く維持するために、後期噴射時の燃料圧を高圧にしなければならず、噴射装置が大型且つ高価になり、更に、燃料供給量の少ない軽負荷時には、早期噴射による気筒内の燃料混合気が希薄になり過ぎ、失火,HCの増大を招くという問題もある。
【0008】
本発明は、こうした問題に鑑みなされたもので、内燃機関の気筒内に燃料を直接噴射供給する燃料噴射を、早期噴射と後期噴射とに分けて行う燃料噴射装置において、早期噴射後の燃料混合気の過早着火によるノッキングの発生を抑制しつつ、内燃機関から排出されるNOx、HC、黒煙を低減し、更に、内燃機関の燃費及び出力を向上させることを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
かかる目的を達成するためになされた請求項1記載の内燃機関の燃料噴射装置においては、前述した従来装置と同様、制御手段が、燃料噴射弁からの気筒内への燃料の直接噴射を、早期噴射と後期噴射とに分けて実行させるが、制御手段は、この早期噴射と後期噴射とを実行させるに当たって、早期噴射された燃料が、早期噴射後の着火時期に、前記気筒内の所定領域にて、均質な混合気濃度の噴霧を層状に形成し、早期噴射の後に無噴射期間を隔てて後期噴射された燃料が、早期噴射により形成された層状の噴霧の燃焼域にて着火した後、その燃焼域を貫通して、前記所定領域外の気筒内の未利用空気を利用するよう(つまり未利用空気の残るピストン内燃焼室に到達するよう)、燃料噴射弁を制御する。
【0010】
つまり、本発明は、前述した従来技術の問題が、早期噴射の噴霧が気筒内全域で混合されることに起因することに着目し、早期噴射による噴霧が気筒内の所定領域にて層状に形成されるように早期噴射を実行し、その早期噴射により形成された層状の噴霧が着火して燃焼状態にあるときに、その燃焼域を後期噴射による燃料噴霧が貫通するように、後期噴射を実行するようにしている。
【0011】
この結果、本発明によれば、早期噴射による燃料噴霧が気筒内全域に分散されることによって、その燃料噴霧が過早着火してノッキングが発生したり、或いは気筒内の燃料混合気が希薄になり過ぎ、その希薄燃料混合気の燃焼によりHCが発生したり、着火できなくなる(換言すれば、失火する)、といったことを防止することができ、早期噴射の噴霧を所望の着火時期に確実に着火させることができる。
【0012】
また、後期噴射では、早期噴射により形成された層状の燃焼域を貫通するように燃料が噴射されるので、後期噴射による燃料噴霧は、着火遅れなく確実に着火して、気筒内のピストンに至り、早期噴射した燃料の燃焼に使用されていないピストン側の空気から酸素の供給を受けて燃焼する。そして、この後期噴射による燃料の燃焼により、ピストンに大きな力が加わることから、内燃機関の出力(延いては燃費)を向上できる。
【0013】
ここで、早期噴射による噴霧を層状に形成するには、例えば、燃料噴射弁からの燃料噴霧の角度を広くし、燃料噴霧の貫通力を弱くして、燃料噴射後に燃料噴霧が広範囲に拡散しないようにすればよい。また、後期噴射による燃料噴霧は、早期噴射により形成される層状の噴霧の燃焼域を貫通させるために、燃料噴射弁からの燃料噴霧の角度を狭くし、燃料噴霧の貫通力を強くすればよい。
【0014】
そして、このためには、例えば、早期噴射用の燃料噴射弁と後期噴射用の燃料噴射弁との2種類の燃料噴射弁を用いるようにしてもよいが、これでは燃料噴射装置の大型化、延いてはコストアップを招く。
そこで、本発明(請求項1)を実現するには、請求項2に記載のように、燃料噴射により形成される燃料噴霧の角度を調整可能に構成した燃料噴射弁を用いるようにするとよい。つまり、このように構成された燃料噴射弁を使用するようにすれば、制御手段側で、早期噴射時には燃料噴射弁の噴霧角度が広くなり、後期噴射時には燃料噴射弁の噴霧角度が狭くなるように、燃料噴射弁を制御することにより、請求項1記載の発明を実現できる。
【0015】
そして、請求項2に記載の燃料噴射装置によれば、一つの燃料噴射弁を使って請求項1記載の発明を実現できることから、燃料噴射装置の大型化,コストアップを招くことなく、内燃機関の運転性能を向上できる。
また次に、早期噴射により形成される層状の噴霧は、過早着火や失火を招くことなく、所望の着火時期に確実に着火できればよく、その着火時期には、層状の噴霧が理論空燃比近傍になるようにしてもよいが、NOx,黒煙の発生を抑制するには、着火により発生する熱を抑えて、冷炎燃焼させることが望ましく、このためには、制御手段を、請求項3に記載のように構成するとよい。
【0016】
つまり、請求項3に記載の装置では、制御手段が、早期噴射によって形成された層状の燃料噴霧が可燃混合気範囲の希薄側となって冷炎燃焼するように、内燃機関の運転状態に応じて早期噴射時の燃料噴射量及び燃料噴射時期を制御する。このため、請求項3に記載の装置によれば、早期噴射により形成された層状の噴霧は、着火時期には希薄燃料混合気となり、着火すると冷炎燃焼して燃焼により発生する熱が抑えられる。
【0017】
従って、請求項3に記載の装置によれば、濃い混合気の着火による急激な燃焼で発生するNOx,黒煙を低減でき、更には、騒音も抑制できる。また、請求項3に記載の装置によれば、早期噴射により形成される層状の噴霧が着火する際の空燃比を、可燃混合気範囲の希薄側に制御するが、早期噴射による噴霧を気筒内全域に分散させる従来装置のように、燃料噴霧が可燃混合気範囲の希薄限界を越えることはないため、この希薄限界を越えた空燃比領域で燃料混合気が着火し、燃焼することにより、HCが発生するといったことも防止できる。
【0018】
また、後期噴射された燃料は、早期噴射による噴霧の冷炎燃焼域で着火し、酸素不足の混合気の中で燃焼を開始するので、後期噴射による燃料の燃焼時にも、着火直後の熱発生を抑制して、NOxが発生するのを抑制できる。また、後期噴射された燃料は、早期噴射による噴霧の冷炎燃焼域で着火した後、冷炎燃焼域を抜けて、ピストン側の空気から酸素の供給を受けて燃焼することから、黒煙の発生防止、出力及び燃費の向上を図ることもできる。
【0019】
尚、この後期噴射による燃料を完全燃焼させて、機関出力をより高めるには、制御手段を、請求項4記載のように構成すればよい。つまり、請求項4記載の燃料噴射装置においては、制御手段は、後期噴射による燃料が気筒内で完全燃焼し、且つ、その燃焼による熱発生がピストンの上死点以降に最大となるように、内燃機関の運転状態に応じて後期噴射時の燃料噴射量及び燃料噴射時期を制御する。このため、請求項4に記載の装置によれば、黒煙の発生をより確実に防止し、また内燃機関の出力及び燃費をより確実に向上することができる。
【0020】
また、制御手段は、基本的には、燃料噴射弁からの燃料噴射を、早期噴射と後期噴射とに分けて実行させるものであるが、内燃機関のアイドル運転時等の軽負荷時には、燃料噴射を早期噴射と後期噴射とに分けて実行すると、噴射1回当たりの燃料噴射量が少なくなり過ぎ、早期噴射により所望空燃比の噴霧を層状に形成することができない虞があるので、請求項5に記載のように、内燃機関の軽負荷時には、燃料噴射弁からの燃料噴射を内燃機関の1サイクル当たりに1回の割で実行させるように、制御手段を構成してもよい。
【0021】
尚、この場合、軽負荷時に行う1回の燃料噴射のタイミングは、燃料噴射を早期噴射と後期噴射とに分けて行う際の早期噴射のタイミングで燃料噴射を実行するように設定してもよく、或いは、後期噴射のタイミングで燃料噴射を実行するように設定してもよい。
【0022】
【発明の実施の形態】
以下に本発明の実施例を図面と共に説明する。
図1は実施例のディーゼルエンジン用蓄圧式燃料噴射装置全体の構成を表す概略構成図である。
【0023】
図1に示す如く本実施例の燃料噴射装置1は、図示しないディーゼルエンジンの各気筒に燃料を噴射供給する燃料噴射弁(インジェクタ)3と、このインジェクタ3に供給する高圧燃料を蓄える蓄圧室(コモンレール)5と、コモンレール5に高圧燃料を供給する燃料ポンプ7と、これらを制御する制御手段としての電子制御装置(ECU)9とを備える。
【0024】
ECU9は、CPU,ROM,RAM等を中心とするマイクロコンピュータにて構成されており、ディーゼルエンジンの回転角度を検出する回転センサ11、運転者によるアクセル操作量(アクセル開度)を検出するアクセルセンサ13,ディーゼルエンジンの冷却水温を検出する水温センサ15等、エンジンの運転状態を検出する各種センサからの検出信号を取り込み、これら各センサからの検出信号により得られるディーゼルエンジンの回転速度NE、アクセル開度Accp 、冷却水温Tw等に基づき、インジェクタ3からエンジン気筒内への燃料噴射量及び噴射時期等を制御する。
【0025】
また、コモンレール5には内部の燃料圧(以下、コモンレール圧という)Pcを検出するための圧力センサ17が設けられ、燃料ポンプ7には、コモンレール5への供給燃料量を調整するための調量弁19が設けられている。そして、ECU9は、圧力センサ17からの検出信号を取り込み、コモンレール圧Pc(換言すればインジェクタ3からの燃料噴射圧)が、ディーゼルエンジンの運転状態に応じた最適な圧力となるように、調量弁19の開度を制御する。
【0026】
次に、インジェクタ3は、コモンレール5から供給された高圧燃料を、ディーゼルエンジンの気筒(シリンダ)内を往復動するピストンに形成された燃焼室に向けて噴射するように、ディーゼルエンジンのシリンダヘッドに挿入搭載されている。
【0027】
インジェクタ3の基本構成は、蓄圧式(換言すればコモンレール式)の燃料噴射装置に従来から使用されているインジェクタと略同じであるが、本実施例では、燃料噴射時の噴霧角度を、ECU9から出力される駆動パルスのパルス幅により変化させることができるようにされている。
【0028】
以下、このインジェクタ3の構成を説明する。
図1に示すように、インジェクタ3は、ニードル31が収納されたノズルボディ33と、ニードル31をコモンレール5内の高圧燃料を利用して変位させることによりインジェクタ3を開閉させる駆動系を内蔵したインジェクタ本体35とから構成されている。そして、ノズルボディ33には、コモンレール5から供給された高圧燃料を一時的に蓄える油室33aと、油室33a内の高圧燃料を噴孔33bに導く燃料通路33cと、ニードル31を油室33aの燃料通路33cとは反対側から挿入可能で、挿入されたニードル31を燃料通路33cと同軸上に摺動自在に支持するニードル挿入孔33dとが形成されている。
【0029】
また、ニードル31の油室33a側先端部は、燃料通路33cの油室33a側開口部に当接して、油室33aから燃料通路33c(延いては噴孔33b)への燃料の流入を遮断できるようにするため、テーパ状に形成されており、その先端部中心からは、燃料通路33cを通って噴孔33bに至る高圧燃料を旋回させるためのガイド部50が突設されている。尚、このガイド部50の構成については、後に詳しく説明する。
【0030】
一方、インジェクタ本体35には、ノズルボディ33の後端が嵌合固定されている。そして、インジェクタ本体35には、ノズルボディ33の後端より突出したニードル31を受け入れるための大径の第1孔部35aが穿設され、更に、この第1孔部35aのニードル31とは反対側には、ピストン37が摺動自在に設けられた第1孔部35aよりも小径の第2孔部35bが穿設されている。
【0031】
また、ニードル31とピストン37との間には、第1孔部35aの中心を通ってこれら両者を接続するロッド39が設けられている。そして、第1孔部35aの内壁には、ニードル31が後方に移動した際に(換言すれば、ニードル31が油室33aから噴孔33bに至る燃料通路33cを解放して噴孔33bから燃料を噴射させる際に)、ニードル31の後端に当接することにより、ニードル31の後方への移動を阻止し、噴孔33bから噴射される高圧燃料の通路の最大開口面積を規制する中空の規制板35cが設けられ、更に、第1孔部35aの規制板35cよりも後方の第2孔部35b側には、一端が、第1孔部35aから第2孔部35bに至る段部に当接されたコイル状の第1ばね41aが設けられている。
【0032】
また、ロッド39には、ニードル31の後端が規制板35cに当接するまでの間のニードル31の後方への移動途中で第1ばね41aの他端に当接されて、第1ばね41aの付勢力により、ニードル31の後方への移動を一時的に阻止する鍔部39aが設けられている。
【0033】
また、第2孔部35bの第1孔部35aとは反対側は、三方弁43及びワンウェイオリフィス45により油圧が制御される制御室46に連通しており、ピストン37のロッド39とは反対側端面は、この制御室46に設けられたコイル状の第2ばね41bから、ニードル31を燃料通路33c側に付勢する付勢力を受けている。尚、第2ばね41bは、第1ばね41aよりも径が小さく、発生する付勢力も小さくなっている。
【0034】
次に、三方弁43は、コモンレール5から燃料タンク47に至る燃料経路に設けられており、ソレノイド43aへの通電が遮断される通常時には、弁体43bが燃料タンク47側のポートを閉じて、コモンレール5からの高圧燃料を、ワンウェイオリフィス45を介して制御室46に導き、ソレノイド43aが通電されると、弁体43bをコモンレール5側のポートに移動させて、このポートを閉じ、ワンウェイオリフィス45と燃料タンク47とを連通させて、制御室46内の燃料圧を低下させる。
【0035】
また、ワンウェイオリフィス45は、三方弁43のワンウェイオリフィス45側のポートと制御室46とを連通する2系統の油路45a,45bと、一方の油路45aに設けられ、三方弁43から第2孔部35b側に燃料が流入するのを許容し、逆方向への燃料の流れを阻止する逆止弁48と、他方の油路45bに設けられて、この油路45bを流れる燃料量を制限する絞り部49とから構成されている。
【0036】
次に、ガイド部50は、図2に示すように、燃料通路33c内を摺動可能に構成されており、その側壁中央には、燃料通路33cを通って噴孔33bに至る高圧燃料に旋回流れを与えるための斜め溝52が形成されている。
そして、従来のインジェクタでは、図2(b)に示すように、斜め溝52が形成されたガイド部50の中央から噴孔33bの内壁に当接される先端部分までの間を、先端部分に向けて徐々に径が細くなるテーパ面54とすることにより、ニードルリフト量に関係なく略一定の旋回流を形成できるようにされているが、本実施例のインジェクタ3では、図2(a)に示すように、斜め溝52が形成されたガイド部50の中央から噴孔33bの内壁に当接される先端部分までの間を、ガイド部50の中心軸に沿った円柱状に形成することにより、この円柱部56の外壁と燃料通路33cの内壁との間で、渦巻き室58が形成されるようにしている。
【0037】
この結果、本実施例のインジェクタ3では、ニードルリフト量によって渦巻き室58の形状(詳しくは軸方向に沿った高さh)が変化することになる。そして、この渦巻き室58の高さhが変化すると、斜め溝52より流入し、斜め方向の速度ベクトルを持つ燃料流れが、その速度ベクトルのガイド部50の軸方向速度成分と渦巻き室58の円周方向速度成分との比を変化させる。これは、渦巻き室58の高さhoにより生じる、斜め溝52から噴孔33b側に流れ出す燃料出口部分での半径方向整流作用の差と、渦巻き室容積による燃料慣性の差とに起因する。そして、この速度方向成分比の変化が、噴孔33bより噴射される燃料の噴霧角度の変化として現れる。
【0038】
以上のように構成された本実施例のインジェクタ3では、三方弁43のソレノイド43aが非通電状態であるとき、コモンレール5内の高圧燃料が、三方弁43及びワンウェイオリフィス45を介して、制御室46に流れ込む。この結果、ピストン37,ロッド39及びニードル31は、制御室46に流れ込んだ高圧燃料によって、噴孔33b側に付勢され、ニードル31のテーパ面が燃料通路33cの油室33a側開口に当接して、燃料通路33cを閉じ、インジェクタ3は燃料停止状態となる。
【0039】
一方、ソレノイド43aが通電されると、制御室46は絞り部49を介して燃料タンク47に連通される。そして、ニードル31のテーパ面は、コモンレール5からノズルボディ33の油室33aに供給された高圧燃料の圧力を受けていることから、この圧力によって、ニードル31,ロッド39,及びピストン37が後方に移動する。この結果、燃料通路33cが解放され、噴孔33bからの燃料噴射が開始される。
【0040】
またこの移動時、最初は第2ばね41bの付勢力がピストン37に加わっているだけであるため、上記各部は速やかに後方に移動するが、その移動量(以下、ニードルリフト量ともいう。)Lが所定量(図1に示すL1)に達し、鍔部39aが第1ばね41に当接すると、第1ばね41aの付勢力により、上記各部の移動が一時的に停止する。
【0041】
そして、このとき、渦巻き室58の高さhは、噴孔33bが閉じた初期状態の高さhoに、ニードルリフト量L1を加えた高さ「ho+L1」となるが、この状態では、渦巻き室58内の容積が少なく、燃料慣性が小さいため、ガイド部50の斜め溝52から噴孔33b側に流入する燃料の円周方向速度成分が強く維持され、噴孔33bから噴射される燃料の噴霧角度は、広い噴霧角α1となる(図3参照)。
【0042】
次に、このようにニードルリフト量Lが所定量L1になって、上記各部が停止した状態で、ソレノイド43aへの通電が継続されると、制御室46内の燃料圧力が徐々に低下する。そして、ソレノイド43aへの通電時間が所定時間に達した時点で、ニードル31,ロッド39,及びピストン37は、ニードル31がテーパ面に受けた燃料圧力により、第1ばね41aの付勢力に抗して再び後方に移動し、ニードル31の後端が規制板35cに当接した位置(換言すれば、ニードルリフト量が図1に示すL2に達した位置)で停止する。
【0043】
このとき、渦巻き室58の高さhは、噴孔33bが閉じた初期状態の高さhoに、ニードルリフト量L2を加えた高さ「ho+L2」となる。そして、この状態では、渦巻き室58の容積が増加し、燃料慣性が大きくなるため、ガイド部50の斜め溝52から噴孔33b側に流入する燃料の円周方向速度成分が維持できず低下して、軸方向速度成分が増加し、噴孔33bから噴射される燃料の噴霧角度は、狭い噴霧角α2となる(図3参照)。
【0044】
このように、本実施例のインジェクタ3は、三方弁43のソレノイド43aへの通電時間が短い場合には、広い噴霧角α1で燃料を噴射し、ソレノイド43aへの通電時間を長くすれば、燃料の噴霧角度を広い噴霧角α1から狭い噴霧角α2へと変化させる。
【0045】
そして、ECU9は、このインジェクタ3の特性を利用して、ソレノイド43aへの通電を指令する三方弁43の駆動パルスのパルス幅を設定することにより、燃料の主噴射(後期噴射)と、主噴射に先だって行う着火用の早期噴射とで、インジェクタ3からの燃料の噴霧角度を切り替える。
【0046】
即ち、ECU9は、ディーゼルエンジン1行程当たりの燃料噴射を、早期噴射と主噴射とに分けて行う際には、早期噴射の際の燃料噴霧角度を広い噴霧角α1とし(図4(b)参照)、主噴射の際の燃料噴霧角度を狭い噴霧角α2とする(図4(c)参照)。
【0047】
また、早期噴射のタイミング(燃料噴射時期)は、早期噴射後の燃料噴霧がシリンダ内を拡散して層状となったときに(図4(b)参照)、ピストン60の下死点から上死点への移動に伴うシリンダ内の圧力上昇によって、その層状の燃料噴霧が着火するように設定され、主噴射のタイミング(燃料噴射時期)は、早期噴射により形成された層状の燃料噴霧が着火して燃焼しているときに主噴射が実行されて、主噴射による狭い噴霧角度の燃料噴霧がこの燃焼域で着火しながら燃焼域を貫通し(図4(c)参照)、ピストン端面に形成された燃焼室62に到達して、この燃焼室62内で燃焼し、更にこの燃焼により発生する熱がピストン60の上死点以降に最大となるように設定される。
【0048】
また早期噴射の燃料噴霧角度を広くするために、インジェクタ3の駆動パルスを短くすると、早期噴射による燃料噴射量は少なくなるが、本実施例では、早期噴射の駆動パルスを短くして、早期噴射の燃料噴射量を少なくすることにより、早期噴射後に層状となった燃料噴霧が着火して燃焼する際の燃料噴霧の空燃比(A/F)が、NOxやHCを発生することのない、図4(a)に示す可燃範囲内の希薄空燃比(A/F;20〜22)となり、早期噴射による燃料噴霧が低い温度で燃焼(つまり冷炎燃焼)するようにする。
【0049】
一方、主噴射の燃料噴霧角度を狭くするために、インジェクタ3の駆動パルスを長くすると、主噴射による燃料噴射量は早期噴射に比べて極めて多くなるが、本実施例では、主噴射による燃料噴射量を多くすることにより、ディーゼルエンジンの運転に必要な燃料量を主噴射にて確保し、しかも、主噴射による燃料噴霧の燃焼時の空燃比(A/F)が、黒煙(Soot)やNOxを発生することのない、図4(a)に示す理論空燃比近傍の空燃比(A/F;13〜15)となって、燃料がシリンダ内で完全燃焼できるようにする。
【0050】
尚、図4(a)は、インジェクタ3から噴射された燃料噴霧がシリンダ内で徐々に拡散して、燃空比(F/A;空燃比の逆数を表す)が徐々に低下してゆく様子(換言すれば、空燃比(A/F)が徐々に増加してゆく様子)と、その変化の過程で、黒煙(Soot),NOx,HCを発生することなく燃焼し得る空燃比領域と、各空燃比(A/F)で燃料噴霧が着火した時の燃焼の応答速度Vrとの関係を模式的に表したものである。
【0051】
また次に、ECU9は、上記のようにディーゼルエンジン1行程当たりの燃料噴射を早期噴射と主噴射とに分けて実行する運転領域を、図5に示すように、エンジンの中・高負荷領域に制限し、アイドル運転時等の軽負荷領域では、ディーゼルエンジン1行程当たりに1回の割で燃料噴射を実行する。
【0052】
以下、このようにECU9が燃料噴射制御を行う際の手順を、フローチャートに沿って説明する。
まず図6は、ECU9において繰り返し実行されるメインルーチンを表す。
図6に示すように、ECU9は、S100(Sはステップを表す)にて、前述した各種センサからの検出信号を取り込み、ディーゼルエンジンの回転速度NE,アクセル開度Accp ,冷却水温Tw,コモンレール圧Pc等の運転状態を検出する。そして続くS200では、その検出した運転状態に基づき、インジェクタ3からシリンダ内に噴射供給する燃料噴射量を算出し、ソレノイド43aの通電時間を設定する燃料噴射量制御処理を実行する。
【0053】
また続くS300では、インジェクタ3からの燃料噴射圧を運転状態に対応した最適値にするために、コモンレール圧Pcを調整する燃料噴射圧制御処理を実行し、更に、続くS400にて、上記検出したディーゼルエンジンの運転状態に基づき、インジェクタ3からシリンダ内に燃料を噴射供給するタイミング(燃料噴射時期)を制御する燃料噴射時期制御処理を実行する。そして、このS400の燃料噴射時期制御が終了すると、再度S100に移行し、上記処理を繰り返す。
【0054】
次に、図7は、上記S200にて実行される燃料噴射量制御処理を表すフローチャートである。
図7に示す如く、この処理では、まずS210にて、ディーゼルエンジンの回転速度NEと機関負荷を表すアクセル開度Accp とに基づき、図10(a)に示すマップを用いて、エンジン1サイクル当たりにシリンダ内に噴射供給すべき目標噴射量Qtを算出する。また、続くS220では、回転速度NEとアクセル開度Accp とに基づき、図10(b)に示すマップを用いて、燃料噴射を早期噴射と主噴射とに分けて実行する際の燃料の早期噴射量Qpre を算出する。
【0055】
ここで、図10(a)に示す目標噴射量算出用マップは、従来より一般に使用されているマップであり、機関負荷を表すアクセル開度Accp が大きい程、目標噴射量Qtが多くなるように設定されている。
また、図10(b)に示す早期噴射量算出用マップは、回転速度NEが始動判定速度Nstart 以上で、かつ、アクセル開度Accp が所定開度AccpL以上の領域では、回転速度NEとアクセル開度Accp とに応じて、早期噴射量Qpre を設定し、これ以外の領域では、早期噴射量Qpre を「0」に設定するようにされている。
【0056】
これは、アクセル開度Accp が所定開度AccpL未満で機関負荷が小さいとき(つまりエンジン軽負荷時)や、エンジン始動直後で回転速度NEが始動判定速度Nstart よりも低いときに、燃料噴射を早期噴射と主噴射とに分けて実行すると、燃料噴射1回当たりの燃料噴射量が小さくなり過ぎ、着火時の燃料噴霧が可燃範囲を超えた希薄側となり、失火,HCの増大、といった問題を引き起こすことが考えられるためである。そして、本実施例では、この問題を防止するために、上記領域での早期噴射量Qpre を「0」に設定することで、早期噴射を禁止するようにしている。
【0057】
こうして、燃料の目標噴射量Qtと早期噴射量Qpre とが算出されると、今度はS230に移行し、目標噴射量Qtから早期噴射量Qpre を減じることにより、燃料の主噴射量Qmain(=Qt−Qpre )を算出する。そして、続くS240では、S220及びS230にて求めた燃料の早期噴射量Qpre と主噴射量Qmainとを、冷却水温Twをはじめとする各種運転状態(例えば、吸気温,吸気圧,燃料温度等)に基づき補正する。また、続くS250では、S240による補正後の早期噴射量Qpre 及び主噴射量Qmainを、夫々、実際にインジェクタ3のソレノイド43aを通電して早期噴射及び主噴射を実行させるためのインジェクタ3の駆動パルス幅に変換し、これをメモりに記憶した後、当該処理を一旦終了する。
【0058】
次に、図8は、上記S300にて実行される燃料噴射圧制御処理を表すフローチャートである。
図8に示す如く、この処理が開始されると、まずS310にて、ディーゼルエンジンの回転速度NEとアクセル開度Accp とに基づき、図11に示すマップを用いて、目標噴射圧Ptを算出し、続くS320にて、この算出した目標噴射圧Ptから調量弁19に流す基本電流量Ibを算出する。
【0059】
尚、この基本電流量Ibや後述の目標電流量Ipは、調量弁19のソレノイドに流す電流量に対応するものであり、調量弁19は、この電流量により開度が制御されて、コモンレール5に供給する燃料量が決定される。
また、続くS330では、圧力センサ17からの検出信号により得られたコモンレール圧Pcと、S310で求めた目標噴射圧Ptとの偏差の絶対値が、予め設定された判定値△Pを越えているか否かを判断する。そして、コモンレール圧Pcと目標噴射圧Ptとの偏差の絶対値が判定値△Pを越えている場合には、S340に移行し、目標噴射圧Ptがコモンレール圧Pcよりも大きければ、コモンレール圧Pcを上昇させるために、基本電流量Ibに対する補正電流量Ifbを所定値△Iだけ増加させ、逆に、目標噴射圧Ptがコモンレール圧Pcよりも小さければ、コモンレール圧Pcを低下させるために、基本電流量Ibに対する補正電流量Ifbを所定値△Iだけ減少させる、といった手順で、補正電流量Ifbを更新する。
【0060】
そして、S340にて補正電流量Ifbが更新されるか、S330にてコモンレール圧Pcと目標噴射圧Ptとの偏差の絶対値が判定値△Pを越えていないと判断された場合には、S350に移行して、上記算出した基本電流量Ibと補正電流量Ifbとを加算することにより、調量弁19の制御に用いる最終的な制御量である目標電流量Ipを決定し、当該処理を一旦終了する。
【0061】
次に、図9は、上記S400にて実行される燃料噴射時期制御処理を表すフローチャートである。
図9に示す如く、この処理では、まずS410にて、ディーゼルエンジンの回転速度NEとアクセル開度Accp とに基づき、図12(a)に示すマップを用いて、燃料噴射を早期噴射と主噴射とに分けて実行する際の燃料の早期噴射時期Tpre を算出し、続くS420では、ディーゼルエンジンの回転速度NEとアクセル開度Accp とに基づき、図12(b)に示すマップを用いて、燃料の主噴射時期Tmainを算出する。尚、早期噴射時期Tpre 及び主噴射時期Tmainは、ピストン上死点に対する進角量(詳しくはエンジンの回転角)にて規定される。
【0062】
ここで、図12(a)に示す早期噴射時期算出用マップは、回転速度NEが始動判定速度Nstart 以上で、かつ、アクセル開度Accp が所定開度AccpL以上の領域では、回転速度NEとアクセル開度Accp とに応じて、回転速度NEが大きく、またアクセル開度Accp が大きい程、早期噴射時期Tpre が多くなるように、早期噴射時期Tpre を設定し、これ以外の領域では、早期噴射時期Tpre を「0」に設定するようにされている。これは、上述したように、アクセル開度Accp が所定開度AccpL未満で機関負荷が小さいときや、エンジン始動直後で回転速度NEが始動判定速度Nstart よりも低いときには、早期噴射を禁止するためである。
【0063】
また、図12(b)に示す主噴射時期算出用マップは、回転速度NEが始動判定速度Nstart 未満の領域では、主噴射時期Tmainを予め設定された固定値とし、回転速度NEが始動判定速度Nstart 以上の領域では、回転速度NEとアクセル開度Accp とに応じて主噴射時期Tmainを設定するようにされている。また、回転速度NEが始動判定速度Nstart 以上の領域でも、アクセル開度Accp が所定開度AccpL以上で早期噴射が実行される領域と、アクセル開度Accp が所定開度AccpL未満で早期噴射が禁止される領域とでは、主噴射時期が異なるように(図5参照)、主噴射時期算出用のパターンが設定されている。
【0064】
次に、上記のように燃料の早期噴射時期Tpre と主噴射時期Tmainとが算出されると、今度はS430に移行し、これら各値を、冷却水温Twをはじめとする各種運転状態(例えば、吸気温,吸気圧,燃料温度等)に基づき補正する。そして、続くS440では、S430による補正後の早期噴射時期Tpre 及び主噴射時期Tmainを、夫々、実際にインジェクタ3のソレノイド43aを通電して早期噴射及び主噴射を実行させるためのインジェクタ3の駆動タイミングとしてメモりに記憶し、当該処理を一旦終了する。
【0065】
尚、この燃料噴射時期制御処理にてメモリに記憶されたインジェクタ3の駆動タイミングと、燃料噴射量制御処理にてメモリに記憶されたインジェクタ3の駆動パルス幅は、ディーゼルエンジンの回転に同期して実行される割込処理にて、駆動パルス出力用のタイマに駆動パルスの出力タイミング及び出力時間をセットするのに使用され、インジェクタ3は、このタイマから出力される駆動パルスに従い開閉弁される。
【0066】
以上説明したように、本実施例の燃料噴射装置1においては、インジェクタ3からの燃料噴射時の噴霧角度を、ソレノイド43aへの通電時間によって、広い噴霧角α1と、狭い噴霧角α2とに切り替えることができるようにし、インジェクタ3からの燃料噴射を早期噴射と主噴射(後期噴射)とに分けて実行させる際には、制御手段としてのECU9が、次のように動作するようにされている。
【0067】
即ち、ECU9は、燃料の早期噴射時には、インジェクタ3から広い噴霧角α1にて燃料が噴射されて、その燃料噴霧の着火時に、燃料噴霧がシリンダ内で層状となり、しかもその燃料噴霧の空燃比が可燃範囲内の希薄空燃比となるように、早期噴射量及び早期噴射時期を制御し、主噴射時には、インジェクタ3から狭い噴霧角α2にて燃料が噴射されて、その噴射された燃料噴霧が、早期噴射による層状の燃料噴霧の燃焼域で着火して、ピストン60に形成された燃焼室62に到達し、燃焼室62内で燃焼するように、主噴射量及び主噴射時期を制御する。
【0068】
このため、本実施例によれば、早期噴射による燃料噴霧が気筒内全域に分散されることによって、その燃料噴霧が過早着火してノッキングが発生したり、或いは気筒内の燃料混合気が希薄になり過ぎ、その希薄燃料混合気の燃焼によりHCが発生したり、着火できなくなる(換言すれば、失火する)、といったことを防止することができ、早期噴射の噴霧を所望の着火時期に確実に着火させることができる。
【0069】
また、早期噴射により形成される層状の燃料噴霧は、空燃比が可燃混合気範囲の希薄側となるので、着火により発生する熱を抑えて、冷炎燃焼させることができる。よって、濃い混合気の着火による急激な燃焼で発生するNOx,黒煙を低減でき、更には、騒音も抑制できる。
また、主噴射された燃料は、早期噴射による層状の燃料噴霧の冷炎燃焼域で着火するが、この着火時には、酸素不足の混合気の中で燃焼を開始することになるので、主噴射による燃料の燃焼時にも、着火直後の熱発生を抑制して、NOxが発生するのを抑制できる。そして、主噴射された燃料は、早期噴射による冷炎燃焼域で着火した後、冷炎燃焼域を抜けて、ピストン60の燃焼室62周囲に存在する空気から酸素の供給を受けて燃焼することから、黒煙の発生防止、出力及び燃費の向上を図ることもできる。また、燃料の主噴射量は、シリンダ内の空気と混ざって略理論空燃比となるように設定されるので、エンジン出力も十分確保できる。
【0070】
また更に、ECU9は、燃料噴射を早期噴射と主噴射とに分けて実行する領域を、ディーゼルエンジンの中・高負荷時に制限し、軽負荷時には、主噴射のみを実行するようにしているので、ディーゼルエンジンの全運転領域で、燃料噴射1回当たりの燃料噴射量が少なくなり過ぎて失火したりHCが増加するといった問題を防止することができる。
【0071】
以上、本発明の一実施例について説明したが、本発明は、上記実施例に限定されることはなく、種々の態様を採ることができる。
例えば、上記実施例では、インジェクタ3を、コモンレール5内の燃料圧を利用してニードル31を移動させるように構成したが、図13に示すように、通電によりソレノイド72が発生する磁力によってニードル74を直接移動させるインジェクタ70を用いるようにしてもよい。
【0072】
即ち、図13に示したインジェクタ70では、ニードル74が、その周囲に形成されたインジェクタ本体76側の油室76aから、ノズルボディ78側の燃料通路78aに至る開口部分を開閉することにより、図示しないコモンレールから供給された高圧燃料が、油室76aを通って、ノズルボディ78側の燃料通路78aに流入するのを調整できるようにされている。また、ニードル74は、通常は、インジェクタ本体74に組み込まれたコイル状のばね79の付勢力により、燃料通路78aの開口部分に着座して、燃料通路78aに燃料が流入するのを阻止し、周囲に設けられたソレノイド72が通電されたときに、その通電電流量に応じてソレノイド72が発生する磁力によって、燃料通路78aの開口部分を解放する方向に移動するようにされている。また、ノズルボディ78の燃料通路78aには、ニードル74に突設されたロッド74aが収納されており、そのロッド74aの先端には、上記実施例と同様に構成されたガイド部80が設けられている。
【0073】
このため、図13に示すインジェクタ70によれば、図14に示すように、ソレノイド72に流す駆動電流iにより、ニードルリフト量(延いては、ガイド部80により形成される渦巻き室82の高さ)を調整し、ノズルボディ78の噴孔78bから噴射される燃料の噴霧角αを変化させることができる。
【0074】
そして、このインジェクタ70を用いて、上記実施例と同様の制御を実行するのであれば、早期噴射時には、ソレノイド72に流す駆動電流iを、ニードルリフト量Lが「L1」となり、渦巻き室82の高さhが「ho+L1」となって、噴霧角αが広い噴霧角「α1」となる電流値i1に設定し、主噴射時には、ソレノイド72に流す駆動電流iを、ニードルリフト量Lが「L2」となり、渦巻き室82の高さhが「ho+L2」となって、噴霧角αが狭い噴霧角「α2」となる電流値i2に設定するようにすればよい。
【0075】
また、このインジェクタ70によれば、ソレノイド72に流す駆動電流iを変化させることにより、渦巻き室82の高さh,延いては噴霧角αを連続的に変化させることができるので、早期噴射や主噴射の際の噴霧角αを、エンジンの運転状態に応じて制御し、燃料噴霧の燃焼特性をより最適に設定することも可能である。
【0076】
また次に、上記実施例では、エンジン軽負荷時には、早期噴射を禁止し、主噴射のみを行うことにより、エンジン軽負荷時に失火やHCの増加といった問題が生じるのを防止するものとして説明したが、図15に示す如く、エンジン軽負荷時には、早期噴射のみを行い、主噴射を禁止するようにしてもよい。
【0077】
また例えば、上記実施例では、ディーゼルエンジンに対して燃料供給を行なう燃料噴射装置について説明したが、本発明は、ガソリンエンジンのシリンダ内に直接燃料を噴射供給する直噴式ガソリンエンジンの燃料噴射装置にも適用できるのはいうまでもない。
【0078】
また上記実施例では、早期噴射と主噴射(後期噴射)とを、夫々、1回の燃料噴射にて実現するものとしたが、早期噴射及び主噴射(後期噴射)を、夫々、複数回の燃料噴射にて実現するようにしてもよい。つまり、本発明は、早期噴射にて層状の燃料噴霧を形成し、それが着火した後、後期噴射による燃料噴霧が、層状の燃焼域で着火した後、シリンダ内の未燃焼の空気から酸素の供給を受けて完全燃焼できればよく、早期噴射及び後期噴射を行う燃料噴射回数については、適宜設定すればよい。
【図面の簡単な説明】
【図1】 実施例の燃料噴射装置全体の構成を表す構成図である。
【図2】 インジェクタの燃料の噴霧角度を変化させる実施例のガイド部の構造を従来装置と比較して表す説明図である。
【図3】 実施例のインジェクタの動作を説明する動作説明図である。
【図4】 実施例の燃料噴射装置において実行される燃料噴射制御の概要を説明する説明図である。
【図5】 実施例の燃料噴射装置における機関負荷に応じた早期噴射及び主噴射の実行パターンを説明する説明図である。
【図6】 実施例のECUにおいて燃料噴射制御のために実行されるメインルーチンを表すフローチャートである。
【図7】 図6のS200にて実行される燃料噴射量制御処理を表すフローチャートである。
【図8】 図6のS300にて実行される燃料噴射圧制御処理を表すフローチャートである。
【図9】 図6のS400にて実行される燃料噴射時期制御処理を表すフローチャートである。
【図10】 図7の燃料噴射量制御処理にて使用されるマップを表す説明図である。
【図11】 図8の燃料噴射圧制御処理にて使用されるマップを表す説明図である。
【図12】 図9の燃料噴射時期制御処理にて使用されるマップを表す説明図である。
【図13】 燃料の噴霧角度を調整可能なインジェクタの他の構成例を表す構成図である。
【図14】 図13に示したインジェクタの動作を説明する動作説明図である。
【図15】 機関負荷に応じた早期噴射及び主噴射の実行パターンの他の例を説明する説明図である。
【符号の説明】
1…燃料噴射装置、3,70…インジェクタ、5…コモンレール、7…燃料ポンプ、9…ECU(電子制御装置)、11…回転センサ、13…アクセルセンサ、17…圧力センサ、19…調量弁、31,74…ニードル、33,78…ノズルボディ、35,76…インジェクタ本体、37…ピストン、39…ロッド、43…三方弁、43a,72…ソレノイド、45…ワンウェイオリフィス、46…制御室、47…燃料タンク、48…逆止弁、49…絞り部、50,80…ガイド部、52…斜め溝、58,82…渦巻き室、60…ピストン、62…燃焼室。
Claims (5)
- 内燃機関の気筒内に燃料を直接噴射供給する燃料噴射弁と、
該燃料噴射弁からの燃料噴射を、内燃機関の1サイクル当たりに、早期噴射と後期噴射とに分けて実行させる制御手段と、
を備えた内燃機関の燃料噴射装置において、
前記制御手段は、
前記早期噴射された燃料が、早期噴射後の着火時期に、前記気筒内の所定領域にて均質な混合気濃度の噴霧を層状に形成し、該早期噴射の後の無噴射期間を隔てて前記後期噴射された燃料が、前記早期噴射により形成された層状の噴霧の燃焼域にて着火した後、該燃焼域を貫通して、前記所定領域外の前記気筒内の未利用空気を利用するように、前記燃料噴射弁を制御することを特徴とする内燃機関の燃料噴射装置。 - 前記燃料噴射弁は、燃料噴射により形成される燃料噴霧の角度を調整可能に構成され、
前記制御手段は、前記早期噴射時には前記燃料噴霧角度が広く、前記後期噴射時には前記燃料噴霧角度が狭くなるよう、前記燃料噴射弁を制御することを特徴とする請求項1記載の内燃機関の燃料噴射装置。 - 前記制御手段は、前記早期噴射によって形成された層状の燃料噴霧が可燃混合気範囲の希薄側となって冷炎燃焼するよう、内燃機関の運転状態に応じて、前記早期噴射時の燃料噴射量及び燃料噴射時期を制御することを特徴とする請求項1又は請求項2記載の内燃機関の燃料噴射装置。
- 前記制御手段は、前記後期噴射による燃料が気筒内で完全燃焼し、且つ、その燃焼による熱発生がピストンの上死点以降に最大となるように、内燃機関の運転状態に応じて、前記後期噴射時の燃料噴射量及び燃料噴射時期を制御することを特徴とする請求項1〜請求項3いずれか記載の内燃機関の燃料噴射装置。
- 前記制御手段は、内燃機関の軽負荷時には、前記燃料噴射弁からの燃料噴射を内燃機関の1サイクル当たりに1回の割で実行させることを特徴とする請求項1〜請求項4いずれか記載の内燃機関の燃料噴射装置。
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