JP3923403B2 - 土壌および地下水の浄化方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、化学物質により汚染された土壌および地下水を原位置で物理化学的に浄化する方法に関する。本発明の浄化方法は、例えば有機塩素化合物に汚染された土壌および地下水の浄化に好適に使用される。
【0002】
【従来の技術】
近年、土壌および地下水の様々な化学物質による汚染が顕在化し、その対策が急がれている。特に、洗浄剤として各種工場やクリーニング店で広く使用されているトリクロロエチレン、テトラクロロエチレン等の有機塩素化合物は、発癌性物質である疑いがあるため、これら有機塩素化合物による汚染には早急に対策を講じる必要がある。
【0003】
従来、有機塩素化合物で汚染された土壌や地下水の処理方法としては、汚染土壌を掘削して分解剤を混合する分解処理法、汚染地下水を揚水して曝気処理や活性炭吸着処理を行うポンプ・アンド・トリート法などが主に用いられてきた。
【0004】
しかし、土壌を掘削して分解剤を混合する分解処理法では、掘削に大規模な工事が必要であり、要する費用は多大なものとなる。しかも掘削による方法では、汚染土壌の上に建築物等がある場合、建築物の撤去等が必要となるため、浄化が困難なことも多い。また、地下水を揚水した後に処理を施すポンプ・アンド・トリート法では、浄化完了までに数年以上の年月を要する場合も多く、浄化期間の短縮が強く望まれている。
【0005】
これに対し、上記問題点を解決するために、掘削を行うことなく、土壌および地下水に原位置で水または薬剤を注入することにより、土壌および地下水を浄化する方法が提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。これらの浄化法において、通常、水は汚染化学物質の洗浄除去に使用され、薬剤は汚染化学物質の分解あるいは固定化(不溶化)に使用される。汚染化学物質の分解に使用される薬剤としては、過マンガン酸塩、過硫酸塩等の酸化剤が多く用いられる。また、水または薬剤は、通常、土壌中を地下水が流動する地下層である帯水層に注入される。
【0006】
【特許文献1】
特開2000−42537号公報
【特許文献2】
特開2000−51834号公報
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、土壌および地下水に原位置で薬剤を注入する方法では、薬剤はそれ自身が生物種に対して毒性を持つことが多いため、注入後の薬剤を帯水層中に放置することは好ましくない。また、土壌および地下水に原位置で水を注入する方法では、注入された水は汚染化学物質を含むため、この水を処理対象域外に漏洩させることは好ましくない。
【0008】
本発明は、前述した事情に鑑みてなされたもので、土壌および地下水に原位置で水または薬剤を注入することにより、土壌および地下水を効率的に浄化することができるとともに、注入した水または薬剤を処理対象域外に漏洩させずに地下から回収することができる土壌および地下水の浄化方法を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前述した目的を達成することができる最適なシステム構成の検討を水理学的な観点から行った。その結果、注入井戸の周囲にその注入井戸を囲うように少なくとも3本の揚水井戸を配置し、地下水および土壌への注入井戸からの水または薬剤の注入量と、揚水井戸からの地下水の揚水量とを適切にコントロールすることにより、処理対象域内の地下水および土壌の浄化を効率的に行うことができ、しかも注入した水または薬剤を確実に回収できることを見出した。
【0010】
本発明は、上述した知見に基づいてなされたもので、化学物質に汚染された土壌および地下水に原位置で水または薬剤を注入して土壌および地下水を浄化するに当たり、処理対象域に4本以上の井戸からなる井戸群を設置し、かつ、前記井戸群において1本の注入井戸に対しその注入井戸を囲うように3本以上の揚水井戸を配置して、前記井戸群の外周部分に存在する井戸を揚水井戸とし、前記注入井戸から土壌および地下水に水または薬剤を注入するとともに、前記各揚水井戸から地下水を揚水することを特徴とする土壌および地下水の浄化方法を提供する。
【0011】
本発明では、注入井戸から注入された水または薬剤が、汚染された土壌および地下水と接触することにより、汚染化学物質の洗浄除去、分解、固定化等がなされ、土壌および地下水が浄化される。この場合、本発明では、注入井戸から水または薬剤を注入しつつ、注入井戸を囲う3本以上の揚水井戸から地下水を揚水するので、水または薬剤は注入井戸からその周囲の各揚水井戸に向けて流れる地下水とともに注入井戸の周囲に広がり、処理対象域内の地下水および土壌の浄化が効率的に行われる。また、注入井戸から注入された水または薬剤を各揚水井戸から地下水とともに回収することができ、したがって注入した水または薬剤が処理対象域外に漏洩することを防止することができる。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、本発明についてより詳しく説明する。本発明において浄化対象とする物質は、化学物質に汚染された土壌および地下水であり、汚染化学物質としては、主にcis−1,2−ジクロロエチレン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン等の有機ハロゲン化合物を対象としているが、VOC(揮発性の有機化合物)以外の油、ダイオキシン類、芳香族化合物等による汚染はもとより、原位置で水または薬剤を注入して汚染化学物質の分解、洗浄、固定化等を行う種々の土壌および地下水の浄化処理に対して本発明は適用が可能である。
【0013】
本発明においては、処理対象域に4本以上の井戸からなる井戸群を設置し、かつ、上記井戸群において1本の注入井戸に対しその注入井戸を囲うように3本以上の揚水井戸を配置して、井戸群の外周部分に存在する井戸を揚水井戸とする。すなわち、1本の注入井戸のまわりを取り巻くように3本以上の揚水井戸を配置して、井戸群の外周部分に存在する井戸を揚水井戸とする。そして、注入井戸から土壌および地下水に水または薬剤を注入するとともに、各揚水井戸から地下水を揚水する。なお、水または薬剤の注入および地下水の揚水を行う地下層は、通常、前述した土壌中を地下水が流動する帯水層である。
【0014】
本発明における注入井戸および揚水井戸の配置例を図1に示す。図1において、注入井戸は●、揚水井戸は○で示してある。図1(a)は1本の注入井戸を3本の揚水井戸で囲った例、(b)は1本の注入井戸を4本の揚水井戸で囲った例、(c)は1本の注入井戸を6本の揚水井戸で囲った例、(d)は6本の注入井戸を配置するとともに、各注入井戸をそれぞれ4本の揚水井戸で囲うように計12本の揚水井戸を配置した例である。(d)の例では、一部の揚水井戸は2本以上の注入井戸を囲うために兼用されている。これらの中で特に好ましいのは、薬剤の影響範囲を広く取れる点、および井戸の掘削費用の点から、1本の注入井戸を4本の揚水井戸で囲う(b)、(d)の例である。
【0015】
本発明の範疇に入らず、本発明の効果を得ることができない注入井戸および揚水井戸の配置例を図2に示す。図2において、注入井戸は●、揚水井戸は○で示してある。(e)は1本の注入井戸と1本の揚水井戸とを対向配置した例、(f)は3本の注入井戸と3本の揚水井戸とを対向配置した例、(g)は1本の揚水井戸を4本の注入井戸で囲った例、(h)は1本の注入井戸のみを配置した例である。(e)、(f)の例では注入した水または薬剤が注入井戸の周囲に広がらず、(g)の例では注入した水または薬剤が処理対象域外に漏洩し、(h)の例では注入した水または薬剤の広がりが遅い上、水または薬剤が処理対象域外に漏洩する。
【0016】
本発明において、土壌および地下水に薬剤を注入する場合、薬剤として酸化剤を用い、汚染化学物質を酸化分解することが好ましい。酸化剤の種類に限定はなく、例えば過マンガン酸塩を用いることも考えられるが、過マンガン酸塩を用いた場合には、反応生成物として二酸化マンガンを生成して帯水層を閉塞する可能性があること、過マンガン酸塩は土壌中の有機物との反応性が高く薬剤消費量が増大すること、マンガンは水道法水質基準等で濃度規制されている物質であること、過マンガン酸塩は過硫酸塩に比べて水生生物に対する毒性が高いことなどから、本発明では酸化剤として過硫酸または過硫酸塩を用いることが特に適当である。過硫酸塩としては、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム等を用いることができる。注入した酸化剤の地下水中における濃度は、汚染化学物質の種類や土壌の性状等によって異なるが、概ね反応領域末端(浄化範囲の末端)において10mg/L以上、特に50mg/L以上であることが望ましい。
【0017】
注入井戸からの薬剤注入量、および注入井戸と揚水井戸との距離間隔は、その反応領域での薬剤の水理学的滞留時間が2時間以上、より望ましくは12時間以上となるように調整すればよく、また注入量に対する揚水量の比率は、等量から数倍の間で薬剤の処理対象域外への漏洩がなく、かつ薬剤の拡散が効率的に起こる範囲で決定すればよい。上記注入量および揚水量は、例えば地下水の基本流動式(連続の式)等を用いたシミュレーション計算により決定することができる。この場合、上述したシミュレーション計算に用いるパラメータとしては、浄化対象帯水層の透水係数、地層構造、地下水流れ方向、速度等を用いる。
【0018】
注入井戸から注入する薬剤の濃度(薬剤溶液中の薬剤濃度)は、汚染化学物質の濃度や種類により異なり、通常は現場における汚染水を用いたトリータビリティ試験の結果により決定されるが、概ね10〜100000mg/Lの範囲とすることが好ましく、薬剤溶液の保管等を考えると100〜50000mg/Lの範囲とすることが望ましい。薬剤は溶液としてタンクに保管し注入することも可能であるが、浄化が長期に渡る場合には固体のまま保存し、薬剤自動溶解装置等を用いて溶液を作成し、連続的に注入を行うことも可能である。
【0019】
揚水した地下水中に汚染化学物質が含まれている場合において、その地下水中に酸化剤が十分量残存しているときには、揚水後に適当な期間静置しておくだけでも分解が進行し、汚染化学物質は分解されるが、揚水した地下水に曝気処理、紫外線照射処理、オゾン添加処理等の1種以上の処理を行うことにより、揚水した地下水中に含まれている汚染化学物質を分解してもよい。このようにして処理した地下水は、河川放流、下水放流等を行うことができるが、この地下水の一部または全部に所定濃度となるように薬剤を添加して再注入を行う方法は、コスト的、またシステム的にも非常に有効である。すなわち、本発明では、揚水井戸から揚水した地下水の一部または全部に薬剤を添加した後、この薬剤を添加した地下水を再び注入井戸から土壌および地下水に注入することができ、これにより未反応薬剤の有効利用、揚水した地下水を再利用することによるコスト削減を図ることができる。
【0020】
地下水中は還元雰囲気になっていることが多く、その地下水中には2価の鉄イオンが含まれている場合が多い。この2価の鉄イオンは、揚水により空気と接触したり、酸化剤により酸化されたりすると酸化鉄となり、沈殿を生じる。この場合、揚水した地下水を注入用水として再利用するためには、酸化鉄や微細な土壌等の縣濁物をフィルタ処理や凝集沈殿処理等により除去することが適当である。
【0021】
【実施例】
以下に本発明を用いて行った実施例を示す。なお、この実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
【0022】
トリクロロエチレン(TCE)に汚染された土壌および地下水を浄化する手段として本発明方法を用い、現場にて浄化試験を行った。浄化対象範囲は10m×10mの正方形で、その中心部に配置した1本の注入井戸より酸化剤を注入し、4つの隅部に配置した計4本の揚水井戸より地下水の揚水を行うシステムとした。また、酸化剤の処理対象域外への流出の有無を確認するため、地下水流向の下流側において浄化対象範囲の外に観測井戸を設置した。
【0023】
地下水流解析プログラム(Mod Flow)を用いてシミュレーションを行ったところ、パーティクルトラッキング(注入物質を粒子と仮定して回収率を算出する手法)の結果より、注入井戸からの注入流量1m3/hrに対して、各揚水井戸からの揚水流量1m3/hr、計4m3/hrの流量バランスが最適と判断された。また、注入する酸化剤濃度は、現場の汚染地下水を用いたトリータビリティ試験の結果より1500mg/Lとした。
【0024】
その結果、浄化処理前の地下水中のTCE濃度は5.2mg/L、浄化処理開始後3ヶ月経過時の地下水中のTCE濃度は0.03mg/Lであった。また、浄化期間内において観測井戸で酸化剤は検出されなかった。さらに、シミュレーション結果を参考図面に示す。参考図面によれば、処理対象域内のTCEが分解されていること、酸化剤が処理対象域外に漏洩していないことがわかる。以上の結果より、本発明によれば、化学物質に汚染された土壌および地下水を、短期間で効率的にかつ安全に浄化することが可能であることが確認された。
【0025】
【発明の効果】
以上のように、本発明によれば、土壌および地下水に原位置で水または薬剤を注入することにより、土壌および地下水を効率的に浄化することができるとともに、注入した水または薬剤を処理対象域外に漏洩させずに地下から回収することができる。したがって、本発明によれば、化学物質に汚染された土壌および地下水を、短期間で効率的にかつ安全に浄化することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明における注入井戸および揚水井戸の配置例を示す図である。
【図2】本発明の範疇に入らない注入井戸および揚水井戸の配置例を示す図である。
【符号の説明】
● 注入井戸
○ 揚水井戸
Claims (4)
- 化学物質に汚染された土壌および地下水に原位置で水または薬剤を注入して土壌および地下水を浄化するに当たり、処理対象域に4本以上の井戸からなる井戸群を設置し、かつ、前記井戸群において1本の注入井戸に対しその注入井戸を囲うように3本以上の揚水井戸を配置して、前記井戸群の外周部分に存在する井戸を揚水井戸とし、前記注入井戸から土壌および地下水に水または薬剤を注入するとともに、前記各揚水井戸から地下水を揚水することを特徴とする土壌および地下水の浄化方法。
- 揚水井戸から揚水した地下水の一部または全部に薬剤を添加した後、この薬剤を添加した地下水を再び注入井戸から土壌および地下水に注入することを特徴とする請求項1に記載の土壌および地下水の浄化方法。
- 前記薬剤が酸化剤であることを特徴とする請求項1または2に記載の土壌および地下水の浄化方法。
- 前記酸化剤が過硫酸または過硫酸塩であることを特徴とする請求項3に記載の土壌および地下水の浄化方法。
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