JP3915268B2 - 溶融ガラスの減圧脱泡装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、連続的に供給される溶融ガラスから気泡を除去する溶融ガラスの減圧脱泡装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、成形されたガラス製品の品質を向上させるために、溶融炉で溶融した溶融ガラスを成形装置で成形する前に溶融ガラス内に発生した気泡を除去する減圧脱泡装置が用いられている。このような従来の減圧脱泡装置を図4に示す。
図4に示す減圧脱泡装置100は、溶解槽112中の溶融ガラスGを減圧脱泡処理して、次の処理槽に連続的に供給するプロセスに用いられるものであって、真空吸引されている。減圧ハウジング102内に水平に減圧脱泡槽104が収納配置され、その両端に垂直に取り付けられる上昇管106および下降管108が収納配置されている。
【0003】
上昇管106は減圧脱泡槽104に連通し、脱泡処理前の溶融ガラスGを溶解槽112から上昇させて減圧脱泡槽104に導入する。下降管108は、減圧脱泡槽104に連通し、脱泡処理後の溶融ガラスGを減圧脱泡槽104から下降させて、次の処理槽(図示せず)に導出する。そして、減圧ハウジング102内において、減圧脱泡槽104、上昇管106および下降管108の周囲には、これらを断熱被覆する断熱用レンガなどの断熱材110が配設されている。なお、減圧ハウジング102は、金属製、例えばステンレス製であり、外部から真空ポンプ(図示せず)等によって真空吸引され、内部が減圧され、内設される減圧脱泡槽104内を所定の減圧、例えば1/20〜1/3気圧の減圧状態に維持する。
【0004】
従来の減圧脱泡装置100においては、高温、例えば1200〜1400℃、また場合によっては、1400℃以上の温度の溶融ガラスGを処理するように構成されているので、本出願人の出願に係る特開平2−221129号公報に開示しているように、減圧脱泡槽104、上昇管106および下降管108などのように溶融ガラスGと直接接触する部分は、通常白金または白金ロジウムのような白金合金などの無垢の貴金属製円管で構成されている。本出願人は、これらを白金合金製円管を用いることによって、減圧脱泡装置を実用化している。
【0005】
ここで、これらを白金合金などの貴金属製円管で構成するのは、溶融ガラスGが高温であるばかりでなく、貴金属が溶融ガラスとの高温反応性が低く、溶融ガラスとの反応による不均質化を生じさせることがなく、高温での温度がある程度確保できるからである。
【0006】
ところで、溶融ガラスGは、粉体原料を溶解反応させることによって得られるので、溶解の点では、溶解槽112の温度は高い方が好ましく、また、減圧脱泡の点でも溶融ガラスの粘度は低く、従って温度は高い方が好ましい。とくに、特殊ガラス、例えば、液晶用ノンアルカリガラス、プラズマディスプレイ用光学ガラスのようにガラス製品の気泡の混入を極力抑えた高品質なガラスの場合やホウケイ酸ガラスのような溶解温度が高く軟化点の高いガラスの場合、減圧脱泡処理を行ない気泡の混入を抑制するためにも、減圧脱泡中の温度が1400℃以上であることが望まれる。
【0007】
しかし、1400℃以上の溶融ガラスの温度では、減圧脱泡槽104を無垢の白金合金等の貴金属で構成すると、たとえ機械的強度の点から円管としても、白金などの貴金属は高価であるため、コストの面から肉厚を厚くすることはできず、機械的強度が不足する問題があった。たとえば、白金合金等の貴金属を溶融ガラスと接触させて一定期間減圧脱泡処理を行うと、高温の溶融ガラスと接触するため、経時変化によって白金合金等の貴金属表面には結晶粒界が発生するが、この結晶粒界は熱膨張による応力や微小な外力が加わるだけで容易に割れ易く、そのためコストの面から厚くできない無垢の白金合金等の貴金属円管は容易に破損され易い。その結果、無垢の白金合金等の貴金属で構成される円管は寿命が短く、長期間にわたって減圧脱泡装置として使用することはできず、絶えず白金合金等の貴金属製円管の補修や修理を行わなければならず、維持の点からも煩雑であり、生産効率が悪いといった問題があった。
【0008】
このような問題に対して、特開平9−59028号公報では、白金合金等の貴金属製上昇管や下降管である高温溶融物用導管のバックアップ構造を持つ減圧脱泡装置を提案している。ここに開示された減圧脱泡装置においては、熱応力、すなわち高温溶融物用導管の熱膨張がその周りに設けられた断熱材の熱膨張に比べて大きいことによって生ずる高温溶融物用導管の熱内部応力を吸収して、貴金属製円管の亀裂等の破損を防止する効果を有する。
このバックアップ構造では確実に熱膨張を吸収し、上昇管106や下降管108の亀裂等の破損を防止することができるが、構造が複雑となる問題があった。また、このバックアップ構造では、減圧脱泡槽108の熱膨張の吸収を行うことはできず、依然として、減圧脱泡槽108の亀裂等の破損が起こり易いといった問題があった。
【0009】
一方、上述の問題を克服するために、減圧脱泡槽104や上昇管106や下降管108の管路に高価でコストのかかる白金合金などの貴金属製材料を用いる替わりに、これらに比べて安価でコストもかからない耐火物製炉材を用いることが考えられる。
しかし、耐火物製炉材の使用の場合、耐火物製炉材を厚くして機械的強度を上げることができるるものの、耐火物が溶融ガラスと直接接触する初期時、耐火物の表面から細かい気泡が発生する発泡現象が知られており、また1300℃以上の溶融ガラスでは、溶融ガラスによる耐火物の侵食が激しくなることが知られており、減圧脱泡装置100の減圧脱泡槽104に耐火物製炉材を用いた場合、減圧脱泡初期時、耐火物の表面から細かい気泡が発生する他、耐火物の侵食によって断続的に気泡が発生し、この気泡が溶融ガラスが流路を通過する間に溶融ガラスの液面に浮上して破泡することなく残存し、その結果、気泡の混入が制限される高品質なガラスを生産することができないか、または生産が可能としても生産効率を低下させることが懸念された。
【0010】
このような懸念点に対して、1400℃以下で減圧脱泡でき、しかも気泡の混入が上述の特殊ガラスほど厳しくないソーダライム系の溶融ガラスの減圧脱泡処理については、耐火物製炉材を上昇管106、減圧脱泡槽104や下降管108に使用することはある程度可能と考えられるが、上述の気泡の混入が厳しく制限される特殊ガラスの場合、減圧脱泡を促進し気泡を残存させないためにも1400℃以上の温度で減圧脱泡処理をする必要があるが、上記侵食によって断続的に発生する気泡が脱泡されず、溶融ガラス内の気泡の混入を制限することが難しく、またそれが可能であるとしても高品質なガラス製品の生産効率を維持することは明らかに困難である。さらに、1400℃を超える溶融ガラスと直接接触する耐火物の侵食も促進され、その結果耐火物を用いた流路の寿命が短くなることも明らかである。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
このように、1400℃以上の溶融ガラスを脱泡処理するには、無垢の白金合金等の貴金属製円管では、コストの面から円管を厚くすることはできず、機械的強度が不足し破損し易く、その結果寿命が短くなるといった問題があった。一方、白金合金等の貴金属に替えて耐火物製炉材を使用した場合、白金合金等の貴金属製円管に比べコストがかからず、また流路の厚さを厚くして機械強度を高めることができるものの、1400℃を超える溶融ガラスと接触する耐火物の侵食は著しくなるため寿命が短くなるほか、侵食によって耐火物内の気孔から多量に発生した気泡の脱泡を十分に行うことは困難であり、最終的に高品質なガラスの生産ができない場合があり、またたとえ生産可能としても生産効率は明らかに低いといった問題があった。
【0012】
そこで、本発明の目的は、上記従来技術の問題点を解消し、1400℃以上の溶融ガラスの脱泡処理を行う際にも、機械的強度を保ち、流路の寿命が維持さらには向上し、特殊ガラスのような気泡の混入が制限される高品質なガラス製品の生産を可能とし、またその生産効率を向上することのできるコスト的にも製作可能な溶融ガラスの減圧脱泡装置を提供することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明は、減圧吸引される減圧ハウジングと、この減圧ハウジング内に収容され、溶融ガラスを減圧脱泡する減圧脱泡槽と、この減圧脱泡槽に連通され、脱泡処理前の溶融ガラスを前記減圧脱泡槽に導入する上昇管と、前記減圧脱泡槽に連通され、脱泡処理後の溶融ガラスを前記減圧脱泡槽から導出する下降管とを有し、前記減圧脱泡槽、前記上昇管および前記下降管によって形成される溶融ガラスの流路の少なくとも一部分を、白金または白金合金を熔射した熔射面を少なくとも一面に持つ複数の耐火物製レンガを用いて、溶融ガラスと直接接触する部分が前記熔射面となるように組み上げて構成し、前記耐火物製レンガの前記熔射面は、隣接する前記耐火物製レンガとの接触面の一部にも延在していることを特徴とする溶融ガラスの減圧脱泡装置を提供するものである。
【0014】
ここで、前記耐火物製レンガは、アルミナ系電鋳耐火物、ジルコニア系電鋳耐火物、アルミナ−ジルコニア−シリカ系電鋳耐火物、緻密質アルミナ系焼成耐火物、緻密質ジルコニア−シリカ系焼成耐火物、緻密質アルミナ−ジルコニア−シリカ系焼成耐火物および緻密質クロム系焼成耐火物の少なくとも1種の耐火物で製造された炉材であることが好ましく、また前記熔射面の白金または白金合金の厚みは、0.05mm以上1mm以下であることが好ましい。さらに、前記溶融ガラスと直接接触する部分を構成する前記熔射面は、互いに電気的に導通されることが特に好ましい。また、前記減圧脱泡装置には、さらに前記溶融ガラスと直接接触する部分を構成する前記熔射面に取り付けられた、所定の電圧を印加する電気的端子を少なくとも2個以上有することが好ましく、また前記電気的端子は、隣接する前記耐火物製炉材の前記熔射面の延在部分の接触面間に挟まれる白金または白金合金製薄板と、この薄板から引き出される導線とを有することが好ましい。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の溶融ガラスの減圧脱泡装置について、添付の図面に示される好適実施例に基づいて詳細に説明する。
【0016】
図1に、本発明の溶融ガラスの減圧脱泡装置10の一実施例の断面模式図を示している。減圧脱泡装置10は、略門型のステンレス製減圧ハウジング12と、減圧ハウジング12内に水平に収納配置される減圧脱泡槽14と、減圧ハウジング12内に垂直に収納配置され、減圧脱泡槽14の左右両端部にそれぞれ、各上端部が取り付けられる上昇管16および下降管18とから構成される。
減圧脱泡装置10は、溶解槽20内の溶融ガラスGを減圧脱泡処理して、図示しない次の処理槽、例えば、フロートバスなどの板材の成形処理槽やプラズマディスプレイ用ガラスなどの成形作業槽などに連続的に供給するプロセスに用いられるものである。
【0017】
減圧ハウジング12は、減圧脱泡槽14を減圧する際の気密性を確保するためのケーシング(圧力容器)として機能するものであり、本実施例では、ほぼ門型に形成されて、減圧脱泡槽14、上昇管16および下降管18の全体を包み込むように構成され、さらに減圧ハウジング12内部で、減圧脱泡槽14、上昇管16および下降管18の外側の領域に、溶融ガラスGの高熱を遮断し、なおかつ減圧脱泡槽14内の真空吸引の支障とならない通気性のある耐火物製レンガからなる断熱材30も含んでいる。なお、この減圧ハウジング12は、減圧脱泡槽14に必要とされる気密性および強度を有するものであれば、その材質、構造は特に限定されるものではないが、金属製、特にステンレス製または耐熱鋼製とすることが好ましい。
また、減圧ハウジング12には、右上部に真空吸引して内部を減圧する吸引口12cが設けられており、図示しない真空ポンプによって真空吸引されて減圧ハウジング12の内部が減圧され、そのほぼ中央部に配置された減圧脱泡槽14内を所定の圧力、例えば、1/20〜1/3気圧に減圧して維持するように構成されている。
【0018】
減圧ハウジング12のほぼ中央部には、減圧脱泡槽14がおおむね水平に配置されている。この減圧脱泡槽14の流路の断面形状は、特に制限的ではなく、例えば、円形でもよいが、大流量の溶融ガラスGの減圧脱泡処理を行うには長方形が好ましい。また、減圧脱泡槽14を構成する耐火物製レンガを成形する面からも長方形の方が好ましい。
この減圧脱泡槽14の左端部には上昇管16の上端部が、減圧脱泡槽14の右端部には下降管18の上端部がそれぞれ下方に向かって垂直に連通されている。そして、上昇管16および下降管18は門型に形成された減圧ハウジング12の脚部12aおよび12bをそれぞれ貫通するように配設されており、上昇管16および下降管18の下端は、開渠として構成された上流案内ピット22および下流案内ピット24の溶融ガラスGの液面よりも下方の位置でそれぞれ溶融ガラスG内に浸漬されている。
【0019】
減圧脱泡槽14の上部には、減圧ハウジング12を図示しない真空ポンプ等によって吸引口12cから真空吸引することによって、減圧脱泡槽14内を所定の圧力(1/20〜1/3気圧)に減圧して維持するために、減圧ハウジング12と連通する吸引孔14a,14bが設けられている。また、減圧脱泡槽14内には、溶融ガラスG中の気泡が浮上し、堰止められて破泡を促進するようにバリヤ36aとバリヤ36bが設けられている。
減圧ハウジング12と、減圧脱泡槽14、上昇管16および下降管18の各々との間は、耐火物製レンガなどの断熱材30で充填されて断熱被覆される。従って減圧脱泡装置10は、溶融ガラスGの流路を中心として外側から金属製の減圧ハウジング12、耐火物製レンガからなる断熱材30および耐火物製レンガを組み上げて流路面を構築する減圧脱泡槽14、上昇管16および下降管18から構成される断面構造となっている。
さらに、減圧脱泡槽14、上昇管16および下降管18からなる一連の流路38内の溶融ガラスと直接接触する流路面は、本発明の特徴とする構造を有するものであり、その詳細は後述するが、本発明の好ましい態様として、流路面全体が耐火物製レンガに熔射した白金合金の熔射面40から形成される構造となっている。
【0020】
本発明の特徴とする減圧脱泡槽14、上昇管16、および下降管18の一連の流路38は、耐火物製レンガを組み上げて構築されているが、図2(a)に示すように白金または白金合金を少なくと耐火物製レンガの一部の面全体に熔射した耐火物製レンガAを用いているため、図1に示すように上昇管16および下降管18の流路面全体および減圧脱泡槽14のうち溶融ガラスGが接触する流路面が白金または白金合金の熔射面40で形成される。本実施例では、流路面全体に熔射面40を形成させているが、この熔射面40は、溶融温度が特に高く、耐火物製レンガの侵食が速い場所や、耐火物製レンガの表面から発生した気泡が浮上して破泡することが困難な減圧脱泡槽14の溶融ガラスGが流れる下流部分や下降管18の流路面のみを熔射面40で形成させてもよい。それ以外の部分は、白金や白金合金を熔射していない緻密質耐火物製レンガを組みあげて、緻密質耐火物を直接溶融ガラスGと接触させてもよい。このような緻密質耐火物として、気孔率が3%以下のアルミナ系電鋳耐火物、ジルコニア系電鋳耐火物、アルミナ−ジルコニア−シリカ系電鋳耐火物、緻密質アルミナ系焼成耐火物、緻密質ジルコニア−シリカ系焼成耐火物や緻密質アルミナ−ジルコニア−シリカ系耐火物が挙げられる。
なお、この耐火物製レンガに白金または白金合金を熔射するには、例えばジョンソンマッセイ社の高級被膜法(A.C.T.TM)によって行うことができる。
【0021】
また、耐火物製レンガの熔射される面は、少なくとも溶融ガラスGと接触する面全体の他、図2(a)に示すようにこの耐火物製レンガを組み上げて流路を構築する際の隣接する耐火物製レンガと接触する面の一部にまで延在している。
【0022】
ここで白金または白金合金を熔射した耐火物製レンガAの熔射面40aの厚さは、0.05mm以上1mm以下であることが好ましい。0.05mm以下であると、熔射される耐火物の凹凸が熔射面上に現れ、また、凹部では熔射面が薄く場合によっては熔射被覆されない場合もあるからである。一方、1mm以上であると、無垢の白金または白金合金を円管に用いた場合と同等のコストがかかり、減圧脱泡装置を実用的に製作することは困難となるからである。
【0023】
また、耐火物によってはその組成から、1300℃以上の高温で耐火物内から高粘度ガラス質がしみ出る(exudation)耐火物があるが、そのような耐火物は熔射した耐火物製レンガAに用いることはできない。熔射面40と耐火物製レンガ間にガラス質がしみ出し、熔射面40が耐火物製レンガから剥離し、熔射した効果がなくなり、従来の無垢の白金や白金合金を管路とした装置と同様に破損し易くなり、寿命が短くなるためである。
熔射した耐火物製レンガAに用いられる耐火物は、アルミナ系電鋳耐火物、ジルコニア系電鋳耐火物、アルミナ−ジルコニア−シリカ系電鋳耐火物、緻密質アルミナ系焼成耐火物、緻密質ジルコニア−シリカ系焼成耐火物、緻密質アルミナ−ジルコニア−シリカ系焼成耐火物および緻密質クロム系焼成耐火物の少なくとも1種の耐火物であることが好ましく、その中でも特に、アルミナ系電鋳耐火物がより好ましい。
【0024】
また、上記耐火物製レンガに熔射した熔射面は、図2(a)に示されるように、隣接する熔射した耐火物製レンガAと接触する接触面の一部にまで延在し、この延在した熔射面は、隣接する熔射した耐火物製レンガAの延在した熔射面とぴったりと接触するように流路が構成されている。
延在した熔射面同士を隙間のないようにぴったりと接触させているのは、継ぎ目から溶融ガラスGが耐火物製レンガの層からしみ出すことのないようにするためであり、延在した熔射面同士をぴったり接触させることにより、電気的導通を可能とするためである。電気的に導通させる理由は、以降で述べるように溶融ガラスGが白金や白金合金と接触することで発生する電解泡を適切な電圧を加えることで抑制するためである。
【0025】
ここで、電解泡とは、流路面を形成する白金や白金合金の熔射面を電極とし、溶融ガラスGを液体として溶融ガラスGを電気分解する際の発生する泡をいう。また、電気分解を行う際の起電力は、溶融ガラスGが流路38を通過する間に低下する温度差によって生じる熱起電力によって供給される。すなわち、溶融ガラスGが上昇管16より上昇し、減圧脱泡槽14を流れる間に溶融ガラスGの温度は流路の断熱条件にもよるが、放熱によって例えば、数10℃から場合によっては100℃低下し、減圧脱泡槽14から下降管18より下降する間に溶融ガラスの温度は放熱によってさらに数10℃〜100℃低下するため、この温度差によって生じる電位差が電気分解を引き起こす電圧となり、その電圧は例えば、数ミリボルトから場合によっては500ミリボルトに達する。また高温になるほど電気伝導度は上がり、電流は流れ易くなり、実際、電気分解によって流れる電流は例えば数ミリアンペアから場合によっては500ミリアンペアにまで達する。
【0026】
このように電解泡は、放熱による温度の低下によって生じる熱起電力に起因して発生するので、この電解泡の発生を抑制するためには、発生した電位差を相殺するような逆電圧を加えればよい。そのため、本発明では、図3に示すように、熔射した耐火物製レンガAを組む際に不可避的に生じるレンガの継ぎ目に白金や白金合金製薄板44を挟み、そこから導線を外部に引き出して外部の電圧発生装置に接続される端子42を設けている。薄板44は、流路の断面形状に応じて変えることができ、例えば矩形断面形状をした流路の場合は矩形の薄板を、円管の場合はワッシャーのような円形状の薄板としてもよい。このような端子42は本実施例では、上昇管16、減圧脱泡槽14および下降管18にそれぞれ2カ所ずつ計6カ所に設けているが(図1に示す端子42a,42b,42c,42d,42eおよび42f)、その位置は制限的ではなく、その端子の数も制限的でないが、少なくとも上昇管16および下降管18に1つずつ計2個以上設け、また少なくとも溶融ガラスの温度差の大きな部分に端子を設けることが好ましい。
【0027】
このように、白金または白金合金を熔射した耐火物製レンガAを用い、白金または白金合金の熔射面40を上昇管16、減圧脱泡槽14および下降管18の流路に形成することで、たとえ経時変化によって結晶粒界が生じても耐火物製レンガと一体化して機械的強度が確保されるため破損しにくく、また、白金や白金合金の熱膨張は、耐火物レンガの熱膨張と一体化するため、発生する熱膨張による熱応力は小さく破損しにくく、従来の無垢の白金や白金合金の円管の場合に比べて寿命が長くなるといった効果が生じる。また、無垢の白金合金等の貴金属製円管のように補修や修理を必要とせず、生産効率を向上することができる。
また、従来の無垢の白金や白金合金の円管の場合、機械的強度をある程度保つためにコストが高くついてもある程度の厚みを確保する必要があったが、白金や白金合金を熔射した場合、その熔射面の白金や白金合金の厚みは無垢の白金や白金合金の円管の厚みより薄くすることができるため、これらに比べてコスト的に安く、その結果減圧脱泡装置の大きさも比較的自由にできるため、装置自体の設計自由度も広がる。さらに、従来の無垢の白金合金は、加工性の面からその組成が制限され、例えばロジウムは最大15重量%までであったが、耐火物製レンガに熔射することで、自由に合金の組成を変えて減圧脱泡装置の流路に用いることができる。
【0028】
一方、白金や白金合金を熔射しない耐火物製レンガを使用した流路の場合、特殊ガラスのような1400℃を超える溶融ガラスの脱泡処理においては、溶融ガラスと直接接触する耐火物の侵食が促進し、その結果耐火物を用いた流路の寿命が短くなる他、侵食の促進によって気泡の発生も促進し、溶融ガラス内の気泡の混入を許して高品質なガラスの生産を行うことができず、たとえ生産可能としても生産効率が低いが、白金や白金合金の熔射面を流路面とすることで、侵食は従来の円管として用いられた無垢の白金や白金合金の侵食と同じであり、また溶融ガラスが耐火物と接触していないため侵食による気泡の発生はなく、電解泡の発生も逆電圧を加えることで抑制しているので気泡の混入はなく、その結果、高品質なガラスを生産することができ、生産効率も向上するといった効果が生じる。
【0029】
以上、上昇管16、減圧脱泡槽14および下降管18より構成される流路は、上記白金や白金合金で熔射した耐火物製レンガAを組み上げて構成されているが、この熔射した耐火物製レンガAで組み上げられた流路内面レンガ層の背後にバックアップレンガ層を所定の間隔、好ましくは20〜50mmだけ離間させて設け、さらにその外側に第2バックアップレンガ層を設け、レンガ層を3層構造とし、各レンガ層間のすきまにラミング材を充填し、ラミング材層を形成させてもよい。このようにすることで、万一、流路内面レンガ層の継ぎ目から溶融ガラスGがしみ出したとしても、バックアップレンガ層や第2バックアップレンガ層によって溶融ガラスGのしみ出しを最小限にくい止めることができ、流路全体の破損を防ぐことができるからである。
なお、本発明のように熔射した白金や白金合金の熔射面を流路面とし、その継ぎ目もぴったりと接触させているため、溶融ガラスGが継ぎ目よりしみ出してくることは少なく、バックアップレンガ層を1層とし、その構造を簡略化することができる。
【0030】
なお、ここで用いられるラミング材とは、耐火性骨材と硬化材等を混合した粉体の耐火物材に少量の水を添加して混練し充填されるもので、加熱によってセラミックボンドができ、強度を出すものを言う。このようなラミング材としては、種々あるが、好ましいラミング材としては、ローセメントタイプラミング材と呼ばれるものを挙げることができ、超微粉末をベースとし、3〜6%の少量の水量添加とバイブレータ施工によって非常に緻密な充填がなされ、耐蝕性および耐熱性に優れた物性を得ることができる。好適な具体例としては、ホワイトラム(旭硝子(株)製)が例示される。
【0031】
本発明に係る溶融ガラスの減圧脱泡装置は、基本的に以上のように構成されるが、以下にその作用について説明する。
【0032】
まず、減圧脱泡装置10の運転を開始するに先立って、流路38を予め加熱し、溶解槽20内の溶融ガラスGを減圧脱泡装置10内、すなわち図示しないバイパスを開放して上流案内ピット22から下流案内ピット24内に導入し、上昇管16および下降管18の両下端部を溶融ガラスG中に浸漬する。浸漬完了後、図示しない真空ポンプを作動して、減圧ハウジング12内を吸引口12cから真空引きして、従って減圧脱泡槽14内を吸引口14aおよび14bから真空引きして、減圧脱泡槽14内を1/20〜1/3気圧に減圧する。
その結果、溶融ガラスGが上昇管16および下降管18内を上昇し、減圧脱泡槽14内に導入され、溶解槽24と減圧脱泡槽14との溶融ガラスGのレベル差Hが所定値となるように、減圧脱泡槽14内に所定の深さまで満たされ、真空引きされた上部空間14sが形成される。この後に、バイパスが閉止される。
【0033】
この後、溶融ガラスGは、溶解槽20から上流案内ピット22を経由し、上昇管16内を上昇して、減圧脱泡槽14内に導入される。そして溶融ガラスGは、減圧脱泡槽14内を流れる間に、所定の減圧条件下で脱泡処理される。すなわち、所定の減圧条件下の減圧脱泡槽14内において、溶融ガラスG中の気泡は、溶融ガラスG中を浮上し、バリヤ36aおよび36bに堰止められて破泡し、また、上部空間14sまで浮上して、破泡する。こうして、溶融ガラスG中から気泡が除去される。
このようにして、脱泡処理された溶融ガラスGは、減圧脱泡槽14内から下降管18に導出され、下降管18内を下降して下流案内ピット24内に導入され、下流案内ピット24から、図示しない次の処理槽(例えば成形処理槽)に導出される。
【0034】
一方、溶融ガラスGが定常的に流れて減圧脱泡処理される間、溶融ガラスGが上昇管16より上昇し、減圧脱泡槽14を流れる間に溶融ガラスGの温度は流路の断熱条件にもよるが、放熱によって例えば、数10℃から場合によって100℃低下し、減圧脱泡槽14から下降管18より下降する間に溶融ガラスの温度はさらに数10℃〜100℃低下するため、この温度差によって熱起電力が発生し、この電位差によって流路面となっている白金や白金合金の熔射面40を電極として電気分解を引き起こし、電解泡が発生する。この発生する電位差は、例えば、数ミリボルトから場合によっては500ミリボルトにまで達し、電気分解によって流れる電流も例えば、数ミリアンペアから500ミリアンペアにまで達する。そこで、このような電解泡の発生を抑制するため熔射面40に設けられた端子(図1に示す42a、42b、42c、42d、42eおよび42f)の電圧をそれぞれ測定し、測定された各端子の電圧に逆電圧を加えて電圧を相殺して電気分解の発生を抑制する。
これによって、電解泡の発生が抑えられ、気泡の混入しない高品質なガラスを生産することができ、また生産効率を向上させることができる。
【0035】
本発明に係る溶融ガラスの減圧脱泡装置は、気泡の混入に対して条件の厳しい光学用ガラスや溶解温度が高く軟化点の高いガラスのような特殊ガラスの減圧脱泡処理を対象として説明してきたが、気泡の混入に対して特殊ガラス程に条件の厳しくない瓶用ガラス等の汎用ガラスの減圧脱泡処理に用いてもよい。
本発明に係る溶融ガラスの減圧脱泡装置について、実施例を挙げて説明したが、本発明は上述した実施例に限定されるわけではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の改良や設計の変更などが可能なことはもちろんである。
【0036】
【発明の効果】
以上、詳細に説明したように、本発明によれば、白金または白金合金を熔射した耐火物製レンガを用い、白金または白金合金の熔射面を流路面とすることで、たとえ経時変化によって結晶粒界が生じても耐火物製レンガと一体化して機械的強度が確保されるため破損しにくく、また、白金や白金合金の熱膨張は、耐火物レンガの熱膨張と一体化するため、熱膨張による熱応力は小さく破損しにくいため、従来の白金や白金合金を無垢の状態で円管に用いた場合に比べて寿命が長くなるといった効果が生じる。これによって、無垢の白金や白金合金の貴金属製円管のように補修や修理を必要とせず、生産効率を向上することができる。
また、熔射面の白金や白金合金の厚みは、従来の無垢の白金や白金合金の円管の厚みより薄くすることができるため、これらに比べてコスト的に安く、減圧脱泡装置の大きさも比較的自由にできるため、装置自体の設計自由度も広がる。さらに、従来の無垢の白金合金は、加工性の面からその組成が制限され、例えばロジウムは最大15重量%までであったが、耐火物性レンガに熔射することで、熔射面に用いる合金の組成を自由に変更することができる。
【0037】
一方、白金や白金合金を熔射しない耐火物製レンガを使用した流路の場合と比べて、1400℃を超える溶融ガラスの脱泡処理の場合、侵食は耐火物の侵食に比べて圧倒的に小さく、従来の円管として用いられた無垢の白金や白金合金の侵食と同程度であり、また溶融ガラスが耐火物と接触していないため侵食による気泡の発生はなく、電解泡の発生も逆電圧を加えることで抑制しているので気泡の発生もなく、その結果、耐火物製レンガでは到底困難であった高品質なガラスの生産を可能とすることができ、また生産効率も向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の溶融ガラスの減圧脱泡装置の一実施例の概略断面図である。
【図2】 (a)は、本発明の溶融ガラスの減圧脱泡装置に用いられる熔射した耐火物製レンガの一例を示す斜視図であり、(b)は流路の耐火物製レンガの継ぎ目の一例を示す断面図である。
【図3】 流路の耐火物製レンガの継ぎ目に設けられた端子の一例を示す断面図である。
【図4】 従来の溶融ガラスの減圧脱泡装置の概略断面図である。
【符号の説明】
10、100 減圧脱泡装置
12、102 減圧ハウジング
12c、102c 吸引口
14、104 減圧脱泡槽
14a、14b 吸引口
14s 上部空間
16、106 上昇管
18、108 下降管
20、112溶解槽
22 上流案内ピット
24 下流案内ピット
30、110 断熱槽
36a、36b バリヤ
38 流路
40 熔射面
40a 熔射した耐火物製レンガAの熔射面
42、42a、42b、42c、42d、42e、42f 端子
44 薄板
A 熔射した耐火物製レンガ
G 溶融ガラス

Claims (4)

  1. 減圧吸引される減圧ハウジングと、
    この減圧ハウジング内に収容され、溶融ガラスを減圧脱泡する減圧脱泡槽と、
    この減圧脱泡槽に連通され、脱泡処理前の溶融ガラスを前記減圧脱泡槽に導入する上昇管と、
    前記減圧脱泡槽に連通され、脱泡処理後の溶融ガラスを前記減圧脱泡槽から導出する下降管とを有し、
    前記減圧脱泡槽、前記上昇管および前記下降管によって形成される溶融ガラスの流路の少なくとも一部分を、白金または白金合金を熔射した熔射面を少なくとも一面に持つ複数の耐火物製レンガを用いて、溶融ガラスと直接接触する部分が前記熔射面となるように組み上げて構成し、
    前記耐火物製レンガの前記熔射面は、隣接する前記耐火物製レンガとの接触面の一部にも延在していることを特徴とする溶融ガラスの減圧脱泡装置。
  2. 前記耐火物製レンガは、アルミナ系電鋳耐火物、ジルコニア系電鋳耐火物、アルミナ−ジルコニア−シリカ系電鋳耐火物、緻密質アルミナ系焼成耐火物、緻密質ジルコニア−シリカ系焼成耐火物、緻密質アルミナ−ジルコニア−シリカ系焼成耐火物および緻密質クロム系焼成耐火物の少なくとも1種の耐火物で製造された炉材である請求項1記載の溶融ガラスの減圧脱泡装置。
  3. 前記熔射面の白金または白金合金の厚みは、0.05mm以上1mm以下である請求項1または2に記載の溶融ガラスの減圧脱泡装置。
  4. 前記溶融ガラスと直接接触する部分を構成する前記熔射面は、互いに電気的に導通される請求項1〜3のいずれかに記載の溶融ガラスの減圧脱泡装置。
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