JP3915565B2 - 有機el素子 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、電子注入性材料からなる電子注入層を有する有機EL(エレクトロルミネッセンス)素子に関する。
【0002】
【従来の技術】
有機EL素子は、陽極の上に、有機EL材料からなる発光層を含む有機層、電子注入層、陰極が順次積層されてなる。ここで、有機層は一般に、陽極側から正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層が積層されたものからなる。
【0003】
そして、陽極と陰極との間に電界を印加し、陽極からは正孔が、陰極からは電子がそれぞれ発光層へ向かって注入・輸送され、これら正孔と電子が発光層にて再結合し、その再結合時のエネルギーにより発光層が発光するようになっている。
【0004】
このような有機EL素子は、自己発光のため、視認性に優れ、かつ数V〜数十Vの低電圧駆動が可能なため駆動回路を含めた軽量化が可能である。そこで、有機EL素子は、薄膜型ディスプレイ、照明、バックライトとしての活用が期待されている。また、自発光ゆえの視認性の高さから車載用ディスプレイとしての期待も非常に大きい。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、有機EL素子は発光時間とともに輝度が低下する問題すなわち輝度劣化という問題や、発光時間とともに駆動電圧が上昇するという問題を有している。
【0006】
例えば車載条件においては輝度劣化に対する規格が厳しく、さらなる輝度劣化特性の改善が要望されている。また、駆動電圧の上昇については駆動回路の設計において、電圧上昇を見越した設計を採ることが必要となり、コストアップにつながってしまう。
【0007】
本発明は上記問題に鑑み、発光時間に伴う輝度劣化および駆動電圧上昇を抑制可能な有機EL素子を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、本発明者等は鋭意検討を行った。まず、輝度劣化および駆動電圧上昇の原因を把握するために、輝度低下前後での有機EL素子の組成分析を、TOF−SIMS分析法(時間飛行型2次イオン質量分析法)により行った。
【0009】
有機EL素子の作製プロセスとしては、ガラス等からなる透光性基板上にインジウム−スズの酸化物(ITO)等からなる陽極を形成し、その上に有機層を形成する。有機層を形成する各有機薄膜が低分子系の場合には真空蒸着で形成し、高分子系の場合にはスピンキャスト法で形成する。
【0010】
その後、アルカリ金属化合物やアルカリ土類金属化合物等の電子注入性材料からなる電子注入層を、真空蒸着やスパッタ法で形成した後、陰極を真空蒸着やスパッタ法で形成する。陰極としては、AlおよびAl合金、MgおよびMg合金、Ca等が挙げられる。
【0011】
この分析に用いた有機EL素子は従来構造のもので、その一例としては、ガラス基板上に、ITOからなる陽極、銅フタロシアニンからなる正孔注入層、トリフェニルアミン4量体からなる正孔輸送層、ジメチルキナクリドンが添加された8−ヒドロキシキノリンアルミニウム錯体(Alq3)からなる発光層、Alq3からなる電子輸送層、LiFからなる電子注入層、Alからなる陰極を順次積層したものである。以下、これを検討品という。
【0012】
この検討品について、85℃環境下で400cd/m2、1/64デューティ駆動で定電流駆動による耐久試験を行った。そして、試験前のものと、この試験によって輝度が半減した後のものについて組成分析を行い、両者を比較検討した。その分析結果を図11(a)、(b)に示す。
【0013】
図11では横軸に時間がとってあるが、これは図中に示したように、陰極からガラス基板へ向かう深さに相当するものである。また、縦軸の「Counts」は検出されたイオン種の数である。なお、図11ではLiのピークを太線にて示し、他のCおよびInのピークと区別している。
【0014】
図11(a)に示す試験前の場合では、有機層と陰極との間に位置する電子注入層のLiFに起因するLiのピーク、有機層(電子輸送層〜正孔注入層)に起因するCのピーク、および陽極のITOに起因するInのピークが見られる。そして、各ピークは、各層が位置する深さに対応して現れている。
【0015】
一方、図11(b)に示す輝度半減後の場合では、陽極であるITO付近にまでLiの析出が見られる。このITO付近のLiは、図11(a)では見られなかった。また、図示しないが、LiFにおけるFのピークもLiと同様の結果であった。このLiの陽極付近での析出と輝度劣化との関係について、以下のように考えた。
【0016】
すなわち、LiFが耐久試験中において、有機層内に拡散することにより、陰極と有機層との界面に存在する電子注入層としてのLiFの濃度が低下する、つまり、電子注入層が減少していく。その結果、電子注入効率も低下していき、耐久試験時間すなわち発光時間とともに駆動電圧が上昇する。
【0017】
また、電子の注入量が低下することから、電荷(正孔、電子)の再結合分布が発光層から陰極側に広がるため、発光効率が低下し、それによって輝度劣化が促進されると考えられる。
【0018】
以上の分析結果および考察から、輝度劣化抑制のためには、電子注入層を構成する電子注入材料が、発光時間の経過とともに陽極側へ拡散するのを抑制することが効果的であると考えた。また、さらに、検討を進めたところ、陽極近傍まで電子注入性材料が拡散した場合、駆動電圧はその上昇が抑制されるばかりか、かえって低下する現象がみられることが実験的に見出された。本発明は、このような検討結果に基づいて創出されたものである。
【0036】
すなわち、請求項1に記載の発明では、陽極(20)の上に、有機EL材料からなる発光層(50)を含む有機層(30〜60)、電子注入層(80)、陰極(90)が順次積層されてなる有機EL素子において、有機層のうち電子注入層と発光層との間に、電子注入性材料からなる第1の拡散層(70)が設けられており、第1の拡散層は、有機層における電子注入層に接する層(60)内に設けられており、有機層のうち陽極と発光層との間に、電子注入性材料からなる第2の拡散層(71)が設けられており、第1の拡散層および第2の拡散層を構成する電子注入性材料は、電子注入層を構成する電子注入性材料と同一材料であることを特徴とする。
【0037】
それによれば、発光時間に伴い第1の拡散層が拡散することによって、電子注入層の電子注入性材料の陽極側への拡散を大幅に抑制し、結果、発光時間に伴う電子注入層の減少を抑制できる。よって、本発明によれば、発光時間に伴う輝度劣化および駆動電圧上昇を抑制可能な有機EL素子を提供することができる。
【0038】
また、第1の拡散層に比べて陽極に近い第2の拡散層が、発光時間に伴い拡散することによって、陽極近傍に電子注入性材料を存在させることが容易となることから、駆動電圧を低下させることができる。そのため、結果的に発光効率が向上し、発光時間に伴う輝度劣化および駆動電圧上昇の抑制が、より高レベルにて実現される。
【0039】
ここで、請求項2に記載の発明のように、第1および第2の拡散層(70、71)を構成する電子注入性材料としても、アルカリ金属化合物またはアルカリ土類金属化合物を採用することができる。
【0040】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
【0041】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を図に示す実施形態について説明する。以下、各実施形態相互において、互いに同一部分には、図中、同一符号を付してある。
【0042】
(第1実施形態)
図1は本発明の第1実施形態に係る有機EL素子S1の一例を示す概略断面図である。ガラス基板等からなる透明な基板10の一面上には、インジウム−スズの酸化物(ITO)やインジウム−亜鉛の酸化物等からなる陽極20が形成されている。本例では、陽極20はITOからなるものとしている。
【0043】
陽極20の上には、正孔注入性材料からなる正孔注入層30が形成されている。本例では、銅フタロシアニン(CuPc)からなる厚さ15nmの正孔注入層30としている。この正孔注入層30の上には、正孔輸送性材料からなる正孔輸送層40が形成されている。本例では、トリフェニルアミン4量体からなる厚さ40nmの正孔輸送層40としている。
【0044】
正孔輸送層40の上には、有機EL材料からなる発光層50が形成されている。本例では、ホスト材料としての8−ヒドロキシキノリンアルミニウム錯体(Alq3)にゲスト材料としてのジメチルキナクリドンが添加されたものからなる厚さ40nmの発光層50としている。
【0045】
発光層50の上には、電子輸送性材料からなる電子輸送層60が形成されている。本例では、Alq3からなる電子輸送層60としている。ここで、電子輸送層60の内部には、電子注入性材料からなる拡散層70が設けられている。
【0046】
本例では、電子輸送層60を、発光層50側の厚さ10nmの下側電子輸送層61と電子注入層80側の厚さ10nmの上側電子輸送層62とに分け、その間にLiFからなる厚さ1nmの拡散層70を介在させている。
【0047】
この拡散層70を構成する電子注入性材料は、アルカリ金属化合物またはアルカリ土類金属化合物を用いることができる。具体的には、アルカリ金属またはアルカリ土類金属のフッ化物、酸化物、塩化物、窒化物等の絶縁体材料を用いることができる。
【0048】
電子輸送層61、62の上には、電子注入性材料からなる電子注入層80が設けられており、本例ではLiFからなる厚さ0.5nmの電子注入層80としている。ここで、拡散層70を構成する電子注入性材料は、電子注入層80を構成する電子注入性材料と同一材料であることが好ましい。そして、電子注入層80の上には、Al等の金属等からなる陰極90が形成されている。
【0049】
このような有機EL素子S1は、基板10の上に、スパッタ法等にて陽極20を形成し、その上に、真空蒸着法等により、有機層30〜60および拡散層70を順次成膜し、さらに電子注入層80、陰極90を成膜することにより製造することができる。
【0050】
そして、有機EL素子S1においては、陽極20と陰極90との間に電界を印加し、陽極20から正孔を、陰極90から電子をそれぞれ発光層50へ輸送し、これら正孔と電子とを発光層50にて再結合させる。そして、この再結合のエネルギーにより発光層50が発光し、基板10側から光が取り出されるようになっている。
【0051】
ところで、本有機EL素子S1においては、有機層30〜60内、特に本例では電子輸送層60内に、電子注入性材料からなる拡散層70を設けた独自の構成を採用している。
【0052】
それによれば、電子注入性材料からなる層としては、電子注入層80以外に、この電子注入層80よりも陽極20側に位置する拡散層70が存在する。そして、この拡散層70を構成する電子注入性材料が、発光時間とともに有機層30〜60内を陽極20側へ拡散するため、有機層30〜60内における電子注入材料の濃度勾配が小さくなる。
【0053】
そのため、拡散層70よりも陽極20から遠い位置にある電子注入層80の電子注入性材料は、発光中に陽極20側へ拡散しようとするけれども、拡散層70が存在しない場合に比べて、その陽極20側への拡散を大幅に抑制される。その結果、発光時間の経過に伴う電子注入層80の減少を抑制することができる。
【0054】
よって、本実施形態によれば、発光時間に伴う輝度劣化および駆動電圧上昇を抑制可能な有機EL素子S1を提供することができる。
【0055】
なお、拡散層70は、陽極20側だけでなく陰極90側にも拡散する。そのことから、もし、拡散層70が電子注入性材料でない場合には、陰極90近傍に拡散した拡散層70の成分によって電子注入効率が低下してしまう。そのため、拡散層70は電子注入性材料であることが必要である。
【0056】
特に、本例では、拡散層70は、有機層30〜60のうち電子注入層80に接する層すなわち電子輸送層60内に設けられている。このことは、電子注入層80の電子注入性材料の拡散を、より陰極90に近いところで抑制できるため、好ましい。
【0057】
また、拡散層70を構成する材料は、上述のように絶縁体である場合が多いため、あまり厚く形成すると駆動電圧の上昇を引き起こす。このことから、拡散層70の膜厚は2nm以下であることが好ましく、より好ましくは1nm以下であることが望ましい。
【0058】
次に、本実施形態による発光時間に伴う輝度劣化および駆動電圧上昇の抑制効果について、限定するものではないが、本例の有機EL素子S1について具体的に検証した例を示す。
【0059】
用いた有機EL素子S1は、ITOからなる陽極20が形成されたガラス基板10の上に、CuPcからなる厚さ15nmの正孔注入層30、トリフェニルアミン4量体からなる厚さ40nmの正孔輸送層40、Alq3にジメチルキナクリドンが添加された厚さ40nmの発光層50、Alq3からなる厚さ10nmの下側電子輸送層61、LiFからなる厚さ1nmの拡散層70、Alq3からなる厚さ10nmの上側電子輸送層62、LiFからなる厚さ0.5nmの電子注入層80、Alからなる陰極90を順次成膜し、封止缶(図示せず)で密封したものとした。
【0060】
この有機EL素子S1を、85℃環境下で400cd/m2、1/64デューティ駆動で定電流駆動による耐久試験を行った。この耐久試験における耐久試験時間すなわち発光時間に対する輝度劣化特性の変化、駆動電圧の変化を、それぞれ図2、図3に示す。
【0061】
図2では横軸に発光時間としての時間(hr)、縦軸に規格輝度をとり、図3では横軸に時間(hr)、縦軸に駆動電圧の変化値(V)をとってある。ここで、規格輝度は初期の輝度を1と規格化したものであり、駆動電圧の変化値は初期の駆動電圧に対する変化値である。
【0062】
また、図1において拡散層70を無くした従来品すなわち解決手段の欄に示した検討品と同じものを、比較例として、同様に耐久試験を行った。この比較例としての有機EL素子の概略断面構成を図4に示す。そして、図2、図3中、黒丸プロットが比較例、黒四角プロットが本実施形態の有機EL素子S1として示した。
【0063】
図2、図3からわかるように、本実施形態の有機EL素子S1では、拡散層70を持たない比較例に比べて、輝度劣化が抑制されており、駆動電圧の上昇も抑制されている。
【0064】
ここで、発光時間に伴う駆動電圧上昇の抑制については、図3に示すように、電圧の上昇度合が少なくなるかもしくは電圧が変化しないだろうという予想に反して、駆動電圧が発光時間とともにかえって低下するという現象が見られた。
【0065】
そこで、この現象を理解するために、上記耐久試験後における本実施形態の有機EL素子S1と上記比較例とについて、TOF−SIMS法(時間飛行型2次イオン質量分析法)により分析を行った。
【0066】
図5において(a)は上記比較例についての分析結果を示し、(b)は本実施形態の有機EL素子S1についての分析結果を示す。図5において、横軸と縦軸は上記図11と同様であり、横軸は、陰極90からガラス基板10へ向かう深さとしての時間(秒)であり、縦軸の「Counts]は検出されたイオン種の数である。
【0067】
図5(a)は、上記図11(b)と同じものであり、試験前の初期(上記図11(a)参照)に比べて、電子輸送層60と陰極90との間に位置する電子注入層80のLiFに起因するLiのピークが減少し、陽極であるITO付近にまでLiの析出が見られる。
【0068】
つまり、従来品である比較例では、発光時間に伴い、電子注入層80のLiFが本来の位置から陽極20側へ拡散し、本来の電子注入層80の位置におけるLiFが減少している。
【0069】
一方、図5(b)では、陰極90近傍すなわち本来の電子注入層80の位置におけるLiFの濃度低下が抑制されていることが確認された。加えて、LiFが陽極20であるITOの表面付近に多く析出している(図中のピークP1)ことが確認された。これは、拡散層70のLiF(図中のピークP2)の拡散によるものと考えられる。
【0070】
この結果を検証するため、さらに、図6に示すように、上記図5に示した比較例(従来品)構造においてITO表面にLiF層900を形成した有機EL素子、すなわちLiF付き素子を作製した。そして、このLiF付素子と上記比較例とについて、電圧電流特性を調べた。その結果を図7に示す。
【0071】
図7では、横軸に電圧(V)、縦軸に電流密度(mA/cm2)をとってあり、黒丸プロットがLiF付き素子、白丸プロットが上記比較例すなわち従来構造を示してある。この電圧電流特性から、陽極20の表面にLiFが存在すると、従来構造よりも低電圧化されることが判明した。
【0072】
なお、図6に示すLiF付き素子では、LiF層900は、有機層内に設けられているのではなく、陽極20であるITOに接して設けられている。そのため、上記拡散層70のように、自身が有機層内に拡散して有機層内の電子注入材料の濃度勾配を小さくするという効果はほとんどない。そのため、LiF付き素子では、図7に示すように、初期的に駆動電圧の低下は実現できるが、発光時間に伴う輝度劣化および駆動電圧上昇の抑制という効果は無い。
【0073】
これら図5および図7に示す分析結果から、本実施形態の有機EL素子S1において、有機層30〜60内に拡散層70を導入した場合には、LiFの拡散による電子注入層80の濃度低下を抑制するだけでなく、拡散層70のLiFが陽極20であるITO表面まで拡散することによって、低電圧化が図れることがわかる。
【0074】
そして、このような拡散層70は、有機層30〜60内にあれば良く、例えば、発光層50と電子輸送層60との間、発光層50内、発光層50と正孔輸送層40との間、正孔輸送層40内、正孔輸送層40と正孔注入層30との間、正孔注入層30内の各位置から選択した位置に設けることができる。
【0075】
しかし、上述したように、電子注入層80の電子注入性材料の拡散をより陰極90に近いところで抑制するという観点からは、有機層30〜60のなかでもより電子注入層80に近い部位に拡散層70を設けることが好ましい。
【0076】
一方、駆動電圧の低電圧化という観点からすれば、有機層30〜60のなかでもより陽極20に近い部位に、拡散層70を設けることが好ましいと考えられる。この考えに基づいてなされた形態が、次の第2実施形態である。
【0077】
(第2実施形態)
図8は本発明の第2実施形態に係る有機EL素子S2の一例を示す概略断面図である。本実施形態は、陽極20の上に、有機EL材料からなる発光層50を含む有機層30〜60、電子注入層80、陰極90が順次積層されてなる有機EL素子において、有機層30〜60のうち電子注入層80と発光層50との間に、電子注入性材料からなる第1の拡散層70が設けられており、陽極20と発光層50との間に、電子注入性材料からなる第2の拡散層71が設けられているものである。
【0078】
これら第1および第2の拡散層70、71は、上記第1実施形態の拡散層と同様の材質、厚さとすることができる。図8に示す例では、第1の拡散層70は上記第1実施形態における拡散層と同様、電子輸送層60内に設けられており、第2の拡散層71は正孔注入層30と正孔輸送層40との間に設けられている。
【0079】
具体例を挙げると、ITOからなる陽極20が形成されたガラス基板10の上に、CuPcからなる厚さ15nmの正孔注入層30、LiFからなる厚さ1nmの第2の拡散層71、トリフェニルアミン4量体からなる厚さ40nmの正孔輸送層40、Alq3にジメチルキナクリドンが添加された厚さ40nmの発光層50、Alq3からなる厚さ10nmの下側電子輸送層61、LiFからなる厚さ1nmの拡散層70、Alq3からなる厚さ10nmの上側電子輸送層62、LiFからなる厚さ0.5nmの電子注入層80、Alからなる陰極90を順次成膜し、封止缶(図示せず)で密封したものとすることができる。
【0080】
このような本実施形態の有機EL素子S2によれば、発光時間に伴い第1の拡散層70が陽極20側へ拡散することによって、上記第1実施形態と同様、電子注入層80の電子注入性材料の陽極20側への拡散を大幅に抑制し、結果、発光時間に伴う電子注入層80の減少を抑制できる。
【0081】
よって、本実施形態によれば、発光時間に伴う輝度劣化および駆動電圧上昇を抑制可能な有機EL素子S2を提供することができる。
【0082】
また、第1の拡散層70に比べて陽極20に近い第2の拡散層71が、発光時間に伴い陽極20側へ拡散することによって、陽極20近傍に電子注入性材料を存在させることが容易となることから、駆動電圧を低下させることができる。そのため、結果的に発光効率が向上し、発光時間に伴う輝度劣化および駆動電圧上昇の抑制を、より高レベルにて実現することができる。
【0083】
次に、本実施形態による発光時間に伴う輝度劣化および駆動電圧上昇の抑制効果について、限定するものではないが、上記具体例として挙げた有機EL素子S2について具体的に検証した例を示す。
【0084】
本第2実施形態の具体例としての有機EL素子S2と、上記図4に示した比較例とについて、85℃環境下で400cd/m2、1/64デューティ駆動で定電流駆動による耐久試験を行った。
【0085】
この耐久試験における耐久試験時間すなわち発光時間に対する輝度劣化特性の変化、駆動電圧の変化について上記第1実施形態と同様に調べた結果を、それぞれ図9、図10に示す。図9、図10中、黒丸プロットが比較例、黒四角プロットが本実施形態の有機EL素子S2として示している。
【0086】
これら図9、図10からわかるように、本実施形態の有機EL素子S2では、拡散層を持たない比較例に比べて、輝度劣化が抑制されており、駆動電圧の上昇も抑制されている。
【0087】
また、図9、図10と上記図2、図3とを比較してわかるように、本第2実施形態では、上記第1実施形態に比べて、駆動電圧を大きく低下させることができるため、結果的に発光効率が向上し、発光時間に伴う輝度劣化および駆動電圧上昇の抑制を、より高レベルにて実現できている。
【0088】
(他の実施形態)
なお、陽極20の上に、有機EL材料からなる発光層50を含む有機層30〜60、電子注入層80、陰極90が順次積層されてなる有機EL素子において、有機層30〜60内には、電子注入性材料が添加されているものであっても良い。
【0089】
つまり、上記第1実施形態における拡散層70を構成する電子注入性材料を、層の形ではなく、有機層30〜60内に添加した形で設けたものとしても良い。それによって、有機層30〜60のうちの或る層は、本来の構成材料に加えて電子注入材料が混合された材料からなる層となるものである。この場合でも、上記第1実施形態と同様の効果が発揮されることはあきらかである。
【0090】
そして、この場合も、有機層30〜60内に添加される電子注入性材料は、電子注入層80を構成する電子注入性材料と同一材料であることが好ましい。
【0091】
また、この場合も、有機層30〜60内に添加される電子注入性材料は、有機層30〜60における電子注入層80に接する層、例えば電子輸送層60に添加されているものにすれば、電子注入層80の電子注入性材料の拡散を、より陰極90に近いところで抑制できるため、好ましい。
【0092】
また、上記実施形態において、基板10、陽極20、正孔注入層30、正孔輸送層40、発光層50、電子輸送層60、電子注入層80および陰極90は、有機EL素子にすでに用いられているか、あるいは用いることの可能な材料に置き換えても良い。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1実施形態に係る有機EL素子の一例を示す概略断面図である。
【図2】第1実施形態における発光時間に対する輝度劣化特性の変化を示す図である。
【図3】第1実施形態における発光時間に対する駆動電圧の変化を示す図である。
【図4】比較例としての従来構造を有する有機EL素子の概略断面図である。
【図5】耐久試験後の第1実施形態の有機EL素子S1と比較例とについてTOF−SIMS法により分析を行った結果を示す図である。
【図6】従来構造においてITO表面にLiF層を形成した有機EL素子であるLiF付き素子の概略断面図である。
【図7】図6に示すLiF付き素子の電圧電流特性を示す図である。
【図8】本発明の第2実施形態に係る有機EL素子の一例を示す概略断面図である。
【図9】第2実施形態における発光時間に対する輝度劣化特性の変化を示す図である。
【図10】第2実施形態における発光時間に対する駆動電圧の変化を示す図である。
【図11】本発明者等が試作し検討に用いた検討品としての有機EL素子の耐久試験前後でのTOF−SIMS法による分析結果を示す図である。
【符号の説明】
20…陽極、30…正孔注入層、40…正孔輸送層、50…発光層、
60…電子輸送層、61…下側電子輸送層、62…上側電子輸送層、
70…拡散層(第1の拡散層)、71…第2の拡散層、80…電子注入層、
90…陰極。
Claims (2)
- 陽極(20)の上に、有機EL材料からなる発光層(50)を含む有機層(30〜60)、電子注入層(80)、陰極(90)が順次積層されてなる有機EL素子において、
前記有機層のうち前記電子注入層と前記発光層との間に、電子注入性材料からなる第1の拡散層(70)が設けられており、
前記第1の拡散層は、前記有機層における前記電子注入層に接する層(60)内に設けられており、
前記有機層のうち前記陽極と前記発光層との間に、電子注入性材料からなる第2の拡散層(71)が設けられており、
前記第1の拡散層および前記第2の拡散層を構成する電子注入性材料は、前記電子注入層を構成する電子注入性材料と同一材料であることを特徴とする有機EL素子。 - 前記第1および第2の拡散層(70、71)を構成する電子注入性材料は、アルカリ金属化合物またはアルカリ土類金属化合物であることを特徴とする請求項1に記載の有機EL素子。
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