JP3917766B2 - 水洗乾燥性、耐食性に優れた容器用熱可塑性樹脂積層鋼板 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、金属容器用の熱可塑性樹脂積層鋼板に関するものである。特に、缶形状に加工後、脱脂あるいは化成処理の後水洗乾燥工程での皮膜健全性が良好であり、さらに、内容物の長期保存性に優れる絞り缶及び絞りしごき缶用の熱可塑性樹脂積層鋼板に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、金属缶の内面には腐食防止として一般的には塗装が施こされているが、有機溶剤を用いずに熱可塑性樹脂を表面に積層した金属板を容器用金属板として使用する開発が行なわれている。即ち、(1)二軸配向ポリエチレンテレフタレートフィルムを低融点ポリエステルの接着層を介してラミネートし、製缶材として用いる方法(特開昭56−10451号公報、特公平1−192546号公報)、(2)非晶質又は低結晶性の芳香族ポリエステルフィルムを金属板にラミネートし、製缶材として用いる方法(特開平1−192545号公報、特開平2−57339号公報等)、(3)低配向ポリエチレンテレフタレートフィルムを金属板にラミネートし、製缶材として用いる方法(特開昭64−22530号公報等)など多層構造あるいは複合構造のポリエステルフィルムを金属板にラミネートし、製缶材として用いる方法(特開平6−297644号公報、特開平6−320658号公報等)が提案されてきた。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、製缶工程において、成形加工後、潤滑油をアルカリ脱脂、水洗乾燥が行われると、乾燥工程で樹脂皮膜にブリスターが発生し、熱可塑性樹脂皮膜に欠陥が発生し製缶された缶体に内容物を充填した場合に腐食が発生することが問題であった。
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであり、製缶工程での水洗乾燥性及び缶体成形後の耐食性に優れた熱可塑性樹脂積層鋼板を提供することを目的とするものである。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明は、以上の課題を解決するためになされたものであり、
(1)少なくとも容器の内面となる鋼板の表面粗度Raが0.7μm以下で、該鋼板表面に錫めっき層を有しその上層に金属Cr層さらに水和酸化クロム層、さらにその上層に熱可塑性樹脂皮膜層を有することを特徴とする水洗乾燥性、耐食性に優れた熱可塑性樹脂積層鋼板。
(2)上記の錫めっき量が2.8g/m2 以下であることを特徴とする前記(1)に記載の水洗乾燥性、耐食性に優れた熱可塑性樹脂積層鋼板。
【0005】
(3)少なくとも容器の内面となる鋼板の表面粗度Raが0.7μm以下で、該鋼板表面に金属Cr層さらに水和酸化クロム層、さらにその上層に熱可塑性樹脂を有することを特徴とする水洗乾燥性、耐食性に優れた熱可塑性樹脂積層鋼板。
(4)金属Cr付着量が1〜300mg/m2 でかつ水和酸化クロム付着量がクロムとして5〜30mg/m2 であることを特徴とする前記(1)、(2)及び(3)に記載の水洗乾燥性、耐食性に優れた熱可塑性樹脂積層鋼板。
【0006】
(5)外面となる他の鋼板表面に0.8〜8g/m2 の錫めっき層を有することを特徴とする前記(1)、(2)、(3)及び(4)に記載の水洗乾燥性、耐食性に優れた熱可塑性樹脂積層鋼板。
(6)熱可塑性樹脂がポリエステル組成物主体であることを特徴とする前記(1)、(2)、(3)、(4)及び(5)に記載の水洗乾燥性、耐食性に優れた熱可塑性樹脂積層鋼板である。
【0007】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明は水洗乾燥でのブリスター発生を防止するためになされたものであり、熱可塑性樹脂積層鋼板は少なくとも容器の内面となる母材鋼板の表面粗度Raが0.7μm以下であることと、金属Cr層さらに水和酸化クロム層を有し、その上層に熱可塑性樹脂皮膜を有することが重要である。
水洗乾燥でのブリスターは乾燥温度が低い場合、或いは昇温速度が遅い場合には発生しない。しかし、生産性上短時間での乾燥を行う場合、すなわち高温への短時間で昇温する場合に発生する。
【0008】
ブリスターの発生メカニズムは完全に解明されたものではないが、種々検討し、以下のような推定に至った。缶体の樹脂皮膜上に付着した水滴の沸騰中に水蒸気が皮膜を透過して浸入し、沸騰が終了してラミネート皮膜温度が急激に上昇し始めると皮膜内に浸透した水蒸気が急激に膨張して、皮膜をふくらませ、さらに膨張を続けると皮膜が破れて、萎み、ブリスターに至ると推定される。従って、樹脂皮膜の水蒸気透過性を低下させることが有効と考えられたが、それ以外に、熱可塑性樹脂積層鋼板の母材によってもブリスター発生に差異が認められることから、本発明に至ったものである。
【0009】
具体的には、ブリスターの発生を抑えるためには、少なくとも容器の内面側の母材鋼板の表面粗度Raを0.7μm以下にすること、さらに金属Cr層を下層に有する水和酸化クロム層上に樹脂皮膜を有することが重要であることを見出した。即ち、樹脂の密着性を確保するためには、樹脂の直下に水酸化クロムの層が必要であるが、その更に下層に金属Cr層を所定量存在せしめることでその更に下層のSnあるいは地鉄の酸化による密着性の劣化を防止することが可能であることを知見した。
【0010】
金属Cr付着量は1〜300mg/m2 が好ましい。1mg/m2 未満ではブリスターの発生を抑えにくい。300mg/m2 超では効果が飽和し、経済的に不利となる。また、水和酸化クロム付着量はCr換算で5〜30mg/m2 が好ましい。5mg/m2 未満ではブリスターの発生を抑える効果が弱く、30mg/m2 超では効果が飽和し、外観が青みを帯びて好ましくない。
また、金属Cr層の下層に錫めっき層を有する場合には、錫めっきの目付け量が2.8g/m2 以下であることがブリスターの発生を抑える上で好ましい。
容器の外面となる他の鋼板表面を0.8〜8g/m2 の錫めっき層とすることにより絞りしごき成形性を向上させることができる。
【0011】
本発明の熱可塑性樹脂積層鋼板の母材となる鋼板の板厚、硬度は特に限定するものではないが、通常、板厚t0 :0.12〜0.60mmの範囲にあり、硬度(HR30T)46〜7を有するものが好ましい。
本発明における樹脂皮膜としては、ポリエステル系樹脂、ナイロン系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体、アイオノマーなどの変性オレフィン樹脂、ポリビニルアルコールおよびその共重合体、アクリル系樹脂単体およびその混合物等からなる樹脂の単層及び複層フィルムを挙げることができる。
【0012】
特にその中でも、コスト、フレーバー性の点からポリエステル組成物主体であることが好ましい。ポリエステル組成物としては、特に限定されないが、代表的なものとして以下の例を挙げることができる。酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸のような芳香族二塩基酸、アジピン酸、セバチン酸、アゼライン酸、ドデカジオン酸のような脂肪族ジカルボン酸、ダイマー酸、シクロヘキサンジカルボン酸のような脂環族ジカルボン酸等が例示できる。又アルコール成分としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオールのような脂肪族ジオールを挙げることができる。これらを1種以上組み合わせて使用される。例えば好ましい例として、酸成分としてテレフタル酸75モル%以上、アルコール成分としてエチレングリコール85モル%以上よりなるポリエステル組成物を挙げることができる。
【0013】
また、本発明における樹脂皮膜厚みは特に限定されないが、2〜80μm程度が適当であり、好ましくは8〜60μm、更に好ましくは12〜40μmの範囲である。表面層、接着層の厚さ比は特に限定されないが、表面層の厚さとしては1〜10μmであることが望ましい。
【0014】
【実施例】
本発明の実施例及び比較例について説明する。
板厚0.24mmのHRT63で所定の表面粗度を有する冷延鋼板を公知の方法で脱脂、酸洗を施し、(1)に示す条件で錫めっきを行い、次いで、或いは錫めっき無しで(2)に示す条件でクロメート処理を行った。なお、錫めっき及び電解クロメートの付着量は、電流密度及び通電時間によって制御した。
その後、上層が融点230℃、厚み3μm、下層が融点210℃、厚み27μmでテレフタル酸とイソフタル酸とエチレングリコールから重合されるポリエステル樹脂フィルム或いは融点225℃、厚み30μmのナイロン6からなるポリアミドフィルムを積層条件(3)或いは(4)で積層した。
【0015】
樹脂積層鋼板は、加工条件(5)または(6)で加工を行い、アルカリ脱脂の後、水洗水に純水を用いて水洗し、熱風温度を220℃とし、熱風炉内の滞留時間を2分間、60秒で缶体温度が210℃となる条件で乾燥した。ここで、熱可塑性樹脂皮膜のブリスターの発生状況を目視にて観察した。観察後、印刷焼き付け工程を経た缶に、耐食性評価として内容物として炭酸飲料(コカコーラ)を充填し、37.5℃の恒温槽で3ヶ月貯蔵し、腐食の状況を観察した。
【0016】
(1)錫めっき条件
浴組成
硫酸錫:85g/l
フェノールスルフォン酸(酸度を硫酸に換算):15g/l
エトキシ化αナフトール: 10g/l
浴温: 45℃
陰極電流密度: 5〜30A/dm2
【0017】
(2)電解クロム酸処理条件
浴組成
無水クロム酸: 30g/l
フッ化ナトリウム:1.2g/l
浴温度; 45℃
陰極電流密度: 0〜50A/dm2
【0018】
(3)積層条件1(ポリエステルフィルム)
ポリエステルフィルムは初期圧着時鋼板温度:210℃で圧着された後、後加熱時鋼板温度:230℃まで加温されたのち、40℃の水中で急冷した。
(4)積層条件2(ポリアミドフィルム)
ポリアミドフィルムは初期圧着時鋼板温度:215℃で圧着された後、後加熱時鋼板温度:230℃まで加温されたのち、40℃の水中で急冷した。
【0019】
(5)成形方法1
2回絞り3回しごき成形による絞りしごき缶を成形した。成形条件をブランク径126mm、1段絞り比1.75、2段絞り比1.35、しごきパンチ径:52.80mm、総しごき率:67%とした。
(6)成形方法2
3回の絞り成形により、深絞り缶を成形した。成形条件をブランク径187mm、1段絞り比1.50、第1次再絞り比1.29、第2次再絞り比1.20とした。
以上の試験結果を表1に示す。
【0020】
【表1】
【0021】
【発明の効果】
以上述べたごとく、本発明の容器用熱可塑性樹脂積層鋼板は、製缶工程での水洗乾燥性及び缶体成形後の耐食性に優れた材料であり、絞り缶、絞りしごき缶用に用いられるだけでなく、缶蓋、イージーオープン可能な缶蓋、王冠、キャップ類などの容器材料としても、広く適用可能である。
Claims (6)
- 少なくとも容器の内面となる鋼板の表面粗度Raが0.7μm以下で、該鋼板表面に錫めっき層を有しその上層に金属Cr層さらに水和酸化クロム層、さらにその上層に熱可塑性樹脂皮膜層を有することを特徴とする水洗乾燥性、耐食性に優れた熱可塑性樹脂積層鋼板。
- 錫めっき量が2.8g/m2 以下であることを特徴とする請求項1に記載の水洗乾燥性、耐食性に優れた熱可塑性樹脂積層鋼板。
- 少なくとも容器の内面となる鋼板の表面粗度Raが0.7μm以下で、該鋼板表面に金属Cr層さらに水和酸化クロム層、さらにその上層に熱可塑性樹脂皮膜層を有することを特徴とする水洗乾燥性、耐食性に優れた熱可塑性樹脂積層鋼板。
- 金属Cr付着量が1〜300mg/m2 でかつ水和酸化クロム付着量がCr量換算で5〜30mg/m2 であることを特徴とする請求項1、2及び3に記載の水洗乾燥性、耐食性に優れた熱可塑性樹脂積層鋼板。
- 外面となる他の鋼板表面に0.8〜8g/m2 の錫めっき層を有することを特徴とする請求項1、2、3及び4に記載の水洗乾燥性、耐食性に優れた熱可塑性樹脂積層鋼板。
- 熱可塑性樹脂がポリエステル組成物主体であることを特徴とする請求項1、2、3、4及び5に記載の水洗乾燥性、耐食性に優れた熱可塑性樹脂積層鋼板。
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