JP3919574B2 - 銅合金系水道用資機材 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は上水道管路などに使用する水道用資機材に係る。
【0002】
【従来の技術】
わが国の水道水は世界的に見ても優秀で、蛇口からそのまま飲めるという数少ない安全、衛生上の高いレベルにあることは、海外旅行の経験者であれば容易に首肯される事実である。ところが近年は水道水の取水源自体に流れ込む原水へ、種々雑多な成分を含む雑排水が混入して水質は必ずしも万全でなくなっている。これは材料科学の急速な進展と共に上流部の住居、田園、山林、工場などから複雑な汚水が混じり、従来は想像もつかなかった異物が混入する他、大気そのものも多くの排気ガスや飛散浮遊する粉塵に汚染されて、水質保持の点で過酷な条件となりつつあるからである。
【0003】
水質に影響を与える異種成分を金属イオンだけに絞って検討してみると、本来、Fe,Zn,Mn,Cu,Moなどの金属元素は、人体内へ取り込まれると蛋白質などの生体分子と結合し、金属酵素や金属蛋白質、ビタミンなどの金属イオンの化合物として存在し、人間が生存するためには絶対欠かせない必須性が証明されているが、一方、その摂取量が過多となり、すべての量を排泄できないときは蓄積する元素もあって、金属イオンが生命の設計図である遺伝子と反応し、その正常な読取りや細胞の複製を阻害すると言われている。
【0004】
平成12年2月23日公布の官報によれば、厚生省令第15号で水道施設の技術的基準を定め、その第1条 一般事項の第17号ハとして、浄水又は浄水処理過程における水に接する資機材等の材質は、原則として別に定める方法で浸出させた浸出液が表に掲げる基準に適合することを求めている。表にはCd、Hg、Se、Pb、As、6価クロム、各種ジクロロエタン、ジクロロメタン等と並んでZn、Fe、Cuの金属成分の基準値もそれぞれ示されている。
【0005】
前記の基準のうち、Pbは子供の脳機能障害や成人の生殖機能不全の原因となる恐れがあり、Cdはイタイイタイ病、Mnはいわゆるマンガン病、Hgは神経障害の鉱害事件を引き起こした原因とされるから、厳しい規制の対象となるのは当然であるが、やや意外なのはZn、Fe、Cuについての規制である。何れも人体にとっては必須のミネラル成分であり、適当に接種しなければ健康上障害を起すと強調されている。たとえばZnが欠乏すると味覚障害を生じて食べ物の味が感知できなくなり、Feは血液中のヘモグロビンを生成する上で絶対不可欠の要素とされている。
【0006】
このような必須の金属成分も一定量を超えると別の意味で水道水としての水質の障害とする。それは前記のCd、Hg、Mnなど重金属の沈着による健康障害ではなくて、水道水として使用する上での不都合、欠陥によるものであって、たとえば過度のFeは白い洗濯物を変色させて衣服の価値を台無しにする他、飲料水としても金気を感じさせて甚だしく風味を損なう。過度のZnは水道水を白濁させて外観上、味覚上の価値を損なうし、過度のCuも無色透明であるべき水道水を変色させるなど、使用時の不具合、不都合を誘発する原因となるからである。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
前記の基準は人間の健康上、有害度の高い成分ほど許容される上限値が小さいことはいうまでない。たとえばCdは0.001mg/L以下、Hgに至っては0.00005mg/L以下、PbおよびMnも0.005mg/L以下と厳しい値が掲げられている。これに対して健康上の理由ではなくて使用上の問題点となるZnは0.1mg/L以下、Feは0.03mg/L以下、Cuは0.1mg/L以下を基準としているから、10倍、乃至100倍の許容レベルであることは事実である。
【0008】
ところがCu、Fe、Znの他、ときにはPb,Mnの金属成分は一般に材料そのものを構成する主成分であり、CdやHgその他ジクロロ系有機物質と同じ条件では論じられない。ジクロロ系有機物質は資機材表面を塩化ビニールでコーティングした場合に浸出するのであろうが、金属は材料そのものを形成するのであるから、異物として、または不純物として混入する場合とは異なり、条件としてはきわめて不利な前提に立たざるを得ない。
【0009】
発明者らは本発明の開発に先立って、市販される銅合金資機材のうち、最も標準的な製品として規格化されているJIS材や代表的なメーカ製造品について、予備調査を行なった。調査のポイントとして現時点で決定的とまでは言えないものの、一応、旧厚生省が省令として告示した浸出値を上限に設定し、この基準をクリアするかをチェックすることとした。浸出値の検出は前記官報の付則として指示されているが、これに基づいて日本水道協会が制定したJWWA Z 108 2000(水道用資機材 浸出試験方法)に従い、いわゆるコンディショニング(試験片表面を浸出液で予備的になじませる)は省略し、指示通り洗浄操作後、浸出用液で3回洗浄してこれに代えた。
【0010】
さらに浸出試験とは別に、機械的性質もまた用途によっては構造材として求められることが多い。水道用資機材は当然、管内からの水圧を常時受ける上、水流による動圧に曝されることも多いから、一応の目安として、普遍的に求められる数値がJIS C3771鍛造材相当の引張り強さ315MPa以上、伸び15%以上の2項目をクリアする機械的性質とするのが妥当と考えられる。これは単に水道水と接して浸出する作用を抑止するだけでなく、水路を構成する構造材として、たとえばバルブのめねじ駒など常に強度と靭性のバランスよき両立を求められる資機材の基本的な課題と解釈したからである。この基準に立って浸出値と強度・伸びの観点から従来材をリストアップしたのが表1、表2である。
【0011】
【表1】
【表2】
【0012】
これらの表からも判る通り、何れの従来材も浸出値については大なり小なり課題を抱えている。表1のJIS材のうち、CAC703ではCuが、またCAC403ではZnが何れも基準値の0.1mg/Lを超えているが、その割合は2倍以下の範囲に留まり、Cu,Znの規制を定めた主旨からみても必ずしも問題といえるほどの超過かどうか、議論のあるところである。しかしながらCAC703のMnと、CAC406のPbについては決して看過することはできないのではないか。
【0013】
MnおよびPbについて浸出基準値は0.005mg/LとCu,Znに比べて20倍の厳しさで規制されている。Mnイオンの欠乏と過剰の関係を見ると、Mnは体内に不足すると骨格変形、発育障害、糖尿病、などが挙げらける一方、過剰に摂り続けると肝硬変、神経障害、パーキンソン病などの原因となるほか、いわゆるマンガン病として有名な鉱毒事件を起こした歴史もあり、また、Pbについては欠乏による悪影響、いわゆる必須性は認められない上、許容以上に摂取すると腎不全、悪心、嘔吐から鉛脳症(痙攣、昏倒)など重大な事故な繋がる原因となる。とくにPb,Hgの場合は摂取量が全量排泄し切れずに体内に蓄積し、たとえばPbは肝臓、腎臓、皮膚(いわゆる鉛毒症)などに濃縮分布するという報告もある。何れにせよ。厚生省告示において、金属成分の規制としては、Cd,Hg,Seの0.001mg/Lに次いで厳しい数値で、かの悪名高き六価クロムと肩を並べる0.005mg/Lであることから見ても、その異常な毒性が懸念される証拠であると解釈される。
【0014】
このような観点からみる限り、JIS品についてMn,Pbの浸出値の超過は見逃せない大き過ぎるな割合であり、告示の主旨に照らしても規制すべき対象と言わざるを得ない。情報によれば厚生労働省当局では該告示の改正を平成15年4月1日の目標で立案中であって、ホームページによるパブリックコメント、WTOへ通知、公布、施行という手順と、見直しの対象はPbだけであり、従来の1/5に規制する案が有力視されているということである。これから言えば現行法でも相当に超過しているのに、ますます大幅な超過となってその深刻な課題は必ず解決しなければならない重要性を帯びてくる。
【0015】
本発明は以上述べた経過の下に、現在使用中の水道用資機材のJIS材や有力メーカによる市販品が基準値に達していない現状に鑑み、改めて該基準値との関連において合理的な材料の選択方法の提供を目的とする。
【0016】
【課題を解決するための手段】
本発明に係る銅合金系水道用資機材は、Zn:27.0〜35.0重量%、Al:1.0〜3.0重量%、および残部:Cuの成分で全面α相の組織よりなり、かつ、日本水道協会制定に基づく浸出試験法によって行なった浸出試験で、Cu,Zn,Fe以外の一切の規制対象金属を検出せず、かつ、引張強さ315MPa、伸び15%以上の機械的性質も満足することによって前記の課題を解決した。
【0017】
本発明はすでに課題の項でも述べたように旧厚生省告示の水道用資機材としての管理基準のうち、特に健康上有毒成分の排除を重視すると共に、JIS C3771鍛造材に相当する機械的性質で線を引いて篩にかけ、さらに本材料が実用材であることも重視して実用性からも選択を行なった。実用性とは端的に言えばコストを意味し、より直接的には材料費と同義である。この要素は本来、技術的思想の創作である発明とは別の次元で取り扱うべき要素かも知れないが、産業の発達に寄与するという法目的から解釈して敢えて選択の要件に加えたものである。如何に優秀な材料でも全くかけ離れたコストでは市場原理に叶うことができず、受け入れられることのない幻影に終わるからである。このように3種類のチェックによって篩にかけた結果、前記手段に記載した成分範囲に到達した経緯を辿る。
【0018】
このうち、Cuはいうまでもなく銅合金のベースをなす基本成分で構成の
大半を越えるが、浸出値の観点からは、Cuが70重量%を越えると浸出値が告示の基準をオーバする可能性が高まるので、その意味ではCu70重量%以下が必要である。CuとZnの合金は古来黄銅(真鍮)としてすでに紀元前から使用された記録が残っているほどである。黄銅は鋳造、塑性変形、共に容易であり、青銅(砲金 Cu−Snベース)に比較して価格も安いという特徴がある。
【0019】
黄銅のZn添加量は30〜45重量%までとされ、図1の平衡状態図からみると、α、βだけが実用上重要である。α相はCuにZnが固溶した相で、その結晶構造は面心立方格子であり、固溶度は完全に平衡状態であれば、20℃で約40重量%Znまではα単相組織であることをHansenが示している。β相は体心立方格子であり、20℃ではZn:40〜47重量%でα+β相となり、さらにβはβ’に変態する。
【0020】
管路を通過する水道水にO2、CO2などのガス体が溶存していることは避けられないが、これらが多いほど腐食も増加する。すなわち、浸出値が増加する。とくにCa塩類などを溶存すると、脱亜鉛腐食という特殊な現象を起こす。ZnはCuより電気化学的にはるかに卑であるから、O2などが溶存する中性塩類水溶液中に浸漬すると、まずβ相の陽極が溶解するが銅はそのまま残留して電池を形成し、結果的にZnのみが侵される局部腐食となるから、脱亜鉛を防止するにはα単一相に特定する必要がある。
【0021】
しかし、前記のCu:約70重量%以下、残りZnで、かつ全面α単相の目標と、引張り強度:315MPaを確実に両立させることは難しい。強度を向上させる最も効果的な成分としてAl系合金があり、以前からキャビテーションとエロージョンに優れており、冷却水流曝される復水器、熱交換器として定評がある。
【0022】
Alの添加と機械的性質の関係を知るため、発明者はAl添加量を変えて材料試験の結果として図化してみた。図2(A)はCu−35Zn−AlのAl量と引張強さの相関関係、同(B)はAl量と伸びの関係を示したもので、Alの添加と共に急激に強度は向上し、約3重量%でピークに達する。一方、伸びは急激に低下し、3重量%を越えると目標値の15%を切る恐れがでてくる。さらにAlは亜鉛当量が高くてβ相形成促進元素であるから、すでに述べた通り、局部腐食の発生や脱亜鉛現象を抑止するためにAl:3.0の添加が限界である。望ましくはAl:1.5〜3.0重量%に特定してβ相の析出を規制することが要件となる。
【0023】
【発明の実施の形態】
本発明の浸出試験は、厚生省令 第15号1号ハの規定の付則として公布された同告示45号に基づき、日本水道協会が平成12年3月24日に制定したJWWA Z108,Z110に拠る。主な手順を列挙すると以下の通りである。
▲1▼浸出用液の調整
蒸留、イオン交換法などで精製した精製水に有効塩素、次亜塩素酸ナトリウム、炭化水素カルシウム溶液を加えて基準とする水質を調整する。
▲2▼洗滌
水道水および前記精製水で試験材を洗滌する。
▲3▼コンディショニング
省略する。洗浄操作後、浸出用液で3回洗浄してこれに代える。
▲4▼浸出
浸出用液で満たして密封し、この水温を保持して16時間静置した後、浸出液を採取する。
▲5▼空試験
ガラス容器などに浸出用液を満たし、前記▲4▼と同じ試験を行なう。
▲6▼分析
前記▲4▼と▲5▼でそれぞれ得られた分析値の差をこの試験材の分析値とする。
各成分によって分析方法は指定されており、Zn、Cu、Feについてはフレームレス原子吸光光度法、またはICP法、ICP−MS法、あるいは吸光光度法などとなっている。今回の分析はICP法によって行なった。
【0024】
表3は前記過程を経て特定した範囲の実施例、および前記JIS材と市販品を比較例として、比較のために再録した浸出値および機械的性質、および厚生省告示の浸出基準値と、JIS C 3771鍛造材の材力との対比において、クリアするときは○、しないときは×として二分した。最後に単価を算出し、実用性、としてランク付けした。実用性は主観的な尺度であり、どこで線引きするか、難しいが、一応、JIS標準規格材や市販品との競合という意味で、220円/kg以下を○、以上を×として表わした。
【0025】
【表3】
【0026】
表3において、本発明の実施例は、Znの浸出値が基準値をかなり超えているが、これはZnを多量に含む合金成分として逃れられない本質的なものである。しかし、組織としてβ相(またはβ’相)が析出しない限度にZnを特定しているから、いわゆる脱亜鉛による大量の浸出には繋がらずに抑制されており、Zn量がかなり低いE材やK1材より余り大きく浸出せず、少し高いK2材よりはかなり浸出を抑制されており、一般の市販品レベルとほぼ同じと評価されるのではないか。Cuについては何れも基準値以下の浸出値を示し、Znが優先的に陽極酸化を受けていることを示唆している。Feは検定していないが、実施例、比較例を通じてFeを含まずFeイオンの溶出は考えられない。比較例2のMn、比較例3のPbについては既に述べたように水道用管路の機器として使用することは絶対に避けなければならない。
【0027】
材料試験では半数近くが強度または伸びの何れかが失格であったが、用途によってはこれで十分というケースもあり、短絡的に材質を否定することは正しくない。ただ、ここでは評価の尺度として篩分けのための線引きをしたに過ぎない。価格についても同様であり、安ければよいということでは決してないが、ほぼ同じレベルの品質、ここでは浸出値や材料試験の中から選ぶとすれば、コストの優位性は無視できない重要な要素である。
【0028】
結局、ここに掲げた実施例、比較例を総合評価すれば、すべての項目で×のない試験片はないが、それぞれの要素の重み付けから総括すれば、本発明実施例が他の比較例を優越し、次いでE材という結論が妥当なところである。
【0029】
【発明の効果】
AlはCu−Zn材の強度向上に即効性がある反面、β相形成促進元素で脱亜鉛を助長する成分と見るのが定説であるが、発明者のラボテストではそれほど単純な挙動とも解釈しかねる。AlがCu−Znの固溶体の一部に組み込まれ、侵入型の原子として結晶格子の構成要素となったとき、最もイオン化傾向の大きい金属であることに違いはないから、水道水中の溶存酸素と優先的に結合して緻密なγ−Al2O3微細結晶を晶出したとすれば、以後のZnの浸出を大幅に抑制する一面もあるのではないか。このように正と負がバランスすれば、必ずしも脱亜鉛の主役とは決め付けられず、本発明のようにα単相という要件を満たす限り、Znの選択的な腐食はかなり抑制されるのではないか。
【0030】
本発明はこのような経緯を辿って厚生省告示の浸出という新しい尺度から水道用資機材としての適性を再チェックし、全く新しい材料選択の概念を世に問う効果があると信ずる。材料自身についてZnの浸出基準値との差をどう判断するかという問題は残るが、人体への影響度、構造物としての価値、経済的な優位性などから総合的に判断すれば、現時点ではベストの材料を特定できた効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】Cu−Znの平衡状態図である。
【図2】Al含有量と引張り強度の関係図(A)と、同伸びの関係図(B)である。
Claims (1)
- 水道用資機材として上水道の管路へ使用する資機材において、Zn:27.0〜35.0重量%、Al:1.0〜3.0重量%、および残部:Cuの成分で全面がα相の組織よりなり、かつ、日本水道協会が平成12年3月24日に制定したJWWA Z108,Z110に基づく浸出試験法によって行なった浸出試験で、Cuが0.1mg/l未満、Pbが0.005mg/l未満、及びMnが0.005mg/l未満であり、かつ、引張強さ315MPa以上、伸び15%以上の機械的性質も満足することを特徴とする銅合金系水道用資機材。
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