JP3916653B2 - チタン結合性フェリチン及び無機粒子の配置方法 - Google Patents

チタン結合性フェリチン及び無機粒子の配置方法 Download PDF

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Description

【技術分野】
【0001】
本発明は、チタンを認識して結合するペプチドによって表面を修飾したチタン結合性フェリチンを、基板表面のチタンに選択的に配列させる方法に関する。また、本発明は、チタン結合性フェリチンに内包させた無機粒子を、基板上に形成されたチタンに規則的に配置する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基板上に配置したタンパク質及び無機物からなる粒子(無機粒子)は、触媒、センサー、バイオチップ、トランジスター、半導体レーザー、磁気ディスク、ディスプレイ等の工業分野で、注目されている。特に、工業的に無機粒子を応用する際には、無機粒子を特定の領域に選択的に配置したり、ナノサイズの微小な領域に規則的に配置したりするパターニング技術が求められている。また、近年では、バイオセンサーをはじめとする総合的な分析システムの微小化を目的に、微小化学物質分析システム(Micro Total Analysis System (μTAS))への応用も注目されている。その背景には、生体適合性の向上、大量生産による低コスト化やその場での計測(ポータブル)を可能とするなどの利点があげられる。
【0003】
固体表面上にタンパク質や無機粒子を選択的に配置することは極めて困難な技術である。即ち、タンパク質や無機物の表面に自己認識機能を持たせることが極めて困難だからである。生体分子であるタンパク質を用いて微細パターンを形成する方法としては、フォトリソグラフィーを応用した方法(非特許文献1参照)、マイクロコンタクトプリンティング(非特許文献2参照)、ディップペンナノリソグラフィー(非特許文献3参照)等の方法が知られている。しかし、量産性とコストの観点から、ナノサイズ領域で微粒子をパターニングする技術が要求されている。また、タンパク質分子で囲むナノサイズの粒子を規則的に配置する方法は、特許文献1に開示されている。
【0004】
これらの方法には選択的に粒子を配置するためにSAM膜(自己組織化単分子膜)やLB膜(単分子累積膜)等の表面に加工を施し、さらにフォトリソグラフィー等を組み合わせて、粒子のパターニングを行ったり、AFM(Atmic Force Microscope:原子間力顕微鏡)等のナノプローブで基板にパターンを直接描画する等して、選択的に無機粒子を配置する領域を基板上に形成した後に、無機粒子を配置する手段が用いられている。
【0005】
ここで、従来法(特許文献1)によるLB膜(PBLH膜)を用いた無機粒子の配置方法を、図1(a)〜(h)に示す。
【0006】
まず、図1(a)に示す工程において、テフロン(登録商標)製の水槽10にバッファ11を貯め、このバッファに無機粒子20を内包する天然フェリチン21を分散させる。
【0007】
次に、図1(b)に示す工程において、溶液の液面にPBLH膜30を張り、適当な酸・アルカリ溶液でpH調整を行う。PBLH膜表面が正電荷を帯びているのに対し、フェリチンは負電荷を帯びているために、天然フェリチンはPBLH膜に付着する。
【0008】
次に、図1(c)に示す工程において、疎水性表面処理を施した基板(シリコン基板)40を、PBLH膜を張った液面に浮かべて、基板に天然フェリチンが付着したPBLH膜を貼り付ける。
【0009】
次に、図1(d)に示す工程において、天然フェリチンが付着したPBLH膜を貼り付けたシリコン基板40を水槽から取り出す。
【0010】
次に、図1(e)に示す工程において、天然フェリチンの付着した面の表面を緩衝溶液11で覆った後、適当なマスクパターン50を用いて、紫外線照射を行う。紫外線照射された領域の天然フェリチンは分解され、溶液中に分散する。
【0011】
次に、図1(f)に示す工程において、図1 (e) に示すパターニングを行なったシリコン基板40を水洗する。
【0012】
次に、図1(g)に示す工程において、シリコン基板40を乾燥させ、無機粒子を内包する天然フェリチンのパターン配置を得る。
【0013】
その後、図1(h)に示す工程において、不活性ガス60中(例えば窒素中)で500℃の熱処理を行い、無機粒子を内包する天然フェリチン及びPBLH膜を焼失させ、基板上に無機粒子を二次元的にパターン配置する。この構造は、さらに前述したデバイスに必要な構造に加工される。
【特許文献1】
特開平11−204774号公報
【非特許文献1】
A. S. Blawas, W. M. Reichert, Biomaterials, 19, 595 (1998)
【非特許文献2】
A. Bernard, J. P. Renault, B. Michel, H. R. Bosshard, E. Delamarche, Adv. Mater., 12, 1067 (2000)
【非特許文献3】
K. B. Lee, S. J. Park, C. A. Mirkin, J. C. Smith, M. Mrksick, Science, 295, 1702 (2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかし、上記従来方法では、基板側にSAM膜を形成し、該SAM膜に紫外線を用いてパターニングしたり、無機粒子の吸着膜であるLB膜を基板との中間層として利用するため、工程が複雑になったり、SAM膜やLB膜の構成物質又は溶液に含まれる不純物が、無機粒子の配置表面に残ってデバイスへの悪影響を引き起こす可能性がある。そこで、本発明の目的は、高い量産性と低いコスト下で、中間層を必要とせず、無機粒子側に基板上の基材認識性を持たせることで、特に、直径が数〜数十ナノメートル程度の無機粒子を、必要な領域に必要な量だけ選択的、規則的に配置する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するために、本発明は、フェリチンのN末端部を、チタンを認識して結合するペプチドで修飾するによって、フェリチンと基板表面のチタンとの結合力を制御することを特徴とする。このペプチドの働きにより、フェリチンと基板間の結合力を制御し、チタン部分に選択的にフェリチンを吸着及び配置することが可能である。すなわち、基板上のチタン又はそれ以外の部分とフェリチンが本来持つ結合力を強めたり、逆に弱めたりする能力(自己認識能力)を、フェリチン自身に持たせることが可能となる。
【0016】
ここで、「フェリチンのN末端部をペプチドで修飾する」とは、フェリチンのN末端のアミノ酸残基(メチオニン残基)をチタン結合性ペプチドで置換すること、フェリチンのN末端にチタン結合性ペプチドを付加すること、及びフェリチンのN末端部のアミノ酸配列にチタン結合性ペプチドを挿入することのいずれをも含む。
【0017】
また、チタン結合性フェリチンに無機粒子を内包させれば、基板上のチタンに、チタン結合性フェリチンが内包する無機粒子を配置することも可能となる。
【0018】
一方、チタン結合性フェリチンに無機粒子を内包させなければ、基板上のチタンには無機粒子が配置されず、チタン結合性フェリチンでチタンを保護することが可能となる。
【0019】
ここで、ある物質に特異的結合・吸着するアミノ配列を決定する手法として、ファージペプチドライブラリーによるバイオパニング(Biopanning)法がある。この手法は、ランダムなペプチド配列をディスプレイしたファージ(大腸菌に感染するウィルス)集団を用い、この中から特定物質に選択的に結合するペプチドをスクリーニングする手法である。
【0020】
この手法は、生体分子間について、特定物質への特異的相互作用を解明したり、多機能マイクロ遺伝子のデザインや天然タンパク質には存在しない新しい組み合わせの複合機能をもった人工タンパク質を合成したりすることができる技術である。近年では、この技術により金属等の無機物質に特異的に結合する人工ペプチドを合成することが可能となっている。
【0021】
本発明は、このバイオパニング法を用いてチタンに特異的に結合するアミノ酸配列のペプチドを単離し、そのペプチドを表面に修飾したフェリチンであるチタン結合性フェリチンの配置方法である。
【0022】
また、本発明は、チタン結合性フェリチンと基板上のチタンとの結合力を、非イオン性界面活性剤によって、さらに選択的に制御することを特徴とする。非イオン性界面活性剤は、基本的にタンパク質と無機物である基板との界面に作用して、両者の結合力を弱める働きを有するが、この働きによりチタン結合性フェリチンと、基板上のチタン以外の無機材料との間の結合力のみを弱めることが可能である。すなわち、この手法により、チタン結合性フェリチンの基材選択性(粒子配置必要領域と不必要領域に吸着するタンパク質の比率)を高めたり、配置必要領域に吸着するチタン結合性フェリチンの吸着量を効果的に制御することが可能となる。
【0023】
具体的に、本発明は、サブユニットN末端部にチタンを認識して結合する配列番号:1に記載のペプチドを修飾したチタン結合性フェリチンを含む溶液を、表面の一部にチタンが形成された基板上に滴下することによって、前記チタン結合性フェリチンを選択的に前記チタンに結合させる結合工程を有するフェリチンの配置方法であって、
前記結合工程の後、前記チタン結合性フェリチン以外のフェリチンを含む溶液を前記基板上に滴下し、それによって前記チタン結合性フェリチン以外のフェリチンを、前記基板上の前記チタン以外の部分に配置する配置工程を有する、フェリチンの配置方法に関する
【0024】
フェリチンのサブユニットN末端部を、チタンを認識して特異的に結合するペプチド(配列番号:1)で修飾することにより、フェリチンと基板上のチタンとを特異的に結合させることが可能となり、基板上のチタンにフェリチンを選択的に配置することができる。
【0025】
前記溶液が、さらに非イオン性界面活性剤を含み、前記結合工程の後に、前記基板上から非イオン性界面活性剤を除去する除去工程を含むことにより、チタン結合性フェリチンの選択性をより高めることが可能となる。チタン結合性フェリチンを基板のチタン上に選択的に配置させた後、基板を洗浄することによって、非イオン性界面活性剤を除去することができる。
【0026】
前記結合工程の前に、非イオン性界面活性剤により前記基板を被覆する被覆工程を有することによっても、同様の効果を得ることができる。
【0027】
いずれの場合であっても、非イオン性界面活性剤の濃度は、0.006 v/v%以上10 v/v%以下であることが好ましい。
【0028】
フェリチンは、内部に空間を有するため、チタン結合性フェリチンに無機粒子(例えば、Fe2O3)を内包させることもできる。
【0029】
前記結合工程の後、前記チタン結合性フェリチン以外のフェリチンを含む溶液を前記基板上に滴下し、それによって前記チタン結合性フェリチン以外のフェリチンを、前記基板上の前記チタン以外の部分に配置すること可能である。
【0030】
チタン結合性フェリチンが配置された前記基板を加熱することにより、チタン結合性フェリチンを分解し、それにより、チタン結合性フェリチンに内包されていた無機粒子を、前記基板のチタン上に選択的に固定し、かつ、配置することも可能である。
【0031】
すなわち、本発明は、無機粒子の配置方法であって、
前記無機粒子を内包すると共に、サブユニットN末端部にチタンを認識して結合する配列番号:1に記載のペプチドを修飾したチタン結合性フェリチンを含む溶液を、表面の一部にチタンが形成された基板上に滴下することによって、前記チタン結合性フェリチンを選択的に前記基板上のチタンに結合させる結合工程と、
前記基板を加熱して前記チタン結合性フェリチンを分解する分解工程と、
を有する無機粒子の配置方法に関する。
【0032】
また、本発明は、無機粒子の配置方法であって、
サブユニットN末端部にチタンを認識して結合する配列番号:1に記載のペプチドを修飾したチタン結合性フェリチンを含む溶液を、表面の一部にチタンが形成された基板上に滴下することによって、前記チタン結合性フェリチンを選択的に前記基板上のチタンに結合させる結合工程と、
無機粒子を内包する前記チタン結合性フェリチン以外のフェリチンを含む溶液を前記基板上に滴下し、それによって前記無機粒子を内包するフェリチンを、前記基板上のチタン以外の部分に配置する配置工程と、
前記基板を加熱して前記基板上のフェリチンを分解する分解工程と、
を有する無機粒子の配置方法に関する。
【0033】
上記チタン結合性フェリチンの配置方法を用いて、基板上のチタンにチタン結合性フェリチンを選択的に配置することにより、チタン結合性フェリチンの有する性質を利用したバイオデバイスを作成することが可能である。
【0034】
バイオデバイスの例として、バイオセンサー又はバイオチップを掲げることができる。
【0035】
本発明の上記目的、他の目的、特徴及び利点は、添付図面参照の下、以下の好適な実施態様の詳細な説明から明らかにされる。
【発明の効果】
【0036】
本発明のチタン結合性フェリチンの配置方法によれば、チタン結合性フェリチン及びそれが内包する無機粒子を基板上へ配置及び固定する際に、フェリチンと基板上に形成されたチタンとの物理的吸着力を、フェリチン表面(N末端部)にチタンを認識するペプチド(配列番号:1)を修飾することにより制御可能であり、基板上へのフェリチンの2次元的な規則配置をも可能となる。本発明のチタン結合性フェリチンの配置方法は、高い量産性とコストパフォーマンスで、必要な領域に必要な量の無機粒子を配置させたり、高精度で規則的に無機粒子を基板上に配置させたりすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下に、本発明の実施の形態について、適宜図面を参照しながら説明する。なお、本発明はこれらに限定されるものではない。
(本発明の概念)
最初に、本発明の概念を説明する。ここでは、チタン結合性フェリチンの配置方法と基板上への無機粒子の配置方法とを説明する。
[チタン結合性フェリチンの配置方法]
図2は、本発明のチタン結合性フェリチンの配置方法を概念的に示すフローチャートである。
【0038】
図2に示すように、本発明のチタン結合性フェリチンの配置方法は、ステップS1〜S3の3つの工程を有している。
【0039】
まず、ステップS1の工程において、チタン結合性フェリチンを含む溶液を準備(調製)する。
【0040】
次に、ステップS2の工程において、チタンが形成された基板上に、ステップS1で調製した溶液を滴下する。それにより、チタン結合性フェリチン自身が、基板上に形成されたチタンを認識し、特異的に結合する。
【0041】
なお、ステップS1とステップS2の間に、ステップS1で調製した溶液に非イオン性界面活性剤を添加するステップS3の工程を行ってもよい。本発明のチタン結合性フェリチンの配置方法においては、非イオン性界面活性剤を添加することにより、チタン結合性フェリチンの、チタンに対する選択的結合性を向上させることが可能である。
【0042】
また、ここではステップS1とステップS2を、それぞれ独立した工程として説明しているが、ステップS1とステップS2を同時に一つの工程として行うことも可能である。
【0043】
なお、本発明の実施の形態においては、比較例として、ステップS1で用いるチタン結合性フェリチンの代わりに、天然フェリチン(ウマ脾臓由来)を使用した。以下、これらの微粒子の製造方法を説明する。
<チタン結合性ポリペプチドの単離>
図3(a)〜(g)を参照しつつ、上述のバイオパニング技術による、チタンに特異的に結合するペプチドの単離方法について説明する。この方法では、大腸菌に感染する繊維状ファージを利用する。ファージは、数種のコートタンパク質に直接覆われた構造を持つ。これらのコートタンパク質遺伝子のいずれかに外来遺伝子を挿入し、その産物をコートタンパク質としてファージ粒子70の特定部位に提示(ディスプレイ)させることができる。ランダムな合成DNAを挿入することで、N末端にあらゆるペプチド配列71を有するペプチドライブラリーが作製可能である。
【0044】
具体的には、図3(a)に示す工程において、ファージ粒子70を準備する。ここでは、左端のファージ粒子70aがターゲットに対する親和性を有するペプチド配列71aを有している。
【0045】
次に、図3(b)に示す工程において、ファージペプチドライブラリーを用いて、あるターゲット(本発明では、チタン)に対する親和性(結合性)に基づいてスクリーニングを行う。具体的には、ターゲットにファージペプチドライブラリー溶液を加えて適当な時間インキュベートすると、ターゲットには親和性の高いファージ72が結合する。
【0046】
次に、図3(c)に示す工程において、ターゲットに結合しなかったファージを洗浄して除去し、ターゲットに強く結合したファージ72を回収する。この一連の操作によって、ターゲットに親和性の高いファージ72が濃縮される。その後、酸処理などによって強く結合したファージをターゲットから回収する。
【0047】
次に、図3(d)に示す工程において、回収した特異性を有するファージを宿主大腸菌73に感染させて増幅する。
【0048】
次に、図3(e)に示す工程において、宿主大腸菌73からファージクローンを回収する。
【0049】
次に、図3(b)〜(e)の工程を所定回数繰り返す。これによって、ターゲットに親和性の高いファージクローンを増殖させる。
【0050】
次に、図3(f)に示す工程において、ターゲットに親和性の高いファージクローンを単離し、DNA配列からターゲットに特異的に結合するアミノ酸配列74を読み取る。
【0051】
その後、図3(g)に示す工程において、読み取ったアミノ酸配列をN末端に付加したリコンビナントタンパク質75を合成する。
【0052】
ところで、このバイオパニング技術を用いて、チタンに特異的に結合する人工ペプチド(配列番号:1)が単離されており、この人工ペプチドがチタン表面に静電気的に結合することも明らかになっている (K. Sano, K. Shiba, J. AM. CHEM. SOC. Vol.125, No.47 (2003) を参照)。本発明は、配列番号:1に示す人工ペプチド(チタンと特異的に結合するペプチド)をN末端部分に付加したリコンビナントフェリチンを用いて、基板上の特定位置(チタン上)へのチタン結合性フェリチン及び該チタン結合性フェリチンが内包する無機粒子の配置を行うことを特徴とする。
【0053】
なお、以下に記載する実施の形態においては、チタン結合性フェリチンとして、チタンに特異的に結合する人工ペプチド(配列番号:1)をN末端に修飾した、チタン結合性フェリチン(TBF、配列番号:5)を使用した。
<リコンビナントフェリチンの製造方法>
以下に記載する実施の形態においては、タンパク質の微粒子として、チタン結合性ポリペプチドでN末端部を修飾したリコンビナントフェリチン、及びチタン結合性ポリペプチドを有しないリコンビナントフェリチンを使用した。ここで、チタン結合性ポリペプチドを有しないリコンビナントフェリチン(RF)の製造方法について説明する。
【0054】
図4に従来のフェリチン(天然フェリチン(かご状タンパク質))の構造を示す。天然フェリチンは、24個のサブユニットが結合して内部に空孔(直径約7nm)を有する球状微粒子(直径約12nm)である。この空孔内には、各種の無機材料微粒子(コア)を取り込むことが可能である。一つのサブユニットは、図4中央に示すような特定の立体構造を持っており、αヘリックスとβシートの二次構造の組み合せから成ることがX線解析等から詳しく解析されている。
【0055】
このタンパク質の骨組み(ポリペプチド主鎖の折たたまれ方)からアミノ酸側鎖が様々な方向に突き出しており、このアミノ酸残基の配列は、それぞれのタンパク質に独自の化学的特性を持たせている。フェリチン表面は、この突き出たアミノ酸残基の特徴を反映し、タンパク質全体の化学的特性(基材間、タンパク質間相互作用)が決定される。
【0056】
サブユニットにはわずかに構造の異なるL型とH型があるため、天然フェリチンは、一定の構造を有さない。以下の実施の形態においては、L型サブユニットのみから構成されるリコンビナントフェリチン(RF)を使用した。
【0057】
まず、L型のフェリチンをコードするDNA(配列番号:2、528塩基対)を、PCR法を用いて増幅し、多量のL型フェリチンDNAを用意した。次に、このL型フェリチンDNAを、制限酵素EcoRI及びHind IIIが特異的に切断する部位(制限酵素サイト)で切断した。この切断処理により、EcoRI及びHind IIIの制限酵素サイトを有するL型フェリチンDNA断片の溶液を調製した。この溶液にDNA電気泳動を行い、L型フェリチンをコードするDNA断片だけを回収、精製した。
【0058】
その後、このL型フェリチン DNA断片と、EcoRI - Hind IIIの制限酵素で処理したベクタープラスミド(pMK-2) をインキュベートしてライゲーションを行った。これによりpMK-2プラスミドのマルチクローニングサイト (MSC) にL型フェリチンDNAが入ったベクタープラスミド pMK-2-fer-0 を作製した。使用したベクタープラスミドのpMK-2は、プロモーターに Tac プロモーターを有し、多コピープラスミドとしてコピー数が多いという特徴を持つため、大量のフェリチンを得るのに有利であることから選択した。
【0059】
作製したプラスミド (pMK-2-fer-0) を宿主(ホスト)である大腸菌株E. coli Nova Blue (Novagen ) に導入(形質転換)し、リコンビナントL型フェリチン株 (fer-0 ) を作製した。なお、L型フェリチンサブユニットのプラスミドの主要構成と、大腸菌へのプラスミドの取り込みを模式化した図を、図5に示した。
【0060】
これらのリコンビナントフェリチンの内部に、フローティングゲートを構成するナノ粒子群作製のために必要な無機粒子を内包させた。上記方法によって作製されたリコンビナントフェリチン(fer-0)の熱安定性は、アミノ末端の付加により向上することが示された。天然フェリチンの耐熱温度が55℃程度であることに対し、fer-0は95℃であった。この耐熱性により、従来不可能であった高温でのかご状タンパク質利用ナノ粒子合成が可能となった。
<チタン結合性フェリチンの製造方法>
次に、チタン結合性ポリペプチド(配列番号:1)でN末端部を修飾したチタン結合性フェリチン(TBF)の製造方法について説明する。
【0061】
フェリチンを構成するサブユニットのアミノ末端(N末端)をペプチドで修飾すると、図6に示したように、フェリチン粒子の外側に該ペプチドが突き出した構造となる。そのため、このN末端部分を任意のペプチド(図6では、チタン結合性ペプチド)で修飾することにより、フェリチン粒子の表面を該ペプチドで修飾することが可能である。
【0062】
ここで、配列番号:1に示すアミノ酸配列のペプチドを、N末端に付加及び修飾したフェリチン(配列番号:5)の具体的な製造方法を示す。天然フェリチン(ウマ肝臓由来)のLタイプのサブユニットの全長遺伝子を、配列番号:2に示した。N末端からの24塩基から合成されるアミノ残基のうちの7残基は、自然界においてはプロセスされ欠失していることが報告されている。
【0063】
すなわち、配列番号:2のDNAからは、配列番号:3に示すアミノ酸配列のフェリチンが合成されるはずであるが、N末端から2番目〜8番目までの7つのアミノ酸残基までが欠失するため、実際には配列番号:4に示すアミノ酸配列のフェリチンとなる。
【0064】
本願発明者は、N末端に、チタン結合性ペプチド(配列番号:1)を付加及び修飾したフェリチンを合成することにより、フェリチン粒子の外側に、柔軟性を持つ構造不定のチタン結合性ペプチドを形成させ、このペプチドで修飾されたフェリチンを、チタンへ選択的に吸着させる配置方法を見出した。
【0065】
まず、チタン結合性ペプチド(配列番号:1)をコードするDNA(配列番号:6(30塩基対)及び配列番号:7(22塩基対))を、PCR法を用いて増幅し、多量のDNAを用意した。
【0066】
次に、上記DNAと、制限酵素Bam I及びSac Iの制限酵素で処理した、ヒトリコンビナントL型フェリチンをコードするベクタープラスミド(pMK-2) をインキュベートしてライゲーションを行った。これによりpMK-2プラスミドのマルチクローニングサイト (MSC) に、上記塩基配列のDNA及びL型フェリチンDNAが入ったベクタープラスミド (pKIS1) を作製した。pKIS1作製に使用したベクタープラスミドのpMK-2は、プロモーターに Tac プロモーターを有し、多コピープラスミドとしてコピー数が多いという特徴を持つため、大量のフェリチンを得るのに有利であることから選択した。
【0067】
作製したプラスミドを宿主(ホスト)である大腸菌株 E. coli XLI Blue (Novagen) に導入(形質転換)し、チタン結合性L型フェリチン株を作製した。
【0068】
以上に説明したように、本発明のチタン結合性フェリチンの配置方法によれば、チタン結合性フェリチンと基板上のチタンとの結合力は、チタン結合性フェリチン自身によって制御することが可能であるため、工程が非常に単純化される。
[基板上への無機粒子の配置方法]
次に、本発明の無機粒子の配置方法を、図7(a)及び(b)を用いて説明する。ここでは、無機粒子として、酸化第二鉄(Fe2O3)を用いた例を示す。
【0069】
図7(a)に示す工程において、フェリチン配置が必要なチタン領域81を持つ基板80に、Fe2O3 1を内包したチタン結合性フェリチン2の溶液を滴下し、一定時間インキュベートした後、純水を用いて基板を洗浄した。
【0070】
次に、図7(b)に示す工程において、チタン結合性フェリチン2は、基板80上のチタン領域81に特異的に吸着されるため、内包されるFe2O3 1もチタン領域81に配置することができる。その結果、フェリチンを選択的にチタン領域にのみ配置した基板82を作製することができる。
【0071】
また、上記方法の変形例として、図8(a)及び図8(b)に示すように、Fe2O3 1を内包したチタン結合性フェリチン2の溶液に、非イオン性界面活性剤83を添加することもできる。これにより、チタン結合性フェリチン2のチタンへの選択的結合性をさらに向上させることが可能となる。
【0072】
以下に記載する実施の形態においては、水洗後、基板を窒素ガス中、500℃で加熱することにより、Fe2O3を内包していたTBFを焼失させ、Fe2O3をチタン領域81に固定させた。なお、窒素ガスの替わりに不活性ガスや酸素ガス、水素ガス等を用いることもできる。また、チタン結合性フェリチンの替わりに従来のリコンビナントフェリチンを用いる場合にも、上記と同様の操作を行った。
【0073】
次に、上述のチタン結合性フェリチンへの無機粒子の導入について説明する。
<チタン結合性フェリチンへの無機粒子の導入>
本発明において、リコンビナントフェリチン(RF)に内包させる無機粒子の種類は、特に限定されるものではないが、上述の説明及び後述する実施の形態においては、無機粒子として酸化第二鉄(Fe2O3)を用いた。TBFへのFe2O3コアの導入は、以下のようにして行った。
【0074】
反応溶液として、0.5mg/ml TBF/100mM HEPES-NaOH (pH7.0)を調製し、ここに5mM 酢酸アンモニウム鉄を添加した。25℃で一晩反応させ、反応後の溶液からFe2O3のコアが形成されたTBFを、遠心分離とゲルろ過により分子精製して回収した。遠心分離は、1,600G、10分及び10,000G 、30分の 条件で行って、段階的にTBF以外の不要部分を沈殿として除去し、最後に残った上清よりFe2O3コアを形成したTBFを、230,000G、1時間の超遠心分離によってペレットとして回収した。得られたTBFを、HPLCを用いたゲルろ過[カラム:TSK-GEL G4000SWXL PEEK /流速:1ml/min /バッファ:50mM Tris-HCl (pH8.0)+150mM NaCl] を行い、24量体(約480kDa)のピークを分取する。分取したTBF溶液は、限外ろ過膜を用いて濃縮し、Fe2O3を内包したTBFを得た。
【0075】
なお、RFに上記と同様の操作を行うことにより、Fe2O3を内包したRFを得た。
【0076】
以下、本発明の具体的な実施の形態を順次説明する。
【0077】
(実施の形態1)
本発明の実施の形態1は、チタン結合性フェリチン及び無機粒子の基板上への配置方法を例示したものである。本実施の形態では、基板上にPt部分及びTi部分が形成されている。
【0078】
以下、本実施の形態の具体例を実施例として示し、その効果を、比較例を挙げて説明する。
【0079】
[実施例1]
まず、図9(a)に、Fe2O3301を内包した、Tiに特異的に吸着するペプチド302を表面に修飾したTBF310を、表面の一部に白金膜(Pt)400を形成したTi基板200上へ配置させた実験の模式図を示す。
【0080】
実施例1として、以下のようにして、基板上に無機粒子を配置した。
【0081】
Fe2O3301を内包したTBF310をバッファ溶液(10mM Tris-HCl, pH8.0)を用いて2mg/mlの濃度に調整した。表面の一部に白金膜(Pt)400を形成したTi基板200上に、該TBF溶液を滴下して、1時間室温で放置した後、純水で洗浄した。洗浄後、基板を上述した方法で加熱処理し、Fe2O3301を基板上に固定させた。
【0082】
図9(b)は、図9(a)に示す模式図に対応する、上記Fe2O3301を固定させた後の基板表面の走査型電子顕微鏡写真である。Fe2O3301は、Ti基板200上に選択的に配置されていたことから、TBF310は、Pt膜400には吸着せず、Ti基板200に特異的に吸着することが検証された。このようにフェリチンと基板上の基材との吸着力を、フェリチン表面のペプチド修飾により制御することが可能であった。
【0083】
[実施例2]
実施例2として、バッファ溶液に非イオン性界面活性剤であるICI社製Tween20を0.5 v/v%添加して、実施例1と同様の操作を行った結果、TBF310は、Pt膜400には吸着せず、Ti基板200にその大部分が特異的に吸着することが検証された。すなわち、Tween20を添加することにより、TBFのTi基板への選択的吸着性が向上した。
【0084】
(実施の形態2)
本発明の実施の形態2は、チタン結合性フェリチン及び無機粒子の基板上への配置方法を例示したものである。本実施の形態では、基板上に酸化シリコン(SiO2)部分及びTi部分が形成されている。
【0085】
[実施例3]
実施例3として、以下のようにして、基板上に無機粒子を配置した。
【0086】
Fe2O3を内包するTBFを、バッファ溶液(10mM Tris-HCl, pH8.0)を用いて2 mg/mlの濃度に調整した。表面の一部にチタン膜(Ti)を形成した酸化シリコン(SiO2)基板100上に、該TBF溶液を滴下して、1時間室温で放置した後、純水で洗浄した。洗浄後、基板を上述した方法で加熱処理し、Fe2O3を基板上に固定した。
【0087】
Fe2O3を固定させた後の基板表面の走査型電子顕微鏡写真を確認すると、Fe2O3は、SiO2基板上にはほとんど配置されず、Ti膜上に選択的に配置されていたことから、TBF310は、SiO2基板100には吸着せず、Ti膜200に特異的に吸着することが検証された。
【0088】
[実施例4]
実施例4として、バッファ溶液に非イオン性界面活性剤であるICI社製Tween20を0.5 v/v%添加して、実施例3と同様の操作を行った結果、TBF310は、SiO2基板100には吸着せず、Ti膜200にその大部分が特異的に吸着することが検証された。すなわち、Tween20を添加することにより、TBFのTi膜への選択的吸着性が向上した。
【0089】
(実施の形態3)
本発明の実施の形態3は、非イオン製界面活性剤を添加する、チタン結合性フェリチン及び無機粒子の基板上への配置方法を例示したものである。
非イオン性界面活性剤との相乗効果及び選択配置比の評価
[比較例1]
比較例1として、以下のようにして、基板上へ無機粒子を配置した。
【0090】
図10(a)に、Fe2O3301を内包したウマ脾臓由来の天然フェリチン(NF)300を、表面の一部に白金膜(Pt)400を形成したTi基板200上へ配置させた実験の模式図を示す。TBFの替わりに、NFを使用したこと以外は、全て実施例1と同じ条件で実験を行った。なお、ここでは非イオン性界面活性剤は使用していない。
【0091】
図10(b)は、図10(a)に対応する、加熱処理後の基板の走査型電子顕微鏡写真である。Pt膜上及びTi基板上の両方にFe2O3が配置され、基材に対して全く選択性が認められなかった。Ti基板上及びPt膜上に配置されたFe2O3は、それぞれ79個及び76個であり、選択配置比は1.0となった。
【0092】
ここで、選択配置比とは、Pt上に吸着したFe2O3の数N(Pt)に対するTi上に吸着したFe2O3の数N(Ti)の比、すなわち、N(Ti)/N(Pt)を意味する。また、Fe2O3の吸着数は、基板表面の走査型電子顕微鏡写真の200nm□領域内のFe2O3数をカウントした。
【0093】
[比較例2]
比較例2として、以下のようにして、基板上へ無機粒子を配置した。
【0094】
Fe2O3を内包したNFのバッファ溶液に、非イオン性界面活性剤としてICI社製Tween20を0.5v/v%添加した場合、Pt膜上に配置されたFe2O3が12個であったのに対し、Ti基板上に配置されたFe2O3は79個であり、選択配置比は6.6となった。非イオン性界面活性剤としてICI社製Tween80を0.5v/v%添加した場合にも、全く同じ結果が得られた。
【0095】
[比較例3]
比較例3として、以下のようにして、基板上へ無機粒子を配置した。
【0096】
Tween20又はTween80を0.5v/v%含有する溶液を基板に滴下した後、Fe2O3を内包したNFのバッファ溶液を滴下した場合、Pt膜上に配置されたFe2O3が13個であったのに対し、Ti基板上に配置されたFe2O3は77個であり、選択配置比は6.6となった。Tween20又はTween80を0.5 v/v%含有する溶液を基板に滴下した後、Fe2O3を内包したRFのバッファ溶液を滴下した場合にも、全く同じ結果が得られた。
【0097】
[実施例5]
非イオン性界面活性剤として、バッファ溶液にICI社製Tween20を0.5 v/v%含んだ溶液を基板上に滴下した後、TBFを含む溶液を滴下すること以外、実施例1と同様の操作を行った。
【0098】
上記実施例及び比較例の実験結果を、表1に示す。
【0099】
【表1】
【0099】
実施例1の実験結果では、Pt膜上に配置されたFe2O3が30個であったのに対し、Ti基板上に配置されたFe2O3が250個であり、選択配置比は8.3であった。一方、実施例2では、Pt膜上に配置されたFe2O3が1個であったのに対し、Ti基板上に配置されたFe2O3は200個であり、選択配置比は、実施例1の約24倍である200にまで増大した。非イオン性界面活性剤としてICI社製Tween80を0.5v/v%添加した場合にも、全く同じ結果が得られた。
【0100】
また、実施例5では、Tween20又はTween80を0.5v/v%含有する溶液を基板に滴下した後、Fe2O3を内包したTBFのバッファ溶液を滴下した場合、実施例2と全く同じ結果が得られた。
【0101】
このように、本来、Ti基板及びPt膜に対して全く選択吸着性を有しないフェリチンに、Tiに特異的に結合するペプチドで表面を修飾することによって、Ti基板表面との吸着力を特異的に強化し、Ti基板表面に特異的に配置されるようにすることが可能であった。特に、TBFに非イオン性界面活性剤を併用することにより、選択性を飛躍的に向上させることが可能であった。
【0102】
今回用いた非イオン性界面活性剤であるTween20及びTween80は、ポリオキシエチレンソルビタン(Polyoxyethylene sorbitan alkyl ester)類で、特に低温で溶解しやすく、水溶液中でイオンに解離する基を持たず、親水性を調整できる特徴を持つ物質である。Tween20及びTween80の一般的構造式を、以下に示す。
【0103】
【化1】
【0104】
【化2】
【0099】
なお、添加する非イオン性界面活性剤の濃度を0.006 v/v%未満にすると、RF及びTBFに対する吸着制御性が低くなり、選択配置比が低下した。一方、非イオン性界面活性剤の濃度を10 v/v%超にするとTi膜への吸着量が低下した。よって実用性から判断して、本発明におけるフェリチンを含む溶液中の非イオン性界面活性剤は、0.006 v/v%以上10 v/v%以下の濃度範囲とすることが好ましく、0.01 v/v%以上 1 v/v%以下の濃度範囲とすることがさらに好ましい。
【0105】
(実施の形態4)
本発明の実施の形態4は、チタン結合性フェリチン及び無機粒子の基板上への逆選択的配置方法を例示したものである。
アポフェリチンを用いた無機粒子の逆選択配置方法
実施の形態1及び2では、フェリチンが特異的に吸着する領域へのフェリチン及び無機粒子の配置方法を説明した。逆に、フェリチンが特異的に吸着する領域以外の領域へのタンパク質及び無機粒子の配置方法を、図11(a)〜(e)を参照しながら説明する。
【0106】
まず、図11(a)に示す工程において、表面の一部にチタン領域81を形成した基板80に、Fe2O3を内包しないTBF(アポフェリチン)84を含む溶液を滴下する。そして、一定時間インキュベートした後、純水を用いて基板を洗浄する。
【0107】
次に、図11(b)に示す工程において、TBF84は、チタン領域81にのみ吸着し、選択的に配置された基板80が得られる。
【0108】
次に、図11(c)に示す工程において、無機粒子を内包するRF85を含む溶液を基板80に滴下して、上記と同様の操作を行う。このとき、非イオン性界面活性剤は使用しない。
【0109】
次に、図11(d)に示す工程において、無機粒子を内包するRF85は、既にTBF84が吸着しているチタン領域81以外の領域である無機粒子配置必要領域86にのみ吸着する。
【0110】
その後、図11(e)に示す工程において、基板80を上述した方法によって加熱すると、チタン領域81以外の領域に対して逆選択的に無機粒子88を配置した基板87が得られる。
【0111】
無機粒子を内包するタンパク質としては、RFに限定されず、他の種類のタンパク質を使用することができる。また、無機粒子を内包するRFの替わりに、無機粒子を内包しないタンパク質を逆選択的に配置することも可能である。この技術は、例えば、特定の機能を有する酵素を、基板上の特定領域に配置してバイオセンサーを製造する場合等に有用となる。
【0112】
なお、上記実施の形態では無機粒子としてFe2O3を内包したフェリチンを用いて、基板上のチタン膜にFe2O3を選択的に配置したが、無機粒子を内包しないフェリチンを用いても、全く同じ結果が得られるはずである。
【0113】
上記説明から、当業者にとっては、本発明の多くの改良や他の実施の形態が明らかである。したがって、上記説明は例示としてのみ解釈されるべきであり、本発明を実行する最良の態様を当業者に教示する目的で提供されたものである。本発明の精神を逸脱することなく、その構造および/または機能の詳細を実質的に変更できる。
【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明は、高い量産性とコストパフォーマンスで、基板上にフェリチン又は無機粒子を選択的に配置する方法に関するものであり、特に、直径が数〜数十ナノメートル程度の無機粒子を必要な領域に選択的に配置したり、ナノ領域に規則的に配置したりする技術を提供するものである。この技術により、ナノスケールで自己選択的に必要な基板上の基材に無機材料粒子を配置することが可能となり、触媒、センサー、バイオチップ、トランジスター、半導体レーザー、磁気ディスク、ディスプレイ等の工業分野の製造工程で応用できる。
【図面の簡単な説明】
【0115】
【図1】従来の無機粒子の配置方法の工程説明図である。
【図2】本発明のチタン結合性フェリチンの配置方法を概念的に示すフローチャートである。
【図3】バイオパニング技術の説明図である。
【図4】従来フェリチンの構造等を示す図である。
【図5】L型フェリチンサブユニットのプラスミドの主要構成と、大腸菌へのプラスミドの取り込みを模式化した図である。
【図6】本発明のチタン結合性フェリチンの構造等を示す図である。
【図7】本発明の無機粒子の配置方法の概念を説明する図である。
【図8】本発明の無機粒子の配置方法の変形例の概念を説明する図である。
【図9】(a)は、実施例1を説明する模式図であり、(b)は、実施例1の基板表面の走査型電子顕微鏡写真である。
【図10】(a)は、比較例1を説明する模式図であり、(b)は、比較例1の基板表面の走査型電子顕微鏡写真である。
【図11】本発明の実施の形態4における、無機粒子を逆選択的に配置する方法を説明する図である。
【符号の説明】
【0116】
10 テフロン(登録商標)製の水槽
11 バッファ
20 無機粒子
21 天然フェリチン
30 PBLH膜
40 シリコン基板
50 マスクパターン
60 不活性ガス(熱処理槽)
70 ファージ粒子
71 あらゆる種類のN末端ペプチド配列
72 ターゲットに強く結合したファージ
73 大腸菌
74 ターゲットに特異的に結合するアミノ酸配列
75 読み取ったアミノ酸配列をN末端に付加したリコンビナントタンパク質
80 基板
81 フェリチン配置が必要なチタン領域
82 フェリチンを選択的にチタン領域にのみ配置した基板
83 非イオン性界面活性剤
84 無機粒子を内包しないチタン結合性フェリチン(TBF)
85 無機粒子を内包するフェリチン(RF)
86 タンパク質が吸着していない領域
87 チタン以外の領域に対して逆選択的に無機粒子を配置した基板
88 無機粒子
89 チタンに特異的に結合するペプチド
90 無機粒子を内包したチタン結合性フェリチン
200 チタン基板
300 天然フェリチン
301 Fe2O3微粒子
302 チタンに特異的に吸着するペプチド
310 チタン結合性フェリチン
400 白金膜

Claims (9)

  1. サブユニットN末端部にチタンを認識して結合する配列番号:1に記載のペプチドを修飾したチタン結合性フェリチンを含む溶液を、表面の一部にチタンが形成された基板上に滴下することによって、前記チタン結合性フェリチンを選択的に前記チタンに結合させる結合工程を有するフェリチンの配置方法であって、
    前記結合工程の後、前記チタン結合性フェリチン以外のフェリチンを含む溶液を前記基板上に滴下し、それによって前記チタン結合性フェリチン以外のフェリチンを、前記基板上の前記チタン以外の部分に配置する配置工程を有する、フェリチンの配置方法。
  2. 前記溶液は、さらに非イオン性界面活性剤を含み、
    前記結合工程の後に、前記基板上から非イオン性界面活性剤を除去する除去工程を有する請求項1に記載のフェリチンの配置方法。
  3. 前記結合工程の前に、非イオン性界面活性剤により前記基板を被覆する被覆工程を有する請求項1に記載のフェリチンの配置方法。
  4. 前記非イオン性界面活性剤の濃度が、0.006 v/v%以上10 v/v%以下である請求項2に記載のフェリチンの配置方法。
  5. 前記チタン結合性フェリチンが、無機粒子を内包する請求項1に記載のフェリチンの配置方法。
  6. 無機粒子の配置方法であって、
    サブユニットN末端部にチタンを認識して結合する配列番号:1に記載のペプチドを修飾したチタン結合性フェリチンを含む溶液を、表面の一部にチタンが形成された基板上に滴下することによって、前記チタン結合性フェリチンを選択的に前記基板上のチタンに結合させる結合工程と、
    無機粒子を内包する前記チタン結合性フェリチン以外のフェリチンを含む溶液を前記基板上に滴下し、それによって前記無機粒子を内包するフェリチンを、前記基板上のチタン以外の部分に配置する配置工程と、
    前記基板を加熱して前記基板上のフェリチンを分解する分解工程と、
    を有する無機粒子の配置方法。
  7. 前記チタン結合性フェリチンを含む溶液が、さらに非イオン性界面活性剤を含み、
    前記結合工程と前記配置工程との間に、前記基板上から非イオン性界面活性剤を除去する除去工程を有する請求項に記載の無機粒子の配置方法。
  8. 前記結合工程の前に、非イオン性界面活性剤を前記基板に被覆する被覆工程を有する請求項に記載の無機粒子の配置方法。
  9. 前記非イオン性界面活性剤の濃度が、0.006 v/v%以上10 v/v%以下である請求項に記載の無機粒子の配置方法。
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